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創造力の活性化とチーム力向上に取り組む デザイン部の業務改革活動

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創造力の活性化とチーム力向上に取り組む デザイン部の業務改革活動
P022_028事例3_ダイハツ工業 2010.2.17 17:55 ページ 22
特集
最新技術と市場をつなぐ研究・開発者の育て方
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事 例
3
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ダイハツ工業
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創造力の活性化とチーム力向上に取り組む
デザイン部の業務改革活動「DIKS」
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フリーライター
外 航
P oint
①改革のキーワードは「自立・自律・自行」∼自分で考え、自分で行動する∼
②個人の集団と思われがちな開発チームの組織編成とコミュニケーションの状況を見直し、「強力なクリ
エイティヴ集団」を目指す「DIKS」プロジェクトを、2007年に立ち上げた
③「組織の改革はマネージャーの意識改革」との認識のもと、第2デザイン部の課長、マネージャークラ
スを対象にスタート。6つのワーキンググループが課題の吐き出しと改善策の開発を行った
④1年かけて第2デザイン部のマネージャークラスへの浸透を図り、2年目からは第1デザイン部のマネージャー
にも働きかけを行った
研究開発・技術系人材
活性化のための施策
られている(以下、両デザイン部
持するためには、業務効率化によ
をまとめてデザイン部と表記)
。
って開発力を充実させる必要があ
デザイン部が業務改革をスター
る。このような考えのもと、デザ
トさせたのは、同本部デザイン部
イン部は「強力なクリエイティヴ
担当・執行役員の河津雅彦さんが
集団」を目指す業務改革活動に乗
デザイン業務はその他の業務と比
就任した2007年のことである。就
り出した。
べて独特であると捉えられること
任当時のデザイン部について「ダ
が多い。それはデザイナー個人の
イハツのパワーを感じた」としな
感性や経験、知識など、数値化が
がらも、「改善できるところもあ
難しい要素が成果に大きな影響を
る」という印象を持ったという。
及ぼすからである。そのため、デ
それはどこかひとつ、ということ
業 務 改 革 活 動 は DIKS
ザイン部の業務改革に積極的な企
ではなく、組織の硬直や業務プロ
( Daihatsu Design Innovation
業は多くない。
セスの障害、人材不足の問題な
Knowledge
ど、多岐にわたっていた。
と名づけられ、第2デザイン部の
商品開発のプロセスにおいて、
このように先送りにされがちな
デザイン部の業務改革に取り組ん
課題解決に取り組む
6つのWG
Self-management)
軽自動車のカテゴリーで国内シ
課長以上、マネージャークラス全
ェア首位を維持する同社だが、世
員が参加するワーキンググループ
同社には商品企画本部の配下に
界同時不況の影響はいうにおよば
(以下WG)として実施されること
第1、第2という2つのデザイン
ず、エコカー減税の対象車が販売
になった。マネジメント力の底上
部がある。第1と第2でデザイン
台数を伸ばしたことで対象外とな
げを図りながら「強力なクリエイ
工程の前後半を分業するほか、第
る軽自動車市場があおりをうける
ティブ集団」になるための組織作
1はモデル開発、第2はカラー開
など、経営環境は激変している。
りおよびルール作り、器作りを進
発全般というように分業体制が取
これに対応して強い競争力を維
だのが、ダイハツ工業である。
22
めようという計画だ。
企業と人材 2010.3.5
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事例3 ダイハツ工業
会社概要
本 社:大阪府池田市
創 立:1907年3月
埼玉自動車営業第二部
部長
渡辺善雄さん
従業員数:1万3,641人(連結・2009年9月現在)
事業内容:自動車その他各種車両およびそ
資本金:284億円
売上高:1兆6,313億円 (連結・2009年3月期)
の部品の製造、販売、賃貸およ
び修理など
URL: http://www.daihatsu.co.jp
準備段階として、全部員対象の
プロジェクトの成功および組織と
の工程と連携しているという意識
アンケートを実施。次にマネージャ
人の成長を重要課題とする組織編
が少なく、業務の後ダレ(後工程
ーが月に2回以上のペースでミー
成を行うのが組織WGである。
に問題を残すこと)が発生するこ
ティングを持った。第2デザイン部
WGでは、人材育成も考慮して組
に所属する部員は約70人。そのう
織編成と人員配置を徹底検討。組
このような問題を解消するため
ちリーダークラス約20人が一堂に会
織に関する従来の考え方を大きく
にプロセスWGを立ち上げた。ま
し、本音ベースで問題、課題の吐
転換し、従来のような車種ごとの
ず、趣意書やパッケージ確認モデ
き出しを行った。その結果、組織
グループ編成=デルタフォースと、
ルなど、業務内容を細分化して見
とマネジメントに対する諸問題が明
機種を限定しない担当部品ごとの
える化する新たなツールを開発し
確になった。
グループ編成=タスクフォースとい
て、三位一体活動における部署間
。
う2軸制をとった(図表1、24頁)
の連携を向上させた。
これらの問題を整理した結果、
とが多かった。
