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依然水面下のインフレ期待
NLI Research Institute <トピックス2> 「依然水面下のインフレ期待」 研究員 矢嶋 康次(やじま やすひで) E-mail:[email protected] Tel:(03)3597-8047 実質金利と名目金利の間には、実質金利=名目金利−予想物価上昇率という関係が存在している。 名目金利が同じ状態であっても、予想物価上昇率がプラスの状況で実質金利が十分低い場合と、 逆に予想物価上昇率が低く実質金利が高い場合では、経済への影響はまったく異なることになり、 経済状況を判断する上ではこの予想物価上昇率を把握することが重要となる。 ここで物価上昇率ならば消費者物価や国内卸売物価など多くの物価統計から観測可能である。し かし名目と実質を結ぶのは「予想物価上昇率」であり人々のその時の期待である。 ここで、この観測できない「インフレ期待」を各種サーベイ統計から導き、現在の期待インフレ の動向をみてみたい。 ●中期の期待インフレ率 まず3年程度の中期の期待インフレの動向を見てみよう。ここでは名目金利を3年国債金利(ス ポットレート) 、実質金利を経済企画庁「企業行動アンケート調査」で示されている企業の今後 3 年間の実質期待成長率(実質金利の代用)を用い、その差を中期期待インフレ率として計算した (図1) 。 実質期待成長率はバブ (%) ル崩壊後低下している が、それ以上に名目金 図1.中期期待インフレ率 10.0 8.0 利の低下が著しいこと が分かる。このため両 者の差である期待イン 中期期待インフレ率 長期金利 実質経済成長見通し 6.0 4.0 フレ率は 91 年をピー 2.0 クに大きく低下し、95 年以降はマイナスに転 じている。足元でも依 然マイナスが続いてお り中期のインフレ期待 0.0 -2.0 85/01 87/01 89/01 91/01 93/01 95/01 97/01 99/01 (注)中期期待インフレ率=3年物国債金利スポットレート-今後3年間の実質経済成長率 実質経済成長率は調査月が1月でその他の月は線形補完を行う (資料)経済企画庁「企業行動アンケート」他 を見る限りでは依然デ フレ圧力が強い。 Mon thly Report 2000年7月号 Report 2000年7月号 10 ニッセイ基礎研究所 ニッセイ基礎研究所 NLI Research Institute ●短期の期待インフレ率 では短期のインフレ期待は高まっ ているのだろうか? ここでは、経済企画庁「消費動向 調査」の家計の半年後の物価予想 i (物価の上がり方%) 15.0 CPI 消費者態度指数 3.0% 20.0 2.5% 25.0 を指数化 したものをインフレ期 2.0% 待とした。つまり指数化を行うこ 1.5% とでこの指数が小さくなれば物価 図2.期待インフレ率とCPIの動き (前年比) 3.5% 30.0 35.0 1.0% 40.0 0.5% 上昇を見込む家計の割合が高くな 45.0 0.0% 1985 ることを表わしインフレ期待が高 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 50.0 -0.5% まっていると解釈した。 -1.0% 55.0 この指数によれば、期待インフレ (資料)経済企画庁「消費動向調査」、総務庁「消費者物価指数」 率は 97 年4月の消費税前に大き く上昇し、消費税導入後は大きく下落し足元でも下げ止まりの判断はできない。 また質問項目の構成比を見ると物価上昇(質問項目の「やや高くなる」、 「高くなる」)と回答する 家計の割合が大きく低下傾向 にあり、当面インフレ期待が高 図3.物価上昇を見込む割合は増加していない 100 90 まる局面にはないと判断可能 80 である。 低くなる 70 やや低くなる 60 変わらない ●インフレ期待は醸成されて 50 いない 40 ここでは中期・短期のインフレ 30 期待をサーベイデータでみて やや高くなる 高くなる 20 10 みたが、いずれもインフレ期待 が急速に高まる状況ではなく、 0 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 (資料)経済企画庁「消費動向調査」 逆にデフレ的圧力が依然強い ということが示されている。 市場では、国内卸売物価指数が前年比でプラスとなっていることから、ゼロ金利早期解除への思 惑が高まっている。日銀が示す「デフレ懸念払拭が展望できる状況」が近いとの判断であろう。 しかしインフレ期待で判断する限りにおいてはいまだ抑制的な金融政策に転じる地合にはない。 i 調査項目の中の「物価の上がり方」が今後半年(1991 年第1Q 以前は1年間)に現在よりも物価が高くなるか という質問に対して、 「低くなる」 「やや低くなる」 「変わらない」 「やや高くなる」 「高くなる」の5項目に対して、 1、0.75、0.5、0.25、0を乗じて算出したもの Mon thly Report 2000年7月号 Report 2000年7月号 11 ニッセイ基礎研究所 ニッセイ基礎研究所