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本文 - J
CIDNPに
よ る有 機 ラ ジ カ ル反 応 機 構 の研 究
岩
Elucidation
of Organic
Free
Radical
Reaction
村
Mechanisms
秀*
by CIDNP.
Hiizu
1.
緒
tionが
書
両 方 現 わ れ る,な
は,Clossら12)お
比 較 的 迅 速 な ラジ カ ル反 応 をNMRス
ペ ク ト ロメ ー
absorptionが
ど の 効 果 を も説 明 す る た め に
よ びKapteinら13)が
独 立 に 提 唱 した
理 論 の 方 が 優 れ て い る と み な され る べ き で あ ろ う.
タ ー の磁 場 の 中 で 行 な う と,反 磁 性 で あ る最 終 生成 物 の
ス ペ ク トル に,emissionやenhanced
IWAMURA*
今,多
現
重 度mを
R1・ ・R2(H)が
持 つ 出 発 物 質Mか
ら ラ ジ カ ル 対(H)
生 成 し,τ 秒 の 平 均 寿 命 の 後 に 溶 媒 の 作 る
わ れ る こ とが 最 近 報 告 され る よ うに な った 。核 ス ピ ンの
cageの
鋤 的 分極 が化 学 反 応 に よ って 誘 起 され た と見 な され る と
す る 。 ラ ジ カ ル 対 の 各 成 分 は そ れ ぞ れg1,σ
こ ろか ら,こ の 現 象 はCIDNP(chemically
dynamic
induced
Land'e因
nuclear polarization)と 呼 ばれ る1)。分 光 学 的
な手 法 と して は,従 来ESRス
R1上
は,あ
子 交 換 結 合 定数
の プ ロ ト ン1個
与 え るも の と
、 とい う
」。.な ら び に プ
持 つ 。 説 明 の 便 宜 上,
だ け が 超 微 細 結 合 を 持 つ と仮 定 す
る 。 こ の ラ ジ カ ル 対 を 記 述 す る 波 動 関 数 のbasissetは
グ ナル が 必 ず しも主 反 応 とは 結 び つ か
ない とい う大 きな 欠 点 が あ った 。CIDNPで
子 を 持 ち,電
ロ ト ン と の 超 微 細 結 合 定 数Aを
ペ ク トル が反 応 中 間 体 の
ラ ジ カル を直 接 検 出 し て き た が,こ れ に は 定 常 濃 度 の
制 約 や,ESRシ
中 で 結 合 生 成 物(H)R1-R2(H)を
8αN,T+1αN,T0αN,T-1αN,SβN,T+1βN,T0βN,T-1βN
くま
の8個
で 生 成 物 の ス ペ ク トル を観 測 して お り,ラ ジ カ ル 中 間 体
で あ り,ス
ピ ンHamiltonianは
れ る 。 た だ しSとTと
〔1〕 式 で 与 え ら
は結 合 電 子 対 の多 重 度 を示 す 関 数
の 寿 命 につ い ての 制 限 もゆ る く,有 機 反 応 論 の 新 しい 手
法 の一 つ と して非 常 に優 れ た もの で あ る と期 待 され る.
〔1〕
定 性 的 に利 用 され た だ けで も,過 去2年 間 あ ま りで,従
で あ り,αN,βNは
来 イ オ ン反 応 ま た は協 奏 反 応 で 進 行 す る と思 わ れ て い た
核 ス ピ ン状 態 を あ らわす.
緊 密 な遊 離 基 対 で は一 般 にJee》│A│>0が
成 立 し,
数 多 くの反 応 が 実 は ラジ カル 対 を 中間 体 とす る こ とが 実
三 重 項 状 態 と一 重 項 状 態 は 明確 に区 別 され,前 者 はcage
証 され て きた 。 これ らを網 羅 して論 ず る こ と は,著 者 の
外 に解 離 して行 くか,intersystem clossingで 後 者 に も ど
能 くす る とこ ろで は ない 。 こ こで はCIDNPの
る 。一 重 項 状 態 は一 定 の確 率 で生 成 物 を与 え る 。溶 液 中
実 験 例,
現 われ 方,有 機 反 応 機 構 の 研 究 に ど う応 用 で き るか を著
の ラジ カル 対 に お け るJeeの 大 き さは,熱 振 動 に伴 う相
者 らの研 究 を 中心 に紹 介 してみ た い2∼10).
II.
理
互 配 置 の変 化 に依 存 して変 化 し,こ のモ デ ル で は 」..が
突然 減 少 し106∼107Hzに
論
な る もの と 考 え る。 そ うす
る と条 件Jee〓│A│>0が
CIDNPが
gon1,11)の
見 出 さ れ た 初 期 の 段 階 で はFischerとBar・
提 唱 し たcross
relaxation機
説 明 し て い る と考 え られ た が,そ
果 の 限 界(660)を
ii)一
T0状
構が現象 をよ く
態 とが,mixingを
て再 びJee》│A│>0に
の 後i)Overhauser効
成 立 し,ス ピ ン 関 数 の8と
起 こす 。反 応 座 標 に した が っ
も ど り生 成 物 を与 え る 過 程 は,
そ の ラジ カル 対 が 核 ス ピ ン αNを 持 つ か βNを 持 つ か で
越 え る 分 極 が ひ ん ぱ ん に 観 測 さ れ る,
〔2〕式 に よ り記 述 され る.
組 の 多 重 線 の 中 にemissionとenhancedabsorp-
*
東京大学理学部化学教室
*
Department
University
of Chemistry,
of Tokyo
〔2〕
Faculty
of
Science,
時 間 の 入 ったSchr6dingerの
連 立 方程 式 〔3〕が 生れ,ラ
15
方 程 式i∂φ/∂t=Hgか
ら
ジ カル 対 が 生 じた 時 σ=0)
16
有機合成化学
第29巻 第1号(1971)
使 う と,ス
(16)
〔3〕
ピ ンカ ップ リ ング で 分裂 した多 重 線 に現 われ
るemissionとenhanced
absorptionの
せ も 満 足 に 説 明 で き る(図4dに
複 雑 な組 み 合 わ
こ れ を 例 示 し た)。 さ
ら に ∠9=10『3,A=2.5×108,」=108rad・sec一1,τ
に はm=1と
(0)-0を
言 う境 界 条 件,す
なわ ちC。 ±(0)-1,C7。 士
入 れ て 積 分 す る と 〔4〕式 を 得 る。 三 重 項 状 態
か ら ラジ カ ル対 が 生 ま れ た 時 には この 逆 にな る.
