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新たに生まれる「イージーオイル」?? - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報
JOGMEC 石油調査部 池ヶ谷 清貴 アナリシス 新たに生まれる「イージーオイル」 ?? ~まだまだ頼れる巨大油田と新たな巨大油田の効果が支え る石油の未来~ はじめに 最近、 「ピークオイルの到来は近く、 『イージーオイル』はもうほとんど残ってない。だから、石油で たぐい はなく別のエネルギー資源に」という類の文章を一般誌でよく見かけるようになった。ところが当機構 の石油用語辞典では、この「ピークオイル」「イージーオイル」は検索不能。そして、米国 EIA や IEA の サイトその他専門的な用語集をインターネットで検索しても検索不能となる。実はこの二つの言葉、業 界でもよく使われる言葉でありながら、改めて定義されたことのない言葉。つまり、石油の専門的用語 あ うん ではなく阿吽の呼吸で、使われる言葉に過ぎない。 筆者の感得するところでは、上流事業者が技術的・経済的に大きなリスクを感じずに、安定的に採取 できる 「石油」 が 「イージーオイル」 である。つまり、世に連れ、人に連れ、変貌する。 このため、 「イージーオイル」は、新たに生まれても不思議はなく、米国の「タイトオイル」などは新た な「イージーオイル」になる可能性があるだろうし、一方では「イージーオイル」は不安定で英国などで見 られたように財務条件の急激な変更によってはすぐにその名にそぐわなくなってしまうものである。 本稿はこの「イージーオイル」がもうなくなり「ピークオイル」(本文中に説明を記述)がすぐにも訪れ るという考えに反証を示すことを契機として書き始めたものである。(2 0 1 1 年 9 月 WSJ は CERA の Daniel Yergin は、ピークオイル論者が、2 0 0 5 年、2 0 0 7 年、2 0 1 1 年と次々にピークオイルの到来時 期を後ろにずらし、今では、2 0 2 0 年前とする節操のなさを論評している)。また、業界では既知のこ とだが、IEA は 2 0 0 8 年のレポートでこれまでに消費した石油埋蔵量の約 1 兆バレルに対し、今後期待 できる埋蔵量は資源量で 9 兆 5,0 0 0 億バレル、可採ベースでも 3 兆バレル超(タイトオイル除く)が期待 できるとしている。 本稿でフィーチャーしたいのは① 1 9 7 0 年代の石油ショック当時からの巨大油田は今も巨大油田で、 おおむ 、 世界の生産量の概ね半分を生産していること、②ちょっと変わった埋蔵量の見方(政治的、経済的視点) ③意外な生産量拡大源(埋蔵量成長と天然ガス液< NGL >の巨大な貢献) 、④成熟したとされる地域へ の巨大投資継続の事実 (北海、米国) 、である。 今後の見通しについても、石油供給源(埋蔵量)拡大要因について技術の重要性とその適用の拡大につ いて新たな巨大油田の効果としてブラジルのプレソルトとタイトオイルを例に挙げて説明した。特に シェールガスの再来をタイトオイルに望む気持ちから「世界がガスを使えば、さらにガスは見つかる」と いうガスパラドックスの状況を示した。また、この埋蔵量が拡大するための要因である探鉱・開発を左 右する石油市場の特殊性に改めて注目した。 さらに、時折繰り返される話で重要だが検証されない事実、① OPEC の架空埋蔵量の計上、②世界に 類なく、今後も他の追随を許さない米国の掘削数等(=探鉱密度)について根拠を探してある程度の検証 を行った。各位のご参考になることを祈念したい。 最後に、埋蔵量枯渇の心配は当分ないものの資源の節約は必要ということで、資源の効率化がなされ た場合に消費者が念頭に置くべきと考えられるエネルギー使用効率の向上が、逆に消費量の拡大につな がるという英国の経済学者、William Stanley Jevons(1 8 3 5 ~ 1 8 8 2)のパラドックスを紹介し、さらな る注意を喚起することとした。 1 石油・天然ガスレビュー アナリシス 1. 世界の大油田は今も昔も大油田それを示す各国の生産量 原油はどこにありどこから生産されるのか している。さらに 2 0 位前後まで見ても、脱落したイン ① 埋蔵量、生産量 ドネシア、エジプト、オマーンには他国と比べ、巨大油 図 1 は、在来型の原油埋蔵量が現在の世界のどこに存 田が存在せず、アゼルバイジャン、カザフスタンの新規 在するかを、その大きさにより地図をデフォルメして表 参入組には巨大油田が存在している。このため、生産量 したものである。一般にイメージされるように中東諸国 の上位に入ることを可能にし、さらに長期の生産量維持 の存在感が大きいことは一目瞭然である。そして表1は、 に効果絶大なのが、このクラスの巨大油田の存在の有無 石油ショックの 1 9 7 3 年当時の生産国と現在の生産国を と筆者は考える。在来型については成熟して規模に劣る 示したものである。いずれも生産国ベスト 3 は、サウジ とされている、欧米諸国(カナダを除く)が上位に位置す アラビア、ロシア、米国であることが分かる。また、ベ ることができるのは、探鉱時の税等の負担、いわゆる財 スト 1 0 まで見てみると、そのうち 7 カ国については変 務条件が他所に比べ優遇されていることから、探鉱事業 動がなく、その安定性は目を見張るべきものがある。こ への参加者が多く、規模・量が他国に勝っていることに れを可能にした多くの要因が 1 0 億~ 5 0 億バレルクラス よるものと考えられる。一方、脱落した国々の参入・財 の巨大油田の存在であると筆者は考えている (表 2) 。 務条件は厳しく、探鉱事業の規模・量も他国に比べ劣っ また、脱落した国もリビアは国連の経済制裁による探 ている。 鉱事業の停滞、ナイジェリアは内紛の長期化、ベネズエ この巨大油田について、IEA および世界有数のコンサ ラは対外政策による探鉱事業の停滞ということであり、 ルタント企業 IHS は表 2 の確認+推定埋蔵量(2P)ベー 政策の行方次第で、巨大油田をベースとした生産復活の スで 5 0 億バレル以上をスーパージャイアント、5 億バレ 可能性もあると思料される。1 9 7 3 年から躍進を示し、 ル以上をジャイアントとして巨大油田を区分し、合計で ベスト 1 0 入りした中国、メキシコにも巨大油田は存在 3 1 7 油田とした。また、1 億バレル以上は大型油田とし、 よ そ (誰が石油<埋蔵量>を持っているか?) 出所:テキサス大学資料 図1 在来型の石油埋蔵量の国別保有状況 2011.11 Vol.45 No.6 2 新たに生まれる「イージーオイル」?? ~まだまだ頼れる巨大油田と新たな巨大油田の効果が支える石油の未来~ 表1 石油危機当時と現在との上位石油生産国の比較(生産量順) 1973 年 (千 b/d) 10,946 2009 年 (千 b/d) % ロシア(1973 年は旧ソ連) 2009 年 /1973 年 1 米 国 2 ロシア(1973 年はソ連) 8,664 14.8 3 サウジアラビア 7,693 13.2 4 イラン 5,907 10.1 5 ベネズエラ 3,455 5.9 中 国 3,790 4.7 353% 6 クウェート 3,080 5.3 カナダ 3,212 4.0 152% 7 リビア 2,211 3.8 メキシコ 2,979 3.7 567% 8 カナダ 2,114 3.6 UAE 2,599 3.3 179% 9 ナイジェリア 2,056 3.5 イラク 2,482 3.1 123% 10 イラク 2,018 3.5 クウェート 2,481 3.1 81% 11 UAE 1,456 2.5 ベネズエラ 2,437 3.0 71% 12 インドネシア 1,338 2.3 ノルウェー 2,342 2.9 7,319% 13 アルジェリア 1,111 1.9 ナイジェリア 2,061 2.6 100% 14 中 国 1,075 1.8 ブラジル 2,029 2.5 1,166% 15 カタール 570 1.0 アルジェリア 1,811 2.3 163% 16 メキシコ 525 0.9 アンゴラ 1,784 2.2 1,075% 17 オマーン 293 0.5 カザフスタン 1,682 2.1 - 18 ブラジル 174 0.3 リビア 1,652 2.1 75% 19 アンゴラ 166 0.3 英 国 1,448 1.8 16,089% 20 エジプト 165 0.3 カタール 1,345 1.7 236% 21 インド 148 0.3 アゼルバイジャン 1,033 1.3 - 22 マレーシア 91 0.2 インドネシア 1,021 1.3 76% 23 ノルウェー 32 0.1 オマーン 810 1.0 276% 24 英 国 9 0.0 インド 754 0.9 509% カザフスタン 0 0.0 エジプト 742 0.9 450% アゼルバイジャン 0 0.0 マレーシア 740 0.9 813% 3,168 5.4 その他 7,557 9.5 239% 計 58,465 100.0 計 79,948 100.0 137% OPEC 計 29,932 51.2 OPEC 計 33,076 41.4 111% その他 18.7 % 10,032 12.5 116% 9,713 12.1 126% サウジアラビア 米 国 7,196 9.0 66% イラン 4,216 5.3 71% 出所:BP 統計より作成 1 億バレル未満は小規模としている。過去、世界の大油 田の発見は 1 9 5 0 〜 1 9 7 0 年代に集中し、当時は、採取 60 可能な埋蔵量 5,0 0 0 万バレル以上を大油田、5 億バレル 50 以上を巨大油田、 10億バレル以上を超巨大油田 (エレファ 40 ント級) と呼んでいた。 30 世界の油田規模の考え方は原油がないといわれるなか で、拡大していることは興味深い。大油田は図 2 に見ら れるように 1 9 6 0 年代に発見されたものが多く、この発 見年の古さをその根拠としてピークオイル論者が引用す ることが数多く見られている。