組織、業務プロセス、マインド、
デルタフォースは専任のチーフデザ
またトップダウンで直近の工程
人材育成、見える化、職場環境と
イナー1人とサブリーダー2人、計3
を知らせるという慣習を見直した。
いう6つのカテゴリーが率先して
人という編成とした。
担当者各自が必要な日程情報を
取り組むべきテーマだという結論
新組織では、タスクフォースデザ
各々にとって見やすい形で確認で
に至り、カテゴリーごとに改革・
イナーはいままでよりも短い間隔で
きるようにすることを目的に、従
改善策の開発を推進するための
機種横断的に活動、同様の部品を
来使用していた全日程表に加え、
WGが立ち上げられた。
任されるようになり、獲得した知識
工程の責任者が使用する「鳥の目
①組織WG
や技術に関するPDCAサイクルが短
日 程 」、係 長 ク ラ ス が 使 用 す る
2006年までデザイン部の組織は
縮され、個人のスキルアップが早ま
「人の目日程」
、担当デザイナーが
車種ごとにプロジェクトが編成さ
った。また、他の横軸メンバーと協
使用する「虫の目日程」というよ
れており、1車種にプロジェクト
力し合える体制ができた。
うに、日程情報を段階的に絞り込
リーダーが1人、サブリーダーが
②プロセスWG
んでいくという方式で上位日程と
1人、専任のデザイナーが4∼6
デザイン部の業務プロセスで特
人という編成だった。この編成に
に問題視されていたのは、先行開
は、当該機種のプロジェクト数が
発プロセスでの三位一体活動、す
オペレーターの三者が毎朝合同ミ
増えたときに1グループの人数と
なわち商品企画担当と製品開発担
ーティングを行い、当日の仕事を
しては減らさなければならず、タ
当、デザイナーの連携が不十分だ
確認することで業務内容の共有化
イムリーに対応できないという問
ったことだ。連携不足は、デザイ
を図った。以上の改革によって大
題があった。また、部員の育成、
ン決定の遅れや仕様の変更による
幅な業務効率化が実現した。各W
成長に差が生じるという問題があ
作業の手戻りなどを誘発した。
Gのコラボレーションにより30%
った。このような弱点を見直し、
企業と人材 2010.3.5
また、担当者各自が自工程以外
リンクした日程表を作成した。
さらにデザイナー、モデラー、
以上の効率化を達成したという。
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特集
最新技術と市場をつなぐ研究・開発者の育て方
図表1 新組織編成
■新体制
2D
軽プロダクトデザイン室
('07年から)
小型プロダクトデザイン室
各プロジェクト担当(CIS)
SL
SL
SL
SL
デルタフォース (CIS)∼クリエイティヴ・アイデア・スタジオ∼
1機種に対し、専任チーフデザイナー1名
専任サブリーダー 2名
外形
プロジェクト推進
ボディ
バンパー、グリル
若手抜擢による育成促進
外
形
S
L
タスクフォース(CQS)
∼クリエイティヴ・クォリテイ・スタジオ∼
機種を限定せず、
内外のデザイナーが横断的に活動
プール制
内
装
S
L
外形
ランプ類
タ
ス
ク
フ
ォ
ー
ス
︵
C
Q
S
︶
外形
ホイール
小物部品
内装
インパネ
トリム
内装
モック
内張り
内装
エキスパート・クリエイティヴ・デザイン(ECD)
メーター
小物部品
機種を限定せず、
アイデア創出の分野を集中的に活動
ECD
エキスパート・クリエイティヴ・デザイン
SL=スタジオリーダー
③マインドアップWG
権を持つ自由投票制度となり、部
には教える側になる“師弟制度”
員が相互に認め合う仕組みができ
を構築し、日常的にアドバイスを
欲や感性の鍛錬意欲にバラツキが
あがった。
受けられるようにした。
あり、マンネリ化もうかがえた。
④育成WG
DIKSスタート以前は、創造意
こうした状況から脱却し、魅力的
デザイナーにつきまとうのが、
そのほか、従来のスキルマップ
やキャリアマップでは、デザイナ
なアウトプットを生み出すプロと
アイデアと技術の恒常的レベルア
ー各自の将来像を踏まえた評価は
して部員が感性を磨き、意識改革
ップをいかに実現していくかとい
できないという問題があった。そ
をすることを目標に「マインドア
う課題である。デザイン部では、
こでデザイナー各自の将来像や育
ップWG」を立ち上げた。
魅力的なアウトプットを生み出せ
成シナリオを上司と本人で持ち合
るよう部員のデザイン力を高める
うとともに、デザイナーの能力を
意識、行動を分析し、それを手本
ことを目的に育成WGを設置した。
数値評価できる新たな技術評価表
として全デザイナーに「プロ意識
WGはまず、デザイン道場を開
「PA(ポテンシャル・アナリシス)
宣言」をしてもらうという活動を
設。優れたデザイナーの作業を解
シート」を開発。これにより、プ
展開。プロとしての意識喚起を行
析し、若手にとってネックとなる
ロジェクトマネージャーは全デザ
った。
ポイントを特定したうえで、その
イナーの相対的な評価ポジション
技能をトレーニングするという手
を常時参照できることになり、プ
らうために表彰制度を新設。制度
法で作業効率を向上した。また、
ロジェクトに応じた速やかな人員
は数度の刷新を経て全部員が投票
先輩と後輩との間で後輩も1年後
配置が可能になった。
WGは、著名なクリエイターの
また、明確な達成感を感じても
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企業と人材 2010.3.5
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事例3 ダイハツ工業
⑤環境改善WG
デザイン部各室のレイアウトに
は創造活動への配慮が無く、それ
が原因で作業効率が低下するとい
う問題があった。この問題に取り
組むのが環境改善WGである。
