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HRO流星電波エコー絶対強度較正装置の開発および
特別研究報告 HRO 流星電波エコー絶対強度較正装置の開発および 流星飛跡線電子密度の算出と評価 Development of a calibration device for obtaining absolute reception power of HRO meteor echoes and determination of electron density profiles of meteor plasma. 報 告 者 学籍番号:1155060 氏名: 大和 忠良 指 導 教 員 山本 真行 准教授 平成 25 年 2 月 15 日 高知工科大学大学院 工学研究科 基盤工学専攻 電子・光システム工学コース 目次 第 1 章 序論 ........................................................................................................................................1 1-1 背景 ...........................................................................................................................................1 1-2 目的 ............................................................................................................................................1 第 2 章 流星電波観測 ........................................................................................................................3 2-1 アマチュア無線利用流星電波観測 (HRO) .............................................................................3 2-2 HROFFT ...................................................................................................................................4 2-3 HROFFT 出力画像を用いた流星エコー自動計数ソフトウェア .............................................4 第 3 章 流星エコー絶対強度算出 .....................................................................................................9 3-1 絶対強度測定方法...................................................................................................................9 3-2 観測機材 ..................................................................................................................................12 3-2-1 アンテナ...........................................................................................................................12 3-2-2 流星観測受信機 .............................................................................................................13 3-2-3 GPS ..................................................................................................................................14 3-2-4 A/D ボード .......................................................................................................................14 3-2-5 観測用 PC .......................................................................................................................15 第 4 章 観測機器開発 ......................................................................................................................16 4-1 回路開発 ................................................................................................................................16 4-1-1 強度較正用信号発生装置 ...............................................................................................16 4-1-2 PLL 回路、分周器部分...................................................................................................16 4-1-3 リレー回路部分 ...............................................................................................................18 4-2 ソフトウェア開発 ......................................................................................................................20 4-2-1 流星自動観測システム ...................................................................................................20 4-2-2 波形抽出ソフトウェア.......................................................................................................23 4-2-3 絶対強度測定ソフトウェア...............................................................................................23 4-2-4 流星グラフ画像合成ソフトウェア.....................................................................................29 第 5 章 結果および評価 ...................................................................................................................31 5-1 強度較正用信号発生装置の検証 .........................................................................................31 5-2 2012 年ふたご座流星群の観測結果と精度評価 ..................................................................32 5-3 流星グラフ合成ソフトウェアの動作検証 ................................................................................35 5-4 流星エコーによる線電子密度の算出 ....................................................................................37 5-5 Web 表示 ................................................................................................................................41 第 6 章 考察 ......................................................................................................................................43 第 7 章 結論 ......................................................................................................................................46 謝辞 ....................................................................................................................................................47 i 参考文献 ............................................................................................................................................48 付録 ...................................................................................................................................................... a ii 第1章 序論 1-1 背景 流星電波観測(HRO)は、天候や昼夜を問わず 24 時間 365 日流星の観測が可能である。