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5限 宇宙から恐怖がやって来る「ガンマ線バースト」

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5限 宇宙から恐怖がやって来る「ガンマ線バースト」
上宇宙の溶接バーナー
、、、、、
なみがしら
そのビームは、前触れもなしにやってきた。
ガンマ線パースト
前触れなどありえない。ビームの波頭は光速で進み、光速は一」の宇宙の究極の制限速度なのだか
ら。それ以上速く進めるものはないので、死の波はみずからその到来を告げた。
地球の南半球の各地では、人々が、買い物をしたり、仕事をしたり、遊んだり、散歩をしたり、狩
りをしたり、いつもと変わらぬ日を過ごしていた。そのビームが地球に届いたとき、一瞬ですべてが
変わった。ちょっとのあいだ、空はいつもとまったく同じに見えていたが、まさに次の瞬間、スイッ
チを入れたみたいに急に明るくなった。強烈に輝く点が突然空に現れたのだ。あまりの眩しさにだれ
もが思わず目をそらし、その暴力的なまでの光に涙をあふれさせた。
天空に現れたこの新しい星は途方もなく明るく、満月をも凌ぐほどだったが、その明るさも長続き
はしなかった。’’一○秒と経たないうちに光が衰えはじめ、数分後には直接見ても大丈夫なほどになっ
Ⅱ
だした。
植物が、日照量と温度の急激な低下に見舞われ……それだけでも十分ひどいところへ、酸性雨が降り
植物が、
日のうちに、全世界の空が不気味な赤茶けた色になったのだ。それまでなんとか生き延びたしぶとい
さらに最後の一撃が待っていた。襲いかかる素粒子の波で大気中に分厚いスモッグの層ができ、数
連鎖の階層の底辺をなす生物を絶滅させた。
がふだんの半分に落ちたからだ。太陽からの紫外線がほとんどそのまま地表に届くようになり、食物
れた人も、どのみち死を運命づけられていた。放射線の襲撃で地球のオゾン層が破壊され、その能力
類の大半が死につつあり、地球への影響は壊滅的だった。放射線のバースト(突発)による即死を免
北米とヨーロッパ、それにアジアの多くの地域は直接の被害を免れたが、それも無意味だった。人
そして地球の三分の一一にわたる地域で、死者が出はじめた。
曝したのだ。
の南部が、致死量の放射線を浴びた。屋内にいようが、屋外にいようが、関係なかった。だれもが被
たって降り注いだ。オーストラリアやニュージーランド、南米、アフリカやインドのほほ全域、中国
地球の大気にぶち当たる。目には見えないまま、この素粒子は、南極から北緯三○度までの範囲にわ
大多数の人の頭からこの出来事が消えた数時間後、減光するその星から大量の素粒子が押し寄せ、
だが驚きはすぐにさめ、人々はそれぞれ日常の暮らしへ戻っていった。
とてつもない輝きを見せたあと、急激に暗くなっていくこの新しい星を呆然と見つめた。
た。街角で、砂漠で、南極の氷原で、南太平洋やインド洋を航行する船の上で、だれもが立ちつくし、
:
36
137旬宇宙の溶接バーナーガンマ線パースト
!
それもまた束の間で、数週間のうちに地球の気温が下がり、氷河期が新たに始まるほどになった。
まもなく、南北両極から氷河が広がりだした。
最初の数か月を生き延びた人は、自分たちが超大質量星イータ・カリーナの最期を目撃したことを
知ったが、それを知ったところで何の意味もなかった。この星が引き起こした大量絶滅は、地球が経
験したなかで最悪のものとなる。そしてすべてが終わったとき、|兆キロメートルの何万倍も彼方に
あるたったひとつの星が、どうやってその生涯を一分とかからずに終わらせたのかについて、思いを
めぐらす人は残っていなかった。
コールド・ウォー
冷戦のさなかのホット・’一ユース
一九六○年代になるころ、アメリカとソヴィエトの関係は緊迫していた。ソヴィエトは、フロリダ
沿岸から二○○キロと離れていないキューバに基地をつくった。アメリカによるキューバ侵攻の失敗
★
も、事態を悪化させた。すでに両超大国とも、地上、地下、空中での核実験をおこなっており、ソヴ
イェトは、TNT爆薬五○○○万トンぶんの威力をもつ、史上最大の水素爆弾を爆発させていた。
言うまでもなく、両国民に緊張が走った。自分たちの手で世界が終わるという可能性が、きわめて
現実味を帯びたのである。
そこで一九六三年八月、アメリカとイギリスとソヴィエトは、歴史的な核実験禁止条約[鯰騨灘蔽舞
ii
瘤琵靜]に署名し、核兵器の実験を規制した。この条約の第一条の冒頭は次のとおりだ。
本条約の各締約国は、その管轄下あるいは管理下にある、次に挙げるいかなる場所においても、
いっさいの核兵器の実験的爆発およびその他の核爆発を禁止し、防止し、実施しないことを約束
する。〔……〕大気圏内、宇宙空間を含む大気圏外、”あるいは、領水および公海を含む水中。
これは本腰を入れた規制だった。核実験は、一○年以上あとになっても、えてして思いもよらぬ結
果をもたらしていた。実験の目的は、爆発の威力(核出力)を増したり、技術的な問題を解決したり
へんぴ
するためだけでなく、環境への影響を調査するためでもあった。条約締結の前年である一九六二年、
アメリカは「スターフィッシュ・プライム」という爆弾を、太平洋の辺鄙な海域の四○○キロ上空で
爆発させた。この高さは実質的に宇宙空間と言え、これほど上空になると地球の大気はきわめて薄い。
スターフィッシュ・プライムの核出力は、一・四メガトン(つまりTNT爆薬一四○万トンぶんに相当)と
比較的小さなものだったが、影響は甚大だった.この爆発で、ガンマ線1超高エネルギーの光子
lの巨大なパルスが発生した・とのパルスが地球の大気にぶつかると、大気中の原子から電子を吹
っ飛ばす。荷電粒子が動くと磁場ができるので、高速で動く電子が一気に増える結果、電磁パルスと
だが、幸いにも実験されることはなかった。
★今日に至っても、これまでに爆発した最大規模の爆弾だ。理論上は、同じ設計で爆発の威力を一一倍にまでできたの
38
⑨宇宙の溶接バーナーガンマ鶴バースト
131
I
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
いう巨大なエネルギーパルスが生じた。それがハワイで多くの街灯を消し、送電線を溶かし、テレビ
やラジオに過電流を流した’千数百キロメートルも離れた場所だったのに・
宇宙空間での核実験は危険だが、その長期的な影響は当時まだわかっていなかった。しかし、大気
圏内・大気圏外での核実験は、死の灰などの影響を考えるとまったく賢明でないことが明らかになっ
ていった。そこで条約は、世界平和への大きな一歩として歓迎されたのである。
、、、、
もちろん、アメリカはソヴィエトを十分信用し、相手は条約を破ることなど夢にも思うまいと考え
た……そう、表向きは。だが条約は出発点としては上出来だったが、米ソとも自分以外は信用せず、
相手をひどく疑った。事実、アメリカの科学者は、ソヴィエトが核を月の裏側で爆発させるかもしれ
ず、そうしたら検知は難しい、と指摘した。ソヴィエトが条約を破っても、アメリカは知るよしもな
いだろうというわけだ。さあ跡どうする?
恐怖ほど技術の進歩をうながすものはない。アメリカは、抜け目ないソヴィエトを監視する手だて
をすぐに見つけ出した。
月の裏側での爆発を視覚的にとらえるのは難しくても、破片の広がりによって大量の放射性物質が
宇宙空間にまき散らされるのでそれを検出できる。ガンマ線もそんな放射性の副産物のひとつだっ
た。ガンマ線の検出法は、一九六○年代にはまだかなり新しい技術だったが、それでも十分に、月の
裏側での爆発による放射線を嗅ぎつけられた。ただ、ひとつ問題があった。宇宙からのガンマ線は地
球の大気を通り抜けられないため、検出器は人工衛星に載せて打ち上げないといけなかったのだ。
検出器を宇宙へ打ち上げるための一般的な問題のほかに、ソヴィエトの核によるものでなく、天体
i
の発するガンマ線もとらえてしまうという問題もあった。太陽もガンマ線を放射するから、太陽フレ
アからの高エネルギーの放射線が誤認されるおそれもある。人工衛星がガンマ線の急増を検出したと
思ったら、太陽での爆発やランダムな放射線の衝突にだまされただけということもあるのだ。
単純な解決策は、ガンマ線観測衛星をペアで打ち上げることだった。ランダムな放射線なら、一方
に当たっても、もう一方では検出されず、誤検出を防ぐチェックができるはずだ。両方からのデータ
を比較できるので、どちらからも同じ発生が見つかれば、天体以外からという可能性を考えてよくな
る。すでにある別の人工衛星も太陽フレアを観測していれば、それもまた参考にできる。
こうして何組かの人工衛星が手早くつくられ、打ち上げられた.それらは「ベラ」lスペイン語
で「寝ずの番」の意-1と名付けられ、最初のひと組が打ち上げられたのは、例の条約が署名されて
わずか数日後のことだ。初期のベラはお粗末で、三一一秒の「露光時間」がないと確実にガンマ線を検
出できなかった。だが、それからの進歩は目覚ましく、一九六七年にはもう四組めが打ち上げられ、
五組めI初期に比べると格段に進歩していたlの準備もできていた.