秒,んSE=0.98と
・=10-9
言 う典 型 的 な 三 重 項 状 態 か ら生 じ た ラ
ジ カ ル 対 の 反 応 に は60MHz,300。KでP-+-4×103と
い う大 き さ が 導 か れ,Overhauser効
果 の限界に も 抵 触
し な い12).
III.
〔4〕
CIDNPの
実
験
法
検 出 は,そ の 反 応 が ラ ジカ ル対 を経 過 して
い る こ との 必 要 条 件 で は あ っ て も十 分 条 件 で は ない.
た だ し
んSEや
(H)R、-R、(H)の
生 成 は ラ ジ カル 対 の 一 重 項 性 に依 存す
るか ら,そ の生 成 速 度 は 〔C。
±(の〕2に 比 例 す るは ず で
あ る.
∠9が 小 さ けれ ば,P-+の
絶 対 値 も小 さ くな り,
検 出 で き ない こ とが あ る。 ま た何 らか の理 由 で,生 成 物
のス ピ ンー格 子 緩 和 時 間 が 短 か くな る と,大 き な分 極 も
速 や か に消 失 す る。反 応 溶 液 の遊 離 基 の定 常 濃 度 が 高 す
〔5〕
す な わ ち水 素 原 子 上 の電 子 ス ピノ密 度 は振 動 して お り,
電 子 ス ピン α ま た は β を見 出 す 平 均 的 確 率 は そ の水 素
原 子 核 の ス ピ ン状 態 で違 っ て くる こ とに な る 。 ラジ カル
対 の平 均 寿 命 に わ た っ て これ を平 均 す る と,〔6〕 式 を得
ぎ る と この よ うなnegativeな
結果 が で て くる。 理 論 的
に は τに は制 限 は な い が,実 際 問題 と して10-12秒
が限
度 の よ うで あ る。 した が って,反 応 試 剤 の 濃 度 や反 応 温
度 を 調 節 し,CIDNPが
観 測 され る条 件 を 系 統 的 に 検 索
す る必 要 も生 じる。 磁 気 テー プ な ど の記 憶 装 置 を用 い,
比 較 的 短 時 間 で のス ペ ク トル 変 化 を ゆ っ く り再 生 す る技
術11)が利 用 され,ま た こ の 目的 には 近 時 開 発 され つ つ あ
〔6〕
るパ ル ス に よ る 共 鳴 吸 収 一Fourier変 換 法15)が 有用 で あ
る 。 こ の 式 は 核 ス ピ ン状 態
な る速 度
測+お
し,49とAと
よび
αNお
よ び βNが
る と期 待 され るが,多
くの揚 合,生 成 物 の シ グナ ル が 予
測『 で 生 成 して く る こ と を 意 味
が 同 符 号 な ら ば"+〉
測 一〉 測+と
一般 に は 異
測 一,異 符 号 な ら ば
な る 。 核 ス ピ ン 準 位 問 の 分 布 は,熱
平衡 時 の
想 され る狭 い 領 域 を100∼250sec/1000Hzで
く り返 し掃 引 す れ ば 十 分 で あ る。 目的 とす る プ ロ トンの
ス ピ ンー格 子 緩 和 時 間(T1)の
そ れ と く ら べ る と,前
者 で は αNが
が 濃 い 。 し た が っ てNMRス
ancedabsorption,後
濃 く,後
者では
βN
ペ ク トル は 前 者 で はenh-
者 で はemissionと
な る 。 こ の 際,
手 早 く,
測 定 に は,速 い断 熱 通 過
の方 法 に よ って 反 転 させ た 磁化 の 回 復 を 追 うの が 便 利 で
あ る14)。一 方positiveな
結 果 が 得 られ た 場 合 に は,反
応 お よび 分 極 の 経 時 変化 を定 量 的 に 観 察 す る こ と に よ
分 極 の 大 き さ は 〈1_+〉一 〈」L÷〉。/〈L+〉。 と 定 義 され る
べ き で あ る か ら,〔7〕
式 で 与 え ら れ る 。 た だ し 〈1.+〉 お
り,意 味 の な い ビー トと誤 認 す る危 険 も さけ られ,反 応
機 構 の定 量 的 な解 析 の 一 助 とな る.
IV.
〔7〕
ラ ジ カ ル 付 加 反 応 とCIDNP4,58)
一 般 に多 重 結 合 に対 す る ラ ジ カル 付 加 は,stepwiseに
よび 〈1_+〉
。は,そ れ ぞれ,分 極 した状 態 な らび に熱 平
進 行 す る。ESRス
衡 時 の核 ス ピ ンの期 待 値 で あ る。 ま たkSE・werは
出 し,そ の構 造 か ら付 加 の 順 序 を 明 らか にす る可 能性 が
核ス
ピン に依 存 しない そ の他 の機 構 で増 え る状 態 密 度 を ま と
め た も の で あ る.
〔6〕,〔7〕
式 か ら明 らか な よ うにΔg一 〇 で はw+ーwー
あ る。CIDNPに
ペ ク トル に は,中
問 体 ラジ カル を検
も こ の種 の応 用 面 が 期 待 され る.
1,3一双 極 性 付 加 の反 応 性 で知 られ るニ トロ ン類(1),
(2)は,ラ
ジ カ ル反 応 で も1,3付
加 体(3),(4)を
与え
とな り,分 極 は現 われ ない 。 す な わ ち ラ ジ カル 対 に お け
るこ とが最 近,岩 村,稲 本16)に よっ て 明 らか に され た。
るhf結
付 加 の順 序 は,一 般 に,よ
mixingで
合 と σ シ フ トに よ る 一 重 項 一三 重 項 状 態 の
分 極 が 起 こ る こ とが わか る。 多 核 ス ピン系 に
つ い て も 〔6〕,〔7〕
式 を一 般 化 した も のが 導 か れ,こ れ を
り安 定 な ラ ジ カル 中 間体 を与
え る方 向 に進 行 す る も の と考 え られ るが,こ の揚 合 α一
ア ミノ ベ ンジル 型 ラジ カル(8)よ
りも ニ トロキ シ ドラ ジ
CIDNPに
(17)
カル(5),(6)の
17
よる有機 ラジカル反応機構の研究
方 が 明 らか に 安 定 で あ るか ら,最 初 の ラ
ジ カル は ニ トロ ンの 炭 素 原 子 を攻 撃 す るも の と考 え る の
が 妥 当で あ る。α,α'一
ア ゾ ビ ス イ ソブ チ ロニ トリル の熱
分 解 で生 成 す る1一 シ ア ノー1一
メ チ ル エ チ ル ラジ カル の付
加 の場 合 に は,実 際 にニ トロキ シ ドラジ カ ル(7)が 単 離
され る こ とが あ り,付 加 の順 序 に 関 す る上 の考 え が支 持
され る。 以 前 か ら知 られ てい るニ トロ ソベ ンゼ ンへ の ラ
ジ カル 付 加 も,同 様 に窒 素 原 子 へ の 攻 撃 か ら始 ま る とみ
な され る17)。これ らの反 応 でCIDNPは
どの よ うな現 わ
れ 方 をす る で あ ろ うか.
