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米国のCO2有効利用の革新的コンセプト実証プロジェクト~米国

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米国のCO2有効利用の革新的コンセプト実証プロジェクト~米国
JPEC 海外石油情報(ミニレポート)
平成 23 年 1 月 7 日
ミニレポート 2010-028
米国の CO2 有効利用の革新的コンセプト実証プロジェクト
~米国エネルギー省の CO2 回収技術の開発~
<原油・製品>
2009 年 2 月に成立した米国再生・再投資法(ARRA)は、
「工業排出源 CO2 回収・貯蔵(CCS)
の公募」の予算の中に「CO2 有効利用の革新的コンセプト」のための助成金を含めると定
めている。
これを受けて米国エネルギー省(DOE)は、同コンセプトの実証プロジェクトに 1 億ドル
の助成金を割り当て、プロジェクトを公募した。応募者は実証サイトの選定や予備設計を
行なう【フェーズ 1】と、設備の設計、建設および実証運転を行なう【フェーズ 2】で構成
されるプロジェクトを提出している。
DOE は応募のあった中から 2009 年 10 月に 12 件のプロジェクトについて【フェーズ 1】
の助成を発表し、2010 年 7 月にその中の 6 件は【フェーズ 2】も助成することを公表した。
参考
http://fossil.energy.gov/recovery/projects/beneficial_reuse.html
http://www.energy.gov/9247.htm
1. 「CO2 有効利用の革新的コンセプト」助成対象プロジェクトの概要
各プロジェクトの事業規模は比較的小さくそのため助成金額も少ないが、各業界の特色
を生かした独自技術の開発が進められている。
選定されたプロジェクトの概要をみると、
【フェーズ 1】に助成を受けているプロジェク
トには火力発電所や、工業排出源の排ガスから回収した CO2 で藻を培養して合成天然ガス
や液体燃料を製造するプロジェクトが多いが、CO2 と水のエマルジョンを製造して老朽油
田の増進回収(EOR)に使用する技術開発プロジェクトも含まれている。
更に【フェーズ 2】のプロジェクトには、CO2 からプラスチック原料を生産する石油化学
業界のプロジェクトや、CO2 を原料にセメントを製造するセメント業界のプロジェクト、
アルミニウム精錬で副生する赤泥と反応させてコンクリート材料を製造するアルミニウム
JPEC 海外石油情報(ミニレポート)
業界のプロジェクト等も含まれており、それぞれの業界で排出される CO2 を有効利用する
多彩な技術開発プロジェクトが助成対象となっている点で興味深い(表 1 参照)
。
表 1. 「CO2 有効利用の革新的コンセプト」で助成が決定したプロジェクトの概要
◎:藻を培養することによって CO2 を回収するプロセスを含む
以下に選定プロジェクトの内容を紹介する。
A.【フェーズ 1】選定プロジェクト
以下の 6 プロジェクトが【フェーズ 1】で選定された。
①Gas Technology Institute
-------
DOE 助成額は
993,284 ドル
②Renewable Energy Institute International --
同 1,358,920 ドル
③Research Triangle Institute ------------
同 1,065,743 ドル
④Sunrise Ridge Algae
同
511,327 ドル
同
572,891 ドル
------------------
⑤マサチューセッツ大学ローウェル校
⑥UOP
------
-------------------------------
同 1,522,149 ドル
JPEC 海外石油情報(ミニレポート)
(1)Gas Technology Institute (DOE 助成額:993,284 ドル)
イリノイ州デスプレーンズを本拠地とする非営利の天然ガス関連の研究機関である。
カリフォルニア大学サンディエゴ校、コネチカット大学、電力・ガス会社 San Diego Gas
& Electric(本拠地:カリフォルニア州サンディエゴ)およびガス会社 Southern
California Gas(本拠地:カリフォルニア州ロサンゼルス)と共同で、火力発電所の排
ガスから回収した CO2 で海草を培養し、収穫した海草から嫌気性消化注1 によってメタン
を製造して発電用燃料あるいは合成天然ガス注2にする。
(注 1)嫌気性消化:酸素の存在しない(嫌気性)条件下で行われる有機物の生物分解
(注 2)合成天然ガス(SNG、Synthetic Natural Gas, Substitute Natural Gas)
