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N ew s L etters vol.4 2006

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N ew s L etters vol.4 2006
2006
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巻頭言 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 3
研究総括 神奈川科学アカデミー 理事長 藤嶋 昭
高次規則配列複合構造体を用いたエネルギー変換デバイスの創製‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 5
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 教授 金村 聖志
アラブが育てた元気印 ‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 6
早稲田大学 理工学術院 日本学術振興会特別研究員 PD 向坊 仁美
ナノ構造を制御するための多孔体作製技術 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 8
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 CREST 研究員 棟方 裕一
「明るく、謙虚に、逞しく」研究を・・・‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥10
横浜国立大学 大学院工学研究院 助手 小久保 尚
転写技術を用いて新しい材料を創る ‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥12
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 助教授 西尾 和之
美しい 3 次元規則配列多孔材料を用いてエネルギー変換デバイスの高効率化を実現‥‥‥‥14
■
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 助手 獨古 薫
高機能ナノチューブ材料の創製とエネルギー変換技術への応用‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 17
宮崎大学 工学部物質環境化学科 教授 木島 剛
電気は貯めるが、ストレスは貯めない‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥18
宮崎大学 大学院工学研究科 電気エネルギー工学講座電力研究室 博士後期課程 2 年 田島 大輔
会合場を利用した新しいナノカーボン材料の創出‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥20
宮崎大学 大学院工学研究科 物質エネルギー工学専攻 博士後期課程3年 藤川 大輔
白金ナノチューブの発見が人生を変えた‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥22
宮崎大学 大学院工学研究科 物質エネルギー工学専攻 博士後期課程3年 吉村 巧己
白金ナノ構造体の特性を燃料電池に活かす‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥24
■
宮崎大学 工学部物質環境化学科 助教授 酒井 剛
可視光水分解を目指したナノ構造体光触媒の創製‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 27
東京理科大学 理学部応用化学科 教授 工藤 昭彦
私:人生いろいろ 研究:太陽光照射下,水からボコボコ。 ‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥28
東京理科大学 理学部 応用化学科 工藤研究室 博士後期課程 2 年 細木 康弘
無機ナノシートの光電気化学‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥30
熊本大学 大学院自然科学研究科 助手 伊田 進太郎
5 歳のときからセラミスト ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥32
東海大学 理学部化学科 助手 東北大学 多元物質科学研究所 リサーチフェロー冨田 恒之
Z スキームによる可視光水分解‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥34
東京理科大学 理学部応用化学科 助手 加藤 英樹
太陽光を用いて水から水素燃料を作り、美しい地球環境と豊かな社会を次世代に残す ‥ ‥36
長岡技術科学大学 物質・材料系(理学センター兼任)助教授 斉藤 信雄
■
電界効果型ナノ構造光機能素子の集積化技術開発‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 39
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 客員教授 鯉沼 秀臣
志 ‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥40
東京工業大学 資源化学研究所 山本研究室 修士課程2年 熊谷 章
気合と根性を武器に、世界一の有機膜をレーザーでつくる‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥42
東京工業大学 総合理工学研究科 博士後期課程 2 年 柳沼 誠一郎
1+1 を無限大に‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥44
東京工業大学 応用セラミックス研究所 特別研究員 CREST 研究員 片山 正士
研究を続けられることの喜び‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥46
共同研究者 東京大学 新領域創成科学研究科 リサーチフェロー 立木 昌
打たれ強い材料とは ‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥48
東京大学 新領域創成科学研究科 物質系専攻 CREST 研究員 伊高 健治
■
ナノブロックインテグレーションによる層状酸化物熱電材料の創製‥‥‥‥‥‥‥‥ 51
名古屋大学 大学院工学研究科 教授 河本 邦仁
現場主義、実際に作って使ってみる‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥52
産業技術総合研究所 ナノテクノロジー研究部門 CREST 技術員 浦田 さおり
外柔内剛 ‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥54
名古屋大学 名古屋大学 大学院工学研究科 CREST 研究員 李 圭 珩(イギュヒョン)
高配向酸化物熱電材料‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥56
東北大学 大学院工学研究科 応用物理学専攻 機能結晶学講座 梶谷研究室 CREST 研究員 黄 向陽
金属酸化物結晶の高品質エピタキシャル薄膜作りが得意です‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥58
名古屋大学 大学院工学研究科 化学・生物工学専攻 助教授 太田 裕道
競合が生み出すもの‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥60
早稲田大学 理工学部 CREST 研究員 中野 智仁
■
光機能自己組織化ナノ構造材料の創製に関する研究‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 63
( 独)物質・材料研究機構 ナノスケール物質センター センター長 佐々木 高義
超薄膜太陽電池の作製‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥64
筑波大学 大学院数理物質科学研究科 材料・工学専攻 博士後期課程 1 年 赤塚 公章
周期性を失った結晶???‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥66
物質・材料研究機構 CREST 研究員 福田 勝利
豚もおだてりゃ木に登る ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥68
東京大学 生産技術研究所 助手 坂井 伸行
こんな私でも研究者と呼んでいただけますか‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥70
物質・材料研究機構 グループリーダー 高田 和典
ナノの積木細工で電子デバイスをつくる‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥72
物質・材料研究機構ナノスケール物質センター 主任研究員 長田 実
■
界面ナノ制御による高効率な太陽光水分解システムの創製‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 75
関西学院大学 大学院理工学研究科 客員教授 中戸 義禮
A Chinese woman researcher-shuttling between dream and reality ‥ ‥‥‥‥‥76
Graduate School of Engineering Science,Osaka University, CREST, JST, Tokyo 劉 海梅
未知の現象と新しい研究領域を夢みて‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥78
大阪大学 大学院基礎工学研究科物質創成専攻 助教授 今西 哲士
継続は力なり? ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥80
長岡技術科学大学 物質・材料系 助手 村上 能規
無電解プロセスによるシリコンの表面ナノ制御 ‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥82
兵庫県立大学 大学院工学研究科 助教授 八重 真治
■
ナノ組織制御による高臨界電流超伝導材料の開発‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 85
京都大学 大学院工学研究科 助教授 松本 要
ナノ構造が量子化磁束の振る舞いに及ぼす影響を追及
~ナノ構造作製・組織評価・特性評価の 3 本柱で挑戦‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥86
京都大学 大学院工学研究科材料工学専攻 博士後期課程2年 堀出 朋哉
人生どう転ぶか分からないが、本気でやればなんとかなる‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥88
九州大学 工学府材料物性工学専攻 博士後期課程3年 新海 優樹
Welcome to the nano-island resort! ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥90
Department of Materials Science and Engineering , Kyoto University Paolo Mele リズムとテンポが命のロックな研究者 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥92
名古屋大学 大学院工学研究科 助手 一野 祐亮
レッツ、超伝導 !! ‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥94
名古屋大学 大学院工学研究科 博士後期課程 2 年 三浦 正志
■
ナノ構造単位材料から構成される電力貯蔵デバイスの構築‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 97
九州大学 先導物質科学研究所 教授 山木 準一
Nano-sized Fe2O3-loaded carbon as new material
for Fe-air battery and Li-ion battery anode‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥98
JST. Yamaki group, Kyushu University Bui Thi Hang ブイ シ ハン
リチウムイオン電池を搭載した電気自動車の実用化を目指して!‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 100
九州大学 先導物質化学研究所 CREST 研究員 川村 哲也
光合成からナノ粒子まで‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 102
九州大学 先導物質化学研究所 助手 辻 剛志
The future of mobile technology lies in supercapacitors ‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 104
JST and KASTEC Kyushu University Vinay Gupta ■
電極二相界面のナノ領域シミュレーション‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 107
産業技術総合研究所 計算科学研究部門長 池庄司 民夫
「かわったやつ」は、ほめ言葉‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 108
(株)豊田中央研究所 フロンティア研究部門 倉本研究グループ リーダー 倉本 圭
電極反応の第一原理シミュレーションに携わって‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 110
大阪大学 産業科学研究所 CREST 研究員 濱田 幾太郎
電極反応を ab initio 分子動力学シミュレーションでさぐる‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 112
東京大学 物性研究所 助手 大谷 実
実問題に挑戦するナノシミュレーション‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 114
NEC 基礎・環境研究所 主任研究員 岡本 穏治
コレクターとリサーチャーの境界‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 116
産業技術総合研究所ユビキタスエネルギー研究部門ナノ材料科学研究グループ
CREST 研究員 前田 一行
巻頭言
研究領域
エネルギーの高度利用に向けた
ナノ構造材料・システムの創製
研究総括 藤嶋 昭 Akira FUJISHIMA
神奈川科学技術アカデミー 理事長 東京大学名誉教授
研究は、人なり
若手研究者大集合
日本ナノテク基礎研究の一翼を担う JST の戦
略的創造研究推進事業ナノテクノロジー分野別バ
ーチャルラボの「エネルギーの高度利用に向けた
ナノ構造材料・システムの創製」領域は、研究領
域として平成18年3月14日に評価委員の方々
から中間評価を受けました。領域評価会議では、
「基礎や応用研究を推進する上で最も重要なこと
として、①研究リーダーの熱意、②オリジナリテ
ィ、③あつい雰囲気を上げ、大きなインパクトあ
るアウトカム(研究成果としてのアウトプットが
社会にどのように役立っているかを尺度とする評
価)に向けて領域を運営している」ことを強調、
その成果を示し、評価委員から高い評価を頂きま
した。
本領域の平成17年度の研究成果も実り多く、
採択された原著論文総数は358件(内、海外
336件)、その他著作物総数が143件、学会
発表が973件(内、海外366件)で、総件数
が1,474件になりました。更に、特許出願件
数は、35件(内、外国特許は9件)でした。
各 種 受 賞 や 新 聞 発 表 な ど は、 金 村 チ ー ム は
ECS Research Award of the Energy Technology
Division を、木島チームは新しい白金ナノシート
で新聞発表を、工藤チームは愛・地球博(2005
年愛知万博)の光未来展及び国際光触媒2005
に光触媒を出展、河本チームは中国珪酸塩学会
ートでの新聞発表など、中戸チームは The HansJurgen Engel Prize 2005、平成17年度日本
表面科学会奨励賞、Best Presentation Award in
Young Electrochemist Session を、松本チームは
第19回応用物理学会講演奨励賞を、山木チーム
は第3回ナノ学会 Best Young Presenter Award
を、池庄司チームは日本応用理数学会ベストオー
サー賞を受賞されました。各研究チームのご健闘
に感謝致します。
これらの多くの研究成果を踏まえ、本研究領域
のニュースレター第4号は、熱意ある研究リーダ
ーのもと、実際に手足を動かし日夜大奮闘して実
験を行い、具体的な研究結果を出し、チームの研
究推進に寄与している若手研究者に登場して頂き
ました。
プロフィールでは、楽しい自己紹介がありま
す。第一級の研究者や研究者の卵は、「子供の頃」
はどんな子供であったかは、日本の科学研究施策
を見直す時のヒントが隠れているかもしれませ
ん。子供が長じて、進路を決定する時、「研究の
道を選んだきっかけ」を知ることにより、理科離
れ防止に役立つことでしょう。
日本の基礎研究において重要な位置を占める
「CREST プロジェクトに実際に参加して」、若手
研究者はどんな感想も持ったかも、興味あるこ
とです。種々の意見があります。優れた面だけ
賞、平成16年度日本セラミックス協会進歩賞、
第16回日本 MRS 学術シンポジウム奨励賞を、
佐々木チームは第9回超伝導化学技術賞、第64
回金属学会功績賞、日本化学会欧文誌・注目論文
賞、高誘電体ナノシート及び磁性半導体ナノシ
でなく改善点の提案もあります。文面から研究
することの喜びと意気込みを感じます。これらは
CREST 研究システムを更に良くする為の参考に
なるでしょう。「研究成果」では、
「研究歴の紹介」
と「CREST での研究成果」を紹介しました。「夢
●
2 0 0 6 . Vo. 4 ︱ を語る」では、今後どんな研究をしてみたいか、
夢を語って頂きました。
ところで、大きなプロジェクトを実行するには
もちろん少なからぬ研究費を要します。幸いにも
科学技術基本法成立以来、多額の研究資金を政
府は用意してくれているし、科学研究費も毎年
増加しています。しかし、すばらしい研究成果
をあげるのに最も重要なことは、人自身である
と思います。今までの考えでは説明できない予
期せぬ現象を見つけても、その本質を見抜ける
のは優れた指導者と熱心な研修者群であります。
特に大事なことは、その研究集団がかもしだす、
︱
●
2 0 0 6 . Vo 4
燃えるような雰囲気です。この雰囲気を経験し
た若き研究者たちはその数年後、あるいは十数
年後にいろいろな場所に分かれていても、また
別の素晴らしい雰囲気の研究集団を作り次のブ
レークスルーを出す可能性が大きいと思います。
「研究は、人なり」です。
最後に、儒学者佐藤一斉の言志四録の言志晩
録からの言葉を引用させて頂きます。「少にして
学べば、壮にして為すことあり、壮に学べば 老いて衰えず、老にして学べば 死して朽ちず」
そして人は、いくつになっても学ぶことが大
切です。
金村聖志チーム
高次規則配列複合構造体を用いた
エネルギー変換デバイスの創製
研究代表者
金村 聖志 Kiyoshi KANAMURA
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 教授
E-mail: [email protected]
平成 17 年度研究成果
も精力的に行っている。三次元的に規則配列した孔
を有するシリカまたはポリイミドの多孔質膜とプロトン
伝導性のポリマーからなるコンポジット膜が燃料電池
規則配列多孔構造体と機能性材料の複合化
用電解質として極めて高性能な特性を有することを見
電気化学的なエネルギー変換デバイス ( リチウム電
プロトン伝導性 (0.1 S cm-1) を有し、Nafion®膜の 4
池、燃料電池、キャパシタ ) を固体系で創製すること
倍以上のメタノール透過抑止能を示すことから、ダイ
で、新しい市場を開拓し未来社会への貢献を目指し、
レクトメタノール燃料電池の電解質膜として有望であ
固体系電気化学デバイスの創製に関する研究を推進
る。現在性能を 20 倍以上に向上させた膜の開発に
している。本プロジェクトの特徴は、規則的な孔を有
取り組んでいる。
する材料を作製し、その孔内部に異なる性質を有す
また、逆オパール構造を有する多孔性炭素電極と
る材料を三次元的に規則化された状態で充填・複合
イオンゲルの複合化に成功し、この複合電極の電気
化させる点にある。この材料設計概念に基づき、リ
二重層容量はイオン液体を用いた際と同程度かそれ
チウム電池の電極、燃料電池の電解質膜、キャパシ
以上の値を示すことを見いだし、電気二重層キャパシ
タ用電極の創製を目指し研究を行ってきた。これまで
タの全固体化に目処がついた。Al 電解コンデンサ電
に、いくつかの新規多孔性材料の開発を報告してき
極の開発についても大きく進展した。細孔配列を有す
たが、平成 17 年度は規則配列多孔体に機能性材料
るポリマーマスクを Al 箔表面に形成した後、Al に対
を充填し、リチウム電池の電極システムや燃料電池
して貴な金属を表層に薄く形成することにより、電解
用の電解質膜の作製を行った。
エッチング時にトンネルピットの深さ方向の成長が促
いだした。今回開発した膜は Nafion®膜よりも高い
図1 はリチウム二次電池正極材料 LiMn2O4 の球
進されることが見出された( 図2)。これにより、理想
状粒子から構成される多孔性電極とリチウムイオン伝
容量を有する電解コンデンサを作製するための基盤
導性ポリマー電解質を複合化した後の電子顕微鏡写
技術の確立が終了した。
真である。この全固体複合電極を用いて全固体リチ
今後は上記の研究成果をもとに、全固体型リチウ
ウム二次電池の室温作動に成功した。同様にセラミッ
ム二次電池、固体高分子形燃料電池、電気二重層キャ
クス電解質を用いた全固体電池についても電池の作
パシタ、Al 電解コンデンサなどのエネルギー変換デバ
製が可能になりつつあり、電池の新しい展開を発信
イスの試作を行い、目に見える形に仕上げる。また、
しつつある。また、燃料電池用新規電解質膜の開発
具体的な実用を念頭に産業界との連携を高める。
図 1 球状 LiMn2O4 からなる多孔性正極とポリマー
電解質複合体の電子顕微鏡写真。
図 2 ガルバニック腐食を用いたトンネルピット配列の形成
a)Cu 蒸着後のマスクパターン,b) 電解エッチング後 ( レプリカ傾斜像 )
●
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 金村聖志チーム
←ON
&
アラブが育てた元気印
↓OFF
向坊 仁美 Hitomi MUKAIBO
早稲田大学 理工学術院
日本学術振興会特別研究員 PD
E-mail : [email protected]
URL: http://mukaibo.tiyogami.com
をしたりして ) 親に叱られたりもしていた。今の私の素
地を作り上げた大切な時代であり、のびのび(かつ厳し
く)育ててくれた両親に心より感謝をしている。
■プロフィール
研究の道を選んだきっかけ
2002 年 3 月 早稲田大学理工学部応用化学科 研究の道を選んだきっかけは両親の「( 博士課程
卒業
に ) 行けばいいじゃない」という一言である。一
(当時は太い眉毛がチャームポイント、めがねをか
けるとハリーポッターに変身┏◎ - ◎┓)
2004 年 3 月 早稲田大学大学院理工学研究科
応用化学専攻 修士課程 修了
(S 社の最終面接まで就職活動が進んでいたが、
周囲に説得され、進学することに )
2006 年 3 月 早稲田大学大学院理工学研究科 応用化学専攻 博士後期課程 修了 博士(工学)
(2 年で卒業! 2005 年の冬は廃人寸前・・・ 飲み干した栄養ドリンクは数知れず)
文で話が終わってしまったので、与えられたテー
マとは違うがここでは研究の道を歩み続けている
理由についてまじめに書きたい。
(研究の道を歩み続けている理由 )
研究に本気で携わるようになり、今はこの道が好
奇心の探究と社会貢献を同時に実現しうる、奥の深
い道だと感じている。今まで世界中の研究者が積み
重ねてきた知見を学び、それを自分の中で組み替え、
自分のテーマと照らし合わせ、答えを探る。仮説を
立てて、それを試す。失敗を何度も何度も何度も繰
り返す。やっと答えに辿りついたとき、あまりの嬉
2006 年 4 月 日本学術振興会特別研究員 PD
しさに空を飛べそうな気持ちになる(こともある)。
・・・早稲田大学理工学術院にて研究を遂行
現在に至る
そんな、頑張った分だけ報酬があるところが気に
入っている。また、現在の研究テーマは蓄エネルギー
デバイスを扱っており、ここで優れた成果を出すこ
子供の頃
とは社会のニーズに応えることにもつながると信じ
ている。なかなか期待通りの結果が出ずに苦しいと
東京で生まれ横浜で 5 歳まで過ごした後、父の仕事
きもあるが、それでこそ頑張る価値があると、より
で 10 年間の子供時代は砂漠と海に挟まれた、高層ビ
一層のやり甲斐を感じている。
ルが立ち並ぶ俄か都市 - アブダビ ( アラブ首長国連邦 )で過ごした。11 歳までインターナショナルスクールに通
CREST プロジェクトに参加して
い、インドの子と大親友かつ恋のライバルになるなど、
国際性豊かな (?!) 甘酸っぱい小学生時代を過ごした。
本プロジェクトに参加してみて一番強くメリッ
その後日本人学校へ転校、同級生が3~6人という和
トとして実感しているのは他大学の研究グループ
やかで小さな家族のようなコミュニティに入った。バス
とのつながりが生まれたことである。論文で名前
ケ、テニス、スキーに水泳、お泊り会や釣り大会とよく
だけ知っていた先生方や若手研究者と目を見て
遊び、よく調子に乗りすぎて ( 担任の教師に空手キック
ディスカッションすることで、自分の研究の更な
︱
2 0 0 6 . Vo l . 4
●
金村聖志チーム
る発展につながるような刺激を受けることができ
た。知人が増えたのも、貴重な財産になっている
と感じている。また本プロジェクトに参加するこ
とで、プロジェクトが掲げている目標を実現させ
る研究成果が出せるようにとモチベーションの向
上にもつながっている。私が携わっている研究が
国の発展につながるものとして採択されたのは私
にとって名誉であり、残された期間も精一杯頑張
りたい。
■研究成果
Fig. Cycle performance of NixSny alloy anode with
different Sn composition.
研究歴の紹介
いから詳細に比較検討した.その結果、電極中に
純 Sn 相が存在することは充放電に伴う著しい容量
2003 年 9 月1 ヶ月 海外派遣(イタリア ローマ大
化学科 Bruno Scrosati 教授研究室)
発表論文:
“Optimized Sn/SnSb lithium storage
劣化を引き起こすこと、特にリチウムが充放電時
に負極と反応する際、Sn が可逆的に Ni と合金化・
脱合金化することが良好な負極特性につながるこ
materials”, H. Mukaibo et al., J.
とを明らかにした。
Power Sources, 132, 225 (2004).
以上の成果は、高次規則配列複合構造体を作製す
2006 年 3 月 早稲田大学大学院理工学研究科博士
後期課程 修了
博士論文:
“D e v el o p me n t of N ov e l S n Ba s e d
Anode Materials for High Energy
る際の材料選定指針として本チームに寄与している。
発表論文: H . M u k a i b o , T . M o m m a , M .
Mohamedi and T. Osaka, J. Electrochem. Soc., 152,
A560 (2005).
Li Ion Battery and its Analysis of
Electrochemical Reactions”
2006 年 4 月 - 現在 日本学術振興会
他2件
■夢を語る
特別研究員 (PD)
研究題目:
“リチウムイオン二次電池の更なる高性
私の夢は、世界に通用する研究をして、世界を
能化に向けた新規負極材料の開発と
股に駆ける研究者になることである。自分個人の
評価”
小さな好奇心に納まらず、10‐50 年後の社会にお
(早稲田大学にて研究を遂行中 )
いて、出来るだけ多くの人々に貢献できるような
CREST での研究成果
研究をしたい。現在私が携わっている蓄エネルギー
デバイス関連の研究は私の夢につながる内容だが、
恥ずかしながらまだ 10 年後や 50 年後の社会を見
私は本チームにおいてリチウムイオン二次電池
据えた判断が出来ない。現時点では、まだ夢につ
用の材料開発を担当し、特に高いエネルギー密度
ながるような具体的なビジョンを模索している段
を有する負極材料の開発を目的としている。
階である。頑張ってはみるものの、まだまだ自分
電析法により初期構造が主に Ni3Sn4 合金相であ
の発想力や先見性に限界を感じている。将来を見
る Ni xSn y 合金薄膜(Sn 含有量が 62 at.%)を作製
通して最も良い判断ができるように、また、訪れ
することで充放電に伴う電極の劣化を抑制し、従
たチャンスは必ず掴めるように、今は自分の研究
来の炭素負極の理論値の約 1.7 倍高い 650 mAh/g
分野について勉強しつつ、視野をより広く持つこ
のエネルギー密度を達成した(Fig. 参照).高いエ
と、また見聞をより広めていくことを意識して日々
ネルギー密度に寄与している Sn の、含有量に伴
研鑽を積んでいる。
うサイクル特性の違いを充放電時の構造変化の違
●
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 金村聖志チーム
ナノ構造を制御するための
多孔体作製技術
棟方 裕一 Hirokazu MUNAKATA
首 都 大 学 東 京 大 学 院 都 市 環 境 科 学 研 究 科 CREST 研究員
厳かな感じがして好きでしたが、大学、大学院と
E-mail:
[email protected]
■プロフィール
進学するにつれて徐々に内容が理解できるように
なり、今では手放せない本となっています。
CREST プロジェクトに参加して
1999 年大阪大学工学部応用自然科学科卒業
2001 年大阪大学大学院工学研究科物質化学専攻
博士前期課程修了
2004 年大阪大学大学院工学研究科物質化学専攻
博士後期課程修了
2004 年博士研究員として CREST プロジェクト
に参加
買って貰いました。当時は理解できないところが
実用というキーワードを意識して研究を進め
るようになりました。もちろん学問的な面白さも
必要ですが、その結果を如何に社会に還元できる
かということを考えるようになりました。各分野
で活躍されている方々と活発なディスカッション
ができる環境、特にチーム内の気軽にディスカッ
現在に至る
ションできる雰囲気が研究を推進する大きな原動
力となり、さらには自分自身のスキルアップに繋
子供の頃
がっていると感じています。
小学生の頃は生き物が大好きで昆虫採集、魚釣
りなどをよくしていました。いろいろな仕掛けを
作って遊んでいたのを覚えています。日曜日の昼
食は子供が買い物に行ってみんなの分を作るとい
う決まりがあり、今、趣味の料理はこの頃の習慣
■研究成果
研究歴の紹介
が元になっているのかも知れません。とにかく何
かを作ってみんなを楽しませるのが好きでした。
研究の道を選んだきっかけ
学生時代には自己組織化と電気化学的手法を組
み合わせ、表面構造がナノレベルで制御された修
飾電極の創製をテーマに研究を行っていました。
電極上の分子の配列状態や相分離構造が修飾電極
小学校の頃からぼんやりと理系に進みたいと考
の機能性にどのように影響するかを明らかにし、
えていましたが、本格的に研究職に就きたいと思っ
バイオセンサー等への展開を行いました。また、
たのは中学生の時です。両親に連れて行ってもらっ
疑似生体膜を電極上に形成し、生体反応をベース
た化学展で形状記憶ポリマーや磁石にくっつく液
に電気エネルギーを取り出すというバイオ燃料電
体酸素などを見て感動したのが大きなきっかけだ
池に関係する取り組みも行っていました。博士取
と思います。自分もこんなおもしろい材料や現象
得後、本 CREST プロジェクトに参加させていた
を見つけてみたいと強く思った記憶は未だにしっ
だきました。ナノ構造を制御して機能性を発揮さ
かり残っています。その後、全く理解できないの
せるという点で一貫していますが、取り扱う電流
にもかかわらず分析化学データブックなるものを
値が数ナノアンペアから数アンペアへと大きく桁
︱
2 0 0 6 . Vo l . 4
●
金村聖志チーム
が変わり、測定ノイズに敏感だった当初は幾分と
まどいました。もちろん現在では、二つの感覚を
上手く使い分けています。
CREST での研究成果
プロジェクト内では、多孔体作製技術を応用し
た燃料電池用電解質膜の開発を主に担当していま
す。多孔体をシリカで作製し、その孔内に電解質
を導入することで非常に形態安定性に優れた電解
質膜を得ることに成功しました。従来、プロトン
伝導性が高い材料は柔軟性が高く容易に膨潤収縮
するため、膜としての使用が難しいという問題を
抱えていました。また、無機体とコンポジット化
図 1 高次規則配列構造体を応用した燃料電池用
電解質膜。機械的強度の高い多孔質基材、
及び規則配列構造により電解質に高い形態
安定性を付与することができる。
しても膨潤収縮のストレスにより膜にクラックが
生じるという問題がありました。本研究では規則
構造を用いることで、膨潤収縮のストレスを均一
に分散・緩和させ、高い形態安定性の付与に成功
しました。その結果、充填電解質の選択性が大幅
に広がり、Nafion® 膜の十倍以上の特性を安価で
環境負荷の小さな炭化水素系材料を用いて達成す
ることに成功しました。また、得られるコンポジッ
ト膜は自立膜となり、膜を支持するためのセパレー
ターが不要となるため、燃料電池の小型軽量化へ
の展開が期待できます。
図 2 シリカ多孔質膜の外観と断面構造
コンポジット膜の特性をさらに向上させるため
の取り組みとして、シリカ多孔体の表面修飾につ
いて検討を行っています。スルホン化したシリカ
多孔体を用いた一部のコンポジット膜で、導入し
たスルホン酸基量に比べて二桁以上大きな伝導性
の向上が観察され、シリカと電解質の界面に新規
なプロトン伝導パスが形成されたことを示唆する
非常に興味深い結果が得られました。この界面伝
導パスは低温あるいは中温無加湿といった環境下
でのプロトン伝導の切り札となる可能性があり、
今後さらなる研究を進める予定です。
■夢を語る
世界をリードする研究者になりたいと思ってい
ます。一般の人にもわかりやすく且つインパクト
図 3 スルホン酸基修飾シリカ - 電解質界面に形成
されるプロトン伝導パス
のある研究を行い、できれば何かしら製品として
その成果を世の中に送り出したいと考えています。
●
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 金村聖志チーム
「明るく、謙虚に、逞しく」研究を・・・
小久保 尚 Hisashi KOKUBO
横浜国立大学 大学院工学研究院 助手
E-mail: [email protected]
ます。感謝の気持ちで一杯です。
CREST プロジェクトに参加して
■プロフィール
私は、本プロジェクトが走り出して 1 年経過し
1974 年 9 月 大阪府生まれ(横浜育ち)
1998 年 3 月 東京理科大学 理工学部 工業
化学科卒業
2003 年 3 月 東京工業大学 総合理工学研
究科 物質電子化学専攻 博士
後期課程修了
2003 年 4 月 日本学術振興会 特別研究員
2004 年 9 月 横浜国立大学 大学院工学研
究院 助手 現在に至る
てから参加させていただきました。所属する金村
チームでは数ヶ月に一回のペースで、朝から夕方
までみっちり進捗報告会を行っています。チーム
内のグループは大学関係者で組織されていること
もあり、実際に手を動かしている学生からの発表
が多く活発な議論を行っています。またこの報告
会を通じて、グループ内での研究交流が進んでい
ると感じています。報告会の後には懇親会もあり、
一流の研究者や学生さんと交流が持つことができ、
研究と同様に有意義な週末を過ごすことが出来ま
子供の頃
す。本 CREST プロジェクトは、同じ目的を持っ
とにかく見たものに影響されやすい子供でした。
たグループが集まり意見交換をして研究推進を図
影響されたもの:①西部警察の長さん(小林昭二
ることが出来る以外にも、新たな人間関係を構築
さん) ②ドリフの志村 ③サーカスの空中ブラン
できることが学生を含めたチームメンバー全員に
コ(公園でブランコに乗って両手を離して転倒 →
とって、貴重な財産であると強く実感しておりま
流血 → 病院直行)④現役時代の原監督がチャン
す。
スで三邪飛に倒れる時のアッパースイング(現在
に至る…)。両親はこの影響されやすい性格を見越
して、当時流行っていたプロレス中継を絶対に見
せてくれませんでした。(今は大好きです☆)
研究の道を選んだきっかけ
■研究成果
研究歴の紹介
卒業研究では TTF(テトラチアフルバレン)と
陰イオンが形成する電荷移動錯体、すなわち電子
何となく入った大学、何となく進んだ大学院な
を流す有機物質(=有機伝導体)を扱っていました。
ので、多くの方々と違い志は低かったです。M 1
応用を考えた場合、高分子が面白いと当時の先生
の時に自分の中味の無さに気が付いて、一念発起!
に伺い、大学院からは導電性高分子の世界に足を
一心不乱に実験をした記憶があります。気が付い
踏み入れました。
た時には、周りは就職先が決まっているので、自
大学院で最初に与えられたテーマは代表的な導
分は腹をくくってドクターコースに進学しました。
電性高分子であるポリチオフェン類に関する電気
大学院では、運良く素晴らしい先生方に出会うこ
化学的・光学的物性の合成と評価でした。導電性
とができ、切磋琢磨しあえる仲間達に恵まれたこ
高分子は、これまで「高分子(=プラスティック)
とが、研究の道に踏み込んだ大きな理由だと思い
は絶縁体である」という自分が抱いていた常識を
10 ︱
2 0 0 6 . Vo l . 4
●
金村聖志チーム
覆す現象を、実際に体感して感動したものです。
呼ばれる電気エネルギーを力学的エネルギーに変
さらに感動は続きました。導電性高分子のように
換するデバイスを見出してきました。私は本グルー
π電子系が発達した高分子(π共役高分子)は、
プの中で、このアクチュエータ開発に携わってい
特徴的な電気的特性の他にも、刺激に応じて色を
ます。
変化させたり、発光を示したりするものまである
イオン液体はイオンのみから構成される室温で
のです。感性だけで生きてきた私にとって、視覚
液体状態の物質です。この電解質液体をゲル化さ
に訴える現象の連続にπ共役高分子の虜となるの
せた「イオンゲル」の両端に炭素材料を貼り付け
に時間はかかりませんでした!
電極として、アクチュエータ素子を組み立てます。
π電子系が織り成す光の世界に魅了され、ポス
乾電池程度の電圧を電極に印加することで、短冊
ドク時代には水溶性ポルフィリン誘導体の合成を
状の素子(イオンゲルアクチュエータ)はアノー
行いました。とにかくポルフィリン合成は精製が
ド方向への変位を示します。本アクチュエータは、
困難であることを実感し、カラム・再結晶の腕が
電極界面の電気二重層にたまった電荷が変位に大
格段に向上しました。
きな役割を果たしているものと考えていますが、
学生~ポスドク時代は「電子」が示す性質につ
駆動メカニズムの詳細については未解明です。
いて研究していましたが、現在では「イオン」が
関わる性質がメインとなっています。この世界も
現在、本アクチュエータの変位量や応答速度な
本当に奥が深いなぁと、強く実感しています。
どの高性能化に加え、駆動メカニズム解明に向け、
CREST での研究成果
私が所属する金村チームの渡邉グループは、新
しいポリマーイオニクス材料及びナノ構造材料を
グループメンバーと共に活発に議論しているとこ
ろです。
■夢を語る
開拓すること、すなわちイオン液体と三次元規則
配列多孔質炭素材料とのハイブリッド化によって、
電気二重層キャパシタ、リチウム系二次電池、燃
料電池などの新規エネルギー系を構築することを
目的としています。当グループでは、電気二重層
(夢は大きく!)
アーティストのように… 人に感動を与え
られる研究をしたい!
