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地学研修【ハワイ巡検】
地学研修【ハワイ巡検】 Ⅰ 目的 夏休期間を利用して、SSH 海外研修の一環として JST・早稲田大学自然科学教育研究会の支援のもと で自然科学分野,とくに天文・地質・地形などの観察を中心とした野外調査研究(巡検)である。参加 生徒には、例年巡検を通して自然環境とその変遷について興味を深め、諸自然現象への科学的解明に 意欲的に取組むことを目的する。自然科学分野に限らず、その他太平洋を中心とする政治・経済・ハ ワイアン文化など考察することで、国際交流や国際社会情勢などの分析に学習効果をあげることを目 的としている。 巡検効果をあげるため、事前学習として三鷹天文台の訪問、箱根火山巡検など実施した。現地の指 導(例えば天文講義、天体観望実習,キラウエア火山観察実習,Hawaii 文化、日米の歴史について)は、 早大高等学院地学科・早稲田大学自然科学教育研究会の会員と天文台研究者・現地学芸員などが行う。 巡検は、SSH 海外研修企画の一貫として行われるものであるため、巡検成果を小論文としてまとめ、 発表することを意図し事前学習の時から、ハワイ巡検にさいして自分なりの研究テーマを持って参加 するように指導する。 Ⅱ 概要 実 施 日:2011 年(平成 23 年)8 月 22 日から 9 月 1 日 8 泊 10 日 巡 検 地:ハワイ島、カウアイ島、オアフ島 参 加 者:13 名 1 年生 2 名・2 年生 5 名・引率名 4 名(内 2 名 TA) 指導協力:学院地学科、関東学院大学、学院 OB(自然科学教育研究会会員)、国立天文台ハワイ観測 所、National Tropical Botanical Garden、Hawaii county Civil Defense Agency、 (国立エネルギー研究所)、IMILOA 天文館、Pacific Tsunami Museum 交 通:航 空 機 陸上交通 宿 泊:ハワイ島 オアフ島 国際線 日本航空 貸し切りバス 及び 国内線 ハワイアン航空 4WD 車 ヒロ市 4 泊・コナ市 1 泊 ホノルル市 3 泊 巡検履歴: Ⅲ 第 1 回;2000.8.23∼29 5泊7日 ハワイ島、オアフ島...................10 名 第 第 2 回;2001.8.22∼28 5泊7日 ハワイ島、オアフ島....................8 名 3 回;2002.8.26∼9.1 5泊7日 ハワイ島、オアフ島...................15 名 第 4 回;2003.8.27∼9.2 5泊6日 ハワイ島、オアフ島....................6 名 第 5 回;2004.8.25∼31 5泊7日 ハワイ島、オアフ島....................5 名 第 6 回;2005.8.24∼31 6泊8日 ハワイ島、オアフ島...................10 名 第 7 回;2006.8.23∼31 7泊9日 ハワイ島、オアフ島...................14 名 第 8 回;2007.8.22∼31 8 泊 10 日 ハワイ島、カウアイ島、オアフ島 .......13 名 第 9 回;2008.8.24∼9.2 8 泊 10 日 ハワイ島、オアフ島...................14 名 第 10 回;2009.8.23∼9.1 8 泊 10 日 ハワイ島、オアフ島 ..................13 名 第 11 回;2010.8.22∼8.31 8 泊 10 日 ハワイ島、オアフ島 ..................12 名 第 12 回;2011.8.22∼9.1 8 泊 10 日 ハワイ島、カウアイ島、オアフ島 ......11 名 指導および日程 ①事前学習 5 月下旬に参加生徒が決定されてから、例年通り巡検に際して参加者各自がハワイで学ぼうとする研 究目標を考えてもらった。海外巡検安全のための巡検ガイダンスを開き、パスポートの取得・外貨の 交換・荷造りの要領・海外での行動など照会した。さらに参加者各自の研究テーマに沿う文献などの 資料集めの方法を指導した。6 月中旬に入り、第 11 回巡検参加者と今回参加者が一同に会し巡検期間 中の諸注意・研究に関係する現地の場所など意見交換をした。 