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蒸気流動層式湿潤褐炭粒子乾燥プロセスの研究 有馬 謙一

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蒸気流動層式湿潤褐炭粒子乾燥プロセスの研究 有馬 謙一
蒸気流動層式湿潤褐炭粒子乾燥プロセスの研究
有馬 謙一
(目 次)
第 1 章 序論
1 ページ
参考文献
第 2 章 褐炭粒子の流動化特性
13 ページ
2.1 試験方法
2.2 試験結果
2.3 粉体物性測定結果
2.4 考 察
2.5 まとめ
記号
参考文献
第 3 章 褐炭粒子の乾燥特性
45 ページ
3.1 試験方法
3.2 試験結果
3.3 考 察
3.4 まとめ
記号
参考文献
第 4 章 流動層内の伝熱特性
4.1 試験方法
4.2 試験結果
4.3 考 察
4.4 まとめ
記号
参考文献
67 ページ
第 5 章 乾燥装置の概念設計
87 ページ
5.1 全体システム構成
5.2 実機の基本計画
5.3 実機の概念設計
5.4 エネルギー効率の試算
記号
参考文献
第 6 章 結論
謝 辞
108 ページ
109 ページ
第 1 章 序論
石炭は石油,天然ガスなどに比べて埋蔵量が多く,地域的な偏在も少ない安定し
たエネルギー源であり,今後も化石燃料資源として使われ続けると予想される.石炭に
は様々な種類があり,各国で分類方法は異なるが,一般的には発熱量が高く,石炭化
度 が 高 い も の か ら 無 煙 炭 ( Anthracite ) , 瀝 青 炭 ( Bituminous coal ) , 亜 瀝 青 炭
(Sub-bituminous coal),褐炭(Brown coal)に分類される.例えば日本では JIS 規格に
基づき,Table 1-1 に示すように発熱量,燃料比,粘結性で分類している.
Table 1-1 Coal Classification in Japan (JIS M 1002-1978)
Coal quality
Anthracite
Category
Sub-bituminous
coal
Brown coal
Fuel ratio
caking
property
-
4.0 <
Non caking
A1
A2
B1
Bituminous coal
Heating value kJ/kg
(dry ash free base)
B2
35,160 <
1.5 <
< 1.5
Strong caking
C
33,910-35,160
-
caking
D
32,650-33,910
-
Weak caking
E
30,560-32,650
-
Non caking
F1
29,470-30,560
-
Non caking
F2
24,280-29,470
-
Non caking
世界における炭種別の可採埋蔵量の分布を Figure 1-1 に示す.全石炭資源の内,
約 50%は褐炭,亜瀝青炭などの低品位炭で,ヨーロッパ,オーストラリア,インドネシア
などに多く存在している(Clerici, WEC, 2013).このうちの褐炭は豊富な埋蔵量を有す
るが,Table 1-1 に示すように発熱量が低く,また,重量の約半分が水分であるなどの
特徴を持つ.
オーストラリアの褐炭の写真を Figure 1-2 に示す.水分を約 62%含んでいるが,湿
った土壌と腐植した木材の混合物のような状態である.また,非常に柔らかく,多くの
塊は,手で割ることも可能である.
1
Fig. 1-1 World coal resources by WEC Clerici ed. (2013)
(a) Similar to wet soil
(b) Similar to rotten wood
Fig. 1-2 Sample of brown coal in Australia
褐炭は燃料としてのエネルギー密度が低いことから,高品位炭に比べて現在の世
界市場での取引は少なく,ほとんどは採掘現地での消費に限られる.また,現状の褐
炭焚き火力発電プラントにおいては,水分の含有量が多いためにその乾燥に伴う蒸
発潜熱の損失が大きく,プラントの発電端効率が低いことにより CO2 排出量も多く,有
2
効活用に際して克服すべき大きな課題となっている(Hashimoto et al., 2011).褐炭の
利用を拡大するためには,褐炭を大量かつ高効率に乾燥させる必要があるが,
そのための乾燥方式は,Table 1-2 に示すように,周囲の雰囲気(空気などの非
凝縮性ガス vs.水蒸気),加熱方式(ガスの持込み熱による直接加熱 vs.伝熱面か
らの間接加熱)により分類される(Allardice et al., 2004, Krokida et al., 2006, Okada
et al, 2012)
.
Table 1-2 Comparison among brown coal drying technologies
Atmosphere
Heating method
Heating source
Combustion gas
o
Direct
Non-condensate
gas + Steam
(ab. 1000 C)
Hot air
o
(ab. 100 C)
Indirect
Satulated steam
o
(ab. 150 C)
Direct
Steam
Indirect
-
Dryer
- Beater mill
- Fluidized bed dryer
- Coal in tube dryer
- Steam tube dryer
- Fluidized bed dryer
-
Satulated steam
o
(ab. 150 C)
- Steam fluidized bed dryer
周囲の雰囲気が非凝縮性ガスの場合,特に空気を使用する場合には装置は簡
素化されるが,褐炭から発生した水蒸気は非凝縮性ガスと混合し,非凝縮性ガ
スは圧縮しても潜熱を回収出来ないため,エネルギー効率(圧縮機動力に対し
て回収される熱量)が低下する.また,非凝縮性ガスが混合すると水蒸気の凝
縮伝熱係数が大きく低下し,潜熱を回収するために必要な伝熱管などの面積が
大きくなる.さらに,周囲の雰囲気が空気の場合には,乾燥後の褐炭の自然発
火による火災,粉じん爆発など安全上の課題も想定される.一方,周囲の雰囲
気が水蒸気の場合,褐炭の温度が 100℃以下であると投入直後に褐炭粒子の表面
に水が凝縮して含水率が増加しハンドリング上の注意は必要となるが,非凝縮
3
性ガスが混合した場合のような問題点は無く,潜熱の回収に適している.また,
酸素が無い雰囲気での乾燥であるため,安全上も優れている.
加熱方式が空気などのガスの顕熱による直接加熱の場合,伝熱管が不要で乾
燥装置の構造は簡単になるが,ガスの顕熱が褐炭中水分の乾燥の熱源となるた
め,高温のガス,あるいはガス温度が低い場合には大量のガスが必要となる.
通常,空気が使用されるため,潜熱の回収には適していない.一方,間接加熱
の場合,装置内の伝熱管内に 0.5 MPa 程度の水蒸気(飽和水蒸気温度 150℃程度)
が供給される.伝熱管内の水蒸気の凝縮伝熱係数は十分に大きく,伝熱管を流
動層内に設置すると伝熱管外の伝熱係数も大きいため,装置が小型化され大容
量化に適している.水蒸気を流動化ガスとすれば,潜熱の回収にも適している.
褐炭の乾燥に適用可能で,実用化済みもしくは開発中の技術を Figure 1-3~1-9
に示す.
既設の褐炭焚き火力発電プラントのフローを Figure 1-3 に示すが,褐炭の乾燥・粉
砕機にはビータ・ミル(Figure 1-4)が使用されている.褐炭はボイラ火炉から取り出さ
れた約 1 000℃の高温の燃焼ガスとともにビーター・ミルに供給され,燃焼ガスの顕熱
により直接加熱され乾燥されるとともに,数十 m/s で回転する羽根車により衝撃粉砕さ
れる.乾燥・粉砕された褐炭は,燃焼ガス及び褐炭から発生した水蒸気とともにボイラ
に供給され燃焼されるが,褐炭から発生した水蒸気は燃焼ガスとともに大気に放出さ
れるため潜熱は回収されない.1 000 MW クラスの褐炭焚き火力発電プラントでは,
1 000 t/h 近い褐炭が消費されるが,羽根車の直径 5 m 程度で,容量 100 t/h 以上のビ
ーター・ミルが複数台使用されている.
空気流動層乾燥装置(Figure 1-5)は,100℃程度の空気を,直接加熱も兼ねた流
動化ガスとする直接加熱方式であり,流動層内に間接加熱用の伝熱管が設置される
こともある.含水率 30%程度の褐炭に対しては,実用化された例もあるが,含水率 60%
程度の褐炭の場合には,褐炭の質量の 10 倍程度の空気が必要になると推定され,褐
炭焚きボイラ全体の燃焼ガス量と同じ程度となる.そのため,流動層乾燥装置だけで
なく空気加熱器,ファン,ダクト,集じん器などの周辺機器も含めた設備が大規模にな
るという課題があり,実用化はされていない.
4
Brown coal
Boiler
Beater mill
Fig. 1-3 System flow of brown coal fired power plant (HP of Loy Yang P/S)
Fig. 1-4 Beater mill for brown coal pulverizing and drying (Alstom catalogue)
5
Vapor
Raw brown coal
Dried brown coal
Fluidizing air
Fig. 1-5 Air fluidized bed dryer (Great River Energy catalogue)
CITD(Coal in Tube Dryer, Figure 1-6)は回転する横型の円筒容器内にチューブを
設置した乾燥器で,石炭をチューブ内に,蒸気をシェル側に流通させる構造を持つ間
接加熱乾燥方式である.褐炭からブリケットを製造するための小規模の乾燥用としてヨ
ーロッパなどで使用されており,容量は 10t/h 程度である.
Raw brown coal
Tubes
Dried brown coal
Shell
Fig. 1-6 Coal in tube dryer (Allardice et al, 2004)
STD(Steam Tube Dryer, Figure 1-7)も回転する横型の円筒容器内にチューブを設
置した乾燥器であるが,石炭をシェル側に,蒸気をチューブ側に流通させる間接加熱
乾燥方式である.コークス炉向け原料炭などの水分調整用の乾燥装置などとして使用
6
されており,水分 10%程度の瀝青炭での容量は 100 t/h 以上であるが,水分 60%程度
の褐炭での容量は数十 t/h 程度と推定される.
Fig. 1-7 Steam tube dryer (Krokida et al, 2006)
CITD,STD ともに,1 000 MW クラスの褐炭焚き火力発電プラントに適用する場合
には容量がやや小さく,また,雰囲気が非凝縮性ガスであるため,高効率化のための
潜熱の回収には適していない.
蒸気流動層(Figure 1-8,Figure 1-9)は Potter et al. (1979)が提唱した乾燥方式で,
流動化ガスに過熱蒸気(例:絶対圧力 0.12 MPa で 120℃)を使用し,流動層内に伝熱
管を設置して蒸気を流通させ,褐炭を間接加熱し乾燥させる方式である.流動層内の
伝熱管の伝熱係数が高いため,大容量化に適しているとともに,乾燥装置出口での蒸
気濃度がほぼ 100%であるため,蒸気の再圧縮などによる潜熱回収にも適している.ま
た,乾燥装置内は水蒸気 100%で酸素が存在しないため,安全性にも優れている.こ
れより,蒸気流動層は,褐炭に対する最も有望な乾燥方式であると考えられる
(Schmalfeld et al., 1996; Klutz et al., 2006; Klutz et al., 2014).蒸気流動層方式には,
第 5 章で詳述するように,1 室構造の完全混合式(Figure 1-8)と,隔壁で仕切られた
多室構造の多段式(Figure 1-9)がある.完全混合式はドイツの RWE 社で採用されて
いる方式であるが,投入された褐炭のショートパスの抑制が難しく,スケールアップした
際には流動層の床面積が大きくなり,全体の均一性を保つことが難しいなどの課題が
想定される.これに対して,多段式ではショートパスが抑制され,スケールアップの際
7
にも,流動層全体ではなく第 1 室における乾燥した褐炭と供給する湿った褐炭との混
合を考慮すれば良く,第 1 室の流動化蒸気の速度だけを大きくして混合性を向上させ
ることも可能である.
Raw brown coal
Heating
steam
Vapor
Heat transfer tubes
Fluidizing
steam
Dried brown coal
Fig. 1-8 Steam fluidized bed dryer (One chamber type, RWE catalogue)
Buffle
plates
Raw brown coal
Vapor
Heat transfer tubes
Heating
steam
Fluidizing
steam
Dried brown coal
Fig. 1-9 Steam fluidized bed dryer (Multi chamber type)
以上より,現在の褐炭焚き火力発電プラントで実用化されている乾燥方式は,ビー
ター・ミルのみであり,ほかの方式は実績が無いか,開発段階である.ビーター・ミルで
はボイラ火炉出口の高温の燃焼ガスにより褐炭を乾燥しているが,褐炭から蒸発した
水蒸気は燃焼ガスと混合するため潜熱の回収は困難であり,潜熱が有効利用されず
に損失となることから,ボイラ効率が低下し,ひいては発電効率が低下する.同様に,
8
石炭ガス化複合発電(IGCC)においても,ガス化炉へ褐炭を投入するための粉砕・乾
燥装置の熱源としてガスタービン排ガスを利用すると,褐炭から蒸発した水蒸気はそ
のまま大気放出されるため潜熱は損失となる.また,褐炭の乾燥が不十分となった場
合にはガス化ガス中の水蒸気の濃度が増加して脱硫装置における排水への熱損失
が大きくなり,出力の低下に繋がる.さらに,排ガスには酸素が含まれているため乾
燥・粉砕された褐炭のバンカーにおける火災・爆発などの安全上の課題もある
(Allardice et al., 2004).
したがって,褐炭焚き発電プラントの効率向上においては,褐炭から乾燥により発
生した水蒸気の潜熱をいかに有効利用するかが重要であり,蒸気流動層方式が最も
適していると考えられる.蒸気流動層方式には, 前述のように 1 室構造の完全混合式
(Figure 1-8)と隔壁で仕切られた多室構造の多段式(Figure 1-9)があるが,三菱重工
業は多段式を採用して開発を進めている.その全体システム構成を Figure1-10 に示
す(Hashimoto et al., 2011).
Coal
bunker
Electric
precipitator
Compressor
Bag filter
Blower
Feeder
Crusher
Dried coal
bunker
Steam fluidized
bed dryer
Feeder
Heat
exchanger
Water treatment
Pulverized coal
bunker
Cooler
Pulverizer
Fig. 1-10 Brown coal drying system by MHI
9
Gasifier
褐炭は原炭バンカから供給され,クラッシャにて適切なサイズに粗粉砕され
た後,乾燥装置に供給される.乾燥装置は蒸気流動層で,流動層内には伝熱管
が設置されており,この伝熱管に加熱用蒸気を供給することで褐炭を間接加熱
し乾燥する.乾燥後の褐炭は冷却され,IGCC 設備などに供給される.一方,褐
炭から発生した蒸気は,集塵器で粉じんを取り除いた後,一部は流動化蒸気と
して乾燥装置に再循環され,残りは蒸気圧縮機により 0.5 MPa 程度に圧縮された
後に,乾燥装置に加熱用蒸気として供給される.この圧縮された水蒸気が伝熱
管内で凝縮することにより潜熱が放出され.その潜熱を流動層内の褐炭が受け
取ることにより潜熱が回収される.蒸気再圧縮に替えて蒸気タービンと凝縮器
を設置し,潜熱を電力として回収することも可能である.
このような乾燥システムに供給される褐炭は,水分を多く含むため付着性を有すると
ともに,幅広い粒度分布を有している.また蒸気流動層乾燥装置の流動化ガスは水蒸
気であり,流動層内には伝熱管が配置される.多室構造の多段式の乾燥装置におい
ては,褐炭が投入される第 1 室から末端の最終室まで,各室の褐炭の含水率が
段階的に低下する.そのため,含水率による流動化特性,乾燥特性,伝熱特性の変
化を定量的に把握し,各室毎に流動化ガス速度,流動層温度,伝熱管の面積,
伝熱管の配置,流動層の寸法などの適正な設計を行うことが必要である.
・流動化特性
炭種,含水率,粒径に応じた,流動化開始速度,完全流動化開始
速度の把握
・乾燥特性
炭種,含水率,粒径に応じた,流動層の温度,定率乾燥速度,限
界含水率,平衡含水率の把握
・伝熱特性
炭種,含水率,粒径に応じた,伝熱管の管外伝熱係数の把握,伝
熱管の密度やフィン取付けの管外伝熱係数への影響の把握
本研究では,基礎試験によりこれらの特性を定量的に把握して設計データを取得
するとともに,これらの特性を定式化し,蒸気流動層乾燥装置における褐炭の乾燥過
程の予測を可能し,設計に適用することを目的とする.
三菱重工業では,基礎試験に続いて,1 t/h 規模の PDU (Process Development Unit)
試験,10 t/h 規模の実証試験,200 t/h 規模の実機試験を実施し,スケールアップの影
10
響を評価しながら段階的に開発を進める計画である.現在は基礎試験と PDU 試験が
完了した段階であるが,今後の試験装置の設計は,基礎試験結果と合わせて,実証
試験では PDU 試験結果を,実機試験では実証試験結果をフィードバックしながら実
施される.実証試験は未だであるが,本研究では,基礎試験結果をもとに実機乾燥装
置の概念設計を実施した.
このような潜熱の回収が可能な蒸気流動層乾燥装置を褐炭焚き発電プラントに設
置すると発電端効率が向上する.第 5 章に詳述するが,瀝青炭焚きの発電所では発
電端効率は 35~40%であるが,水分を 60%含む褐炭では発電端効率が 26~30%とな
る.これに対し,潜熱回収型の蒸気流動層乾燥装置を設置することにより,水分の蒸
発に必要なエネルギーの約半分を回収することが可能となり,発電端効率は 30~
35%まで向上する.さらに,石炭ガス化 IGCC プラントと組合せることにより,発電端効
率は 42~46%に向上し,CO2 排出量原単位は 700 kg-CO2/MWh 程度にまで低減され
ると期待される.これらの発電端効率と CO2 排出量原単位の変化を Figure 1-11 に示
す(Hashimoto et al., 2011).
CO2 emittion [kg-CO2/MWh-Gross]
1,200
Conventional brown coal PS
1,100
Without LTR
1,000
With LTR
900
Brown coal IGCC
Without LTR
800
With LTR
700
600
LTR : Latent Heat Recovery
500
25
30
35
40
45
50
Gross thermal efficiency [%, HHV base]
Fig. 1-11 Gross thermal efficiency in brown coal fired power plants
11
(参考文献)
Allardice, D. J., A. L. Chafffee, W. R. Jackson and M. Marshall, “Water in Brown Coal
and Its Removal” C. Z. Li ed. Advances in the Science of Victorian Brown Coal,
Chapter 3, pp 85–133, Elsevier, Oxford, U.K. (2004)
Clerici, A. ed. ; “World Energy Resources 2013 Survey”, Chapter 1. Coal, World Energy
Council, pp 26–57, London, U.K. (2013)
Hashimoto, T., K. Sakamoto, Y. Yamaguchi, K. Oura, K. Arima and T. Suzuki;
“Overview of Integrated Coal Gasification Combined-cycle Technology Using
Low Rank Coal,” Mitsubishi Heavy Industries Technical Review, 48, 3, 19–23
(2011)
橋本 貴雄,坂本 康一,山口 啓樹,大浦 康二,有馬 謙一,鈴木 武志;
褐炭など低品位炭を活用した IGCC の取組み,三菱重工技報,Vol. 48,No. 1,
25–29 (2011)
Krokida, M., D. Marinos-Kouris and A. S. Mujumdar; “Rotary Drying” A. S.
Maujumdar ed., Handbook of Industrial Drying Third Edition, Chapter 7, pp 151–
172, CRC Press, Boca Raten, U.S.A (2006)
Klutz, H-J., C. Moser and D. Block; WTA-Finekorntrocknung, Baustein für Die
Braunkohlekraftwerke der Zukunft, VGB Power Tech, 11, 57–61 (2006)
Klutz, H-J., D. Block and R. O. Elsen; Verfahrens- und Komponenten-Entwicklung für
die WTA- Trocknungstechnik, VGB Power Tech, 10, 38–45 (2014)
Potter, O. E., C. J. Beeby and W. J. N. Fernando, P. Ho; “Drying brown coal in
steam-heated steam fluidized beds”, Drying Technology, 2, 2, 219–234 (1983)
Okada, T, H. Yoshizawa, M. Sugazawa; “Development of Lignite using Air FluidizedBed,” 49th Sekitankagakukaigi Hahhyou Ronbunshu, No.12, 24–25 (2012)
岡田 隆宏,吉廻 秀久,菅澤 貢;空気流動層を用いた褐炭乾燥装置の開発,
第 49 回石炭科学会議発表論文集,発表番号 No.12, 24–25 (2012)
Schmalfeld, J. and C. Twigger, “Experience with the operation of the Steam Fluidized
Bed Drying Plant at Loy Yang, Australia,” VDI Conference on Energy and Power
Technology in Siegen, September (1996)
12
第 2 章 褐炭粒子の流動化特性
多室構造の多段式の蒸気流動層乾燥装置においては,褐炭が投入される第 1
室から末端の最終室まで,各室の褐炭の含水率が段階的に低下する.褐炭粒子
の粒径,見掛け密度は含水率によって変化し,含水率が高いと付着性も発現し,流動
化特性に影響する.したがって,蒸気流動層乾燥装置の設計においては,このような
褐炭粒子の含水率と流動化特性の関係を把握し,各室ごとに適正な流動化蒸気の速
度を与えることが必要である.
流動層で使用される粒子は, Geldart (1973) によると粒径と密度で A,B,C,D の
4つの種類に分類される.蒸気流動層乾燥装置に供給される褐炭の粒子は,平均粒
径 0.5 mm,粒子密度 1 000 kg/m3 程度であることから B 粒子に分類され,比較的流動
化し易い粒子と言える.ところが褐炭粒子は,含有される水分により粒径,見掛け密度
が変化するとともに,水分が多い場合には付着性が発現する.そのため,流動特性の
把握には,水分による粒径と見掛け密度の補正だけでは不十分であり,付着性まで考
慮する必要がある.
これまで,付着性のある粒子の流動化特性については,主に粒径が小さい C 粒子
についての研究が報告されている.Kai et al. (1990) は,粒径 0.7-13 μm,密度 280
