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「バリアフリーのための心理学」(09年度)
「バリアフリーのための心理学」(09年度) (5)聴者とろう重複の障害のある人との コミュニケーションの可能性: 概念 の共有化は可能か 1 前半のまとめ:自分でまとめてみよう(800字くらいで) 1. 車椅子もスロープも、一般には下肢等に障害(インペアメント)があ る個人の移動に対するバリアを軽減するための「援助設定」と考えられま すが、ある個人のQOLの拡大にとって、そのスロープがバリアを軽減した と評価するにはどのような指標が必要でしょうか。 2. 携帯電話の学校持ち込み禁止が関係者から提案されているが、どうなん だろう? 3. 携帯電話の各種機能を用いたコミュニケーションとFAXを用いたコミュ ニケーションの相違点をそれぞれのモードの特徴や社会的機能の点から説 明してください。 4. 携帯電話を学習する際に、聴覚障害のある人に、「着信に気づく」よう に学習してもらうには、どのような方法が有効でしょうか。行動の「機 能」という側面に注目して回答してください。 5. 文字入力(および音声情報の使用)が困難な個人を対象に、携帯電話の 「静止画送信機能」を用いて自分の居場所を報告し、外出先で出会えるよ うにするための「教授方法」をその「課題分析表」を含めて書いてくださ 2 い。 携帯のテレビ電話機能 • どのような モード でコミュニケーション が可能か?物品要求の場面で考えてみよう 1)手話 2) ? 3) ? 4) ? 複数の表現モードを使用できる、というこ とはどういうことか。 3 複数モードの使用 携帯テレビ電話機能の使用についてのその前 に・・・ 聾重複の障害のある個人のコミュニケーション について・・・・(my life-study) 4 以下の3つの「世界」に共通するものは? 5 「言葉のない世界に生き た男」スーザン・シャ ラー(晶文社) これ違うわ! 6 http://www.rits umei.ac.jp/kic/ ~mochi/mononi wa.pdf 望月昭・野崎和子(1993)聴覚障害児における「抽象的概念」 の獲得援助に関する予備的展望:「物には名前がないこと」の 7 理解への教育段階的アプローチ.聴覚言語障害,22、39-49. 実践例:「聴覚障害+知的障害」を持つ成 人における居住施設における要求言語行動 の成立 VTR:1985∼1997 1)書字とサインモードを用いたマンドの獲得 2)日常での維持のための環境設定(援助) 3)書字(アイコン)とサインによる複数 モードの表出手段の獲得 4)2つのモードによる言語行動の獲得 8 1)通常の「形態」にこだわらず(障害のある) 個人が、今、できる形態を用いて「機能」 を成立させる。 正の強化で維持される行動の選択肢が絶えず 複数存在する状態の実現 本人の得意 な物を選択 口話:「みず」 確立操作 サイン:「ミズ」 弁別刺激 書字:「みず」 強化(水) アイコン選択 9 手話の本:環境成員の手話の獲得のために 10 「ろう重複」という障害を持つ成人は, どんな教育歴や処遇を受けていたのか? ・コロニーに居住している成人 ・愛知県下での施設利用者の場合 11 HIさんの略歴: ・損失聴力:95dB以上,コース立方体テスト(I.Q:68), ・物品名に対する記述(tact)可能,食べ物を並べた「絵日記」を書く, ・言語表出:日常で,書字,サインで言語的表出する事は無い。 身振りで要求をする事あり(ちり紙の袋を振る,櫛を持って職員の前に座 る) ・時々,(原因不明の)パニックを起こすことあり, 12 「ろう重複」(聴覚障害と知的障害)の 「障害」のある成人4名の事例の特徴 コロニーで出会った施設居住の成人対する職員の認識 1)「コミュニケーションがとれない」 2)「普段は静かなのだが,時々パニックや問題行動を おこす。その理由を尋ねられないか?」 個別に対応したり調査すると・・・・・ 3)発話訓練の痕跡あり(4名とも),「絵→書字 (tact)」は(HI,KA)可能 4)HI,KA:発話訓練など,幼稚部∼小学部での学習? しかしながら, ★「要求言語行動」を含めた社会的機能を持った言語行 動については現状では表出はほとんどなし。 