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2 - 新エネルギー・産業技術総合開発機構

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2 - 新エネルギー・産業技術総合開発機構
2. 研究開発項目毎の成果
2.1 フィルム用途
2.1.1 触媒技術の開発
(1) ペレットと同等に扱える重合パウダーを生成するチーグラー触媒及び重合技術の開発
現行のチーグラー触媒から合成される重合パウダーは、形態が不均一で粒径が小さいため、そのま
までの取扱いが難しく、ペレット化して出荷されている。現在普及している貯蔵、輸送、成形加工な
どの設備は、全て 3-4mm 径に揃ったペレットを前提として設計されている。本プロジェクトでは、重
合後のペレット化工程を省略するため、ペレットと同等に扱える形状の重合パウダーを生成するチー
グラー触媒を開発する。また、実際に PP 製造プラントで生産した場合、重合パウダーを重合槽から次
工程へ移送する際にパウダーが破砕し粒径が不均一になる虞がある。パウダーの破砕を防止し、ペレ
ットと同様に扱える形状の重合パウダーの生産を可能とする重合技術の開発も必要である。
PP 重合パウダーは触媒粒子の形状と相似形の粒子となることが実験的に知られている。(図
Ⅲ.2.1.1(1)-1 参照)一般に「レプリカ」と呼ばれるこの現象 1)は、PP の粒度制御が触媒の粒度制御
により可能であることを示しており、工業的な PP 製造の観点から非常に重要である。このため、ポリ
マー粒子の形成機構の詳細な知見を得るため、多くの研究がなされてきた 2-9)。
平成 14 年度は、ラボ検討において、触媒を分級することにより目標とする形状の重合パウダーを
得ることができたが、平成 15 年度に、より合理的な方法として担体(触媒前駆体)の粒度制御につい
て検討した。
パイロット設備による重合ではパウダー破砕により目標とする形状の重合パウダーが得られなか
ったため、異なる設備での重合検討、破砕の原因究明を行い、パウダー強度が重要であることが分か
った。パイロット重合パウダーのパウダー強度が低い原因を計算科学の手法によるシミュレーション
で解析すると共に、SPM に適した重合プロセスについて検討した。
…触媒一次粒子
…ポリマー一次粒子
ポリマー粒子
触媒粒子
図Ⅲ.2.1.181)-1 ポリマー粒子の成長機構モデル
①試験方法
本研究における触媒の合成法、重合法及び得られた触媒、重合パウダーの分析方法について記す。
担体調製法
封印 No.1005∼1007 の担体製造技術を用いて調製された塩化マグネシウムとエタノールの付加物
(以後、担体と呼ぶ)を用いて、以後の触媒調製を実施した。
41
図Ⅲ2.1.1(1)①-1 に示すフローに従って、球状の担体を調製する。スチームジャケット付きの錯体
槽 1 に塩化マグネシウムとエタノールとの錯体を、液体媒体(分散媒)槽 2 にはデカンを、界面活性
剤槽 3 にはデカン 1L に対し、ソルビタンジステアレートを 24.2gの割合で仕込み、それぞれ槽温を
130℃・130℃・100℃に維持した。錯体槽 1 からポンプ 4 を通り、また液体媒体槽 2 からポンプ 5 を通
り、熱交換器 7 で 130℃に保持し、また界面活性剤槽 3 からポンプ 6 を通り、それぞれの槽の液を内
径 4mm の送液管 8 に所定の供給割合となるように送液した。送液管 8 から内径 1.5mm、長さ 1m の混合
用パイプ 9 に送られた混合液をここで激しく混合分散させた後、
混合用パイプ9 に直結された内径 4mm、
長さ 500mm の整球用パイプ 10 を通して容積 10L の冷却槽 11 に供給し、冷却固化した。冷却槽 11 はジ
ャケット 12 を有し、ブラインにより液温を 35℃以下に保つように十分撹拌冷却した。冷却槽のオー
バーフローノズル 13 から冷却固化した錯体を分散液と共に連続的に取り出し、
分級器を用いて粗粒担
体と微粒担体を除去して平均担体粒径が 30∼100μm になるように調製した。この時、分級器で使用す
る篩目の大きさで除くべき担体の大きさを制御した。
図Ⅲ.2.1.1(1)①-1 担体調製フロー
触媒調製法
封印 No.1001∼1004 の触媒製造技術を用いて上記調製担体から触媒調製を実施した。
デカンで懸濁状にした担体をマグネシウム原子に換算して 46.2 ミリモル分を-20℃に保持した四塩
化チタン 200ml 中に攪拌下、全量投入した。その後、系内を 5 時間かけて 80℃に昇温し、80℃に達し
たところで電子供与体としてジイソブチルフタレート(DIBP)1.9g を添加し、40 分間で 120℃まで昇
温した。次に、系内温度 120℃で 90 分間攪拌しながら保持した。90 分間の反応終了後、熱濾過にて固
体部を採取し、この固体部を 200ml の四塩化チタンにて再懸濁させた後、昇温して 130℃に達したと
ころで、45 分間撹拌しながら保持した。反応終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、100℃のデカ
ンで洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで充分洗浄した。以上の操作によって調製さ
れた触媒は、一部触媒組成を調べる目的で乾燥し、残りをデカンに懸濁させ保存した。このようにし
て得られた触媒の組成はチタン 2.4 重量%、マグネシウム 20 重量%、DIBP7.4 重量%およびエタノー
ル残基 0.5 重量%であった。(図Ⅲ.2.1.1(1)①-2 に合成フローを示す。)
42
Ⅲ.2.1.1(1)①-2 触媒合成標準処方
前重合法(標準処方)
200ml の攪拌機付き四つ口ガラス製反応器に、窒素雰囲気下、精製ヘキサン 100ml、トリエチルアル
ミニウム 3 ミリモル、調製した触媒をチタン原子に換算して 1.0 ミリモル添加した後、20℃でプロピ
レンを 3.2NL/h の割合で 1 時間供給する。プロピレンの供給が終了したところで反応器内を窒素置換
し、上澄み液の除去及び精製ヘキサンの添加からなる洗浄操作を 2 回行った後、得られた前重合触媒
を精製ヘキサンに再懸濁して触媒瓶に全量移液する。
(図Ⅲ.2.1.1(1)①-3 に合成フローを示す。
)
図Ⅲ.2.1.1(1)①-3 前重合標準処方
本重合法(標準処方)
内容積 2 リットルの重合器に室温で 500gのプロピレン及び水素を所定量加えた後昇温し、60℃で
トリエチルアルミニウム 0.5 ミリモル、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン 0.1 ミリモル、およ
び前重合触媒もしくは触媒成分をチタン原子換算で 0.004 ミリモル加え、重合器内を 70℃に保った。
重合時間 1 時間経過後、メタノールを添加して重合を停止し、プロピレンをパージして重合器内より
生成パウダーを取り出す。
(図Ⅲ.2.1.1(1)①-4 に合成フローを示す。
)
43
図Ⅲ.2.1.1(1)①-4 本重合標準処方
パイロットプラントでの重合
パイロットでは 3 種類の設備で検討を行った。パイロット A 設備はバルク重合器と気相重合器を有
しており、それぞれで検討を行った。ところがパイロット A 設備のバルク重合器では重合パウダーの
機械的破砕が生じたため、パイロット A 設備とは異なるバルク重合器を有するパイロット B 設備を使
用して検討を行った。いずれのバルク重合器においても、触媒、モノマー、水素を連続的に供給し、
液化されたプロピレンでスラリー化させて重合し、
重合パウダーを含むスラリーを連続的に抜き出す、
連続バルクスラリー重合を行った。除熱は、モノマーの一部を気化させることでの潜熱除去方式で行
った。気相重合器では、触媒、モノマー、水素を連続的に供給し、プロピレンを液化させること無く
気相状態で重合し、重合パウダー、モノマーガスを連続的に抜き出す連続気相重合を行った。除熱は、
モノマーガスを冷却する顕熱除去方式で行った。
触媒粒径測定法
本プロジェクトで購入した Beckmann-Coulter 製 LS13320(光散乱レーザー粒度分布解析装置)を用
いて分析した。分散媒はデカン(屈折率:1.412)を使用。サンプル屈折率は担体、触媒毎に設定した。
触媒組成分析(金属(Ti や Mg など)
・有機物(脂肪族炭化物・芳香族炭化物等)
)
触媒組成分析は、基本的に抽出試料を用いた。抽出試料とは、触媒試料に所定量の 6N−硫酸を加え
撹拌し液抽出(水層及び有機層)したもののことを言う。金属は、水層部を更にメスアップし、所定
の量に調製した後、ICP-AES(誘導結合プラズマ発行分光分析)(*)を用いて定性・定量する。有機物
は、有機層部をメスアップし、所定の量に調製した後、ガスクロマトグラフィーを用いて定性・定量
した。
(*)ICP-AES…Ar プラズマに霧化した液体試料を導入し、プラズマ内で元素をイオン化し、観測され
る発光を分光器で元素毎に分光して、定性・定量分析する装置。
担体濃度・触媒濃度分析(Ti・Mg 量)
担体濃度や触媒濃度は、触媒組成分析と同様に抽出による試料を用いて ICP-AES 分析で行った。
SEM(走査電子顕微鏡)
試料をエポキシ樹脂で包埋後、試料の断面中央部までミクロトームで面出しを行った。蒸着後に走
査電子顕微鏡で試料の大きさに応じた倍率で写真撮影を行った。
44
比表面積
島津製作所製トライスター3000(自動比表面積測定装置)を用いて測定した。具体的な測定方法は、
まず試料を窒素雰囲気下で秤量しセル内に投入する。次に付属の前処理乾燥装置で減圧加熱乾燥を行
い、セル中の試料に付着した液体等の不純物を除去する。その後、測定部にセルを装着し、真空
(0.1mmHg)
・極低温(液体窒素使用)状態にしたところでガス吸着を開始する。あとは制御プログラ
ムに即して測定する。測定終了後、専用の分析処理プログラムを用いて比表面積値やガス吸脱着状態
を確認する。尚、基本的には BET 法を用いて計算した。
細孔容積分布
CE Instrument 社製 pascal 140・440 型(水銀圧入式ポロシメータ)を用いて測定した。まず十分
に乾燥した試料を窒素雰囲気下で秤量し、セル内に投入した。140 型装置測定部にセルを設置し真空
状態にしたところで水銀を注入した。プログラムされた昇圧速度で常圧まで戻し、その後、440 型の
高圧式オートクレーブにセルを移して昇圧した。昇圧は最大 400MPa まで実施した。測定終了後、専用
の分析プログラムを用いて細孔分布、細孔容積などを計算した。
嵩密度(B
Bulk Density)
JISK6721 に準ずる。規定の高さにセットされたロート下部から試料を排出し、専用の SUS 容器に受
け取る。容器上部の山になった部分の試料は取り除き、試料重量から算出した。
MFR(メルトフローレート)
ASTM D1238E に準拠し測定した。
粒度分布
(株)タナカテック製ロータップ型振動器に飯田製作所製篩を 8 種(3350 ミクロン、2830 ミクロ
ン、2360 ミクロン、1700 ミクロン、1180 ミクロン、355 ミクロン、180 ミクロン、100 ミクロン)重
ねて固定し、15 分間振動させた。各篩上パウダー重量を測定し、粒度分布計算プログラムを使用して
処理した。
幾何標準偏差(σg)
粒度分布で得られた結果を基に累積重量割合で 84 重量%時の粒径(D84)、累積重量割合で 16 重量%
時の粒径(D16)を計算し、D84 を D16 で除した値の平方根値で定義される。粒子径計算は基本的にラン
グミュアー式を使用した。
σg=(D84/D16)1/2
I.I.(アイソタクチック インデックス)
各種重合パウダーの沸騰溶媒(ヘプタン)抽出残パウダー量を定量する分析方法で PP の立体規則
性の程度を表す。まず、測定すべきパウダーを約 3gになるように円筒濾紙に秤量し、ソックスレー
抽出器にセットした。次に、180ml のヘプタンをナスフラスコに加え抽出装置下部に固定した。ナス
フラスコ部をオイルバスで温め、ヘプタン溶媒が環流開始してから 6 時間かけて溶媒抽出を行った。
45
その後、円筒濾紙に残ったパウダーを 80℃で 12 時間減圧乾燥させて秤量し、質量変化を確認した。
I.I.(wt%)={(残パウダー量)/(仕込みパウダー量)}× 100
パウダー強度
担体、触媒及び重合パウダーを別々の圧縮強度計を用いて測定した。
担体や触媒のような数μm から数百μm 程度の粒子の圧縮強度は、島津製作所製微小圧縮試験機
(MCT-W)を使用した。MCT-W は微小な負荷力と変形量を測定することができる。具体的には、加圧圧子
と加圧板の間に測定試料を固定し電磁力により一定の増加割合で負荷力を与えていく。負荷力は 9.8
∼4900mN まで設定でき、変形量として 0.01μm 単位で測定可能である。測定した試料の変形特性結果
は専用のプログラムで処理し強度値を計算した。
重合パウダーのような数 mm 単位の粒子の圧縮強度は、
島津製作所製小型卓上試験機(EZ-test-500N)
を使用した。EZ-test-500N は微小圧縮試験機同様、負荷力と変形量を測定することができる。具体的
には重合パウダー試料から任意に 1 粒子をサンプリングして加圧圧子と加圧板の間に置き、任意の試
験速度で圧子を降下する。負荷力は最大 500N まで可能である。測定は 1 ロット当たり、約 20∼100
個の粒子を取り出し、1 粒子ずつ測定する。測定した試料の変形特性結果は専用のプログラムで処理
し圧縮強度や弾性率などを計算した。パウダー強度は s(stress)-s(stroke)グラフから圧縮強度(Sc)
(圧壊試験力ともいう)を求め、以下の式(平松式 10))に予め測定しておいた重合パウダーの粒径と
共に代入し求めた。図Ⅲ.2.1.1(1)①-5 に強度測定のイメージを示す。
Sp=2.8×Sc/(π×d×d)
Sp(MPa):パウダー強度
Sc(N):圧縮強度
d(mm):粒子径
図Ⅲ.2.1.1(1)①-5 圧縮強度測定イメージ
46
②重合パウダーの粒度分布改良(ラボ検討)
a. 既存触媒の評価
封印 No.1001∼1004 の技術を利用して標準的な触媒調製を行い、前重合、本重合を実施して既存触
媒の性能を確認した。重合結果を表Ⅲ.2.1.1(1)②-1 に示す。幾何標準偏差値(σg 値と呼ぶ)以外の
活性値、嵩密度、平均粒径は目標値を満足した。
目標値
既存触媒
表Ⅲ.2.1.1(1)②-1 既存触媒の評価結果
重合パウダー
触媒活性
MFR
嵩密度
I.I.
