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こちら(PDF:1772KB)
彩の国
埼玉県
平成26年度
農林総合研究センター園芸部門成果発表会
試験研究成果資料
平成27年2月26日
埼玉県農林総合研究センター園芸研究所
Tel:0480-21-1113
Fax:0480-29-1021
E-mail:[email protected]
URL:http://www.pref.saitama.lg.jp/soshiki/b0913/index.html
-1-
表紙の写真
上:園芸研究所(久
喜)
2015(平成 27)年 2 月 2 日撮影
下:園芸研究所(鶴ヶ島)
2015(平成 27)年 2 月 6 日撮影
-2-
平成26年度園芸部門成果発表会日程及び発表内容
開催日:平成27年2月26日(木)13:00~
会 場:埼玉県農林総合研究センター園芸研究所 講堂
◎受 付
13:00
◎ポスター、実物展示の説明
◎開 会
13:30
◎あいさつ(主催者・来賓)
13:30~13:45
◎試験研究成果口頭発表
①ネギ秋冬どり栽培における苗貯蔵技術の開発
野菜・花担当:中畝誠
②芳香シクラメンの養分吸収特性
野菜・花担当:亀有直子
③赤色大粒種なしブドウ「クイーンニーナ」の栽培方法の開発
果樹担当:酒井雄作
④機械を利用した在来大豆の秋エダマメ省力生産技術
露地野菜担当:岩崎泰史
⑤新たな施肥基準と施肥マニュアルに基づいた施肥診断ソフトの開発
農産物安全・土壌担当:佐藤一弘
⑥ナシ園における天敵の種類と生物多様性指標
病害虫防除技術担当:庄司俊彦
13:45~14:00
14:00~14:15
14:15~14:30
14:30~14:45
14:45~15:00
15:00~15:15
◎休憩
1)ポスター発表
①きゅうりのIPM(総合的病害虫・雑草管理)の普及
農業革新支援担当:赤石光平
②トルコギキョウの低コスト生産技術の普及
~「夏の花」トルコギキョウの冬春季安定生産出荷を目指す~
農業革新支援担当:鈴木知子
15:15~15:40
③なしジョイント仕立てによる老木園改植の普及
農業革新支援担当:入江尚彦
2)実物展示説明
◎ 総合討議・意見交換
15:40~16:00
◎ 閉 会
16:00
-1-
①
課題名:ネギ秋冬どり栽培における苗貯蔵技術の開発
野菜・花担当 中畝 誠
1 研究のねらい
秋冬どり栽培では、定植時期に梅雨やゲリラ豪雨などに遭遇し準備した苗を予定ど
おりに定植できないこと、また、近年夏の異常高温により、定植した苗の生育が停滞
することが問題となっている。そこで、ネギ苗の貯蔵温度と期間を検討し、定植時期
に不利な環境条件を回避するためのネギ苗貯蔵技術を開発する。
2 研究方法
(1)
耕種概要
ア
供試品種・播種日:「龍翔」・ 2012 年 5 月 1 日
イ
貯 蔵 開 始 日 ・ 条 件 : 2012
年
8
月
3
日 、 0 、 5 、 10 ℃ 、
湿度 80%で 2、4、6 週間貯蔵
ウ
定植日:貯蔵開始日から 2 週間ごとに各温度区の苗を定植
エ
施肥・培土:窒素を 10a 当たり 25kg 施用・10 月 22 日、12 月 12 日、12 月
27 日
(2)
収量性調査:2013 年 3 月 1 日に収穫調整後1本重と葉鞘長を調査
3 成果の概要
(1)
貯蔵中の苗の外観品質の変化
ア
貯蔵温度の上昇と貯蔵期間が長くなるのに従い、葉色の低下がみられた(図 1)。
イ
貯蔵温度 10℃区は、いずれの貯蔵期間でも葉の伸長がみられた(図 1)。
(2)
ア
貯蔵後の収量性
ネギの調整後 1 本重は、貯蔵期間が長くなるほど減少する傾向がみられた
(図 2)。
イ
葉鞘長は貯蔵期間が長くなるほど短くなる傾向がみられ、貯蔵 6 週間では、い
ずれの貯蔵温度でも貯蔵無よりも短くなった(図 3)。
