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炭酸固定活性化酵素の改変によるイネ葉光合成機能の強化
炭酸固定活性化酵素の改変によるイネ葉光合成機能の強化 15580012 平成 15 年度〜平成 17 年度科学研究費補助金 (基盤研究(C))研究成果報告書 平成 18 年 6 月 研究代表者 畠中知子 神戸大学農学部講師 研究組織 研究代表者 : 畠中知子 (神戸大学農学部講師) 研究分担者 : 内田直次 (神戸大学農学部教授) 交付決定額(配分額) 平成 15 年度 平成 16 年度 平成 17 年度 総 計 直接経費 2,100,000 800,000 800,000 3,700,000 間接経費 0 0 0 0 (金額単位:円) 合 計 2,100,000 800,000 800,000 3,700,000 目次 第一章 野生イネの光合成特性について ・・・・・・・・・・ 1 第二章 Rubisco Activase 遺伝子を導入した形質転換イネの作出とその光合成特性 ・・・・・・・・・・50 第三章 アンチセンス Rubisco Activase 遺伝子を導入した形質転換イネの作出とその光合成特性 ・・・・・・・・・・76 引用文献 ・・・・・・・・・・79 第一章 野生イネの光合成特性について 緒論 イネは熱帯から温帯にかけての広い地域で栽培され,それらの地域における重要な穀類作物となっている.そ のため近年までに生産量の増大が試みられ,収量は大きく増加してきたが,今でもなお,年平均約 1.3%の人口 増加率等を背景に,イネを含め穀物に対する需要は増えつづけている.一方,穀類収量の年平均増加率は, 1967~1982 年の 2.2%から,1982~1994 年では 1.5%に低下している.さらに,イネの最大収量はこの 30 年間ほ とんど変化せず,頭打ちの状態になっている(Mann, 1999).このままでは穀類収量の増加率が需要の増加率 を下回ることが危惧されており,このような状況を打破するためにも,新たな増収手段が求められている. 多収性は物質生産に依存している.収量を高めるためには物質生産能力を高めると同時に,生産物質の利用 部への分配率を高めることが重要である.物質生産は光合成によるものであり,個体集団(群落)として栽培され る作物においては,群落光合成によって支配される.この群落の光合成量は,葉面積指数,受光態勢および個 葉光合成速度の 3 要素から構成されている.Army and Greer (1967) による作物増収の技術に対する理論では, 初期の増収技術は除草剤や殺虫剤の使用,生育旺盛な一代雑種の利用,つまり葉面積指数を拡大・維持する 方法だった.次の段階は,受光態勢を改善する方向であり,新しい草型品種の育成あるいは草型を改良するた めの生長調節剤の開発・使用であった.実際にこれらによって群落光合成が改善されてきた.しかし,この 30 年 間の最大収量が同じであるということは,この増収手段がすでに限界に達していることを示している.予測されて いる第 3 段階は,個々の葉の光合成機能を高めることで到達されるという.そこで,さらなる増収の方法として,個 葉光合成機能の改良が注目されている. C3 植物であるイネの光合成を律速しているのはカルビンサイクルにおいて CO2 同化の初発反応を触媒する ribulose-1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase(Rubisco)であるといわれている(von Cammerer and Farquhar, 1981; Sharkey, 1985).この酵素は,葉内の可溶性タンパクの約 50%を占めるが,触媒能力が低いために C3 型 光合成の律速要因となり得るとされている(Sharkey et al., 1985).イネにおいては,Rubisco の最大比活性が低い ため(Makino et al., 1985),この酵素による光合成速度の制限が強いことが予測される.Rubisco による CO2 固定 反応をより効率的に行わせるよう改良すれば個葉光合成能力が向上すると考えられる. Rubisco が機能するには活性化を受けなければならないが,これは LS のリシン残基(201)に CO2(C)が可逆的 1 に結合し(カルバミレーション),ここを Mg2+(M)で安定化することで Rubisco は活性型(ECM 型)となる.しかし, 生体内では種々の理由により不活性型となっている.その理由として,1つめは Rubisco の E 型への基質 RuBP の結合である.ECM 型の酵素よりも E 型の酵素のほうが RuBP への親和性がより高いために起こる.2つめは Rubisco の ECM 型への CA1P の結合である.CA1P は Rubisco のカルボキシラーゼ反応の中間物アナログで, 暗期で生成され,明期に入ると速やかに分解される.3つめはフォールオーバーと呼ばれる触媒反応中に起こる 不活性化である.In vitro で完全に活性化された酵素に RuBP が加えられたとき,予期される直線的なタイムコー スから外れ Rubisco の活性が低下する.その理由は触媒過程で生じる XuBP と 3-KABP が Rubisco に強固に結 合することによるとする意見(Zhu and Jensen, 1991)と,触媒反応中にタンパク質構造が低活性の形態へ変化す ることによる(Yokota, 1991)とするものがある.こうした不活化過程のすべてを修正して Rubisco の活性を回復さ せているのが Rubisco activase である.Rubisco activase は ATPase 活性をもち合せており,ATP 加水分解で生じ るエネルギーを利用して Rubisco からの糖リン酸の解離を促進し Rubisco を活性化させる. このように Rubisco の活性化機構から考えると,C3 型光合成が Rubisco だけでなく Rubisco activase によっても 制限されているとみなされる.Rubisco activase の光合成速度に対する律速性の程度は植物種によって異なり,タ バコでは低く(Mate et al., 1996),シロイヌナズナでは高い(Eckardt et al., 1997).生育窒素濃度を変えて生育し たイネでは,強光下のカルボキシレーション効率(光合成-細胞間隙 CO2濃度曲線の初期勾配,活性型 Rubisco 量の指標)が,Rubisco 以上に Rubisco activase 量と高い相関関係があった(Uchida et al., 1995)ことから,Rubisco activase による律速性が比較的高いと考えられる. このことから,イネの個葉光合成機能を高めるために, Rubisco の酵素特性の改良において,Rubisco activase を改良することによって Rubisco の触媒能力を向上させることで,光合成能力を高められるのではないかと考えら れる.イネ栽培種 Oryza sativa においては,Rubisco の量・比活性ともに変異が非常に小さいことから,栽培品種 間の交配によって酵素特性を高めることは困難であるとされている(Makino et al., 1987). 現在栽培されている品種は野生種から改良されたものである.この栽培化の過程で失われた有用遺伝子が野 生種には数多く存在していると考えられる.野生種自体は農業的利用価値が低い.しかし,イネ属野生種の中に は栽培種 O. sativa よりも高い個葉光合成能力(Yeo et al., 1994),高い Rubisco 活性をもつものがある(Makino et al., 1987).またイネ属野生種の Rubisco activase は,構造や分子量において種間変異があることが示されている (平岡ら, 1996;片岡, 2001).これらのことから,イネの個葉光合成能力を改良をする場合,Oryza 属野生種は豊 富な遺伝資源であるとみなすことができ,野生種からの優良な形質導入はイネの個葉光合成能力の向上に有効 な方法であると考えられる. そこで本研究では,イネ属野生種の光合成特性を調べるとともに野生イネによる光合成能力改良の可能性に ついて検討した. 2 略語 ATP:adenosine-5-triphosphate ABTS:2,2-amino-di[3-ethylbenzthiazonlin-sulfonate(6)] BSA:bovine serum albumin CA1P:calboxyarabinitol 1-phosphate CBB:coomassie brilliant blue CE:carboxylation efficiency CER:carbon exchange rate Ci:intercellular CO2 concentration DAB:3,3-deaminobenzidine EDTA:ethylene diamine tetraacetic acid ELISA:enzyme-linked immunosorbent assay ETR:electron transport rate IgG:immunoglobulin G KABP : Keto-Arabinitol-1,5-Bisphosphate kDa:kiro Dalton LS:Large Subunit OER:oxygen evolution rate PFD:photon flux density ΦPSⅡ:Effective quantum yield PSⅡ:photosystem Ⅱ PVPP:polyvinylpolypyrrolidon qP:photochemical quenching Rubisco:ribulose-1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase RuBP:ribulose-1,5-bisphosphate SDS-PAGE:sodium dodecyl sulfate-poly acrylamid gel electrophoresis T-PBS:tween20-phosphate buffer saline T-TPS:tween20-tris buffer saline Tris:2-amino-2-hidroxymethyl-1,3-propanediol Tween20:polyoxyethylene sorbitan monolaurate Vpd : vapor pressure difference XuBP : Xylulose 1,5-Bisphosphate 3 第一章 第一節 野生イネにおける光合成特性の種間差異 野生イネの光合成能力に関しては,通常大気条件下のガス交換速度を測定した報告がいくつかある.Yeo ら (1994)によると野生イネの中には栽培イネと同程度か,それを上回る光合成能力をもつ系統がある.また Rubisco の酵素学的特性を栽培種と野生種で比較し,ゲノムとの結びつきも調べられている(Makino et al.,1987).それに よると,野生種の Rubisco には栽培種よりも活性が優れているものがあった.しかし,光合成能力と酵素特性の観 点から調査した報告は少ない.本章では,野生イネにみられる光合成と酵素特性の関係を明らかにするために, 近縁野生種,遠縁野生種を用いて,野生イネの光合成特性を調査した.光合成特性として,飽和光・飽和 CO2 濃度下の個葉の最大光合成速度,および CO2固定酵素 Rubisco,その活性化酵素である Rubisco activase の定 量をおこなった. 材料と方法 材料 表1に示すイネ属野生種 9 種 11 系統と,栽培種 2 種 3 系統を実験に用いた. 材料の育成とサンプリング 野生種及びアフリカの栽培種 O. glaberrima の 2 系統の種子はあらかじめ 45℃で 5 日間の休眠打破処理をお こなった.各系統の種子を 20 粒ずつ試験管に入れ,界面活性剤(Tween20)を含む 1%次亜塩素酸ナトリウム溶 液で 30 分間攪拌することにより種子消毒してからよく水洗した.その後,種子の剥皮を行い,野生種については, 15%塩酸で 15 分間の塩酸処理を行った.O.meridionalis のみ 30%硫酸で 15 分間処理した.その後,よく水洗 し,シャーレ内の十分に蒸留水を含ませた濾紙上に種子を 20 粒ずつ置き,30℃の恒温器内で催芽させた.播種 からおよそ 3 日後,出芽したものから温室内の 1/5000 a ワグネルポット(本学水田土壌に各ポット N:P:K=1.0 g: 1.0 g: 1.0gとなるように施肥)に6粒ずつ移植し,4~5 葉期に生育の悪い 3 個体を間引き,生育の良い 3 個体を 自然光,湛水条件下で栽培した. 播種から約 2 ヶ月後,第 10~11 葉の出葉時に第9葉をサンプリングし,光合成の測定を行った.各系統につき 反復は 3 個体とした.その後,液体窒素で凍結し,葉内成分の定量時まで-80℃で保存した. 4 表 1. 供試材料 節 属 Oryzae Oryza ゲノム 1) 品種または系統番号 2) AA 日本晴 glaberrima AgAg W0025 glaberrima AgAg W0026 rufipogon AA W0107 AbAb W0844 glumaepatura AgpAgp W1246 meridionalis AlAl W1625 punctata(2n) BB W1577 punctata(4n) BBCC W1409 CC W0002 grandiglumis CCDD W0613 grandiglumis CCDD W1194 australiensis EE W0008 australiensis EE W1538 glaberrima AA 日本晴 種 sativa barthii officinalis 1)分類,ゲノムはイネ大学大成第3巻第1章第一節(渡辺好郎) 2)国立遺伝研究所の分類系統番号 5 気相型酸素電極を用いた酸素放出速度の測定 約 10.5 葉期に,主稈の第 9 葉の葉身中央部を約 5cm 採取し,葉面積計(自動面積計,林電工)で葉面積を測 定した.葉片は,個体から切除したことによる光合成能の低下を回復させるため水を入れたシャーレの中に一晩 浮かべた.翌日,気相型酸素電極(CB-1D.LS2.LD-1, Hansatech 社)を用い,酸素放出速度をその葉の最大 光合成能力として測定した.測定条件は,蒸留水中に通して加湿させた混合ガス(5% CO2 ,21% O2 ,75% N2)を用い,25℃下でおこなった.まず,葉切片に飽和光(1800μmol quanta m-2 s-1)を 15 分以上照射した後, 葉片をチャンバー内に入れた.チャンバーに加湿した混合ガスを流し,2000μmol quanta m-2 s-1 の光源下で 3 分間前照射し,同条件下で数分間光合成をおこなわせ,O2 濃度の増加分から酸素放出速度を算出した.以下 にその計算式を示す. OER(μmol O2 m-2 s-1)=K×V×ΔE/R0/LA OER:酸素放出速度 K:混合気体 1 mL 中の酸素量(μmol mL-1) V:チャンバー内の有効体積( mL) ΔE:(mV s-1) R0:混合気体中酸素濃度の出力 LA:葉面積(㎡) 測定後の葉片は,液体窒素で凍結し葉内成分の分析時まで-80℃で保存した. 葉内可溶性成分の抽出 凍結保存しておいた葉切片約 5 ㎝ 2 に1 mL の抽出バッファー(50 mM Na-phosphate, 10 mM mercaptethanol, 0.1 mM EDTA, 12.5%(v/v)glycerol, pH7.5)と少量の石英砂、PVPP を加え,氷上で乳鉢と乳棒を用いて磨砕した. 抽出バッファーをさらに 3 mL 加え攪拌した後に,1 mL をエッペンチューブに移し、30000×g、4℃で 10 分間遠心 分離した.得られた上澄みを試料溶液とし,Rubisco,Rubisco activase の定量に用いた. RubiscoおよびRubisco activaseの定量 葉内の Rubisco および Rubisco activase 含量は,emzyme linked immunosorbent assay (ELISA)により定量した. 前述の試料溶液を緩衝液(10 mM Na-phosphate,pH7.2)で 250-500 倍に希釈し,ポリスチレン製平底 96 穴 ELISA 用マイクロプレート(Falcon 3915)に 50μL ずつ 3 反復で添加した.4℃で一晩静置し,タンパクをプレート に吸着させた.その後,添加した試料溶液を取り除き,T-PBS(10 mM Na-phosphate, 0.5 M NaCl, 0.05% Tween20)で 3 回洗浄した.非特異的タンパク結合部位をブロックするため,3%BSA を含む T-PBS をウェルいっ ぱいに満たし,4℃で一晩静置しブロッキングした.ブロッキング後,T-PBS で 3 回プレートを洗浄し,10 mM 6 Na-phosphate,1M NaCl,pH 7.2 で 250 倍に希釈した anti-Rubisco ウサギ抗血清,1000 倍に希釈した anti-Rubisco activase ウサギ抗血清を 1 次抗体として各々100μL ずつ加えた.25℃で1時間静置後,T-PBS で 3 回プレートを洗浄し,10 mM Na-phosphate,1M NaCl,3% BSA,pH 7.2 で 1000 倍に希釈したペルオキシダー ゼ標識抗ウサギ IgG(H+L)ヤギ抗体を 2 次抗体として 50 μL ずつ加えた.25℃で1時間静置後,T-PBS で 3 回 プレートを洗浄し,24 mM citrate,0.2 M Na2HPO4,1 mM 2,2-azinobis(3-ethylbenzothiazolin-6-sulfonic acid), 150 μLL-1 H2O2,pH 5.0 を 100μL ずつ加え発色を開始させた.25℃で 20~60 分間発色させた後に,0.25M citric acid 溶液を 50μL ずつ加え反応を停止させた.約 3 分間静置した後に,Micro Plate Reader A4(Tosoh)で 415 nm の吸光度を測定した.同様に操作したイネ葉由来の精製 Rubisco 0-100 ng,精製 Rubisco activase 0-20 ng を標準として試料溶液中の含量を算出した. 7 結果 個葉の最大光合成能力(OER:oxygen evolution rate) 栽培種-野生種間,およびゲノム間の OER を比較した結果を表 2 に示す.ゲノムグループについては,構成ゲ ノムに含まれるアルファベットで識別した.BBCC や CCDD の 4 倍体は 2 種のゲノムから構成されており,その場 合両方のゲノムグループに分類した.栽培種( O. sativa,O. glaberrima )の平均値は野生種よりも高く,野生種 平均値の約 2 倍だった.各系統のもつゲノム別に OER の値を比較すると,栽培種 3 系統を含む AA ゲノムグル ープよりも O.australiensis の 2 系統からなる EE ゲノムグループの方が高い値を示した.また AA ゲノムグループ 内では光合成速度の変異が大きかった. Oryza 属各種各系統の OER の結果を図 1 に示した.OER の全体平均は,23.8μmol O2 m-2 s-1 で(表 2),最も 高かったのは AA ゲノムの栽培種 O. sativa 日本晴であった(42.0μmol m-2 s-1).これに匹敵する値を示したの は,同じ AA ゲノムのアフリカ由来の栽培種 O. glaberrima の W0025( 38.4μmol m-2 s-1 )と W0026( 39.9μ mol m-2 s-1 )だった.またそれに続いて OER が高かったのは,AbAbゲノム O. barthii の W0844( 29.0μmol m-2 s-1 ),EE ゲノム O. australiensis の W0008( 30.3μmol m-2 s-1 ),W1538( 29.8μmol m-2 s-1 ),CCDD ゲノム O. grandiglumis の W0613(:26.9μmol m-2 s-1 )であり,日本晴の約 70%であった.OER が最も低かったのは, AA ゲノム O. rufipogon の W0107( 10.8μmol m-2 s-1 )だった. 50 OER(μmol O2 m-2 s1 ) 40 30 AA B B BBCC 20 CC 10 CCDD EE 0 日本晴 W0026 W0844 W1625 W1409 図1. 各系統のOERの比較 8 W0613 W0008 表 2.OER 値の栽培種/野生種およびゲノム間比較 OER (μmol m-2 S-1) 全体平均 23.4 + 12,1 栽培種平均 40.1 + 3.6 野生種平均 18.2 + 8.5 ゲノム間比較 AA 26.5 + 13.7 BB 13.5 + 4.2 CC 17.1 + 7.5 DD 18.3 + 9.6 EE 29.9 + 3.4 平均±標準偏差 栽培種:日本晴,W0025,W0026 野生種:上記栽培種以外 AA:日本晴,W0107,W0844,W0025,W0026,W1246,W1625 BB:W1577,W1409 CC:W1409,W0002,W0613,W1194 DD:W0613,W1194 EE:W0008,W1538 9 葉内成分含量 栽培種-野生種間,およびゲノム間の Rubisco および Rubisco activase 含量を比較した結果を表 3 に示した. Rubisco 含量の平均値は 2.54 g m-2 であった.Rubisco activase 含量の平均値は 0.100 g m-2 であった.Rubisco, Rubisco activase いずれについても野生種よりも栽培種の方が高く,野生種の約 1.6~1.7 倍であった.ゲノムグル ープ別に比較すると,Rubisco 含量は AA ゲノムグループ内に高い系統が多く,AA ゲノムのグループが最も高か った.一方,Rubisco activase 含量については,EE ゲノムのグループが最も高かった. Oryza 属各種各系統の Rubisco,Rubisco activase 含量の結果をそれぞれ図 2,3 に示した. Rubisco 含量は,AgAg ゲノム O. glaberrima のW0026 で最も多かった(4.61 g m-2).AA ゲノム O. rufipogon のW0107(3.11 g m-2),AbAbゲノム O. barthii のW0844(3.54 g m-2)も AA ゲノム栽培種の O. sativa 日本晴 (2.57 g m-2)より高い値を示した.最も低かったのは CC ゲノム O. officinalis の W0002(0.68 g m-2)であった. Rubisco activase 含量(図 3)は,AA ゲノム栽培種の O. sativa 日本晴で最も高かった(0.220 g m-2).これに 匹敵する値を示したのが,EE ゲノム O. australiensis の W1538(0.214 g m-2)だった.しかし,日本晴の 50%以 下の値を示す系統が多く,最も Rubisco activase 含量が低かった系統は,Rubisco 含量の場合と同様で,CC ゲノ ム O. officinalis の W0002(0.014 g m-2)であった. 表 3.葉内成分の栽培種/野生種およびゲノム間比較 Rubisco (g m-2) 全体平均 2.54 + 1.11 Rubisco activase (g m-2) 0.100 + 0.064 栽培種平均 3.67 + 0.95 0.136 + 0.067 野生種平均 2.20 + 0.92 0.089 + 0.060 AA 3.10 + 1.01 0.106 + 0.059 BB 1.06 + 3.05 0.062 + 0.360 CC 2.00 + 0.88 0.077 + 0.032 DD 2.56 + 0.61 0.072 + 0.015 EE 2.28 + 0.26 0.171 + 0.078 ゲノム間比較 平均±標準偏差、栽培種:日本晴,W0025,W0026、野生種:上記栽培種以外、 AA:日本晴,W0107,W0844,W0025,W0026,W1246,W1625、BB:W1577,W1409、 CC:W1409,W0002,W0613,W1194、DD:W0613,W1194、EE:W0008,W1538 10 6 5 Rubisco(g m2 ) 4 AA 3 B B BBCC 2 CC CCDD 1 EE 0 日本晴 W0026 W0844 W1625 W1409 W0613 W0008 図2.各系統のRubisco含量の比較 Rubisco activase(g m-2) 0.3 0.2 AA B B BBCC 0.1 CC CCDD EE 0.0 日本晴 W0026 W0844 W1625 W1409 図3.各系統のRubisco activase含量の比較 11 W0613 W0008 Rubisco比活性(OER/Rubisco)とRubiscoあたりのRubisco activase含量 OER を Rubisco 含量で割ることで Rubisco の比活性を算出した.Rubisco 比活性は in vivo における見かけの Rubisco 活性を表している.また,Rubisco あたりの Rubisco activase 含量(Rubisco activase/Rubisco)を求めた. 栽培種-野生種間,およびゲノム間の Rubisco 比活性と Rubisco あたりの Rubisco activase 含量を比較した結果 を表 4 に示す.Rubisco 比活性については,栽培種と野生種間の差異はほとんどなかった.