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For Review - ResearchGate
大腸癌の
大腸癌の二次予防「
二次予防「早期発見・
早期発見・早期治療の
早期治療の実現に
実現に向けた内視鏡
けた内視鏡の
内視鏡の役割」
役割」
誌名:
論文ID:
論文種別:
未提出
依頼論文:今月のテーマ
n/a
Fo
投稿日:
Journal of the Japanese Society of Gastroenterology
著者:
大腸癌, 二次予防, スクリーニング, 大腸内視鏡診断・治療, サーベイランス
下部消化管
w
ie
ev
領域 (Category) :
尚久; 国立がん研究センター中央病院, 消化管内視鏡科
正宇; 国立がん研究センター中央病院, 消化管内視鏡科
琢; 国立がん研究センター中央病院, 消化管内視鏡科
健; 国立がん研究センター中央病院, 消化管内視鏡科
豊; 国立がん研究センター中央病院, 消化管内視鏡科
寧; 佐野病院, 消化器センター
隆広; 藤井隆広クリニック,
rR
索引用語 (Keywords):
松田,
関口,
坂本,
中島,
斎藤,
佐野,
藤井,
Page 1 of 17
日消誌 109 巻 7 号
「消化管癌の一次・二次予防」
大腸癌
大腸癌の二次予防「
二次予防「早期発見・
早期発見・早期治療の
早期治療の実現に
実現に向けた内視鏡
けた内視鏡の
内視鏡の役割」
役割」
Secondary Prevention of Colorectal Cancer: The Roles of Endoscopy for Early Detection and
Treatment
1)
国立がん研究センター中央病院 消化管内視鏡科
松田 尚久(Takahisa Matsuda)
,関口 正宇(Masau Sekiguchi)
,坂本 琢(Taku Sakamoto)
,
中島 健(Takeshi Nakajima)
,斎藤 豊(Yutaka Saito)
2)
佐野病院 消化器センター
佐野 寧(Yasushi Sano)
3)
藤井隆広クリニック
Fo
藤井 隆広(Takahiro Fujii)
責任著者:松田 尚久 1) [email protected]
rR
共著者:関口 正宇 1) [email protected], 坂本 琢 1) [email protected],
中島 健 1) [email protected], 斎藤 豊 1) [email protected],
佐野 寧 2) [email protected], 藤井 隆広 3) [email protected]
ev
1) Endoscopy Division, National Cancer Center Hospital, Tokyo
3) TF Clinic
w
要旨
ie
2) Sano Hospital
大腸癌における予防医学としては,現時点では早期発見・早期治療といった二次予防が
極めて重要である.その中で,診断・治療の面で内視鏡の果たすべき役割は大きい.マス・
スクリーニングを考えた場合には,検査医の不足・検査処理能力の限界・安全性・医療費
の増大等の観点から大腸内視鏡検査が便潜血検査に取って代わる状況にはないが,今後,
より効果的な「便潜血検査と大腸内視鏡検査の組み合わせによるスクリーニング法の構築」
が必要と考えられる.また,急増する大腸癌の二次予防の課題として,より広い視野から
大腸癌を捉える必要性と,日本独自の大腸癌スクリーニング・サーベイランスプログラム
を策定していくことが重要である.
索引用語:
索引用語:大腸癌,二次予防,スクリーニング,大腸内視鏡診断・治療,サーベイランス
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はじめに
わが国における大腸癌罹患者数および死亡者数は,平均寿命の延長も相まって著しく増
加傾向にある.年間罹患者数約 10 万人,死亡者数は 4 万人を超え,2015 年には年間罹患者
数が 20 万人近くまで増加すると推測されており(がんの統計 2007 年)
,胃癌を抜いて最も
罹患者数の多い癌になると言われている.大腸癌の発生には遺伝的背景に加え,環境因子
の関与が大きいと考えられている.世界各国あるいは各地域における食事を中心とした生
活習慣には大きな差があり,食習慣と大腸癌の発生との相関分析は大腸癌の発生要因の究
明に重要な手掛かりを与えてきた.これまでの研究成果によれば,高脂肪,動物性蛋白,
総カロリーとこれらの摂取源となる肉類,卵,乳製品などは大腸癌発生と正の相関があり,
穀類,豆類などの高繊維食品の消費量とは負の相関があるとされている.従って,これら
を踏まえた食生活の見直しが大腸癌の一次予防の鍵と考えられる.一方,遺伝的な背景の
ある高危険度群(ハイリスク群)を的確に拾い上げ,その原因となる遺伝子に対する治療
Fo
により大腸癌の危険因子を取り除くことが出来れば理想的ではあるが,現時点では困難で
ある.危険因子を除去するという視点に立てば,大腸癌の場合にはその前駆病変である大
腸ポリープ(腺腫性ポリープ)の内視鏡的摘除がその後の大腸癌発生(罹患)と死亡率低
rR
下に寄与するという報告が米国 National Polyp Study(NPS)グループから報告されており 1),
2)
,大腸癌における予防医学としては,現時点では早期発見・早期治療といった二次予防が
極めて重要である.
