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World of Energy Solutions 2015(その1)
情 報 報 告 ウィーン World of Energy Solutions 2015(その 1) 2015年10月12日から14日にかけ、燃料電池、バッテリー製造、電気自動車の自動運転、 水素インフラにに関する国際会議World of Energy Solutions 2015が、ドイツ・Stuttgart で開催された。主催者はPeter Sauber Agentur Messen und Kongresse 社 (ドイツ)である。 今回は、エネルギー貯蔵の2030年に向けたロードマップと、欧州における電気自動車へ の移行状況に関する講演を報告する。 1.エネルギー貯蔵の 2030 年に向けたロードマップ Alfons Westgeest 氏、EUROBAT (ベルギー) 1.1 EUROBAT について EUROBAT(欧州自動車・産業バッテリー協会)は EU での自動車及び産業バッテリーの製 造及び供給網を代表する業界団体である。同協会は自動車産業、及び特殊電池産業の商業 規制及び経済的利益の促進し、欧州産業界の継続的な成長に寄することを目的とし、新し いバッテリーソリューションを提供するためステークホルダーと協力し活動を行っている。 1.2 バッテリー技術とエネルギー貯蔵 (1) 鉛系電池 広く普及している産業用電池の総設備容量の大部分は鉛系電池の技術をベースとしてい る。この電池は堅牢で適用条件に対する感度が低いという条件を持っている。また、高度 な管理システム無しで大容量のバッテリー配列に接続することが可能である。また、設置 にあたってのkWh当たりのコストも低く、充電サイクル回数や電化受容性、放電性能、コ スト低減を向上させるために継続的な開発が続けられている。 (2) リチウム電池 リチウム電池は汎用性及び拡張性が高く、実質的に任意の電圧、電力及びエネルギー要 求に適合させることが可能である。複雑な制御電子回路を必要とする一方で、正確な管理 と充電制御を提供している。また、技術改善は更なるエネルギー密度と充電回数の増加を 提供している。 (3) ニッケル電池 ニッケル電池はエネルギーが極端な気候下や急速な充電を必要とする特殊な市場で利用 される傾向がある。これらは高度な管理システムを必要とせずに大型の機器に接続するこ とが可能である。また、今後の開発ではサイクル寿命の増加や温度範囲の拡張、自己放電 とコストの削減を進めるよう行われている。 (4) ナトリウム電池 ナトリウム電池は元々、電気自動車及びハイブリッド電気自動車のために導入されてい た。それは過酷な動作環境での高い比エネルギーや一定の性能、サイクル寿命を持ち、整 備要目が少ないためである。更なる技術向上に向け、依然として高い可能性が秘められて いる。 1.3 バッテリーの電力貯蔵 (1) 発電レベル 再生可能エネルギーをより多くグリッドへ接続することが必要とされており、貯蔵シス テムは不利な気象条件の影響を低減するために発電設備、特に太陽光発電や風力発電と結 合することが求められている。それにより発電企業は更なる効率性、柔軟性、安定性及び エネルギーの無駄を達成することが可能となる。 (2) 送電レベル 貯蔵システムは電力送電の安全性や安定性、効率を向上させることが可能である。いく つかの試験プロジェクト(イタリアの TERNA プロジェクト等)が現在進行中であるが、所有 権に関する法律の不確実性に対してすぐに対処する必要がある。 ― 30 ― 情報報告 ウィーン (3) 配電レベル 電力はもはや一方向へ流れるものではないため、配電サービス事業者(DSOs)の役割は大 きく変わってきている。そこにはいくつかの課題があり、それらは高いピーク負荷、より 厳しい電力需要、そして需要と供給の並行を保ち続けることである。