ゲノム間では,BB ゲ ノムグループが最も高く(13.9 μmol g-1 s-1),EE ゲノムグループもそれに匹敵する高さを示した(13.5 μmol g-1 s-1).Rubisco あたりの Rubisco avtivase 量についても,栽培種と野生種間に差異はほとんどなかった.ゲノム別で は,EE ゲノムグループが栽培種を含む AA ゲノムグループよりも 2 倍以上高かった. 表4. Rubisco 比活性と Rubisco activase / Rubisco の栽培種 / 野生種およびゲノム間比較 全体平均 Rubisco 比活性 Rubisco activase (μmol g-1 s-1) / Rubisco (%) 10.4 + 5.6 4.14 + 2.82 栽培種平均 11.8 + 3.7 4.36 + 3.23 野生種平均 10.0 + 6.1 4.07 + 2.74 AA 8.7 + 4.1 3.53 + 2.27 BB 13.9 + 0.1 5.10 + 5.04 CC 10.9 + 7.6 4.46 + 2.84 DD 8.0 + 5.5 2.89 + 0.71 EE 13.5 + 1.8 7.44 + 3.33 ゲノム間比較 平均±標準偏差、栽培種:日本晴,W0025,W0026、野生種:上記栽培種以外、AA:日本晴,W0107,W0844,W0025,W0026,W1246, W1625、BB:W1577,W1409、CC:W1409,W0002,W0613,W1194、DD:W0613,W1194、EE:W0008,W1538 Oryza 属各種各系統の Rubisco 比活性と Rubisco あたりの Rubisco activase 含量の割合をそれぞれ図 4,5 に 示した.Rubisco 比活性は,CC ゲノム O. officinalis の W0002(28.9 μmol g-1 s-1)が栽培種日本晴(16.5 μmol g-1 s-1)よりも 76%高かった.BB ゲノム O. punctata (2n)の W1577(17.1 μmol g-1 s-1)および EE ゲノム O. australiensis の W0008(16.0 μmol g-1 s-1)は日本晴と同程度の値を示した.また,Rubisco activase/Rubisco では, EE ゲノム O. australiensis の W1538(9.24%)が日本晴(8.61%)よりも高かった.BBCC ゲノム O. punctata (4n) の W1409(8.42%)が日本晴と同程度の値を示した.それ以外は日本晴の 50%以下の値を示す系統が多かっ た. 12 Rubisco比活性(μmol O2 g-1 s1 ) 30 20 AA B B BBCC 10 CC CCDD EE 0 日本晴 W0026 W0844 W1625 W1409 W0613 W0008 図4.各系統のRubisco比活性の比較 Rubisco activase/Rubisco(g g2 ) 0.15 0.10 AA B B BBCC 0.05 CC CCDD EE 0.00 日本晴 W0026 W0844 W1625 W1409 W0613 W0008 図5.各系統のRubiscoあたりのRubisco activase含量の比較 13 考察 本章では,野生イネの光合成能力と葉内成分に見られる特徴を明らかにするために,近縁野生種および遠縁 野生種(表 1)を用いて,飽和光,飽和 CO2濃度下の個葉の最大光合成速度,および CO2固定酵素 Rubisco,そ の活性化酵素である Rubisco activase 含量を調べた. まず,栽培種と野生種を比較していく. 野生種の個葉最大光合成速度 OER の平均は,栽培種平均の 50%以下だった(表 2).しかし野生種内ではば らつきが非常に大きく,栽培種 O. sativa の 60~70%程度の光合成を示す野生種もあったが,いくつかの野生 種では 20~30%という極めて低い値を示した(表 2,図1).本実験と同様に,酸素電極により OER を評価した平 岡ら(1996)では,O. sativa の 60~80%程度の光合成速度を示した野生種が多く,O. australiensis では O. sativa よりも高い光合成能力であった.しかし本実験では,O. sativa よりも高い光合成能力を示した系統はなか った. Rubisco 含量は,野生種は栽培種より低かった(表 3).OER と同様,野生種内でばらつきが大きかったが,栽 培種よりも高い値を示した系統もあった(図 2).ほとんどの系統で日本晴の 50%以上だった.Rubisco activase 含 量も,Rubisco 同様,野生種は栽培種よりも低かった(表 4).日本晴より高かった野生種はなく,ほとんどが日本晴 の 50%以下だった(図 3).栽培種内においても,O. glaberrima は日本晴の 50%以下だった. Rubisco 比活性は,野生種は栽培種よりも低く,栽培種の 92%だった(表 4).野生種内には栽培種以上の系 統もあり(図 4),平岡ら(1996)の報告と一致した.Rubisco activase/Rubisco は,野生種と栽培種の平均値はほと んど同じだったが(表 5),系統による違いは大きかった(図 5). 野生種と栽培種を比較すると,いずれのパラメーターも平均値は栽培種の方が高かった.しかし野生種,栽培 種を問わず系統によるばらつきが全体的に大きかった.OER では栽培種系統より高い野生種系統はなかったが, Rubisco activase 含量や Rubisco 比活性では栽培種系統よりも高い野生種の系統もあったことから,野生種には 高光合成能の潜在性を期待できる. 次に各ゲノムグループ別にみていく. AA ゲノムグループには,栽培種 2 種 O. sativa と O. glaberrima が含まれている.AA グループ全体は,高い OER 値(図 1),Rubisco 含量(図 2)が特徴的であった.AA ゲノムグループ内の OER のばらつきは非常に大きか った.それは全系統中日本晴の OER が最も高く,O. rufipogon が最も低い OER であったためである(図 1). Rubisco の比活性(OER/Rubisco)についても同様にばらつきが大きかった.光合成速度と Rubisco 含量間には高 い正の相関があることがわかっており(Makino, et al., 1984),OER と Rubisco 含量間にも高い相関があることが示 されている(平岡ら. 1996).このことから,他のゲノムグループと比べて最大光合成能が高いのは Rubisco 含量の 多さによるものだと考えられた. 14 次に BB ゲノムグループは,O. punctata の二倍体 W1577 と四倍体 W1409 からなる.OER 値(表 2),Rubisco および Rubisco activase 含量(表 3),いずれも全ゲノムグループの中で一番低かった.特に W1577 では,Rubisco も Rubisco activase 含量も低かった(表 4).これは,寺田(1999)による野生種の葉内可溶性成分含量の結果と比 較しても非常に低く,今回の定量実験時には,これらのタンパク質が分解されてしまっていた可能性が高い. Rubisco 比活性は,全ゲノムグループ内で最も高かったが,これは分解されていたために Rubisco 含量が極端に 低かったためであり,実際の生体内の状態を反映していないと思われる. CC グループは,O. punctata(4n)(W1409),O. officinalis(W0002),O.grandiglumis(W0613),(W1194)の 4 系統からなる.このグループでは,OER(表 2)や Rubisco 含量(表 3)は高くないが,Rubisco 比活性,Rubisco activase/Rubisco 比は高かった(表 4).Rubisco 比活性が高かったことは in vitro のイネ Rubisco 活性を評価した Makino ら(1987)の結果と一致している.このグループでは,Rubisco のキネティクス特性は優れていると考えられ るものの,Rubisco 含量が不十分であるために,栽培種ほどの高い OER 値を実現できていないと考えられる.もし くは,Rubisco activase による Rubisco 活性化能力が低いと考えられる. DD グループは,O. grandiglumis の W0613 および W1194 からなる.これらを構成するゲノムには CC ゲノム も含まれる.よって CC ゲノムグループの特性も反映されていることが予想される.OER 値は比較的低かった(表 3).Rubisco 含量は比較的高く,Rubisco activase 含量は低かった(表 5).Rubisco 比活性および Rubisco activase/Rubisco 比は,全ゲノムグループの中で最も低かった(表 7).光合成と Rubisco 含量は高い相関を示す (Makino et al., 1984)が,深山(1998)は Rubisco よりも Rubisco activase 含量が光合成とより高い相関を示した. また,Rubisco activase/Rubisco 比が高いほど Rubisco 比活性は高かった(深山. 1998).このことから,DD グルー プでは,高い Rubisco 量に対して十分な Rubisco activase が存在していないために十分量の Rubisco を活性化で きず,OER 値が低かったと考えられる. EE グループは,O. australiensis の W0008 および W1538 からなる.O. australiensis は,平岡ら(1996)や Makino et al.(1987)の調査でも Rubisco キネティクス特性が高いことが示されている.このグループの OER 値は 全ゲノムグループ内で最も高かった(表 2).また Rubisco activase 含量が全ゲノムグループ内で最も高かった(表 4).Rubisco 比活性および Rubisco あたりの Rubisco activase 含量が他のグループと比較して最も高かったことも 特徴的であった.Rubisco 比活性が高かった要因として,Rubisco activase 含量の多さ,そして Rubisco activase の Rubisco 活性化能力の高さが考えられた. Makino ら(1987)により,同一属内において,構成ゲノムにより Rubisco のキネティクス特性が異なることが示唆 されたが,本実験の結果からも同じことが言える.とくに,EE ゲノムグループでは,Rubisco activase 量が多く,また Rubisco の活性化能力も優れている可能性があり,今後さらに生体内における Rubisco activase と光合成との関係 を調査する必要がある.今回の調査では,ゲノム間,系統間のばらつきも大きく,今後ゲノムおよび種を構成する 系統数,各系統個体数を増やしてさらに調査をする必要があると思われる. 15 第一章 第二節 O. australiensis の光合成に関する特性 第1章では,O. australiensis 2 系統(W0008,W1538)からなる EE ゲノムグループにおいて,個葉の最大光合 成能力が高く,in vivo における Rubisco activase の酵素特性も高いことが示唆された. そこで,第 2 章では,O. australiensis 4 系統を用いて光合成に関する特性についてさらに調査した.第1節では 大気条件下・定常状態における光合成特性を,第 2 節では大気条件下・非定常状態における光合成特性につ いて調べた.第 3 節では,葉内成分(窒素,クロロフィル,可溶性タンパク,Rubisco,Rubisco activase)を定量し,ま た Rubisco および Rubisco activase の構造変異について調査した.それらの結果から光合成と葉内成分の関係 について考察をおこなった. 材料 下記の栽培種 O. sativa cv.日本晴およびイネ属野生種 O. australiensis の 4 系統を用いた. 種 ゲノム 品種および Accession No. Oryza sativa AA Nipponbare Oryza australiensis EE 101410 103318 105165 105267 16 定常状態における光合成特性 方法 材料の育成とサンプリング 野生種の種子はあらかじめ 45℃で 5 日間の休眠打破処理をおこなった。界面活性剤(Tween20)を含む 1%次 亜塩素酸ナトリウム溶液で 30 分間攪拌することにより種子消毒した.水洗後,籾殻及び種皮を除去し,シャーレ 内の十分に蒸留水を含ませた濾紙上に種子を置き、30℃の恒温器内で催芽させた.日本晴の種子は,休眠打 破処理と籾殻・種皮の除去をしなかった以外は,野生種の種子と同様の処理を施し催芽させた.出芽した種子を 育苗ポットに播種し,温室内で栽培した.4~5 葉期に, 2L ビニルポットに,ポットあたり 1 個体移植し,系統あた り 10 個体を屋外にて栽培した.移植前に,ポットに本学水田土壌を入れ,N,P,K 各 0.5 g となるように化成肥料 を与えた.8~9 葉期に,各ポットに 0.5 gの N を追肥した. 約 10.5~12 葉期に,主稈の最上位完全展開葉を用い CO2 交換速度を,赤外線ガス分析計で測定した.各系 統につき反復は 7 個体とした.測定後,葉切片を液体窒素で凍結させ,葉内成分分析まで-80℃で保存した. ガス交換速度の測定 CO2 交換速度の測定には携帯用開放型光合成蒸散測定装置(LI-6400,LI-COR)を用いた.測定条件は,葉 温 25℃,Vpd 1.0±0.2 kPa とした.測定に用いる気体は,大気中の CO2 のみを除去し,CO2 ボンベから CO2 を取 り入れて CO2 濃度を目的の濃度に調整した.流量は 500 もしくは 600L/h とした.光源としてクロロフィル蛍光ユニ ットを用いた(6400-40,Li-Cor). 材料の葉身中央部をチャンバーにはさみ,光強度 500μmol quanta m-2 s-1, 21% O2 濃度,350 ppm CO2 濃度 で十分に安定させてから測定を開始した. 測定は,光強度 1800μmol quanta m-2 s-1, O2 濃度 21%固定,CO2 濃度は 50~1000 ppm の範囲で 7 段階に 変化させて CO2 交換速度の測定をおこなった.また,大気条件下(O2 濃度約 21%,CO2 濃度約 350 ppm)で,光 強度を 150~2000 ppm の範囲で 7 段階に変化させて CO2 交換速度の測定をおこなった.各光強度,CO2 濃度 において,5 分以上安定させてから測定を開始した. クロロフィル蛍光は CO2 交換速度の測定と同時に測定した. 励起光下において CO2 ガス交換速度が安定した後,飽和パルス光を 1 秒間照射し,Fm’, Fs を測定した.ガス交 換に関わるパラメーターは,von Caemerer and Farquhar (1981)によって算出した. カルボキシレーション効率は,光合成速度- Ci 曲線の初期勾配から求めた.また光および CO2 濃度飽和条件 下の最大光合成速度 CERmax とその半分の速度を与える基質 CO2 濃度 Km を CO2 交換速度と Ci をテーラー展開 することによって推定した(内田ら,1988). 17 結果 CO2 濃度と光合成速度 日本晴と O. australiensis の 4 系統の Ci-光合成速度(CER)曲線を図 6A に示した.Ci の上昇に伴い,個葉光 合成速度は最初直線的に増加し,その後飽和した.反応曲線は,O. australiensis は日本晴よりも凸型を示し, 日本晴よりも低い Ci 濃度で飽和状態へと推移した.O. australiensis 4 系統の個葉光合成速度は,Ci 90-880 ppm の範囲において日本晴よりも高く,O. australiensis の平均値と日本晴を比較すると Ci 90-280 ppm では 5%水準 または 1%水準で有意差が認められた.O. australiensis 4 系統間では差はなかった.CO2 濃度が高くなるにつれ O. australiensis と日本晴間の差は小さくなり,その差は Ci 600 ppm 以上ではほとんどなくなった. 40 30 日本晴 101410 20 103318 105165 10 105267 0 0 200 400 600 800 1000 Ci (ppm) 図6A .Ci-光合成反応曲線 表 5 には飽和光,大気 CO2 濃度条件下の光合成速度(CER350),カルボキシレ-ション効率(CE),光・CO2 飽 和下の最大光合成速度(CERmax),Kmを示した. CER350 は,O. australiensis の 4 系統は,日本晴よりも 17~20%高い値を示し,5%水準または1%水準で有意 差が認められた(表 5).O. australiensis 間で差はほとんどないものの,105165 が最も高い値を示した.また in vivo の Rubisco 活性型量を表すカルボキレーション効率(CE)を Ci -光合成曲線(図 6A)の初期勾配から求めた (表 5).CER350 と同様で O. australiensis の 4 系統はそれぞれ日本晴よりも 15~17%高い値を示し,103318, 105165,105267 では日本晴との間に 5%水準で有意差があった.このことから,O. australiensis の CE は日本晴 よりも優れていることがわかった.O. australiensis 間の差はなかった. 18 表 5. 各系統のガス交換パラメーター CER350 CE CERmax (μmol m-2 品種および系統 Km (μmol m-2 -2 -1 (mol m s ) (ppm) s-1) 番号 s-1) 日本晴 25.3±5.5 (100) 0.106±0.021 (100) 61.3±6.9 (100) 336.7±92.3 (100) 101410 29.8±1.8 (118)* 0.121±0.009 (115) 54.6±7.9 (89) 195.3±48.4 (58)** 103318 29.6±2.2 (117)* 0.122±0.012 (115)* 54.4±3.2 (89) 183.8±19.8 (55)** 105165 30.4±2.8 (120)** 0.124±0.012 (117)* 55.1±11.1 (90) 190.3±72.2 (57)** 105267 29.7±2.8 (117)* 0.123±0.016 (116)* 55.4±5.7 (90) 188.2±57.3 (56)** 平均±標準偏差、( )内の数値は日本晴に対する百分率、 *:5%水準で日本晴に対して有意差あり、**:1%水準で日本晴に対して有意差あり テーラー展開により算出した CERmax の推定値は,O. australiensis 各系統で日本晴よりも低く,日本晴の約 90%だった(有意差なし).同様にテーラー展開により算出したKm値(CERmax の半分の速度を与える基質 CO2 濃 度)は,O. australiensis の各系統で日本晴よりも極めて低い値を示し,その値は日本晴の約 55~58%だった. 気孔伝導度の CO2 反応曲線を図 6B に示した.Ci 430 ppm まではほぼ一定で,それ以上では CO2 濃度の上 昇に伴い低下していった.今回調べた Ci 濃度範囲において O. australiensis の気孔伝導度は日本晴よりも高かっ た.O. australiensis 各系統の値はほぼ同じだった. 1.8 1.5 日本晴 1.2 101410 103318 0.9 105165 0.6 105267 0.3 0.0 0 200 400 600 800 Ci (ppm) 図6B .Ciによる気孔伝導度の推移 19 1000 図 6C には,外気 CO2 濃度と Ci 濃度の関係を示した.外気 CO2 濃度の増加と伴に Ci も直線的に増加した.O. australiensis と日本晴ではほとんど差がなかった. 1200 1000 800 日本晴 101410 600 103318 105165 400 105267 200 0 0 200 400 600 800 1000 大気CO2 濃度(ppm) 図6C .Ci の変化 クロロフィル蛍光パラメーターから算出した電子伝達速度(ETR),光化学系Ⅱ実効量子収率(ΦPSⅡ),実効 量子収率(Fv’/Fm’),光化学的消光(qP)の CO2 反応曲線を図 7A~D に,各 CO2 濃度におけるパラメーター値 を表 6 に示した. 表 6. Ci 反応曲線における各パラメーターの値 CER 日本晴 101410 103318 105165 105267 O.austlraliensis 平均 50 0.6±0.9 0.1±0.7 0.2±0.4 0.1±0.3 0.1±0.6 0.1±0.5 0.2±0.6 100 4.7±1.5 6.2±0.5* 6.2±0.8* 6.3±0.9* 5.7±0.9 6.1±0.8** 5.8±1.1 200 13.9±2.3 16.9±1.3* 17.8±1.5* 17.7±2.1* 16.9±1.5* 17.4±1.6** 16.6±2.2 350 25.3±5.5 29.8±1.8** 29.6±2.2** 30.4±2.8* 29.7±2.8** 29.9±2.3** 28.9±3.6 500 33.0±5.5 36.0±2.7 36.2±3.5 35.7±2.6 37.3±3.6* 36.3±3.0* 35.6±3.8 700 37.1±5.5 38.7±2.9 38.9±2.9 38.2±3.4 39.3±3.1 38.7±2.9 38.4±3.6 1000 39.6±5.2 40.3±4.2 40.9±2.4 40.7±6.4 40.6±3.1 40.6±4.1 40.4±4.3 20 qP 日本晴 101410 103318 105165 105267 O.austlraliensis 平均 50 0.343±0.057 0.326±0.029 0.333±0.028 0.337±0.033 0.299±0.023* 0.325±0.033 0.328±0.038 100 0.402±0.059 0.403±0.038 0.424±0.043 0.430±0.052 0.369±0.021 0.408±0.044 0.407±0.046 200 0.468±0.048 0.478±0.040 0.499±0.033 0.509±0.050 0.465±0.040 0.489±0.041 0.484±0.042 350 0.510±0.051 0.529±0.020 0.534±0.013 0.535±0.038 0.528±0.033 0.532±0.027 0.527±0.032 500 0.520±0.047 0.531±0.013 0.543±0.013 0.538±0.028 0.543±0.020 0.539±0.020 0.535±0.027 700 0.524±0.045 0.519±0.016 0.533±0.014 0.531±0.023 0.524±0.012 0.527±0.018 0.526±0.024 1000 0.504±0.040 0.507±0.014 0.519±0.016 0.520±0.025 0.507±0.014 0.514±0.021 0.512±0.025 日本晴 101410 103318 105165 105267 O.austlraliensis 平均 50 0.330±0.016 0.304±0.010* 0.309±0.021 0.293±0.020** 0.291±0.040** 0.300±0.023** 0.340±0.108 100 0.341±0.018 0.337±0.003 0.339±0.022 0.330±0.013 0.331±0.031 0.335±0.019 0.367±0.096 200 0.362±0.028 0.358±0.007 0.363±0.028 0.362±0.013 0.351±0.033 0.359±0.023 0.386±0.089 350 0.374±0.033 0.379±0.023 0.368±0.019 0.384±0.025 0.364±0.027 0.374±0.023 0.405±0.083 500 0.390±0.038 0.388±0.025 0.387±0.027 0.401±0.023 0.382±0.027 0.390±0.024 0.420±0.083 700 0.384±0.038 0.381±0.023 0.380±0.024 0.390±0.019 0.381±0.027 0.383±0.022 0.416±0.088 1000 0.370±0.039 0.374±0.024 0.375±0.016 0.379±0.016 0.377±0.025 0.376±0.020 0.412±0.091 日本晴 101410 103318 105165 105267 O.austlraliensis 平均 50 0.113±0.017 0.099±0.007 0.103±0.012 0.099±0.009 0.087±0.015** 0.097±0.013* 0.100±0.015 100 0.137±0.024 0.136±0.014 0.144±0.018 0.142±0.017 0.122±0.014 0.136±0.017 0.137±0.018 200 0.170±0.025 0.171±0.017 0.182±0.021 0.184±0.018 0.163±0.015 0.175±0.019 0.174±0.020 350 0.192±0.034 0.201±0.019 0.197±0.011 0.206±0.027 0.192±0.018 0.199±0.020 0.198±0.022 500 0.204±0.035 0.206±0.017 0.210±0.017 0.216±0.023 0.207±0.017 0.210±0.018 0.209±0.022 700 0.202±0.034 0.198±0.018 0.203±0.013 0.208±0.019 0.200±0.015 0.202±0.017 0.202±0.020 1000 0.187±0.030 0.190±0.017 0.195±0.011 0.198±0.017 0.191±0.013 0.194±0.016 0.192±0.019 Fv'/Fm' PhiPS2 21 ETR 日本晴 101410 103318 105165 105267 O.austlraliensis 平均 50 86.1±13.5 75.6±5.1 78.8±9.5 75.5±6.8 66.4±11.2** 74.4±9.8* 76.8±11.3 100 105.0±18.0 104.0±10.4 110.2±13.7 108.3±12.7 93.3±10.9 104.4±13.0 104.5±13.6 200 129.6±19.4 130.9±13.3 138.9±15.8 140.5±13.8 124.6±11.5 134.1±14.7 133.1±15.4 350 146.5±25.7 153.6±14.4 150.5±8.7 157.8±20.9 146.6±14.0 152.3±15.1 151.1±16.9 500 155.6±26.9 157.6±12.8 160.8±13.1 165.4±17.9 158.6±12.8 160.7±14.1 159.6±16.7 700 154.6±26.1 151.3±13.8 154.8±9.7 158.8±14.3 152.6±11.5 154.5±12.6 154.5±15.5 1000 143.1±23.1 145.3±13.4 149.0±8.1 151.2±13.1 146.0±10.2 148.0±12.3 147.0±14.5 平均±標準偏差 *:5%水準で日本晴に対して有意差あり、**:1%水準で日本晴に対して有意差あり 200 0.6 C 150 0.4 Fv'/Fm' -2 s-1) A ETR ( 100 0.2 50 0 0.0 0 200 400 600 800 1000 0 200 400 600 800 1000 400 600 800 1000 0.6 0.4 B 0.5 ΦPSⅡ 0.4 0.3 0.2 0.2 0.1 0.0 0 200 400 600 800 0.0 1000 0 200 Ci (ppm) 図 7.Ci-クロロフィル蛍光パラメーター反応曲線 A.