4 普及上の留意点
(1)
ネギ苗を貯蔵する場合は、貯蔵中の苗を過湿にすると生育が順調に進まず減収す
る可能性があるので、留意する。
-2-
①
[具体的データ]
貯蔵期間
2 週間
貯蔵無
4 週間
6 週間
貯蔵温度
0℃
5℃
図1
10℃
貯蔵前後の苗の状況
180
150
調整後1本重(g)
120
90
60
30
0
貯蔵無
2週間 4週間 6週間
2週間 4週間 6週間
2週間 4週間 6週間
0℃
5℃
10℃
値は平均値±標準偏差
図2
収穫調整後 1 本重
32.5
葉鞘長(cm)
30.0
27.5
25.0
22.5
20.0
貯蔵無
2週間 4週間 6週間
2週間 4週間 6週間
2週間 4週間 6週間
0℃
5℃
10℃
値は平均値±標準偏差
図3
収穫調整後葉鞘長
-3-
②
課題名:芳香シクラメンの養分吸収特性
野菜・花担当
1
亀有直子・近藤恵美子
研究のねらい
埼玉県では、シクラメンの園芸品種と芳香性野生種を交配することによって芳香シ
クラメンを開発した。芳香シクラメンの栽培上の特徴として、園芸品種に比べて初期
生育が緩慢であることや年に数回開花を繰り返すことが観察されており、園芸品種と
は生育、開花特性が異なると考えられる。よって、肥培管理に関しても芳香シクラメ
ンの吸収特性に合わせた管理を行うことが望ましい。そこで、園芸品種と芳香シクラ
メンとを同一条件で栽培し、生育量および養分吸収量を比較した。
2
研究方法
(1)
園芸品種「シュトラウス」および芳香シクラメン「孤高の香り」、「香りの舞い」
を用い、2010年12月1日にメトロミックスを充填した200穴セルトレイに播種した。
2011年3月20日に7.5 cmポリポットに鉢上げし、7月1日に12 cmポリポット、9月14
日に18 cmポリポットに鉢替えした。
(2)
4月より1か月毎に各品種30株の展開葉数を調査した。また、4~10月は10株、11
~12月は5株を採取し、器官ごと(葉,塊茎,根,花)に分け、通風乾燥後に乾物
重を測定した。その後、植物体は器官ごとに粉砕し、養分吸収量を測定した。
3
成果の概要
(1)
展開葉数は、3品種とも8月までほぼ直線的に増加し、9月以降に増加割合が大きく
なった(図1)。
(2)
葉の乾物重の推移は、展開葉数の推移に一致していた。塊茎の乾物重は、「シュ
トラウス」では展開葉数と同様に9月以降に大きく増加した。一方、芳香シクラメ
ンの塊茎の肥大は緩慢で、12月における乾物重は「シュトラウス」に比べて小さか
った。根の乾物重は、徐々に増加程度が大きくなったが、「シュトラウス」は芳香
シクラメンに比べて10月から11月にかけての増加量が大きかった(図1)。
(3)
葉、根および花では、窒素含有率の品種間差は小さく、各品種の窒素含有量は乾
物重の大小に一致していた(表1)。一方、塊茎では窒素含有率は7月から徐々に
低下したが、芳香シクラメンでは含有率の低下程度が小さかった。そのため、乾物
重は「シュトラウス」が芳香シクラメンを大きく上回っているのに対し、窒素含有
量の品種間の差は小さかった。さらに、芳香シクラメンの塊茎では、「シュトラウ
ス」に比べて炭素含有量が少なく、C/N比も小さかったことから、芳香シクラメン
は塊茎への同化産物の蓄積が緩慢であると考えられた(図2)。
(4) 芳香シクラメンは、「シュトラウス」に比べてリン酸含有量が多い傾向があり、特
に塊茎では違いが顕著にみられた(表1)。
(5)カリ含有量は、芳香シクラメン2品種は「シュトラウス」に比べて葉で多く、根では
少ない傾向があった(表1)。カルシウム、マグネシウムについては一定の傾向は
認められなかった(データ略)。
-4-
②
4
普及上の留意点
芳香シクラメンはリン酸吸収量が多いことが示されたが、リン酸施肥量が生育や開花
に及ぼす影響については今後検討する必要がある。
[具体的データ]