分散型のバッテリー 電力貯蔵(BES)は、再生可能エネルギー発電の変動を補償するために高速かつ協力は応答時 間を有する動特性を有している。 (4) 消費者レベル 家庭での BES は必要としないときは地域発電からの電力を貯蔵することができ、必要に 応じてそれを放電することが可能である。これにより約 70%の自己消費電力を増加させる ことが可能である。顧客レベルでの BES システムは、活発なグリッドへの支援を提供する 可能性を秘めている。 1.4 エネルギー貯蔵と欧州の政策 (1) EUROBAT から新しいエネルギー市場設計の提案 ・電力の不足を反映した柔軟な価格は需要応答、スマート製品(電気自動車含む)、バッテ リーといった貯蔵ソリューションに対するマーケット・シグナルであり、その価格は支援 を行されるべきである。貯蔵ソリューションは送電グリッドの更新に重要な代替手段を提 供することができ、電力コストはまた送電コストを反映する必要がある。 適切な補助的サービスを改善する EU の活動が必要である。また、バランス市場は個人 生産者等といった小規模事業者の参加を可能にする必要がある。 エネルギー貯蔵のための二重のグリッド料金は避けられるべきであり、自己消費のため の電力貯蔵に対する直接的な追加課税も避けられるべきである。このような電力貯蔵の展 開に向けての障壁(エネルギー貯蔵の合意定義、貯蔵システムの所有権、小規模事業者のバ ランス市場への参加権、付帯サービスの適切な報酬等)は取払われるべきである。 1.5 電気自動車用バッテリー技術の 2030 年に向けてのロードマップ (1) ロードマップの目標 EUROBAT が発表している電気自動車の 2030 年に向けたロードマップでは、以下の6 分野を改善が必要な優先事項として設定している。 ・性能 ・生産プロセス ・コスト ・安全性 ・システムの統合 ・リサイクル性 これらの分野で進行している特定の推奨事項は各バッテリー技術のために特定されてい る。我々が予測する以下の3つのバッテリー技術に焦点を当てているロードマップは、更 なる技術改善に向けた大きな可能性を秘めている。 ・高度な鉛電池 ・リチウム電池 ・ナトリウム電池 (2) バッテリー技術と主要な優先事項 ・高度な鉛電池 高度な鉛電池はアイドリングストップ車やハイブリッド車向けであり、主な優先事項は、 大衆ハイブリッド自動車市場向けの性能の改善とコストの低減である。 ・リチウムイオン電池 リチウムイオン電池は電気自動車と全てのタイプのハイブリッド自動車向けであり、主 な優先事項は、エネルギー密度を電力密度の向上、及び機種ごとの異なる性能の優先順位 でコストを低減させることである。 ・ナトリウム-塩化ニッケル電池 ― 31 ― 情報報告 ウィーン ナトリウム-塩化ニッケル電池電力とプラグインハイブリッドで構成される堅牢な小型商 用車(LCV)等の商用及び専門車向けであり、主な優先事項として、開発目標に生産プロセス、 システム統合、コスト削減を置いている。 表 1-1~表 1-3 に各電池技術における優先事項を示す。 表1-1 高度な鉛電池技術の優先事項 典型的な性能 ・バッテリーの化学的性質 ・バッテリーの設計 生産プロセス ・活性剤の調製 ・閉じたループの形成 コストの削減 安全性のパラメータ ・添加材料としての大量のコスト最適化され ・非可燃性電解質の使用に際する鉛電池の安 た炭素材料の使用 全性 ・新しい高度な設計のための完全に自動化さ れたプロセス ・副資材の使用法 ・バッテリー設計を最適化させるライフサイ クルのアプローチ システム統合 ・高度な熱ソリューション ・実際の稼働条件に充電状態を適合させる BMS リサイクル性 EU では 100%に近い鉛電池が閉じたループ システムの中でリサイクルされている。 