活動の柱は新しい組織に対応し
た最適なレイアウトへの変更と、
デッドスペースの見直しだ。
「集中
(創造活動)
」
、
「発散(コミュニケ
ーション、検討)
」という要素を重
視し、増改築なしに100m2に及ぶス
ペースを有効利用スペースに転用。
これまでなかった打ち合わせコー
ナーや、アイデアや図面の検討ス
ペースを創出した。評価は高く、
部員の91%が「希望通りの職場に
なった」と回答した。
⑥見える化WG
デザイン部には自分の仕事を一
人で抱え込む「個人商店化」(31
頁インタビュー参照)が多く見ら
れ、それを起因とした業務の滞り
が発生していたほか、組織力が発
揮できないといった問題があった。
そこで見える化を目的とするツー
ル開発を行うWGを立ち上げた。
ツール開発は他のWGとの共同
▲取材にご協力をいただいた、ダイハツ工業のみなさん
■写真上段
(左から)第2デザイン部軽開発室 室長 小山隆彦さん/第2デザイン部小型プロダクトデザイン
室 室長 藤林祥浩さん/商品企画本部デザイン部担当 執行役員 河津雅彦さん/第1デザイン
部プレデザイン開発グループ 主査 阪口庸介さん/第2デザイン部 部長 酒井真吾さん
■写真中段
(左から)第2デザイン部軽開発室 木村活大郎さん/第2デザイン部開発グループ 課長 宮城英
寿さん/デザイン部 スタジオグループ 課長 才脇卓也さん/第2デザイン部小型プロダクトデ
ザイン室 川合徳明さん
■写真下段
(左から)第1デザイン部プレ・デザイン開発G 課長 若林道之さん/第2デザイン部小型プロダ
クトデザイン室 森岡幸信さん/第2デザイン部小型プロダクトデザイン室 係長 清水幸治さん
作業として推進した。
部内各職場の関連を見える化し
た。
そして2009年には、環境改善WG
たデザイン作業工程マップを組織
また、部員の日々の気分や調子
と見える化WGを単一のWGとして
WGと開発したのをはじめ、プロ
をお天気マークで表す「お天気シ
統合。同時に目的を業務効率化と
セスWGとは業務バラシート、修
ート」を開発。各自のコンディシ
する「効率化WG」を立ち上げた。
正方向確認シート、モデルバラシ
ョンを見える化し、日常的な声掛
デザイナーとCADオペレーター
ートなど、さまざまな工程におい
けのきっかけを提供した。上司と
との間に連携の不備があり、工数
て「課題バラシ」と見える化を実
部員間、または部員同士のコミュ
が増える傾向にあったことから、
施。育成WGとは新機軸の技術評
ニケーションが促進されるという
その解消に取り組んだ。
価シートとなるPAシートを開発し
狙いどおりの役割を果たしている。
企業と人材 2010.3.5
まずCADのオペレーターの実作
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特集
最新技術と市場をつなぐ研究・開発者の育て方
業を録画して分析を行い、作業に
就任した酒井真吾さんはマインド
ゼロベースで起こす必要があった
影響を及ぼす要因を特定。デザイ
アップWGから大いにサポートを
が、チーム編成は組織WG、業務
ナーとオペレーターが滞りなく情
得たという。
プロセスはプロセスWG、ベンチマ
報をやり取りしてCAD作業を効率
当時、業務の負荷が急速に増し
ーク用の専用室の用意は環境改善
よく進めるための情報伝達ツール
ていたという事情があり、酒井さ
WGというように、各WGによって
を開発した。
んは「従来の組織編成では対応で
必要機能がすべて整ったため、垂
また、若手のオペレーターの疑
きない」という危機感を抱いてい
直立ち上げが実現できたのである。
問を適宜解決するために技術相談
た。とはいえ、必要な能力を持つ
WGの活動は、デザイン品質に
窓口を設置したほか、カンやコツ
人員をすぐに揃えるのは困難であ
などの暗黙知をテキスト化し、参
る。そこで課長職には部長職の仕
例えば新案デザインの製品化前
照できるようにした。その結果、
事を、係長職には課長職の仕事
に審査を行う、
「意匠確定会」と
当該工程について工数とトラブル
を、そして一般部員には係長職の
いう制度がある。以前は審査落ち
数の大幅減を達成した。
仕事をこなしてもらうというドミ
が多数あったが、DIKSスタート
ノ人事に踏み切った。
後は高評価で審査を通過する例が
デザイン部スタジオグループの
才脇卓也課長はこう話す。
しかし、ドミノ人事は人員にか
も確たる好影響を与えている。
増えたのだそうだ。
「工程のなかでも、CADの段階
かる負担が大きく、いかにして期
社外のコンテストでも、2010年
というのは、オペレーターとデザ
待どおりの働きをしてもらうかは
に「ミラ ココア」が、自動車の優
イナー、2人だけのブラックボッ
大きな課題だった。そこで育成
れたカラーデザインを顕彰する
クスになってしまい、今どこまで
WG提唱のPAシートを活用。部員
「オートカラーアウォード」
(財団
進んでいるかということがわから
各自の将来像を把握し、キャリア
法人日本ファッション協会 流行
なくなってしまいます。そのため、
形成のために高負荷ワークにトラ
色情報センター主催)でインテリ
当たり前のことが当たり前にでき
イするというモチベーションを確
ア部門賞、エクステリア部門賞、
ていないという状況が放置されて
立したことによってドミノ人事は
企画部門賞の3冠に輝くという価
いるということもありました。
奏功し、期待以上の組織力を発揮
値ある成果を得ている。
そんな状況を改善するため、技
することになった。
デザイン品質に関わる成果につ
術相談窓口やテキスト作成のよう
2008年からDIKSに合流した第1
い て 、複 数 の マ ネ ー ジ ャ ー が
に、その道の先輩が当たり前に持
デザイン部プレデザイン開発グル
「DIKSで改革・改善が行われたこ
っていた技術をしっかりと補強で
ープの阪口庸介さんは、2009年に