図 1 「シュトラウス」および芳香シクラメン「孤高の香り」、「香りの舞い」の部位別乾物重と展開葉数の推移
表 1 「シュトラウス」および芳香シクラメン「孤高の香り」、「香りの舞い」の 12 月における乾物重(g/株)および無機成分
含有量(mg/株)
(月)
図2 「シュトラウス」および芳香シクラメン「孤高の香り」、「香りの舞い」の塊茎の乾物重、窒素含有率、窒素含有率および
CN 比の推移
-5-
③
課題名:赤色大粒種なしブドウ「クイーンニーナ」の栽培方法の開発
果樹担当
1
酒井雄作・大庭恵美子
研究のねらい
(独)農研機構果樹研究所で育成されたブドウ「クイーンニーナ」は大粒で高糖度、
低酸含量で、肉質は崩壊性で硬い食味良好な赤色ブドウで、GA(ジベレリン)処理
により種なし栽培が可能である。県内では 7 月下旬~8 月上旬の気温が高く赤色ブド
ウの着色は難しかったが、「クイーンニーナ」はそれを可能にした。しかし、ショッ
トベリーの発生が多く、摘粒に多くの労力を要し、粒が密着した房が作りにくい欠点
もある。また、7 月上中旬の高温により、縮果症や日焼けが多発する。以上の問題を
解決し、黒色の「巨峰」に大きく偏った生産から、品種転換する際の技術を確立する。
2
研究方法
(1)
所内圃場 12 年生(平成 26 年)棚上自然形平行整枝樹に、無種子化目的で開花前
にストレプトマイシン液剤散布をした 1 樹を供試し、ショットベリー軽減のため、1
回目のGA25ppm 処理を日、フルメット液剤加用を変え行った。そして、ショット
ベリーの発生の程度、摘粒労力、房形、収穫果の品質を調査した。
(2)
同樹に、7 月上旬の袋かけ直後に、タイベックのカサとクラフト紙のカサをかけ、
ベレーゾン期以降に被害調査を行った。タイベックのカサは収穫まで掛けたままで、
クラフト紙のカサは 8 月上旬に外し、カサ掛けが品質に及ぼす影響について調査し
た。また、果実表面の温度を放射温度計で測定した。
3
成果の概要
(1)
GA2 回処理の場合、満開後 3~4 日以降の花房に 1 回目のGA処理をすればショ
ットベリーの発生を抑え、容易に房作りができた。また、それ以降の処理では摘粒
数は少なくなる。処理日数が進んでも粒数は確保でき、房重 400g程度の、良房が
得られた(図 1、表 1)。これより、「クイーンニーナ」の 1 回目のGA処理は 80
%程度花房が満開 3 日を過ぎた時点で処理をすれば、GA処理は 1 日で済み、摘粒
も省力でき良房が得られる。
また、GA1 回処理(GA25ppm+フルメット 10ppm)の場合も 80%程度花房が満
開 5 日を過ぎた時点で処理をすれば、処理は 1 日で、摘粒も省力できる。
(2)
縮果症はカサ掛けにより被害を軽減することができた。日焼け被害も大きく被害
を軽減できた。両方の被害のないものはカサを掛けないと 19%しかなかったが、タ
イベックでは 46%、クラフト紙では 54%に軽減された。(図 2)
果皮の着色は、タイベックは収穫まで掛けたままでも良好であったが、危険期後
に外したクラフト紙はやや劣った(図 3)。1 粒重、糖度、酸含量に差はなかった。
気温 36℃台での果実の表面温度はカサ無いと 38℃以上になったが、どちらのカ
サも 1℃以上の降温効果があり、日向でも 40℃を超えることはなかった(図 4)。
4
普及上の留意点
(1)
種無し処理、早期摘粒が必須なため降雨に左右されないように被覆栽培を勧める。
(2)
着色最優先の管理を行う。大房、多着果は着色が劣りばらつく。房重 500g 以下、
着果量 1,200kg/10a 以下を厳守。玉張りを抑える管理をし、新梢を伸ばし過ぎない。
-6-
③
[具体的データ]
30
ショットベリー数
25
摘粒数
20
粒 15
数
10
ショットベリー+
摘粒
5
0
前日 満開 1日 2日 3日 4日 5日 6日 7日 8日