54 6 月から 7 月には、今回の巡検が天文と地質と植生が中心となる巡検であるため、天文に関しては、 国立三鷹天文台を訪問し、宇宙空間についてミニ講義を視聴し、天文台施設の見学をかねた研修を行 った。地質関係は、三浦半島の城ヶ島地域で地質調査練習を行った。火山地形と地質に関しては、箱 根火山と丹那活断層に注目して、野外実習を行った。火山地形の形態学的特徴について富士山・箱根 外輪山・愛鷹山・箱根駒ヶ岳などから火山体の相違について習得した。さらに地形判読に関して地形 図の読み方と利用方法を習熟した。 7 月に入り、震災がらみで自然災害と防災に関して若干の勉強会を開催した。さらにエネルギー問題 に注目し、ハワイにおける自然エネルギー利用について、日本のエネルギー開発の現況と比較しつつ 学習を行った。 8 月上旬になって、計測機器の習熟練習と航空機・ホテル・巡検中の諸注意などの確認でもって最終 的な打ち合わせとした。 ②指 導 学院の巡検指導は、原則として全行程の指導と研修に関して引率教員が行う。極力旅行社からのガ イドなどは、交通関係の各手配に限定する。 フィールドワークについても、引率の教員が主として指導にあたる。現地での質疑応答の時間を有 効にするためにも、1 名の指導者(TA を含む)に 2∼3 名の生徒が絶えず組むように行動する。 巡検地はほとんどが合衆国の国立公園になっているので、サンプリングに際しては最新の注意をはら っている。 すばる望遠鏡天文台における指導は、国立天文台ヒロ観測所の職員の方の指導をうけ、観測所内に て講義をして頂き質疑の時間を設ける。現役の研究者とのやりとりによって、最新情報を学び研究者 の研究の様子など理解する。天文台は、マウナケア火山山頂の標高 4000m 以上の高所に所在するため、 高山病予防の対策を練った。一つは、呼吸法である。なるだけ酸素を体内にためる呼吸を練習させる。 もう一つは、現地での生活習慣を規則正しいものにするよう、なるべく規則正しい時間割で行動する よう心がけるが、生徒の体調が悪い者がいた場合、宿舎にて待機・休養を指示する。状況に応じて、 日系人の病院に搬送する。夏期であるため、全行程において水分補給に努めるように指示するが、一 方で暴飲暴食を避けるように指導する。なお、マウナケア山山頂天文台を見学するための確認書と注 意書が事前に渡され、サインを必要とする。 参考:高山病の諸症状 言語不明瞭。体の各部、特に筋肉運動の同調が無くなる。体のバランスがとれなくなる。歩くとよろめく。視 覚・視力障害(特に視野周辺部が見えなくなる)・四肢の麻痺。意識レベルの不安定(眠気、意識の混乱、適応力 喪失)。突然の激しい頭痛。呼吸困難。休息しても息切れがはなはだしい。会話中に呼吸が浅くなる。咳をして 泡立つ、または血の混じった痰が出る。顕著な不安感。呼吸が非常に早い(たとえば一分間に 40 回以上)。胸の 痛み。心臓発作。脈拍数の向上または低下。腹部の痛み・ひどい吐き気等。 携行する観測機材に関しては、現地でのトラブル発生を防ぐため、数回に渡りその取り扱いの練習 を重ねた。さらに参加者に割り振られた観測機材を自宅に持ち帰り、出発日までその取り扱いの練習 を指示した。 巡検終了後のデータの処理や論文作成の為の準備などを指導する。 ③日 程 2007 年度の巡検から現地滞在日数を 8 泊として入る。生徒にとって現地にて個々に研究対象を観察 することが出来ないため、出来る限り日程にゆとりを持たせて調査できるようにした。また、必ずし も天候が理想的な状態であるとは限らず、予備日の手配も必要になったためである。 従来、カウアイ島は 1 泊を要していたが浸食地形の観察であるので今年度は日帰りで企画し、およそ の目的を達成できた。ゆとりの出来た範囲で、新たな渓谷や海岸地形の観察に費やすことが出来た。 次の日程表は、7 月の時点での予定である。現地での天候や噴煙の向きなど、予想外の状況が発生す るので若干であるが、状況に応じて変更されている。 55 旅 行 日 程 ・ 食 事 条 件 8 / 22 月 ① 成田発( 成田発(19: 19:45) 45)✈ 夜、成田より空路、JL JL76 JL76便にてオアフ島乗り換えコナに向けて出発。 