とによって仕事がスムーズに回り、
きる取り組みを実施していきたい
意匠原価活動をスタートした。工
ハイレベルな仕事ができるように
と考えたのです」
業デザイナーが基本として持って
なる」という実感を持っていると
おくべき製品知識として意匠原価
いうことだ。
大きく波及するWGの成果
活動を推進。阪口主査は、そのチ
ーム編成を約1カ月で完了した。
これは、他のプロジェクトと比較
WGの成果は、掲げた課題の解
決策にとどまらず、デザイン部の
さまざまな活動シーンに波及した。
2008年に第2デザイン部部長に
26
理念の再確認が
活動に勢いを生む
すると驚異的な立ち上がりの早さ
である。
DIKSはデザイン部がゼロから立
前例のない試みということでチ
ち上げ、育ててきた業務改革活動
ーム編成に関わる諸作業をすべて
である。スタート以来、紆余曲折
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事例3 ダイハツ工業
図表2
があったが、とりわけDIKSの進む
道を方向付けた大きな節目につい
て触れておきたい。
スタートから1年間、DISKは
手探り状態だった。特に6WGが
WG間の関連性
● 目標達成によって人が成長する「天使のサイクル」を策定。各WGを相関させ協業効果を図ることにより
「プロジェクトの成功」と「人と組織の成長」の同時実現を目指した意識改革と仕組み作りという活動趣旨
を再設定、対策に向けて連動する各WGの活動方針を明確にできた。
天使のサイクル
クリエイティヴな集団が産む
魅力的なデザイン
自立・自律・自行
自ら考え、行動し、合知合力でスパイラルアップ
扱うテーマは部分的に相互干渉
し、明確に独立していなかったた
め、活動指針がいまひとつはっき
りしなかった。そのため6WGが
このまま活動しても果たして「強
力なクリエイティヴ集団」になる
という本来の目標に到達できるの
かという疑念が生じていた。
あるべき
姿の共有
④育成WG
適性に合わせた個人目標の
共有と成長シナリオの策定
適正な評価と
新たな目標設定
①組織WG
夢
進歩
希望
⑤見える化WG
ツール制作と暗黙知の
見える化
目標
反省
③マインドアップWG
育成とプロジェクトの成功を考えた
体制作りとマネジメント強化
⑥環境改善WG
創造性とコミュニケーション
支援
実績
計画
正しい評価と自主研鑽を
図る仕掛け
「強力なクリエイティヴ集団」
行動
高い目標に
向けた挑戦
個人とプロジェクトの
課題を見える化
②プロセスWG
達成目標と進め方を
明確にしたプロセス策定
を実現するためには、プロジェク
トの成功および組織と人の成長と
じ方向を向いていることを示して
このときはまだ、全員の腹に落ち
いう2つの課題を同時に実現しな
いる。さらに見える化WGと環境
ていないことも……。とりわけ、
ければならない。それは、6WG
改善WGという2WGが、このサ
「どうして、しんどい思いをしてま
で同時に理想的な成果を出すとい
イクルの土台として機能している。
で新しいことを始めなければなら
うことである。この難問を解くた
この図によって、マネージャー
ないのか」と反発心を抱く一部の
めには、6WGの位置付けをはっ
は6WGを推進する意義を理解す
マネージャーに対し、業務改革の
きりさせて、活動の指針を再定義
ることができた。すなわち6WG
必要性をいかにして説くかという
する必要があった。
が関連し合いながら活動すること
課題が残されていたのである。
道を拓いたのは、あるマネージャ
によって、デザイン部と部員それ
ーが考案した、6WGの関連性を示
ぞれが成長するということ、さら
組織の意識改革に関するテーマに
す模式図(図表2)である。
にプロジェクトの成果も同時に獲
強いコンサルティング会社、イン
「夢、希望、目標……」という
得できる。そのことを、多くのマ
パクト・コンサルティング(以下、
サイクルは、考案者がある本で読ん
ネージャーたちは明確なイメージ
インパクト社)に協力を要請し
だ「天使のサイクル」理論をもとに
として持つことができたのである。
た。河津さんはかつて、インパク
作成したもの。示すのは、目標を達
成して夢をかなえることで成長する
というプロセスである。ビジネスパ
ト社によるコンサルティングの成
社外の知恵が
取り組みをサポート
ーソンの行動原則といっていい。
また、この模式図では、組織、
こうした状況をみた河津さんは、
果を間近に見ていたのだ。
インパクト社はマネージャーた
ちに業務改革のアドバイスを提供
スタートから1年を経た2008年
しながらも、職場での課題解決に
プロセス、マインドアップ、育成
には、コンサルティング会社から
率先して取り組むことや、業務改
の4WGが相互に関連し合ってい
のサポートを受けるようになった。
革を進めていくうえでのマネージ
る。これら4WGの相互関連性と、
改革のスピードアップが期待され
ャーとしての役割、スタンスをい
夢から始まるサイクルは極めて同
る段階に差し掛かったDIKSだが、
かに持つべきかなど、細やかなア
企業と人材 2010.3.5
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特集
最新技術と市場をつなぐ研究・開発者の育て方
ドバイスを提供した。また、月に
る。だが、河津さんはDIKSをボ
また、見える化ツールを試した
1回、1カ月間の振り返り発表と集
トムアップの改革活動にすること
メンバーが、自分なりにツールの
中検討を行い、WGの成果を踏ま
をスタート当初から決めていたこ
評価を行い、ときに改良して再伝
えて次の展開を考えることを定例
とから、長期的展望で意識改革を
播させることもあるという。
イベントとした。やがてこれらの
進めることを選択したのである。
第2デザイン部開発グループ課長
サポートが実を結び、また同時に