-890 kg/m3 のアルミナ,水酸化アルミニウム,水酸化カルシウムの粒子を用いて,C
粒子の流動化の特性が密度により大きく2つに分類されることなどを示した.Johno et
al. (2011) は,粒径 70 μm,密度 2 400 kg/m3 のガラスビーズを用いて,流動化空気の
相対湿度を 8-60%まで変化させ,相対湿度が高くなると粒子間の付着性が大きくなり
層内の空隙が大きくなり圧力損失が減少すること,相対湿度 60%以上ではチャネリン
グが発生することを示した.Iwadate (2000) は,125-177 μm のガラスビーズを用いた
試験を実施し,流動層内で形成される B 粒子の凝集体のモデルを構築し,凝集体径
の推定式を提案した.Zhou et al.(2000) は,粒径 0.6-4.6 μm,密度 2000-3880
kg/m3 の SiC,SiO2, TiO2 を用いた試験を実施し,凝集体の衝突による成長・分裂のモ
デルを構築し,試験結果と良く一致することを示した.さらに Zou et al. (2011) は,粒
径 10 μm,密度 3940 kg/m3 の TiO2 を用いた試験を実施し,気泡の径,上昇速度,粒
子挙動について定式化した.これらの研究は,主に粒径が小さく付着性のある C 粒子
を対象としたものであるが,流動層乾燥装置に供給される褐炭のように,粒径が大きい
13
B 粒子において,粒子固有の水分により付着性が発現し,流動特性に影響する場合
についての研究は見られない.また,これらの研究では比較的粒径の揃った粒子が使
用されており,粒度分布の影響については Zergueras et al. (1996)による報告はあるが,
褐炭のように幅広い粒度分布を有する付着性のある粒子についての報告は見られな
い.
本章では,A 粒子と B 粒子の混合物に一部 D 粒子を含む幅広い粒径分布を持つ
褐炭粒子を対象として,流動特性を把握することを目的とした.そのために,3 種類の
褐炭を使用して,窒素を流動化ガスとする可視化コールド試験装置により,褐炭粒子
の含水率を約 60%からほぼ 0%まで,50%質量平均径を 0.3 mm から 0.8 mm まで変化
させた試験を実施した.さらに,粉体物性として,粒径,含水率に加えて,付着性を定
量化する指標として安息角を測定し,これらをもとに,褐炭粒子の流動特性を定量的
に評価する手法を提案した.
14
2.1 試験方法
2.1.1 可視化コールド試験装置
本試験装置は,流動化ガスとして常温の窒素を供給する部分と,粒子が流動層を
形成する可視化アクリル部で構成した.装置の系統図を Figure 2-1 に示す.可視化ア
クリル部は,直径 150 mm,高さ 2 000 mm であり,各部の圧力,差圧が計測できるよう
に計器を取り付けた.分散板には,格子配列の穴(ピッチ:17 mm から 21 mm,直径:
φ0.5 mm から 1.5 mm)が開いた多孔板を用い,流動化ガス速度に応じて分散板の圧
力損失が流動層の圧力損失の 1/2 程度となるように,試験条件に応じて分散板を交換
した.
実機の乾燥装置では流動化ガスとして水蒸気を使用するが,窒素使用の本試験で
得られた結果は,Eq. (2-12)~Eq. (2-14)に示す Wen and Yu (1966) の式から,窒素と
水蒸気の密度と粘度により補正する.
Bag filter
T
F: Gas flow
T: Temperature
P: Pressure
DP: Differential pressure
2 000
Φ150
DP
P
Flow meter
F
Control
valve
Distributor
T
N2
P
Fig. 2-1 Visual cold model test equipment
15
2.1.2 供試石炭
受入れベース含水率が約 62%の 3 種類の褐炭を使用した.分析結果を Table 2-1
に示す.含水率の表示には湿炭基準と乾炭基準があるが,本章における含水率 m は
湿炭基準である.
Table 2-1 Analysis results of brown coal used in basic tests
Total moisture
(as received)
Proximate analysis
air dried at 35℃
A coal
B coal
C coal
wet base
[ %-wet ]
62.1
62.8
61.3
dry base
[ %-dry ]
164
169
158
Inherent moisture
[%]
24.9
25.0
16.8
Fixed carbon
[%]
34.9
33.1
31.7
Voloatile matter
[%]
39.4
40.2
43.4
Ash
[%]
0.8
1.7
8.1
Total
[%]
100
100
100
*) Total moisture: measured by drying in air at 107℃ (JIS M8812)
Inherent moisture: measured by drying in air at 107℃ for the sample of
air dried at 35℃ (JIS M8811, 8812)
A 炭を衝撃型の粉砕機で,スクリーンの目開きを 6 mm として粗粉砕した.含水率
10%以下に乾燥させて測定した質量基準の粒度分布を Figure 2-2 に示す.質量基準
の 50%平均径は 0.27 mm であったが,0.1 mm 以下の微粒子を 16%,1 mm 以上の粗
粒子を 8%含み,幅広い粒度分布を有していた.60%径,70%径は,それぞれ 0.33
mm,0.41 mm であった.なお,Figure 2-2 に示す質量基準の粒度分布を面積基準に
換算すると (Kunii and Levenspiel, 1991),表面積の大きい微粒子の影響を受けるた
め,面積平均径は 0.15 mm と小さくなった.
16
99.9
Quantity passing D [%]
99
95
90
8%
80
70
60
50
40
30
20
16%
0.33mm
0.27mm
10
0.01
0.41mm
0.1
1
10
Particle size [mm]
Fig. 2-2 Particle size distribution of crushed A coal with screen opening of 6 mm
このような褐炭に対して,含水率,粒径,炭種を変化させて流動化特性を把握する
ための試験を実施した.このため,次のように試料を作成した.
・含水率の影響
A 炭を衝撃型の粉砕機で,スクリーンの目開きを 6 mm として粗粉
砕し,質量基準の 50%平均径 0.27 mm の試料を得た.この試料を
温風乾燥機で乾燥させ,含水率 62%から概略 10%刻みに含水率
を調整して使用した.
・粒径の影響
A 炭を衝撃型の粗粉砕機でスクリーンの目開きを 6 mm から 8 mm,
10 mm に変えて粗粉砕した.含水率 10%以下に乾燥させて測定
した粒度分布を Figure 2-3 に示す.質量基準の 50%平均径は
0.27 mm から 0.48 mm,0.79 mm となった.これらの試料を,それぞ
れ Sml 粒子,Mid 粒子,Lrg 粒子と記述する.
・炭種の影響
B 炭,C 炭を衝撃型の粗粉砕機で,スクリーンの目開きをそれぞれ
10mm,6 mm として粗粉砕した.含水率 10%以下に乾燥させて測
定した粒度分布を Figure 2-4 に示す.質量基準の 50%平均径は
0.60 mm と 0.27mm であった.
17
99.9
Quantity passing D [%]
99
95
90
●
▲
■
80
Sml
Mid
Lrg
70
60
Sm
Mi
Lrg
50
40
30
20
0.48mm
0.27mm
10
0.01
0.79mm
0.1
1
10
Particle size [mm]
Fig. 2-3 Particle size distribution of 3 kinds of crushed A coal
with screen opening of 6 mm, 8 mm and 10 mm
99.9
Quantity passing D [%]
99
95
90
■ B coal
▲ C coal
80
70
60
50
40
30
20
0.27mm
10
0.01
0.1
0.60mm
Particle size [mm]
1
10
Fig. 2-4 Particle size distribution of crushed B and C coal
with screen opening of 10 mm and 6 mm
18
2.1.3 試験方法
粒径と含水率を調整した試料を,可視化コールド試験装置に,静止層高が 300 mm
となるように投入した.次に,内部の状態を目視しながらガス量を徐々に増加させ,内
部が完全に混合する流動状態になるまでガス流速を増加させた.次に,この完全に混
合した流動状態からガス量を徐々に減少させ,静止状態となるまでガス流速を減少さ
せた.
このときの流動化ガスの流速と流動層の圧力損失の関係を,模式的に Figure 2-5
に示す.固定層状態からガス速度を上げていく際には,初期の充填状態に依存す
る粒子間の静止摩擦の影響が出るので,流体力学的に決定される圧力損失(ガス
の流通抵抗により粒子を持ち上げる力=粒子にかかる重力)とは異なる値が得ら
れることがある.したがって,流動化開始速度などを決定する際には,流動化
ガス速度を減少させるときのガス流速と圧力損失の関係を使用した.
Pressure drop
Increase of gas velocity
Decrease of gas velocity
Fluidization velocity
Fig. 2-5 Conceptual diagram of the relationship between
fluidization velocity and pressure drop
19
2.2 試験結果
2.2.1 流動化状況
可視化コールド試験装置に,流動化ガスを供給して徐々に増加させると,流動状態
は次のように変化した.
・ガスを通気すると,まず層表面の微粒子が細かく流動化した.やがて上部の層全体
が下部の層から分離して,塊となったまま浮遊した(Lifting, Figure 2-6 (a)).
・さらにガス流速を増加させると,浮遊していた上部の層が崩壊し下部の層と一体とな
ったが,層の一部からガスが吹き抜ける Channeling が発生しラットホールが形成され
た.
・さらにガス流速を増加させると,層内の微粒子の動きが活発となりながら次第に上部
に移動し,微粒子が上部で流動化を開始した.一方,粗粒子は下部で分離し堆積し
た状態となった(Segregation, Figure 2-6 (b)).
・さらにガス流速を増加させると,下部の粗粒子も流動化を開始し,やがて気泡が発生
し,下部の粗粒子も完全に流動化し上部の微粒子と混合して,全体が均一層を形成
した(Complete mixing, Figure 2-6 (c)).
(a) Lifting
(b) Segregation
(c) Complete mixing
Fig. 2-6 Visual observation of lifting and segregation
20
褐炭中の含水率が 10%以下の場合には,Lifting や Channeling が発生することなく
流動化を開始した.Segregation は,含水率によらず,流動化ガス速度が小さい範囲に
おいては,常に発生した.
次に完全混合流動化状態からガス流速を徐々に減少させると,流動状態が緩やか
になり,上部で微粒子が流動化している一方,下部に粗粒子が分離して流動化する
Segregation が発生した.さらにガス流速を低下させると,下部の粗粒子は流動化を停
止し,ガス供給停止時には,上部に微粒子,下部に粗粒子が偏在した状態となった.
このように,ガス速度を増加させて完全混合状態とし,次に減少させて停止する一連
の操作に要した時間は約 10min であった.この間の蒸発による含水率の変化は小さく,
含水率 50%の場合でも 3%程度であったため,初期の含水率を代表値とした.
ガス流速を減少する際の差圧データと目視観察から,流動化開始速度を判定した.
A 炭の Sml 粒子で含水率 m=50%における圧損の変化例を Figure 2-7 に示す.
(1)
(4)
(3)
(2)
200
Pressure drop [mmH2O]
Increase in gas velocity
150
100
moisture content : 50%
Decrease in gas velocity
50
Umf
0
0.00
0.05
Umfc
0.10
Umix
0.15
0.20
0.25
Gas velocity [m/s]
(1) Lifting and channeling
0.30
0.35
0.40
0.45
(2) Fluidization with segregation
(3) Complete fluidization with coarse particle in lower part
(4) Complete mixing from lower to upper part
Fig. 2-7 A typical transition of pressure drop across the bed during increasing and
decreasing of gas velocity (A coal, Sml particles, m=50%)
21
Figure 2-7 に示す差圧変化曲線と目視観察の結果から,このときの流動化を特徴
付けるガス速度を,次の 3 種類で定義した.
・流動化開始速度
圧力損失の曲線の原点における接線と,完全流動化時の
(Umf )
圧力損失が一定となる線との交点から得られるガス速度
であり,成書で通常に定義される流動化開始速度である
(Kunii and Levenspiel, 1991).このとき,粗粒子の一部は
底部に偏析したままで流動化しなかった.
・完全流動化開始速度
(Umfc )
底部に偏析した粗粒子も含む全ての粒子が気流中への
浮遊を開始し,圧力損失が一定となるガス速度である
(Zergueras et al., 1996; Obata et al., 1986).
・完全混合流動化速度
(Umix )
気泡が発生し,層の上部から下部まで流動層全体が混
合・撹拌されて均一となるガス速度として定義し,目視によ
り判定した.
これら 3 種類の流動化ガス速度と流動状態との関係は次のとおりであった.ガス流
速 0 m/s から Umf の範囲では,Lifting,Channeling が発生し,Umf 近くでは Segregation
を伴う流動化を開始した.ガス流速 Umf から Umfc の範囲では,Segregation を伴う流動
化が見られ,Umfc 以上になると層全体が流動化を開始し,やがて気泡の発生により層
底部の粗粒子を含めた上下の混合が徐々に活発になり,Umix 以上では完全混合状態
となった.
2.2.2 含水率の影響
A 炭の Sml 粒子において,含水率が変化したときの 3 種類の流動化速度を Figure
2-8 に示す.含水率 m=62%では可視化コールド試験装置の壁面への付着が多く,完
全混合流動化速度(Umix )の目視による判定は,精度が十分ではなかったため,図中
に(
)書きで示した.
22
Fluidization velocity [m/s]
0.4
■ Umix
● Umfc
0.3
▲ Umf
low accuracy
0.2
0.1
0
0
20
40
60
Moisture content m [%]
80
Fig. 2-8 Influence of moisture content on fluidization velocity
(A coal, Sml particles)
3 種類の流動化ガス速度について,Figure 2-8 より次のことがわかる.
・流動化開始速度
(Umf )
0.03-0.06m/s の範囲にあり,含水率の低下により減少す
る傾向が見られたが,バラツキが大きかった.その原因は,
含水率が多い場合,Figure 2-7 に示すように,ガス速度と
差圧の関係が上に凸となり,原点を通る接線の傾きを精
度良く決定することが難しかったためである.
・完全流動化開始速度
(Umfc )
0.04-0.18 m/s の範囲にあり,含水率 62%から 30%程度ま
では急速に減少したが,含水率 30%未満では減少割合
が小さくなった.
・完全混合流動化速度
(Umix )
0.15 m/s-0.3 m/s の範囲にあり,Umfc と同じく,含水率
62%から 30%程度までは急速に減少したが,含水率 30%
未満では減少割合が小さくなった.
次に,Umfc と Umf,Umix の関係を Figure 2-9 に示す.ここで,Umfc はほかの流動化
ガス速度と比べて決定が容易であり,流動層乾燥装置の設計においては全ての粒子
23
が流動化している必要があるので,これを比較の基準として用いた.褐炭粒子は幅広
い粒度分布を有するため,Umfc に対する Umf と Umix はそれぞれ 0.8 倍,3 倍程度であ
ったが,含水率が高い場合には,これらの比例関係から外れる傾向にあった.
0.4
Fluidization velocity [m/s]
■ Umix
▲ Umf
0.3
low accuracy
0.2
0.1
0
0
0.05
0.1
0.15
Complete fluidization velocity Umfc [m/s]
0.2
Fig. 2-9 Comparison between Umfc with Umf and Umix
(A coal, Sml particles)
2.2.3 粒径の影響
A 炭で作成した 3 種類の粒径の試料について,含水率が変化したときの完全流動
化開始速度(Umfc)を Figure 2-10 に示す.Umfc を比較の対象とした理由は,Umfc が Umf
と Umix に比べて明確に定義できること,実機流動層乾燥装置では全ての粒子が流動
化する必要があり,実機の設計におけて重要であることである.3 種類の粒子とも Umfc
は同じ傾向を示し,含水率 62%から 30%程度までは急速に減少したが,含水率 30%
未満では減少割合が小さくなった.また,粒径が大きくなると Umfc は大きくなり,Mid 粒
子,Lrg 粒子では Sml 粒子に対して,それぞれ約 2 倍,約 4 倍であった.
次に,Umfc と Umf,Umix の関係を Figure 2-11 に示す.いずれの粒径においても,Umf,
Umix は Umfc の増加とともに増加し, Umfc に対する比はそれぞれ約 0.6,約 2.0 であっ
た.Umf においてバラツキが大きい原因としては,Figure 2-7 に示すように,ガス速度と
差圧の関係が上に凸となり,原点を通る接線の傾きを精度良く決定することが難しかっ
たためである.
24
Complete fluidization velocity Umfc [m/s]
0.5
Sml
Mid
0.4
Lrg
0.3
0.2
0.1
0.0
0
20
40
60
Moisture content m [%]
80
Fig. 2-10 Influence of moisture content on complete fluidization velocity (A coal)
Fluidization velocity Umf, Umix [m/s]
1.2
○ Umf
Umf (Sml)
(Sml)
△ Umf
Umf (Mid)
(Mid)
1.0
□ Umf
Umf (Lrg)
(Lrg)
●Umix
Umix (Sml)
(Sml)
▲Umix
Umix (Mid)
(Mid)
■Umix
Umix (Lrg)
(Lrg)
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
Complete fluidization velocity Umfc [m/s]
Fig. 2-11 Comparison between Umfc and Umf,Umix (A coal)
次に,これらの 3 種類の粒径において,含水率 10%前後での Umfc を基準として一般
化した Umfc を Figure 2-12 に示す.なお,完全に乾燥させた含水率 0%の褐炭粒子は
吸湿性があり,含水率が徐々に増加するため,含水率 10%前後の試料を基準とした.
この一般化された Umfc に対する含水率の影響は,いずれの粒径でも同じ傾向を示し
25
た.このことは,湿潤褐炭粒子で含水率の増加とともに完全流動化開始速度が大きく
なる特性は,粒径によらず同じメカニズムに基づくものであることを示している.
Umfc normalized by Umfc at moisture
content of about 10 % [ - ]
4
Sml
Mid
3
Lrg
2
1
0
0
20
40
60
Moisture content m [%]
80
Fig. 2-12 Influence of moisture content on the normalized
complete fluidization velocity (A coal)
26
2.2.4 炭種の影響
B 炭(d50=0.60 mm)と C 炭(d50=0.27 mm)について,含水率が変化したときの完全
流動化開始速度(Umfc)を Figure 2-13 に示す.炭種によらず Umfc 同じ傾向を示し,含
水率 62%から 30%程度までは急速に減少したが,含水率 30%未満では減少割合が小
さくなった.
Complete fluidization velocity Umf [m/s]
0.6
A coal (0.27 mm)
A coal (0.48 mm)
A coal (0.79 mm)
B coal (0.60 mm)
C coal (0.27 mm)
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
0
20
40
60
Moisture content m [%]
80
Fig. 2-13 Influence of moisture content on complete fluidization velocity
27
2.3 粉体物性測定結果
A 炭で含水率 62.8%と 8.3%の褐炭粒子の真密度,見掛け密度を測定した.ここで,
褐炭粒子の真密度は,固体分である石炭と細孔内水分を合わせた湿潤粒子の密度
である.測定法は,それぞれ,JIS 2151 による比重ビン法と水銀圧入法を使用した.
結果を Table 2-2 に示す.水分が減少するにしたがって褐炭粒子の真密度(ρt)は増
加したが,この原因は,石炭の真密度(ρc)は水の真密度(ρw)よりも大きく,水分が蒸
発するにしたがって粒子中の石炭の割合が増加したためである.一方,粒子の見掛
け密度(ρp)は減少したが,この原因は,水分の蒸発した部分が細孔として残り,粒子
中の細孔容積が増加したためである.
表中の Drying percent, Volume ratio, Diameter ratio は,それぞれ後述する
Eq.(2-8),Eq.(2-4),Eq.(2-5) から求めた.
Table 2-2 Influence of moisture content on particle characteristics (A coal)
Moisture content
Wet coal
Dry coal
m
[% (wet basis)]
62.8
8.3
-
[% (dry basis)]
168.8
9.1
True density
ρt
[kg/m ]
3
1136
1396
Apparent density
ρp
[kg/m ]
3
1196
808
Density of water
ρw
[kg/m ]
3
1000
1000
Density of coal
ρc
[kg/m ]
3
1448
1448
Drying percent
η
[%]
0
94.6
Calculated apparent density
ρ pcl
[kg/m ]
1148
459
Volume ratio
Rv
[-]
1 (base)
0.568
Diameter ratio
Rd
[-]
1 (base)
0.828
3
乾燥に伴う褐炭粒子の密度変化を定式化する.質量 1 kg の湿潤褐炭粒子の体積
Vp は,含水率を m として,Eq.(2-1)で与えられる.質量 1 kg で体積 Vp であるので,褐
炭粒子の真密度(ρt)は Eq. (2-2)で与えられる.ここで,添字の c と w はそれぞれ石炭
と水を示す.
28
m
m