13 成人した「ろう重複」の成人に状況: 1986年調査(野崎・望月・渡辺:1989) ・愛知県下の精神薄弱者関係の全施設83施設 への郵送と訪問調査(37例:19歳∼47歳) ・教育歴:37名中17名が聾学校経験 1/17 :一貫して聾学校教育を受けた 16/17:途中で他校へ転校,施設入所,就学免除 ・全体の20%:全く就学経験なし/施設のみ ・「言語訓練」の経験 受けたことがある:30% 現在も施行中 :11%(含HI,KA) 14 調査からみた当時の施設における概況 ・日常的生活(「身辺自立)では問題となる ことはないが,パニック様の行動が多く報告 ・「要求」「感情などの表現」は,指さし, あるいは簡単な身振りで行われる ・学校教育については一貫した聾教育(聾学 校での教育)を受けた者は殆どいない ・利用施設で継続的な「訓練(教授)」や 「関わり」のある個人:きわめて少数 15 ●「ろう重複」という障害性に由来すると 思われる社会的不利益 ・「病院,施設において聴覚障害を持つ精 神遅滞者は,静かな良い対象者とみなされ ている(Kopchik, Rombach, & Smilovits, 1975)」という表現がそのまま当て嵌まる。 ・口話(発話)教育を受けた経験があって も,機能的言語行動を促進・維持する機会 を成人になってから持ちにくい。 16 「ろう重複」障害のある個人に対する教授・ 援助設定の方針 1)それぞれの個人が持つ既存の言語的レ パートリー(身振り,書字,etc)を活かしな がら,機能的側面を重視した言語行動の成立 を目指す。 2)教育歴がない場合,口話や書字を学習す ることは時間的犠牲(コスト)が大きい。手 話の導入が現実的であろう。 3)但し,何らかの書記モードも社会的生活 の上で必要であろう。→アイコンなどの導入 17 具体的な「教授」の方針 1)個人差を考慮しながら,複数の表現モー ド(揮発性&不揮発性)を学習する 揮発性:すぐ表出可能だが痕跡として残らない(口話・サイン) 不揮発性:表出に時間がかかるが痕跡残る(文字・アイコン) 2)語彙獲得に対して,単に机上学習の形に とどまらず,要求言語行動(mand)や社会的 機能を持つ記述・報告(tact)を伴う学習形 式を取り入れ,日常での使用を前提とする 18 具体的な「教授」の方法 ●複数モードの獲得については, 「刺激等価性手続き」 (stimulus equivalence procedures) ●社会的機能の獲得については, 語彙獲得の学習時に,要求行動の設定等での 使用(「お使い場面」など)を織り込む 19 「刺激等価性手続き」 一般には,条件性弁別訓練を通じて, 複数の刺激項の間の相互の(選択)関 係を効率よく学習する方法 効率とは:刺激項間の一部を学習するだけで他の組 み合わせは転移(派生)によって生じる Sidman, M, (1971)以来の,研究・訓練 のパラダイム 20 条件性弁別課題 従来の三項随伴性 条件刺激・・弁別刺激・・反応・・強化 (見本刺激)(選択刺激)(選択) 四項随伴性( 条件性刺激+三項) どの刺激が弁別刺激となるかは,条件刺激が 決定する。 21 猫は? ←条件(見本)刺激が 最初に出れば弁別刺激 は決まる 4つの刺激のうち何れが弁別刺激? 22 条件刺激 弁別刺激 反応 強化 猫はどれ・・・猫写真・・選択・・強化 犬 猿 鳥 犬はどれ・・・猫写真 犬・・・・選択・・強化 猿 鳥 条件刺激によって,弁別刺激が変わる 23 Sidman(1971):知的障害のある個人への適用 条件性弁別 表出 (派生) 24 条件性弁別課題 条件性刺激 弁別刺激 A(音声刺激「なまえ」)→B(対象物) 「いぬ」 Sidman(1971) 犬の絵 25 いぬはどれ? Sidman,1971 これはできてた 26 A(音声刺激)→C(文字) これは「訓練」する 対象者:文字(単語)が読めなかった 27 見本刺激(条件性刺激)は音声 いぬはどれ? Sidman(1971) 28 いぬ ねこ いぬはどれ? とり さる Sidman(1971) A→C:訓練 29 いぬ ねこ いぬはどれ? とり さる Sidman(1971) A→C:訓練 30 A→C ができたら(ABは既習) B→C,C→B もできるかな? C→D:文字をみて表出(読み) もできるかな? Sidman(1971) 31 いぬ ねこ とり さる Sidman(1971) B→C:派生 32 いぬ Sidman(1971) C→B:派生 33 「読み」もできた いぬ C 「いぬ」 D B→D(絵:命名)は既にできていた Sidman(1971) 34 「刺激等価性」の成立 A B C A→B,A→C ができれば, B→C,C→Bもできる A→B,B→C,ができれば C→A(A→C)もできる 上記のような事は人間しかできない? 理論は別として,効率的な語彙獲得の成立に 35 使えるのでは? ろう重複の対象者への適用 (文字とサインの場合) A:写真(対象物) B:文字 C:サイン −−−−−−−−−−− B→A,C→A (訓練) then B→C,C→B? かつ,A→書字,サインでるか? ろう者は音声媒介がない。