流星 の発光時には、熱圏下部の高度約 80~120 km に軌跡に沿った電離柱(プラズマ)が形成され電 波を反射する。高知工科大学山本真行研究室では、前方散乱方式を用い福井県からの送信波の 反射波を受信することで流星電波観測を行っている。 日本の研究機関で流星観測を定期的に行っているグループは少なく、京都大学の生存圏研究 所の MU レーダーはその強力な出力 1 MW と多数のアンテナから成るレーダーシステムにより、非 常に精細な流星電波観測を流星群の時期に限って行うことができる。しかし、様々な観測目的に マシンタイムが割かれるため流星を定期的に観測できるわけではない。海外ではカナダのウェスタ ンオンタリオ大学が流星電波観測を行っている。こちらは高知工科大学と同じように 5 本のアンテ ナを使用しているが、受信局だけでなく近隣に送信局を設けて準後方散乱的に観測を行っており、 5ch 電波干渉計で継続的に前方散乱方式観測を行っているグループは現在のところ高知工科大 学のみである。 同研究室では、2003 年より 6 方位 HRO を開始、2005 年より 3 チャンネル(3ch)流星電波干渉 計システムの基礎開発を行い(堀内 ,2005; ,岡本,2005)、3 基のアンテナの位相差から流星電波の 到来角を求め、およその流星出現位置の算出について約 3 年分のデータを収集してきた(濱口, 2006; 埜口, 2007)。3ch 電波干渉計では、位相差から求まる到来角の測定誤差が大きく、仰角が 低くなるほど測定結果にズレが生じ精度に限界がある。 上述の問題点を解決するため、2009 年には、3ch 電波干渉計を改良した 5ch 流星電波干渉計を 開発し、到来角の測定精度を向上しつつ約 2 年間安定した自動観測を行った。また、出現高度 90 km を仮定した流星出現位置を求め準リアルタイムで観測結果を Web に公開する流星自動観測シ ステム(埜口, 2009)の運用を 2009 年以降継続して行っている。5ch 干渉計を用いた自動観測シス テムで得られる流星のパラメータは、アンテナから流星までの仰角・方位角 (または高度 90 km 等 に仮定した出現位置座標)、観測時刻、および相対受信強度である。また、他の場所に観測場所 を 2 地点設けることによって多地点観測による流星飛跡を算出することもできる。これら流星電波干 渉計システムの発展には、絶対受信強度の測定と物理パラメータの算出が求められる。 1-2 目的 流星エコー(流星反射電波)の絶対強度を精密測定することにより流星の規模を推定することが できる。また、個々のエコーが空間位置や時間経過によりどれくらい減衰するかを定量的に把握す ることにより流星が発光する際に発生するプラズマによる反射率(すなわちプラズマ密度)を知る重 1 要なデータとなる。現在、流星エコーの絶対強度を定期的に観測可能なシステム、観測点は国内 には存在せず、本システムの開発により流星電波観測を物理学的に大きく発展させることが本研 究の目的である。 2 第2章 流星電波観測 2-1 アマチュア無線利用流星電波観測 (HRO) 流星は、宇宙から飛来する流星物質が超高層大気に突入する際に、高度 80 km~120 km 付近 で大気分子との相互作用によって発光する現象である。流星の発光時には、放出されるエネルギ ーにより大気分子や流星物質が正イオンと自由電子に分かれる電離が起こり一時的に大量のプラ ズマを発生する。発生したプラズマによって軌跡沿った細長い円柱状の高密度な電離柱が短時間 形成され、中の自由電子が電波を散乱する性質を持つ。流星電波観測は、この性質を利用し観測 を行う(図 2-1)。1998~2002 年に訪れた 33 年周期のしし座流星群の活動期に、国内ではアマチュ ア無線を用いた流星電波観測(HRO = Ham-band Radio meteor Observation)が確立され、『流星 観測ガイドブック』(中村他, 2001)により詳細に紹介されて以降は、アマチュア天文家、アマチュア 無線家を中心に全国に広まった。現在 HRO では、アマチュア無線帯の主に 53.75 MHz の超短波 が利用されている。この送信波は、福井県鯖江市の福井工業高等専門学校 (前川公男氏: JA9YDB)から出力 50 W で安定的に 24 時間連続送信(CW)されている。周波数 76 MHz~90 MHz のラジオ放送と同様、一般に超短波(VHF: 30 MHz~300 MHz)は見通し内でしか伝播しないため、 送信局から遠方の観測点では受信が不可能であるが、流星発生時には送信波が上述の流星電 離柱に散乱され、観測点での受信が一時的に可能となる。図 2-1 に示すように電離柱により前方に 散乱される電波エコーを用いるため前方散乱方式と呼ばれる。これに対し強力な送信波を出して 送信局に戻ってくる微弱な散乱成分を用いる方式を後方散乱方式と呼ぶ。一般的に「レーダー」 には後方散乱方式が用いられる。 図 2-1 前方散乱方式 3 2-2 HROFFT 流星電波観測では、通常のラジオ受信機のように、まずアンテナで流星からの反射波を検出し、 観測周波数にチューニングした受信機にて検波し、一気に 1 kHz 内外までダウンコンバートして音 声信号に変換する。この方式が長らく用いられた理由は、PC 付属のサウンドカード等を利用すれ ば観測データを音声信号として取得可能で手軽なシステムが構成できるためである。現在は、観 測周波数を送信周波数より 900 Hz ずらし周波数 600 Hz~1200 Hz の音声信号を FFT 表示でき自 動観測用ソフトウェア HROFFT(作製:大川一彦氏)を用い 900 Hz 近傍の反射波を観測する方式が 主流であり、全国 100 地点以上で流星エコー(流星飛跡上で反射された電波)が観測されている(小 川, 2007)。 HROFFT は、受信機からの信号を 1 秒毎に高速フーリエ変換(FFT)し、周波数解析結果を画像 表示する(図 2-2)。この FFT 解析画像は、PC 時刻を用いて 10 分毎に png 形式画像として記録さ れる。画像中央のダイナミックスペクトル(スペクトルの時間変化)と画像下部の受信強度グラフに加 工され、流星エコーの受信状況が読み取れる。 図 2-2 HROFFT 出力画像の例 2-3 HROFFT 出力画像を用いた流星エコー自動計数ソフトウェア 観測用ソフトウェア HROFFT は、『流星電波観測ガイドブック』による紹介後、HRO の一般的ソフト ウェアとして普及したが、流星の出現数を得るには、同ソフトウェアの出力画像(図 2-2)データから 観測者が目視計数を行う必要がある。そのため、多くの時間と労力を要し、かつ計数者による個人 差が生じる可能性も否めない。 流星エコー自動計数ソフトウェア「meteor_echo_counter」(Noguchi and Yamamoto, 2007)は、 HROFFT 出力画像(png)を読み込み、画像処理により流星エコーの自動計数を行うソフトウェアで あり、目視による計数と比較しても 95 %以上の一致率が得られる。同ソフトウェアの干渉計用バー ジョン(埜口, 2009)では、読み込んだ画像から流星エコーの発生時刻、継続時間、強度を調べ、 得られた発生時刻と継続時間を保持しておき、前述した 5ch 干渉計データの読み込みを行う。発 4 生時刻と継続時間を元に流星エコーが観測された時間を絞り込み、干渉計データを用いて継続時 間の範囲内で位相差を算出し流星エコー出現位置計算を行う。これらの解析結果は、結果テキス ト、計数グラフ、流星エコー出現位置画像として保存される(図 2-3)。 図 2-3 「meteor_echo_counter」干渉計バージョンによる解析結果 2-4 5ch 流星電波干渉計 流星電波干渉計とは、複数のアンテナで検出した電波(流星エコー)の干渉処理により位相差を 求め、その値から電波の到来方向を算出する装置である。本節では、流星電波干渉計の観測原 理について記す。 送信局からの送信波は、流星が発生した位置のプラズマにより反射され、空間上の幾何学的条 件を満たすとき受信局で流星エコーとして受信される(2-1 節を参照)。受信局で、基線長 d 離れた Ant.A と Ant.B の 2 つのアンテナで受信するとき、電波は基線長 d に比例した微小な時間差(D/c, ここで D は行路差、c は光速)をもって両アンテナに到来する。基線長 d の値を観測周波数の波長 λ に対し、適切に選定しアンテナを配置することで、受信した信号同士の干渉処理により位相差が 求まり行路差 D を精密計測できる。さらに行路差 D から信号の到来角 θ が求まる(図 2-4(左))。 5 図 2-4 干渉計原理(左)と 3ch 電波干渉計(右) 5ch 電波干渉計では、アンテナを図 2-5 のように十字に配置することで 2 通りの位相差が求めら れる。(Ant0-Ant1)+(Ant0-Ant3)により基線長 0.5λ の位相差が、(Ant0-Ant1)-(Ant0- Ant3)により基線長 2.5λ の位相差が求められる。基線長 0.5λ の場合と 2.5λ の場合の 2 組の位相 差と、これから求まる到来角θとの関係を図 2-6 に示す。d=0.5λ では一意に到来角が求まるが、測 定誤差に対する到来角の誤差が特に低仰角側で非常に大きくなることがわかる(3ch 干渉計) 。一 方、d=2.5λ の場合は位相が 1 周する 2π の任意性から解が増え曖昧さが生じるが測定誤差に対す る到来角の誤差は小さくなる。そのため、d=0.5λ と d=2.5λ の 2 つの基線長を同時に利用することに より、位相差から求まる到来角は 2π の任意性による曖昧性もなく精度良く求めることができる。高知 工科大学にて設置・運用されている 5ch 流星電波干渉計の概観とブロック図を図 2-7、図 2-8 に示 す。 図 2-5 5ch 電波干渉計アンテナ配置図 6 図 2-6 測定された位相差と求まる到来角θの関係 図 2-7 アンテナ配置の概観(左:Ant2, 中央:手前より Ant1, Ant0, Ant3, 右:Ant4) 7 図 2-8 5 ch 電波干渉計ブロック図 8 第3章 流星エコー絶対強度算出 3-1 絶対強度測定方法 2010 年 12 月 14 日に観測されたふたご座流星群の際の HROFFT による出力画像の例を図 3-1 に示す。