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熱を帯びる不動産投資市場の行方

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熱を帯びる不動産投資市場の行方
REPORT
II
熱を帯びる不動産投資市場の行方
− 不動産市況アンケート結果より −
松村 徹/岡 正規
[email protected]/[email protected]
1.上昇局面を迎えた東京のオフィス賃料
はより力強い回復を示していると推測される。
このような賃貸オフィス市場の変化は、最近の
東京都心5区の賃貸オフィス市場では、2003
完全失業率低下にみられるように、多くの企業
年6、8月に8.6%のピークをつけた空室率が
がリストラによる収益回復から新たな成長局面
4%台前半の水準にまで低下した。このような
に移行し、それに伴いオフィス需要も着実に増
需給関係を反映して、新規に契約されるオフィ
加していることが背景にあるものと考えられる。
ス賃料も、2004年10月にようやく底打ちし、そ
ニッセイ基礎研究所が、2005年10月に不動産
の後はゆるやかな上昇に転じている(図表−
投資に携わる実務家・専門家に対して行った市
1)
。
況アンケートでも、賃貸オフィス市場の先行き
図表−1
東京ビジネス地区のオフィス空室率
と賃料の推移
空室率(%)
賃料(円/月坪)
9
21,000
を楽観する傾向が昨年同時期に実施したアンケ
ート(注1)より強まっている。東京の賃貸オフィ
ス市場について1年後の見通しを聞いたとこ
ろ、昨年では「現状維持(横ばい)
」が30.8%で
8
20,000
7
6
19,000
最も多かったが、今回は「空室率は低下、立
地・規模・設備に優れるビルでは新規賃料が上昇
5
する。ただし、既存テナントの賃料引上げは一
4
18,000
部にとどまる」というやや楽観的な見方が
3
平均空室率(左目盛)
2
平均賃料(右目盛)
17,000
05.8
05.6
05.4
05.2
04.12
04.8
04.6
04.10
04.4
04.2
03.12
03.8
03.6
03.10
03.4
03.2
02.12
02.8
02.6
02.10
02.4
02.2
01.12
01.8
01.6
01.10
01.4
01.2
0
00.12
1
16,000
62.5%と圧倒的に多く、現状維持や悲観的な見
方はほとんどなくなった(図表−2)
。
なお、このアンケートは、不動産・建設、金
(資料) 三鬼商事
融・保険、仲介、不動産管理、不動産ファンド、
2003年前後に、大型ビルで多くみられたフリ
格付、投資顧問・コンサルタントなどに携わる
ーレント(一定期間の賃料無料設定)契約は、
132名を対象に、2005年10月11日∼25日に電子メ
現在ではほとんど適用例がなくなったといわれ
ールで実施したもので、80件の回答を得た(回
ており、実質支払い金額ベースでみた賃料水準
収率60.6%)
。
1
ニッセイ基礎研 REPORT 2005.12
図表−2 東京の賃貸オフィス市場の見通し(今後1年)
70%
62.5%
60%
50%
前回調査
今回調査
40%
27.5% 29.5%
30%
30.8%
26.9%
20%
9.0%
10%
0%
5.0%
3.8%
0.0%
超楽観
0.0%
楽観
やや楽観
現状維持
やや悲観
1.3%
0.0%
悲観
1.3%
1.3%1.3%
0.0%
超悲観
その他
(設問)
空室率は低下、多くのビルで新規賃料上昇、既存テナント賃料引上げも上昇
超楽観
空室率は低下、優良なビルは新規賃料上昇、既存テナント賃料の引上げも増加
楽観
空室率は低下、優良なビルは新規賃料が上昇するが、既存テナントの賃料上昇は一部
やや楽観