ev
大腸癌
大腸癌の二次予防:
二次予防:日本における
日本における検診
における検診の
検診の現状
ie
早期発見・早期治療(二次予防)は一次予防に次ぐがん対策の基本である.大腸がん検
診として,費用対効果・精度・安全性などの因子を考慮した上で,1992 年より 40 歳以上の
w
全ての国民を対象として免疫学的便潜血検査(immunochemical fecal occult blood test: IFOBT)
2 日法が用いられている.糞便中の DNA,胆汁酸,CEA などを用いた早期スクリーニング
法の開発も精力的に行われているものの,実用性の面では IFOBT に代わるものは存在しな
い.このいわゆる集団検診(対策型検診)が国家的な事業となっているのは日本以外には
ほとんどなく,さらに日本では,任意型検診や人間ドック,職域検診があり,様々な形で
大腸癌スクリーニングを受検出来る環境が整備されつつある.しかしながら,対策型検診
については都道府県ごとの受診率の格差が大きいことに加え,全体としての検診受診率は
約 20%と低く,さらに便潜血陽性者の精密検査(精検)受検率の低さが問題視されている.
例年,IFOBT 受診者の約7%が陽性となり,その中で精検としての全大腸内視鏡検査(total
colonoscopy: TCS)を受検する人が約 60-70%,そこで大腸癌を指摘される人が約 3%強であ
る.つまり,検診受診者全体における大腸癌発見率は約 0.15%と胃がん検診とほぼ同等の癌
発見率を示しており,幅広く逐年検診を受検することである一定の効果は十分に期待出来
る.しかし,IFOBT においては,当然のことながら擬陽性は避けられず,早期癌はもちろ
ん進行癌であっても偽陰性例が存在する.
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IFOBT(1 日法)と TCS の両方を受検した無症状健常成人 2 万人以上を対象とした
Morikawa らの報告
3)
によると,浸潤性大腸癌の IFOBT による診断感度は全体で 65.8%
(Dukes’ stage A: 50.0%, Dukes’ stage B: 70.0%, Dukes’ stage C, D: 78.3%)であり,右側結腸癌
では感度が低くなることを示している.さらに光島らも 4),IFOBT(1 日法)における粘膜
内癌,粘膜下層(SM)浸潤癌,進行癌の診断感度は,それぞれ 27.1%, 41.5%, 79.7%と IFOBT
だけでは大腸癌死亡率減少効果が十分ではなく,より効果的な大腸がん検診の実現のため
には,IFOBT と TCS の組み合わせによるスクリーニングが必要であると論じている.
早期発見・
早期発見・早期治療のための
早期治療のための大腸内視鏡
のための大腸内視鏡の
大腸内視鏡の役割
1.
大腸癌スクリーニング
大腸癌スクリーニングにおける
スクリーニングにおける内視鏡
における内視鏡の
内視鏡の費用対効果
日本の大腸がん検診には,先述の如く集団が対象の「対策型検診」と個人が任意で受診
する「任意型検診」がある.大腸内視鏡検査は偶発症の側面から「対策型検診」では一次
Fo
スクリーニングとしては勧められていない.便潜血陽性者に対する精検として TCS が行わ
れている.一方「任意型検診」では,安全性の確保と十分な説明を前提として TCS を一次
スクリーニングとして施行可能である.検診における大腸内視鏡の有効性(大腸癌死亡減
rR
少効果等)についてはエビデンスが多いが,経済的評価は特に日本ではまだ少ない.一方,
海外では比較的多くの検討がなされている.その検討は,マルコフモデルを代表とするシ
ミュレーションモデルを用いて行われることが多く,cost-effectiveness(費用対効果)とい
ev
う概念がよく用いられる.これは「費用に見合う効果が得られるか」という考え方で,増
分費用効果比(1 年の生存延長あたりの追加費用, incremental cost effectiveness: ICER)が指
ie
標としてよく使われる.