キャパシタの研究の過程で、「アクチュエータ」と
●
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 11
金村聖志チーム
転写技術を用いて新しい材料
を創る
西尾 和之 Kazuyuki NISHIO
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 助教授
E-mail: [email protected]
辺の峠をめぐるようになりました。同時に、「ラン
ドナー」と呼ばれていた旅行専用の自転車やその
部品にあこがれ、普段は自転車雑誌やカタログを
繰り返し見ながら、理想の自転車の部品構成をあ
れこれ考える日々でした。高校入学と同時に手に
■プロフィール
入れた念願の自転車で、時には野宿をし、時には
山道に入り、色々な所へ行ったのが少年後期 ( ~青
1993 年 3 月 東京都立大学大学院 工学研究科
修士課程を修了
1993 年 4 月 コニカ株式会社 ( 現コニカミノル
タ ) に勤務
1999 年 4 月 東京都立大学大学院 工学研究科に
助手として着任
年期 ) の思い出です。
研究の道を選んだきっかけ
もともと理科が好きだった事もあり、大学は化
学系 ( 将来の就職を考えて工学部 ) を選びました。
入学後は暇をみつけては様々なアルバイトをしま
したが、日給の良さで飛びついた、自動車工場で
の単調な作業が精神的にかなりしんどかったこと
2002 年 11 月CREST 金村チーム、益田グルー
プに参加
2005 年 4 月 首都大学東京 都市環境学部 准教
授 現在に至る
から、就職の際は創造性のある仕事に就きたいと
考えるようになりました。この思いは、所属した
研究室で「世界で初めての物を創り出す」喜びを
感じてから更に強くなりました。ちなみに、研究
室を選んだ最大の動機は、趣味でアルミニウム合
金製の自転車のパーツを磨いていたときに表面の
子供の頃
硬い皮膜を苦労して剥がしていたのですが、その
学区の細分化により新設の小学校に通うように
皮膜には、実は非常に細かい孔が沢山あいている
なった 4 年生までは、2 キロ程離れた学校まで毎日
事を学生実験で知り、驚きつつ興味を持った事に
歩いて通っていました。帰り道は当然のこと、行
あります。企業に就職した後に大学に転職したの
きもよく友達と道草をしました。遅刻をした記憶
は「運」( 運命? ) です。
は無いので、( 親の配慮で ) 早めに家を出されてい
たのではないかと思います。4 年生の時には、無謀
CREST プロジェクトに参加して
にも硬式の野球チームに入り、卒業までの約 3 年間、
本格的な練習で軟弱だった心身を ( 若干 ) 鍛えても
CREST プロジェクトは、目的は 1 つ ( エネルギー
らいました。その頃は特に趣味はありませんでし
の高度利用 ) ながら、非常に広範な分野の研究者が
たが、6 年生の秋に自転車で遠出の冒険をする楽し
集まっている事が特徴の 1 つだと思います。オン
さに目覚めて以来、重い自転車をこいで奥多摩近
サイトミーティングは、幅広い研究の最先端の成
12 ︱
2 0 0 6 . Vo l . 4
●
金村聖志チーム
果を聞くことができる、有意義な会議だと感じて
するものです。)CREST では、電解コンデンサの
います。( 余談ですが、本プロジェクトは、「研究
電極に使われている Al 箔のトンネルピットを高規
者のエネルギーの高度利用」にも貢献しているの
則化させ、性能を上げる事を目指しています。そ
ではないでしょうか?? )
の手法の1つとして、印刷の技法を利用し、Al 箔
の表面に細孔配列を有する薄いマスキングフィル
ムを転写し、マスクの開口部で Al の電解エッチ
■研究成果
ングを行ってトンネルピットを配列させる研究を
CREST での研究成果
行っています (図1)。半導体単結晶の電解エッチン
グによるトンネル状ピットの高規則配列の形成例
は、ポーラス Si に代表されるように数多くありま
これまでに行ってきた研究は、陽極酸化ポーラ
すが、金属材料では当グループでしか報告されて
スアルミナを代表材料とし、3 次元、あるいは 2
いません。本研究では、マスクを形成した Al 箔の
次元で構造を転写する手法による新規材料の作製
表面に Cu を微量析出させることにより、トンネ
です。( 企業勤務時の研究対象であった印刷版も、
ルピットの高規則配列を得ることが可能となりま
印刷版→ゴムローラー→紙へと、神業と思えるほ
した (図2)。
どの速度および精度でインキの 2 次元構造を転写
図 1 マスキングフィルムのプリントによる Al 箔トンネルピット配列の制御手法
■夢を語る
面白い構造が面白い材料ででき、それが面白い
特性を示し、更に、社会の役に立つ事ができれば
最上の喜びとなります。いつか、「人々の生活を
支える」化学に直接貢献できればと思います。
図 2 Al 箔に形成された高規則トンネルピット配列
の例 ( 酸化物レプリカの SEM 像 )
●
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 13
金村聖志チーム
美しい 3 次元規則配列多孔材料を用いて
エネルギー変換デバイスの高効率化を実現
獨古 薫 Kaoru DOKKO
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 助手
E-mail: [email protected]
■プロフィール
研究の道を選んだきっかけ
1973 年11月
福島県生まれ
東北大学の学部生のときに受けた内田 勇 教授
1997 年 3 月
東北大学工学部分子化学工学科
のエネルギー変換に関しての講義が印象深く、化
卒業
学エネルギーを電気エネルギーに直接変換するこ
2001 年 4 月
日本学術振興会 特別研究員
2001 年 9 月
東北大学大学院工学研究科応用
化学専攻 博士後期課程修了
2001 年 9 月
博士(工学),東北大学
2002 年 5 月
Case Western Reserve
University 化学科 客員研究員
2003 年 4 月
2004 年 4 月
2006 年 5 月
東北大学大学院工学研究科応用
とができる電池や燃料電池の研究を行ってみたい
と考え、内田研究室を希望しました。研究室に配
属されてから電気化学を勉強し、先輩方の手ほど
きを受けながら実験をしているうちにもう少し本
格的に研究してみようかと思うようになり、博士
課程に進学しました。博士課程を修了した後、も
化学専攻 寄附講座助手
う少し外の世界を見てみようかと思い、アメリカ
科 学 技 術 振 興 機 構 CREST 研
に留学しました。私には計画性というものが無い
究員
ようで、特別なきっかけはなかったように思いま
首都大学東京都市環境学部材料
化学コース 助手
すが、気がついたら研究の道を選んでいたという
のが正直なところです。
子供の頃
CREST プロジェクトに参加して
私が小学生のころは実家の周辺は田んぼだらけ
2004 年 4 月から CREST プロジェクトに金村チー
で、まさに自然がいっぱいの環境で育ちました。
ムの博士研究員として参加し、2006 年 5 月に首都
野球やサッカーなどもしましたが、私が得意だっ
大学東京の助手に採用されました。金村チームの
たのはザリガニ釣りでした。実家の近くの田んぼ
CREST 研究に 3 年間携わっていることになります。
の用水路にはアメリカザリガニや小魚がたくさん
この CREST プロジェクトに参加して、研究費も
いて、仲の良い友達と毎日のようにザリガニ釣り
潤沢で研究を進める環境は十分に与えられた中で
に興じていました。夏にはカブトムシやクワガタ
思うことは「どれだけの研究成果を残せるのかを
を捕るために早朝 5 時に起きて、嬉々として近く
試されているのだ」ということです。チームの期
の雑木林に出かけていました。子供のころから生
待に応えるべく、がむしゃらに走り続けてきたよ
き物が好きで、小中学生のころは理科だけは何も
うな気がしますが、3 年間で 20 報以上の論文を発
しなくても成績がよかった記憶があります。
表させていただき、自分のキャリアアップにもつ
ながっていると思います。
14 ︱
2 0 0 6 . Vo l . 4
●
金村聖志チーム
質とした全固体型リチウム二次電池への期待が高
まっています。金村グループでは日本曹達㈱との
■研究成果
共同研究により、ポリマー電解質を用いた全固体
型リチウム二次電池の室温作動に成功しました
研究歴の紹介
(Electrochem. Solid-State Lett., 8, A385 (2005).)。また、
セラッミクス電解質を用いた全固体リチウム二次
東北大学大学院時代からこれまで電気化学を主
電池の研究開発も進めています。全固体型リチウ
な専門分野として研究を行っています。大学院生
ム二次電池に関する研究成果については、これま
時代には、マイクロ電極を用いてリチウム二次電
でにも金村 聖志 教授が News Letters で紹介してい
池の電極活物質の微粒子(粒径 10 ミクロン程度)
るので、本稿では 3 次元規則配列構造を有する炭
の電気化学特性の解析を行いました。具体的には、
素材料の開発について紹介させていただきます。
リチウム二次電池の正極材料である LiCoO2 や負
3 次元規則配列マクロポーラス構造を有する炭
極材料であるグラファイトなどの粒子表面での電
素材料の合成についてはこれまでにも報告例があ
荷移動過程や粒子内でのリチウムイオン拡散過程
りましたが、金村グループではコロイド結晶鋳型
の解析など基礎的な検討を行いました。博士課程
法によりマクロ孔だけではなく、メソ孔も制御さ
を修了した後、アメリカの Case Western Reserve
れた新規な多孔構造を有する炭素材料の開発に成
大学の Prof. Daniel A. Scherson のもとでマイクロ
功しました (Chem. Commun., 4099(2006).)。合成し
電極の in situ ラマン分光測定に関して 1 年間研究
たポーラスカーボンの電子顕微鏡写真を図1に示
を行いました。首都大学東京の金村グループに参
します。このポーラスカーボンは 3 次元規則配列
加してからは無機材料合成にも力を注いでいます。
したマクロ孔 ( 孔径 400 nm) の壁面が孔径 10 nm
CREST での研究成果
程度(図2)のメソ孔で構成された特異な構造(図3)
をしており、大きな比表面積(1000 m2/g 程度)
を有しています。鋳型のサイズを選ぶことにより
私は金村グループで全固体型リチウム二次電池
マクロ孔とメソ孔のサイズを独立に制御すること
に関する研究と 3 次元規則配列多孔性材料の開発
が可能です。このカーボンを電気化学キャパシタ
を担当しています。最近、リチウム二次電池の発
やリチウム二次電負極材料として応用することに
火事故が相次ぎ、電池の安全性向上が求められて
より、高速充放電が可能な蓄電デバイスの創製を
おり、ポリマー電解質やセラッミクス材料を電解
目指して研究開発を行っています。
図1 3 次元規則配列マクロポーラス構造を有する炭素材料の電子顕微鏡写真
●
●
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金村聖志チーム
図2 3 次元規則配列マクロポーラスカーボンの細孔径分布
図3 3 次元規則配列マクロポーラスカーボンの細孔構造の模式図
■夢を語る
3 次元規則配列多孔構造体の電子顕微鏡写真は美
しい。
「美しいものはきっと何かの役に立つ」と信じて
研究を行っています。一生に一度でも実用化されるよ
うな研究をできれば幸運ですが、学問的なエレガント
さ、美的センスも忘れずに研究を行っていきたいと思
います。金村チームで開発した 3 次元規則配列多孔
材料がリチウム二次電池、電気化学キャパシタ、燃
料電池のどれかの部材として将来実用化されるもの
があれば幸いです。
16 ︱
2 0 0 6 . Vo l . 4
●
木島剛チーム
高機能ナノチューブ材料の創製と
エネルギー変換技術への応用
研究代表者
木島 剛 Tsuyoshi KIJIMA
宮崎大学 工学部物質環境化学科 教授
E-mail: [email protected]
平成 17 年度研究成果
本研究チームは、二種類の界面活性剤を用いる
ング剤としても機能していることを明らかにする
複合鋳型法など独自の手法に基づいて白金および
とともに、イオン性2D 液晶の反応場として新規
高分子ナノチューブならびにナノカーボン等の関
の白金ナノ粒子を合成しました。
連するナノ構造体を作製する技術を確立するとと
もに、これら新規素材を燃料電池用触媒と電解質
ならびに電気二重層キャパシタに応用することを
2.高分子・カーボンナノ材料の開発に関
する研究
ねらいとしています。さらに、新規の有用ナノ材
料を複合鋳型法により創製することも重点課題の
鋳型法によりレゾルシノール系高分子ナノワイ
一つです。
ヤおよびナノスフィアを合成し、形態を保持した
1. 白金系新規ナノ材料の開発に関する研究
ままカーボンへ変換する技術を新たに開発しまし
た。形状・寸法のよく揃った単分散型カーボンの
合成にも成功しました。さらに極く微量ながら螺
今年度においては、先に見いだしたスポンジ状
旋状カーボンの生成も認められ、本プロセスは極
白金ナノ粒子が、3次元(3D)複合液晶系で特
めて有用なナノカーボン合成法に発展する可能性
異的に生成し、幅〜 1nm の網状溝という特徴ある
があります。積層型キャパシタ材料としてのカー
構造を有する単結晶質ナノシートであることを明
ボンブラッックの内部電荷分布関する新たな知見
らかにし、改めて白金ナノグルーブ (nanogroove-
も得られています。
network structured platinum) と命名しました
(Adv. Mater. 印刷中)。Tween60 単独系液晶から
生成した多結晶体の2D- デンドライトに 200keV
対して、単結晶質であるナノグルーブでは、網状
溝を含めた形態変化が全く観察されず、熱的に高
い安定性をもつことを示しています。また、これ
を担持したカーボンはサイクリックボルタンメト
有の露出結晶面の関与が認められており、現在、
この白金ナノグルーブ担持カーボンをカソード電
極とする MEA を作製し、その評価を進めていま
す。さらに、2D および3D 液晶場での白金ナ
t=20min
ナノグルーブ
リー測定で高い酸素還元活性を示すとともに、特
t=0min
デンドライト
電子線を照射すると、樹枝間融合が進行するのに
ノ構造体の生成機構を検討し、鋳型成分が白金の
チューブ状あるいはシート状成長を促すキャッピ
白金ナノ粒子への電子線照射(t: 照射時間)
●
●
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木島剛チーム
電気は貯めるが、ストレスは
貯めない
田島 大輔 Daisuke TASHIMA
宮崎大学大学院工学研究科
電気エネルギー工学講座電力研究室
博士後期課程 2 年
E-mail : [email protected]
■研究成果
■プロフィール
2003 年 宮崎大学工学部電気電子工学科卒業
2005 年 宮崎大学大学院工学研究科博士前期課程修了
宮崎大学大学院工学研究科博士後期課程入学
2006 年 現在に至る
子供の頃
子供の頃はサイエンスにはあまり興味がなく、
むしろ天文学や考古学に興味を持っていた。天文
学に関しては、特に夜散歩をして星を観察するこ
と好きで、晴れている日は父と一緒に星の観察を
することが多かった。考古学に関しても、恐竜の
化石に関するテレビ番組には大変興味を持ち、川
に遊びに行ったときは石を割って動物や植物の化
石を探していた。サイエンスに興味を持ち始めた
のは高校生になってからである。
研究の道を選んだきっかけ
研究者への道を選択したのは 2 年前で、私と指導
教員である大坪教授の意思が一致した時であった。
私が担当している電気二重層キャパシタの開発に関
する研究は私が学部 4 年生のときに新規で始まった
研究で、学部 4 年生から修士 2 年生までの 3 年間で
自分が納得いく研究成果が得られなかった。そのた
め、このままでは研究は終われないと自分自身で感
じ、博士後期課程へ進学したいという意思が強くな
り、研究者の道へ進んだのである。
CREST プロジェクトに参加して
私が思う CREST プロジェクトとは、自分がし
たい研究を思う存分させてくれるところで、特に
研究設備に関しては、プロジェクト参加前と比較
して、かなり充実したものとなった。このプロジェ
クトに参加しなければ、現在の研究成果も得られ
18 ︱
ていないだろうし、私自身、博士後期課程へも進
んでいないと思う。CREST プロジェクトは私の人
生を変えた場所でもある。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
CREST での研究成果
電気二重層キャパシタの蓄積電荷の可視化と高性能化
(1)電気二重層キャパシタ内部の空間電荷分布測
定による蓄積電荷の可視化
電気二重層キャパシタ内部にどのように電荷が
蓄積されているのか。現在、本グループにおいて
明らかにされ、蓄積電荷を直接観察するシステム
の開発を行っている。(図1) 本装置では、測定
サンプルにパルス電圧 (2.5ms,600V) を印加すると
, 試料中の蓄積電荷が静電応力を発生し、それによ
り弾性波が絶縁体中を伝導し圧電素子に到達する。
圧電素子から電気信号を出力し、検出インピーダ
ンスにより電圧信号に変換してオシロスコープで
波形観測するという原理である。圧電素子にはニ
オブ酸リチウム (LiNbO3: Lithium niobate) を使用し
ている。測定サンプルには試作した電気二重層キ
ャパシタを用い、厚み 30µm の集電極 2 枚、厚み
150µm の分極性電極 2 枚、厚み 20µm のセパレー
タ 1 枚から構成され、全ての厚みは 880µm である。
試作電気二重層キャパシタに直流電圧を 2.5V 印加
し、充電時間は 20 秒とし、測定を行っている。図
1において、弾性波が圧電素子に到達した時間と
音速を用いて、厚みに変換し、最初に検出された
信号を厚みに変換した値を位置 0 と表示した。左
側の位置 200 μ m の点線は負極側を示しており、
右側の位置 580 μ m の点線は正極側を示してい
る。この図から、電気二重層領域の複雑な電荷分
布は観測することができなかった。この理由とし
て、正電荷と負電荷が共存している部分において、
電荷の打ち消しが現れたものと考えられる。電荷
の打ち消しがどれほど空間電荷分布測定に影響を
木島剛チーム
与えるかは現在検討中であり、今後の課題となっ
ている。しかし、電解液中の BF4- と電極内の電子
に対応する負電荷と電解液中の (C2H5)4+ と電極内
の正孔に対応する正電荷の割合が時間の経過と共
に上昇し、観測されていることから、炭素細孔内
の正電荷と負電荷の平均的な空間電荷分布として、
電荷の蓄積状態を観察することができる。1 ドッ
トが幅 4µ mにおける空間電荷密度を示し、厚み方
向に積分すると電気量が計算できる。この空間電
荷密度は炭素細孔内の電荷に対応していると考え
られ、分極性電極内部の体積電荷密度の最大値が
高く、ピークの幅が広いほどほど、蓄積電気量が
多いことになる。
(2)導電材にケッチェンブラックを用いた大容量
キャパシタの開発
電気二重層キャパシタは電気を取り出す集電極、
電荷を蓄積する分極性電極、高い絶縁性能を有し
イオンのみを通すセパレータ、充放電において重
要な因子となる電解液から構成され、分極性電極
は活性炭、バインダー、導電性材料を配合して作
製される。分極性電極に配合される導電性材料に
は、現在、アセチレンブラックが使用されている
が、アセチレンブラックは高価であるなど、電気
二重層キャパシタの価格低減のためには、安価な
導電性材料を使う必要がある。また、電気二重層
キャパシタの欠点である低いエネルギー密度を克
服するために静電容量を大きくする研究が行われ
ており、電気二重層キャパシタの静電容量増加の
ためには、比表面積を大きくする必要がある。特に、
電気二重層を形成するメソ孔 ( 細孔径 :2 ~ 50nm)
の分布割合を大きくすることによって、効果的に
蓄積電気量が増えると考えられる。そこで、本研
究グループでは、導電性材料に、安価で比表面積
が大きな導電性材料であるケッチェンブラックを
適用することで、蓄積電気量を増加させることを
目的とし、研究を行っている。その結果、導電性
材料として、ケッチェンブラックを配合した電気
二重層キャパシタの分極性電極の特性がアセチレ
ンブラックを配合した電気二重層キャパシタより
も優れていることが分かった。
(3)プラズマを用いた電気二重層キャパシタ用カ
ーボン電極の物性制御
プラズマを用いて電気二重層キャパシタ用カー
ボン電極に窒素ドープを行うことで、静電容量を
向上させることが可能となる。電気二重層は空間
電荷層、ヘルムホルツ層、拡散層から構成される。
通常、空間電荷層の容量はほぼ零に等しいが、カ
ーボン電極に窒素をドープすることによって空間
電荷層容量が増加する。これは、真性半導体に近
い状態であるカーボン電極が窒素をドープするこ
とによって半導体に近い状態となり、キャリア濃
度が増加し、空間電荷層容量が増加するためであ
る。そこで本研究グループではプラズマを用いて
キャパシタ用のカーボン電極を表面処理すること
によって、炭素材料電極の表面状態を変化させ、
かつ、窒素ドープを行い、分極性電極の特性を向
上させることを目的とし、研究を行っている。そ
の結果、プラズマ表面処理によって、窒素ドープ
の可能性を示すことができ、また、比表面積の増
大に貢献することが示され、静電容量の向上が期
待できることが分かった。
■夢を語る
今後も地球環境保全を目的として、自然エネル
ギーとナノテクノロジーの両方をキーワードとす
る研究をしたい。
図 1 電気二重層キャパシタ内部の電荷の蓄積状態
図 2 プラズマ
●
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 19
木島剛チーム
会合場を利用した新しいナノ
カーボン材料の創出
藤川 大輔 Daisuke FUJIKAWA
宮崎大学大学院 工学研究科 物質エネルギー工学専攻
博士後期課程3年
E-mail : [email protected]
に就職することを考えていました。そんな中、修
2002 年 3 月 宮崎大学工学部物質工学科卒業
2004 年 3 月 宮崎大学大学院工学研究科博士前
期課程物質工学専攻修了
2004 年 4 月 宮崎大学大学院工学研究科博士前
期課程物質工学専攻入学
私は、現在、宮崎大学大学院博士課程に在籍し
ています。修士時代までは、博士課程へ進学せず
■プロフィール
研究の道を選んだきっかけ
士課程 1 年次の 10 月 ( ちょうど就職活動の時期 )
に、CREST プロジェクトへの参加が決定し、また、
木島先生の勧めもあって、博士課程への進学を意
識し始めました。このとき、世界で初めて成功し
たフェノール系高分子ナノチューブを燃料電池用
日本学術振興会特別研究員 ( ~
の電解質あるいはカーボン前駆体への応用をこれ
2007 年 3 月 )
から図ろうとしていたこともあって、このテーマ
現在に至る。
についてもっと研究を深めたいと思うようになり、
最終的に博士課程への進学を決心しました。
子供の頃
おとなしい子だったと思う。ただ、興味がある
CREST プロジェクトに参加して
ことに熱中しだすととことんやりつづけ、また、
変なところでこだわりを持つ、ちょっと変わった
研究には失敗がつきものですがそれを糧に目的
性格の持ち主だったと思う。( なんとなく、今の研
に向けて近づいていく。これは研究者としては、
究姿勢に影響を与えている気がする。)
当たり前のことだと思うのですが、このプロジェ
クトに参加して、それを自分自身で実践・実感で
きたのは、私の中で大いに自信となりました。最
初のころは、多額の研究資金にみあった研究成果
図 鋳型法によるナノカーボンの合成
20 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
木島剛チーム
を出さなければならないとかなりのプレッシャー
低下させる助剤 (ex. アルコール ) の量を変えてナ
を感じていましたが、今ではそのプレッシャーも
ノワイヤーの前駆体溶液に加えれば、最終生成物
使命感に変わったような気がします。CREST プロ
の形状が、ベシクル構造を保持したまま、チュー
ジェクトでは普通の研究生活では味わえない貴重
ブ状あるいは安定な球状構造へと変化することが
な体験をさせてもらいました。ありがとうござい
予想される。そこで実際に、助剤として tert- ブタ
ました。
ノール (t-BuOH) を用いて反応を行ったところ、予
想通りの形態変化が観察された。このように、添
■研究成果
CREST での研究成果
加剤である NaOH、TMB および t-BuOH の仕込み
比に応じて、多様な形状を持つポリマー粒子が系
統だって生成することが明らかとなった。さらに、
これらポリマー粒子を酸処理した後、窒素雰囲気
下で焼成すると、その形状を保持したカーボンへ
私は、このプロジェクトにおいて、燃料電池・キャ
と変換されることが分かった。また、カーボンへ
パシタなどの新規素材としてのナノカーボン材料
至るまでの合成条件を最適化することにより、形
の開発を目的として、その前駆体となる高分子素
状・サイズともに非常に均一なカーボン粒子が得
材を創り出す研究を進めてきた。本研究では、目
られ、さらに、球状カーボン系では、密にパッキ
的に適った構造・特性とともに、目的物をいかに
ングした集合構造も観察された。また、収量は極
高収率で再現性良く、安くかつ簡単につくるかを
少ないが、コイル状、ツイスト状粒子も確認され
重視し、合成手法の探究を行ってきた。そんな中、
ている。以上のように、本研究で開発したナノカー
レゾルシノール (Res) とホルムアルデヒド (FA) の
ボンの合成プロセスは、今後、添加剤の工夫など
共重合反応機構とメソポーラスシリカ MCM-41 の
によりさらに精密で多様性に富んだ合成技術に発
原料となるケイ素アルコキシドの重合反応の類似
展することが期待できる。
性に着目し、Res/FA 系高分子もシリカと同様に
界面活性剤によってその形態を制御できるのでは
■夢を語る
ないかと考えた。
そこでまず、Res および界面活性剤セチルトリ
プロジェクトの残りの期間で、開発したナノカー
メチルアンモニウムブロミドおよび触媒としての
ボン材料の合成技術の精度を向上させ、実用化に
NaOH を含む水溶液に FA を加え重合させると、
耐え得るレベルまでもっていくのはもちろんのこ
ポリマーシートから成るナノスフィアが生成する
と、新規形状あるいは高比表面積値を持つカーボ
ことが分かった。さらに、このナノスフィアの前
ンを創り出したい。ナノテクの基盤技術・材料の
駆体溶液にシリカの形態制御補助剤として使用さ
一つとして広く認められるレベルまで、できれば
れる 1,3,5- トリメチルベンゼン (TMB) を加えると、
もっていきたい。また、発想の転換により、研究
直径 45-300nm 程度のワイヤー状ナノ高分子が生
がうまく進展した経験を糧として、将来的には、
成することを見出した。このナノワイヤーは円筒
無機、有機、界面、高分子などといった領域の垣
状の多層ベシクル構造を形成しているものと、状
根を超えたところで、世の中の役に立つ材料を作
況証拠から推定したが、その構造の直接観察には
り出したいと考えています。
まだ成功していない。しかし、ミセルの安定性を
●
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 21
木島剛チーム
白金ナノチューブの発見が
人生を変えた
吉村 巧己 Takumi YOSHIMURA
宮崎大学大学院 工学研究科 物質エネルギー工学専攻 博士後期課程3年 E-mail : [email protected].
ac.jp
興味深いテーマが生まれ、修士課程だけで終わる
のはもったいないと思い進学を決意しました。
CREST プロジェクトに参加して
私が博士課程に進むのを決心した時は CREST
■プロフィール
プロジェクトがまだ採択される前で、プロジェク
1979 年 長崎県生まれ
2002 年 宮崎大学工学部物質工学科卒業
2004 年 3 月 宮崎大学大学院工学研究科博士前
ト決定後に様々な装置が増えて試料解析の幅が一
気に広がりました。自分にとって特にプラスになっ
た出来事は透過型電子顕微鏡(TEM)に関連する
期課程物質工学専攻修了
仕事で、TEM の納入時から立ち会い、先輩と自
2004 年 4 月 宮崎大学大学院工学研究科博士後
分が中心となり電顕の保守管理を行えたことです。
期課程物質エネルギー工学専攻入学
2006 年 現在に至る
私は4月から電子顕微鏡に携わる職につきますが、
この経験が大きな自信となりました。
子供の頃
■研究成果
大工をしていて活発な父親にはあまり似ず、私
は高所恐怖症で、かなりマイペースでのん気な毎
研究歴の紹介
日を送ってきたと思います(母方の血が濃い影響
では?)。そして、今思えばどうでもいいようなこ
学部生の時に二種類の界面活性剤(イオン性
とにのめり込む性格で、畑に行くとアリの行列の
+非イオン性界面活性剤)を鋳型として用いた外
観察に何時間も没頭するような子供でした。ただ、
径 7nm、内径 4nm の銀ナノチューブを合成する
父親を見ていたせいか、職人・プロというものに対
ことに初めて成功しました。これが後の白金ナノ
し漠然としたあこがれは持っていました。
チューブの合成へとつながっていきました。
研究の道を選んだきっかけ
CREST での研究成果
修士課程に進学した時には、博士課程にさらに
私は白金ナノチューブの合成に取り組み、2 種
進学することは全く考えていませんでした。しか
類の非イオン性界面活性剤であるノナエチレン
し、大きなきっかけとなったのは白金ナノチュー
グリコールドデシルエーテル (C12EO9) とポリオキ
ブの新規合成に成功した時で、通常は凝集しやす
シエチレンソルビタンモノステアレート (Tween
い金属粒子がなぜこのような特異な形態をとるの
60) からなる液晶を鋳型とする、ヒドラジン還元
かという好奇心、また、エネルギー関係における
反応により得られた黒色粉末の透過型電子顕微鏡
燃料電池触媒への応用等、この発見により多くの
(TEM 観察)により、外径 6nm、内径 3nm、長さ
22 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
木島剛チーム
数十 nm の白金及びパラジウムナノチューブが得
したことよりヒドラジン還元を行いましたが、ナ
られることを初めて見いだしました(図 1)。続け
ノチューブの存在は確認できませんでした。そ
て、白金ナノチューブを高収率で得るため、鋳型
こで次に、白金の生成スピードを遅くするため
となる前駆体液晶の解析およびナノチューブの生
に、ヒドラジンに代わって水素化ホウ素ナトリウ
成条件と最適な合成条件の検討を行いました。そ
ム (SBH) を新たに用い、白金源と還元剤を変えた
の結果、モル比 x : 1 : 1 : 60 = H2PtCl6/ C12EO9/
場合の白金の生成挙動について研究に取り組みま
Tween 60/ H2O 液晶において、白金酸の添加量が
した。その結果、ナトリウム型の液晶系において、
増大するにつれ、酸の効果で格子定数 a=6.82nm
AFM により大きさが 200-500nm の粒子が確認さ
のヘキサゴナル構造に帰属される前駆体液晶の規
れ、この像を拡大すると、直径 50-60nm で平均の
則性が低下していくことがわかりました。そこで
厚さ 3.5nm のシート状粒子が積層していることが
塩化白金酸を NaOH で中和した塩化白金酸ナトリ
確認されました。さらにこの試料の TEM 観察を
ウム (Na2PtCl6) を新たな白金源として用いたとこ
行ったところ、このシート状粒子は幅約 2.6nm の
ろ、前駆体液晶は安定なヘキサゴナル構造を維持
骨格の間に、幅約 1.0nm の溝状ネットワークが張
り巡らされた、チューブ状とは異なるナノグルー
ブ構造をとっていることが明らかになりました(図
2)。高分解能 TEM 像では、この生成物は白金の
111 面間隔に相当する 0.23nm の連続する格子縞が
20nm 以上に渡って観察され、単結晶粒子である
ことも同時に明らかになりました。現在は、白金
ナノチューブを高収率で得るために生成機構のさ
らに詳しい解析を行っています。
図 1 白金ナノチューブのT E M像
■夢を語る
4月から電子顕微鏡を用いる解析を主とした仕
事に携わりますが、成熟した技術者の方が持つ微
妙な調整法やより鮮明な写真撮影法など私もまだ
まだ経験が必要であると感じます。しかし、これ
までの様々な経験を活かしナノテクノロジーのさ
らなる発展に貢献できるよう努力していきたいと
思います。
図 2 白金ナノグルーブの (A) TEM 像及び (B)
高分解能 TEM 像 (C) (B) のフーリエ変換像
●
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 23
木島剛チーム
白金ナノ構造体の特性を
燃料電池に活かす
酒井 剛 Go SAKAI
宮崎大学工学部物質環境化学科 助教授
E-mail: [email protected]
■プロフィール
研究の道を選んだきっかけ
中学生のときに NASA のスペースシャトルの打
1991 年 3 月 九州大学工学部応用化学科卒業
ち上げと帰還のシーンをニュースで観たことが大
1993 年 3 月 九州大学大学院総合理工学研究科
きなきっかけとなった。特に、スペースシャトル
材料開発工学専攻 修士課程修了
1996 年 3 月 九州大学大学院総合理工学研究科
材料開発工学専攻 博士後期課程
修了(博士(工学)の学位授与)
1996 年 5 月 九州大学大学院総合理工学研究科
助手
2003 年 10 月宮崎大学工学部 助教授 現在に
子供の頃
至る
の内壁と外壁に使われていると報道されていた“セ
ラミックス”という初めて聞く言葉に非常に惹か
れた。宇宙船そのものや天体ではなく使われてい
る材料に興味を持ったところなどは一風変わった
子供であったかもしれない。高校 2 年生までは成
績も後ろから数えたほうがはやかったが、数学に
興味を持ち始め、面白いと感じられるようになっ
てから漠然と研究者になりたいと思い始めたと思
う。そのころ読んだ本に、「おかしなおかしな数学
小学校2年生のときに福岡県春日市から当時福
者たち」(矢野健太郎 著)や「生きること 学ぶ
岡のベッドタウンとして急速に開発が進んでいた
こと」(広中平祐 著)などがあり、研究そのもの
大野城市に引っ越した。新興住宅地だったため、
より研究者や数学者に興味や夢を抱いていたのか
宅地用に整備された広い空き地がかなりあり、遊
もしれない。
び場にしていた。思えば、ランドセルをまともに
背負ったことが無く、いつもどこかに荷物を放り
CREST プロジェクトに参加して
出して三角ベースや四角十字(鬼ごっこのような
もの)などの遊びに夢中になっていた。そのため、
本プロジェクト(木島チーム)に参加したのは、
学校から家庭への重要な連絡事項を忘れてしまっ
助教授として宮崎大学に赴任してからだったので、
たり、学業に必要な書道道具などを忘れることが
1 年遅れで参加させていただいたことになる。プロ
多く、親と担任から“忘れ物の王様”という有難
ジェクトへの参加当初は、日本中の有名な研究者
くない称号を授かった。必要事項をメモするよう
の中でやっていけるのか、いい仕事ができ情報を
にメモ帳を渡されたが、そのメモ帳も2、3日で
アウトプットしていけるのか不安があった。今で
どこかに置き忘れ、紛失するという始末だった。
もその不安はあるが、オンサイトミーティングな
中学生のころ SF 小説に傾倒した時期があり、新
どで最先端の研究の進捗状況などを聞く機会に恵
設中学校の図書館においてあった SF 小説はほと
まれ、非常に刺激になっている。また、学会や研
んど読んだ。新設だったため図書カードの最初に
究会などで発表するときは、CREST に参加してい
自分の名前が書かれているのもなんとなくうれし
るものとして、“いい加減なことはできないな”と
かった。
いう良い意味での緊張感がある。
24 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
木島剛チーム
■研究成果
研究歴の紹介
素還元活性の発見
③MEA(Membrane Electrode Assembly)の作
成方法の確立と燃料電池発電特性の評価
などが挙げられる。①、②については、得られた
九州大学では助手として約 8 年、機能性無機材
成果をまとめて Advanced Materials に投稿し受理
料の創製と評価に関する研究に従事し、主に半導
され、現在印刷中である。球状以外の貴金属のナ
体ガスセンサの高性能化に関する研究を行ってき
ノ構造体が特異な特性を示す可能性に大きな夢を
た(文献1,2)。特に、感応体である SnO2 の湿
抱きつつ研究を進めている。③については、作製
式調製法に取り組み、スズ酸ゲルの水熱処理によっ
した MEA が比較的良好な発電特性を示すことを
て直径約 6 nm の結晶性酸化スズからなる単分散
明らかにし、担持するグルーブ状白金の量を大幅
ゾルを調製できることや、水熱処理を施した酸化
に低減するための検討を続けている。図1に作製
スズの熱成長が著しく抑えられることを見出した。
した MEA の外観写真を示す。ナフィオン膜が Pt
また、膜厚が約 300 nm 以下であればクラックが
触媒を担持したカーボンおよびカーボンクロス等
ほとんどない薄膜を作製できること、得られたセ
でサンドイッチされている構造であり、見た目に
ンサは従来型のセンサと比べて一桁以上高い感度
は面白いところがほとんど無く簡単に作れそうで
を示すことなどを明らかにした。さらに、対象ガ
あるが、ちょっとした作り方の違いで特性が大き
スの一次反応による消費を伴う拡散方程式を用い
く低下する恐ろしい代物である。には、種々の電
てセンサの応答挙動を解析し、定常状態では、反
極触媒をカソード極に用いた場合の発電特性(I-V
応速度定数、クヌーセン拡散係数および膜厚の 3
特性)を示す。現段階では、いずれの材料を用い
つのパラメータで感応膜内のガス濃度プロファイ
た場合も大きな差はなく、言い換えれば再現性良
ルを決定できることを明らかにした。半導体ガス
く MEA が作製できていることを裏付けているが、
センサにおけるガス拡散の重要性はしばしば指摘
貴金属のナノ構造制御および露出結晶面の制御が
されてきたが、反応拡散方程式を用いてはじめて
燃料電池の特性を大幅に向上させると信じて研究
この解析に成功するとともに、ガス拡散に有利な
を推進している。
微細構造とすることが高感度を得る上で極めて重
要であることを指摘した。現在は、ガス拡散に有
効なポア(細孔)が、比較的大きいものであると
の予想に基づき、マイクロレベルの酸化スズ粒子
の合成にも取り組んでいる(文献3)。
CREST での研究成果
木島チームでは、二種類の界面活性剤を用いる
複合鋳型法など独自の手法に基づいて白金および
高分子ナノチューブならびに関連するナノ構造体
を作製している。本プロジェクトにおける私の主
図1 木島チームで作製したMEA
な役割は、独自手法で得られる貴金属ナノ構造体
の特性を評価すること、および固体高分子型燃料
電池の部材(電極触媒)に応用することである。
具体的に得られた成果としては、
①グルーブ状白金ナノシートのカーボンへの担持
法の開発
②グルーブ状白金ナノシート担持カーボンの高酸
●
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 25
木島剛チーム
図2 種々の白金担持カーボンをカソード極に用いた場合の I-V 特性(ナフィオン 115 使用、セル温度 70 ℃)
<参考文献>
■夢を語る
1) G. Sakai, N. S. Baik, N. Miura, N. Yamazoe,
固体高分子型燃料電池が民生用として広く普及
Sensors and Actuators B, 77, 116-121 (2001).
するには、まだまだ多くのブレークスルーが必要
2) G. Sakai, N. Matsunaga, K. Shimanoe, N.
であると予想される。燃料電池の特性向上につな
Yamazoe, Sensors and Actuators B, 80, 125-131
がるブレークスルーを一つでも多く発信し、エネ
(2001).
ルギー問題に少しでも貢献できればと考えている。
3) G. Sakai, T. Nakatani, T. Yoshimura, M. Uota,
T. Kijima, Chemistry Letters, Vol. 34, No. 10,
1364-1365 (2005).