しかし、筆者はその存在 が今日もこのように大きいことが逆に、 ピークオイル(定 義のない用語であるが概ね①供給量がもはや増えないこ と、②供給量が需要を満たすことができないこと、③お およそ半分の石油が使用されたこと、④供給レベルが通 常より減り、減少が始まったこと、と IHS 等の見解を参 3 石油・天然ガスレビュー 10億バレル/年 10億バレル 1,400 1,200 1,000 800 600 20 400 10 0 1,600 200 0 1960∼1969 1970∼1979 1980∼1989 1990∼1999 2000∼2006 年 発見 生産 累計発見(石油) 累計生産(石油) (注)新油田の確認埋蔵量を加算 出所:IEA 図2 1960 ~ 2006 年の石油発見・生産推移 アナリシス 表2 現在の確認可採埋蔵量(2P)50 億バレル以上の油田一覧 単位:百万バレル 順位 油田名 国名 生産物 陸海の別 発見年 確認埋蔵量 (当初) 残存埋蔵量 推定年 残存確認 埋蔵量 生産開始日 1 Ghawar Saudi Arabia Oil,gas,cond 陸 15-Jun-1948 145,000 15-Jun-2010 80,000 01-Jul-1951 2 Junin Venezuela Oil(ex-heavy),gas 陸 01-Jul-1938 85,000 15-Dec-2010 83,985 01-Jul-1983 3 Greater Burgan Kuwait Oil,gas,cond 陸 15-Feb-1938 59,000 15-Feb-2001 34,446 01-Jul-1946 4 Safaniya Saudi Arabia Oil,gas 陸/海 15-Apr-1951 55,000 15-Aug-2004 42,039 01-Jul-1957 5 Boyaca Venezuela Oil(ex-heavy),gas 陸 01-Jul-1939 50,000 15-Dec-2010 50,000 6 Carabobo Venezuela Oil(ex-heavy),gas 陸 15-Jan-1939 45,000 15-Dec-2010 44,332 01-Jul-1979 7 Ayacucho Venezuela Oil(ex-heavy),gas 陸 01-Jul-1936 35,000 15-Dec-2010 34,197 01-Jul-1982 8 Rumaila North & South Iraq Oil,gas 陸 15-Oct-1953 28,188 15-Jan-2009 16,188 01-Jul-1954 ー 9 Samotlor Russia Oil,gas,cond 陸 01-Jul-1960 26,122 01-Jan-2008 7,745 01-Jul-1969 10 West Qurna Iraq Oil,gas 陸 01-Jul-1973 26,055 15-Jun-2010 26,008 25-Apr-1999 11 Ahwaz (Bangestan) Iran Oil,gas,cond 陸 15-Apr-1958 25,645 15-Nov-2006 14,673 01-Jul-1959 12 Kirkuk Iraq Oil,gas 陸 14-Oct-1927 25,490 15-Jan-2009 11,787 01-Jul-1934 13 Zakum UAE Oil,gas,cond 海 15-Mar-1964 24,480 15-Dec-2005 17,214 01-Jul-1982 14 Marun Iran Oil,gas,cond 陸 15-Jan-1964 22,322 15-Jan-2004 14,589 01-Jul-1965 15 Shaybah Saudi Arabia Oil,gas,cond 陸 15-Mar-1968 22,000 15-Mar-2007 20,455 29-Jun-1998 21,481 15-Aug-1963 16 Khurais Saudi Arabia Oil,gas,cond 陸 15-Nov-1957 21,700 15-Nov-2008 17 Zuluf Saudi Arabia Oil,gas,cond 海 15-May-1965 20,000 15-Mar-2004 18,237 01-Jul-1973 18 Manifa Saudi Arabia Oil,gas,cond 陸/海 15-Nov-1957 19,000 15-Nov-2008 18,687 15-Feb-1996 14,938 01-Jul-1967 19 Berri Saudi Arabia Oil,gas,cond 陸/海 15-Jul-1964 18,000 15-Mar-2004 20 Agha Jari Iran Oil,gas,cond 陸 01-Jul-1936 17,377 15-Jan-2004 8,637 01-Jul-1937 21 Gachsaran Iran Oil,gas,cond 陸 01-Jul-1928 16,350 15-Jan-2004 6,350 01-Jul-1937 22 Kashagan Kazakhstan Oil,gas 海 03-Jun-2000 13,000 31-Dec-2007 13,000 23 Majnoon Iraq Oil,gas 陸 15-Jan-1977 11,877 15-Jan-2009 11,877 15-Apr-2002 ー 24 Bab UAE Oil,gas,cond 陸 15-Oct-1954 11,000 15-May-1997 8,989 15-Dec-1963 25 Marjan Saudi Arabia Oil,gas 海 15-May-1967 10,000 15-Mar-2004 9,256 01-Jul-1973 26 Raudhatain Kuwait Oil,gas 陸 15-Nov-1955 9,550 15-Nov-2007 7,550 01-Jul-1960 27 Qatif Saudi Arabia Oil,gas,cond 陸/海 15-Apr-1945 9,400 15-Jan-2004 8,615 15-Oct-1946 28 Tengiz Kazakhstan Oil,gas 陸 01-Jul-1979 9,104 01-Jan-2004 7,474 01-Jul-1991 29 Priobskoye Russia Oil,gas 陸 01-Jul-1982 8,868 01-Jan-2008 7,147 01-Jul-1989 30 Zubair Iraq Oil,gas 陸 15-Mar-1949 8,300 15-May-2010 7,191 01-Jul-1952 31 Abu Sa'fah Saudi Arabia Oil,gas,cond 海 15-Jun-1963 8,150 15-Oct-1995 5,715 19-Jan-1966 32 East Baghdad Iraq Oil,gas 陸 01-Jul-1976 8,120 15-Nov-2010 8,102 28-Apr-1989 33 Nahr Umr Iraq Oil,gas 陸 15-Feb-1949 7,017 15-Jan-2009 7,015 01-Jul-1975 34 Azeri-ChiragGuneshli Azerbaijan Oil,gas,cond 海 01-Jul-1985 6,800 01-Mar-2009 5,755 15-Nov-1997 35 Azadegan Iran Oil,gas 陸 15-Mar-1999 6,385 15-Jan-2010 6,385 18-Feb-2008 36 Lula Brazil Oil,gas 海 15-Oct-2006 6,120 07-Feb-2011 6,111 28-Oct-2010 37 Franco Brazil Oil,gas 海 15-May-2010 5,440 15-Sep-2010 5,440 ー 38 Libra Brazil Oil 海 15-Oct-2010 5,000 15-May-2011 5,000 ー (注) :本表からは、残存埋蔵量が低下したため、Cantarell(メキシコ)、大慶(中国)、Fedorovo(ロシア)等は除外されている。また、Zuata・Cerro Negro(ベネズエラ)については、Boyaka 以下に再編されている。 出所:IHS 資料を基に筆者作成 考に記述) はまだ遠いことを示していると考える。 る。 一 方 で、OECD 諸 国 の 油 田 は 全 7 1 の う ち、 陸 に このような超巨大油田の発見は、世界全体で 7 万以上 3 5、海に 3 6 あり、うち、欧州と太平洋分の 2 3 と 2 は全 とされる生産油田数に対して、上位 1 1 0 程度の巨大油田 て海上にあるという後述の生産動向にとって興味深い事 が、現在の世界全体の生産量の 5 0 %以上を占め、あと 実が見出された。 りょう が の 7 万弱の油田が生産する 5 0 %弱を凌 駕 している状況 にある。 ② 容易に減退しない巨大油田の埋蔵量 3 1 7 の巨大生産油田は、陸上に 2 2 8、海上に 8 9 ある。 このような巨大油田も他の油田と同じように成熟、減 そのうち中東には、8 3 の巨大油田が陸に 5 8、海に 2 5 あ 退し、いずれは枯渇する。IHS は、成熟油田を埋蔵量 2011.11 Vol.45 No.6 4 新たに生まれる「イージーオイル」?? ~まだまだ頼れる巨大油田と新たな巨大油田の効果が支える石油の未来~ の半分超を生産済みか、生産後 2 5 年を超えているかと 図 3 は、油田状況別の生産プロファイルである。5 億 いう条件で定義づけている(成熟油田で大型の生産 < 能 バレル未満の陸・海、5 億~ 1 5 億バレル以下の陸・海、 力 > を行っているのは、米、カナダ、ロシア、ノルウェー、 1 5 億バレル超、大水深と分かれており、経済効率や政 メキシコ、中国で油田の減耗は 5 0 %を超えている。そ 治的状況がハッキリと反映されていることが理解できる して OPEC 加盟のサウジアラビア、イラン、クウェート、 ものと考える。 ベネズエラ、UAE、イラク、ナイジェリアでは 5 0% 減 一方で、少々気になる情報もある。産油国の陸上大油 耗はしていないと) 。 田の減退率が近年は拡大傾向にあるということである。 IHS によれば、この成熟油田が世界の生産量の 3 分の 産油国の国営石油会社等が西側のコントラクターを用い 2 を占めている。しかし、IEA のレポートによればその ることで、上記のような技術の使用が可能となったこと、 減退率は規模の劣る油田に比べて、遅々としたものであ 巨大油田でも高度技術と巨額なコストが必要なもの(大 る(論理的平均生産年数の概念は、油田により異なる。 水深、重質油等)が増えていること等が要因であるが、 累計生産=本来の埋蔵量(準原始埋蔵量)という仮定で、 中東各国の人口増大とジャスミン革命に見られる若年層 1 5 億バレル生産するのに、1 1 0 年を要するという試算 を中心とした国民の権利意識の変化、これに応えるため もある) 。 の経済的変革に必要な資金の効率的な獲得が OPEC の また、このような長期にわたる生産は意図されたわけ QUOTA 制に勝る喫緊の課題となって生産を急いでいる ではないはずだが、OPEC のような生産量の割り当て とも考えられる。今後の産油国の巨大油田の減退率に変 (QUOTA)に従い、一定量の生産を行うのに適した生産 化を及ぼすのかも含めて注視していく必要がありそう 動 向 で も あ る(IEA は 1 9 7 3 ~ 1 9 8 5 年 に OPEC の だ。 QUOTA システムが油田の減退率減少に大きく貢献した ちなみに、2 0 0 8 年の IEA による減退率に触れたレポー と報告している) 。 トでは、世界の油田の種別平均値を年率で示している。 逆に、 早期の経済的利潤追求を求められる西側企業は、 陸上 4.3 %、海上 7.3 %、大水深 1 3.3 %と上記に示したよ 早期の生産回収をもくろみ、増産を意図的に行うため、 うに高額な投資を伴うほど減退率が大きくなっているこ 油田の早期減退は会計上の処理の観点から望ましい面も とが分かる。また、OPEC 系(QUOTA)とその他との違 ある。このようなニーズに従って選択しているわけでは いが、2 種類の貯留岩の減退率を比較した場合にも中東 ないが、西側企業が手掛ける油田の多くは減退率の大き OPEC を主とする炭酸塩岩 3.4 %、砂岩 6.3 %という形で い、上記巨大油田と異なるタイプの油田である小規模、 示されたことも興味深い。なお、IEA によればこの貯留 または海洋の油田である。 岩の差は岩質によるものではないとのことで、実施主体 小規模油田が、規模の関係で早期に生産ピークが訪れ 様に生産ピークが早期に到来している。開発当初から掘 削井からの自噴に頼らず、従来 2 次回収とされた水・二 酸化炭素等の圧入により、生産のピークをなるべく早く 招来させようとしているためである。このような油田は 5 年以内にピークを迎えるように生産を前倒しする。 大水深も同様である。このため、生産カーブは左寄りに なり、総生産量の 4 分の 1 以下はピーク生産が到来する 前に回収されることになる。