平均粒径
3
g-PP/g-固体触媒 g/10min.
g/cm
%
mm
≧20,000
−
≧0.4
−
2∼4
37,400
4.5
0.49
98.6
2.3
幾何標準偏差
(σg)
−
≦1.2
1.3
b. 重合パウダーの篩分けによる粒度分布の変化
既存触媒の性能評価でσg 値だけが目標未達であることがわかったが、どのような粒度分布であれ
ばσg 値が目標値を満足するのかを明確にする必要がある。そこでモデル的に重合パウダーを篩分け
してσg 値の変動を調べた。具体的には、重合パウダーを目開き 1180μm の篩で篩分けし、篩上パウ
ダーについて再度粒度分布を測定した。結果を表Ⅲ.2.1.1(1)②-2 に示す。重合パウダーを 1180μm
で篩分けすることにより目標とするσg 値 1.2 以下を満足することが確認できた。但し、このような
操作を工業化することは不可能であり、本重合の前段階でσg 値を制御できる方法が必要である。
篩分け前
篩分け後
表Ⅲ.2.1.1(1)②-2 重合パウダーの篩分け前後の粒度分布
平均
粒度分布(目開き単位:μm)
σg
粒径
>3350 >2830 >1700 >1180 >850 >355 >180
mm
−
重量%
2.2
1.3
15.8 67.1 13.4 2.0
1.1
0.3
2.5
1.2
6.3
13.3 64.1 16.0 0.0
0.0
0.0
>100
<100
0.2
0.1
0.0(*) * <180
c. 触媒分級による粒度分布改良
重合パウダーの篩分け以外の手法でσg 値の目標を達成するため、触媒の分級について検討した。
封印 No.1001∼1004 の技術を利用して得られた触媒を懸濁状態にし、以下の方法で分級した。まず
400ml の 4 つ口ガラスフラスコにデカンで懸濁状にした触媒を入れ、均一撹拌状態にする。その後、
撹拌を停止し、触媒粒子が沈降してくるのを確認しながら所定の時間で上澄みをデカンテーションす
る。この操作を数回繰り返して分級された触媒を得た。この触媒を用いて重合した結果を表
Ⅲ.2.1.1(1)②-3 に示す。触媒を分級したことで重合パウダーの平均粒径が大きくなり、粒度分布も
狭くなっているが、σg 値は目標未達であった。しかしながら更なる触媒分級でσg 値を 1.2 以下とす
ることは可能と推定できる。但し、分級の際、静電気による壁面付着が発生したこと、分級効率(*)
が 50%以下であったことから工業的には採用できないと判断した。
* 分級効率(%)=(分級後の触媒の重量/分級前の触媒の重量)×100
47
触媒分級前
触媒分級後
表Ⅲ.1.1.2(1)②-3 分級した触媒による重合結果
粒度分布(目開き単位:μm)
平均
σg
粒径
>3350 >2830 >1700 >1180 >355 >180
mm
重量%
2.2
1.3
4.0
9.4
65.0 17.2
4.1
0.1
2.5
1.3
7.8
19.6 61.9
7.8
2.5
0.3
>100
<100
0.0
0.1
0.2
0.0
d. 前重合触媒の分級による粒度分布改良
①に記載した方法で前重合した触媒を上記触媒分級と同様の方法で分級して重合を行った。結果を
表Ⅲ.1.1.2(1)②-4 に示す。前重合触媒を分級することによりσg 値は目標を達成することができた。
また分級効率も 75%に改善された。これは溶剤(デカン)と前重合触媒との密度差が小さくなったこ
とによる粒子沈降速度の低下、および触媒を前重合することで静電気による壁面付着が改善されたこ
とが大きく寄与したものと考える。
表Ⅲ.1.1.2(1)②-4 分級した前重合触媒による重合結果
平均
粒度分布(目開き単位:μm)
σg
粒径
>3350 >2830 >1700 >1180 >355 >180
mm
重量%
前重合触媒分級前 2.2 1.3
4.0
9.4
65.0 17.2
4.1
0.1
前重合触媒分級後 2.7 1.2
9.6
28.3 58.2
3.5
0.4
0.0
>100
<100
0.0
0.0
0.2
0.0
e. 担体の分級による粒度分布改良
前重合触媒の分級によりσg 値が目標を満足することがわかったが、前重合触媒の分級操作はプロ
セスが複雑になる上、原単位低下によるコストアップを招く。従って、触媒そのものの粒度分布を制
御し、レプリカ的重合反応によって重合パウダーの目標σg 値を達成できることが望ましい。前述の
ように触媒の分級には問題点があるため、触媒の前駆体である担体の粒度制御について検討した。
まず、前述した調製処方で調製した担体を 400ml 四つ口ガラスフラスコ内でデカン溶媒を用いて懸
濁状にし、デカンテーション法で分級操作(分級効率(*)は 60%)を実施した。尚、分級操作を行う都
度、光散乱レーザー粒度分布解析装置を用いて担体粒子径及び粒度分布を確認した。結果を図
Ⅲ.2.1.1(1)②-1 に示す。その後、粒度調製された担体を用いて触媒を 2 種(触媒①:前記「標準的
な小試触媒合成処方」に従って調製した触媒、触媒②:パウダー一貫高速製膜化に対応するために新
規に開発された触媒(詳細は 2.1.1(2)に記載)を合成し、重合評価を行った。表Ⅲ.2.1.1(1)②-5 に
示す通り、担体の粒度制御を実施することで、効率良くσg 値を制御でき、目標値を満足する触媒を
開発した。触媒②による重合パウダーの写真を図Ⅲ.2.1.1(1)②-2 に、ペレットの写真を図
Ⅲ.2.1.1(1)②-3 示す。
* 分級効率(%)=(分級後の担体の重量/分級前の担体の重量)×100
48
100
90
80
担体(オリジナル)
累積体積(%)
70
60
50
分級効率60%品
40
分級効率75%品
30
20
10
0
20
40
60
80
100
120
粒径(μm)
140
160
180
200
図Ⅲ.2.1.1(1)②-1 担体粒度調製時の粒度分布
表Ⅲ2.1.1(1)②-5 担体粒度調製品を用いた触媒のラボ重合結果
粒度分布(目開き単位:μm)
触媒活性
MFR
B.D.
I.I.
平均
粒径
kg-PP/g-cat
g/10min
g/cm3
%
mm
−
重量%
目標値
≧20
-
≧0.4
-
2∼4
≦1.2
-
触媒①
34
2.9
0.50
98.8
2.5
1.3
6.5
26.9
25.2
31.5
触媒②
24
2.7
0.49
97.8
2.2
1.2
0.0
2.8
28.4
51.8
σg
図Ⅲ.2.1.1(1)②-2 触媒②による重合パウダー
>3350
>2800
>2360
>1700
>1180
>355
>180
>100
<100
8.0
1.8
0.1
0.0
0.0
15.8
1.1
0.0
0.0
0.0
図Ⅲ.2.1.1(1)②-3 ペレット
尚、担体の粒径と重合パウダーの粒径の関係を図Ⅲ.2.1.1(1)②-4 に示す。触媒活性が 35,000g/g
固体触媒の場合、粒径が 2,000μm(2mm)の重合パウダーを得るために必要な担体の粒径は 65μm とな
る。また、触媒活性が 25,000g/g 固体触媒であれば 80μm となる。
49
図Ⅲ.2.1.1(1)②-4 触媒担体粒径と重合パウダー粒径の相関図(推定)
③パイロット重合テスト
a. 第 1 回パイロット重合テスト
平成 14 年 9 月に第 1 回パイロット重合テストを実施した。このテストの目的は、触媒及び重合プロ
セスに関して性能及び問題点を把握することであり、封印技術による既存の大粒径触媒を用いてパイ
ロット A 設備によりバルク重合及び気相重合を行った。
重合テストにはパイロットにて前重合した触媒を使用した。この前重合触媒はラボ重合により事前
に性能確認を行った。結果を表Ⅲ.2.1.1(1)③-1 に示した。平均粒径、嵩密度、触媒活性はいずれも
目標値を達成していた。σg 値は目標値を満足しなかったがラボで前重合した触媒と同等の値であり、
パイロットでの前重合はラボの前重合結果を再現した。そこでこのパイロット前処理触媒を用いてパ
イロット A 設備でバルク重合及び気相重合を行った。
表Ⅲ.2.1.1(1)③-1 パイロット前重合触媒のラボ重合結果
粒度分布(目開き単位:μm)
触媒活性
MFR
B.D.
