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〈総 説〉 小児肺炎の外来治療における新規経口抗菌薬の影響

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〈総 説〉 小児肺炎の外来治療における新規経口抗菌薬の影響
June 2014
THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS
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〈総 説〉
小児肺炎の外来治療における新規経口抗菌薬の影響
尾内一信 1)・砂川慶介 2)
1)
川崎医科大学小児科学講座
2)
北里大学感染制御研究機構
(2014 年 5 月 13 日受付)
下気道の原因微生物データに基づき 2004 年 11 月に,世界に先駆けて「小児呼吸器
感染症診療ガイドライン」
(日本小児呼吸器疾患学会 / 日本小児感染症学会)が発行さ
れた。本ガイドラインの 2011 年版では最新情報に基づき更新され,肺炎においては
重症度分類が大きく変更された結果,外来治療の対象となる軽症に分類される小児
肺炎が大幅に増加することになった。このように外来における治療の幅が広がった
背景には,テビペネム ピボキシルおよびトスフロキサシントシル酸塩水和物の 2 つ
の新規経口抗菌薬が,小児感染症の治療の場で使用が可能となったことがある。
レセプトデータの解析結果によると,両剤の発売後,年を追うごとに肺炎による入
院率の低下が認められ,両剤により外来治療の幅が広がったことが示唆された。
本稿では,テビペネム ピボキシル,トスフロキサシントシル酸塩水和物発売後の
肺炎治療への影響について解説する。
■はじめに
る。肺炎の治療開始にあたり,治療の場を外来と
2004 年に初版が発行された「小児呼吸器感染症
するか入院とするか,また治療に際し抗菌薬を使
診療ガイドライン」は,小児肺炎に関しては洗浄
用するかしないか,使用する場合に投与経路を経
喀痰培養データ,すなわち下気道の原因微生物
口とするか経静脈とするかを判断するうえで,肺
データに基づいた世界初のガイドラインとして注
炎の重症度を判定することは非常に重要である。
目された。本ガイドラインでは,2004 年版の出版
本ガイドライン 2011 年版では,2007 年版までの
後に 2007 年と 2011 年に改訂され,耐性菌の出現
軽症,中等症,重症,最重症の 4 つのカテゴリー
や新規経口抗菌薬の発売などの臨床現場の変化に
から,軽症,中等症,重症の 3 つのカテゴリーに
適合した最新内容に適宜アップデートされてき
整理統合された。これにより,2007 年版の軽症の
た。
すべてと中等症の一部が軽症に,中等症と重症の
本ガイドライン 2011 年版の最も大きな改訂点
多くが中等症に,重症の一部と最重症が重症にそ
の 1 つは,小児市中肺炎の重症度分類の変更であ
れぞれ分類されることとなった 1, 2)。そして,軽症
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図 1. 肺炎治療における新規経口抗菌薬の位置づけ(イメージ)
小児呼吸器感染症診療ガイドライン 2011 pp. 35∼37 より引用
は外来で,中等症は入院して一般病棟で,重症は
データなどから明らかになり 3,4),小児感染症の
入院して主に ICU で管理することを想定してい
外来治療の幅の拡大につながるものと考えられ
る。このような重症度の変更は,外来で治療可能
る。
な小児患者を増加させ,入院治療を要する小児患
本稿では,レセプトデータに基づく小児患者の
者を減少させることになるものと考えられる(図
入院率の観点から,両剤発売後の小児肺炎の外来
1)。
治療への影響について解説する。
上述の外来治療の対象患者の拡大が可能となっ
できる初のカルバペネム系経口抗菌薬であるテビ
■「小児呼吸器感染症診療ガイドライン
2011」における位置づけ
ペネム ピボキシル(TBPM-PI;オラペネム ®)が
TBPM-PI および TFLX は,原因微生物不明時の
2009 年 8 月に,初の小児用ニューキノロン系抗菌
初期抗菌薬療法において,軽症で耐性菌感染が疑
薬細粒剤であるトスフロキサシントシル酸塩水和
われる場合,すなわち 1)2 歳以下,2)抗菌薬の
®
物(TFLX;オゼックス )が 2010 年 1 月に,それ
,3)中耳炎の合併,4)肺
前投与(2 週間以内)
ぞれ小児用経口抗菌薬として発売されたことがあ
炎・中耳炎反復の既往歴で他の抗菌薬による治療
