...

銀行業界におけるIT投資とCRM

by user

on
Category: Documents
13

views

Report

Comments

Transcript

銀行業界におけるIT投資とCRM
NLI Research Institute
<トピックス3>
銀行業界におけるIT投資とCRM
研究員:久保 達哉(くぼ たつや)
Email: [email protected] Tel: (03)3597-8494
1.銀行業界におけるIT投資
近年、日本企業におけるIT投資は、大きく拡大してきているが、中でも銀行業界におけるI
T投資は、銀行業界の再編の動きと絡めて、大きな注目を集めている。特に、邦銀が不良債権処
理に経営資源の多くを投入せざるを得なかった間に、海外の金融機関(特に米銀)とでIT投資
額で大きな差がついてしまい、商品・サービスの提供、リスク管理、経営管理などで格差がつい
てしまったと言われている。実際、2000 年におけるIT投資予想額で見ても、かなりの格差が存
在している。
IT投資予想額(2000 年)
5 .9
シ テ ィ ー ク ゙ル ー フ ゚
ハ ゙ン カ メ リ カ
3 .9
3 .2
ト ゙イ ツ 銀 行
UBS
2 .8
2 .6
チェース・マンハッタン
2 .4
ABM アムロ
2 .4
ク レ テ ゙ィ ・ ス イ ス
2 .2
HSBC
2 .0
ク レ テ ゙ィ ・ ア ク ゙リ コ ル
2 .0
ハ ゙ン ク ・ ワ ン
ウ ェ ル ス ゙・ フ ァ ー コ ゙
1 .9
ソ シ エ テ ・ シ ゙ェ ネ ラ ル
1 .6
1 .4
み ず ほ FG
1 .4
ト ゙レ ス ナ ー 銀 行
1 .1
コメルツ銀 行
0 .8
三井住友
0
1
2
3
4
5
6
7
( 1 0 億 ト ゙ル )
(出所)TowerGroup
日本と海外とのIT投資は、金額だけでなく質の面でも大きな格差があると指摘されている。
日本の金融機関では、ITは合理化・省力化投資との考えが長らく支配的であり、投資対象の多
くが勘定系システムやATMなどに費やされてきた。一方、海外ではIT技術を、一般的に言わ
れているデリバティブなどの金融商品開発に加え、金融市場や融資でのリスク判断や、経営資源
を適切に配分するツールとして積極活用しようとする動きが明確である。またバンカメリカ、チ
ェース・マンハッタン等の大手米銀では、収益の柱となっているリテール分野(クレジットカー
Mon thly Report 2000年7月号
Report 2000年7月号
12 ニッセイ基礎研究所
ニッセイ基礎研究所
NLI Research Institute
ド、消費者金融含む)への投資割合が高いという特徴がある。リテール分野のIT化は、単に支
店のバックオフィスを合理化するだけでなく、顧客を管理・分析し、データベースを駆使したマ
ーケティングを行うことで、収益拡大を目指しているのである。実際に、住宅ローンのマーケッ
トシェアの拡大に成功した例も存在している。
大手米銀におけるIT投資の内訳
バンカメリカ
中小企業向けバンキン
グ
3%
チェース・マンハッタン
その他
4%
資産運用/プライベー
トバンキング
3%
コーポレートファイナンス
4%
その他
11%
チェース・テクニカル・ソリュー
ションズ
22%
中小企業向け融資
4%
インベストメントバンキング
5%
資産運用・管理
16%
リテールバンキング
57%
消費者金融・モーゲー
ジ金融
7%
資本市場
19%
ホールセールバンキング
16%
リテールバンキング
11%
クレジットカード
18%
(出所)TowerGroup
日本の金融機関は、強い規制の下、商品・サービス等の差別化ができなかったこともあり、
「顧
客を知る」ことに熱心ではなかった。このため比較的自由に商品・サービスが提供できるように
なっても、どの顧客に、どの商品を提供すべきなのか把握できていない。こうした状況の中、日
本でも注目を集めてきているのがCRM(Customer Relationship Management)とそれをサポ
ートするIT技術である。
2.収益拡大をめざすIT技術とCRM
CRMとは、顧客の情報を収集・分析することにより、個々の顧客に合せた営業活動を可能に
し、さらに営業活動により得られた情報をも取り込むことで、顧客情報の管理・分析をより精度
の高いものにする一連の流れである。これにより、企業ニーズに流され易かった営業活動が、個々
の顧客ニーズに沿ったものにできるため、現在多くの業界で用いられている。銀行業界を例にす
れば、店頭、コールセンターなどの対顧客チャネルで収集された情報がデータベースとしてまと