I.I.
kg-PP/g-cat. g/10min g/cm3
%
36.7
4.5
0.51 98.5
平均
粒径
mm
2.24
σg
>2830 >1700 >1180
>850
>355
>180
>100
<100
1.3
11.1
wt%
1.7 1.5
0.0
0.0
0.0
72.8
12.8
パイロット A 設備のバルク重合テスト結果を表Ⅲ.2.1.1(1)③-2 に示す。重合パウダーの平均粒径
は目標の 2mm 以上とするに足る触媒活性であったが、重合パウダーの機械的破砕により、正確な重合
パウダーの平均粒径を出すことができなかった。また粒度分布については破砕がひどく値を求めるこ
とができなかった。嵩密度の目標未達であった。重合パウダーの破砕は「循環ポンプでの機械的破砕」
によるものと推定した。
50
目標値
表Ⅲ.2.1.1(1)③-2 パイロット A 設備バルク重合テスト結果
重合パウダー
触媒活性
B.D.
σg
平均粒径
kg-PP/g-cat.
g/cm3
mm
35,100
0.38
(1.60)
測定不可
≧20,000
≧0.40
2∼4
≦1.2
次にパイロット A 設備の気相重合テスト結果を表Ⅲ.2.1.1(1)③-3 に示す。重合パウダーの平均粒
径、幾何標準偏差σg が目標値未達であった(ラボ重合パウダーより悪化)
。気相重合においてもパウ
ダーの破砕がみられたが、この場合は粒子の削れに留まり、
「乾燥工程における機械的切削によるも
の」
と推定した。
乾燥器を出てきた重合パウダーの粒径が小さくなっていることも推定の根拠である。
触媒活性は目標値は達成しているもののバルク重合に比較してかなり低い値であった。対策としてモ
ノマー濃度を上げることが考えられるが設備の制約(ガスブロア能力不足)から困難であることを確
認した。従ってパイロット A 設備での検討継続は断念した。
表Ⅲ.2.1.1(1)③-3 パイロット A 設備気相重合テスト結果
重合パウダー
触媒活性
B.D.
平均粒径
kg-PP/g-cat.
g/cm3
mm
水準-1(触媒 A*)
23,000
0.46
1.38/1.43(**)
水準-2(触媒 B)
21,400
0.48
1.33/1.19(**)
目標値
≧20,000
≧0.40
2∼4
* バルク重合と同じ触媒
σg
1.6
1.3
≦1.2
** 1 段目重合器サンプリング品/最終品(乾燥器出)
b. 第 2 回パイロット重合テスト
平成 15 年 4 月にパイロット B 設備を用いて第 2 回重合テストを実施した。
第 1 回のテストで発覚し
た機器特有の破砕現象をすべて除外するため、第 1 回とは異なるパイロット B 設備を使用した。パイ
ロット B 設備はバルク重合器と気相重合器から構成されているが、バルク重合器がパイロット A 設備
はループ型バルク重合器であるのに対し、ベッセル型となっている。
、またパドルドライヤーを用いた
乾燥工程を流動式乾燥器に変更した。粒度分布の改善を図るため、ラボにて検討した前重合触媒の分
級操作にて調製した触媒を用いた。
触媒活性は 2.7 万 g/g-固体触媒であり、目標である 2 万 g/g-固体触媒以上を達成した。得られた
重合パウダーは、パイロット A 設備バルク重合で見られたような、機械的破砕は認められず、各指標
は以下の通りであった。
平均粒径
:2.44mm
粒度分布
:σg=1.4
形状(嵩密度)
:0.44g/cc
あらかじめ分級した触媒を用いたにもかかわらず、粒度分布の指標であるσg が未達であった(そ
の他の指標は目標を達成)
。
因みに触媒分級する前の触媒を用いて同様に行った重合で得られた重合パ
ウダーは、平均粒径 2.0mm、σg=1.4 であった。σg=1.4 の重合パウダーを 2000μm の目開きの振動
51
篩機を通した重合パウダーは、粒度分布σg=1.2 となり、目標値を全て達成する重合パウダーが得ら
れ、東芝機械(株)に成形技術開発用に供試した。
ラボの検討では触媒の分級だけでσg が 1.2 となる重合パウダーが得られたのに対し、パイロット
でσg の目標値を達成できなかった理由として以下が考えられる。
・パイロットでの触媒分級がラボの触媒分級に対して充分ではなかった。
・滞留時間分布ができないラボのバッチ重合に対し、パイロットは連続重合であり、滞留時間分
布により触媒あたりの重合量に分布ができる。
・大粒径の触媒、大粒径の重合パウダーは沈降しやすいため、パイロット B 設備バルク重合では
ベッセル型のバルク重合器でのスラリーの抜き出しが重合器下部のため、より滞留時間分布が
大きくなった可能性がある。
パイロット B 設備バルク+気相重合ではパイロット A 設備バルク重合で得られた重合パウダーのよ
うな破砕が認められなかったことから、パイロット A 設備バルク重合で得られた重合パウダーの破砕
は、推定していたように「循環ポンプでの機械的破砕」であることが検証された。
c. 第 3 回パイロット重合テスト
詳細は後述するが、第 1 回パイロット重合テストで重合パウダーの機械的破砕が生じたことから、
SPM で目標とする重合パウダーを得るためには「パウダー強度(圧縮強度)
」が高いことも重要と考え
られる。パイロットでの重合パウダーは第 1 回、第 2 回のテスト共、重合パウダーの強度が低かった
ため、原因究明を目的に第 2 回のパイロット重合テストと同様、パイロット B 設備を使用してテスト
を行った。結果は後述する。
④パウダー強度
パイロットでの重合テスト結果から、ペレット同等に扱える形状の重合パウダーを得るためには、
パウダー強度が重要であることが分かってきた。そこで、①に記載した方法で種々の重合パウダーサ
ンプルについてパウダー強度を測定した。
まず、ラボ重合パウダー、第 1 回及び第 2 回パイロット重合パウダー、更に入手した他社大粒径パ
ウダーA(*)についてパウダー強度を測定した。図Ⅲ.2.1.1(1)④-1 に測定結果を示す。横軸にパウダ
ーの粒径、縦軸にパウダー強度(単位:MPa)をプロットしている。
(*)直径 1∼4mm のポーラスな球形パウダーで、パウダー表面に安定剤を混合したミネラルオイ
ルを噴霧することにより安定剤を付着させている。もともと多岐の用途に市場展開すること
を狙っていたが、最近は主にメルトブローン(繊維)用途や BOPP 向けに限定されている
52
図Ⅲ.2.1.1(1)④-1 各種パウダー強度測定結果
ラボ重合パウダーに比べ、パイロット重合パウダーはいずれもパウダー強度が低い。また他社大粒
径パウダーA はラボ重合パウダーと同等の強度であった。4 種の傾向は、
(ラボ重合パウダー)≒(他社
大粒径パウダーA)>>(第 2 回パイロット重合パウダー)>(第 1 回パイロット重合パウダー)である。
第 2 回パイロット重合パウダーは第 1 回パイロット重合パウダーに比べて若干の強度改善が見られる
ものの、依然としてラボ重合パウダーや他社大粒径パウダーA に比べるとパウダー強度が低い。第 2
回パイロット重合テストの際、様々な工程箇所からパウダーをサンプリングしたので、それらの強度
を測定し、パウダー強度が低下する場所を究明することとした。図Ⅲ.2.1.1(1)④-2 に結果を示す。
1 段目の重合器から出てきたパウダーの強度が既に低いことが明白である。尚、パイロットで調製
した前重合触媒に関しては事前にラボ重合によりパウダー強度の確認をしており、ラボ重合パウダー
及び他社大粒径パウダーA と同等の強度であった。このことから 1 段目の重合器内でパウダー強度を
低下させる何らかの要因があることが顕在化した。
更に三井化学(株)製大粒径触媒(封印技術ベース)を用いた他社品重合パウダー(商業プラント生
産品)を入手したので、パウダー強度を測定した。ラボ重合パウダーや他社大粒径パウダーA と同等
の高い強度を有していることがわかった(図Ⅲ.2.1.1(1)④-3 参照)
。このことは、三井化学(株)製触
媒が強度の高い重合ポリマーを生成するポテンシャルを有しており、パイロット重合パウダーの強度
が低いのは、あくまでパイロット設備特有の問題であることを示唆している。
53
図Ⅲ.2.1.1(1)④-2 第 2 回パイロット重合での各工程サンプリング品のパウダー強度
図Ⅲ.2.1.1(1)④-3 他社商業プラント生産品(三井化学㈱製触媒使用)のパウダー強度
第 3 回パイロット重合テストでは、パイロットでの重合においてパウダー強度が低下する個所を特定
するために、触媒を重合器に供給する工程、重合工程、重合パウダー乾燥後の移送工程から重合パウ
ダーをサンプリングし、パウダー強度の測定を行った。
54
触媒を重合器に供給する工程
触媒供給にはプランジャーポンプを使用しており、ボールが触媒を叩く可能性があり、それにより
重合パウダーの強度低下が懸念された。そこでパイロットで前重合した触媒を触媒供給ポンプにて 4
日間循環運転させて、その前後の触媒にてラボ検定重合をおこなった。各々得られた重合パウダーの
強度を測定したところ、循環運転前後で強度に差が認められなかった。このことより、触媒供給工程
においては、重合パウダーの強度を低下させないことがわかった。ラボ検定重合結果を表Ⅲ.2.1.1(1)
④-1 に、パウダー強度の測定結果を図Ⅲ.2.1.1(1)④-4 に示す。
表Ⅲ.2.1.1(1)④-1 パイロット前重合触媒の検定重合結果(循環運転前後)
粒度分布(目開き単位:μm)
循環前
循環後
触媒活性
B.D.
kg-PP/g-cat.