「ある手技や治療が cost-effective である」とする ICER の上限値が
米国では 5 万ドル/ QALY,英国では 3 万ポンド/ QALY(quality adjusted life year: QALY)と
w
される 5)が,日本での目安はまだはっきりしない.日本における数少ない検討の中で,
「有
効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン」6)に取り上げられている 2 つの検討を紹介す
る.1991 年に Tsuji ら 7)が,大腸がん検診における便潜血検査後の精検法(TCS や注腸検査
など)について検討を行っている.結果は男女とも TCS が最も cost-effective であり,救命
1 例 1 年あたりの費用は男 330.9 万円,女 413.0 万円であった.さらに 1994 年には,Shimbo
ら
8)
がポリープ切除による大腸癌予防効果も考慮したモデルで便潜血検査後の各種精検方
法を比較検討しているが,TCS の救命 1 例 1 年あたりの費用は 176.5 万円で注腸検査などよ
りも cost-effective という結果であった.これら 2 つの検討は,経済面からも現行通り精検は
TCS を第一選択とするのが妥当であることを示唆している.それでは「任意型検診」のよ
うに一次スクリーニングで TCS を行う場合はどうであろうか.海外には TCS を一次スクリ
ーニングとする場合を含めたシミュレーションモデルによる医療経済的検討が複数あるが,
多くが TCS を cost-effective であると結論づけている 9)-14).
救命 1 例 1 年あたりの費用は 2,400
~31,700 ドルで,前述の米国・英国の ICER 上限値を下回る.便潜血・S 状結腸鏡・TCS 等
の検査のうちどれを一次スクリーニングに用いると最も費用対効果があるかについては報
Page 4 of 17
告により様々だが,TCS が最も良いという報告も少なくない.このような検討から内視鏡
はスクリーニングにおいて cost-effective であるとされているが,日本における実際の臨床現
場ではどうだろうか.当院がん予防検診研究センターにおける大腸内視鏡検診データと日
本消化器がん検診全国集計から大腸癌の発見費用について比較検討を行った.
<大腸癌の
大腸癌の発見にかかる
発見にかかる費用
にかかる費用について
費用について>
について>
a) 当院がん
当院がん予防検診研究
がん予防検診研究センター
予防検診研究センターにおける
センターにおける大腸内視鏡
における大腸内視鏡検診
大腸内視鏡検診データ
検診データと
データと b) 消化器がん
消化器がん検診全
がん検診全
国集計データ
国集計データ 15)との比較検討
との比較検討
a) 当センターでは,任意型検診として TCS を施行している.そこで任意型検診における
内視鏡の医療経済について検討を行った.対象は 2004 年 2 月~2010 年 8 月に 40 歳以上の
成人に当センターで施行した大腸内視鏡検査 15,343 件で,大腸腺腫(5mm 以上)と大腸癌
を発見するのに要する費用を計算した.検査受診者の年齢,男女比は各々40-89 歳(平均 60.1
Fo
歳),男 9,453 人/女 5,890 人であった.結果は,5mm 以上の腺腫が 1,481 件(9.7%)
,大腸
癌が 112 件(117 病変)
(0.73%)発見され,保険点数に準じて TCS 費用を 15,500 円/件とし
て計算すると,腺腫(5mm 以上)と大腸癌各々を 1 件発見するのに要する費用は 16.1 万円
rR
と 212.3 万円となった.b) 対策型検診ではどうだろうか.平成 20 年度消化器がん検診全国
集計データ 16)を使用し大腸癌発見費用を計算した.受診者 526 万 7,443 人中(受診者 50-60
歳代が最多),便潜血陽性者は 31 万 9,846 人,そのうち精検受検者は 17 万 4,914 人で大腸
ev
癌は 6,838 人に指摘されている.ここから計算される大腸癌 1 件の発見費用は 162.9 万円で
ある.