写真 1「クイーンニーナ」収穫直前果房と
ショットベリー
1回目GA処理日
図 1
表 1
(2014)
GA処理時期が品質に及ぼす影響
(2014)
満開
房重
後日
(g)
数
1粒 カラー
糖度 酸含量
チャー 房型
(g/100
重(g) ト指数
(%) ml)
前日
満開
1日
2日
3日
4日
5日
6日
7日
8日
14.7
15.3
15.5
13.9
17.0
17.1
16.9
17.2
16.5
17.5
429
408
439
435
449
399
403
413
408
443
9.3
8.7
8.5
8.3
8.7
9.8
9.1
8.9
8.8
8.2
4.5
4.5
4.9
4.9
4.4
3.8
4.4
4.3
3.9
4.4
21.0
21.2
21.4
21.4
21.4
21.6
21.3
21.8
21.1
20.7
GA処理日とショットベリー数及び摘粒数
60
タイベック
50
0.31
0.34
0.35
0.34
0.28
0.33
0.34
0.34
0.33
0.33
クラフト紙
カサ無
40
%
30
20
10
0
0
房型”5”非常に良い、”4”やや良い、”3”普通、
”2”やや悪い、”1”悪い
1
2
3
4
>=5
1房中の「縮果症+日焼け」
果粒数
カサによる「縮果症+日焼け」防止の効果(2014)
図2
50
タイベック
40
クラフト紙
30
%
2.0
タイベック
1.0
クラフト紙
温
度 0.0
38
差
-1.0
カサ無
℃
20
39
40
41
42
43
-2.0
-3.0
10
-4.0
0
-5.0
11以上
10
9
8
カラーチャート指数
7
6以下
*指数:11 以上深紅、10 濃い赤紅、9 赤紅、8 赤、
7 薄赤、6 以下淡紅、8 以上が着色良好
図3
カサ掛けが着色に及ぼす影響 (2014)
-7-
カサ無果房の果皮表面温度
図4
℃
カサによる果皮表面温度抑制効果 (2014)
④
課題名:機械を利用した在来大豆の秋エダマメ省力生産技術
露地野菜担当
1
岩崎泰史
研究のねらい
水田地域や中山間地域等での新たな特産品目として期待できる、オリジナル性の高
いエダマメの省力生産技術を開発するため、県が収集・保存している在来大豆 28 種類
の中から、エダマメとして食味に優れ機械収穫適性も高い品種を選定し、機械化一貫
体系による晩期収穫作型(9 月中旬~10 月中旬)を組み立てる。
2
研究方法
(1)
事前調査でエダマメ利用に適していると考えられた在来大豆 5 種類(行田在来、
箕田在来、妻沼在来、赤豆、アオバタ)を 6 月中旬、7 月中旬播種で栽培し、食味、
機械収穫適性、収量性からエダマメ適品種を選定した。
(2)
選定した在来大豆の収穫適期を明らかにするため、莢肥大期にあたる 9 月下旬~
10 月中旬の期間、莢を 3~4 日毎に収穫し、食味調査を行った。また、食味と併せ
て莢の生育等を調査し、収穫適期の判定基準を明らかにした。
(3)
短日処理による収穫期の前進化について検討するため、128 穴セルトレイに 5 月
下旬に播種し、播種後 11 日目の苗を遮光資材で覆って 9 時間日長の短日処理を 0
日間または 5 日間行い、定植後の生育、開花期、収穫期、収量を調査した。
(4)
機械収穫精度の高い株姿となる株間について、9cm、18cm、27cm、36cm の 4 水準
で検討した。
3
成果の概要
(1)
良食味で収量性が高く、機械収穫適性にも優れるものとして「行田在来」、
「アオバタ」の 2 品種を選定した(表 1)。
(2)
収穫は 2 品種とも 10 月上旬に始まり、適期は 10 日間程度しかないこと(図
1)、収穫開始期の判定は「開花期から 50 日後」を目安に「最大莢の厚さ 9 mm」を
指標とするのが良いことを明らかにした。
(3)
セル苗の 5 日間短日処理により、「行田在来」は 12 日、「アオバタ」は 16 日開