26 ︱
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2 0 0 6 . Vo l . 4
工藤昭彦チーム
可視光水分解を目指した
ナノ構造体光触媒の創製
研究代表者
工藤 昭彦 Akihiko KUDO
東京理科大学 理学部応用化学科 教授
E-mail:[email protected]
平成 17 年度研究成果
表面修飾による光触媒の高活性化および
表面ナノ構造体の形成
光触媒ライブラリーの充実と活性を支配する要因の
解明
可視光全分解に活性を示す Z スキーム光触媒系
(SrTiO3:Rh-BiVO4)の改良を試みた。まず、逆反
応を起こしやすい Pt に代わる助触媒の検討を行っ
た結果、Ru を用いることで逆反応が抑えられ、長
時間安定な活性が得られた。そして、ソーラーシ
ミュレーターを用いた実験で、0.1 リットル / h・
m2 の速度で水素が発生した(図1)。このように、
可視光応答性光触媒を用いた水からのソーラー
水素生成に成功した。さらに、 Co(phen)33+/2+ が
電子メディエーターとして働くことを見いだし
た(工藤)。一方、新規な光触媒物質として、可
視光応答性を示す La-In-O-S や La-In-S、ホウ酸塩
酸化物を見いだした(町田)。また、アミン系界
面活性剤で層剥離したニオブ酸化物に紫外線照射
を行うと、500nm 付近の可視光に吸収が生じ、光
触媒的にメタノールを酸化分解させることに成功
した(松本)。可視光で高活性を示す水分解光触
媒 Pt/SrTiO3:Rh を再現性良く合成できる水溶液プ
ロセスを開発すると共に、タンタル酸ストロンチ
ウム系光触媒の構造と触媒活性との関係を明確に
した。更に、新規な水溶性チタン錯体を水熱処理
図1 Z ス キ ー ム 光 触 媒 系 を 用 い た 疑 似 太 陽 光
(AM1.5) 照射下における水の完全分解反応
することにより、極めて高活性な酸化チタン光触
媒を合成できることを明らかにし、これら錯体が
チタン含有水分解光触媒の環境調和型水溶液プロ
セスの原料としても有用であることを明らかにし
た(垣花)。一方、d10 電子状態の典型金属イオン
(In2O3)に希土類イオン(Sc、Y)を固溶させたナ
ノ構造固溶体酸化物 ScxIn2-xO3 および YxIn2-xO3 に
おいて、x の置換効果を調べた。その結果、x の
値によりバンドギャップや活性が変化したことか
ら、添加物や固溶体における置換効果が、光触媒
の活性化に有効であることを明らかにした(井上)
光触媒反応を理解するための解析法の開発
放射光を用いた PF 施設において、一連の可視
光応答型硫化物系光触媒の精密構造解析を実施
し、より正確なバンド構造計算を可能とした(垣
花)。一方、可視光照射によって硝酸銀水溶液から
酸素を生成する Cr, Sb 共ドープ TiO2 触媒のダイ
ナミクスを分光計測した
(図2)。単独でドープし
た Cr が再結合中心としてはたらくにもかかわら
ず、Sb を等モル量加えた触媒では電子 - 正孔再結
合が抑制されることを、励起電子による赤外吸収
強度の測定から確認した。さらに、μ s 領域での
電子減衰が無ドープ TiO2 に比べて遅くなるとい
う、予想外の現象を見いだした。あわせて、可視
光吸収波長のプローブ光を使った共鳴ラマン分光
によって、ドーパント近傍の格子振動を観測でき
ることを実証した(大西)。
図 2 紫外光励起時における Cr, Sb 共ドープ TiO2 光触
媒,無ドープ TiO2 光触媒の電子 – 正孔再結合速度
●
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工藤昭彦チーム
私:人生いろいろ
研究:太陽光照射下,水からボコボコ。
細木 康弘 Yasuhiro HOSOGI
東京理科大学 理学部 応用化学科 工藤研究室
博士後期課程 2 年
E-mail : [email protected]
■プロフィール
2003 年東京理科大学 理学部
応用化学科 卒業
同年
東京理科大学大学院
理学研究科 修士課程 入学
2005 年東京理科大学大学院 卒業
同年
東京理科大学大学院
理学研究科 博士後期課程 入学
2006 年現在に至る
ごく一般的な大学生の生活を送りました。
ました。化学の道に進んだのは,環境問題を根本
的に解決することができそうだという思いと将来
の生活に融通が利きそうだという思いからです。
きっかけというより,小さい頃からの環境問題へ
の興味が,この道に導いたと思います。
CREST プロジェクトに参加して
日々の実験を行っています学生は,CREST プロ
ジェクトに大いに助けられています。CREST プロ
ジェクトが始まってからは,実験装置,分析装置
などが充実し,研究を円滑に進めることができて
います。また,オンサイトミィーティングなどで,
多くの先生方のお話も拝聴できることも大いに勉
強になっています。CREST プロジェクトに感謝し,
大きな成果を挙げられるようがんばっていきたい
と思います。
子供の頃
私は,高知県高知市にある小さな山のふもとで
育ちました。残念ながら,私の育ったところは,
「汚染物質が含まれるために飲料用にできない井戸
水」,「コンクリートで固められた川」と嘆かわし
いものが多くある所でした。高知市内を離れれば,
自然が豊なところが多くありましたので,夏にな
るとよく川遊びをしていたことを記憶しています。
特に,川エビやゴリ ( ハゼ科の魚 ) を銛でとること
がお気に入りでした。
客観的に子供の頃の私を分析しますと,サッカ
ー,習い事,塾をこなして,とても良い子であっ
たと思います。
研究の道を選んだきっかけ
「自然を取り戻したい」,
「環境問題を解決したい」
と思っていましたので,研究の道に進むことにし
28 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
■研究成果
CREST での研究成果 Sn2+ を用いた新しい可視光応答性光触媒を探索
してきた結果,SnNb2O6 光触媒の開発に成功しま
した。この SnNb2O6 光触媒は,可視光領域に大き
な吸収帯を有しており,黄色い色をしています。
光化学特性と密度汎関数法によって,SnNb2O6 の
バンド構造を検討し,Sn2+ の 5s 軌道が価電子帯の
形成に寄与していることを明らかにしました。そ
して,犠牲剤 ( メタノール,硝酸銀 ) を含む水溶液
からのテストリアクションではありますが,可視
光照射下で水素および酸素を生成することができ
る新規可視光応答性光触媒であることを明らかに
しました。これまで,水素と酸素を両方とも生成
可能な可視光応答性酸化物光触媒の報告例は,ほ
工藤昭彦チーム
とんどありませんでした。よって,本研究で得ら
れた成果は,水分解用光触媒の分野において,大
きな結果であると言えると思います。
ま た 最 近,Sr2Nb2O7 を SnCl2 溶 融 塩 で 処 理 す
る こ と に よ っ て, ナ ノ プ レ ー ト 結 晶 か ら な る
SnNb2O6 の合成に成功しました
(図2)
。このような
合成法によるナノプレート構造を有する金属酸化
物の合成は,これまでに報告例がなく,本研究で
見いだされた合成法は,新規性に富んでいます。
さらに,ナノマテリアルは,あらゆる科学的な分
野で研究されているため,本研究の成果は,光触
媒分野のみならず,材料化学を始めとした広い化
学分野において重要な結果であると考えられます。
図 1 可視光応答性酸化物光触媒 SnNb2O6 による水素生成反応
図 2 ナノプレート SnNb2O6 の電子顕微鏡写真
■夢を語る
太陽光照射下で,水を分解することができる超
高活性光触媒の開発を作ることを目標にしたいと
思います。いつの日か,その触媒に工藤・加藤・
細木触媒という名前を付けることを夢見ています。
また,私は暑がりですので,地球温暖化を止める
べく,二酸化炭素の固定化などもできればいいな
と思います。化学の力による人類の発展と自然環
境の回復を願っています。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 29
工藤昭彦チーム
無機ナノシートの光電気化学
伊田 進太郎 Shintaro IDA
熊本大学 大学院自然科学研究科 助手
E-mail:[email protected]
■プロフィール
2001 年 3 月 熊本大学工学部物質生命化学科 卒業
2003 年 3 月 熊本大学大学院自然科学研究科 CREST プロジェクトに参加して
本プロジェクトのチームミーティング等では、
他の先生方の最新の研究経過をお聞きすることが
でき、光触媒による水の完全分解に関する最新の
研究成果を勉強することができたため、非常に感
謝しています。また、それらの刺激は自分の研究
を遂行する上での良い原動力にもなっています。
博士前期課程修了
2003 年 4 月 松下電器産業株式会社 入社
■研究成果
(在職中に熊本大学大学院自然科学研究科にて博士
(工学)を取得)
研究歴の紹介
2005 年 6 月 熊本大学大学院自然科学研究科 助手 子供の頃
小中高と自然豊かな環境でずっとサッカーと釣
りをして過ごしてきました。今でも研究の合間に
学生たちと草サッカーやフットサルをしたり、研
究室で一泊の釣り旅行に行ったりして楽しんでい
ます。
研究の道を選んだきっかけ
研究者になりたいなと思い始めたのは、中学生
の頃で、石の固まりであるシリコンから半導体チ
ップが完成する様子を TV で見て、どうやってミ
ジンコよりも何十倍も小さい範囲に回路を書いて
いるのだろう?と思ったことがきっかけであった
ような気がします。その後、高校、大学へと進学
するにつれ研究職を意識するようになりました。
研究の道を選んだきっかけは、恩師との出会いや
タイミングであったと思います。
30 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
・ダイヤモンド表面の化学修飾(2001 年~ 2004 年)
ダイヤモンド表面を一連の有機物の延長と捉え、
ダイヤモンド表面の化学修飾に関する研究を行な
ってきました。成果として、水素終端ダイヤモン
ド表面と有機ラジカル試薬の反応を利用した化学
修飾方法を見出しました。
・ナノシート層間反応場を用いた発光材料の開発
(2005 年~)
ナノシート層間に希土類イオンをインターカレ
ートし、ナノシートからの層間希土類イオンへの
エネルギー移動に基づく発光を調査しています。
最近のトピックとしては、Eu3+/ チタン酸ナノシ
ートの再構築体でホールバーニングに似た励起ス
ペクトルの変化を室温で観察しました。
CREST での研究成果
本プロジェクトでは、チタン酸、二オブ酸、マ
ンガン酸ナノシート上での光触媒反応機構を光電
工藤昭彦チーム
気化学的挙動から明らかにしてきました。LBL 法
で種々のナノシートを電極表面に固定し、アルコ
ールが存在する溶液中で光電気化学測定を行なっ
た結果、二オブ酸系のナノシートで極めて大きな
光電流 (1mA/cm2) が観察されました。この光電流
は、積層数が 1 層の場合から観察され、層数が増
加しても変化しないことから、ナノシート一枚が
その大きな光電流をもたらしていることが明らか
となりました。アルコールが存在しない場合では
光電流は小さく、光励起によって生成した正孔は
アルコールにより補足されていることが分かりま
した。また、光電流測定の結果はこのナノシート
をホスト層とする層状酸化物の光触媒活性の序列
とある程度一致しました。
二オブ酸系ナノシート上での光触媒機構の特徴
として以下の2つが示唆されました。第一に励起
した電子とホールの電荷分離が大きいこと。これ
は、ナノシートの厚さが約1nm と薄くかつ結晶
性が良いことに起因すると考えられます。第二に
ナノシート表面での正孔とアルコールの電気化学
反応が、正孔と電子の再結合速度よりも早いこと。
アルコール存在化での光触媒反応では、正孔とア
ルコールが反応して残った電子が水を分解し水素
を発生させていると考えられます。
現在は、層状タンタル酸化物や層状オキシサル
ファイドを剥離させてナノシートを作製し、その
光触媒反応機構を光電気化学的挙動により解明し、
高効率でかつ可視光で応答する水分解光触媒の設
計を目指しています。
図 1. 電極 / ナノシート表面でのアルコール光酸
化モデル
■夢を語る
地球上に無尽蔵にある水からクリーンエネルギ
ーである水素を効率よく作り出し、環境に負荷の
ないエネルギー供給&消費システムの構築ができ
たらと思っております。
図 2. メタノールの光酸化電流のナノシート種依
存性(電解質:0.5MK2SO4)
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 31
工藤昭彦チーム
5 歳のときからセラミスト
冨田 恒之 Koji TOMITA
東海大学理学部化学科 助手
東北大学多元物質科学研究所 リサーチフェロー
E-mail:[email protected]
は本当にラッキーだったと思います。
CREST プロジェクトに参加して
私は常々、
「人は力だ」と考えています。CREST
■プロフィール
プロジェクトでは学生も含めれば数百という脳が
1977 年12月 東京都生まれ
2000 年 3 月 東海大学理学部化学科卒業
2002 年 3 月 東京工業大学大学院総合理工学研
究科材料物理科学専攻修士課程修了
考え、その倍の数の手が実験や執筆を行っていま
す。一人では決して成し遂げられないような大き
なことを、この大きな「力」で達成できると信じ、
日々自分の 1 個と 2 本を必死で動かしています。
2005 年 3 月 東京工業大学大学院総合理工学研
究科材料物理科学専攻博士課程修了
2005 年 4 月~ 2005 年 7 月
CREST/JST 博士研究員
2005 年 8 月~ 2006 年 3 月
東北大学多元物質科学研究所 助手
2006 年 4 月より現職
子供の頃
幼稚園生の頃は、ヤクルトの容器でセメントを
固めて遊んだりしていました。今思えば、これが
人生最初の「セラミックスの合成実験」です。小
■研究成果
研究歴の紹介
卒業研究では二酸化チタンを使った有機塩素化
合物の分解を研究し、大学院では主に水溶性チタ
ン錯体に関する研究と種々の光触媒の合成を行い
ました。その後、誘電体や微粒子蛍光体の研究も
行い、最近では初心に戻って二酸化チタンの研究
に力を注いでいます。
学校でも理科への興味は尋常ではなく、自宅のキッ
チンを実験室にして、テレビや教科書で見た実験
をやっていました。卵の殻を溶かすのに酢を大量
に使い、母親に叱られた記憶があります。
研究の道を選んだきっかけ
化学が好きだったし得意だったし、それ以外に
得意なものがなかったので、化学で食べてくしか
ないだろうと決めていました。自分の好きなもの
が職業になること、社会に役立つものだったこと
32 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
CREST での研究成果
(1) 多様な溶液法を駆使した光触媒の活性向上
私たちの研究グループでは、様々な溶液化学的手
法によるセラミックスの合成を得意としています。
同じ組成の光触媒でも、合成方法や処理条件を変
えることで均質性や結晶性、比表面積等が異なり、
光触媒活性にも影響します。図1 はいろいろな手
法により合成した NaTaO3 光触媒の紫外光照射下
での水分解活性を示したものです。図のように、
それぞれの合成手法で活性は大きく異なり、最大
工藤昭彦チーム
の活性を示した錯体重合法では固相法に比べて約
2.5 倍の値が得られました。
(2) 珍しい二酸化チタン光触媒
二酸化チタン (TiO2) は初めて光触媒として報告
された物質で、光触媒として長年研究されてきま
した。TiO2 にはいくつかの結晶型が存在しますが、
アナターゼ型とルチル型を除いては合成が困難で
あることから、いまだにその研究例は少ないです。
私たちの研究グループでは、特殊な水溶性チタン
錯体を原料として用いることで、簡便かつ高収率
でブルカイト型や B 型等の特殊な結晶構造を持つ
TiO2 を合成することに成功しました。図2 はブル
カイト型 TiO2 が生成するメカニズムを考察したも
ので、この錯体は分子内にブルカイト型 TiO2 と類
似した構造をもち、水熱条件下の溶液中で互いに
結合し、組みあがっていくことでブルカイトを形
成するというものです。この結果は、錯体の構造
がセラミックスの結晶構造に反映される新しい事
例であると考えています。
図 1 種々の溶液法により合成した NaTaO3 の水分
解特性 ( 粉体粉末冶金協会講演概要集平成 17
年度秋季大会 p.211)
■夢を語る
水分解光触媒の目的は太陽光のエネルギー変換
であり、これが達成されれば石油や原子力に頼る
ことなくエネルギーが利用できることになります。
まさに夢のような話ではありますが、例えば「何
千キロも離れた人と話すこと」や「空を飛ぶこと」
や「月に行くこと」と比べたら、もっと簡単に実
現できそうな気がしませんか。私たちもこれらを
実現してきた研究者たちを見習い、「できる」と信
じて研究を続けます。
図 2 オキソペルオキソグリコール酸チタン酸錯体
からのブルカイト型二酸化チタンの生成メカ
ニズム
(Angew. Chem. 118, 2438-2441, 2006)
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 33
工藤昭彦チーム
Z スキームによる可視光水分解
加藤 英樹 Hideki Kato
東京理科大学理学部応用化学科,助手
E-mail: [email protected]
■プロフィール
1997 年東京理科大学理学部化学科卒業
1999 年東京理科大学大学院理学研究科修士課程
修了
2002 年東京理科大学大学院理学研究科博士課程
修了(博士(理学))
(2000-2002 年 日 本 学 術 振 興 会 特
別研究員 -DC2)
2002 年日本学術振興会特別研究員 -PD(東京理
科大学理学部)
2004 年東京理科大学理学部応用化学科助手,現
CREST プロジェクトに参加して
走査型電子顕微鏡やX線光電子分光計などの大
型機器は,それまで大学の共通機器を使用してい
た。これら共通機器の使用は大変混んでいて SEM
は2週に1日しかマシンタイムが取れないような
状況だった。CREST プロジェクトによる購入で
SEM や XPS が研究室持ちの機器となったときに,
さすが CREST と実感した。もちろん,これらの
機器の購入によって研究が効率良く進捗した。
■研究成果
研究歴の紹介
在に至る。
が豊かだったので,川や森でよく遊んでいた。
学部4年生より工藤研究室で水分解のための新
規光触媒材料の開発を行なってきた。特にタンタ
ル系複合酸化物に着目し体系的な探索を行なって
きた。そして,博士後期課程での研究において,
世界一高活性な水分解用光触媒 NiO/NaTaO3:La を
開発した。
研究の道を選んだきっかけ
CREST での研究成果
子供の頃
機械の類い(モーターで動く船や車)を作った
り直したりするのが好きだった。家の周りは自然
中学生の頃,エンジンに非常に強い興味を持っ
ていた。そんな中学生だったある日,化石燃料消
費による環境破壊という現実を知った。エンジン
を取るか環境を取るかとても悩んだ。悩んだ果て
に,「車やバイクに乗るけど俺が環境破壊を止めて
やる(手段は何も考えていないけど)」と心に決め
た。このときが研究者になることを漠然と決心し
たときだと思う。そして,大学の卒業研究で興味
と合致するテーマ「光触媒による水分解」にであ
うことができたのは運が良かった。
34 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
これまでに当グループが見出してきた可視光応
答性光触媒は,水分解反応には不活性であり,還
元剤もしくは酸化剤存在下における水素もしくは
酸素生成反応にのみ活性であった。そこで私は,
水素生成光触媒と酸素生成光触媒とを組み合わせ
る2段階励起型(Zスキーム)による水分解に着
目した(図1)。Zスキームでは光触媒間での電子
のつなぎ役である電子伝達系が重要な役割を担っ
ている。鉄イオンを電子伝達系の候補と考え様々
な光触媒の組み合わせを検討してきた。その結果,
水素生成光触媒に Pt もしくは Ru 助触媒を担持し
た SrTiO3:Rh,酸素生成光触媒に BiVO4,Bi2MoO6
工藤昭彦チーム
および WO3 を用いた組み合わせの場合に水を分解
できることを見出した(図2)。水を分解することが
できない光触媒であっても,役割分担により水を
分解することができる点が Z スキーム系の最大の
魅力である。
Zスキーム系の構築によって可視光水分解に
成功したものの,SrTiO3:Rh の低い効率のせいで
トータルの効率は低くとどまっていた。そこで,
SrTiO3:Rh の微粒子化による高効率化を目指した。
その結果,水熱法を利用して SrTiO3:Rh 微粒子を
合成することによって,従来の固相法で合成した
ものに比べて効率を6倍程度向上させることに成
功した
(図3)。量子収率は 3%程度とまだまだ満足
できるものではないが,可視光で水を分解できる
粉末系光触媒系としては,最高レベルの効率とな
っている。
図1.Zスキーム型光触媒系構築による水分解
図2 (Pt/SrTiO3:Rh)-(BiVO4)-(FeCl3) 系を用い
た可視光照射による水の分解
図3水分解用 Z スキームの高効率化
■夢を語る
初志貫徹で,
恒久的なエネルギーシステムの構築。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 35
工藤昭彦チーム
太陽光を用いて水から水素燃料を作り、
美しい地球環境と豊かな社会を次世代に残す
斉藤 信雄 Nobuo SAITO
長岡技術科学大学 物質・材料系(理学センター兼任)
助教授
E-mail : [email protected]
■プロフィール
1993 年 富山工業高等専門学校 工業化学科卒業
(ほとんど男だけの環境で学問に集中?)
1993 年 長岡技術科学大学工学部 材料開発工学
課 程 編 入 学( ま た ま た 男 だ ら け の 環
境!)
1995 年 長岡技術科学大学大学院工学研究科 材
料開発工学専攻 入学
1999 年 長岡技術科学大学大学院工学研究科 材
料工学専攻 博士後期課程早期終了
1999 年 長岡技術科学大学 分析計測センター助手
2006 年 長岡技術科学大学 物質・材料系(理学
ちの身の回りに存在する物体は細かく切り刻んで
いくと、すべては同じもの(陽子、電子、中性子
およびその他の素粒子)からできていることを知
りました。「同じものからできているなら、それら
を組み換えればどんなものでも簡単に作れるじゃ
ないか!」と思い、科学に興味を持つようになり
ました。一方、私の育った富山県婦中町はカドミ
ウム汚染によるイタイイタイ病の被害が最も大き
な地域で、小さい頃から化学物質に対する関心が
人よりも強かったように思います。中学校を卒業
後、直ぐに専門的な科学を勉強したかったことも
あり、5年制の工業高等専門学校に入学しました。
それ以降、迷うことなく大学に進学し、現在に至
っています。
CREST プロジェクトに参加して
センター兼任)助教授 現在に至る
子供の頃
出身は富山県の婦中町(現在は富山市)で、ジ
ュース1つを買うにも乗り物を使わなければなら
いような自然豊かな環境で育ちました。小学生の
頃は、昆虫採集や廃材を集めての秘密基地製作な
どに熱中していました。学校の勉強の方はあまり
得意ではなく、中学校に入ってからも勉強をした
記憶がほとんどありません。中学2年生になって
まもなくのある日、担任の先生が「一度だけ本気
で勉強して自分の力を出してみろ」とおっしゃっ
たことをきっかけに、勉強をする習慣が身につき、
成績もなんとか人並み程度になりました。勉強を
するきっかけを与えて下さった先生にはとても感
謝しています。
研究の道を選んだきっかけ
小学生の頃に、ふと見たテレビ番組から、私た
36 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
CREST プロジェクトに参加することによって、
研究室単位ではなく大学の壁を越えたチームを組
んで1つの目標に挑むことが、研究を発展させる
上で非常に重要であるとことを知りました。さら
に、本 CREST プロジェクトにおいて、自分の専
門分野以外のグループの著名な先生のお話を聞く
機会や交流の場をもてることも、自分の視野を広
げるために非常に重要であり、有意義であると感
じています。本 CREST プロジェクトを利用して、
研究をさらに発展させると共に、自己のステップ
アップにつなげていきたいと考えています。
■研究成果
研究歴の紹介
本 CREST プロジェクトの「光触媒による水分
解に関する研究」を始める前は「強誘電体の共鳴
工藤昭彦チーム
振動効果を用いた制御機能を持つ固体触媒の研究」
というテーマで研究を行っていました。この研究
は現在も続けている研究の1つですが、強誘電体
結晶に高周波電力を加えることによって発生する
共鳴振動効果を利用して、触媒の性質を“その場”
でコントロールしようという試みです。これまで
に共鳴振動効果が、触媒活性および反応選択性の
制御に極めて有用であることを見出しています。
この研究をさら発展させることにより、いわゆる
難反応と呼ばれているメタン酸化、プロピレン部
分酸化およびベンゼン部分酸化反応を含め、共鳴
振動効果が幅広い触媒系に応用できるものと期待
されます。本 CREST プロジェクトでは、これま
での研究で培った触媒化学、表面科学および電子
材料工学などの知識を融合して、高機能な水分解
用光触媒の開発に取り組んでいます。
CREST での研究成果
これまでに水分解用光触媒材料として
Ti4+,Zr4+,Nb5+ および Ta5+ を含む d0 型の遷移金
属酸化物が幅広く研究されてきました。一方、近年、
我々のグループは Ga3+,In3+,Ge4+,Sn4+ および Sb5+
から構成される d10 型の典型金属酸化物が水分解
用光触媒材料として非常に有用であることを新た
に発見しました。本 CREST プロジェクトの私が
所属するグループではさらにこの研究を発展さ
せ、多くの光触媒を探索すること、および可視光
応答型光触媒を開発することを目的にしています。
CREST プロジェクトでの成果として d10s2-d0 型の
複合酸化物 PbWO4 および d10s2-d10 型の複合酸化
物 PbSb2O(図1)
6
が水分解反応に対して高い活性を
示すことを見出しました。密度汎関数法によるバ
ンド計算から、価電子帯と伝導帯の両方への Pb6s
軌道の寄与が光触媒活性発現に密接に関係してい
ることを明らかにしました。一方、昨年、Mg2+,
Zn2+, あ る い は Be2+ ド ー プ に よ っ て p 型 化 し た
d10 型の典型金属窒化物 GaN が水の分解反応に対
して非常に高い活性を示す光触媒材料となること
を新たに見出しました
(図2)。未ドープの GaN や
4+
4+
Si , Ge をドープして n 型化した GaN は水分解
反応に対して活性を示さないことから、GaN の光
触媒活性発現には p 型化による正孔挙動の制御が
重要であることを明らかにしました。
図 1 d10s2-d0 型 PbWO4 および d10s2-d10 型 PbSb2O6 水分解用光触媒
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 37
工藤昭彦チーム
図 2 GaN 光触媒による水分解反応(水 700ml, 触媒 0.8g, 450W- 高圧水銀ランプ)
■夢を語る
夢 と い う よ り 近 い 将 来 の 目 標 と な り ま す が、
「600nm までの波長の光を吸収して 30%以上の量
子収率を持つ水分解用光触媒」を開発することに
より、クリーンな水素燃料を大量供給し、化石燃
料に替わる水素エネルギーシステムを確立するこ
とを目指しています。エネルギー枯渇や環境汚染
などが深刻な問題となりつつある現在、次世代に
美しい地球環境と豊かな社会を残すことが我々に
科せられた義務として捉え、エネルギーおよび環
境問題を解決できる新材料の開発に携わっていき
たいと考えています。
38 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
鯉沼秀臣チーム
電界効果型ナノ構造光機能素子
の集積化技術開発
研究代表者
鯉沼 秀臣 Hideomi KOINUMA
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 客員教授
E-mail: [email protected]
平成 17 年度研究成果
で初めて二酸化チタン電界効果トランジスタの作製に
成功した。図1に二酸化チタン電界効果トランジスタの
動作曲線とデバイス構造を示す。ゲート電圧によりソー
ス-ドレイン間の電流が大きく変調されており、このよ
うな再現性のある明瞭なトランジスタ動作は、二酸化チ
タン基板を超平坦化したときしか得られないことがわ
かった。光触媒・透明磁性などはキャリア電子が生み出
す現象であり、キャリア電子を制御出来るトランジスタ
の作製は、その本質を理解し、TiO2 の新たな応用のシ
ーズとなる成果である。
“新しい電子・光・磁気機能材料を目指した電界効果制御”
本研究チームでは、新しい電子機能材料・光機能材
料として世界的に関心の高まっている酸化物と有機π
共役物質について、ナノ薄膜の構造形成と集積化技術を
革新し、新機能の発見とその応用開発を戦略目標として
掲げている。3つのキーテクノロジー:基板表面の超平
坦化、分子層エピタキシー、コンビナトリアル手法(集
積化技術)を主軸とし、応用展開の期待される新材料・
新機能から次世代デバイスの‘タネ’までの幅広いター
ゲットに対して、新たなマテリアルサイエンスを切り開
いている。研究成果はナノ薄膜研究用新装置の開発から
新π共役分子の合成、ナノ電極アレーの作製、ナノ薄膜
と集積デバイス技術にわたる。例を最近の酸化物および
π共役系からピックアップして紹介する。
有機のn型電界効果トランジスタでの世界最高移動度を
達成 ( ~5cm2 /Vs)
有機半導体を使ったトランジスタは、フレキシブル性・
低温合成可能などの観点から注目されている。しかしな
がら、p型のトランジスタはアモルファスシリコン(~
1cm2/Vs)の性能を超えるような報告が相次いでいる
のに対して、n型のトランジスタは十分ではなく、有機
半導体の性能限界とも考えられていた。我々は薄膜技術
の不完全性がその原因と考え、ペンタセン単分子層バッ
ファーが基板の分子ぬれ性を改善して C60 薄膜の結晶性
を画期的に向上することを見出した。この膜を使ったト
ランジスタはn型電界効果移動度がおよそ5cm2/Vs と
いう有機デバイスで世界最高の値を示した(図2)。こ
れによってn型についてもアモルファスシリコンの性
能を十分に上回る有機半導体の電子機能の可能性を実
証した。さらにn型のトランジスタの電子性能・安定性
を向上させるべく、π共役化合物の構造と電子物性につ
いて分子設計レベルから取り組んでいる。
世界で初めての二酸化チタン電界効果トランジスタ
二酸化チタン—— 最近は光触媒材料として耳にする
ことが多いのではなかろうか。この材料にコバルトを微
量に入れると透明磁石が出来るという我々の報告をき
っかけとして、にわかに新しい磁性材料・電子材料とし
ての注目を浴びている。TiO2 の光触媒作用はワイドギ
ャップ半導体としての TiO2 に光励起キャリアが発生す
ることに起因するとされながら、半導体素子の基本でも
あるトランジスタの報告はこれまでなかった。
ルチル基板の超電界効果制御には、我々が既に開発
した平坦化技術が必要不可欠であることを見出し、世界
7
Vg = +100 V
G
5
insulator
4
TiO2
S
3
D
+80 V
+60 V
2
1
+40 V
0
0
20
40 60 80 100
Vsd (V)
図1:二酸化チタン電界効果トランジス
タの Id-Vds 曲線 ( 挿入図はデバイス
構造 )
IDS (A)
-6
Isd (10 A)
6
10
-3
10
-4
10
-5
10
-6
10
-7
10
-8
10
-9
-40
Pentacene
monolayer
S (Au) D (Au)
with buffer
2
µn = 4.91 cm /Vs
Sub
C60
stra
0
without buffer
2
µn = 0.96 cm /Vs
40
te
Al2O3
G (Al)
80
VG (V)
図2:ペンタセン単分子層バッファーを用いた C60 電界効
果トランジスタの Vg-Id 曲線
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 39
鯉沼秀臣チーム
志
熊谷 章 Akira KUMAGAI
東京工業大学資源化学研究所 山本研究室 修士
課程2年
E-mail : [email protected]
■プロフィール
2000 年
東京理科大学 理学部応用化学科入学
(憧れの同級生のことが忘れられず、一年の空白を
経て入学。)
2004 年
東京理科大学 理学部応用化学科卒業
(キャンパスとは呼べない都会のビルの中でそれな
りに充実した 4 年間を過ごし、卒業)
同年
東京工業大学 総合理工学研究科 を探索し続けました。そこで導き出した答えが「有
機半導体」というキーワードでした。有機半導体
の合成から物性評価まで幅広く手がけてみたい、
という欲張りな発想から、現在所属する研究室を
志し、今に至っております。
農学を志した中学時代と今では志は変わってお
りますが、それは自分の適性や価値観、日々の生
活や環境を踏まえながら徐々に変化していくもの
だと思います。しかしながら、中学時代の恩師の
一言が私を今の道へ導いたことには変わりありま
せん。志を持つきっかけを与えて下さった恩師と
の出会いが、私の理科離れを防いだように思いま
す。
物質電子化学専攻
(独法化に伴う工事により、サティアン風に変貌し
た研究所内で日々研究)現在に至る
子供の頃
幼年期は(から?)かなり内向的でした。自分
の世界の住人だったように思います。人の輪に加
わるのが苦手で、悪いことばかりしていたそうで
す。今でもあまり変わっていないのかも知れませ
んが…。
研究の道を選んだきっかけ
中学の時に理科2(生物・地学)の先生に「こ
れからは食糧難の時代だ」と言われ、理科が苦手
にもかかわらず、農学を志しました。大学受験の際、
農学部を持つ大学の数が全国には多いとは言えず、
化学系も併願しました。浪人の後、運よく農学系
の学部を持つ大学と化学系の学部学科を持つ大学
に合格しましたが、手がける分野が広そう、とい
う判断の下、化学系に進学することを決意しまし
た。
大学へ進学後、化学という分野の広さ、奥深さ
を知り、その中で「自分は化学の何を勉強するか」
40 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
CREST プロジェクトに参加して
経験の浅い学生から若手の研究者まで、様々な
チャンスが多く与えられていると思います。また、
異分野の方々との議論を通して得られる新しい視
点や発想は、大きな収穫であると思います。
■研究成果
研究歴の紹介
学部:エレクトロスピニング法によるナノファ
イバーの作製
(高分子溶液に高電圧を加えることで紡糸する手
法に関する研究)。
CREST での研究成果
「FET特性を示すπ共役分子の創製」
山本研究室・福元グループの下で、電子・光特
性を有するπ共役分子の合成と薄膜化、光学特性・
電気化学特性に関する研究を行っている。図1 に
代表的なπ共役高分子の例を示す。本プロジェク
鯉沼秀臣チーム
トでは特に FET 特性を示す新規π共役分子の開発に携わっている。
図 1 代表的なπ共役高分子
これまでに、図2 に示すようなピリジンを含むオリゴチオフェンの合成、薄膜化とそ
の構造、光学的性質についての評価を行ってきた。
5a : n = 3; 6a : n = 4
5b : n = 1; 6b : n = 2
図 2 チオフェン-ピリジンオリゴマー
ピリジンをどの位置に入れるか、さらに 5 量体か6量体かによっても、薄膜化し
た際の結晶性や光学的性質が大きく変わることを見出してきた。
今後は薄膜と FET 特性や導電性との相関、さらに FET のみならず、興味深い
特性をもつ分子の合成や評価を行いたいと考えております。
■夢を語る
その仕事を通して、社会に貢献し、やりがいを見出せたらと考えております。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 41
鯉沼秀臣チーム
気合と根性を武器に、世界一
の有機膜をレーザーでつくる
柳沼 誠一郎 Seiichiro YAGINUMA
■プロフィール
特に、トカゲと虫が好きでした。たまに失敗もし
ました。私が、庭で見つけたカマキリの卵を、机
の引出しの中で孵化させたことがあって、それを
見た母親が卒倒しそうになったのでした。
1980 年 東京都に生まれる。実家は玉川上水沿いの、
研究の道を選んだきっかけ
東京工業大学 総合理工学研究科 博士後期課程 2 年
E-mail : [email protected]
緑豊かで住みやすいところ。お散歩すると
気持ちいい。
2003 年 東京理科大学卒業(1、2 年は真面目に勉強。
3 年になり、外食系アルバイトに手を出し、
包丁使って器用さアップ。4 年は卒業研究
一本。卒研テーマは、量子キャパシタンス
の第一原理計算)
2005 年 東京工業大学修士課程卒業(とにかく、も
のを作りたい、実験したいと思い、鯉沼研
に入る。個性的な仲間達と、厳しくも楽し
い鯉沼研生活を満喫。企業では自由な研究
は出来ないなと思い、博士課程進学を決意。
修士では、有機トランジスタ用の酸化物ゲ
ート絶縁膜を研究)
2005 年 東工大博士課程入学(他では真似できない
有機膜を作りたいと考え、連続発振レーザ
ー MBE 法を開発。本手法を世の中に定着
させるため、努力中)
子供の頃
小学校で好きだった教科は理科、図工。小学校
の卒業文集に書いた将来の夢は「化学者」
(現実は、
物理学科に進む)。
幼い頃の私は、私が生まれたときに両親が買っ
てくれた図鑑(厚さ 4cm くらいの分厚いのが十数
冊もある)が大好きで、いつも見ていました。中
でも、動物、魚、虫の図鑑がお気に入りで、今で
はボロボロになっています。
もちろん図鑑だけで満足するはずもなく、色ん
な生き物を追いかけていたことを覚えています。
42 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
私の小中学校時代を思い出すと、理科が一番好
きでした。図鑑や子供用科学雑誌などの影響もあ
るでしょう。その後、高校に入ると物理と数学が
得意になって、大学は理学部の物理学科に進みま
した。
研究の面白さを知るために重要なことは、いい
先生を見つけて、いい環境に身を置くことだと思
います。私の場合は、「表面物理」「薄膜」という
キーワードで色々な研究室を探して話を聞きに行
って、第一志望を鯉沼研に決めました。そんな私
は、初めは「修士卒で企業に就職します」などと
言っていました。しかし、実験をしているうちに、
研究の楽しさが分かってきたのか何なのか、博士
課程に進みたくなっていったのでした。
CREST プロジェクトに参加して
鯉沼グループ 1 つを見ても、様々な研究室から
構成されています。これら異なる研究室との交流
は、とてもいい勉強になります。1 つの研究室に
閉じこもっていると、専門が違う人と気軽に議論
したり、一緒に実験したりする機会は無いと思い
ます。CREST に参加させていただいて、私の視野
も広がったのではないかと思っています。
鯉沼秀臣チーム
■研究成果
研究歴の紹介
学部の卒業研究では、炭素やシリコンのクラス
ター(フラーレンやカーボンナノチューブ、ある
いはもっと小さなもの)の量子キャパシタンスを
第一原理計算で求めていました。その後、修士課
程に入ってすぐに鯉沼先生の下で CREST プロジ
ェクトに参加しました。
CREST での研究成果
パルスレーザー堆積法による有機 FET 用ゲート絶
縁膜の作製と評価
私の修士論文のテーマは、パルスレーザー堆積
法で、欠陥が少なく、絶縁性が高く、誘電率も高
い絶縁膜を作って、いい特性の有機 FET を動か
すことでした。日々、絶縁材料の探索と、その作
製条件の最適化に明け暮れた結果、LaAlO3 を絶縁
層とするペンタセン FET で移動度 1.4cm2/Vs, on/
off 比 107, かつ I-V 特性にヒステリシスがほとんど
無いという高特性を実現できました。S. Yaginuma
et al , Thin Solid Films 486, 218 (2005).