る。これらの 2 剤は,従来経口抗菌薬で効果不十
効果が期待できない症例に推奨されている(図
分である際に使用されてきた外来抗菌薬静注療法
1)。また,①ȕ- ラクタム系薬を初期治療に用いた
た背景として,薬剤耐性菌に対しても効果が期待
(Outpatient Parenteral Antibiotic Therapy: OPAT) 場合,②マクロライド系・テトラサイクリン系薬
に匹敵する有効性が得られることが,臨床治験
を初期治療に用いた場合の無効例(軽症)におい
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図 2. 初期抗菌薬治療が無効の場合の抗菌薬変更例
小児呼吸器感染症診療ガイドライン 2011 pp. 35∼37 より引用
て推奨されている(図 2)。さらに,全身状態に余
後 の 2009 年 度 に は 35.6% で あ っ た が, 1 年 後
裕がある中等症には入院や OPAT の前に TBPM-PI, 30.0%,2 年後 21.6%,3 年後 15.7% に低下し,い
TFLX を試す価値があると思われると記載されて
ず れ も 2009 年 度 に 比 べ 有 意 に 低 下 し た(p<
おり,外来での経口抗菌薬による治療の幅が拡
0.001;Ȥ2 検定)(図 3)。年齢別に入院率をみると
がっている。
0∼7 歳患者においては,2009 年度には 39.9% で
あ っ た が, 1 年 後 33.8%, 2 年 後 24.0%, 3 年 後
■全肺炎の入院率と処方数の推移
17.5% に有意に低下した(p<0.001;Ȥ2 検定)。ま
両剤市販後,実際に小児肺炎の外来治療にどの
た, 8∼14 歳 患 者 に お い て は, 2009 年 度 に は
ような影響を及ぼしているのか調査するため,株
20.1% で,1 年後 15.4%,2 年後 17.4%,3 年後には
式会社日本医療データセンター(Japan Medical
12.1% に有意に低下した(p<0.001;Ȥ2 検定)
(図
Data Center: JMDC)のレセプトデータ 356,687 例
4)。全肺炎に対する処方抗菌薬は,図 5 に示すよ
を用いて小児肺炎の入院率を集計した。なお,肺
うに 2010 年度よりキノロン系抗菌薬,その他 ȕ-
炎の定義は,国際疾病分類(International Statistical
ラクタム系抗菌薬が増加し始め,ガイドライン
&ODVVL¿FDWLRQRI'LVHDVHVDQG5HODWHG+HDOWK3UREOHPV) 2011 年版の発行年以降,特にキノロン系抗菌薬が
第 10 版(ICD 10)に基づいて行った(表 1)。0∼
急速に増加していた。年齢別では,特に 0∼7 歳の
14 歳患者における全肺炎の入院率は,両剤発売前
小児においてその傾向が強かった(表 2)。
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表 1. 肺炎の定義
図 3. 全肺炎の入院率
推計実患者数(:日本人口)2007 年 4 月∼2013 年 3 月(JMDC)
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図 4. 全肺炎の年齢別入院率
推計実患者数(:日本人口)2007 年 4 月∼2013 年 3 月(JMDC)
図 5. 全肺炎(0~14 歳)に対する処方抗菌薬
推計実患者数(:日本人口)2007 年 4 月∼2013 年 3 月(JMDC)
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表 2. 全肺炎に対する処方抗菌薬
*処方数/全肺炎患者数 ×100
推計実患者数(:日本人口)2007 年 4 月∼2013 年 3 月より抜粋(JMDC)
全小児肺炎患者では,両剤の処方数の増加に伴
た, 8∼14 歳 患 者 に お い て は, 2009 年 度 に は
い有意に入院率の低下が認められ,両剤が寄与し
23.5% であったが,1 年後 13.5%,2 年後 15.7%,3
ていることが示唆された。
年後には 8.5% に有意に低下した(p<0.001;Ȥ2 検
定)(図 7)。
■マイコプラズマ肺炎を除く肺炎の入院率
と処方数の推移
全小児患者におけるマイコプラズマ肺炎を除く
肺炎に対する処方抗菌薬は,表 3 に示すように,
2011∼2012 年には,マイコプラズマ肺炎の大
ガイドライン 2011 年版の発行年以降キノロン系
流行があったため,軽症肺炎が増加した可能性が
抗菌薬の処方量が大幅に増加した。2012 年度で