出典:World of Energy Solutions 2015、Alfons Westgeest氏、EUROBAT 表1-2 リチウム電池技術の優先事項 技術的性能 生産プロセス ・エネルギー密度(現在は 170Wh/kg である ・製造プロセスにおける環境負荷の削減 が、2030 年までに 290Wh/kg まで増加) ・電流電極及びセルプロセスのステップの機 ・電力密度 能統合 ・バッテリー寿命(2030 年までに 10~15 年) ・急速充電 コストの削減 安全性のパラメータ ・材料の改善 ・高効率なモニタリング機能 ・構造設計の改善 ・セルの診断 ・大量生産 ・システムの設計と検証 ・標準化 システム統合 リサイクル性 ・インターフェイスの標準化 ・リサイクル及び再生産のための設計に関す ・熱管理の改善 る価値連鎖の原則 ・軽量化 ・金属リン酸塩を含むスラグの用途の開発 ・電気部品の改善 出典:World of Energy Solutions 2015、Alfons Westgeest氏、EUROBAT ― 32 ― 情報報告 ウィーン 表1-3 ナトリウム電池技術の優先事項 典型的な性能 ・電力密度(2030 年までに 20~25%の向上) ・バッテリー寿命(2030 年までに 20~25% の向上) ・エネルギー密度(2020 年までに 20%の向 上) ・バッテリーの化学的性質(高度なナトリウ ム-ニッケル材料) コストの削減 ・セラミック電極の生産プロセスの改善 ・断熱材の改善 ・セラミック生産における電力需要の低減 ・価値連鎖の最適化 システム統合 ・協力設計と標準化 ・バッテリーの構造的統合 生産プロセス ・電池の組立工程のジャストインタイム化 ・セラミックの組立の自動品質管理 安全性のパラメータ ・本質的な安全技術の向上 ・効率的な冷却システム ・酷使環境下における耐用性 リサイクル性 ・リサイクルプロセスを設定し、産業レベル で利用可能にする。 ・断熱材の第2の使用法の改良。 出典:World of Energy Solutions 2015、Alfons Westgeest氏、EUROBAT 1.5 結論 以下に結論を示す。 ①電力貯蔵のためのバッテリーの利用法とソリューションは全体的なエネルギー及びモビ リティの電化の両方にとって、再生可能エネルギーの成長を維持するための重要な方法で ある。 ②全てのバッテリー技術における性能とコストを向上させることが重要であり、全てのバ ッテリー技術について更なる技術的・経済的発展を促すアプローチが必要である。 ③現在及び将来に向けて、全ての自動車向けのバッテリー技術の包括的な全体像はを描く ことが重要であり、全てのバッテリー技術のための研究開発資金は欧州のバッテリー産業 の競争力を強化する。 ④欧州全土の規制当局や関係者と強く協調し、バッテリー貯蔵技術発展の機会を開くこと が重要である。EU 及び国際保健の遵守と安全性、環境規則は、産業が欧州のバッテリー産 業を革新させることを可能にする (参考文献) ・EUROBAT ホームページ、(http://www.eurobat.org/) ・EUROBAT、Alfons Westgeest 氏講演資料 ― 33 ― 情報報告 ウィーン 2.電気自動車への以降が 10 年以内に開始される可能性 Bert Witkamp 氏、欧州電気自動車協会 (ドイツ) 2.1 欧州における EV の展開 現在、欧州では 147,000 台の電気自動車(以下、EV)が走行しており、2015 年時点では 2014 年比から販売台数が 60%増加している。図 2-1 に 2015 年8月時点での EU での EV の販売台数を示す。 予測 8月 出典:World of Energy Solutions 2015、Bert Witkamp氏、欧州電気自動車協会 図2-1 2015年8月時点でのEUでのEVの販売台数 欧州の中では、ノルウェーが最も巨大な EV 市場を形成しており、ノルウェーでの EV 販 売台数は欧州全体でのシェアのうち1%を超えている。図 2-2 に 2013 年から 2015 年8月 にかけての欧州での EV 市場のシェアを示す。 出典:World of Energy Solutions 2015、Bert Witkamp氏、欧州電気自動車協会 図2-2 2013年から2015年8月にかけての欧州でのEV市場のシェア ノルウェーにおける EV の普及は、長期的な EV 政策と将来に対する明確なビジョンと密接 に関わっている。