電子伝達速度(ETR)、B.光化学系Ⅱ実効量子収率(ΦPSⅡ) C.実効量子収率(Fv'/Fm')、D.光化学的消光(qP) 22 電子伝達速度(ETR)は,CO2 濃度の上昇に伴い増加したが,Ci 430 ppm 以上では緩やかに減少した(図 7A). O. australiensis も日本晴も似た反応曲線を描いた.Ci 50 ppm では,日本晴より高い値を示した系統はなく, 105267 でのみ 1%水準で有意差があった.それ以上の CO2 濃度では各系統と日本晴の間に有意差はなかった が,O. australiensis は日本晴と同等もしくはそれ以上の値を示した.O. australiensis の中では 103318 および 105165 が Ci 濃度全般にわたって高い傾向にあった.逆に,101410,105267 は Ci 濃度全般にわたって低い傾向 にあった. 光化学系Ⅱの量子収率(ΦPSⅡ)の反応曲線は ETR と同様であった.Ci 400 ppm までは Ci 濃度の上昇に伴い 増加したが,それ以上では緩やかに減少した(図 7B).O. australiensis も日本晴も似た反応曲線を描いた.O. australiensis 内での各系統の傾向についても同様であった. Fv’/Fm’(光化学系Ⅱの反応中心がすべて開いているときの最大量子収率)は,O. australiensis 4 系統と日本 晴はほぼ同じ反応性を示した(図7C).CO2 濃度の上昇に伴い緩やかに増加し,Ci 430 ppm 以上でやや減少し た.Ci 50 ppm では日本晴よりも 1%水準で有意に低く,O. australiensis の系統別にみても 101410,105165, 105267 で 5%水準または 1%水準で日本晴に対して有意に低かった.Ci 50-90 ppm では日本晴より高い値を示 した系統はなく,O. australiensis 内では,103318 および 101410 が特に高かった.Ci 280 ppm 以上では,105165 が特に高い値を示し,その他の 3 系統は日本晴と同等かそれ以下の値だったが,Ci 880 ppm では全ての系統で 日本晴よりも高い値を示した. 光化学消光(photochemical quenching coefficient)qP は,O. australiensis と日本晴ではわずかに反応曲線に 違いがあった(図 7D).日本晴は Ci 600 ppm までは CO2 濃度の上昇に伴い増加し続けたが,O. australiensis は Ci 430 ppm まで増加しその後やや減少した.Ci 50 ppm では 105267 が日本晴よりも有意に低かった(P<0.05).そ れ以上の濃度では各系統と日本晴との間に有意差はなかったが,ほとんどの系統が日本晴以上の値を示した. 103318 と 105165 で高く,101410,105267 で低い傾向にあった.特に 105267 は Ci 50-160 ppm において,日本 晴および O. australiensis の他の 3 系統と比較してもかなり低い値だった. クロロフィル蛍光パラメーターの結果をまとめると,いずれも O. australiensis と日本晴は似た反応曲線(図 7)を 示した.O. australiensis に見られた傾向は,次のとおりである.①ETR,ΦPSⅡ,qP では Ci 90 ppm 以上で,日本 晴より高い値をとる傾向にあったが,有意差はなかった.②Fv’/Fm’は,Ci 50 ppm で日本晴よりも有意に低く,Ci 620 ppm までにおいても日本晴と同等かそれ以下だった. また O.australiensis 内では,どのパラメーターも 103318 と 105165 で値が高く,101410,105267 で低いという傾 向があった.特に 105267 では Ci 280 ppm までの低 Ci 下でその低さが顕著だった. 23 光強度と光合成速度 日本晴と O. australiensis の 4 系統の光強度-光合成速度(CER)曲線を図 8A に示した.光強度の増加ととも に光合成速度は増加し,1000 μmol quanta m-2 s-1 以上で飽和傾向を示した.O. australiensis 4 系統と日本晴を 比較すると,150 μmol quanta m-2 s-1 では,O. australiensis は日本晴よりも約 50%,250-2000 μmol quanta m-2 s-1 では 13~19%高く,1%水準で有意差があった.O. australiensis 系統間では光合成速度にほとんど差はなか った. また,光-光合成速度曲線(図 8A)の初期勾配から光合成のみかけの光利用効率を求めた(表 7). O. australiensis の 4 系統は日本晴(0.034 mol mol-1)の 27~51%高い値を示し,全ての系統で日本晴に対して 5% 水準または 1%水準で有意差が認められた.105267 で最も高く(0.051 mol mol-1),105165 で最も低かった(0.043 mol mol-1). 表 7.各系統の光利用効率 光利用効率 (mol mol-1) (%) 日本晴 0.034±0.005 (100) 101410 0.047±0.005 (139)** 103318 0.049±0.004 (146)** 105165 0.043±0.007 105267 0.051±0.010 (151)** 品種および系統番号 (127)* 平均±標準偏差、( )内の数値は日本晴に対する百分率、 *:5%水準で日本晴に対して有意差あり、**:1%水準で日本晴に対して有意差あり 各光強度における気孔伝導度を図 8B に示した.光強度-光合成速度(図 8A)と似た曲線を示し,光強度の増 加に伴い増加した.今回調べた光強度範囲における O. australiensis の気孔伝導度は全系統で日本晴よりも高 かった. 各光強度における Ci を図 8C に示した.150-2000 μmol quanta m-2 s-1 でほぼ一定で,O. australiensis と日 本晴でほぼ同じだった. 24 1.2 30 0.9 20 0.6 10 0.3 0.0 0 0 500 1000 1500 光強度( -2 0 2000 500 1000 光強度( s- ) 図8A.光強度-光合成反応曲線 300 日本晴 101410 200 103318 105165 100 105267 0 500 1000 光強度( - s ) 図8B.光強度による気孔伝導度の推移 1 1 0 1500 -2 1500 -2 2000 s- ) 図8C. 光強度によるC iの変化 1 25 2000 クロロフィル蛍光パラメーターの光強度に対する反応曲線を図 9A~D に示した.また各光強度における光合成 速度,クロロフィル蛍光交換パラメーター値を表 8 に示した. ETR は,光強度の増加に伴い増加したが,1500 μmol quanta m-2 s-1 以上では低下した.この傾向は,O. australiensis と日本晴に共通していた.全体的に O. australiensis は日本晴よりも高く,特に 500-2000 μmol quanta m-2 s-1 では,O. australiensis の全ての系統で日本晴よりも高かった.その中でも 103318 が最も高く,日本 晴に対して有意に高かった(P<0.05,P<0.01)(図 9A,表 8).O. australiensis の中では 105267 が,150-2000 μ mol quanta m-2 s-1 の範囲で低い傾向にあった. ΦPSⅡは,150-2000 μmol quanta m-2 s-1 で O. australiensis は日本晴よりも高かったが,光強度の増加に伴 い減少する傾向は同じだった.103318 のみが 150-2000 μmol quanta m-2 s-1 の範囲で日本晴に対して 5%水準 または 1%水準で有意に高かった(図 9B,表 8). Fm’/Fv’は,O. australiensis と日本晴はほぼ同じ反応曲線を描いた.150-250 μmol quanta m-2 s-1 ではわず かに増加し,500 μmol quanta m-2 s-1 以上では光強度の増加に伴い減少していった(図 9C).値は,105267 を 除く 3 系統で日本晴よりも高かったが有意差はなかった.103318 と 105165 は弱光~強光において高い傾向があ った. qP はΦPSⅡと同様で,O. australiensis と日本晴は光強度の上昇に対して同じ反応を示し,上昇に伴い減少 していった(図 9D).値は 150-2000 μmol quanta m-2 s-1 に至るまで,O. australiensis は日本晴よりも高かった. 101410 は 150-750 μmol quanta m-2 s-1,103318 は 150-1500 μmol quanta m-2 s-1,105267 は 150-1000 μmol quanta m-2 s-1 において 5%または 1%水準で日本晴よりも高く(表 8),これら 3 系統の値はほぼ同じだった.O. australiensis では,105165 のみが上の 3 系統より低かった. クロロフィル蛍光のパラメーターについてまとめると,いずれも O. australiensis と日本晴は似た反応曲線を示し, また O. australiensis は日本晴より高い値をとる傾向にあった(図 9).qPは,105165 以外の系統で日本晴よりも有 意に高かったが,qP以外(ETR,ΦPSⅡ,Fv’/Fm’)では O.australiensis 全体で日本晴に対して有意に高いと は言えなかった.O. australiensis 内では,103318 は各パラメーターにおいて高い値をとる傾向があった.特にΦ PSⅡとETRでは,103318 のみが日本晴に対して有意に高い値を示した.105267 ではqPは高かったが,ETR, ΦPSⅡ,Fv’/Fm’では低い値をとる傾向にあった. 26 表 8.光強度反応曲線における各パラメーターの値 CER 日本晴 101410 103318 105165 105267 O.austlraliensis 平均 150 3.5±1.7 6.4±0.6** 7.5±1.8** 5.9±1.1** 7.0±1.4** 6.7±1.4** 6.0±1.9 250 9.0±1.4 11.3±0.9** 10.9±1.8* 10.6±1.3 11.0±1.7* 11.0±1.4** 10.6±1.6 500 15.3±2.0 18.3±1.8** 19.1±1.4** 18.7±2.1** 19.4±2.2** 18.9±1.8** 18.1±2.3 750 19.1±2.8 22.4±2.4** 24.0±2.0** 22.7±1.8** 23.4±2.5** 23.1±2.1** 22.3±2.8 1000 21.9±2.4 25.1±2.0** 27.3±2.3** 25.6±1.6** 26.6±2.3** 26.1±2.1** 25.2±2.8 1500 24.4±3.6 28.1±2.0** 30.0±2.1** 29.2±1.7** 29.1±2.4** 29.1±2.1** 28.1±3.1 2000 26.0±3.4 30.3±1.8** 32.0±2.4** 31.1±2.1** 31.0±2.3** 31.1±2.1** 30.0±3.2 日本晴 101410 103318 105165 105267 O.austlraliensis 平均 150 0.893±0.031 0.939±0.031* 0.967±0.041** 0.897±0.032 0.965±0.046** 0.941±0.045* 0.931±0.047 250 0.864±0.019 0.909±0.028* 0.934±0.028** 0.859±0.033 0.922±0.046** 0.905±0.042* 0.897±0.042 500 0.791±0.042 0.839±0.028** 0.850±0.026** 0.795±0.026 0.850±0.024** 0.833±0.033** 0.824±0.038 750 0.735±0.056 0782±0.034* 0.790±0.028** 0.751±0.033 0.792±0.024** 0.778±0.032* 0.769±0.041 1000 0.689±0.062 0.730±0.042 0.740±0.037* 0.713±0.025 0.745±0.018* 0.731±0.031* 0.723±0.043 1500 0.563±0.059 0.594±0.052 0.630±0.029** 0.617±0.015 0.608±0.026 0.612±0.036** 0.602±0.046 2000 0.463±0.053 0.482±0.043 0.510±0.019 0.513±0.024 0.465±0.084 0.493±0.047 0.487±0.050 日本晴 101410 103318 105165 105267 O.austlraliensis 平均 150 0.674±0.026 0.676±0.015 0.676±0.015 0.668±0.017 0.654±0.072 0.669±0.035 0.670±0.033 250 0.677±0.018 0.677±0.016 0.682±0.010 0.673±0.013 0.647±0.084 0.671±0.039 0.672±0.035 500 0.632±0.020 0.633±0.025 0.652±0.017 0.641±0.012 0.622±0.060 0.637±0.031 0.636±0.029 750 0.577±0.021 0.578±0.020 0.602±0.023 0.588±0.013 0.568±0.047 0.585±0.029 0.583±0.027 1000 0.525±0.016 0.524±0.017 0.545±0.030 0.538±0.012 0.512±0.042 0.530±0.029 0.529±0.026 1500 0.445±0.022 0.446±0.013 0.461±0.020 0.451±0.014 0.433±0.031 0.448±0.022 0.448±0.021 2000 0.398±0.021 0.394±0.014 0.405±0.015 0.394±0.011 0.382±0.027 0.394±0.019 0.395±0.019 qP Fv'/Fm' 27 φPSⅡ 日本晴 101410 103318 105165 105267 O.austlraliensis 平均 150 0.602±0.037 0.635±0.018 0.653±0.017* 0.599±0.014 0.632±0.083 0.629±0.043 0.624±0.043 250 0.585±0.025 0.615±0.021 0.637±0.026* 0.578±0.021 0.598±0.092 0.608±0.043 0.603±0.044 500 0.501±0.038 0.532±0.036 0.554±0.022* 0.510±0.024 0.529±0.061 0.531±0.038 0.525±0.039 750 0.424±0.041 0.453±0.033 0.475±0.023** 0.441±0.024 0.451±0.045 0.455±0.032* 0.449±0.036 1000 0.362±0.038 0.382±0.030 0.404±0.033* 0.384±0.018 0.382±0.039 0.388±0.030 0.383±0.033 1500 0.250±0.030 0.265±0.022 0.290±0.014* 0.278±0.014 0.264±0.026 0.275±0.023* 0.270±0.026 2000 0.184±0.021 0.190±0.014 0.207±0.011* 0.203±0.014 0.188±0.016 0.197±0.018 0.194±0.019 日本晴 101410 103318 105165 105267 O.austlraliensis 平均 150 38.2±1.9 40.1±1.2 45.3±10.3* 38.0±0.9 38.0±6.4 40.5±6.1 40.0±5.6 250 62.0±2.5 64.8±2.2 63.2±10.1 61.5±2.4 60.0±10.2 62.5±6.7 62.4±6.0 500 106.1±8.2 113.0±7.7 117.5±4.5* 108.0±5.0 107.0±15.4 111.5±9.1 110.4±9.1 750 135.2±12.9 143.9±10.6 151.4±7.1* 140.6±7.8 143.5±14.3 144.9±10.3* 142.9±11.3 1000 153.4±16.0 162.3±12.7 174.1±8.0* 163.0±7.5 162.0±16.5 165.5±12.0* 163.0±13.6 1500 161.5±19.5 168.5±13.9 185.0±9.0** 177.4±9.2 168.0±16.8 175.0±14.9* 172.2±16.3 2000 156.1±18.1 161.2±11.8 175.6±9.7* 172.2±12.1 159.8±13.8 167.5±15.0 165.1±15.9 ETR 平均±標準偏差、*:5%水準で日本晴に対して有意差あり、**:1%水準で日本晴に対して有意差あり 28 考察 イネ属野生種 O. australiensis の定常状態における光合成特性を栽培種 O. sativa L. 日本晴と比較した.O. australiensis は,低~高細胞間隙 CO2 濃度(Ci)下にわたって日本晴よりも光合成速度が高かった(図 6A).特に 大気 CO2 濃度以下で顕著であり,飽和光,大気 CO2 濃度条件下の光合成速度(CER350)も高かった(表 5).また 気孔伝導度(図 6B),カルボキシレーション効率(CE)も高かった(表 5).これらの特徴は,赤外線分析法によりイ ネ野生種の光合成能力を評価した Yeo ら(1994)や寺田(1999)の結果と一致する.一方,高 CO2 濃度下では日 本晴との差は小さくなり(図 6A),推定された最大ガス交換速度(CERmax)は日本晴よりも低かった(表 5).これは, 本研究第一章の結果と一致するが,平岡ら(1996)の結果とは異なっていた.平岡らは酸素電極により最大光合 成能力を評価したが, O. australiensis では日本晴より高かった.また O. australiensis の光合成速度は, 150-2000 μmol quanta m-2 s-1 の光強度において日本晴より高く(図 8A),気孔伝導度も高かった(図 8B).光光合成曲線の初期勾配で示される光利用効率についても,日本晴より高かった(表 7).これも Yeo ら(1994)の結 果と一致した.今回の実験から示された O. australiensis の CE が高いことや光利用効率が高いことは,定常状態 時の光合成にとって有利な特徴であると考えられる. O. australiensis の定常状態の光合成の特徴についてさらに詳しく考察していく. 光合成の CO2 反応は,気孔伝導度,RuBP カルボキシレーション能力,RuBP 再生能力によって決定される (Farquhar et al.,1980).気孔伝導度は,葉内の CO2 濃度を調節する.RuBP カルボキシレーション,RuBP 再生は, それぞれ低 Ci 域,高 Ci 域で光合成速度を制限する. 今回,O. australiensis の気孔伝導度は日本晴より高かった(図 6B).しかし,Ci はほぼ同じだったことから(図 6C),気孔伝導度の違いが光合成に与えている影響は小さいと考えられた. RuBP カルボキシレーションから RuBP 再生への律速要因の移行は,大気 CO2 濃度~2 倍の大気 CO2 濃度の 間でおこるとされている(Stitt ,1991).今回, O. australiensis が O. sativa よりも有意に光合成速度が高かったの は,RuBP カルボキシレーションが律速要因となる CO2 濃度域(<350ppm(大気))でである(図 6A).よって,O. australiensis は O. sativa よりも Rubisco のカルボキシレーション能力が優れていると考えられる.O. australiensis は O. sativa よりもカルボキシレーション効率が高く,Km 値は著しく低かった(表 5).これらの特徴からも Rubisco のカルボキシレーション能力(酵素特性)が優れていることが推測される. カルボキシレーション効率(CE)は,光飽和下 Ci -光合成曲線の低 Ci 域における直線部分の勾配(初期勾配) で表される.低 Ci 下では,Rubisco に対して RuBP 濃度は飽和しているので,光合成速度は Rubisco によって律 速されている(Sage and Reid,1994).よって CE は in vivo の Rubisco の活性型量の指標となる(von Caemmerer and Farquhar,1981 内田,1996).O. australiensis の CE が高かったことから(表 5),低 Ci 下で Rubisco の活性型 量が多いと考えられ,低 Ci 域で高かった光合成速度も説明できる. 29 Km 値は,O. australiensis は O. sativa の約半分だった(表 5).Km は最大光合成速度 CERmax の 1/2 の速度を 与える CO2 濃度である.この Km 値の逆数が基質 CO2 に対する親和性を表すことから O. australiensis の光合成 反応は O. sativa よりも CO2 に対する親和性が高いことがわかる.このことから,O. australiensis では Rubisco の CO2 に対する親和性が高いと考えられる.C3 植物と C4 植物では Rubisco の Km(CO2)(Rubisco の CO2 に対するミ カエリス定数)は異なり(Yoeh et al.,1980,1981),Km(CO2)やカルボキシレーション化/オキシゲネーション化の比 は,植物界の自然淘汰によって著しく変化してきた(Jordan and Ogren,1989).今回の実験では,Km 値は野生種 で低く,日本晴で高かった(表 5).C3 植物であるイネの光合成では CO2 と O2 は競合関係にあるため,Km 値は低 い方が光合成に有利である.野生環境下で生育している野生種の Km 値が自然淘汰の過程で得られたものだと すると,栽培種ではその性質が栽培化の過程で落とされたのかもしれない. O. australiensis と O. sativa の光合成速度の差が小さくなった高 CO2 濃度域では,RuBP 再生が律速要因とな っている.RuBP 再生は,チラコイド膜での電子伝達反応の産物である ATP と NADPH を用いてカルビン・ベンソ ン回路でおこなわれる.