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詳しい記事はこちら - インパクト・コンサルティング
P029_033インタビュー 2010.2.17 17:56 ページ 29
●特集◎最新技術と市場をつなぐ研究・開発者の育て方
インパクト・コンサルティング 代表取締役 倉益幸弘さんに聞く
成果達成と人の成長を実現する
組織革新「インパクト・メソッド」
くらます さちひろ
設備機械メーカーで設計を経験後、日本能率協会コンサルテ
ィングに入社。技術開発部門の生産性向上を長年にわたり指
導する。2001年、故岡田幹雄氏とともにインパクト・コン
サルティングを設立。インパクト・メソッドの開発に最初か
ら携わる。2004年、代表取締役に就任。
■(株)インパクト・コンサルティング
元日本能率協会コンサルティングの故岡田幹雄氏と倉益幸弘
氏により、2004年に設立。主に企業の技術開発部門におけ
る知力生産性向上による経営革新のコンサルティング・研
修・社員教育を行う。
URL=http://www.impact-consulting.jp
開発チーム革新を
成功に導く
インパクト・メソッド
業務成果と人と組織の
成長を同時実現!
倉益幸弘、宗像 弘、久保昭一、
山田 勉共著
2009年10月
実業之日本社
本体2,200円+税
はじめに
で立ち上げた岡田幹雄氏が開発した「技術KI計画」
このインタビューでは、事例3で紹介したダイハツ工業
というプログラムを提供していました。
の組織革新のベースとなった、
「インパクト・メソッド」
について解説していますが、このインタビュー内容は「イ
ンパクト・メソッド」の基本となる考え方であり、マネ
ジャーが中心となって革新を開始したダイハツ工業の取
り組みとは異なる内容があります。
その頃、ある自動車部品メーカーの研究開発設計
部門、特に設計部門や、生産技術部門のコンサルテ
ィングを行いました。その会社での展開は事業所の
数や期間など、それまでの当社では経験のなかった
規模での展開となったのですが、それぞれの現場で
バブル崩壊後の環境変化が生んだ
開発現場の「悪しき慣習」
――マネジメント革新のコンサルタントとして、開発チ
起きている問題に共通の要因があることに気がつき
ました。以前から漠然と感じていたことを整理でき
た、というほうが正確かもしれません。ここから
「インパクト・メソッド」の原点が誕生しました。
ームの現状のどのような点に問題があると感じていまし
――共通の要因とはなんだったのでしょうか?
たか?
倉益
倉益
1990年代の終わり頃の当社では、当社を共同
企業と人材 2010.3.5
私たちはこれを「悪しき慣習」と名づけまし
た。1つ目はチームのメンバーとリーダー、マネジ
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ャーや、メンバー同士の「コミュニケーションのス
込みが起こったり、メンバーが一匹狼化します。
タイル」です。ここでいうコミュニケーションとは、
――なぜ悪しき慣習がはびこったのでしょうか。
仕事を受けたり頼んだりするときのコミュニケーシ
倉益
ョンという、非常に限定したものを指していますが、
営環境が激変し、大競争時代に入ったことに端を発
これが「一方通行の指示」と「過去の結果の確認」
していると考えます。そこで起きたことは①「プロ
になっているということでした。
ジェクトの急増」
、②「目標の高度化」、③「開発期
一方通行の指示によるコミュニケーションでは、指
私は1990年代のバブル崩壊後、日本企業の経
間の短縮」です。これらは組織のマネジャーから、
示を受けたメンバーが理解しているのかどうかわから
余裕を奪いました。マネジャーは、プロジェクトや
ないまま、仕事が進んでしまうということがあります。
顧客対応でかけずり回っていて、メンバーと話をす
これはマネジャーとメンバーの経験に差があるためで
る余裕などありません。
すが、マネジャーは伝えたつもり、メンバーはわかっ
この状態で仕事が増えていくと、マネジャーにと
ていなくてもわからないと言えず、はい、と答えてし
っては、複数のメンバー、つまり1つの仕事に1人
まう、ということが起こり、問題発生の要因となって
をつけるほうが楽だと感じるようになります。なぜ
いたのです。
なら、チームに仕事を任せる場合、メンバー間の負
過去の結果の確認は、
「先週こんな指示をしたよね、
荷や進捗状況の調整などのために、密なコミュニケ
それからどれくらい進んだの?」という、経緯の確認
ーションが必要となりますが、マネジャーが多忙で
に終始します。そのため、話の対象が過去に限定され、
コミュニケーションが不十分な場合、それが困難に
警察の事情聴取みたいなものになっていました。
なるからです。チームにメンバーを束ねるべきリー
この話とつながってくるのが、2つ目の「あいま
ダーを置いたとしても、マネジャーがあるチームの
