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(労働市場の構造変化と税制改革への含意) (PDF形式:525KB)
平 2 6 . 5 . 9 総 7 - 1 税 制 調 査 会 資 料 〔労働市場の構造変化と税制改革への含意〕 平成 26 年5月9日(金) 日本総合研究所 調査部 山田 久 <雇用システムの把握に求められる複眼性> 雇用とは、企業からみれば「事業の派生需要」であり、個人からみれば「生活の糧」。 →雇用システムの構造は産業・経済の構造と生活保障の在り方の両面によって規定される。 このため、雇用システムを機能させるには「効率と公平の両立」「競争と保障の両立」が求 められる。 <日本型雇用システムの特徴と現状認識> 「正社員=高度に整備された職能システム(就社型システム)/非正規労働者=未整備な職 務システム」の二重構造が日本型雇用システムの特徴。それが時代環境の変化に対応できな くなってきたことで様々な問題が発生し、その見直しに向けた試行錯誤が行われている。 (図表1)日本型雇用システムの二重構造 【正社員=高度に整備された職能シ ステム(就社型システム)】 【非正規労働者=未整備な職務システム】 ○男性・現役世代 ○女性パート・高齢者再雇用者・若者アルバ イト ○長期継続雇用(無期雇用) ○有期雇用 ○年功・能力賃金(昇進・昇給あり) ○職務・能率給(昇進・昇給なし) ○仕事内容・労働時間・勤務地が選 べない ○仕事内容・労働時間・勤務地が決められる 「男性は仕事・女性は家事」を基本とした家族モデルを想定 1 <80年代まで(機能していたメカニズム)> 【産業・経済システム】 輸出型製造業(機械製造業)がリーディング産業→パターンセッター方式の春闘を通じ た賃金底上げ→賃上げ・規制によるサービス価格引き上げで非製造業は利潤を確保 ↓↑ 長期継続雇用・年功賃金を特徴とする職能型正社員(無限定正社員<仕事・勤務地・労働 時間が選べない>)を中核に位置づける雇用システムが産業・経済システムと相互補完的。 【生活保障システム】 家族モデルでは夫片働きモデルが標準/人口動態では人口増・相対的に低い高齢比率 ↓↑ 長期継続雇用・年功賃金の職能型正社員により世帯主(現役男性)の生活を安定させ、非 世帯主(女性・高齢者)は非正規として雇用し、世帯主雇用安定化のための調整弁と位置づ け。職能型正社員の長時間労働が雇用調整のバッファーになっていた面も(夫片働き家族モ デルゆえに可能に)。 (1980年=100) (図表2)機械製造業GDPの推移 240 8 220 6 200 4 180 2 160 (図表3)サービスCPIと賃金の推移 名目賃金 公共サービスCPI 一般サービスCPI 0 GDP(産業計) 140 (%) ▲2 機械製造業GDP 120 ▲4 100 80 85 90 95 00 05 10 12 (年) (資料)内閣府「国民経済計算年報」 (注)1993年以前は旧統計ベース。伸び率により現行統計に接続。 ▲6 80 85 90 95 00 05 10 13 (資料)総務省「消費者物価統計」、厚生労働省「毎月勤労統計調査」 2 <90年代以降の変化(機能しなくなったメカニズム)> 【産業・経済システム】 輸出型製造業の競争力の相対的低下→春闘の機能不全化による賃金低迷・内外価格差是正 のための公共料金抑制→サービス価格引き下げで非製造業の利潤が圧縮 ↓ 職能型正社員の雇用を維持するために、非正規雇用比率を引き上げることによるコスト削 減で対応⇒事業再編・事業革新の遅れ→生産性低迷 ↓↑ 賃金低迷 (図表5)名目GDP、雇用者報酬、経常利益の推移 (図表4)平均賃金の変動要因分解 (%) 3 2 100 パート賃金 パート比率 一般労働者賃金 賃金総額 (1997年度=100) (1997年度=100) 240 98 220 96 200 1 94 0 92 GDP ▲1 90 雇用者報酬 160 ▲2 88 経常利益(右) 140 ▲3 86 ▲4 84 100 82 80 80 60 ▲5 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 (年) (資料)厚生労働省「毎月勤労統計調査」 (注)雇用形態別の暦年確報の伸び率から各年の数字を算定して分析。 誤差等のため、各変動要因の合計と賃金総額伸び率は必ずしも一致し ない。 180 120 90 95 00 05 10 (資料)内閣府「国民経済計算」、財務省「法人企業統計」 12 (年度) 3 【生活保障システム】 家族モデルでは共働き世帯・単身世帯が増加/人口動態的には人口減・高齢比率の上昇 ↓↑ 非正規比率の上昇に伴って若年非正規・世帯主非正規が増加。 職能型正社員の長時間労働が女性の能力発揮の障害に→「偏向的男女共働き化」。 職能型正社員の雇用維持のためにシニア雇用の一律低賃金化→シニア人材を活かせず (図表6)女性労働の質的変化 (図表7)週当たり労働時間別従業者割合(2007) 4 <今後の(あるべき)方向性> 【産業・経済システム】 製造業での「海外生産・利益還流・国内開発」モデルへの転換による高収益化→賃金上昇・ 物価上昇による国内市場の拡大→国内では製造業・非製造業融合による環境保全産業・高齢化 対応産業の創出。 ↓↑ [雇用面での課題] ホワイトカラー・ブルーカラーの減少とプロフェッショナル人材・サービス人材への二極化 (所得格差の拡大)、事業構造転換に必要な労働移動の活発化 (図表9)職種別就業者数の変化 (図表8)「海外生産・利益還流・国内開発」モデル [海外市場] [海外拠点] [国内拠点] [国内市場] 対外直接 投資 (ノウハウ移転) ノウハウの 開発・蓄積 高齢化・ 環境保全 の拡大 20 需要増 生産工程従事者 ▲ 60 サービス職業 ロイヤリティー 直接投資 収益 ▲ 40 事務従事者 収益増加 ▲ 20 専門的・ 技術的 賃金増加 投資増加 0 管理的職業 新規事業創造 研究開発投資 ≪2009年→2013年の増減≫ 40 就業者数 ニーズの 高まり (万人) 60 高齢化関連事業 環境関連事業 海外売上 80 (資料)総務省「労働力調査」 5 【生活保障システム】 「対等的男女共働き化」、勤労期間長期化(生涯現役化)の要請 ↓↑ [雇用面での課題] 長時間労働の是正、年功賃金の是正(同一労働同一賃金化) (図表10)人口構成の変化 (図表11)製造業男性労働者の賃金カーブの国際比較(2002年) 70--74 65--69 60--64 55--59 50--54 45--49 40--44 35--39 30--34 25--29 20--24 15--19 (30~39歳=100) 2035 2011 1980 140 130 120 110 100 90 80 70 60 日本 イギリス ドイツ ~29歳 0 200 400 600 800 1000 1200 (万人) (資料)総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計 (%) 【年齢別シェア】 60人口』(平成24年1月推計)[出生中位(死亡中位)]推計値 1980 50 40 30 20 10 0 under40 2011 2035 over50 (資料)総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計 人口』(平成24年1月推計)[出生中位(死亡中位)]推計値 30~39 40~49 50~59 60~ (資料)労働政策研究・研究機構「データブック国際労働比較」 (図表12)賃金の男女格差の国際比較 OECD平均 米国 英国 スウェーデン スペイン 日本 イタリア ドイツ フランス 0 5 10 15 20 25 30 (資料)OECD”Employment Outlook 2013” (注)(男性賃金―女性賃金)/男性賃金 6 <雇用システム変化の方向性[雇用面での課題への対応策]> 環境変化からすれば欧米型の職務型システム(「就職」型システム)への転換が合理的。 しかし、日本型の職能型システム(「就社」型システム)が産業競争力の源泉になっている 面も。したがって、職務型と職能型のミックスが目指されるべきで、その条件として異なる 就業形態間を行き来できる仕組み(前提としての同一労働同一賃金化・処遇均衡化)が必要。 職務型スキル労働者(職務型正社員、専門派遣労働者、インディペンデントコントラク ター)の創出が戦略的に重要。副業化(マルチジョブホルダー)の認知・是認の必要。 (図表13)人材ポートフォリオと働き方ポートフォリオのイメージ 職能タイプ 職務タイプ 大 学 卒 業 高 (職能型)正社員 キ 正社員 年収 結 婚 子 供 独 立 職務型正社員 子育て ← 能力 タイプ → 職業特殊 20 30 ) 企業特殊 ) 低 非正社員 アルバイト 40 セ ミ リ タ イ ア 職 務 職型 務正 給社 員 ) パートタイマー 派 遣 社 員 ) (新入社員) 派遣労働者 職 職務 務型 給正 社 員 ( 契約社員 ) ↓ 職職 能能 給型 正 社 員 ( ル 職 能 型 職 能正 給社 員 職 能 役型 割正 給社 員 準 備 ・ 副 業 定 年 ラ ン テ ィ ア 活 動 セ ミ リ タ イ ア ・ ボ ( ( 専門職派遣労働者 ( ↑ ス 職務型スキル インディペデント 労働者 コントラクター 子 供 成 長 育 児 休 業 50 契 約 社 員 60 年齢 7 <税制改革への含意> ◇総論としては、社会保障・税制一体で、「就労促進的」かつ「労働移動・就業形態中立的」かつ「 家族モデル中立的」な制度を構築する必要。 ◇税制としては人的・経費的所得控除を縮小し、社会保障給付との整合性をとりながら機能を明 確にした所得控除・税額控除として再構築するのが基本的方向性。 • 女性・シニアの能力発揮⇒就労促進型の税制…年金税制の在り方(現役世代との最低保証額 の公平性)、配偶者控除の在り方(子育て支援的な給付・税制支援の拡充とセットで縮小・廃止の 方向。ただし、保育インフラ整備・男女賃金格差是正が条件) • 就業形態間の移動・副業化⇒所得捕捉の一元化…マイナンバー制 • 雇用の流動性⇒労働移動を阻害しない税制…退職金税制、個人型確定拠出年金の税制支援 • 労働の二極化⇒所得再配分機能の強化…給付つき税額控除、所得控除制度見直し • 勤労期間長期化⇒人的投資促進型の税制…自己啓発減税 • 賃金カーブフラット化⇒基礎的生活コスト低減の税制…中古住宅整備のインセンティブ(住宅ロ ーン減税の見直し) 8