空室率は横ばい、優良なビルでみられた新規賃料上昇も頭打ち
現状維持
空室率は上昇、優良なビルでも新規賃料は弱含み
やや悲観
空室率は上昇、優良なビルでも新規賃料は低下
悲観
空室率は上昇、多くのビルで新規賃料は低下
超悲観
その他
その他
(注)足元の市況変化を反映したため、昨年調査(2004年10月)とは設問の具体的な内容が異なっている。
(資料) ニッセイ基礎研究所「不動産市況に関するアンケート」2005年10月
2.不動産取引価格の現状
低金利・カネ余りを背景に、内外の投資資金
昨年調査では、
「理解を超える価格での取引が
増加(59.7%)
」と、次点の「高値だが適正な範
囲(24.7%)
」に大きな差をつけていたことから、
が有利な運用対象として不動産投資市場に流入
この1年で取引の過熱に対する警戒感が薄れた
し続けており、不動産利回りは低下、不動産価
ように思われる。
「理解を超える価格での取引
格は上昇傾向にある(図表−3)
。
が非常に多い」
、すなわち現在すでにバブル状
特に、最近行われる不動産の競争入札では、
物件を求める私募ファンドやJ-REIT(リート:
態にある、とする意見は7.5%にとどまり、昨年
(10.4%)同様少数派である(図表−4)
。
不動産投信)が殺到し、非常な高値落札が相次
今回、
「高値だが適正な範囲」とした回答者
いでいるとして、一部で「ファンドバブル」と
にその理由を聞いたところ、
「市場の透明性が
の指摘もある。
高まり、流動性リスクも低下している(=不動
そこで、このような不動産取引の現状につい
産のリスクプレミアム縮小=利回り低下=価格
て、市場関係者の認識を前述のアンケートで聞
上昇)
」という意見が63.2%と最も多かった。次
いたところ、
「高値だが適正な範囲」という意
いで、
「オフィス賃料が上昇局面に入った」が
見が46.3%と、
「理解を超える価格での取引が増
52.6%であるため、昨年あった賃貸市場と投資
加(45.0%)
」をわずかだが抑えて最も多かった。
市場の見通し間での温度差(注2)がなくなり、価
ニッセイ基礎研 REPORT 2005.12 2
図表−3
長・短期金利と不動産投資利回りの推移
(%)
8
7
①丸の内・大手町のAクラスビル期待利回り
6
5
4
イールドギャップ(①-②)
4.9%
3
3.3%
2
②10年国債利回り
1
05.4
04.10
04.4
03.10
03.4
02.10
02.4
01.10
01.4
01.1
00.7
99.4
98
97
96
95
94
93
92
91
90
0
公定歩合
(年)
(注)利回りは、1990∼1998年は年末値、1999年4月以降は月末値
(資料) 日本不動産研究所他資料を基にニッセイ基礎研究所が作成
図表−4
不動産取引における不動産価格の現状について
70%
59.7%
60%
50%
46.3%
45.0%
前回調査
今回調査
40%
30%
24.7%
20%
10.4%
10%
7.5%
1.3% 0.0%
0%
理解超える高値
理解超える高値が増加
高値だが適正範囲
(注)前回調査2004年10月
(資料) ニッセイ基礎研究所「不動産市況に関するアンケート」2005年10月
3
ニッセイ基礎研 REPORT 2005.12
価格上昇余地あり
3.9%
1.3%
その他
格上昇を是認する参加者が増加したとみること
は全く異なっている(図表−6)
。
ができる。
最近の投資は、収益不動産を対象に行われ、
また、不動産の「評価額が収益還元法で決ま
投資の仕組みも所有と経営が分離してリスク分
る(50.0%)
」ようになり、
「インカムゲイン重
散が進み、市場参加者の相互牽制も効くように
視(キャピタルゲインに過度に期待しない)
なっていることから、土地神話の下で行われた
(42.1%)
」
、
「
(リスクプレミアムを積んで)長期
野放図な土地投機が再現される可能性はほとん