もし精検受診率が 100%であると仮定すると,
同発見費用は 107 万円程度と低くなる.
ie
上記 a), b)の結果を発見大腸癌の Stage 分布や初回治療内容を含めて表 1 にまとめた.a)にお
ける大腸癌 1 件の発見費用は b)に比べ明らかに高い結果となった.それでは,大腸内視鏡
w
検査を一次スクリーニングとして施行するのは医療経済的に不適切なのであろうか?発見
された大腸癌の Stage 分布に注目してみると,非検診発見例を含む全大腸癌の Stage 分布は,
2008 年がん診療連携拠点病院院内がん登録全国集計 17)を参照すると,0 期:13.0%, Ⅰ期:
23.1%, Ⅱ期:17.6%, Ⅲ期:18.9%, Ⅳ期:14.4%, 不明 13.0%(UICC TNM 分類)であるが,
このデータと大腸癌 Stage 分布を比較すると,対策型・任意型を問わず,検診では大腸癌が
より早期に発見されることが分かる.その上でさらに a)と b)を比較すると,任意型では早
期癌の割合が対策型よりもさらに高いことが明らかである.
大腸癌では Stage が進むにつれ,
治療・経過観察にかかる医療費が増大する.任意型検診では多くの癌が早期に発見され,
内視鏡治療にて根治する症例も多く,癌発見後にかかる費用は抑制できるだろう.この点
を考慮すると,前述の a)における癌発見費用(212.3 万円/件)は b)と比べそれほど高いもの
とは言えず,許容できる範囲と考えられる.以上,実地臨床データに基づいて大腸癌発見
費用について検討した.日本の任意型検診における TCS も,医療経済的に妥当なものであ
る可能性が示唆された.
Page 5 of 17
2.
内視鏡的ポリープ
(JPS)
)の紹介
内視鏡的ポリープ摘除後
ポリープ摘除後サーベイランス
摘除後サーベイランス法
サーベイランス法:Japan Polyp Study(
わが国の検診システムは,便潜血反応によって集団から抽出された要精検者群に対して,
全大腸内視鏡検査(TCS)が推奨されているが,その後に繰り返される経過観察例の増加も
相まって,その検査件数は増大の一途を辿っている.また,内視鏡医の不足,検査処理能
力の限界,医療費の増大などが社会問題ともなっている.しかし,大腸癌は超高危険群(家
族性大腸腺腫症,遺伝性非ポリポージス性大腸癌)を除けば,経過観察中に浸潤性大腸癌
が発見されることは極めて少なく,
「適正な TCS 検査間隔指針の確立」が求められている.
大腸癌の高危険群としては,腺腫性ポリープの存在が知られているが,これらに対して内
視鏡的な予防介入を行う場合,1) 微小ポリープに対する摘除の必要性,2) TCS による精検
処理能の限界,3) 平均的リスク群と高リスク群における適正な検査間隔の設定,4) ポリー
プ摘除による大腸癌罹患率抑制効果の有無など様々な要件が未解決であり,これらに対し
て医療経済の側面を含めた科学的な回答を得ることが急務となっている.上記 3), 4)につい
Fo
ては,先述の米国 National polyp study(NPS)の成績から,平均的リスク群では 3cm 以下の
全ての腺腫を摘除すること(クリーンコロン化)で,その後の検査間隔は 3 年で良いこと,
さらに一般人口や腺腫を摘除しなかった過去のデータとの比較により,76~90%の大腸癌累
rR
積罹患率の減少が期待できると結論づけられた.しかし本邦では,内視鏡検査および腸管
前処置の違いと,我々が行った遡及的検討結果 18)から,表面陥凹型腫瘍を軽視した NPS の
結果に基づく米国のガイドラインを完全には容認できないという結論に至った.そこで,
ev
わが国でも NPS と同質の前向き介入試験を行うことで,クリーンコロン化における適正な
TCS 検査間隔を求めると共に,欧米とは異なる日本独自の検査体制の要否,内視鏡的ポリ
ie
ープ摘除が大腸癌罹患率減少に及ぼす効果の有無とその程度を明らかにすることを目的と
して,2000 年に Japan Polyp Study(JPS)working group を設立した 19).
