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グローバル化した新しいと超音波診断の現状とその未来について 東京

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グローバル化した新しいと超音波診断の現状とその未来について 東京
グローバル化した新しいと超音波診断の現状とその未来について
東京慈恵会医科大学放射線医学講座
中田
典生
はじめに:超音波診断の起源とタイタニック号
1880 年、キューリー兄弟(兄:ジャック・キューリー、弟:ピエール・キューリー)が圧
電効果を発見した。当時発見された圧電効果とは、水晶の結晶を圧縮すると静電電圧が生
じ、逆に、電場を加えると結晶がある特定な方向に伸びたり縮んだりする現象である。こ
の現象こそ、現在の超音波診断の基礎となった物理現象である。なお弟のピエール・キュ
ーリーは結婚してキューリー夫妻として放射能の研究でノーベル賞を 1903 年に受賞してい
る。超音波診断学と放射線医学はこのように生い立ちから密接に関係している。
1912 年、イギリスの豪華客船『タイタニック号沈没のため、事故を起こした船会社は、事
前に海洋を漂う氷山を検出する技術の発明に懸賞金を出した。懸賞金を獲得した発明は圧
電素子(セラミック振動子)を利用した、超音波パルスによる水中物体の検出に成功 した
実験であった。こうして超音波画像は産声を上げ、第二次世界大戦 で、潜水艦探査のため
のソナーとして進歩。戦後、超音波診断装置へと発展した。
病院における不都合な真実
厚生労働省が平成 20 年 3 月に発表した”病院における省エネルギー実施要領”
(1)によ
ると病院における中央診療部門のエネルギー消費の特徴として、MRI はじめ夜間電力停止
できない高度医療機器が多いため、待機電力が大きく、夜間の電力消費量が大であるとさ
れている。このことをきっかけに画像診断機器のエネルギー消費について考えることにし
た。地球温暖化について啓蒙活動を行う、アル・ゴア元米国副大統領は、その著書”An
Inconvenient Truth (邦題:不都合な真実)”の中で、”Take Action:
The average
American generates about 15,000 pounds of carbon dioxide every year from personal
transportation, home energy use and from the energy used to produce all of the products
and services we consume. CALCULATE YOUR PERSONAL IMPACT to see how much
CO2 you produce each year.”と記している。そこで放射線科医として病院内の画像診断機
器が電力消費量換算で、どのくらい二酸化炭素を放出するかを計算できるホームページ:
CO2 Calculator for Diagnostic Radiology を作成して公開した。さらにこのページを使っ
て各種のシミュレーションを行った。その結果、超音波検査:0.133kgCO2/patient に対し
て MRI(1.5T)では 10.28kgCO2/patinet(注1)と約 77 分の 1 と、圧倒的に超音波検査の
CO2 排出量(電力消費量)が少ない。現在画像診断の主役は CT と MRI である。最近、CT
の日本の医療における X 線被曝が問題となっているが、MRI は X 線被曝がなく、日本は諸
外国に比べて検査診断料金が安価であるため非常に検査数も多く、また研究も盛んに行わ
れてきた。しかし省エネルギーの観点からは、夜間休日の検査を行っていない時間でも超
伝導 MRI は電源を切ることができないため、電力消費の点で問題がある。省エネの観点か
らは超音波診断が最もよい診断機器のひとつであるといえる。
注1)超音波検査は 1 患者あたり 20 分、MRI(1.5T)は 1 患者あたり 30 分、1日それぞれ 8
時間検査をおこない、日本の CO2 排出計数を 0.4t-CO2/kWh(文献3を参照)と定義、電
力消費量は超音波診断装置:1.15kW、MRI(1.5T)は稼動時 17.5kW,非稼動時 6.5kW として、
MRI の非稼動時の消費電力を稼動時の患者で除することで、1 患者あたりの CO2 排出量と
して換算した。なお詳細の計算式は参考資料2を参照。
超音波分子イメージング
分子イメージングとは、さまざまな定義があるが、そのひとつは”目印となる化合物(標
識化合物=分子プローブ)を遺伝子やタンパク質などの分子(バイオマーカー)に結合さ
せることにより、生体内での遺伝子やタンパク質などの分子の量や働きを、生物が生きた
ままの状態で画像化するための技術”である。超音波を用いた分子イメージングとは、分
子プローブとしてリガント(特定のレセプターに特異的に結合する物質)と結合している
超音波造影剤を使う手法であり、イメージング装置が超音波スキャナーである。バイオマ
ーカーとしては悪性腫瘍、自己免疫疾患、循環器疾患などが対象となっている。超音波に
用いる造影剤は、原則的に気泡である。個別の造影剤の違いは基本的には気泡内のガスと
気泡を包み込むシェルと呼ばれる外殻の種類/有無である。日本では人体に使用できる超
音波造影剤は現在2種類の造影剤があるが、その平均直径は2ー4μmのマイクロバブル
である。超音波造影剤の特徴として、音響薬理学的な特性として造影剤内の気泡に薬剤を