Vp  Vpc  Vpw  (1 
) / c 
/ w 
100
 100

t 
(2-1)
m
m
1


 1 / (1 
) / c 
/ w 
Vp
100
100


(2-2)
この式に Table 2-2 の値を代入して ρw = 1000 kg/m3 として解くと,ρc = 1448 kg/m3 が
得られる.次に,湿潤褐炭粒子の体積は,Eq.(2-1)に ρw = 1000 kg/m3 ,ρc = 1448
kg/m3,m = 62.8%を代入すると Vp = 0.000885 m3 が得られる.この褐炭粒子を含水率
8.3%まで乾燥すると,石炭の質量 0.372 kg はそのまま残る一方,水分の質量は 0.628
kg(含水率 62.8%)から 0.034 kg(含水率 8.3%)まで減少する.これより,粒子径を一定
とした場合の乾燥後の褐炭粒子の計算上の見掛け密度 ρpcl は次式より 459 kg/m3 とな
る.ここで,添字の p と cl は,それぞれ見掛け密度と計算値であることを示す.
 pcl  (0.372  0.034) / 0.000885  459 [ kg/m 3 ]
(2-3)
ところが,実際の見掛け密度 ρp は 808 kg/m3 であった.その原因としては Figure
2-14 に模式的に示すように,乾燥するにしたがって褐炭粒子内に細孔が形成されるだ
けでなく,粒子そのものが収縮し体積が減少したためと考えられる.含水率 62.8%の褐
炭粒子では,真密度と見掛け密度がほぼ同じ値であることから,細孔は水で塞がって
いると考えられる.乾燥した褐炭粒子の光学顕微鏡写真を Figure 2-15 に示すが,水
分が乾燥した後に出来たと考えられる多数の細孔が観察された.
Coal
Coal
Shrinking
Water
(a) Wet coal
(b) Dry coal
Fig. 2-14 Conceptual figure of wet and dried brown coal particle
29
50μm
Fig. 2-15 Microscopic picture of brown coal particle
これをもとに,計算上の見掛け密度と実際の見掛け密度の比から,Eq. (2-4)により乾
燥による体積収縮比 Rv を求めることができる.さらにその 3 乗根をとることにより,粒径
収縮比 Rd を求めることが出来る.
Rv   pcl /  p  459 / 808 0.568
(2-4)
Rd  3 R v  0.828
(2-5)
この体積収縮比 Rv=0.568 は,Norinaga (2011) の報告に記載された 0.55 とも良く一致
していた.
一方,褐炭粒子の含水率が多い範囲では,付着性が発現する.この特性を定量的
に評価する方法として,安息角に着目した.A, B, C 炭について,質量基準の 50%径
0.3 mm 程度に粗粉砕した試料(Sml 粒子に相当)の安息角を,パウダーテスター
(PT-X,ホソカワミクロン)を使用して測定した.このときの褐炭中含水率と安息角の関
係を Figure 2-16 に示す.いずれの炭種でも,安息角は含水率 62%から 30%までは急
速に減少したが,含水率 30%未満では 32.5°でほぼ一定であった.この傾向は,流動
化開始速度の傾向とも良く一致していた.
30
Angle of repose θp [deg.]
60
50
40
30
A coal
B coal
C coal
20
10
0
0
20
40
60
Moisture content m [wet%]
80
Fig. 2-16 Relationship between moisture content and angle of repose
31
2.4 考 察
2.4.1 含水率の影響
含水率に対する粒径と見掛け密度の関係を定式化する.褐炭粒子は含水率の減
少により収縮して体積が減少するが,体積収縮比 Rv は乾燥率 η の 1 次関数と仮定し
た.添字の d は,含水率 10%程度の乾燥粒子で測定した値であることを示す.
Rv 1 
1  Rvd
d

(2-6)
含水率 8.3%の褐炭粒子においては,乾燥率 ηd = 94.6%で体積収縮比 Rvd = 0.568,
また湿潤褐炭粒子の含水率は 62.8%であったことから,次式が得られる.
1  0.568
 1  0.00457 
94.6
Rv 1 
 100  (1 
m
62.8
59.2  m
/
)  100 
100  m
100  m 1  62.8
(2-7)
(2-8)
これより,含水率により補正した褐炭粒子の粒径 dpm は次式で与えられる.
d pm 
3
Rv
3
Rvd
 d pd 
3
Rv
0.828
 d pd
(2-9)
また,含水率により補正した粒子見掛け密度 ρpm は,乾燥前の湿潤褐炭粒子 1 kg
の体積 Vp0 = 0.000885 m3,石炭質量 wc0 = 0.372 kg,水分質量 ww0 = 0.628 kg,乾燥
率 η により,次式で与えられる.


 pm  (wc0  ww0  (1 
 
) / V0 / Rv
100 
 

) / 0.000885 / Rv
 0.372  0.628  (1 
100 

(2-10)
(2-11)
このように含水率で補正した褐炭粒子の粒径 dpm と粒子見掛け密度 ρpm を用いて,
Wen and Yu (1966) の式 により流動化開始速度 Umf W を計算した.
U mf W 
Remf 
μf Remf
d pm  f
(2-12)
33.7 2  0.0408 Ar  33.7
32
(2-13)
d pm  f (  pm   f ) g
3
Ar 
μf
(2-14)
2
ここで,Remf,Ar はレイノルズ数,アルキメデス数,uf,ρf は流動化ガスの粘度と密度
である.この流動化開始速度の計算値 Umf W と,A 炭の Sml 粒子での試験結果の比較
を Figure 2-17 に示す.ここで,添字の(area) と(mass) は,褐炭粒子の粒径 dpm にそ
Fluidization velocity Umf, Umfc [m/s]
Calculated fluidization velocity Umf W [m/s]
れぞれ面積平均径,質量平均径を使用した計算値であることを示す.
0.25
● Umfc
Umfc
▲ Umf
Umf
0.20
(mass)
Umf W(mass)
○ UmfW
(area)
Umf W(area)
□ UmfW
0.15
0.10
0.05
0.00
0
20
40
60
Moisture content m [%]
80
Fig. 2-17 Effect of moisture content on fluidization velocities
(A coal, Sml particles)
Figure 2-17 より,流動化開始速度(Umf)の試験結果に対して,質量基準の 50%径
を用いて計算した Umf W(mass) は 30%程度小さいものの,比較的良く一致した.ところが,
面積平均径を用いて計算した Umf W(area) は,Umf W(mass) に比べて半分以下の値であり,
試験結果との差が大きかった.一方,完全流動化開始速度(Umfc)の試験結果に対し
ては,質量平均径を用いて計算した Umf W(mass)でも約半分の値であり,含水率 30 %以
上の範囲ではその差がさらに大きくなった.
実機流動層乾燥装置の設計においては,完全流動化開始速度(Umfc)の把握が重
要である.そのため,Umfc を計算により算出する方法について検討した.
計算値が試験結果よりも小さくなる原因として,Figure 2-2 に示すように,実際の褐
炭粒子は 1 mm 以上の粒子を 8%程度含み,0.1 mm より小さい粒子も 16%含む幅広
33
い粒度分布を有していることが考えられる.試験結果は粒径の大きい粒子の影響をよ
り強く受けたと考えられ,面積平均径を用いると粒径の小さい粒子の寄与を過大評価
したと考えられる.ただし,質量平均径を用いた計算値でも,試験結果より 30%程度小
さい値となった.そこで,Wen and Yu の式において,粒子径を質量基準の 50%径(0.27
mm)から,60%径(0.33 mm),70%径(0.41 mm)と変化させて計算した.結果を Figure
2-18 に示すが,Sml 粒子では,70%径(0.41 mm)を使用することにより,含水率 30%未
満の範囲において,計算値は試験結果と良く一致した.
ところが,含水率 30%以上の範囲では試験結果との差が大きなっており,含水率
62%では試験結果は計算値の約 2 倍であった.その原因として,含水率が多い場合,
粒子が凝集して見かけ上の粒径が大きくなるとともに,粒子の付着力,摩擦力が増加
し,流動化に必要なエネルギーが大きくなったことが考えられる.
Complete fluidization vel. Umfc [m/s]
0.25
●Umfc
Umfc
UmfW
dia.)
□ Umf W (50%
(70% dia.)
△UmfW
Umf W (60%
dia.)
(60% dia.)
○UmfW
Umf W (70%
dia.)
(50% dia.)
0.20
0.15
0.10
0.05
0.00
0
20
40
60
Moisture content m [%]
80
Fig. 2-18 Complete fluidization velocity Umfc using three kinds of
representative particle diameter (A coal, Sml particles)
この現象を定量化する方法として,安息角に着目した.Figure 2-16 の結果をもとに,
A 炭における安息角を,含水率 m の関数として次のように近似した.
 p  32.5
(m  30 %)
(2-15)
 p  32.09  0.2338m  0.0189 m 2  0.0006 m3  0.000007m 4
( m  30 %)
34
(2-16)
粒径として質量基準の 70%径を使用して計算した Umf W を,安息角を使用して次式
のように補正する.ここで,添字の* は安息角で補正した流動化開始速度,α は安息
角補正指数を示す.

U mf W  ( p / 32.5)  Umf W
(2-17)
α =1.5 として計算した結果を同じく Figure 2-19 に示すが,含水率 30%以上の範囲
Complete fluidization vel. Umfc [m/s]
Calculated fluidization vel. Umf W [m/s]
においても,計算値と試験結果が良く一致した.
0.25
●
◇
□
△
○
0.20
0.15
Umfc
Umf W*
Umf W (70% dia.)
Umf W (60% dia.)
Umf W (50% dia.)
0.10
0.05
0.00
0
20
40
60
Moisture content m [%]
80
Fig. 2-19 Complete fluidization velocity Umfc with and without the correction factor
in terms of angle of repose (A coal, Sml particles)
以上より,幅広い粒度分布を持つ褐炭粒子の完全流動化開始速度は,①粒径と密
度を含水率により補正し,②質量基準の 70%径を代表粒径として Wen and Yu の式に
より計算し,③付着力の影響を安息角により補正する ことにより,精度よく算出するこ
とが可能であることが明らかとなった.
この方法は,A 炭から作成した Sml 粒子の試料において成立するが,粒径(Mid 粒
子,Lrg 粒子)や炭種(B 炭,C 炭)が異なる場合への適用性について,2.4.2 項と 2.4.3
項において考察する.
35
2.4.2 粒径の影響
A 炭における Figure 2-3 に示す 3 種類の褐炭粒子(Sml,Mid,Lrg)について,代
表粒径を質量基準の 70%径とした場合の計算値と試験結果の比較を Figure 2-20 に
示す.含水率が 30%未満の範囲において,Sml 粒子では計算値と試験結果が良く一
Complete fluidization velocity Umfc [m/s]
致していたが,Mid 粒子と Lrg 粒子では計算値が試験結果よりも大きかった.
0.6
dSml
(Sml)
(dpm70)
pm70
dMid
(Mid)
pm70(dpm70)
Lrg
(dpm70)
□d
pm70 (Lrg)
○
△
0.5
●Sml
dpme
(Sml)
(dpme)
UmfW= Umfc
▲Mid
dpme(dpme)
(Mid)
(dpme)
■Lrg
dpme
(Lrg)
moisture content < 30%
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
Calculated fluidization velocity UmfW [m/s]
Fig. 2-20 Comparison between test results and calculated results using dpm70 and dpme
for representative diameter (dpmr) in Eq. (2-12)
これより,Mid 粒子と Lrg 粒子では代表粒径が過大に評価されていると考えられる
ため,質量基準の 70%径に替わる代表粒径の選定について検討した.粉砕された石
炭などの粒度分布は,一般的に Rosin - Rammler (1933)の式で記述される.

  d  n 


D  100  1  exp   pm  


  d pme  



(2-18)
ここで,D は通過質量の百分率,dpm は含水率補正された褐炭粒子の粒径,dpme は
粒径パラメータ(質量基準で 63.2%通過粒径),n は粒度分布パラメータであり,n が大
きいほど Rosin – Rammler 分布図において粒度分布の傾きが大きいことを意味する.
3 種類の褐炭粒子に対する dpme と,20%粒径と 80%粒径の間の傾きから求めた n を
Table 2-3 に示す.Sml 粒子では dpme は dpm70 とほぼ同じであるが,Mid 粒子と Lrg 粒
36
子では dpme は dpm70 よりも小さく,また Sml 粒子に比べて n が小さいことが分かる.これ
は,Figure 2-3 からも分かるように,Mid 粒子と Lrg 粒子では粒度分布の傾きが小さい
ためである.
Table 2-3 Parameters of Rosin-Rammler particle size distribution
Particle
Sml
Mid
Lrg
70% Passing diameter
d pm70 [mm]
0.43
1.01
1.55
Parameter of diameter
d pme [mm]
0.40
0.79
1.18
n [-]
1.24
0.83
0.82
Parameter of inclination
この dpme を代表粒径として,Wen and Yu の式により計算した完全流動化開始速度を
Figure 2-20 に示す.dpme を代表粒径とすると,含水率 30%未満の範囲で,Sml 粒子で
は試験結果よりもやや小さく,Mid 粒子と Lrg 粒子では試験結果よりもやや大きい値と
なった.この違いは粒度分布パラメータ n が,Sml 粒子では大きく,Mid 粒子と Lrg 粒
子では小さいことが影響していると考えられる.
これより,粒度分布パラメータ n を考慮して代表粒径 dpmr を与える方法として,基準と
する n0 との偏差に係数 b を乗じて,粒径パラメータ dpme を補正した.
d pm r  (1  (n  n0 )  b)  d pme
(2-19)
n0 と b は,3 種類の褐炭粒子の含水率 30%未満の範囲において,試験結果である
Umfc と,Eq. (2-19)よる代表粒径を使用して計算した UmfW との差の 2 乗が最小となるよ
うに決定すると,1.09,0.66 であった.その結果を Figure 2-21 に示すが,Umfc と UmfW
は良く一致したが,含水率 30%以上ではその差が大きくなった.その原因は,Figure
2-16 の水分と安息角の関係に示されるように,水分により付着性が増加し,流動化の
ためのエネルギーが増加したためである.この付着性の Umfc に与える影響は,Figure
2-12 に示すように 3 種類の褐炭粒子でほぼ同じであると考えられる.
そこで,2.4.1 項で考察したように,A 炭の Sml 粒子で測定した安息角を定式化した
Eqs. (2-15),(2-16)を使用して,Umf W を Eq. (2-17)で補正する.安息角補正指数 α は,
3 種類の褐炭粒子の含水率 30%未満の範囲において,試験結果である Umfc と安息角
37
補正を加えた計算値である Umf W*との差の 2 乗が最小となるように決定すると,1.03 で
あった.その結果を Figure 2-21 に示すが,良く一致しており,この粒度分布の補正の
Complete fluidization velocity Umfc [m/s]
考え方が妥当であると考えられる.
0.6
moisture content < 30%
UmfW= Umfc
0.5
0.4
0.3
0.2
dSml
(Sml)
pmr (dpmr)
dMid
(Mid)
pmr (dpmr)
□ dLrg
(Lrg)
pmr (dpmr)
○
0.1
△
● dpmr
+ θp
Sml(Sml)
(dpmr+θp)
▲ dpmr
+ θp
Mid(Mid)
(dpmr+θp)
■ dpmr
+ θp
Lrg(Lrg)
(dpmr+θp)
0.0
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
Calculated fluidization velocity UmfW [m/s]
Fig. 2-21 Comparison between Umfc and UmfW using dpmr given by Eq. (2-19)
with and without the correction by an angle of repose
2.3.3 炭種の影響
B 炭と C 炭に対する Rosin-Rammler 分布の粒径パラメータ(質量基準で 63.2%通過
粒径)dpme と,20%粒径と 80%粒径の間の傾きから求めた粒度分布パラメータ n を
Table 2-4 に示す.
Table 2-4 Parameters of Rosin-Rammler particle size distribution
for B coal and C coal
Particle
B coal
C coal
70% Passing diameter
d pm70 [mm]
1.0
0.60
Parameter of diameter
d pme [mm]
0.87
0.41
n [-]
1.35
0.81
Parameter of inclination
38
これらのパラメータをもとに, Eq. (2-19) により代表粒径を与えて流動化開始速度
UmfW を計算し,さらに Eq. (2-17)により安息角の補正を加えた流動化開始速度 Umf W*
を求めた.この Umf
*
W と試験で得られた完全流動化開始速度
Umfc の比較を Figure
Complete fluidization velocity Umfc [m/s]
2-22 に示す.
0.7
UmfW= Umfc
A coal
B coal
C coal
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
Calculated fuidization valocity UmfW [m/s]
Fig. 2-22 Comparison between Umfc and UmfW using dpmr given by Eq. (2-19)
with the correction by an angle of repose for 3 kinds of coal
Figure 2-22 より,B 炭では試験結果と試験結果と計算値は比較的良く一致していた
が,C 炭では試験結果は計算値に比べて 1.5 倍程度大きかった.その原因として,C
炭には腐った木片のような異物が多く含まれており,これが粒子間の摩擦を大きくし,
流動化のためのエネルギーを大きくしたと考えられる.このような褐炭では,Eq. (2-12)
の完全流動化開始速度の計算式に,さらに粒子の形状を考慮した補正が必要である.
その補正係数 k は個別の褐炭に対して基礎試験により求める必要があり,今回の B 炭,
C 炭では 1.0,C 炭では 1.5 であった.