〔8〕
〔9〕
図1
N一 フ ェニ ル ニ トロ ン(1)に
対 す る1一 シ ア ノー1一
メチ ルエ チ ル ラ ジ カ ル の付 加 反応 に おい て 観 則 さ
れ るCIDNP.
反応 開始 か ら,そ れ ぞれa)20秒b)40秒c)100秒
d)137秒
後 に250sec/loooHzで
掃 引 した.
実、
験 例1.50mgのN一
mgの
テ トラ ク ロ ル エ タ ン に 溶 か し,NMRの
封 入 す る 。Varian社
MHz)の
プ ロ ー ブ を あ ら か じめ130。Cに
当 な 時 間 か らC-Me領
光 器(100
加 熱 し て お き,
媒 の シ グ ナ ル で ロ ッ ク し,適
域 の ス ペ ク トル を250sec/1000
く り返 し 掃 引 記 録 す る 。 図1に
た 。 内 部 標 準TMSか
ら δ1.66ppmに
の 半 減 期 は 約20秒
そ の一 部 を示 し
現 わ れ る α,α'ー
と算 出 さ れ る(図2の
現 わ れ て く る。1.41お
り,約80秒
で 見 掛 け上 消 失 し,150秒
よび1.88ppmの
よ
で 強 度 が 極 大 とな
後 に は1.19お
ピー ク と等 強 度 に ま で成 長 す る 。 同上
の 試 料 につ い て,各C-Meシ
グ ナ ル を別 個 に く り返 し
測 定 す る と(実 験 例2参 照),図2の
よ うに な り,ス ペ
ク トル 強 度 の 経 時 変化 が よ くわ か る.
ア ゾ ビ ス イ ソ ブ チ ロ ニ ト リル の 吸 収 強 度 は 単 調 に 減 少
し,そ
新 しいsingletが
び1.70ppmのemissionは40秒
試 料 管 に 脱 気,
製HA-100D型NMR分
こ れ に 試 料 管 を 挿 入 し,溶
Hzで
1.88PPmに
フ ェ ニ ル ニ ト ロ ン(1)と14
α,α'一ア ゾ ビ ス イ ソ ブ チ ロ ニ ト リル を0.4mZの
点 線).
ヒ ドロ キシ ル ア ミ ン(3)の 標 準 ス ペ ク トル と比較 す る
こ と に よ り,最 終 的 に 等強 度 とな る δ1.18∼1.88ppmの
4本 のシ グ ナ ル がC-Me基
のそ れ と 帰 属 で き る。 これ
らが2本 で な く4本 に 分 か れ て い る の は,不 整 炭 素 原 子
こ の 値 は α,α'一ア ゾ ビ ス イ ソ ブ チ ロ ニ ト リル 単 独 の 時 の
が 存 在 す るた め に,同 一 のCMe2CNグ
ル ー フ.上の2個
半 減 期(1300C)に
の メチ ル 基 が 互 い にdiastereomericと
な って い る か ら
され る。 この 間
ssionが,1.23お
ionが
等 し く18),誘
発 分 解 は ない こ とが示
で あ る。 図2に 示 した こ の実 験 か ら,4個
δ1.30,1.41,1.70,1.95ppmにemiよ び1.92PPmにenhanced
観 測 さ れ る 。30秒
後 に は δ1.19,1.46お
absorptよび
あ るメ チ ル 基
の うち2本 だ け に核 ス ピ ンの 分 極 に 由来 す るemission
の で る こ とが 明 らか とな った 。 こ の興 味 あ る現 象 には 一
18
有機合成化学
第29巻 第1号(1971)
(18)
図2
ヒ ドロ キ シル ア ミン誘 導 体(3)の4本
のC-Meプ
ロ トン シ グ ナ ル強 度 の時 間 変化
点線は原料の一方である α,α'-ア
ゾビス イソブチ ロニ トリルのC-Meシ
グナル強度 の減少,す なわち
反応の進行を示 す.
実 験 を行 な う と,δ1.18,1.53,1。61お
のC-Meジ
ス ペ ク トル を 与 え る 。一 方 δ3.90お
CHお
よびN-Meシ
よび2.72ppmの
グ ナ ル の 強 度 は,反 応 の進 行 と共 に
急 激 に増 大 し,約60秒
生 成 物(4)の
よ び1.70ppm
グ ナル の う ち 真 中 の2本 だ け がemission
で 極 大 に達 した後 再 び 減 少 し,
最 終 濃 度 へ と漸 近 す る。 ヒ ドロ キ シル ア ミ
ン誘 導体 は反 応 条 件 下 で は安 定 で あ り,一 度 増 え た 濃 度
が途 中 か ら減 少 す る こ とは ない 。 こ の 図3に
効 果 はenhanced
absorptionで
現われた
あ る.
ニ トロ ソベ ンゼ ンへ の付 加 反 応 に お い て も,N-CMe2
図3
ヒ ド戸 キ シル ア ミン誘 導 体(4)の メ チ
ンプ 翼 トンお よびN-Meプ
ロ トンシ
CNと0-CMe2CNの
グナ ル 強 度 の 経 時 変 化
に 核 ス ピ ン の分 極 効 果 が 現 わ れ る。結 果 を 表1に
般 性 が 認 め られ,ニ
トロ ン(2)に つ い て こ れ と同様 の
した.