w
<Japan Polyp Study(
(JPS)>
)>
本研究「ポリープ切除の大腸がん予防に及ぼす効果の評価と内視鏡検査間隔の適正化に
関する前向き臨床試験:Japan Polyp Study(JPS)
」は,我が国が誇る内視鏡を基盤とした初
めての大規模な多施設共同前向き比較試験(RCT)であり,2003 年 2 月より登録を開始し
た.2006 年 12 月(最終登録者数:3,926 名)をもって登録が完了し,現在,割付後のフォ
ローアップ全大腸内視鏡検査(TCS)と病理中央判定,割付前検査データの解析が進行中で
ある.今年 7 月にて,割付後 3 年目の最終 TCS 検査が完了し,内視鏡的ポリープ摘除後の
適正な TCS 検査間隔についてのデータ解析が開始される予定である.
1)
Study Design
【対象】
:40 歳~69 歳の健常者,
【目的】
:大腸がん罹患の超高危険群(家族性大腸腺腫症・
遺伝性非ポリポージス性大腸がん)を除く,全ての腫瘍性ポリープを摘除した対象者に対
する TCS の至適検査間隔期間について,1 年と 3 年後に行う 2 回検査群と 3 年後のみに行
う 1 回検査群とのランダム化比較試験によって評価する(図 1).
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Primary endpoint:クリーンコロン後の Index lesion(10 mm 以上の上皮性腫瘍・高度異型腺
腫・癌)の発生割合.
Secondary endpoint:クリーンコロン後の全大腸腫瘍,陥凹型腫瘍,
有害事象の発生割合.さらに,3 年後のランダム化比較試験評価後は,長期経過観察からそ
の後の浸潤癌発生頻度と予後に関する探索的検討を行う.
【参加施設】
:全 11 施設(国立がん研究センター中央病院・国立がん研究センター東病院・
参加施設】
藤井隆広クリニック・昭和大学横浜市北部病院・昭和大学病院・佐久総合病院・服部胃腸
科・栃木県立がんセンター・静岡がんセンター・北里大学東病院・大阪成人病センター)
および JPS データセンター:メディカル・リサーチ・サポート
【これまでの研究
:第
第 1 期:2000 年~2002 年:遡及的検討およびプロトコール作
これまでの研究の
研究の流れ】
成.第
第 2 期:2003 年~2006 年:エントリー期間(最終登録者数:3,926 名)
.第
第 3 期:2007
年~現在: 1 次・2 次 TCS と割付作業の完了および割付後検査・病理中央判定の最終段階
Fo
に入っている.併せて,JPS 完遂者を対象として,追跡調査(コホート研究)への再同意取
得を行っており,現時点ですでに 1,000 名を超える登録が完了している.
2)
JPS Outcome
rR
JPS Working Group では,Primary/ Secondary endpoint に加え,TCS 検査における病変の見
逃し率,大腸がん家族歴と発見病変との関係,既往歴と発見病変との関係,クリーンコロ
ン化における偶発症発生率等についての検討を行い,わが国独自の TCS に関するガイドラ
ev
イン作成の一助となるエビデンスを打ち出していきたいと考えている.尚,本研究は,厚
生労働科学研究費補助金:がん臨床研究として実施しており,今年度からデータ解析と論
と確信する.
3.
大腸腫瘍性病変に
大腸腫瘍性病変に対する内視鏡診断
する内視鏡診断の
内視鏡診断の進歩
w
ie
文化が開始される.JPS から大腸癌二次予防に関連した基礎データが数多く報告出来るもの
あらゆる内視鏡領域において,内視鏡機器の性能向上と新しい技術の内視鏡への応用に
基づく内視鏡診断の進歩は目覚ましいが,大腸領域においても内視鏡検査前処置の改良,
色素内視鏡の発展,拡大内視鏡・超音波内視鏡,画像強調内視鏡(image enhanced endoscopy:
IEE)などの機器の進歩,表面陥凹型腫瘍に対する理解の普及などにより,早期大腸癌が多
く発見されるようになった.さらに,内視鏡的に精度の高い深達度診断が可能となったこ
とで,より多くの患者が開腹手術を受けることなく内視鏡的に治療される時代となった.