そのころ、ロイ・オルソンとレイ。クレベサデルというふたりの科学者が、二基の衛星の観測デー
タを比較する面倒な仕事を任された。データをチェックしても、シグナルはことごとく誤検出と判明
していった。ところが一九六九年、ふたりは最初の「当たり」を見つける。ベラ4衛星が二基とも、
打ち上げ後主もない一九六七年七月二日に、ガンマ線の発生を記録していたのだ。太陽フレアのデー
タをざっと見たところ、その日はとくに活動はなかった。のちに、当時まだ現役だったベラ3の二基
も、その発生を検出していたことがわかった。
40
141句宇宙の溶接バーナーガンマ線パースト
ただ問題がひとつあったlとのガンマ線の原因がなんであれ、核爆発には見えなかったことだ.
核爆弾によるガンマ線の量とその時間的な減衰のパターンには、はっきりそれとわかる特徴があるの
だが、七月二日の現象はそれと似ても似つかなかった。|秒にも満たない放射の強く鋭いピークのあ
とに、それより長くて弱い、数秒間のパルスが記録されていたのだ。
これはいったい何なのか?残念ながら、ベラ4衛星では放射が来た方向はわからなかったので、
発生源を突き止めるすべはなかった。核実験について危倶されたとおり、月の裏側から来たのかもし
れないし、宇宙のまったく別の場所からだったのかもしれない。それに、その現象はあっという間に
始まっては終わったので、光学望遠鏡で見つかる望みもなかった。
一方、ベラ5やベラ’はもっと高性能だったIガンマ線の検出感度が向上し、時間分解能も高か
った。あの七月一一日の現象がまた起きたり、何か似たようなことが起きたりすれば、ベラ5やベラ6
なら、現象の正体がわかる可能性ははるかに高かった。オルソンとクレベサデルは「短気は損気」を
決め込み、七月二日の現象の公表を先延ばしにした。
その選択は正しかった。それから数年のうちに、この手の謎めいたパーストが何度か検出される。
おまけに、人工衛星の数が増えたことも有利に働いた。互いに何千キロメートルも離れていたため、
発生源のおおまかな方向が割り出せたのだ。放射のパルスは、いくら光速とはいっても、ある衛星を
過ぎてから別の衛星に到達するまでに有限の時間がかかる。この時間差に、既知の各衛星の位置と衛
星間の距離を加味すれば、発生源の方向を三角測量で決定できたのである。
データが増えていくと、仰天の事実が明らかになった。ガンマ線バーストの発生源は、宇宙にラン
11
ダムに散らばっていたのだ!どれも、太陽や月から届いているようには見えなかった。オルソンと
クレペサデルが観測していたのは、まるっきり未知でありながらきわめて強烈な天文現象であり、そ
れまでだれにも何の手がかりも得られていないことが明らかになった・ばかげた話に思えたがl詮
索好きな天文学者の目から、宇宙はどうやってそんなものを隠していたというのか?11実際に起こ
っていたのだ。
一九七三年までに、オルソンとクレペサデルは、この一一ユースを公表できるだけのデータを集めて
いた。そしてイアン・ストロングという別の科学者とともに、オハイオ州で開かれた天文学会で結果
を発表し、権威ある学術誌『アストロフィジカル・ジャーナとに「宇宙起源のガンマ線バーストの
観測」と題した論文を載せた。この論文には、それまでに観測された一六回のバーストのことがおお
まかに語られていた(ベラ計画がついに終了となった一九七九年までには、歴代のベラ衛星によって、七○回以上
のガンマ線バーストSRB)が検出されている)。
実は、ほかにも何人かの天文学者が、各種人工衛星に搭載された検出器で不可解なガンマ線放射を
見つけていたのだが、それが何なのかを確かめられずにいた。ベラの各衛星から高精度のデータが集
、、
まって初めて、CRBの発生場所が宇宙であり、少なくとも地球を回る月より外だったことが判明し
たのである。
オルソンらは、この現象の正体を知る手がかりをつかんだわけではなかった。CRBには、当時J四〉
今も悩まされている。ベラの観測結果が公表されたとき、発生源はまったくの謎だった。ガンマ線は、
恒星の爆発や太陽フレアや核兵器のような高エネルギーの物理現象でしか生み出されない。しかしオ
42
143。宇宙の溶接バーナーガンマ線パースト
!
!
ルソンらは、観測されたバーストがどれも太陽からのものではなく、超新星とも関係ないことを確か
★
めていた.核実験でないことも明らかだったlベラ衛星は実際に(米ソ以外の国に蕊ろ)大気圏内の
核実験を何度か検出しているのだが、そのシグナルには明確な特徴があったのだ。
宇宙からのバーストはいったい何なのだろう?さらに厄介なことに、CRBの発生源までの距離
はまったくわかっていなかった。すぐそば(たとえば太陽系内)とは考えにくかった。そんなそばで、
われわれのまだ知らない天体や現象がガンマ線を生み出せるようには思えなかったからだ。そしてま
た、そうし多
た、そうしたパーストを、それまで観測されていた遠くの天文現象と結びつけるようなデータも存在
しなかった。
平凡な説明が次々とふるい落とされるなか、突飛な考えがいくつか出された。ひょっとしてパース
トは、超高密度の中性子星に彗星がぶつかって出たものなのだろうか。それとも、何か同じぐらい奇
、、、、
想天外な現象によるものなのか。答えはだれにもわからなかった。それでも、当時ほとんどの天文学
者は、GREがそんなに遠くでl銀河系の外でl発生してはいないという点で意見の一致を見て
いた。発生源が遠いほど、われわれに簡単に見つかるぐらい明るくなければならない。CRBが銀河
系外で発生していたら、まさに信じられない量のエネルギーを生み出していることになる。
、、、、、、
だが、との話もあまり役に立たなかった。わからないことがまだ多すぎたのだ。
CRBの発生源を突き止めるうえで、根本的な問題がふたつあった。リアルタイムの情報の欠如と、
、、
方向の情報の欠如だ。
……
ひとつめは大問題だった。情報が人工衛星から地球に送られ、記録され、解釈されるまでに、数日
11
から数週間かかることもあった(最初のときには二年)。ところが、CRBはほんの数秒で消え失せてし
まうのだ!バーストを確認したころには、とうにそれが終わっていた。ひょっとしたら、CRBが
ほかの波長の光lX線や可視光lも放射していて、その輝きがほかの望遠鏡で観測できるほど長
く残っているかもしれなかった。GRBがなんらかの爆発だとしたら、その名残があってもおかしく
なく、天文学著
なく、天文学者にそれを見つける時間が与えられる。だが、ここでふたつめの問題に至る。どこを探
せばいいのか?