うち 一 方 の メチ ル シグ ナ ル だ け
要約
CIDNPに
(19)
図1中,δ1.46に
19
よる有機 ラジカル反応機構 の研究
現 わ れ て い る 強 いsingletは1一
シア
ぎ に よ る能 率 の よい 緩 和 を 受 け,2段
階 目の ラジ カル の
ノ ー1一メ チ ル エ チ ル 基 が 二 量 重 合 し て で き た 副 生 成 物 テ
攻 撃 を受 け る頃 に は定 常状 態 に 落 ち 着 い て い る可 能 性 が
ト ラ メ チ ル ス ク シ ノ ジ ニ ト リ ル(13)の
大 きい 。 した が っ て ヒ ドロキ シ ル ア ミ ン誘 導 体 に お い て
δ1.23と1.30お
よ び
absorption-emission対
は,ラ
核 ス ピ ンの分 極 が 観 測 され る メチ ル 基 のシ グ ナ ル は,反
ジ カル の 不 均 化 反 応 で 生
成 し た イ ソ ブ チ ロ ニ ト リル(15)お
リル(14)の
メ チ ル 基 で あ り,
δ1.92と1.95のenhanced
よび メ タ ク リロニ ト
メ チル 基 の シ グナ ル で あ る。 これ ら の生 成
応 の2段 階 目で(反 磁 性 最 終 生 成 物 にな る直 前 で)酸 素 原
子 の上 に導 入 され るCMe,CN基
今 ラジ カル 対(16)にClossら
の そ れ と結 論 され る.
の 理 論12)を適 用 す るた
量 は 反 応 の 最 終 ス ペ ク トル に は 現 わ れ な い ぐ ら い 少 な
め に ニ トロ キ シ ド 成 分 をR1・,1一 シ ア ノー1一
メ チル エ チ
い.
ル ラ ジ カル をR2・ とみ なす と,核 ス ピ ンの分 極 効 果 が期
表1
待 さ れ る の は,超
ヒ ドロキ シ ル ア ミン誘 導 体 に お け る 各 種 プ 戸 ト
ン シ グナ ル の 現 わ れ方
CH,N-Meお
微 細 結 合 定 数 が有 意 の大 き さ を持 つ
よ びR2上
のC-Meプ
トロ ン に 限 られ る
こ とが 判 る.
ニ ト ロ キ シ ド ラ ジ カ ル で は 一 般 に9、=2.006,ノ1CH-3,
AN-CH、-12gauss程
度 の 大 き さ を 持 ち,R・
に関 して は
σ2=2.003,Ac-cH3=21.5gauss(実
測 値)と
る か ら,〔6〕,〔7〕 式 に よ り,CHお
よ びN-Meプ
ン は 正 の,C-Meプ
み な され
ロ ト
ロ トン は負 の分 極 を受 け る こ とが支
持 さ れ る 。 結 論 と し て,置
換 基 の 電気 陰 性度 や 磁 気 異 方
性 を 手 掛 り と す る こ れ ま で の 方 法 で は 全 く不 可 能 で あ っ
たC-Meシ
ラジ カ ル付 加 が 段 階的 に起 こ る場 合,C(CH、)、CNグ
ル ー プのC-Meシ
グ ナ ル の 帰 属 が,こ
こ で 観 測 さ れ たCINP
の特 異 的 な 現 わ れ 方 か ら可 能 とな った こ とに な る。
グ ナ ル のす べ て に 核 ス ピ ン,分 極 効
果 が 現 わ れ るの で は な く,予 想 され る丁 度 半 分 に だ け こ
れ が 現 わ れ る とい う興 味 あ る現 象 は どの よ うに解 釈 され
るで あ ろ うか 。 何 らか の 理 由で(選 択 的 な窒 素 原 子 に よ
る 四極 子 緩 和 な ど),4個
のGMe基
の うち2個 だ け は
ス ピ ンー極 子 緩 和 時 間 が 異 常 に短 か く,従 来 な らば現 わ
れ る はず の分 極 が 観 測 で きな い 可 能 性 が 第 一 に考 え られ
る 。 しか しなが ら,早 い 断 熱 通 過 の方 法 で 測 定 して み る
験 誤 差 の 範 囲 で一 致す る の で,こ の可 能 性 は 否 定 さ れ
この方 法 に は か な り一 般 性 を持 った応 用 が期 待 され る
一方
,も し何 らか の方 法 で ス ペ ク トル の 帰属 が 明 らか な
る 。〔8〕,〔9〕
式 に示 した通 り,観 測 してい る反 磁 性 の ヒ
系 が あれ ば,逆 に ラジ カ ル付 加反 応 が どの よ うな 順序 で
ドロキ シル ア ミ ン誘 尊 体 は ニ ト ロキ シ ドラ ジ カル(5),
起 こ った か とい う反 応 機 構 を 論 ず る手 法 と もな り得 る.
と,(3)の
メ チル プ ロ トン のT1は
(6),(11)と1一
い ず れ も2.5秒
と実
シ ア ノー1一
メ チル エ チル ラジ カル の カ ッ
プ リング で 生 成 す る。 問 題 は ニ トPキ シ ド ラジ カ ル にす
で に 含 ま れ るCMe2CN基
の そ れ か,ま た は 後 で酸 素原
子 に付 加 す るCMe2CNグ
ル ー プ の メチ ル基 の い ず れ が
emissionを
出 して い るか とい う こ と に な ろ う。 さて前
V.
分 子 内転 位 反 応 の反 芳 香 族 性
(4N)とC亘DNP7,9)
隣接 す る カル ボ ア ニオ ン セ ン タ ーへ の1,2一 転 位 は,
普 通,分 子 内反 応 で あ り,転 位 す る炭 素 原 子 の立 体 配 置
者 の 核 ス ピ ン状 態 も,そ の 生成 した 時 点 に お い て は 分極
が 比較 的 よ く保 持 され る所 か ら,緊 密 な イ オ ン対 を 中間
を受 けて い た で あ ろ う こ とは 想像 に難 くな い が,10-4∼
体 とす る機 構 が提 唱 され て き た 。 しか しな が ら最 近,代
10-5秒 の寿 命 の 問 に不 対 電 子 の作 る大 き な 磁 場 の ゆ ら
表 的 なStevens転
位 にCIDNPが
観 測 され る とこ ろ か
20
有 機合成化学
第29巻 第1号(1971)
(20)
ら,ラ ジ カル 対 へ の解 離 再 結 合 機 構 が再 検 討 され る よ
うに な っ た。 こ こで は スル ポ ニ ウ ムイ リ ドのStevens転
位 の 例 を あ げ,一 般 に分 子 内 転 位反 応 でCIDNPが
観測
され るた めの 構 造 論 的 な特 徴 を指 摘 した い.