第2デザイン部小型プロダクトデ
の宮城英寿さんは「用紙を持って
1年来のDIKS活動が徐々に成果
ザイン室長の藤林祥浩さんは「改
行って、
『これを使ったらうまくい
を生みはじめたことから、マネー
革のゴールが見えない状況で疑問
く』というだけでは、そのツール
ジャーたちが抱くDIKSのイメージ
や反発の声が聞こえたが、河津さ
や方法は、すぐに消えてしまう」
は大きく変化し、取り組みに力を
んから『これまで1年で立ち消え
と説明。ボトムアップでの改革活
入れるようになった。
していたことも多々あったが、こ
動拡散のメリットを強調する。
「ゴ ー ル が 見 え な い 状 態 で 、
の改革は長い目で見る必要がある。
ボトムアップで改革が進むとい
『ゴールはこっちだ』というように
じっくりやろう』とのコメントの
うことは、一般部員も含めた全部
手を振ってもらった」(第2デザイ
もと『乗りかかった船だ』
、
『それ
員が自ら変革の中心に身を置き、
ン部軽開発室室長の小山隆彦さ
ならば、やらなければいけない』
主体的に考え、一段上のステージ
ん)という言葉からもインパクト
という空気が生まれていった」と、
を目指すということである。
「天使
社の貢献度の大きさがうかがえる。
当時の部内の様子を説明する。
のサイクル」が示している「個人
粘り強く推進した結果、2008年
が自立・自律によって自ら成長し、
中には成果が出始めた。そして、
それにより組織が成長する」とい
DIKSをやれば得になる、楽にな
うDIKSの理念そのものといえる。
るという印象を持つ部員が少しず
DIKSは現在も進行中だ。河津
ここまでDIKSの方向性を決め
つ増えてきたという。部員各自が
さんは自身のイメージと断りなが
た節目の出来事を紹介してきた
DIKSのメリットを自分自身で体
ら、DIKSのゴールについて「あと
が、DIKSが成長した最大の要因
験し、認め始めたのである。
2年、全部で5年はかかるだろ
信念と粘り強さで
軌道に乗せる
を挙げるとするなら、DIKSの信
念にあるといえる。その信念とは、
「いくら会社が正しいことをしよ
ボトムアップによる改革を貫く
う」と予測する。マネージャーク
という信念は、デザイン部全体に
ラ ス の WGと し て ス タ ー ト し た
大きな影響を与えた。
DIKSは現在、全部員が参画する
うとしていても、それが部員の達
DIKSで生まれた成果の伝播方
活 動 へ と 変 容 し た 。全 部 員 が
成感となり、各自の幸せ、充実に
法にも独特なDIKS色を見つける
DIKSの理念を理解し、意識改革
つながっていかないと本当の改革
ことができる。例えば新たに開発
を行う。その先にセルフマネジメ
にならない」という河津さんの言
された見える化ツールが、あるプ
ントを行えるようになるという目
葉に表れている。
ロジェクトで実験的に活用される
標があり、さらにその先に「強力
「改革に反発心を抱く部員とど
ようになる。このツールの実用性
なクリエイティブ集団」を実現す
のように向き合うか」というテー
が確認できたとき、プロジェクト
るという大目標がある。
マを再度取り上げてみる。成果を
マネージャーは担当する別のプロ
急ぐのであれば強く説得するなり、
ジェクトメンバーに「あっちのプ
ルールを設定して遵守させるなり、
ロジェクトで、便利なものを使っ
イニシアチブを発揮する方法はあ
ている」と教えて伝播を促すのだ。
28
(とのさき こう)
企業と人材 2010.3.5
P029_033インタビュー 2010.2.17 17:56 ページ 29
●特集◎最新技術と市場をつなぐ研究・開発者の育て方
インパクト・コンサルティング 代表取締役 倉益幸弘さんに聞く
成果達成と人の成長を実現する
組織革新「インパクト・メソッド」
くらます さちひろ
設備機械メーカーで設計を経験後、日本能率協会コンサルテ
ィングに入社。技術開発部門の生産性向上を長年にわたり指
導する。2001年、故岡田幹雄氏とともにインパクト・コン
サルティングを設立。インパクト・メソッドの開発に最初か
ら携わる。2004年、代表取締役に就任。
■(株)インパクト・コンサルティング
元日本能率協会コンサルティングの故岡田幹雄氏と倉益幸弘
氏により、2004年に設立。主に企業の技術開発部門におけ
る知力生産性向上による経営革新のコンサルティング・研
修・社員教育を行う。
URL=http://www.impact-consulting.jp
開発チーム革新を
成功に導く
インパクト・メソッド
業務成果と人と組織の
成長を同時実現!
倉益幸弘、宗像 弘、久保昭一、
山田 勉共著
2009年10月
実業之日本社
本体2,200円+税
はじめに
で立ち上げた岡田幹雄氏が開発した「技術KI計画」
このインタビューでは、事例3で紹介したダイハツ工業
というプログラムを提供していました。
の組織革新のベースとなった、
「インパクト・メソッド」
について解説していますが、このインタビュー内容は「イ
ンパクト・メソッド」の基本となる考え方であり、マネ
ジャーが中心となって革新を開始したダイハツ工業の取
り組みとは異なる内容があります。
その頃、ある自動車部品メーカーの研究開発設計
部門、特に設計部門や、生産技術部門のコンサルテ
ィングを行いました。その会社での展開は事業所の
数や期間など、それまでの当社では経験のなかった
規模での展開となったのですが、それぞれの現場で
バブル崩壊後の環境変化が生んだ
開発現場の「悪しき慣習」
――マネジメント革新のコンサルタントとして、開発チ
起きている問題に共通の要因があることに気がつき
ました。以前から漠然と感じていたことを整理でき
た、というほうが正確かもしれません。ここから
「インパクト・メソッド」の原点が誕生しました。
ームの現状のどのような点に問題があると感じていまし
――共通の要因とはなんだったのでしょうか?