いな仕事のスタート」。先手を打って問題を解決す
リーダーを兼務していれば、同じことです。他のチ
べき立場の人がリーダーシップを発揮していないた
ームの状況に、意識は向かなくなります。
めに、問題解決が常に後手に回っていました。
プロジェクト数と業務量が急増するなかで、結局
原因はコミュニケーション不足による、
「不十分な
1人に1つの仕事をつけて任せっ放しで仕事をさせ
段取り」です。先ほど述べたように、会議やミーティ
て、何かあったら指示を与えて微調整をするほうが
ングの時間が過去の確認に費やされると、これからス
楽、と考えるようになり、個人商店化が多く見られ
タートする仕事の段取りのための時間が取れなくなっ
るようになったと推定しています。個人商店化はコ
てしまいます。すると、段取り不足のままで仕事がス
ミュニケーション不足を生み、ひいては、あいまい
タートしますから、あとから問題が多発し、プロジェ
な仕事のスタートへとつながったのです。
クトの見直しなど、タイムロスの要因となるのです。
そして3つ目が「個人商店化」。人に仕事をつけ
ここには人間の持つ弱さがあります。「忙しいか
ら、任せた」とか、そんなことが絡んでしまって、
る、つまり、1人で1つの仕事を担当するため、組
悪しき慣習がバブル崩壊後から顕著に見られるよう
織であって組織でない状態になっています。さらに
になったと思っています。
マネジャーと部下間の意思の疎通が悪いため、仕事
――その責任は誰にあったのでしょうか?
を与えたマネジャーも進捗状況を把握できない。そ
倉益
ういう仕事のやり方になっていました。
が、最も責任が重いのは、彼らを統括するマネジャ
責任はメンバーにも、リーダーにもあります
個人商店化の弊害としては、仕事のやり方に組織
ーです。マネジメントサイドが、仕事のやりやすい
の知恵が入らないことが挙げられます。また、メン
環境を作るために、仕事のやり方を変えようという
バーが孤独になったり、指示待ち状態や仕事の抱え
意識を持つことが必要ですし、そうしなければ人も
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企業と人材 2010.3.5
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育ちません。
開発チームのあるべき姿に向けて
悪しき慣習を打破する
は何をするべきかということを、マネジャーを含め
て、双方向で話し合おうということです。
双方向とは、マネジャーもしゃべる、メンバーも
しゃべる。そのときは、ワイワイガヤガヤ、平等に
――悪しき慣習の弊害をお伺いしてきましたが、逆に開発
やろうということです。あとは「オープンマインド」。
チームのあるべき姿とはどのようなものなのでしょうか?
これは、例えばメンバーが、自分は何がわかってい
倉益
思い=目標を示し、メンバーとともに計画や
て、何がわかっていないのかということを話す、と
課題解決策を作りあげていくことができるマネジャ
いうように、正直に現状を上司と部下で共有すると
ーやリーダーのもとで、メンバー同士が自立的に助
いうことです。このような状態がオープンマインド
け合い、常に先手を打って課題を解決していける。
です。経験と立場が違うと、アタマのなかで考えて
それがあるべきチーム像ではないでしょうか。言い
いることが違います。だからお互いの頭のなかを見
換えれば、
「業務成果と、人と組織の成長を同時に
せ合う、ということです。
実現することができるチーム」です。
ここでいう問題とは、現時点で目標水準から逸脱
②の問題・課題解決革新は、課題解決を先取りして
行うための仕事のやり方の改善アプローチです。
している状態にあり、解決を要求されている事柄で
課題を先取りして解決するために、事前に目標(ア
す。これに対して、未来に発生することが予想され
ウトプット・イメージ)を共有し現状の問題とこれか
る問題を、
「課題」と定義します。
ら起こりうる問題としての課題を見える化し、抽出し
例えばある製品について、性能はよい。しかし、
ます。これらを上司と部下でコミュニケーションをと
高いコストをかけて作るようなやり方になっている
りながら、一緒に検討していくなかで手を打っていく。
という状況であれば、いずれは、性能をキープしな
そういうスタイルにしていこうじゃないかというのが、
がらコストを目標額に抑えろと要求されるでしょう。
問題・課題解決革新です。
それを事前に方針や打ち手をはっきりさせ解決して
③のチームワーク革新とは、個人商店化改善のた
いくのが課題の解決です。
めの、組織改革アプローチです。まずはチーム編成。
――まさに悪しき慣習とは正反対の状態ですね。その状
マネジャーの下にすべてのメンバーがついていると
態にチームを変えていくためには、どのような改善策を
いう「フラットな組織」から、マネジャーの下に数
実施すればよいのでしょうか?