U mf W  k  U mf W

(2-20)
このような褐炭粒子の形状と補正係数の関連は,今後の研究課題である.
39
2.5 まとめ
幅広い粒度分布を持ち付着性のある湿潤褐炭粒子において,粒子中の水分が流
動特性に与える影響を把握するために,窒素を流動化ガスとする可視化コールド試験
を実施した.その結果,次のことが明らかとなった.
(1) ガス速度を十分に大きくすることにより,水分を多く含む湿潤褐炭粒子であっても,
流動化が可能であった.ただし,流動化ガス速度の小さい範囲では,固定層が上
下に分かれて上部の層が浮遊する Lifting,固定層の一部からガスが吹き抜ける
Channeling が発生した.
(2) 従来の成書で定義される流動化開始速度においては,微粒子が上部で流動化す
る一方,粗粒子は下部で固定層となる Segregation が発生した.さらにガス速度が
大きくなると底部に偏析した粗粒も流動化を開始したが,このガス速度を完全流動
化開始速度と定義した.
(3) 完全流動化開始速度を推算する方法として,褐炭粒子の粒径と密度を含水率の
関数として補正し,代表粒径を Rosin-Rammler の式におけるパラメータを使用して
定義し,Wen and Yu(1966)の式により計算する方法を提案した.この計算値は,含
水率 30%未満の範囲では,試験における完全流動化開始速度と良く一致した.
(4) 褐炭中の含水率が 30 %以上の範囲では,粒子の付着性が発現し,流動性が低下
して完全流動化開始速度が大きくなり,計算値と試験結果と計算値の差が大きくな
った.これに対し,付着性の影響を定量化する指標として安息角を使用し,安息角
の比により計算値を補正すると,試験結果と良く一致した.
(5) ただし,褐炭の種類によっては計算値よりも試験結果が 1.5 倍程度大きくなった.
褐炭中に腐った木片のような異物が多く含まれており,これが粒子間の摩擦を大き
くし,流動化のためのエネルギーを大きくしたと考えられる.このような褐炭では,
粒子の形状を考慮した補正も必要であるが,現時点では補正係数を粒子の基礎
物性から推定することは難しく,可視化コールド試験により求める必要がある.
以 上
40
記 号
Ar
= Archimedes number
[-]
b
= correction coefficient for Eq. (2-19)
[-]
dp
= particle size
[m]
dpd
= particle size of dry coal
[m]
dpm
= particle size of wet coal with moisture content
[m]
dpme
= particle size parameter for Eq. (2-18)
[m]
(36.8 % residue = 63.2 % passing diameter)
dpmr
= representative particle size
[m]
D
= quantity passing of sieve openings
[%]
g
= gravitational accelaration = 9.8 m/s2
k
= correction coefficient for Eq. (2-20)
[-]
m
= moisture content in particle (wet basis)
[%]
n
= distribution parameter for Eq. (2-18)
[-]
n0
= standard distribution parameter for Eq. (2-18)
[-]
Rv
= shrinking ratio of volume
[-]
Rd
= shrinking ratio of diameter
[-]
Rvd
= shrinking ratio of volume of dry coal
[-]
Remf
= Reynolds number
[-]
Umf
= minimum fluidization velocity
[m/s]
Umfc
= complete fluidization velocity
[m/s]
Umf W
= fluidization velocity calculated by
the equation of Wen and Yu
[m/s]
Umix
= complete mixing fluidization velocity
[m/s]
Vp
= volume of particle
[m3]
Vpc
= volune of coal fraction in particle
[m3]
Vpw
= volume of water fraction in particle
[m3]
wc
= mass of coal fraction in particle
[kg]
ww
= mass of water fraction in particle
[kg]
41
α
= correction exponent for angle of repose
[-]
η
= drying percent
[%]
μf
= viscosity of fluidizing gas
[Pa s]
θp
= angle of repose
[deg]
ρc
= true density of dry coal
[kg/m3]
ρf
= density of fluidizing gas
[kg/m3]
ρpca
= calculated particle apparent density
[kg/m3]
ρpcl
= calculated particle apparent density
[kg/m3]
ρpm
= particle apparent density of wet coal
[kg/m3]
ρt
= particle true density of wet coal
[kg/m3]
ρw
= density of water
[kg/m3]
<Subscripts>
c
= coal
f
= fluidizing gas
p
= particle
w
= water
42
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44
第 3 章 褐炭粒子の乾燥特性
褐炭粒子が水蒸気中で乾燥する場合,粒子内部で発生した水蒸気が周囲に拡散
するときの拡散抵抗は無い.そのため,定率乾燥期間では粒子温度は「周囲の水蒸
気圧=粒子内水分の飽和水蒸気圧」となる温度となり,粒子への伝熱量で乾燥速度
が支配される.減率乾燥期間になると,粒子内水分の飽和蒸気圧が徐々に低下する
ため,水分の蒸発に消費されなかった熱により,「周囲の水蒸気圧=粒子内水分の飽
和水蒸気圧」となるまで粒子温度が上昇していく.多段式の蒸気流動層乾燥装置では,
褐炭が投入される第 1 室から末端の最終室まで含水率が段階的に低下する.その設
計においては,各室の含水率に応じた褐炭粒子の乾燥特性を予測する必要があり,
定率乾燥から減率乾燥に移行する限界含水率,及び流動層温度と平衡含水率の関
係を把握する必要である.
褐炭は炭化度が低いため親水性の官能基が存在し,また細孔も多く存在するため,
水分の存在形態が複雑であり,蒸発しにくい順に,官能基と強く化学結合した単層水
( monolayer),単層水と水素結合した多層水( multilayer),水素結合していない細孔
内 の 毛 細 管 凝 縮 水 ( capillary ) , 拘 束 さ れ て い な い 自 由 水 ( bulk ) に 分 類 さ れ る
(Allardice et al., 1971).その測定方法としては,30℃の空気中で相対湿度 15%,52%,
92%における平衡水分から測定する方法が提案されており,オーストラリアのビクトリア
褐炭では,乾炭基準で単層水 8%-dry,多層水 9.5%-dry,毛細管凝縮水 55%-dry,バ
ルク水 128%-dry という報告がある(Allardice, 1971).このほか,DSC(示差走査熱量
計)により水の凝固温度と熱量から測定する方法,NMR(核磁気共鳴法)により 1H の
運動状態から測定する方法も提案されている( Norinaga et al., 1998; Norinaga,
2011).
このような褐炭中水分の乾燥特性として,Allardice et al. (1971) は,60℃以下の空
気中において,温度と湿度を変化させた場合の平衡水分とともに,水分の脱着・吸着
の特性,水分の減少に伴う潜熱の上昇について報告した. Potter et al. (1983) ,
Schmalfeld et al. (1996) は,蒸気流動層乾燥を対象にして,常圧の水蒸気中におけ
る過熱温度と平衡水分の関係について報告した.これらは,静的な平衡状態における
褐炭に含有される水分に関する報告である.乾燥装置における褐炭の乾燥速度につ
いては,Kim et al. (2013) が空気流動層乾燥装置において温度,相対湿度,流動化
45
ガス速度を変化させた試験を実施し,乾燥速度がこれらのパラメータと乾燥率を用い
た多項式により記述できることを示した.ところが,蒸気流動層乾燥においては,粒子
内部で蒸発した水蒸気の分子拡散は律速とはならないため,乾燥速度は入熱量支配
であり,乾燥特性が空気乾燥とは異なると考えられる.
本章では,蒸気流動層乾燥における褐炭の乾燥速度,限界含水率,平衡含水率を,
褐炭中水分の乾燥特性と関連付けて把握することを目的とする.そのため,バッチ式
の小型基礎試験装置により,褐炭の種類と粒径,流動化ガスである水蒸気の温度を
変化させる試験を実施するとともに,得られたデータをもとに乾燥モデルを作成し,褐
炭の乾燥特性を定量的に予測する手法を提案した.
46
3.1 試験方法
3.1.1 バッチ式小型流動層乾燥基礎試験装置
本試験装置は,Figure 3-1 に示すように,純水を供給して水蒸気を発生する部分,
水蒸気を流動化ガスとして褐炭粒子を流動層乾燥する部分,発生した水蒸気を凝縮
する部分で構成され,各部に温度,圧力,重量を測定するための計器を取り付けた.
試料ホルダーは,材質はアルミニウムで,内径,高さ,肉厚はそれぞれ 38 mm,300
mm,1.5 mm で,重量は 380 g である.試料ホルダーはフレキシブルホースで流動化
ガスの供給・排出系統に接続し,電子天秤で吊り下げ,重量変化を連続測定した.試
料ホルダーには,分散板上に約 90 mm の高さまで試料を投入して,水蒸気により流動
化して乾燥した.分散板には,6.5 mm ピッチの千鳥配置で直径 0.8 mm の穴を 19 個
開けた多孔板を用い,水蒸気が一様に流れるようにした.このとき,分散板上 15 mm,
50 mm,90 mm,150 mm の位置に熱電対を設置し,温度を計測した.これらの試料ホ
ルダーを含めた流動化ガス系統の全体を,供給する水蒸気と同じ温度に設定した恒
温槽に設置した.
また,水蒸気発生部に供給した純水の重量と,水蒸気凝縮部で凝縮した水の重量
を測定した.
Injection pump
P
Electric
heater
Supply
water
bottle
Buffer
tank
Sample
holder
300 mm
T
38 mm
Distributor
Condensor
T
N2
Flow meter
Cooling
water
T
T
F
F : Gas flow
T : Temperature
P : Pressure
W : Weight
Electric
W balance
T
P
Bypass line
Thermostat chamber
Fig. 3-1 Basic test equipment for steam fluidized bed drying
47
Condensate
water bottle
Electric
W balance
3.1.2 供試石炭
質量基準の全水分が湿炭基準で約 62%-wet,乾炭基準で約 160%-dry の褐炭 3 種
類を使用した.その分析結果を Table 3-1 に示す.含水率の表示方法には湿炭基準と
乾炭基準があるが,本章における含水率は,特に断らない限り乾炭基準であり,%-dry
で表示する.
Table 3-1 Analysis results of brown coal used in basic tests
Total moisture
(as received)
Proximate analysis
air dried at 35℃
A coal
B coal
C coal
wet base
[ %-wet ]
62.1
62.8
61.3
dry base
[ %-dry ]
164
169
158
Inherent moisture
[%]
24.9
25.0
16.8
Fixed carbon
[%]
34.9
33.1
31.7
Voloatile matter
[%]
39.4
40.2
43.4
Ash
[%]
0.8
1.7
8.1
Total
[%]
100
100
100
*) Total moisture: measured by drying in air at 107℃ (JIS M8812)
Inherent moisture: measured by drying in air at 107℃ for the sample of
air dried at 35℃ (JIS M8811, 8812)
これらの褐炭を衝撃型の粉砕機で粗粉砕し,篩い分けにより 0.25 mm(0.21~0.35
mm),0.5 mm(0.42~0.59 mm),1 mm(0.84~1.2 mm)の 3 種類の粒度に調整した.
これらの試料を,試料ホルダーにおける初期の流動化を容易とするために,含水率
138%-dry (58%-wet)程度に予備乾燥して使用した.
3.1.3 流動化蒸気
流動化蒸気は,褐炭粒子の蒸発用熱源にもなっており,温度を 110~180℃の範囲
で変化させた.実機流動層乾燥装置における加熱用蒸気の温度は 130~180℃であ
るため,この装置における流動化蒸気の温度は 160℃を基準とした.
褐炭粒子が粗粉まで含めて流動化を開始する完全流動化開始速度は,第 2 章で
48
提案した方法で求めた.粒径と密度を含水率で補正し,Rosin-Rammler 分布から代表
径を決めて Wen and Yu (1966) の式に代入して計算し,さらに付着性の影響を安息角
により補正することにより求めた.流動化蒸気の温度が 160℃のとき,含水率 138%-dry
で粒径 0.25 mm , 0.5 mm , 1 mm の褐炭粒子に対する完全流動化開始速度は
0.04 m/s,0.16 m/s,0.50 m/s となる.したがって,流動化蒸気の速度は 0.06 m/s,0.25
m/s,0.50 m/s として試験を実施した.これらは,実機乾燥装置での流動化蒸気の速度
と同じ範囲にある.
3.1.4 試験方法
褐炭試料 50 g を秤量し,試料ホルダーに充填した.このときの層高は約 90 mm とな
った.まず恒温槽を所定の温度に設定するとともに,基礎試験装置の系統内に加熱し
た窒素を試料ホルダーのバイパスラインに供給して加温した.次に系統が所定の温度
に達したことを確認後,試料ホルダーの出口側を開放した状態で恒温槽に設置し,熱
電対とフレキシブルホースを取り付け電子天秤で吊り下げた.試料ホルダー側面から
の伝熱による加熱により内部の試料温度が 100℃に達したことを確認した後,試料ホ
ルダーに水蒸気の供給を開始した.褐炭粒子は水蒸気により流動化し,過熱水蒸気
からの顕熱と試料ホルダー側面からの伝熱により,徐々に水分が蒸発して乾燥が進行
した.乾燥の進行に伴って褐炭粒子の温度が上昇し,やがて供給する水蒸気と同じ
温度になり,その時点で試験を終了した.
試料ホルダーの重量変化から得られた水分蒸発量①と,試験終了後に,試料ホル
ダーから試料を取り出して重量を測定し初期の重量との差から求めた水分蒸発量②,
凝縮器で凝縮した水の量と蒸気発生器に供給した水の量の差から得られた水分蒸発
量③を比較して,これらの差が±3%以内であることを確認した.これにより,水分の蒸
発速度と平衡含水率は,±3%の精度で測定できたと考えられる.
3.1.5 乾燥速度の算出
測定した水分蒸発量のうち,試料ホルダーの重量変化から得られた水分蒸発量①
が,経時的な変化を直接に精度良く測定することに適しているため,乾燥速度の算出
に使用した.まず,時間 t における乾炭基準の含水率 m は Eq.(3-1)で与えられる.
49
m  100 
Mw
Ma
(3-1)
ここで,Ma,Mw は石炭と水分の質量であり,m を微分することにより乾燥速度 r*(後
述する補正を加えるので,補正前の乾燥速度を r*とした)が得られる.
r 
dm 100 dM w


dt M a dt
(3-2)
充填する褐炭試料の質量は 50 g としたが,初期含水率にはバラツキがあり Ma には
バラツキがある.一方,後述するように水蒸気乾燥における蒸発速度は熱供給速度に
依存し,熱供給速度は粒子充填量の影響をあまり受けない.そのため,同一の条件で
試験を実施すると水分の蒸発速度は同一となるが,Ma のバラツキによって乾燥速度 r*
にはバラツキが発生する.この影響を無くすために,含水率 138%-dry での石炭質量
Ma=21 g を基準として,乾燥速度 r*に Eq.(3-3)の補正を加えた.
r
M a  100 dM w
r 

21
21 dt
(3-3)
50
3.2 試験結果
3.2.1 温度変化
B 炭で粒径 0.5 mm,流動化蒸気温度(=恒温槽内温度)160℃,空塔速度 0.25 m/s
における各部の温度変化を Figure 3-2 に示す.試料ホルダーを恒温槽に設置した時
点を t = 0 s とした.
200
Inlet temp.
Temperature T [℃]
Freeboard temp.
150
100
Bed temp.
50
Start of fluidization
0
0
1000
2000
3000
Time t [s]
4000
5000
Fig. 3-2 Transition of temperature in the sample holder
(B coal, dp=0.5 mm, Ti=160℃)
試料ホルダーを 160℃に設定した恒温槽に設置して通気せずに静置すると,試料
ホルダーの側面からの伝熱により各部の温度が徐々に上昇し,試料ホルダー内褐炭
の温度が 100℃に達し,さらに試料ホルダーの入口とフリーボード部の温度が 130℃に
なった.含水率の高い褐炭が充填された部分では水が沸点に達して 100℃で飽和し
た一方,フリーボード,試料ホルダーの入口は水が存在しないために,恒温槽内温度
に近くなったと考えられる.その後 t =1 600 s で,160℃の流動化蒸気の供給を開始し
た.流動化蒸気の供給を開始すると,直ぐに試料ホルダー入口温度は 160℃近くに上
昇する一方,流動層とフリーボード部の温度は 100℃まで低下し,安定した状態となっ
た.これは,ホルダー内で褐炭粒子が流動化し,流動化蒸気と安定した熱交換が行わ
れ,フリーボードには飽和蒸気が流入していることを示している.
51
流動化蒸気供給開始後 1 000 s 程度経過した,およそ t =2 700 s から流動層温度が
上昇を開始し,S 字カーブを描きながら t =4 000 s を越えた近傍から試料ホルダー入
口温度と同じ 160℃となり静定した.
3.2.2 乾燥特性
Figure 3-2 の条件(B 炭で粒径 0.5 mm,流動化蒸気温度 160℃)における褐炭粒子
の質量と含水率の経時的変化を Figure 3-3 に示す.
Mass of wet brown coal M [g]
Moisture content m [%-dry]
200
Start of fluidization
150
Moisture content
100
Mass
50
0
0
1000
2000
3000
4000
5000
Time t [s]
Fig. 3-3 Transition of weight and moisture content of brown coal
(B coal, dp=0.5 mm, Ti=160℃)
流動化蒸気を供給する前の予熱期間においても,褐炭粒子の温度が 100℃となっ
ていたため水分が蒸発しており,質量と含水率の減少が見られた.t =1 600 s に流動
化蒸気を供給すると直ぐに定率乾燥となり,およそ t =2 700 s から減率乾燥が始まり,
およそ t =4 000 s で平衡に達した.そのときの平衡含水率は 1.7%-dry であった.
含水率を時間で微分すると乾燥速度が得られるが,このときの含水率と乾燥速度の
関係を Figure 3-4 に示す.含水率 100%-dry から 40%-dry 付近まで定率乾燥が続い
た後,含水率が約 40%-dry より低くなると,乾燥速度が減少して減率乾燥となり,乾燥
速度は上に凸の曲線を描いた.さらに乾燥が進むと,含水率 1.7%-dry で乾燥速度が
0 となり,平衡に達した.
52
0.15
Drying rate r [%-dry/s]
Approximated by Eq. (3-4)
0.10
0.079
0.05
1.7
0.00
0
38.2
50
100
Moisture content m [ % ]
150
Fig. 3-4 Relationship between moisture content and drying rate
(B coal, dp=0.5 mm, Ti=160℃)
このような乾燥特性における限界含水率を次のように求めた.まず,含水率
100%-dry から 40%-dry の範囲で,定率乾燥速度 rk を試験結果との差の二乗が最小と
なるように決定した.次に,限界含水率以下で,減率乾燥速度 rf を含水率 m の 2 次関
数として次式で近似した.
  m  m
dm
c
rf 
 rk  1  
dt
m
m