当時のガンマ線検出器噸
マ線検出器は、「視力」が劣っていた。初期の衛星では、ガンマ線が飛んできた方向ま
ではわからなかったのだ。
可視光lわれわれに見えるタイプの光Iは、比較的エネルギーが低い.望遠鏡では、精密に配
置されたレンズや鏡が、光を曲げたり反射したりして焦点を結ぶ。これを利用して、可視光の光源の
位置はかなり精確に測定できる。|方、ガンマ線は、飛んでいる銃弾のようなものだ。進路を変える
のはずっと困難で今日のテクノロジーでも焦点を結ばせられない。
したがってガンマ線は、検出してかぞえることはできるが、飛んできた方向を知るのはとても難し
★ただし、|度だけ原因を明らかにできなかった。一九七九年九月、アフリカの喜望峰のはるか南で核実験らしきも
のが検出されたが、データに十分に明確な特徴がなく、確たる結論は出なかった。今日に至るまで、その原因はわかっ
ていな・い・
44
145q宇宙の溶接バーナーガンマ線パースト
、、、
★
い◎ベラ衛星では、かなりおおまかな方向しかわからなかった(せいぜい「あっちのぽう」〆、らいだ)。し
かし、発生源の天体を知るためには方向が不可欠となる。ガンマ線源の位置がわかれば、ほかの望遠
鏡を天空のその場所へ向け、正体を確かめることができる。そこに見える可視光の天体を、既存の天
体カタログに載っている銀河や恒星などと照合できるのだ。それでも、ある程度の精度は要る。バー
ストの位置を、たとえば満月の大きさぐらいの領域にしか絞り込めなかったら、大型の光学望遠鏡で
見つけられる天体はまだ何千から何百万も存在してしまうのだ。
やがて、テクノロジーがこの問題に追いつきだした。一九九一年にNASAは、GRB検出器を搭
載したコンプトン・ガンマ線観測衛星を打ち上げた。コンプトン衛星がCRBの位置を割り出す能力
は、まだたいしたものではなかったl腕を伸ばして持った二五セント硬貨ほどの領域にしか絞り込
めなかったlが、それでも明らかに改善されていた.この衛星は、運用期間を通じて二七○○を超
えるCRBを検出した。そして、方向の精度は高くなくても、数を稼いだだけで大きな進歩だった。
十分な数のパーストが検出された結果、いくつかのパターンが浮かび上がってきたのである。
たとえば、多数集まったバーストのデータから、GRBは二種類ありそうなことが明らかになった。
たいていは二秒と続かない短いパーストと、一一秒以上続く長いパーストだ。なかには、ガンマ線を数
分間も放射したバーストもあった。観測されたCRBが増えるにつれ、短いパーストは高エネルギー
の(「硬」)ガンマ線を出し、長いパーストは低エネルギーの(「軟」)ガンマ線を出すことがわかってき
た。なぜそうなのかはわからなかったが、発生源を探るうえで大きな手がかりとなった。
しかし、コンプトン衛星の観測による最大の科学的成果のほうが、CRBの謎を解くうえではるか
に重要だったかもしれない。その成果とは、CRBが全天に均等に散らばっているとわかったことで
ある。これ」
ある。これは一見役に立たない事実に思えるかもしれないが、実は発生源として多くの可能性を排除
してくれる。
野原に立っているとしよう。あたりには虫が飛び交っている。野原の中央にいたら、どこを向いて
も平均して同じ数の虫が見えると考えられる。けれども、野原の東の端に近い場所にいたら、西を向
く(野原の奥行きがあるほうを見る)ぼうが、東を向く(端の擬うを見る)よりも多くの虫が見えるだろう。
向いた方向に見える虫の数で、あなたが虫の群れのなかでどのへんにいるかがわかるのだ(群れはか
なりランダムで対称に広がっているものとして)。
、、、
すると、コンプトン衛星からの情報lGRBが全天にランダムに散らばっているということI
から、すぐさま重要な事実がわかる。われわれは、CRBの空間的分布の中央にいるのだ。
GRBが太陽系のなかで起きているとしたら、方向によって見える数に差が出るだろう。太陽系の
中心は地球ではないからだ-11太陽なのである。われわれの居場所は中心から一億五○○○万キロメ
ートルほどずれているのだから、CRBの分布にもその偏りが反映されるはずなのだ。しかし偏りが
見られないので、パーストは太陽系内の天体から発生しているのではない。
★実はもっとひどかった。シグナル検出のタイミングの遅れから、CRBの位置は一一か所得られる。この一一か所を見
分けて、どちらが正しいかを判断するには、人工衛星が少なくとももう一基必要になる。この状況は「巧の平方根は?」
と問うようなものだ。舟も石も正しいのだから。おまけに、複数の人工衛星を使っても、パーストの方向は非常におお
ざっぱにしか推測できない。
46
147。宇宙の罵盤バーナーガンマ線バースト
!
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AUROREslMONNETANDTHESONOMASnYrEuNIvERsITYEDUCATToNANDpUBLICouTREACH
GROUP
一方、これはまた、GRBの発生源が銀河系内
の全体に散らばっているわけではないことも意味
している。地球は銀河系の中心から端までの半ば
あたりにあるので、GRBは、銀河系内の全体に
散らばっていれば、地球から見て銀河系の中心方
向に多く見られるはずだ。だがそうではないから、
発生源は銀河系内に広がっているのでもないこと
になる。
、、
そうなると、残る選択肢はそんなに多くない。
発生源は、太陽に相当近い星々かもしれないl
ほんの数光年以内だけといったように。けれども
数百光年以上離れた星々ではないだろう。そこま
で離れてしまうと、銀河系の中心方向のぽうがた
くさん見えるようになるからだ。ただもうひとつ、
、、、、、
CRBが銀河系のはるか外、何百万光年も離れた
おそろしく遠くで発生している可能性もある。
どちらの可能性もあまりしっくりこない。恒星
がこれほど高エネルギーのパーストを起とせろは
48
ずはないし、はるか遠くにあるとしたら、もともと放出されたエネルギーはとんでもなく大きいこと
になる。
それでも、天文箪者はこの問題についてどちらかの主張をし、がむしゃらに論文を発表したりI
ときにはがむしゃらに11塞露論したりした。そしてついには、ふたりの優秀な科学者による有名な公
開討論まで開催した。ひとりは、近隣の恒星からだとする考えを支持し、もうひとりは、宇宙のはる
か皮方からだと主張したのである。しかし、こんな公開討論がおこなわれていたころにも、真の答え
か彼方からだと主張したのである。‐
を得るための準備が進められていた。
はるかなる視線
’九九六年、オランダとイタリアが共同で人工衛星「ベッポ・サックス」を打ち上げた。との衛星
は、GRBを探すためだけに設計されたものではないが、その機能をもっていた。重要なのは、この
衛星が、きたるべき革命をのせて飛んでいたことだ。入射するX線(高干ネルギーの仲間であるガンマ線
と同じく、発生源を突き止めにくい)の方向を精度よく割り出せる検出器が搭載されていたのである。ま
た、視野も広かったため、どこに現れるかが最初によくわからなくても、ランダムな場所のパースト
た、視野も広かったため、どこに現必
を検出できる可能性が高まっていた。
一九九七年一一月、放射時間の長いGRBがベッポ・サックスのモニターにとらえられた。それにま
た、運よくその位置はX線検出器の視野の範囲内だった。即座に観測がなされ、数日後にふたたび観
141。宇宙の溶接バーナーガンマ線パースト
1
ホタルの飛び交う野原の中央にいる場合(左図)、見えるホタルの数はどこを向いても
変わらない。しかしホタルの群れの中心からずれたところにいたら(右図)、見える数
は向きによって異なる。この情報を利用すれば、ホタルの群れの状況一一あるいは(天
文学にとって)もっと現実的に言うと、宇宙におけるGRBの分布一一がわかる。
測された.すると大寶‐結果は明白だったI明るいX線源が、その数日間で大幅に暗くなって
いたのである。天文学者は、パーストの残光が消えていった様子にちがいないと考えた。さらにすば
らしいことに、X線検出器はパーストの位置をかなり精度よく特定できた。このパーストは現在、G
RB970228(一九九七年一一月一一八日に観測されたガンマ線パーストの意)と呼ばれている。
、、、
|か月もしないうちにハヅブル宇宙望遠鏡がこのGRBの位置へ向けられ、大発見にはずみがつ
いた。可視光の減光が見つかったのだ。その位置は、遠くの暗い銀河のすぐそばのようで、偶然そう
見えるにしては近すぎた。
★
、、、、、
そしてようやく、決め手が現れた。同じ年の五月、ハワイのケヅク天文台にある口径一○メートル
の大望遠鏡で、あるGRBの残光のスペクトルが得られたのだ。これをもとに、天文学者はGRB9
70228までの正確な距離を決定できた。そして九○億光年という気が遠くなるような距離とわか
り、仰天した。宇宙の果てまでの距離の半分以上もあったのである!