たか?
倉益
倉益
1990年代の終わり頃の当社では、当社を共同
企業と人材 2010.3.5
私たちはこれを「悪しき慣習」と名づけまし
た。1つ目はチームのメンバーとリーダー、マネジ
29
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ャーや、メンバー同士の「コミュニケーションのス
込みが起こったり、メンバーが一匹狼化します。
タイル」です。ここでいうコミュニケーションとは、
――なぜ悪しき慣習がはびこったのでしょうか。
仕事を受けたり頼んだりするときのコミュニケーシ
倉益
ョンという、非常に限定したものを指していますが、
営環境が激変し、大競争時代に入ったことに端を発
これが「一方通行の指示」と「過去の結果の確認」
していると考えます。そこで起きたことは①「プロ
になっているということでした。
ジェクトの急増」
、②「目標の高度化」、③「開発期
一方通行の指示によるコミュニケーションでは、指
私は1990年代のバブル崩壊後、日本企業の経
間の短縮」です。これらは組織のマネジャーから、
示を受けたメンバーが理解しているのかどうかわから
余裕を奪いました。マネジャーは、プロジェクトや
ないまま、仕事が進んでしまうということがあります。
顧客対応でかけずり回っていて、メンバーと話をす
これはマネジャーとメンバーの経験に差があるためで
る余裕などありません。
すが、マネジャーは伝えたつもり、メンバーはわかっ
この状態で仕事が増えていくと、マネジャーにと
ていなくてもわからないと言えず、はい、と答えてし
っては、複数のメンバー、つまり1つの仕事に1人
まう、ということが起こり、問題発生の要因となって
をつけるほうが楽だと感じるようになります。なぜ
いたのです。
なら、チームに仕事を任せる場合、メンバー間の負
過去の結果の確認は、
「先週こんな指示をしたよね、
荷や進捗状況の調整などのために、密なコミュニケ
それからどれくらい進んだの?」という、経緯の確認
ーションが必要となりますが、マネジャーが多忙で
に終始します。そのため、話の対象が過去に限定され、
コミュニケーションが不十分な場合、それが困難に
警察の事情聴取みたいなものになっていました。
なるからです。チームにメンバーを束ねるべきリー
この話とつながってくるのが、2つ目の「あいま
ダーを置いたとしても、マネジャーがあるチームの
いな仕事のスタート」。先手を打って問題を解決す
リーダーを兼務していれば、同じことです。他のチ
べき立場の人がリーダーシップを発揮していないた
ームの状況に、意識は向かなくなります。
めに、問題解決が常に後手に回っていました。
プロジェクト数と業務量が急増するなかで、結局
原因はコミュニケーション不足による、
「不十分な
1人に1つの仕事をつけて任せっ放しで仕事をさせ
段取り」です。先ほど述べたように、会議やミーティ
て、何かあったら指示を与えて微調整をするほうが
ングの時間が過去の確認に費やされると、これからス
楽、と考えるようになり、個人商店化が多く見られ
タートする仕事の段取りのための時間が取れなくなっ
るようになったと推定しています。個人商店化はコ
てしまいます。すると、段取り不足のままで仕事がス
ミュニケーション不足を生み、ひいては、あいまい
タートしますから、あとから問題が多発し、プロジェ
な仕事のスタートへとつながったのです。
クトの見直しなど、タイムロスの要因となるのです。
そして3つ目が「個人商店化」。人に仕事をつけ
ここには人間の持つ弱さがあります。「忙しいか
ら、任せた」とか、そんなことが絡んでしまって、
る、つまり、1人で1つの仕事を担当するため、組
悪しき慣習がバブル崩壊後から顕著に見られるよう
織であって組織でない状態になっています。さらに
になったと思っています。
マネジャーと部下間の意思の疎通が悪いため、仕事
――その責任は誰にあったのでしょうか?
を与えたマネジャーも進捗状況を把握できない。そ
倉益
ういう仕事のやり方になっていました。
が、最も責任が重いのは、彼らを統括するマネジャ
責任はメンバーにも、リーダーにもあります
個人商店化の弊害としては、仕事のやり方に組織
ーです。マネジメントサイドが、仕事のやりやすい
の知恵が入らないことが挙げられます。また、メン
環境を作るために、仕事のやり方を変えようという
バーが孤独になったり、指示待ち状態や仕事の抱え
意識を持つことが必要ですし、そうしなければ人も
30
企業と人材 2010.3.5
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育ちません。
開発チームのあるべき姿に向けて
悪しき慣習を打破する
は何をするべきかということを、マネジャーを含め
て、双方向で話し合おうということです。
双方向とは、マネジャーもしゃべる、メンバーも
しゃべる。そのときは、ワイワイガヤガヤ、平等に
――悪しき慣習の弊害をお伺いしてきましたが、逆に開発
やろうということです。あとは「オープンマインド」。
チームのあるべき姿とはどのようなものなのでしょうか?