c
  e



2



(3-4)
ここで,mc は限界含水率であり,rf と試験結果の差の二乗が最小となるように決定
した.このようにして求めた水蒸気入口温度 160℃における定率乾燥速度 rk,限界含
水率 mc は,それぞれ 0.079%-dry/s , 38.2%-dry であった.この乾燥特性曲線は,
Figure 3-4 に示す通り試験結果を良く近似できた.したがって,各試験条件における
限界含水率も,同様の方法で決定した.
ただし,限界含水率は減率乾燥を 2 次関数と仮定して得られる曲線と定率乾燥の
直線との交点の値である.この交点は 2 次関数の頂点であり,この前後での乾燥速度
の変化が小さいため,定率乾燥速度のバラツキの影響を受け易い.そのため,限界含
53
水率には,後述する試験結果のバラツキからから絶対値で±5%程度の誤差があると推
定される.
3.2.3 入口蒸気温度の影響
3 種類の石炭において,粒径を 0.5 mm として,入口蒸気温度を 110℃から 180℃ま
で変化させたときの定率乾燥速度を Figure 3-5 に,限界含水率と平衡含水率をそれ
ぞれ Figure 3-6 と Figure 3-7 に示す.流動層温度は十分な時間が経過した後には入
口蒸気温度と同じ温度で平衡に達し,そのときの含水率が平衡含水率であるので,入
口蒸気温度を平衡流動層温度とした.なお,これらの図中の点線は,3.3 節の考察に
おける計算結果を示す.
入口蒸気温度が高くなると,定率乾燥速度は大気圧での水の沸点(100℃)との差
にほぼ比例して大きくなった.限界含水率は入口蒸気温度に関わらず約 35%-dry で
一定であったが,平衡含水率は入口蒸気温度が高くなると低くなり, 115 ℃では約
10%-dry,180℃ではほぼ 0%-dry であった.
また,定率乾燥速度,限界含水率,平衡含水率とも,石炭の種類の影響は小さかっ
た.
Constant drying rate rk [%-dry/s]
0.15
A coal
B coal
C coal
0.10
Calculated results
dp=0.5 mm
Sensible heat of fed steam
0.05
Heat transfer through
sample holder wall
0.00
100
120
140
160
180
200
Fluidizing steam temperature Ti [℃]
Fig. 3-5 Influence of inlet steam temperature on constant drying rate
54
Critical moisture content mc [%-dry]
60
Typical value employed
in Eqs. (3-12) and (3-13)
50
40
30
A coal
B coal
C coal
20
10
dp=0.5 mm
0
100
120
140
160
180
200
Fluidizing steam temperature Ti [℃]
Fig. 3-6 Influence of inlet steam temperature on critical moisture content
Bed temperature Tb [℃]
200
A coal
B coal
C coal
180
160
Approximated by
Eqs. (3-12) and (3-13)
dp=0.5 mm
140
120
100
0
10
20
30
40
50
Equibrium moisture content me [%-dry]
Fig. 3-7 Relationship between equilibrium moisture content and
equilibrium bed temperature
3.2.4 粒径の影響
3 種類の石炭において,入口蒸気温度を 160℃として,粒径を 0.25 mm,0.5 mm,
1 mm と変化させたときの定率乾燥速度を Figure 3-8 に,限界含水率を Figure 3-9 に
示す.粒径が大きくなると定率乾燥速度も大きくなったが,これは粒径に応じて流動化
55
ガス速度を大きくする必要があり,温度は一定であっても流動層への入熱量が増加し
たためである.限界含水率は,粒径によらず約 35%-dry で一定であった.なお,B 炭,
dp=1 mm では,初期含水率が 160%-dry と高く,流動が不安定であった影響で限界含
水率が低かったと考えられる.
Constant drying rate rk [%-dry/s]
0.15
Calculated results
A coal
B coal
C coal
0.10
Ti=160 ℃
Sensible heat of
fed steam
0.05
Heat transfer through
sample holder wall
0.00
0.0
0.5
1.0
Particle size dp [mm]
1.5
Critical moisture content mc [%-dry]
Fig. 3-8 Influence of particle size on constant drying rate
60
Typical value employed
in Eqs. (3-12) and (3-13)
50
40
30
A coal
B coal
C coal
20
10
Unstable
fluidization
Ti=160 ℃
0
0.0
0.5
1.0
Particle size dp [mm]
1.5
Fig. 3-9 Influence of particle size on critical moisture content
56
3.3 考 察
このような蒸気流動層における褐炭粒子の乾燥現象を,粒子から蒸発した水蒸気
の拡散,粒子への蒸発熱量の伝熱,水の存在形態別の乾燥特性に分けて検討した.
さらに,これをもとに導出した計算式による結果を試験結果と比較した.
まず,粒子から蒸発した水蒸気の拡散について検討した.蒸気流動層での乾燥の
場合には,周囲の雰囲気は水蒸気であるため,乾燥により発生した水蒸気への拡散
抵抗は無いとした.基礎試験結果においても,入口蒸気温度が高くなり,あるいは粒
径が大きくなっても,限界含水率はほとんど変化しないことから,粒子内部および表面
における水蒸気の拡散の影響は小さいと考えられる.
次に,周囲の蒸気から粒子への伝熱について検討した.流動層内の粒子表面と流
体間の伝熱係数 hp は次式で与えられる(Kothari,1967).
hp 

ks
1 .3
 0.03  Re p
dp
Rep 
 Re
p
 100 
 s  us  d p
s
(3-5)
(3-6)
ここで,ks は水蒸気の熱伝導度,dp は粒子径,Rep は粒子レイノルズ数,us は流動化
蒸気速度,ρs は水蒸気密度,μs は水蒸気粘度であり,dp = 0.5mm, us =0.25 m/s とする
と,hp = 11 W/(m2・K) が得られた.一方,石炭粒子の熱伝導度は 0.25 W/(m・K)程度
であり,粒子半径を約 0.5 mm とすると粒子表面から中心までの熱伝導度/半径は 500
W/(m2・K) 程度である.Biot 数は 0.1 以下であり,粒子内の熱伝導速度に比べて表面
の伝熱速度は十分に小さく,粒子内の温度差は表面での温度差に比べて十分に小さ
く無視できると考えられる.
以上より,粒子内の水蒸気の拡散は考慮する必要が無く,また粒子内部の温度は
均一とすると,流動層全体を均一な相と見なすことが可能である.これより,ヒートバラ
ンスとして次式を与えることが出来る.
Qb  M a  C a 
Mw 
dT b
dT
dM w
 M w  Cw  b  J w 
dt
dt
dt
m
Ma
100
(3-7)
(3-8)
57
ここで,Qb は流動層に単位時間に加えられる熱量,右辺の第 1 項は石炭の温度変
化,第 2 項は水の温度変化,第 3 項は水の蒸発による熱量を表す.Ma,Mw は石炭,
水の質量,m は含水率,Tb は流動層の温度,Ca,Cw は石炭,水の比熱容量,Jw は水
の蒸発潜熱を表す.
今回の試験では,Qb は次式で与えられる.
Qb  Fs   Ti  Tb   Cs  hh  Ti  Tb   S h
(3-9)
ここで,右辺の第 1 項は流動化蒸気から与えられる熱量 Qs,第 2 項は恒温槽からホ
ルダー側面を通じて流れ込む熱量 Qh であり,Fs は水蒸気の供給量,Ti は流動化蒸気
の入口温度(=恒温槽の温度),Cs は水蒸気の定圧比熱であり,hh はホルダー側面の
総括伝熱係数,Sh はホルダーにおいて粒子が流動層に接する部分の側面積である.
ホルダー側面の総括伝熱係数 hh の算出方法は,Eq.(3-7)で dTb/dt = 0 としたときの
Qb を Eq.(3-9)に代入すると Eq.(3-10),Eq.(3-11)が得られ,これらの式に Figure 3-5 に
示される定率乾燥における値を代入する.これにより,31 W/(m2・K)が得られた.
hh 
Qh
(Ti  Tb )  S h
Qh  J w 
(3-10)
dM w
 Fs   Ti  Tb   C s
dt
(3-11)
試料ホルダー本体はアルミニウム(熱伝導度 230 W/(m・K))で,厚み 1.5mm である
ことから伝熱係数は 1.5×105 W/(m2・K) である.試料ホルダー内面と流動層の伝熱係
数は,第 4 章より 0.5mm の粒子では 200 W/(m2・K) 程度であり,総括伝熱係数が 31
W/(m2・K) であることから,外面の伝熱係数は 37 W/(m2・K) となる.この外面の伝熱
係数は,直径 41 mm の円柱の直角方向に 160℃の空気が 3.6 m/s で流れている場合
に相当するが,恒温槽内の空気流速としては妥当であり,ここで用いた総括伝熱係数
31 W/(m2・K) も妥当であると考えられる.
次に,水分の乾燥特性について検討した.褐炭中の含水率が減少するにしたがっ
て,バルク水,毛細管凝縮水,多層水,単層水の蒸発へと移行し,それに伴って水の
沸点が上昇する.そのため,含水率が低くなると流動層温度は上昇するが,その関係
を Figure 3-7 の試験結果から,最小二乗法により次式で与えた.その変曲点は,試
験における限界含水率が 30%-dry から 40%-dry の範囲にあることから 35%-dry とし,
58
初期状態である含水率 160%-dry における流動層温度は 100℃とした.
Tb 
3.34 107
 103
m  19.9 4.33
(m < 35%-dry)
(3-12)
4
 35  m 
125
(m ≥ 35%-dry)
(3-13)
Tb  104 
また Allardice et al. (1971) は,褐炭中の水分が減少するにしたがって,蒸発潜熱
Jw が純水と同じ値である 2.43 MJ/kg から 3.3 MJ/kg 程度に増加すると報告している.
B 炭は Allardice et al. (1971) が報告した褐炭と同じ産地で,初期含水率も同等で
あることから,その含水率と蒸発潜熱 Jw の関係を,流動層温度 Tb と同じく変曲点を
35%-dry として,次式で定式化した.これを図示したものが Figure 3-10 である.
J w  7 .92  10 2  m  35   2 .43  10 6 (m < 35%-dry)
(3-14)
J w  2.43  10 6
(3-15)
2
(m ≥ 35%-dry)
Heat of evaporation [MJ/kg]
3.5
3.0
2.5
2.43
35
2.0
0
20
40
60
80
Moisture content [%-dry]
Fig. 3-10 Heat of evaporation of water in brown coal
これらをもとに,乾燥速度を計算により求める方法について検討する.まず Eq.(3-7)
を含水率の変化速度について解くと,次式が与えられる.
59

dm
m
100

 dT 

 Qb  M a   C a 
 Cw   b 
dt
Jw  Ma 
100

 dt 
(3-16)
この式において, Qb を Eq.(3-9) , Tb を Eq.(3-12) と Eq.(3-13) , Jw を Eq.(3-14) と
Eq.(3-15)で与え,差分法により計算した.B 炭で粒径 0.5 mm,流動化蒸気温度 160℃
における乾燥特性について,試験結果と計算結果の比較を Figure 3-11,Figure 3-12
に示すが,良く一致した.
この計算モデルでは,基礎試験により流動層温度と水の蒸発潜熱を含水率の関数
として与え,入口蒸気の温度と供給量を与えると,乾燥速度,限界含水率,平衡含水
率が得られる.試験結果と計算結果との比較を Figure 3-12,Table 3-2 に示すが,定
率乾燥速度,限界含水率,平衡含水率はほぼ同等であり,乾燥速度全体の偏差の 2
乗の総和も試験結果の近似式と計算結果で同等であった.
200
Temperature [℃]
Tests results
150
100
Calculated
results
50
Feed start of
fluidizing steam
0
0
1000
2000
3000
Time [s]
4000
5000
Fig. 3-11 Comparison between experimental results and calculated results of
bed temperature during drying (B coal, dp=0.5 mm, Ti=160℃)
60
Drying rate r [%-dry/s]
0.15
Tests results
Calculated
results
0.10
0.05
Approximated
results
0.00
0
50
100
150
Moisture content m [ %-dry ]
Fig. 3-12 Comparison between approximated results and calculated results
of drying rate (B coal, dp=0.5 mm, Ti=160℃)
Table 3-2 Comparison between approximated results and calculated results
(B coal, dp=0.5 mm, Ti=160℃)
Items
Approximated
Calculated
Constant rate drying
[%-dry/s]
0.079
0.079
Critical moisture content
[%-dry]
38.2
35.0
Equibrium moisture content
[%-dry]
1.7
1.6
Sum of deviation
[-]
0.030
0.030
*) Sum of square of deviation of drying rate in each 10 seconds
between test results and approximated or calculated results.
他の試験条件における試験結果と計算結果についても,Figure 3-5 から Figure 3-9
に示すように,定率乾燥速度,平衡含水率は水分質量の測定精度である±3%の範囲
で一致し,減率乾燥速度の近似式の精度の影響を受ける限界含水率は±5%の範囲
で一致した.また,B 炭,粒径 0.5 mm において,入口温度を 130℃から 180℃まで変
化させたときの乾燥速度の変化を Figure 3-13 に示すが,試験結果と計算結果は良く
一致した.
61
0.15
Drying rate r [%-dry/s]
Calculated results
Ti=180 ℃
0.10
Ti=160 ℃
0.05
Ti=130 ℃
0.00
0
50
100
150
Moisture content m [ %-dry ]
Fig. 3-13 Comparison between approximated result and calculated result
at different temperatues (B coal, dp=0.5 mm)
実機流動層乾燥装置においては,流動化蒸気の温度は 110℃程度であり,乾燥熱
量は主に流動層内に設置された伝熱管に供給される絶対圧力 0.5 MPa(飽和蒸気温
度 150℃)程度の蒸気の凝縮熱により与えられる.この場合,流動層に与えられる熱量
Qb を,Eq.(3-9)の右辺の第 2 項を伝熱管からの伝熱量に置き替えれば良い.
62
3.4 まとめ
蒸気流動層乾燥における褐炭の乾燥特性を把握するために,バッチ式の小型基礎
試験装置による試験を実施した.さらに蒸気流動層における褐炭の乾燥特性をモデ
ル化して定式化し,次の結果を得た.
(1) 褐炭の初期含水率は乾炭基準で約 160%-dry であるが,そのほとんどは定率乾燥
され,限界含水率は約 35%-dry であった.平衡含水率は流動層温度によって異
なるが,115℃では 10%-dry であった.
(2) 今回試験に使用した 3 種類の褐炭では,入口蒸気温度が高くなると,大気圧での
水の沸点 100℃との差にほぼ比例して,定率乾燥速度が大きくなった.一方,褐
炭の種類,粒径が限界含水率,平衡含水率に与える影響は小さかった.流動化
ガス温度は 110℃から 180℃,粒径は 0.25 mm から 1 mm の範囲で変化させたが,
流動層乾燥装置の実用上の使用範囲をカバーしている.
(3) 褐炭の乾燥モデル化では,水蒸気中であるため拡散の影響は無視し,流動層温
度と水の蒸発潜熱を含水率の関数として与えた.その計算結果を試験結果と比
較したところ,流動層の温度変化,定率乾燥速度,減率乾燥速度,限界含水率,
平衡含水率などについて良く一致した.
63
記 号
C
= specific heat capacity
[J/(kg・K)]
d
= particle diameter
[m]
F
= feed rate
[kg/s]
h
= heat transfer coefficient
[W/(m2・K)]
J
= heat of evaporation
[J/kg]
k
= thermal conductivity
[W/(m・K)]
m
= moisture content
[%-dry]
M
= mass
[kg]
Q
= heat rate
[W]
r
= drying rate
[%-dry/s]
Re
= Reynolds number
[-]
S
= surface area
[m2]
t
= time
[s]
T
= temperature
[oC]
u
= superficial gas velocity
[m/s]
μ
= viscosity
[Pa・s]
ρ
= density
[kg/m3]
<Subscripts>
a
= coal
b
= fluidized bed
c
= critical in moisture content
e
= equilibrium in moisture content
f
= falling rate in drying
h
= sample holder
i
= inlet of sample holder
k
= constant rate in drying
64
p
= particle
s
= steam
w
= water
65
参考文献
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Fluidization Velocity”, AIChE Journal, 12, 3, 610-612 (1966)
66
第 4 章 流動層内の伝熱特性
蒸気流動層乾燥装置では,伝熱管に絶対圧力 0.5 MPa,飽和温度 150℃程度の蒸
気を供給して褐炭粒子を間接加熱し,乾燥させる(Hashimoto et al. 2011).伝熱管の
伝熱特性は,①伝熱管内面の蒸気の凝縮伝熱,②伝熱管材料の熱伝導,③伝熱管
外面と粒子との伝熱に分けられる.このうち①と②については一般的に精度良い算出
が可能であるが,③については流動層内の粒径,密度,流動状態などが複雑に関連
しており,褐炭粒子におけるこれらの影響を定量的に把握する必要がある.
流動層内の伝熱管の管外伝熱係数については,Andeen and Glicksman (1976) の
式が良く知られている.これは,流動層内の水平伝熱管群に対して,0.5 mm 前後の 3
種類の砂を用いて,流動層の層高,分散板の目開き,流動化ガス速度などを変化さ
せ,管外伝熱係数の実験式を導出している.Fukusako et al. (1985) は,流動層内の
水平伝熱管群に対して,0.07 mm から 1.145 mm の 5 種類のガラスビーズを用いて,
伝熱管の径とピッチ,流動化ガス速度を変化させ,これらが管外伝熱係数に与える影
響を把握し,管外伝熱係数を最大とする流動化ガス速度の実験式を提案している.
Irhan et al. (1998) は,流動層内の水平伝熱管群に対して,0.42 mm のガラスビーズを
用いて,流動化空気の相対湿度を変化させて粒子の付着性を変化させ,流動状態の
変化を表す指標であるチャネリング指数と管外伝熱係数との相関性を定式化した.
Petrie et al. (1968)らは,約 0.5 mm の砂を用いて,伝熱管に取り付けるフィンの間隔と
流動化ガス速度を変化させ,伝熱管からの伝熱量は,粒径と流動化ガス速度の影響
を受け,最大で 5 倍となることを示した.ところが,蒸気流動層乾燥に使用される褐炭
のように,幅広い粒度分布を有し,付着性のある湿潤粒子に対する伝熱に関する報告
は見られない.
本章では,幅広い粒度分布を有する褐炭粒子に対する流動層内伝熱管の伝熱特
性を把握するとともに,伝熱管にフィンを取り付けた場合の管外伝熱係数への影響を
把握することを目的とする.そのため,可視化コールド流動層伝熱基礎試験装置によ
り,褐炭粒子の水分と粒径,流動化ガス速度,伝熱管のピッチを変化させて,管外伝
熱係数への影響を把握した.また,フィンの間隔を変化させて管外伝熱係数への影響
を把握した.
67
4.1 試験方法
4.1.1 可視化コールド流動層伝熱基礎試験装置
基礎試験装置の本体である可視化コールド部と流動化ガスの供給・排出系統を
Figure 4-1 に示す.可視化コールド部は幅 500 mm,奥行き 160 mm,高さ 1 500 mm
であり,側面はアクリル製として内部観察を可能とし,流動化時の層高が約 400 mm と
なるように褐炭粒子を投入して試験を実施した.流動層内には,水平方向 3 列×高さ
方向 2 行で合計 6 個の熱電対と,高さ方向 3 行の圧力計を設置した.
流動化ガスは窒素ガスであり,液体窒素タンクから気化器を通して大気温度で供給
し,流動化ガス速度が所定の値となるように流量を制御した.可視化コールド部から排
出された窒素ガスはバグフィルタにより粉じんを取り除いた後に大気放出した.
Bag filter
Transparent cold model
N2
Wind box
T
×6 Points
P
×3 Points
T
Water tank
P
Tubes
Distributor
P
T
Water
Circulation pump
160 mm
0
Electric heater
Fig. 4-1 Transparent cold model test equipment
4.1.2 伝熱管の配置とフィン
外径 25 mm のアクリル製の円管を,Figure 4-2 (a) に示すように千鳥配置として模
擬伝熱管群とし,垂直,水平方向のピッチを変化させた.伝熱管群のうちの 3 本は,伝
熱係数測定に用いるために SUS304 製の伝熱管で,外径 25.4mm,内径 20.4 mm,厚
み 2.5 mm のものを用いた.SUS304 製の伝熱管の位置はピッチにより多少異なるが,
分散板上約 200 mm,層の水平方向の中央と左右にそれぞれ約 100mm 離れたところ
68
254 mm
F
Control
valve
T
ab. 400 mm
Flow
meter
Water
ab. 400 mm
Tubes
1 500 mm
500 mm
に設置した.この SUS 管に約 60℃の温水を循環させ,循環水全体の温度変化により
伝熱量を測定し,管外伝熱係数を求めた.
伝熱管配置の密度を表す指標としては,Andeen and Glicksman (1976) が使用した,
水平方向ピッチに対する伝熱管の径の比であるブロック比 Rt を Eq.(4-1)で定義した.
本研究では,垂直方向ピッチも変えたため,新たに流動層の単位体積あたりの伝熱管
の外表面積である伝熱管密度 Dt を Eq.(4-2)で定義した.
Rt 
Dt 
do
ph
(4-1)
 do
(4-2)
ph pv
ここで,do は伝熱管の径,ph,pv はそれぞれ伝熱管の水平方向ピッチ,垂直方向ピ
ッチである(Figure 4-2 (a)).
ph : Horizontal pitch
do=25 mm
pv : Vertical
pitch
(a) Arrangement of tubes
wf=3 mm
pf : Fin pitch
lf=37 mm
do=25 mm
(b) Arrangement of fins
Fig. 4-2 Arrangement of heat transfer tubes and fins
また,フィンなし伝熱管とフィン付伝熱管の両方で試験を行い,フィン付伝熱管を用
いた場合では,伝熱管に取り付けるフィンは,Figure 4-2 (b) に示すように厚み 3 mm
で 1 辺 37 mm の正方形の板として,伝熱管と垂直に,一定の間隔で取り付けた.フィ
69
ン付伝熱管試験の場合には,アクリル製模擬伝熱管にも全てフィンを取り付けた.
試験に用いた伝熱管とフィンのピッチの組合せを Table 4-1 に示す.
Table 4-1 Test conditions of heat transfer tubes and fins
Case
Horizontal
pitch
Vertical
pitch
Block
ratio
Tube
density
p h [mm]
p v [mm]
Rt [ - ]
D t [m /m ]
p f [mm]
152
110
78
78
110
110
110
78
78
37
31
31
25
31
31
31
31
25
0.16
0.23
0.32
0.32
0.23
0.23
0.23
0.32
0.32
14
23
32
40
23
23
23
32
40
13
23
33
23
23
1
2
3
4
5
6
7
8
9
2
Fin
pitch
3
4.1.3 供試石炭
受入れベースの全水分が湿炭基準で約 62%の褐炭 2 種類を使用した.その分析結
果を Table 4-2 に示す.これらの褐炭を衝撃型の粉砕機でスクリーンの目開きを 6 mm
として粗粉砕した.含水率 10%以下に乾燥して測定した粒度分布を Figure 4-3 に示
す.なお,含水率の表示には湿炭基準と乾炭基準があるが,本章における含水率 m
は湿炭基準である.
A 炭,C 炭の質量基準の 50%平均径は 0.30mm,0.28mm で,それぞれ水分 31%と
56%に調製して使用した.このとき,パウダーテスター(PT-X,ホソカワミクロン)で測定
した安息角は,A 炭(含水率 31%)では 32 deg.,C 炭(含水率 56%)では 51 deg.であ
った.2.3 節より付着性のない乾燥褐炭粒子の安息角は 32.5 deg.であるので,A 炭(含
水率 31%)には付着性はないが,C 炭(含水率 56%)には付着性があると言える.以下,
水分調整後の供試炭を A 炭,C 炭と記載する.
70
Table 4-2 Analysis of brown coal samples used in basic tests
Total moisture
(as received)
Proximate analysis
air dried at 35℃
A coal
C coal
wet base
[ %-wet ]
62.1
61.3
dry base
[ %-dry ]
164
158
Inherent moisture
[%]
24.9
16.8
Fixed carbon
[%]
34.9
31.7
Voloatile matter
[%]
39.4
43.4
Ash
[%]
0.8
8.1
Total
[%]
100
100
*) Total moisture: measured by drying in air at 107℃ (JIS M8812)
Inherent moisture: measured by drying in air at 107℃ for the sample of
air dried at 35℃(JIS M8811, 8812)
99.9
Quantity passing D [%]
99
95
90
○
□
A coal
C coal
80
70
60
50
40
30
20
10
0.01
0.28 mm 0.30 mm
0.1
1
Particle size dp [mm]
10
Fig. 4-3 Particle size distribution of brown coal used in tests
(dried samples with moisture contents lower than 10%)
4.1.4 流動化ガス速度
褐炭粒子が粗粉まで含めて流動化を開始する完全流動化開始速度は,第 2 章で
提案した方法で求めた.粒径と密度を含水率で補正し,Rosin-Rammler 分布のパラメ
ータから代表径を決めて Wen and Yu (1966) の式に代入して計算し,さらに付着性の
71
影響を安息角で補正することにより求めた. A 炭,C 炭での常温の窒素ガスによる完
全流動化開始速度の推算値は,それぞれ 0.10m/s,0.21m/s となった.これより,試験
における流動化ガス速度は,A 炭では 0.09 m/s から 0.35 m/s の範囲で変化させ,C 炭
では 0.36m/s とした.この値は,窒素ガスから水蒸気への補正を行うと,実機の蒸気流
動層乾燥装置と同じ範囲にある.
4.1.5 試験方法
試験装置の運転時の層高が約 400 mm となるように,静止状態で 320mm まで褐炭
試料を充填した後,流動化ガスを供給し褐炭粒子を流動化させた.次に,3 本の SUS
伝熱管にはそれぞれ 8 L/min.で合計 24 L/min. の温水を循環させた.まずヒータで循
環水タンク内の循環水の温度を 60℃まで上昇させた.SUS 伝熱管への温水の供給を
開始した後ヒータを停止すると,流動層の温度は約 16℃であったため,伝熱管からの
放熱により循環水の温度は徐々に低下した.循環水の温度が 60℃から 50℃まで低下
する間のデータを取得し,解析に使用した.
実機の蒸気流動層乾燥装置においては,伝熱管内は 150℃前後の飽和蒸気で,
流動層の温度は約 105℃であるため,その温度差は約 45℃である.試験においても,
伝熱管内の温水と流動層の温度差は 35~45℃であり,実機乾燥装置での温度差と同
等であった.
流動化ガス(乾燥窒素)による試験途中での褐炭の乾燥が流動化に及ぼす影響を
次の通り考察した.代表的な流動層温度である 16℃における飽和蒸気圧は 18 hPa で
あり,流動化ガス速度 0.25 m/s で 2 000 s 運転したとすると,その蒸発量は最大で 550 g
であり,褐炭試料約 12 kg に対しては 4.6%となる.本研究で用いた褐炭粒子の流動化
に対する水分の影響を評価した第 2 章の結果から考えて,この程度の水分変化では,
流動化特性や伝熱特性への影響は小さいと考えられる.
4.1.6 解析方法
伝熱管の管外伝熱係数は次のようにして求めた.まず循環水の熱バランスは次式
で与えられる.
M wCw
dTw
  K t S t (Tw  Tb )  K s S s (Tw  Ta )
dt
72
(4-3)
ここで,左辺は循環水の温度変化に必要な熱量であり,Mw は循環水全体の質量,
Cw は水の比熱容量,Tw は循環水の温度,t は時間である.右辺は,第 1 項が循環水
から流動層への伝熱量,第 2 項が循環水系統から大気への放熱量であり,Kt,St は伝
熱管の総括伝熱係数,伝熱面積,Ks,Ss は循環水系統の総括伝熱係数,伝熱面積,
Tb は流動層内 6 点の平均温度,Ta は大気温度である.
次に,Eq.(4-3)の右辺を変形して Tw の関数とする.
M w Cw
dTw
K S T  K s S sTa
  ( K t S t  K s S s )  (Tw  t t b
)
dt
K t S t  K s Ss
(4-4)
M w Cw
dTw
  ( K t S t  K s S s )  (Tw  T )
dt
(4-5)
ここで,T∞は次式で与えられる最終到達温度である.
T 
K t S tTb  K s S sTa
K t S t  K s Ss
(4-6)
Kt , St , Ks , Ss , Tb , Ta は,試験実施中は変化が微小であるため定数とみなし,
Eq.(4-5)を変形して循環水温度を初期温度 Tw0 から Tw まで積分することにより,温度効
率 θw が得られる.
w 
 K S  K s Ss 
Tw  T
 exp  t t
 t 
Tw0  T
M w Cw