76 日付変更線 (機内泊)□□機 23 火 ② コナ∼ 専用車 コナ∼ヒロ 午前:Pu’uhonua O Honaunau National Historic Park 研修 黒砂海岸観調査 午後:ヒロ着後 イミロア天文館にて研修、つなみ記念館研修 24 水 ③ ヒロ滞在 ヒロ滞在 終日地学巡検 ✈ホノルル着 11:22)✈コナ着 コナ着(12: 12:05) 05) ホノルル着(08:30) 30)✈ホノルル発 ホノルル発 HA138( HA138(11:22) 専用車 着後、コーヒー農園研修(ドトールコーヒー園) ハワイ州立自然エネルギー研究所研修。 (コナ泊)機昼□ 27 土 ⑥ (ヒロ泊)朝弁□ 専用車 グリーンサンドビーチ調査、溶岩樹形地調査、湧泉地調査 (ヒロ泊)□□□ ヒロ滞在 専用車 ヒロ滞在 午前 アカカ滝調査 午後、マウナケア山山頂地形調査、すばる天文台にて研修。 夜、オニヅカセンターにて天体観望実習 (ヒロ泊)□□□ ヒロ滞在 専用車 ヒロ滞在 午前:レインボー滝調査、ヒロ災害対策室訪問・研修。 午後:キラウエア火山の巡検。 夕刻 Kalapana 地区にてキラウエア火山溶岩流の調査 (ヒロ泊)□□□ ヒロ滞在 専用車 ヒロ滞在 終日地学巡検;キラウエア火山周辺地域、Iki 火口踏査、溶岩トンネル、溶岩樹型など 調査、植生調査 (ヒロ泊)□□□ 28 日 ⑦ ヒロ発 ヒロ発 HA121 HA121 09: 09:04 ✈ホノルル着 ホノルル着 09:53 到着後:真珠湾海岸地形観察 午後:中央高地プランテーション調査(ドール農園他)、 北部海岸地形調査(Hale’Iwa 地区) 25 木 ④ 26 金 ⑤ 29 月 ⑧ 30 火 ⑨ ホノルル発 ホノルル発 HA509 HA509 08:15 ✈リフェ着 リフェ着 08: 08:52 午前:アラートン植物研究所研修 午後:ワイメア渓谷地形観察、南部海岸地形観察 リフェ発 リフェ発HA314 HA314 18: 18:36 ✈ ホノルル着 ホノルル着 19: 19:06 ホノルル滞在 専用車( ホノルル滞在 専用車(半日使用) 半日使用) 午前;Manoa 滝の地形と植生調査、ハワイ大学訪問 午後;自主研修活動。 31 水 ⑩ 専用車 (ホノルル泊)朝□□ 専用車 (ホノルル泊)朝□□ (ホノルル泊)朝□□ ホノルル発 ホノルル発 専用車 午前 マカプ岬地形観察、ヌアヌバリ渓谷環境調査、モアナルア公園 植生調査 午後 JL89 JL89 18: 18:50 ✈ 帰国の途へ。 日付変更線 (機内泊) 朝□機 9/1 ✈羽田着 22: 機□□ 22:00 ⑪ 午後、羽田空港到着。入国諸手続きの後、解散。 56 Ⅳ 巡検地概要 <ハワイ島> ハワイ諸島のなかで最大の島(四国の半分の大き さ)で、他の島々を合わせた面積よりも広く、約 10,473km2 を有す。島は、北部のコハラ山系(古火山 体)、ファラライ、マウナロア、マウナケア(ハワイ 諸島最高峰、標高 4,205m)、キラウエア(活動中の火 山)の 5 つの火山からなる火山島である。現在、南東 海域に活動中の海底火山ロイヒがある。気候は、北 東からの貿易風の影響により島東部は、降雨率の高 い多湿地域であり、西岸部は乾燥した地域である。 標高の高い山頂には、冬期に積雪を見る。一般に平 ハワイ諸島概図 均気温は、27∼28℃であるが、山頂では 5∼6℃であ る。伝説の火の女神ペレは、空と大地の間に生まれ、キラウエア火山に棲むと言われる気性の荒い神 として知られている。 マウナケア火山:山頂は、冬季に積雪を見る。さらに山頂部付近には過去の氷河期の形跡を観察す ることが出来る。日本のすばる望遠鏡天文台をはじめ、世界各国の天文台が山頂に建設され観測が行 われている。同山の天体観測に適した自然環境と各国の最新テクノロジーを駆使した天文台を視察す る。天体観測については、同山中腹のハレポハクにあるオニズカセンターにて天体望遠鏡を使って天 体観測を行う。 キラウェア火山:活動中の火山でありながら火口付近の様子を観察できる火山である。火山地形・ 溶岩の性質など比較的安全な状態で調査が行える。また、ビジターセンターなどの施設が充実してお りレンジャーなどから指導をあおぐことができる。その他現地の専門施設(火山観測所、ジャガードミ ュ−ジアムなど)を訪問することによって、より密度の濃い巡検を行うことができる。 コナ地区:コナから北の沿岸地域は、近年リゾート開発が進みレベルの高いリゾート地域となって いる。