よって RuBP 再生能力には電子伝達系(von Caemmerer and Farquhar,1981)とカルビン・ ベンソン回路における生化学反応が多数関与する.RuBP 再生に影響する電子伝達系については,クロロフィル 蛍光を測定した結果,各パラメーターは日本晴とほとんど差がなく,電子伝達速度についても O. australiensis と 日本晴間で有意差はなかった(図 7A).これらのことから,O. australiensis の電子伝達能力は O. sativa と変わら ず,そのために高 CO2 濃度下での光合成速度がほぼ同じだったと考えられた. O. australiensis の光-光合成曲線は日本晴よりも上方に位置した(図 8A).その間,気孔伝導度も高かったが (図 8B),Ci は日本晴とほぼ同じだった(図 8C).よって,気孔伝導度の違いは葉内でおきている光合成反応には ほとんど影響していないと考えられた. 大気 CO2/O2 濃度,強光下での個葉光合成速度は,Rubisco によるカルボキシレーション反応に律速されてい る.強光下においても O. australiensis の光合成速度が高かったことから,O. australiensis の Rubisco のカルボキ シレーション能力が優れていると考えられる.これは,CO2-光合成反応曲線からも推測された結果と一致する. 弱光下では RuBP 再生能力により律速されている.これは,チラコイド膜上での光合成電子伝達系とカルビン・ ベンソン回路での RuBP 再生反応が共役しているためである.弱光下では電子伝達速度の低下により,NADPH と ATP の生産が抑制され RuBP 再生速度が低下するために律速要因となる.よって,電子伝達速度は RuBP 再 生能力に大きく影響しているが(Farquar et al., 1980),今回クロロフィル蛍光から求めた電子伝達速度は日本晴 よりも高かったが有意差はなく(図 9A,表 8),1%水準で日本晴よりも高かった O. australiensis の光合成速度を 説明できるものではないと言える. RuBP 再生には,電子伝達以外に Pi の再生も影響すると考えられている.Pi 再生は ATP 生産に影響し,その 結果として RuBP 再生に影響する.葉緑体内 Pi は,デンプン合成時に遊離される Pi や細胞質におけるスクロース 30 合成時に生じた Pi がトリオースリン酸ロケーター(TPT)で取り込まれることによって供給される.このことから,デン プン合成やスクロース合成が光合成速度に影響を与えると考えられている(Sharkey, 1985).実際,光強度の低 下がスクロース合成のダウンレギュレーションを引き起こしたことが示されているが(Stitt et al., 1988),弱光下に おいて Pi 再生の活性が光合成に及ぼす影響は電子伝達活性よりも極めて低く,律速要因になるとは考えにくい (Sage, 1990).よって,弱光下で O. australiensis の光合成速度が高かった要因が Pi 再生能力の高さである可能 性は低い. 弱光下の光-光合成反応を特徴付けるものに,その初期勾配から求める光利用効率がある. O. australiensis の光利用効率は日本晴よりも高かった(表 7).これは,Yeo ら(1994)の結果と一致する.光利用 効率は,葉に照射された光あたりの光合成量(CO2 吸収量)であり,みかけの量子収率とも呼ばれる.この光利用 効率が高いということは,照射された光を多く吸収している,もしくは吸収した光を効率よく光合成に利用している ことを示唆している.前者はクロロフィル含量が関係するので本章第 3 節で述べる.後者に大きく影響する要因の 一つに,光呼吸がある.通常の大気 CO2 濃度(約 350 ppm)下では,CO2 を固定する Rubisco は,RuBP のカルボ キシレーションとオキシゲネーションの両方を触媒する.オキシゲネーションによってエネルギーが消費され,固 定された CO2 が失われる.このエネルギー消費および CO2 損失の両方によってみかけの量子収率は低下する. Yeo ら(1994)は,O. australiensis の光呼吸の程度は O. sativa よりも低かったことを報告している.今回の実験か らは光呼吸について知ることはできないが,本実験と Yeo らの結果は一致している点が多いことから,本実験で用 いた O. australiensis の光呼吸も日本晴より低かった可能性が考えられる.この光利用効率の数値は弱光下での 光合成速度の指標にもなることから,弱光下で O. australiensis の光合成速度が高かった要因は光呼吸の低さで あり,それによって高い光利用効率(見かけの量子収率)を実現できていたのかもしれない. O. australiensis の定常状態の光合成速度については,飽和光・飽和 CO2 濃度下では低かったが,低 Ci,弱光 ~強光下では特に高かった.その原因として,O. australiensis では CE が高く,Km が低いことから,Rubisco のカ ルボキシレーション能力が優れていることが考えられた. 31 非定常状態における光合成特性 光合成速度は,光強度,温度,湿度などさまざまな環境要因により影響をうける.その中でも光は最も重要な要 因の一つである.植物のさらされている光環境は,昼夜の日周変動を含めて,個体間での相互遮蔽,雲の厚さや 動きなどにより,刻々と変化している.このような中で光合成は非定常状態となっている. Rubiscoは CO2 同化の初発反応を触媒する酵素であるが,その触媒速度は非常に遅く,光合成速度を最適 に保つために,葉内タンパク質のほとんどはRubiscoに割り当てられていると考えられる(Evans, 1989).しかしそ のために,Rubiscoは光合成速度を制限する主要因の一つとなっている(Woodrow and Berry, 1988).このRubi scoの触媒活性には光強度も影響し,弱光下では低く,強光下では高い.弱光から強光へ変化した時の Rubisco 触媒活性の回復速度は比較的遅く,光強度上昇に対する光合成反応を制限している(Pearcy, 1990). 光合成の定常状態と非定常状態ではいくつかの違いがある.光環境が突然変化したときの光合成速度の応答 は,その前に葉がどのような環境に置かれていたかによって大きく異なる.例えば,ある一定時間弱光下に置い た後,光強度を増加させると,光合成速度は数分かけて上昇し,新たな定常状態に達する(Pearcy, 1990).この プロセスにおける気孔の影響を無視するなら(Woodrow and Mott, 1989),非定常状態は2つのプロセスで決定さ れる.最初のプロセスは,カルビン・ベンソン回路(光合成的炭酸還元回路)における RuBP 再生速度である.この 反応は光強度の上昇に対して急速に反応し,上昇後すぐの光合成反応を誘導する(Sassenarath-Cole and Pearcy,1992; Peracy et al., 1994).2番目のプロセスは,Rubiscoが触媒的不活性型から活性型に変化する活性 化速度によって大きく制限されている(Woodrow and Mott, 1989).Rubisco が触媒活性型に変化しカルボキシレ ーション能力が増加することで光合成が活性化される.この過程は,Rubisco-RuBP 不活性型複合体からのRuB Pの除去(Wang and Portis, 1992),および Rubisco 触媒部位のカルバミル化(アクチベーターCO2 と Mg2+の活性 部位への結合)が関与する(Lorimer and Miziorko, 1980).(カルバミル化された活性型に RuBP が結合すること で,CO2 や O2 と反応する).前者の過程は, Rubisco activase による触媒に促進される.ATPase 活性を伴う Rubisco activase が ATP 加水分解によって得られるエネルギーを利用して不活性型からの RuBP の除去を促進 する(Wang and Portis, 1992)ことで,自発的な場合よりも解離速度を早くする(Portis, 1995).したがって,光強度 増加後の光合成は,光飽和定常状態のときと同じように Rubisco 濃度によっても制限されるが,光強度上昇後の 活性型 Rubisco の割合を決定する要因にも制限されると考えられる.その一つが Rubisco activase 活性である. 本節では,植物が置かれている自然環境下での光合成特性を把握するために,弱光から飽和光にさらされた 時の光合成の活性化速度を緩和法により調査し,各系統の非定常状態における光合成能力を評価した. 32 方法 非定常状態におけるガス交換速度の測定 CO2 ガス交換速度の測定には携帯用開放型光合成蒸散測定装置(LI-COR,LI-6400)を用いた.測定条件は, 葉温 25℃,Vpdl 1.0±0.2 kPa ,CO2 濃度 360 ppm,O2 濃度 21%とした.流量は 500~600 L/h とした.光源に はクロロフィル蛍光ユニットを用いた(6400-40,Li-Cor). それぞれの測定において,まずチャンバーに固定された葉に,飽和光(1800 μmol quanta m-2 s-1)を約 30 分間 照射した.その後弱光(200 μmol quanta m-2 s-1)下に 1 時間置いた.光合成速度が安定していることを確認した 後,再び飽和光を照射し,光強度を増加させたその直後からの CO2 ガス交換速度を 5 秒毎に 15 分間測定した. CO2 ガス交換速度は,CO2 ガス交換速度と CO2 補償点間で直線回帰し,Ci が 280 ppm となるときの CO2 ガス交換 速度として補正した.この計算での CO2 補償点は 50 ppm で固定した.補正を行ったのは,光合成に及ぼす Ci の影響を排除するためである.Ci はタイムコース測定中も変化するが,補正することで Ci 曲線に対する非定常状 態光合成を評価した.補正に用いた 280 ppm の値は任意に選んだ. 非定常状態におよぼすCO2 濃度の影響 大気 CO2 濃度を 140 ppm,360 ppm,720 ppm に変えて CO2 ガス交換速度を測定し,Ci を変化させた.この場合 の測定における Ci の値は,光強度を増加させてから 0.5~5.0 分の間の Ci を平均値をとした.Ci が高くなると,Ci と CO2 ガス交換速度の直線性がなくなるため,この場合の CO2 ガス交換速度は特定の Ci で補正せず,そのまま 緩和時間の算出に用いた. 緩和時間の算出 緩和時間(τ)は Woodrow and Mott(1989)の方法により算出した.飽和光を照射した後,最終的に到達する CO2 交換速度とそれぞれの時間における CO2 交換速度との差の自然対数を時間に対してプロットした.光強度を 切り替えてから 0.5~5.0 分後の直線部分の傾きから,見かけの速度定数を算出した.このように光強度を変化さ せた後,数分間で見られる直線域の傾きは Rubisco 活性化の見かけの速度定数である(Woodrow et al,1996). その見かけの速度定数の負の逆数から緩和時間τを得た.よって,この値は Rubisco の活性化が完了するまで に必要とされる時間の指標となる. Rubiscoの活性化における初速度の推定 Rubisco の活性化における初速度(Vi)は深山(1998)および Mott et al.(1997)の方法により算出した.飽和光を 照射した後,最終的に到達する CO2 ガス交換速度とそれぞれの時間における CO2 ガス交換速度との差の自然対 33 数を時間に対してプロットした.光強度を切り替えてから 0.5~5.0 分後の直後部分の傾きから,見かけの速度定 数(Kapp)を算出した.この直線y軸切片は,ln(A*f-A*i)であり(A*f は最終的に到達する Ci で補正した CO2 ガス交 換速度,A*i は活性化が始まる直前の Ci で補正した CO2 ガス交換速度),その値から A*i を算出した.また,その 直線は下記の式で表すことができる. ln(A*f - A*)=-Kapp×t + ln(A*f - A*i) tは光強度を切り替えてからの時間 この式を,Ci で補正した CO2 ガス交換速度 A*について解くと, A*=A*f-(A*f - A*i) e- Kapp t CO2 ガス交換速度の活性化速度(A’)は,この式を時間(t)で微分して A*’= Kapp(A*f - A*i)e- Kapp t CO2 ガス交換速度の活性化初速度(A*i ’)は,t=0 を代入して A*i’= Kapp(A*f - A*i) となる.つまりこの式を Rubisco の活性化部位に置き換えれば,Rubisco の活性化における初速度が算出できる. 光強度を切り替えた以降は,光合成速度は RuBP 濃度で飽和している(Seemann et al, 1988)と仮定すると,CO2 ガス交換速度(Vc)は下記の式で表すことができる. Vc = Vmax [CO2] / { [CO2]+ Kc(1+[O2]/ Ko) } ここで,Vmax は最大 CO2 ガス交換速度,Kc,Ko はそれぞれ Rubisco の CO2,O2 に対するミカエリス定数である.今 回の計算における Kc,Ko は Makino et al.(1985)のイネ葉から精製した Rubisco を用いた in vitro での測定値を Bunsen 吸収係数で変換した値,Kc =256μmol mol-1, Ko =358μmol mol-1 を用いた.また,[CO2]は 280μmol mol-1,[O2]は 210μmol mol-1 とした.A*f と A*i を式の Vc に代入して,それぞれの Vmax(A*f),Vmax(A*i)を求めた. Rubisco の触媒部位当たりの回転数を 3.3(Woodrow and Berry, 1988)とすると,算出される活性部位数 E(A*f), E(A*i)は下記の式で表すことができる. E(A*f)=Vmax(A*f)/3.3 , E(A*i)=Vmax(A*i)/3.3 以上より,Rubisco の活性化における初速度(Vi)は下記の式で与えられる. Vi=Kapp(E(A*f)-E(A*i)) 今後,E(A*f)と E(A*i)の差をΔE(活性化における Rubisco 活性サイトの変動量)で表す. 34 結果 弱光下で光合成が定常状態にある葉に飽和光を照射すると,光合成速度は上昇し,約 3 分後には新たな定常 状態へと移行した(図 10A).O. australiensis は日本晴よりも高い定常状態値に達した.気孔伝導度もまた,光強 度の変化後に上昇した(図 10B).気孔伝導度の上昇は光合成速度の上昇よりも遅く,O. australiensis は日本晴 よりも高い値で推移した.飽和光照射後,細胞間隙 CO2 濃度(Ci)は急激に低下した後上昇し,それ以降の測定 時間中においてはほぼ一定に保たれていた(図 10C).O. australiensis と日本晴の Ci 値はほぼ同じだった. Ci の変化は光合成速度に影響すると考えられるため,緩和時間の算出に用いる光合成速度は,Ci 280 ppm で 補正した値を用いることにした.緩和時間の算出のために,その光合成速度の最大値(定常状態に到達した時の 最大光合成速度)と,その時間での値との差を時間に対する片対数プロットで表した(図 10D).この片対数プロッ トの直線性は,指数関数的な経時的変化であることを意味する.また光強度を増加した後,数分間で見られる直 線域は Rubisco によって律速されていることが知られている(Woodrow and Mott,1989).そのため,この直線の傾 きの逆数から得られる緩和時間(τ)は,Rubisco の活性化に要する時間を表す指標として用いることができる. また,この緩和時間の逆数(直線の傾き)は Rubisco 活性化における速度定数ととらえることができ,Rubisco の 活性化における初速度(Vi)は,この速度定数に活性化が起こる直前の不活性型 Rubisco の濃度を掛けることで 得られる.この値は,緩和時間に比べてより直接的に Rubisco の活性化速度を表している(Mott et al.,1997). 各系統の緩和時間(τ)と Rubisco 活性化における初速度(Vi)を表 9 に示す.いずれのパラメーターにおいて も,O. australiensis に共通した傾向はなく,各系統による違いが大きかった.τは,103318 と 105165 で日本晴よ りも短かった.特に 105165 のτは,日本晴の 70%だった.Vi に関しても,103318 と 105165 が日本晴を上回った. 103318 の Vi は日本晴よりも 16%,105165 は 32%高かった.τが最も長かった 105267 は Vi も最も低かった. 表 9.緩和時間と Rubisco 活性化初速度 緩和時間(τ) Rubisco 活性化初速度(Vi) (min) (%) (μmol active site m-2 min-1) (%) 日本晴 2.08±1.00 (100) 8.88±6.62 (100) 101410 2.35±0.63 (113) 6.65±3.53 (75) 103318 1.90±0.64 (91) 10.26±7.11 (116) 105165 1.45±0.45 (70) 11.75±3.71 (132) 105267 2.60±0.78 (125) 4.93±2.63 (56) 品種および系統番号 平均±標準偏差、( )内の数値は日本晴に対する百分率 35 35 1.6 30 1.4 1.2 25 1 20 0.8 15 0.6 10 0.4 日本晴 105165 5 101410 105267 103318 0.2 0 0 5 日本晴 105165 10 101410 105267 103318 0 15 0 5 (min) 10 15 (min) 図10B.気孔伝導度の推移 図10A.非定常状態光合成のタイムコース 350 4 300 3 250 2 200 1 150 0 100 0 日本晴 105165 50 101410 105267 2 4 -1 0 日本晴 105165 101410 105267 -2 0 5 10 15 (min) (min) 図10C .Ciの推移 6 103318 図10D.A*f-A*iの片対数プロット 36 103318 次に細胞間隙 CO2 濃度(Ci)と緩和時間の関係を調査した(図 11).Ci が増加するとτは減少する傾向があっ た.O. australiensis の 4 系統においては,特に Ci 100 ppm から 280 ppm のτの減少が特に大きかった.しかし, 日本晴では O. australiensis で見られたほどの Ci のτへの影響はなかった. 5 NB 1410 3318 5165 5267 4 3 2 1 0 0 200 400 Ci(ppm) 図11. 緩和時間に及ぼすCiの影響 37 600 800 考察 光強度の上昇によって光合成速度が指数関数的に増加する反応は,Rubisco の活性によって律速されている と考えられている.その根拠としては,RuBP 濃度が Rubisco に対して飽和していること(Seemann et al., 1988),こ の部分の光合成反応活性化の緩和時間と in vitro で測定した Rubisco 活性化の緩和時間がほぼ同じだったこと (Woodrow and Mott, 1989),O2 濃度に対する光合成反応の感受性が Rubisco の感受性と一致したことなどが挙 げられる. Rubisco 活性化に関しては,2つの遅い反応が律速していると考えられている.1つは,Rubisco activase による Rubisco-RuBP 不活性型複合体からの RuBP の除去(Woodrow and Portis, 1992)である.もう1つは Rubisco の 触媒部位への可逆的なアクチベーターCO2 の付加反応であるカルバミル化(Lorimer and Miziorko, 1980)である. Rubisco は,アクチベーターCO2 と Mg 2+ が付加した複合体に変化することで活性化される.後者は Rubisco activase の触媒作用を必要としない(Portis, 1992).つまり,この反応速度は Rubisco の触媒サイト周辺の CO2 濃 度によって決定され,CO2 濃度に対して感受性を示すと考えられる(Woodrow and Mott, 1997).Woodrow and Mott(1997)のモデルによると,Rubisco 活性化速度は,Ci が低い場合は触媒によらないカルバミレーション反応に よって主に律速され,Ci が高い場合はカルバミレーション反応速度は速いため,Rubisco activase 活性が律速要 因となる. 今回の実験でも,Ci の上昇に伴い緩和時間τは減少した(図 11).これは上述のように,CO2 が Rubisco 活性 化のカルバミレーション反応の基質である(Miziorko and Lorimer, 1980)ためであると考えられる.また Ci と緩和時 間の関係は,2 つの相に分けることができた.これら 2 つの相では律速要因が異なっていると考えられる.1つは, 280 ppm 以下の低 Ci 域の相である.Ci の増加に伴い急激に緩和時間が短縮されたことから光合成の活性化速度 は,主にカルバミル化速度によって律速されている可能性が示された.特に 105165 および 105267 においてその 律速性が高いと考えられる.もう一つは,Ci 280 ppm 以上での高 Ci 域の相である.Ci の増加に伴い緩和時間が緩 やかに短縮されている.Woodrow and Mott(1997)のモデルによると,高 Ci 域では Rubisco 活性化が Rubisco activase 活性によって律速されるようになるが,300 ppm よりも高い Ci 域では,非定常状態においても Rubisco 能 力よりも RuBP 再生やスクロース合成が光合成速度を律速する(Farquar,1989).よって今回の実験で求められた 高 Ci 域(CO2 濃度 700 ppm)での緩和時間は,Rubisco 活性化による光合成活性化速度を正確に反映していない ことが推測される.またこの相では,日本晴のみが緩和時間が短縮されずむしろ増加した.高 Ci 域においてカル バミル化速度が飽和しており,Ci の上昇により RuBP 再生やスクロース合成の律速性が強くなったことが原因かも しれない. 38 今回の非定常状態の光合成に関して,緩和時間(τ)や Rubisco 活性化初速度(Vi)には O. australiensis に共 通した傾向はなかったが(表 9),日本晴よりも優れた値の系統もあった.また,O. australiensis のτが日本晴より CO2 濃度に対して感受的だったことから,非定常状態においても Rubisco の酵素特性に違いがあると考えられ た. 39 葉内成分と光合成特性 方法 窒素の定量 光合成速度測定後,凍結保存した葉の一部を用いて葉身全窒素含量を定量した.約 5 ㎝ 2 の葉片をケルダー ル分解びん中に 5 mm 幅に刻んで入れ,濃硫酸を約 1 ml 加え一晩以上静置した.その後,過酸化水素水を 2~ 3 ml 加えて電気炉で加熱した.白煙が出なくなるまで加熱を続け,電気炉から外し冷却した.分解びん中の試料 溶液が無色透明になるまで,過酸化水素水の添加,加熱,冷却を繰り返した.得られた溶液を蒸留水で 50 mL に 定容した.2 mL のフェノール・ニトロプルシド溶液に定容した試料溶液 20 μL を加えて攪拌した.これにアルカリ 性次亜塩素酸ナトリウム溶液 2 mL を加えて十分に混合し,37℃で 20 分間呈色させた.呈色後,分光光度計を用 いて 625 nm の吸光度を室温下で測定した.同様に呈色操作した硫酸アンモニウム溶液(窒素 0-5μg)を標準と して,試料溶液中の窒素含量を算出した. クロロフィルの定量 光合成速度測定後,凍結保存した葉の一部を用いてクロロフィル含量を定量した.葉片 2 ㎝ 2 に 1 mL の 80% アセトンと少量の石英砂を加え,氷上で乳鉢と乳棒を用いて磨砕した.80%アセトンをさらに 2 mL 加え攪拌した 後に,全量を遠心管に移し、7000rpm、4℃で 10 分間遠心分離した.得られた上澄みをクロロフィル抽出液とし, 残渣には再び 80%アセトンを加え攪拌し,同様の条件で遠心分離した.この操作をもう一度繰り返し,得られた 全ての抽出液を 80%アセトンで 10 mL に定容した.定容後,分光光度計を用いて 646.6nm,663.6nm,750nm の 吸光度を測定し,Porra ら(1989)の式に従ってクロロフィル含量を算出した. 葉内可溶性成分の抽出 第 1 章と同様におこなった.得られた粗酵素液を可溶性タンパク質,Rubsco,Rubisco activase の分析に用い た. 可溶性タンパク質の定量 可溶性タンパク質の定量は Bradford(1976)の方法でおこなった.Bradford 発色液(CBB G-250, 100% etanol, 85% phosphate)2 mL に,前述の粗酵素液を 40μl ずつアプライした.攪拌後 5~20 分以内に分光光度計で 595nm の吸光度を測定した.精製 BSA(0-40ng)を同様に操作し,それを標準として粗酵素液中の可溶性タンパ ク質を算出した. 40 RubiscoおよびRubisco activaseの定量 Rubisco および Rubisco activase は,第 1 章と同様に ELISA 法によって定量した. Rubiscoの変異検定 SDS-PAGE により Rubisco の変異を検出した. SDS-PAGE は,LaemmLi(1978)の方法に従っておこなった.