(4-7)
この式において,KsSs は可視化コールド部に褐炭が無く,流動層への伝熱が無視
出来る場合の循環水の温度変化から求めることができるので,未知数は総括伝熱係
数 Kt である.そこで,まず Kt を仮定して時間 t における Eq.(4-7) の右辺の値を計算
するとともに, Eq.(4-6)から T∞ を求める.この T∞ と循環水温度 Tw の試験結果から θw
の実測値を求め, Eq.(4-7) の右辺の値との差を求める. 60℃から 50℃まで 10℃低下
する間の Tw の全データを対象として,左辺と右辺の差の 2 乗の総和をとり,この総和
が最小となるように Kt を決める.
このようにして得られた総括伝熱係数 Kt と,管外伝熱係数 ho,伝熱管材料の熱伝導
率 λm,管内伝熱係数 hi の関係は,伝熱管の外径,内径を do,di として,次式で与えら
れる.
ln d o / d i 
1
1
1



2 m
K t d o ho d o
hi d i
(4-8)
73
これより,ho は次式により与えられる.
ho 
1
1 / K t  ( d o / d i ) / hi  ln( d o / d i )  d o /( 2  m )
(4-9)
ここで,伝熱管の材料は SUS304 であるので,λm は 16W/(m・K)とした.また管内伝
熱係数 hi は Dittus-Boelter の式により与えた.
 u d 
hi 
 0.023   w w i 
di
 w 
w
0.8
 C
  w w
 kw



0.4
(4-10)
ここで,ρw,μw,λw は水の密度,粘度,熱伝導率,uw は流速である.伝熱管の内径
di は 20.4 mm であり,循環水の温度を 60℃,管内流速 uw を 0.38 m/s とすると,管内伝
熱 係 数 hi は 2 640 W/(m2 ・ K) と な る . ま た , 伝 熱 管 材 料 の 熱 伝 導 に 基 づ く
2λm/(ln(do/di)・do) の値は 5 700 W/(m2・K)となる.後述するように本試験条件での管外
伝熱係数 ho はこれらの値より 1 桁小さい値であったので,伝熱抵抗はほぼすべてが管
外にあったとみなせる.したがって,管内伝熱係数 hi の推算誤差が管外伝熱係数 ho
の計算に与える影響はほとんどないと考えられる.
74
4.2 試験結果
4.2.1 試験状況
A 炭において,伝熱管ブロック比 0.23 として,流動化ガス速度 0.15 m/s としたときの
試験結果を Figure 4-4 に示す.流動層の温度は,測定した 6 点とも約 16℃で同じ値
であり,全体の均一な流動化が観察された.循環水の温度は,初期は約 62℃であっ
たが,ヒータを切ると温度の低下が始まり,約 1 100 秒間で 60℃から 50℃まで 10℃低
下し,流動層温度もわずかに低下した.この間のデータを解析に使用した.
100
Temperature [℃]
80
Heater off
Water tank
Heater on
60
40
Data acquisition
Fluidized
bed
20
0
-500
0
500
1000
1500
2000
Time [ s ]
Fig. 4-4 Transition of temperature of circulating water and fluidized bed
(A coal, Rt=0.23, pv=31 mm, ug=0.15 m/s)
4.2.2 流動化ガス速度と水分の影響
A 炭において,伝熱管ブロック比 0.23 として,流動化ガス速度を 0.09 m/s から 0.35
m/s まで変化させたときの試験結果を Figure 4-5 に示す.管外伝熱係数は,流動化ガ
ス速度 0.15 m/s 以上では約 210 W/(m2・K) で一定であったが,流動化ガス速度 0.09
m/s では 70 W/(m2・K) に低下した.流動化ガス速度 0.09 m/s では流動層内全体に気
泡が少なく粒子の動きが悪い状態であることが観察され,流動層内に最大で 20℃の
温度差が発生した.また,C 炭において,伝熱管ブロック比 0.23,流動化ガス速度 0.36
m/s における管外伝熱係数は 171 W/(m2・K)であった.なお,図中の黒塗りの点は,
75
Andeen and Glicksman (1976) の式による計算値であり,4.3 考察において詳しく述べ
る.
Heat transfer coefficient [W/(m2・K)]
300
200
100
A coal (test)
C coal (test)
A coal (calculation)
C coal (calculation)
0
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
Fluidization gas velocity [m/s]
Fig. 4-5 Influence of fluidizing gas velocity on heat transfer coefficient
(Rt=0.23, pv=31 mm)
4.2.3 伝熱管密度の影響
流動化ガス速度を,A 炭では 0.15 m/s と 0.25m/s(フィン付き管),C 炭では 0.36m/s
として,伝熱管ブロック比を 0.16 から 0.32 まで変化させたときの試験結果を Figure 4-6
に示す.A 炭では,フィンの有・無にかかわらず,ブロック比が増加するにしたがって管
外伝熱係数はやや増加し,ブロック比 0.32 で垂直ピッチが 31 mm から 25 mm に小さ
くなるとさらに増加する傾向が見られた.一方 C 炭では,ブロック比が増加するにした
がって管外伝熱係数が減少し,ブロック比 0.32 で垂直ピッチが 31 mm から 25 mm に
小さくなるとさらに低下する傾向が見られた.このとき,流動層の一部は気泡流動状態
にはなく,粒子の動きが悪い状態であることが観察され,流動層内に最大で 6℃の温
度差が発生した.
4.2.4 フィンの影響
A 炭において,流動化ガス速度 0.25 m/s,伝熱管ブロック比 0.23 として,フィンピッ
チを 13 mm から 33 mm まで変化させたときの試験結果を Figure 4-7 に示す. なお,
76
この管外伝熱係数は,フィンを除いた平滑管の表面積を基準とした見掛け上のもので
ある.管外伝熱係数はフィンピッチを小さくすると増加し,フィンピッチ 13 mm ではフィ
ンの無い伝熱管に比べて 1.3 倍に増加した.
pv=25 mm
○● ug=0.15
m/s (A coal)
m/s (A coal with fins)
□■ ug=0.36 m/s (C coal)
Open symbols: pv=31 mm
Closed symbols: pv=25 mm, 37 mm
pv=31 mm
◇◆ ug=0.25
pv=25 mm
pv=31 mm
200
pv=37 mm
pv=31 mm
100
pv=25 mm
pv : vertical pitch
0
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
Tube block ratio [ - ]
Fig. 4-6 Influence of tube block ratio (Rt) on heat transfer coefficient
Heat transfer coefficient [W/(m2・K)]
Heat transfer coefficient [W/(m2・K)]
300
400
Increase of
nominal heat
transfer coefficient
300
Tubes with finns
200
Bare tubes
100
0
0
10
20
30
40
50
Fin pitch [mm]
Fig. 4-7 Influence of fin pitch on heat transfer coefficient
(A coal, Rt=0.23, pv=31 mm, ug=0.25 m/s)
77
4.3 考 察
流動層内の伝熱管の管外伝熱係数の推算値 ho は,Andeen and Glicksman (1976)
の式で与えられる.
ho 
Pr 
g
do
 900  (1   )  Pr
0.3


 g2

  Re*  3
2


d
g



p
p 

0.326
 g  Cg
g
Re* 
(4-11)
(4-12)
Gg  d o   p
(4-13)
 g  g
ここで,Pr,Re*はプラントル数,修正レイノルズ数,Cg,Gg,λg,μg,ρg は流動化ガス
の比熱容量,質量流速,熱伝導率,粘度,密度,dp,ρp は粒子の粒径,密度,do は伝
熱管の外径,g は重力加速度,ε は流動層の空隙率を示す.このうち,dp と ρp は,第 2
章に示すように含水率で補正された質量基準の 50%径と見掛け密度を与えた.また,
試験時に測定した流動層の圧損から得られる流動層密度と,水分で補正した褐炭粒
子の見掛け密度から空隙率 ε を求めた.試験条件により異なるが,ε は A 炭では 0.6
前後,C 炭では 0.7 前後であった.C 炭で ε が大きかった原因は,水分が多く粒子に付
着性があったためと考えられる.
管外伝熱係数の試験結果と Eq.(4-11)による推算値の比較を Figure 4-5,Figure
4-8 に示すが,A 炭,C 炭とも-10%~+20%の範囲で一致した.
ただし,A 炭の流動化ガス速度 0.09m/s では,流動層の一部が気泡流動状態にな
かったため,Eq.(4-11)の適用外であった.付着性のある C 炭においても試験結果と推
算値が良く一致したことから,流動化ガス速度が完全流動化開始速度よりも大きい場
合には,付着性は空隙率には影響するが,直接的に管外伝熱係数に与える影響は
小さいと考えられる.また,試験結果では,流動化ガス速度が大きくなっても管外伝熱
係数はほとんど変化しなかった.流動化ガス速度が大きくなると,気泡により伝熱管
表面に接触する粒子群が更新される頻度は増加するが,逆に気泡が増えること
で伝熱の悪いガスと接触している伝熱管表面も増加するので,両者が打ち消し
あったと考えられる.一方,計算値では流動化ガス速度が大きくなると管外伝熱係
78
数はやや大きくなったが,試験から得られた空隙率は大きくは変化せず,Eq.(4-11)に
おいて流動化ガス質量速度 Gg が大きくなったことが大きく影響したと考えられる.
Calculated coefficient [W/(m2・K)]
400
Tie line
A coal
C coal
300
+20%
-10%
200
100
0
0
100
200
300
400
Heat transfer coefficient of test results [W/(m2・K)]
Fig. 4-8 Comparison between test results and calculated results
(Rt=0.16~0.32, pv=25~37 mm, ug=0.09~0.36 m/s)
次に,伝熱管の密度の影響について考察した.Andeen and Glicksman (1976) は,
ブロック比 0.5 一定としてデータを取得しており,Eq.(4-11)にはブロック比の影響は含ま
れていない.今回の試験では,褐炭粒子の付着性の有無により傾向は異なるが,管
外伝熱係数はブロック比だけでなく垂直ピッチの影響も受けることが明らかとなってい
る(Figure 4-6).これより,伝熱管による粒子の動きへの影響を表す指標として,水平
ピッチだけではなく垂直ピッチも考慮した,Eq.(4-2)で定義される流動層の単位体積あ
たりの伝熱管の外表面積である伝熱管密度 Dt を使用した.この伝熱管密度と管外伝
熱係数の関係を Figure 4-9 に示す.
付着性のない A 炭では伝熱管密度が 40 m2/m3 まで管外伝熱係数はやや増加して
おり,伝熱管密度が高くなると気泡の発達が阻害され,単位体積あたりの気泡の個数
は増加したが気泡径は小さくなり,伝熱の悪いガスと接触する伝熱管の面積がやや減
少したためと考えられる.一方,付着性のある C 炭では伝熱管密度が 20 m2/m3 を越え
ると管外伝熱係数が低下しており,付着性の影響で粒子群の動きが阻害されて更新
頻度が減少したためと考えられる.
79
Heat transfer coefficient [W/(m2・K)]
300
200
100
A coal
A coal (with fins)
B coal
0
0
10
20
30
40
50
Tube density [m2/m3]
Fig. 4-9 Influence of tube density on heat transfer coefficient
(A coal: ug=0.25 m/s, C coal: ug=0.36 m/s)
次に,フィンの効果について考察した.フィン表面の伝熱係数がフィンの無い伝熱
管の管外伝熱係数と同じであると仮定すると,矩形フィンのフィン効率 ηf は次式で与え
られる(Schmidt, 2013).