36.4
34.9
g/cm3
0.50
0.50
平均
粒径
mm
2.34
2.29
σg
>2830
>1700
>1180
>850
1.3
1.3
17.0
14.1
69.4
71.4
11.6
12.7
1.6
1.4
>355
>180
>100
<100
0.4
0.5
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
wt%
図Ⅲ.2.1.1(1)④-4 前重合触媒循環のパウダー強度への影響
バルク重合工程
バルク重合に限らず重合工程においては、温度分布、モノマー濃度・触媒濃度・重合パウダー濃度
分布などがなく均一な条件になるように常に撹拌されるが、パイロット B 設備で用いられている撹拌
翼では部分的に触媒濃度分布・重合パウダー濃度分布がついてしまい、特に重合パウダーが大きく重
いために沈降速度が速くなり濃度分布が大きくなることが予想される。そこで、撹拌翼を変更してテ
ストを行ったところ、図Ⅲ.2.1.1(1)④-5 に示すように改善が見込まれると考えられる撹拌翼を採用
したことで、
重合パウダーの強度は目標とするラボ重合パウダーのは達しないもののかなり改善した。
55
このテスト結果から、撹拌条件が重合パウダーの強度に大きく影響すると考えられる。
図Ⅲ.2.1.1(1)④-5 第 3 回パイロット重合パウダーの強度
重合パウダー乾燥および乾燥後の移送工程
第 2 回のパイロット重合テストから流動乾燥装置にて重合パウダーの乾燥を行っており、流動乾燥
および乾燥後の移送工程において重合パウダーの強度低下の可能性を検証した。図Ⅲ.2.1.1(1)④-6
に示すように、流動乾燥の前後、また、乾燥後の移送工程の前後では重合パウダーの強度低下が認め
られなかった。しかしながら、いずれのパウダーの強度もラボ重合品、他社大粒径パウダーA より低
いことがわかった。
図Ⅲ.2.1.1(1)④-6 乾燥前後、移送工程でのパウダー強度変化
56
以上のように、パイロット重合パウダーの強度は依然ラボ重合品、他社大粒径パウダーA に比べて
低く、パイロット設備の改造をおこなって強度の高いパウダーが得られるプロセスの開発を行うこと
も考えられるが、図Ⅲ.2.1.1(1)④-3 に示したように、これまで使用してきた触媒(封印技術ベース)
を用いて他社で生産された重合パウダーでは、ラボ重合品相当にパウダー強度が高いことがわかり、
かつその生産プロセスと類似の工業化プロセスを当社は保有していることから、費用面も考慮しパイ
ロットの改造を行って強度の高いパウダーが得られるプロセスの開発は断念することとした。第 3 回
のテストの結果から、重合工程においてパウダー強度の低下を引き起こしていることがわかり、さら
には撹拌条件の影響が大きいことから、重合器のシミュレーションによる解析を行い検証することと
した(解析については⑤で説明)。
パウダー強度が低いと SPM プロセス内でのパウダー搬送中に破砕し、
微粉が発生する懸念があり、少なくともラボ重合パウダー相当のパウダー強度が SPM にとって必要な
性能と認識したためである。
成形の検討用に東芝機械(株)にパイロット重合設備で試作したサンプルを供試していたが、以降は
パイロット試作を中止し、パウダー強度が中試重合品より高く、やや微粉があるもののその他の性能
がほぼ同等である他社大粒径パウダーA を調達し、それをもって検討することとした。前述のように、
三井化学(株)製大粒径触媒(封印技術ベース)を用いた他社商業生産プラント生産品重合パウダーの
強度がラボ重合パウダーや他社大粒径パウダーA と同等の高いパウダー強度を有していることがわか
り、且つ次項で記すように三井化学(株)が実用化に際して採用を想定している重合プロセスではラボ
重合パウダーや他社大粒径重合パウダーA 相当のパウダー強度が得られるであろうことをシミュレー
ション解析で検証できている。従って東芝機械(株)での検討用に供試した他社大粒径パウダーは、三
井化学(株)技術にて工業化した場合に得られるであろう重合パウダーに比べてやや微粉があるものの、
その他の性能がほぼ同等であると言えるため、それを用いて検討することは妥当と判断した。
⑤CAE シミュレーションによるパイロット重合パウダーのパウダー強度低下原因解析
重合パウダーの破砕により微粉が発生し、その微粉が充分な剪断が得られず融解しない(ブレーク
アップ現象*)と、フィルム製膜時に気泡によるフィッシュアイ(FE)の原因となるものと考えられる。
そこで、重合パウダーが破砕しない、さらにはパウダー強度が高く微粉化しにくい重合技術の開発を
行う必要がある。実際、パイロット重合テストで得られた重合パウダーは、パウダー強度が低かった
ために、押出機内などでのパウダー崩壊に起因する微粉の生成により、フィルム成形時に気泡が発生
することが確認されている。
(表Ⅲ2.1.1(1)⑤-1 参照)
*ブレークアップ現象
押出機内に投入された樹脂は、スクリュー供給部の終わり付近から溶融を始め、計量部入り
口で完全溶融するのが理想であるが、溶融が 40∼70%進行した時点でソリッドベッド(未溶融樹
脂の塊)の破壊が発生し、破壊により分離された未溶融樹脂が溶融樹脂中を浮遊する状態(結
晶性樹脂に顕著に発生する現象)のこと。(図Ⅲ.2.1.1(1)⑤-1 参照)
ブレークアップ現象により、BOPP フィルムの製膜において、以下の不具合が起きる可能性が
ある。
・浮遊する未溶融樹脂には剪断がかからず溶融が遅れ、未溶融状態の樹脂が BOPP フィルム
内に流出しフィッシュアイになる。
・未溶融樹脂中に抱きこまれたエアは逃げ場を失い、BOPP フィルムで気泡となる
57
表Ⅲ.2.1.1(1)⑤-1 BOPP フィルムでのフィッシュアイ測定結果
フィッシュアイカウント
平均粒径
試料 No.
重合場所
(mm)
Total
a(*)
b(*)
c(*)
1
本プラント
2.90
28
0
1
27
2(**)
パイロット
1.50
187
70
44
73
3
本プラント
0.64
230
35
88
207
4
本プラント
0.29
307
15
30
262
* a:大(2.0mm 以上)
b:中(1.5∼2.0mm)
c:小(0.5∼1.5mm) 個数は 1000m 換算
気泡数
0
2
3
9
** 粒径 2mm でのパウダー強度:6MPa
<二軸延伸フィルム成形機>
押出機:60mmφ単軸機(脱気なし)
延伸機:テンター式二軸延伸機
<二軸延伸フィルム成形条件>
キャスト温度 :30/30℃(チルロール/バス)
スクリュ回転数:160rpm
チルロール速度:5m/min.
延伸倍率
:5×10 倍
<フィッシュアイ測定法>
フィッシュアイ検知器により測定、
その中から無作為に選択した 10 点から気泡数を顕微鏡に
て観察
図Ⅲ.2.1.1(1)⑤-1 ブレークアップ現象
パイロット重合パウダーのパウダー強度が目標とするラボ重合品に達しなかったため、強度低下を
もたらした原因を解析し、重合器内の攪拌による剪断が原因と推定した。更に、その推定を検証すべ
58
く重合器内のシミュレーションを行い、流体のみでの剪断応力並びに重合パウダーの濃度分布を考慮
した剪断応力を評価した。評価の対象はパイロットプラントの重合器、ラボ重合器および現在想定し
ている本プラント重合器の 3 種類の重合器である。
シミュレーションは以下の手法により行った。
ソフトウェア:汎用流体解析ソフト“RFLOW”
手法
:有限差分法,3次元非定常解析
乱流モデル :等方 k-εモデル
混相流モデル:二流体モデル
シミュレーションでは、まずは重合パウダーを無視して流体のみの剪断応力分布を求め、重合パウ
ダーの濃度分布を考慮した形で剪断応力分布を計算することにした。パイロットプラントの重合器、
および現在想定している本プラントの重合器の形状は社外秘であり、ここではラボ重合器での解析結
果を示し、3 種類の重合器での相対的な剪断応力の評価結果のみを示す。
a. ラボ重合器での解析
ラボではバッチ重合による検討をしており、バッチ重合では重合の進行に伴って液レベル、スラリ
ー濃度等が変化する。そのような変化を考慮しながら重合開始から終了までの時々刻々の流動状態を
シミュレーションするのは容易ではなく、また膨大な計算時間を要する。そこで、本検討では重合開
始時および重合完了時の 2 つの状態についてそれぞれシミュレーションをおこなうこととした。シミ
ュレーション条件を表Ⅲ.2.1.1(1)⑤-2 に示す(プロピレン 500g 仕込み、PP 250g 生成条件)
。ここ
では粒子の存在を直接考慮したシミュレーションは行わないが、スラリー濃度見合いの密度、粘度を
用いることで粒子の存在が流動に及ぼす影響を考慮している。
重合開始時
重合完了時
表Ⅲ.2.1.1(1)⑤-2 シミュレーション条件
物性値
回転数
スラリー濃度
3
(rpm)
(wt%)
スラリー密度(kg/m )
スラリー粘度(Pa・s)
400
0.0
400.0
0.000073
400
50.0
650.0
0.000441
RFLOW で用いた形状モデルを図Ⅲ.2.1.1(1)⑤-2 に示す。
59
図Ⅲ.2.1.1(1)⑤-2 形状モデル(左:3 次元表示、右:2 次元表示)
重合開始時の重合器内のフローパターン(中心軸を通る 2 次元断面および水平断面)を図
Ⅲ.2.1.1(1)⑤-3 に示す。槽内のいたるところで流速が 1 m/s 程度以上あることから、槽内の攪拌状
態は良好であるといえる。ただし、バッフルがないために上下流は強くなく、旋回流が卓越した流れ
になっている。
60
図Ⅲ.2.1.1(1)⑤-3 重合開始時の重合器内フローパターン(左:翼通過断面、右:TL 面)
次に、重合器内の流体の剪断応力分布を図Ⅲ.2.1.1(1)⑤-4 に示す。攪拌翼先端近傍およびサーモ
ウェル近傍でのみ剪断応力が大きくなっていることがわかる。ただし、最大剪断応力は約 76 N/m2 で
あり、中試重合器や想定される本プラント重合器のそれに比べるとはるかに小さい。また、重合器内
の平均剪断応力も 7.1 N/m2 と非常に小さい。
61
せん断応力 [N/ m2 ]
図Ⅲ.2.1.1(1)⑤-4 重合器内の流体の剪断応力分布図(重合開始時)
(上段左:翼通過断面、上段右:翼と直交する垂直断面、下段:TL 面)
62
重合完了時の重合器内のフローパターン(中心軸を通る 2 次元断面上および水平断面)を図
Ⅲ.2.1.1(1)⑤-5 に示す。フローパターンは概ね重合開始時と同じであることがわかる。
1.885 m/s
1.885 m/s
速度 [m/s]
図Ⅲ.2.1.1(1)⑤-5 重合完了時の重合器内のフローパターン(左:翼通過断面、右:TL 面)
次に、重合器内の流体の剪断応力分布を図Ⅲ.2.1.1(1)⑤-6 に示す。重合完了時には重合開始時に
比べて剪断応力が大きくなっていることがわかる。これは、重合完了時にはスラリー濃度の上昇に伴
ってスラリー粘度が増加しているためである。重合器内の最大剪断応力は 123 N/m2 であり、平均剪断
応力は 12.2 N/m2 である。
63
せん断応力 [N/ m2 ]
図Ⅲ.2.1.1(1)⑤-6 重合器内の流体の剪断応力分布図(重合完了時)
(上段左:翼通過断面、上段右:翼と直交する垂直断面、下段:TL 面)
b. 各重合器の比較
ここでパイロット重合器(第 1 重合器、第 2 重合器)
、想定される本プラント重合器(第 1 ループ、
第 2 ループ)およびラボ(重合開始時,重合完了時)の各重合器について、重合器内全体での剪断応
力の(体積基準)累積頻度分布および平均剪断応力を比較する。累積頻度分布を図Ⅲ.2.1.1(1)⑤-7
に示し、平均値を図Ⅲ.2.1.1(1)⑤-8 に示す。想定される本プラント重合器やラボ重合器に比べてパ
イロット重合器では格段に大きな剪断応力がかかっていることがわかる。製品サンプルの測定によっ
64
て、パウダー強度は、
《想定される本プラント重合器>ラボ重合器>パイロット重合器》であることが
わかっているが、誤差も考慮した本シミュレーションによる剪断応力の推算値は《ラボ重合器≦想定
される本プラント重合器<パイロット重合器》であるので、パウダー強度と剪断応力の間には相関が
あることが示された。
図Ⅲ.2.1.1(1)⑤-7 累積頻度分布
70.0
2
平均せん断応力 [N/m ]
60.0
50.0
40.0
30.0
20.0
10.0
0.0
パイロット パイロット
第1重合器 第2重合器
本プラント 本プラント
第1ループ 第2ル-プ
ラボ重合
開始時
ラボ重合
完了時
図Ⅲ.2.1.1(1)⑤-8 平均剪断応力
c. 重合パウダー濃度分布を考慮した解析
次に、重合パウダーの濃度分布を考慮した剪断応力分布(≒パウダーに作用する剪断応力)のシミ
ュレーションをおこなった。
65
ここでは考慮した重合パウダーの粒度分布のみを表Ⅲ.2.1.1(1)⑤-3 に記す
表Ⅲ.2.1.1(1)⑤-3 重合パウダーの粒度分布
パイロット
粒径 [μm]
>4750
>2830
>1700
>1180
>850
>355
>180
>100
<100
槽内体積割合 [%]
0.000
0.003
0.193
0.187
0.050
0.009
0.000
0.000
0.000
粒径 [μm]
>2830
>1700
>1180
>850
>355
>180
>100
<100
槽内体積割合 [%]
1.08
17.40
12.05
2.32
0.81
0.00
0.00
0.00
粒径 [μm]
>3350
>2800
>1700
>1180
>355
>180
>106
<106
槽内体積割合 [%]
1.23
2.89
20.00
5.29
1.26
0.03
0.00
0.06
本プラント
ラボ
重合パウダーを考慮した剪断応力の(体積基準)累積頻度分布を図Ⅲ.2.1.1(1)⑤-9 に示す。重合
パウダー濃度を考慮する前の序列と変動はなく、想定される本プラント重合器やラボ重合器に比べて
パウタ ゙ー濃度分布を考慮した
累積頻度 [-]
パイロット重合器では大きな剪断応力がかかっていることがわかる。
1
0.8
0.6
0.4
Pilot
Plant
0.2
Lab.