花を早めることができた(図 2)。しかし、短日処理区の収穫開始時期は無処理
区とほとんど変わらず、さらには栄養成長が抑制されて収量も減少するなど、
短日処理のメリットはないと考えられた(図 3)。
(4)
株間は、狭まるほど分枝が少なく立性の株姿となり、機械収穫精度が高まること
から、適した株間は 9~18cm であった(図 4)。畝立て同時播種機を利用する場合、
株間 18cm・1 か所 2 粒播きの設定で播種することで、播種作業、機械収穫作業の省
力化が図れることを実証した(写真 1、データ省略)。
4
普及上の留意点
播種適期は、「行田在来」が 7 月 5~10 日、「アオバタ」が 7 月 10~15 日である。
播種時期が早いと蔓化や倒伏の危険性が高まるので早播きは行わない。
-8-
④
[具体的データ]
表 1 在来大豆のエダマメ適品種選定
品 種
機械収穫適性
食味
作業時間 莢回収率
(h/10a)
(%)
(5点満点)
正品率
収量
(%)
(g/株)
行田在来
○ (15)
○ (92)
○ (3.4)
○ (93) ○ (144)
アオバタ
○ (15)
○ (89)
○ (3.6)
○ (93) ○ (148)
赤 豆
× (23)
△ (85)
○ (3.4)
○ (93) × (102)
妻沼在来
× (26)
× (79)
○ (3.2)
× (85) ○ (196)
箕田在来
△ (20)
× (78)
△ (2.8)
○ (92) × (105)
注) ○:優、△:やや劣、×:劣
図 1 在来大豆エダマメの収穫期間
図 3 短日処理の有無と累積収量
図 2 短日処理の有無と開花期
図 3 短日処理の有無と累積収量
図 4 株間の違いと機械収穫精度
写真 1 莢もぎ収穫機による収穫作業
-9-
⑤
課題名:新たな施肥基準と施肥マニュアルに基づいた施肥診断ソフトの開発
農産物安全・土壌担当
1
佐藤一弘・丸岡久仁雄・山崎晴民
研究のねらい
県内の野菜生産地では、近年、堆肥等の多量施用等による土壌養分のアンバラン
スの問題が生じるようになった。そこで、平成 25 年3月県は「農作物主要施肥基準
(以下、施肥基準)」、「施肥改善指導マニュアル(以下、施肥マニュアル)」を
約 20 年ぶりに全面改訂し環境に優しい技術(エコ施肥技術)の普及を目指した。
改正施肥基準は従来と次の 2 点で大きく異なる。①土壌診断による減肥基準の設
定②堆肥等有機物の肥効成分の肥料設計へのカウントを行うこと。
しかし、実際に土壌診断から作物ごとの適正施肥量を判断し、様々な肥料の特性
を理解・選定して施肥設計を組むにはかなりの経験を要する。
そこで、新施肥基準によるエコ施肥技術のいっそうの普及のため、農業生産者、
指導者の施肥設計支援を行うソフトウェアを開発する。
2
研究方法
(1) プログラム言語
開発言語は,Microsoft Visual Basic for Applications 7.0 を用いた.この言
語は Microsft Excel に付随しており同ソフトと一体で利用される。極力ワークシー
ト上の数式を排除しコード記述し内容が公で修正容易な構造を意図した。
(2)
施肥プログラムの適応性の検討
農業支援課革新支援担当、大里農林振興センターの協力を得て、深谷市後榛沢の
現地で秋冬ブロッコリーの施肥設計と栽培実証を行った。
3
成果の概要
(1) メインフォームⅠ:適正施肥量の決定
ア
新施肥基準に記載されている作物と基準施肥量がリストされている。
イ
土壌診断からの減肥診断が施肥マニュアルに基づき窒素、リン酸、カリについ
て自動計算される。カリ計算時に必要な CEC が不明な場合、土壌統からの類推機
能がある(オプションとしてデジタル土壌図起動による土壌統の確認機能有り)。
ウ
基準施肥量と原肥診断から適正施肥量が計算され,自動でデータに格納される。