 f  tanh   


  1.28 


lf
do
do
2  ho

m  wf
2




 do
    2  ho

m  wf
2





(4-14)

 lf
  
l
  0.2   1  1  0.35  ln 1.28  f


do
 lf
  

 lf
 
  0.2   

 lf
  
(4-15)
ここで,do,lf,wf は伝熱管の外径,フィンの一辺の長さ,フィンの厚みである.また,
正方形フィンであるので,Eq.(4-15)における√内の分数では短辺と長辺に同じ lf を与
えた.ho はフィンの無い伝熱管の管外伝熱係数,λm は伝熱管材料の熱伝導率であり,
それぞれ 200 W/(m2・K),16 W/(m・K) を与えると,フィン効率 0.78 が得られた.
このフィン効率 ηf を用いて,フィン有効度 ef は次式で与えられる.
ef 
 


  d o   p f  wf   2  l f 2    d o 2 / 4  4  l f  wf   f
  d o  pf
(4-16)
ここで,分母は 1 ピッチ当りのフィンの無い伝熱管の表面積,分子の第 1 項はフィン
80
付き伝熱管のフィンの基部を除いた表面積,第 2 項はフィンの表面積にフィン効率を
乗じたものである.
フィン有効度について,試験結果と Eq.(4-16)による計算値の比較を Figure 4-10 に
示す.試験結果は計算値よりも小さく,フィンピッチが小さくなるほどその差が大きくなり,
フィンピッチ 13 mm でのフィン有効度は,計算値 2.4 に対して試験結果は 1.3 であった.
褐炭粒子の流動層では,フィンを取り付けることにより伝熱管周囲の気泡の動きが阻
害されて粒子群の更新頻度が減少し,管外伝熱係数そのものが低下したためと考えら
れる.
5
Fin effectiveness [ - ]
Test
4
Calculation
3
2
1
0
0
10
20
30
40
50
Fin pitch [mm]
Fig. 4-10 Relationship between fin pitch and fin effectiveness
(A coal, Rt=0.23, pv=31 mm, ug=0.25 m/s)
81
4.4 まとめ
窒素を流動化ガスとする伝熱特性基礎試験装置により,幅広い粒度分布を有する
水分の異なる 2 種類の褐炭で,流動化ガス速度,伝熱管密度,フィンの有無と間隔に
関する試験を実施し,次の結果を得た.
(1) 今回試験に使用した褐炭で,流動化ガス速度を完全流動化開始速度よりも大きく
したときの管外伝熱係数は約 200 W/(m2 ・ K) であった. Andeen and Glicksman
(1976) の式において,粒子の見掛け密度と粒径を水分により補正して,代表粒径
として質量基準の 50%径を与えた計算値と-10%~+20%の範囲で一致した.
(2) 伝熱管のピッチが小さくなると,管外伝熱係数は,付着性のない褐炭ではやや大
きくなる傾向も見られたが,付着性のある褐炭では低下した.付着性のある褐炭で
は,伝熱管により流動層中の粒子群の動きが阻害されて更新頻度が減少したため
と考えられる.伝熱管の密度を評価する指標として伝熱管密度(=単位体積あたり
の伝熱管の外表面積)で整理したところ,付着性のある褐炭では 20 m2/m3 を越え
ると伝熱係数が低下することが分かった.
(3) 伝熱管にフィンを取り付けた場合のフィン有効度は,伝熱係数がフィン表面でも
平滑管の場合と同一であると仮定して計算した値に比べると小さかった.フ
ィンの取り付けにより,伝熱管表面の粒子群の動きが阻害されて更新頻度が減
少し,管外伝熱係数そのものが低下したためと考えられる.
82
記 号
C
= specific heat capacity
[J/(kg・K)]
d
= diameter
[m]
D
= surface area per unit volume of bed
[m2/m3]
e
= effectiveness
[-]
g
= gravitational acceleration (= 9.8 m2/s)
[m2/s]
G
= mass velocity
[kg/(m2・s)]
h
= heat transfer coefficient
[W/(m2・K)]
K
= overall heat transfer coefficient
[W/(m2・K)]
l
= length
[m]
m
= moisture content
[%]
M
= mass
[kg]
p
= pitch
[m]
S
= heat transfer surface area
[m2]
t
= time
[s]
T
= temperature
[oC]
u
= velocity
[m/s]
w
= thickness
[m]
ε
= void ratio
[-]
η
= efficiency
[-]
θ
= temperature effectiveness
[-]
λ
= heat conductivity
[W/(m・K)]
μ
= viscosity
[Pa・s]
ρ
= density
[kg/m3]
83
<Subscripts>
a
= ambient
b
= fluidized bed
c
= coal
d
= dried particle
f
= fin
g
= fluidization gas
h
= horizontal direction
i
= inside of heat transfer tube
m
= metal of heat transfer tube
o
= outside of heat transfer tube
p
= particle
s
= water circulation system
t
= heat transfer tube
v
= vertical direction
w
= water
84
参考文献
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Fluidized Beds,” The Heat Transfer Division of The American Society of
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85
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on the hydrodynamics and the heat transfer in a gas- solid fluidized-bed”,
Fluidization VIII, 157-165, Engineering Foundation, New York, U.S.A. (1996)
86
第 5 章 乾燥装置の概念設計
基礎試験結果をもとに蒸気流動層方式による褐炭の乾燥装置の概念設計を実施し
た.湿炭基準で含水率 60%程度の褐炭を使用する発電出力 1 000 MW クラスの褐炭
焚き発電所において,1 日あたりの褐炭の消費量は約 20 000 t/d となる.配置・コスト・
運用性等を考慮すると,乾燥装置は 4 系列程度とすることが適正と考えられるため,単
機乾燥容量は約 5 000 t/d,時間あたりでは約 200 t/h を想定した.
さらに,この乾燥装置を蒸気再圧縮機と組合せ,乾燥により発生した水蒸気を圧縮
して潜熱を回収したときのエネルギー効率について試算した.
なお,本章における水蒸気の圧力は絶対圧力である.また,含水率は,特に断らな
い限り湿炭基準である.
87
5.1 全体システム構成
三菱重工業は平成 20 年より褐炭の蒸気流動層乾燥装置を開発中であり,そのシス
テム構成を Figure5-1 に示す(Hashimoto et al., 2011).主な流れは次の通りである.
(1) 褐炭は原炭バンカには貯蔵されており,褐炭はこの原炭バンカからフィーダーで
切り出され,クラッシャにより数 mm アンダーのサイズに粗粉砕した後,乾燥装置の
上部に設置された供給機により乾燥装置に供給される.
(2) 乾燥装置は蒸気流動層方式であり,投入された褐炭は,流動層の底部より供給さ
れる水蒸気により流動化される.この流動層内に,褐炭は数十分間滞留する.
(3) 流動層内には伝熱管が設置されており,伝熱管には絶対圧力 0.5 MPa 程度の水
蒸気が供給されている.流動層内の褐炭は,伝熱管内で水蒸気が凝縮する際に
放出される熱により間接加熱され乾燥される.
(4) 乾燥後の褐炭は流動層の底部より取り出され,冷却器で冷却された後に,搬送装
置により乾燥炭バンカに貯蔵される.乾燥した褐炭は,ミルで微粉砕された後に発
電設備に供給される.
(5) 褐炭から発生した蒸気には,流動層から飛散する粉じんが混入しているため,電
気集じん器により粉じんを取り除いた後,一部は流動化用の水蒸気として,ブロワ
で昇圧された後に乾燥装置に再度循環される.
(6) 乾燥装置で新たに発生した水蒸気に相当する残りの水蒸気は,蒸気圧縮機に送
られ,絶対圧力 0.5MPa 程度(飽和蒸気温度約 150℃)に再圧縮され,加熱用蒸気
として乾燥装置の伝熱管に供給される.
(7) 再圧縮された蒸気は,伝熱管内において飽和温度である約 150℃で凝縮し潜熱を
放出する一方,乾燥装置内の褐炭は約 105℃であるため,この温度差により放出
された潜熱が褐炭に移動し,褐炭を乾燥させる.
(8) 凝縮した蒸気は,排水処理を行うことにより,発電所における冷却塔の冷却水など
の工業用水として利用される.
(9) なお,発生した水蒸気を,蒸気圧縮機ではなく,蒸気タービン→凝縮器に供給し,
水蒸気の有する潜熱を電力として回収することも可能である.この場合のシステム
構成を Figure 5-2 に示す.
88
Coal
bunker
Electric
precipitator
Compressor
Bag filter
Blower
Feeder
Crusher
Steam fluidized
bed dryer
Dried coal
bunker
Feeder
Heat
exchanger
Water treatment
Pulverized coal
bunker
Cooler
Pulverizer
Fig. 5-1 Brown coal drying system by MHI
Brown coal
Electric
precipitator
Steam turbine
+ Generator
G
Steam fluidized
bed dryer
Condensor
Cooling
water
Dried brown coal
Condensate water
Fig. 5-2 Latent heat recovery system by steam turbine
89
Gasifier
5.2 実機の基本計画
流動層乾燥装置は,流動層全体を均一に混合しながら乾燥を行わせる 1 室構
造の完全混合式(Figure5-3 (a))と流動層を複数の室に分けて各室で順番に乾燥
を進行させる多段式(Figure 5-3 (b))に分けられる.
Raw brown coal
Heating
steam
Vapor
Heat transfer tubes
Fluidizing
steam
RWE catalogue
Dried brown coal
(a) Complete mixing fluidized bed (One chamber type )
Raw brown coal
Buffle
plates
Vapor
Heat transfer tubes
Heating
steam
Fluidizing
steam
Dried brown coal
(b) Multi stage fluidized bed (Multi chamber type)
Fig. 5-3 Types of fluidized bed
完全混合式では,褐炭は乾燥装置の上部から供給され,流動層内の乾燥した
褐炭と混合し加熱・乾燥された後に,下部から排出される.供給された湿潤褐
炭は多量の乾燥褐炭と混合するため,流動層中の褐炭含水率の平均値は低く抑
90
えられ,付着性の影響を小さくすることが可能である.一方,流動層内の褐炭
は滞留時間の分布が広くなり,供給された直後の褐炭も確率的に排出されるた
め,平均としての滞留時間を長くする必要がある.また,出口乾燥褐炭の含水
率が限界含水率よりも低い場合には,乾燥装置全体が減率乾燥となり,流動層
の温度が上昇して加熱用蒸気との温度差が小さくなるため,より大きい伝熱面
積が必要となる.さらに,スケールアップした際に,流動層の床面積が大きく
なるため,全体の均一性を保つことが難しくなるなどの課題があると予想され
る.この方式は,ドイツ RWE 社などが採用している(Klutz et al., 2006 and 2014).
これに対して,多段式では,流動層は隙間を有する隔壁により複数の室に仕切られ,
褐炭は第 1 室に供給され,徐々に乾燥・乾燥されながら,重力により隔壁のすき間を
通過して次の室に移動することを繰り返し,末端の最終室から排出される.そのため,
褐炭の滞留時間分布が狭くなり,確実に乾燥された褐炭だけが排出される.また,出
口乾燥褐炭の含水率が限界含水率よりも低い場合でも,適切に層を分割すれば,減
率乾燥となるのは末端の最終室だけとして,それ以外の乾燥室は定率乾燥と出来るた
め,流動層と加熱用蒸気との温度差を大きく取ることが出来,伝熱面積を小さく出来る.
さらに,スケールアップの際にも,流動層全体ではなく,第 1 室の流動層における乾燥
した褐炭と供給する湿った褐炭との混合を考慮すれば良いため,均一性が必要な底
面積を小さく抑えることが出来るとともに,必要に応じて第 1 室だけ流動化蒸気の速度
を大きくして混合性を向上させることも可能である.この方式は三菱重工業が採用して
おり,関連する特許も多数出願されている(日本国 特許 5634100 号,特許 5535731
号,特願 2010-86218,特願 2011-113332,特願 2011-113335,特願 2012-40736,特願
2013-16209 など).
本論文では,Figure 5-4 に示すように,下部に隙間のある隔壁により仕切られた 3 室
構造の多段式の乾燥装置を例として,概念設計を実施した.
乾燥装置の基本計画は,RWE 社が実証試験中の完全混合式の蒸気流動層乾燥
装置(Ewers et al., 2003,Klutz et al., 2010)も参考にして決定した.Table 5-1 に示すよ
うに,オーストラリアの褐炭である A 炭を平均粒径 0.3 mm に粉砕して供給し,含水率
を 62%から 12%まで乾燥させる計画として,褐炭供給量もほぼ同等とした.また,乾燥
91
装置に供給された加熱用蒸気が凝縮した後の凝縮水の温度は 150℃程度であるが,
その顕熱を利用して,原炭を 70℃まで予加熱した上で,乾燥装置に供給するとした.
No.3 Chamber
Raw brown coal
No.2 Chamber
Height
No.1 Chamber
Buffle
plate
Buffle
plate
Dried brown coal
Length
Width
Fig. 5-4 Concept of steam fluidized bed dryer for the present design
Table 5-1 Basic plan of the dryer
Item
Symbol
MHI
RWE
-
A coal
Rhein brown
F r [t/h]
200
210
d p50 [mm]
0.3
0.3
T r [ C]
70
65 - 70
Moisture content of raw browncoal
m i [%-wet]
62
55
Moisture content of dried brown coal
m o [%-wet]
12
12
-
3
1
P h [MPa]
0.4
0.3 - 0.5
Brown coal
Feed rate of raw brown coal
Mass median diameter of raw brown coal
o
Temparature of raw brown coal
Number of chambers
Pressure of heating steam
o
Saturated temperature of heating steam
T h [ C]
144
134 - 152
Fluidization steam velocity
u f [m/s]
-
0.14
Bed height
H b [m]
3.5
3.5
92
5.3 実機の概念設計
5.2 の基本計画方針に基づいて,概念設計を実施した.まず 3 つの乾燥室における
乾燥率を決定した.乾燥装置の入口と出口の含水率から決定される乾燥率は 93.2%
であるので,Table 5-2 に示すように,この乾燥率を 3 等分した.これにより,第 1 室,第
2 室は定率乾燥となり,第 3 室だけが減率乾燥となる.
Table 5-2 Distribution of drying percent in each chamber
Chamber
Moisture content
Inlet
No.1
No.2
No.3
m [%-wet]
62.0
53.1
38.8
12.0
h [%-dry]
163.0
113.2
63.4
13.6
η [%]
0.0
30.5
61.1
91.6
Drying percent
ここで,m は湿炭基準の含水率,h は乾炭基準の含水率,η は乾燥率であり,これら
の関係は次式で与えられる.添字の i は,乾燥装置入口であることを示す.
h
100 m
100  m

  100  1 

(5-1)
h
hi



(5-2)
これにより,各室における褐炭の流動層内の含水率,入口,出口の含水率が与えら
れるので,次の手順で概念設計を実施した.
(1) 流動化ガス速度
平均粒径 0.27 mm(Sml 粒子)の A 炭に対して,1 室,2 室,3 室における褐炭中含
水率に対応する完全流動化開始速度を,第 2 章の結果をもとに推算した.
付着性の影響を考慮した完全流動化開始速度 Umf
*
W は,第
2 章で提案した Wen
and Yu (1966) の式をもとに安息角による補正を加えた式で与えた.

U mf W  ( p / 32.5)  Umf W
(5-3)
93
U mf W 
Remf 
μf Remf
d pmr  f
(5-4)
33.7 2  0.0408 Ar  33.7
d pmr  f (  pm   f ) g
(5-5)
3
Ar 
ここで,Umf
μf
W
(5-6)
2
は付着性の影響を考慮する前の完全流動化開始速度の計算値,θp
は褐炭粒子の安息角,α は安息角補正指数,Remf はレイノルズ数,Ar はアルキメデス
数,μf は水蒸気の粘度,ρf は水蒸気の密度,g は重力加速度である.dpmr は褐炭粒子
の代表粒径であり,Eq.(2-9)により含水率の影響を補正した粒径をもとに,Eq. (2-19)に
より粒度分布を考慮して求めた.また,ρpm は褐炭粒子の見掛け密度であり,Eq. (2-10)
により含水率の影響を補正した.実機の乾燥装置では褐炭粒子の含水率や粒度分布
の変動に対応する必要があるため,Umf W*の 2 倍を流動化蒸気速度とした.
(2) 乾燥熱量
各乾燥室における乾燥熱量 Qd は,供給された褐炭を流動層の温度まで上昇させる
加熱熱量 Qd1 と,その流動層温度で褐炭を乾燥させる蒸発熱量 Qd2 の和となる.
Qd  Qd1  Qd2
(5-7)
まず,加熱熱量 Qd1 は次式で与えられる.右辺の第1項は石炭(固体部分)の加熱
熱量,第 2 項は水の加熱熱量である.
Qd1  FcCc  Fw Cw   Ti  To  / 3600 / 103
(5-8)
ここで,Fc,Fw は褐炭中の石炭,水の供給量,Ti, To は室の入口,出口での褐炭の
温度,Cc,Cw は石炭,水の比熱容量である.褐炭の温度である Ti, To は含水率によっ
て変化し,第 3 章の Eq. (3-12)と Eq. (3-13)で与えた.
次に,蒸発熱量 Qd2 を求める.第 3 章の Figure 3-10 に示すように,褐炭中水分の
蒸発潜熱 Jw は含水率が減少するにしたがって,純水の蒸発潜熱である 2.43 MJ/kg か
ら,3.3 MJ/kg 程度にまで増加する(Allardice et al., 1971).この関係を乾炭基準の含
水率 h の関数として,Eq. (3-14)と Eq. (3-15)で与えた.
94
これより,各室の入口含水率 hi から出口含水率 ho まで Jw を積分することにより,各
室で必要な蒸発熱量 Qd2 が得られる.