これは大水深等の投資額の 高額化もあり、早期の資金回収、償却の早期化を図るこ とで資金の効率的活用を可能にすることを目指している (一般的に海洋では井戸数は少ないが、掘削井等のコス Annual production as share of initial 2P reserves るのは自明の理だが、それだけではない。海洋油田も同 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 % 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 % Cumulative production as share of initial 2P reserves 陸上5億バレル未満 海上5億バレル未満 陸上5億∼15億バレル 海上5億∼15億バレル 15億バレル超 大水深 トが高いので海洋油田では井戸間の距離を広く取り、掘 削数を減じると同時に、生産性も垂直井に比べ 2 0 倍に もなる場合がある水平坑井が用いられている) 。近年の 株主至上主義による株主からの経営サイドへのプレッ シャーもこのような傾向を助長する要因である。 5 石油・天然ガスレビュー (注)太線は観測データ / 細線は油田の総償却ベース 出所:IEA WEO2008 図3 規模別の油田生産プロファイル アナリシス の回収に係る政治・経済情勢を反映したものと思料され も 1 9 億 1,0 0 0 万バレルの埋蔵量を見込んでいるという る。 ことで、元の 2P の埋蔵量相当が概ね減らずに残ったよ ところで、油田が原油生産を終了するタイミングであ うな状態にあるということだ(米国 EIA は HP で取得可 るが、主として経済状況に影響されることになる。なぜ 能な高校生用の教材に、米国はこれまで 1,9 5 0 億バレル なら、成熟 (老朽化) 油田からの生産は、石油の市場価値 を国土から生産したが、まだ4,000億バレルが地中に眠っ より低い操業コストである限り、長期にわたり比較的低 ていると記載して、将来の可能性も喚起している) 。 また、 いレベルで生産継続することが可能なためである(例え 企業の取引・決算等の実業では 1P は間違いなく意味が ば、原油等に混入する水の量は油田の末期には増大する あるが、統計上やレポート等では、1P と 2P の違いは実 傾向があり加工処理コストに大きく影響する) 。 はハッキリしない。例えば、BP 統計を見ると埋蔵量は 同レポートの油田規模別の減退率は50億バレル3.4%、 Proved とあるので解釈上は 1P だが、中東等の地域では 5 億バレル 6.5 %、1 億バレル 1 0.4 %(埋蔵量 2P ベース: 埋蔵量を 1P の精度で把握できるとは思えない。 確認< Proved >+推定< Probable >;図 4) となってい 一方、IEA や IHS 等のアナリストは 2P を用いている。 る。ところで、この 2P ベースというのが曲者である。 1P は厳格すぎて、企業価値の基となる埋蔵量として、 図4は Mckelvey box と言われるもので、大枠が地下 また、将来の石油市場の供給余力を推測する埋蔵量とし にあるはずの全資源量で下から上、右から左に実現可能 て過小評価となり実態にそぐわないものと判断されるか 性が高くなる。最も角度が高い Proved(1P)は業界で通 らだろうと推測する。この基準値があまりに保守的であ 常使用される確認 (可採) 埋蔵量で、企業の商取引・決算 ることから、保守的な会計基準を求めている米国証券取 等に用いられる。現在の技術・経済条件下で回収可能な 引委員会(SEC)もようやく基準を緩和(石油 ・ 天然ガス 確率が 9 0%(存在の有無を示す) 。上記の 2P はこれに 資源情報、2 0 0 9/0 4/2 2「実態に即して改定される SEC Probable(推定)が加わり、確率は 5 0 %に低下。さらに、 基準」を参照されたい)することに同意したが、業界では Possible が加わると 3P となり、確率は 1 0 %に低下する。 投資家に配慮して保守的な数値を示す立場から、現在も 先物市場で跋扈する投機家や悲観論に与するアナリス これを併記している。 ト、マスコミは、1P 以外の埋蔵量を曲解して埋蔵量を 埋蔵量報告の透明性を高めると同時に、ビジネスと技 ないものとして扱うことが多い。 術の実行に必要な財務・会計基準を確立する必要が求め 実際、 米国の例を見ると1998年に2Pベースで22億5,000 られるなか、欧米の業界関係者の間で 2 0 0 7 年 PRMS 万バレルの埋蔵量があるとされたものが、2 0 0 9 年の埋 (SPE、AAPG、欧州関係機関他の協力体)を用いて「利 蔵量では 1 9 億 1,0 0 0 万バレルとなっている。この間、 益性のあるような回収可能量を見積もる」ことを目的と 1 9 9 8 ~ 2 0 0 9 年に生産された原油は 2 4 億 2,0 0 0 万バレ する世界標準が在来、非在来について、少なくとも国営 ルに及ぶ。つまり、生産した量だけで元の 2P 埋蔵量分 企業を除く企業で成立し、外部の会計事務所や出版物に を生産した後に、1 億 7,0 0 0 万バレルが生産され、現在 も使われるようになった。 くせもの ばっ こ くみ ③ 埋蔵量って何だ Proved(1P) Proved+ probable(2P) Proved+ probable+ possible(3P) CONTINGENT RESOURCES Low estimate Best estimate High estimate Unrecoverable PROSPECTIVE RESOURCES Low estimate Best estimate Unrecoverable High estimate Increasing degree of geologic assurance and economic feasibility Discovered petroleum Undiscovered initially in place petroleum initially in SubCommercial place commercial Total petroleum initially in place 埋 蔵 量 と そ の 種 類 に つ い て は、 本 誌 2 0 0 7.7 vol.4 1 PRODUCTION No.4「石油天然ガス資源の埋蔵量定義:分類および評価 手法」で坂口隆昭氏が平易かつ専門的に記述されている の で そ れ を 参 照 さ れ た い。 こ こ で は、 か な り以 前 に Bloomberg に載っていた経済的、政治的視点からの埋蔵 量の見方を個人的に興味深いと思ったのでアレンジを加 えて紹介したい。 まず、埋蔵量は次のように二つに大別することができ る。a. Active Reserves(活用埋蔵量) ;現状の技術・財務・ 出所:SPE/WPC/AAPG(2007) 経済条件で利益が確保できるので生産が可能な埋蔵量、 b. Inactive Reserves(非活用埋蔵量) ;存在は確認して 図4 炭化水素資源の分類;右側のほうが実現性が低い いるが、現在の技術・財務・経済条件ではコスト・投資 資金がかかりすぎ生産すれば損失が見込まれる埋蔵量 2011.11 Vol.45 No.6 6 新たに生まれる「イージーオイル」?? ~まだまだ頼れる巨大油田と新たな巨大油田の効果が支える石油の未来~ 表3 埋蔵量水増し疑惑とその後の埋蔵量 単位:10 億バレル 1983 年埋蔵量 アブダビ イラン イラク ベネズエラ サウジアラビア クウェート 32.3 55.3 65 25.9 168.8 67 水増し疑惑の 拡大埋蔵量 98.1 92.9 100 58.1 255 92.7 増大率 100%+α 約 200% 約 70% 約 50% 約 100% 約 50% 約 40% 概算生産量 b/d × 365 1983 ~ 2010 年計 23.9 34.9 17.3 25.7 84 18.6 現在の埋蔵量 97.8 137 115 211.2 264.5 101.5 出所:BP 統計より筆者作成 (例えばオイルシェール中のオイルを取り出すために高 であった。産油国は時には、上記のような架空埋蔵量ま 額な環境対応コストが必要。同量の石油が燃料として必 で計上することもあり得るが、一方、埋蔵量が実際は増 要あるいは高油価下でなければ、水の投入等のため、採 えていてもそれを公表するとは限らない。例えるなら、 算が取れない場合等) 。 あなたが自分の財布にいくら入っているか他人に知らせ 次に産油国による政治的配慮等が反映している埋蔵量 たいと思わないのと同じである。知らせても何のメリッ の区分がある。c. 架空 (水増し) 埋蔵量;政治的目標のた トもなく、むしろ情報提供により損失が発生する可能性 めに発表される架空の埋蔵量。例えば 1 9 8 5 年に OPEC もある。したがって会計基準・標準によらない埋蔵量は、 の埋蔵量に基づく生産量割り当て方式が決定された時、 「あなた任せの埋蔵量」となることが多々あることが現実 加盟国の埋蔵量は急上昇した。アブダビは 2 0 0 %、ベネ である(つまり、埋蔵量は誰にも分からない。世の中に ズエラは 1 0 0 %、イラクは 5 0 %、イランは 7 0 %、サウ 出回っている数字はお世辞にも正確とは言えないのだ。 ジアラビアは 5 0 %、クウェートは 4 0 %上昇した。当時、 上記の Matthew R. Simmons は「世界の確認埋蔵量の 探鉱が行われた様子もなく、大幅な埋蔵量の増加がなさ 9 5 %は十分な検証のないもの」と言っている。 「明日に れたことから架空(水増し)ではないかと物議を醸した もなくなってしまう」と心配する悲観論者には最高の言 が、その後、これらの国々は生産を順調に継続している 葉であるようだ。2 0 0 8 年 7 月、WTI を 1 4 7 ドルまでつ た め、 結 果として過大ではなかったとの見方が米国 り上げたのはこうした悲観論に乗じた投機家によるもの CERA(Cambridge Energy Research Associates)をはじ で あ っ た こ と は、 今 で は 広 く 知 ら れ て い る。George めとする有力コンサルタントの見方になっている。実際 Walker Bush 前米国大統領も悲観論者のようで、巷のガ に表 3 のように計算してみると、その後の生産量から比 ソリンスタンドのガソリンがなくなったわけでも行列が 較的埋蔵量規模の小さい国々では既に 1 9 8 3 年の埋蔵量 できたわけでもないのに、ガソリンが欠乏しているから は概ね生産済みである。また、埋蔵量の多い国について 油価が上がると国民の不安を煽ってしまった。もっとも は生産量からの類推では判断できないが、専門家の間で 同前大統領については石炭業界から大統領選バックアッ はこの埋蔵量について疑問を呈する声はほとんど聞かれ プの恩返しを求められ、油価を高騰させたとの見方もあ ない。 り、著名投資家ソロス氏をはじめとする人々のいろいろ 米国オイルエコノミストの故 Matthew R. Simmons は な著作にはそのように記されている。 サウジアラビアの埋蔵量について疑問を呈しているが、 さらに、埋蔵量は、契約形態により増減する場合があ サウジアラビアではその後も巨大油田が生産を開始して る。①利権契約では価格が上昇すると、それまで休止し いるという事実がある。さらに、Schlumberger 等の欧 ていた坑井、または区画からの生産が可能となるので埋 米のサービス企業を用いるなかで、ほとんどの国が埋蔵 蔵量の増加が可能となる、② PS 契約では実質取り分の 量を増加させていることもあり、信頼性の確度は高いも 金額を期末時点の価格に基づいて埋蔵量に換算して計上 のと思料される。 