人のリーダーを置き、リーダーに数人のメンバーと
倉益
つけるという、チーム編成を行います。そのうえで、
「インパクト・メソッド」では、①「コミュ
ニケーション革新」、②「問題・課題解決革新」
、③
「チームワーク革新」という、3つのマネジメント
革新の着眼点を提案しています。
①のコミュニケーション革新とは、あいまいな仕
複数の人に複数の仕事を任せます。例えば2人で3
つの仕事をしよう、というイメージです。
これによって可能となるのが、「合知合力」。課題
が先に見えてくるような仕事のやり方に変われば、
事のスタートの改善アプローチです。過去の確認と
課題に対してお互いが知恵を出し合うことができる
一方的な指示ばかりのコミュニケーションを、仕事
ようになります。それが「合知」。そして、誰かの
を進める順序や手順を決め、その準備をするための
仕事の負荷が増えたときに、お互いに「忙しかった
「段取りコミュニケーション」に変えていきます。
段取りコミュニケーションで大切なのは2つ。1
ら応援しようじゃないか」となります。これが「合
力」です。こうなれば、チーム全員で課題に対して
つ目は、今日から明日、今日から来週、今日から1
先手を打ち、さらに進んでいくという形ができます。
カ月先という、未来に向かって、目標達成のために
要するに、個人戦を団体戦に変えるということです。
企業と人材 2010.3.5
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ただし、これら3つの革新を進めるためには、マ
ネジャーに問題解決のためのリーダーシップが備わ
を持つことができますし、それによってさらに先へ
と進んで行けるようになるのです。
っていることが前提となります。あるチームの仕事
ダイハツ工業の例で言えば、CADオペレーターと
の負荷が限界に達していたら、人の応援を入れると
のコミュニケーション改善に取り組んだ若手のデザ
か、技術課題がでてくるとしたら、改善策を示して、
イナーは、最初はCAD業務が嫌だったと思います。
メンバーと意見を述べ合うなど、目標を共有して解
「なぜ、こんなに時間を割いて打ち合わせをしなけ
決するまでのリーダーシップです。部下と一緒にコ
ればいけないのか」と。時間ばかりかかって、その
ミュニケーションをとって、計画を作って手を打っ
メリットが見えないのですから。
ていこうという方向に意識を変えていかなければ、
しかし、やり通してみれば、
「指示の出し方の勘
状況は改善されません。マネジャーが意識を変える
所を掴んだ」
、「現場とツーカーの仲になった」など
ことが「問題解決を事後から事前へ」
、ということ
のメリットが見え、それが成功体験や成長実感とな
につながるのです。
り、先に進んで行けたのです。
――成長実感が一歩先へという意欲を生むのですね。し
3つの革新が成功する条件
かし、従来のやり方を変えることへの反発も大きいので
はありませんか?
倉益
3つの革新を進めると、うまく変化が起こる
倉益
ある企業では、
「コミュニケーションなどと
チームもあれば、起こらないチームもあります。う
る間に、図面が一枚描ける」と怒鳴ったマネジャー
まくいくチームの特徴は、コミュニケーションをと
もいました(笑)。
ろうとして、ワイワイガヤガヤをやり始めると、な
従来の方法を大きく変えるときには、やはり何ら
んでも話せる「オープンマインド」のチーム状態が
かのきっかけが必要です。仕事のやり方を変えるき
生まれています。
っかけは4つ、①マネジャーが「思いを具体化す
それから、マネジャーやメンバーのなかに計画思
る」、②組織・チームで仕事をするための環境作り、
考の優れた人がいて、仕事のゴールを先に考えて、
③先手を打つ仕事のやり方への挑戦とその意欲、④
課題を出して模造紙に並べてみて、メンバー全員と
人と組織・チームの成長とその意欲です。私たちは
議論をしながら作戦を考えていきます。やがて、仕
これを「4つのトリガー」と読んでいます。
事のやり方が整理できてくると、
「○○さんが忙し
いようなので、手を打ちましょう」というように、
メンバー一人ひとりが自律的に動き出します。
さらに、その源泉となるのが、「3軸3力」です。
「3軸」とは開発チームのマネジャーに必要とされる
関心の方向性で、①ビジネス、②技術、③人間の3
なぜこうなるかというと、マネジャーの「こんな
つにどれだけ意識を持っているかを指します。この
ことを実現したいんだよね」という思いが伝わって
3つを高いレベルでバランスよく保つことが重要で
いるからです。そうしたマネジャーの思いを理解し
す。
「3力」とは、マネジャーに求められる能力のこ