Qd2 
hi
ho
J w dh 100  Fc / 3600 / 10 3
(5-9)
ここで, Fc は褐炭中の水分を除いた乾燥石炭の供給量を示す.
各室について加熱熱量 Qd1 と蒸発熱量 Qd2 を計算し,その合計を乾燥熱量 Qd とし
た.この乾燥熱量 Qd を絶対圧力 0.4 MPa の水蒸気の凝縮熱 2 133 kJ/kg で割ることに
より,加熱用蒸気を絶対圧力 0.4 MPa の飽和蒸気としたときの蒸気量 Fd が得られる.
(3) 伝熱面積
このようにして得られた乾燥熱量 Qd と流動層内伝熱管の伝熱面積 St の関係は次式
で与えられる.
Qd  K t  S t  (Th  Tb ) / 106
(5-10)
ここで,Kt は伝熱管の総括伝熱係数,Th は加熱用蒸気の温度,Tb は流動層の温度
である.このうち,Th は計画条件として Table 5-1 で与えており,Tb は第 3 章の基礎試験
結果から各室の含水率の関数として得られる.したがって,St を得るためには Kt を求め
る必要があるが,一般的に Kt は次式で与えられる.
ln d t1 / d t2 
1
1
1



K t d t1 ht1 d t1
2 m
ht2 d t2
(5-11)
ここで,添え字の 1 は伝熱管の外側,2 は内側を示し,dt1,dt2 は伝熱管の外径,内
径,ht1 は管外伝熱係数,λm は伝熱管材料の熱伝導率,ht2 は管内伝熱係数である.
まず,ht1 は第 4 章における結果をもとに,Andeen and Glicksman (1976) の式により
与えた.
f
   Cf
 900  (1   b )   f
ht2 
d t1
 f



0.3
 G f  d t1   p
f2

 3
2
 f  f
dp  g  p





0.326
(5-12)
ここで,Cf,Gf,λf,μf,ρf は流動化水蒸気の比熱容量,質量流速,熱伝導率,粘度,
密度,dp,ρp は粒子の粒径,密度,dt1 は伝熱管の外径,g は重力加速度,εb は流動層
の空隙率を示す.このうち,dp と ρp は,第 2 章の Eq.(2-9)と Eq.(2-10)で含水率により補
正した褐炭粒子の質量基準 50%径と見掛け密度を与えた.
95
次に,伝熱管の材料は SUS304 であるので,λm は 16 W/(m・K)とした.また,ht2 は管
内の凝縮伝熱の式である Shah (1979) の式により与えた.
w
 G (1  x)d t2 

ht2 
 0.023   h
d t2
w


0.8
 C
  w w
 w



0.4

3.8 x 0.76 (1  x) 0.04 
0.8
 (1  x) 

( p h / pcr )0.38 

(5-13)
ここで,Gh は加熱蒸気の質量流量,Cw,λw,μw はそれぞれ水の比熱容量,熱伝導
率,粘度,dt2 は伝熱管の内径,x は二相流における蒸気のクオリティ(沸騰,凝縮が起
こる伝熱管内における蒸気質量流量の全質量流量に対する比),ph は加熱用蒸気の
圧力,pcr は水蒸気の臨界圧を示す.
第 4 章の基礎試験に使用した伝熱管と同じく dt1,dt2 を 25.4 mm,20.4 mm とすると,
Eq.(5-11)より各室の総括伝熱係数 Kt が得られ,さらに各室の乾燥熱量 Qd と流動層温
度 Tb の計算結果を与えると,伝熱面積 St が得られる.この関係を次式に示す.
St 
Qd
 10 6
K t  (Th  Tb )
(5-14)
(4)流動層寸法
各室における伝熱面積 St が得られたので,Eq.(4-2)で定義した伝熱管密度 Dt を与
えれば,必要とされる流動層の体積 Vb が得られる.さらに,流動層の高さ Hb を与えれ
ば,床面積 Sb が得られる.これらの関係を次式に示す.
Vb 
St
Dt
(5-15)
Sb 
Vb
Hb
(5-16)
伝熱管密度 Dt は,第 4 章の基礎試験結果より褐炭中含水率の高い第 1 室では 25
m2/m3,褐炭中含水率の低い第 2 室と第 3 室では 35 m2/m3 を与え,流動層高さ Hb は
3.5 m を与えた.このとき第 1 室では,床の形状を正方形とすると,床面積の平方根が
第 1 室の幅と長さとなる.次に第 2 室,第 3 室では幅を第 1 室の幅と同じとして,それ
ぞれの床面積から長さを決めた.これにより,第 1 室は正方形,第 2 室と第 3 室は幅方
向に長い長方形となった.
96
(5) 流動化蒸気量
流動化蒸気の速度 uf,及び流動層の面積 Sb と高さ Hb が得られたので,流動化蒸気
の供給量 Ff と絶対圧力 pf は次式で与えられる.分散板の圧損を含む流動化蒸気系
統の圧損は,流動層の圧損の 0.5 倍とした.
Ff  u f S b  f  3600 / 103
(5-17)
pf  0.1  H b  p (1   b ) g / 10 6  1.5
(5-18)
ここで,ρs は水蒸気の密度,ρp は褐炭粒子の見掛け密度,εb は流動層の空隙率,g
は重力加速度を示す. pf の単位は[MPa]である.
以上より得られた乾燥装置の概念設計の結果を Table 5-3 に示す.ここで,水蒸気
の圧力は全て絶対圧力であり,加熱用蒸気は絶対圧力 0.4 MPa の飽和蒸気と仮定し
て蒸気量を算出した.
また,1 室構造の完全混合式の乾燥装置についても,同じ基本計画条件で概念設
計を行った.このときの管外伝熱係数と伝熱管密度は,3 室構造の各室の値を伝熱面
積により加重平均した値を使用した.3 室構造の多段式との比較を Table 5-4 に示すが,
1 室構造の完全混合式では,流動層全体で含水率が 12%,流動層温度が 111℃となり,
3 室構造の多段式に比べて加熱用蒸気との温度差が小さくなるため,流動層の床面
積が 14%大きくなると試算された.
97
Table 5-3 Results of conceptual design of steam fluidized bed dryer
Chamber
Moisture content
m [%-wet]
o
No.1
No.2
No.3
Total
53
39
12
-
Bed temperature
T b [ C]
101
103
111
-
Fluidizing steam velocity
u s [m/s]
0.31
0.21
0.15
-
Q d [MW]
31
26
27
83
Bed height
H b [m]
3.5
3.5
3.5
-
Bed area
S b [m ]
52
26
34
112
Bed width
W b [m]
7.2
7.2
7.2
-
Bed length
L b [m]
7.2
3.6
4.7
15.5
Feed rate
F h [t/h]
52
43
45
141
Pressure
p h [MPa]
0.40
0.40
0.40
-
Feed rate
F f [t/h]
33
11
11
55
Pressure
p f [MPa]
0.12
0.12
0.12
-
Heat input rate
Heating
steam
Fluidizing
steam
2
Table 5-4 Comparison between two types of dryers (three chambers vs. one chamber)
Type of dryer
Three chambers
One chamber
53 / 39 / 12
12
Moisture content
m [%-wet]
Bed temperature
T b [ C]
101 / 103 / 111
111
Fluidizing steam velocity
u s [m/s]
0.31 / 0.21 / 0.15
0.15
Q d [MW]
83
83
H b [m]
3.5
3.5
Heat input rate
Bed height
o
2
Bed area
S b [m ]
112
128
Bed width
W b [m]
7.2
11.3
Bed length
L b [m]
15.5 (7.2 / 3.6 / 4.7)
11.3
Heating
steam
Feed rate
F h [t/h]
141
141
Pressure
p h [MPa]
0.40
0.40
Fluidizing
steam
Feed rate
F f [t/h]
55
40
Pressure
p f [MPa]
0.12
0.12
98
5.4 エネルギー効率の試算
5.3 の概念設計結果をもとに,乾燥装置で発生した蒸気の一部を流動化蒸気として
再循環させるとともに,残りの蒸気を圧縮機で圧縮して乾燥装置の熱源とした.
まず加熱用蒸気の圧縮機について,入口,出口の蒸気の絶対圧力 ph1,ph2 は,そ
れぞれ 0.1 MPa,0.4 MPa である.このとき,断熱圧縮に関する Poisson の法則より,入
口,出口の温度をそれぞれ Th1,Th2 とし,γ を蒸気の比熱比として次式が与えられる.γ
は,水蒸気の場合 1.31 である.
Th2  ph 2 


Th1  ph1 
( 1) / 
(5-19)
これにより圧力と温度が得られるので,エンタルピーが求まる.蒸気圧縮機の動力
Ph は,入口と出口の蒸気のエンタルピー差に蒸気量 Fh を乗じ,圧縮機効率ηh で除す
ることにより得られる.ηh は,一般的な値として 0.85 とした.
Ph  E h1  E h2   Fh /  h / 3600
(5-20)
次に,流動化蒸気を昇圧するためのブロワについて,入口,出口の蒸気の絶対圧
力 pf1,pf2 は,それぞれ 0.1 MPa,0.12 MPa である.このとき,蒸気圧縮機と同じく,入
口,出口の蒸気の温度を Tf1,Tf2 とし,γ を蒸気の比熱比として次式が与えられる.γ は
水蒸気の場合 1.31 である.
Tf2  pf 2 


Tf 1  pf 1 
(  1) / 
(5-21)
ブロワの動力 Pf も,入口と出口の蒸気のエンタルピー差に蒸気量 Ff を乗じ,圧縮機
効率ηf で除することにより得られる.ηf は,一般的な値として 0.85 とした.
Pf  E f1  E f2   Ff /  f / 3600
(5-22)
これより,蒸気圧縮機とブロワについて,入口,出口の蒸気のマス・ヒート・バランスと
所要動力を計算した結果を Table 5-5,Table5-6 に示す.
以後,加熱用蒸気,流動化用蒸気の温度,圧力などの状態量は,それぞれ蒸気圧
縮機,蒸気ブロワの出口での値とする.
99
Table 5-5 Mass and heat balances of steam compressor
Item
Symbol
Compressor inlet steam
Compressor outlet steam
Value
o
Temperature
T h1 [ C ]
105
Pressure
p h1 [MPa]
0.10
Enthalpy
E h1 [kJ/kg]
2686
Tamperature
T h2 [ C ]
260
Pressure
p h2 [MPa]
0.40
Enthalpy
E h2 [kJ/kg]
2985
ΔE h [kJ/kg]
299
F h [t/h]
114
P h [MWe]
11.1
o
Increase of enthalpy
Feed rate of steam (=Evaporated water)
Compressor power consumption
Table 5-6 Mass and heat balances of steam blower
Item
Symbol
Value
o
Temperature
T f1 [ C ]
105
Pressure
p f1 [MPa]
0.10
Enthalpy
E f1 [kJ/kg]
2686
Tamperature
T f2 [ C ]
122
Pressure
p f2 [MPa]
0.12
Enthalpy
E f2 [kJ/kg]
2719
ΔE f [kJ/kg]
33
Feed rate of fluidizing steam
F f [t/h]
55
Blower power consumption
P f [MWe]
0.59
Blower inlet steam
Blower outlet steam
o
Increase of enthalpy
ここで,乾燥装置において,乾燥に必要な熱量 Qd は次式で与えられる.
Qd  Q h  Qf  Qa
(5-23)
Qh:圧縮機で圧縮された加熱用蒸気が伝熱管内で凝縮し放出する熱量
Qf:ブロワで昇圧された流動化蒸気が流動層内粒子に与える熱量
100
Qa:外部から供給される加熱用蒸気が伝熱管内で凝縮し放出する熱量
(Qh と Qf の合計では不足する乾燥熱量の補完)
加熱用蒸気は乾燥装置の伝熱管内において全て凝縮して潜熱を放出し,流動化
蒸気はその顕熱を流動層に与えるとして,蒸気の供給量とエンタルピー(温度,圧力)
により計算したマス・ヒート・バランスを Table 5-7,Figure 5-5 に示す.
Table 5-7 Heat balance of drying system
Item
Symbol
Value
Q d [MW]
83
Compressed steam
Q h [MW]
75
Fluidizing steam
Q f [MW]
0.5
Outer steam
Q a [MW]
7.8
F a [t/h]
13
Heat for drying
Heat input
Feed of saturated steam
Raw coal
F=200 t/h
m=62%
T=70oC
Heating
steam
F=13 t/h
T=144oC
p=0.4 MPa
Qa
Qh
Steam
F=169 t/h
T=105oC
p=0.1 MPa
Fluidized bed dryer
T=101-111oC
p=0.1 MPa
Water
F=127 t/h
T=144oC
p=0.4 MPa
Qf
Compressor
11.1 MWe
Blower
0.6 MWe
Fluidizing
steam
F=55 t/h
T=112oC
p=0.12 MPa
Dried coal
F=86 t/h
m=12%
T=111oC
Fig. 5-5 Mass and heat balances of brown coal drying system
101
Heating
steam
F=114 t/h
T=260oC
p=0.4 MPa
褐炭 200 t/h を含水率 62%から 12%まで乾燥させる乾燥システムにおいて,乾燥に
必要な熱量 Qd は 83 MW である.これに対して,乾燥システムを設置することにより,
外部から供給する熱量 Qa は 7.5 MW まで低減できる.ただし,蒸気圧縮機で 11 MWe,
蒸気ブロワで 0.6 MWe の電気エネルギーが必要である.
乾燥装置のエネルギー効率について検討する.まず,冷暖房機器などで使用され
る COP(Coefficient of performance,成績係数)は次式で与えられる.
COP 
Qd  Qa
Ph  Pf
(5-24)
この式にマス・ヒート・バランスの値を代入すると,褐炭乾燥システムの COP は 6.5 と
なる.電気エネルギーは熱エネルギーよりもエクセルギーが高いが, COP では同列
に取り扱われている.含水率 60%程度の褐炭を使用した場合の高位発熱量(HHV)ベ
ースの発電端効率は,従来の発電所では 26~30%,IGCC では 38~42%である.その
ため,電気エネルギーを,その電気エネルギーを得るために必要な熱エネルギーに
換算した場合,エネルギー消費量の比率 rd は次式で与えられる.
rd 
Ph  Pf  /  g
Qd  Qa
 100
(5-25)
ここで,ηg は発電所における発電端効率であり,IGCC では 40%として,マス・ヒート・
バランスの値を代入すると,rd=39%が得られる.
この値は圧縮機を経由する蒸気のみを対象とした場合のエネルギー消費率である
ため,外部から供給する加熱用蒸気も含めた乾燥システム全体としてのエネルギー消
費の比率は次式で与えられる.
rs 
Ph  Pf  / g  Qa
Qd
 100
(5-26)
同じくηg=40%として,マス・ヒート・バランスの値を代入すると,rs=44%が得られる.また,
エネルギー回収率は100%から44%を差し引くと56%となり,褐炭乾燥システムを導入
することにより,外部から与えなければならないエネルギーを,水の蒸発に必要な熱エ
ネルギーの半分以下に低減することが可能である.
次に,褐炭中の水分が発電効率に与える影響について検討する.褐炭の無水無灰
ベースの高位発熱量は Table1-1 に示すように 25~30 MJ/kg であるが,例えば含水率
102
62%,灰分 5%の褐炭では,このうち 15~18%が水分の蒸発熱として消費される.さら
に,褐炭では燃焼ガス中の水蒸気が多くなることから,硫酸ミストの発生を抑制するた
めに排ガス温度を高く設定する必要があり,熱損失が増大する.含水率の少ない瀝青
炭焚きの発電所では,高位発熱量(HHV)ベースでの発電端効率は 35~40%である
が,褐炭焚きの発電所では発電端効率が相対的に 25%程度低下し,発電端効率は
26~30%となる.特に,年代の古い褐炭焚き発電所での発電端効率が低い.
このような褐炭焚き発電所に予備乾燥システムを導入し,予備乾燥した褐炭を供給
することにより,発電端効率の相対的な低下は半分の 12%程度となり,発電端効率は
30~35%となり,約 5%の改善が見込まれる.IGCC においても,瀝青炭焚きでは高位
発熱量(HHV)ベースでの発電端効率は 45~50%であるが,褐炭焚きでは 38~42%
まで低下する.これに予備乾燥システムを導入し,予備乾燥した褐炭を供給すること
により,発電端効率は 42~46%となり,約 4%の改善が見込まれる.
このような乾燥による発電端効率の向上は CO2 排出量に繋がり,CO2 排出量原単位
は 1 100 kg-CO2/MWh 程度から 700 kg-CO2/MWh 程度まで約 35%低減される.これを
図示したものが,Figure 5-6 である.
CO2 emittion [kg-CO2/MWh-Gross]
1,200
Conventional brown coal PS
1,100
Without LTR
1,000
With LTR
900
Brown coal IGCC
Without LTR
800
With LTR
700
600
LTR : Latent Heat Recovery
500
25
30
35
40
45
50
Gross thermal efficiency [%, HHV base]
Fig. 5-6 Gross thermal efficiency in brown coal fired power plants
103
このように,発生した水蒸気を圧縮して潜熱を回収する蒸気流動層乾燥装置は,褐
炭焚き発電所における発電効率の向上と CO2 排出量の削減に有効である.
104
記 号
Ar
= Archimedes number
[-]
C
= specific heat capacity
[J/(kg・K)]
d
= diameter
[m]
D
= density of tubes
[m2/m3]
E
= enthalpy
[kJ/kg]
F
= feed rate
[t/h]
G
= mass velocity
[kg/s]
h
= moisture content in dry base
[%-dry]
H
= height
[m]
J
= heat of evaporation
[J/kg]
K
= overall heat transfer coefficient
[W/(m2・K)]
L
= length
[m]
m
= moisture content in wet base
[%-wet]
p
= pressure
[MPa]
P
= power consumption
[MW]
Q
= heat rate
[MW]
r
= energy consumption rate
[%]
Re
= Reynolds number
[-]
S
= area
[m2]
t
= time
[s]
T
= temperature
[oC]
u
= superficial gas velocity
[m/s]
Umf
= minimum fluidization velocity
[m/s]
V
= volume
[m3]
W
= width
[m]
x
= quality of steam
[-]
105
α
= correction factor of angle of repose
[-]
γ
= ratio of specific heat
[-]
λ
= heat conductivity
[W/(m・K)]
η
= efficiency
[-]
μ
= viscosity
[Pa・s]
ρ
= density
[kg/m3]
θ
= angle of repose
[oC]
<Subscripts>
a
= addition
b
= fluidized bed
c
= coal
cr
= critical
d
= dryer
f
= fluidizing steam
h
= heating steam
i
= inlet of dryer
o
= outlet of dryer
p
= particle
r
= raw coal
s
= drying system
t
= heat transfer tube
w
= water
106
参考文献
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Fluidized Beds,” the Heat Transfer Division of The American Society of
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Wen, C. Y. and Y. H. Yu; “A Generalized Method for Predicting the Minimum
Fluidization Velocity,” AIChE J., 12, 610–612 (1966)
107
第 6 章 結論
褐炭は含水率が高いために付着性があり,また幅広い粒度分布を有する.蒸気を
流動化ガスとする流動層乾燥装置の設計を可能とするために,湿炭基準の含水率が
約 62%の褐炭 3 種類を使用して,流動化特性,乾燥特性,伝熱特性に関する基礎試
験を実施し,次の結果を得た.
(1) 全ての褐炭粒子が流動化を開始する完全流動化開始速度の推算式を提案した.
Wen and Yu(1966)の式において,褐炭粒子の粒径と見掛け密度を含水率により
補正し, Rosin and Rammler (1933) の式のパラメータにより代表粒径を与えて計
算し,含水率が 30%より多い範囲では,付着性を定量化する指標として安息角を
使用して補正した.これによる計算値と試験結果は良く一致した.
(2) 褐炭の初期含水率は乾炭基準では約 160%-dry であるが,そのほとんどは定率乾
燥され,限界含水率は約 35%-dry であった.平衡含水率は流動層温度によって
変化し 115℃では 10%-dry,130℃では 5%-dry であった.水蒸気中であるため拡
散の影響は無視し,流動層温度と蒸発潜熱を含水率の関数として褐炭の乾燥を
モデル化した.これによる計算値と試験結果は良く一致した.
(3) 管外伝熱係数は,Andeen and Glicksman (1976) の式において,褐炭粒子の粒
径と見掛け密度を含水率により補正し,代表粒径として質量基準の 50%径を与え
た.これによる計算値と試験結果は良く一致した.水分が 30%より多い付着性のあ
る褐炭では,伝熱管密度(=単位体積あたりの伝熱管の外表面積)が 20 m2/m3 を
越えると管外伝熱係数が低下することを把握した.また,褐炭では,伝熱管にフィ
ンを取り付ける効果は小さいことを把握した.
以上のように,褐炭の蒸気流動層乾燥に関する基礎データを取得し,乾燥装置の
設計を可能とした.この設計手法により,200 t/hの3室構造の蒸気流動層乾燥装置の
概念設計を実施した.褐炭から発生した水蒸気を圧縮して潜熱を回収するシステムの
エネルギー効率を試算したところ,外部から与えなければならないエネルギーを,水の
蒸発に必要な熱エネルギーの約半分に低減することが可能であるとの結果が得られ
た.
108
謝 辞
本論文は,平成 22 年度から 24 年度まで 3 年間の経済産業省の補助事業「高効率
褐炭乾燥システム研究」の一環として実施しました研究をもとに執筆いたしました.補
助事業の実施にあたり,ご指導とご支援を頂きました経済産業省 資源エネルギー庁
石炭課の関係者の方々,また技術検討委員会の委員の先生方に感謝いたします.
特に,技術検討委員会の委員として補助事業をご指導頂くとともに,この論文の作
成にあたり懇切にご指導頂きました新潟大学工学部 清水忠明教授に感謝致します.
また,補助事業を共に実施頂くとともに,本論文の執筆にあたり,ご指導,ご支援を
頂きました,三菱日立パワーシステムズ(株)の木下正昭氏,石井弘実氏,大浦康二氏,
吉田章吾氏,三菱重工業(株)技術統括本部の(燃焼研究室)鳥居功氏,鈴木武志氏,
高島竜平氏,阿部晋太郎氏,(伝熱研究室)福田憲弘氏,香月紀人氏,浦川靖崇氏,
竹之下和弘氏,(化学研究室)土山佳彦氏,澤津橋徹哉氏,垣上英正氏 をはじめと
する関係者の方々に感謝いたします.
109
Fly UP