するため、価格が上昇すると埋蔵量が減少し、逆に下が d. 凍結埋蔵量;自国の政策に有利となれば埋蔵量を ると増加する、特性がある。 有する産油国は、その埋蔵量を更新せず凍結することも ある。例えば、1 9 9 4 年の埋蔵量は 9 4 カ国で前年と同一 7 石油・天然ガスレビュー ちまた あお アナリシス ④ 埋蔵量成長が埋蔵量拡大のメインソース 大が可能となる場合もあると報告している。 埋蔵量を拡大する手段は、a. 未探鉱地域への探鉱投資 c. の資産買収・M&A も限定リスクを選択して経済性 の他に、b. 埋蔵量成長、c. 資産買収・M&A がある。以下、 を確保する手段の一つである。日本ではあまり行われな この b. と c. の方法について説明する。 いが、c. は欧米では埋蔵量増大の常套手段である。 b.:当初、油田の確認埋蔵量とされなかった推定埋蔵 株式市場では拙文(実は安い上流コスト)に既に記述し 量が、生産回収技術の進歩により確認埋蔵量への参入が ているように割安に埋蔵量増大が可能な状況は継続して 可能となる。これを埋蔵量成長と呼んでいる。これは別 いるようだ* 1。また、資産買収も多く使われる。日本で に珍しいことではないし、瑣末なものでもない。最近の はあまり行われていないが、海外企業では資産買収を資 メジャーをはじめとする石油会社の確認埋蔵量拡大の大 産のみならず、その地域情報に通じたエキスパートとそ 半がこれによるものなのである。 の部門を一緒に取得するという形式でしばしば行ってい また、IEA と IHS によれば、これまでに埋蔵量成長で る。一方、この c. の形式では、その後の探鉱等で埋蔵量 少なくとも 1,0 0 0 億バレル超の増加が達成され、最近で 成長の可能性等はもちろんあるが、企業等が持っていた も年 1 8 0 億バレル程度を加算し、2 0 0 7 年までの過去 2 0 資産が別の企業等の資産に代わるだけで世界全体の埋蔵 年で 3 0% 増にも達する貢献をしているとのことである。 量拡大には取引が終了しただけでは、なんら貢献するこ 新たな探鉱を始めようとしても長年探鉱が行われてき とがないのは言うまでもない。ただし、より多額の資金 た地域 (成熟) が大半で、未探鉱地域では資源ナショナリ 投入と、新技術の適用等により、埋蔵量成長や周辺地域 ズムも予想されることから、その適地 (処女地)を見つけ 購入等により埋蔵量は大幅に拡大する可能性はある。 ることは確かに困難な状態にある。一方、生産減退気味 この業界では、株式市場において埋蔵量価値が SEC の自社所有の油田については技術水準の向上・進歩によ 基準の保守性により割安になっていることもあり、M り水・CO2・化学物質等を封入し、その圧力により石油 & A・ 資産買収は企業・投資家に期待されている手段で 生産を可能にする 2、3 次回収(EOR)のコスト低減等、 ある。企業にとっては探鉱投資のようなリスクを冒さず により確実で経済的な生産源として期待することが可能 に、大規模な資源基盤の確保が可能となる手段の一つで となった。 ある。 埋蔵量成長、回収可能埋蔵量を拡大し、生産油田の生 次に、この埋蔵量を拡大するにあたって最大の誘因と 産年数の延長を可能にし、在来型石油生産ピークの先延 なる価格形成の背景を見てみよう。ここにも石油産業 (原 ばしを可能にする。E&P 誌は、Chevron 系の研究開発 油市場等)の他の産業にない特殊性が垣間見られる。 さ まつ による新技術を適用すれば、現状より 4 5 %埋蔵量の拡 2. 投機家の 「おもちゃ」 となる素地を持つ石油市場 先物市場の油価形成は、周知の事実との前提で話を進 取引所取引では証拠金制度などの取引所の制度により信 める。先物市場が政治・経済情勢・在庫の状況等を反映 用リスクが低減される、とされている。しかし、現状は、 し、油価に影響を及ぼす状況は、野神隆之氏(JOGMEC 以下に示すようにその価格リスクを拡大しているとの疑 石油調査部)が詳細に報告を行っている。ここでは、こ いを筆者は持っている。 の市場が投機家の 「おもちゃ」 となる素地を持つことに焦 点を絞って記述し、 今後の大きな不確定要因にも触れた。 ところで、先物取引は取引所取引(市場取引)であり、 (1) 価格決定者の関心は、油価変動が全て。石油産業の 実際には関心なし 相対取引と比較した場合、取引所取引の意義は流動性と 根本の問題は、先物市場参加者に石油の上下流および 信用性リスクの低減による取引コストの低下に求められ 関連産業等への実務参加状況という制約がなく、油価変 る。取引所において契約条件を標準化、規格化すること 動が唯一の関心事項であること、先物市場規模が大きく、 により、取引の集中化が図られ、市場流動性が増大する 債券取引等の超巨大なファイナンス市場の資金も参加が ことで取引所取引では、 流動性リスクが低減する。また、 可能な規模であること、にある(2 0 0 8 年の原油価格市場 2011.11 Vol.45 No.6 8 新たに生まれる「イージーオイル」?? ~まだまだ頼れる巨大油田と新たな巨大油田の効果が支える石油の未来~ 最高値を更新直前には米商品取引委員会(CFTC)の調べ より高額な油価がなければそのようなことはできない。 では、2 1 9 の多様な投資主体 (P4) が数百万バレル規模の また、ドイツ銀行は、この種の油価でイランとベネズ 取引実施)。この市場では油価は通常の販売行為の価格 エラは 9 5 ドル、サウジアラビアは 5 5 ドル、ロシアは (=仕入れ値 (原材料費等) +人件費) と異なり、消費者は 7 0 ドルが必要としている。 おろか、石油購入者等の受ける影響を推し量ることもな ゆが い。実コストとして反映すべきコストについて歪んだ誤 ② 実コストには、著しい差が存在 解が生じかねない状況にある。 一方、世界中でのコストの実績は、表 5 で確認出来る。 図1のように原油埋蔵量は中東に偏在している。オリジ ①産 油国の国情を加味した予算が生産コストのように 油価の参考となる不思議 ナルの地質構造による規模の差に加え、先進国が過去に 大量生産・消費した結果、近傍の石油生産適地は先行し 2 0 0 8 年 1 2 月、ロンドンで開催された石油消費国と生 て減少・枯渇の度合いが高く、残った地域の稀少性から、 産者の会議で、サウジアラビアの Ali I. Al-Naimi 石油相 コスト差がさらに拡大しているようだ。 が従来型の石油生産を継続しつつ代替燃料の研究を進め さらに、この歪みは高油価によって増大している。大 るための投資資金を確保するには、世界の石油市場で 1 半の西側企業では、高油価が従来経済的に開発・生産不 バレル 7 5 ドルの水準が維持されることが必要であると 可能として見送られていた前述の Inactive Reserves(非 語った(Abdullah bin Abdulaziz Al Saud 国王もこの価 活用埋蔵量)の開発にも手をつけてしまい、逆に油価が 格にしばしば言及している) 。つまりサウジアラビアに 高くなければ経済的に引き合わない開発地域も保有して 都合のいい油価である。ロシアも同様の価格が適正と語 いる。このため、他のエネルギーとの競合・景気動向等 り、OPEC の Abdalla Salem El-Badri 事務局長は同年 1 1 に配慮する西側企業も従来以上に高油価を求めざるを得 月、OPEC は、1 バレル 7 0 ~ 9 0 ドルを目標値とすると ない状況となっている。このような状況は油価の高止ま 発言し、減産を実施する根拠とした。 りを長期にわたって、招来する可能性がある。表 5 の米 表 4 に OPEC のコストを付したが、これは上記のよう 国洋上と欧州のようなケースがそれに該当する。図 5 で に、外部コスト (国民の社会保障等) を包含した予算ベー は、全大水深の生産コストは 7 0 ドル未満が見込まれて スのコストである。このコストの損益分岐点となるコス トは産油国内で大きく異なる。サウジアラビアや他の湾 岸生産者は比較的低額で、 外部コストのカバーが可能で、 世界主要企業(FRS)の地域別 表5 上流コスト推移 さらに価格上昇時には自国投資ファンドの創設に必要な 資金のプールも可能である。一方、例えばベネズエラは 単位:ドル /boe 2006 ~ 2008 年 2007 ~ 2009 年 表4 OPEC の予算ベース(コスト)上必要な油価 単位:US ドル/バレル 2000 年 2007 年 2008 年 2009 年 ベネズエラ 34 91 94 97 ナイジェリア 32 63 68 71 イラン 18 49 55 サウジアラビア 23 49 クウェート 11 UAE %変化 米国 Onshore(陸上) 37.32 32.73 -12.3 Offshore(海上) 74.20 51.60 -30.5 計 41.49 34.82 -16.1 その他 カナダ 38.75 24.76 -36.1 欧州 72.32 53.37 -26.2 58 旧ソ連 16.70 20.96 25.5 アフリカ 42.24 45.32 7.3 55 62 中東 17.09 16.88 -1.3 45 45 48 その他東 21.18 16.56 -21.8 5 34 42 51 その他西 33.88 26.64 -21.4 アルジェリア 22 26 31 35 計 28.31 25.08 -11.4 カタール 18 11 4 8 34.71 29.81 -14.1 出所:PFC Energy 9 石油・天然ガスレビュー Worldwide NM=Not Meaningful. (注)上流コストは発見 + 採出。天然ガスは 0.178/ 千 cft で boe に変換 出所:2006-2008, 2007-2009 EIA 資料(FRS) アナリシス いる。また、後述するタイトオイルについてはシェール まざまな事情から西側企業が掘削・生産可能な国・地域 ガス(4 ~ 7 ドル /1 0 0 万 btu)を 6,0 0 0 対 1 のガスレシオ が減少し、一定地域に偏ることに加え、輸送コストを軽 で換算)と同じコストの前提なら 3 0 ~ 5 0 ドルで生産可 減することを目的に消費地精製主義が浸透したことがあ 能 (5 0 ドルなら利益率大の可能性も) ということになる。 る。これに加えて以下のように、原油性状上の問題があ 探鉱の進捗は価格にかかっている。しかし、高ければ る。 しんちょく いいというほど単純ではない。原油見通しが高ければ、 非 OPEC の探鉱が進む。安ければ、非 OPEC の探鉱はコ ストにらみで進まない、OPEC は産油国民主主義の発動 ② 等価交換が成立しない石油(軽質 Sweet か重質 Sour かが問題) により、住民を懐柔するための資金が必要なため、また、 原油の使用は、世界的に経済が発展するのに従い、ガ 資源ナショナリズムは価格上の価値を求め、より高価格 ソリン等の輸送燃料に集中していくため軽質 Sweet が重 で放出する必要があることから先を争って開発を行うこ 質 Sour より望まれることになる(詳細は上記拙文および とになると思料される。コストと価格の乖離が大きいた 本 誌 2 0 0 8.9 vol.4 2 No.5 の 拙 稿「 米 国 の「 甘 い 原 油 め、そのギャップの大きさから長期の投資とはいえ、パ (Sweet) 」に係る少しも甘くない話」を参照されたい)。 かい り ニックになることも考えられないわけではない。 この硫黄分が少なくガソリン等の得率の高い軽質 Sweet (甘い)原油は、主要な原油埋蔵地域である中東には少な (2) コストの安い順に生産されない原油の特殊性 く、世界最大の埋蔵量を誇るサウジアラビアの原油も重 ① 取得容易性が優先 質 Sour(すっぱい)が主体である。 