ある。新規小児用経口抗菌薬の肺炎治療への影響
は,0∼7 歳児に処方された抗菌薬は,キノロン
をより詳細に把握するために,マイコプラズマ肺
系,マクロライド系,セファロスポリン系,広域
炎を除く肺炎の入院率について検討した。0∼14
ペニシリン系,その他 ȕ- ラクタム系(カルバペネ
歳患者におけるマイコプラズマ肺炎を除く肺炎の
ム系,ファロペネム)の順であった。
入院率は,両剤発売前後の 2009 年度には 38.6%
であったが,1 年後 30.7%,2 年後 20.8%,3 年後
2
このようにマイコプラズマ肺炎を除く肺炎は,
全肺炎とほぼ同様な推移を示しており,ガイドラ
13.7% に有意に低下した(p<0.001;Ȥ 検定)
(図
イン 2011 年版で期待されたように,他剤無効例
6)。0∼7 歳患者においては,2009 年度には 42.4%
や他剤では効果の期待できない軽症∼中等症例に
であったが,1 年後 34.6%,2 年後 23.2%,3 年後
これらの経口抗菌薬が使用され,入院に至るまで
15.8% に有意に低下した(p<0.001;Ȥ2 検定)。ま
もなく治癒した小児患者が多かったものと推定さ
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図 6. マイコプラズマ肺炎を除く肺炎の入院率
推計実患者数(:日本人口)2007 年 4 月∼2013 年 3 月(JMDC)
図 7. マイコプラズマ肺炎を除く肺炎の年齢別入院率
推計実患者数(:日本人口)2007 年 4 月∼2013 年 3 月(JMDC)
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表 3. マイコプラズマ肺炎を除く肺炎に対する処方抗菌薬の推移
(%)
*処方数/マイコプラズマ肺炎を除く肺炎患者数 ×100
推計実患者数(:日本人口)2007 年 4 月∼2013 年 3 月より抜粋(JMDC)
れる。一方で,肺炎球菌ワクチン接種の影響も考
に,インターネットによる全国アンケート調査を
慮する必要がある。本ワクチンの定期接種は 2013
実施した。その結果,通院治療を希望する保護者
年 4 月から実施されているが,庵原らは,2011 年
の割合は 62.1% となり,入院による治療を希望す
度より 7 価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)の接
る保護者よりも多かった 6)。また,76.8% の保護
種率が上昇し,それに伴い 5 歳未満児の侵襲性肺
者が「入院による治療の方が負担になる」と回答
炎球菌感染症(IPD)の罹患率が低下していると
していることから,入院を負担に感じることが外
5)
報告している 。ワクチンの接種率上昇により, 来治療を希望する保護者の割合が高いことと関連
重症化する肺炎の罹患率が低下した可能性も否定
していると推察された。さらに,大石らの報告に
できない。しかしながら,本研究では,新規抗菌
よると,病院小児科を受診した小児呼吸器感染症
薬が発売された翌年 2010 年度より,その処方量
患者の保護者が入院ではなく OPAT を選択した理
増加に伴い肺炎による入院率が有意に低下してい
由として「兄弟(祖父母)の世話があるため」
「仕
ることから,両剤による肺炎治癒への寄与が大き
事が休めない」「入院の付き添いが困難」「入院は
かったものと考えられる。
大変」などがあげられており 7),入院治療に対す
る保護者の負担感が大きいことがうかがえる。以
■新規小児用経口抗菌薬への期待
我々は,肺炎の外来治療に対する保護者の意向
上のことからもガイドラインで推奨しているよう
に,全身状態に余裕のある軽症 ~ 中等症,かつ,
を検証するため,急性肺炎に罹患した経験のある
他剤では効果が期待できない場合には入院や
6 歳以下の集団保育児を持つ保護者 400 人を対象
OPAT の前に,TBPM-PI や TFLX など新規経口抗
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表 4. 小児(0~14 歳)に処方された抗菌薬(2012 年度)
*処方数/抗菌薬が処方された 0∼14 歳の小児患者数 ×100
推計実患者数(:日本人口)2007 年 4 月∼2013 年 3 月より抜粋(JMDC)
菌薬を使用することも選択肢の 1 つとして有用で (リンコマイシン系薬含む)58.2%,広域ペニシリ
あると考えられる。
ン系薬 21.5% と比較しても妥当であると考える
(表 4)。TBPM-PI,TFLX の登場により外来にお