臭 化 ベ ン ジル メ チ ル フ ェナ シル ス ル ポ ニ ウム(17)に
ナ ト リウ ム メ トキシ ドを作用 させ る と,中 間 体 の ス ル ポ
ニ ウム イ リ ド(18)が
C
転 位 を起 こす 。Thomson
,Stevens
らは,対 応 す る ア ンモ ニ ウム イ リ ド との構 造 上 の類 比 か
ら,1,2一 転 位 生成 物(19)の
構 造 を考 え て き た が,最 近
こ れ は 間違 い で あ る こ とが わ か っ た21)。異 性 体 の イ リ ド
が 〔2,3〕シ グ マ トロ ヒ.一を した形 の(20)が
正 しい 構 造
b
a
で あ る 。 こ の 生 成 物 に は,試
もCIDNPは
み た 如 何 な る条 件 の も とで
観 測 さ れ な い19)。 イ リ ドを 単 離 し,非
ト ン性 溶 媒 中 で こ れ を 加 熱 す る と,最
り の1,2転
初 に 予 想 され た 通
位 生 成 物 が 得 ら れ る こ と がSch611kopfら
に
よ っ て 明 ら か に さ れ た20)。 こ の 転 位 生 成 物(19)に
>CH-CH2一
d
プ ロ
図4
a)ス ル ホ ニ ウ ム イ リ ド(21)の 転 位 反 応 で観 測 され る
CIDNP・b)同
上 反 応 完 了 後(δ3.68PPmの
強いシ グ
ナ ルは 過 剰 の ジ ベ ン ジ ル ス ル フ ィ ドのC馬
プ ロ トン)
c)(22)の 標 準 試 料 の ス ペ ク トル(溶 媒 ジ ベ ン ジル ス ル
フ ィ ド,190℃,100MHz).d)ラ
ジ カ ル対(23)を 経 て
生 ず る(22)に 予 想、され る計 算 ス ペ ク トル
図5
転 位 反 応 生 成 物(22)の>CH-CH、
強 度の経時変化
は,
部 分 に 顕 著 なenhancedabsorption-emission
が 観 測 さ れ る.
著 者 ら は,ジ
ベ ン ジル ス ル フ ィ ドにベ ンザ イ ン を作用
さ せ て 得 ら れ る ス ル ポ ニ ウ ム イ リ ド(21)の
詳 細 に 調 べ た 。190。Cに
転 位反 応 を
加 熱 し たNMRのcavity中
で,
ジ ベ ン ジ ル ス ル フ ィ ドを 溶 媒 に 用 い,1-(2一
カルボキシ
フ ェ ニ ル)-3,3一
熱 分解 す る
と,100秒
後 に
ジ メ チ ル ト リ ア ゼ ン(22)を
図4aの
ス ペ ク トル が 得 ら れ る 。600
秒 後 に 反 応 は 完 了 し,ス ペ ク トル は 図4bと
な る。 別 途
に 合 成 した 標 準 試 料 の ス ペ ク トル(図4c)と
重 ね合 わ せ
ら れ る こ と か ら,分
極 を 示 し て い る ピ ー ク は1,2一
ジフ
ェ ニ ル エ チ ル フ ェ ニ ル ス ル フ ィ ド(22)の>CH-CH2一
部 分 で あ る こ と が 判 る 。 こ の 部 分 の ス ペ ク トル は,図5
に示 した経 時 変 化 を示 す 。 す な わ ち メ チ レン プ ロ ト ンは
emission,メ
チ レ ン プ ロ ト ン はenhancedabsorptionと
一プ ロ トン シ グ ナ ル
CIDNPに
(21)
21
よる有機 ラジ カル反応機構の研 究
な る よ うな 分極 で あ る 。反 応 は 〔10〕式 に した が って進
表4
CIDNPが
観測 され てい る分子内転位反応
〔1,2〕 転 位
行 す る も の と考 え られ る.
〔10〕
図4cの
ス ペ ク トル を 解 析 す る と,こ
JAB=7.6HzのAB2ス
の 系 のmixing係
8は
表3と
れ が δAB-118Hz,
ヒ。ン 系 で あ る こ と が わ か る 。 こ
数Mjは
表2で
与 え ら れ,遷
移1∼
な る か ら分 極 を 受 け た 計 算 ス ペ ク トル を
〔6〕,〔7〕式 の 一 般 式 に し た が っ て 求 め る こ と が で き る.
今R1・=PhCHSPh,R2・=・CH、Phと
108,
A2==-2.9×108,
置 き,A1=-2.2×
㎜er>50πj,σ
Jee=108rad.sec一1,
τ==10一9sec,
、-2.0035,g,-2.0025と
表2
AB2ス
表3
仮
定
す
る
と
ピ ン系 に対 す るMj
AB2ス
ピ ン系 の 遷 移
表5
図4dが
得 られ,実 測 スペ ク トル と満 足 な一 致 を示 す.
(22)を 与 え る転 位 反 応 が ラジ カル 対(23)を
経 過 す る確
証 が こ こ に得 られ た.
CIDNPが
反 応 中 に 観 測 され,し
たが っ て ラ ジ カル
対 を 中 間体 とす る こ とが 明 らか とな っ た分 子 内 転 位 に
は,こ れ ま で次 の よ う な も の が あ る(表4)。
例 は,い わ ゆ るStevens転
位,Wittig転
最 初 の4
位 で あ り,Meisenheimer転
位 が これ に続 く。 こ れ らの 例 と は逆 に,
ラジ カ ル反 応機 構 が 示 唆 され て い る に もか か わ らず,ど
う して もCIDNPが
観 測 で きな い反 応 が い くつ か あ る.
