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航空機用バイオ燃料開発の現状~コマーシャル・フライトに向けた動き

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航空機用バイオ燃料開発の現状~コマーシャル・フライトに向けた動き
PEC 海外石油情報(ミニレポート)
平成 23 年 2 月 10 日
ミニレポート 2010-032
航空機用バイオ燃料開発の現状
~コマーシャル・フライトに向けた動き~
社会全体の環境問題に対する意識の高まりや化石燃料由来の CO2 排出量抑制が政治的な
課題になっていること等を背景に、航空機燃料分野においても CO2 排出量の削減に向けた
対策が求められている。航空機分野の CO2 削減対策は、航空機製造産業や航空機の運行・
運用面、その他の分野における総合的な活動の中で論じられなければならないが、EU 域内
を中心とする CO2 排出規制の施行が間近に迫っており、バイオ燃料を使用したフライト・
テストの記事がインターネット上に多く掲載されるようになっている。
そこで、このミニレポートでは、航空機分野における CO2 排出規制とフライト・テスト
の現状を紹介する。
1.航空機を対象とする CO2 の排出規制(概要)
欧州における航空機を対象とする温室効果ガス(CO2)の排出規制として、欧州委員会が
2006 年 12 月に EU 域内を離着陸する航空機を対象に CO2 排出規制の導入を決めた。また、
欧州議会も 2008 年 8 月に航空機を対象とする CO2 排出規制を EU の排出量取引制度に組入
れる決定を行っている。
これらの規制では、EU 域内の国内線と国際線は 2011 年から、また EU 域内と域外を結ぶ
国際線については 2012 年から排出規制が適用されることになる。具体的には、適用年度以
降、
一定の基準で割当てられた排出量を超えた航空会社は EU 取引市場で排出権を買い取り、
排出超過分を補う必要が出てくる。
この様に欧州、特に EU 域内に関しては、世界の他地域に比較し規制が一歩進んだ状況に
なっている。しかし、EU 以外の地域の国際線航空機から排出される CO2 規制については、
関係する国が多数に及び一国の規制・責任の及ぶところではないことから、各国は京都議
定書の規定に基づき国連の専門機関である国際民間航空機関(ICAO:International Civil
Aviation Organization)を通じて規制制定に向けた活動をすることで合意している。
この様な国際線航空機に対する規制動向に対し、国内線航空機について京都議定書の目
標達成計画には、1995 年を基準に全航空会社に対して 2010 年には単位輸送量当たりのエ
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ネルギー消費量として示される平均エネルギー消費原単位(L/人・km)の改善に重点を置い
たアプローチを行う事が示されており、具体的には約 15%削減する計画になっている。
ICAO は総会を 3 年毎に開催しており、活動は 3 年サイクルで進められている。2010 年総
会の具体的な活動計画の一つとして、2010 年 11 月末から 12 月上旬にかけてメキシコで開
催された気候変動枠組条約第 16 回締約国会議(COP16)において、ICAO は国際航空機から
排出される CO2 削減計画を提出している。
同削減計画では、2013 年までに航空機の燃費基準を定め、2020 年代で排出の増加傾向を
止めることが謳われており、削減目標を確実に達成するために排出量取引や炭素税といっ
た市場メカニズムの導入も合わせて検討することになっている。更に、この削減計画では
日本を初め ICAO に加盟する 190 カ国に対し国別行動計画を作成するように提案している。
参考資料:
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/08/1114&format=HTML&a
ged=0&language=EN&guiLanguage=en
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=6699&hou_id=5937
http://www.icao.int/icao/en/env2010/A37_Res19_en.pdf
2.日本における航空機分野の CO2 削減について
日本においては、当該分野に関連する関係省庁、航空会社を所管する国土交通省、航空
機メーカーを所管する経済産業省、各種研究機関を所管する文部科学省がそれぞれの分野
で CO2 削減に向けた政策を展開しているが、
航空機分野へのバイオ燃料の導入に関しては、
環境省の地球環境局地球温暖化対策課が中心となり、航空機バイオ燃料導入推進事業を展
開している。
CO2 削減を支援する具体策として、新航空機導入に当り、燃費の良い環境適応型航空機
の導入促進策として税制上の優遇を与えていることもその対策の一つであり、空港施設の
改善や航行システムの高度化を支援することで CO2 排出量を削減する方策も執られている。
更に、バイオ燃料の活用による削減についても実現に向けた展開が図られており、日本航