連続発振(CW)レーザー MBE 法の開発
「有機デバイスの本質は、有機層だろ!」と思
っていた私は、博士からは有機膜の研究をしたい
と考えました。当時、諸先輩方の努力の結果とし
て、K-cell を使った有機膜作りのノウハウは固ま
っていましたが、より先へと進むために、膜作り
の手法を見直すことを考えました。松本祐司先生
の閃きに始まり、徐々に変化していき、結果とし
て CW レーザー MBE 法(図 1)が誕生しました。
最初、波長 808nm の CW 半導体レーザーを使
ってペンタセンを薄膜化する実験を行いました。
この時は、「膜ができるのか? 赤外じゃ吸収しな
いかも?」などと色々と考えながらも、「やってみ
なきゃ分からんぞ」と思い、体は動いておりまし
た。「お? レーザーでペンタセンが飛んだ!?」
というのを確認した時、まず喜び、基板上に膜が
あるのを確認して、また喜び、すぐさま取り出し
AFM で表面を見て、「これは出来るぞ」と思い
ました。次に、X 線回折測定で強いピークを確認
し、ロッキングカーブの半値幅も 0.05°以下で結
晶性も最高だと確認し、止めを刺しました。その
後も、「他の材料でも出来るか? 薄膜堆積の制御
性は?」などを調べ、今では、CW レーザー MBE
法は優れた有機薄膜堆積手法だと分かっています。
その後の成果としては、1. 様々な波長の CW レ
ーザーとパルスレーザーによる有機薄膜の作製と
評価、2. C60 薄膜成長中の RHEED 振動の観察、3.
ペンタセンとペンタセンキノンの有機 2 元組成傾
斜薄膜の作製と評価、などがあります。今後は、
有機 FET と有機太陽電池の研究に展開していく
予定です。
■夢を語る
有機膜を作るなら CW レーザー MBE 法を使う、
というのが常識になればいいなと思います。その
ためにも、まずは、博士での研究成果をしっかり
とまとめたいと思います。その後も、もっと努力
して、視野を広げて、楽しい研究人生を送れたら
いいなと思います。そうした過程で得た結果が、
世のため人のためになれば最高だと思います。
図 1. CW レーザー MBE 法
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 43
鯉沼秀臣チーム
1+1 を無限大に
片山 正士 Masao KATAYAMA
東京工業大学 応用セラミックス研究所 特別研
究員
CREST 研究員 E-mail : [email protected]
■プロフィール
1975 年11 月 京都府生まれ
1999 年 3 月 国際基督教大学教養学部理学科卒
業(学生野球に別れを告げる)
2001 年 3 月 東京大学大学院理学系研究科化学
専攻修士課程修了(表面・界面に
魅せられる)
2004 年 3 月 東京大学大学院理学系研究科化学
専攻博士課程修了(力技で博士を
取得)
2004 年 4 月 CREST 研究員(路頭に迷いかけ
たところを鯉沼先生に拾われる)
CREST プロジェクトに参加して
研究職を志したものの職が見つからず、路頭に
迷いかけていたところを鯉沼先生に拾って頂き、
CREST プロジェクトに参加することになりまし
た。比較的長期のプロジェクトで潤沢な研究費も
あり、目先の事にはさほどとらわれずに腰を据え
て研究に取り組める環境は非常に恵まれていると
感じています。ただし充分な研究環境なのだから
こそ、自分の能力がダイレクトに問われていると
いう(心地よい?)プレッシャーは常にあります。
■研究成果
子供の頃
父が実験系の研究者だったため、自宅の棚がア
ングルで組んであったり、はんだごてが当たり前
のように転がっていたのは、今にして思うと少し
変わった環境だったのかもしれません。壊れた時
計を分解しては組み立てるといったことを延々と
繰り返したり、鳴らないラジオを作ったりして遊
んでいました。野球に出会ってからは野球一直線
で、学生野球をするためだけに学生をしていまし
た。
研究の道を選んだきっかけ
小さい頃から数学や自然法則の美しさに関心は
ありましたが、学部の学生実験では、それまで当
44 ︱
たり前だと思っていたことが実験ではなかなか再
現できず、”こんなにもうまくいかないものなのだ”
とショックを受けました。ただ、色々と工夫をし
ていくことで突然きれいなデータがとれたときに
小さな感動を覚え、既にわかっていることでも感
動するなら、わからないことをやればもっと感動
は大きいハズだと研究の道を選びました。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
研究歴の紹介
材料は有機物からアルカリハライド、酸化物と
変化していますが、薄膜作製と真空装置を基本と
した表面・界面の研究に取り組んできました。博
士課程では絶縁体の STM 観察というヤクザなテ
ーマを自分で選んでしまい、あきらめの悪さと根
性で学位を取得しました。
CREST での研究成果
・デスクトップラボラトリーの開発
近年の様々な新機能材料を用いたデバイス作製
には半導体層、電極、絶縁体層などをそれぞれに
適した成膜方法が必要となり、また表面に敏感な
鯉沼秀臣チーム
物性評価には作製した試料を大気に曝すことなく
測定する必要がある。これらの要件を満たすには
真空装置が必要であり、一般には重厚長大な装置
になりがちである。そこで我々は各装置の規格を
統一し、モジュール化、小型化することでデスク
トップ程度の省スペースで成膜から評価までを可
能とするマイクロラボラトリーの構築を行ってい
る。さらにコンビナトリアル手法も取り入れ、効
率的な材料探索が可能である。図1 に試作モジュ
ール 1 号機のレーザー MBE 装置の写真および一
括合成した Y2O3 ベースの蛍光体 3 元ライブラリー
を示す。従来と同等の性能を有する装置がわずか
35 cm x 50 cm のスペースで設置可能となった。
・二酸化チタン電界効果デバイス
二酸化チタンは半導体的性質を活かして光触媒
や色素増感太陽電池として利用されているが、代
表的な半導体素子の一つである電界効果トランジ
スタの活性層に用いたという報告例は皆無であっ
た。我々はルチル型単結晶を活性層とした電界効
果デバイスを作製し、トランジスタ動作を得るこ
とに成功した。明瞭なトランジスタ動作は単結晶
基板表面を超平坦化処理したときにのみ得られ、
高品質な二酸化チタン / 絶縁体界面を形成するこ
とが二酸化チタントランジスタ実現のキーポイン
トであった。この結果は二酸化チタンのキャリア
を電界で制御可能であることを示しており、二酸
化チタンのエレクトロニクス応用や新奇機能デバ
イス展開が期待できる。
■夢を語る
物質と物質であったり、概念と概念であったり、
あるモノとあるモノをつなぎ合わせることで、元々
のモノからは想像することができなかった新しい
モノができることがあります。常識と思われてい
る事と非常識と思われている事とのバランスは保
ちながら、”それは無理なんじゃないの?”という
領域に貪欲にチャレンジし、実験的にきちんと示
して新たな世界を開拓していきたい。
図 1 (a) レーザー MBE モジュール。一括合成した
Y2O3 ベースの蛍光体試料の写真 (b) と発光の
様子 (c).
図 2 (a) 二酸化チタントランジスタの模式図 .
(b) 超平坦化ルチル (110) 表面の AFM 像 (1 x 1 µm).
(c) トランジスタ特性 .
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 45
鯉沼秀臣チーム
研究を続けられることの喜び
共同研究者 立木 昌 Masashi TACHIKI
東京大学 新領域創成科学研究科 リサーチフェロー
■プロフィール
1959年4月 大阪大学理学部助手、助教授を経て
1969年4月 東北大学金属材料研究所教授
1995年4月 東北大学名誉教授、その後科学技
物性理論を専攻したのですが、理論研究が空論に終
わらないためには実験を知ることが必須です。その
ために1年目は誘電体と核磁気共鳴の実験の修行を
行いました。2年目から理論的研究に入り、現在ま
で誘電体、磁性体、金属合金、超伝導等の研究をし
てまいりました。しかし、皆似たようなもので、互
いに関連し合っていると思います。
術庁金属研究所客員研究官、
科学技術振興機構領域統括、日本
原子力研究所量子凝縮相
研究グループリーダー等を兼任
2006年4月 東京大学大学院新領域創成科学研
究科 産学官連携研究員
なぜ研究者になったか
今は私の親戚には多くの研究者がいますが、私が子
供の時には親戚縁者には研究者はいませんでした。私
が研究者の道を歩むようになったのは、自分自身で決
めたことでした。小学校のころは絵をかくことが一番
すきでした。風景も意のままに抽象化できるし、家の
白壁も白だけでなく固定観念に囚われず見えるままの
色でかけることに魅力を感じました。中学、高校で一
番好きであったのは数学でした。代数人間、と幾何学
人間とがあるそうですが、どちらかというと私は、幾
何学人間で証明問題などが解けたときの喜びは忘れま
せん。我々の中学はお城の中にありましたので、2年
のとき分光器をお城の地下の暗所に持ち出し、食塩を
熱してナトリウムのスペクトル観測したところ、黄色
に光る D 線がかすかに2つに分裂しているのを見て、
いつかはこのような現象を理解したいということが心
のすみに残っていました。
高校、大学と進み、物理の授業を受けたとき、
自然現象に法則があり、それが数学で記述されるこ
とを知り、それは私にとって驚異でした。数学の授
業も受けたのですが、微積分方程式の根の存在定理
などには興味がもてず、物理の理論的研究を専攻し
たいと思うようになりました。そして大学院では、
46 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
若い研究者にお話したい私のささやかな経験
研究の価値の80%以上は選んだ研究テーマの
良し悪しで決まるように思います。独創的で意味
あるテーマを探すために非常な努力を払う必要が
あると思います。このためには信用ある有能な研
究者の意見を求める必要もあります。テーマが決
まったら、熱心に研究し速いスピードでその研究
を遂行すべく努力する必要があります。もちろん
その研究が好きでたまらないことを前提にしてい
ます。でないと体を痛めてしまいます。
我々の若い時代は、博士号を取ると外国(主と
して米国)へ行って研究するのが常でした。私も
2年あまりカリホルニヤ大学(UCLA)に滞在い
たしました。日本では研究の活発な研究室にいま
したので、外国に行っても何も得る物がないので
はないかと思っていました。しかし行ってみたら
大違いでした。実験家が私ぐらいの理論は出来る
のです。さて私は何をしたらよいかと迷いました。
一生懸命研究したのですが、1年目は論文を1つ
も出すことは出来ませんでした。2年目は10の
論文を米国の論文誌に出すことが出来ました。論
文は数ではなく質ですから、これは問題にならな
いのですが、若き日の米国留学は私の研究者人生
の1つの転機になりました。最近、外国での国際
会議などでは、日本の若い研究者を数多く見かけ
ます。しかし、外国の大学や研究所で研究してい
る日本の若い研究者ほとんど見かけなくなりまし
た。日本のレベルが上がったせいでしょうが、違
う世界へ飛び込んで研究してみる若者がもうすこ
鯉沼秀臣チーム
し増えても良いのではないかと思います。
もう一つ付け加えさせていただきたいのは、重
要な研究は解説書でなく、原論文でお読みになる
ことを、お推めいたします。たとえば超伝導であ
れ ば Bardeen, Cooper, Shrieffer の 論 文、 近 藤 効
果であれば近藤さんの第一論文です。問題を考え
たいきさつや、研究を進められたときの迫力を感
じ取ることが出来ます。もちろん本にも重要なも
のが沢山あります。たとえば Dirac の Principle of
Quantum Mechanics を大学4年のとき読んで感銘
をうけ将来量子物理にすすみたいと思うきっかけ
になりました。
■研究成果
連続テラヘルツ電磁波の発振
テラヘルツ波の振動数は赤外線とマイクロ波の
中間にあって、物質探索、医学診療、大容量通信
などに重要であるが、まだ安定した発振装置はな
い。我々はこの発信器を考案設計し、研究所、大
学と協力し試作中である。結晶としては T c=90
K の Bi 2Sr 2CaCu 2O 8+ x を用いる。この結晶は
強い超伝導層である CuO 2 層と弱い超伝導層が交
互に積み重なった構造を持っており、ジョセフソ
ン接合の積み重なったものと考えることが出来
る。このとき結晶中にジョセフソンプラズマとい
う電磁波とジョセフソン電流の結合した励起波状
態が出現する。この波の振動数はちょうどテラヘ
ルツ領域にあり、超伝導ギャップの中にあるので
ランダウ減衰が起りにくい。図1において B で示
すように CuO 2に平行に磁場をかけ磁束を導入し、
CuO 2 面に垂直に電流を流すと、磁束の併進運動
により、ジョセフソンプラズマ波を励起すること
ができる。励起されたジョセフソンプラズマ波の
一部は両端面で電磁波に変わりテラヘルツ電磁波
を発振する。発振の強度はかなり強く、連続波で、
その振動数は電流の強さで変えられる。
室温超伝導体を求めて
送電線や種々の電気器具は大量の電気エネルギ
ー消費している。室温超電導が実現したらエネル
ギー問題や環境問題を一挙解決できるであろう。
我々は地球シュミイレーターを使って室温超電導
体の探索を行っている。BCS 理論によると電子間
に引力が働き電子対が出来ると超伝導が形成され
ることが分かっている。結晶中で波数k とk’をも
つ 2 つの電子に働く遮蔽された有効クーロン相互
作用は V( q )/ ε (q , ω ) と書かれる。ここに q は
q =k-k’ をωは2つの電子の角振動数の差をあら
わす。V(q ) はクーロン相互作用の波数 q のフーリ
エ成分である。原子あたり1つ以上の電子を持つ
金属、合金ではデバイ遮蔽常数が非常に短くクー
ロン相互作用はほとんど遮蔽されてしまうので、
この有効クーロン相互作用は小さくなってしまい、
フェルミ面の近くの2つの電子間に働く BCS 型の
格子振動を媒介にした引力相互作用が優位をしめ
る。このときの Tc はせいぜい40K である。一
方、絶縁体に数%のホールか電子をドープしたと
き V(q ) は1eV ― 2eV である。炭素物質(たとえ
ばダイヤモンドやグラフアイト)では軽い炭素の
格子振動振幅か大きくて、ホール(電子)-格子
相互作用が非線形になり、ある領域でε (q , ω ) の
実数部が負になり、 V(q )/ ε (q , ω ) はかなり強い
引力相互作用として働き、高い T c に寄与する可
能性がある。
研究を続けていける厚遇を与えていただけまし
たことに対し、鯉沼先生をはじめ、東京大学の先
生方に、心より感謝いたします。
図1、Josephson THz 発振器
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 47
鯉沼秀臣チーム
打たれ強い材料とは
伊高 健治 Kenji ITAKA
東 京 大 学 新 領 域 創 成 科 学 研 究 科 物 質 系 専 攻 CREST 研究員
E-mail : itaka @ k.u-tokyo.ac.jp
■プロフィール
1968 年
愛知県名古屋市生まれ
1987 年- 1992 年京都大学 (表向きは理学部
で、 実 際 の ほ と ん ど は バ ド ミ ントン
部)
1992 年- 1994 年京都大学 大学院理学研究科
石黒研究室 修士課程修了
1994 年- 1997 年株式会社 日立製作所で、磁
気ヘッドの精密加工の研究に従事
1997 年- 2000 年東京大学 工学系研究科 為ヶ
井 研究室 博士(工学)取得
2000 年- 2002 年東京工業大学 応用セラミッ
クス研究所 鯉沼研究室 博士研究員
2003 年- 戦略創造研究 「電界効果型ナノ構造
光機能素子の集積化技術開発」 研究
員
現在に至る
子供の頃
子供の頃はというと、宿題をやらない子供であっ
た。低学年の頃はまじめであったが、宿題忘れの常
習犯となった。夏休みはお盆が過ぎるまでずっと遊
んでいて、あと数日になってから初めて宿題帳を開
き、七月の天気はどうだったかを思い出すのを繰り
返した。今にも増して要領が良くないので、他人の
宿題を写すという器用なことは出来ず、よく廊下で
正座をしていた。このような経緯を経て、ルーズな
性格が形成されて今に至っており、困ったものであ
る。それでも、本を読むことだけは好きだったので
よく読んでいたが、ビンボーだったので家にあまり
48 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
本がなく、よく百科辞典とか広辞苑を読んでいた。
意外に挿絵もあって面白いものである。
宿題はやらなかったが、学校に行かないという
発想は全くなかった。いつも、なんとかなるだろ
うとタカをくくっているだけなのかもしれない。
研究の道を選んだきっかけ
なぜ理系を選んだのかといえば、高校の時に英語
の授業が少ないから、という理由でした。よく理系
離れといわれますが、中学生・高校生の段階で、多
分ある科目が好きかどうかより、嫌い・苦手のほう
が心理的なウエイトが大きいと思います。つまり、
数学・理科のような理系科目が好きにさせるのでは
なく、苦手にならないようにするのが一番であり、
そうすれば、自ずと理系に進む人が増えるのではな
いかと思っています。(国語・社会のような文系科
目を嫌いにさせるという手もありますが…)
自分の場合は大学に行って勉強をまだまだする
のも面倒と思っていました。ところが秀才といわ
れるような奴はどんな顔かを見てやろうと思って
一度大学なるものを覗いてみようと好奇心が沸い
て進学したのがコトの始まりです。(しかし見渡し
てみたものの、変な奴か大したことがない奴ばか
りで、ずっと部活にいそしんでいましたが。)
最初は数学の授業をとっていましたが、4年の
配属のときに教授が成績表を見るなり、“うちには
いらん。他に行った方がいい”といわれ、いまさ
らどうしようかと思いましたが、物理の研究室に
拾われ、物理をやるようになりました。博士課程
に再入学するときも、東大の物性研をいくつか回
りましたが、“うちは難しいから落ちるよ”と断ら
れ、うろうろしているうちに為ヶ井先生に拾われ
ました。このように捨てる神有れば拾う神ありと
いうのを繰り返して生きてきました。博士取得後
もどうしようかうろうろしているところを鯉沼先
鯉沼秀臣チーム
生に拾われました。
CREST プロジェクトに参加して
やはり、縦割りになりがちな研究・組織が横に
広がるという点が特筆すべき点ではないかと思い
ます。もともとボスの鯉沼先生はそういうことが
大好きかつ得意ですが、この CREST プロジェク
トが発足して以来、グループ内の研究会だけでな
く、領域内の研究会・その他も大変勉強になります。
月一ペースのグループ内研究会はしんどい、の一
言に尽きますが、怠け癖防止と火事場の馬鹿力を
発揮させるよいシステムだと思います。
また、CREST に限らず、なにかプロジェクトを
やると様々な書類が提出する機会が多くなります
が、CREST 事務所の方々にご迷惑をかけながらも
いろいろと助けて頂いています。
■研究成果
研究歴の紹介
鯉沼研究室に来るまでは、高温超伝導体の研究を
やっていました(ナノ構造をもつ超伝導体の研究で、
同じ藤嶋領域の松本グループの研究と関連した内容
でした)。酸化物単結晶の育成も自分でやっていた
ので、薄膜にはどうせロクな膜がないと思っていま
した。実際、それまでに見たことのある薄膜はどれ
もロクなのは有りませんでした。そう思っていたの
で、薄膜屋になるつもりはさらさらありませんでし
たが、博士取得後に鯉沼先生から鯉沼研の超伝導薄
膜の電子顕微鏡写真を見せられて気が変わり、現在
に至っています。鯉沼研であってもいい品質の薄膜
を作るのはやはり大変ですが、いい膜を作るのが鯉
沼研の使命と思っています。
CREST での研究成果
鯉沼研究室は、自分が加わった頃はアモルファス
シリコンと酸化物薄膜では右に出るところのない研
究を行っていましたが、鯉沼先生に“有機はうまく
行っていないから、おまえやれ”といわれて以来、
有機半導体の研究を行ってきました。一流の薄膜が
作れる酸化物を横目に見ながらも、ようやくいい有
機薄膜が出来るようになってきました。ここで開発
されたキーテクノロジーを2点紹介します。
一つは、ペンタセンの単分子層バッファーです。
原子レベル平坦性基板上でペンタセンを薄膜成長
させると第1層目だけは非常にきれいに成長する。
そこで、マイグレーションの悪い材料に対して、
その分子のぬれ性が制御できるのではないかと思
って、これを C60 薄膜に適用したところ、見違え
るほどの薄膜が出来るようになりました。この手
法を使って電界効果トランジスタを作ると性能を
示すバロメーターである移動度が5倍向上しまし
た。現在、この値はn型有機半導体の移動度とし
てはワールドレコードです。
もう一つは、赤外線レーザー MBE 法です。これ
までにも、パルスレーザーで有機材料を蒸発させる
ことは試みてきましたが、光によって分子構造が変
わってしまうなど問題点がありうまくいっていませ
んでした。丁度この CREST のテーマで超小型 PLD
チャンバーを作り、これの基板加熱レーザーも極力
小さいものということで、赤外線半導体レーザーを
購入しました。この赤外線レーザーをいろいろ触っ
てみたところ、これなら有機材料の蒸発に使えるの
ではないかと閃きました。以前から鯉沼研は赤外線
レーザーを持っていましたが、鉄板も切断できるよ
うな巨大なもので有機半導体をとばすという発想が
結びつきませんでした。これを博士課程学生の柳沼
図1、ペンタセン単分子層バッファーを使った
n型有機トランジスタの構造
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 49
鯉沼秀臣チーム
図2、有機材料用赤外線レーザー MBE 装置の概略図
君と一緒に始めてみたところ、レーザーによって分
子が壊れていないことがわかりました。これまでの
抵抗加熱で作られた膜と同品質の膜はもちろん出来
る上に、従来法ではうまくいっていなかった有機半
導体の連続組成傾斜膜の作製や C60 の RHEED 振動
の観察などが初めて可能となりました(特許出願済
み)。現在、赤外線レーザー MBE 製膜装置のさら
なる改良を進めています。
50 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
■夢を語る
研究という名のバクチを打ち続け、常に一発逆
転を狙っています。面白ければ何でもいい、とい
うのも個人的な信条であります。酸化物はもろく
割れやすい材料ですが、
“有機物は耐衝撃性に優れ、
打たれ強い”とあります。打たれ強い心もちで研
究を続けていきたい。
河本邦仁チーム
ナノブロックインテグレーションによる
層状酸化物熱電材料の創製
研究代表者
河本 邦仁 Kunihito KOUMOTO
名古屋大学 大学院工学研究科 教授 E-mail: [email protected]
平成 17 年度研究成果
平成 17 年度は、酸化物モジュールの出力特性の
詳細な検討から、今後の指針を与えるロードマッ
プを提案し、(1) 新規高性能N型酸化物材料の探索、
(2) P型層状コバルト酸化物セラミックスの単結晶
レベルまでの特性向上が必要なことを示した。こ
れに基づいて、新規N型酸化物材料として有望視
されている SrTiO3 の高温熱電変換特性を解明する
とともに、酸化物ホモ・へテロ界面に生成する 2
次元電子ガスが巨大熱電効果を発現する現象を詳
細に検討し、ナノブロックインテグレーションに
よる高効率化に向けて重要な足がかりを得た。ま
た、ZnO セラミックスのナノボイド構造制御によ
り ZT=0.44@1,000℃を達成した。一方、P型酸化
物に関しては、C a コバルト酸化物の高配向セラ
ミックス化に成功し、ZT=0.4@1,000K を実現した。
いまだ単結晶レベルには至っていないが、効率ア
ップのための材料課題をクリアにすることができ
た。
我々が掲げるナノブロックインテグレーション
の概念を裏付ける物理的基礎の確立のための検討
も並行してすすめ、Co酸化物系には及ばないも
のの新しい酸化物系も発見した。また、ナノ構造
や組成の精密な制御によって、材料の持つ基本性
能を量子効果等によってさらに向上させる試みも
行い、成果を上げることができた。
今後、ナノブロックインテグレーション概念に
基づいて構築した酸化物ハイブリッド結晶を用
い、ナノ・ミクロ構造を制御して高効率化した材
料素子をモジュールに組み込んで、熱電変換デバ
イス・システムへ応用していく可能性が十分期待
できるところに来たと確信している。
Caコバルタイト高配向セラミックスの無次元性能指数 ZT(黒点)
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 51
河本邦仁チーム
現場主義、
実際に作って使ってみる。
浦田 さおり Saori URATA
産業技術総合研究所 ナノテクノロジー研究部門
CREST 技術員
E-mail : [email protected]
■プロフィール
平成 11 年、国立佐世保工業高等専門学校物質
工学科卒業、その後一般企業に入社し東京で営業
職をしていました。入社後数ヶ月で新会社の立ち
上げメンバーとして移籍、総合的に色んな仕事を
行いました。今思えば、営業、人事(採用を含め)、
広報、事務秘書業務の一人 4 役くらいは行ってい
たのではないでしょうか。新しいことをするのは
何事もパワーが必要だと強烈に身をもって実感し
た社会人 1 年目でした。
その後、縁あって大阪で技術系の仕事に就くこ
とになり 2 年間ほどお世話になりました。技術系
とは言いましても、開発から販売まで一商品に携
わる全ての業務でしたので、面白く非常にやりが
い を 感 じ て お り ま し た。 製 造 現 場 サ イ ド の 意 見、
顧客の思い、そして上層部の意向・・・色んな思
いが絡む中で利益を上げることの難しさ、トラブ
ル対応の困難さを実感しました。若さゆえ(当時
21 ~ 23 歳)至らない点も多かったと思います、
今だったら完璧に処理できると思う仕事も多いで
す。そう思える分、今は成長したのだと思います。
平成 14 年 6 月から産業技術総合研究所で働い
ています。現場の女!をモットーに日々張り切っ
ています。えぇ、現場の女らしく私物で安全靴も
持ってます。
子供の頃
電車も通っていないような九州地方の田舎の出
身です。自然だけは豊富にあったので山や川で遊
んでいました。小さな頃から物づくりが好きで、
妹弟におもちゃを作っていたような記憶がありま
す。そう、こう見えても手先は器用な方ではない
52 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
かと思います。何せ、4,5 歳くらいの頃から針や
包丁を持たされてますから。通常だったら、危な
いからあれは駄目これは駄目と言われることも、
私の家族は何も言わず全て私の好きなようにやら
せてくれました、勿論常識の範囲内ですが。成績
表も見せろと言われたことが無いくらい自由にさ
せてくれていました、おかげで小さな頃から自分
のことは自分でやり、思ったことはやってみると
いう子供でした。
研究の道を選んだきっかけ
やはり、物作りが好き!の一言に尽きると思い
ます。それも、生産品等のルーチンワークで作製
する物ではなく、試行錯誤しながら形作っていく
プロセスが楽しいので、開発に携わりたいという
思いが強かったです。
・その転機は何か
人の縁ですね、実は学生時代は自分が研究職に
就くとは思ってもいませんでした。社会に出て『私
はやはり物づくりが好きだ』と実感し、その時た
またま仕事を紹介してくれた方がいらっしゃった
のです。運に恵まれているのだと思います。
CREST プロジェクトに参加して
様々な研究を行ってらっしゃる方々と交流でき
て多くのことを勉強させて頂いてます。直接研究
室へ行き来する人の交流がもっとあれば、互いの
強みを出した研究ができるようになるのではない
かと考えています。
■研究成果
CREST での研究成果
コンビナトリアル技術を用いた酸化物系新材料
の探索技術を開発してきました、従来は一日 500
河本邦仁チーム
種類の試料作製が限度で、性能評価の精度も良く
なかったものを一日 2000 試料作製を可能にし、ゼ
ーッベクテスターを開発したことにより性能評価
の定量化を可能にしました。
また、数年前までは材料粉と小さなバルク体し
か作製できなかった酸化物熱電材料のプロセス技
術を構築し、モジュールの大量製造を可能にしま
した。また、モジュール作製技術を確立したことで、
世界で初めて酸化物熱電モジュールを用いた携帯
電話の充電や湯沸かし器搭載型の過熱水蒸気発生
装置の開発に成功しました。
図 1. ゼーベックテスターを用いた厚膜試料測定。
簡易にゼーベック係数測定が可能。
図 2.ゼーベックテスターを用いた酸化物バルク体
ゼーベック係数測定結果安定したゼーベック
が数秒で測定可能。
図 3. 作製したモジュール
■夢を語る
りたいです。昔は高価で大型装置だったものが時
代と共に安く小型化されていくように、性能やサ
人の役に立つ技術、何年後かには当たり前にな
っている技術を残していきたいです。街中を歩い
ている時にふと自分達が開発したものが目に入る、
表立っては見えないけれど、製品の内部にひっそ
りと息づいている・・・そんな物そんな時代を作
イズは技術革新によって次々変わっていきます。
先ずは熱電発電を世間に広めることを行っていき
たいと思います
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 53
河本邦仁チーム
外柔内剛
李 圭 珩 (イギュヒョン) LEE Kyu Hyoung
いと思いましたが、だんだん研究を進めながらい
名古屋大学 名古屋大学大学院工学研究科
ろいろ勉強になることが楽しくなりました。一つ
の狭い分野を専攻にして博士まで取りましたが、
CREST 研究員
他の分野については全然知識もないし経験もまだ
■プロフィール
まだ不足なので大家がいる良い環境の場所で研究
私は 1974 年韓国のソウルで生まれました。家族
て研究者の道を選びました。
を行ったら、もっと良い状態になると希望を持っ
は両親や 2 歳上の姉や妻がいます。来年春には父
になります。なぜか今も理由は分かりませんが、
CREST プロジェクトに参加して
小学生の時珠算だけは 6 年間一所懸命やってあま
り必要なことではないものの、珠算学院で働ける
韓国でも科学技術部とか産業資源部など政府機
資格を獲得しました。数学が好きなことと建築工
関からの同じ形のプロジェクトがあります。院生
学科先生父の勧誘で大学は工学部に入学しました。
の時に何年間か参加したのですが、研究費が少な
ソウルにある延世大学セラミックス工学科で博士
いので一つの研究室が必要な測定装置を買うこと
まで 12 年間勉強しました。このあいだ 2 年間は軍
が全然できませんでした。初めに来た時、今の研
隊で迫撃砲を操作しました。とても辛い時期でし
究室の測定装置が充実していることに大変驚きま
たが、いい経験になりました。大学院では燃料電
した。研究室の中で必要な実験を行うことができ、
池電解質に関して研究を行いました。
研究費処理など事務作業を行う必要がなく、教授、
助教授、助手 3 人の先生がいるシステムなどすご
くいい研究環境だと思います。ここで働く機会が
子供の頃
与えられることが私にとっては大きな幸運だと感
じています。
勉強はほとんどせず毎日友達と外で遊んでいた
ので、両親に心配を少しかけていました。小学生
の時成績は悪かったんですが、科学と歴史は非常
に興味があった記憶があります。年齢の標準より
■研究成果
背がすごく小さかったので、背が高い人になるの
CREST での研究成果
が夢でした。
去年 10 月から名古屋大学の河本研究室で酸化物
研究の道を選んだきっかけ
熱電変換材料開発を目的にして研究を行っていま
す。この研究チームで立方晶ペロブスカイト型構
最初、大学院に進学することに大きな意味はな
54 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
造を有する Nb ドープ SrTiO3 が n 型金属酸化物と
河本邦仁チーム
して良好な熱電変換性能指数(ZT = 0.37@1000K)
を示すことを見いだしたので、自然超格子構造に
より熱伝導率のみを下げて熱電変換性能向上の可
能性があると期待し、新しい熱電変換材料候補と
し て Sr-Ti-O 系 層 状 ペ ロ ブ ス カ イ ト RuddlesdenPopper 相の熱電変換特性研究を行ってきました。
その結果 SrO 層と SrTiO3 層の界面において効果
的にフォノン散乱からの熱伝導率低減効果(図 1)
とペロブスカイト関連構造酸化物の結晶構造と熱
電特性の関連性を明らかにしました(図 2)。(J.