0
0
50
100
150
200
250
300
剪断応力 [N/m 2 ]
図Ⅲ.2.1.1(1)⑤-9 重合パウダーを考慮した剪断応力の累積頻度分布
d. まとめ
以上より、パイロット重合器でのパウダー強度低下原因は、重合器内の剪断応力であると判断でき、
さらに、想定される本プラント重合器での剪断応力がパイロット重合器でのそれと比較して十分小さ
いことから、想定プロセスではパウダー強度低下の懸念がないものと判断する。
66
⑥重合パウダーモルフォロジーの制御技術
SPM プロジェクトでは、ペレットと同等に扱うことができる粒子特性を有する重合パウダーを開発
することが最終目標である。ここで述べる粒子特性とは、粒子径・粒子径分布・粒子形状・粒子内密
度・嵩密度を示し、プロピレン重合∼パウダーへの安定剤添加∼フィルム成形技術に至るまでの全工
程で重要になる因子と考えられ、
その制御技術を確立することが最終目標に到達する上で必要である。
ラボレベルでの粒子特性制御因子を把握すること(現状ではそれらの因子の重要度が明確化されてい
ない)および、制御技術を確立することを目標に検討を行った。
a. ラボ検討
この技術検討の目的は、担体・触媒・重合パウダーが相似的成長を遂げることから、出発原料であ
る担体の粒子特性を制御し、重合パウダーのモルフォロジーへの影響を把握することである。以下、
より具体的な検討法を記す。
まず、出発原料である担体の主成分である塩化マグネシウムとエタノールのモル比(n 値
=EtOH(mol)/Mg(mol)、以後 n 値と呼ぶ)を制御し担体の粒子内密度を調べた。n 値の制御幅としては、
1.5∼2.9 であった。調製方法としては、デカンに懸濁された担体を濾過後、ヘキサン洗浄し、室温下
で減圧乾燥を行う。得られた担体を窒素雰囲気下、枝付き丸底フラスコに所定量添加した後、エバポ
レーターを用いた減圧下、オイルバス(80℃)で加熱しながら担体中のエタノールを除去していく。
脱エタノール量に関しては、時間(0∼120 分)で制御した。目的の脱アルコール量に達したところで、
窒素を用いて常圧・常温状態に戻し調製担体を確保した。脱エタノール量などの担体組成に関して、
塩化マグネシウムはICP分析、
エタノールはGC分析を行いn値の決定を行った。
結果を表Ⅲ.2.1.1.(1)
⑥-1 に記す。水準 1∼5 の温度と時間の制御で担体中のエタノール量が変化することがわかった。次
にこのようにして得られた担体粒子の細孔分布と比表面積を調べた。
表Ⅲ.2.1.1(1)⑥-1 脱エタノール処理した担体の組成及び n 値一覧
処理温度 処理時間
Mg
EtOH
H2O
n 値(EtOH/Mg)
℃
分
wt%
wt%
wt%
モル比
水準 1(標準)
−
−
10.5
58
0.6
2.9
水準 2
80
40
11.4
56
0.6
2.6
水準 3
80
60
12.3
52
0.6
2.2
水準 4
80
110
12.7
51
0.6
2.1
水準 5
80
120
14.9
42
0.7
1.5
水銀ポロシメータを用いて担体の細孔分布を則例した結果を図Ⅲ.2.1.1.(1)⑥-1 に示す。水準 1 に
対して水準 5 では粒子内空隙量が大幅に増加していることがわかった。具体的な数値としては、水準
1:590mm3/g に対して水準 5 は、1450mm3/g と 2 倍強の空隙量を有することがわかった。
67
図Ⅲ.2.1.1(1)⑥-1 担体の細孔分布測定結果
次に自動比表面積計を用いて担体の比表面積を測定した結果を表Ⅲ.2.1.1.(1)⑥-2 に示す。細孔分
布結果と同様に n 値の減少に伴い比表面積は増大し、水準 1 に対して水準 5 では、2 倍程度の比表面
積を有する担体に変化していた。このように、脱アルコールを行うことにより担体の細孔容積や比表
面積を制御可能であることがわかった。
表Ⅲ.2.1.1(1)⑥-2 担体の比表面積測定結果
n 値(EtOH/Mg)
BET 表面積値
モル比
(m2/g)
水準 1(標準)
2.9
6.28
水準 2
2.6
−
水準 3
2.2
7.39
水準 4
2.1
−
水準 5
1.5
12.3
次に、脱アルコール処理を促した種々の担体を用いて①記載の触媒調製法を基に触媒を合成した。
各触媒の組成分析結果を表Ⅲ.2.1.1.(1)⑥-3 に記す。
68
水準 1(標準)
水準 2
水準 3
水準 4
水準 5
表Ⅲ.2.1.1(1)⑥-3 触媒組成分析結果
Ti
Mg
DIBP
(mg/g-cat)
23
190
78
22
190
74
21
200
85
23
190
30
23
200
51
EtOH 残基
3
3
3
2
2
水銀ポロシメータを用いて触媒の細孔分布を調べた結果を図Ⅲ.2.1.1.(1)⑥-2 に示す。担体と同様
に n 値の減少に伴い粒子内空隙量が増加していることがわかった。具体的な数値としては、水準 1:
820mm3/g に対して水準 3:1670mm3/g、水準 5:1970mm3/g と増加率は担体の場合と同じであるが、担体
に比べて 30∼40%高い空隙量を有することがわかった。これは四塩化チタンにより担体中からエタノ
ールが引き抜かれたことにより空隙率が増加しているものと考えられる。
図Ⅲ.2.1.1(1)⑥-2 触媒の細孔分布測定結果
次に、上記で調製した触媒を用いてプロピレンを重合した結果を表Ⅲ.2.1.1.(1)⑥-4 に示す。重合
活性及び立体規則性は、n 値が下がるにつれ低下する傾向が見られた。嵩密度に関しては、n 値が 2.9
の時、0.49(g/ml)であったものが、n 値の減少と伴に低下し、n 値が 1.5 で 0.35(g/ml)となることが
わかった。
走査電子顕微鏡で観察したパウダー粒子でも粒子内密度が n 値の変動と伴に変化しており、
粒子内密度が嵩密度に大きく影響していることがわかる。
(図Ⅲ.2.1.1.(1)⑥-3)
69
表Ⅲ.2.1.1(1)⑥-4 重合結果
触媒活性
B.D.
MFR
3
g/cm
g/10min.
kg-PP/g-cat
水準 1(標準)
36.2
0.49
6.3
水準 2
41.8
0.47
6.0
水準 3
33.7
0.45
7.4
水準 4
24.6
0.41
12
水準 5
17.9
0.35
18
水準 1
水準 3
I.I.
%
97.9
97.8
97.3
95.8
93.4
パウダー粒径
mm
1.5
1.6
1.6
1.4
1.2
水準 5
図Ⅲ.2.1.1(1)⑥-3 走査電子顕微鏡で観察した重合パウダー粒子断面
水準 1,3,5 の重合パウダーについてパウダー強度を測定した。図Ⅲ.2.1.1.(1)⑥-4 に、同一粒径の
パウダーを用いて測定した時の負荷力(stress(単位は(N)
))と変位(strain(単位は(mm)))のグラ
フを示す。水準 1 と水準 3 のサンプルでは圧壊点(※)が見られたが水準 5 では確認されなかった。但
し、水準 5 のサンプル粒子は 10∼20N程度の負荷ですでに崩壊していることを目視で確認した。また
図中の(負荷力)/(変位)の傾きを見た場合、粒子の空隙が多く存在する場合(担体の n 値を下げ
ることで空隙量が多くなる)は傾きが小さくなる傾向を確認できる。これは、粒子内空隙が圧縮に対
して緩和効果をもたらし粒子に掛かる負荷力を逃散させていると考えられる。この現象は、製膜時の
押出機内で起こりえるブレークアップ現象を抑制できる可能性、あるいは工業的観点からサイロ充填
時、下部に溜まったパウダーが上部のパウダー荷重に耐えられず破砕することをエネルギー吸収で抑
制できる可能性を秘めており、ラボ技術のみでなくスケールアップ技術の確立が必要である。
(※)圧壊点…圧縮時、
粒子に亀裂が入り負荷力と変位のプロット図で上降伏部が現れた点を定義する。
70
図Ⅲ.2.1.1(1)⑥-4 負荷力(stress)と変位(strain)のグラフ
以上のように、担体を熱処理する脱アルコール化技術により、n 値を制御し且つ、粒子特性因子で
ある嵩密度、粒子強度、粒子内密度を制御できることをラボレベルで開発した。
b. パイロット検討
ラボの検討結果を受けて、プラント化する際のスケールアップのためのデータ採取、ならびに大量
合成して粒子特性因子の制御性を確認することを目的に、プラント化を見据えたパイロットスケール
の担体乾燥設備を導入し、
実際に担体中のアルコール量をコントロールする技術の開発をおこなった。
図Ⅲ.2.1.1.(1)⑥-5 に、実際に導入したパイロットスケールでの中試担体乾燥設備のフローを示し
た。脱アルコール担体の調製は乾燥時の温度と真空度により制御した。調製条件及び得られた担体の
組成を表Ⅲ.2.1.1.(1)⑥-5 に示した。
上記パイロット調製担体を用いて、触媒合成ならびに本重合をラボで実施した。その結果を表
Ⅲ.2.1.1.(1)⑥-6 に示す。
71
図Ⅲ.2.1.1(1)⑥-5 パイロット担体乾燥設備フロー
表.2.1.1(1)⑥-5 触媒担体調製条件及び組成
脱エタノール工程条件
担体の組成
担体量
温度
時間
Mg
C2H5OH
H2O
(kg)
(℃)
(分)
(wt%)
(wt%)
(wt%)
11.1
57
0.6
10
70
120
11.8
54
0.5
10
80
120
12.3
51
0.6
10
80
180
14.4
42
0.6
比較例
水準⑥
水準⑦
水準⑧
n値
(-)
2.7
2.4
2.2
1.5
表Ⅲ.2.1.1(1)⑥-6 プロピレンラボ重合結果
n値
(EtOH/MgCl2)
(m.r)
触媒活性
B.D
MFR
(Kg-PP/g-cat) (g/ml) (g/10min)
I.I.