、、、
ついに、一一一○年という歳月と、何千ものパーストの観測と、かぞえ切れない抵どの議論ののちに、
大問題に答えが出た。パーストの発生源はただ遠かったのではなく、非常に遠かった。これ以後、
、、、、
GRBまでの距離が莫大であることを疑う者はいなくなった。パーストは銀河系よりはるかに外、そ
れも観測可能な宇宙の果てに近いところで起きたのだ。
だが、これでまた問題がひとつ、それも本質的な大問題が残った。いったいどんな現象なら、そん
な途方もないエネルギーを生み出せるのだろう?
ii
ドッカーン!
だれがどう見ても、CRBは、短時間ではあるが宇宙で最も明るい天体であり、ピッグパン以降で
は最大の爆発にあたる。
これはとうてい些細な話とはいえない。空間に光源があるとしよう。そこから出る光は、光源を中
★★
心として球状に広がる。球が大きくなるぽど、光は拡散するので、観測者には暗くなるように見える
(だから距離とともに光は弱まる)。光源からの距離が倍になると、光が拡散する面積は四倍になり、する
、、、
と明るさは四分の一になる。距離がもっと遠くて一○倍になると、明るさはわずか一○○分の一二
パーセント)になってしまう。したがって天体の明るさは、距離とともに急激に弱まる。この事実が
、、、、、、、、、
GRBの研究者に深刻な問題を突きつけた。何十億光年も彼方でGRBを発生させる爆発が起きたと
、、、、、、
したら、とてつもなく大きな爆発でなければ、そもそも地球で検出できない。ところが計算してみる
と、つじつまが合わなかった。アインシュタインの方程式願Ⅱ曽恥(第2章参照)をもとに星をまるごと
★★おぼろげな記憶をたどって、学校で習った数学を思い出そう。球の表面積は含剋だ。
★スペクトルは、光をプリズムや回折格子(多数の細いスリットや溝を平行に入れた板)に通すと得られる。このと
き光は、虹のように個別の色に分かれる。その波長を注意深く測定すると、光源について多くの情報が得られる。たと
えば温度や化学組成がわかり、銀河やCRBなど一部の天体では、地球からの距離さえわかる。
星から取り出せる、正真正銘最大のエネルギーなのだ(星をまるごとエネルギーに変換する方法が知られて
エネルギーに変換しても、このバーストを生み出すだけのエネルギーにはならない。しかもそれが、
、、、、、、、、、、、
50
ii
I5Io宇宙の溶接バーナーガンマ線パースト
!
轍らず、それも数秒では絶対に無理という不都合な現実は無視するとして)。
、、、
.、、、、、
それでも、まだ抜け道があった.爆発が対称に起きる1-全方向へ等しく広がるlのではないと
したらど』うだろう?ビームになっていたとしたら?
豆電球を点けたら、光は全方向に放たれ、見かけの明るさは距離とともに急激に弱まる。ところが、
この豆電球を懐中電灯に取り付けると、光は集められてビームになり、離れた場所からでも明るく見
える。
、、、、、、、
天文学者は、このCRBの謎に対し、答えをほぼ手忙入れた気になった。ありえない幟どエネルギ
-の大きな爆発がおそろしく遠くで起き、球状に広がって急激に弱まるのではなく、爆発のエネルギ
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
-はそれより小さくても、ビームに絞り込まれているのかもしれないのだ。ビームになっていれば、
球状に広がる爆発に比べてわずかなエネルギーしか要らなくなる。
それでも、はるか遠くの宇宙からもはっきり見えるためには、爆発のエネルギーがとてつもなく大
きくないといけないはずだが、それもありえなくはない。実のところ、必要なエネルギーは超新星の
場合に近い.このことが天文学者に、GRB研究の聖杯Iこの現象の原動力となるものlを見つ
けられるのではないかという希望を与えた。
そして天文学者の知るかぎり、宇宙に見つかる種々の天体のうち、こんな馬鹿力を生み出せるもの
はひとつしかなかった。
、
重大な事態
矛盾しているように思うかもしれない。
、、、、
ところでブラックホールの鍵を握っているのは重力だ.そしてくだんの現象IlGRBlの鍵を
握っているのは、実はブラックホールのできかたなので、一歩下がって(ブラックホール葱相手にするな
らこれはいい心がけだ)、との特異な現象を見てみよう。
第3章で、大質量星は、コアで核融合の燃料を使い果たしたときに爆発するという話をした。コア
はみずからの途方もなく強い重力によってつぶれ、恒星を吹き飛ばす一連の現象を引き起こすのだ。
この説明は、超新星の外層での現象にほぼ終始していて、コアそのものがどうなるかについては触れ
ていない。しかし、GRBのパワーの源はそこにある。
初期の超新星で鉄のコアがつぶれると、電子が陽子に押し込まれて中性子ができる(それとともに、
超新星爆発の主な引き金となるニュートリノを放出する)。一瞬でコア全体が中性子のかたまりと化し、通常
の物質はほとんどなくなるのだ。直径数千キロメートルの鉄の球だったものが、直径二○キロメート
ル前後の超高密度の中性子星になる。質量は太陽と同じなのに、密度は信じられないほど高く、中性
子星の物質はスプーン一杯で一○億トンにもなる!これは、アメリカじゅうの車を一台残らず集め
た重さをちょっと上回るほどだ。一一億(ロの車を角砂糖の大きさまでつぶしたと考えてみれば、中性子
、、、、、
5Z
I
■
!
ブラックホールは、物質やエネルギーを呑み込む一方、吐き出さないことで有名なので、これがガ
ンマ線パースト(GRB)という宇宙で最も明るい天体現象の中心にあるのではないかと一一一一百ったら、
=ii
星の物質がどれだけ異常なものか、わかってくるだろう。
中性子星のとてつもない質量による重力は、「縮退」という奇妙な量子力学的効果(第3章参照)に
よって支えられている.これは静電気の反発力l同種の電荷が反発し合うことlに似ているが、
それと違って、なんらかの素粒子があまりにも強く押しつぶされないようにする性質のことである。
縮退は、あまりにも多くの電子を詰め込みすぎると起きるが、中性子のような電気的に中性の粒子で
も生じる。縮退の力は驚くほど強く、大きなコアのかたまりがそれ以上つぶれないように支えること
ができる。コアの崩壊が止まり、中性子星が生まれるのだ……
……たいていは。実は、崩壊する星のコアの質量が太陽の約一一・八倍を超えると、中性子の縮退で
もその重力を支えきれない。コアの重力が強すぎて、コアの崩壊が続くのだ。今度は、それを止めら
れろほど強い力は宇宙に存在しない。
その次に起こることはあまりに奇想天外なので、脳みそを限界まで働かせないと理解できない。物
体が小さくなるのに質量が変わらなければ、重力は強くなる。簡単な例を挙げると、地球の直径をど
うにかして今の半分にまで縮める一方、質量はそのままなら、あなたが地球表面で感じる重力(つま
りあなたの体重)は増える。地球が小さくなるほど、その重力は増すのだ。
この縮んだ地球から月へロケットを打ち上げようとすると、地球の重力に打ち勝つために、今より
ずつと。ハワーがなければならない。さらに地球を縮めると、ロケットにはいっそう。ハワーが必要にな