これは、例えばメンバーが、自分は何がわかってい
倉益
思い=目標を示し、メンバーとともに計画や
て、何がわかっていないのかということを話す、と
課題解決策を作りあげていくことができるマネジャ
いうように、正直に現状を上司と部下で共有すると
ーやリーダーのもとで、メンバー同士が自立的に助
いうことです。このような状態がオープンマインド
け合い、常に先手を打って課題を解決していける。
です。経験と立場が違うと、アタマのなかで考えて
それがあるべきチーム像ではないでしょうか。言い
いることが違います。だからお互いの頭のなかを見
換えれば、
「業務成果と、人と組織の成長を同時に
せ合う、ということです。
実現することができるチーム」です。
ここでいう問題とは、現時点で目標水準から逸脱
②の問題・課題解決革新は、課題解決を先取りして
行うための仕事のやり方の改善アプローチです。
している状態にあり、解決を要求されている事柄で
課題を先取りして解決するために、事前に目標(ア
す。これに対して、未来に発生することが予想され
ウトプット・イメージ)を共有し現状の問題とこれか
る問題を、
「課題」と定義します。
ら起こりうる問題としての課題を見える化し、抽出し
例えばある製品について、性能はよい。しかし、
ます。これらを上司と部下でコミュニケーションをと
高いコストをかけて作るようなやり方になっている
りながら、一緒に検討していくなかで手を打っていく。
という状況であれば、いずれは、性能をキープしな
そういうスタイルにしていこうじゃないかというのが、
がらコストを目標額に抑えろと要求されるでしょう。
問題・課題解決革新です。
それを事前に方針や打ち手をはっきりさせ解決して
③のチームワーク革新とは、個人商店化改善のた
いくのが課題の解決です。
めの、組織改革アプローチです。まずはチーム編成。
――まさに悪しき慣習とは正反対の状態ですね。その状
マネジャーの下にすべてのメンバーがついていると
態にチームを変えていくためには、どのような改善策を
いう「フラットな組織」から、マネジャーの下に数
実施すればよいのでしょうか?
人のリーダーを置き、リーダーに数人のメンバーと
倉益
つけるという、チーム編成を行います。そのうえで、
「インパクト・メソッド」では、①「コミュ
ニケーション革新」、②「問題・課題解決革新」
、③
「チームワーク革新」という、3つのマネジメント
革新の着眼点を提案しています。
①のコミュニケーション革新とは、あいまいな仕
複数の人に複数の仕事を任せます。例えば2人で3
つの仕事をしよう、というイメージです。
これによって可能となるのが、「合知合力」。課題
が先に見えてくるような仕事のやり方に変われば、
事のスタートの改善アプローチです。過去の確認と
課題に対してお互いが知恵を出し合うことができる
一方的な指示ばかりのコミュニケーションを、仕事
ようになります。それが「合知」。そして、誰かの
を進める順序や手順を決め、その準備をするための
仕事の負荷が増えたときに、お互いに「忙しかった
「段取りコミュニケーション」に変えていきます。
段取りコミュニケーションで大切なのは2つ。1
ら応援しようじゃないか」となります。これが「合
力」です。こうなれば、チーム全員で課題に対して
つ目は、今日から明日、今日から来週、今日から1
先手を打ち、さらに進んでいくという形ができます。
カ月先という、未来に向かって、目標達成のために
要するに、個人戦を団体戦に変えるということです。
企業と人材 2010.3.5
31
P029_033インタビュー 2010.2.17 17:56 ページ 32
ただし、これら3つの革新を進めるためには、マ
ネジャーに問題解決のためのリーダーシップが備わ
を持つことができますし、それによってさらに先へ
と進んで行けるようになるのです。
っていることが前提となります。あるチームの仕事
ダイハツ工業の例で言えば、CADオペレーターと
の負荷が限界に達していたら、人の応援を入れると
のコミュニケーション改善に取り組んだ若手のデザ
か、技術課題がでてくるとしたら、改善策を示して、
イナーは、最初はCAD業務が嫌だったと思います。
メンバーと意見を述べ合うなど、目標を共有して解
「なぜ、こんなに時間を割いて打ち合わせをしなけ
決するまでのリーダーシップです。部下と一緒にコ
ればいけないのか」と。時間ばかりかかって、その
ミュニケーションをとって、計画を作って手を打っ
メリットが見えないのですから。
ていこうという方向に意識を変えていかなければ、
しかし、やり通してみれば、
「指示の出し方の勘
状況は改善されません。マネジャーが意識を変える
所を掴んだ」
、「現場とツーカーの仲になった」など
ことが「問題解決を事後から事前へ」
、ということ
のメリットが見え、それが成功体験や成長実感とな
につながるのです。
り、先に進んで行けたのです。
――成長実感が一歩先へという意欲を生むのですね。し
3つの革新が成功する条件
かし、従来のやり方を変えることへの反発も大きいので
はありませんか?