図 1 に見られるように、原油埋蔵量の多くは中東に偏 これが、最近のジャスミン革命により北アフリカのリ 在している。しかも、この地域での生産コストは廉価で ビア、アルジェリアの Sweet 原油生産が縮小・停止した ある(表 5 参照) 。ところが、通常の商品であればコスト ことを契機とするブレントをはじめとする油価高騰の大 の安い順に生産され、販売されるのが自明の理だが、原 きな要因である。リビア・アルジェリアの原油生産量は 油は特殊で、 コストの安い順に生産されるわけではない。 合算しても 2 0 0 万バレル / 日にもならないが、1,2 5 0 万 まず、西側の原油が先行して生産され、その後、このよ バレル / 日とされる甘い原油の市場では大きな存在なの うな地域からの生産が行なわれている。これを示してい である。まさに等価交換は成立しないのである。 るのが図 6 で、生産量が埋蔵量の多い OPEC ではなく、 今、市場は不幸なことに操業コストのアップが加味さ 埋蔵量の少ない非 OPEC から優先して行われていること れた実際のコスト実態(表 4 参照:世界平均 3 5 ドル弱) が見て取れる。 を反映した需給に基づき価格が決定されるのではなく、 このような背景には財務条件、政治的安定性等々のさ QE2 等の金融状況と誰にも分からないことをいいこと に、金融機関等が描く勝手な需給バランスと都合のいい 生産コスト (ドル/バレル) 大水深 Other EOR オイル シェール CO2 EOR CTL 80 Biodiesel Ethanol 150 140 130 120 110 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 百万バレル / 日 実績 60 見込み 非OPEC BTL GTL 40 重質油 OPEC 20 中東・ 生産済 北アフリカ その他 北極圏 0 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 9,000 1990 2000 2007 2015 2025 2035 年 10億バレル 出所:Resources to Reserves EIA 図5 IEA の石油生産コストカーブ 出所:IEA 資料より JOGMEC 作成 図6 OPEC、非 OPEC 石油生産状況 2011.11 Vol.45 No.6 10 新たに生まれる「イージーオイル」?? ~まだまだ頼れる巨大油田と新たな巨大油田の効果が支える石油の未来~ シナリオ(ドル安、インフレ、経済興隆、OPEC の理想 地域はともかく、ガソリン価格等に反映され価格がほと 価格等)による影響を強く受け、実コストから大きくか んどブレントという不思議な状況にある。 け離れ、先物本来のヘッジ機能が働かず、投機のリスク こうした状況に鑑みるに、原油先物市場や商品市場は を招来し、参加しない企業にはリスクの拡大をもたらし 実市場で取り扱われる価格の先行指標として問題がある て、ある意味 「ミイラ取りがミイラになっている」 とも言 のではないかというのが筆者の考えである。 える状況にある。 (4)世界の20%強の石油需要消滅も (3) 実需そっちのけ、狂乱の架空取引量 こうした先物市場の問題に加えて、実際の石油需要上 コストの反映どころではなく、量的問題はもっと異常 にも、さまざまな問題がある。そのうち最大の不確定要 だ。NYMEX の WTI 取引量だけで 1 9 8 4 年の 7 0 0 万バレ 因は米国の実需である。2 0 0 9 年の世界の 2 0 %強の石油 ル / 日から 2 0 0 8 年には 5 億 5,0 0 0 万バレルにも達してい 需要を占める米国の石油需要が大方消滅する可能性であ る。既述のように世界の軽質油の生産量は 1,2 0 0 万バレ る。 ル / 日程度である。また、この WTI のほかブレント、 ドバイの先物市場で取引される軽質のマーカー原油はこ ① 米国貿易赤字の大きな要因 のなかでもさらに生産量が少なく、実取引では原油性状 米国のような石油輸入大国にとっては、全体の経済規 のクオリティ差を反映した価格調整についての寄与はと 模に占める割合が巨大で看過できない状況にあるものと もかく、実際の先物市場で定められた引き取り補償にも 考えられる。石油関連の赤字は、2 0 1 0 年(平均 7 5 ドル / 到底応じられない量である(本誌 2 0 0 8.9 vol.4 2 No.5「米 バレル)に米国貿易赤字の 4 0 %強、3,2 3 0 億ドル分が消 国の「甘い原油(Sweet) 」に係わる少しも甘くない話」参 滅することになる。 照)。しかし、実際にはこの引き取り補償を求めるよう 2 0 1 0 年は石油消費の輸入依存度が 4 9.3 %と、2 0 0 8 な実需に係る投資家は少なく問題は起こっていない点も 年のリーマンショックとその後の回復の弱さと省エネの 過剰な架空取引を反映しており、問題だと筆者は考えて 進捗により、2 0 0 5 年の 6 0.3 %に比べ下落している。 いる) 。さらに、先物市場の WTI は取引量が世界一であ 貿易赤字の減少に国民の購買力回復という政権にとっ るのに、米国内の石油価格が欧州の原油を輸入する沿岸 ては大きなメリットをもたらす。 米国歴代大統領のエネルギー自立に関する演説等 1973 年 11 月 7 日 Richard Nixon 大統領はアラブの石油途絶に対するインタビューで「われわれの目的を定めよう。すなわち、今か ら 10 年後、いかなる外国のエネルギー資源にも頼ることなくわれわれ自身のエネルギー需要を満足する手段を開発 しようではないか」と発言した。 1975 年 1 月 15 日 Gerald Ford 大統領は、就任演説で「私は海外への石油依存をなくすことがわれわれにとってかけがえのないこと をなす計画になると推奨したい。それは犠牲を強いるが、しかし最重要なことでありそれは機能することだろう」と 述べた。 1979 年 7 月 15 日 Jimmy Carter 大統領は、臨時の輸入補助金導入時のテレビ演説で「この耐え難い海外への石油依存によりわが国 の国家安全保障と経済が脅威にさらされている。 、今後、1977 年のような海外からの石油輸入の乱用を決して行わ ないと決意しよう」と述べた。 1987 年 5 月 6 日 Ronald Reagan 大統領は、下院へのエネルギー安全保障メッセージとして、輸入石油への依存性上昇を憂えて「わ れわれは石油供給途絶の可能性からわれわれ自身を守り、われわれのエネルギーと国家の安全保障を向上させるより よいステップを選択せねばならない」と発言した。 11 石油・天然ガスレビュー アナリシス ② 米国エネルギーセキュリティ問題の根源 2 0 1 0 年 6 月、マサチューセッツ工科大学(MIT) の 「The 米国では過去何度も繰り返されたアンケートだが、概 Future of Natural Gas」で天然ガスの自動車への使用を ね 6 0 ~ 7 0 %の国民が「他国に頼らないエネルギー自立 推奨している。MIT は地球規模の「液体」天然ガス市場 が必要だ」 と答えている。 世界一の軍隊を持ち、 世界の海・ は、石油の突然の輸入途絶からの回復力を高め、エネル 空の覇権を握り、後述するように資源にも恵まれた国の ギー供給の多様性を通じて、安全保障の利益を前進させ 国民がエネルギーセキュリティへの懸念を抱いていると るとした。国内では石油依存度低減のため、ガスの有効 いうのは、ほぼ 1 0 0 %を輸入エネルギーに頼りながら、 活用を奨励する政策を講じるべきで、国際的には産油国 シーレーンをはじめとするエネルギーセキュリティ確保 の石油補助金を減らすべく、ガスの有効活用を奨励すべ への意識が低いわれわれ日本人とは大きく異なるところ きとした。また、ロシアのガスへの諸外国の過渡な依存 である。この強迫観念により、同時に質問された中東へ 度を避けさせるため、引き続き諸外国の安全保障につな の米国の依存度について依存度は 6 0 %以上で、致命的 がる PL・LNG のインフラサポートを継続すべきとし、 と感じている国民の割合も同じ比率に達している(実際 戦略的地域における非在来型ガス資源の開発を民間とと には約18%) 。 これを反映して歴代の大統領も筆者がざっ もに主導すべきとした。これにより、イランの石油・ガ と調べた限りでも以下のように、この問題に繰り返し、 スに対する諸外国の依存度を低減させることで、イラン 触れている。 への経済制裁の効果を高め、安全保障の強化につながる そして、今オバマ大統領には歴代の大統領と異なり、 としている。 石油換算 1,1 8 0 億バレルという膨大な埋蔵量のシェール 一方、このような巨大な需要の消滅が懸念されるよう ガスにより、天然ガス依存の自立の道が生まれているの な市場では、石油企業が新規の投資を行うには相当に覚 である。CNG とハイブリッドを使用した自動車等が有 悟がいる状況にあることは間違いない。それでは今後の 用であれば、その可能性は大変大きなものになると思料 探鉱開発そして石油供給の可能性の実際はどうなってい される。 るのだろうか。 3. 今後の探鉱開発そして石油供給はどうなるのか (1)IEA 予想の埋蔵量は少なくとも3兆バレル強 6 兆 5,0 0 0 億バレル、経済的に採取可能な量を 1 兆~ 2 兆 2 0 0 8 年の IEA 予想では、石油埋蔵量が枯渇する日は バレルと見込んでいる。主な埋蔵地域は、カナダ(アル はるか先のこととされている。これには、最近話題のタ バータ)とベネズエラ(オリノコ)である。生産可能量は イトオイルの数字(後述)は見込まれていない。IEA の報 それぞれ 2,6 0 0 億バレルと 2,7 0 0 億バレルが見込まれて 告では、 2 0 0 7 年時点での確認埋蔵量と天然ガス液(NGL) いる。これは、世界最大の産油国サウジアラビアの埋蔵 は、1 兆 2,0 0 0 億~ 1 兆 3,0 0 0 億バレル(カナダオイルサ 量 2,6 0 0 億バレルに匹敵する。つまり、世界は新たに二 ンド 2,0 0 0 億バレルを含む) とされている。 つのサウジアラビアを手に入れたことになる(このほか これは 1 9 8 0 年代から倍増している(上記 OPEC 埋蔵 に現時点では開発を急がないオイルシェールもあると言 量改定が主な上昇要因) 。その後、1 9 9 0 年代にも増え続 及) 。このように計 9 兆 5,0 0 0 億バレルの究極資源量があ け、2 0 0 0 年代には油価高騰と技術改善により、増加速 ることから、枯渇状況には程遠いことは明白である。 度は増している (2005年から在来型4,000億バレル増加)。 さらに、 究極の在来型確認可採埋蔵量について、3兆5,000 (2)イージーオイルという幻想 億バレル(未開発の場所、新技術による 5,0 0 0 億バレル 巻頭に記した「イージーオイル」の歴史を見てみると、 を見込む)を見込む。うち 3 分の 1 の約 1 兆バレル強は、 現状では、経済的・技術的に問題なく採取できる石油も、 既に消費されている。あとの 3 分の 1 は既存油田の埋蔵 その昔は、「イージーオイル」とはほど遠いものであった 量成長に、残りの大半は、中東、ロシア、カスピ海にあ ことが分かる。なぜなら、石油の歴史を見ると、古代に るとしている。 は、地表に滲み出た石油を採取して、薬に使用していた 非在来型についてはオイルサンド、超重質油は資源量 程度で、1 8 0 0 年代に入って、手堀りで、ランプ燃料に し 2011.11 Vol.45 No.6 12 新たに生まれる「イージーオイル」?? ~まだまだ頼れる巨大油田と新たな巨大油田の効果が支える石油の未来~ 用いられるようになった(鯨油の代わり) 。