:天
然ガスと同じ組成になるように製造したガスで、天然ガスのパイプラインに
送り込まれる。
(2)Renewable Energy Institute International (DOE 助成額:1,358,920 ドル)
カリフォルニア州マクレランを本拠地とする非営利の再生可能エネルギー研究機関で
ある。非営利の環境関連の研究機関 Desert Research Institute(本拠地:ネバダ州リ
ノ),再生可能エネルギー技術開発会社 Pacific Renewable Fuels(本拠地:カリフォル
ニア州マクレラン)およびエンジニアリング会社 Clean Energy Systems(本拠地:カリ
フォルニア州ランチョ コルドバ)と共同で、太陽光を集光して得られる太陽エネルギー
を利用する反応装置によってCO2および天然ガスからCOおよび水素の混合ガスを製造し、
FT 合成により輸送用燃料を製造する。
(3)Research Triangle Institute (DOE 助成額:1,065,743 ドル)
ノースカロライナ州リサーチ・トライアングル・パークを本拠地とする非営利の試験・
研究機関である。エンジニアリング会社 Kellogg, Brown and Root(本拠地:テキサス
州ヒューストン)および触媒等を製造している Süd Chemie(本拠地:ケンタッキー州ル
イスビル)と共同で、エチレンプラントの排ガス中の水素と CO2 から Research Triangle
Institute が開発した触媒を使用して合成天然ガスを製造する。
(4)Sunrise Ridge Algae (DOE 助成額:511,327 ドル)
テキサス州ヒューストンを本拠地とする藻から燃料を製造する技術の開発会社である。
エンジニアリング会社 URS Group(本拠地:カリフォルニア州サンフランシスコ)
、セメ
ント会社 Texas Lehigh Cement(本拠地:テキサス州ブダ)およびエンジニアリング会
社 Honeywell の子会社 UOP(本拠地:イリノイ州デスプレーンズ)と共同で、セメント
工場の排ガスから回収された CO2 で藻を培養し、収穫した藻を接触熱分解(特許出願中)
してバイオ原油を製造する。分解残渣はセメント工場の燃料として利用する。
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(5)マサチューセッツ大学ローウェル校 (DOE 助成額:572,891 ドル)
石油・天然ガス開発会社 Jordan Exploration(本拠地:ミシガン州トラバースシティ)
および石油開発サービス会社 Core Energy(本拠地:カリフォルニア州ベーカーズフィ
ールド)と共同でブラックカーボン微粒子を安定剤として使用した CO2 と水のエマルジ
ョンを製造する。このエマルジョンは老朽油田の増進回収に使用されるとともに、CO2
が油層の空隙で岩石から溶出する元素と結びつく(鉱物トラップ)ことで地中に貯蔵さ
れる。
(6)UOP (DOE 助成額:1,522,149 ドル)
Honeywell の化学子会社 Honeywell-Resins and Chemicals(本拠地:バージニア州ホ
ープウェル)
、制御システム等を提供している子会社 Honeywell-Process Solutions(本
拠地:アリゾナ州フェニックス)
、熱分解技術を提供する Envergent Technologies(UOP
とバイオマスの熱分解技術を有する Ensyn の合弁企業)、藻培養等の技術開発会社
Aquaflow Bionomic(本拠地:ニュージーランド・オークランド)
、ガス分離の薄膜技術
を有する Vaperma(本拠地:カナダ・ケベック州サンロモール)および設備建設会社
International Alliance Group(本拠地:テキサス州ヒューストン)と共同で、化学工
場で排出されている CO2 を回収して藻を培養し、収穫した藻を熱分解注3 してバイオ原油
を製造する注4。
(注 3)熱分解は Ensyn の急速熱分解技術によって行なう。
(注 4)バイオ原油は輸送用燃料の原料に使用し、藻の分解残渣は発電用燃料として
使用する。藻の培養は同工場の排水が使用される。藻が排水中の窒素分を消費
することで環境対策として一石二鳥の効果がある。
参考
http://www.uop.com/pr/releases/DOE%20Hopewell%20Grant%20PR%20-%20FINAL.pdf
http://www.aquaflowgroup.com/wp-content/uploads/2010/04/media_release_3_3_
20101.pdf
B.