る。そのまま縮めていくと、ついには地球の重力に打ち勝つことが文字どおり不可能になる。
ロケットの推力をただ上げればいいだけと思うかもしれないが、物質がこれ低ど高密度になった場
合について、アインシュタインはこんな説明をしている。彼は、重力が実は曲がった空間の表れにす
ぎないと見なじた・あなたが下向きの力、つまり地球の中心へ向かう力として感じるものは、実際に
は空間の湾曲なのだ。マットレスにボウリングの球を置くとできるくぼみのように。そのマットレス
を横切るようにビー玉を転がすと、ビー玉の軌跡は曲がる。これとまったく同じで、小惑星が地球の
近くを通ると、重力で小惑星の軌道が曲がるのだ。
これは、単なるモデルや臆測にとどまらない。導かれる結果が現実とよく対応しているのだ。たと
えば大量の物質が非常に小さな体積に押し込められると、空間の湾曲がひどくなりすぎて、事実上、
無限に深い穴になる。この穴に入ることはできるが、這い出ることはできない。
こんな天体は、宇宙にぽっかりあいた穴のようなものだ。何ものも、光さえも、そこから逃げ出せ
ない・光が出られないので、この穴は真っ黒に見えるはずだ。あなたならどんな名前を付けるだろ
ピンが速くなるのと同じだ。できあがったブラックホールは超高速で回転しているので、そこへ落下
ブラックホールになると、その回転数が上がる。フィギュアスケートの選手が腕を引きつけると、ス
り込まれる。それでも、ひとつ障害がある。恒星は自転し、そのコアも回っている。コアがつぶれて
ブラックホールの重力はものすごく強い。そばにあるどんな物質も、いやおうなしにそこへ引きず
ツクホールが誕生する。
ぶれてしまう。それもとことん求で。数学的な一点にまで縮み、空間が限界まで曲げられて、プラ
つぶれてしまう。それ虫
、、、、、、
爆発する恒星のコアでも、それが起きる。安定した中性子星になれないほど質量の大きなコアは、
う?。
54
I
155q宇宙の溶接バーナーガンマ線パースト
;
するどんな物質も、排水口に流れ込む水のようにぐるぐる回る。ブラックホールに近づく樋ど、速く
回るのだ。
だから、ブラックホールに落下する物質はまっすぐlストンとl落ちて消えるわけではない。
、、、、、、
渦巻きながら落ちるのだ。ブラックホールのすぐ外にある物質は、たまりだして、「降着円盤」とい
う平たい円盤をつくる(「降着」とは、物質がたまるプロセスのこと)。これは自転する星がつぶれる前に必
ず起きることだが、いくつかのモデルによると、CRBのもとになる天体は通常よりさらに高速で自
転している可能性がある。高速で自転する星では、低速のものに比べはるかに速く降着円盤ができ
る。ひとたびそれができると、ブラックホールの猛烈な重力によって、円盤の内側部分が光速にきわ
、
めて近い速さで動く。ブラックホールの境界面から遠いところを回る物質さえ、おそろしく速く動く。
ブラックホールができるとき、増大するのは自転速度と重力だけではない。恒星には、巨大な棒磁
石のような磁場もある(第2章参照)。星が縮むと、重力が強くなるのと同じく、磁場も強くなる。|
般的な恒星の磁場は、地球と比べてたいして強くはなく、方位磁石の針を動かせる程度だ。しかし、
直径数百万キロメートルの星を、直径数キロメートルの球にまで圧縮したら、磁力がとてつもなく強
くなり、何十億倍、さら虻は何兆倍にもなる。
このように、ブラックホールに落下しようとする物質は、恐るべき力の影響下にある。重力が引き
ずり込もうとする一方、角運動量(自転の運動量)がそれを阻止して、円盤ができるのだ。円盤を物質
が回ると、磁場も竜巻のようにねじれる。そのうえ、あたりまえだが単なる熱もある。それを生み出
すのは、面白いことに、これだけ尋常でない力のなかにあってなじみ深い「摩擦」だ。物質がブラシ
I
クホールの重力のもとで円盤状に激しく回転すると、円盤内の粒子が互いに途方もない速さで衝突し、
莫大な摩擦を生む。その結果、円盤は数百万度にまで加熱されるのである。
、、、、
この純然たる熱は、ブラックホールから粒子を遠ざけるように働く。だが粒子は、円盤の面忙沿っ
た向きに外へ動こうとしても、ほかの粒子にぶつかってしまって抜け出せない。しかし円盤に対して
垂直方向(自転軸の方向)に外へなら、自由に行けるlその向きには物質が少ないからだ.菫けに、
おそろしく増大した磁場も、粒子を円盤と垂直の向きに外へ加速する。こうして熱と磁場があいまっ
て、粒子の流れは一対の細いビームに絞り込まれる。超巨大なスーパー懐中電灯をふたつ、後ろ同士
でくっつけ合わせたように・この一対のビームは、円盤に対して垂直方向に、ブラックホールの真上
でくっつけ合わせたように。}
と真下から外へと放射される。
ここから起きることは、これ以上おおげさにできないほど終末論的な地獄絵だ。恒星の中心にブラ
ックホールが生まれ、そのまわりに降着円盤ができるとまもなく、全エネルギーーー-太陽が放出する
エネルギーの一・億倍のぞか鳶「o鱈lが、猛烈きわまりない一対のビームに絞り込まれる.
莫大なエネルギーがビームに凝縮されるため、ビームは互いに背を向けるように爆発的に噴き出し、
その星のなかを光速で突き進む。数秒のうちに、ビームは星の表面を突き抜けて自由の身となる。そ
の途中にある物質はすべてズタズタにされ、数十億度にまで熟せられ、構成要素の素粒子になって、
ほぼ光速まで加速される。意外にも、ビームが星を突き破って出るころには、含まれている物質の量
は地球数百個分しかないかもしれない。これは、人間のスケールで見ればものすごい量だが、宇宙の
スケールでは微々たるものだ。ところが、このことがまたパワーの鍵を握っている。ビームに含まれ
56
「超」大質量星のコアが崩壊すると、物質とエネルギーが星の中心の途方もない力によ
って絞られ、一対のビームになる。このビームは数秒しか続かないかもしれないが、そ
DANABERRMSKYWORKSDIGmALINC.
こには、太陽が一生かけて放出する量かそれ以上のエネルギーが含まれている。
ろ物質の総量が比較的少ないからこそ、途
方もない速さにまで加速されるのである。
最期を迎えた星のまわりには、それまで
の爆発の名残であるガス雲がまだ取り巻い
ているが、そこへ最後の爆発が起きる。エ
ネルギーや物質のビームがこの雲にぶつか
り、巨大な衝撃波を生み出す。そして呆然
としてしまうほどの規模で、雲のなかにソ
ニックブームが響きわたる。
また、こうした粒子のジェットは場所に
よって速さが違うため、ジェットそのもの
のなかにも衝撃波ができる。この衝撃波同
士がぶつかると、恐るべきジェットのエネ
ルギーがなかの物質をかきまわし、想像を
絶する乱流を生んで、放出されるエネルギ
ーがさらに増大する。その結果できる火の
玉が大量のガンマ線を放射し、ビームの磁
場とむき出しのエネルギーが物質に襲いか
58
-LPPLrI』PTFpp0。。。(兵ら旦匹□■か写』ヴニレ田町』臼』。
I
けれども、遠くで齢W大質量星が爆発したら?近くの星がCRBになったらどうなるだろう?