1 8 5 9 年、有 率(RHS)は 2 0 0 8 年の 1 9.8 %から 2 0 1 2 年には 2 3.3 %に 名な米ドレーク大佐による機械掘りが行われ、2 度の世 なることが予想されている。この理由として以下の 3 点 界大戦の影響もあって自動車や飛行機の燃料等になり、 が挙げられている。 需要が急拡大して、大きな変貌を遂げることになった。 ① 天然ガス開発の規模拡大 現在、在来型と言われる石油の地下からの回収率を見て ② 随伴ガスの活用拡大(ロシア、ナイジェリア、アンゴ も、2 0 世紀の初頭で 2 ~ 3 %程度であったものが,現在 ラにおけるフレアガス減少が主な要因。ドライガス は 3 0 ~ 3 5 %(世界平均)になり、約 2 0 年後には、さら 再圧入による NGL 取得量拡大等) に 1 0 ~ 1 5 %は引き上げられると見られている。 ③ いくつかの国において浅層における従来型ドライガ 回収量増大は、イージーオイルを作る経済性上昇に繋 スが枯渇傾向にあるため、高温、高圧力下のより天 がるが、その回収コストは企業が投じる実コストだけで 然ガス液が含まれた深層でのガス開発への移行が進 はない。産油国個々の財務条件(税、ローカルコンテン 行(技術改良と高エネルギー価格と経験により複雑な ツ等々)もこれを左右する。平均でブレントの油価が 埋蔵地域の開発に企業が積極的になったため) 1 0 0 ドル / バレルを記録する本年の北海の新規の井戸数 はオランダが過去3年間最多、ノルウェー昨年比2倍を 近年、国際石油企業(IOC)は、開発の対象として大型 記 録 す る 中、 英 国 だ け が、 増 税(5 0 ~ 7 5 % → 6 2 ~ コンデンセート等 NGL を埋蔵するガス田を狙っている。 8 1 %)の影響で 2 0 0 3 年以降最少、昨年比 5 8 %まで減少 IOC はドライガスのプロジェクトよりもより大きな可能 している。 性をこのようなガス田に見出している。 NGL は販売が容易なためプロジェクトコストの早期 (3) 強力なリリーフエース NGL は石油供給上昇要因の 60% 回収と利益極大の手段となるからである。これに対して ドライガスの開発には、価格と限界生産コストがより強 NGL(図 7 参照)=天然ガス液は、天然ガスを採取す く反映される。 る際に一緒に採取される液分だが、この量が無視できな このように NGL は有限資源である限り避けられない い。IEA は Natural Gas Liquids Supply Outlook 2 0 0 8 世界の石油供給危機を先延ばしする有力な助けとなる。 ~ 2 0 1 5(April 2 0 1 0)のなかで、上記設定期間の世界 の石油等供給上昇要因の 6 0% を占めることを予想して (4)米国の奇跡と北海の探鉱継続 いる(図 8 参照) 。この間、NGL の上昇率は 4 %に達する ① 米国陸上・海上の石油生産の減少と復活 が、興味深いのはガスの成長率は 1.2 %にとどまるとい 米国の陸上での生産状況を見ると石油生産量は 1 9 8 9 うことだ。 年から一貫して下がり続けている。米国海上の石油生産 つまり、図 9 に見られるように、天然ガスの液分の比 量は 2 0 0 1 年から同じく下がり続けている。それがリー Definition of dry gas, NGL,LPG and non-hydrocarbon gases Methane(C1H4) Ethane(C2H6) Propane(C3H8) Natural Gases Butane(C4H10) Isobutane(C4H10) Pentanes(C5H12) Naphtha Natural Gasoline Condensate } } Dry Gas or “Natural Gas” } Non-hydrocarbon gases such as: CO2 , H2O , H2S , N2 etc. 出所:IEA NGL2008-15 資料 図7 炭化水素・非炭化水素ガスの定義 13 石油・天然ガスレビュー 6 百万 b/d 4 LPG Heavier fractions Components of Global Liquids Growth 2008-2014 NGL 2 0 -2 OPEC* Crude 非 OPEC NGL 総計 非在来 *:OPEC 原油は供給能力増加分 出所:IEA NGL2008-15 資料 世界の石油供給に占める NGL の 図8 重要性 アナリシス マンショック後の 2 0 0 9 年より一転して増産に転じた (2 0 0 9 年 7 4 0 万バレル / 日、2 0 1 0 年 7 7 0 万バレル / 日) 。 ② 米国上流事業を支える世界に類を見ない大量の掘削 数と巨大投資。そして北海も巨大投資継続 例えば米国メキシコ湾(GOM)は僅か 1 0 年前、探鉱開 米国は石油の桃源郷か:米国には、独立系石油・ガ 発の増大の可能性が限られた成熟エリアとして 「死の海」 ス企業が約 5,0 0 0 社あって、2 0 0 7 年だけで 5 万を超え と呼称されていた。しかし、今は逆に探鉱開発活動が大 る坑井を掘削している。過去 1 0 0 年では 1 7 0 万本の石 幅に増加したため、芸術の歴史になぞらえて、ルネサン 油ガス井が掘削されたということだ。世界のどの地域 スの最中にあると言われている。米国メキシコ湾の現在 もその探鉱密度に及ばない なぜなら掘削者の数が違 の生産量が米国総生産量に占める割合は、 原油が30%弱、 う。検証可能なリグの稼働数でも米国での量はケタ違 ガ ス が 1 0% 強 で あ る。1 9 5 0 年 代 に 水 深 6m の Kerr- いである。図 1 0 のように世界の稼働リグの 5 0 %以上 McGee の油田から本格化した米国メキシコ湾の開発は、 は石油ショック当時から見ても米国で稼働し続けてい 1 9 8 0 年代半ば 1,0 0 0 以上の油田を発見した後、下降し るのである(図 1 1 には世界主要企業の地域別投資実績 始めた。しかし、大水深鉱区(水深 1,0 0 0ft= 約 3 0 5 m) を示したが、ここでも米国陸上・海上への投資額は突 で 1 9 8 7 年に Shell が Auger(埋蔵量 2 億 2,0 0 0 万バレル) 出していることが分かる)。また、そこにはストリッパー を発見して以来、ルネサンスは継続中である。 ウェル(日量 1 0 バレル以下)と言われる極小規模の油井 2 0 0 7 年浅海の生産は 5 0 万バレル / 日、大水深は 1 0 0 も存在する。しかし、これが EIA の報告では、2 0 0 7 年 万バレル / 日で、単年度あたりの埋蔵量上昇率(RRR)も の米国内ガス生産量の約 9 %、石油生産量の約 1 6 %(約 1 9 9 3 ~ 2 0 0 2 年浅海 8 0 %、大水深 2.5 倍となっている。 8 0 万バレ / 日)に相当していたとのこと。2 0 0 6 年は石 2 0 0 0 年に米内務省鉱物資源管理局(MMS)は 5 0 対 5 0 の 油生産量の約 1 8 %を占め、近時では、この種の油田か ガス・石油比率で 7 1 0 億 boe の埋蔵を予想している。ガ らの生産量は米国全体の生産量 7 0 0 万バレル / 日の 1 0 ス生産状況については現在の大水深鉱区のパイプライン ~ 2 0 %を記録し続けているとのこと。それでもまだ炭 整備と需要の問題もあり、石油生産状況に比べ、進捗し 化水素は消えないのである。 ていない。 この他に米国海上を見ると、メキシコ湾でこれまでに 消えない化石燃料:2 0 0 9 年 1 0 月米議会の調査報告で 掘削された坑井は約 4 万 8,0 0 0 坑に及ぶ。水深 2 0 0 m以 は米は石油換算で確認埋蔵量ベースで9,700億バレル(約 深の海域で約4,600m以上を掘削した坑井はわずか3,000 9,0 0 0 億バレルは石炭) 、これに次ぐのはロシアで 9,5 5 0 坑程度であり、これからの未探鉱エリアということでサ 億バレル、次が中国で約 4,6 6 0 億バレルとなっている。 ブソルトの超大深度フロンティアとの期待を集めている 世界での生産量順位でも石炭世界第 2 位、ガス 2 位、石 地層もまだある。主要貯留層は新生代中新紀層から新生 油 3 位という高位に位置する。 代古第三紀層という深部に移行し、そこでは多くの企業 が 6 5% もの掘削成功率を記録している。 Global liquids ratio development 6,000 27 天然ガス(百万boe/d) 26 70 60 25 50 液分の比率(RHS) % 24 40 23 30 22 20 21 NGL(百万boe/d) 20 10 0 基 % 19 18 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 出所:IEA NGL2008-15 資料 図9 天然ガスの生産動向と NGL の比率の推移 5,000 4,000 世界 3,000 約50% 2,000 1,000 米国 0 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 百万 boe/d 年 出所:Bakerhughes 資料より作成 図10 世界・米国リグ稼働数の推移 2011.11 Vol.45 No.6 14 新たに生まれる「イージーオイル」?? ~まだまだ頼れる巨大油田と新たな巨大油田の効果が支える石油の未来~ 50 10億ドル 40 30 1999 2008 20 10 0 米国陸上 米国洋上 カナダ 欧州 旧ソ連 アフリカ 中東 その他東 その他西 (アジア・太平洋) (カリブ・中南米) 出所:FRS2008 EIA 図11 世界の主要企業の地域別投資実績(1999 ~ 2008 年) Chevron は 3 0 億~ 1 5 0 億バレルの埋蔵量を見込む。 北海でも 5 年間で 1 0 0 億ポンド(約 1 兆 2,0 0 0 億円)が投 しかし、探鉱段階なので、埋蔵量計上に至らず、端境期 資予定。BP 他は Clair Ridge 油ガス田計画に 7 0 億ポン と言える。このようなことは、NOC(国営石油企業)中 ドを、Schiehallion と Loyal 油ガス田プロジェクトに 3 0 心の産油国はおろか西側でも企業の数も個人の挑戦数も 億ポンドを投じるとのことである。つまり、成熟地域 米国には及ばないし、土地の権利の所在(米国は、陸域 にもまだまだ期待できるということである。 だけだが、、個人を含む土地所有者に鉱物資源の権利が 帰属する唯一の国)から、個人に開発の動機がある唯一 (5)ガスパラドックスという奇跡と二つの可能性 の国でもあり、他には起こり得ない特殊なケースであ 次頁上段の枠内に、「『世界がガスを使えば、さらにガ る上に、石油会社等へのリース権(開発権限)提供によ スは見つかる』という壮大なガスパラドックス」と言われ り、上流開発が推進される(沖合に関しては州と連邦政 る状況の現状について解説を付した。ガスについては、 府に権利)。とはいえ、探鉱・掘削の密度が上がることで、 バーネットシェール等のシェールガスにより、1 9 8 0 年 生産量が増大する地域が世界にはあると推察される。 代のガス枯渇予想から転じてガス価は崩落し、米国内 BP が進出後に埋蔵量・生産量を大きく拡大させたロシ で低価格になっているのは、ご存じのとおりである。 ア TNK-BP の例もある。 石油についても、同様の事態を望む筆者の思いも入っ また、欧州の北海でも探鉱は継続されている。いよ ているが、実際に米国のピークオイルにも以下のよう い よ 枯 渇 か と 毎 年 の よ う に 言 わ れ 続 け る 地 域 だ が、 な幻想とその数年後には価格破壊が起きているという 2 0 1 1 年にノルウェー領北海(Stavanger 1 4 0km 西方、 事実がある。 