大腸内視鏡診断の目的は,治療の必要性とその治療法を的確に判断することにある.拡大
内視鏡を用いて,通常観察に拡大観察を加えることにより,腫瘍・非腫瘍の鑑別のみなら
ず,リンパ節郭清を伴う外科切除を要する病変の抽出がより高い精度で可能となることが
数多く報告されている 20)-23).さらに,Narrow Band Imaging(NBI)に代表される新しい IEE
を日常臨床で使用することで,より簡便に大腸病変の質的・量的(深達度)診断が可能な
時代を迎えている
24)-27)
.しかしながら,拡大内視鏡診断の根底には,慎重かつ的確な通常
Page 7 of 17
観察が必要であることも事実である.
<早期大腸癌に
早期大腸癌に対する深達度診断
する深達度診断(
深達度診断(通常観察)>
通常観察)>
通常観察において,粘膜下層(SM)への癌浸潤の可能性を予測することは早期大腸癌の
内視鏡診断を行う際に非常に重要である.英語論文化された報告は少ないが,1998 年に斎
藤らにより,陥凹型早期大腸癌の通常内視鏡所見に関する報告がなされている
28)
.この報
告では,緊満感,深い陥凹,陥凹内の不整所見,襞の引きつれといった通常観察所見が SM
高度浸潤と相関があり,これらの所見を的確に拾い上げることの重要性が論じられている.
当院における早期癌の見直し診断では,図 2 に示すような通常観察所見が SM 浸潤の有無を
予測する所見として抽出された.a.境界明瞭な深い陥凹,b.襞の引きつれ,c.陥凹内隆
起,d.病変周囲の白斑,e.領域性のある発赤,f.緊満感,g.病変の硬さ,h.表面不整,
i.分葉溝の消失,j.茎の太まり(有茎性病変)である.とくに隆起型では「分葉溝の消失」
,
Fo
表面型では「緊満感」が多変量解析にて独立した因子として抽出された 29).所見 a~j の中
で,「病変周囲の白斑」や「襞の引きつれ」については,粘膜内癌においても認められるこ
とが多々あるため注意が必要であるが,これらの所見を総合的に捉え,通常観察下の深達
rR
度診断を行うことが大切である.その際には,インジゴカルミン色素撒布下に病変全体を
しっかりと観察することがポイントとなる.その上で,SM 浸潤が否定できない病変に対し
て拡大観察を加えることで,より精度の高い深達度診断を追求する姿勢が重要である.
ev
<深達度診断における
深達度診断における色素拡大内視鏡診断
における色素拡大内視鏡診断(
色素拡大内視鏡診断(pit pattern 診断)>
診断)>
ie
早期大腸癌とくに SM 癌の診断学に関して,当院においては,拡大内視鏡と EUS の診断
成績の比較検討から 30),1998 年以降,拡大内視鏡診断を重視する立場をとっている.従来
w
の鶴田・工藤分類を modify する形で,pit pattern 分類を 3 つに大別
(non-neoplastic, non-invasive,
invasive pattern)し,より治療方針決定に即した「臨床分類」として日常臨床に生かしてき
た
21)-23)
.拡大内視鏡診断を行う上で,質的診断(腫瘍・非腫瘍の鑑別)は,比較的容易に
初心者でも可能であるが,深達度診断(M-SM 軽度浸潤癌と SM 高度浸潤癌の鑑別)にはあ
る程度の熟練が必要である.一般に用いられている鶴田・工藤分類における V 型 pit pattern
診断は,2004 年の箱根コンセンサスミーティング以降,VN 型をより厳密に評価することに
より,過大手術症例数の減少という非常に大きな成果に繋がった 31).但し,VI 型 pit pattern
の幅が広がり,治療方針決定のための線引きが難しくなった(よりハイレベルな pit pattern
診断学が必要となった)とも言える.つまり,VI 型 pit は軽度不整から高度不整まで連続的
に変化するものであり,両者の間には必ず境界病変が存在するためである.そこで当院で
は,外科手術を選択すべき病変を,主観が伴いやすい「pit の不整性」だけで判断すること
なく「領域性」をもう一つの要素として組み込むことで,過大手術を避ける努力を続けて
いる.
Page 8 of 17
4.