(2) メインフォームⅡ:施肥設計
メインフォームⅠで計算された適正施肥量および施肥後の土壌が適正塩基バラン
スになるよう、普通肥料データベースおよび特殊肥料データベースから肥料と施用
量を選び計算させる。なお、普通肥料、特殊肥料とも埼玉県流通の肥料からデータ
ベースを構築してある。施用後の土壌塩基バランス推定は類例が無い。
(3)
4
開発ソフトを活用したブロッコリー現地実証は慣行栽培の収量と遜色なかった。
普及上の留意点
今回はβ版であり、次年度広くモニターを募り改良していく予定である。
Windows Vista,Windows7 Excel 2007,Excel2010 で動作確認をしてある。
5
参考資料
埼玉県:農作物主要施肥基準(2013)、施肥改善指導マニュアル(2013)
- 10 -
⑤
[具体的データ]
プログラム開始
作物の選択
基準施肥量の設定
埼玉県施肥基準
土壌診断
減肥量(増肥量)
適正塩基バランス計算
適正施肥量の決定
埼玉県施肥マニュアル
減肥基準、土壌基準
データの保存
データの読み出し
たい肥の選択
埼玉県特殊肥料データ
ベースより検索
施肥設計の計算
目的変数
・適正施肥量
・適正土壌塩基バランス
普通肥料の選択
埼玉県流通普通肥料
データベースより検索
施肥設計の決定,出力
表
プログラムによる施肥
設計の現地での検証
(深谷市後榛沢)
※深谷市後榛沢
図
施肥設計プログラムのフローと出力例
- 11 -
⑥
課題名:ナシ園における天敵の種類と生物多様性指標
病害虫防除技術担当
1
庄司俊彦・原沢正美
研究のねらい
都市近郊における環境保全型ナシ園に特徴的に出現する天敵種を明らかにし生物多
様性の指標生物を選抜し、生物多様性指標から環境保全型農業の取り組みを評価する。
2 研究方法
(1) 栽培手法が異なるナシ園に生息する生物種(天敵)を調査した。調査ナシ園は慣行
防除園、減農薬園、天敵温存園、天敵排除園、殺虫剤無散布園とした。
調査方法は、見とり調査、粘着トラップ、ビーティング、スウィーピング、ピット
ホールトラップにより調査した。見とり調査(1樹当たり 5 花そう葉 5 新梢葉 5 樹)、
粘着トラップ(IT シート黄色 20×20 ㎝1園当たり 3 カ所)、ビーティング(1 枝 5
回、5 枝をたたき落とし)、スィーピング(20 回すくい取り)、ピットホールトラ
ップ(1園当たり 18 カ所)とした。
(2)ナシ園(慣行栽培8園、減農薬栽培3園、無農薬園1園)のピットホールトラップ
によるゴミムシ類と粘着シートにより寄生蜂の種類と捕獲数を調査した。ピットホ
ールトラップは1園当たり 5 カ所設置し、6 月 1 日~12 月 2 日までのゴミムシの種
類と数を調査した。粘着シートは、IT シート(黄色)を1園当たり 4 カ所に設置し、
6 月 10 日~8 月 26 日までの寄生蜂の種類と捕獲数を調査した。
3 成果の概要
(1)都市近郊ナシ園に生息する生物種の調査方法は、見とり、ピットホールトラップ、
黄色粘着トラップが適していた。環境保全園に生息する生物種は、見とり調査では 6
種類、ピットホールトラップでは 4 種類、粘着トラップでは 9 種類を生物多様性指
標候補とし選抜した(表1)。簡易な調査方法としてピットホールトラップ及び粘
着トラップ手法を限定し捕獲される生物種を指標とした。
(2)ピットホールトラップのゴミムシの捕獲数は白岡市下野田A,B(慣行栽培園)、久
喜市中妻(減農薬園)で多く、種類数は久喜市六万部B(無農薬園)が多かった(図
1,2)。黄色粘着トラップでの寄生蜂は、久喜市六万部B(無農薬園)の捕獲数が
多かった(図3)。それぞれの園を指標生物評価表(表3)でスコアを求めたとこ
ろ、久喜市六万部(無農薬園)が高いスコアを示し生物多様性評価が高かった(表
2)。栽培方法が慣行、減農薬の生物多様性評価は園により判然とはしなかったこ
