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「弘前短観」から得られる政策ヒント
HIF マンスリーレポート Vol.6 「弘前短観」から得られる政策ヒント ひろさき未来戦略研究センター 情報分析担当 政策研究員 榮田 育子 弘前商工会議所は四半期ごとに「弘前地域企業短期景況観測調査」(以下:弘前短観)を実施し、ウ ェブサイト(*1)で集計結果を公表している。直近の調査は平成 27 年 1 月~3 月期について 4 月に実施さ れ、先月結果が公表された。市内の景況感を示す指標として大変貴重な資料であり、弘前商工会議所の 長年にわたる地道な調査作業に心から感謝を申し上げたい。 図表 1 は弘前短観の景況 DI と商工会議所 LOBO 調査(*2)の業況 DI を示したものである。なお、DI とはディフュージョン・インデックス(Diffusion Index)の略で、 「良い」の回答割合から「悪い」の 回答割合を差し引いて計算される景況感の判断指数で、プラスであれば業況が明るいと感じている経営 者が多いことを示す。 (*1) http://www.hcci.or.jp/ (弘前商工会議所ウェブサイト) (*2)商工会議所早期景気観測「CCI(Chamber of Commerce and Industry) - Quick Servey of Local Business Outlook」の略で、全国の中小企業を対象とした「肌で感じる足元の景気感」を毎月調査 しているもの 図表 1 弘前短観と商工会議所 LOBO 調査の DI 0 -5 -10 -15 -20 -25 -30 -35 -40 -45 -50 H24 3Q H24 4Q H25 1Q H25 2Q 弘前:現状 H25 3Q H25 4Q H26 1Q 弘前:先行き予想 H26 2Q H26 3Q H26 4Q H27 1Q H27 2Q LOBO調査業況DI 出所: 弘前商工会議所 弘前短観、日本商工会議所 LOBO 調査。弘前短観は回答企業全体の DI 値、LOBO 調査は 毎月実施している為、弘前短観の調査時期と同じ月の DI を抽出。 過去 12 四半期、弘前だけでなく全国の DI もマイナスで推移し続けているが、特に消費税増税のネガ ティブな影響があったと思われる昨年の第二四半期以降、景況感に厳しさを感じている経営者が多かっ たことがうかがえる。しかしながら、直近はやや回復傾向にあり、先行きに明るさが見える企業が増え てきているようだ。 1 <「経営上の問題点」が示唆するもの> 弘前短観の結果には「経営上の問題点について」という質問に対する回答結果がある。全部で 16 種 類の選択肢から複数回答可能な質問に対する回答結果に興味深い点を見つけた。 図表 2 はこの質問に「人材の確保・育成」、 「後継者育成」と回答した企業数の推移である。なお、 「人 材の確保・育成」は平成 25 年第一四半期より一貫して一番目か二番目に回答数が多い選択肢である。 図表 2 経営上の問題点 120 100 80 60 40 20 0 H24 1Q H24 2Q H24 3Q H24 4Q H25 1Q H25 2Q H25 3Q H25 4Q H26 1Q H26 2Q H26 3Q H26 4Q H27 1Q 人材の確保・育成 後継者育成 出所: 弘前商工会議所 弘前短観より抜粋 回答結果を言い換えれば、人材不足を感じている経営者が多い状態が 2 年以上続いていることに なろう。 「人材の確保・育成」と「後継者育成」は表裏一体の課題に思える。人材がいなければ後継者候補 も発掘しづらいと想像されるからだ。一方、どんな産業においても人材の育成には時間がかかりが ちで、一朝一夕に解決はしない。 しかしながら長期的な視野に立てば、この現実は人口減少対策のヒントを与えてくれているよう にも思える。例えば、企業側と学生が交流できる機会を増やして、事業や商売の魅力を直接伝える ことでお互いの理解を深めるとか、大都市在住の仕事経験豊富なシニア世代に移住を促すきっかけ にも使えないか。 最新の弘前短観によれば、昨年度から今年にかけてベースアップや一時金の上昇等で待遇を改善 している企業が増えている。鉄は熱いうちに打てというが、企業側のマインドが明るいうちに人材 を求める側と、職を求める側のニーズを探るなどの手立てを考えたい。 