現在、流星電波エコーの受信強度(電力)は、ノイズフロアからの相対 dB 値に応じた強度 グラフとして表示されており、各観測点における受信状況(ノイズフロア)絶対値(dBm;1 dBm=1 mW) にはなっていない。受信エコー強度は HROFFT 出力画像下部の強度グラフ部分に 10 dB 未満を 水色、10 dB 以上を黄色で表示している。さらに HROFFT スペクトルのカラー表示としては同画面 上のスペクトル表示部分に表 3-1 に示すような 0 から 12 の 13 段階の色を用いて表示されている。 Meteor_echo_counter により自動カウントされたデータは図 3-2 のようにテキストデータとして出力さ れる。ここで各流星エコーの強度は HROFFT 上のエコースペクトルからの読み取り値の最大強度と して 13 段階の相対値で扱われており、やはり物理量になっていない。 表 3-1 HROFFT 出力画面上による強度表示方法 レベル 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 色 黒 黒青 灰青 青 白青 水 薄緑 黄緑 緑 黄 橙 赤 薄赤 図 3-1 HROFFT 出力画像の例 9 表 3-2 流星エコー自動観測システムにおける meteor_echo_counter による テキストデータ出力結果の例 年月日 発生時刻 方位角[deg] 仰角[deg] 継続時間[s] 強度(13 段階) 20090103 23:23:50 351 35 1 12 20090104 1:29:33 338 38 10 12 2:17:40 340 35 15 12 3:00:11 350 44 12 12 3:21:04 348 45 1 12 3:27:46 350 37 11 12 3:35:22 331 33 4 12 3:36:21 341 34 10 12 HRO において流星の絶対強度の予想値は-80 dBm~-120 dBm である(中島、臼居, 2004)。こ の範囲を 10 dBm 間隔ずつ階段状に一定時間毎に出力できる模擬信号発振装置を開発すればよ り詳しい絶対値を調べることが可能となる(臼居,2004)。本研究では、強度較正用信号発生装置 を開発し、昨年開発された多地点観測による流星軌跡算出プログラム(山崎, 2012)の使用の際に 必要とされる高知工科大学とは別の場所に配置されるアンテナの受信機部分に組み込み、自身で 開発した波形抽出ソフトウェア HRO_IF_P2 で sav ファイルとして保存する。さらに、強度を算出する ための解析用ソフトウェアを開発し絶対強度較正システムを開発する。 図 3-2 絶対強度較正装置組み込み後のアンテナブロック図 10 流星エコーの絶対強度が算出できることにより線電子密度の算出が行えるようになる。流星エコ ーは、流星飛跡に沿って生じる電離柱の形成から拡散消滅までの構造を反映し反射し受信される。 その時の電離柱の状態はその周辺待機中のプラズマ密度に比べてはるかに高いものであり、線状 に伸びており、この時の長さ 1 m あたりの電子密度が散乱強度に比例する。この時の電子の密度 を線電子密度と言う。単位は m-1 や、個 / m などで表され、線電子密度は以下の式(3-1)で求めるこ とができる。また前方散乱の場合の位置関係を表したものが図 3-4 になり、t が反射点、φ は入射角 および反射角、β は、送受信点と反射点を含む面(伝搬面)と飛跡のなす角。ω は入射電波の方向 と飛跡のなす角である。 図 3-3 前方散乱の場合の位置関係 PT GT G Rλ3σe q 2 sin 2 γ Pro 64π3 (R 1 R 2 )(R 1 R2 )(1 - sin 2φcos 2β) PT G T G Rλ3 q 2 sin 2 γ 5 *10 -32 (R 1 R 2 )(R 1 R 2 )(1 - sin 2φcos 2β) (式 3-1) PRO: 受信電力,PT: 送信電力,β: 飛跡に入射する電界の方向と受信局の方向のなす角 GT , GR : 送信点および受信アンテナのゲイン R1 , R2 : 送信点反射点間距離および受信点反射点間距離, φ: 飛跡への電波の入射(反射)角, β: 電波伝搬面と飛跡のなす角 q: 飛跡中の線電子密度 γ : 飛跡に入射する電界の方向と受信局の方向のなす角 𝜎𝑒 = 4𝜋𝑟𝑒2 𝑠𝑖𝑛2 𝛾 ≅ 1 × 10−28[m2] : 電子 1 個の散乱断面積 本研究ではこの式を用いて、線電子密度の算出を行う。 流星エコーには大きく分けてオーバーデンスエコーとアンダーデンスエコーの 2 種類が存在する。 11 前者は、飛跡中の体積電子密度が高く、そのため電波が飛跡で全反射するような飛跡からのエコ ーであり、後者は飛跡中の体積電子密度が低く、全反射が起こらずに 1 つ 1 つの自由電子からの 散乱で電波が反射(散乱)されることに発生するエコーである。オーバーデンスエコーとアンダーデ ンスエコーの違いを表 3-3 に記す。 表 3-3 オーバーデンスエコーとアンダーデンスエコーの違い オーバーデンスエコー アンダーデンスエコー 電波は飛跡の表面で全反射 電波は電子一個一個で散乱 線電子密度が 10 14 線電子密度が 1014 個/m 以下 個/m 以上 面からの全反射なので散乱強度は強い 電波の干渉散乱(コヒーレント散乱)で強い散乱 明るい(速い)流星ほど長時間継続(最大数分程度)。 拡散で急速に散乱電波強度減衰(0.1~1 秒以下) ただし短いものはアンダーデンスエコーと同程度 3-2 観測機材 3-2-1 アンテナ 観測用電波は円偏波で送信されているため、受信アンテナにはクロス八木アンテナを用いて観 測を行う。53.75 MHz 用のクロス八木アンテナは市販されていないため、アンテナメーカ「Radix」に KIT-53Y2/X を発注した(堀内, 2005; 埜口, 2009)。アンテナケーブルは 5DFB 同軸線 30 m を使 用した。5ch 電波干渉計と同様の構成である。 12 図 3-4 アンテナ(KIT-53Y2/X) 表 3-4 KIT-53Y2/X アンテナ仕様(Radix 社提供) 型式 2 エレ・クロス八木 周波数 53.75 MHz インピーダンス 50 Ω 利得 6.3 dBi FB 比 10dB 以上 VSWR 1.5 以下 最大入力 300 W コネクター M-J ブーム長 1.200mm 適合マスト φ25~φ60mm 耐風速 瞬間最大風速 40 m/s 重量 2.5 kg 3-2-2 流星観測受信機 流星電波観測用の受信機(ITEC 製 HRO-RX605a を一部改造)は、一般的なスーパーヘテロダ イン方式を用いており HRO の観測周波数である 53.75 MHz の信号は、周波数変換され 900 Hz の信号として出力される。 5ch 電波干渉計では、局部発振部分と BFO 部分を別にし、各々の受信機に入力させて動作させ ている。 13 図 3-5 受信機の外観(左:5ch 電波干渉計用, 右:地点 A、B 用) 3-2-3 GPS 高い時刻精度で同期を得るために GARMIN 社のサターン 16tmx 型 GPS 受信機を用いた。PC の時刻同期ソフトは「Satk」を用いて 5 秒間隔で PC との同期を得る設定で OS の時計を秒単位で 合わせつつ動作させた。本システムでは、秒単位より高精度な時刻補正が必要なために A/D ボー ドに対し受信機等の信号と一緒に 1PPS のパルス信号を入れている(なお GPS からのグランドライ ンを I/O ポート(A/D ボード端子台)に繋ぐと 1PPS が拾えない状況が生じるため対策としてグランド は共有していない)。GPS の概観を図 3-6 に示す。この 1PPS 信号を用いて流星出現位置の測定ソ フトウェア側では従来の 5ch 干渉計データ処理と同様に 0.1 秒の時刻分解を行なっている。 図 3-6 GPS の概観 3-2-4 A/D ボード A/D ボードは「SAYA」型 ADXⅡ85X-1M-PCIEX を用いた。同社に PC 付きで発注し、データ取 得ソフトウェアは同社の ADXⅡ85-1M-PCIEX(サンプリング周波数 1 MHz、アナログ 16ch 入力)を、 A/D ボード制御ソフトウェアには同社提供の TrigBufferEX(入力チャンネルのデータファイルを一 定間隔でバイナリファイルに出力)を使用した。5ch 電波干渉計の信号線は端子台番号 CN10 の 0 番目から同 CN15 の 5 番目まで、RX0、RX1、RX2、1PPS、RX3、RX4 の順番で入力している。 14 図 3-7 I/O ポート(端子台) 3-2-5 観測用 PC 5ch 電波干渉計用観測 PC の性能を表 3-5 に示す。2008 年当時から使われている PC でありメ モリの一部を一時データ保存用 RAM ディスク(メモリドライブ)に用いて高速安定動作を実現して いる。今回の実験では 2012 年に多地点観測による流星飛跡情報の算出に使用された表 3-5 に示 す性能の PC を用意した。なお、従来のソフトウェア及び今回開発のソフトウェアは Windows7 の環 境でも動作することが確認できている。 表 3-5 5ch 干渉計用 PC 性能 OS Microsoft Windows XP Home Edition Version2002 Service Pack 3 CPU Intel(R) Core(TM)2 Duo CPU E7300 @2.66GHz 2.67GHz メモリ 2GB(但し 256MB をメモリドライブとして使用) 15 第4章 観測機器開発 4-1 回路開発 4-1-1 強度較正用信号発生装置 前章で説明した受信流星エコーの絶対強度予想値である-80~-120 dBm を 10 dB 間隔で一定 時間毎に出力できる装置の開発にあたり、2 つの部分に分けることにした。まず、53.75 MHz を出力 する部分として位相同期回路(PLL=Phase Lock Loop)を利用することにした。PLL 回路部では 860 MHz を出力し、その後分周器を通ることにより 16 分の 1 にされ 53.75 MHz を出力させるようにした。 これは分周器の分周比を変えるだけで様々な周波数を出力できるようにし、今後、53.75MHz 以外 の観測周波数でも観測して比較等を行えるようにと考えたからである。 その後、その出力を 10 dBm 毎に減衰させる為に、リレー回路部を通り目的の出力である周波数 53.75 MHz、出力強度-80 ~ -120dBm を出力するようにする。強度較正用信号発生装置のブロッ ク図を図 4-1 に示す。 図 4-1 強度較正用信号発生装置ブロック図 4-1-2 PLL 回路、分周器部分 PLL 回路とは入力信号の位相に同期した信号を生成するための電子回路である。入力信号と 出力信号の位相差を検出し、位相差を電圧に変換し、VCO(電圧制御型発振器)や回路ループ 内でフィードバック制御することにより、正確に同期した周波数の信号を発振することができる。