タンパク質の試料溶液は,葉内可溶性成分の分 析と同様の方法によって得た粗酵素液を用いた.SDS-PAGE のゲル濃度は,分離ゲル 12.5%,濃縮ゲル 4.5%と し,試料の SDS 処理は,終濃度で,0.1~0.2%タンパク,10 mM Tris-HCl,1% SDS,1% β-mercaptethanol, 20% glycerol,1 mM モノヨード酢酸ナトリウムとなるように溶液を調整し,1.5 分間煮沸することでおこなった.そ の試料溶液と分子量マーカーをゲルの各ウェルに全量(12.5μL)アプライし,泳動槽緩衝液(0.025 M Tris, 0.192 M glycin、0.1% SDS)を満たした泳動槽内で泳動をおこなった.泳動は,ラピダス・2 連ミニスラブ電気泳動 装置(ATTO)を用い,30mA の定電流,4℃でおこなった.その後ゲルを 0.25%(w/v)CBB R-250,50%(v/v) methanol,50%(v/v) acetic acid を含む溶液中で振とうすることにより染色し,30%(v/v) methanol,10%(v/v) acetic acid,60%(v/v) 蒸留水溶液を用いて脱色した.青色のバックグラウンドが十分にぬけたら,ゲル乾燥機(AE-3711, ATTO)でゲルを乾燥させた. Rubisco activaseの変異検定 SDS-PAGE 後にウェスタンブロッティングをおこなって,変異を検定した. SDS-PAGE は,上記の Rubisco の場合と同様におこなった. 電気泳動後,ゲル中のタンパク質をニトロセルロース膜(AE-6665,ATTO)に転写した.ブロッティングにはセミ ドライブロッティング装置(AE-6677,ATTO)を用いて,126 mA の定電流で 40 分間おこなった.ブロッティング後, 非特異的タンパク結合部位をブロックするため,ニトロセルロース膜を,3%のスキムミルクを含む TTBS(20 mM Tris,0.5 M NaCl,0.055 (w/v)Tween20)中に浸し,4℃で一晩静置しブロッキングした.その後,TTBS で膜を洗 浄(1 分×2 回,10 分×2 回)し,1%スキムミルクを含む TTBS で 2000 倍にした希釈した anti-Rubisco activase ウ サギ抗血清を 1 次抗体として室温で 1 時間反応させた.その後,TTBS で膜を洗浄(1 分×2 回,10 分×2 回)し, 1%スキムミルクを含む TTBS で 2000 倍にした希釈したペルオキシダーゼ標識抗ウサギ IgG(H+L)ヤギ抗体を 2 次抗体として室温で 1 時間反応させた.その後,TTBS で膜を洗浄(1 分×2 回,10 分×2 回)し,DAB 染色液(1 mM DAB,0.3 mLL-1 H2O2,0.3 mLL-1 CoCl2,20 mM Tris,0.5M NaCl)を加えて発色させた.バンドが確認できた 時点で発色液を除き,蒸留水で膜を十分に洗浄して反応を停止させ,乾燥させて保存した. 41 結果 葉内成分含量 葉内成分含量の定量結果を表 10 に示した. 表 10.各系統の各葉内成分含量 窒素 可溶性タンパク質 品種および系統番号 (g m-2) (%) (g m-2) (%) 日本晴 1.92±0.2 (100) 6.38±1.45 (100) 101410 1.84±0.2 (96) 6.92±0.69 (109) 103318 2.02±0.1 (105) 6.75±1.45 (106) 105165 1.78±0.2 (93) 5.81±0.76 (91) 105267 1.73±0.2 (90)* 5.48±0.90 (86) Rubisco Rubisco activase (g m-2) (%) (g m-2) (%) 日本晴 2.03±0.19 (100) 0.360±0.086 (100) 101410 2.15±0.07 (106) 0.346±0.048 (96) 103318 1.95±0.09 (96) 0.339±0.078 (94) 105165 2.38±0.61 (117) 0.325±0.052 (90) 105267 1.73±0.27 (85) 0.294±0.055 (81) 品種および系統番号 Chlorophyll 品種および系統番号 (g m-2) Chlorophyll a Chlorophyll b (%) (g m-2) (%) (g m-2) (%) 日本晴 0.521±0.067 (100) 0.399±0.051 (100) 0.122±0.016 (100) 101410 0.412±0.064 (79)** 0.320±0.032 (80)** 0.092±0.009 (75)** 103318 0.447±0.009 (86)* 0.343±0.007 (86)* 0.104±0.004 (85)** 105165 0.400±0.052 (77)** 0.308±0.038 (77)** 0.092±0.010 (76)** 105267 0.447±0.034 (86)* 0.347±0.027 (87)* 0.100±0.007 (82)** 平均±標準偏差、( )内の数値は日本晴に対する百分率、 *:5%水準で日本晴に対して有意差あり、**:1%水準で日本晴に対して有意差あり 42 窒素は,O. australiensis 全体では日本晴よりも少なく,105267 では日本晴よりも 5%水準で有意に低かった. 103318 のみが日本晴よりも高かった.可溶性タンパク質,Rubisco,Rubisco activase 含量については,いずれの O. australiensis 系統でも日本晴との間に有意な差は認められなかった.可溶性タンパク質,Rubisco 含量では, 日本晴よりも高い系統もあったが,Rubisco activase 含量では日本晴より高い系統はなかった.O. australiensis 内 では,特に 105267 の可溶性タンパク質,Rubisco,Rubisco activase 含量が最も低かった.クロロフィル(a+b)量 は,O. australiensis は 5%または 1%水準で日本晴より低かった.クロロフィルを構成しているクロロフィル a およ びクロロフィル b も同様だった.そのクロロフィル a/b 比は,O. australiensis(3.31~3.48 g g-1)と日本晴(3.28 g g-1) でほとんど同じだったことから,O. australiensis のクロロフィル量の低さはクロロフィル a,b の両方が低かったこと によるものだとわかった. また,可溶性タンパク質の配分について調べた(表 10).可溶性タンパク質に占める Rubisco 含量の割合(R/P) は,105165 で 41.6%であり,日本晴より高かった.可溶性タンパク質に占める Rubisco activase 含量の割合(RA /P)は,O. australiensis のどの系統も日本晴より低かった.O. australiensis 内では,105165 が最も高く日本晴と 同程度で,101410 と 103318 で低かった.Rubisco にしめる Rubisco activase の割合(RA/R)は,O. australiensis は日本晴よりも低かった(有意差なし).特に 105165 で低かった(日本晴の 87%).この 105165 では,R/P および RA/P は高いにも関わらず,RA/R は低かった.このことからより多くの可溶性タンパク質が Rubisco や Rubisco activase に分配されているが,日本晴や他の系統と比較して,Rubisco activase よりも Rubisco により多く分配され る傾向にあることがわかる. RubiscoおよびRubisco activaseの構造変異 Rubisco activase の構造変異を調べるために,ウェスタンブロッティングをおこなった.O. australiensis と日本晴 で 2 本のバンドが確認された.その 2 本のバンドはほぼ同じ位置にあったが,O. australiensis の大アイソフォーム のバンドが日本晴よりもわずかに上方に見られた(図 14). 図 14.Rubisco activase のウェスタンブロッティング レ ー ン 左 か ら , マ ー カ ー , 日 本 晴 , 101410 , 103318 , 105165,105267,マーカー マーカーの各バンドの分子量:黄(45kDa),赤(30kDa), 青(20.1kDa) 43 Rubisco の構造変異を調べるために,SDS-PAGE をおこなったが,O. australiensis と日本晴で差はなかった. 葉内成分からみた光合成特性 葉内成分と定常状態時の光合成パラメーターの関係を調査した(表 11).O. australiensis の in vivo の Rubisco 比活性(CERmax/Rubisco)は,日本晴よりも低い傾向にあったが,105267 のみ日本晴よりも高かった.in vivo の Rubisco 活性化率(CE/Rubisco)は,O. australiensis は日本晴よりも高く,特に 105267 で高かった. 表 11.各系統の酵素特性 Rubisco 比活性 品種および系統番号 (μmol g-1 s-1) Rubisco 活性化率 (%) (mol g-1 s-1) (%) 日本晴 30.3±3.7 (100) 0.0519±0.008 (100) 101410 25.5±4.4 (84) 0.0565±0.005 (109) 103318 27.9±2.2 (92) 0.0627±0.008 (121) 105165 26.8±18.0 (89) 0.0581±0.028 (112) 105267 32.9±6.9 (109) 0.0731±0.018* (141) 平均±標準偏差、( )内の数値は日本晴に対する百分率、 *:5%水準で日本晴に対して有意差あり、**:1%水準で日本晴に対して有意差あり 44 次にτおよび Vi と Rubisco activase 含量および Rubisco あたりの Rubiso activase 含量との関係を調べた(図 15,16).しかし,顕著な相関は見られなかった. 4 4 NB 1410 3318 5165 5267 3 3 2 NB 1410 3318 5165 5267 1 2 1 0 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 Rubisco activase含量(g m1 ) 0.5 0 0 10 20 30 Rubisco activase/Rubisco (%) 図15B .各系統の緩和時間とRubisco activase/Rubisco比の関係 図15A.各系統の緩和時間とRubisco activase含 量の関係 20 20 15 15 10 NB 1410 3318 5165 5267 5 10 NB 1410 3318 5165 5267 5 0 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0 Rubisco activase含量(g m1 ) 0 10 20 Rubisco activase/Rubisco (%) 図16A .各系統のRubisco活性化初速度と Rubisco activase含量の関係 図16B .各系統のRubisco活性化初速度と Rubisco activase/Rubisco比の関係 45 30 考察 光合成に関連した葉内成分として,窒素,可溶性タンパク質,Rubisco,Rubisco activase,クロロフィル含量を調 査した.O. australiensis のクロロフィル含量は日本晴より有意に低かった.それ以外の成分では日本晴との間に 有意差はなかったが,Rubisco activase 含量は日本晴より低かった(図 13).また可溶性タンパク質または Rubisco にしめる Rubisco activase 含量の割合も,日本晴以上の値を示した O. australiensis の系統はなかった(表 10). 窒素や Rubisco 含量,Rubisco activase 含量は,光合成速度と比例関係にあることが数多くの研究で示されてい る.本実験ではこれらの葉内成分含量および含量比(分配比)に有意な差が見られなかったことから, O. australiensis が日本晴よりも高い光合成能力を示した要因は,これらの含量またはその比の違いによるものでは ないと言える. 次に酵素特性について考察する. 葉内成分と定常状態光合成 O. australiensis の最大光合成能力における in vivo の Rubisco 比活性(CERmax/Rubisco)は,日本晴より低か った(表 11).これは第一章の結果と一致する. In vivo の Rubisco 活性化率(CE/Rubisco)は,O. australiensis は日本晴よりも高かった(表 11).これは片岡 (2001)の結果と一致した.O. australiensis 全体で,Rubisco 活性化率(CE/Rubisco)が高かったことからも活性型 の Rubisco が多く存在していると考えられる.この Rubisco の活性化には Rubisco activase による活性化が必要で ある.しかし O. australiensis の Rubisco あたりの Rubisco activase 量は日本晴よりも低かったことから,Rubisco activase による Rubisco 活性化能力が高い,もしくは Rubisco activase をより活性化に導くような環境が生体内に あると考えられる. ATPase 活性をあわせもつ Rubisco activase はそれが阻害されると Rubisco activase 活性を示さない(Robinson et al., 1988).Rubisco activase 活性は ATP により促進され,ADP により強く阻害されることから,葉緑体ストロマ内 の ATP/ADP 比が Rubisco activase の活性調節に関与していると考えられている.他にも葉緑体の酸化還元状態 が関係していることが示されている(Zang and Portis, 1999).よって,RuBP 再生のプロセスによっても Rubisco 活 性化状態が調節されることから(Sage et al., 1990),光合成反応においては RuBP 再生も Rubisco activase の活性 状態に影響していると考えられる.これは,RuBP 再生が光合成の律速要因になると,ATP/ADP レベルおよび葉 緑体内の酸化還元電位が低下することで Rubisco activase 活性が低下し,それに伴い Rubisco の活性化状態が 低下するためである. RuBP 再生が律速要因となる弱光および高 CO2 濃度下における今回の結果をみてみる.弱光下においては O. australiensis の光合成速度は O. sativa よりも有意に高かった(図 8A).しかし,RuBP 再生能力に大きく影響す 46 る電子伝達速度は,弱光下でも O. australiensis と日本晴の間に差はみられなかったことから(図 9A),Rubisco activase 活性により優位にはたらく環境があるとは考えにくい.高 CO2 濃度下(図 6A)においても同様のことが言 える.よって,Rubisco activase をより活性化させる環境があるというよりは,Rubisco activase による Rubisco 活性化 能力が高いために,O. australiensis では高い Rubisco 活性化率を示したことが推測される. 強光下および低 CO2 濃度下の光合成反応からは O. australiensis の RuBP カルボキシレーション能力が高いこ とが示唆された.この RuBP カルボキシレーション能力には,Rubisco 量(Nakano et al., 1997)もしくは Rubisco 活 性化状態(Sage et al., 1989)が関与する.O. australiensis と日本晴の Rubisco 含量には有意差がなかったことか ら,O. australiensis では O. sativa よりも Rubisco 活性化状態が高いと予想される.これは,O. australiensis の in vivo の Rubisco 活性型量を表す CE が高かったこととも一致する. また第 1 節で,O. australiensis の弱光下の光合成速度が高かった要因として,光利用効率の高さが考えられ た.光利用効率の高さの要因として,たくさんの光を吸収している,または吸収した光を効率よく光合成に利用し ている,この 2 点が考えられる.ここでは,前者について考える.光を吸収する役割を果たしているのがクロロフィ ルである.クロロフィル含量が多いほど光の吸収率は高くなる(Evans, 1989).しかし,O. australiensis のクロロフィ ル含量は日本晴よりも有意に低かったことから,光利用効率が高かった要因として吸収光量が多かったとは考え にくい. 葉内成分と非定常状態光合成 Rubisco の活性化における初速度(Vi)は,弱光からの活性化の場合,Rubisco activase 含量によって律速され ていることが,Mott et al. (1997)のモデルから予測できる.タバコアンチセンス Rubisco activase 形質転換体を用 いた実験では,非定常状態における Rubisco 活性化の初速度に関する Rubisco activase 量の flux control 係数 が 1.0 であり,Vi が完全に Rubisco activase 量によって決定されていることが報告された(Hammond, 1998).しか しながら,本実験では Vi と Rubisco activase 含量間にそのような関係は見られなかったが(図 16A),系統によって Vi に違いが見られた.その原因として Rubisco acrivase 含量よりも Rubisco activase 活性の違いが考えられる. Rubisco activase 活性に影響する要因としては,ATP と ADP がある.ATP は活性を刺激し,ADP は活性を阻害 する(Streusand and Portis, 1987).これらの濃度は ATP の需要と供給,つまりカルビン・ベンソン回路や光呼吸に よる ATP 消費に対する ATP 合成能力によって大きく左右される.この ATP/ADP 比の違いが Rubisco activase 活性の違いに影響している可能性が考えられる. Robinson and Portis (1988)では,Rubisco 活性の増加と並行して ATP 濃度が減少したことを報告している.つま り,活性型 Rubisco 量が増加することで,光合成や光呼吸による ATP 消費が増加したと考えられる.非定常状態 の光合成活性化過程においても ATP/ADP 比は低下し,それに伴い Rubisco activase 活性も低下していくと予想 される.弱光から強光に変えた後の光強度は一定である.よって電子伝達による ATP 合成能力は一定であること 47 から,ATP/ADP 比の変化は光合成や光呼吸の増加による ATP 消費の増加によるものと考えられる.どの系統で も ATP/ADP 比が低下すると推測されるが,電子伝達速度と Rubisco 触媒反応速度の比は系統によって違う可能 性も考えられうる.後者に対し前者が大きい場合 Rubisco activase は働きやすい環境にあり,Vi は高くなると考えら れる. また,Rubisco activase 活性の違いの原因として,Rubisco activase 自身の活性,つまり Rubisco 活性化能力の 違いが考えられる.高い Rubisco 活性化初速度(Vi)を示した 105165 や 103318 では,定常状態の Rubisco 活性 化率も高く(表 11),これらの系統の Rubisco activase の活性化能力は高いと考えられた. 以上より,クロロフィル以外の葉内成分含量には O. australiensis と日本晴間にほとんど差がなく,Rubisco や Rubisco activase のペプチド構造にもほとんど変異がなかったが(図 14),O. australiensis の Rubisco や Rubisco activase の酵素特性が優れていることが推測された. 48 摘要 本研究では,イネ野生種にみられる光合成特性を明らかにするために,イネ野生種の光合成および葉内成分 含量(Rubisco,Rubisco activase)を栽培種 O. sativa L. 日本晴と比較して調査した.第 1 章では,栽培種 2 種 3 系統および野生種 9 種 11 系統を用いた.EE ゲノムの O. australiensis において Rubisco および Rubisco activase の優れた酵素特性が示唆されたことから,第 2 章では O. australiensis 4 系統(101410,103318,105165,105267) を用いてそれらの光合成特性を評価した.第 1 節では,定常状態における光合成能力を,第 2 節では非定常状 態における光合成能力を調べた.第 3 節では,葉内成分含量(窒素,可溶性タンパク質,Rubisco,Rubisco activase)および Rubisco,Rubisco activase のペプチド構造変異を調べた.さらに第1節,第 2 節で得られた結果 に基づき,光合成能力と葉内成分との関係について調査した. O. australiensis の定常状態における光合成速度は,低~高 CO2 濃度下にわたって日本晴よりも高く,特に大 気 CO2濃度以下の低 CO2濃度域で高かった.高 CO2濃度域では O. australiensis と O. sativa の光合成速度は ほぼ同じだった.カルボキシレーション効率(CE)および Rubisco 活性化率(CE/Rubisco)においても有意に高か った.テーラー展開を利用して推定した Km 値が日本晴の約半分だったことから CO2に対する親和性が高いことが わかった.光強度と光合成速度の関係においても,弱光から強光にいたるまで O. australiensis の光合成速度は O. sativa よりも高かった.また光利用効率も高かった.以上より,O. australiensis では,日本晴よりも Rubisco のカ ルボキシレーション能力が高いために光合成速度が増加したと考えられた. 非定常状態の光合成能力として調査した光合成活性化に要する時間の指標となる緩和時間(τ)は 105165 で 最も早く,Rubisco 活性化の初速度(Vi)に関しても 105165 が最も速かった.Vi には Rubisco activase 含量よりも Rubisco activase 活性に影響していると考えられた. 葉内成分については,クロロフィル量が少なかった以外には有意差が認められなかった.また O. australiensis 4 系統全てにおいて,Rubisco activase 量 および Rubisco に対する Rubisco activase 含量比は O.sativa より低か った. 103318 および 105165 は,定常状態と非定常状態の光合成において高い光合成能力を示した.これは Rubisco や Rubisco activase の酵素特性が優れていることによってもたらされたと考えられた.この形質導入は栽 培イネの個葉光合成能力の向上に有効な方法かもしれない. 49 第二章 Rubisco Activase 遺伝子を導入した形質転換イネの作出と その光合成特性 緒論 人間が生きるための「衣・食・住」は,すべて植物資源に依存しており,なかでも「食」に関して述 べると,植物性食糧はもとより,肉や卵等の動物性食糧も,そのもとをたどれば植物資源から生じたも のである.また「衣・住」についても,その原料,資材も植物資源から得られるものである.つまり, 人間は植物資源を利用しつつ進化し,文化を築きあげ,その生活基盤も植物資源に依存しているといえ る.また,人間が生活し,文化を形成している地球の環境保全についても,空気の緩衝作用,水環境の 浄化作用,土地の砂漠化の防止等,植物資源が担う役割は大きい.この植物資源を人間の手で積極的に 生産するのが,植物生産であり,これのために,植物を管理する仕事が農業である. 植物生産が行われ始めたのは,今から約一万年前であり,以来増大の一途をたどっている.また,質 的内容も人間の需要の変化に応じて変化してきた.それに伴い,人間は生活を豊かにし,文明を発達さ せてきた.つまり,人間の繁栄と,植物生産とは,密接に関わり合っているといえよう.これは,20 世 紀半ばでは,世界人口が約 25 億人であったのが,20 世紀末には約 50 億人に達し,つまり半世紀で二倍 に増加したのと同時に,植物生産も半世紀で二倍に増加した(Evans,1993)ことからも分かる.この植物 生産の増大は,近年世界人口の急激な増加のための需要増と,生活レベルの向上による需要増との両者 により,生産の増加が必要となったからである. 世界銀行によれば世界人口は,2025 年には 80 億人を突破すると予想されている.それに伴い,植物 資源の増産も人口の増加幅の分だけ必要とされ,さらに人間の現在の生活レベルも考慮すれば,肉食が 増える分,植物資源がさらに必要とされることは,必至である.具体的にのべれば,2025 年までに,60% の増産が必要とされる.つまり,植物生産増大の必要性というのは,近い将来に向けて,とてつもなく 大きい.世界の三大穀物の一つであるイネについては,1994 年の世界の米生産量は,5 億 3000 万トン であったが,国際稲研究所(IRRI)によれば,2025 年には米の需要量が 8 億 8000 万トンまで増大すると予 想される.しかし,穀物収量の年平均増加率は,近年成長を鈍らせており,イネの最大収量もここ 30 年 間ほとんど変化せず頭打ちの状態にある.