水 深 1 1 2 m ) で Statoil は 巨 大 油 田 を 発 見 し た。 そ の 1 8 8 0 年、ペンシルベニアで集中生産し、ミシシッピ Aldous 油田と Avaldsnes 油田について、それぞれ 5 億バ の西側では見つからないとしたが、テキサス・オクラ レル、1 2 億バレルの可採埋蔵量を見込んでいるとのこ ホマ州で油田発見。1 9 1 4 年、米国鉱山局は世界の石油 と。同社見積もりでは、両油田の埋蔵量を合算すれば、 供 給 量 は 1 0 年 以 内 に 枯 渇 す る と 予 測 し た。 さ ら に ノルウェー大陸棚での巨大油田の上位 1 0 指に入るとの 1 9 1 9 年、米地質調査学会会長の George Otis Smith は、 発表であった。ノルウェーで最後にこの大油田が発見 「米国の主な油田は 9 年と 3 カ月で底が尽きてしまう」と されたのは 1 9 8 0 年代中期とのことである。一方、英領 発言した。ところが、1 9 3 1 年に、当時世界最大とされ 15 石油・天然ガスレビュー アナリシス る東テキサス油田(約 6 0 億バレルが発見された)が発見 Council が米国エネルギー省(DOE)の Steven Chu 長官 され、油価は崩落した。また 1 9 4 3 年、Harold L. Ickes に「タイトオイルからの生産は 2 0 0 万~ 3 0 0 万バレル / 内務長官も「石油が枯渇する」という題の論文を発表。 日が見込める」と報告している。そればかりか、IEA レ 第三次大戦があれば他の国の石油で戦うことになると ポート(図 2)にもあるとおり、高油価の継続が見込め したが、1 9 7 8 年から今に至るも、3 0 %の生産増となっ るようになった 2 0 0 0 年代に入っては埋蔵量の増加ス ている。 ピードが加速している。あながち、さらなる石油埋蔵 2 0 1 1 年 9 月のロイターによれば「ベネズエラ並みの生 に期待することはいささかもおかしなことではないと 産が見込める可能性がある」として National Petroleum いうことだ。 壮大なガスパラドックス「世界がガスを使えば、さらにガスは見つかる」 米国のガス生産は、1989 年の確認埋蔵量 168TCF(TCF= 兆立方フィート)から、2008 年末 237TCF に拡 大。この間、生産量は 390TCF と 1989 年の確認埋蔵量の 2 倍以上を生産している。1984 年に Exxon がガス資 源の未発見埋蔵量は 300TCF と希少であるとしていた。さらに 2005 年に ExxonMobil の Raymond(CEO)は「北 米のガスはピークアウトした」と発言した。当時の月次生産量は 1.53TCF であったが、 2010 年はなんと 1.75TCF にまで増加した。この増産の勢い、埋蔵量の拡大からか、中東動乱や日本の福島原発事故が起きてからもその価格上 昇の勢いは限定的である。 そこには「世界がガスを使えば、さらにガスは見つかる」という壮大なパラドックスがある。実際、10 億立方 フィート / 日以上を生産する国は 1970 年に 10 カ国だったが、2009 年には 41 カ国に増えている。2008 年か らの大型ガス田の発見事例を見ても、在来型のガス資源では 2008 年ブラジル Jupiter(Tupi 油田 65 億バレル相 当)と、2009 ~ 2010 年イスラエルでリヴァイアサン 16TCF(他にも 6.3TCF のガス田発見)が、2009 年オー ストラリア Gorgon は 40TCF 拡大し、2009 年モザンビークで 4TCF といった具合に増えている。2011 年には トルクメ南ヨロテンおよび周辺ガス田を米 GCA が原始埋蔵量評価で最大 1,700TCF と再評価した。現在の世界の LNG 182 百万トンについても、2030 年 363 百万トンに達すると専門家は見込んでいる。また、今後の見通しと しても非在来型のガスは今後、インド、ヨルダン、ポーランド、フランス、オーストリア、中国、アルゼンチンで期 待されているといった具合だ。価格についても、原油価格とのリンクが外れつつあるオイル / ガスレシオという従来 の 6,000 対 1 * 2 が大きく変動しそうだ。 しかも発見は大規模で、大気汚染はほとんどなく、さらに価格が安いというトリプルメリットが生じている。 2005 ~ 2008 年に 7 ドルだった米国天然ガスの価格は 2010 年に他の資源(石油・白金・パラジウム等)がイ ンフレで上昇するなか、4.25 ドルに低下した。その理由が、この米国の「シェールガス」をはじめとする非在来型 ガス資源である。非在来と言いながら、メジャー保有の資源量の 7 割はこの種のものであり、米国の使用するガスの 半分以上も既にこの種のガスとなっている。シェールガスは EIA によれば石油換算の可採ガス資源量は 1,180 億バ レルに達する(バーネット 80 億バレル、ヘインズビル 45.7 億バレル、マーセラス 47.7 億バレル=プルドー油田 級 < アラスカにある北米最大の油田 >)。また、CERA の Daniel Yergin は、シェールガスは米国のエネルギー供給 にとって不可欠になるとし、米国の全天然ガス生産の30%を占めることになると予想している。さらに、天然ガス には価格に拘泥せずに市場に大量に出回る場合がある。在来型天然ガスの一大産出国であるカタールでは、原油価格 が上昇していることから、上昇メリットを得ようと、天然ガス生産の際に生じる天然ガス液(NGL)の生産を目的と する採掘を行ったケースである。スポット市場に大量に流れ、価格低下に貢献したとのことである。また、シェール ガスが大隆盛期を迎え、天然ガス価格が低位安定する一方で、原油価格上昇のメリットを得るべくタイトオイル目的 の掘削で生じるケースである。Bakkenn Shale では、この種のガスが販売されずに、大量に燃やされ、環境破壊と 非難されているほどだ。 2011.11 Vol.45 No.6 16 新たに生まれる「イージーオイル」?? ~まだまだ頼れる巨大油田と新たな巨大油田の効果が支える石油の未来~ 4. 新たなイージーオイルの出現は新技術・改良技術がもたらす 過去、新技術は埋蔵量・生産量の拡大と新たな可能性 の広がりをもたらしてきた。しかし、新技術は、有望で ② 水 平坑井がもたらしたロシアの石油生産・埋蔵量の 復活 あっても当初の導入時はコスト上昇要因になり、容易に また 3D と同様に 1 9 9 0 年代の探鉱に貢献した技術に 機能しないが、長期では経験曲線によりコスト低減と埋 は水平坑井がある。例えば、BP がロシア企業 TNK 社に 蔵量・生産量の拡大にも貢献し、イージーオイルの要件 参加し、同社の埋蔵量を2004 ~ 2007年で143%拡大 (特 である経済性をつくりだすことになる。 に 2 0 0 7 年単独では 1 7 9 %)させた大きな要因であると される。また、米国の Aurora Oil & Gas 社は、ロシア ① 3D のもたらした欧米海上での上流事業の復活 企業 Yukos の三つの成熟油田の埋蔵量を水平坑井他の 上記のような米国メキシコ湾のルネサンスをもたらし 先進技術を用いて 1 1 4 億バレルから 1 6 9 億バレルに拡大 た大きな要因が 3 次元地震探鉱(3D)であると、EIA の させた(当該油田は 1 0 年前の 2 0 0 万バレル / 日から 8 0 万 FRS レポートは報告している(別のレポートでは大水深 バレル / 日に生産量が減少していた)ということである 技術への習熟度の向上と、生産施設の統合化が挙げられ (E&P 誌)。 ていた) 。3D はサブソルトには欠かせない技術で、1 9 7 0 水平坑井は、油層が薄く埋蔵量が小規模な油田の開発 年以前には 3D のプロセッシングに 2 週間もかかった。そ を可能にする。通常の垂直井に比べ油層内での接触面積 れが、最近の技術革新により、新プロセスアルゴリズム、 が大きく、1 坑井あたりの生産性は垂直坑井の 2 0 倍にも そして処理能力の高いワークステーションが開発され、 なるとされ、坑井数は約半分に、また、リグ移動費用が データを集積し、解析する時間が短縮され、利用可能な 軽減されること等から大きなコスト削減効果を生み出し ものに変貌した。その結果、3D の適用実績は 1 9 8 9 年に ているとのことである。1 9 8 5 年からは水平坑井とフラ 世界の探鉱プロジェクト全体でわずか 5 %だったものが、 クチャリング技術によりロシアと中東の減退率減少に貢 1 9 9 6 年には 8 0 %にまで拡大した。 献したと IEA も報告している。米国内ではフラクチャ 2 0 0 6 年の上流情報誌 Hart’ s の E&P によれば、3D は、 リングにより可採埋蔵量は油で 3 0 %、ガスで 9 0 %増え 発見コストを 1 9 8 0年代の20ドルから5ドルに低下させ、 た と も 言 わ れ て い る。 こ の ほ か、Managed Pressure 1 9 7 0 年代に 1 7 %の探鉱成功率の地域を 2 0 0 1 年に 7 0 % Drilling(MPD)等の技術も大幅なコスト低減に寄与す に引き上げた実績があるとのこと。 また、 米国エネルギー る可能性があるとのこと(石油 ・ 天然ガス資源情報、 省(DOE)は BP の英国海上にある Foinaven 油田で 2 次元 2 0 0 9/0 3/1 6「 掘 削 技 術 の 進 歩: Managed Pressure 地震探鉱(2D)適用時には 2 5 ~ 3 0 %だった回収率が、 Drilling(MPD)」を参照されたい)。上記のいずれの技術 1 9 9 5 年の 3D により 4 0 ~ 5 0 %に引き上げられた実績を も上流資本コスト中最大の支出要素で、全体の 5 0% に 報告している(さらに 2 度の 3D を行う 4 次元地震探鉱で 相当する掘削コスト(探鉱・開発井を含む)の低減に資す 6 5 ~ 7 0 %に引き上げられた) 。 るものである。 5. 巨大油田発見により期待される効果 新たな巨大油田発見は今後の石油開発に以下の可能 件の地域探鉱の端緒を開くことになる。このような効 性をもたらす。①ピークオイル論に対する反証となる 果が見込まれる最近の例として以下の二つの事例を取 (巨大油田を継承して長期の石油生産継続を約束する)、 り上げた。 ②新たな条件下での発見は同一地域内の探鉱活動に ブームを起こし、インフラの整備を促進させ、地域全 (1)最後の黄金三角ブラジルからアフリカへの逆転現象 体の石油開発を容易にさせる。また、世界中で類似条 Santos 盆 地 の プ レ ソ ル ト で 探 鉱 を 進 め て い た 17 石油・天然ガスレビュー アナリシス Petrobras は、2 0 0 7 年 1 1 月 リ オ デ ジ ャ ネ イ ロ 沖 合 約 ると、こうした「柳の下のドジョウ効果」によって、さら 2 5 0km に位置する BM-S 1 1 鉱区の Tupi 油 ・ ガス田の可 なる探鉱・開発が誘発される。これも大油田発見の効果 採埋蔵量は原油と天然ガスを合わせて 5 0 億~ 8 0 億 boe と思料される。 であると発表した。その後も原油や天然ガスの大規模な 参考:大水深域の探鉱開発は、1 9 8 0 年代からのメキ 発見が相次ぐようになった。今のブラジルの状況は米国 シコ湾大水深域での探鉱・開発が成功し、その後、西ア GOM の「ルネサンス」に勝るとも劣らぬような状況にあ フリカのナイジェリア ・ アンゴラでも巨大油田が発見さ る。実は、 このような発見がブラジルであり得ることは、 れ た。 そ の 後、 ブ ラ ジ ル で も プ レ ソ ル ト で 巨大 油 田 以前から予測されていた。