CIDNPが
観測 されない分子内転位
22
有機合成化学
第29巻 第1号(1971)
(22)
め て見 る 時,協 奏 反 応 で進 行 す る も の とす る と,そ こ に
3中 心4電 子 系 が形 成 され る(24)。
あ る か ら,表7に
符 号 の反 転 は 零 で
した が っ て,こ の 系 は反 芳 香 族 性 で あ
り,環 構 造 を保 つ とむ しろ不 安 定 化 を起 こす 。 した が っ
て反 応 は電 子 問 の 相 関 の少 ない ラ ジ カル 対(25)へ
の解
離 とな り,比 較 的 迅 速 に,熱 力 学 的 に安 定 な 生 成 物 へ と
再 結 合 を起 こす 。 ラジ カル 対 の寿 命 が10}9秒
以 下であ
れ ば,炭 素 原 子 の立 体 配 置 が 保 持 され て もお か し くは な
い 。 同 じ陰 イ オ ン中 心 へ の 転位 で も 〔2,3〕シ グ マ トロ ピ
ー とな る と,5中 心6電 子 系 が軌 道 の重 な りに符 号 の反
転 な く配列 して い るか ら芳 香 族 性 で あ り,協 奏 反 応 が 有
利 とな る(24').
い うま で も な く,negativeな
結 論 を導 くに は反 応 条 件 を
い ろい ろ変 え た慎重な実験がくり返された2,3,10,19).
以 上 の結 果 を整 理 す る と 表6と
表6
CIDNPの
な る。 す なわ ち転 位
表7
熱 転 位 に お け る環 状 遷 移 状 態 の 安 定 性33,38)
VI.
芳 香 族 第 三 ア 三 ンN一 オ キ シ ドと
現 われ方 に よる分子 内転位反応の分類
無 水 酢 酸 の 反 応2,3,6,10)
2一ピ コ リンN一 オ キ シ ド(26),4一
ド(27),N,N一
ピ コ リ ンN一 オ キ シ
ジ メ チル ア ニ リ ンN一 オ キシ ド(28)な
どの 芳香 族 第 三 ア ミ ンN一 オ キ シ ドと酸 無 水 物 が そ れ ぞ
れ対 応 す るエ ス テ ル(29,(30),(31)を
反 応 に環 式 遷 移 状 態 を考 え,そ の環 の 中 に含 ま れ る電 子
の数 を調 べ て見 る と,CIDNPの
現われ る転位反応で は
これ が4N個,CIDNPがnegativeな
+2個
もの は 決 って4N
とな る。 これ らの転 位 は分 子 内反 応 で あ り,転 位
て は,す で に10余
与 え る反応 に つ い
年 そ の機 構 が 論 じ られ て い るが,最
終 的 な解 明 に は程 遠 い現 状 で あ る34)。反 応 は0一 ア シ ル
化 に始 ま り,ア ン ヒ ド ロ塩 基(32),(33)ま
ンモ ニ ウム塩(34)が
た は 第 四級 ア
転 位 を起 こす.
を起 こす 炭 素 原 子 上 で の 立 体 配 置 は多 くの場 合 保 持 され
る こ とが 証 明 され てい る22,32)。
一 方 上 記 〔3,3〕シ グマ ト
ロ ピー で は,末 端 が 酸 素 原 子 で あ り,そ の立 体 配 置 を規
定 す る こ とはで き な い が,こ の 例 を も含 め て 形 式 的 に
Woodward-Hoffmann則33)を
適 用 して み る と,CIDNP
が現 わ れ る系 はす べ て熱 に よ る協 奏 反 応 が"禁 制"さ れ
て い る もの で あ る こ とが 判 る。 ま た 協 奏 反 応 が"許 容"
され る 系 でCIDNPが
転 位,Meisenheimer転
観 測 さ れ た た め しが な い 。Stevens
位,Wittig転
位 な どの 陰 イ オ ン
セ ンタ ーへ の 〔1,2〕シ フ トの場 合,電 子 の環 状 配 列 を 眺
〔11〕
CIDNPに
(23)
23
よる有機 ラジカル反応機 構の研究
100μZの ベ ンゼ ン に溶 か し,NMRの
す る。Varian社
製HA100D型
MHz)のcavityを
試 料管 に脱 気 封 入
ス ペ ク トロメ ー タ ー(100
あ らか 『
じめ95。Cに 加 熱 して お き,こ
れ に試 料 を挿 入 す る こ と に よ り反 応 を開 始 させ る。20秒
後 に100秒/1000Hzの
る と,図6を
掃 引 速 度 で ス ペ ク トル を 書 か せ
得 る。 新 しい 試 料 を用 い,δ4.98ppmの
ernissionに の み 着 目 し,そ の時 間変 化 を追 う と 図7の
よ うに な る。 す なわ ちemissionは
約75秒
後 に最 大 とな
〔i2〕
り,115秒
で 見 掛 け 上 消 失 し,290秒
吸収 スペ ク トル とな る 。δ2.46お
重 線 な らび に δ0.05の
後 に は平 衡濃 度 の
、
よ び1.06ppmの
一 重 線 は 図8に
示 した 経 時 変
〔13〕
い ずれ の反 応 系 も スチ レ ンの ラ ジカ ル 重
合 を 開 始 す る が,転
位 反 応 自身 は あ ま り
影 響 を 受 け な い 。 大 饗 ら は180で
標識 し
た 無 水 酢 酸 を 用 い,(29)∼(31)に
て 酸 素 原 子 がscrambleし
し,か
おい
てい る こ とを
実 証 し,(32)∼(34)が
ラジ カル 対 に解 離
ご反 応 で 転 位 す る も の と推 定 し て
い る35・36)。こ れ に 対 し て,最
teinら
近,Golds図6ベ
は37)過 酸 化 ジ ア セ チ ノレに お け る
180のscramblingに
ン ゼ ン 溶 液 中95℃
で 無 水 酢 酸 との反 応 が 進 行 中 の(27)のNMR
ス ペ ク トル(100MHz,ベ
ン ゼ ン を ロ ック シ グ ナ ル に使 用)
は 〔3,3〕 シ グ マ ト
ロ ピ ー が 最 も 多 く寄 与 し て い る こ と,過
酸 エ ス テ ル で は 〔1,3〕 シ グ マ ト ロ ピ ー も
有 利 で あ る こ と な ど を 明 らか に した 。 こ
の よ う な 事 情 か ら,(32)∼(34)の
に お い て も,こ
転位
れ ら協 奏 反 応 の 可 能 性 を
再 検 討 す る 必 要 が あ る 。 こ の 問 題 をCIDNP法
で 調 べ て 見 た 。 す な わ ち,反
応
が 本 当 に ラジ カル 対 を 経 て進 行 す る も
の な らば,こ
cavityの
れ をNMRス
中 で 行 な う と,生
磁 性 の エ ス テ ル(29)∼(31)の
ル にemissionかenhanced
ペ ク トル の
成 して くる反
スペク ト
absorption
が 観 測 さ れ る も の と 期 待 さ れ る.