国債より高い利回りで買っている(31.6%)
」
、
どないといえよう。少なくとも、最近の不動産
「投資可能な優良不動産は限られる(全国のあ
価格上昇を、すでに「バブル状態」にあると断
らゆる土地が買われているわけではなく、選別
じるのは早計過ぎると考える。
的な投資が行われている)
(31.6%)
」
、
「
(価格は
しかし、不動産の金融商品化が進んだことで、
上昇していても、低い資金コストを利用した)
長短金利動向や株式・債券市場との関係は以前
レバレッジ効果で、投資家は高い利回りが期待
に比べてはるかに強まり、市場の変動リスクが
できる(28.9%)
」ことから、合理的で適正な取
高まっているといえる。加えて、今回の価格上
引である、とみていることがわかる(図表−5)
。
昇もいずれ調整局面を迎えること、また、市場
確かに、現在の不動産投資の考え方や仕組み
の常として行き過ぎが生じる(オーバーシュー
はグローバル・スタンダード(国際標準)に急
トし、最悪の場合バブル状態になる)可能性が
接近したともいえ、また市場環境を形成する人
あることを再認識すべきである。
口・経済状況も、1980年代後半のバブル時期と
図表−5
価格が適正な範囲と考える理由
70%
63.2%
(複数回答)
60%
52.6%
50%
50.0%
42.1%
40%
31.6% 31.6%
30%
28.9%
26.3% 26.3%
21.1%
10.5%
5.3% 5.3%
2.6%
海外投資家が逃げ出していない
鑑定価格に近い価格で売買されている
レンダーのチェック機能を信頼
地価が上昇局面に入った
バブル崩壊の学習効果あり
その他
マネジメント力でキャッシュフロー改善する
投資家が納得している
買い手が多く、出口戦略が立てられる
レバレッジ効果で投資利回りは高い
投資可能な優良不動産が限られる
利回りが国債利回りより高い
インカムゲインを重視
収益還元法で価格評価
オフィス賃料が上昇局面に入った
市場の透明性高まり、流動性リスがク軽減
0%
0.0% 0.0% 0.0%
土地神話は崩壊したから
13.2%
10%
ファンド失敗や融資デフォルトがない
15.8%
信託銀行のチェック機能を信頼
20%
(注)前問で「高値であるが、適正な範囲の取引がほとんど」とした回答者数を分母にしている。
(資料) ニッセイ基礎研究所「不動産市況に関するアンケート」2005年10月
ニッセイ基礎研 REPORT 2005.12 4
図表−6 1980年代後半の土地バブルとの比較
バブル経済期
(1986∼1990年)
現在
(2000∼2004年)
東京圏一極集中
東京区部からは流出
東京再集中
都心回帰
1.6%
0.6%
出生率
1.54('90年)
1.29('04年)
高齢化率
12.1('90年)
19.5('04年)
4.8%('85∼'90年)
1.3%('99∼'04年)
人口移動
総人口増加率
人口・経済
実質GDP成長率
低金利・イールドギャップ
によるレバレッジ効果
土地神話
投資判断の与件
投資目的
国による
過大なオフィス需要予測
民間による
「2010年問題」の提起
成長・拡大傾向の
賃貸不動産・分譲市場
二極化する
賃貸不動産・分譲市場
値上がり益・含み益
節税効果
キャッシュフローの分配
自己勘定での直接投資
証券化やストラクチャード・
ファイナンスによる間接投資
投資形態
コーポレート・ローンによる借入 ノンリコース・ローンによる借入
資本回収期間
累損解消時期
IRR(内部収益率)
地価
キャップレート
イールドギャップ
主に土地
収益不動産
(多様なプロパティ型)
無差別
全国
選別的
主要都市・都心部
不動産評価
更地重視
取引事例法中心
収益還元法
デュー・デリジェンス実施
不動産管理
内生化静的・
受動的
アウトソーシング
機動的・能動的
出口戦略
なし
あり