Appl. Phys. 掲載) なお、現在 Ruddlesden-Popper
相の最高熱電変換性能を得るため、ドーパント濃
図 1 熱伝導率
度や組成最適化とエピタキシャル薄膜や結晶配向
させるセラミックスを作製研究を進めています。
図 3 熱電変換性能指数
図 2 キャリア有効質量と移動度
■夢を語る
修士からずっとエネルギーに関して研究を行っ
ていますので、一番関心がある分野は代替エネル
ギーの開発です。後もこの分野で研究を続いて、
エネルギー問題を解決のため少しでも寄与したい
と思います。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 55
河本邦仁チーム
高配向酸化物熱電材料
黄 向陽 Xiangyang HUANG
東北大学大学院工学研究科 応用物理学専攻
機能結晶学講座 梶谷研究室 CREST 研究員
Email: [email protected]
■はじめに
私は、東北大学大学院工学研究科応用物理学
専攻機能結晶学講座梶谷研究室に CREST 研究員
として 2 年前から働いています。日本に来る前に
は、中国は上海にある同済大学で熱電材料となる
ZrNiSn 系ハーフホイスラー合金や CoSb3 スクッテ
ルダイト系などの金属間化合物の研究をしていま
した。
研究者になることが子供の頃からの夢でした。
両親は私が医者になることを望んでいましたが、
私は自らの夢を選び上海で大学卒業後に大学の研
究員になりました。研究をすることで、未知の世
界を探索し困難な問題を解決していくことができ
ます。これが、私が研究者という職を選んだ理由
でもあります。実際、材料工学はとても魅力的な
分野であり、物質探索においては目標やチャンス
が沢山あります。数学、物理、化学や機械などの
どの分野とも違う魅力が材料工学にはあると思い
ます。
■ [Ca2CoO3]0.62CoO2 の配向セラミックスについて
現在私は酸化物熱電物質について研究してい
ます。熱電発電とは熱から電気をつくりだす機
構のことですが、自動車や焼却炉から発生する
廃熱利用を目的とした次世代エネルギー変換技
術として注目されています。酸化物化合物は低
い毒性と高温でも高い安定性をたもつため熱電
材料としての応用が期待されています。今まで、
[Ca2CoO3]0.62CoO2 (Ca3Co4O9) は室温で電気伝導率σ
= 46Scm-1、ゼーベック係数 S ~130mVK-1 と高い熱
電特性を示すため、最も性能がよい酸化物熱電材
56 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
料とされています。この高い性能の背景には、2 つ
の単斜晶系の部分構造が積層したミスフィット型
構造をもち、単結晶においては CoO2 面内方向の電
気伝導度が面直方向に比べて非常に高い化合物で
ある、ということがあげられます。そこで、多結
晶体において電気的伝導特性を向上させるために、
[Ca2CoO3]0.62CoO2 の配向セラミックスの作製を行う
ことにしました。
配向セラミックスを作製するために、放電プラズ
マ焼結機 (SPS) を用いて [Ca2CoO3]0.62CoO2 単結晶試
料を焼結しました。[Ca2CoO3]0.62CoO2 単結晶試料は
フラックス法を用いて作製し、できた試料を丁寧
に重ねてから高温で加圧焼結を行いました(図 1)。
図 1 配向セラミックスの作製行程
加圧方向に平行な面の SEM 画像を図 2 に示し
ます。結晶粒子の層がほぼ単一方向にそろってい
るのが分かります。通常の固相反応法を用いては、
このようなミクロ構造を得ることは困難です。固
相反応法を用いさらに SPS 焼結した多結晶体試料
(poly-sps) と、組織結晶試料の面直方向 (sin-sps-c)、
面内方向 (sin-sps-ab) それぞれの電気伝導率を調べ
たところ、sin-sps-ab 試料が、1000K で~ 250Scm-1
と最も高い値を示しました(図 3)。これは poly-
河本邦仁チーム
sps 試料の約 3 倍の大きさになることから、結晶
粒子の方向をそろえることが必要であることがわ
かります。しかし、ゼーベック係数には大きな変
化がみられず、電気的伝導特性は十分増加したこ
とが分かります。1000K において、出力因子 ( σ S
2) は 8.5 × 10-4Wm-1K-2 となりました。
伝導率の増加が見られるにとどまるのです。結晶
粒子の配向に加え、結晶粒界が減少したことによ
り格子熱伝導率は増加しました。しかし、高温時
においては U process や点欠陥によるフォノン散
乱が支配的で、結晶粒界で起こるフォノン散乱の
寄与は元々少ないといえます。
配向セラミックスについての無次元性能指数
ZT は約 50%の改善しました。電気伝導度が増加
したことにより 1000K において 0.4 と高い値を示
しました。この研究結果より、多結晶体のミクロ
構造を、配向をそろえたり粒径サイズを制御した
りすることは、層状構造をもつの熱電材料の出力
因子を向上させるためには非常に重要かつ効果的
な方法であることがわかりました。
■ 今後の研究
図 2 配 向 セ ラ ミ ッ ク ス の 断 面 図 の SEM 画 像。
[Ca2CoO3]0.62CoO2 結晶粒子は加圧方向とは
垂直によく配向している。
[Ca2CoO3]0.62CoO2 は 高 性 能 の p 型 熱 電 材 料 で
す。しかしながら、熱電モジュールのデバイス化
には、高性能な n 型半導体もまた必要となります。
その n 型熱電材料の候補の 1 つとして CaMnO3 が
挙 げ ら れ ま す。 我 々 は Bi2O3 及 び V2O5 に 続 い て
CaMnO3 の熱電特性を研究し、ZT=0.2 の性能を持
つことを明らかにしました。今後、熱ショック耐
性の改善による強度増加のための SiC ファイバー
の導入と、ZnO ナノ粒子よる熱電性能の増加など、
より詳細に実用化を目指した CaMnO3 の研究を行
う予定です。
■ 感想
図 3 電気伝導率の温度依存性
中国と比較して、日本では研究の基金が潤沢で
す。様々な CREST での学会や、研究室内部及び
国際学会などでの話し合いは、非常にためになり
ます。私の夢は、現在のフロンガス家庭用冷蔵庫
の置き換えとなりうる熱電材料を開発し、環境保
護に役立てることです。
電気伝導率と同様に、配向セラミックスの ab面は、固相反応法を用いて作製した試料に比べ高
い熱伝導率を示します ( 今回は図として掲載して
おりません )。しかし、熱伝導率が上昇しても、電
気伝導率の増加による影響のほうがずっと大きい
ので、熱電特性には大きく影響しません。さらに
詳しく言えば、この化合物においては、格子熱伝
導率が支配的であるので、キッリアによる熱伝導
率の上昇には限界があり、結果としてわずかな熱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 57
河本邦仁チーム
金属酸化物結晶の高品質エピタキ
シャル薄膜作りが得意です
太田 裕道 Hiromichi OHTA
名古屋大学大学院工学研究科 化学・生物工学専攻
助教授
e-mail: [email protected]
URL: http://www.apchem.nagoya-u.ac.jp/
BS-6/seigyo6/hiromichi_ohta.html
■プロフィール
1994 年 3 月 埼玉大学 工学部 応用化学科 卒業
1996 年 3 月 名古屋大学大学院 工学研究科 応
用化学専攻 博士前期課程修了
1996 年 4 月~ 1997 年 12 月
三 洋 電 機 株 式 会 社 ソ フ ト エ ナ
ジー技術開発研究所勤務
1998 年 1 月~ 2003 年 9 月
HOYA 株 式 会 社 R&D セ ン
ター勤務
1999 年 11 月~ 2004 年 10 月
科学技術振興機構(JST)創造
科学技術推進事業(ERATO)
細野透明電子活性プロジェク
ト(電子伝導性制御 G リーダー
2002.4 ~)
2001 年 10 月 東京工業大学 総合理工学研究
科 物質科学創造専攻 博士課程
修了(工学博士)
2003 年 10 月~
名古屋大学大学院工学研究科・
助教授
りすることが日課でした。今思えば、こんなこと
に付き合ってくれた両親は凄いなと思います。
研究の道を選んだきっかけ
企業の技術者時代によく感じたことが、「こんな
仕事ならば誰でもできる・・・」でした。私は、
子供の頃から負けず嫌いなので、自分しかできな
い仕事がしたくて研究ができる道を選びました。
勿論、最初は何をすればよいのか分からなかった
のですが、HOYA・東工大時代に焼結体の電気特
性をある学会で発表したときに、「そんな結晶粒界
があるものでキャリア輸送特性を測ったって信用
できないよ。単結晶薄膜じゃなきゃ!」と人に言
われて、「だったら単結晶薄膜を作ってやる!」と
いうことで、それから単結晶エピタキシャル薄膜
作りに没頭しました(笑)。
CREST プロジェクトに参加して
複数の機関の研究者と相互に情報交換をして、
研究を進めることにより、例えば学会レベルでの
情報交換よりも圧倒的に速く研究を進めることが
できるというのが一番の魅力ですね。
■研究成果
CREST での研究成果
子供の頃
子供の頃はとにかく昆虫が大好きで、家の中
は見渡す限り飼育ケースが並んでいて、中にはい
ろんな昆虫がいました。トンボ、蝶、セミなどの
幼虫を捕まえてきては、羽化する様子を記録した
58 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
CREST プロジェクトでは、金属酸化物熱電変
換材料のエピタキシャル薄膜化とその特性評価を
中心に行ってきました。単結晶と同等の高品質エ
ピタキシャル薄膜を作製し、そのキャリア輸送特
性を正確に測定・解析することにより、熱電変換
材料の設計指針を確立するのが狙いです。これま
河本邦仁チーム
で、n 型 金 属 酸 化 物 と し て は SrTiO3 や TiO2 を、
p 型金属酸化物としては NaxCoO2、SrxCoO2 及び
Ca3Co4O9 をエピタキシャル薄膜化してきました。
中でも、TiO2/SrTiO3 ヘテロ界面の二次元電子ガ
ス(図)が巨大な Seebeck 効果を示すことの発見
はインパクトの大きな成果だと思っています。
■夢を語る
私は、材料研究には大きく分けて二通りの戦略
があると考えています。一つはコツコツ長い時間
をかけて新物質の探索を行うことであり、もう一
つは既存の物質を “材料”として使える品質にす
るプロセス開発です。父が家具職人で小さい頃か
ら家具製作プロセスをすぐ近くで見てきたためか、
私は“良い商品を作る”ためのプロセス開発のほ
うが得意なようです。プロセス開発の中でも、私は、
人に見せられる高品質なエピタキシャル薄膜を作
製し、今まで汚い多結晶や目に見えないくらい小
さな単結晶を使って測定されたデータからは抽出
することができなかった真の物性を知り、それを
使ってデバイス設計したいと考えています。特に、
これからは金属酸化物の量子効果デバイスを作っ
てみたいですね。
TiO2/SrTiO3 界面付近のキャリアデプスプロファイル。
TiO2 薄膜はパルスレーザー堆積法により (100)-SrTiO3 単結晶基板上にヘテロエピタキシャル成長させた。
TiO2/SrTiO3 ヘテロ界面近傍(厚さ約 3 Å)に ~1021 cm-3 の高濃度電子が溜まり、二次元電子ガス(2DEG)と
なっている。この 2DEG が驚くほど大きな Seebeck 係数を発現することを発見した。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 59
河本邦仁チーム
競合が生み出すもの
中野 智仁 Tomohito NAKANO
早稲田大学理工学部 CREST 研究員
E-mail:[email protected]
■プロフィール
■研究成果
研究歴の紹介
2002 年 室蘭工業大学 工学研究科 物質工学専
攻 卒
2002 年 東京大学物性研究所 COE 研究員
2005 年 早稲田大学理工学部 CREST 研究員
子供の頃
北海道で生まれ育ち、多くの自然に接する事
ができた事が自然科学への興味へと発展したと思
われる。
研究の道を選んだきっかけ
研究したいと考え始めたのは高校生の頃。 興
味があったのは宇宙の物理であったが、現在は何
故か反対に物性物理の世界に居る。誰も知らない
ことを自分が初めて理解する、ここに喜びを見い
だせる事が研究を続けていくことの原動力だと思
います。
CREST プロジェクトに参加して
研究環境、待遇ともに十分で、研究に専念で
きる環境を提供して頂いております。
Ce や U 等、f 電子を持つ物質群の中に通常の
金属の 100 倍から 1000 倍の電子比熱係数をもつ
物があり、重い電子系と呼ばれています。これ
らでは、磁性を起こそうとする RKKY 相互作用
とそれを抑制しようとする近藤効果の競合によ
り、反強磁性、強磁性、あるいは超伝導と言った
さまざまな種類の秩序相が f 電子を基にして現れ
ることが知られています。これまで SDW( スピ
ン密度波 ) を示す重い電子系化合物の一つである
Ce(Ru0.85Rh0.15)2Si2 に対する圧力効果を研究してきま
した。Ce(Ru0.85Rh0.15)2Si2 の SDW は正負の圧力によ
って RKKY 相互作用と近藤効果の競合がコントロ
ールされ、特に負の圧力によって格子定数の増加
をともない、遍歴的なf電子の性質を持つ SDW は、
局在モーメントの性質をもった反強磁性へと変貌
する事を明らかにしました。
CREST での研究成果
早大グループの CREST での役割はナノブロッ
クインテグレーションによる層状酸化物熱電材料
の創世にあたっての物理的基礎の理解です。その
中で私は特に BaIrO3 に着目しています。
BaIrO3 は TC = 約 180 K 以下で弱い強磁性とギ
ャップ型の秩序を同時に示す (Fig.1)。 結晶構造は
単 斜 晶 (space group C2/m) で あ り (Fig. 2)、c 軸
方向に一次元的な Ir3O12 トリマーのジグザグチェ
ーンを持つ。その一方で、トリマーのコーナーを
共有した二元的な構造ネットワークをあわせ持つ。
これらの競合がこの物質にさまざまな二面性あた
え、思いもよらなかった振る舞いを示す事がわか
60 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
河本邦仁チーム
ってきました。
1- 強磁性とギャップ型の秩序
Fig.1(a, b) に示されるように BaIrO3 は強磁性と
電気抵抗のハンプ型の異常で特徴づけられるギャ
ップ型の秩序が 180K で同時に起こります。
2- 非金属 – 金属転移
TC 以上で電気抵抗は温度降下にともなって減少
し非金属的な性質を示します。しかし TC 以下で
ギャップが開くことによって状態密度は減少しま
すが、低温 (120 K 以下 ) で温度降下にともなって
金属的に減少します。これらから、ギャップによ
って完全に状態密度が失われてはいない事、そし
て TC で非金属 - 金属転移も同時に引き起こされて
いる事を明らかにしました。
3- 強大非線形伝導(電流誘起金属状態)
30 K 以下の低温領域において、電気抵抗は半導
体的な激しい上昇を示します (Fig.1(b))。この半導
体的な振る舞いを示す温度領域で、負性抵抗をと
もなった巨大な非線形伝導を示す事を発見しまし
た (Fig. 3)。さらに電流密度増加が半導体的な振る
舞いを抑制し金属的な状態を誘起することを明ら
かにしました。
4- 熱電材料としての可能性
c 軸 方 向 の ゼ ー ベ ッ ク 係 数 S// は TC 以 下 で 急
激に上昇し、100 K で約 120 µV/K に到達します
(Fig. 1(c))。この S// の増加は状態密度上にギャッ
プが開くことによる、キャリア濃度の減少に起因
するためと考えられ、電気抵抗の結果と一致しま
す。出力因子 S2/ ρは、低い電気抵抗と大きなゼ
Fig.1 BaIrO3 の磁化、電気抵抗およびゼーベック係数
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 61
河本邦仁チーム
ーベック係数を反映して c 軸方向で 60 K で 0.15
mW/K2m に達し、これは一般的に高いと言われる
NaxCoO2 の室温での出力因子 5 mW/K2m に近く、
BaIrO3 が熱電材料としての可能性を含んでいると
言えます。この際、高いゼーベック係数はギャッ
プが開くことに起因し、低い金属的な電気抵抗は
残留した状態密度に起因すると考えられ、これら
を上手く調整する事によって、より高い機能を持
った材料開発が可能になります。
■夢を語る
生涯教育研究
Fig.2 BaIrO3 の結晶構造
Fig. 3 BaIrO3 の巨大非線形伝導
62 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
佐々木高義チーム
光機能自己組織化ナノ構造材料
の創製に関する研究
研究代表者
佐々木 高義 Takayoshi SASAKI
( 独 ) 物質・材料研究機構 ナノスケール物質センター センター長
E-mail: [email protected]
平成 17 年度研究成果
我々はナノシートと呼ばれる、厚みがわずか1ナノ
メートル前後しかない極薄の2次元ナノ物質を用いて
エネルギーの高度利用に役立つ新材料、技術の開発
を目指した研究を進めています。これまでに様々な機
能性ナノシートの創製や層状コバルト酸化物超伝導
体の発見などの基礎的成果に加えて、表面が極めて
平滑で、優れたセルフクリーニング機能を示す酸化チ
タン光触媒膜の開発など応用面での成果も上がりつ
つあります。ここでは新たにナノシートの電子的、磁
気的機能に着目して得られた展開についてご紹介し
ます。
紫外光に応答する磁気光学材料の創製
チタンの一部をコバルトや鉄で置換した酸化チタン
ナノシートを合成したところ、室温で強磁性を示すこ
とがわかりました。さらに自己組織化吸着を利用し
た溶液プロセスでこれらのナノシートをレイヤーバイレ
イヤー累積したところ、得られる超薄膜が紫外光に
応答して非常に大きな磁気光学特性(偏光を入射す
ると偏光面が回転する性質)を示すことを見いだしま
した(図1)。この結果は将来の高速光通信技術や大
容量記憶素子に役立つ可能性を秘めているとともに、
図 1 強磁性酸化チタンナノシート膜の磁気光学スペ
クトル
ナノシートを様々な順番、間隔で超格子的に累積する
ことにより機能を自在にコントロールできることを示す
興味深い成果です。
誘電体として機能する酸化チタンナノ
シート超薄膜
酸化チタンナノシートがお互いの重なりやすき間が
ない形で累積した高品位超薄膜を本プロジェクト研
究により開発した手法を用いて形成させ、その電気的
性質を測定したところ、厚さが 10 nm 前後の非常に
薄い領域においても 120 を超す大きな誘電率を与え
ること、またリーク電流も 10 -7Acm -2 以下(1V 印加
時)という極めて小さな値に抑え込めることが明らか
になりました。これらの特性は酸化チタンナノシート
がもともと誘電体として高い性能を出すポテンシャル
を持っていることに加えて、本薄膜形成技術が室温
の液相プロセスによっているため、図2に示すようにク
リーンな電極界面を作り出せたためと考えられます。
これにより現在盛んに探索が進められている次世代
high-k 材料の一つとして酸化チタンナノシートが期待
できることがわかりました。
図 2 超平滑基板(SrRuO3)上に堆積させた酸化チ
タンナノシート超薄膜の断面 TEM 写真
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 63
佐々木高義チーム
超薄膜太陽電池の作製
赤塚 公章 Kosho AKATSUKA
筑波大学大学院 数理物質科学研究科 材料・工
学専攻 博士後期課程 1 年
E-mail : [email protected]
■プロフィール
2004 年中央大学理工学部応用化学科卒業
2006 年中央大学大学院理工学研究科修士課程修
了
2006 年筑波大学大学院数理物質科学研究科博士
課程入学
現在に至る
子供の頃
とにかく家の中に居ることが嫌いで外で遊びま
わり、TV ゲーム等室内での遊びとは、ほとんど
縁のない生活を送ってました。子供の頃は家の周
りにまだ、森が残っているような環境だったので
いい遊び場になってました。また、父親が日曜大
工好きという影響もあり、色々と工作をして遊び
道具を作ってました。お陰で今は、人並み以上に
手先が器用です。
研究の道を選んだきっかけ
自分が通っていた高校が自由でのびのびした高
校であり、制服はなく私服、修学旅行の行き先も
生徒の投票によって決まってしまうような高校で
した。高校の授業も大学受験を意識したような授
業でなく、理科系の授業は実験がやたら多いもの
でした。多いというより、毎回実験でした。授業
は 2 コマ連続で、時間がかかる実験は 2 コマ連続
実験、1 コマで終わる実験は実験後の 1 コマで理
論の講義をするといった授業構成になっていまし
た。そのため、実験と理論が結びつき、何を目的
に実験を行ったか理解できる授業でした。また、
興味があれば放課後実験の続きを自由に行って良
いという自由な環境の高校であったため、漠然と
『研究は自分で考えれば自由で面白いことができそ
64 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
うだな。』と思ったのがきっかけです。
CREST プロジェクトに参加して
学部 4 年生で研究室に配属され、そこから研究
生活がスタートしました。研究生活スタートと同
時にナノシートを用いた研究を行い、学部 4 年か
ら CREST プロジェクトに参加させて頂いていま
した。研究室で与えられた自分のテーマと、プロ
ジェクトの研究が何も変わらなかったため、正直
なところ学部、修士課程の前半までは全く CREST
プロジェクトの重要性や、共同研究の必要さが分
かりませんでした。しかし、何度か学会等に参加
し色々な人と出会い、周りが見えてくるようにな
ると CREST プロジェクトの重要性に気付かされ
るようになりました。今では、半期に一度のチー
ムミーティングは貴重で、実は普段話せないよう
な先生方にアドバイスを頂ける機会であったり、
所属している研究室だけではできない測定をして
頂くなど、共同研究の場としても重要な機会であ
ることを実感しています。
■研究成果
研究歴の紹介
中央大学で学部 4 年、修士課程 2 年間の計 3 年間、
芳賀正明教授のもとで金属錯体の合成、金属錯体
とナノシートとの複合膜の構築および光電変換機
能評価の研究・指導を受け修士課程を修了しまし
た。博士課程からは筑波大学大学院に移り、物質・
材料研究機構、佐々木高義センター長のもとでナ
ノシートの合成および機能評価の研究・指導を受
け、現在に至っています。
CREST での研究成果
ナノシートを用いた光機能性材料の創製を目的
として研究を行ってきました。本研究では、可視
佐々木高義チーム
光に吸収を持つ金属錯体 (Zn ポルフィリン ) と、
可視光に吸収を持たないナノシートを組み合わせ、
有機 - 無機ハイブリッド複合膜の構築を行い、膜
厚が数ナノメートルレベルで可視光が利用できる
光電変換膜の作製をしました。ナノシートは表面
が負電化に帯電しているため、正電荷を持つ金属
錯体とを静電相互作用し、簡単にハイブリッド化
させることが可能です。
有機 - 無機ハイブリッド膜の形成には LangmuirBlodgett(LB) 法と浸漬法を用いています。まず、
LB 法を用いることにより電極基板上に、ナノシ
ートを緻密に配列させます。この方法は基板の種
類を選ぶことなく可能です。ナノシートを配列さ
せた電極基板を、Zn ポルフィリン水溶液に浸漬さ
せるだけで、静電相互作用を利用した、無機 - 有
機ハイブリッド薄膜を得ることが出来ます ( 図 1)。
LB 法と浸漬法を繰り返し行うことによって多積
層膜の構築も可能であり紫外・可視吸収スペクト
ルでモニターすると累積操作毎にナノシートと Zn
ポルフィリンの吸光度が交互に増大し、多積層膜
の構築が可能であることが示唆されました。また、
AFM、XPS、および XRD で作製した薄膜の測定
を行い、秩序だったナノ構造体が構築されている
ことを確認しました。
このようにして構築した薄膜の機能評価を行う
ため、光電流測定を行った結果、可視光において
光応答性が見られました。照射波長を変化させな
がら測定すると、Zn ポルフィリンの吸収スペクト
ルとほぼ一致するような作用スペクトルが得られ、
膜厚数 nm の超薄膜においても色素増感型の光電
変換膜の作製が可能であることが分かりました (
図 2)。吸収した光に対して光変換効率は、約 15%
程度と決して高くはありませんが、変換効率の上
昇は今後の課題です。
酸 化 チ タ ン ナ ノ シ ー ト (Ti0.91O2) だ け で な く、
金 属 が ド ー プ さ れ た ナ ノ シ ー ト (Ti0.8Co0.2O2、
Ti0.8Ni0.2O2、Ti0.6Fe0.4O2) や、層状ペロブスカイト系
ナノシート (Ca2Nb3O10) においても、LB 法と浸漬
法を用いることによって、Zn ポルフィリンとのハ
イブリッド膜の構築が可能であり、光電変換膜と
しての機能発現も確認しています。
また、現在は横サイズを従来より約 20 倍以上大
きくしたナノシート (Ti0.87O2) でも LB 法を用いる
ことによって緻密に配列させオーバーラップが非
常に少ない高品位な単層膜や、秩序だった累積膜
の構築を行うことも可能となりました。
図 1. Zn ポルフィリン - ナノシートハイブリッド薄膜
光電流値
Zn ポルフィリンの UV-vis スペクトル
図 2. 複合膜の作用スペクトル
■夢を語る
ナノシートは一種類だけでなく、色々な種類
のナノシートが合成されてます。異種のナノシー
トをブロックのように積み上げたりすることによ
って、思ってもみないような機能が発現するので
はないかと感じてます。色々な種類のナノシート
を組み合わせることによって、超薄膜での光電変
換効率 100% に近い、光合成のような光電変換膜
を創りたいです。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 65
佐々木高義チーム
周期性を失った結晶???
福田 勝利 Katsutoshi FUKUDA
物質・材料研究機構 CREST 研究員
E-mail: [email protected]
■プロフィール
2000 年 東京理科大学理学部一部化学科卒業
2002 年 東京理科大学大学院理学研究科化学専
攻修士課程修了
2004 年 東京理科大学大学院理学研究科化学専
攻博士後期課程修了
2005 年 日本学術振興会 PD 研究員
2006 年 CREST 研究員 今に至る
子供の頃
出身地が大変田舎であるため、子供の頃はマム
シ狩りから昆虫の異種格闘技戦や、山歩き、探検・
川遊び等自然との触れ合いには事欠きませんでし
た。また、家に帰ってくれば、ミニ四駆やモデル
ガンの改造を精力的に行い、友人達とレースや戦
争ごっこに興じていました。環境がそうさせたの
か、中学校に進学した頃にはインディージョーン
ズに憧れ、モデルガンとロープを持って学校に通
っていたのは今や良き思い出となっています。
研究の道を選んだきっかけ
父親の影響が大きく、子供の頃から科学技術だ
けでなく建築や芸術、歴史にも大変興味を持ち始
め、職人や芸術家のような職業に憧れていました。
高校生の頃、授業や実験を通して化学・物理の世
界に魅せられ、それが大学への進学コースを選ぶ
決定打となりました。大学の研究室に配属された
当初は研究の道を選ぶ気はありませんでしたが、
外国で活躍する地質学者や考古学者、また企業の
研究者や独立行政法人の先生方などとの出会いを
通して、研究者は職人のような気質と技術、そし
66 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
て芸術家のような発想と情熱を必要とする夢のあ
る職業だと考えるに至りました。見方を変えれば、
左利きB型の「規格外」の私が行き着いた先は研
究の道しかなかったと捉えることもできます。
CREST プロジェクトに参加して
博士課程から同 CREST プロジェクトに参加さ
せていただき、広い分野の先生方とお会いする機
会に恵まれ、また様々な研究発表を聞くことによ
って、絶えず良い刺激を受けることができました。
また、アカデミックな要素に加え、社会貢献を含
めた広い科学技術の必要性をより身近に感じるこ
とができました。個人的な経験に基づくものです
が、CREST プロジェクトは学生の教育という観点
からも大変有用なものであると思われます。
■研究成果
研究歴の紹介
東京理科大学中井泉教授の研究室に所属して以
来、博士課程を卒業するまで X 線分析を中心に研
究を進めてきました。修士課程より物質・材料研
究機構ナノスケール物質センター佐々木高義セン
ター長にナノシートの合成及び薄膜化についてご
指導頂き、現在のナノシートの構造学的研究を行
うに至っています。また、卒業研究を始めて以来、
毎年夏に一月ほどトルコに赴き、物理探査法を用
いて埋もれた遺跡の都市構造の調査を行ってきま
した。この成果の一部は、朝日新聞本紙に取り上
げられています。
CREST での研究成果
光触媒、室温強磁性や高誘電性などナノシート
の物性に注目が集まる中、それら諸機能性を理解・
佐々木高義チーム
応用していくためにはナノシート状態の構造の理
解は必要不可欠です。しかし、ナノシートはシー
ト法線方向に秩序構造を持たず、また単層では極
微量であるためその分析自体が困難であり、剥離
によってどの程度構造に変化が生じるかなど、構
造に関する基礎的理解はあまり進んでいませんで
した。そこで、我々はナノシートの構造を、シ
ート面内の二次元周期構造とシート法線方向の局
所構造に分類し、前者を放射光 in-plane 回折法か
ら、後者を偏光依存全反射蛍光 X 線吸収微細構造
(EXAFS) 法からそれぞれ評価するナノシートの構
造解析法を確立しました。
本構造解析法から明らかになった酸化マンガ
ンナノシートの構造パラメーターを図1 に示しま
す。まず、本グループで開発・導入した放射光用
薄膜4軸回折装置を用いてナノシート単層膜の inplane 回折測定を行いました。これによって、ナ
ノシート面内の複数の回折線を限られた時間内で
検出することが可能となり、元の層状化合物の格
子定数と比較できる精度を有した二次元格子定数
を決定することができました。次に、ナノシート
単層膜を s, p 偏光かつ全反射条件となるように配
置し蛍光 EXAFS 測定を行ったところ、良好な偏
光 EXAFS スペクトルを得ることができました。
そのフーリエ変換(図 1b)にも、ナノシートの二
次元異方性を反映した大きな偏光依存性が見られ
ました。特に p 偏光はシート法線方向の局所構造
の情報を含んでおり、これを解析することによっ
て選択的に構造の情報を引き出すことができまし
た。最終的に得られたナノシートの構造パラメー
ターと母相のホスト相のそれらと比較することに
よって、剥離に伴う構造緩和を定量的に議論する
ことができました。
以上、ナノシートの構造解析法の確立によって、
これまで二次元でしか捉えられていなかったナノ
シートの構造を、三次元的構造の視点から解釈で
きるようになりました。また、同手法を用いて極
薄の酸化チタンナノシート膜の加熱挙動をモニタ
ーしたところ、膜厚が薄くなるにつれアナター
ゼへの結晶化温度が上昇していき、単層状態では
800℃以上の高温領域で c 軸配向したアナターゼナ
ノ結晶を生成するという大変興味深い結晶化現象
を見出すことができました(図2参照)。
図 1 (a) 酸化マンガンホスト層とナノシート(括
弧内)の構造パラメーター , (b) ナノシート
の偏光 EXAFS スペクトルのフーリエ変換
図 2 酸化チタンナノシート単層膜から生成した c
軸配向アナターゼ
■夢を語る
様々なナノシートの構造を明らかにしていくに
つれ、私の中に変わった構造を持ったナノシート
を見てみたいという欲求が産まれています。純粋
な好奇心からいつか変わり種ナノシートを合成し
てみたいです。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 67
佐々木高義チーム
『豚もおだてりゃ木に登る』
坂井 伸行 Nobuyuki SAKAI
東京大学生産技術研究所 助手
E-mail : [email protected]
■プロフィール
1974年 石川県金沢市生まれ
1997年 東京大学工学部応用化学科卒業
2002年 東京大学大学院工学系研究科応用化
学専攻博士課程修了、博士(工学)
1999年 日本学術振興会特別研究員(DC1)
2002年 物質・材料研究機構特別研究員
2006年 東京大学生産技術研究所助手
専門:光電気化学
子供の頃
小学2年生の時に初めて登った白山でのエピソ
ードです。白山は標高 2702 メートルあり、小学校
低学年で登るには少々きつい山です。最初のうち
は張り切って歩いていたのですが、1キロも進ま
ないうちに「もういやだ〜、帰る〜」と駄々をこ
ねていたそうです。けれど、途中ですれ違う人か
ら「小さいのにえらいね〜」とほめられるたびに
調子に乗って歩き出し、いつの間にか全行程6キ
ロの道のりを踏破し、山頂付近にまで到達してい
ました。
研究の道を選んだきっかけ
サークル活動に勤しんでいた大学生活でしたが、
大学3年時の専門の講義で光電極や光触媒のお話
を藤嶋先生から拝聴し、そのおもしろさに好奇心
をかき立てられました。卒論では藤嶋研配属を希
望し、ほめ上手な藤嶋先生に乗せられて(?)研
究を楽しく進められ、博士課程に進学すること、
すなわち研究者の道を歩むことを決め、現在に至
っています。
68 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
CREST プロジェクトに参加して
潤沢な研究費のおかげで装置や試薬に不自由す
ることなく研究を進めることができました。また、
さまざまなバックグラウンドを持った多くのポス
ドクと接する機会に恵まれ、すばらしい指導者に
も出会えました。さらに、グループ内外の多くの
研究者と交流を深めることができ、研究の視野を
広げることができたと思います。CREST のプロジ
ェクトをきっかけにして共同研究が始められたり
するのを目の当たりにして、研究を進める上でも
っとも重要なことは人と人とのつながりであるこ
とを強く感じました。
■研究成果
大学院では酸化チタン表面で起きる光誘起超親
水性現象の発現機構の解明に携わっていました。
そのときに習得した電気化学・光電気化学の知識
や経験を生かして、CREST 研究では酸化チタンナ
ノシートのエネルギーバンド構造(図1)を明らか
にしました。ナノシートをビルディングブロック
にしたナノ構造薄膜構築の設計指針に役立ってい
ると自負しています。
また、ナノシートの機能性探索に関する研究を
行ってきました。層状酸化物が単層剥離され、分
子サイズの厚みを持つナノシートになったことで、
バルクでは観察されなかった種々の新規な現象が
発現することを見出しました。例えば、酸化マン
ガンはこれまで光電流を生じないことが報告され
ていましたが、酸化マンガンナノシートは可視光
に応答して光電流を生成することを見出しました
(図2)。また、酸化マンガンナノシートは高効率
なエレクトロクロミック特性やレドックスキャパ
シタ特性などを示すことを見出しました。
佐々木高義チーム
図1 光電気化学的手法により明らかにした(左)アナターゼ(中)酸化チ
タンナノシート(右)酸化マンガンナノシートのエネルギーバンド構造
図2 酸化マンガンナノシートをモノレイヤーで被覆
した ITO 電極の光電流特性
■夢を語る
太陽から地球に届くエネルギーは、全地表面積
で積算するとその 1 時間分で、地球上で 1 年間に
消費されるエネルギーを賄うことができるそうで
す。このように(希薄ながらも)膨大に存在する
光エネルギーの有効な利用方法を研究開発し、持
続可能なエネルギー社会が実現されるよう頑張り
たいと思います。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 69
佐々木高義チーム
こんな私でも研究者と呼んで
いただけますか
高田 和典 Kazunori TAKADA
物質・材料研究機構 グループリーダー
E-mail: [email protected]
■プロフィール
研究の道を選んだきっかけ
プロフィール
1980 年
大阪大学理学部物理学科入学(高校物理の授業で学
んだボーアモデルの美しさに魅せられ物理の道を志
したものの、入学したての頃同級生の下宿にファイ
マン物理学がそろっているのを見るや否や、他に楽
しみがないのかよこういう人が研究者になるのだろ
うと、自らの適性のなさを悟る。)
1986 年
大阪大学大学院理学研究科物理学専攻博士前記課程
修了
1986 年
松下電器産業中央研究所(分別をわきまえていた私
は、サラリーマンの道を歩み始める。)
1991 年
松下電池工業技術研究所(先の見えたサラリーマン
の生活に疑問を感じ、ひょっとして自分は研究が好
きなのかもと、不穏な考えが頭をもたげはじめる。)
1999 年 7 月
無機材質研究所 特別研究員(つくばへの誘いを受
け、分別をなくす。研究者としての能力に不安を抱
きつつも、ノストラダムスによるとどうせ人類は滅
亡しまうのだと、自分を納得させる。)
2002 年
物質・材料研究機構 主幹研究員
現在いかにも研究者らしく見えるよう、プロフィー
ルを改竄推敲中。
子供の頃
どんな子供だったかを思い出すことができない
ほど、平凡な子供でした。その頃のことを語ると、
70 ︱
ニュースレター中で一番退屈なページになるほど
です。大阪の街中で育ったため、昆虫採集をする
こともなく、天体観測をしようにも星も見えず、
研究者の子供時代とはとても呼べないものでした。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
単純に文系科目の成績が悪かったからです。そ
の後、研究の道を進むようになったのは、ものの
理を解き明かす楽しみをおぼえたからですが、そ
れはずっと後のことでした。この快感にはかなり
の中毒性があります。思い通りの結果が得られた
時や、現象がうまく説明できた時の心地よさは、
一度味わうと止めることができません。選んだと
いうよりは、はまってしまったというべきでしょ
うか。
CREST プロジェクトに参加して
自由度に富んだ、挑戦的な研究ができる雰囲気
だと思います。10 年以上、民間企業の研究所に籍
を置いた身としては、非常に新鮮で、やりがいが
あります。
■研究成果
研究歴の紹介
学部の時には、サイクロトロンで原子核の実験
を行っていました。しかし、原子核実験というの
は、実験の機会も少なく、理論を理解する能力が
ないと面白くないものです。大学院進学とともに、
物性系の研究室に移り芳香族化合物の異方的反磁
性の研究を行いました。就職後は固体電解質の応
用研究、特に固体電解質を用いたリチウム電池の
全固体化に取り組んでまいりました。この研究は、
15 年かけてやっと進展が見え始めてまいりました。
佐々木高義チーム
CREST での研究成果
層状コバルト酸化物は、三角格子や強い電子相
関により特異な物性を示すほか、実用的にもリチ
ウムイオン電池の正極材料に用いられたり、大き
な熱電効果を示したりする興味の尽きない物質で
す。この物質における超伝導の発見は、ボスの「こ
れをナノシートにするともっと面白いんじゃない
か。」という一言に始まります。
リチウムイオン電池を充放電させると、リチウ
ムイオンが CoO2 層間に出たり入ったりしますが、
1000 回以上繰り返しても層状構造は保たれます。
とても安定な層状構造です。剥離しようなどとい
うのは無茶です。しかし、サラリーマン生活の長
かった私は、この言葉を飲み込んでしまいました。
剥離まではいたらずとも、とりあえず層間を拡げ
てみようとして合成した物質が、この超伝導体で
した。(このような発見に対して、最近では“セレ
ンディピティ”というポジティブなイメージを持
つ語句の使用が推奨されます。けっして、
“まぐれ”
という語句を使用してはいけません。)
その後、構造解析をはじめとするこの超伝導体
の特性化を進めるとともに、CoO2 層の積層様式の
異なった新しい超伝導相の合成にも成功しました。
そして今、剥離し損ねたままであることをボスが
思い出さないかと、冷や冷やしております。
■夢を語る
虎は死して皮を留め人は死して名を残すのだそ
うです。僥倖に助けられてきただけの私が言うの
では、不遜のそしりを免れませんが。ただ、小さ
なころ、「新聞に載るようなことだけは、せんとっ
てや。」と両親から言われたことが気にかかります。
息子はどんな人生を歩むと思っていたのでしょう
か。
図 2 種類のコバルト酸化物超伝導体(中央)とこれら超伝導体の出発物質(左右)
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 71
佐々木高義チーム
ナノの積木細工で
電子デバイスをつくる
長田 実 Minoru OSADA
物質・材料研究機構ナノスケール物質センター
主任研究員
E-mail. [email protected]
■プロフィール
1998 年 東京工業大学大学院総合理工学研究科博
士課程修了。博士(理学)。同年 理化学研究所基礎
科学特別研究員、2001 年 科学技術振興事業団さ
き が け 研 究 21 研 究 員 を 経 て、2003 年 物 質・
材料研究機構物質研究所主任研究員(2006 年改
組によりナノスケール物質センターに配属)。
の指導教官の垣花眞人先生(現東北大)の勧めで、
私の専門分野でリーダー的存在であったチャルマ
ース工科大学(L. ボルジェソン教授、M. シェル博
士)へ留学しました。環境、文化全てが驚きの連
続で、最初は何も出来ず失敗の連続でしたが、帰
国直前に画期的な仕事をして両先生に褒められた
時、「研究者として闘って行ける」と何故か不思議
な自信が芽生えました。こうした研究での感動や
出会いに導かれ、今の自分があるような気がしま
す。
CREST プロジェクトに参加して
学問とは無縁の遊び漬けの毎日でした。昼はサ
イクリングに釣り、夜はテレビ、宿題は母親に怒
られてからやる、こんな毎日でした。このような
調子ですので夏休みは大変です。宿題や自由研究
は最後の 3 日間で泣き泣きやっていたような記憶
があります(この習性は今も変わりません)。それ
でも何故か父親に怒られた記憶はありません。私
の父は普通の会社員なのですが非常に変わった人
で、「男は勘が命だ!勉強したら馬鹿になる!もっ
と遊べ!」と小学生の私に説いていました。この
ように学問と無縁の子供ですが、理系との接点を
挙げるとすれば「もの作り」が好きだったことで、
将来は建築家になりたいと思っていました。
私が JST のプロジェクトに参加するのは今回で
2度目です。CREST の前は、さきがけ研究のお世
話になっていました。私が CREST やさきがけで
得られたことは色々ありますが、中でも重要なの
が異分野を含む研究者との出会いです。特に、異
分野の研究者や著名なアドバイザーの先生が一堂
に会する領域会議は、広い視点による助言、討論
など専門学会には無い新鮮な意見が得られ、自分
の研究を新しい視点から見つめ直す貴重な機会と
なりました。そして勿論のこと、CREST やさきが
けの研究費は若手にとって魅力です。これはさき
がけの会議での一場面ですが、他の研究者が「去
年まで百円のお年玉だった子供がいきなり1万円
貰えた心境だ」と語っていました。この言葉が象
徴的ですが、CREST やさきがけはこれまで若手が
夢に描いていた実験を現実にしてくれるのです。
研究の道を選んだきっかけ
■研究成果
今思うと、私のターニングポイントには常に素
晴らしい出会いがあったような気がします。中で
も研究の道を選ぶきっかけとなったのが、博士過
程時代のスウェーデン短期留学の経験です。当時
研究歴の紹介
子供の頃
72 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
CREST 研究に参加する前は、高温超伝導体や強
誘電体の光物性の研究に携わっていました。その
佐々木高義チーム
中で自慢できる仕事は、ナノのお絵描きで電子回
路をつくる新しい技術を開発したことです(図1)。
高温超伝導体として有名な YBa2Cu3O7-d に可視光を
照射すると、光による電子励起が引き金となって
結晶構造と超伝導物性が変化する「光誘起構造変
化」が発現します。この現象を巧みに利用するこ
とで、薄膜の望みの場所に望みの電気特性の回路
を描くことができます。私達は近接場光学顕微鏡
というナノの光プローブでお絵描きすることで、
ナノドット、ナノ細線、ナノ接合など色々な電子
回路の作製に成功しました。同様の光書き込みは
色々な酸化物材料でも成功しており、この技術が
ナノデバイスの創製や光記録・光機能を利用した
新機能の設計など酸化物エレクトロニクスの新展
開につながるものと期待しています。
CREST での研究成果
当グループでは、「酸化物ナノシート」という新
しいナノブロックを使った積木細工で、色々な機
能の電子デバイスをつくる仕事をしています
(図
2)。本プロジェクトでの私の役割は、積木細工の
ベースとなる機能性ナノシートの開発です。ナノ
シートの性質はまだ謎のベールに包まれています
が、最近2次元ナノ構造に起因する面白い物性が
見つかり始めています。その1つが誘電特性です。
酸化チタンナノシートの電気特性を評価したとこ
ろ、厚さ1ナノメートルと薄いながらも高誘電率
のナノブロックとして機能することを見出しまし
た。さらにこのナノシートを基本ブロックにして
積層ナノ薄膜を作製したところ、従来の材料では
到達困難な薄膜化と高容量化が実現し、世界最高
レベルの高誘電率と低リーク電流特性を有する誘
電体素子の開発に成功しました
(図3)。この成果
は、パソコン、携帯電話のメモリやトランジスタ
の高機能化、低消費電力化につながる画期的な成
果として NHK の朝のニュース番組でも紹介され
ました。また最近では、酸化チタンナノシートに
磁性元素を置換することにより室温で強磁性体と
して機能するナノブロックの開発にも成功してお
り、ナノシートの機能と共にその応用の可能性は
広がりつつあります。
図1 近接場光書き込みの実験スキーム(上)と超伝
導ナノ回路の近接場反射像(下).反射率の高
い部分が超伝導回路.