このままでは,穀物収量の増加率が需要の増加率を下回るこ とになるため,新しい収量増加の手段が求められているのが現状である(Mann,1999).そこで,植物生 50 産増大のためには,植物生産の規模拡大が必要であるが,地球上の陸地面積の約 1/3 が農耕地,約 1/3 が 林地,残りの 1/3 が,人間の居住地や工業用地,砂漠や山岳の裸地等の植物生産に利用できない土地で, つまり利用しうるほとんど全ての土地が植物生産に使われているので,それは困難を極める.よって, 植物生産量増大のためには,既耕地の生産力を増大させ,単位面積あたりの生産量である収量の増大が 図られねばならない. 作物における収穫対象器官の収量,これを経済学的収量というが,それは,全乾物収量である生物学 的収量と,全乾物生産量に占める利用部位の割合である収穫指数により,次式で示される. [経済学的収量]=[生物学的収量]×[収穫指数] 経済学的収量と生物学的収量には,一般に比例関係があり,経済学的収量の向上は,ある程度生物学的 収量の向上に依存している.しかし,1960 年代からの「緑の革命」を通じ,育種や栽培技術の改良によ って実現した経済学的収量の向上は,Zelich(1982)により,生物学的収量の向上ではなく,収穫指数の向 上によるところが大きい,ということが分かった.だが,現在の収穫指数レベルは頭打ちの状態で,そ れが,近年の収量増加を鈍化していることに関わっている.したがって,将来の経済学的収量の向上に は生物学的収量の向上が鍵となる.生物学的収量が全乾物収量であることはさきに述べた.乾物の大部 分は,有機物であり,それはすなわち,光合成産物と考えることができる.つまり,作物の光合成量の 増加を図り,収穫対象部分での光合成産物の貯蔵の増大を図ることができれば,経済学的収量の向上は 実現される可能性がある. 作物の光合成量は,葉面積指数,受光態勢,個葉光合成速度の 3 要素で構成されている.このうち, 殺虫剤や除草剤等の農薬の開発・利用や,窒素施肥により葉面積指数は拡大し,緑の革命を代表とする 新しい草型品種の育成や草型改良のための生長調節物質の開発・利用により受光態勢は改善された.そ の結果,作物の群落光合成量は向上し,イネの収量は,この理論で増加してきたと考えられている(Army and Greer,1967).しかし,現在作物の収量が頭打ちになっていることからも分かるように,これら 2 要素の改良による光合成量の増加,収量増加は限界に達している.また,さきにのべたように,20 世紀 半ばから 20 世紀末までの半世紀で作物の収量は 2 倍以上増加したが,単位葉面積あたりの光合成速度は 変化していない(Richard,2000).すなわち,作物収量の向上において,光合成能力の遺伝的進歩は認め られていないのである.そのため,作物の個葉光合成能力の向上が,さらなる収量増加のために担う役 割は非常に大きいと言える. イネ,コムギ等の C3 植物では,光合成の暗反応で CO2 固定を行う Rubisco と呼ばれる葉肉細胞に局 在する酵素が,光合成の鍵酵素となっている.Rubisco は,葉内可溶性タンパクの約 50%を占め,地球 上で最も多量に存在する植物タンパクである.しかし,その触媒能力は,他の大半の酵素と比べて著し く低く,光呼吸を触媒して光合成で固定した炭素の約 17%を損失している(Woodrow and Berry, 51 1988 ;Andrews,1973)ため,CO2 固定の律速要因となりやすい.また,Rubisco は,RuBP の結合によ る不活化,CA1P の触媒部位への阻害,触媒部位に生じる XuBP,KABP による阻害により,触媒能を 失う(Portis,A.R.,Jr 1995).これら 3 つの不活化型 Rubisco の再活性化を促し,触媒能をもたせる働きを するのが Rubisco activase と呼ばれる酵素であり, 現在,注目を集めている.この酵素は不活化型 Rubisco の活性回復の際に ATP を加水分解するため,その活性は ATP:ADP 比の影響を受け,ADP に著しく阻害 される.また,Rubisco に対して分子シャペロンの役割も担っているという考えもなされている (Portis,A.R.,Jr,2003).この酵素と光合成に関する研究が多くなされており,アンチセンス技術を用い て Rubisco activase 含量を減らしたタバコ葉の光合成速度は,その含量を野生型の 5%以下にまで減少さ せないと減少しなかった(Mate et al.,1993)が,イネ葉では,野生型の約 25%以下まで減少させると, 光合成速度は 70%減少した(Jin et al.,2004).また,イネ葉では,Rubisco は Rubisco activase が,十 分に存在しないと完全に活性化されず(Fukayama et al.,1998),その光合成速度は,Rubisco との間の 相関よりも,Rubisco activase との間の相関の方が強い事が報告されており,これより,イネの葉内に は Rubisco activase が十分量存在しないために Rubisco が完全に活性化されていないことが考えられる (Uchida et al.,1995;Fukayama et al.,1996).したがって,イネ葉における Rubisco activase 含量を 増加させることにより,活性型 Rubisco の量を増加させ,光合成能力を向上させる可能性が高いと考え られる. そこで,本研究ではアグロバクテリウムを介して,イネの Rubisco activase の遺伝子を導入し,形質 転換させ,Rubisco activase 過剰発現体を作出し,その個葉光合成能力や光合成関連の葉内成分含量に ついて調査した.そして,同様の手順で作出したコントロール個体と比較を行い,Rubisco activase を 過剰発現させることが有効であるかを検討する. 52 <略語> ABTS : 2,2,-azino-di[3-ethylbenzthiazonlin-sulfonat(6)] ATP : adenosine-5-triphosphoric acid BSA : bovine serum albumin CA1P : calboxyarabinitol 1-phosphate CBB : coomassie brilliant blue CER : carbondeoxide exchange rate EDTA : ethylene diamine tetraacetic acid ELISA : enzyme-linked immunosorbent assay IgG : immunogloburin G PVPP : polyvinylpolypyrolidon QTL : quantitative trait loci RuBP : ribulose-1,5-bisphosphate Rubisco : ribulose-1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase T-PBS : tween20-phosphate buffer saline Twen20 : polyoxyethylene sorbitan monolaurate XuBP : xylose-1,5-bisphosphate 2,4,-D : 2,4-Dichlorophenoxyacetic acid 53 材料および方法 1. 形質転換体の作出 1-(1).供試材料 イネ[ Oryza sativa L.] の栽培品種 Nipponbare の完熟種子(2003 年,本学農学部圃場において収穫 したもの)を本研究の供試材料として用いた. 1-(2).培地の調整法 あらかじめ作成し,4℃の冷蔵庫内で保存しておいたストック(表 1,2,3,4)を混合し,pH を調整した 後,目的の容量までメスアップし,三角フラスコに移した.本研究で用いた各培地の組成,オートクレ ーブ前の pH を表 7 に示した.液体培地はそのままアルミホイルを二重にして蓋をし,固体培地にはゲ ル化剤として,表 7 中の YEP 培地には寒天末を,その他の培地には gellan gum を加え,アルミホイル で二重に蓋をし,自動式高圧蒸気滅菌器(三洋電機社 MLS-3750)で加圧滅菌(1.2kg/cm2,120℃,15 分間) を行った. その後,クリーンベンチ(日立製作所,PCH-1303BNG3 無じん無菌装置)内において,-30℃で冷 凍保存しておいたフィルター滅菌した抗生物質のストック(表 6)を表に示した培地の組成に基づき,各培 地に加えた.また表 7 中の AAM 培地には,あらかじめ加圧滅菌し 4℃の冷蔵庫で保存しておいた 36% (wt/vol)sucrose を,2N6-ACS 培地には,あらかじめ加圧滅菌し 4℃の冷蔵庫で保存しておいた 10% (wt/vol)sucrose , 40mg/ml(wt/vol)L-cystein , 15mg/ml(wt/vol)ascorbic acid , 5mg/ml(wt/vol) silver nitrate と -30℃で冷凍保存した 100mg/ml(wt/vol)acetosyringone を表 5 に示した組成に基づき必要量 加えた. 液体培地は,加圧滅菌後,室温に戻してから使用するまで 4℃の冷蔵庫内で保存した.固体培地は 加圧滅菌後,クリーンベンチ内で 90×15mm 滅菌シャーレに 1 シャーレあたり 20-25ml となるように分 注し,パラフィルムで二重にシールし,また再分化培地 MSRH 培地(表 7)は,滅菌シャーレの他に滅菌 したマヨネーズ瓶にも約 50ml ずつ分注し,固まるまで乾かした後,アルミホイルを二重にして蓋をし, それぞれ使用するまで 4℃の冷蔵庫内で保存した. 54 表 1 Murashige and Skoog basal salts ([52]Murashige and Skoog,1962)および B5 vitamins(Gamborg et al,1968)のストック組成 ストックの種類 Murashige and Skoog basal salts MS macro salts 10 倍ストック MS micro salts 100 倍ストック B5 vitamins 100 倍ストック 試薬 分子量 試薬量 (g/L) 培地の終濃度(mg/L) NH4NO3 KNO3 CaCl2・2H2O MgSO4・7H2O KH2PO4 Na2EDTA・2H2O FeSO4・7H2O KI H3BO3 MnSO4・5H2O ZnSO4・7H2O Na2MoO4・2H2O CuSO4・5H2O CoCl2・6H2O 80.0 101.1 147.0 246.5 136.1 372.2 278.0 166.0 61.8 241.1 287.6 242.0 249.7 237.9 16.5000 19.0000 4.4000 3.7000 1.7000 4.1300 2.7800 0.0830 0.6200 2.4100 0.8600 0.0250 0.0025 0.0025 1650.000 1900.000 440.000 370.000 170.000 41.300 27.800 0.830 6.200 24.100 8.600 0.250 0.025 0.025 Myo-inositol Thiamine HCl Pyridoxine HCl Nicotinic acid 180.2 337.3 205.6 123.1 10.0000 1.0000 0.1000 0.1000 100.000 10.000 1.000 1.000 表 2 N6 basal salts,N6 vitamins のストック組成(C.C. Chu,et al. 1975) 培地の終濃度 (mg/L) 試薬 N6 basal salts N6 macro salts 10 倍ストック (NH4)2SO4 132.1 4.6300 463.00 KNO3 101.1 28.3000 2830.0 CaCl2・2H2O 147.0 1.6600 166.00 MgSO4・7H2O 246.5 1.8500 185.00 KH2PO4 136.1 4.0000 400.00 Na2EDTA・2H2O 372.2 3.7300 37.300 FeSO4・7H2O 278.0 2.7800 27.800 KI 166.0 0.800 0.800 H3BO3 61.8 1.600 1.600 MnSO4・5H2O 241.1 4.400 4.400 ZnSO4・7H2O 287.6 1.500 1.500 Myo-inositol Thiamine HCl Pyridoxine HCl Nicotinic acid 180.2 337.3 205.6 123.1 100.0 1.0000 0.5000 0.5000 100.0 1.0000 0.5000 0.5000 Glysine 75.07 2.0000 2.0000 N6 micro salts 100 倍ストック N6 micro salts 1000 倍ストック N6 vitamins 1000 倍ストック 分子量 試薬量 (g/L) ストックの種類 55 表 3 AAM 培地のストック組成(Hiei et al,1994) 試薬量 (g/L) ストックの種類 試薬 分子量 培地の濃度(mg/L) AA-1 1000 倍ストック Na2MoO4・2H2O 242.0 0.750 0.750 CoCl2・6H2O 237.9 0.025 0.025 CuSO4・5H2O 249.7 0.025 0.025 KI 166.0 0.250 0.250 ZnSO4・7H2O 287.6 2.000 2.000 H3BO3 61.8 3.000 3.000 MnSO4・5H2O 241.1 10.00 10.00 AA-2 1000 倍ストック CaCl2・2H2O 147.0 15.00 15.00 AA-3 1000 倍ストック MgSO4・7H2O 246.5 250.0 250.0 Fe-EDTA 1000 倍ストック Fe-EDTA 362.1 40.00 40.00 AA-5 1000 倍ストック NaH2PO4・2H2O 156.0 150.0 150.0 AA-Sol 100 倍ストック L-arginine HCl 210.7 17.67 176.7 Glysin 75.07 0.750 7.500 AA-KCl 50 倍ストック KCl 74.55 150.0 3000 AA-6 vitamins 1000 倍ストック Myo-inositol 180.2 100.0 100.0 Thiamine HCl 337.3 0.100 0.100 Pyridoxine HCl 205.6 0.500 0.500 Nicotinic acid 123.1 0.500 0.500 表 4 2,4-D ストック 試薬 分子量 ストック濃度 ストック作成法 2,4-D 221.04 200 mg/L 少量の 0.2 M NaOH に溶かした後,蒸留水を加え目的の濃度 にする.4℃の冷蔵庫で保存. 表 5 acetosyringone ストック 試薬 分子量 ストック濃度 196.2 40 mg/mL (1000 倍ストック) acetosyringone アセトシリンゴン ストック作成法 DMSO (Dimethyl Sulfoxide)に溶かす. 遮光して-30℃の冷凍庫で保存. 表 6 フィルター滅菌を行い,培地に加えた抗生物質 試薬 分子量 ストック濃度 ストック作成法 kanamycin カナマイシン 582.6 100 mg/mL 蒸留水に溶かす. ストック作成後,フィルター滅菌し,-18℃の冷凍庫内で保存 hygromycin B 527.5 50 mg/mL ハイグロマイシン B carbenicillin カルベニシリン 422.4 蒸留水に溶かす. ストック作成後,フィルター滅菌し,-18℃の冷凍庫内で保存 100 mg/mL 蒸留水に溶かす. ストック作成後,フィルター滅菌し,-18℃の冷凍庫内で保存 56 表 7 形質転換体の作出に用いた培地の組成 培地 N6 固体培地 組成 N6 basal salts, pH 値 N6 vitamins, 3%(wt/vol) sucrose, 300mg/l casamino acid, pH 5.8 (カルス誘導用) 2μg/ml 2-4-D,0.4% (wt/vol) gellan gum YEP 固体培地 10g/l bacto peptone, (アグロ培養用) 50mg/l kanamycin,50mg/l hygromycin,1.5%(wt/vol) Agar powder AAM 液体培地 (アグロ感染用) A basal salts, AA vitamins, 500mg/l casamino acid 6.85%(wt/vol) sucrose,3.6%(wt/vol) D-glucose 0.9g/l L-glutamine,0.3mg/l L-asparagine acid pH 5.2 N6 basal salts, N6 vitamins, 3%(wt/vol) sucrose, 300mg/l casamino acid pH 5.8 2-N6ACS 固体培地 (共存培養用) 10g/l bacto yeast extract,5g/l NaCl pH7.2 2μg/ml 2-4-D, 20mg/ml acetosyringone, 1%(wt/vol) D-glucose 40mg/ml L-systein, 15mg/ml L-ascorbic acid, 5mg/ml silver -nitrate 0.4%(wt/vol) gellan gam N6DH 固体培地 (選抜用) N6 basal salts,N6 vitamins,3%(wt/vol) sucrose, 300mg/l casamino acid pH 5.8 2μg/ml 2-4-D, 50mg/l hygromycin,500mg/l carbenicillin 0.4%(wt/vol) gellan gam MSRH 固体培地 (再分化用) MS basal salts, B5 vitamins, 3%(wt/vol)sucrose, 3%(wt/vol)sorbitol pH 5.8 2g/l casamino acid, 50mg/l hygromycin,100mg/l carbenicillin 0.4%(wt/vol)gellan gam 1-(3).完熟種子からのカルス誘導 籾をとった完熟種子を水洗した後,70%エタノールで約 1 分間洗浄した.次に,完熟種子を,界面 活性剤 Tween20 を数滴加えた次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度 1%)で約 1 時間,スターラー でゆっくり攪拌しながら滅菌した. (以下の操作はクリーンベンチ内で行った.) 完熟種子を滅菌したガラスシャーレに移し,滅菌水で 4,5 回すすいだ.次に,完熟種子をカルス 誘導用 N6D 固体培地(表 7)に胚だけ培地から出るように埋め込むようにして,1 シャーレあたり 10 個程 度置床し,サージカルテープで二重にした後,30℃,連続光の条件で,人工気象器(日本医科器械製作所, BIOTRON LH-200)内で約 3 週間培養した. 1-(4).プラスミド pIG121Hm の T-DNA 領域の構造(図 1) 本研究で用いた pIG121Hm の T-DNA 領域には次の 3 つの遺伝子が含まれている. 1 つ目は nos プロモーターと nos ターミネーターの間にある NPTⅡ遺伝子で,この遺伝子は抗生物 57 質 kanamycin を分解する neomycin phosphotransferase をコードしている. 2 つ目は,Cab promoter と nos プロモーターの間にあるイネの RCA 遺伝子で,この遺伝子は,イネ [ Oryza sativa L.] の Rubisco activase をコードしている. 3 つ目は,35S と nos プロモーターの間にある HPT 遺伝子で,この遺伝子は抗生物質 hygromycin を 分解する hygromycin phosphotransferase をコードしている. 1kb H XB S NPTⅡ BR NOS 図 1 Sc S Intron B HPT RCA TNOS Cab E TNOS 35S TNOS BL pIG121Hm の T-DNA 領域の構造 略語:BR,right border;BL,left border;NPTⅡ,neomycin phosphotrasferase;RCA,Rubisco activase; HPT,hygromycin phosphotransferase;NOS,nopaline synthase promoter;Cab,Cab promoter;TNOS,3’ signal of nopaline synthase;E,EcoRⅠ;B,BamHⅠ;H,HindⅢ;S,SalⅠ;Sc,SacⅠ;X,XbaⅠ 出典 Hiei et al.,(1994) このプラスミドを持つ Agurobacterium tumefaciens(EHA101-pIG121Hm)は,以前に本研究室にお いて,作成されており,これをカルスへの感染に用いた.また,コントロール個体の作出に用いたアグ ロバクテリウムは,上記の RCA 遺伝子がないプラスミドを持っており,これも以前に本研究室において 作成されており,これをカルスへの感染に用いた. 1-(5).誘導したカルス及びアグロバクテリウムの前培養 完熟種子から誘導,増殖したカルスの中から,直径約 2mm 程度,黄色で乾燥していて堅いカルスを 選抜し,これをアグロバクテリウムに感染させるのに用いるために,新しい N6D 培地に移し,サージカ ルテープで二重にした後,30℃,連続光の条件で,人工気象器内で 3 日間培養した. 同日に,-80℃の超冷凍庫で保存しておいたアグロバクテリウムを白金耳で 100mg/ml kanamisin 50mg/ml hygromycin を含む YEP 固体培地(表 7)に画線し,アルミホイルで包み遮光し,25℃の条件で 人工気象器(日本医科器械製作所,RDSCT-LH200)内で3日間培養した. 58 1-(6).カルスへのアグロバクテリウムの感染及び共存培養 AAM 液体培地(表 7)に-30℃の暗所で冷凍保存しておいたアセトシリンゴンのストック(表 5)を終 濃度が 40mg/l になるよう適量加え,その液体培地(以下 AAMA 培地とする)を 50ml コニカルチューブに 約 2ml 入れた後,画線培養したプレートのアグロバクテリウムをスパチュラで掻き取り,同じコ二カル チューブに入れた.ピペットマンを用いて十分に懸濁した後,AAMA 培地をチューブに記された 20ml の目盛りまで入れ,よく混ぜた.分光光度計を用いて OD600 を測定し,その値が約 0.15 になるように濃 度を調整した.次に,前培養したカルスを約 2ml の AAMA 培地を入れた滅菌シャーレに移し,カルスに ピンセットで傷をつけた後,先ほど調整した約 20ml のアグロバクテリウム懸濁液をシャーレに注ぎ入れ, 時々ゆっくりとシャーレを揺らしながら 10 分間待った.その後,ピペットマンで懸濁液を出来るだけ吸 い取り,カルスを 2N6-ACS 培地(表 7)に移し,サージカルテープで二重にシールして,暗所で 3 日間, 25℃の条件で人工気象器(日本医科器械製作所,RDSCT-LH200)内で 2 週間培養した. 1-(7).アグロバクテリウムの除去(除菌)及び形質転換カルスの選抜 50ml コニカルチューブに滅菌水を約 30ml 入れて,共存培養したカルスを中に入れた.チューブの 蓋をしめてよく振って洗い,カルスが沈んだら水を捨て,液体が濁らなくなるまで 4,5 回繰り返した. 最後に約 10ml 滅菌水を入れ,100mg/l Carbenicillin (表 6)を 50μl 加えて同様に洗い,カルスと共に, 滅菌シャーレに移した.その後,液体をピペットマンで出来るだけ吸い取り,除菌したカルスのうち, 大きめで黄色くて堅いものを選抜用 N6DH 培地(表 7)に 1 プレート当たり,約 30 個ずつ移し,サージカ ルテープで二重にシールして,連続光,30℃の条件で人工気象器(日本医科器械製作所,BIOTRON LH-200)内で 2 週間培養した(一次選抜).一次選抜で増殖したカルスを,新しい N6DH 培地に,1 プレー ト当たり約 30 個ずつ移し,サージカルテープで二重にシールして,一次選抜と同条件で 2 週間培養した (二次選抜). 1-(8).形質転換カルスの再分化 二次選抜において,増殖してきたカルスを死んでいて変色している部分があれば,それを除去し, 再分化用 MSRH 培地(表 7)に 1 プレート当たり約 20 個ずつ移し,連続光,30℃の条件で人工気象器(日 本医科器械製作所,BIOTRON LH-200)内で,シュートが出てくるまで,2 週間毎に植え継ぎを行いなが ら培養した.グリーンスッポットが出現し,シュートが再生し,シュートがシャーレの蓋にまで達した ら,約 50ml の MSRH 培地が入った約 150ml のマヨネーズ瓶に移した.さらに同様の条件で,シュート が瓶の蓋に達するまで,培養した. 59 1-(9).形質転換体の鉢上げ及び馴化 瓶の蓋までシュートが伸長したら鉢上げを行うために,加圧滅菌済みの培養土に,化成肥料(GREEN MAIL 社)を窒素,リン,カリウムが 0.3g ずつになるように混ぜ,さらに微量要素(タキイ種苗株式会社, 微量要素 8)を 0.3g 加えたものを,1/10000a ワグネルポットに容量の約 8 割つめたものを用意した.瓶 の中のシュートが密植して育っている場合は,クローンの可能性があるので,加圧滅菌済みの蒸留水で湿 らせたキムワイプ上で,ピンセットを用いて 1 本ずつに分離して,その中から,主稈が太く,葉が黄色 になってないものを選んで,用意したポットに植えつけた.