温 度変化にも強く、常に高精度に安定した周波数の信号を出力できるという利点がある。 16 図 4-2 PLL 回路ブロック図 表 4-1 PLL 回路の部品説明 位相比較器 位相比較器は二つの入力信号の位相差を検出している。 ループフィルタ 位相比較器からの直流信号を平均化し、交流成分の少ないきれい な直流信号に変換するためのローパスフィルタである。 VCO (Voltage Controlled 入力される直流信号によって発振周波数が制御できる可変周 Oscillator) 波数発振器。 分周器 VCO から出力される信号を分周数倍して位相比較器に入力するた めに必要である。 大和(2011)では PLL 回路部の試作回路をユニバーサル基板で作製したが、グランドが安定せ ず、安定した出力を得られなかった為、今回はプリント基板エディタ PCBE を使用し学内にある基 板加工機でプリント基板を作製することにした。その回路図を図 4-3 に示す。動作の詳細は大和 (2011)を参照されたい。 図 4-3 模擬信号発生装置 PLL 回路部 本模擬信号発生装置 PLL 回路部による 53.75 MHz の信号出力結果を図 4-4 に示す。図 4-4 は最終出力であり、ノイズフロアに対する S/N が 50 dB 以上、半値幅 40 kHz にて正確に 53.75 MHz 17 の信号が出力されていることが確認できた。 図 4-4 PLL 回路部、分周器からの最終出力スペクトル 4-1-3 リレー回路部分 PLL 回路部から出力される周波数は 53.75 MHz で出力強度は約-20 dBm である(図 4-4)。その 為、まず-80 dBm まで正確に減衰させ、その後、リレー回路を介し-80 dBm ~ -120 dBm まで 10dB ずつ順番に減衰させる仕様にすることにした。リレースイッチには高周波対応の G6Y-1 を使 用した。リレー回路部の仕組み、ブロック図と回路図を以下に示す(図 4-5, 4-6, 4-7)。一定時間ごと の切り替え操作には PIC によるカウント処理を用いた。較正信号の出力周期は、JST に同期して正 確に 5 分毎にするなどの使用も考えられたが微妙なずれを防ぐことが難しいため、ソフトウェア側で 自由度をもって対処することとした。模擬信号発生装置の出力結果を図 4-8 に示す。出力が比較 的強い部分である-80 dBm、-90dBm 部分は受信機がサチュレーションを起こして安定して出力し ていなかったが、-100 dBm、-110 dBm、-120dBm 部分は階段状に正常に受信されていることが確 認できた(図 4-8)。 18 図 4-5 階段波形原理図 図 4-6 リレー回路部ブロック図 19 図 4-7 リレー回路部回路図 図 4-8 模擬信号発生装置出力結果 4-2 ソフトウェア開発 4-2-1 流星自動観測システム ソフトウェアの開発言語には、IDL(The Interactive Data Language)を使用した。 5ch 電波干渉 計では、受信機からの信号は A/D ボードを介し一定間隔でバイナリ形式のサンプリングファイル (bak ファイル)に出力される。ここでサンプリング周波数は「TrigBufferEX(SAYA 製オーダーメイド AD 入力ソフトウェア)」により設定・制御される。サンプリングファイルは、メモリドライブ上の特定の フォルダ内に約 15.2 秒間隔(約 20 Kbytes)で出力される。ソフトウェア「Get_saya_data」によってサ ンプリングファイルを連番ファイルとして一時保存する。そして、ソフトウェア「HRO_IF_V2(作製:岡 本, 2005; 改良:埜口, 2009)」によって、5ch 干渉計用のサンプリングデータに対し 0.1 秒毎に FFT 解析しピーク周波数に追随した受信強度データを得つつ時系列の波形データを 10 分毎に sav 形 式ファイルで出力する。同データには、GPS の 1PPS 信号を用いることで時間分解能 0.1 秒にて JST に正確に同期した時刻を与えている。次に流星エコー自動計数ソフトウェア「meteor_echo_counter」 で、観測結果の sav ファイルと HROFFT 出力画像を読み込み、流星エコーの自動解析を行い、並 列して処理される 5ch 干渉計による位相解析で得られた流星出現位置測定結果の txt ファイル、流 星の個数情報をグラフ化した png ファイル、解析結果を地図上にプロットした png ファイルを作成し、 20 これらを「DT-FTP」を使いサーバ PC に自動送信している。サーバ側には「WarFTPDaemon」を使用 し FTP サーバを置いている(図 4-9)。 本研究で開発された絶対強度較正システムは流星飛跡算出の際に用いられる高知工科大学以 外の他の 2 地点のうちどちらか 1 地点で 1ch のアンテナを使用し A/D ボードからのサンプリングデ ータを”HRO_IF_V2”を強度算出用に改良したソフトウェアを使用し、受信信号の時系列の波形デ ータを 10 分毎に sav ファイル(約 2.3 Mbyte)で出力し、「DT-FTP」を使いサーバ PC に送信してい る(図 4-10、表 4-2)。また、本システムと 5ch 電波干渉計のみで運用される場合は表 4-2 のタイムス ケジュールになる。しかし、実際は流星飛跡算出システムも併用して運用することが理想的である ため、その際のタイムスケジュール、システムフローに関しては、第 6 章で触れることにする。 図 4-9 5ch 電波干渉計ソフトウェアの流れ(埜口,2009) 21 図 4-10 絶対強度較正システムフロー 表 4-2 Web 表示までのタイムテーブル 22 4-2-2 波形抽出ソフトウェア 前項でも述べたように、干渉計に利用されている波形抽出ソフトウェア” HRO_IF_V2 ”の動作手 順は、A/D ボードからのサンプリングデータを逐次読み込み、標本数 4096 で最初の 0.1 秒間隔で FFT を行い周波数 900 Hz 前後の値で最も値の強いものをエコー受信強度データとして保存してい る。しかし、流星エコーには周波数分布があり、絶対強度測定には最大値よりも全体の平均を出し た方が良い。実際の波形としても見やすく、精密な計算処理ができると考え、周波数 900 Hz 前後 の値で最も値の強いもののみをとるのではなく 900 Hz 前後(750 Hz~950 Hz)の全ての値での積分 値をとり、保存するソフトウェアを開発した。なお値が巨大となるため、実際の処理では積分値を平 均して用いる。 図 4-11 はその波形抽出ソフトウェア“HRO_IF_P2”の出力結果である。 既存ソフトウェ ア ”HRO_IF_V2” の出力結果(図 4-12)と比較すると、較正用信号を受信している階段状波形の 部分が平坦になり、絶対強度算出に適したデータになったことが分かる。本研究ではこの出力結 果を元に絶対強度測定に関わる計算処理を行う。 図 4-11 HRO_IF_P2 出力結果(黄色枠内が較正用信号) 図 4-12 HRO_IF_V2 出力結果(黄色枠内が較正用信号) 4-2-3 絶対強度測定ソフトウェア 絶対強度測定プログラム”HRO_IF_LV”を開発するにあたって最初に行う処理が模擬信号発生 装置で出力した較正用階段状波形の認識である。階段状波形の各強度の値はあらかじめ分かっ ているので 5 つの配列を用意し各数値をその配列に入れ、その各配列の平均値をとり、その 5 点の 23 近似式を取って較正式を得る。その後、各流星エコーの数値を代入し、絶対強度を算出するように した。 このプログラムの根幹となってくるものが、階段状波形の認識方法である。階段状波形では各出 力強度を約 5 秒出力している。しかし、出力が始まった瞬間など切り替えのタイミングでは多少ばら つきがあり精度が落ちることが確認された。よってプログラム内に安定度の閾値を設け、各 5 秒間の うち 1 番安定している 3 秒間を抽出することにした。しかし、それでも受信機が受信するノイズ等の 影響によって出力が安定しないことがあった(図 4-13)。その場合には閾値を低くし、再度抽出を行 うようにし、その状態でも抽出できない場合は当該データより手前の 3 回分の検出データの各出力 の平均値を取り、強度の算出を行う仕様とした。その際には出力されるテキストデータには誤差が 大きい可能性があることが分かるように表記している。 プログラム開発後”HRO_IF_P2”から出力した sav ファイルを読み込み、解析を行った。しかし図 4-12 のように-80 dBm と-90 dBm の部分が安定して認識されず、その 2 つの部分が階段状の波形 になっていなかった。原因として強度が比較的高いため数値が振り切ってしまい、受信機と A/D ボードを介して安定した値を継続できなかったことが考えられる。そこで”HRO_IF_LV”を改良し、 -100 dBm から-120 dBm の 3 点のみで解析ができる仕様にした。また、本プログラムには GUI 画面 により、較正用階段状波形とみなす部分の間隔を設定する閾値、流星エコーとみなす部分の閾値 を設けている(図 4-14)。同 GUI 画面上の「エコーの max」とはエコーがある一定の値を超えると正確 なデータが入っていないため設けた閾値である。「エコーの min」はノイズとエコーの判別をするた め設けた閾値である。「エコーの max」、「エコーの min」ともに波形描写ソフト”HRO_IF_View”で波 形を確認した後、閾値を変更させることができる。「較正用信号の間隔」の欄では階段状波形の認 識を行っている。階段状波形では各強度の出力を約 5 秒間ずつ出力している。例えば「較正用信 号の間隔」を 3 秒に設定した場合その 5 秒間のうち出力が安定する 3 秒間のデータを取り、配列に 保存する。フローチャートを図 4-15 に示し処理の手順を以下に説明する。 図 4-13 階段状波形の認識成功例(上)と失敗例(下) 24 図 4-14 GUI 設定画面 25 図 4-15 絶対強度測定プログラムフローチャート ① GUI 画面で開始ボタンを押すと読み込みフォルダと保存先フォルダの設定画面が現れる。読 み込みフォルダは”HRO_IF_P2”で出力された sav ファイル(YYMMDDhhmm .sav)が保存され ているフォルダを指定している。さらに 5ch 電波干渉計の結果テキスト(c.txt)と飛跡算出結果テ キスト(tra.txt)を読み込みファイルとして指定する。保存先は本プログラムがある場所で良い。出 力・保存されるファイルはプログラムを動かしている間に観測された結果全てが書き込まれるテ キストデータ(Lv.txt)と 1 時間分の sav ファイル毎に出力される結果テキストデータ (YYMMDDhh00.txt)と 5ch 電波干渉計との同時観測により線電子密度の算出ができたテキス トデータ(b.txt)とさらに飛跡算出も成功したものを結合したテキスト(all.txt)の 3 種類ある。 ② 保存先フォルダの指定が終わると GUI で設定した各パラメータが読み込まれる。 ③ ファイルが読み込まれ、最初に行う処理が較正用階段状波形の認識である。出力強度は-80 26 dBm から出力しているが、上でも述べたように飽和状態に近く-80 dBm と-90 dBm は受信され る信号が不安定で FFT して出力される値が正確でないと思われるので-100 dBm 以下の認識 を行うことにした。GUI で設定されたエコーの max よりも低い値の中で、3 秒間一定の誤差(例: 3000 digit)の範囲内で出力されている部分を抜きだし保存する。次にその認識された部分より 数秒後であり、さらに一定の数値(ここでは 10000)以上低く、出力が一定(3000 digit 以内)であ る部分を抜き出し、-110 dBm と認識させる。この時、仮に上の条件に合わなかったときは配列 に入っているデータを初期化し読み込んでいる部分からやり直しとなる。-120 dBm を認識させ る場合も同様の処理を行う。仮に波形の乱れから階段状波形を 3 つ認識できなかった場合は 前回以前の検出データを 3 回分遡り、平均値として使用し、以下の手順に進む。 ④ 認識された 3 つの信号レベル各部分の平均をとり、その 3 点で絶対値較正用の近似式を算出 し、流星エコーの強度の数値(digit)を代入すれば絶対強度(dBm)が解析できるようにしてい る。 ⑤ 次に流星エコーの認識の処理が行われる。GUI で設けた「エコーの min」よりも値が大きくなる 時刻から「エコーの min」よりも低くなった時刻までを 1 つの流星エコーと判断した。またそのエ コーから 1 秒以内に別のエコーが認識された場合には、閾値付近で強度が微少変動している 1 つのエコーである可能性が高いため、その 2 つの部分を 1 つのエコーとして判断している。 そして認識したエコーの強度が最大値となる部分を④で得られた較正用近似式に代入し、絶 対強度を算出する。 ⑥ 流星が認識されると次は、線電子密度の計算に入る。最初に”meteor_echo_counter” から出 力される c.txt を読み込む。そのテキストから同時観測と思われる、時刻、仰角、方位角、経度、 緯度のデータを抜き取る。 線電子密度の計算流星飛跡ベクトルのデータが必要であるが、飛 跡算出結果テキスト(tra.txt)で得られていない場合には、当該流星の輻射点の方位角・仰角が 必要なため図 4-14 の GUI 画面で設定できる輻射点の赤経・赤緯の情報を用いて処理を行う。 その後、計算を行い線電子密度の算出を行い、テキストファイルとして出力する。この処理は sav ファイル(YYMMDDhhmm.sav)1 つ毎に行われる。 ⑦ ⑤の結果を書き出したテキスト情報とともに①で指定されたテキスト(Lv.txt)に出力する。⑤と⑥ の処理はエコーが認識されるたびに行われ、10 分間の sav データの処理が終わるまで繰り返 される。飛跡算出結果テキスト(tra.txt)と 5ch 電波干渉計の 2 つと同時観測があったデータはす べての観測情報を書き出したテキストファイル(all.txt)として出力する。また、1 つの sav データ の処理が終わると次の sav データの処理が始まる。その後、1 時間分の sav データの処理が終 わるとその時刻の 0 分時のテキストファイル(例:201212140100.txt)として出力する。sav データ が指定の読み込みフォルダに無いときには次の sav ファイルが生成されるまで待機状態に入 る。 本プログラムで出力されるファイルを表 4-3 に記す。出力されるファイルは全部で 4 つになり、1 時間ごとに出力されるもので、ファイル名は観測された日付・時間帯の開始時刻の始めになる(例: 27 2012 年 12 月 13 日 23 時 00 分開始の 1 時間ならば 201212132300.txt)。2 つ目は本プログラムが 起動してから終了するまでの観測データを出力するファイルでファイル名は Lv.txt である。そして 3 つめは干渉計との同時観測に成功したファイルでファイル名は b.txt と指定している。最後は干渉 計のデータと飛跡情報のデータと絶対強度の情報が出力される all.txt である。 表 4-3 “HRO_IF_LV の出力結果ファイル” YYMMDDhh00.txt Lv.txt b.txt all.txt LV.txtの1時間毎のデータをファイル名に日付、時間をつけて記録用に保存。データ保存用。 HRO_IF_LVにより強度の算出が行われた観測データ。常に更新され続ける。 5ch電波干渉計との同時観測により線電子密度の計算が行われたデータ。常に更新され続ける。 b.txtにさらに飛跡情報の算出結果も加えられたもの。常に更新され続ける。 図 4-16 絶対強度測定プログラム出力結果 (左より、日付、時刻(JST)、方位角[°]、仰角[°]、東経[°]、北緯[°]、継続時間[s]、線電子密度[m-1]) 28 4-2-4 流星グラフ画像合成ソフトウェア 現在の 5ch 電波干渉計では流星の観測された数をグラフ表示している。しかし、なんらかのエラ ーにより、干渉計用 PC で動いている流星エコーカウントソフトウェア” meteor_echo_counter”が停止 することがあり、再起動させると今までのデータをプロットした出現状況グラフの画像データが消え、 再起動させ始めた時間から再度プロットを始めてしまうため Web 上にアップロードしている流星出 現状況グラフ(10 日間で 1 枚)のデータが中途からの表示になり、以前のデータが存在するにもか かわらず、10 日間に 1 度でもエラー停止してしまうと以前のデータはグラフ表示されず、まとまった グラフとしての閲覧が不可能になっていた。そこで、再起動をかける前のグラフ(png 形式画像デー タ)と再起動をかけて新たに出力されたグラフ(png 形式画像データ)の合成処理をするプログラムを 開発した。 プログラムは基本的に画像処理のみで合成を行い、更新された png 画像のグラフがプロットされ ている部分の RGB 成分を抜き出し、再起動をかける前のグラフ画像上に合成させる方法をとった。 そのプログラムのフローチャートを図 4-18 に示す。 図 4-17 流星グラフ画像合成プログラム GUI 画面 29 図 4-18 グラフ画像合成プログラムフローチャート 30 第5章 結果および評価 5-1 強度較正用信号発生装置の検証 強度較正用信号発生装置の検証として本装置から出力される信号を受信機に入力し、その信号 を本研究で開発した波形抽出ソフトウェア”HRO_IF_P2”で表示し、波形の確認を行った(図 5-1)。4 章でも述べたように‐80 dBm と-90 dBm の出力は受信機の特性により一部サチュレーションを起こ しており、きれいな出力は得られなかったが、-100 dBm 以下の部分は正常に出力・検出されている ことが確認できた。この出力を確認後、既存の信号発生機(SG:Agilent 製 33250A)の出力信号を用 いて比較を行ったがほぼ同一の波形を得ることができた。 図 5-1 強度較正用信号発生装置の出力結果(上、中)、信号発生機(SG)の出力結果(下) 31 図 5-2 強度較正用信号発生装置接続図 5-2 2012 年ふたご座流星群の観測結果と精度評価 2012 年 12 月 13 日の深夜から 14 日の早朝にかけてピークを迎えたふたご座流星群を対象とし た流星電波観測を行った。その観測により得られた流星電波強度算出結果を表 5-1 に示す。一部、 “誤差多い”と表記している観測結果については、絶対強度算出ソフトウェア”HRO_IF_LV”により 強度較正用信号発生装置の出力信号から階段状波形のデータが取れなかったため上述のように 3 回分の読み取り値の平均を使用して処理を行ったことが分かるように表記した。 絶対強度が正確に算出されているか精度検証を行うために、既製品の信号発生機(SG:Agilent 製 33250A )から信号を出力し、擬似流星エコーを作りだし、そのデータを解析した。その結果を表 5-2 に示す。-100 dBm ~ -120 dBm の範囲で受信機が受信した範囲の擬似流星エコーでは誤差 が±3 dB 以内に収まっており、十分な誤差範囲であるといえる。しかし、‐80 dBm ~ -90 dBm および‐120 dBm 未満の信号はサチュレーションおよび受信機の直線性の問題から較正近似式に よる推定誤差が大きくなってしまっている。しかし、本流星電波観測により受信される流星エコーは、 統計的にそのほとんどが‐100 dBm ~ -120 dBm であることが分かっており、大きな問題では無 い。実際、今回ふたご座流星群の観測で得られた流星エコー全 101 例中、強度が-100 dBm 以上 のものと-120 dBm 未満のエコーは全部で 20 例であり、全体の約 20%であった(図 5-3)。 32 表 5-1 ふたご座流星群の観測結果(一部) 日付 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 観測時間 01:20:12~01:20:40 01:30:00~01:30:41 01:30:50~01:30:53 01:31:01~01:31:07 01:31:11~01:31:20 01:40:09~01:40:41 01:41:14~01:41:18 01:59:06~01:55:08 02:10:49~02:10:52 02:11:03~02:11:31 02:13:54~02:13:59 02:16:02~02:16:04 02:25:04~02:25:07 02:26:11~02:26:16 02:30:03~02:30:06 02:30:14~02:30:48 02:31:03~02:31:15 02:31:54~02:31:59 02:38:14~02:38:16 02:40:17~02:40:27 02:41:05~02:41:12 02:43:36~02:43:42 02:48:23~02:48:26 02:49:18~02:49:25 02:51:09~02:51:18 02:53:21~02:53:28 03:00:24~03:00:49 03:19:54~03:19:58 絶対強度 -100dBm -104dBm -118dBm -105dBm -118dBm -106dBm.....誤差多い -114dBm.....