世界の未発見埋蔵量評価を行 Tupi が発見されたのを契機に同地域で次々に巨大油田 うことで定評のある米国地質調査所(USGS)では“USGS が発見されている。大水深事業については、探鉱から開 2 0 0 0”において、中東を除く将来の有望地域として中南 発まで 5 ~ 7 年という長期胚胎期間が必要であること、 米、アフリカ、旧ソ連を挙げ、中南米に関しては原油 ・ 一方で残存可採埋蔵量の 3 2 %が眠る有望地域というこ ガスともにブラジル海域に卓越した未発見埋蔵量(約 ともあり、昨今の金融不安にもかかわらず、大水深への 4 5 0 億バレル) があるとしている。 投資規模は 2 0 0 9 ~ 2 0 1 3 年で平均 3 2 0 億ドルが見込ま ま た、2 0 0 0 年 に 世 界 有 数 の コ ン サ ル タ ン ト 会 社 , れると海洋石油事業で有数のアナリストとされる Douglas Westwood は、今後世界でまとまった原油埋蔵 Douglas Westwood 社は The World Deepwater Market 量の発見が期待される大水深の有望地域として、米国 Report 2 0 0 9 - 2 0 1 3 で報告している。 はい たい メキシコ湾、西アフリカ(アンゴラ、ナイジェリアなど)、 ブラジルを挙げている。この 3 地域を結ぶと三角形にな (2)ダークホース(穴馬)タイトオイル ることから、これを「ゴールデントライアングル」と呼 IEA レポートの対象である 2 0 0 7 年時点では探鉱が進 び、とりわけブラジルについては未発見の埋蔵量が最 んでいなかったこともあり、注目されていなかったタイ も期待できるため、今後投資を拡大すべき地域として トオイルはレポート内の非在来型にもカウントされてい 紹介している(3 地域は、大陸移動説では太古の昔に一 ない。この、タイトオイルの代表である、米ノースダコ つの場所 < テチス海 > だったものが分かれたとされる)。 タ州の Bakken 構造からの 2 0 0 3 年当時の石油生産量は、 にもかかわらず、他の地域に比べ、この発見まで見る 1 万バレル / 日だったが、2 0 1 1 年には 4 0 万バレル / 日に べき実績もなく「ブラジルはだめなのか」というあきら も達している。現在の確認可採埋蔵量は、USGS によれ めの声も出てきていた。 ば 4 3 億バレル(ノースダコタ州の産業委員会の評価では 地質学者ロベルト・ファインスタイン氏は、油田探索 2 0 0 億バレル)存在し、これに加えてテキサス、ルイジ サービス会社 Schlumberger の地震波映像を使った探索 アナ州でも 1 0 億バレル程度の埋蔵量が期待できるとし によって今回の大規模新油田の発見に貢献した人物であ た。EIA の 2 0 1 1 年 7 月のレポートによれば、米国タイ る。ファインスタイン氏は、 「この岩塩層下での発見に トオイルの従来から注目されてきたシェール層の可採埋 より、世界中で同じような掘削が相次ぐだろう」と予想 蔵量は 2 4 0 億バレル相当と推定されている(最大はカリ する。実際、石油メジャーやメキシコ石油公社 (Pemex) フ ォ ル ニ ア Monterey/Santos;1 5 0 億 バ レ ル、 上 記 は、メキシコ湾の岩塩層下の掘削作業を急いでいる。ア Bakken;4 0 億バレル、メキシコ湾岸 Eagle Ford;3 0 億 ンゴラ、ガボン、赤道ギニアなどの西アフリカ諸国の海 バレル、Avron & Bone Springs;2 0 億バレル)。また、 底岩塩層は、 「ブラジルと似ているため、各社が先を争っ 新たに見つかったシェール層である米北東部 Marcellus て掘削を始めるだろう」とファインスタイン氏は言う。 の Utica Shale も Eagle Ford 級の埋蔵量が期待されると この予想どおり、現在のホットスポットの一つとして西 いう状況にある。数年前は、その存在さえ認識されてい アフリカ地域の海底岩塩層が現在、注目を集めている。 なかった、シェールガスに現在、世界中が注目している。 米国 GOM から西アフリカ、ブラジルの順番で進めら タイトオイルには、それ以上の穴馬として世界中で注目 れた大水深探鉱・開発であるが、ブラジルの大水深の発 される素地がある。ガスは最終需要者の確実な引き取り 見層は、 従来と異なる大深度における発見であったため、 が決まり、インフラが整備された後に生産が可能となる。 逆にブラジルから西アフリカの類似構造を求めるという タイトオイルは、石油のため、常に販売可能という強み 逆転現象が起こっている。このように新たな技術的なブ を持つ。 実際、2 0 1 1 年 8 月、ExxonMobil は Rosneft レイクスルーがある地域で起き、大油田の発見につなが と提携して 1 0 0 万 km2 に及ぶ西シベリアの石油根源岩で 2011.11 Vol.45 No.6 18 新たに生まれる「イージーオイル」?? ~まだまだ頼れる巨大油田と新たな巨大油田の効果が支える石油の未来~ ある超巨大層 Bazhenov 層(シェール層)への参入を検討 加していることをみても明らかである。石油生産地域で、 している。2011年9月、 ロシア地下資源利用庁 (Rosnedra) 輸送インフラも整備されており、ロシアメジャーズ他の は同層の埋蔵量が 7,3 0 0 億から 1 兆 2,4 0 0 億バレルの見 探鉱が活発化されることも予想され、期待は膨らむばか 込みと発表した。同層の有望性は Shell が 1 9 9 3 年から参 りである。 おわりに:ジェボンズのパラドックス 石油消費量は減らしたはずが、増えて しまう可能性も 本稿に記したように埋蔵量は幸いにして大量にあり、 用量が減ると、浮いた分で別の製品づくりを始めること 今後も増大する可能性を秘めている。むろん、有限資源 になる。家庭では、自分が不在でも電気効率が上がり、 であることに変わりはない。したがって、節約・省資源 電気代が下がると、ペットのためとエアコンをつけっ放 は当然大事だが、エネルギー資源の効率的使用が可能と しにする。電器メーカーは、電力使用量の少ない冷蔵庫 なっても、資源の使用量を減らすのは容易ではないこと が製造可能になると、より大きな冷蔵庫や、付加機能を を 1 9 世紀のイギリスの経済学者 William Stanley Jevons つけたものを販売しようとする。賢明な読者は違うだろ が、その著書『石炭問題』 (The Coal Question)で「石炭 うが、筆者の家の冷蔵庫も大型化して、庫内の食品鮮度 の使用効率が向上するも総量で石炭消費量が増大してし の管理に追われている。 まった」 ことについて研究報告している。これが 「ジェボ 同様に自動車の燃費向上も今まで徒歩で済んだところ ンズのパラドックス」 と呼ばれるものである。彼は、「技 を車に乗るようになる。期待を集める電気自動車(原子 術的進歩により、省エネ効率が向上しても減るはずの資 力発電前提と理解していたもの)も、歴史の例に漏れず、 源消費量はむしろ増大する傾向がある」という残念な経 験則をわれわれに教えている。 「ジェボンズのパラドックス」に当てはまってしまう可能 性が高いことを念頭に置くべきと思料される。 例えば、工場では効率化によって工場のエネルギー使 <注・解説> * 1:Anadarko の時価総額 3 9 3 億 5,0 0 0 万ドル(2 0 1 1.1 0.2 1)を石油埋蔵量 2 3 億 BOE で割ると時価総額での埋蔵量油価 は17.1ドル/バレル。当日油価は86ドル/バレル。Marathonでは11.5ドル (購入時は借入金、 人件費等あり) で廉価。 * 2:オイル / ガスレシオ 熱量による換算率を示したもの。熱量換算で 6 0 0 万 btu =石油 約1バレル=天然ガス 約 6,0 0 0cf 米国等では用い られ、財務諸表等にも使用されている。 【参考文献】 1. U .S. Energy Information Administration, "International Energy Outlook 2 0 1 0" 2. U S Trade Deficit and the Impact of Changing Oil Prices. James K. Jackson, September 1 4, 2 0 1 1(CRS Report for Congress) 3. P erformance Profiles of Major Energy Producers 2 0 0 9 EIA 4. N atural Gas Liquids Supply Outlook 2 0 0 8 - 2 0 1 5 April 2 0 1 0 IEA 19 石油・天然ガスレビュー アナリシス 5. World Energy Outlook 2 0 0 8 IEA 6. U.S. Energy Information Administration/International Energy Outlook 2 0 1 0 7. BP Statistical Review of World Energy June 2 0 1 1 8. Pierre Jean、 “Methane by sea–A history of French methane carrier techniques”、P.ACUSSEL EDITEUR 9. Baker Hughes International Rig Count July 2 0 1 1 Oil & Gas Breakout 1 0. The Wall Street Journal There will Be Oil By Daniel Yergin 2 0 1 1.0 9 1 1. 池ヶ谷 清貴、 「国際経済 一大産油国へ飛躍、ピークオイル論に「反証」も -- 超巨大油田の発見相次ぐブラジル(上) 」 金融財政 2 0 0 8 年 4 月、時事通信社 1 2. 池ヶ谷 清貴、 「米国の「甘い原油(Sweet) 」に係わる少しも甘くない話」石油・天然ガスレビュー 2 0 0 8 . 9 Vol.4 2 No.5、JOGMEC 1 3. 池ヶ谷 清貴、市原 路子「上流事業のメジャー主導は続く???」石油・天然ガスレビュー 2 0 1 0.7 Vol.4 4 No.4、 JOGMEC 1 4. 池ヶ谷 清貴、 「実は安い上流コスト 1 バレル 3 0 ドルの油価でも問題なし ?! 」石油・天然ガスレビュー 2 0 0 9 . 5 Vol.4 3 No.3 、JOGMEC 1 5. 本村 真澄、 「ロシア :Rosneft-ExxonMobil の提携が目指すバジェノフ層シェールオイル開発(短報)」JOGMEC 石油・ 天然ガス資源情報、2 0 1 1 年 1 0 月 1 6. MIT「The Future of Natural Gas」2 0 1 0/0 6 執筆者紹介 池ヶ谷 清貴 (いけがや きよたか) 早稲田大学商学部卒業。一応、MBA。調査部の企業・市場経済ウォッチャーを自認。石油・天然ガスレビュー 命名者。石油・天然ガスレビューの前身である「石油の開発と備蓄」1998.8 Vol.31 No.4 に「象との遭遇 : 石 油危機の虚実と今後への教訓」執筆を皮切りに 15 本以上のレポートを執筆。名文家ではないが、石井彰氏を 始めとする JOGMEC 職員の校正も多く手がける。M&A「巨大合併を促進する影の主役 ―「持ち分プーリ ング法」― 」、環境「上流事業の経済性を左右する CDM「排出権」」等、新聞の短い記事を端緒にレポート 1 本が書ける。他、石油国家備蓄国備売却スキーム発案および関連契約文書最終調整。節税、節約スキーム等、 何でも屋のマーべリック。 2011.11 Vol.45 No.6 20