図 2-3 にノルウェーにおける EV の累積販売台数の推移を占めす。 ― 34 ― 情報報告 ウィーン 出典:World of Energy Solutions 2015、Bert Witkamp氏、欧州電気自動車協会 図2-3 ノルウェーにおけるEVの累積販売台数の推移 セル価格(ドル/kWh) 2.2 EV 普及の背景 欧州における EV 普及の背景には以下の理由がある。 ①エネルギー供給のリスク ②温室効果ガスの削減の必要性 ③空気質と混雑したインフラの解消の必要性 ④EU における産業の競争力の確保 このような背景の下、EU 全ての加盟国に通じる“修正すべき問題”は、再生可能エネル ギー発電とその貯蔵、電気自動車やスマートグリッドへの移行を通じて取組まれている。 再生可能エネルギーは地域的なものであり、石油、ガス、石炭といった化石燃料の輸入を 排除し、(事実上)100%の二酸化炭素排出量の削減を可能にしている。電気自動車は二酸化 炭素の排出量や騒音問題を解決し、住みやすい都市の構築のために重要である。また、こ れらの取組みは経済を刺激し雇用の促進にも繋がる。 また、EV の導入に本格的な導入に向け、バッテリーコストや充電インフラの整備が進め られている。図 2-4 に GM 社によるバッテリーセルコストの予測を示す。 年 出典:World of Energy Solutions 2015、Bert Witkamp氏、欧州電気自動車協会 図2-4 GM社によるバッテリーセルコストの予測 ― 35 ― 情報報告 ウィーン また、充電インフラに関する動きの一例として、フランスでは充電インフラの拡充とし て、30 の公共インフラ計画により、2015 年までに国内に合計 15,000 箇所を超える充電の ため公共端末を設置する計画を行っている。 2.3 21 世紀の技術へ移行~新しい製造規範~ (1)EV への移行 従来(20 世紀型)の車両技術は精密な設計部品と複雑な排出量制御システムが必要であっ たが、EV(21 世紀型)の車両技術では、いつでも利用可能な(在庫品の)電子装置と電気部品 を利用することができる。これにより、EV による技術開発は、10 年以内に最もコスト競 争力のある技術となる可能性がある。 しかし、以下の EV の本格的な普及に際し以下の疑問点が残されている。 ・いつ欧州での EV の大衆市場への移行が開始されるか。 ・誰がこれらの EV を製造するのか。 ・どこでこれらの EV は製造されるのか。 (2)モビリティの動向 EV の普及に際し、社会及び都市は以下の事項を要望している。 ・より良い空気の質 ・騒音レベルの低減 ・二酸化炭素を排出しない ・徒歩、サイクリングの増加 ・公共輸送手段の増加 ・カーシェアリング ・複合一貫輸送 これらを受け、車両は以下の事項を満足するように求められつつある。 ・デジタル化 ・自立化 ・電気駆動 ・軽量化及び減容化 ・カーシェアリング ・輸送システムの一部となる また、EV 産業の発展を見込み、現在では IT、インターネット、電子、化学、電力、自 動車といった様々な分野からの投資が行われており、将来の EV 業界は非常に簡単で低コス ト、小規模での生産が可能であり、多くの企業に門戸が開かれるため“民主化”されると 予想されている。 2.4 まとめ 車は新しい時代に入っており、世界を取巻く社会的価値や厳しい二酸化炭素規制の法律 の変化は、ますます経済的な駆動システムへ向かう傾向を強くしている。持続可能性、環 境保護及び社会的責任は強力な価値駆動力となる。そして、将来においてはその効率性だ けでなく、その運転する楽しみのために、EV の時代が来ることが望まれている。 (参考文献) ・欧州電気自動車協会ホームページ、(http://www.avere.org/www/) ・欧州電気自動車協会、Bert Witkamp 氏講演資料 ― 36 ―