【フェーズ 1 】&【フェーズ 2 】で助成を受けるプロジェクト
以下の 6 プロジェクトが選定されている。
①Phycal
--------------
DOE 助成額は
24,243,509 ドル
②Touchstone Research Laboratory ------
同
③Skyonic
同 25,000,000 ドル
----------------
6,239,542 ドル
JPEC 海外石油情報(ミニレポート)
④Calera
----------------
同 19,895,553 ドル
⑤Novomer
----------------
同 18,417,989 ドル
⑥Alcoa
----------------
同 11,999,359 ドル
(7)Phycal (DOE 助成額:24,243,509 ドル)
オハイオ州ハイランドハイツを本拠地とし、藻から燃料を製造する技術の開発会社で
ある。ハワイ・オアフ島に藻の培養・抽出設備を建設する。藻から抽出されたバイオ原
油は発電所の燃料に混合して使用するか、
処理して輸送用燃料
(再生可能ジェット燃料、
再生可能ディーゼル)にする。Tesoro(本拠地:テキサス州サンアントニオ)が藻に与
える CO2 の供給と輸送用燃料の評価を行い、電力会社 Hawaii Electric Company(本拠
地:ハワイ州ホノルル)がバイオ原油のボイラー燃料のとしての試験を行なう。CO2 は
オアフ島にある Tesoro の Kapolei 製油所(原油処理能力:94,000 BPD)で回収してロー
リーで輸送する。
(8)Touchstone Research Laboratory (DOE 助成額:6,239,542 ドル)
ウエストバージニア州トライアデルフィアを本拠地とする試験・研究会社。石炭ボイ
ラーの排ガスから回収した CO2 で藻を培養し、収穫した藻から油分を抽出してバイオ燃
料を製造し、残渣から嫌気性消化によってメタンを製造する。
(9)Skyonic (DOE 助成額:25,000,000 ドル)
テキサス州オースチンを本拠地とする炭素回収技術開発会社。セメント工場の排ガス
から回収する CO2 を原料にして炭酸水素ナトリウム等を製造する。同社の技術はそのほ
か、工場の排ガスに含まれる硫黄酸化物、窒素酸化物および水銀等の除去にも応用でき
るとしている。製造した炭酸水素ナトリウムは藻の培養に使用される予定である。
参考
http://www.newenergyworldnetwork.com/renewable-energy-news/by-technology
/energy-efficiency/us-carbon-capture-developer-skyonic-starts-operations
-at-carbon-mineralisation-demonstration-facility.html
(10)Calera (DOE 助成額:19,895,553 ドル)
カリフォルニア州ロスガトスを本拠地とし、CO2 を原料とするセメント代替品の製造
技術を開発している会社。CO2 と海水中のカルシウム、マグネシウム等を反応させて炭
酸塩水溶液にし、これを乾燥して得られる粉末を通常のセメントに混合して使用する。
乾燥は工場の廃熱を利用する。焼成工程がないため製造時の CO2 排出量も大幅に削減さ
れる。
JPEC 海外石油情報(ミニレポート)
参考
http://www.google.co.jp/url?q=http://appropriations.senate.gov/ht-energy.cfm%3Fmetho
d%3Dhearings.download%26id%3D645b11fc-0ea5-4a4d-95e7-a6abf6a5966b&sa=U&ei=MZ
AmTZeYJc3XcaOshagB&ved=0CA0QFjAA&usg=AFQjCNGswoPU8TLb7ZlCw_RW-U1tc
cTBMg
http://www.nytimes.com/2010/03/22/business/energy-environment/22cement.html
(11)Novomer (DOE 助成額:18,417,989 ドル)
ニューヨーク州イサカを本拠地とし、CO2 からプラスチック原料のポリマーを製造す
る技術を有する技術開発会社。機能性化学品会社 Albemarle(本拠地:ルイジアナ州バ
トン・ルージュ)およびフィルム・映像機器会社 Eastman Kodak(本拠地:ニューヨー
ク州ロチェスター)と共同で、CO2 からプラスチックの原料となるポリマーを製造する。
(12)Alcoa (DOE 助成額:11,999,359 ドル)
ペンシルベニア州アルコアセンターを本拠地とする世界最大のアルミニウム会社。ア
ルミニウム精錬工場から回収される CO2 を、酵素を使用して水溶性の炭酸水素塩に転化
し、さらにアルミニウム精錬で副生する赤泥と反応させて炭酸塩(固体)にしてコンク
リート材料等を製造する。
尚、CO2 Solution(本拠地:カナダ・ケベック州ケベック)の遺伝子操作した炭酸脱
水酵素注5を用いる技術が既にカナダ・ケベック州デシャンボーにある Alcoa のアルミニ
ウム精錬工場で実験されており同技術が使用されると思われる。
(注 5)炭酸脱水酵素は赤血球中に存在し、H2O + CO2 ⇔H2CO3 の反応の触媒となる。
参考
http://www.co2solution.com/en/technology-overview.php
2.米国政府の今後の動き
「CO2 有効利用の革新的コンセプトの実証プロジェクト」に選定された 12 プロジェ
クトは、石油化学やアルミニウムの業界が自らの工場から排出される CO2 を回収して
新製品を生み出す取組みも目を引くが、多くは藻を培養することによって CO2 を回収
して液体燃料を製造するプロジェクトであることがわかる(表 1 参照)
。
JPEC 海外石油情報(ミニレポート)
DOE は、CO2 を回収するプロジェクトとしては、石油の増進回収(EOR)を含めた地下
貯蔵が最も有効と考えており、昨年 11 月および 12 月のミニレポート「米国エネルギ
ー省の CO2 回収・貯留への取組み」にあるように多額の助成金を配分している。
しかし地下貯蔵は CO2 を排出源から貯蔵場所までパイプラインで輸送する必要があ
る。CO2 パイプラインにアクセスできない地域では回収した CO2 で藻を培養して液体
燃料を製造すれば CO2 排出量と石油消費量の両方が削減できることから米国政府は地
下貯蔵に加えて「藻を利用した CO2 回収・液体燃料の製造」の技術開発および商業化
も強力に支援していくものと思われる。
(YY)
本資料は、
(財)石油産業活性化センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析したものです。
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