実 験 例2.130mgの4一
オ キ シ ド(27)と300μZの
ピ コ リ ンN無水酢 酸 を
図7δ4.98に
現 わ れ るemissionシ
プ 戸 トン)の 経 時 変 化
グナ ル(エ
多
ス テ ル(30)のCH2
24
有機合成化学
化 を た ど る 。 こ れ ら の 実 験 か ら,ど
nced
absorptionを
に 判 定 で き,過
受 け,ど
第29巻
(24)
第1号(1971)
の シ グ ナ ル がenha-
れ がemissionな
の か 確 実
渡 的 ま た は 定 常 的 な ビ ー ト な ど と誤 認 す
る 危 険 が 回 避 で き る 。 ま た こ の 目的 に は,内
式 で 磁 場 の 均 一 度 を 長 時 間 保 つ 一 方,周
部 ロ ック方
波 数 掃 引の 発 振
器 にVarian社V3530RF/AFsweepunitを
用 い,C
図9速
1024TimeAveragingComputerのrampvoltageで
掃 引 幅 と掃 引 時 間 を 調 整 し,HA-100D分
い断熱通過 による磁化の反転 とその後の回復
光 器 の記 録 計
の 横 軸 に 時 間 を 取 る よ う に す る と便 利 で あ る.
別 途 に 合 成 した 標 準 試 料 のNMRス
二
か ら,δ4.98のsingletは
ペ ク トル と の 比 較
ア セ テ ー ト(30)の
ン プ ロ ト ン に 帰 属 さ れ る 。 δ2.46を
メチ レ
中 心 と す るquartet
.お よ び
δ1。06PPmのtripletは,4一
エ チ ル ビ。 リ ジ ン
〈35)の
エ チ ル 基 の ス ペ ク トル と 重 ね 合 わ せ る こ と が で
き る 。0.05PPmのemissionは
〈35)の
収 率 は 約2%で
お よ び(35)に
メ タ ン に 由 来 し て い る.
あ り,図7お
よ び8か
ら,(30)
観 測 さ れ たenhancementfactorの
値 は そ れ ぞ れ3お
よ び102と
最大
を 早 い 断 熱 通 過 の 方 法 で 測 定 し た(図9参
ロ ト ン は7
ン(35)のCH2お
お よ び10.4秒
よ びCH3プ
のT、
102を
.2秒,4一
照)。 ア セ テ
エ チ ル ビ.リジ
ロ ト ン は そ れ ぞ れ10.0
を 持 つ 。(30)のT、7.2秒
に く ら べ て 明 ら か に 短 い が,実
測
測 され る。 ベ ンゼ ン 中90。Cの
130お よび160秒
無 水 酢 酸 の反 応 の揚
強 いemissionが
反 応 で は そ れ ぞ れ反 応 後
後 に 負 の 極大 に達 し,後 者 は5000秒
も以 然ernissionシ
後
グ ナル で あ る のは 驚 くば か りで あ る.
アセ テー ト(29)のCH2プ
ロ ト ンは δ5.12に
現 われ
向 き の分極 も 観 測 され な い 。emissionシ
グ ナ ル は,主
反 応 とは 関 係 の な い酢 酸 メ チ ノ
レの0-CH,(δ3.44ppm)
お よび エ タ ン(δ0.70)に
起 因 して お り,い ず れ も1%
前 後 しか 生成 しな い 。(29)のCH、
フ.ロト ンのT、 は 正
違 い3と
び エ タ ンに は 分極 効果 が 明確 に現 わ れ て い る の で あ る か
さ れ たPの
常 で あ り,ま た試 料 管 中 に 共存 して い る酢 酸 メ チル お よ
ら,(29)に
生 じた か も知 れ ない 核 の 分 極 が速 や か に緩
和 され た 可 能 性 は否 定的 で あ る.
で 触 れ よ う.
四重線
観
は(35)
説 明 す る に十 分 とは い え な い 。 これ に つい て は後
図8δ2.46の
よび0.70PPmに
るが,反 応 の進 行 と共 に 単 調 に増 大 す る だ け で,ど ち ら
な る.
問 題 に し て い る 各 種 プ ロ ト ン の ス ピ ン ー格 子 緩 和 時 間
ー ト(30)のCH2プ
2一ピ コ リ ンN一 オ キシ ド(26)と
合 に は,δ3.44お
δ1.06の 三 重 線(以
上(35)の
エ チ ル 基 の シ グ ナ ル)お
よ び δ0.05の
一重線の時間変化
CIDNPに
(25)
N,N一 ジ メ チル ア ニ リ ンN一 オ キ シ ド(28)の
よ る有 機iラジ カル 反 応 機 構 の 研 究
類 似 の反
応 の 場 合 を 含 め て,著 者 らの 実 験 結 果 を 表8に
要約 し
た。
25
想 され る 。 そ れ に も か か わ らず(29)お
CIDNPが
観 測 され ず,(30)に
よび(31)に
わ ず か な 分極 効 果 が 観 測
さ れ た だ けで あ る と言 う実 験 事 実 は,本 当 に反 応 が ラジ
カル 対(36),(40)を
表8NMRス
ペ ク トル で追 跡 し た芳 香 族 第 三 ア ミン
N一 オ キ シ ドと無 水 酢 酸 の 反 応
これ ら の結 果 か ら導 か れ る10gica1な
経 過 せ ず,エ ス テ ル(30)の
場合に
結 論 は 次 の3点
で あ る。i)微 量 の 副生 成 物 で あ る酢 酸 メ チル,エ
メ タ ンお よび4一 エ チ ル ピ リジ ン(35)は,そ
タ ン,
れ ぞれ の ラ
ジ カル 対 の再 結 合 反 応 で 生 成 してい る。N,N一 ジ メチル
ア ニ リン はそ の カ チオ ン ラジ カル が 還 元 され て で き た も
の で あ ろ う。ii)期 待 に反 して,転 位 反 応 〔11〕,がラジ
カル 対(36)を
経 過 す る とい う積極 的 証 拠 は得 られ な
い 。iii)ア セ テー ト(30)の
らた だ ち に ア セテ ー1ト(29)お
ラジ カル 機 構 で生 成 して い ない と結 論 して
も よい か 。b)iii)か
ル 対(37)の
ら転位 反 応 〔12〕はす べ て ラジ カ
か ご反 応 で あ る と結 論 して も さ しつ か え な
い か 。 なぜ な らば,第 一 に ラジ カ ル対 を 中 間体 と して い
る に も拘 わ らず,ω た とwjの
さ く,〔7〕 式 で 与 え られ るP頚
ル 対(38)の
寿 命 は拡 散 律 速 で10一9秒 程 度 あ る とす る と
ジ カル 対(36)と(40)の
考 察 を さ らに進 め る に当 って,次 の 二 点 に注 意 しな け
よび(31)は
差,τ
ま た はkSEが
通 る機 構 を支 持 す る よ
うに 思 わ れ る。 最 後 に も う一・
つ の可 能 性 が 残 る,ラ ジ カ
実 測 され る大 き さ のPが 説 明 で き る ので あ るが,も
生 成 が ラジ カ ル対(37)を
経 過 す る直 接 的 証 拠 が 得 られ た.