められ、データベースの分析(データマイニング)により顧客ごとに、ローン・投資信託・カー
ド等の営業活動を行う。重要なのが、営業活動での結果は顧客情報としてフィードバックされ、
分析・営業活動がさらに精密化されることである。これが、CRMが Continuous(継続的な)
Relationship Management とも言われる所以である。当然ながらCRMを可能とするには、リア
ルタイムでの情報収集から、分析、さらに店頭、コールセンターといった現場での営業支援まで、
Mon thly Report 2000年7月号
Report 2000年7月号
13 ニッセイ基礎研究所
ニッセイ基礎研究所
NLI Research Institute
一連のシステムが必要であり、IT技術が不可欠となってくる。
CRMの概要
顧客情報の収集
結果の測定・評価
分析に基づく営業の実行
(出所)ニッセイ基礎研究所
3.CRMによる収益拡大効果(スルガ銀行のケース)
日本の銀行業界ではこれまで、CRMによる営業活動は行われてこなかったが、最近になり一
部の銀行で導入されるようになった。例えば、IT投資で先行するスルガ銀行では、顧客データ
ベースを核に、様々なシステムを融合させ、それぞれのシステムからの顧客情報をデータベース
で一元的に管理・分析し、顧客情報はそれぞれの顧客に応じた営業活動に役立てている。また、
これによって実際に収益拡大を実現させている。
スルガ銀行では顧客データを管理・分析するにあたって、顧客を4つのカテゴリーに分けてい
る。まず重要顧客層(全体の 4.6%)は、有担保ローンを利用あるいは総預金平残 1000 万円以上
の顧客、育成顧客層・維持深耕層(全体の 49.5%)は普通預金に給与振り込み等の取り引きが1
つ以上あるいは固定性預金(定期預金等)のある顧客であり、年齢により、19 歳∼45 歳は育成顧
客層、46 歳以上は維持顧客層として区別している。
スルガ銀行における顧客のカテゴリー
重要顧客層
4 .6 %
4 9 .5 %
4 5 .9 %
維持深耕層・育成顧客層
その他顧客層
(出所)スルガ銀行資料
Mon thly Report 2000年7月号
Report 2000年7月号
14 ニッセイ基礎研究所
ニッセイ基礎研究所
NLI Research Institute
CRMによる顧客管理と営業活動により、様々な効果が現れている。まず、有担保ローン取引
の獲得により育成顧客層・維持深耕層から重要顧客層への引き上げにより重要顧客数の数が増加
している。重要顧客層からの収益は 133 億円から 149 億円へと 12%程度増加している。またクロ
スセルにより、特に重要顧客層においては顧客 1 人当たりの商品数が1年間に 1.34 件も増加して
いる。
スルガ銀行におけるCRMの効果
セグメント別個人収益の拡大と重要顧客の増加
(百万円)
24000
1人当たりの商品数増加
(人)
70000
商品数(件)
21,590
22000
19,928
68000
20000
8
7.48
7
7.10
6.76
67,874人
18000
重要顧客層
16000
14000
14,964
13,373
5
64000
12000
10000
6.45
6.14
6
66000
維持深耕層
育成顧客層
4
その他顧客層
3
4.06
4.06
4.12
4.14
4.22
62000
60,657人
8000
60000
6000
4000
58000
重要顧客層数
(右目盛)
3.26
3.34
3.44
3.47
3.60
2
1
重要顧客層
2000
維持深耕層
0
0
1999/3
56000
1999/3
1999/9
2000/3
1999/6
1999/9
育成顧客層
1999/12
2000/3
(出所)共にスルガ銀行資料
ローン取引の増加要因としては、CRMシステムと個人向け与信システムとを統合し、個人与
信顧客の信用データを蓄積・モデル化し、事前に非与信客の潜在信用評価を行うことで、顧客か
らのローン申出に対して、素早い与信可否の判断が可能となり、ローン拡大とリスク管理の高度
化に効果があったことも見逃せない。
このようにCRMによる顧客のカテゴリー分解は、銀行にとっての収益源となる顧客層を明確
化させ、
「上得意顧客」に対してはより満足のいくサービスの提供ができるように、それ以外に対
しては上位層への引上げ、取引コストの圧縮などの効果を生んでいると考えられる。都銀でも、
さくら、三和でCRMによる営業活動を開始しており、今後ともIT技術を駆使したこうした動
きが、続いていくこととなろう。
Mon thly Report 2000年7月号
Report 2000年7月号
15 ニッセイ基礎研究所
ニッセイ基礎研究所
Fly UP