投資リスク
集中
分散
投資リスクの認識
低い
高い
(市場・経営・環境・地盤・構造等)
投資判断基準
不動産投資
市場の投資指標
投資対象・地域
(資料) ニッセイ基礎研究所
3.不動産投資市場の展望
今後の金利や利回りの動向に注目していること
がうかがわれる(図表−7)
。
では、値上がり基調にある不動産投資市場が、
また、3位の「一部ファンドの破たんや利益
今後どのようなきっかけで調整局面を迎えるの
相反問題などによる投資家の信頼低下(50.0%)
」
だろうか。そこで、市場成長にブレーキをかけ
が注目される。不動産投資の主流となったファ
る要因をアンケートで聞いたところ、
「長期金
ンドも、その歴史はたかだか数年と短く、一部
利やノンリコース・ローン金利の上昇」が82.5%
の不祥事をきっかけに市場全体の信任が低下す
と最も多かった。次いで、
「イールドギャップ
ることが懸念されているようだ。アンケートの
の縮小」が63.8%となっており、市場参加者が
自由記述でも、プレイヤーの増加とともに説明
5
ニッセイ基礎研 REPORT 2005.12
図表−7
90%
不動産投資市場の成長にブレーキをかける要因
82.5%
(複数回答)
80%
70%
63.8%
60%
50.0%
50%
40%
32.5%
31.3% 31.3%
31.3%
26.3%
30%
23.8%
21.3% 21.3%
21.3%
20%
13.8%
7.5%
10%
2.5%
その他
専門家やマスコミの悲観見通し
優良不動産の枯渇
震災による市場の混乱
海外投資家の日本撤退
課税強化などの投資抑制政策
ノンリコースローン融資基準の厳格化
主務官庁による銀行貸出指導強化
景気の後退
賃貸オフィス市況の悪化
不動産価格の暴騰
J-REIT価格の下落・低迷
一部ファンド破たん等で投資家信頼低下
イールドギャップの大幅縮小
長期金利、ノンリコースローン金利の上昇
0%
(資料)ニッセイ基礎研究所「不動産市況に関するアンケート」2005年10月
のつかない荒っぽい取引が増えており、今後、
ト後に突然大きな調整が起きるハードランディ
投資家の信頼を損なうケースが出てくる可能性
ングとなるのかを、現時点で予想することは難
を指摘する意見があった。
しい。結局、投資家は今後の金利や賃貸市場、
4∼7位は、「J - R E I T 価格の下落・低迷
景気等の動向を注視していく必要がある。
(32.5%)
」
、
「不動産価格の暴騰(31.3%)
」
、
「賃
貸オフィス市況の悪化(31.3%)
」
、
「景気の後退
(31.3%)
」となっており、各市場や景気の変化
が注目されていることがわかる。
これに対して8∼10位は、
「主務官庁による
金融機関の貸出し指導強化(26.3%)
」
、
「ノンリ
(注1)「オフィス市況アンケートのまとめ−実務家・専門家が
みる今後のオフィス市場」ニッセイ基礎研究所(松
村・岡)2004年10月21日
(注2)昨年調査では、「市場関係者の多くは、一抹の不安を
感じながらも、今しばらくは強気で投資市場に参加し
ていかざるをえない感覚と思われる。慎重な賃貸市場
の見通しと比べて温度差があることがわかる。」と分
析した。
コースローン融資基準の厳格化(23.8%)
」
、
「開
発規制の強化や不動産課税の強化など投資抑制
政策(21.3%)
」と、政策の変化が挙げられてい
る。1990年3月に導入された不動産金融の総量
規制や1992年1月の地価税が、市場関係者の苦
い記憶として残っているからかもしれない。
そして、いずれ不動産投資市場が迎える調整
局面が、小刻みな調整が繰り返されるソフトラ
ンディングとなるのか、市場のオーバーシュー
ニッセイ基礎研 REPORT 2005.12 6
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