パウダー
粒径
粒度分布(篩目開き単位:μm)
(%)
(mm)
>2830 >1700 >1180 >850 >355 >180 >100 <100
(重量%)
比較例
2.7
38.8
0.48
5.1
98.3
2.1
13.4
65.0
17.2
3.5
0.6
0.1
0.1
0.0
水準⑥
2.4
37.4
0.46
4.3
98.2
1.9
1.7
59.7
22.8
8.4
5.7
1.1
0.4
0.1
水準⑦
2.2
32.0
0.46
3.3
98.3
1.8
1.1
56.3
28.4
8.4
4.8
0.7
0.3
0.1
水準⑧
1.5
20.1
0.38
10.5
95.8
1.7
1.6
51.3
38.2
6.3
2.0
0.3
0.1
0.1
表Ⅲ.2.1.1.(1)⑥-6 記載の各重合パウダーの強度分析を実施した。図Ⅲ.2.1.1(1)⑥-6 に示すよう
にパウダー強度は、脱アルコール前の担体を用いた触媒での重合パウダーと比較していずれも同等レ
ベルであった。次に、圧縮弾性率を評価した。この指標値は、<(負荷力)/(変位)の傾き>を定
義化したものである。算出式は、
(圧縮弾性率)=(粒子強度)/{歪(変形量)/(粒子径)
}であり、
値が小さい程、緩和効果が大きく粒子に掛かる負荷力を逃散させられることを意味している。図
Ⅲ.2.1.1.(1)⑥-7 から、n 値を下げることで圧縮弾性率が下がっていることがわかる。つまり、パイ
ロット担体乾燥設備で調製した担体でもラボ検討品と同じく粒子内空隙を制御することが可能である
ことがわかった。
以上まとめると、導入したパイロットスケールでの担体乾燥設備を用いることで、脱アルコールに
72
よる n 値の制御ならびに重合パウダーのモルフォロジー制御ができることがわかった。
図Ⅲ.2.1.1(1)⑥-6 パウダー強度比較結果
図Ⅲ.2.1.1(1)⑥-7 重合パウダーの圧縮弾性率比較結果
パイロットでできる重合パウダーはパウダー強度が低いことが判明したが、これまでにパイロット
で試作した重合パウダーは(負荷力)/(変位)の傾きがラボ品等と同等であった。一方、重合パウ
ダーが吸収できるエネルギーは圧壊点までの負荷力x変位の積分値で表される。パウダー強度が同じ
場合、
(負荷力)/(変位)の傾きが小さい、すなわち圧縮弾性率が低ければ、重合パウダーが吸収で
きるエネルギーは大きくなる。
73
重合パウダーやペレットは通常サイロに貯蔵されるが、サイロ下部のポリマーは上部に溜まったポ
リマーの荷重に耐える必要があり、耐えられない場合破砕してしまう可能性がある。その場合、強度
も重要であるが吸収でき得るエネルギーが大きくなくてはいけない。また、SPM のコンセプト外では
あるが、重合パウダーを紙袋に充填し、何段かに重ねられて保管、輸送することを想定すると、ここ
でも吸収でき得るエネルギーが大きくなくてはいけない。
⑦大粒径パウダー用触媒技術の調査、基礎研究(東京農工大、豊田研究室への再委託研究)
触媒一次粒子の分散や触媒の強度が重合パウダー粒子性状(粒度、粒度分布、強度)に与える影響
に関する基礎研究として、粒度制御されたシリカやポリマーを分散担体とする塩化マグネシウム担持
型チタン触媒の合成研究を行い、シリカやポリマーを利用した大粒径パウダー用触媒開発の可能性を
探ること、また、大粒径触媒パウダー用触媒技術に関する近年の論文を整理し、今後の技術開発の考
え方構築の一助とすることを目標に、三井化学(株)から東京農工大豊田研究室に再委託した。本テー
マについては平成 14 年度に実施した。得られた成果を以下に要約する。
a. シリカゲル/塩化マグネシウム担持型 Ti 触媒に関する研究
平均粒径が約 10μm、30μm の 2 種類のシリカゲル/塩化マグネシウム担持型 Ti 触媒を合成した。こ
れらの触媒を用いて、
重合時間の調節により異なるポリマー収量の PP パウダーを合成した。
担体粒子、
触媒粒子、PP パウダーに対して、粒度分布測定、光学顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡観察、透過型電
子顕微鏡観察、及び XMA 解析を行い、シリカゲル/塩化マグネシウム担持型 Ti 触媒を用いて得られる
PP パウダーの粒度制御の可能性について検討した。粒度分布測定により得られた PP パウダーの平均
粒径と、PP が触媒一次粒子の周りに均一に成長していくと仮定して得られる PP パウダーの平均粒径
計算値との比較から、触媒粒径が大きくなると、若干の粒子崩壊が生じるものの、PP パウダーは触媒
粒径を反映し成長することがわかった。光学顕微鏡観察からは、担体粒子、触媒粒子及び PP パウダー
が相似形になることがわかった。透過型顕微鏡観察からは、PP パウダーが触媒一次粒子の周りで均一
に成長していることがわかった。このことから、シリカゲル/塩化マグネシウム担持型 Ti 触媒を用い
て得られる PP パウダーの粒度制御の可能性が示唆された。
b. ポリマー/塩化マグネシウム担持型 Ti 触媒を用いた PP 粒子合成による大粒径触媒技術の検討
エチレン・アクリル酸共重合体を担体として用いて、ポリマー/塩化マグネシウム担持型 Ti 触媒を
合成した。この触媒を用いて、プロピレンスラリー重合により PP パウダーを合成した。a.と同様の方
法で PP 粒子の粒度制御の可能性について検討した。光学顕微鏡観察からは、担体粒子、触媒粒子及び
PP パウダーは相似形にならないことがわかった。このことから、本研究で行った触媒合成法で合成し
たポリマー/塩化マグネシウム担持型Ti触媒を用いて得られるPPパウダーの粒度制御は困難であると
判断した。
c. 大粒径パウダー用触媒技術に関する調査研究
調査した論文からは、大粒径パウダー用触媒技術としては、粒度の良好な大粒径担体を用いた触媒
を合成し、前重合(予備重合)条件を精緻に設定することがキーであると結論される。
74
⑧重合パウダーの性状が BOPP フィルムのフィッシュアイに及ぼす影響
重合パウダー性状が BOPP フィルムのフィッシュアイ(FE)発生に及ぼす影響を確認するため、東芝
機械(株)と共同で、製膜テストを実施した。これらの製膜テストは、東芝機械の SPM 用二軸押出機の
開発プログラムと並行して行われたため、全てのテストが同じ押出システムによって試験できている
わけではないが、重合パウダーの粒径及び粒度分布の影響を把握することを主眼に行った。押出機の
機種差が BOPP フィルムの製膜に与える影響に関しては、
「2.1.3 成形技術の開発」に記すこととし、
ここでは重合パウダーの性状及び材料の形態の影響のみを報告することとする。
なおこの評価では、フィルム原反(約 0.8mm 厚)を押出成形し、そのフィルム原反をオフラインの
二軸延伸装置(タテ約 5 倍延伸、ヨコ約 7.5 倍延伸)にかけて評価用 BOPP フィルムサンプル(約 18
μm 厚)を成形し、FE カウンターにて FE 数をカウントした。また各水準任意に抽出した 20 個の FE
の FE 原因物質を解析し、原因物質が特定できなかったものを気泡数とした。
a. 重合パウダー粒径の影響
表Ⅲ.2.1.1(1)⑧-1 に示す材料により評価を行った結果を表Ⅲ.2.1.1(1)⑧-2 に示す。
二軸押出機を
原反製膜機として使用する場合、単軸押出機の場合とは異なり、大粒径パウダーA、小粒径パウダーA
とも、気泡の発生はペレットと同程度であることが明らかとなった。
材料
大粒径パウダーA
小粒径パウダーA
ペレット A(F122)
表Ⅲ.2.1.1(1)⑧-1 試験材料
MFR
平均粒径
嵩密度
(g/10min)
(mm)
(g/cm3)
2.0
0.43
2.5
2.0
0.49
0.6
2.0
0.57
2.9
備考
添加剤ドライブレンド
添加剤ドライブレンド
基準材料
表Ⅲ.2.1.1(1)⑧-2 FE 原因解析結果
材料
気泡数(*)
ペレット A (F122)
1
大粒径パウダーA
3
小粒径パウダーA
1
* 各サンプルから任意の FE20 個を採取し、顕微鏡で観察
b. 微紛混入の影響
表Ⅲ.2.1.1(1)⑧-3 に示す材料により評価を行った結果を表Ⅲ.2.1.1(1)⑧-4 に示す。
・大粒径パウダー、小粒径パウダーとも、気泡数ともペレット(F122)同等レベルである。
・二軸押出機を原反製膜機とする場合、微粉の有無は気泡の発生に影響を与えない。
・気泡数が何れの材料系も同等であることから、FE 数の差は異物の混入、フィルム表面の傷などに
よるものであることが明らかとなった。
・小粒径パウダーA に MB を 10%添加した場合でも、添加剤をドライブレンドした場合と気泡数は同
等のレベルである。MB はペレットであることから、小粒径パウダーにリプロ(再生品)をペレッ
トとして添加する場合には、少なくとも 10wt%の添加は可能である。
75
名称
表Ⅲ.2.1.1(1)⑧-3 試験材料
材料
粒径(mm)
添加剤
ペレット A(F122)
2.9
練り込み
大粒径パウダーA
2.5
ドライブレンド
大粒径パウダーB
2.0(微粉あり)
ドライブレンド
大粒径パウダーC
1.8(微粉あり)
ドライブレンド
小粒径パウダーA
0.6
ドライブレンド
MB(*)添加
他社大粒径パウダーA
2.5
添着
(*)添加剤濃度 10 倍
表Ⅲ.2.1.1(1)⑧-4 FE 数、FE 原因解析結果
材料
FE 数
名称
粒径(mm)
添加剤
67
ペレット A(F122)
2.9
練り込み
8
5
115
大粒径パウダーA
2.5
ドライブレンド
65
大粒径パウダーB
2.0(微粉あり)
ドライブレンド
45
大粒径パウダーC
1.8(微粉あり)
ドライブレンド
28
ドライブレンド
79
小粒径パウダーA
0.6
2
MB(*)添加
8
他社大粒径パウダーA
2.5
添着
5
* 1000m 換算
気泡数
0
2
0
1
0
1
1
2
1
1
1
c. フラフ添加の影響
BOPP フィルムの生産には、フラフ(*)の添加は不可欠である。
上述したようにリプロをペレットとして添加する場合は、BOPP フィルムの気泡発生に影響を与えな
いことが明らかとなったが、リプロをフラフとして添加する場合の影響に関して、表Ⅲ.2.1.1(1)⑧-5
に示す材料で評価を行った。この材料系は、即ち BOPP フィルムを製膜する際のコア層用材料を想定し
たものである。
*フラフ:延伸後のフィルムの両端部で、製品とならずカット後粉砕され原料としてリサイクル
使用される。
評価結果を表Ⅲ.2.1.1(1)⑧-6 に示す。大粒径パウダー、小粒径パウダーとも、フラフを添加した
場合でも、FE 及び気泡の発生数は、ペレットと同様であることが明らかとなった。
76
配合比率
表Ⅲ.2.1.1(1)⑧-5 試験材料
平均
PP+MB+フラフ
MFR
嵩密度
粒径
添加剤形態
(コア層用原料)
g/10min
g/cm3
mm
ペレット A (F122)
2.0
0.57
2.9
練り込み
他社大粒径パウダーA
3.0
0.46
2.5
Adipol 法
小粒径パウダーA
2.0
0.49
0.6
添加剤 MB-A
5.5
0.57
−
耐熱安定剤
フラフ(*)
3.0
0.18∼0.28
−
大粒径パウダー/フラフ=90/10
備考
汎用 BOPP 銘柄
F122 の原料パウダー
濃度 10 倍