空が 2009 年にフライト・テストを行っている(表 1 参照)。これらについては、下記参考
資料に詳細が記されているので参照願いたい。
参考資料:
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/004/shiryo/1292853.htm
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http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/004/shiryo/__icsFiles/afiel
dfile/2010/06/08/1292853_1.pdf
http://www.env.go.jp/guide/budget/h22/h22-gaiyo/030.pdf
3.航空機分野の CO2 排出量の現状
1項で記した規制面での現状に対し、世界で使用されているジェット燃料の使用量や
CO2 排出量の現状を調査すると、公表機関によりある程度の相違は認められるが、国際エ
ネルギー機関(IEA)の資料では、2008 年時点の世界の CO2 年間排出量は約 294 億トンで
ある。内訳として、石油の燃焼に伴う排出量が約 108 億トン、航空機から排出される量は、
国際線関連が約 4.55 億トン、国内線関連が約 2.97 億トンの合計 7.5 億トンで世界全体の
排出量に占める割合は 2.55%となっている。
一方、日本国内の現状を見ると 2007 年時点で日本全体の CO2 年間排出量は約 13 億トン
で、運輸部門がこの内の 20%弱を占めているが、殆どが自動車分野で航空機分野は更にそ
の 4.4%である。したがって、日本全体では航空機分野が排出する CO2 年間排出量は 1 %弱
になり、量的には約 1,100 万トン/年である。
図 1.我が国の CO2 排出量内訳(2007 年)
この様に、現在のところ、航空機から排出される CO2 の全排出量に対する比率は高いと
は言えないが、今後、航空機による輸送量が増加することを想定すると、地球温暖化防止
の観点から CO2 排出量の削減対策が求められるところである。
航空機から排出される CO2 量を削減するには、機体自体や積載物の軽量化による燃費の
向上や効率的運行のほかに、燃料に関してはエネルギー効率の高いものやカーボンニュー
トラルに近い植物由来の燃料、つまりバイオ燃料の使用も効果的な方法と言える。
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冒頭に記した通り CO2 排出規制の施行が間近に迫っており、一部メディアの報道では米
国材料試験協会(ASTM)でのバイオ燃料の規格承認が 2011 年上半期に行われる見込みと伝
えられている。この様なことを背景に、比較的即効性のあるバイオ燃料の採用に向けた動
きがとられているものと思われる。
参考資料:
http://www.iea.org/co2highlights/co2highlights.xls
http://www.icao.int/icao/en/env2010/Pubs/ENV_Report_2010.pdf
4.バイオ燃料を用いたフライト・テスト
バイオ燃料を航空機用燃料として使用する動きは、民間航空機用のみならず軍用機にお
いてもテストが行われており、その典型的な例は米国エネルギー省と海軍が進めている
“Green Hornet”プロジェクトである。このほかにも各国で進められている軍用機への展
開が存在するが、ここでは民間航空機への展開として情報を集めてみた。
2008 年に英国の Virgin Atlantic 社が初めてバイオ燃料を混合したジェット燃料のフラ
イト・テストを行って以来、
これまでに航空各社がバイオ燃料を使用して実施してきたフラ
イト・テストに関する情報は、下記の参考資料として掲載した NEDO(新エネルギー・産業
技術総合開発機構)や ICAO の資料に記されているので参照願いたい。なお、これらの資料
に記された内容をまとめると表 1 の通りである。
表1.航空会社によるフライト・テスト(実績)
航空会社
バイオ燃料原料
混合比
(%)
Virgin Atlantic(英国)
ココナッツ、ババス
20
Green Flight International 不明
100 &
(米国)
50
Air New Zealand(ニュージー ジャトロファ
50
ランド)
Continental Airlines(米国) 藻、ジャトロファ
50
Japan Air Lines(日本)
カメリナ、ジャトロファ、藻
50
KLM(オランダ)
カメリナ
50
実施年月
2008 年 2 月
2008 年11 月
2008 年12 月
2009 年 1 月
2009 年 1 月
2009 年11 月
冒頭に記した通り、最近の 2 ヶ月を見てもバイオ燃料を使用したフライト・テストの記
事がインターネット上に多く掲載されるようになっている。参考として掲載した資料を補
う意味で、以下にそれらの情報をまとめてみる。
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(1)中国における動き