次に,蒸留水で土を湿らせたのち,透明な ビニール袋をかぶせ,テープで二重にとめて密封し,連続光,30℃の条件の人工気象器(日本医科器械製 作所,BIOTRON LH-200)内に移した.そして,徐々にビニール袋を切り,外部環境に馴化させた.ビ ニール袋を完全に取り除いた後,25℃,14 時間明条件(光強度 500~1000 ルクス),10 時間暗条件の閉鎖 系チャンバー(昭和通商株式会社,13CO2 同化チャンバー)に移し,光合成速度を測定するまで育てた. 以上(1)~(9)の手順で形質転換体及び,コントロール個体を作出した. 2.形質転換体の光合成特性 2-(1).二酸化炭素交換速度(CER)の測定 閉鎖系チャンバーで育成した形質転換体の第 n 葉が完全展開した後に,第 n-1 葉を対象として,CER を以下の方法で測定した.(n=14,15,16) 測定対象の葉身中央部約 10cm をアクリル製の同化箱へセットし, 空気組成を調整したガスを流して, 光合成を行わせ,同化箱の入り口と出口の二酸化炭素濃度と湿度の差を差動式赤外線ガス分析器(LI- COR,LI-7000)で測定し,入り口の絶対値を赤外線ガス分析器(Shimazu,URA-107)および湿度計 (VAISALA,HMP-133Y)で測定した.測定は 25℃の室内で行い,光源には光強度が約 1800μmol quanta/m2/s の陽光ランプ(TOSHIBA,メタルハライドランプ D400)を使用した.ガスは窒素,酸素, 二酸化炭素ボンベのガスを流量調節装置を用いて混合及び,組成・流量の調節をし,恒温器(TAITEC, COOLNIT CL-150R)によって 25℃に調節された蒸留水中でバブリングさせることで湿度を調節した. これと同時にクロメル-アナメル熱電対を葉の裏に接触させることで葉温を測定し,CO2 濃度・湿度・葉 温のデータを記録計(江藤電機,CADAC21)に集積させた. 測定は O2 濃度を 21%,CO2 濃度を 60,150,330,450,680,980,1250,1550,1800ppm の 9 段階で行った.これらの測定データをもとに,von Caemmerer and Farquhar の式(von Caemmerer and 60 Farquhar,1981)を用いて,光合成速度を算出した. 測定終了後,サンプルを約 30 分間光にあてた後,測定に用いた葉身を葉面積計(林電工,AAM-7) で葉面積を測定し,液体窒素で急速凍結し,これを葉内成分の定量にもちいるために,-80℃で冷凍保 存した. 2-(2).葉内可溶性成分の抽出 冷凍保存しておいた葉切片に1ml の抽出バッファー(50mM Na-phosphate,10mM mercaptethanol, 0.1mM EDTA,12.5% glycerol,pH7.5)と少量の PVPP と石英砂を加え,氷上で乳鉢と乳棒で摩砕し た.抽出バッファーをさらに 3ml 加え攪拌した後に,1ml をエッペンチューブに移し,遠心分離 (15000rpm,4℃,15 分間)を行った.それにより,不純物を取り除いた上清を可溶性タンパクの抽 出液とした.これを用いて,可溶性タンパク,Rubisco,Rubisco activase の定量を行った. 2-(3).Bradford 法による全可溶性タンパクの定量 試験管に Bradford 試薬(0.01% CBB G-250,5% ethanol,8.5% phosphoric acid)3ml を入れ,上 記の抽出液を蒸留水で 2 倍希釈したものを 60μl ずつ,および標準液として BSA を 60μl ずつアプライ して攪拌し,5~10 分後に分光光度計で吸光度(OD595nm)を測定した.標準 BSA の吸光度を二次回 帰し,それを基準として葉内全可溶性タンパク含量を求めた. 2-(4).ELISA 法による Rubisco および Rubisco activase の定量 前述の試料溶液をリン酸バッファー(10mM Na-phosphate pH7.2)で Rubisco の定量に用いるサン プルは 500 倍に,Rubisco activase の定量に用いるサンプルは 200 倍に希釈し,ポリスチレン製平穴 96 穴 ELISA 用マイクロプレート(Falcon 3915)に 50μl ずつアプライした.その後 4℃で一晩静置し, タンパクをプレートに吸着させた.アプライしたサンプルを除き,T-PBS(10mM Na-phosphate,pH7.2 , 500mM NaCl,0.05% Tween20)で 2 回洗浄し,3%BSA を含む T-PBS でウェルいっぱいに満たし,4℃ で 1 晩静置しブロッキングした.ブロッキング後,T-PBS でウェルを 3 回洗浄した後,PBS(10mM Na-phosphate,1M NaCl)で 250 倍に希釈した anti-Rubisco,1000 倍に希釈した anti-Rubisco activase ウサギ抗血清(一次抗体)を 100μl ずつそれぞれに加えた.25℃で 1 時間インキュベートした後に T-PBS で 3 回洗浄し,3%BSA を含む PBS(10mM Na-phosphate,1M NaCl)で 2000 倍に希釈したペルオキシ ダーゼ標識抗ウサギ IgG(H+L)ヤギ抗体を 2 次抗体として 50μl ずつ加えた.25℃で 1 時間インキュベ ートした後に T-PBS で 4 回洗浄し,発色基質(12.5mg ABTS,12.5μl 5%H2O2)を 25ml のバッファ ー(0.2M citrate-0.1M phosphate pH5.0)に溶かしたものを 100μl ずつアプライし,発色を開始させ 61 た.25℃で 30~60 分間発色させた後に,Micro Plate Reader A4(Tosoh)で 415nm の吸光度を測定した. 同様に操作したイネ葉由来の精製 Rubisco を標準(0~2.0μg/ml)および Rubisco activase を標準(0~0.4 μg/ml)とし,その吸光度を 2 次回帰し,試料溶液中の Rubisco ,Rubisco activase 量を算出した. 2-(5).ゲノム DNA の抽出 形質転換体及びコントロール個体の若い葉を 2~3 枚摘み,速やかに液体窒素で急速凍結し,ゲノム DNA の抽出に用いるまで,-80℃で冷凍保存した. 各サンプルの葉約 0.5gを乳鉢にとり,液体窒素を加えて摩砕した. 50ml のコニカルチューブに 65℃ の抽出バッファー(組成;2%臭化ヘキサデシルトチメチルアンモニウム(CTAB),0.1M Tris(pH8.0),1.4M NaCl,20mM EDTA.超純水で調整後オートクレーブした)を 10ml 入れ,摩砕した葉のパウダーを抽出 バッファーが入ったチューブに移し,時々撹拌しながら 65℃で 30 分置いた. 30 分後,7.5ml のクロロホルムを加えて混ぜ,遠心分離(5000rpm,4℃,5 分)した.水層をミラクロ スでろ過しながら,新しい 50ml コニカルチューブに移し,等量のイソプロパノールを加えて室温で 15 分置いた後,遠心分離(10000rpm,4℃,10 分)した. 上澄を捨て,70%エタノールでペレットを洗い,遠心分離(10000rpm,4℃, 2 分)した後,上澄を取り 除き,風乾した.ペレットを 500μl の TE バッファーに溶かして,オートクレーブした 1.5ml のマイク ロチューブに移し,5μl の 10mg/ml RNaseA を加えて,65℃で 30 分置いた. 30 分後,遠心分離(14000rpm,4℃, 5 分)して,上澄を新しいオートクレーブしたマイクロチューブ に移し,500μl イソプロパノール,50μl 3M 酢酸ナトリウムを加えた.遠心分離(14000rpm,4℃, 10 分) した後,上澄を取り除き,70%エタノールでペレットを洗い,遠心分離(14000rpm 1 分)した.上澄を取 り除き,ペレットを風乾した後,500μl の TE バッファーに溶かし,-30℃で冷凍保存した.これを PCR 分析に用いる DNA サンプルとした. 2-(6).PCR 反応による導入遺伝子の増幅及び,電気泳動による導入遺伝子の確認 Volume(μl) 終濃度 Autocleved Water 10×PCR Buffer 25mM MgCL2 2mM d NTP 2μM hpt-Primer Forward 2μM hpt-Primer Reverse Genome DNA Taq ポリメラーゼ(10U/μl) Total 5 2 2 2 2 2 5 0.05 20μl 62 up to 1× 1mM 0.2mM 0.2μM 0.2μM 0.05U/μl 反 応 に 用 い た hpt プ ラ イ マ ― (HPT-F 5 ´ -GCGTGACCTTGCATCTCC-3 ´ HPT-R 5 ´ -TTCTACAGCCATCGGTCC-3´)は,hpt 遺伝子の領域の一部分を増幅するものであった.上記に示し たように PCR チューブにアプライし,サーマルサイクラー(GeneAmp PCR Systems 2700,Applied Biosystems 社)を用いて,hpt 遺伝子の領域の一部分を増幅した.反応条件は,96℃-5 分,[94℃-30 秒, 58℃-30 秒,72℃-1 分]を 30 サイクル,72℃-5 分間であった.1%アガロースゲルで 20μl の PCR 産物 を電気泳動し(泳動バッファー;1×TAE,泳動槽;GelMate2000,東洋紡社),エチジウムブロマイド染 色した後,プリントグラフ(AE-6911FXF,アトー社)で 312nm の紫外光によって 700~800bp に相当す るバンドを観察した. 63 結果 1. 形質転換体の作出 前述の手順で,形質転換体及び,コントロール個体の作出を行った.2004 年 5 月 12 日に,種子を N6D 培地に置床したものより,8個体の形質転換体を鉢上げしたのを皮切りに,2005 年 1 月 31 日現在 56 個体の形質転換体を鉢上げした.この形質転換体を ORCA と呼び,鉢上げした順番にナンバリング した.ORCA 系統のうち,28 個体が,第 7 葉が展開するまでに枯死してしまった.また,コントロー ル個体は,5 個体鉢上げし,これを BC と呼び,同様にナンバリングした.ORCA 系統の形態的な特徴 としては,圃場で栽培された栽培品種日本晴と比較して,葉が細く,稈も細かった.また,生育も遅か った.BC 系統は,栽培品種日本晴と比較しても,形態的な特徴はみられなかった.BC 系統の個体は, 現在第 9 葉が展開中であり,生育ステージが早いため,本研究の現段階においては,サンプルとして用 いることができなかった.そこで,本研究では,種子を発芽させ,ポットに植えて,ORCA 系統と同じ チャンバー内で,同じ条件で育てたサンプルをコントロール個体として用いた. 2.形質転換体の光合成特性 2-(1).形質転換体の光合成能力(CER) ORCA 系統と,種子を発芽させ,ポットに植えて,同じ条件で育てたコントロール個体(c-1,2,3)の各 CO2 濃度(60,150,330,680,980,1250,1550,1800ppm)における CER の値を表 9 に示す.また,表 9 をもとに して,ORCA 系統とコントロール個体の CO2 濃度と CER との関係を図 2 に示す. CO2 濃度が大気条件に近い 330ppm における CER の値は,コントロール個体間の平均が 14.8μmol/㎡ /s であり,ORCA 系統間の平均が 4.73μmol/㎡/s であり,コントロール個体が,ORCA 系統を 3.1 倍上 回っていたが, CO2 濃度が 700ppm あたりまで上昇してくると,コントロ-ル個体では,CER の値が 頭打ちになってくる一方で,ORCA 系統では,CO2 濃度が 1800ppm あたりまで上昇しても,CER の値 が頭打ちにならず,CO2 濃度が 1800ppm における CER 値が,コントロール個体の中で最も高い c-3 個 体の値より高い値を示した ORCA 系統の個体(ORCA10,14,28)もあった(図 2,表 9 参照).また,CO2 濃 度 680ppm における CER の値から,CO2 濃度 1800ppm における CER の値への増加率は,コントロ ール個体間での増加率の平均が,111%であるのに対して,ORCA 系統間の増加率の平均は,208%であ った(表 9 参照).ORCA 系統間では,CO2 濃度 1800ppm における CER の値が最も高かった個体 (ORCA10)は, CO2 濃度 1800ppm における CER の値が最も低かった個体(ORCA11)の 4.7 倍であった(表 64 9 参照). 表 9.ORCA 系統の各 CO2 濃度における CER(μmol/㎡/s)の値 CO2 濃度 60 150 330 450 680 980 1250 1550 8000 ORCA2 0.26 1.82 3.56 4.41 5.94 7.46 9.58 11.22 12.93 ORCA3 0.24 1.24 2.28 3.14 4.13 5.09 6.70 8.27 8.82 ORCA4 0.42 3.08 6.62 8.80 12.28 15.63 18.71 21.57 24.07 ORCA5 0.29 2.47 5.84 7.72 11.14 14.56 18.12 21.03 24.50 ORCA6 0.66 3.55 7.50 9.55 12.85 16.26 18.02 19.34 20.21 ORCA9 0.31 1.52 3.24 4.68 5.99 7.49 9.24 10.23 11.88 ORCA10 1.15 5.46 11.32 15.27 21.22 27.70 32.20 35.04 37.64 ORCA11 0.43 1.73 3.43 4.28 5.20 6.13 7.02 7.44 8.05 ORCA12 0.26 1.82 3.56 4.41 5.94 7.46 9.58 11.22 12.93 ORCA14 0.90 4.32 8.95 12.11 16.75 20.87 26.00 27.94 29.70 ORCA16 0.40 1.57 3.07 3.78 4.74 6.60 7.80 9.01 9.53 ORCA22 0.74 4.05 8.08 10.77 14.54 19.00 22.38 25.05 26.63 ORCA24 1.40 3.45 7.08 9.56 12.39 15.33 17.56 19.48 20.98 ORCA25 0.60 2.92 5.84 7.69 10.24 13.39 16.00 18.62 20.52 ORCA28 0.48 4.23 8.66 12.19 16.68 21.71 26.66 29.90 31.61 ORCA29 0.09 1.04 2.34 3.00 4.01 5.16 6.16 6.63 8.78 ORCA31 0.13 0.74 1.74 1.96 3.45 4.70 6.70 8.08 9.04 ORCA38 0.01 1.64 3.51 4.95 6.76 8.44 10.40 12.30 13.28 ORCA39 0.29 1.77 3.74 4.86 6.33 9.95 10.80 12.48 14.67 ORCA41 0.50 1.05 2.52 2.88 4.35 5.79 6.82 8.41 10.02 ORCA43 0.32 1.96 3.40 4.69 6.25 8.16 10.48 12.48 13.60 ORCA44 0.28 1.89 4.08 5.53 7.40 9.66 10.83 11.44 12.13 ORCA49 0.36 1.18 2.71 2.95 5.07 6.13 9.38 11.65 12.45 ORCA50 0.12 0.89 2.18 2.56 4.05 5.91 7.75 9.81 11.93 ORCA51 0.19 1.06 3.08 4.51 5.52 8.64 11.19 13.12 14.64 c-1 0.34 3.77 6.84 7.86 8.98 9.93 11.00 11.48 11.50 c-2 1.07 8.71 17.81 21.79 24.99 24.98 25.05 25.26 25.54 c-3 0.83 9.80 19.76 23.59 26.73 27.12 27.34 27.66 27.71 (ppm) 65 40.00 35.00 30.00 ORCA10 ORCA16 ORCA24 control 多項式 (ORCA10) 多項式 (ORCA16) 多項式 (ORCA24) 多項式 (control) 25.00 20.00 15.00 10.00 5.00 0.00 0.00 500.00 1000.00 1500.00 2000.00 CO2濃度(ppm) 図 2.ORCA 系統とコントロール個体の CO2 濃度と CER との関係 2-(2).形質転換体の葉内成分含量 表 10 に,ORCA 系統及びコントロール個体の葉内可溶性タンパク含量,Rubisco 含量,Rubisco activase 含量および,CO2 濃度が 330ppm,1800ppm 時における CER の値,可溶性タ ンパク含量に対する Rubisco 含量の割合(R/P)を示す. 可溶性タンパク含量は,ORCA 系統間の平均の方が,コントロール個体間の平均よりも低く,コント ロール個体の平均の 92%であった.ORCA 系統において,可溶性タンパク含量の値の範囲は,2.39~ 5.85g/㎡であり,範囲の幅が広かった.また,可溶性タンパク含量がコントロール個体間の平均よりも 多かった ORCA 系統の個体(ORCA3,29,38,39,41,43,49,50,51)のうち,CER の値がコントロール個体の 平均を上回った個体は,330ppm 時,1800ppm 時の両方においてみられなかった.ORCA 系統内におい ても,可溶性タンパク含量が ORCA 系統の平均よりも多かった ORCA 系統の 11 個体のうち,CER の 値が ORCA 系統の平均を上回った個体は,330ppm 時,1800ppm 時の両方において 2 個体(ORCA22,28) だけであった. 66 表 10.ORCA 系統の CER,可溶性タンパク,Rubisco,Rubisco activase 含量及び可溶性タンパク含量に対する Rubisco 含量 の割合(R/P) 個体 No. CER(330ppm) CER(1800ppm) protein(g/m2) Rubisco(g/m2) R activase(g/m2) R/P(%) ORCA 平均 4.75 16.83 4.34 2.27 0.01 51 2 3.56 12.93 4.29±0.48 2.37±0.41 0.01±0.00 55 3 2.28 8.82 4.85±1.08 2.52±0.63 0.01±0.01 52 4 6.62 24.07 4.24±0.09 1.89±0.36 0.03±0.00 45 5 5.84 24.50 4.00±0.34 1.83±0.14 0.02±0.00 46 6 7.50 20.21 3.64±0.23 1.66±0.18 0.03±0.01 45 9 3.24 11.40 2.39±0.05 1.29±0.29 0.01±0.01 54 10 11.32 37.64 3.51±0.11 1.62±0.14 0.02±0.02 46 11 3.43 8.05 3.59±0.11 2±0.09 n.d. 56 12 3.96 13.58 3.84±0.25 2.06±0.44 0.01±0.00 54 14 8.95 29.70 4.08±0.21 1.86±0.04 0.03±0.01 46 16 3.07 9.53 4.27±0.77 2.26±0.43 0.01±0.01 53 22 8.08 26.63 4.56±0.07 1.86±0.39 0.03±0.01 41 24 7.08 20.98 3.32±0.14 2.03±0.17 0.02±0.01 61 25 5.84 20.52 3.62±0.41 1.70±0.12 0.01±0.02 47 28 8.66 31.61 4.48±0.81 1.84±0.10 0.03±0.02 41 29 2.34 8.78 4.97±0.13 2.67±0.11 0.01±0.00 54 31 1.74 9.04 4.48±0.26 2.68±0.13 0.01±0.00 60 38 3.51 13.28 5.05±0.26 2.72±0.20 0.01±0.00 54 39 3.74 14.67 5.70±0.19 3.01±0.25 0.01±0.00 53 41 2.52 10.02 5.39±0.01 2.97±0.30 n.d. 55 43 3.4 13.6 5.20±0.05 3.01±0.28 0.01±0.00 58 44 4.08 12.13 4.34±0.24 2.21±0.19 0.01±0.00 51 49 2.71 12.45 5.44±0.29 2.96±0.24 0.01±0.00 54 50 2.18 11.93 5.85±0.01 2.99±0.29 0.01±0.00 51 51 3.08 14.64 5.55±0.84 2.85±0.14 0.01±0.00 51 12.33 21.58 4.73 2.47 0.43 52 c-1 6.84 11.50 4.13±0.47 2.2±0.21 0.44±0.07 53 c-2 17.81 25.54 5.31±0.22 2.72±0.23 0.49±0.08 51 c-3 19.76 27.71 4.74±0.12 2.49±0.22 0.36±0.06 52 コントロール 平均 n.d.:検出されず CER 単位:μmol/㎡/s 67 ORCA 系統の Rubisco 含量の平均は,コントロール個体の平均の約 92%であり,若干少なかった. ORCA 系統において,Rubisco 含量の値の範囲は,1.29~3.01g/㎡であった.ORCA 系統の 3 個体 (ORCA2,3,16)のうち,CER の値がコントロール個体を上回った個体は,330ppm 時,1800ppm 時の両方 においてみられなかった.また,Rubisco 含量が,ORCA 系統間の Rubisco 含量の平均より多かった ORCA 系統の 3 個体(ORCA2,3,16)のうち,CER の値が ORCA 系統の平均を上回った個体は,330ppm 時,1800ppm 時の両方においてみられなかった. Rubisco activase 含量は,ORCA 系統において,激減していた.ORCA 系統の Rubisco activase 含量 の平均は,コントロール個体の Rubisco activase 含量の 2%に過ぎなかった.また,ORCA 系統内にお いて,Rubisco activase 含量の差はほとんどみられなかった. 可溶性タンパク含量に対する Rubisco 含量の割合(R/P)は,ORCA 系統の平均とコントロール個体の 平均間であまり差はみられなかった.ORCA 系統の可溶性タンパク含量に対する Rubisco 含量の割合 (R/P)の範囲は,41~61%と範囲の幅が広かった. 2-(3).導入遺伝子の確認 PCR 反応及び,電気泳動により,ORCA 系統の全ての個体において,700bp 相当の hpt 遺伝子内の 一部の領域に対応するバンドが検出された.これより,ORCA 系統の全ての個体において,アグロバク テリウムを介して遺伝子が導入されたことが確認できた. 68 考察 C3 植物において光合成の鍵酵素となっている Rubisco は,その触媒能が大半の酵素と比べ著しく低く, また,RuBP の結合による不活化,CA1P の触媒部位への阻害,触媒部位に生じる XuBP,KABP によ る阻害により,触媒能を失う(Portis,A.R.,Jr 1995).これら 3 つの不活化型 Rubisco の再活性化を促し, 触媒能をもたせる働きをするのが Rubisco activase と呼ばれる酵素である. 深山ら(1998)によると,イネ 葉では,Rubisco は Rubisco activase が,十分に存在しないと完全に活性化されず,その光合成速度は, Rubisco との間の相関よりも,Rubisco activase との間の相関の方が強いことを報告した.これより,イ ネ葉における Rubisco activase 含量を増加させることによって,活性型 Rubisco が増加し,光合成能力 が高まる可能性が考えられる.本研究では,栽培イネの Rubisco activase の遺伝子を,アグロバクテリ ウムを介して導入して形質転換させ,Rubisco activase 過剰発現体の作出を試み,その光合成特性を調 べた. 1.形質転換体の作出 本研究において作出された ORCA 系統は,2005 年 1 月 31 日現在で 56 個体であった.そのうち,28 個体が,生育ステージが早いうちに枯死した.ORCA 系統は,圃場で栽培された栽培品種日本晴と比較 して,葉や稈が細く.生育も遅かった.この理由として,ORCA 系統の Rubisco activase 含量がコント ロール個体の 2%にまで激減していた事が考えられる(表 10 参照).これは,イネにおいての JIN ら(2004) や,タバコにおいての Mate(1993)らによるアンチセンス技術を用いて Rubisco activase 含量を減少させ た形質転換体の多くは,枯死したという報告と一致しており,この考えを支持している.また本研究で は,栽培イネの Rubisco activase 遺伝子を導入した ORCA 系統の Rubisco activase 含量が激減した.こ れは,内在性の遺伝子の配列と相同な配列の外来遺伝子を導入すると,外来遺伝子だけでなく内在性遺 伝子も発現が抑制され,時には,完全に抑止される,というコサプレッションまたは PTGS(Post-Transcriptional Gene Silencing)と呼ばれる現象が起こったのかもしれない.