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 73
佐々木高義チーム
図2.ナノシートの積木細工のイメージ図(レゴブロック版).
300
比誘電率
150
100
50
0
0
10
20
膜圧(nm)
30
図3.ナノシート積層膜ならびに典型的な高誘電率材料の誘電特性.
■夢を語る
現在の私の夢は、私の作った材料が次世代IT
素子の基幹ユニットになってパソコンや携帯電話
など電子機器のどこかで活躍してくれることです。
そして究極の夢は、子供の積木遊びのように「ナ
ノシートを使って色々な機能を自在に設計したり、
構築したりする新しい技術」を開発することです。
この夢に向け、ビーカーの中で様々な機能のナノ
ブロックを作ったり並べたりして、ナノの積木細
工と日夜格闘しています。
74 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
中戸義禮チーム
界面ナノ制御による高効率な
太陽光水分解システムの創製
研究代表者
中戸 義禮 Yoshihiro NAKATO
関西学院大学大学院理工学研究科 客員教授
E-mail: [email protected]
平成 17 年度研究成果
本チームでは、太陽エネルギー利用技術の低コ
スト化を目標に、多結晶薄膜などの安価な半導体
材料を利用しやすく、かつ電流収集の必要のない
太陽エネルギーの化学エネルギーへの変換に焦点
を当て、“シリコン(Si)薄膜/金属酸化物薄膜”
複合電極による太陽光水分解を主要テーマに研究
を進めている。本年度は、複合電極の高性能化の
ための種々の要素研究を進めるとともに、太陽光
による水の分解のほか、安価な多結晶 Si 電極を用
いるヨウ化水素 (HI) の水素 (H2)・ヨウ素 (I2) への
太陽光分解について研究を進めた。
まず要素研究として、Si 表面のアルキル化およ
びアルキル基へのアニオンの結合について研究を
進め、Si 表面の光塩素化・有機金属化合物処理の
方法、および、新たに開発した活性アルキン(ま
たはアルケン)を用いるヒドロシリル化法の両方
法により、目的を達成した。このほかエチニル
(H-C ≡ C-) 基の導入にも成功した。
HI の太陽光分解については、Hot-wire CVD 法
により製造した微結晶 Si 薄膜を世界で初めてこの
反応系に適用し、グラッシーカーボン /n 型微結
晶 3C-SiC:H/i 型微結晶 Si/Pt( ナノ粒子 ) 電極を用
いて、太陽エネルギーの化学エネルギーへの変換
効率として 2.3 % という高効率を得た。また多結
晶 Si ウエーハの有効利用も進め、金属微粒子利用
の局部電池機構による Si 表面のテクスチャー化法
を新しく開発し、これによって多結晶 Si ウェーハ
に均一に無反射化を施すことに成功し、この成果
を踏まえて、同じく HI の太陽光分解で 5.4%とい
う多結晶 Si 電極を用いるものとしては世界最高の
変換効率を達成した。
複合電極による太陽光水分解については、種々
のタイプの複合電極を開発して性能評価を行い、
目標とする2段階励起による水の光酸化分解に
成功した。特に“n-i-p 接合 a-Si/ITO スパッタ膜
/WO3 微粒子膜”複合電極では、水酸化の光電流
の立ち上がり電位が、参照用の WO3 電極に比べて、
約 0.75 V と大きく負にシフトし、この電極によっ
て外部バイアスなしに太陽光水分解が可能である
ことを明らかにした。今後は一層の高効率化をは
かる予定である。
図1白金 (Pt) ナノ粒子担持の安価な Si 電極によ
るヨウ化水素の水素・ヨウ素への太陽光分解
(模式図)
図2“n-i-p 接合 a-Si/ITO スパッタ膜 /WO3 微粒
子膜”複合電極(模式図)
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 75
中戸義禮チーム
A Chinese woman researchershuttling between dream and reality
劉海梅 Haimei LIU
Graduate School of Engineering Science,
Osaka University,
Toyonaka, Osaka, 560-8531
CREST, JST, Tokyo
[email protected]
■Profile
Three years ago, in golden autumn, I firstly
set my foot on Japan. I was quite surprised by the
great landscape and remarkable development of
this country. Because it was the first time that I left
my family and mother so far away, a little sad and
home-miss sickness came to my mind. And then
began my research work in Osaka University, at a
professor Y. Nakato’s research group. Actually in
my deep heart I think I want to be and should be a
housewife, however I was pushed to walk on such
a research way in a foreign country.
Education and Research Experience
1990-1994 B. S. Chemistry. Graduated from
College of Chemistry and Chemical Engineering,
Nei Mongolia University, Nei Mongolia, China.
1994-1996 Assistant Professor, Department of
Pharmacology, Nei Mongolia College of Medicine,
Nei Mongolia, China.
1996-1999 M. S. Physical Chemistry. College
of Chemistry and Chemical Engineering, Nei
Mongolia University, Nei Mongolia, China.
1999-2000 Assistant Professor, Department of
Pharmacology, Nei Mongolia College of Medicine,
Nei Mongolia, China.
2000-2003 Ph. D. candidate. Physical Chemistry.
Institute of Chemistry, Chinese Academy of
Sciences, Beijing, China.
2003-Present Postdoctor and JST researcher
fellowship in Osaka University, Japan.
I always ask myself why I chose such a
difficult and lonely research way for my life. My
76 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
parents are the same as the majority of unadorned
and industrious Chinese people, they often teach
me: As a man sows so shall he reap, you reap what
you sowed. So from childhood I know I must
work hard to get what I want, and there is no lunch
without payment. However, when I was a child,
my dream was to be a writer and read a great deal
of Chinese novels and foreign country novels. I
remember I wrote diary nearly everyday when I
was a middle school student. Everyday I recorded
something happy, angry, sad and glad with a pen,
which occurred in my life; at that time I was sure
that I would be a person working in social science,
not in natural science. And especially in my eyes, it
seemed it was quite difficult for a girl or a woman
to be engaged in natural science, natural science is
for men.
After entering high school, I got to touch
the organic chemistry. I thought it opened a fancy
window to me, it was the first time that I knew
everything of our life was concerned with the
chemistry or chemical substance-basic necessities
of life. It was the chemistry that let me know why
so many trees and plants became green and green
year by year,
and maintaining
lifecycle by
themselves
t h r o u g h a
photosynthesis
reaction-absorb
CO2 to emit O2. So
when I became a
university student,
I chose chemistry
as my specialty
without any
hesitation. During
my Ph.D periods
in Institute of
Chemistry, Beijing, my research topic was focused
on TiO 2 photocatalysts and its application. As
well known the photocatalysis and photocatalysts
were widely studied in Japan, thus when finished
doctoral career I chose Japan as my aimed country
to continue my research work.
中戸義禮チーム
■Achievements
Professor Nakato’s projest is “ Fabrication
of an n-Si/TiO 2 Solar Electrode for Water
Splitting”, its feasibility is shown in Figure. In
our project, solar water splitting with a composite
polycrystalline Si/semiconductor thin-film
electrode is studied as a promising new approach
to high-efficiency and low-cost solar to chemical
conversion. This project contains three steps,
(1) fabrication of an n-Si electrode with surface
alkylation and metal nano-dot coating, which gives
an efficient and stable photovoltaic characteristic,
(2) design and synthesis of novel photocatalysts
for water photooxidation (oxygen photoevoluion)
under visible light illumination, and thus (3)
coupling of these two electrodes for efficient water
splitting under solar irradiation.
My work is concerned with the second step,
namely, to prepare new kinds of visible-lightdriven photocatalysts for water splitting. I was
much interested in BiVO4 (Eg 2.4 eV) because it
was reported that this compound had the mixed
Bi-6s and O-2p valence band and showed high
activity for photocatalytic O2 evolution. Therefore,
based on the BiVO4 band structure, we have been
studying a novel series of mixed metal oxides,
denoted by BiM Ⅱ 2VO6 (MII: divalent metals such
as ZnII and CuII) and BiM Ⅳ VO6 (M Ⅳ : tetravalent
metal like Ti Ⅳ ), with an aim to improve the
photocatytic activity through energy band
modulation. In the presence of a sacrificial electron
acceptor, such as Ag + , Fe 3+ and IO 3- , the asprepared photocatalysts, BiM Ⅱ 2VO6 and BiM Ⅳ
VO6, in the form of suspended solutions exhibited
higher activity in photocatalytic O2 evolution under
visible light illumination, than BiVO4. Thin film
electrodes of the mixed metal oxides also showed
higher water-oxidation photocurrents than BiVO4.
Furthermore, the onset potential of the photocurrent
shifted to a more negative potential than that of
BiVO4 electrode, indicating the successful band
modulation in this kind of materials.
Main publication before CREST:
1. Haimei Liu, Wensheng Yang, Ying Ma, Yaan
Cao, Jiannian Yao. New J. Chem. 2002, 26,
975-977.
2. Haimei Liu, Wensheng Yang, Ying Ma,
Xianfu Ye, Jiannian Yao. New J. Chem. 2003,
27,529-532.
3. Haimei Liu, Wensheng Yang, Ying Ma, Yaan
Cao, Jiannian Yao, Jing Zhang, Tiandou Hu.
Langmuir, 2003,19,3001-3005.
4. Haimei Liu, Wensheng Yang, Ying Ma,
Jiannian Yao. Appl. Catal. A: General, 2006,
299, 218-223.
Main publication during CREST:
1. Haimei Liu, Ryuhei Nakamura, Yoshihiro
Nakato, J. Electrochem. Soc. 2005, 152 (11),
G856-G861.
2. Haimei Liu, Ryuhei Nakamura, Yoshihiro
Nakato, ChemPhysChem. 2005, 6, 2499-2502.
3. Haimei Liu, Ryuhei Nakamura, Yoshihiro
Nakato, Electrochem. Solid-State Lett. 2006, 9(5),
G187-G190.
Patent: Yoshihiro Nakato, Haimei Liu, Ryuhei
Nakamura (2004). Composite metal oxide
photocatalyst responsive to visible light. Japan
Patent, 2004-359355. PCT Int. Appl. 2006.
Nearly three years have passed since I came to
Professor Nakato’s laboratory, and I am very much
enjoying my present life and work, herein I would
like express my great appreciation to Professor
Yoshihiro Nakato for giving me such a valued
chance to join his CREST project. Here we have
a free and friendly research atmosphere, usually
we can do what we want to do, try what we want
to try. Compared with my previous Chinese lab,
Japanese labs are always equipped very well with
many large and expensive apparatus, although
sometimes I think it is a little bit wasteful. In
China, we usually have a testing center in an
institute or university, thus many large instruments
are shared by many labs. In Japan the deepest
impression on me is the Japanese work-hard–
spirits, and just this spirit makes Japan developed
so rapid and advanced. I hope I can learn in Japan
not only techniques but also spirits, and finally
contribute myself to my mother-country.
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 77
中戸義禮チーム
未知の現象と新しい研究領域
を夢みて
今西 哲士 Akihito IMANISHI
大阪大学大学院基礎工学研究科物質創成専攻 助教授
E-mail: [email protected]
研究の道を選んだきっかけ
■プロフィール
自然の中で遊ぶのが好きだった自分にとっては、研
究者になることはごく自然な流れだったように思え
1993 年 東京大学理学部化学科卒業
1995 年 東京大学大学院理学系研究科化学専攻修士課程修了
1998 年 東京大学大学院理学系研究科化学専攻博士課程修了
(卒業研究から博士課程にかけて、つくば(高エネルギー
物理学研究所 Photon Factory)で放射光実験に明け暮
れる。固体表面解析はもちろんのこと、ビームライン開
発にも携わる。装置開発の重要性もこの時期に学んだ。
実は、徹夜実験明けに、つくば山登山をひそかに繰り返
していた)
1998 年 分子科学研究所光化学部門 日本学術振興会研究員
1998 年 大阪大学大学院基礎工学研究科助手
(初めての関西進出。最初はカルチャーショックを受けな
がらも、すんなりなじんで今日に至る)
2003 年 同助教授 現在に至る
る。世の中には色々な職業があるが、ずっと子供時代
もともと固体表面 X 線分光屋であった異分野での
んの研究分野があるが、思わぬところに自分と共通の
経験を活かし、原子レベルで規定された界面構造とそ
ものを求めている研究者がいるものである。こういっ
こから生まれるまったく新しい物性の開拓にこだわっ
たことを気づかせてくれる CREST プロジェクトは自
て、これまでにないエネルギー変換材料の開発を目指
分にとって貴重な体験である。
しています。研究に対するモットーは、
「あせらずじ
と同様に自然(現象)の中に身をおけるのは、理科系
研究者をおいて他にない。子供の時に、不思議なもの
を見つけた時に感じたわくわくをずっと感じていた
い。そう思ったのが研究の道を選んだきっかけである。
CREST プロジェクトに参加して
プロジェクトがなければ、一緒に研究することが
あったかどうか分からなかった異分野の研究者と共
に、一つの大きな目標に向けて邁進するスタイルは、
最初は非常に不思議な感覚があるが、すぐにその楽し
さに気がつく。今や世の中には数え切れない程たくさ
っくり」です。山と音楽とビールが大好きです。
■研究成果
子供の頃
研究歴の紹介
埼玉県草加市に生まれる。商店街の巨大な草加せん
1992 年の卒業研究から 1998 年の博士号取得まで東
べいは未だに脳裏に残っている。6 才から現さいたま
京大学に在籍した間、つくばの高エネルギー物理学研
市に移り住むが、この頃からとにかく自転車好きで荒
究所にて、主に超軟 X 線~軟 X 線放射光を用いた超
川の堤防沿いを何度となく走りにいった。学校では先
高真空中での固体表面の研究を行ってきた。対象は主
生の言うことを聞かない少し協調性に欠ける子供だっ
に金属単結晶表面で、吸着分子、原子の電子状態や構
たようだ。通信簿の通信欄にも“授業中のおしゃべり
造の研究を表面 XAFS をはじめとる X 線分光法を用
がうるさい”
“遅刻が多い”などとろくな文句が並ば
いて行った。また、東大所有のビームライン(BL-7A)
ない。当然あまりおとなしい方ではなかった
(らしく)、
の改造や軟 X 線分光用の検出器の開発研究も行った。
小中学時代の友人数人から「昔お前に投げ飛ばされた」
博士号取得後、岡崎の分子科学研究所にて遷移金属錯
と言われたこともある(本人は記憶にない)
。当時は
塩単結晶におけるオージェ共鳴ラマン過程の研究を行
さいたま市もまだ子供が遊べる空き地や草むらなどが
い、同年に大阪大学に移る。この後、研究指向をガラ
多く、暗くなるまで友達と駆け回っていた。理論物理
リと変え、水溶液中における TiO2 や Si 半導体表面な
屋だった父の影響か、理科や数学は昔から好きだった。
どのナノ構造化と分子修飾、更にはこれらの光電気化
また、自然が大好きで不思議なものを見つけると石で
学特性というテーマに挑み、今に至る。
もカエルでもなんでも家に持ち帰り、母に怒られた。
78 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
中戸義禮チーム
CREST での研究成果
るアルキル基を自由に2次元パターニングすることに
現在、中戸義禮教授が代表を務める「界面ナノ制御
よって新しい物性発現を狙っている。まず、外部から
による高効率な太陽光水分解システムの創製」チーム
Si 表面を特定方向に一定の力で擦ることによってひず
において、最もベースをなす“界面ナノ制御と光特性”
み構造を入れ、step 構造を制御する“スクラッチング
の部分を主として担当している。まずは、原子レベル
法”を開発し、自由に step 形状を制御できるように
で規定された界面構造(結晶面、分子吸着構造)にま
なった(図3左)
。さらに、これをテンプレートとし、
ず焦点をおき、これらをナノスケールに拡張する、い
更にハロゲン原子の特殊なエッチング能を利用するこ
わゆるボトムアップ方式で研究を進めている。光触媒
とによって複数のアルキル基を自己組織化的にレイア
などの表面光反応を、原子レベルでの表面構造科学と
ウト修飾する。紙面の都合上、詳しいことは書けない
しての視点から調べてみると、結晶面によってホール
が、この手法を用いれば step ラインに沿って自由に
や電子の移動度や移動方向、トラップ準位が異なり、
異なる光特性を持つ面をレイアウトでき(図3右)、全
また光反応の中間体の安定性なども大きく異なること
く新しい光物性の発現を狙えると考えている。以上の
が分かってきた(図1)
。さらに、これらの“構造規定
ように、原子レベルで規定された構造を持つ面を構造
された”面を持った Si や TiO2 に分子を修飾すること
ユニットとし、ナノスケールでそれらを組み合わせる
によって、さらにその光特性を大きく変えることが出
というアプローチによってこれまでにない性質をもつ
来ることも分かってきた。
光材料開発に挑んでいる。
最近ではこれら原子レベルで制御された様々な面、
すなわちそれぞれ光物性が完全に理解された異なる面
を組み合わせることによって、未知の光物性を開拓し
ようとチャレンジしている。ここで初めて、
“ナノ”
パターニングという概念が出て来る。例えば、TiO2
の場合、光エッチングという手法を用いることによっ
て、特定の結晶面だけで構成されるナノ構造体を単結
晶板だけでなく、微粒子上にも作成することが出来る
(図2)。性質の異なる面を組み合わせることによって、
キャリアの流れを制御し、高効率な光触媒能を実現で
きることも明らかにした。一方、Si 単結晶面上に異な
■夢を語る
今後の研究の夢は、生体系のような動く表面レイア
ウトを作ることである。上記のものも含めて、現在“表
面(界面)パターニング”といえば、ほとんどが表面固
定されたパターニングである。一度作ってしまえば、そ
のレイアウトそのものが動くことはない。しかし、実際
の生物は違う。常に形を変えながら生息しているものも
ある。これを材料に応用できれば、機能を変幻自在に変
化させることが出来るものを作成することが出来る。実
は、筆者はすでに Si 電極と界面活性剤を使ってこの取
り組みに挑戦をしている。まだ、始めたばかりであるが、
成功すれば革新的な成果が発表できると確信している。
図1 TiO2 単結晶面上で光生成された hole は様々な経
路によって消費される。その時の拡散方向、トラップサ
イト、形成される中間体などは表面結晶構造や表面サイ
トに大きく左右される。
図2 光エッチングした TiO2 微粒子。外壁は (110) 面、
細孔の内壁は (100) 面で構成される。
図3 スクラッチング法によって H-Si(111) 面上にくさ
び状の step 構造を作成した様子。(上図)Step 構造(定
規)に沿って、色々な種類有機分子(色ペン)を自由に
レイアウト出来る。(下図)
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 79
中戸義禮チーム
継続は力なり?
村上 能規 Yoshinori MURAKAMI
長岡技術科学大学 物質・材料系 助手
E-mail: [email protected]
■プロフィール
1992 年東京大学工学部反応化学科卒業
1997 年東京大学大学院化学システム工学専攻
博士課程卒
1997 年 長岡技術科学大学化学系藤井研究室助手
研究の道を選んだきっかけ
あまり積極的に研究者になろうとは思ったこと
はなかったです。大学院で研究をやり、研究の面
白さにとりこになっていたら、いつのまにか”研
究者”という肩書きになっていたというのが正直
なところです。修士、博士の時代に " 若手の会”
に行って出会ったあの当時の若手の会メンバーに
今でも学会等で会ったりすると世の中狭いなあと
思います。
2001-2002 年
カールスルーエ大学分子物理化学
研究室客員研究員
2003 年長岡技術科学大学化学系野坂研究室助手
2006 年現在に至る
自 身 の 研 究 経 歴 を 振 り 返 る と、CVD(silicon
chemistry)、燃焼、光触媒と様々な分野を漂流し、
結果的には「継続は力なり」のことわざの逆を行
く人生を歩んでいますが、その分、本流とは違う
発想や研究手法で未解決の問題にアプローチでき
ればと思っております。とりわけ洗練された研究
手法を持つわけではないですが,普通とは一味違
った研究をする者として認められるようになれば
この上ない幸せです。文字通り、研究の頂上(C
REST)を仰ぎながら,少しでもその頂上に辿
りつけるよう精進するつもりです。宜しくお願い
いたします。
子供の頃
比較的おとなしい子供だったような気がします。
今思い出すとその年頃に、学研の出していた”科
学と学習”とかいう月刊誌をとって”実験もどき "
をやっていました。あれで理科好きになる子供は
多いのではないでしょうか?
80 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
CREST プロジェクトに参加して
参加して会議に出させていただくと超一流の
研究者が会議ですばらしい成果を発表しており、
CREST のメンバーとして参加できることは非常に
光栄なことと感じております。メンバーとして恥
じないよう、よりよい研究成果の出せるよう精進
していく所存です。
■研究成果
研究歴の紹介
これまでのフリーラジカルの反応研究の経験を
生かし、光触媒で生成するフリーラジカルの検出
とその生成機構の研究を行ってきました。特に、
光触媒作用で生成の可否が熱く議論されてきた
OH ラジカルをレーザー誘起蛍光法で検出できた
(図1)ことは非常にうれしいことでした。現在は
検出できた OH ラジカルがどのように生成するの
かその生成機構も含めて更なる検討を行っていま
す。光触媒の実用化の基礎となっているセルフク
リーニング効果の作用機構解明に寄与できれば幸
いである。
中戸義禮チーム
答型光触媒に適用した例はありません。今回の実
験でレーザ粉砕法が水分解光触媒にも適用できる
ことが明らかになり、水分解光触媒で直面してい
る粉末の微細化とそれによる高効率化の要請の新
手法になればと考えております。さらに、その可
能性を確認するため、その微細化された光触媒粉
末の薄膜電極を作製し、その光電流特性を調べま
した
(図4)。レーザー粉砕により得られた BiVO4
CREST での研究成果
中戸チームにおいて、TiO2 可視光化・表面処理
グループに属し、水から酸素発生活性能を持つ可
視光応答型光触媒電極の作成に従事しております。
研究としては可視光で酸素発生能を持つ新規水分
解光触媒の開発、および、これまで数多くの研究
者により開発された水分解光触媒粉末をレーザー
により粉砕・改質し、それを電極化することでそ
の光電流特性の向上を目標に研究を進めてまいり
ました。特に後者のレーザーによる光触媒の粉砕、
改質はレーザー = フリーラジカルの分光という“レ
ーザー”の位置づけを転換する上においても個人
的には面白く、非常に興味を持って研究を進めさ
せていただいております。
図2は BiVO4 粉末の紫外レーザー照射前(図左)
と 2 時間後(図右)での懸濁液の写真です。
写真にあるようにレーザーを照射することで、
BiVO4 の粉末の色は黄色から緑色に変化し、何ら
かの変化が生じたことが示唆されました。また、
粉末の形状を SEM により観察した結果、紫外レ
ーザーを集光照射することで BiVO4 粉末が粉砕さ
れている様子が確認されています
〔図3〕。このよ
うな微粒子のレーザー粉砕は金、銀微粒子では既
に報告されていますが、光触媒、特に、可視光応
光触媒薄膜電極の光電流特性は従来のゾルゲル法
による光電極より紫外側で性能が向上することが
明らかとなりました。今後はその機構解明および
BiVO4 以外の可視光応答型光触媒のレーザーによ
る粉砕・改質をすすめ、これまで湿式法により得
られた水分解光触媒薄膜電極の高性能化をすすめ、
CREST のプロジェクト目標達成になんらかの寄与
ができれば幸いと考えております。それ以外にも、
新規水分解光触媒の開発として、リン化合物に
着目し研究を進めてまいりました。未だ、期待に
答えるほどの可視光領域で酸素発生に高活性な水
分解光触媒の開発には至っておりませんが、更な
る可能性を求め、新規合成法を含め、材料の探索
を行っておく所存です。今後ともよろしくお願い
申し上げます。
■夢を語る
数十年経って過去を振り返った時に、「あの研究
はいい研究だったな」とみなさんに言ってもらえ
るような研究成果を出していきたいです。光エネ
ルギー変換という人類の大きな課題に挑戦できる
自分は幸せだと感じております。「夢は大きく」を
モットーに研究を進めていければ幸いです。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 81
中戸義禮チーム
無電解プロセスによる
シリコンの表面ナノ制御
八重 真治 Shinji YAE
兵庫県立大学大学院工学研究科 助教授
E-mail: [email protected]
■プロフィール
1982 年岡山県立総社高等学校卒業(大学入試セ
ンター資料のキーワード「光化学」を頼
りに大阪大学へ)
1986 年大阪大学基礎工学部合成化学科卒業(高
分子化学に惹かれるも初志を貫き湿式太
陽電池研究へ)
1990 年大阪大学大学院基礎工学研究科化学系専
攻化学分野博士後期課程中退
1990 年大阪大学基礎工学部合成化学科助手
1998 年姫路工業大学工学部材料工学科講師(学
会誌を見て応募、公立であることすら知
らなかった)
2002 年姫路工業大学大学院工学研究科物質系工
学専攻材料工学部門助教授
2004 年兵庫県立大学大学院工学研究科物質系工
学専攻物質・エネルギー部門助教授(県
立3大学統合)
子供の頃
吉備路の古墳と田畑に囲まれた穏やかな環境で
育ちました。運動が大の苦手で体育さえなければ
と思いながらも、欠席した記憶がないほど元気に
学校に通っていました。家業の関係で建設重機か
らペンチまで大小様々な道具が身近にあり、操作
のまねごとをしたり、修理と称しては分解して元
に戻せなくなったりしていたことを覚えています。
夏休みには、い草や養蚕などの農業や家業の手伝
いをしていました。石油危機の際に、両親が燃料
確保に苦労していたこともよく覚えています。今
回、振り返ってみて、自然に様々な体験をしてき
たことに気づきました。
82 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
研究の道を選んだきっかけ
高等学校では化学が好きで理科系に進んだもの
の、色覚異常のために周囲からは経済学を勧めら
れて進路に悩んでいました。当時は、化学系では
色覚異常者を受け入れないところがまだたくさん
ありました。そんな中で、「水素エネルギー」とい
う新書に出会い、太陽光水分解で水素を造る研究
に惹かれました。そこで、全国大学案内をみて「光
化学」の研究をしていて、かつ入学制限のない学
科を探して進学しました。坪村 宏先生、中戸義禮
先生、松村道雄先生の下で湿式太陽電池に関する
研究に携わりました。「光化学」だけで選んだ学科
で先生方に巡り会うことが出来たのは、まさに幸
運でした。大学院では、「もう一つ先へ」という気
持ちで後期課程に進みました。その後、幸いにも
助手に採用していただき、十代の時にやりいと思
ったことを続けながら教員をしております。
CREST プロジェクトに参加して
中戸チーム7大学10研究グループの一員と
して参加いたしております。他大学の先生方と本
格的な共同研究をはじめて行い、一つの現象にも
様々な見方があることを実感するなど、得難い経
験をさせていただいております。
■研究成果
研究歴の紹介
大阪大学では、高効率湿式太陽電池のためのシ
リコン表面への金属超微粒子修飾について研究を
行い、白金コロイド粒子の LB 膜やダブルポテンシ
中戸義禮チーム
ャルステップ電析などの手法で5nm ~数百 nm の
微粒子を数密度を制御してつけることに成功しま
した。これにより、シリコン湿式太陽電池では最
高の光電変換効率14.9%を達成するとともに、
理想的な光電極が得られることを明らかにしまし
た。また、この湿式太陽電池で二酸化炭素を炭化
水素類に光電解還元できることを明らかにしまし
た。
兵庫県立大学(旧姫路工大)では、無電解めっ
きに関する研究を行うようになりました。これは、
めっき溶液に浸すだけで金属からプラスチックス
や紙まであらゆるものに金属薄膜をつけることが
出来る大変有用な技術です。研究室は、1950 年代
から無電解めっきについて研究報告しており、日
本の草分け的な存在です。私は、絶縁性基板上へ
の触媒核付与法について、原子間力顕微鏡や ICP
発光分光などを用いて、核形成過程や処理液の経
時変化の詳細を明らかにしました。また、純ニッ
ケルめっきや高耐食性 CoWZnP 磁性薄膜、光触媒
によるマグネシウム合金へのパターニングめっき
なども研究しています。
CREST での研究成果
界面をナノオーダーで制御して微結晶シリコン
/化合物半導体複合電極を作り高効率な太陽光水
分解を実現しようとする中戸チームの中で、シリ
コン表面ナノ制御グループに属して、金属ナノ粒
子担持とシリコンテクスチャー化による無反射処
理、およびヨウ化水素の光分解を担当していま
す。無電解めっきの一種である置換析出により、
白金や銅などの金属微粒子を、大きさ数 nm ~数
百 nm、数密度 106 ~ 1011 個 cm-2 の範囲でシリコ
ン上に担持することが出来ます(図1)。また、金
属ナノ粒子をつけたシリコンをフッ化水素酸水溶
液に浸しておくだけで、多孔質化できることを見
いだしました。多孔質層には、可視光発光を示す
ナノ層と孔径が µm オーダーのマクロ層とがあり、
ナノ層は光起電力、マクロ層は光電流の向上に効
果的であることを明らかにしました
(図2)。これ
らの方法は、単結晶シリコンだけではなく、多結
晶基板、微結晶薄膜にも適用可能です。特に、市
販太陽電池に用いられている多結晶基板の新しい
無反射化法として期待しています。
白金ナノ粒子を担持して多孔質化した多結晶シ
リコン電極を用いてヨウ化水素の太陽光分解を試
みたところ、シリコン極からヨウ素が、対極から
水素の気泡が発生し、光-化学エネルギー変換効
率5.4%を達成しました
(図3)。さらに、岐阜大
学の野々村教授および吉田助教授と共同で、微結
晶薄膜に白金ナノ粒子をつけた電極を用いて変換
効率2.3%を達成しました。単純な溶液を入れた
ビーカーだけを用いてシリコンの表面ナノ制御が
出来、セル(これもビーカーでよい)にセットし
て光を当てるだけで水素が得られるようになりま
した。
図1 シリコン上への金属ナノ粒子の無電解置換析出
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 83
中戸義禮チーム
図2 金属微粒子援用 HF エッチングによる多孔質化
図3 太陽光ヨウ化水素分解
■夢を語る
水素はクリーンな燃料ですが、天然には産出せ
ず、人工的に作るいわばエネルギーの缶詰です。
太陽光エネルギーはクリーンで無尽蔵ですが、貯
めておくことが出来ません。太陽光で効率よく水
素を製造することが出来れば、夢のクリーンエネ
ルギーシステムが実現できます。その一助となる
ような研究を行いたい。
84 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
松本要チーム
ナノ組織制御による
高臨界電流超伝導材料の開発
研究代表者
松本 要 Kaname MATSUMOTO
京都大学大学院工学研究科 助教授
E-mail: [email protected]
平成 17 年度研究成果
高温超伝導体は、臨界温度が液体窒素温度 77 K
を越え、液体窒素中において超伝導を示す物質で
あり、従来金属系超伝導体の限界を打ち破る材料
と考えられています。液体窒素は無尽蔵で安価な
ため、高温超伝導体の使用においては冷却に対す
る制約が緩く、環境にやさしい超伝導技術の産業・
電力技術への普及が強く期待されます。
しかし 77 K においては、熱ゆらぎにともなう
磁束量子の振る舞いによって、高温超伝導体の臨
界電流が低い値に制約されており、この問題の解
決が長年の課題となっていました。
当チームでは、ナノ組織制御により、高温超伝
導体中にデザインされたナノサイズの結晶欠陥を
導入して磁束量子を強力にピン止めし、高温超伝
導体の臨界電流を大幅に向上させることをめざし
てきました。図に開発してきた各種ピン止め点を
示します。
平成 17 年度には、さらに最適化を進めること
で 77 K、5 T の強磁場の中で、4.2 K の実用 NbTi
超伝導線材の臨界電流を凌駕する値を達成するこ
とに成功しました。4.2 K まで冷却することでよう
やく実現できる従来超伝導線材の臨界電流特性を
凌駕する特性を、77 K において達成したことに本
研究の大きな意義があります。
ナノ組織制御による磁束量子のピン止め技術
は、国内外の研究機関や線材メーカー等々の産業
界からも注目されており、高温超伝導材料の特性
を制御できる本命技術と考えられています。
ナノ組織制御を用いた高性能な高温超伝導線材
の普及を通じて、エネルギー高度利用や省エネル
ギーに資することができると考えられます。また
本手法は他の無機材料を含む新機能ナノ材料創製
にも適用可能であり、今後の展開も大いに期待で
きると考えられます。
これまでに開発した各種ピン止め点
●
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松本要チーム
ナノ構造が量子化磁束の振る舞いに及ぼす影響を追及
~ナノ構造作製・組織評価・特性評価の 3 本柱で挑戦
堀出 朋哉 Tomoya HORIDE
京都大学大学院工学研究科材料工学専攻 博士後期課程2年
E-mail:[email protected]
■プロフィール
1999 年私立東大寺学園高校卒業
2003 年京都大学工学部物理工学科卒業
に向かって、それぞれの得意分野をうまく分担し、
データや知識を共有することが強みとなりすばら
しい成果を生み出されているように感じます。
■研究成果
2005 年京都大学大学院工学研究科材料工学専攻
修士課程修了
2005 年京都大学大学院工学研究科材料工学専攻
博士後期課程入学、現在に至る
研究の道を選んだきっかけ
大学進学時に理系を選んだのは、数学や理科が
得意だったからという程度の理由でこれといった
明確な目標があったわけではありませんでした。
しかし大学、大学院の専門の勉強は興味があった
ので、材料工学そして物質科学という分野に潜在
的に何か惹かれるものがあったのかも知れません。
修士課程 2 回生のときに博士課程に進学するか、
就職するかの選択をしなければならなかったとき
が、大きな転機になりました。かなり迷いましたが、
研究が面白かったこと、研究でやり残したことが
あったと感じたこと、そして超伝導薄膜に興味が
あったことが進学に対する大きな動機になりまし
た。私にとっては修士課程で取り組んだ研究テー
マが博士課程進学、そして研究への道につながっ
たと考えています。
CREST プロジェクトに参加して
私が研究を始めた 4 回生の時にちょうどこの
CREST プロジェクトが開始されました。そういっ
た意味で私の研究生活のすべてが CREST での研
究ということになります。CREST での研究しか知
らない私ですが、いくつかの研究機関が同じ目標
86 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
CREST での研究成果
私の松本グループの研究では、さまざまなナノ
構造が超伝導特性にどのような影響を及ぼすかと
いうことを、実験的に解明し、それを特性向上の
ためのナノ構造デザインにフィードバックするこ
とを目的に研究を行っています。実験では、実際
にナノ構造を作製しその組織を評価し、電気的特
性を測定しています。実験に必要だと考えられる
いろいろな手法を取り入れ、いろいろな研究手法
を積極的に取り入れることにしきました。CREST
での研究では、以下の二つの興味深い成果を出す
ことができました。
①結晶粒界と人工ピンが共存するときの臨界電
流密度支配因子の解明
人工ピン導入の開発では、基礎的な段階では単
結晶基板上に作製した薄膜に人工ピンを導入し、
その可能性を探り、その後実用的な金属基板上に
作製した薄膜にその人工ピン技術を移植するとい
う過程で進められます。しかし単結晶薄膜と金属
基板上の薄膜では粒界の存在という点が決定的な
異なります。したがって粒界が存在したとき人工
ピンの影響がどうなるのかということを知ること
が、人工ピン技術の応用には不可欠なのです。単
一粒界はバイクリスタル基板を用いて理想的に作
製することができます。この単一粒界と松本グル
ープで開発された人工ピンである Y2O3 ナノアイラ
ンド誘起線状欠陥を組み合わせることにより、結
晶粒界と人工ピンが共存するときの臨界電流密度
支配因子を明らかにしました。その結果、図 1 に
松本要チーム
示したように、結晶粒界が存在するときでもある
磁場よりも高磁場側では十分に人工ピンの効果は
現れるということを証明しました。
②金ナノロッドの作製によるマッチング効果の
証明
近年さまざまな研究機関が独自の手法で人工ピ
ンを導入し、量子化磁束の制御及び Jc の向上に成
功しています。松本グループでもいくつかの新し
い人工ピン技術が開発されています。私はそのひ
とつである金ナノロッドの作製に成功しました。
今までの人工ピンの作製では酸化物を超伝導薄膜
中に導入する例がほとんどでしたが、酸化物と金
属の構造、熱力学的性質の違いから金属により酸
化物とは異なるナノ構造が作製できると期待でき
ます。面白いことに、図 2 に示したように金を導
図 1 人工ピン、小傾角粒界を導入した超伝導
薄膜の模式図とその Jc-B 曲線
入することによりナノロッドを作製することがで
きましたが、そのサイズは酸化物ナノロッドより
も少し大きくなりました。このような構造により
図 3 に示したように 0.5T 近傍で Jc の磁場依存性
にピークを観察できました。このように金ナノロ
ッドの Jc の磁場依存性に与える影響を解析するこ
とにより磁束密度とナノロッド密度が一致する磁
場で特殊な振る舞いが観察されました。また、金
ナノロッドの観察には透過型電子顕微鏡に加え、
Spring8 における放射光小角散乱法を新たに取り
入れています。電子線、放射光による組織観察を
通し、相互に情報を補い合いながら、ピンニング
メカニズム解析に不可欠な組織評価にも取り組ん
でいます。
図 2 金ナノロッドを導入した超伝導薄膜の
透 過 型 電 子 顕 微 鏡 像 ( 上 )、 そ の Jc-B
曲線 ( 下 )
■夢を語る
同じ分野の研究者だけでなく、異なる分野の研
究者が見ても興味深い、面白いと感じられるよう
な物質科学、さらには科学全体にインパクトを与
えられるような仕事をしたいと考えています。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 87
松本要チーム
人生どう転ぶか分からないが、
本気でやればなんとかなる。
新海 優樹 Yuki SHINGAI
九州大学工学府材料物性工学専攻 博士後期課程3年 e-mail shingai @ zaiko10.zaiko.kyushu-u.ac.jp
■プロフィール
1979 年 9 月長野県の片田舎で生まれる。1998
年 3 月地元の高校を卒業後、暑い場所が苦手なの
で、成績と相談して同年 4 月山形大学工学部電子
情報工学科入学。1 年目山形、2 年目以降米沢で
過ごすことになるが、山形、米沢は夏が非常に暑
いことが判明し後悔するはめに。大学 4 年時、米
沢を脱出するため他大学を受験。無事合格するも、
諸般の事情により結局、山形大学大学院に進学す
る(これ以降、担当教官に受験料を捨てに行った
男と紹介されるようになる)。2004 年 4 月より
同大学大学院博士課程後期電気電子工学専攻に進
学する。ところが、2005 年初頭、担当教官が他
大学に転勤することが判明。後輩と一緒に教官の
移転先大学に転学。2006 年 4 月より九州大学大
学院工学府材料工学専攻所属となり、現在に至る。
九州は暑いです。
子供の頃
兄弟と山野を駆け回っていた。実家の周辺は田
んぼが多く、その用水路で水遊びをして過ごすこ
とが多かったと思う。用水路を堰き止めたり、勝
手に田んぼに水を流したりしてしょっちゅう怒ら
れていた。小学 2 年時の作文によると将来の夢は
発明家(内容によると科学者に近い)。アニメや特
撮漫画の影響を受け科学に興味を持ったらしい。
ただ、中学校に上がるまで活字の本はほとんど読
んでいなかったと記憶している。
研究の道を選んだきっかけ
幼いころから科学者になりたいと思っていたので、
88 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
これだという転機は覚えていない。ただ、小さい
頃は外を駆け回っていろんな物を拾って、それに
ついての知識を得るのが楽しかったことを覚えて
いる。これが今の道を志した根底にあると思って
いる。
CREST プロジェクトに参加して
非常に良い経験になった。特に全く違う研究分野
の研究、研究者と交流できたのが良かったと思う。オ
ンサイトミーティングにおいては他の分野の先生方か
ら有用なアドバイスをいただいたり、全く知らなかっ
た知識を聞かせていただいたりと非常に有意義だっ
た。
また、CREST に従事してから多くの研究者と知り
合うことで、大きな人脈を築くことができた。これは
今後、研究者として生きてくなかで大きな財産になる
と思っている。
■研究成果
成長面の格子定数による結晶成長方位の違いを用
いることにより同一基板上に、2 種類の成長軸を持つ
YBa 2Cu3O7-x(YBCO) 膜の作成に成功した。YBCO 膜
は成膜時の基板温度、酸素圧力また成長面の格子定
数との整合性等の諸条件により成長軸が決定される
ことが知られている。そこで、SrLaGaO4(SLGO) 基板
上に GdCuO4(GCO) をバッファ層として成膜した試料
と GCO を成膜してない試料の上に YBCO を成膜し、
成膜条件(基板温度と酸素圧力)による YBCO の
成長軸について調べた。その結果を図 1 に示す。た
だし、a-axis oriented ratio = Intensity of 100 peak
/ Intensity of 100 peak + Intensity of 005 peak と
定義している。またこの Intensity は XRD.θ/ 2θ
. によ
って得られている。図 1 より図中の斜線部の基板温
度条件、酸素圧力 400mTorr で成膜することにより
GCO/LSGO 上に a- 軸配向 YBCO 膜が LSGO 上に
松本要チーム
c- 軸配向 YBCO 膜が得られることがわかる。次に半
分だけ GCO を成膜した SLGO 基板を用いて同一基
板上に a- 軸配向領域と c- 軸配向領域を持つ YBCO
膜の作成を試みた。作成した YBCO 膜の配向状態
を図 2 に示す。図 2 から狙い通りの膜が成膜できて
いることがわかる。この研究の目的は a-,c-2 つの配向
領域の境界がピンニングセンターとして機能するのか
実証することを目的として行ったものだが、任意の箇
所に任意の配向を持たせることができるため接合デ
バイスの作成に応用が期待できる。
図 1 成膜条件による YBCO 膜の配向性
図 2 XRDφ-scan による面内配向性測定結果
■夢を語る
結晶成長を主とした研究をしたい。特に無配向
基板や、フレキシブル基板上に結晶性を持った膜
を作成する技術を開発したい。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 89
松本要チーム
Welcome to the
nano-island resort!