BOPP の耳粉砕品
小粒径パウダー/MB=90/10
小粒径パウダー/MB/フラフ=81/9/10
* 嵩密度が低く、ばらつきが大きいため、計量精度はペレットの 1/10 程度と不良である。
表Ⅲ.2.1.1(1)⑧-6 FE 評価結果
試験材料
FE 数(*)
ペレット A(F122)
7
他社大粒径パウダーA
6
他社大粒径パウダーA+フラフ
2
小粒径パウダーA+MB-A
2
小粒径パウダーA+MB-A+フラフ
0
*1000m 換算
気泡数
0
3
1
0
2
また製膜した BOPP フィルムの物性試験結果を表Ⅲ.2.1.1(1)⑧-7 に示す。
BOPP フィルムの厚薄精度
を厳密に管理した試験ではないことから、
サンプル間に測定値の若干のばらつきはあるが、
ペレット、
大粒径パウダー、小粒径パウダーで、材料形態の違いによる物性の差はないものと判断できる範囲と
考える。
表Ⅲ.2.1.1(1)⑧-7 BOPP フィルム物性試験結果
押出量
回転
速度
Q
kg/h
Ns
min-1
試験原料
ペレット A (F122)
引張
破断強さ
MD
TD
引張
破断伸び
初期弾性率
MD
MD
MPa
TD
%
TD
MPa
157
302
99
26
3052
6279
154
315
99
23
3149
6224
他社大粒径パウダーA+フラフ
157
299
101
26
2991
5578
小粒径パウダーA+MB-A
147
286
97
27
3157
5541
ペレット A (F122)
155
285
97
32
3223
5258
164
303
100
26
3158
5365
162
306
113
27
3100
5498
163
325
102
22
3173
5688
他社大粒径パウダーA
200
268
他社大粒径パウダーA
他社大粒径パウダーA+フラフ
250
335
小粒径パウダーA+MB-A
77
d. アンチブロッキング剤の影響
多層の BOPP フィルムのスキン層を SPM 化することを想定し、
アンチブロッキング(AB)剤を添加した
材料系の評価を行った。評価材料を表Ⅲ.2.1.1(1)⑧-8 に示す。
なお通常の BOPP フィルムの生産では、スキン層にフラフを添加することはないが、本評価では、ア
ンチブロッキング剤を添加することによる FE 発生の影響を前項 c.と比較するため、また後述するフ
ィルムメーカー生産機を活用した実機製膜テストの実施を念頭にフラフを添加して行った。
またフラフを押し固めたミルドペレットを添加した水準も併せて評価した。
結果を表Ⅲ.2.1.1(1)⑧-9
に示す。大粒径および小粒径パウダ−の何れも気泡の発生は無く、また FE 数もペレットと同程度であ
ることから、AB 剤の分散にも問題がないことが明らかとなった。
MFR
PP+アンチブロッキング剤 MB
(スキン層用原料) g/10min
ペレット B (F113G)
3.0
他社大粒径パウダーA
3.0
小粒径パウダーB
3.0
添加剤 MB-B
5.5
表Ⅲ.2.1.1(1)⑧-8 評価材料
嵩密度
平均粒径
添加剤形態
備考
g/cm3
mm
0.57
2.9
練り込み
汎用 BOPP 銘柄
0.46
2.5
Adipol 法
0.49
0.8
F113G の原料パウダー
耐熱安定剤 MB+
0.57
−
アンチブロッキング剤 MB
0.18∼0.28
−
BOPP の耳粉砕品
0.34∼0.39
−
フラフを押し固めた
配合比率
フラフ
3.0
ミルドペレット
3.0
大粒径パウダー/MB=90/10
大粒径パウダー/MB/フラフ=81/9/10
小粒径パウダー/MB=90/10
小粒径パウダー/MB/フラフ=81/9/10
表Ⅲ.2.1.1(1)⑧-9 FE 評価結果
気
押出量 回転速度 FE
(*) 泡
試験原料
Q
Ns
-1
個
kg/h
min
ペレット B(F113G)
200
268
2
0
他社大粒径パウダー
0
200
268
12
A+MB-B
小粒径パウダー B+MB-B
200
268
8
0
*1000m 換算
e. まとめ
重合パウダーの性状が FE の発生に与える影響を評価し、以下の事柄が明らかとなった。
・二軸押出機を原反製膜機として使用する場合、単軸押出機の場合とは異なり、大粒径パウダー、
小粒径パウダーとも、気泡の発生はペレットと同程度である。
・二軸押出機を原反製膜機とする場合、微粉の有無は気泡の発生に影響を与えない。
・大粒径パウダー、小粒径パウダーとも、フラフを 10wt%添加した場合でも、FE 及び気泡の発生数
は、ペレットと同様である。
78
・パウダーに AB 剤を添加した場合でも、FE 気泡の発生はペレットと同程度であり、パウダー製膜
でも、AB 剤の添加が可能である。
79
(2)高速延伸対応技術の開発
(2)高速延伸対応技術の開発
フィルム用途 PP の SPM は PP 製造プラントの隣接地でフィルムを成形することにより、PP パウダー
をペレット化する工程とペレット輸送工程を省略することを目指している。ペレット化工程の省略に
加えペレット輸送工程も省略することで、省エネ効果の増大とともにコストダウンも可能となり、SPM
技術の普及の観点から有効であると考えた。また、例えば BOPP フィルムにおいて、SPM 実現のための
設備投資を行うためには、SPM で中国からの輸入品に対応できるコストで BOPP が成形できることが必
須である。そのためには近年中国に多く設置されている最新鋭機に匹敵する高速・広幅の BOPP フィル
ムをパウダーで成形できることが必要と考えた。
①広分子量分布化触媒の開発
BOPP の高速製膜を行うには、原反製膜機(押出機)の高吐出化が必須となる。樹脂押出量が多くなっ
た場合、ダイス部の樹脂圧力が上昇し押出機の負荷が増大する、樹脂温度が上昇し樹脂が劣化しやす
くなるといった問題が発生する可能性があり、そのため一般的にはダイリップを開くという操作を行
う。しかしながらリップ開度を開いた場合には、ダイスを出た直後の樹脂の吐出速度と引取速度との
比であるドラフト比が大きくなるため、原反シートのネックイン(*)が大きくなる。
* シートが幅方向に縮む現象。
ネックインが大きくなると、出来上がる原反シートの幅が狭くなるため、結果として製品 BOPP フ
ィルムの幅が狭くなるという問題が発生する。そのため幅広のフィルムを製膜するためには、幅の広
いダイスが必要になるなど設備投資が必要になり、コストダウンの方策として高速製膜を採用するこ
とが困難になる。
しかしながら、高吐出化してもネックインし難い樹脂があれば、設備投資することなく従来設備を
活用し高速製膜化が達成しやすくなると考えられることから、ネックインし難いことが経験的に知ら
れている広分子量分布 PP 用大粒径触媒の開発を行うこととした。
触媒の開発にあたっては、粒径、粒度分布、触媒活性等については、当初設定した大粒径触媒の開
発目標と同様としたが、以下の点を考慮し、分子量分布の目標を定めた。
即ち、分子量分布を広げた場合、ネックインは改良されるものの、製品 BOPP の透明性と光沢が悪
化するが(図Ⅲ.2.1.1(2)①-1 及び図Ⅲ.2.1.1(2)①-2)、概ねΜw /Μn=8,までは現行 BOPP 並みの透
(Μw:重量平均分子量、Μn:数
明性が維持できていることから、目標値はΜw /Μn =6∼8 とした。
平均分子量)
0.6
Haze(%)
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
4
5
6
7
8
9
10
11
Mw/Mn
図Ⅲ.2.1.1(2)①-1 分子量分布と BOPP フィルム透明性の関係
80
12
149
148
147
146
Gross(%)
145
144
143
142
141
140
139
4
5
6
7
8
9
10
11
12
Mw/Mn
図Ⅲ.2.1.1(2)①-2 分子量分布と BOPP フィルム光沢の関係
これまでも「広分子量分布化」を図るために様々な検討がなされている。例えば、分子量の異なる
重合体を多段重合で製造して重合体の分子量分布を広げる方法、複数の電子供与体を併用する方法、
飽和多環式炭化水素基及びアミノ基を有するアルコキシシラン化合物を用いた方法である。しかしな
がら、これらはいずれも効果が十分ではない。最近、コハク酸エステル化合物 11-15)、ブタン二酸ジエ
ステル化合物 14)を電子供与体として用いることで広分子量分布化が達成できることが報告されている。
更に、この効果を受けて達成できることとして延伸フィルムの生産性を高めるための高速延伸、高速
成形化時のフィルムのネックインやバタツキ防止する技術も出願されている 16)。まさに SPM で求めら
れる技術に該当する内容である。更に前述の通り高速製膜での広分子量分布化のもたらすネックイン
低減の効果は大きい。
以上のことを踏まえ、SPM 要素技術として「分子量分布の制御可能な触媒」はフィルム製造時の高
速製膜性を向上させる大きなポテンシャルを持つと考えられ、検討をすることとした。
検討化合物の選定
詳細は非公開とする。
触媒合成方法
デカンで懸濁状にした担体(塩化マグネシウムとエタノールの錯体)をマグネシウム原子に換算し
て 23.1 ミリモル分を-20℃に保持した四塩化チタン 100ml中に攪拌下、全量投入した。その後、系
内を 5 時間かけて 80℃に昇温、80℃に達したところで新規電子供与体(電子供与体/マグネシウム=
0.15(m.r.))を添加し、更に 40 分間で 120℃まで昇温した。次に、系内温度 120℃で 90 分間攪拌しな
がら保持した。90 分間の反応終了後、熱濾過にて固体部を採取し、この固体部を 100mlの四塩化チ
タンにて再懸濁させた後、昇温し 130℃に達したところで、45 分間撹拌しながら保持した。反応終了
後、再び熱濾過にて固体部を採取し、100℃のデカンで洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくな
るまで充分洗浄した。以上の操作によって調製された触媒は、一部触媒組成を調べる目的で乾燥し、
残りをデカンに懸濁させ保存した。
(触媒合成のフローは図Ⅲ2.1.1(2)①-3 に記す)
81
図Ⅲ.2.1.1(2)①-3 標準的な触媒合成スキーム
重合法
2 リットルの重合器に室温で 500gのプロピレン及び水素を所定量加えた後昇温した。60℃に到達
したところで、トリエチルアルミニウム 0.5 ミリモル、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン 0.1
ミリモル、および触媒成分をチタン原子換算で 0.004 ミリモル加え、重合器内を 70℃に保った。重合
時間 1 時間経過後にメタノールを添加して重合を停止し、プロピレンをパージして重合器内より生成
パウダーを取り出した。
(重合法のフローは図Ⅲ.2.1.1(2)①-4 に記す)
図Ⅲ.2.1.1(2)①-4 標準的な重合スキーム
GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)による分子量分布の測定法
試料調製:試料 0.1%(W/W)o-ジクロロベンゼン溶液を調製し、140℃で溶解した。その溶液を孔径が
0.45 ミクロンの焼結フィルターで濾過したものを分析試料とした。