誤差多い -122dBm -118dBm -100dBm -114dBm -118dBm -116dBm -117dBm -118dBm -99dBm -118dBm -116dBm -122dBm -100dBm -118dBm -118dBm -119dBm -111dBm -115dBm -117dBm -97dBm -119dBm 33 日付 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 121214 観測時間 03:20:04~03:20:30 03:21:07~03:21:12 03:21:21~03:21:29 03:23:28~03:23:30 03:26:19~03:26:22 03:28:50~03:28:55 03:33:20~03:33:28 03:37:39~03:37:44 03:40:07~03:40:33 03:40:46~03:40:49 03:41:10~03:41:31 03:42:08~03:42:11 03:48:53~03:48:55 03:53:30~03:53:34 03:54:03~03:54:07 03:54:41~03:54:43 03:55:25~03:55:29 03:57:47~03:57:55 03:59:11~03:59:14 03:59:52~03:59:55 04:01:28~04:01:38 04:04:39~04:04:42 04:05:48~04:05:54 04:06:45~04:06:47 04:06:57~04:07:04 04:07:29~04:07:32 04:09:15~04:09:21 04:11:01~04:11:06 絶対強度 -107dBm -97dBm -118dBm -118dBm -119dBm -117dBm -110dBm -119dBm -75dBm -114dBm -119dBm -120dBm -120dBm -120dBm -119dBm -118dBm -116dBm -120dBm -120dBm -117dBm -89dBm -120dBm -120dBm -118dBm -119dBm -118dBm -120dBm -121dBm 表 5-2 SG 出力擬似流星エコーによる比較実験結果 時間/出力 130121 11:12:04~11:12 13 130121 11:12:18~11:12:24 130121 11:12:50~11:12:55 130121 11:13:07~11:13:12 130121 11:14:03~11:14:14 130121 11:16:06~ 11:16:16 130121 11:17:19~ 11:17:35 130121 11:18:23~ 11:18:28 130121 11:19:06~ 11:19:19 130121 11:22:04~ 11:22:16 130121 11:23:05~ 11:23:19 130121 11:23:39~ 11:23:58 130121 11:24:08~ 11:24:17 130121 11:25:06~ 11:25:11 130121 11:26:06~ 11:26:23 130121 11:27:04~ 11:27:12 130121 11:27:32~ 11:27:42 130121 11:28:22~ 11:28:31 130121 11:32:04~ 11:32:25 130121 11:33:10~ 11:33:39 130121 11:33:52~ 11:34:29 130121 11:34:20~ 11:34:30 130121 11:35:06~ 11:35:10 130121 11:37:27~ 11:37:41 130121 11:38:29~ 11:38:37 130121 11:39:09~ 11:39:34 130121 11:39:22~ 11:39:34 130121 11:42:06~ 11:42:21 130121 11:43:08~ 11:43:25 130121 11:44:05~ 11:44:13 130121 11:45:07~ 11:45:12 130121 11:46:09~ 11:46:19 130121 11:47:10~ 11:47:32 130121 11:48:11~ 11:48:20 130121 11:49:13~ 11:49:30 130121 11:52:17~ 11:52:35 130121 11:53:08~ 11:53:23 130121 11:54:09~ 11:54:26 130121 11:55:11~ 11:55:34 130121 11:56:12~ 11:56:14 130121 11:57:06~ 11:57:17 130121 11:57:20~ 11:57:21 130121 11:58:04~ 11:58:14 130121 11:59:06~ 11:59:24 130121 12:02:07~ 12:02:22 130121 12:03:11~ 12:03:22 130121 12:04:08~ 12:04:37 130121 12:05:20~ 12:05:31 130121 12:06:09~ 12:06:24 130121 12:07:11~ 12:07:34 130121 11:15:3~ 11:15:59 算出結果(dBm) -111 -120 -120 -120 -105 -124 -103 -116 -122 -101 -109 -118 -100 -105 -124 -101 -109 -107 -122 -102 -108 -119 -119 -124 -99 -116 -109 -119 -100 -110 -120 -124 -94 -114 -122 -104 -124 -120 -110 -100 -125 -115 -124 -122 -104 -100 -110 -120 -124 -122 -115 SG出力(dBm) 誤差(dB) -110 -1 -120 0 -120 0 -120 0 -105 0 -130 6 -103 0 -115 -1 -123 1 -90 -11 -110 1 -120 2 -100 0 -105 0 -130 6 -95 -6 -110 1 -110 3 -125 3 -100 -2 -110 2 -120 1 -120 1 -130 6 -90 -9 -117 1 -110 1 -120 1 -100 0 -110 0 -120 0 -130 6 -90 -4 -114 0 -125 3 -105 1 -130 6 -120 0 -110 0 -100 0 -125 0 -115 0 -125 1 -125 3 -105 1 -100 0 -110 0 -120 0 -130 6 -125 3 -115 0 *赤枠は誤差が 5 dB 以上 34 図 5-3 観測された流星エコーの強度分布(2012 年 12 月 14 日:全 101 例) 5-3 流星グラフ合成ソフトウェアの動作検証 流星グラフ合成ソフトウェアの検証として、実際の Web サーバー運用状態と同等の環境で 2 つの 流星出現状況グラフを合成できるかチェックした。この検証をするときには干渉計が不具合により 運用されておらず、過去のグラフを使用し、バッチファイルで画像のフォルダ移動させることにより 検証した。検証の結果、フォルダに新たに画像が保存されると自動で認識し合成処理を行ってい ることが確認できた。図 5-4 が再起動前に出力されていた流星出現状況グラフである。そして、図 5-5 が再起動され新たに更新されたグラフであり、その合成結果が図 5-6 である。Web には図 5-6 のグラフ画像が表示される。 35 図 5-4 再起動前流星出現状況グラフ 図 5-5 再起動後新たに更新された流星出現状況グラフ 36 図 5-6 合成後の流星出現状況グラフ 5-4 流星エコーによる線電子密度の算出 第 3 章でも述べたように線電子密度を算出するためには様々なパラメータが必要になってくる。そ の中でも 5ch 干渉計のみでは得ることのできないパラメータが、φ:飛跡への電波の入射(反射)角、 β:電波伝搬面と飛跡のなす角である(図 5-7)。今後、多地点にアンテナを配置できれば、飛跡情報 の算出によりこれらを求めることができるが、本システム単体でも仮定の下に線電子密度の算出が 行えるように別の方法でこの 2 つのパラメータを求めることにした。まず、φ を求めるために必要な パラメータは、送信点(受信点)、エコー観測点間の距離と、送信点-受信点間の距離である。各距 離を求めるために、各点の経度・緯度から距離を算出した(式 5-1)。なお、各点の経度・緯度は degree で与えられるため、radian 表記に直して計算する必要がある。このパラメータを三角関数に 当てはめることにより φ を求めることができる(式 5-2)。 Rx: 受信点経度, Ry: 受信点緯度, Tx: 送信点経度 Ty: 送信点緯度, mx : エコー観測点経度, my: エコー観測点緯度, D : 距離 37 𝐷𝑅𝑇 = 6378.137 × arccos(sin(Ry) sin(Rx) + cos(mx)cos(my))(Rx − Tx)) ……… (式 5-1) 2 2 φ = acos(𝐷𝑅𝑇 /(𝐷𝑅𝑚 + 𝐷𝑇𝑚 − 2𝐷𝑅𝑚 𝐷𝑇𝑚 ))…….................................................... (式 5-2) β に関しては少し複雑になり、3 点 T,m,R の経度・緯度および高度の情報を用いて 3 次元のベク トルで考える必要がある。この 3 点を含む面の法線ベクトル n と飛跡ベクトル V のなす角が 90-β に なる。それにより β を求める。ここで、飛跡を求めるために流星群の流星であることを仮定して、時々 刻々の流星群の輻射点の仰角・方位角が必要になってくる。本プログラムでは GUI 入力する輻射 点の赤経・赤緯の情報を使用し算出する。実際には流星群の時期にも輻射点から流れない散在 流星が存在するため、この仮定には限界がある。山崎(2012)で開発された多地点観測を併用すれ ば、仮定なしに個々の流星エコーに対して飛跡ベクトル V が求まる。以下に、輻射点の仰角・方位 角の算出方法の手順のうち地方恒星時の算出方法を示す。 ① 観測日の日付をユリウス日に換算する。 𝑌 𝑌 JD = [365.25Y] + [400] − [100] + [30.59(M − 2) + D1 ] + 1721088.5…………..... (式 5-3) JD : ユリウス日, Y : 年, M : 月, D1 : 日 ② その観測日、時間を JST から UT に変換しグリニッジ恒星時を求め、地方恒星時を求める。 グリニッジ恒星時とは、経度 0°の子午線に対する恒星時のことであり、一般の(観測地の)子 午線に対する恒星時を地方恒星時という。 D2 = JD − 2440000.05…………………………………………………………...… (式 5-4) ̅̅̅ 𝜃𝐺 = 24ℎ × (0.67239 + 1.00273781𝐷2 ) − 𝜆……………………….….…........... (式 5-5) ̅̅̅ 𝜃𝐺 ∶ グリニッジ恒星時, λ : 観測地の経度 38 図 5-7 電波伝搬面と飛跡の関係 流星絶対強度測定とともに飛跡中の線電子密度の算出を行った。線電子密度は、流星の質量 や、光度と関係のあるパラメータである。