■まとめ
我々が本ガイドライン 2004 年版発行後に,小
児呼吸器感染症の治療実態把握のため,小児科医
ける経口抗菌薬治療の幅は拡大し,ガイドライン
に沿った小児肺炎治療の促進に大いに寄与してい
るものと考えられた。
師を対象に実施したアンケート調査の結果では,
約 80% の医師が本ガイドラインを「参考にしてい
利益相反:なし。
る」と回答し,その認知度は高いものと考えられ
る 8)。実地臨床の場でもガイドライン 2011 年版を
参考に,TBPM-PI および TFLX が初期治療薬無効
例などの肺炎症例に適切に使用されているものと
推察される。実際,小児肺炎においては,TBPM-PI,
TFLX は急速に処方を伸ばしているが,適応症が
限られていること,および主として他剤で効果が
期待できない場合に推奨されていることから,
0∼14 歳の小児に抗菌薬が処方された患者におけ
る両剤の処方数は,2012 年度においても TBPM-PI
2.6%,TFLX 9.3% であり,適応症の幅の広いセ
ファロスポリン系薬 71.1%,マクロライド系薬
文献
1)小児呼吸器感染症診療ガイドライン作成委員
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小児呼吸器感染症診療ガイドライン 2011 第 1
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pivoxil 細粒の小児細菌性肺炎を対象とした非
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本化学療法学会雑誌 57
(S-1)
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4)岩田 敏,岩井直一,尾内一信,他:7RVXÀR[DFLQ
細粒 10% の小児細菌性肺炎を対象とした非盲
166( 20 )
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検非対照臨床試験。日本化学療法学会雑誌 58
(S-2): 32∼49, 2010
5)庵原俊昭,菅 秀,浅田和豊:ワクチン導入
後の侵襲性インフルエンザ菌・肺炎球菌感染
症の発症動向(解説)
。小児科 54: 429∼436,
2013
6)尾内一信:小児呼吸器感染症診療ガイドライ
ン 2011 に 基 づ く 小 児 肺 炎 の 治 療。 3KDUPD
Medica 31: 109∼114, 2013
7)大石智洋,松井 亨,阿部忠朗,他:小児呼
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吸器感染症に対するセフトリアキソン 1 日 1
回投与を用いた外来抗菌薬静注療法(OPAT)
からのスイッチ療法,および小児 OPAT に関
するアンケート調査。小児感染免疫 19: 239∼
248, 2007
8)尾内一信,石和田稔彦,岩田 敏,他:小児
呼吸器感染症治療の現状把握に関する検討
(第 1 報)小児呼吸器感染症診療ガイドライン
2004 に つ い て。日 本 小 児 科 学 会 雑 誌 112:
729∼735, 2008
(IIHFWRIQHZRUDODQWLPLFURELDODJHQWVLQRXWSDWLHQWWUHDWPHQWRI
SQHXPRQLDLQFKLOGUHQ
KAZUNOBU OUCHI1)and KEISUKE SUNAKAWA2)
1)
'HSDUWPHQWRI3HGLDWULFV.DZDVDNL0HGLFDO6FKRRO
.LWDVDWR8QLYHUVLW\5HVHDUFK2UJDQL]DWLRQIRU,QIHFWLRQ&RQWURO6FLHQFHV
2)
,Q 1RYHPEHU *XLGHOLQHV IRU WKH 0DQDJHPHQW RI 5HVSLUDWRU\ ,QIHFWLRXV 'LVHDVHV LQ
Children in Japan ZDVSXEOLVKHGDKHDGRIWKHUHVWRIWKHZRUOGE\-DSDQHVH6RFLHW\RI3HGLDWULF
3XOPRQRORJ\-DSDQHVH6RFLHW\IRU3HGLDWULF,QIHFWLRXV'LVHDVHVEDVHGRQWKHGDWDRQFDXVDWLYH
RUJDQLVPV LQ WKH ORZHU UHVSLUDWRU\ WUDFW ,Q LWV YHUVLRQ FODVVLILFDWLRQ RI WKH VHYHULW\ RI
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