れ ば な らな い 。a)ii)か
は極 く一 部 が ラ ジ カル 対(37)を
小
が本 質 的 に小 さい 可 能
しラ
寿 命 は さ らに短 く10-12秒
の
オ ー ダ ー だ とす る と,実 際 に現 わ れ る分極 効果 は き わ め
て小 さ くな る こ とが 〔6〕,〔7〕
式 か ら判 明 す る。 この よ う
な事 情 に あ る とす る と,生 成 した ラジ カル 対 のJeeは
常
に大 き く,一 重 項 のス ヒ.ン相 関 を保 った ま ま 転位 反 応 が
完 了 して し ま う こ とに な り,当 然 の こ となが らCIDNP
は期 待 で き ない 。 こ の場 合CIDNPは
もは や反 応 機 構
の 判定 手 段 と して使 うこ とので きな い 限 界 で あ る か も知
れ な い が,そ の よ うな ス ピ ン相 関 を保 った 早 い 分 子 内反
性 が 考 え られ,ま た 二 番 目に エ ス テ ル を与 え る転 位 反 応
応 を ラジ カル 機 構 で あ るか 協 奏 反 応 で あ る か と区別 して
の ご く一 部 が ラジ カル 反 応 で あ って,残
考 え る こ と 自体 限 界 に きて い る こ と にな り,あ る意 味 で
りの大 部 分 は別
反 応 機 構 は決 っ た とい って も さ しつ か えあ る ま い.
の機 構 で 進 行 して い る可 能 性 も残 され るか らで あ る.
特 に,明
らか に ラ ジ カル 反 応 で 生 成 して い る と思 わ れ
る微 量 副反 応 生 成 物 に 対 して は102オ
ー ダ ー の 分極 が'
観 測 され てい る の に対 して,エ ス テ ル(30)の
そ れ は,
わ ず か に3で あ る点 は後 者 の 可 能性 を示 唆 して い る とも
受 け取 れ る。 ラジ カル 対(36)∼(39)の
各 成 分 には 表
9に あ げた 大 き さの パ ラ メー ター が 期待 され る の で,こ
れ らを 〔6〕,〔7〕
式 に代 入 す る と,他 の条 件 が等 しけれ
ば,(36),(37)に(38)よ
表9
り も強 いenhancementが
ラ ジ カル 成 分 の σ値 とhf.結
合 定 数(推
定値)
予
VII.
CIDNPの
結
び
最 初 の報 告 が 出 て か ら3年 に な るが,こ れ
まで の とこ ろ 「こ うい う反 応 に もCIDNPが
観 測 され ま
した」 と言 う定 性 的 な速 報 が 多 くを 占 め,有 機 反 応機 構
の研 究 へ の系 統 的 な応 用 や 方 法 の開 発 研 究 は や っ と始 ま
った ば か りの段 階 で あ る。 理 論 体 系 の完 成 が待 た れ る一
方,実 験 技 術 と して は最 近ErnstとAnderson15)に
って 開発 され たFourier変
よ
換 に よ るmultiscanAverage
法 の応 用 が期 待 され る。 こ の方 法 で は 高 周 波 パ ル ス に よ
るNMRが
勧 測 され,い わ ゆ る 掃 引 が な い の で,通 常
のNMRス
ペ ク トル に現 わ れ るwig91ebeat,ringingな
どが 回避 で き る だ け で な く,き わ めて 短 時 間 しか現 わ れ
な いCIDNPを
NP法
はESRス
も確 実 に検 出 で き る。以上 要 す る にCIDペ ク トル と相補 い,有 機 ラジ カ ル反 応
26
有機合成化学
機 構 の研 究 に不 可 欠 な分 光 学 的 手 法 とな る こ とは 想 像 に
第29巻 第1号(1971)
難 くない.
終 りに のぞ み,種
16)
17)
々 の ご教 示 と御 助 言 をい ただ い た,
東 京 大 学,島 村 修 教 授,大 木 道 則 教 授,吉
田政 幸 博 士 に
18)
厚 くお礼 申 し上 げ る。 ま た こ の総 説 は東 邦 大 学 岩 村 道 子
博 士,日
電 バ リア ン西 田利 昭,佐 藤 至 朗 両 博 士 な らび に
串 田 克彦 氏 の協 力 が あ って は じめ て実 現 した こ とを記 し
感 謝 した い.
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
(昭 和45年10月27日
8)
印刷 中
岩村 秀,岩 村 道 子,西 田利 昭,佐 藤 至 朗,第9回
NMR討
論 会,金 沢, 1970年10月
9)
岩村 秀,岩 村 道 子,西
10)
田利 昭,第21回
有機化学反
応 機 構討 論会,広 島, 1970年10月
岩村 秀,岩 村 道 子,西 田利 昭,三 浦 巌,第11回
有
12)
13)
14)
15)
J. Bargon, H. Fischer, Z. Naturforsch.
22a
1551, 1556 (1967)
G.L. Gloss, J. Am. Chem. Soc. 91 4552 (1969) ;
G.L. Gloss, A.D. Trifunac, ibid.
91 4554
(1969) ; 92 2183 (1970) ; G.L. Gloss, C.E.
Doubleday, D.R. Paulson, ibid. 92 2185 (1970) ;
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Lansbury,未
田利 昭,佐 藤 至 朗,未 発 表
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献
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H. Iwamura, M. Iwamura, T. Nishida, M.
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Letters
(26)
発 表
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