Boeing Co.が中国国際航空(Air China Ltd.)と共同でジャトロファを原料にして製造
したバイオ燃料を混合したジェット燃料を使用し、来年 5 月か 6 月にフライト・テストす
る予定になっている。ジャトロファ由来のバイオ燃料は、PetroChina Co.が供給すること
になっている。
(2)欧州における動き
① Lufthansa の「burnFAIR」プロジェクト情報
ドイツ航空大手の Lufthansa は、バイオ燃料プロジェクト「burnFAIR」を展開中で、こ
の「burnFAIR」は、ドイツ政府連邦経済技術省(Federal Ministry for Economy and
Technology)及びドイツ航空宇宙センター(Deutsches Zentrum für Luft- und Raumfahrt)
と連携して実施しているもので、バイオ燃料を長期的に使用した場合のエンジンのメンテ
ナンスや寿命への影響の研究を主な目的としている。
同プロジェクトではエアバス A321 を用い、2011 年 4 月からバイオ燃料を使用したフラ
イト・テストを Frankfurt と Hamburg 間の定期便で約半年間実施する。使用するバイオ燃
料は Neste Oil の NExBTL 技術で作られるもので、従来のジェット燃料に 50%混合して使用
する。Lufthansa は、バイオ燃料の調達状況や商業性を考慮したうえで、2020 年を目途に
全燃料の 5%から 10%をバイオ燃料に置き換えたいとしている。
② フィンランド航空の情報
フィンランド航空大手の Finnair は、2011 年春よりバイオ燃料の利用を開始する。報道
によると、同社が使用するのは廃木から生成されるバイオ燃料で、Neste Oil が提供する。
Finnair では、Helsinki~London 間と Helsinki~Singapore 間の定期便で、このバイオ燃
料を混合したジェット燃料(比率不明)を使用することにしている。
③ British Airways の情報
British Airways と Rolls-Royce が共同で各種バイオ燃料をテストする。2011 年に性状
分析等を開始し、2 種類に絞り込んだ上でエンジンテストを行う。テスト終了を 2012 年初
としている。これとは別に、British Airways は米国の Solena と共同でロンドン市内に家
庭ごみを原料にジェット燃料を製造する設備を建設する計画を2010年2月に発表しており、
同設備での生産開始は 2014 年を予定している。
(3)オーストラリアにおける動き
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オーストラリアの航空大手 Qantas が British Airways 同様、米国の Solena と共同事業
体を設立し、航空機用バイオ燃料の製造工場をシドニーに建設する計画を発表している。
同社では年間 50 万トンの都市廃棄物を利用してバイオ燃料を生産する計画で、
詳細な事業
計画を今年中に発表することにしている。
(4)ブラジルにおける動き
ブラジルの TAM Airlines が、ジャトロファを原料とするバイオ燃料を 50%混合したジェ
ット燃料を使用してエアバス A320 によるフライト・テストを実施している。使用されたバ
イオ燃料は、ブラジル原産のジャトロファから生成した粗油を米国に輸送し、Honeywell
グループの UOP 社がバイオ燃料に精製したものである。
(5)中東における動き
アラブ首長国連邦(UAE)のマスダール科学技術研究所(Masdar Institute of Science and
Technology)は、UAE 国営航空会社の Etihad Airways、Boeing Co.、Honeywell グループ
の UOP と共に Sustainable Bioenergy Research Center (SBRC)を設立している。
この研究所では昨年から実施してきた塩生植物のSalicornia bigeloviiを原料とする航
空機用バイオ燃料生産のための統合海水農業システム(ISAS:Integrated Seawater
Agriculture System)の評価を終了している。航空機用バイオ燃料生産のための商業展開
には、まだ開発しなくてはならない課題が多く残されているが、関係者の期待は大きい。
<参考資料>
http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1040/1040-06.pdf
http://www.icao.int/icao/en/env2010/Pubs/EnvReport2010/ICAO_EnvReport10-Ch5_en.p
df
http://www.iadf.or.jp/8361/LIBRARY/MEDIA/H21_dokojyoho/H21-5.pdf
http://www.enviro.aero/ATAGGuide_lowres.pdf
http://www.me-newswire.net/news/2985/en
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