2 <統計データを読み解く Tips:家計調査報告> 総務省統計局は 5 月 19 日、家計調査の報告として平成 26 年の貯蓄・負債額を公表した(*1)。 二人以上の世帯における 1 世帯当たりの貯蓄現在高(*2)の平均は 1,798 万円で前年比+3.4%とな り、直接比較可能な 2002 年以降では最高値になったという。一方、貯蓄保有世帯の中央値は 1,052 万円であった(図表 3)。 「貯蓄保有世帯の中央値」とは貯蓄現在高が 0 の世帯を除いた世帯を貯蓄 現在高が少ない順に並べた場合に、ちょうど中央に位置する値のことである。 図表 3 二人以上の世帯における貯蓄現在高の推移 (万円) 2000 1800 1688 1692 1690 1728 1722 1719 1680 1798 1739 1638 1657 1664 1658 1600 1400 1200 1022 1027 1024 1052 1008 1018 995 1000 988 995 991 1001 1052 1023 800 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 貯蓄現在高 貯蓄保有世帯の中央値 2011 2012 2013 出所: 総務省統計局 2014 (年) 家計調査報告 (*1) http://www.stat.go.jp/data/sav/sokuhou/nen/index.htm (*2)預貯金以外に価値が変動する有価証券の保有額も含むためこのような表現を使う <平均は真ん中ではない> 平均と中央値のそれぞれの金額に大きな開きがある理由は何か? 理由を次の表で示したい。 図表 4 貯蓄現在高の五分位階級 母集団全体 20~29歳 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~69歳 70歳以上 平均 1,798 268 610 1,030 1,663 2,484 2,452 第一分位 98 10 34 69 96 206 214 境界値 253 30 101 195 261 499 500 第二分位 460 73 181 305 492 809 803 境界値 687 117 273 443 739 1,148 1,123 第三分位 1,004 160 388 631 1,036 1,608 1,595 第四分位 1,383 1,971 212 329 514 687 858 1,178 1,402 1,859 2,111 2,828 2,111 2,816 境界値 境界値 2,746 486 927 1,578 2,449 3,710 3,733 出所: 総務省統計局 3 (単位:万円) 第五分位 5,455 769 1,758 2,967 4,834 6,970 6,833 家計調査報告 図表 4 は、貯蓄現在高順に並べて調査世帯全体を5つのグループに分けた結果で分位ごとの数字 はそれぞれのグループの平均、境界値はそれぞれのグループの境界となった貯蓄現在高である。 母集団全体でも各年代でも平均と呼ばれる数字は第四分位である貯蓄現在高が 2 番目に多いグル ープに属している。そして、第四分位と第五分位の平均額の差が非常に大きいことにお気づきだろ うか。 一方、中央値は順番に並べた結果真ん中に位置する値なので当然真ん中のグループに属すること になる。 図表 4 が示すように、貯蓄や保有資産統計の特徴は少数の富裕層のデータが平均値を上げること である。よって、実態を把握するうえで「平均」が必ずしも妥当ではないことがあることを知って おく必要がある。 今回の家計調査報告では県庁所在地別のデータも公開されていたため、参考資料として図表 5 に 東北 6 県の県庁所在地データを掲載した。ただし、人口が多い仙台市の調査対象世帯数が他市より 少ないなど、これだけで実態を把握するのはやや無理があるように思われるため、あくまでも参考 の数字程度に認識しておくのが妥当と考える。 図表 5 東北 6 県 県庁所在地の調査結果 集計世帯数 貯蓄現在高の平均(万円) 青森市 73 893 盛岡市 85 1,361 仙台市 67 1,795 秋田市 68 1,321 山形市 86 1,439 福島市 88 1,359 出所: 総務省統計局 4 家計調査報告