南の沿岸地域の標高 500m には、コナコーヒーの産地として有名であり、果物などのプランテー ションが点在する。 <カウアイ島> 2007 年度以来久しぶりに訪問する島である。ハワイ諸島で北に位置する火山島であり、形成年代の 古い島である。そのため本島は、他の島に比べ地形解析が進んでいるために島の 3 分の 2 は、海蝕の 進んだ絶壁になっており、島の中央部もハワイのグランドキャニオンと言われるように解析の進んだ 渓谷美を作り出している。河川発達は、ハワイ諸島中一番顕著である。ハワイアンの生活に見られた 養殖池の手法などが河川沿いに見られたり、復元し保存されている。河口付近には、塩田跡があり 当時の生産方式がわかる。 アラートン植物研究所:島の南に面する渓谷を利用した植物研究所と植物園をかねた施設である。 熱帯・亜熱帯性(コレが主になっているが)の植物のコレクションは、合衆国本土から研修に来るほどで ある。この研究所においては、在来種や外来種など植物種の変遷を手にとって理解することが出来る。 <オアフ島> 有名な観光地ゆえ交通の便はよいが、軍事基地の島でもあるために巡検場所が限られてしま う。従って、自然景観の観察に重点を置くので、海岸地形と砂の形成の観察に適している。また、山 間部は雨量が豊富であるため、滝が多く存在している。これら滝の存在は、遷急点の成因をテーマに 下研究対象である。そのほかダイアモンドヘッド,ヌアヌパリ渓谷,ワイキキ海岸,真珠湾他。自然 景観の観察以外に土地利用・文化・経済面にも注目する。1 つに、ハワイ州は合衆国に帰属する以前は、 王国であったこと、ハワイアンとポリネシアンとの関係などビショップ博物館を介して学習する。ま た、自主研修日を利用して真珠湾に出向き戦艦アリゾナ記念館・戦艦ミズーリを訪れ太平洋戦争と日 米関係について歴史認識を新たにするように提言している。 ハワイ大学のキャンパスを訪問し、出入り可能な図書館や学生ラウンジを紹介し、大学生達の様子 を観察してみることを進める。 57 Ⅴ 巡検終了後の活動 巡検終了後は、各自(各グループ)で巡検成果をまとめる作業に入り、研究成果発表という形で報告する。 帰国以降の活動としては、 ・9 月 11 日、日本地質学会(茨城大学);仮想ジオパーク ハワイ島をポスター発表 ・9 月 23 日、都立科学技術高等学校文化祭及び SSH 発表会参加 ・11 月 12 日、学芸術交流祭(文化祭);ハワイ巡検研究成果を 4 班に分かれてポスター発表 ・12 月以降;稲門 Jr.自然科学研究会参加;ハワイ巡検成果報告(プレゼンテーション実施)、 SSH 東京都指定校研究発表会、3 校合同ハワイ巡検研究発表会、SSH 関東近県研究 成果発表会などに発表。 ハワイ巡検について、研究成果を英語化して国際化を図る。 Ⅵ 成果 ・巡検の事前学習は、参加者個々のテーマに沿ってゼミ形式で行なわれた。地学的調査方法に慣れる ため、三浦半島南端の城ヶ島や箱根火山周辺で地学巡検を行ない、野外観察の仕方、地図の見方、 クリノメーター使い方、野帳の記載の仕方など指導できたのでハワイ巡検地で混乱することはなか った。今年度は、天文台での先生方と質疑を意図して国立三鷹天文台の研修を実施した。すばる望 遠鏡天文台は、標高 4000m 以上のマウナケア山山頂にあるため、出発前から高山病の問題がついて まわっていた。事前対策としての呼吸法や、睡眠時間の確保など効果を期待していたが、3∼4 名は 軽い高山病にかかってしまった。今後、高山病の問題に対応しなければならい。 ・火山地域での資料採取は、国立公園内であるため場所に注意して採取するよう心がける必要が ある。今回は、アア溶岩とパホイホイ溶岩の見かけ上の違いについて習得できた。また、採取した おり便について分析するためには、生徒の能力と設備の関係から大学研究室の協力が必要である。 ・国際化については、今回の巡検では、3 回ほど英語での講義と研修を行った。英語で懇談することが 困難であったが 2 回目以降は進展が見られ、プレゼンテーションの英語化も可能である。 ・カウアイ島を今回巡検ルートに加えたことは、ハワイ諸島の新旧形成時期の違いによる島の解析地 形の違いがよく分かり教育効果が高かった。植物研究所での研修は、亜熱帯の植生を知る上でかな りの効果があった。 NELHA にてエネルギー研修 すばる望遠鏡天文台 アラートン植物研究所 マノア渓谷調査 58 植生の研修