早期大腸癌
早期大腸癌に
大腸癌に対する内視鏡治療
する内視鏡治療の
内視鏡治療の医療経済効果
医療経済効果
大腸内視鏡治療の主な方法として,ポリペクトミー,内視鏡的粘膜切除術(endoscopic
mucosal resection:EMR)
,分割 EMR(endoscopic piecemeal mucosal resection:EPMR)
,内視
鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)が挙げられる.とくに ESD
は本年 4 月より保険収載され,今後益々,早期大腸癌に対する内視鏡治療の発展に寄与す
るものと考えられる.大腸癌治療ガイドライン 2010 年度版 32)では,内視鏡治療の適応条件
として,1)粘膜内癌(cM 癌)もしくは粘膜下層への軽度浸潤癌(cSM 軽度浸潤癌)
,2)
最大径 2cm 未満,3)肉眼型は問わない,という 3 点が挙げられている.2)はポリペクト
ミーや通常 EMR で一括切除できる限界が 2cm であることに基づいており,1)~3)の適応
条件を満たす病変は,基本的にはポリペクトミーや EMR で治療することになる.最大径 2cm
以上の cM 癌・cSM 軽度浸潤癌については,同ガイドラインにて「術者の内視鏡的摘除の技
量を考慮して EMR,分割 EMR(EPMR)
,ESD の適応を決定する」と記載されている.ま
Fo
た ESD 適応については,大腸 ESD 標準化検討部会からその適応が提唱されている 33).
これら内視鏡治療の医療経済学的評価であるが,まずは主な内視鏡治療,手術療法の保
険点数(表 2)を見てみる.この表から分かるように,内視鏡治療は外科手術に比べ低コス
rR
トである.これに加え,入院期間や麻酔費用等も考慮すると,保険収載されている内視鏡
治療が,その適応病変に関して手術療法よりも cost-effective であることは容易に想像できる.
それでは,保険収載された ESD はどうか.ESD はこれまで限られた施設で「先進医療」と
ev
して施行されてきたが,その費用は施設間で多少ばらつきはあるものの,医療機器使用料・
人件費・医療材料費・医薬品費等から概ね 20 万円前後で設定されていた.この費用は,手
ie
術よりも低コストで,こちらも ESD の適応病変については,ESD が手術よりも cost-effective
と言えそうである.そこで,国立がん研究センター中央病院で 2004 年 1 月~2010 年 8 月に
w
施行した大腸 ESD のうち,当院にて経過観察が可能であった 524 病変を対象に,ESD 後の
追加治療や合併症の治療にかかる費用を計算し,大腸 ESD 費用について考察してみた.
<当院大腸ESD症例
症例の
当院大腸
症例の検討>
検討>
524病変のESD後の経過・合併症の内訳を図3,4に示す.これをもとに追加治療や合併症
治療にかかった総費用(治療手技,薬剤の費用のみを計算)を計算するとは約3,000万円と
なる.これを病変総数で割るとESD:1病変あたりに追加される費用は約6万円と計算され,
追加治療と合併症を加味したESD費用は1件当たり26万円になる.これは手術費用よりも安
いままであり,さらに入院期間や麻酔費用も考慮すると,ESDはその適応病変においてはや
はり外科手術治療よりもcost-effectiveであると言える.
おわりに
大腸癌が増加している日本において内視鏡の果たすべき役割は大きい.スクリーニング
については,シミュレーションモデルを用いた内視鏡の費用対効果に関する過去の報告と,
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がん予防検診研究センターの大腸内視鏡検査データと日本消化器がん検診全国集計データ
を用いて行った大腸癌発見費用の検討から,内視鏡が一次スクリーニング,便潜血陽性者
に対する精検のいずれにおいても費用対効果を有すると考えられた.しかし,国全体とし
ての検診(マス・スクリーニング)を考えた場合には,検査医の不足・検査処理能力の限
界・医療費の増大等の側面から大腸内視鏡検査が便潜血検査に取って代わる状況にはない.
今後,Japan Polyp Study(JPS)の結果から,大腸癌の前駆病変である腺腫性ポリープに対す
る内視鏡摘除後の適正なサーベイランス間隔を患者リスク別に導き出すこと,また,内視
鏡が介入することによる大腸癌罹患率抑制効果を証明することにより,より効果的な「便
潜血検査と大腸内視鏡検査の組み合わせによるスクリーニング法の構築」が必要であると
考えられた.さらに,優れた内視鏡診断手技の均てん化を図ると共に,治療に関しても,
外科手術と比較し cost-effective であり医療経済的に優れたものである可能性が示唆された
ESD を代表とする内視鏡治療手技の更なる向上のための努力を続けていく必要がある.最
Fo
後に,これから急増する大腸癌の二次予防の課題として,より広い視野から大腸癌を捉え
る必要性と,日本独自の大腸癌スクリーニング・サーベイランスプログラムを策定してい
くことが重要である.