封入することにより、ターゲットとなる部位で、強音圧の超音波を照射し、造影剤を破壊
することにより、造影剤内の薬剤が放出されるというモデルがある。 一般に悪性腫瘍に接
する血管内皮の細胞間隙は 750nm 以下である。そこで超音波造影剤の直径もなんとか
750nm 以下のナノバブルを作製して、かつ超音波像として画像化する必要がある。このよ
うなサイズの小さい超音波造影剤が開発されると、CT や MRI と同様の造影像が得られる
可能性がある(4)。また超音波造影剤の特徴として、音響薬理学的な特性として造影剤内
の気泡に薬剤を封入することにより、ターゲットとなる部位で、強音圧の超音波を照射し、
造影剤を破壊することにより、造影剤内の薬剤が放出されるというモデルがある。現在の
マイクロバブルを用いた造影検査では、その解像度よりミリオーダーレベルの病変検出が
限界である。しかしながら動物実験用の超高周波数の超音波検査装置では、探触子の周波
数が 25-75MHz で分解能が 30μm である。これら周波数の高い探触子は、分解能は良好で
あるものの、焦点距離が短く体表からの深部臓器描出には限界がある(4)。近年、体内病
変の検出に有効な内視鏡検査装置の進歩が著しい。内視鏡ロボットなどの開発も進んでい
る。さらに超音波探触子の圧電素子をシリコンウエハー上に印刷し、マイクロオーダーの
探触子の素子を製造することが可能となった。これらの技術革新により、近い将来体内の
血管壁や病変部へ直接超音波探触子を挿入し、ナノバブル造影超音波検査を行って分子イ
メージングを施行するべくさらに技術革新を行う必要がある。
超音波診断装置の人間工学的デザイン
米国では、超音波検査に従事する検査士の Work-Related Musculoskeletal Disorders(以
下 WRMSD:邦訳:作業関連運動器障害)が問題になってきている。WRMSD には Video
Display Terminal(以下 VDT)障害も含まれる。VDT 傷害とはコンピュータ画面や超音波の
モニタなどの VDT に向かって長時間仕事をしているために起きる健康上の問題の総称で、
眼疲労、頭痛、めまい、頸腕症候群、腰痛が主な症状である.米国の Society of Diagnostic
Medical Sonography は 2003 年に”超音波検査における作業に関連する作業関連運動器障
害のための工業ガイドラインについて”(5)を発表して、超音波を製造する各ベンダーに
対して、新たに超音波診断装置を設計する際の人間工学的デザインのあり方を示している。
人間工学的なデザインにおいては、個々ユーザーの体格に合わせた出入力装置の配置の選
択が重要であり、ユーザー側も正しい知識を見につけ、正しい体位で対処する必要がある
と考えられている.WRMSD を防止するには、環境づくりが必要である。そのための出版
物、学術雑誌、講演を学会、超音波装置ベンダー、ユーザー、病院経営者らが互いに協力
して開催する必要がある。日本にはこのようなガイドラインは現在なく、日本でも超音波
のユーザーがこのような意識に目覚めて、超音波ベンダーとともに WRMSD 予防のための
問題解決の方策を探る必要があるのではないか。
これからの超音波診断装置のカタチ
現在、超音波診断装置は小型化が進み携帯電話に USB 接続する超音波探触子の研究も行わ
れるようになった。また内視鏡超音波についても内視鏡のロボット化とともに装置の高性
能化が進むことが予測される。その一方で、ハイエンドの超音波診断装置の用途も多様化
すると考えられる。CT や MRI との差別化を図るため、ハイエンド装置であってもベット
サイドへの移動を容易にする必要性がでてきた。つまり自走式超音波装置にするため超音
波のインテリジェント化すなわちロボット型の超音波装置が理想的と考えられる。日本独
自のロボット技術を応用すれば、超音波診断装置付ロボットも夢ではないと考えられる。
参考文献および資料
1)厚生労働省:病院における省エネルギー実施要領について
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken06/index.html
2)CO2 Calculator for Diagnostic Radiology
http://r-medix.org/calculator.html
3)Energy Balances of OECD Countries: 2004/2005: 2007 Edition, International Energy
Agency,
OECD - Organization for Economic Co-operation and Development
4 ) Rapoport N, Gao Z, Kennedy A. Multifunctional nanoparticles for combining
ultrasonic tumor imaging and targeted chemotherapy. J Natl Cancer Inst. 2007 Jul
18;99(14):1095-106. Epub 2007 Jul 10.
5 ) Industry Standards
for the
Prevention of Work-Related Musculoskeletal
Disorders in Sonography:Society of Diagnostic Medical Sonography
http://www.sdms.org/pdf/wrmsd2003.pdf
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