イネ科におい ては, gus 遺伝子を導入し,高い GUS 発現を示している形質転換イネのプロトプラストに再び gus 遺 2000)がなされている. 伝子を導入すると, その GUS 発現は失われたという PTGS の報告(Kanno et.al., これと同様に,本研究においても,日本晴が本来もつ Rubisco activase 遺伝子と同じ配列の Rubisco activase 遺伝子が導入されために PTGS という制御機構が働いたのかもしれない.この制御機構は,そ れに関わる遺伝子の配列情報を持った 21~26bp の短い二本鎖 RNA(SiRNA)が関係していることが知ら れており,PTGS と思われる現象が起こった際には,SiRNA が検出されるかどうかが,焦点となる.本 研究においても,PTGS という現象が働いたかどうかを詳しく調べるには,ノーザンブロット分析によ 69 り,SiRNA が検出されるかどうかを調べる必要がある.また,PTGS という現象は,ある遺伝子の mRNA 量が閾値を越えると起こるという説が一般的である.Arun(2002)らが, Rubisco activase 過剰発現体を作 出した際に用いたプラスミドの T-DNA 領域のプロモーターは,CaMV 35S promoter であった.一方, 本研究で用いたプラスミドの T-DNA 領域のプロモーターは,Cab promoter であった.また,イネにお いて,Cab promoter と共に導入された GUS 遺伝子の活性は,CaMV 35S promoter と共に導入された GUS 遺伝子の活性より,10 倍高いという報告が,Tada(1991)らによってなされている.以上をふまえ ると,本研究において,Cab promoter の働きが強く,Rubisco activase の mRNA の転写量が多すぎた ために,閾値を越え,PTGS という制御機構が働いたということが,示唆される.したがって,用いる プラスミドの T-DNA 領域のプロモーターを CaMV 35S promoter に換えて,Rubisco activase 過剰発現 体の作出を試みることも,大変意義があると考えられる.また,内在性の遺伝子の配列と相同な配列をも つ外来遺伝子を導入すると PTGS が引き起こされることは,先に述べた.したがって,PTGS による導 入遺伝子の発現抑制の可能性を免れるために,イネの Rubisco activase 遺伝子とは,違う配列をもつ野 生イネの Rubisco activase 遺伝子や,違う種の Rubisco activase 遺伝子を導入することも Rubisco activase 過剰発現体の作出に有効な手段であると考えられる. 70 2.形質転換体の光合成特性 一般に,イネは,CO2 濃度が 700ppm あたりまで上昇すると,光合成速度は頭打ちになることが知ら れており,本研究におけるコントロール個体もこれに矛盾していなかったが,本研究で作出した ORCA 系統の CER の値は,CO2 濃度が 1800ppm あたりまで上昇しても CER の値が頭打ちにならなかった(図 2 参照).つまり,ORCA 系統では,光合成速度における CO2 飽和点が高い方にシフトしている. Sharkey(1985)は,CO2 の利用(Rubisco の活性),光の利用(RuBP の再生),トリオースリン酸の利用(Pi の供給)の面から,飽和光での CO2 同化の律速過程のシミュレーションを行いモデル化した.これによる と,低い CO2 濃度下では,Rubisco に対して RuBP 濃度は飽和しているので, Rubisco 活性が CO2 同 化を律速しているが,CO2 濃度が上昇すると,Rubisco 活性が上昇し,RuBP の再生能力に限りがあれば, それが律速するようになる.この初期の律速段階である Rubisco 活性は,先に述べたように,Rubisco activase が大いに関与している.これより,ORCA 系統の Rubisco activase 含量がコントロール個体と 比べ大いに少なかったことで,Rubisco の活性が減少し,その活性の減少分だけ,Rubisco 活性から RuBP の再生能力に律速段階が移行する CO2 濃度が上昇したために,ORCA 系統では,光合成速度における CO2 飽和点が高い方にシフトしたのではないかと考えられる. 大気条件に近い CO2 濃度 330ppm,コントロール個体の CER の値が頭打ちし始めた CO2 濃度 680ppm, 測定した最も高い CO2 濃度 1800ppm で各 CO2 濃度における ORCA 系統の CER の平均は,コントロー ル個体間での CER の平均値のそれぞれ,38%,42%,78%であった(表 9 参照).JIN ら(2004)は,大気条件 に近い CO2 濃度下における Rubisco activase 含量を 15%減少させたアンチセンスイネの光合成速度は, コントロールの約 33%であったという報告したが,本研究の結果は,これと矛盾していない.本研究に おいて,各 CO2 濃度下で ORCA 系統の CER の値が低かった理由として,ORCA 系統において,Rubisco activase 含量が劇的に減少しており,そのため活性型 Rubisco の量が減少したためではないかと考えら れる.さらなる理由として,Rubisco activase は,Rubisco の機能・構造を維持する分子シャペロンの役 割を果たすとも考えられており(Portis,A.R.,Jr 2003),表 9 より Rubisco 含量と各 CO2 濃度下で ORCA 系統の CER の値との間に相関がみられないことがわかるので,Rubisco activase の量が少ないため, Rubisco の構造が維持されず,正常に機能しなかったためではないかと考えられる.また,CO2 濃度 1800ppm 時の CER の平均値は,コントロール個体における CER の値の平均値よりも低かったが,CO2 濃度 1800ppm 時の CER の値が,Rubisco activase 含量が劇的に減少しているにも関わらず,コントロ ール個体より高かった ORCA 系統の個体も存在した(表 9 参照).Makino ら(1997)はアンチセンスによっ て Rubisco 含量を野生型よりも 35%減少させたイネが飽和 CO2 濃度下での光合成速度が,同じ窒素肥料 濃度で生育した野生型よりも高いことを報告している.このことは,飽和 CO2 濃度下での光合成速度は 必ずしも Rubisco 含量のみに依存するものではなく,その他の光合成関連の葉内可溶性成分とのバラン 71 スが重要である事を示している.また,Makino ら(1997)が行ったアンチセンス体の実験では,野生型に 比べてシトクロムやクロロフィルに窒素が多く配分されていたことが分かっている.シトクロムやクロ ロフィルは CO2 固定には直接関与しないが,Rubisco 含量の減少を補うようなメカニズムが働いている ことは明らかである.つまり,本研究において,CO2 濃度 1800ppm 時の CER の値がコントロール個体 より高かった ORCA 系統の個体が存在したのは,高 CO2 濃度下では, CO2 濃度 1800ppm 時の CER の 値がコントロール個体より高かった ORCA 系統個体の可溶性タンパク含量,Rubisco 含量に依存するの ではなく,その R/P の値に依存しており, R/P の値がコントロールの R/P の値より低いということが(表 10 参照),光合成速度という点において,Rubisco activase 含量が減少した分の窒素が Rubisco にでは なくシトクロムやクロロフィルのようなその他の光合成関連の葉内可溶性成分に配分され,それらの間 のバランスが適性に保たれているからかもしれない.また,同じ理由で,CO2 濃度 1800ppm 下での, ORCA 系統の個体間での CER の値に大きな差があることを説明しうる. ORCA 系統のカルボキシレーション効率を調べるために,低 CO2 濃度領域での CO2 濃度と CER の値 の関係を図 3 に示す. 図 3 で用いられた ORCA10 は,CO2 濃度 1800ppm 下での CER の値が,コント ロールより高く,ORCA24 は,CO2 濃度 1800ppm 下での CER の値が,コントロールと同等で,ORCA16 は,CO2 濃度 1800ppm 下での CER の値が,コントロールより低かった.カルボキシレーション効率と は,この図のグラフの勾配によってあらわされ,活性型 Rubisco の量的な指標となる.図 3 より,c-3, ORCA10,24,16 の順で,カルボキシレーション効率は高かった.つまり,この順で,活性型 Rubisco の量が多い事が考えられる.そこで,各個体の Rubisco 含量に対する,Rubisco activase 含量の割合(A/R) を計算して,表 11 に示す. 図 3 に用いた c-3,ORCA10,24,16 の A/R の値は,それぞれ,表 11 より 14.5%,1.2%,1.0%,0.4%と なっており,カルボキシレーション効率と相関がみられた.また,表 11 より,ORCA 系統において, A/R の値が大きい個体は,CO2 濃度 1800ppm 下での CER の値も大きかった.ORCA 系統の CER の値 は,CO2 濃度が 1800ppm あたりまで上昇しても直線的に増加していることを考慮にいれると,ORCA 系統の各 CO2 濃度における CER の値は,A/R の値に大きく依存していると考えられる. 表 9 より,コントロール個体の CER が頭打ちしてくる CO2 濃度 680ppm 下までは,コントロール個 体間の CER の平均値を上回る CER の値を示した ORCA 系統の個体は,存在しなかった.この結果は, Fukayama ら(1998)のイネ葉の光合成速度は,Rubisco との間の相関よりも,Rubisco activase との間の 相関の方が強いという考えを支持する結果となっている.したがって,Rubisco activase を過剰発現し たイネの光合成特性を調べる必要性は増したと考えられる. また,ORCA 系統内における可溶性タンパク含量,Rubisco 含量の値の範囲は広かった(表 10 参照). これは,CER を測定し,サンプリングした葉の葉齢が揃っていなかったためであると考えられる. 72 表 11.ORCA 系統の CER,可溶性タンパク,Rubisco,Rubisco activase 含量及び可溶性タンパク含量に対す る Rubisco 含量の割合(R/P) 個体 No. CER (330 ppm) CER (1800 ppm) protein(g/m2) Rubisco(g/m2) Rubisco activase(g/m2) R/P(%) ORCA 平均 4.75 16.83 4.34 2.27 0.01 51 2 3.56 12.93 4.29±0.48 2.37±0.41 0.01±0.00 55 3 2.28 8.82 4.85±1.08 2.52±0.63 0.01±0.01 52 4 6.62 24.07 4.24±0.09 1.89±0.36 0.03±0.00 45 5 5.84 24.50 4.00±0.34 1.83±0.14 0.02±0.00 46 6 7.50 20.21 3.64±0.23 1.66±0.18 0.03±0.01 45 9 3.24 11.40 2.39±0.05 1.29±0.29 0.01±0.01 54 10 11.32 37.64 3.51±0.11 1.62±0.14 0.02±0.02 46 11 3.43 8.05 3.59±0.11 2±0.09 n.d. 56 12 3.96 13.58 3.84±0.25 2.06±0.44 0.01±0.00 54 14 8.95 29.70 4.08±0.21 1.86±0.04 0.03±0.01 46 16 3.07 9.53 4.27±0.77 2.26±0.43 0.01±0.01 53 22 8.08 26.63 4.56±0.07 1.86±0.39 0.03±0.01 41 24 7.08 20.98 3.32±0.14 2.03±0.17 0.02±0.01 61 25 5.84 20.52 3.62±0.41 1.70±0.12 0.01±0.02 47 28 8.66 31.61 4.48±0.81 1.84±0.10 0.03±0.02 41 29 2.34 8.78 4.97±0.13 2.67±0.11 0.01±0.00 54 31 1.74 9.04 4.48±0.26 2.68±0.13 0.01±0.00 60 38 3.51 13.28 5.05±0.26 2.72±0.20 0.01±0.00 54 39 3.74 14.67 5.70±0.19 3.01±0.25 0.01±0.00 53 41 2.52 10.02 5.39±0.01 2.97±0.30 n.d. 55 43 3.4 13.6 5.20±0.05 3.01±0.28 0.01±0.00 58 44 4.08 12.13 4.34±0.24 2.21±0.19 0.01±0.00 51 49 2.71 12.45 5.44±0.29 2.96±0.24 0.01±0.00 54 50 2.18 11.93 5.85±0.01 2.99±0.29 0.01±0.00 51 51 3.08 14.64 5.55±0.84 2.85±0.14 0.01±0.00 51 コントロール 平均 12.33 21.58 4.73 2.47 0.43 52 c-1 6.84 11.50 4.13±0.47 2.2±0.21 0.44±0.07 53 c-2 17.81 25.54 5.31±0.22 2.72±0.23 0.49±0.08 51 c-3 19.76 27.71 4.74±0.12 2.49±0.22 0.36±0.06 52 n.d.:検出されず CER 単位:μmol/㎡/s 73 本研究では,Rubisco activase 過剰発現体の作出を試みたが,結果的に失敗であった.PTGS による 導入遺伝子の発現抑制の可能性を免れるために,栽培イネの Rubisco activase 遺伝子と違う配列を持つ 野生イネの Rubisco activase 遺伝子や,違う種の Rubisco activase 遺伝子の導入,または,過剰発現体 の作出に用いるプラスミドの T-DNA 領域のプロモーターを CaMV 35S promoter に換えることを検討す る必要がある.それによって作出した Rubisco activase 過剰発現イネの光合成特性を調べる意義は大き いと思われる. 74 摘要 本研究では,イネの栽培品種日本晴を供試材料とし,アグロバクテリウムを介して,光合成を律速し ている Rubisco の活性化酵素である Rubisco activase のイネの遺伝子を導入し,過剰発現を狙った形質 転換体を作出した.また,個葉光合成能力の改良によるイネの多収化を図る基礎研究として,その光合 成特性(個葉光合成能力,光合成関連酵含量)を調べた. 形質転換系統である ORCA 系統は,56 個体作出したが,半数である 28 個体は,枯死した. ORCA 系統及びコントロール個体の個葉光合成能力として,CER を測定した.コントロール個体の CER の値は,CO2 濃度が 700ppm あたりで,頭打ちになったのに対して,ORCA 系統の CER の値は, CO2 濃度が 1800ppm にまで達しても,まだ頭打ちにならず,なおも増加を示す個体も現れた.また, CO2 濃度 1800ppm における ORCA 系統の個体の CER 値が,コントロール個体間での最大の CER 値を 上回ったものもあった. ORCA 系統及びコントロール個体の葉内可溶性タンパク含量,Rubisco 含量,Rubisco activase 含量 を測定し,葉内可溶性タンパク含量に対する Rubisco 含量の割合(R/P)を計算した.葉内可溶性タンパク 含量,Rubisco 含量においては,ORCA 系統とコントロール個体間であまり差は認められなかったが, ORCA 系統の Rubisco activase 含量は,コントロール個体の 7%しかなかった.R/P の値は,コントロ ール個体は 53%である一方,ORCA 系統間では 41~61%と範囲の幅が広かった. CO2 濃度 330,700,1800ppm における ORCA 系統間の CER の平均値は,コントロール個体の平均値の 38,42,78 であった.ORCA 系統において,R/P の値が低い個体は,各 CO2 濃度における CER の値が, 高かった. 今後,過剰発現体の作出のために,栽培イネの Rubisco activase 遺伝子と異なる塩基配列を持つ野生 イネの Rubisco activase 遺伝子や,違う種の Rubisco activase 遺伝子の導入や,過剰発現体の作出に用 いるプラスミドの T-DNA 領域のプロモーターを CaMV 35S promoter に換えることを検討する必要があ る.さらに,過剰発現体の光合成特性を調べる必要性がある. 75 第三章 アンチセンス Rubisco Activase 遺伝子を導入した 形質転換イネの作出とその光合成特性 緒論 Rubisco activase は,光合成 CO2 固定反応を触媒する酵素 Rubisco の活性化酵素である.光によって活性化さ れ,Rubisco に結合した阻害剤を解離させる働きをもつ.本研究では,イネ葉光合成における Rubisco activase の 影響を明らかにするために,Rubisco activase 量を減少させた形質転換イネを作出し,光強度に対する光合成速 度の変化を調べた. 材料と方法 イネ [Oryza sativa L. cv. Nipponbare] の Rubisco activase 小アイソフォーム遺伝子(rca)のアンチセンス DNA 配列を,イネ cab プロモーターに連結し,バイナリーベクターpIG121-Hm に導入した.これをアグロバクテリウム法 によってイネ「日本晴」に形質転換した.コントロールとして GUS 遺伝子を含まないベクターを同様に形質転換さ せた.本実験では,得られた形質転換イネの T2 世代を用いた.T2 種子をハイグロマイシンを含む MS 培地上で発 芽させ,約 10 cm の大きさに育った後,市販の赤玉土と N,P,K 各 0.3 g 含む 1/10000a ワグナーポットに移植し た.光強度 500~700 µmol quanta m-2 s-1,明期 14 時間/暗期 10 時間,25℃に設定した生育チャンバー内で栽 培した.播種約 2 ヶ月後,9~10 葉期の最上位完全展開葉のガス交換速度を,携帯用光合成蒸散測定装置 (LI-6400,LI-COR)で測定した.測定条件は,CO2 濃度 35 Pa,O2 濃度 21%,葉温 25℃,VPD 約 1.1 kPa とした. 定常状態の光合成速度は,光強度 250,500,1000,1500 µmol quanta m-2 s-1 で測定した.また光誘導過程の光 合成速度として,光強度 1500 µmol quanta m-2 s-1 下で 30 分間,その後 50 µmol quanta m-2 s-1 に 1 時間おき,再 び 1500 µmol quanta m-2 s-1 を照射したときの光合成速度を,5 秒間隔で 20 分間測定した.測定に用いた葉は冷 凍保存し,クロロフィル,可溶性タンパク質,Rubisco,Rubisco activase (RCA)の定量に用いた.また葉の一部を 乾燥させ,窒素の定量に用いた. 76 結果と考察 アンチセンス rca 形質転換イネは,RCA 含量によって 3 グループに分けた.グループⅠ(RCA 含量がコントロー ルの 20~25%),グループⅡ(10~15%),グループⅢ(10%以下). (1) 光強度 1500 µmol quanta m-2 s-1,CO2 濃度 35 Pa 下の光合成速度は,RCA 含量が 20~25%以下になると 減少した(図 1). (2) コントロールと比べたときの光合成速度の減少割合は,3 グループとも光強度 500~1500 µmol quanta m-2 s-1 でほぼ一定であった(図 2A).気孔コンダクタンス(gs)は弱光下ではコントロールより高く,強光下では低い傾 向があったが,光合成速度ほどの違いはなかった(図 2B).細胞間隙 CO2 濃度 (Ci)は,RCA 含量が低いグル ープほど高かった(図 2C). (3) 定常状態の光合成速度がコントロール程度であったグループⅠについて,光誘導過程の光合成速度を調べ た.光合成速度は Ci 濃度 25 Pa で標準化した値(A*)を用いた.コントロールは強光を照射して 5 分後にほぼ 一定となるが,Ⅰは 10 分後までゆるやかに増加した後一定となった(図 3). (4) クロロフィル含量,クロロフィル a/b 比,葉内窒素含量はコントロールとほぼ同じであった (表 1).可溶性タンパ ク質や Rubisco 含量はコントロールよりもやや多いが,有意差は認められなかった (表 1). 以上の結果から,強光下における定常状態の光合成速度は,少なくとも通常の 20~25%の RCA 量があれば 維持できると考えられた.しかしこの量では,光誘導過程における光合成速度の増加が遅く,光強度が変化しや すい環境下においては不十分であると考えられた. 表 1 クロロフィル含量,クロロフィル a/b 比,窒素,可溶性タンパク質および Rubisco 含量の比較 クロロフィル (a+b) 窒素 可溶性タンパク質 Rubisco (mmol m ) クロロフィル a/b (g m ) (g m ) (g m-2) 6 0.51±0.05a 2.90±0.18a 1.63±0.22a 6.01±0.67a 2.96±0.31a Antisense 10 0.51±0.04a 3.07±0.09a 1.63±0.24a 6.34±1.02a 3.33±0.46a n Control -2 -2 -2 平均±標準偏差.同一アルファベット間にはt検定(5%水準)で有意差なし. 77 光合成速度 ( mol CO2 m-2 s-1) 30 25 20 15 Control Ⅰ Ⅱ Ⅲ 10 5 0 0 20 40 60 80 100 120 RCA (%) Rubisco activase 含量(RCA)と光 図1 (103) (97) (71) (66) 20 (104) 15 (73) 10 (114) (43) (92) (43) 5 (69) (43) A 0 gs (mol H2O m-2 s-1) 光合成速度 (µmol CO2 m-2 s-1) 25 合成速度の関係.光合成速度は 1500 μ mol qutanta m-2 s-1,35 Pa CO2,21% 0.8 0.6 0.4 0.2 B 0 O2,葉温 25℃で測定した.RCA はコン トロールの平均値(319 mg m-2)に対す 32.5 A* ( mol CO2 m-2 s-1) Ci (Pa) る百分率で表した. 30.0 20 27.5 15 0 C 0 500 1000 1500 2000 光強度(µmol quanta m-2 s-1) 10 5 図 2 Control Ⅰ 光強度に対する光合成速度,気 孔コンダクタンス(gs),細胞間隙 CO2 濃度(Ci)の変化.図 A の( 0 0 5 10 時間 (分) 15 )の数値は, 各光強度におけるコントロールの光 合成速度に対する百分率.シンボルは 図 1 と同じである.n=2-6. 図3 弱光から強光へ変化させたときの光合成速 度の経時変化.それぞれの代表的な個体の結果 を表した.光合成速度はCi濃度25Paで標準化した 値(A*)を用いた. 78 総括 各種野生イネの光合成特性を調査した結果,EE ゲノムを持つ Oryza australiensis が,栽培種であ O. sativa よりも高い光合成能力を持っている可能性が示唆された.この O. australiensis から光合成を律 速している Rubisco の活性化酵素である Rubisco activase 遺伝子を単離し,O. sativa のものと比較した ところ,その塩基配列の相同性は 98%と非常に高かった. 次に,イネの栽培品種日本晴を供試材料とし,アグロバクテリウムを介して,Cab プロモーターにつ ないだ Rubisco activase のイネの遺伝子を導入し,過剰発現を狙った形質転換体を作出した.また,個 葉光合成能力の改良によるイネの多収化を図る基礎研究として,その光合成特性(個葉光合成能力,光合 成関連酵含量)を調べた.結果的には強度の Co-suppression のため,形質転換体の Rubisco activase 含 量は日本晴より低くなり,光合成能力を向上させることはできなかった. 一方,アンチセンス遺伝子を導入した形質転換体を調査した結果から,強光下における定常状態の光合 成速度は,少なくとも通常の 20~25%の Rubisco activase 量があれば維持できると考えられた.しかし この量では,光誘導過程における光合成速度の増加が遅く,光強度が変化しやすい環境下においては不 十分であると考えられた. 今後は Co-suppression を防ぐため,イネ以外の種(オオムギ,トウモロコシ,ホウレンソウ,インゲ ンなど)から Rubisco activase 遺伝子を取り出して栽培イネに導入する,また,Cab プロモーターの代 わりに CAMV35S プロモーターを利用する計画などを進めている. 79 引用文献 Andrews.T.J.,G.H.Lorimer and N.E.Tolbert (1973) Ribulose-Diphosphate Oxygenase. 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