たメンバーが先手を打って仕事を進めていくことが
とで、①変えたいことを示す力、②仕事のアイデア
できるようになったうえで、マネジャーとメンバー
を自ら出し、仲間とともに考え出す力、③変えるた
が一緒に計画を立てて、それがうまくいく。すると、
めの実行力が挙げられます。
じゃあ次に挑戦しようという意欲が生まれ、その繰
――最後に「インパクト・メソッド」の具体的な進め方
り返しのサイクルが出来上がります。こうしたチー
をお聞かせください。
ムが、結果を出せるチームとなります。
倉益
結果がでることによって、メンバーは、成長実感
32
1年間にわたる「インパクト・メソッド」の
スケジュールは、3つのフェイズに分かれます(図
企業と人材 2010.3.5
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図表 「インパクト・メソッド」展開イベント
1カ月
マ
ネ
ジ
ャ
ー
研
修
立
上
研
修
2カ月
見
え
る
化
研
修
マ
ネ
ジ
メ
ン
ト
状
況
共
有
会
相
談
会
3カ月
相
談
会
マ
ネ
ジ
メ
ン
ト
状
況
共
有
会
4カ月
相
談
会
マ
ネ
ジ
メ
ン
ト
状
況
共
有
会
5カ月
相
談
会
日常マネジメント岩盤(6カ月程度)
イベントの目的
●マネジャー研修
・インパクト・メソッドの先行理解
・マネジャーの立場から見たマネジメント問題の共有
・何を変えるか、
マネジャー同士のベクトル合わせ
・マネジメントの現実についてインパクト・コンサルティングと共有
●立上研修
・対象メンバー全員でチームマネジメントの変えるべき内容を共有
・見える化計画行為にマネジメント行為を組み込み実践展開スタート
6カ月
マ
ネ
ジ
メ
ン
ト
状
況
共
有
会
相
談
会
︵マ
中ネ
間ジ
発メ
表ン
会ト
︶状
況
共
有
会
7カ月
相
談
会
12カ月
マ
ネ
ジ
メ
ン
ト
状
況
共
有
会
プロジェクト岩盤
(3カ月程度)
卒
業
式
ビジネス岩盤
(3カ月程度)
●マネジメント状況共有会
・日常で実践した内容を振り返りマネジメント問題を顕在化させ、
次に向けての打ち手を全員で共有する
●チーム個別指導会
・コンサルタントがチームの実情に合わせマネジメント革新の
指導を行う
●卒業式
・インパクト活動を進めてきた1年間を振り返り自職場の変化と
成果をアピールする
・今後に向けた目標の宣言も行う
表)
。岩盤というのは日常の仕事のやり方の基盤の
やり方の何を変えるべきかを洗い出します。これが
ことで、最初の6カ月でコミュニケーションやマネ
マネジメント革新のきっかけづくりとなるのです。
ジメントを中心に個々の業務のやり方を徹底的に見
それからもう一つ、特徴的なのは、「マネジメン
直し、続く3カ月でプロジェクトの進め方をレベル
ト状況共有会」です。その時点でのチームの状況を
アップし、最後の3カ月で、経営成果に直結するた
月に1回確認する時間をとりますが、それは仕事の
めの職場の変化を図ります。いわば、日常からスタ
やり方のPDCAサイクルが回るチームにするために
ートする組織変革です。
必要なものです。個人ではPDCAサイクルが回って
特にスタート時に実施する「立上研修」では具体
いても、チーム全体では回っていないということが
的にはメンバー一人ひとりが、マネジャーに対して
多いのです。1カ月間に、チームで立てた目標に対
抱いている不満を図に描いて発表します。
して、どう工夫して、どう実践して、どんな結果に
例を挙げれば、部長がやたらと仕事をとってくる
なったかをチェックします。その際、結果は悪くて
ために、本来やるべき仕事ができない状態になって
もよいのです。その原因を見える化し、次に活かそ
いる、という不満を、ダボハゼを抱えたタコ(部長)
うということが目的です。役員クラスが毎月出席し、
が、本来やるべき仕事を踏み潰しているという図を
オープンマインドを実践する企業もあります。
平気で描いたチームがいました。
――本日はありがとうございました。
――マネジャーはショックを受けるでしょうね。
倉益
それは大きいですよ。普段は蓋をしているこ
(2010年2月1日、インパクト・コンサルティングにて収録。
聞き手・構成:編集部)
とですからね(笑)。しかし、言葉では言いにくよ
うなことでも、図に描くことで、お互いが大笑いし
ながらその真意を共有することができるのです。
こうして、不平不満の吐き出しを通じて、仕事の
企業と人材 2010.3.5
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