おそろしく違い、地球から何十億光年も離れた場所の現象だった。
るのである。
星となるものができる。CRBが発見される以前、単独の現象としては、超新星が宇宙で最も凶暴で
エネルギーの大きなものと考えられていた。ところが、そこそこのGRBでも、超新星をはるかに凌
ぐエネルギーを放出する。そのため天文学者は、この現象を表すのに、「極超新星」という新しい言
葉をつくった。
ガスを突き抜けたビームは、なおも進みつづける。あとには超高温に熟せられた物質が残り、冷え
はじめる。そして冷えながら、ビームが通過したあともしばらくは光を放つ。これが、地球の科学者
が懸命に探し求めている残光の源だ。残された物質は、極端に明るくなりうる’一一。。八年に観測
されたあるCRBは、八○億光年ほども離れていたが、肉眼でも見えたのだ!しかし残光はあっと
いう間に暗くなり、ぽんの数分で一○○○分の一にまで明るさが落ちる。可視光の残光が当初非常に
検出しにくかったのは、このためだ。GRBの莫大なエネルギーも、遠いというだけでこれほど弱ま
だが、今ではGRBが極超新星においてlつまり大質量星が爆発するときにI生まれることが
わかっており……大質量星はわれらが銀河系にもある。確かに、これまでに見えたGRBはどれも、
ビームは進みつづける。背後では恒星の残りの部分が崩壊を終え、これ以外の点ではふつうの超新
こうしてガンマ線バーストが誕生する。
かる・
1
 ̄ ̄ ̄--- ̄
潤ⅢⅢⅡⅡ側……■……Iii
はずれてくれ
近くのCRBのビームの通り道にあたるものは、ひどい目に遭うことになる。
とてもひどい[日に。
それも、とてもひどい目にく
しかし、怖い話をする前に、ものすごく離れていればまったく危険はないということを覚えておい
てほしい。そもそもGRBが見えるというのは、われわれがビームの通り道にいるからにほかならな
い。CRBの光はすべてあの上下一対のビームに絞り込まれているので、ビームからはずれていたら
何も見えない。そして、ものすごく離れていれば、かすかな輝点が見えるだけでおしまいだ。ところ
が近すぎたら……。
GRBの影響は、超新星のものと非常に近いが、それも驚くにあたらない。このふたつの現象には
関わりがあり、GRBは超新星のなかで生まれるし、どちらもガンマ線とX線と可視光という形で膨
たれ
大なエネルギーを放出するのだから。
いろいろな距離にどれだけ破壊の種を全寒き散らすかだ。超新星は、光線や物質を全
違うところは、いろいろな距離にど功
影響は距離とともに急激に弱まる。第3章で見たように、距離が一一五~五○光年を
方向に出すため、影響は距離とともに二
超えていればほとんど害はなさそうだ。
、、、
だがCRBはビームに絞られている。 明るさが距離とともに急激に弱まらないので、遠くにいても
かなり遠くにいてJ四)。
危険なのだ。かなり遠くにいても’
GRBはひとつひとつ異なっているため、影響の予測を立てるのが難しい。とはいえ、いくらか平
、、
ハセヘ式司競っ募れるだろう。ただ、可視光の強さがピークに達す
パーストのときに空を見上げていた人は目がつぶれるだろう。
、、、、、、、、、、こ
およそ-00○兆牟可かトトル秒離かた天体からやってくるのだ。
そんなエネルギーのすべてが、およそ一○○○兆キロメート”
えるほどの惨事をもたらすだろう。
地球に降り注ぐエネルギーの総量は圧倒的で冷戦の最高に恐ろしい悪夢をもはるかに超えている。
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
一メガトンの核爆弾を、GRBが当たる半球で一・六キロメートル四方に一個ずつ爆発させるほどの
ものなのだ・海を沸騰させたり大気を剥ぎ取ったりするほどでは(おそらく)ないにせよ、理解を超
さい。それでも、このあとわかるとおり、地球上にまるっきり安全な場所はない。
これは地球が自転する時間に比べて圧倒的に短いから、ビームが当たるのは半球だけだ。残りの半
球は比較的影響を受けない……少なくともしばしのあいだは。影響は、CRBの真下にあたるところ
(バーストが真上すなわち天頂に見える場所)で最もひどく、バーストが地平線上に見えるところで最も小
長くても数分でしかない。平均的なパーストの持続時間は一○秒ほどである。
GRBは、幸いにもかなり短命なので、ビームがわれわれに影響を与える時間は、短いと一秒未満、
系全体が、津波に呑み込まれるヨコエピのように、ビームの蝋に吸い込まれることになる。
中途半端なことは言わず、CRBが凸で断近くで発生したとするI距離は一。。光年だ。こんな
に近距離でもCRBのビームは太く、直径八○兆キロメートルもある。すると、地球全体、いや太陽
では、まず場面を設定しよう。
り込まれたハルマゲドンを扱うのに、何をもって「一般」とするかはさておいて。
均をとって一般的なCRBによる影響を割り出せるほどの数は観測されている。一条の死の光線に絞
■|w民述『uUu|いきはP二名聾、ぜぅ■P缶腎■日ザ
50
I
一二‐
グ
ろのにたぶん数秒かかるので、おののいて目をそらす時間はあるにちがいない。だからといって、あ
まり助けにはならないだろうが。
そのとき屋外にいた人は、大変な目に遭う.熟で丸焼きにならなかったとしてもlなると思うが
I大量の紫外線の放射でたちまち致命的なやけどを負うだろう.オゾン層はまさに一瞬で破壊され、
GRBと太陽の両方の紫外線が、地表までそのまま届くようになるのだ。それにより、地表はおろか、
GRBと太陽の両方の紫外線が、地表一
海も数メートルの深さまで滅菌される。
これでもまだ紫外線と熱による影響だけだ。ガンマ線やX線によるはるかにひどい影響については、
、、、
触れるだけでJもむごたらしい気がする。
、、、、、、
★
イータ
その話はやめて、一歩あと戻りしよ壁
その話はやめて、一歩あと戻りしよう。GRBはきわめてまれな現象だ。この宇宙のどこかで一日
に何回かは起きているにちがいないが、
に何回かは起きているにちがいないが、宇宙はなにしる広い。一○○光年のところで起きる確率は現
時点でゼロだ。0.零。GRB発生の可能性が少しでもある恒星すら、われわれの近くにはない。最
も近い超新星の候補はもっと遠くにあり、CRBは超新星よりはるかにまれなのだ。
少しは気分がよくなったかな?オーケー。では、もう少し現実的な話をしよう。今あるとして、
最も近いGRBの候補は何だろうか?
I
南天に、肉眼では目立たない星がある。その名をイータ・カリーナ(りゅうとつ座〃星)あるいは略
して単に「イータ」といい、もっと明るい星で混み合った領域にある暗い星だ。けれども、その暗さ
は本来の激しさとは裏腹だ。地球からの距離はおよそ七五○○光年で、実は肉眼で見える最も遠い星
なのである。
★★
!
、、
11.血9ロー・・.■‐そ●巴汀8十三已辰■■&い』已守.■ニエ■■Ⅲ中於dqr岳・征月■■凸手juT百戸『.。;乢切。Ⅸ■■C■L■Ⅳヨ『Ⅲ■屯■■■■■ロ姉ⅢI⑩ご元叩Ⅲロ○芒いや▲己■『可ぺこ己巳与ヨニヨエ日上BT・■ajCCご○匝汀!。←
が多くの光を放ったり遮ったりしているため、天文学者はまだ一○○パーセントの確信をもっていないが。
★★実は、イータは互いのまわりを回るふたつの星、すなわち連星かもしれない。イータを取り囲むさまざまな物質
★自宅で練習しようという方のために。より正確な英語の発音は「エイタ・ケァリネィ」。
それでもなお、想像をめぐらすのは愉しい。イータがわれわれのほうを向いていて、極超新星にな
と、GRBの危険にさらされてはいない。
になるにしても、ビームがほぼ確実に地球に当たらない向きになっていることも指摘しておかないと
いけない。このことは、一八四一一一年の発作的活動で出たガスの形状からわかる。広がるガスのこぶは
われわれに対して約四五度傾いており、GRBのビームは必ずこの軸の方向に出ることになる。もっ
とはっきり言おう。われわれは、近い将来、さらには中期的な将来にも、イータであろうとなかろう
ことは間違いないが、極超新星タイプのCRBになるかどうかはわからない。また、爆発してGRB
イータは、GRBに.なりかけているしるしをひととおりもっている。いずれ超新星として爆発する
、、、
の名残として、宇宙の大砲から立ちのぼる煙のような、広がりゆく物質の巨大なこぶがふたつ見える。
との現象で出るエネルギーは、超新星とほぼ同じぐらい大きかった。、、
は周期的に発作的な活動を示し、大量の物質を噴き出している。一八四三年にはとりわけ激しい現象
を見せ、かなり遠くにあるのに、夜空で一一番めに明るい星になった。そのときは、太陽質量の一○倍
を超える大量の物質を、時速一五○万キロメートルを超える速さで噴き出した。今日では、その爆発
、、、
イーータ自体は巨大な星だ。質量は太陽の一○○倍以上ありそうで、太陽の五○○万倍のエネルギー
を放射している’一秒間に、太陽が一一か月かかって放つのと同じ量の光を発しているのだ.イータ
!
‘Z
0二コ△雲宙の垂山鐸バーナーガンマ鍵パースト
{
〉剤}
■■
則ったとしたらどうだろう?
