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父の経営する会社に入社するも、活躍する場がない 後継者からの相談
Q13 あらかわ事業承継相談室 父の経営する会社に入社するも、 活躍する場がない (後継者からの相談) 父が経営する会社に入社し 3 年になります。それまでは、大学を 卒業してから大手の同業他社で 5 年ほど勤めていました。社員は 私を立ててくれるのですが、未だによそよそしい感じがしており、 また、極端に言うと、自分に仕 事をさせてくれません。私の日 常業務は管理業務、会議参加、若 手経営者の会との交流くらいで す。このままでは、事業承継ど ころか、私自身の成長も止まっ てしまいそうです。私はどうす ればよいのでしょうか。 「窓口相談」 (金属製品製造業 28 歳) 相談者の本音のつぶやき 自分に仕事をさせてもらっていない気がするけど……。 親父主導の会社に馴染むのは難しいなあ……。 このまま進んでいって社長になんかなれるのだろうか……。 85 Q13 東 主 任 はじめまして、東です。だいぶ、悩みは深そうですね。 相 談 者 はい、父が創業社長でカリスマを持 っている一方で、その社長について きている社員もなかなかの猛者揃い でして……。 東 主 任 私の友人もかつて同じような状態に ありましたね。飲み会の席で社員に 「お前(後継者)なんかにはついていけない」とハッキリ言われた らしいです。 相 談 者 僕も陰ではそんなふうに思われているのでしょうか? 東 主 任 そりゃそうですよ、会社は社員とその家族の命を預かっているの ですから、弱いリーダーにはついていけませんよ。それに「苦労 知らずのボンボンに何ができる ?」という先入観もあると思いま すから。 相 談 者 その方は、それをどのように切り抜けたのですか ? 東 主 任 彼の話によると先ずはなりふり構わずガッツを見せたということ です。具体的には現場に入って一から仕事を覚えたようです。銀 行出身でそれまでそのような経験がなかったので苦労はしたよう ですが。でも、社内で一番実力があって厳しい上司の下で修業し ていたことで社内での見方も少しずつ変わっていったようですよ。 相 談 者 私も、もっと現場に入りこむ努力が必要ですね……。 東 主 任 大きなミスをした時には、普通の社員なら怒鳴られて終わりのと 86 あらかわ事業承継相談室 ころ、 「お前の会社だろ ! それでいいのか ?」と言われたこともあ るそうです。現場にいるのでも、普通の社員以上の馬力が必要に なりますね。 相 談 者 それは大変ですね。自分にできるか不安です。 東 主 任 でも、彼は、それ以上のことをした そうですよ。独断専行で皆が諦めて いた営業展開をはじめたそうなんで す。社員達はもちろん最初は冷やや かに見ていたそうです。 相 談 者 勇気がありますね。 東 主 任 彼自身も営業などやったことがなく、不安だったそうです。でも、 「イケる」という直感があり、素人ながらも色々工夫したそうです。 最初の成果はそれほど大きくはなかったようですが、でも、数人 の社員がその切り拓いた道を一緒に歩いてくれたらしく、開拓し た先も徐々に中心的な顧客群になっていったそうです。 相 談 者 社員と一緒に汗を流す……ですね。 東 主 任 彼がそこで学んだことは、2 つあったそうです。 ①新しい事をやる時には先ず自分でやらねば進まない、②社員の 協力なくしては何も進まないということだったそうです。あそこ で、俺の手柄だ ! などとしてしまっては、信頼関係もなくなっ ていたでしょう。後継者として認めてもらいたいと、はやる気持 ちを抑えて、協力してくれた方々の功績を認めるということが大 切ですね。 87 Q13 相 談 者 その後はどうなったのですか ? 東 主 任 それらを経た頃、彼の父から ISO9001 の導入責任者になって欲 しいと言われたそうです。金融機関から、後継者育成には何か全 社的なリーダーをさせるとよい、それには ISO が絶好の道具で あるというお話があったようなの です。 相 談 者 社長の信頼を徐々に得ていたので すね。 東 主 任 そ の際に彼も最初の頃は ISO の 規定に合わせるため、皆に膨大 な作業を強いていたようです。その段階では ISO 導入そのもの、 そしてそれ以上に彼の進め方に対して、社内で非難囂々だったの です。 相 談 者 また社員の反対ですか。 東 主 任 それを克服するために、彼は夜間の経営学大学院に通って更なる 知識をつけました。それでも社員の共感を得ることは出来なかっ たようです。 相 談 者 先生のお友達は、努力家ですね。そ れからどうなったのですか ? 東 主 任 彼は、そうもがいているうちに大切 なことに気付いたそうです。それは、 「社員一人一人の仕事が理解出来て 88 あらかわ事業承継相談室 いない」ということです。それからは ISO に仕事を合わせるのではなく、皆 の仕事に ISO を合わせる努力をする ようになったそうです。皆の仕事に興 味を持って、それを楽にするための手 段として利用したのです。その時に経 営者は「社員を生かさねばならない」 と実感したそうです。それからは、社 員への思いやりも生まれてきて、徐々に社員とのコミュニケーシ ョンもよくなっていったそうです。自分自身も「役に立てている 実感、仕事をしている実感」を、ようやく得ることができたとい うことです。その後は社員の協力も能動的なものになり、認証取 得の際は審査会社の方に、数百社の審査をしているが 10 本の指 に入ると褒められたそうです。さすがにその時は涙が出たといっ てましたよ。 相 談 者 貴重なお話ありがとうございました。 東 主 任 でも話はこれで終わりません。それでも納得せずに冷ややかに見 ていた番頭格の役員もいたというのです。その方は「ISO など無 駄だ」と社内に説いて回っていたそうですが、結局会社を去った そうです。父の下で働きながらも、同族経営に批判を持っていた 方ですから、ある意味仕方がないのだと思われます。もし、目指 すものを共有できれば一緒にできたのでしょうが。でも、その方 も彼にとっては大切な恩人ですので感謝しているようです。未来 を指し示し、社員と強い絆で結ばれた経営者でありたいと確信で きたのは、彼に対抗してきたあの方がいたからなのだと彼はよく 言います。 相 談 者 自分の会社にもそうした方がいるかもしれません。 89 Q13 東 主 任 彼は会社を守ったのです。逆にそれを放置して失敗した事例もお 話ししておきましょう。その会社の株式の過半数は、80 歳を超 えた創業者が握っている状況でした。事業は創業者の番頭格だっ た人物を中心に社員が動いてしまうので、後継者である社長はい つも「自分は人形のようだ」とつぶやき、また「俺の数十年は一体 何だったのか」とこぼしていたそうです。結局、その会社は潰れ てしまいました。番頭格の方を中心に社員達がお客を引き連れて 独立してしまったからです。その方は「俺は社長の経営ブレーン ではない。俺がずっと会社を背負ってやってきた。部下はみなお れの方を向いている」と言っていたそうです。 相 談 員 結局、私はどうしたらよいのでしょうか ? 東 主 任 今からお話しすることを今日のまとめとします。 先ず、会社の未来を考えながら、今自分にできることを真剣 にやることです。周囲の目などどうせ批判的なものですし、足 かせもあるでしょう。でも、そういうことを気にしていたら未 来は切り拓けません。経営者は新しい価値を創造し続けるのが 仕事です。自分が「これだ !」と思うことを、信念を持って、達 成するまで粘り強くやっていくのです。それがあなたの経営者 としての資質を磨いていきますし、その中で人間関係のことも 学んでいけると思いますよ。頑張ってくださいね。 90