線電子密度はエコーの種類によって大きさが違い、オー バーデンスエコーは 1014 m-1 以上で、アンダーデンスエコーは 1014 m-1 以下という違いがある。計 算式は第 4 章で述べた通りである。線電子密度算出に必要なパラメータであるエコー観測点の経 度・緯度は 5ch 電波干渉計で高度 90 km を仮定して得られたもの(埜口, 2009)を使用した。5ch 電 波干渉計の調整不具合により正常な経度、緯度が算出されていないものが多く、5ch 電波干渉計 と同時観測されたエコー、全 14 例の線電子密度のみ算出を行った。全 14 例中、オーバーデンス エコーの閾値とされる 1014 m-1 を超えるものはわずか 2 例しか無かった。これは、ふたご座流星群が 他の流星群に比べて平均速度が遅く、統計的には暗い流星が多く、アンダーデンスエコーの量が 圧倒的に多いため妥当な結果と言える。 39 表 5-3 線電子密度算出結果 日付 時間 121213 23:54:40 121214 0:12:13 121214 1:59:06 121214 2:25:04 121214 2:38:14 121214 3:21:07 121214 3:53:30 121214 4:01:28 121214 4:11:01 121214 4:40:48 121214 4:52:35 121214 5:02:37 121214 5:23:19 121214 5:45:28 方位角 113.952 1.942 41.324 86.000 53.232 44.873 154.222 36.013 267.303 21.146 164.428 115.893 348.662 41.252 仰角 71.292 63.762 46.464 45.931 57.680 61.119 34.986 32.549 72.370 49.260 31.845 35.076 49.164 51.818 経度 133.929 133.731 134.142 134.371 134.061 133.982 134.142 134.338 133.506 133.929 134.014 134.587 133.606 134.069 緯度 33.509 34.019 34.198 33.675 33.927 33.937 32.578 34.647 33.608 34.271 32.364 33.116 34.306 34.099 継続時間 3 2 2 3 2 5 4 10 5 5 7 10 7 21 絶対強度 -114dBm -125dBm -122dBm -116dBm -122dBm -97dBm -120dBm -89dBm -121dBm -112dBm -116dBm -111dBm -115dBm -95dBm 線電子密度 6.12E+12 1.99E+12 7.30E+11 6.25E+12 1.52E+12 4.63E+13 6.08E+12 1.56E+14 1.78E+12 8.95E+12 1.01E+13 1.11E+13 5.91E+12 5.59E+14 線電子密度 q を算出することによってプラズマ周波数𝑓𝑝 の公式(式 5-6)に当てはめることができる。 𝑓𝑝 = 9√𝑛......................................................................................... (式 5-6) fp : プラズマ周波数 n=q/πr2 : 1 m3 あたりの電子密度 プラズマは、自身の密度から計算されるプラズマ周波数の値より低い周波数の電磁波(電波)を 反射する特性を持っているので、流星電離柱のプラズマ周波数が 53.75 MHz より大きくなったとき には反射し受信点でオーバーデンスエコーの流星として観測される。プラズマ周波数 53.75 MHz のプラズマで電離柱内が平均的に満たされていると仮定したときに、受信された流星エコー絶対 強度から得られる線電子密度を用いると電離柱(飛跡プラズマ)の幅を推定することができる。飛跡 プラズマは、一般に幅数十 cm、長さ 10~15 km の細長い形状をしており、今回はプラズマ周波数 を 53.75 MHz、飛跡形状を円柱としたときの円部分の直径(飛跡の幅)を算出した。その結果を表 5-4 に示す。 この時直径が小さいものはプラズマ周波数を超えたことによる完全反射(オーバーデ ンスエコー)ではない可能性が高い。流星エコーは電波の照射方向と飛跡が直交関係の幾何学条 件にあるときにのみ、流星電離柱のプラズマ密度に依存する。プラズマ周波数が送信周波数 (53.75 MHz)を超えなくても強力な反射(コヒーレント散乱)を起こす性質があるため、これによる散 乱によってアンダーデンスエコーとして検出されたものである。 40 表 5-4 流星エコー観測時の飛跡幅の直径 線電子密度(m^-1) 6.12E+12 1.99E+12 7.30E+11 6.25E+12 1.52E+12 4.63E+13 6.08E+12 1.56E+14 1.78E+12 8.95E+12 1.01E+13 1.11E+13 5.91E+12 5.59E+14 直径(m) 継続時間(秒) 0.465 3 0.266 2 0.161 2 0.470 3 0.232 2 1.280 5 0.464 4 2.349 10 0.251 5 0.563 5 0.599 7 0.626 10 0.457 7 4.447 21 図 5-8 観測されたオーバーデンスエコー 5-5 Web 表示 自動観測システムの動作検証として高知工科大学敷地内で 5ch 電波干渉計の他にアンテナを 1 基設置し、システムの動作確認を行った。検証を行った結果、ソフトウェアの連携でも正常な動作 が確認でき、Web 表示システムへの観測結果アップロードも正常に行われた。 本システムは 5ch 電波干渉計以外の他の地点への設置観測を考えているが、現在多地点観測 システムの運用がされていないため Web には 2012 年のふたご座流星群の観測時の結果が表示さ れている。システムの運用が開始されると絶対強度と線電子密度の情報を結合した txt ファイルが Web に表示される。Web 表示は処理方法と処理時間の関係上、常に現在時刻の 25 分前の状況が 41 最新の準リアルタイム表示となる。Web 表示は表示結果の見易さ及び運営上の利便性を考慮し、 前年に作製された飛跡情報結果用(山崎, 2012)の Web サイトに表示するようにした。尚、5ch 電波 干渉計は従来通り運用を行っている。それぞれの URL は以下の通りである。 ・5ch 電波干渉計 Web サイト: URL:http://obs.ele.kochi-tech.ac.jp/IF/index.php ・強度、線電子密度、軌跡算出結果 Web サイト: URL:http://obs.ele.kochi-tech.ac.jp/IFtrajectory/index.html 図 5-9 絶対強度算出結果 Web サイト表示例 42 第6章 考察 波形抽出ソフトウェアは、既存の HROFFT の強度表示に近い表示方法になったことにより、強度 の算出には適したものになったと考えられる。しかしその一方、アンダーデンスエコーとオーバーデ ンスエコーの区別や、不定期に入ってくるノイズの判断が難しくなり、対応により厳しい精度が求め られる。その解決策として、現在 5ch 干渉計で動いている”meteor_echo_counter”との比較をしたう えでの算出が考えられる。しかし、強度較正用信号発生器から入力される階段状波形により、断続 的に受信機に入ってきている微少なノイズとの区別がしやすくなったため、現在 5ch 電波干渉計で 動かしている”HRO_IF_V2”、飛跡算出用に開発された、0.001 の分解能を持つ ”HRO_IF_TU”で は、強度の比較からノイズ等の除去がしやすくなり、オーバーデンスエコーとアンダーデンスエコー の区別がしやすくなったと推測されるため、飛跡、強度の算出には有益なものになったと考えられ る。線電子密度の計算には飛跡情報が必要なため強度算出ソフトウェアとは別に開発することも考 えたが、1 度に複数のソフトウェアを起動させる手間やデータの抜き出し等の利便性を考えた上で、 1 つのソフトウェアにまとめることにした。本システムを 5ch 電波干渉計自体に組み込むと強度較正 用信号発生装置に最適な受信機ゲインに合わせないといけないため得られる流星数が減少してし まうと考えられるため、流星飛跡の算出のために用いられる多地点観測におけるリモート受信点で の運用が最適である。線電子密度の算出には流星飛跡の情報が必要なであり、本プログラムでは 輻射点を仮定して流星飛跡を自動算出しているが、システムの精度検証の面で考えると、長期的 な多地点での運用を行い、流星飛跡情報等の比較検証が不可欠である。また、今後の観測体制 が整い、流星飛跡との同時観測が行えるようになると個々の流星エコーに対して突入角や流星速 度が分かるようになるので、流星光度が算出できるようになる(式 6-1)。 𝑞 𝑀𝑟 = 36– 2.5𝑙𝑜𝑔10 (𝑣)…………………………………………. (式 6-1) 𝑀𝑟 : 光度(等級), 𝑞: 線電子密度[𝑚−1], v: 流星速度[m/s] また、流星の線電子密度と受信された継続時間の関係が図 6-1 である。図 6-1 の左図は全 14 例 の線電子密度と継続時間の関係図で、右図がアンダーデンスエコーだったと仮定されるもの全 12 例と継続時間の関係図である。アンダーデンスエコーとされるものは全体的に継続時間が短く、継 続時間が長くなるほど線電子密度が継続時間の約 1.3 乗で大きくなっていることが近似式からも推 測される。 図 6-2、表 6-1 はこれまでに研究開発された干渉計観測システム全てが運用されたときのフローチ ャートとタイムスケジュールである。全てが運用され始めると流星の経緯度、仰角、方位角、継続時 間、が最初に算出され、その後、流星の飛跡、速度、最後に、流星の絶対強度、線電子密度が算 出されることになる。この順番になる理由として、流星の飛跡の算出には 5ch 電波干渉計のデータ が必要であり、流星の線電子密度の測定には 5ch 電波干渉計から得られるデータと飛跡のデータ 43 が必要であるからである。そのため絶対強度算出の情報は Web 表示では JST - 25 分の状況として 公開することになる。 図 6-1 流星の線電子密度と継続時間の関係図 図 6-2 干渉計全システムフロー 44 表 6-1 流星観測システム全概要 45 第7章 結論 本研究では、流星自動観測システムの改良を行い、ふたご座流星群を対象とした試験観測によ り、101 例の流星エコーに対して絶対受信強度(電力)の精密測定観測に成功した。電波観測のエ コーとその後に行った精密測定信号発生機を用いた比較解析の結果、‐100 dBm から -120 dBm 範囲内で観測されたエコーに関しては誤差が 3 dB 以内に収まる十分な測定精度を得ることに成 功した。 十分信頼できる検証には長期観測及び、各主要流星群における統計的比較が必要である。