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コラム「私の描く 2030 年」 慶應義塾大学 環境情報学部 教授 村井純

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コラム「私の描く 2030 年」 慶應義塾大学 環境情報学部 教授 村井純
コラム「私の描く 2030 年」
慶應義塾大学 環境情報学部
教授
村井純
2030 年には、65 歳より年齢が上の人も、インターネットを基盤とした情報社会に自然
に溶け込んでいることになる。今後人口減少、地域の活性化に対してデジタル技術が果
たす役割は、人と社会の知的活動を支援することに大きな期待がある。あらゆる分野に
おいて、人間の踏み台になることで、届かなかったものに手が届く基盤を用意するわけ
だ。つまり、技術はあくまで足元を支えるのみであり、これをどう活用するか、方向性
を決めるのは人間と社会の責任だ。ただし、この踏み台があることで、飛躍的な効率性
を、(人間が望み、利用すれば)得ることができる。
では、効率的に、低いコストで、人と社会の新しい挑戦が実現できるときに、何を実現
するのか。例えば、地域の特色を活かしていくのか否かという命題に、何を動機として、
どの方向に発展するのかというポリシーを明確に決める必要がある。これを決めるのは、
(あたりまえだけど)技術そのものではない。
また、デジタル情報の流通基盤に地域の区別はない。そのグローバルな空間でどのよう
に地域の概念を定義するかも大きな命題である。
デジタル情報の基盤によるインテリジェンスの共有と交換の基盤の典型的なインパク
トは教育や雇用に大きな影響を及ぼす。遠隔教育が技術的にも制度的にも可能になるこ
とで、大学の授業がどこからでも受講できるようになっている。このことは、仕事や子
育てといったライフサイクルの中に溶け込んだ高等教育や、高齢者、障害者の社会参加
のハードルを著しく下げる。
遠隔会議への参加が、リタイヤした高齢者や子育て中の男女らの雇用機会を開く。若い
学生が設立したベンチャー企業の役員会に、社外アドバイザとして退職した親が自宅か
ら参加している事例が既にあるが、これまで埋もれていた経験者のアドバイスが有効に
活用されている。知識や経験の共有をデジタル技術で支援することで、高齢化社会がプ
ラスに働く構造だ。
一方、こうしたデジタル基盤を支える人材は、今すぐに育成していく必要がある。10
年から 20 年のスパンで、継続的に先端研究に取り組むためのタイマーは動き始めてい
る。大学は、これまでも研究者や学生の交流、インターネットによる遠隔授業の実施を
通じて、いわば「ミニ」社会としての役割を果たしてきた。今後も、こうした実験的取
り組みを続けていくことで、別の分野でのアジアとの連携のケーススタディの役割を果
たすことができる。例えば、2010 年までに大学院の研究者の 50%を外国人とし、教員
採用も日本人のみならずアジアの学生を対象にした教育を視野に入れて行うといった
大胆な方策が必要だ。高度な技術や能力を持った人材の自由な交流を、まずアジアにお
いて実施する最大の理由は、時差の問題だ。ほぼ同じタイムゾーンを共有していること
は、ヨーロッパやアメリカを相手にするよりも、リアルタイムでのコミュニケーション
がはかりやすいことを意味する。
今後発生するであろう、さまざまな問題を技術のせいにして、人間の使い方やルールの
欠陥を見落とすことがないように責任を持たなければならない。インターネットは別の
空間ではなく、実社会におけるツールである。おそれや心配に対して、技術は透明性を
持つべきだが、最終的に安心をもたらすのは、人間と社会による強い判断である。
(以上)
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