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w
ie
ev
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研究デザイン
<図1>
Confirmation colonoscopy (2 nd TCS)
Initial colonoscopy (1st TCS)
Randomization
Start
Eligible
patient
(40-69yrs)
×
Fo
12m
Adenoma(+)
Clean colon
1st follow-up
24m colonoscopy
rR
(1y)
48m
(3y)
ev
1st follow-up
colonoscopy
iew
Adenoma(-)
2nd follow-up
colonoscopy
48m
(3y)
研究方法:
1.文書による同意取得. データセンターに登録.
2.1次TCSにより腫瘍性ポリープ全てを内視鏡摘除.
3.全例1年後に再検査(2次TCS)を行い, 初回検査での見逃しを含めた全ての腺腫性ポリープの摘除を
行いクリーンコロンとする. その後, データセンターから2回検査群(1年と3年後の検査)と, 1回検
査群(3年後に検査)の割付情報を入手.
4.経過観察中にみられるIndex lesion: IL(10mm以上の上皮性腫瘍, 高度異型腺腫, 癌)の発見割
合を 1回検査群と2回検査群間で比較し, クリーンコロン施行後3年間で2回検査が必要か,3年後の1回
検査で十分かどうかを検証する.
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<図2> SM浸潤癌の通常内視鏡観察所見
Fo
rR
ev
iew
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<図3> 当院大腸ESD症例の治療後臨床経過
追加治療(-)
再発(-)
Fo
465病変
rR
外科手術
ESD病理結果から
大腸ESD
追加治療(+)
48病変
524病変
44病変
ev
その他
iew
4病変
Polypectomy,
ESD後再発にて
EMR 10病変
追加治療(+)
12病変
ESD
2病変
この内の1病変にて
さらに外科手術,
化学療法を追加
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<図4> 当院大腸ESDにおける合併症とその治療法
合併症なし
Fo
大腸ESD
524病変
502病変
rR
出血
保存的加療
ev
8病変 (1.5%)
穿孔
iew
14病変 (2.7%)
8病変
緊急手術
1病変
保存的加療
13病変
<表1> 任意型検診と対策型検診の比較
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<任意型検診>
<対策型検診>
対象データ
当院検診データ
(2004年2月~2010年8月)
日本消化器がん検診集計
(2010年)
検査方法
全大腸内視鏡
便潜血→ 全大腸内視鏡
受診者数
15,343例
5,267,443例
112例 (0.73%)
6,838例 (0.13%)
212.3万円/例
162.9万円/例
発見大腸癌 Stage
0
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲa
Ⅲb
Ⅳ
(判明例:109例)
81例 (74.3%)
16例 (14.7%)
7例 (6.4%)
3例 (2.7%)
1例 (0.9%)
1例 (0.9%)
(判明例:4,029例)
1,713例 (42.5%)
1,043例 (25.9%)
552例 (13.7%)
418例 (10.4%)
187例 (4.6%)
116例 (2.9%)
初回治療方法
内視鏡治療
外科手術
無治療
その他
(判明例:109例)
93例 (85.3%)
16例 (14.7%)
0例 (0%)
0例 (0%)
(判明例:4,819例)
2,267例 (47.1%)
2,466例 (51.1%)
19例 (0.4%)
67例 (1.4%)
大腸癌症例数
大腸癌発見費用
Fo
rR
ev
iew
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<表2> 大腸内視鏡治療と手術治療の保険点数
治療手技
保険点数
内視鏡的大腸ポリープ切除, EMR
長径2cm未満
長径2cm以上
5,000点
7,000点
Fo
ESD
rR
結腸悪性腫瘍切除術
腹腔鏡下
開腹
ev
約18,000点
(2012年4月より保険収載)
直腸切除術/低位前方切除術
腹腔鏡下
開腹
iew
41,700点
32,700点
63,150点/ 77,780点
40,500点/ 66,300点
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