シ ステム長時間稼働検証としては、昨年の飛跡情報算出の試験観測時から起きている問題として 5ch 電波干渉計 PC 性能の問題で観測結果データ出力に微小な遅れがみられたが、システム側の 待機処理で収拾できており、ソフトウェアの連携における正常動作も確認され実用化の目処が得ら れた。今後、多地点観測が定常的に行われ、流星絶対強度較正システムの定常運用も実現すると、 絶対強度のパラメータを含む観測結果が Web に表示され、流星の物理量について多くの情報が 蓄積されていくことになる。流星電波観測のメリットは昼夜・天候を問わず 24 時間 365 日の観測が 可能なことであり、日々の観測によって物理量のパラメータが蓄積されるメリットは大きい。本研究 は前方散乱方式における流星電波観測に新たな 1 ページを拓く結果になったと考える。 今後の展望として最初にあげられる課題としては、2013 年 2 月現在、高知工科大学以外の定常 観測地を得られていないので多地点観測を行うための観測場所の確保がある。候補地として高知 県大豊町にある梶ヶ森天文台と高知県芸西村にある芸西天文学習館がある。この 2 地点は天文台 であり、飛跡情報算出を行う上でも好条件の位置関係にある場所と考えられる為、最有力の候補 地である。また、5ch 電波干渉計が開発された当初に比べ、様々なパラメータが観測できるようにな ったためデータが膨大な量になってきた。そのため、現在表示されている Web のさらなる改良が求 められる。更に、観測できる内容が増えたことによって 1 度に起動するソフトウェアも増えた為、ソフ トウェアのエラーにより観測が止まってしまう頻度も増えてきた。本システム上の 1 つのソフトウェア にトラブルが発生し、観測が止まってしまったときに自動で管理者に知らせてくれるとともに Web 中 継画面上には一時停止していることが分かるような機能や、ソフトウェアの一体化等が今後の課題 である。 46 謝辞 本研究に際して、高知工科大学システム工学群山本真行准教授にはいつもあたたかくご指導ご 鞭撻を賜り、心から感謝すると共に深く御礼申し上げます。本論文の副査である岩下克教授、植田 和憲講師をはじめとする電子・光システム工学教室の先生方には様々な場面でお世話になりまし たことを深く御礼申し上げます。また、回路作製の時に貴重な助言を頂いた日本流星研究会臼居 隆志氏に深く御礼申し上げます。多くの助言を頂いた日本流星研究会の皆様ほか流星観測者の 方々に御礼申し上げます。流星観測の際に手伝いを引き受けてくださり、そして多くのご指摘を下 さいました山本研究室の卒業生、後輩の皆様に感謝いたします。 47 参考文献 [1] 埜口和弥, 5ch 電波干渉計による流星出現位置の測定と自動観測システムの開発, 平成 20 年 度高知工科大学大学院特別研究報告, 2009. [2] 埜口和弥, HROFFT 出力画像における流星エコー自動計数プログラムの開発, 平成 18 年度 高知工科大学卒業研究報告, 2007. [3] 山崎倫誉, 5ch 干渉計及び多地点観測に基づく流星軌道計測法の開発と KUT 流星電波観 測システムの改良,平成 23 年度高知工科大学特別研究報告 2012. [4] 濱口美子, 流星電波干渉計の較正実験と流星位置表示ツールの開発, 平成 17 年度高知工 科大学卒業論文, 2006. [5] 堀内洋孝, 流星電波観測における干渉計システムの基礎開発①, 平成 16 年度高知工科大 学卒業研究報告, 2005. [6] 岡本悟郎, 流星電波観測における干渉計システムの基礎開発②, 平成 16 年度高知工科大 学卒業研究報告, 2005. [7] 寺沢敏夫, 吉川一郎, 吉田英人, 流星エコーの GPS 利用高時間精度多地点観測の現状, 生 存圏波動分科会 WAVE10-04, 2006. [8] 長谷川一郎著,天文計算入門 [9] 中村 0 卓志監修/RMG 編集委員会編著,流星電波観測ガイドブック,CQ 出版社, 2002. [10] 小川宏, 流星電波観測のさらなる有用性を目指して(Season2), 第 48 回流星会議, 2007. (Web サイト) [11] fmemo-IDL-参考サイト, http://www28.atwiki.jp/fmemo/pages/43.html, 2012/12/01 参照. [12] 無いからつくった IDL まにゅある, http://www.infra.kochi-tech.ac.jp/takalab/download/manual/idl/index.html,2012/12/15 参照. [13] ロケットの位置と観測点からの方向と仰角, http://keisan.casio.jp/,2012/12/20 参照. [14] IDL メモ(暫定版),http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~nishida/idl/,2012/12/20 参照. 48 付録 システム運用マニュアル 5ch 電波干渉計、起動の手順 ① PC 起動後 C:ドライブの「Y」フォルダの中身全てを、Y:ドライブにコピー。 ② ネットワーク HDD(L:ドライブ)のフォルダを一度開いてパスを通しておく。 ③ デスクトップの GPS 同期用のソフト「satk」を起動。「接続」を押し動作しているか確認。 ④ Y:ドライブの「HROFFT1ch」フォルダの HROFFT1ch.exe を起動。10 分間隔 1 枚で観測開始。 ⑤デスクトップの TrigBufferEX.exe を起動。「開始」を押す。約 15.2 秒間隔で一時ファイルにデータ 保存開始。 ⑥C:¥sinpro¥KUT¥の Get_saya3.sav を起動。読込ファイルに Y:ドライブの DaqLog.bak を指定。保 存 先 フォルダに Y:¥data¥と Y:¥data2¥ を指 定 。 5ch 電 波 干渉 計のみ を動作 させ る 場合 は、 get_saya_data.sav を起動。保存先フォルダに Y:¥data¥を指定。 ⑦C:¥sinpro¥HRO_IF_V2¥の HRO_IF_V2.sav を起動。「開始」ボタンを押し、読込フォルダに Y:¥data¥を指定。保存先フォルダに Y:¥SAV¥を指定。干渉計 10 分間隔 1 ファイルで観測開始。 !注意:ここまでの処理で HROFFT 出力 png ファイルと SAV ファイルの数を揃えなければプログラ ムの処理上バグが発生する。基準としてはバッチファイルやソフトでの読み書きが行われない3分 ~9 分の間にここまでの起動手順をおこなうと良い。 ⑧C:¥meteor_echo_counter¥にある meteor_echo_counter.sav を起動。自動的にファイルが指定され るので「OK」をクリック。GUI 上の「設定読み込み」をクリック。初期設定が読み込まれるので確認後、 カウントスタートをクリック。 ⑨C:¥sinpro¥KUT¥の HRO_IF_KUT.sav を起動。読込ファイルに Y:¥data2¥を指定保存先フォルダ に Y:¥gazou¥kekka¥を指定。(軌跡算出用ソフトのため 5ch 電波干渉計のみの運用の場合この手 順は必要ない) ⑩DT-FTP.exe を起動。フォルダ指定などの設定内容は過去のままでよい。転送フォルダは Y:¥gazou¥kekka¥である。転送後は削除するようになっている。 多地点観測用 PC(A 及び B)地点の起動手順 ① PC 起動後 C:ドライブの「Y」フォルダの中身全てを、E:ドライブにコピー ② デスクトップの GPS 同期用のソフト「satk」を起動。このとき、アイコンを右クリックし管理者権限で ソフトを起動する。(PC との時刻較正のため)「接続」を押し動作しているか確認。 ③ デスクトップの TrigBufferEX.exe を起動。「開始」を押す。約 15.2 秒間隔で一時ファイルにデー タ保存開始。 ④ C:¥sinpro¥ Get_say3 ¥の Get_saya3.sav を起動。読込ファイルに E:ドライブの DaqLog.bak を指 定。保存先フォルダに Y:¥data1¥と Y:¥data2¥を指定。 a ⑤ デスクトップの波形抽出解析ソフトウェアがあるフォルダを開き起動する(A 地点→A フォルダ ¥HRO_IF_A、B 地点→B フォルダ¥HRO_IF_B)。「開始」ボタンを押し、読込フォルダに Y:¥data1¥を指定。保存先フォルダに E:¥proSAV2¥(絶対強度測定システム運用の場合は、読 込フォルダに Y:¥data2¥を指定。保存先フォルダに E:¥proSAV2¥) ⑥ DT-FTP.exe を起動。フォルダ指定などの設定内容は過去のままでよいが観測点が変われば IP アドレスが変わってしまうため、その都度設定の変更の必要がある(サーバ側でも同様)。転 送フォルダは E:¥proSAV ¥である。転送後は削除するようになっている。 サーバ PC での軌跡算出ソフトウェア起動手順 ① サーバ PC 側では、FTP サーバソフト(WarFTPDaemon)とウェブアップロード用ソフト(xampp) が常に起動されている状態にしておく必要がある。 ② C:ドライブの「TRA」フォルダの HRO_TRA.sav を起動し、読み込みフォルダに各観測点からの データの保存場所を設定(KUT→C:¥xampp¥htdocs¥IF、A→C:¥TRA¥A、B→C:¥TRA¥B)。 次 に 5ch 電 波 干 渉 計 で 作 成 さ れ た c.txt の あ る 場 所 を 読 み 込 み フ ォ ル ダ に 指 定 (C:¥xampp¥htdocs¥IF)。保存先フォルダ1には、txt の Web アップロード用フォルダを指定 (C:¥xampp¥htdocs¥IFtrajectory)。保存先フォルダ2には、png の Web アップロード用フォルダ を指定(C:¥xampp¥htdocs¥IFtrajectory)。保存先フォルダ3には、過去データを保存するフォ ルダを指定(h.txt ファイルを作っておけばどこでもかまわない)。 ③ C:ドライブの「Lv」フォルダの HRO_IF_LV.sav を起動し、読み込みフォルダに DT_FTP で○○ power.sav が転送されるフォルダを指定。次に 5ch 電波干渉計で作成された c.txt を読み込みフ ァイル(C:¥xampp¥htdocs¥IF)。保存ファイル名 1 は Lv.txt を指定。保存ファイル名 2 には b.txt を指定。保存先ファイル名 3 には、all.txt(この時バッチファイルが動作していること(Web アップ 用フォルダに転送するかどうか)を確認)。 ④ C:ドライブの「グラフ合成」フォルダの gurahugousei.sav を起動し読み込みファイルに Web アッ プ用フォルダ(C:¥xampp¥htdocs¥IF)と更新された画像が転送されるフォルダ(バッチファイル で任意)を指定 以上の設定をするとタイムテーブルに従い運用が開始される。 b