とと、無農薬栽培ではゴミムシ類のスコアが低かったことからゴミムシ類の調査方
法を更に検証する必要があると考えられた。
4 普及上の留意点
関東のナシに関する指標生物はゴミムシ類と寄生蜂で指標生物評価法表に基づき
スコアを求める。ゴミムシ類は 6 月下旬に1回(1週間程度)調査し、1 日・トラッ
プ 1 個当たりの捕獲数から求める。寄生蜂類は 8 月下旬に 1 回(1 週間程度)調査し、
1 日・トラップ1枚当たりの捕獲数から求める。2つのスコアを合計した総スコアか
ら環境保全型農業の取り組みを評価する。
5 参考資料
農林水産技術会議「農業に有用な生物多様性の指標生物調査・評価マニュアル」
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⑥
[具体的データ]
表1 生物多様性指標候補
生
調 査 方 法
見
取
り
ピットホール
粘着トラップ
物
種
ウロコアシナガグモ
ワカバグモ
ムラサキコマユバチの繭
クサカゲロウ卵塊
カブリダニ類
アカメガシワクダアザミウマ幼虫
イモコモリグモ
メキリグモ
オオヒラタシデムシ
ハネカクシ科
(ゴミムシ類)
ヒメハナカメムシ
トビコバチ科
ツヤコバチ科
ハネカクシ科
キアシクロヒメテントウ
ホソバネコバチ科
タマバチ科
コガネコバチ科
タマゴバチ科
種
頭
30
3000
2000
20
1000
10
0
0
図1
各園のゴミムシの捕獲頭数
図2 各園のゴミムシの種類数
表 2 各 園 の 総 ス コ ア か ら の 評 価
場 所
栽 培
頭
ゴ ミ ム シ 類 寄 生 蜂 類
合 計
久 喜 市 原
慣 行
0
1
1
B
伊 奈 町
慣 行
0
1
1
B
久 喜 市 所 久 喜
慣 行
1
0
1
B
久 喜 市 六 万 部 A
慣 行
1
0
1
B
白 岡 市 下 野 田 A
慣 行
1
0
1
B
白 岡 市 下 野 田 B
慣 行
0
0
0
C
白 岡 市 柴 山 A
慣 行
0
0
0
C
白 岡 市 西
慣 行
0
0
0
C
さいたま市見沼区
減 農 薬
1
0
1
B
白 岡 市 柴 山 B
減 農 薬
0
0
0
C
久 喜 市 中 妻
減 農 薬
1
0
1
B
久 喜 市 六 万 部 B
無 農 薬
0
2
2
A
表3
指標生物のスコア表
作目
指標生物
大分類
詳細
8.0
効 果
ト
ラ
ッ
プ
数
1
枚
/
1
日
6月10日
6月20日
6月30日
7月10日
7月20日
7月30日
8月9日
8月16日
8月26日
9月5日
6.0
4.0
2.0
0.0
図3 粘着トラップでの寄生蜂数
調査手法
単位
評価の基準値(スコア)
0
1
2
ゴミムシ類等 ゴミムシ類 ピットホールトラップ
個体数/日・トラップ
1未満
1~3
3以上
寄生蜂類
個体数/日・トラップ
1.5未満
1.5~3.5
3.5以上
ナシ
寄生蜂類 黄色粘着トラップ
総スコアに基づいて環境保全型農業の取り組みを評価する
環境保全型農業の取り組み効果
該当する指標
生物の種類数
S
A
B
C
2種類
4
2~3
1
0
S:生物多様性が非常に高い。取り組みを持続するのが望ましい。
A:生物多様性が高い。取り組みを持続するのが望ましい。
B:生物多様性がやや低い。取り組みの改善が必要。
C:生物多様性が低い。取り組みの改善が必要。
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埼玉県のマスコット コバトン
農林総合研究センターでは、県の立地条件を生かしながら、
①
農家の役に立つ実用技術
②
より安全な農林水産物を供給するための技術
③
環境にやさしい生産技術
の開発に取り組んでいます。
埼玉県農林総合研究センター
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