やはりひどいことになる。太陽ほどの明
伽るさにはとうていならないだろうが、満月
》程度には確実になり、その一○倍の明るさ
柵にまでなりうる。目を細めたくなるほどの
m明るさだが、数秒から数分程度しか続かな
》黙許纈溺一同フサィクルに長期的
降り注ぐ紫外線は強烈だが、それもつか
皿の間のはずだ。屋外にいた人は軽く日焼け
納呼鮒肺抓鮭鮮蕊蝋霊叩震
だが、ガンマ線とX線に注目すると、状
し、まずないだろう。
れ、
榊祗
鯛雛醗溌岬航削肺肝に瀧淵蕊雌
一》》郵倣MM綱噺星の場合よりはるかにひどいも
@の影響は非常に長く続き、何年も残るかもしれない’五年経ってもまだオゾンが一。.〈-セン
トほどのかなり小さな減少によるものなのである。
オゾン層は大打撃を受ける。GRBのガンマ線は、オゾンの分子を大量に破壊する。地球全体で
オゾン層は平均で一一一五パーセント減り、局所的には五○.ハーセント以上失うところもある。これだけ
でも大変な痛手だ’ちなみに、われわれが今抱えているオゾン層破壊の問題は、わずか三パーセン
ている。その影響はとんでもないものだ。
地球の大気への影響は深刻なものになる。これについては、科学者によって徹底的に研究されてき
た。第3章で示したモデルをもとに、CRBがイータの距離にあると仮定して、影響が明らかにされ
しかし、まもなくわかるように、緊急サービスがあってもあまり役に立たないだろう……。
ではない。病院や消防署などの緊急サービスも、電力が使えないのだから。
真っ先に現れる影響は、強力な電磁パルスだ。それは、スターフィッシュ・プライムの核実験の際
にハワイを襲ったものよりはるかに強いものとなる。このCRBの場合、電磁パルスは、地球上で、
バーストのほうを向いた半球にあってシールドの施されていない電子機器を、一瞬でひとつ残らずだ
めにする。コンピュータ、電話、航空機、自動車など、電子回路を搭載しているものは全部いかれて
しまう。電力網もそうだ。送電線に大電流が誘導され、過負荷がかかる。人糞は電力を失い、長距離
通信の手段も失う(人工衛星もどのみちすべてガンマ線にやられてしまうだろう)。これは不便どころの問題
I
、動Q
星や
164
LP且硅贋叫吋』四画婚掛、川崎”卿偽叩凹円日回凹日同痢Ⅱuロロロロ■■■Ⅱ■HQup0■囚■夕Ⅱ■■■OB■βr0BⅡ000Ⅱ■119h日91IIII0117LII0I-0
陽の
的活
イ
ト少ないという可能性もある・そのあいだ、太陽から地表に届く紫外線は今より強い。食物連鎖の底
辺をなす微生物は、きわめて紫外線に弱いので、大量に死んで、食物連鎖の上のほうまで進む大量絶
△~・ ̄-,
司孚
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
減につながるおそれがある。
2
三酸化窒素は大気
〆■、
、、、、、、
★この結果はいまだ議論の渦中にある・これは科学の新しい領域なので、モデルはあまり当てにならない。それでも、
そんなわけだから、現時点ではかなり安全であり、これはなによりな話だ。CRBが近くで今発生
する確率は、きわめて低い……しかし地球の歴史は長い。過去にGRBの直撃を受けた可能性はある
今は今、昔は昔
れわれはこの怪物に対しても安全な確率が高いが、触れておく価値はある。
りともわれわれのほうに向きが合っているかもしれないが、どちらの可能性もかなりあやふやだ。わ
、、、、、も
04といい、われわれからの距離は偶然にもイータまでと同じぐらいだ。WR104は連星で、片方
の星は膨張し、最期を迎えつつある大質量の怪物だ。CRBとして爆発するかもしれないし、多少な
これが、この章の冒頭で描いた悪夢のシナリオだ。だが、パニックになる前に思い出してほしい。
イータ・カリーナのバースト軸は、ほぼ確実にこちらを向いていない。ただ、このテーマを語ってい
るうちに、CRBになりそうな天体としてもうひとつ考慮すべき候補を挙げておこう。それはWR1
ち地球上の大半の動植物はとうに死に絶えているのだ。
このため事実上、オゾンの減少はたいした問題にはならない。実際に問題になるころには、どのみ
及ぼすことになる。
まで届くし、岩盤を八○○メートルほども貫くのだ!すると、地球上のほぼすべての生命に危害を
I
手始めに、近くのCRBはまずいということを覚えておこう。
66
ii
吸収することから、このチームが試算したところ、無防備な状態の人体が吸収するエネルギーは致死
量の一○倍になることがわかった。隠れても意味がない。ミュー粒子は水深一五○○メートル以上に
、、、、■、、、、、、、、、、、、
それに、バーストからの素粒子(宇宙線)の問題がある。GRBから飛来する素粒子がどれほど有
害かはわかっていない。だが、第2章と第3一早で話したとおり、高エネルギーの粒子は地球にありと
あらゆる影響を及ぼしうる。七五○○光年の彼方から、GRBは地球の大気に大量の素粒子を注ぎ込
むだろう。その速さはほとんど光速だ。素粒子はパーストが現れて数時間以内に大気に突入し、ミュ
ー粒子のシャワーを生み出す。ミュー粒子はいつでも空から降り注いでいるが、ふだんは微量だ。近
くのCRBからだと、生じるミュー粒子の数は膨大なものになる。ある天文学者のチームが計算した
結果によれば、GREのほうを向いている半球の地表全体が、一平方センチメートルあたり約五○○
億個ものミュー粒子を浴び餌。ずいぶんな量に思えるとしたら、確かにそれは正しい。これだけのミ
ュー粒子が空から雨あられと降り注ぎ、そこらじゅうのものに吸収される。人体がミュー粒子をよく
これも、
おまけに、一一酸化窒素を含む大気のなかで硝酸がたくさんでき、酸性雨が降るだろう。これ、
全体に広がる)、地球は大きく冷え込み、おそらく氷河期が始まる。
正確な影響は明らかにしにくいが、地球全体で日照量が数.ハーセント減るだけで(一一酸化窒素
章・第3章を参照)は、地表の日照量を大幅に減らす。
そのうえまずいことに、イータ・カリーナのGRBによってできる量の赤褐色の一一酸化窒素
一、雑.几、
境に破滅的な影響を及ぼすおそれがある。
第
環
溌
!
だろうか?
統計的に言うと、地球が過去のどこかで比較的近くからGRBを食らった可能性はかなり高い。超
新星は珍しくないが、われわれに危害を及ぼすには近くにないといけない。これに対し、GRBはは
るかにまれだが、ずっと遠くからでもダメージを与える。いくつかの研究によると、地球になんらか
の生態的なダメージを与えるほど近くのGRBが、数億年に一度ぐらいはあるはずだという。
また、過去の地球でそんな出来事があったという証拠さえあるかもしれないことも明らかになって
いる。恐竜の最期は史上最も有名な大量絶滅だろうが、これは最大規模の大量絶滅ではない。オルド
ビス紀は、およそ四億四○○○万年前に終わったが、そのとき地球上の生命で半数の属[璽嚥議鶴で
蕊]が消え去った。それが急激に起き、しかも一○○万年ほどあいだをあけて絶滅が二度あったよう
なのである。その原因が何なのか、長年のあいだ科学者は不思議に思ってきた。
この絶滅の引き金をCRBが引いた可能性はないだろうか?興味深い手がかりがたくさんある。
CRBが襲来した場合、降り注ぐ紫外線は、深海の生物よりも、海面近くの動植物に深刻な影響を及
ぼすと予想される。そして、実際にそうだったことを示す証拠が化石記録に残されている。三葉虫と
いう、当時の海を支配していたカニのような変わった動物には、幼生の時期がある。絶滅があった当
時、海面近くで暮らしていた幼生は、もっと深い海中で暮らしていた成体より大きな影響を受けたよ
うで、これは、突然の絶滅をもたらした要因が、何であれともかく上から、つまり空から到来したこ
とを示している。さらに、ライフサイクルにおいて幼生の時期が長い動物の纏うが、短い動物より絶
滅する割合は高かった。これはどちらも、紫外線の急激な増加が、浅い海中には影響を及ぼしたが、
68
GRBは、心配する価値があるのだろうか?