倉益
3つの革新を進めると、うまく変化が起こる
倉益
ある企業では、
「コミュニケーションなどと
チームもあれば、起こらないチームもあります。う
る間に、図面が一枚描ける」と怒鳴ったマネジャー
まくいくチームの特徴は、コミュニケーションをと
もいました(笑)。
ろうとして、ワイワイガヤガヤをやり始めると、な
従来の方法を大きく変えるときには、やはり何ら
んでも話せる「オープンマインド」のチーム状態が
かのきっかけが必要です。仕事のやり方を変えるき
生まれています。
っかけは4つ、①マネジャーが「思いを具体化す
それから、マネジャーやメンバーのなかに計画思
る」、②組織・チームで仕事をするための環境作り、
考の優れた人がいて、仕事のゴールを先に考えて、
③先手を打つ仕事のやり方への挑戦とその意欲、④
課題を出して模造紙に並べてみて、メンバー全員と
人と組織・チームの成長とその意欲です。私たちは
議論をしながら作戦を考えていきます。やがて、仕
これを「4つのトリガー」と読んでいます。
事のやり方が整理できてくると、
「○○さんが忙し
いようなので、手を打ちましょう」というように、
メンバー一人ひとりが自律的に動き出します。
さらに、その源泉となるのが、「3軸3力」です。
「3軸」とは開発チームのマネジャーに必要とされる
関心の方向性で、①ビジネス、②技術、③人間の3
なぜこうなるかというと、マネジャーの「こんな
つにどれだけ意識を持っているかを指します。この
ことを実現したいんだよね」という思いが伝わって
3つを高いレベルでバランスよく保つことが重要で
いるからです。そうしたマネジャーの思いを理解し
す。
「3力」とは、マネジャーに求められる能力のこ
たメンバーが先手を打って仕事を進めていくことが
とで、①変えたいことを示す力、②仕事のアイデア
できるようになったうえで、マネジャーとメンバー
を自ら出し、仲間とともに考え出す力、③変えるた
が一緒に計画を立てて、それがうまくいく。すると、
めの実行力が挙げられます。
じゃあ次に挑戦しようという意欲が生まれ、その繰
――最後に「インパクト・メソッド」の具体的な進め方
り返しのサイクルが出来上がります。こうしたチー
をお聞かせください。
ムが、結果を出せるチームとなります。
倉益
結果がでることによって、メンバーは、成長実感
32
1年間にわたる「インパクト・メソッド」の
スケジュールは、3つのフェイズに分かれます(図
企業と人材 2010.3.5
P029_033インタビュー 2010.2.17 17:56 ページ 33
図表 「インパクト・メソッド」展開イベント
1カ月
マ
ネ
ジ
ャ
ー
研
修
立
上
研
修
2カ月
見
え
る
化
研
修
マ
ネ
ジ
メ
ン
ト
状
況
共
有
会
相
談
会
3カ月
相
談
会
マ
ネ
ジ
メ
ン
ト
状
況
共
有
会
4カ月
相
談
会
マ
ネ
ジ
メ
ン
ト
状
況
共
有
会
5カ月
相
談
会
日常マネジメント岩盤(6カ月程度)
イベントの目的
●マネジャー研修
・インパクト・メソッドの先行理解
・マネジャーの立場から見たマネジメント問題の共有
・何を変えるか、
マネジャー同士のベクトル合わせ
・マネジメントの現実についてインパクト・コンサルティングと共有
●立上研修
・対象メンバー全員でチームマネジメントの変えるべき内容を共有
・見える化計画行為にマネジメント行為を組み込み実践展開スタート
6カ月
マ
ネ
ジ
メ
ン
ト
状
況
共
有
会
相
談
会
︵マ
中ネ
間ジ
発メ
表ン
会ト
︶状
況
共
有
会
7カ月
相
談
会
12カ月
マ
ネ
ジ
メ
ン
ト
状
況
共
有
会
プロジェクト岩盤
(3カ月程度)
卒
業
式
ビジネス岩盤
(3カ月程度)
●マネジメント状況共有会
・日常で実践した内容を振り返りマネジメント問題を顕在化させ、
次に向けての打ち手を全員で共有する
●チーム個別指導会
・コンサルタントがチームの実情に合わせマネジメント革新の
指導を行う
●卒業式
・インパクト活動を進めてきた1年間を振り返り自職場の変化と
成果をアピールする
・今後に向けた目標の宣言も行う
表)
。岩盤というのは日常の仕事のやり方の基盤の
やり方の何を変えるべきかを洗い出します。これが
ことで、最初の6カ月でコミュニケーションやマネ
マネジメント革新のきっかけづくりとなるのです。
ジメントを中心に個々の業務のやり方を徹底的に見
それからもう一つ、特徴的なのは、「マネジメン
直し、続く3カ月でプロジェクトの進め方をレベル
ト状況共有会」です。その時点でのチームの状況を
アップし、最後の3カ月で、経営成果に直結するた
月に1回確認する時間をとりますが、それは仕事の
めの職場の変化を図ります。いわば、日常からスタ
やり方のPDCAサイクルが回るチームにするために
ートする組織変革です。
必要なものです。個人ではPDCAサイクルが回って
特にスタート時に実施する「立上研修」では具体
いても、チーム全体では回っていないということが
的にはメンバー一人ひとりが、マネジャーに対して
多いのです。1カ月間に、チームで立てた目標に対
抱いている不満を図に描いて発表します。
して、どう工夫して、どう実践して、どんな結果に
例を挙げれば、部長がやたらと仕事をとってくる
なったかをチェックします。その際、結果は悪くて
ために、本来やるべき仕事ができない状態になって
もよいのです。その原因を見える化し、次に活かそ
いる、という不満を、ダボハゼを抱えたタコ(部長)
うということが目的です。役員クラスが毎月出席し、
が、本来やるべき仕事を踏み潰しているという図を
オープンマインドを実践する企業もあります。
平気で描いたチームがいました。
――本日はありがとうございました。
――マネジャーはショックを受けるでしょうね。
倉益
それは大きいですよ。普段は蓋をしているこ
(2010年2月1日、インパクト・コンサルティングにて収録。
聞き手・構成:編集部)
とですからね(笑)。しかし、言葉では言いにくよ
うなことでも、図に描くことで、お互いが大笑いし
ながらその真意を共有することができるのです。
こうして、不平不満の吐き出しを通じて、仕事の
企業と人材 2010.3.5
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