Paolo MELE
Department of Materials Science and Engineering
Kyoto University
Yoshida-Honmachi, Sakyo-Ku, Kyoto 606-8501
Japan
E-mail: [email protected]
■Profile
Born in 1971, grown in a small town in the
countryside of North-West Italy, in the eighties I
choose classic studies at the gymnasium school.
Inspired by Greek philosophers, I started to
have a beard. At university I decided to switch
to Chemistry. I took my degree in 1996 and
my doctoral title in 2000, always in Genoa
University.
In April 2003 I made the big step from Genoa to
Tokyo. As JSPS post-doctoral fellow at ISTEC
I learned about bulk melt textured materials and
how it is possible to levitate a sumo wrestler on
it. Just when I was planning to levitate myself
too, in 2004 I moved to Kyoto University in
JST team of Professor Matsumoto and start
to learning about the wonderful nano-islands
resorts. I found these nanoislands so pleasant
that I am still happily spending my time around
there.....
My childhood
I was interested in reading very soon. I was
told I started to read when I was four years old.
Since then I never stopped to read books. My other
interest was Japanese animation. When I was a
child, on Italian TV every day a lot of Japanese
anime were broadcast so, as almost everyone of my
generation, I grew up dreaming to become the pilot
90 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
of Mazinga Z someday. Twenty five years later,
I eventually ended to live in Japan, and I am still
searching the location of Mazinga Z headquarters,
somewhere near Fuji-san…Any hint?
Why I choose the research way
When I started to attend the academic courses
of Chemistry in Genoa University, surely I did not
plan to become a researcher. The turning point was
when I met professor Olcese, teaching Physical
Chemistry for students of third year course in
Chemistry. His way to explain things was so clear
and at same time so deep that I started to wonder
if it would be possible to follow his example and
become a researcher in the same field. No more
than a year later, I asked him to have a research
theme in his laboratory for the degree in chemistry.
My research career started in this way. Some
years later, still a young student, I met Professor
Kitazawa in a superconducting summer school
held in Italy. At that time, his enthusiasm deeply
motivated me to continue on the way of research
in superconductivity. I was lucky enough to meet
again Prof. Kitazawa in Japan ten years later, as he
became the leader of JST agency.
■ Study results
In the month of April 2004 I had the opportunity
to join the CREST-JST team of Professor
Matsumoto in Kyoto University. I was involved
on a study concerning the introduction of Artificial
Pinning Centers (APCs) inside YBa 2 Cu 3 O 7-x
(YBCO) superconducting thin films, with the
purpose to increase the critical current of the films
in high magnetic fields. We introduced high-density
columnar defects as APCs of the quantized vortices
松本要チーム
Fig. 1 – Y2O3 nanoislands on annealed SrTiO3
substrate
into YBCO films, during the film deposition
procedure. APCs were introduced perpendicular to
the film surface by using the distributed nano-sized
Y2O3 islands prepared on SrTiO3 (100) substrates
by PLD.
The surface structures of the Y 2O3 nano-islands
grown on SrTiO3 substrates were observed by AFM
(Fig. 1). The Jc/B characteristics were measured
by PPMS (Fig. 2). In comparison with the pure
YBCO film, the best performance among the APCs
samples was obtained on 5 pulse sample. Jc at 77K
was enhanced by linear defects from 1.8MA/cm2
to 2.7MA/ cm2 (self field) and from 0.06MA/ cm2
to 0.10MA/ cm 2 (H=5T, H//c-axis) even when
both films were prepared on the same deposition
conditions.
Recently, I started to introduce a STO buffer
layer on MgO single crystal by PLD method.
High quality YBCO thick superconducting films
have then been fabricated on STO-buffered MgO
substrates. At 77K, critical current densities of
1.4 MA/cm2 in self field and 0.14 MA/cm2 in an
Fig. 2 – J c/B characteristics of Y 2O 3-added
YBCO thin films
applied magnetic field of 5T were obtained for a
373 nm thick YBCO film on STO-buffered MgO
substrate. Dark stripes extending from the top
of STO buffer to the surface of YBCO film (Fig.
3), through the whole film thickness, are clearly
visible. We believe that these stripes are due to
high concentrations of defects, like twins or misfit
dislocations induced by the surface roughness of
the STO buffer. In the very near future, the goal of
my research is to fabricate thick superconducting
films with excellent performances in high magnetic
fields, using PLD or other techniques, and find
a easy and quick way to produce them, in order
to transfer the APCs technology to large scale
practical applications.
■ My dreams
In past four years, I realized how great is for
a researcher to have the opportunity to join a
research team in Japan: then, my greatest dream
is to continue this experience and to obtain a
permanent position in Japan. At this purpose I am
strongly willing to become fluent in Japanese. In
Kyoto JST team, I am learning a lot about applied
research and it is my intention to continue in this
field. However, I am still interested in pure science,
so I hope to have the opportunity to carry out both
research fields.
Fig. 3. - TEM cross-sectional image of 373 nm
thick YBCO film deposited on STO
buffered MgO
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 91
松本要チーム
リズムとテンポが命のロックな研究者
一野 祐亮 Yusuke ICHINO
名古屋大学大学院工学研究科 助手
E-mail: [email protected]
研究の道を選んだきっかけ
■プロフィール
1994 年
大分舞鶴高校卒業(ラグビーの古豪。
でも私は帰宅部)
名古屋大学工学部応用物理学科入学(バンド活動に
明け暮れる。現在も下手の横好きロックドラマー。)
1998 年
同大大学院工学研究科結晶材料工学
専攻博士前期課程進学
(超伝導に目覚める。天下一品のこってりラーメン
にも目覚める。)
2000 年
同上修了
シ ャ ー プ 株 式 会 社 入 社(TFT 液 晶 製 造 業 に 従 事。
祖父が大変器用な人で、私が物心ついた頃から、
凧、竹馬や竹とんぼなどを目の前で作ってくれて
いました。そのため、今も昔も工作が大好きです。
中学生くらいには、工作は工作でも、もっと高度
な工作が出来るようになりたくて、理科系の大学、
学科に進学することを決めていました。私の中で
の「研究」は、実験系であれ理論系であれ、突拍
子もない新しい何かを「工作」するということです。
従って、祖父が色んな物を作ってくれた事が研究
の道を選んだ根源的なきっかけだと思っています。
事業部のあった三重は星がきれいでした。)
2001 年
7 月 同 社 退 社( 社 会 の 荒 波 に く じ
け、 退 社。 き れ い な 星 空 の 思 い 出 だ
けが財産となる。)
同年 10 月 名古屋大学大学院工学研究科大学院
研究生入学
2004 年
名古屋大学大学院工学研究科電子工
学 専 攻 博 士 後 期 課 程 修 了 博 士( 工
学)
同研究科エネルギー理工学専攻助手
現在に至る。
子供の頃
大分県の山奥で育ちましたが、あまり野山では
遊ばなかった気がします。当時流行っていたミニ
四駆の、レースではなく、改造に凝っていて、車
体の軽量化はもちろん、モータをばらしてコイル
を手巻きしたこともありました。また、小学校か
ら中学校まで一日も欠席したことがなく、小学校
時代は冬場でも半ズボンで過ごす健康優良児でし
た。
92 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
CREST プロジェクトに参加して
CREST への参加によって特殊な評価装置や試
料作製装置など、資金的にも大型の装置を導入し
ていただけたことが、身近な点では最も大きな利
点であると思います。これによって、これまでア
イディアはあったが実際に実験できなかったこと
を研究できるようになりました。しかし、特殊な
評価装置などは研究分野に関わらず使用可能な場
合が多いため、グループごとに購入するよりは、
CREST あるいは JST 全体で共同利用できる仕組
みにしていただければ、よりコストパフォーマン
スの高い研究が行えると考えます。
■研究成果
研究歴の紹介
学部4年~修士課程(1997 ~ 2000 年)
テーマ:NdBa2Cu3Oy 超伝導薄膜の作製と超伝導
松本要チーム
特性の評価
YBa2Cu3Oy よりも超伝導転移温度 (Tc) が高く、
磁場に対する超伝導特性の低下が少ない Nd
系超伝導体を薄膜化する研究を行っていた。
合成が困難な Nd 系で、約 94 K の Tc を達成。
当時の最高データでした。
大学院研究生~博士課程(2001 ~ 2004 年)
テーマ:組成制御した REBa2Cu3Oy 超伝導薄膜
の結晶成長と超伝導特性に関する研究
様 々 な RE( 希 土 類 ) 元 素 組 成 を も つ
REBa2Cu3Oy 薄膜を作製し、組成とエピタキ
シャル成長様式について研究を行った。また、
Tc=100 K を示す可能性があるが合成が困難
であった LaBa2Cu3Oy 薄膜を、液相を介した
薄膜成長法である VLS 法を用いて作製し、約
86 K の Tc を得た。
LTG-Sm123 薄膜では非常に高い超伝導特性が得ら
れていることから、X 線で検出できない数十ナノ
以下のサイズで細かい双晶構造粒が形成されてい
ると予想される。双晶構造粒同士の境界は磁束線
をピン止めするため、LTG-Sm123 薄膜が磁場中で
高い特性を示すという事実も、LTG-Sm123 薄膜が
細かい双晶構造粒から形成されていることを示唆
している。
CREST での研究成果
「X 線逆格子マッピングによる SmBa2Cu3Oy 超伝導
薄膜構造の詳細な解析」
我 々 の グ ル ー プ で は、REBa2Cu3Oy(RE123) 超
伝導薄膜の新たな薄膜作製法を開発し、低温成
膜 (LTG) 法と名付けた。この手法は、基板上に高
い温度 (~830º C ) で高品質な RE123 薄膜 (50~100
nm 厚 ) を作製し、その上に低い温度 (~740º C ) で
RE123 を積層させる手法であり、エピタキシャル
成長する温度範囲が低温側に 100º C以上拡大し、
なおかつ磁場中における超伝導特性の向上も実現
された。この LTG 法による薄膜の成長機構を明ら
かにするために、LTG-Sm123 薄膜の逆格子マッピ
ングから、膜厚に対する詳細な構造の変化を評価
した。
図に従来法と LTG 法で作製した Sm123 薄膜 (
厚さ 200 nm) の逆格子マップを示す。図より、従
来法では、Sm123 200 近辺で四つ葉のクローバー
のような逆格子が観察された。これは、Sm123 薄
膜が斜方晶構造であることを反映している。一
方、LTG 法では、クローバー形状は見られなかっ
た。RE123 超伝導体は、酸素が十分に導入され、
斜方晶に転移することで超伝導性を示す。しかし、
図 厚さ 200 nm の Sm123 薄膜における逆格子マ
ップ。(a) 従来法、(b) LTG 法。
■夢を語る
超伝導は電気抵抗がゼロとなったり、磁石の上
で浮き上がったりと、興味深い性質をいくつも持
っています。しかし、極低温でしか使用できない
致命的な弱点も持っています。いつの日か、室温
で超伝導を発現する材料が発見されたら世界がど
んな風に変わるか、想像するだけでわくわくする
し、自分がその発見にたずさわってみたいとも思
っています。そろそろ手塚治虫さんのマンガに出
てくるような車輪のない車とかが超伝導で実現で
きたらいいですね。人類の最初の文明から四千年
以上経っても車輪は変わって無いわけですから。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 93
松本要チーム
レッツ、超伝導 !!
三浦 正志 Masashi MIURA
名古屋大学 大学院工学研究科 博士後期課程 2 年
E-mail : [email protected]
■プロフィール
2005.3 名古屋大学工学研究科エネルギー理工学
に配属され超伝導に出会いました。そのとき、「バ
スケットと似て、研究も日々努力し、向上心があ
れば、前に進むんだ。」と遊んでばかりいた私はバ
スケットにとって変わる目標を見つけました。そ
の後、恩師や苦学をともにした同期の影響もあり、
現在に至っています。
専攻博士課程前期課程修了
2005.4 名古屋大学工学研究科電子情報システム
専攻博士課程後期課程入学
2006.4 日本学術振興会特別研究員 (DC、名古屋
大学 )
受賞歴 : 応用物理学会講演奨励賞、低温工学協会
褒賞優良発表賞
子供の頃
私は小学生の頃から悪ガキで、宿題をせずに担
任の先生に怒られてばかりでした。そのせいで、
ある日、風邪で学校を休んだときに、いつも私が
いたずらしていた友達に他薦され、勝手に生徒会
長にさせられたエピソードもありました。その後、
このことを機に大学の学部を卒業するまで生徒会
での活動に携わることに。また、中学生のときは、
勉強そっちのけでバスケットボールに夢中で、最
優秀選手賞をもらったことで気を良くし、学業で
はなくバスケットで生活して行こうと思いました
が、身長が低いことと日本にプロリーグがないこ
とで断念しました。
研究の道を選んだきっかけ
前述しましたようにバスケットの道を断念し、
何も考えず遊んでばかりいた高専時代に、研究室
94 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
CREST プロジェクトに参加して
CREST プロジェクトの研究に参加させていただき、
松本先生をはじめとして素晴しい先生方や研究
者の方々と同じ目標に向けて、世界と競争できる
環境で研究でき、幸せに思っております。また、
CREST プロジェクトでは海外の大きな学会に参加させ
ていただく機会に恵まれました。そのときに、米
国国立研究所などの外国の研究者が私の研究に興
味を抱いてもらい、そのディスカッションの中か
ら得られるアイディア、知見を発見する喜び、自
分の考えを理解してもらえた時の充実感を感じ、
さらに研究者としてやっていきたい気持ちを高め
ることが出来ました。CREST プロジェクトでの研究は、
私の研究生活の中で非常に大きな財産になること
を確信しているところです。
■研究成果
研究歴の紹介
CREST プロジェクトに参加するまでは以下のように
様々な薄膜作製法を用いて超伝導薄膜の研究を行
ってきました。
・ 高 専 時 代 : ス パ ッ タ (sputtering) 法 に よ る
松本要チーム
YBa2Cu3Oy 薄膜の高特性化
・学部時代 : 低コスト化に向けた有機金属成膜
(MOD) 法を用いた YBa2Cu3Oy 薄膜の作製及びバッ
ファ層の検討
・ 修 士 時 代 : パ ル ス レ ー ザ 蒸 着 (PLD) 法 に よ る
Sm1+xBa2-xCu3Oy 超伝導薄膜の磁場中超伝導特性向
上に関する研究
CREST での研究成果
我々は電力貯蔵装置 (SMES ; Superconducting
Magnetic Energy Storage) などの高磁場マグネッ
ト応用を目的に高温超伝導薄膜の作製を行ってき
た。これらの応用には、高磁場下で高い臨界電流
密度 (Jc) が必要である。そこで我々は、基礎実験
として単結晶基板上に独自の手法である低温成膜
(LTG) プロセスにより作製した Sm1.04Ba1.96Cu3Oy 薄
膜に磁束ピンニング点 (PC) として人工的にナノ
サイズの low-Tc nanoparticles を導入した。その
結 果、LTG-SmBCO+nanoparticles 薄 膜 は 磁 場 中
Jc が B=9 T まで実用線材である NbTi (@4.2 K) と
同等の Jc を示すことを確認した (図 A)。組成分析
を 行 っ た 結 果、LTG-SmBCO+nanoparticles 薄 膜
内 部 に は Sm/Ba 組 成 比 が ~ 0.3 の 球 状 の low-Tc
phase だけでなく、Sm/Ba 組成比が若干過剰な~
0.15 の low-Tc network が高密度に存在することが
確認された (図 B)。このような高磁場下における
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 95
松本要チーム
高 Jc 薄膜は、SMES だけでなく核融合装置など幅
広い応用が期待される。
実際の線材応用では、coated conductor と呼
ばれる金属基板上に薄膜を作製した形で用いられ
る。そこで単結晶基板上での基礎実験を踏まえ、
金属基板上への独自の LTG 法の適応を行った結
果、図C に示すように 77 K では SMES に用いら
れている NbTi (@4.2 K) と同等の Jc を示し、65 K
では核融合装置に用いられている (NbTi)3Sn (@4.2
K) 以上の高い値を 17 T と非常に高い磁場下でも
得ることに成功した。この値は金属基板上の薄膜
では世界最高級の値である。
96 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
■夢を語る
“超伝導”が地球環境負荷の低減と資源の有効利
用に役立つことを強く望んでいます。
山木準一チーム
ナノ構造単位材料から構成される
電力貯蔵デバイスの構築
研究代表者 山木 準一 Junichi YAMAKI
九州大学 先導物質化学研究所 教授 E-mail: [email protected]
平成 17 年度研究成果
この研究は、電池やキャパシタを作っている材
料の大きさをナノ化したり、ナノレベルの構造を
変化させることにより、リチウムイオン電池や金
属空気電池・電気化学キャパシタの性能向上を目
指すものです。
リチウムイオン電池
電気自動車用の加速性能を向上させ、快適な乗
り心地を得るため、リチウムイオン電池を大電流
放電可能とする研究を行っています。反応面積増
加のため、正極活物質である LiCoO2 の焼成法に
よるナノ化の限界を検討し、20 nm から 3 nm へ
の微粒子化に見通しを得ました。また、電極放電
特性は、LiCoO2 の粒径や電極厚さ、電極内の空隙
率、導電剤として混合するアセチレンブラックの
量など多くのパラメータにより複雑に影響され、
傾向がつかめないことから、これらのパラメータ
を考慮した多孔体電極理論を用いて理論計算を行
い、実験結果の整理を開始しました。
更に、他の正極活物質である LiMn2O4 を水中に分
散しレーザ照射により微細化する方法も検討中です。
金属空気電池
リチウムイオン電池を凌ぐ特性が期待できる鉄
空気電池において、鉄/ナノ炭素複合電極の更な
る特性向上をねらい、電極あるいは電解液に種々
の硫化物を添加し、容量の大幅な改善ができまし
た。
電気化学キャパシタ
大電流放電が容易な電気化学キャパシタにおい
て、電極材料として、遷移金属酸化物、カーボン
ナノチューブ、導電性高分子などを取り上げ、そ
れらのナノ構造物よりなる電極薄膜を主に電析法
により作製しました。速い電位走査速度で酸化マ
ンガンを電析した場合、高比容量が得られました
(図1)。また、ポリアニリンをカーボンナノチュ
ーブ上に電析させた場合も、高い比容量が得られ
ました。
図1 種々の条件下で電析した MnO2 薄膜電極の
比容量の比較
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 97
山木準一チーム
Nano-sized Fe­2O3-loaded carbon as new
material for Fe-air battery and Li-ion
battery anode
Bui Thi Hang ブイ シ ハン
Belonging: JST
Working place: Yamaki group, Kyushu University
Email: [email protected]
■プロフィール
Date of birth: 15 November 1972
Nationality: Vietnamese
June, 1993: Graduation from Physic
Department, Hanoi
University
July, 1993: Researcher at Institute of
Materials Science.
September, 1994:
Entrance into Master
course at The International
Tr a i n i n g I n s t i t u t e f o r
Materials Science (ITIMS).
July, 1996: Graduation form Master
course of Materials
Science, ITIMS.
August, 1996: Researcher and training
assistant at ITIMS
October, 2001: Entrance into Doctor
course at Hanoi University
of Technology.
March, 2003:
Withdrawal Doctor course
at Hanoi University of
Technology.
April, 2003: Visiting researcher at
Kyushu University.
October, 2003:
Entrance into Doctor
course at Kyushu
University.
September, 2005:
Graduation from Doctor
course
October, 2005-present: Researcher for JST
(CREST project) at Yamaki
group, Kyushu University.
子供の頃
I had a very happy childhood. To be born in a
98 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
peaceful countryside Hung Yen, I dreamed to
become a police to catch wrong-doers when I grow
up! Everything was changed when my family
moved to Hanoi city. The lectures on Physics of
the teachers changed my dream “to become a
researcher in Physics”. And I became a student in
Physic department at Hanoi University.
研究の道を選んだきっかけ
Be come a researcher is my dream. And my dream
comes true when I graduated Doctor course at
Kyushu University and become a researcher for
JST. The person helped me to turn my dream into
true is Prof. Yamaki. He is my supervisor in the Dr.
course as well as CREST project.
CREST プロジェクトに参加して
Working as a researcher for JST at CREST project
is a desire of not only me but also many students,
who have graduated doctor course. It is very happy
for me to work in the CREST project. I have very
good conditions for working. I can learn a lot
from professors, colleagues. I can accommodate
experiences, improve skill and knowledge.
■研究成果
The main purpose of my research is improvement
of cycle performance for Fe-air battery and Li-ion
battery anode.
For battery field, nano-sized materials are the
key factor to improve the capacity, energy of the
battery. Therefore, nano-sized Fe­2O3-loaded carbons
using various carbon materials such as acetylene
山木準一チーム
Fig. 1. Scheme of the preparation method for nano-sized Fe­2O3-loaded carbon.
black (AB), graphite, vapor-grown
carbon nanofibers (VGCF), tubular and
platelet type, were prepared successfully
and applied for Fe-air battery and Li-ion
battery anode. Scheme of the preparation
method for this kind of material and the
TEM images of as-prepared materials were
described in Fig.1 and 2, respectively.
As showed in Fig. 2, very fine Fe 2 O 3
particles (about few tenths of nanometers)
were dispersed on carbon surface. Such
distribution increases the surface area of
iron active material and supports for redox
reaction of iron species.
This material was applied for Fe-air battery
anode and it showed that the performance
was improved significantly, especially
when nano-carbons were used. In addition,
in the presence of sulfide additive to
electrode or electrolyte, the capacity of
Fig. 2. TEM images of nano-sized Fe2O3-loaded
nano-sized Fe ­2 O 3 -loaded carbon was
carbons.
increased remarkably. This material is
a potential candidate for Fe-air battery
anode.
■夢を語る
Nano-sized Fe­2O3-loaded carbon was revealed to
work as a rechargeable material in lithium battery.
I would like to continue to study on nano-materials
High capacity was obtained for this material
and their applications. I hope I will become a
because the large surface area of active Fe ­2­O 3
permanent researcher for JST or University or
material loaded on carbon supported for reaction of
Institute… when CREST project finished.
lithium and iron. This material is expected to apply
for high capacity lithium battery anode.
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 99
山木準一チーム
リチウムイオン電池を搭載した
電気自動車の実用化を目指して!
川村 哲也 Tetsuya KAWAMURA
九州大学 先導物質化学研究所 CREST 研究員
畑違いの電解液の研究をすることに。しかし無事
E-mail: [email protected]
3 年で修了。恩師は偉大です。)
2003 年
■プロフィール
科学技術振興機構 現在に至る 1992 年
九 州 大 学 工 学 部 卒( 工 学 系 の 学 科 を 卒 業 し た が、
化学を勉強したいと思い立ち、化学先進国のアメ
リカへの留学を決意。)
子供の頃
一言で言えば「理系な子供」でした。3 歳の頃
1992 ~ 1993 年
英語専門学校、佐賀大学(アメリカの大学院に入
るには化学系の単位が足りないよと云われ、化学
の単位を取るため毎日朝から夕方まで大学で授業
を受けるが、なぜか夜と土日に某有名研究室でリ
チウム電池の研究をする。)
1993 ~ 1995 年
にプレゼントされた「宇宙」という分厚い図鑑を
毎日飽きもせず眺めていました。字は読めません
でしたが、写真や絵で太陽やデネブの大きさに畏
怖し、他の惑星や星雲の写真に胸をときめかせて
いました。幼稚園児の頃には生き物に興味を持ち
ガマガエルやミミズ等を拾って来ては祖母によく
叱られていました。
アメリカ留学・・・英語学校、コミュニティーカレッ
ジ、サマースクール、化学学部大学院(大学院に
入るため英語と化学の勉強漬け。大学院に入学後
は夏季休暇に、ニューヨーク・シカゴ・ワシント
ン DC と車で旅をしました。アメリカはいいなと
思う。)
1996 ~ 1998 年
研究所(日本に帰国後知り合いの伝で愛知の研究
所で働く。やっぱり日本はいいなとしみじみ思う。)
1998 ~ 2000 年
名古屋大学大学院人間情報学研究科修士課程(佐
賀大学で体験したリチウム電池の研究の味が忘れ
研究の道を選んだきっかけ
「プロフィール」でも書きましたが、工学部卒業
後、アメリカ留学前に化学系の単位を取るために
半年間、佐賀大学に在籍しました。その際、空い
た時間に、お世話になった教授の研究室で簡単な
リチウム電池の研究をさせていただきました。そ
の研究が本当に面白く感じ、帰国後にリチウム電
池の勉強をし、博士号もリチウム電池の研究で取
得。現在もリチウムイオン電池用正極材料の研究
をしています。
られず、リチウム電池の研究室に入る。)
CREST プロジェクトに参加して
2000 ~ 2003 年
九州大学大学院総合理工学府博士後期課程(リチ
ウム電池の研究室に入る。佐賀大の恩師から、博
士課程では教授の言うことには従うようにと釘を
刺されたので、なんでも「ハイ」と言っていたら
100 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
私はそれまで、研究においては助走距離が長い
ほど遠くへ跳べるのだと考えていました。しかし、
プロジェクトに参加して私に期待されたことは、
山木準一チーム
すぐに研究成果を出すことでした。私は面食らい
ましたが、しかし実際に研究を開始すると、研究
の準備期間が短い代わりに、グループリーダーや
研究室の先生方など多くの方々が知恵やアイディ
アをご教授くださり背中を押してくれました。プ
ロジェクトに参加して感じたことは、実際の研究
活動においては瞬発力が大事であることと、背中
を押して勢いを付けて下さる方たちを多く持つこ
との大切さです。
■研究成果
研究歴の紹介
学部では核融合炉用グラファイトブランケット
の研究を行いました。修士課程では、リチウム電 図 1 リチウム過剰法により合成した LiCoO2 ナノ粒子
の SEM 画像
池用マンガン系正極活物質の研究を行いました。
博士課程後期では、リチウムイオン電池用電解液
の熱安定性、安全性に関する研究と水に対する安
定性に関する研究を行いました。その研究におい
て、ハロゲン化リチウムの中で塩化リチウムだけ
が LiPF6 と水との反応を抑制することを見出しま
した。
CREST での研究成果
科学技術振興機構藤嶋領域山木グループでリチ
ウムイオン電池用正極活物質のナノ粒子化によ
る電池出力の向上の研究をしております。これま
でに、原料である酢酸リチウムと酢酸コバルトの
内、酢酸リチウムを大過剰に加え混合し焼成を行
い、その後焼成物を水洗し炭酸リチウムを除去し
LiCoO2 ナノ粒子を得るリチウム過剰法というナ
ノ粒子合成法を開発しました。不純物である炭酸
リチウム(酢酸リチウムが変化したモノ)により
LiCoO2 の粒成長を抑制するという合成法でありま
す。この合成法を用いることにより 25 ナノメータ
ー程度の LiCoO2 粒子の合成に成功しました。そし
てその LiCoO2 ナノ粒子を用いることにより放電電
流密度 12mA/cm2 においても 110mAh/g の容量
を保持することに成功しました。
この成果は、電気自動車の実用化に向け大きな
壁となっている車載電源の問題の解決の道を示す
ものであり、化学工業日報や日経産業新聞におい
て紹介されました。
図2 LiCoO2 ナノ粒子の充放電試験結果(放電電
流密度 12mA/cm2)
■夢を語る
学生時代から研究のほとんどが、リチウム電池
や鉛蓄電池など電池に関わるものでした。リチウ
ム電池が究極の電池と云われて久しいですが、将
来は、リチウム電池を含めた既存の電池とは全く
異なる高性能な電池系を開発したいと考えており
ます。そして、来るべき脱化石燃料社会の構築に
寄与したいと考えております。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 101
山木準一チーム
光合成からナノ粒子まで
辻 剛志 Takeshi TSUJI
九州大学先導物質化学研究所 助手
E-mail: [email protected]
■プロフィール
1988 年
九州大学農学部卒(もともとは農業土木を志望して
農学部を選んだが、ある時「生物物理学」なる学問
に出会い、量子力学や分光学の世界に魅せられ、進
路を変更。)
1990 年
九州大学大学院農学研究科修士課程修了 (研究テー
マ:クロロフィルタンパク質内の励起エネルギー移
動)
1993 年
九州大学総合理工学研究科博士後期課程修了(工学
博士)( 研究テーマ : ハロゲン置換トロポロン類の
分子内水素結合に関する分光学的研究。) ( この間
今は亡きオリックス・ブルーウェーブ平和台応援団
に所属 )
1993 年
富士写真フイルム入社
( 光と関係のある仕事がし
たかったから。カラー感熱紙の商品化や高分子物性
の分光学的解析法の開発などに従事。)
1996 年
富士写真フイルム退社後、九州大学機能物質科学研
究所 (2003 年より先導物質化学研究所 ) 助手に採
用され、現在に至る。
現在の専門:物理化学・光化学・ナノ材料科学
趣味 : 登山・自転車・コンピュータプログラミング
子供の頃
父が国鉄で新幹線関係の仕事をしていたため、
幼少の頃は国鉄アパートで育つ。そのためか、と
102 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
にかく電車、飛行機や船など、乗り物が好きで、
よくそれらの模型を組み立てていた。また、その
後父が脱サラして電気計測器を作製する仕事に変
わったため、しばしばその仕事を手伝った。これ
らの経験は科学技術に対する興味を私に植え付け、
その後の進路に少なからぬ影響を与えたと思う。
今でも実験の中で一番面白いと思うのは、新しい
装置(システム)を組み立てるところである。
研究の道を選んだきっかけ
生物物理学と、そしてそれを教えてくださった
先生との出会い。大学に入ってしばらくは、研究
者というよりは技術者になるつもりでいたが、あ
るとき、生命の仕組みや機能を物理的に解明しよ
うという、耳慣れない学問に出会い、そんなこと
が出来るならすばらしいと思った。また、そのと
き指導していただいた先生から、未知なるものを
解明していくことによって新たな世界観が得られ
ることのすばらしさを教えていただいた。研究者
の道の選択に、指導教官の人となりは大きく影響
すると思います。
CREST プロジェクトに参加して
大きな声では言えないが、世の中の共同研究と
称するものには単に組織を編成するだけで、名義
貸しと呼ばれても仕方のないものが有る。本プロ
ジェクトがそれらとは明確な一線を画しているこ
とは開始後わずか数ヶ月で思い知らされた。まず、
サブグループであっても藤島総括の前できちんと
報告を行わねばならない。しかも、他のいくつか
のグループと同時に行われるため、手抜きをして
いると大恥をかくことになる。さらに、総括の「国
民の税金を使って皆さんは研究をしている。」と
いう言葉が毎回気を引き締め直してくれる。また、
報告会は、時には特許がらみでよそでは決して聴
山木準一チーム
けないような詳細な研究内容を聴くことも出来る、
内容の濃い異分野交流の場でもある。
■研究成果
研究歴の紹介
プロファイルに書いたように、光合成から分子
分光学を経て、現在は光を用いた新規ナノ材料作
製法の開発をメインに行っている。分子から集合
体、気相から液相、様々な系に拘わったことが強
みだと思っている。最近の研究のみ内容を簡単に
紹介すると、水などの溶媒中に置いた固体試料に
レーザー光を照射して、溶融や蒸発を起こさせ、
ナノサイズに微細化する、というものである。レ
ーザー光による試料の分解は「レーザーアブレー
ション」として知られているが、普通このような
操作は、気相や真空中の試料に対して行われるの
に対し、本研究では液相中の試料に対して行うと
ころが特徴である。これを始めたきっかけは、分
子分光の実験で使用していた色素レーザーのセル
中の金属板が励起用レーザーによってエッチング
されているのを見つけたことで、現在のように「ナ
ノ」がはやっていなかった頃に独自の方法でナノ
物質を作り出せたことは、少しだけ自慢していい
かな、と思っている。最近はこの方法で作製した
銀ナノ粒子に再度光を照射することによって球形
から三角形や円柱状への粒子の形状変化が起こる
ことなどを見出している。
CREST での研究成果
本プロジェクトの目的は、リチウム二次電池の
正極材料を (LiCoO2、LiMn2O4) ナノ粒子化するこ
とによって、高効率、高出力化することであるが、
私の役割は、これを上で述べた液相中レーザーア
ブレーションを用いて実現することである。ナノ
粒子を作製すること自体はすぐに出来たが、生成
量が低いことに長い間苦しめられた。最近ようや
く電池性能を評価できるほどのナノ粒子が得られ
るようになり、限定的ながら、ナノ粒子化の効果
を実証することが出来た。遅ればせながらようや
く本当のスタートラインに立てたような気がする。
■夢を語る
これまで行ってきた研究テーマは多岐にわたる
が、取り組む自分のセンスは基本的には同じだと
思っている。物性の解析を行うにしても、材料創
製を行うにしても、物理化学的なセンスで構成し
ている物質の分子レベルの挙動を頭に描きながら
行いたいと思っている。それと、当たり前のこと
であるが、やはり人類の幸せに繋がるような研究
を行いたいと思う。
正極材料ナノ粒子作製に使用している液相レーザーアブレーション装置と、得られた LiMn2O4 ナノ粒子
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 103
山木準一チーム
The future of mobile technology
lies in supercapacitors
Vinay
GUPTA
Affiliation: JST and KASTEC, Kyushu University,
Kasuga-shi, Fukuoka
E-mail: [email protected]
■Profile
1997
1998
2000
2003
2004
Ph.D., MDS University, India
JSPS post doctoral fellow
JSPS research associate
Humboldt fellow
JST researcher
Childhood
I grew up in an academic home environment. So,
I was very much attracted to science and used to
study science books such as space science. I also
had serious interest in reading the biography of
great scientists. In particular, I was puzzled by the
wave-particle duality and later by the theory of
relativity. I was the “every morning” news reader
for my school for a few years. I loved drawing as
well.