ピーームがあっても余裕の笑顔
ピーム
響を与えうるのだと考えなおすきっかけを与えてくれている。
究が必要だ。けれども、何千年も前に途方もなく遠くで起きた現象が、地球の生命にとても深刻な影
この根拠は興味深いし、説得力さえあるかもしれないが、決定的ではない。例によって、もっと研
なかろうか。
河期は到来しえなかったことを突き止めた。ひょっとして、その強制力はCRBによるものなのでは
では、なんらかの「強制力」lはずみを与えるような外因性のメヵニズムーなしに地球規模の氷
二酸化窒素が増えれば、地球の寒冷化をもたらしうる。じっさい、一部の研究者は、この時期の地球
れも、近くのGRBによる影響と矛盾しない。宇宙線が雨あられと降り注ぎ、それによって大気中に
オルドビス紀の二度めの絶滅は、地球が急激に冷えて、氷河期が訪れたことと結びつけられた。こ
かでも上位に位置するだろう。
特異であることを擢のめかしている。CRBにはいろいろ特徴があるが、「特異」というのほそのな
面白いことに、こうした傾向はほかの大量絶滅には見られず、これはオルドビス紀の絶滅の原因が
、、、、
期間がより長く、危険な紫外線をより多く吸収するため、とくに死滅しやすかったのだろう。
深い海中には影響しなかったというシナリオと矛盾しない。幼生の時期が長い動物は、浅い海にいる
I
0氏⑨▲=由の麹オ等バーナー詞シマ鶴パースト
ひとつの答えは、発生したら手の打ちようがないのだから、ノーというものだ。それに、ガンマ線
は光の速さで飛んでくるIなにしろガンマ線も光なのだ’から、こちらへ向かっていても、文字
どおり何の前触れもない。ならば心配してもしかたないではないか。
その一方、どのみち心配無用という可能性も高い。
これまでに見られたほぼすべてのGRBは、おそろしく遠くの銀河からのものだ。ところで天文学
において、距離はまた時間を意味する。遠くを見るほど、昔のものを見ることになるのだ。九○億光
年離れた銀河にCRBを見つけた場合、その銀河の九○億年前の姿を見ていることになる。おまけに、
GRBは過去にはよくあったが、宇宙が歳をとるにつれ、現れる数が減ってきていろ。
このことは重要だ。銀河は時間が経つにつれ変化するからである。若いとろの銀河には、カルシウ
ム、鉄、酸素などの重い元素が少なかった。そうした元素は超新星がつくって銀河にまき散らすので、
それには時間がかかる。また、恒星が死ぬとき、重い元素が少ないぽうがCRBになりやすいことも
、、、
わかっている。今つくられている大半の大質量星には、過去の世代の超新星のおかげで重い元素が大
量に含まれているため、GRBにはなりにくい。
そのうえ、CRBとして爆発する恒星は、つぶれる前に高速で自転していなければならない。そう
でないと、ビームの燃料となる降着円盤ができない可能性があるのだ。そして実は、重い元素を大量
に含む恒星の自転は高速になりにくい。ただし、それは元素が重いからではない!重い元素のほう
が軽い元素より、恒星内部からの光をよく吸収する。すると、ガスのなかに重い元素がたくさんある
恒星は、あまりない恒星に比べて熱くなり、明るくなる@その結果、恒星表面の粒子は、恒星風I
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太陽以外の恒星で太陽風に相当するものlによって吹さ飛ばされやすくなる.
粒子は、恒星を離れると、その星の回転する磁場に引きずられる。これがパラシュートのように働
いて、今度は星の自転を遅くする。ロを開けたポリ袋をもって、くるくる体を回してみよう。袋が空
気でふくらみ、その抵抗のせいで回転が上がらないはずだ。同じことが恒星でも起きる。磁場が恒星
風を引きずるせいで、自転は時間とともに遅くなる。じっさい、だから太陽はひと月に一回しか自転
しない。太陽も若いころはもっと速く自転していたにちがいないが、数十億年ものあいだ磁場が太陽
風を引きずるうちに、自転が遅くなったのである。
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
、、、、、、、、
したがって、重い元素が多い恒星は、恒星風が強くなり、自転は遅くなりやすい。その逆の事実
l重い元素が少ない恒星は、自転が速くなりやすいIから、宇宙が若かったころに生まれた恒星
は、最近生まれた恒星よりもGREを発生しやすいと言える.つまるところ、極超新星によるl大
質量星の爆発によるlGRBは、遠い昔に比べて今はまれなはずなのだ.
ひとととで-一一二て、あまり心配は要らない。
短くても楽じゃない
ならば、われわれはこの種の破滅的な事態には直面せず、いまや一二○億歳になり、重い元素やゆ
っくり自転する大質量星をもつとの銀河系で、安穏としていられるのだろうか?
いられるかもしれないし、だめかもしれない.覚えているだろうかlGRBには、二秒以上続く
171●宇宙の溺掩バーナーガンマ線パースト
Ⅲ
屯のと、それより短いものとの二種類がありそうだということを?大質量星のコアがつぶれて生じ
るのは、長いほうのCRBだ。では、短いほうは何なのか?
短いパーストの理解には、NASAの二基の人工衛星が大きな役割を果たした。高エネルギートラ
ンジェント天体探査機2号(HETE‐2)とスウィフト衛星が、短いCRBを何十も検出したのだ。
この観測データから天文学者は、ふたつの高密度の中性子星が合体したときに短いCRBが生じろ、
という考えをこしらえた。中性子星ができるのは、超新星になる恒星のコアに、ブラックホールがで
、、、
きるほどの質量がないときだ。多くの場合、大質量星はペアをなし、互いに相手のまわりを回ってい
る。そんな大質量星のペアは、との銀河系にたくさんある。やがて、ペアのうちより重いほうが爆発
し、あとに中性子星を残す。その後、もう片方も爆発し、これも中性子星をあとに残す。
さまざまな力が働き、何十億年もかけて、このふたつの星の軌道は縮まっていく。ふたつの超高密
度の物体が、渦巻きを描きながら次第に近づいていき……やがてついに、近づきすぎて合体するのだ。
ふたつの質量が合わさろとブラックホールができるほどになるかもしれず、十分な量の物質が残って
いれば周囲に降着円盤ができる。ここへきて起きる現象は、大質量星が爆発するときにコアで起きる
現象に似ている。ブラックホールの降着円盤と莫大な磁場と強い重力が、外へ噴き出す一対のビーム
をつくるのだ。
この現象のモデルから、こうして生じるCRBは大質量星によるGRBに比べてはるかに持続時間
が短くなり、放射されるガンマ線のエネルギーが高くなることが示唆される。どちらの予測も観測と
合っている。観測と合うモデルはほかにもあるが(たとえばブラックホールと中性子星からなる連星で、近い
。
って告げられる。
結果が得られる)、これが最も有力
な説だ。
中性子星の合体によるCRBと、
大質量星からできる極超新星によ
るGRBとで大きく違うことのひ
とつは、爆発までにかかる時間だ。
現在では、大質量星のGRBはほ
とんど発生しなさそうだが、中性
子星の合体はたくさんあるのでは
ないかと予想できる。ふたつの中
性子星が軌道を縮めて合体するに
は何十億年もかかるので、今も発
生しうるはずなのだ。きっとそう
だと思えるのに、実際の数では大
質量星のGRBに比べて少ない。
これは、原因となる状態が珍しい
、、
からl爆発を起こせる単独の大
質量星のほうが、大質量星の連星
72
0-----m忍辱t牢パー+_寸丁シマ名畠パースト
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I
よりたくさんあるからIかもしれない.そして珍しいので、短いGRBになりそうなものが銀河系
にいくつあるかは把握しづらい。中性子星の連星はいろいろ知られており、どれも短い強烈なGRB
になりうる……あと数十億年のうちには。今のところ、一○○年以内や一○○○年以内、いや一○○
万年以内でさえ、爆発しそうなものは知られていない。しかし、非常に明るくてはっきりわかる大質
量星とは違い、中性子星の連星は鷹とんど光を出さないから、見つかりにくいのである。
われわれに危害を加えるほど近くにそんなものが存在する可能性は、まずない。とはいえ、その可
能性を完全に排除することもできない。
未来は明るい
必要なのは、いつだってそうだが、もっと多くの観測だ・われわれが知っている最大の爆発lそ
しておそらく宇宙で起こりうる最大の爆発T--として、CRBは大いに科学的関心の的となっている。
GRBはわれわれに、物質とエネルギーが極限の物理的条件のもとでどんな挙動を示すのか、ブラッ
クホールがどう生まれてどんなふるまいを見せるのか、さらにブラックホールの周囲がどうなってい
るのかについても、教えてくれるのだ。CRBについては、今でもわからないととだらけなのは言う
までもない。だが、ベラ衛星以来、われわれは長足の進歩を遂げた。二○○四年にNASAが打ち上
げたスゥィフト衛星l短い強烈なCRBの起源を理解するうえで、非常に重要な役割を果たしてい
るlは、何百というCRBを観測し、そのなかには一二八億光年先という観測史上最も遠いものも
含まれている。スウィフトの観測結果により、長いパーストと短いパーストの両方について鋭い洞察
が得られ、待ち望まれていたデータで理論モデルが補強されることとなった。
74
0丁目△卓雷の塞轄バーナーガンマ観バースト
CRBのことがもっとよくわかるにつれ、過去の地球で生命にどう影響を及ぼしたかも含め、その
危険性をより正確に評価できるようになるだろう.もしもそれが発生したらlとてもありそうにな
いけれどもIきっと打つ手はないだろうが、いつでも状況をよく把握しておくに越したことはない.
では、心配すべきなのか?私はしじゅうそう聞かれるので、こんな簡単な答えを用意している。
「私は、自動車事故で死んだり、落雷で死んだり、いろいろありそうにない死に方をした人を知って
Eに
います。あなたはガンマ線バーストで死んだ人を何人知っていますか?」
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