それでもいける?36 ろう重複の対象者への適用(文字とサインの場合) 条件性弁別 表出 訓練 派生 訓練 対象物・文字・サインの相互の「条件性弁別関係」と 37 「表出」に関する課題の一覧(実線:訓練/波線:派生) 複数モードによる語彙獲得と要求場面での使用 お使い場面 条件性弁別 Mand場面での使用 その(5)で紹介) 38 条件性弁別課題の実際 VTR 39 HI,KAさんの,書字,サイン彙獲得後の, 要求言語行動(mand)における複数モードの 使用 誤物品呈示と時間遅延によるで自発的モード変換 (書字→サイン/サイン→書字など) 誤物品呈示 時間遅延 物品供給者が,誤 物品を出したり, 「もたもた」して いると自発的に モード変換が起こ る モード変換がある 方が,供給者も正 しい物品を呈示し やすい。 40 展開1 「赤い・スプーン・下さい」 「色名+物品目」による要求言語行動の 学習 HI・KA:書字とサインで SE・TA:アイコンとサインで 色名と物品名をそれぞれ別個に条件性弁別で 学習した後に,要求場面で応用できるか? 41 SE,TOさんの刺激項目 A:色紙 C:サイン B:アイコン 42 SE・TOさんの「物品目」(アイコンと手話) 43 「これをもらってきて」 「色名+物品名」とい う組み合わせ出るか? 語彙獲得(色・物品名)と要求時の表出 (サインとアイコンを用いたSE,TOのケース) 44 結果:SEさんとTOさん 色名と物品名の複数モードでの語彙獲得 の後,要求場面で「色名+物品名」の 要求言語行動成立するか? ●要求時に色名か物品名しかでない そこで, 1)サインを使ったモデリング→ × 2)アイコンを使ったモデリング→ ○ 「書記(不揮発)モードのメリットか?」 (複数モード使用のメリット) 45 展開2 「あの人はどんな気持ち?」 (表情に対するタクトの獲得) 46 47 展開3 味名の獲得 からい,すっぱい,あじがない,あまい VTR 48 C: アイコン/ 文字 文字 からい すっぱい あじがない あまい B:サイン 49 条件性弁別課題 50 A:味覚刺激(水溶液)→C:文字/アイコン 当初,この条件性弁別課題が難しい対象 者あり。 A:味覚刺激→T:典型味覚物品(塩の瓶) T:典型的味覚物品→C:サイン絵/アイコン これによって、 A:味覚刺激→C:アイコン/サイン が可能になり、表出もできるようになる51 望月(1998)実践障害児教育 52 この食べ物は「どんな味?」 (様々な食べ物への「味名の般化」) →むずかしい !! 例:チョコレートを食べて「どんな味?」 →「チョコレート」と表出してしまう そこで、「味は?」「名前は?」という 条件性条件性弁別訓練を行う (物には複数の「名前」がありうる) 53 条件性条件刺激 (文脈刺激) 味は? 条件刺激 食品 (羊羹) 弁別刺激 (選択刺激) あまい からい 反応 強化 選択 ようかん あられ 名前は? 食品 (羊羹) あまい からい ようかん 選択 あられ 「味は?/名前は?」という文脈つき 54 文脈刺激 条件性刺激 文脈刺激 反応 強化 条件性刺激 反応 55 強化 文脈刺激を明示して訓練することによって、 様々な食品について、味覚名を表出できるよ うになった。 聴覚障害児の「9歳の壁」あるいは、 「比喩理解の困難さ」などは、本当にability の問題か? →視覚モードなどによる「文脈刺激」の明示 が足りないために生じるhandicap(関係的) な問題ではないか? →教授場面で考慮すべき「援助設定」では? 56 訓練シリーズから示されたこと 1)条件性弁別課題によって,複数モー ドの語彙獲得と使用が可能になった。 2)アイコンなどの不揮発モードは文型 (2語文)などの学習の際にモデリング の効果を生じさせやすい。 3)物には複数の「名前」があること 「文脈」を明示することの必要性: →教授過程、および日常でのことばの 使用時における設定として重要 57 色名,表情(感情名),味名 次第に困難にはなるが,それぞれ獲得可能 であった。 ●成人後でも言語行動の獲得は可能である (遅すぎるということはない) ●過去の学習歴は様々であっても,無駄に なるものはない (これまでの既習モードを統合化させ 機能的な使用へ展開可能) 58 参考文献 • 望月(1998-1999)「実践障害児教育」 http://www.ritsumei.ac.jp/kic/~mochi/14Mochizuki(1998-1999).pdf ・望月(1993)「物には名前がないという学習 http://www.ritsumei.ac.jp/kic/~mochi/mononi wa.pdf ・望月昭・野崎和子(2001):「障害と 言語行動:徹底的行動主義と福祉」,日本 行動分析学会(編):『ことばと行動』 59 ブレーン出版、213∼235,