Turning point to choose the way to
researcher
From the early days, I had the curiosity to learn
more and more about the various aspects of science
and I believed that the most satisfactory way to
live a life is to make a contribution to the society.
So, I chose to do scientific research, but I needed a
good starting point. The turning point came when I
104 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
got a chance to do research at Bordeaux University,
France, very early. There was no looking back
since then. I am surprised that young talented
students give up science and get a job in other
fields, but science is the most challenging aspect
of life. If Einstein can make one of the greatest
contribution in science being a clerk in a patent
office, why not any one of us can do it, no matter
where we are working, just keep learning science.
Impression of the project CREST
Since I started my research in Japan in 1998, I
had high regards for JST as the premier research
agency in Japan. So when I got an opportunity
to work in a CREST project, it was like a dream
come true. I soon got impressed with the way the
whole project is organized including the way JST
takes care of research fellows. The half yearly
JST meetings are very informative and friendly.
My supervisor and project leader are very nice. I
think that the CREST not only brings excellence
in science but also help researchers work together
as a family. Not to mention that I feel at home in
Japan.
■ Study results
Introduction of my research history
Since 1992, I am doing research on carbon
materials and their application in energy storage.
I worked at Bordeaux University, France for two
years on intercalation compounds. I received by
graduation in 1997 and then worked as research
山木準一チーム
Fig. 1(a) Specific capacitance of deposited MnO2 in various deposition
conditions and (b) Specific capacitance / specific resistivity vs.
deposited PANI onto SWCNTs for PANI/ SWCNTs composites.
Fig. 2 (a) a SEM image and (b) power-energy relationship of polyaniline
nanowires
associate in India for one year. In 1998 I came
to Japan as JSPS post doctoral fellow to work at
Kyoto University on Li-ion battery. From 2000-03,
I worked at Aichi Institute of Technology on the
energy storage application of carbon materials.
From 2003-04, I worked on the development
of nano-materials for energy storage at Ilmenau
Technical University, Germany. Since 2004, I am
at Kyushu University as JST researcher on the
development of supercapacitors.
Results in project CREST
Our main focus in the project has been to develop
novel nano-materials for supercapacitors. We
have been successful in developing several novel
nano-materials such as MnO2 nano-rods, Ni-Co
oxide nano-rods, single wall carbon nanotubes/
polyaniline composites, polyaniline nanowires
etc. Some of these nano-materials show high
specific capacitance, specific power and specific.
In the case of nanosized MnO 2 , the highest
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 105
山木準一チーム
specific capacitance value of 410 F/g (at 1 mA/
cm2) was obtained (Fig. 1a) whereas, for PANI/
SWCNT composites (Fig. 1b), the highest specific
capacitance value of 485 F/g (at 1 mA/cm2) (Fig.
2b) was observed for 73 wt.% PANI deposited onto
SWCNTs. In the case of polyaniline nanowires
(Fig. 2a), a specific capacitance of 820 F/g (at 1
mA/cm2) and a specific power of 16 kW/kg was
obtained (Fig. 2b). Moreover, these nanomaterials
have long cyclic life, therefore, they have potential
as supercapacitors in electrical vehicles.
■ My Dreams
In the immediate future, I would like to develop
high power supercapacitors for cars. I dream of
driving a car using my own supercapacitor. In the
long term, I would like to make contribution in
developing several types of power sources. I hope
to develop some nano-materials that can provide
breakthrough in mobile technology.
106 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
池庄司民夫チーム
電極二相界面の
ナノ領域シミュレーション
研究代表者
池庄司 民夫 Tamio IKESHOJI
産業技術総合研究所 計算科学研究部門長
E.mail: [email protected]
平成 17 年度研究成果
本研究は、電極に代表される固液界面および界
面付近の構造、電子移動とそれにともなう化学反
応等を、分子・原子のオーダから第一原理シミュ
レーションで明らかにし、さらに実用的な意味で
の電極全体の挙動をシミュレーションするための
計算理論を構築しようとするものである。
第一原理計算では電子の状態を原子核の作る電
場の中で量子力学的に解いているが、電極二相界
面の計算では実際の電極反応のように外部から電
場を加える必要がある。今年度は、この方法とし
て有効遮蔽体(Effective Screening Medium)の
考えを提案しそれを使う方法を開発した。それを
周期境界条件下にある白金 32 個、水分子 44 個(+H,
真空層)の系に適用した。H17 には、水素発生の
ターフェル過程を想定して Pt 電極に負のバイアス
を掛けた状態で、その表面構造の変化、反応など
を時間的に追いかけたが(1 ~ 2ps)、電極反応は
まだ進んでいない。H18 には、反応が見られると
期待している。
さらに均一系での第一原理計算でもベリー位相
を用いて電場印加する方法を硫酸水溶液(硫酸 12
分子+水 36 分子;周期境界条件下)の系に適用し
10 ~ 20ps の計算を行い、実験値をほぼ再現する
電気伝導度を得た。今後は燃料電池で重要な高分
子電解質膜であるナフィオンのシミュレーション
に発展させる予定である。図1には、電場は加え
てないが、より希薄な系でのプロトンジャンプの
様子を示した。
本研究では、燃料電池のより実用的な計算も目
指している。燃料電極としては正負とも白金が主
であるが、そのサイズ依存性やカーボン担持の影
響などを明らかにした。また、Pt 微粒子の形状変
化、Pt 上での反応について電位を考慮した分子軌
道計算の方法開発などにも進展があった。
図1 硫酸水溶液中のプロトン伝導の第一原理シミュレーション。
(a) では左上の大きな硫酸分子の下に H3O+ がいるが、(b) では H が共有された H5O2+ となり、(c) で別
の H3O+ となって、結合の組み替えだけで実質プロトンが移動している(グロータス機構)。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 107
池庄司民夫チーム
「かわったやつ」は、ほめ言葉
倉本 圭 Kei KURAMOTO
(株)豊田中央研究所 フロンティア研究部門
倉本研究グループ リーダー
E-mail:[email protected]
■プロフィール
1995.4-1999.3
奈良教育大学教育学部
(体育会バスケ部のキャプテンでした・数学と理科
の教員ができます。)
1999.4-2001.3
奈良先端科学技術大学院大学
((財)地球環境産業技術研究機構の環境触媒研究
室でお世話になりました。この頃結婚。)
2001.4-2005.3
京都大学大学院工学研究科
(量子化学の中辻博先生には大変お世話になりまし
た。工学博士に。)
研究の道を選んだきっかけ
小さい頃からなんとなく「研究者」にはあこが
れていたのですが、大きくなるにつれて教育に興
味を持つようになったので、教育大学に進学しま
した。そこでそのまま教師になる道もあったので
すが、自然科学という学問に対して自分が精一杯
やりきった感がまだ学部を卒業した頃にはまだな
く、研究者の道に進んだのが現状です。教育も研
究も「社会への還元」をめざして取り組んでいます。
CREST プロジェクトに参加して
途中参加なのですが、他の分野の研究者の方々
とのディスカッションができる場として大変有意
義であると感じています。また、このプロジェク
トの研究内容だけではなく、別の研究テーマにつ
いても共同研究を行う、「新しい芽」も生まれよう
としており、これからが大変楽しみです。
2005.4(株)豊田中央研究所
(入社10ヶ月で自分の研究室をもつことに。現在
フロンティア研究部門のリーダーです。)
■研究成果
子供の頃
研究歴の紹介
お寺や神社・古墳に囲まれた奈良でのんびり育
ちました。両親が数学と化学の教師だったせいか、
小さい頃から工作や実験・機械をいじったり、も
のを作ったりするのが好きでした。また小学生の
頃から計算機に触れる機会がありプログラミング
も早い時期から始めていました。球技が好きで中
学から大学までバスケットボール部に所属してい
ました。
修士までは理論だけではなく、実験も含めた触
媒化学や表面科学の研究に取り組んできました。
所属も教育大学→財団法人研究所→国立大学工学
部→企業研究所と転々としてきたので学歴という
意味で私と同じ道を歩める人は多分いないと思っ
ています。さまざまな分野における研究経験だと
か、人脈だとかは私にとっての最大の武器ですし、
これからも大事にしていきたいものです。
108 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
池庄司民夫チーム
CREST での研究成果
■夢を語る
Wavenumber(cm-1)
現在、燃料電池電極触媒の量子化学計算を進め
ています。電極表面は複雑な現象が含まれている
ため、単に市販のアプリケーションを用いただけ
では正確なシミュレーションを実行することがで
きません。そこで新しいモデルを提案し新しい解
析手法を構築する必要があります。これまでの成
果に「触媒金属粒子径のモデル計算」があります。
実際の触媒に用いられる金属粒子径は数 nm であ
り、このサイズの金属粒子のシュレディンガー方
程式を解くことは困難があります。そこで、系全
体を全電子計算する部分と導体として静電ポテン
シャルに分割して計算コストを軽くする計算手法
を開発しました。図に示したグラフは、Pt,Pd,Rh
表面上に吸着した CO 分子の振動数であり粒子径
が 10nm 以上では単結晶の振動数に近く、1-10nm
の領域で大きく変化し、Pt,Pd,Rh 単原子に吸着し
た CO 分子の振動数に近づいていくことがわかり
ます。このような電子状態計算を行うことによっ
て金属粒子系と触媒反応の相関を明らかにし、触
媒反応に最適な触媒粒子を設計することが可能に
なると考えています。
今後の研究なのですが、やはり企業研究者とし
て常に現実の問題に向き合い、「社会への還元」を
めざして研究開発を進めていきたいと考えていま
す。しかしながら、よくある目先のニーズのみに
とらわれることなく、自分の頭で将来像を思い描
き、「本当にこの社会に必要なものは何?みんなの
幸せって何?」という、まだ誰も気づいていない「潜
在ニーズ」をとらえ斬新なテーマの研究をすすめ
て貢献することができたら、日頃の激務も報われ
るかな・・・と考えています。日頃、会社でも人
の何倍も働こうとするので「かわったやつ」だと
言われますが、これを「ほめ言葉」と思って、普
通ではできない研究を成そうと思います。
2110
CO/Pt(111)
2090
CO/Pd(111)
CO/Rh(111)
2070
Pt
2050
Rh
2030
Pd
2010
0
10
20
30
40
Particle diameter(nm)
図 Pt,Pd,Rh 上の CO 分子吸着振動数のモデル計算
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 109
池庄司民夫チーム
電極反応の第一原理
シミュレーションに携わって
濱田 幾太郎 Ikutaro HAMADA
大阪大学産業科学研究所 CREST 研究員
E-mail: [email protected]
■プロフィール
1997 年 大阪大学基礎工学部物性物理工学科卒業
1999 年 大阪大学基礎工学研究科前期課程修了
2000 年 日本学術振興会 特別研究員
2002 年 大阪大学基礎工学研究科後期課程 単
位取得退学
系の研究の道に進んだのは、きっと父親の影響が
大きいのだと思う。大阪大学基礎工学部物性物理
学科の大先輩である父は、本を読んで勉強した新
しい知識などを、昔から楽しそうに語っていたの
である。もちろん家族でその内容を理解できる人
はいなかったわけだが、その話を聞くのはそんな
に悪いものではなかった。親の背中を見て育つと
いうのはこういうことなのかもしれない。
CREST プロジェクトに参加して
2002 年 日本科学技術振興事業団 技術員
2003 年 大阪大学産業科学研究所 特任教員
2005 年 JST-CREST 博士研究員(現在に至る)
子供の頃
小さな時から(今に至るまで)お調子者だっ
たが、親に言われることはわりと素直に聞く、比
較的良い子だったのだと思う。絵を書いたり物を
作ることが好きで、小学校の頃は(主に少年ジャ
ンプの)マンガを写したり、ガンダムのプラモデ
ルを作っては破壊して遊んでいた。小学校高学年
になるとラジコンを組み立てたり、中学生になる
とブラックバス釣りのためのルアーを作っては、
大物を狙ってダムへ通っていた。勉強に関しては
くもんに行っていたせいか、算数や数字を眺める
のが好きだった。そのおかげか、高校生になるま
では勉強は楽しくやっていたように記憶している。
現在博士研究員として参加しているチームは、
各グループの拠点がつくば、柏、大阪と離れてい
るにも関わらず、各地へ出張してのミーティング
やテレビ会議、最近では skype などを駆使して非
常に密に共同研究を行っている。このプロジェク
トとチーム、そして研究のテーマは非常に刺激的
で、参加できたことを非常に光栄に思っている。
私の属する理論チームは途中から参加している訳
だが、本プロジェクトには多くのすぐれた実験グ
ループが参加しているので、理論と実験の交流が
より深まると今後の研究の発展につながると思っ
ている。残念ながら、両者の距離はまだまだ遠い
ので、このようなプロジェクトの中で共同研究へ
の道を模索できると良いとも考えている。
■研究成果
研究の道を選んだきっかけ
研究歴の紹介
あまり深く考えて研究の道を選んだわけでは
ない。気がつくと研究の道に進んでいた、という
のが正直なところである。最終的には物理系に進
学したが、高校では数学が好きだったので経済学
部に進もうかとも考えていた時期もあった。物理
CREST プロジェクトに参加する以前は、超伝
導、特に圧力によって誘起される超伝導に興味を
持っており、その超伝導転移温度を経験的パラメ
ータを用いない、いわゆる第一原理的に計算する
ことを目的として研究を行ってきた。超伝導転移
110 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
池庄司民夫チーム
温度を電子−格子相互作用に基づく機構で求める
ためには電子状態と格子振動、そしてそれらの相
互作用の情報が必要である。密度汎関数法に基づ
く、局所密度あるいは一般化勾配補正近似を用い
た非経験的な電子状態計算手法は近年ではほぼ確
立されたといえるが、格子振動と電子−格子相互
作用の計算手法、特に計算コードはルーチンワー
ク化されたとは言いがたい。これまでの研究の多
くの時間は格子振動を第一原理的に計算するため
の、密度汎関数摂動論(DFPT)に基づいた計算
コードの開発に費やしてきた。このコードはまだ
まだ汎用なものではないため、現在の研究を進め
る傍ら開発を進めている。フォノン振動数は理論
と実験との直接の比較ができる物理量であり、振
動モードの計算コードを確立しルーチンワーク化
することにより第一原理計算から、より多くの物
理的な情報を得ることが可能になるのである。
CREST での研究成果
我々のグループでは電気化学では最も基礎的な
ものの一つである電極表面上での水素発生の第一
原理シミュレーションに取り組んでいる。水素発
生反応は水素を燃料とした燃料電池の技術と密接
に関連しており、工業的にも非常に重要であると
考えられる。しかしながら、この基礎的な反応の
微視的な機構はまだ明らかになっておらず、いま
だに論争がなされている。水素発生反応は燃料電
池の水素極における反応の逆反応であるため、こ
の反応の素過程と触媒金属の役割を明らかにする
ことは、現在燃料電池の電極で用いられている高
価な白金触媒に代わる高効率な触媒の設計の指針
を得る事にもつながることが期待される。本研究
では、可能な限り現実に近い電極表面/界面のモ
デルを構築し、第一原理的シミュレーションを行
うことにより、反応の素過程や電極電位依存性な
どを明らかにすることを目的としている。
電極界面のより現実に近いモデリングには、吸
着分子と基板金属のみならず溶媒分子である水の
影響も取り入れる必要がある。さらに反応を促進
するためには電圧印加(電極付近での電場)の効
果をあらわに取り入れることが極めて重要である。
我々は電圧印加された電極表面/界面を取り扱う
ために、最近、大谷と杉野によって開発された有
効遮蔽体法(Phys. Rev. B 73, 115407 (2006))を第
一原理分子動力学プログラム STATE に実装し、
分子動力学シミュレーションを行っている。第一
段階として、基板金属としては最も高効率な触媒
である白金を用いた。
これまでに我々は白金電極/水界面の(現在計
算機で取り扱える)最も現実に近いと考えられる
構造を地球シミュレータセンターなどのスーパー
コンピュータを駆使して作成してきており、白金
表面上での水の構造が明らかになってきている。
白金電極に負の電位をかけたときにプロトンはヒ
ドロニウムイオン (H3O+) として金属表面付近に寄
って来ると考えられるが、そのような状況がシミ
ュレーションでも観測されている(図)。水素発生
反応の最初の段階である Volmer 反応 (H+ + e- →
H*) はまだ起こっていないが、我々のシミュレーシ
ョンによって電圧を印加した電極表面近傍におけ
る水分子の遮蔽、電気二重層と成長とそれによる
反応場の形成の過程が明らかになりつつある。現
在も精力的にシミュレーションを継続中であり、
近い将来素晴らしい成果が報告できることができ
ると確信している。このプロジェクト、シミュレ
ーションの成功は現在の一つの夢である。
図:シミュレーションに用いた電極/水界面の分
子動力学シミュレーションのスナップショッ
ト . 黄色い球はヒドロニウムイオンに属する
酸素を示す . プロトンが電場に効果によって
白金(金色の球と線で表現)電極表面の近傍
に近づいていることが分かる .
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 111
池庄司民夫チーム
電極反応を ab initio 分子動力学
シミュレーションでさぐる
大谷 実 Minoru OTANI
東京大学物性研究所 助手
E-mail: [email protected]
■プロフィール
1995 年大阪大学基礎工学部 卒業
1997 年大阪大学大学院博士前期課程過程基礎工
学研究科物理系専攻 修了
CREST プロジェクトに参加して
我々のチームは当プロジェクトの 3 年目から参
加させていただいています。先行している 2 年の
間に数々のすばらしい成果が発表されておりプレ
ッシャーも大きいですが、資金面での手厚いサポ
ートやチーム内での活発な議論により、プロジェ
クトに貢献できるような結果を得るために日夜努
力しています。
2000 年大阪大学大学院博士後期課程過程基礎工
学研究科物理系専攻 修了 博士 ( 理学 )
1999 年日本学術振興会特別研究員 (DC・大阪大学 )
■研究成果
2000 年日本学術振興会特別研究員 (PD・東京大学 )
2001 年筑波大学物理学系 助手
2003 年東京大学物性研究所 助手、現在に至る
子供の頃
身の回りにある電気製品がなぜそういう働きを
するのかに興味があり、( 分解できそうなものは )
片っ端から分解していた。たまに再生ができない
ほど分解してしまうことがあったが、両親は叱ら
なかった。今思えば、好奇心を育てるためにあえ
て止めさせなかったのかと思う。
研究の道を選んだきっかけ
中学生の時にちょうど高温超伝導の大フィーバ
ーが巻き起こった。そのおかげで、テレビなどで
頻繁に解説や研究室の様子などが放映された。そ
れを見ていて、いつかはこのような大発見をして
みたいと思い、物理の研究者への道を意識しまし
た。
研究歴の紹介
CREST プロジェクトに参加する前は、カーボ
ンナノチューブ (CNT) の電子状態計算と絶縁膜中
(SiO2) 中の不純物の拡散に関する計算を行っていま
した。
CNT にフラーレンを内包させた CNT ピーポッ
ドは新たな CNT 素子として注目を集めている。
我々の研究により、内包させるフラーレン種や配
向などによって CNT のバンドギャップが制御で
きることが明らかになった。図 1 に (17,0) ジグザ
グ CNT にフラーレンを内包した時の電荷の再配
置の様子を示す。図のように CNT はフラーレン
を内包しても化学結合は作らないが、電子状態は
電荷の再配置により大きく変化する。この変化の
度合いが CNT のバンドとフラーレンのエネルギ
ー準位の位置関係に影響する。従って、CNT の太
さやフラーレン種 ( 配向 ) を変えることによって
CNT のバンドギャップ中のフラーレン起因の準位
を制御できる。
CREST での研究成果
本プロジェクトにおける私の役割は、電圧印加
112 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
池庄司民夫チーム
図 1. CNT ピーポッドの電荷再配置の様子.青色 ( 黄色 ) 領
域は電子が増加 ( 減少 ) した領域.
表面のシミュレーションを可能にすることです。
電極反応のシミュレーションを行う為には必須の
技術ですが、今までは、金属表面に電圧を印加し
て ab initio 分子動力学シミュレーションを行う方
法は確立されていませんでした。その理由は、図
2 に示してあるように、反応が起こる固液界面で
は強烈な電場勾配が発生しているからです。この
電圧印加による電場勾配を計算に取り入れてシミ
ュレーションを行うことは困難でした。我々はこ
の状況を打破し、計算機シミュレーションにより
電極反応を直接再現することを目指しています。
現在、方法論の開発とプログラムへの組み込みを
終えて、実際の金属-水界面のシミュレーション
を行い、水素発生反応の機構解明を目指していま
す。
■夢を語る
現在の最先端技術による生活の利便性を世界中
の人々が享受しようとすると、必ずエネルギー・
食糧問題をクリヤーしなければいけません。私は
その中でもエネルギー問題に注目し、将来的には
燃料電池・太陽光発電などの代替エネルギー源開
発に役立つ研究がしたいと思っています。
図 2.電圧印加表面の概念図
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 113
池庄司民夫チーム
実問題に挑戦するナノシミュレーション
岡本 穏治 Yasuharu OKAMOTO
NEC 基礎・環境研究所 主任研究員
E-mail:[email protected]
CREST プロジェクトに参加して
■プロフィール
1991 年東京大学理学部化学教室卒業
1993 年東京大学理学研究系化学専攻(修士)卒業
1993 年NEC(株)入社 基礎研究所(現 基礎・
環境研究所)に配属。 現在に至る。
子供の頃
小学生の頃は、いわゆる優等生タイプで毎年学
級委員と児童会役員を務めていた。しかし、みん
なの面倒を見るのが煩わしくなり、徐々に個人主
義的傾向を強める。中学生以降は受験秀才タイプ
に遷移。「理科」よりも「社会」が得意であったが、
高校生のころ、人間の作った法律について学ぶよ
りも、自然の法則について学ぶ方がより本質的な
学問ではないかという感覚を持ち、理系に進む。
研究の道を選んだきっかけ
毎日学生実験はあるが、午後4:50に実験室
を技官によって追い出されるという優れたタイム
マネジメントが気に入り、化学教室に進む。大学
卒業時に第1種国家公務員試験に合格したが、受
験区分が「化学」では3流官庁(税○、特○庁、
分○研など)しか声がかからず、とりあえず大学
院へ進学することに。化学専攻でありながら唯一、
理論系であった宇宙科学研究所の「宇宙空間原子
分子物理研究室」を選ぶ。卒業研究を指導してい
ただいた先生(助手)に「キミは学生実験では目
立たなかったが、理論研究には向いている」と褒
114 ︱
められた(?)。その言葉を信じて、研究の道を選ぶ。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
当該分野の第一線で活躍されている研究者の
方々と密接な議論をしながら未知の領域の研究を
進められるのが最大のメリット。 近年、民間企
業では人員・資金の面で基礎的・長期的な研究に
対するリスク許容度は低下しているので、CREST
プロジェクトのような研究助成は有用だと思う。
また、企業研究者にとって CREST は基礎的・長
期的な研究を遂行するためのシールド的役割も果
たしている。一方、企業における研究計画の面で
は CREST によって研究テーマを固定化されて研
究領域に対する再構築の柔軟性を失う恐れもある
ので、応募にあたり会社内での事前審査が厳しく
なる傾向も感じられる。
■研究成果
研究歴の紹介
これまで、第一原理バンド計算法および非経験
的分子軌道法を用いた物質の電子状態シミュレー
ションを行ってきた。扱う対象は分子・半導体・
金属など多岐にわたるが、大学院在籍中にオゾ
ンの弾性散乱の微分断面積を初めて計算して(Y.
Okamoto et al.. Chem. Phys. Lett. 203 (1993) 61.)、
これが評価されたことから環境関連物質の電子状
態計算に特に興味を持っている。ここ数年は燃料
電池の電極触媒反応シミュレーションに注力して
いる。
数年前に日本においてダイオキシンが社会問題
として注目されていた時に、農薬(2,4,5 -トリク
ロロフェノール)からダイオキシンへの生成経路
池庄司民夫チーム
を非経験的分子軌道法によって提示した。
右図、ダイオキシンが生成される直前の遷移状態構造
Y. Okamoto et al.. J. Phys. Chem. A 103 (1999)
7686.
CREST での研究成果
池庄司チームでは『電極2相界面のナノ領域シ
ミュレーション』というタイトルで固体高分子型
燃料電池の化学反応について総合的な研究をして
います。このプロジェクトの中で、私は燃料電池
の電極触媒反応のシミュレーションを産総研、東
大物性研、阪大産研の方々と共同で行っています。
水素燃料電池の負極では燃料である水素分子が触
媒(白金)表面で分解する Tafel 過程と表面吸着
水素原子が水素イオンとなる Volmer 過程の2つ
の反応からなりますが、下記は後者の素過程をシ
ミュレーションで調べています。
また、このような基礎化学的シミュレーション
だけでなく、白金クラスタが触媒活性を保持しな
がら、どこまで微粒子化出来るかなど、もう少し
実用に目を向けた計算も行っています。現時点の
計算では粒径 1.5 nm(147 原子)程度まで小さく
することが可能ではないかと考えています(Chem.
Phys. Lett. 429 (2006) 209.)。理論計算によるこの
限界サイズの予測は最近の実験と整合的なようで
す。
■夢を語る
物性を理解するためのツールとして第一原理にも
とづいた電子状態シミュレーションは化学・物理の
分野において数十年の歴史を持つ。このシミュレー
ション手法は膨大な計算機資源を必要とするため
に、これまで社会や産業界の実問題に対して十分な
解決策を提示してきたとは言えない。しかし、この
事情は新たな計算手法の開発と高速な並列計算機の
普及により、近年改善しつつある。複雑かつ大規模
な実問題に挑戦し、シミュレーションをナノテク研
究の羅針盤として使い、研究を効果的・効率的な方
向へと導いていきたい。
自動車産業においては20年ほど前から衝突実験
の代用や空力設計などの用途に計算機シミュレーシ
ョンの導入が進んだ。そして現在、企業のコスト削
減や開発期間短縮のためシミュレーションは不可欠
の存在となっている。今の『地球シミュレータ』や
次世代機の『京速計算機』の登場により、計算コス
トは今後もどんどん低下すると期待できるので、ナ
ノ材料開発の分野においても、シミュレーションに
よって新規な機能を持つ材料を予言し、社会や産業
界にインパクトを与えるような研究を行いたい。
(1)燃料の水素分子が白金表面で解離吸着することで出来た水素原子が水分子と反応する直前
(2)H5O2+ イオンを形成して表面吸着水素が溶媒側へと引き抜かれるところ。
(3)と(4)プロトンリレー機構によってヒドロニウムイオンが移動する様子。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 115
池庄司民夫チーム
コレクターとリサーチャーの境界
前田 一行 Kazuyuki Okazaki-MAEDA
産業技術総合研究所ユビキタスエネルギー研究部門
ナノ材料科学研究グループ CREST 研究員
E-mail: [email protected]
■プロフィール
1993 年 3 月 大阪府立大学総合科学部総合科学科
物質科学コース卒業
1993 年4月 大阪府立大学大学院総合科学研究科
修士課程物質科学専攻 入学
1995 年3月 同上 修了
1995 年4月 大阪府立大学大学院理学系研究科博
士後期課程物質科学専攻 入学
2000 年3月 同 上 修 了 同 じ 学 校 に 1 1 年 も
ユビキタスエネルギー研究部門ナノ材料科
学研究グループ
通ってしまいました。
博士(理学)
2000 年 4 月 工業技術院大阪工業技術研究所(当
時)重点研究支援協力員
2005 年 1 月 産業技術総合研究所ユビキタスエネ
ルギー研究部門ナノ材料科学研究グ
ループ CREST 研究員
子供の頃
研究の道を選んだきっかけ
子供の頃から、何か新しいことを知ると言う行
為に興味がありました。自分が知らなかったりわ
からなかったりしたことが、理解できたときの喜
びを今でも覚えています。高校・大学と進学する
につれて、自分が知らないことではなく、誰も知
らないことを、そして自分しかできないことを仕
事にできないかと思い始めました。そのとき目の
子供の頃は、パズルやプラモデルが好きでした
(今も好きですが)。スポーツはあまり得意ではな
く、ただ水泳だけは得意でした。幼稚園にはいる
までは体が弱かったせいか、外で遊ぶより家の中
で遊んでいることが多かったように記憶していま
す。今もその趣味を引きずっていて、家にはレゴ
が飾ってあります。研究室の机周りには、ガンダ
ムのプラモや食玩がディスプレイされています。
何か一つのものに集中することが、この道に進む
下地になっているのかも・・・
自宅 レゴコレクション
116 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
池庄司民夫チーム
前にあった面白いと思えるものが物理で、この分
野に携わる仕事をしようと思い始めたのがきっか
けだと思います。
CREST プロジェクトに参加して
CREST プロジェクトに参加するまでは、同じ研
究室内、あるいは同じ研究所内のような限られた
範囲でのディスカッションがメインでした。しか
し、CREST プロジェクトではチーム内においても
多くの研究グループの方々とディスカッションす
る機会に恵まれました。その反面、多くの研究機関・
研究者が参加しているので有効な協力をしていく
ことに難しさを感じたこともありました。しかし、
どちらの経験も、今後も研究を続けていくにあた
って、非常によい経験ができたと思っています。
■研究成果
扱った。その結果、ストイキオメトリが乱れた表
面には金原子層が強く吸着すること、Ti-rich 表面
ではチタン原子から金原子へ、O-rich 表面では金
原子から酸素原子への電子移動か見られ、Au-Ti
や Au-O の軌道混成など、吸着金原子の電子状態
の変化も顕著であることが判明した (図1)。この
ことから、Au/TiO2 系触媒においては、ストイキ
オメトリが乱れた界面が形成され、そのことによ
る金の電子状態変化が触媒活性と密接に関連する
と考えられる [Phys. Rev. B 69 (2004) 235404, Appl.
Catal. A 291 (2005) 45.]。
さらに、低被覆率における金原子と TiO2(110) 表
面間の相互作用を調べたところ、やはりストイキ
オメトリの乱れが重要な役割をしており、金微粒
子はその成長初期段階において欠陥サイトと相互
作用していることがわかった [Mater. Trans. (2006)
印刷中 ]。Ti-rich 界面については、最近欧州のグ
ループが同様の理論計算を試みているが、実触媒
に近い O-rich 界面の効果を解明したのは初めてで
ある。また、Au だけでなく、Ag や Pt が吸着し
ている場合も計算し、比較した [J. Mater. Sci. 40
(2005) 3075, Mater. Trans (2006) 印刷中 ]。
研究歴の紹介
CREST 研究員になるまでは、同じ JST の重点
研究支援協力員として現在と同じグループに在籍
していた。密度汎関数理論に基づく第一原理分子
動力学法を用いて、Au/TiO2 系ナノ触媒の原子構
造と電子状態の研究を行った。これは、電子顕微
鏡グループ、表面科学グループ、触媒作製グルー
プと連携して、金触媒のメカニズムの解明を目指
す研究である。これまでの実験観察から、金粒子
と酸化物の界面の相互作用が重要であると考えら
れており、TiO2 表面のストイキオメトリや欠陥が
金原子層の吸着状態や電子状態に影響する可能性
が ある。そこで、ストイキオメトリックな表面
とストイキオメトリの乱れた表面(Ti-rich 表面と
O-rich 表面)の各々に金原子層が積層した構造を
CREST での研究成果
固体高分子形燃料電池の電極触媒には、炭素材
料上に担持された Pt あるいは、Pt 合金の微粒子
が用いられており、現段階ではこれらの微粒子が
低温での水素の酸化反応や還元反応の両方に対す
る優れた触媒であるとされている [1]。電極触媒の
特性や反応メカニズムを理解する第一段階として、
Pt や Pt 合金微粒子とグラフェンとの相互作用を
調べることは有用である。そこで、我々は Pt 単原
子や Pt(111) 単層膜、Pt クラスターとグラフェン
の相互作用を、密度汎関数理論に基づいた第一原
理分子動力学法を用いて調べた。
Pt(111) 単層膜がグラフェンに蒸着されている場
図1 TiO2(110) の各表面状態での、電荷移動の様子。赤は電子が増えて
いる、青は電子が減っている領域を表す。
●
2 0 0 6 . Vo l . 4 ︱ 117
池庄司民夫チーム
合、グラフェン -Pt(111) 単層膜間の距離は 3.48Å、
相互作用エネルギーは 0.091eV/atom である。また、
状態密度を調べたところ、Pt(111)/ グラフェン系
の状態密度は、Pt(111) 単層膜とグラフェンの状態
密度の和にほとんど等しい。これらのことから、
Pt(111) 単層膜とグラフェンはほとんど相互作用し
ないと言える。次に、Pt 単原子がグラフェンに吸
着している場合、Pt-C 間距離は 2.31Å であり、吸
着エネルギーは 2.82eV であった。さらに、状態密
度ではフェルミ準位以下にグラフェンと Pt 原子の
軌道が混成してできる状態を確認することができ
た。このことが、Pt 単原子とグラフェンの相互作
用を大きくしている原因である。さらに、Pt10 ク
ラスターがグラフェン上に吸着している場合、最
隣接の Pt-C 間距離は 3.02Å であり、その吸着エネ
ルギーはクラスターあたり 1.33eV であった。この
吸着エネルギーはグラフェンに接している原子あ
たりでは、0.19eV である。これは、クラスターと
グラフェンの相互作用は、単原子の場合と単層膜
の場合の中間にあることを表している。価電子密
度分布を調べると、クラスターとグラフェンの間
の電荷移動はほとんど見られない [Mat. Res. Soc.
Proc. 900E, 0900-O06-35]。Pt クラスター / グラフ
ェン系へ水素原子が吸着するときの吸着サイトを
調べたところ、Pt(111) 表面で安定である3配位の
図2 Pt10/ グラフェン系への水素原子の吸
着エネルギー面。青は吸着しやすい、
赤は吸着しにくい領域を表す。
図3 Au10/ グラフェン ( 左 ) と Pt10/ グラ
フェン ( 右 ) の安定構造
118 ︱
●
2 0 0 6 . Vo l . 4
hollow サイトではなく、クラスターのエッジに安
定に吸着することがわかった (図2)。また、グラ
フェン上での安定性や水素原子との相互作用を金
クラスターの場合と比較した (図3)。グラフェン
との相互作用は、金クラスターの方が白金クラス
ターの場合よりも弱く、水素原子も Au10/ グラフ
ェン系は Pt10/ グラフェン系と比べて、相互作用が
弱いことがわかった。[Gold Bull. 投稿中 ]。
■夢を語る
これまで私は、触媒材料をターゲットに、第一
原理計算を用いてそのメカニズムを解明すること
を目的とした研究をしてきました。この研究にお
いて、電子顕微鏡や STM 観察のような実験的な
観察と綿密に連携することの重要性を学びました。
今後も、実験的研究と協力することによって、基
礎的な理解を深められるような研究を行っていき
たい。特に、これまで取り組んできた触媒材料に
は未だに解明されていないメカニズムが多いので、
理解を深められるような研究を行っていきたい。
しかし、最終的にはこの道を志したときの思いを
実現するために、世界中で誰も知らないことを何
か一つでも最初に発見するような研究を行いたい
と思っています。
ナノテクノロジー分野別バーチャルラボ
「エネルギーの高度利用に向けたナノ構造材料・システムの創製」領域
ニュースレター 第 4 号
平成 18 年 11 月 26 日発行
禁 無断転載
< 発 行 所 > 科 学 技 術 振 興 機 構(JST) 戦 略 的 創 造 研 究 推 進 事 業(CREST)
「 エネルギーの高度 利用に向けたナノ構造 材料・システムの 創製 」 領 域 研究事務所
研究総括 藤嶋 昭
〒 103-0027 東京都中央区日本橋 3-4-15 八重洲通りビル 3F
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