分析条件
装置:Waters 製 ALC/GPC 150-c plus 型
分離カラム:東ソー製 GMH6 シリーズ
移動相:o-ジクロロベンゼン
検出器:示差屈折計
流速:1.0ml/min
カラム温度:140℃
試料濃度:0.1wt%
注入量:500 マイクロリットル
分析結果は、東ソー(株)製分子量既知の標準ポリスチレンを用いて較正曲線を作成し、各試料につ
いて分子量分布曲線と各種平均分子量を求めた。
82
重合挙動の確認
平成 16 年度に購入したガス流量解析装置を用い、触媒の重合挙動を確認した。この装置で確認し
ようとしている重合挙動とは、重合時間に対する活性パターンである。活性パターンとしてプロピレ
ン重合でよく知られているのは、初期活性型と活性持続型の 2 種であり、いずれのパターンであるか
は重合プロセスの選定及び条件設定に大きく関わってくる。触媒の重合性能として、代表的な立体規
則性や粒子モルフォロジーあるいは活性の絶対値が問題にされるが、PP 製造プロセスを考慮した最適
触媒を見出すためには活性パターンも重要な因子である。
今回導入したガス流量解析装置は、入側のガス流量を(株)山武製デジタルマスフローコントローラ
CMQ0050を用いて制御且つ計測、
排ガスライン側にHORIBA-STEC製自動式精密膜流量計SF-1U/2U_VP-4U
を設置し計測でき、すべてのデータをパソコンで一元管理できるものである。尚、温度制御装置及び
重合器は既存の機器を使用した。
結果及び考察
検討結果については、平成17年1月に出願した特願2005-011512、特願2005-011513、特願2005-011514
に記載の通りである。すなわち、16年度より開始した「広分子量分布化触媒の開発」において、新規
に設計した電子供与体は考案したコンセプト通りの性能を発揮した。その結果、本開発触媒では従来
触媒で得られるPPのΜw /Μn値が4∼5に対して6∼15となり、広分子量分布化が達成された。また、
立体規則性に関しても従来触媒と遜色ない性能を示す触媒を見出すことができた
(図Ⅲ.2.1.1(2)①-5
及び 図Ⅲ.2.1.1(2)①-6参照)
。
次に上述したガス流量解析装置を用いた実際の流量変化の例を図Ⅲ.2.1.1(2)①-7 に示す。青線が
総ガス入り流量、赤線が総ガス出側流量を示している。この流量の差(グラフ内黒線:⊿)が吸収量
つまりプロピレン重合量に相当する。尚、この流量差を元に計算されたプロピレン重合量と実収量が
一致したことから装置の信頼性はあると判断される。これからわかるように、本プロジェクトで開発
した触媒は、活性持続型のパターンを示した。これは、想定している重合プロセスを考えた時、好ま
しい活性パターンであり、且つ初期活性が抑えられたことによる触媒及びポリマー粒子の崩壊防止の
観点からも望ましいものと思われる。
83
0.35
既存触媒
0.3
Mw/Mn =4.3
面積%
0.25
0.2
0.15
開発触媒
0.1
=6.5
MwMn
/
0.05
0
2
2.5
3
3.5
4
4.5
5
[logM]
5.5
6
6.5
7
7.5
8
図Ⅲ.2.1.1(2)①-5 GPC チャートでの分子量分布比較
目標性能を満たす可能性のある新触媒
100.0
97.5
I.I.(%)
95.0
現行触媒系
92.5
90.0
新規触媒系
87.5
85.0
0.0
2.5
5.0
7.5
10.0
12.5
15.0
Mw/Mn
図Ⅲ.2.1.1(2)①-6 触媒性能(分子量分布と立体規則性)比較
84
図Ⅲ.2.1.1(2)①-7 ガス流量の変化
②ネックインの CAE ミュレーション
本研究で開発した広分子量分布 PP の効果は、
計算科学的手法に拠るネックイン量の CAE シミュレー
ションで検証した。ネックイン解析は、BOPP の工業的生産に使用される汎用 PP(Μw /Μn=5.0)と、
ラボ重合で得られたΜw /Μn=8.2 および 10.0 の PP を対象に、以下の方法で行った。
解析プログラム
POLYFLOW(有限要素法による熱流体解析プログラム)
開発元:POLYFLOW S.A. Universite Chatholique de Louvan
解析方法:2.5 次元シェル要素、非等温準粘性解析(粘弾性効果は考慮していない)
計算条件
幅 8m、厚さ 20μm、延伸倍率 5×10 倍の BOPP を製膜することを想定し、表Ⅲ.2.1.1(2)②-1 に示し
た条件ⅰ∼ⅲを設定した。
表Ⅲ.2.1.1(2)②-1 BOPP の製膜条件
樹脂押出量
リップ開度*)
製膜速度
条件
ドラフト比
(t/h)
(mm)
(m/min.)
ⅰ
3.5
2.5
350
2.50
ⅱ
4.25
2.75
425
2.75
ⅲ
5.0
3.0
500
3.00
*)樹脂押出し量増に伴い、リップ開度を開く設定とした。(劣化防止のため樹脂温度
上昇を抑える)
85
計算結果
ネックイン解析の結果は、図Ⅲ.2.1.1(2)②-1 に示し、以下に纏めた。
・汎用 PP と比較し、分子量分布の広い PP は何れもネックイン量が低減されている。
・分子量分布が広いほど、ネックイン量は減少する。
以上の通り、分子量分布を広げることでネックインが改良できるという当初の目的が達成されるこ
とが確認できた。またネックイン量の減少が生産効率に与える効果としては、製膜速度の増速が挙げ
られ、その期待効果(概算値)は以下の通りである。
・Μw /Μn=5 の製膜速度 380m/min.におけるネックイン量と、Μw /Μn=10 の製膜速度
500m/min.におけるネックイン量がほぼ等しいことから、Μw /Μn を 5 から 10 にすること
で、製膜速度を約 30%上げることができると言える。
・同様に、Μw /Μn=5 の製膜速度 405m/min.におけるネックイン量と、Μw /Μn=8 の製膜
速度 500m/min.におけるネックイン量がほぼ等しいことから、Μw /Μn を 5 から 8 にする
ことで、製膜速度を約 23%上げることができると言える。
135
Μw /Μn=5
ネックイン量(mm)
130
Μw /
/Μn=8
125
Μw /
/Μn=10
120
115
110
325
350
375
400
425
450
製膜速度(m/min.)
475
500
525
図Ⅲ.2.1.1(2)②-1 ネックイン解析の結果
③延伸の高速化対応
高速化に適した樹脂とは、高速製膜しても破断しない、厚薄ばらつきが悪化しない BOPP フィルム
が生産できる樹脂である。では、どのような樹脂が適しているのであろうか。それを考える前に、高
速製膜するということがどういうことかを考えてみる。高速製膜するということは、延伸時のひずみ
速度が速くなることを意味している。つまり、ひずみ速度を速くした時、BOPP フィルムの厚薄ばらつ
きがどのように変化するか、または破断するかを評価することで、どのような樹脂が適しているかを
判断できる。
86
生産ラインでの評価はできない為、バッチ延伸機で評価を行った。均一厚みの原反を使用すると、
当社所有の設備ではひずみ速度を上げることが出来ない。そこで、図Ⅲ.2.1.1(2)③-1 に示すテスト
ピースを使用することで、高ひずみ速度での延伸を可能にした。厚みの異なるシートを延伸すると、
薄い部分がより薄く延伸される。したがって、厚肉部と標準肉厚部各々の延伸倍率の比率(厚肉部/
標準肉厚部)がより1に近い方が、厚薄ばらつきが小さい BOPP フィルムだと言える。試料として大粒
径パウダーA を用い、下記の条件で二軸延伸を行った。
・延伸温度 148、151、154、157 ℃
・延伸速度 250、390、780 m/min
・延伸倍率 5×10 倍
図Ⅲ.2.1.1(2)③-1 テストピース形状
評価結果を図Ⅲ.2.1.1(2)③-2 および図Ⅲ.2.1.1(2)③-3 に示す。厚薄ばらつきの製膜速度依存性
は極めて小さく、延伸温度依存性の方が大きい。したがって、樹脂の延伸性改良は必要ではない。但
し、十分に予熱可能な延伸機が必要である。
1.6
1.6
製膜速度: 7 8 0 m / m in
1.4
1.4
標準肉厚部/厚肉部(MD)
標準肉厚部/厚肉部(MD)
延伸温度: 1 5 4 ℃
1.2
1.0
0.8
0.6
1.2
1.0
0.8
0.6
0
200
400
600
800
1000
146
150
154
158
温度(℃)
製膜速度(m/min)
図Ⅲ.2.1.1(2)③-1
図Ⅲ.2.1.1(2)③-3
厚薄ばらつきの製膜速度依存性
厚薄ばらつきの延伸温度依存性
④ブルックナー社パイロット機での BOPP 製膜テスト
SPM の実用化のためには、ビジネスとしての経済合理性が重要であり、製膜コストの一層の低減を
図らなければならないこと、そのためには高速製膜化が必要であることは既に述べた通りである。
87
ところで、重合パウダーを用いた場合ペレットと同等の高速製膜が可能であるか、について基本的
な問題点の有無を確認しておくことは重要であると思われる。もしパウダーを使用した高速製膜につ
いて基本的な問題点があれば技術開発内容の見直しが必要になるからである。
このような観点から、ペレット使用ケースでの高速製膜プロダクトラインの納入実績がある独ブル
ックナー社で重合パウダーを使用した製膜テストを実施した。本プロジェクトにおいて東芝機械(株)
の検討により二軸押出機を使用することでパウダー直接製膜の可能性が見えてきたが、二軸押出機に
よる原反成形から BOPP フィルムまでをインラインで連続製膜できるパイロット設備を有しているの
はブルックナー社だけであることもブルックナー社でのテストを行った理由である。
評価は、上記高速製膜プロダクトラインへのスケールアップ実績があるパイロット製膜ラインによ
るテストを実施し、パウダーがペレットと同様に製膜できるかどうかを確認することで行った。
a. 試験材料及び試験装置
試験材料
PP: 他社大粒径パウダーA
MFR=3g/10min. 平均粒径=2.5mm
小粒径パウダーA
MFR=2g/10min. 平均粒径=0.6mm
三井ポリプロ F122:ペレット
MFR=2g/10min. 平均粒径=2.9mm
小粒径パウダーA への安定剤の添加は、濃度 50 倍の MB(*)添加により行った。
* 2%添加で所定量の安定剤が添加できるように調整した安定剤を高濃度に
含有する PP ペレット
試験装置
本検討は、独ブルックナー社のパイロット装置を使用して実施した。実験装置の概略を図Ⅲ
2.1.1(2)④-1 に示すが、概要は以下の通りである。
。2 種 3 層(A/B/A)のフィルム成形用装置で A 層用
の樹脂をサテライト押出機で、B 層用の樹脂をメイン押出機から押出す。
メイン押出機:55mm 同方向二軸押出機(L/D=33)
サテライト押出機:43mm 同方向二軸押出機(L/D=32)
ダイス:幅 270mm、ヒートボルト付、ボルトピッチ 10mm
延伸機:LISIM(商標) リニアモーター駆動 同時二軸延伸機(延伸倍率 7×7 倍)
なおペレットについては、一般的な製膜ラインとの比較のため、メインを単軸押出機とした水準も
実施した。
メイン単軸押出機:90mm(L/D=32)
88
図Ⅲ.2.1.1(2)④-1 パイロット製膜ライン概略図(*)
(*)評価の対象としないスキン層用サテライト押出機は、図示せず省略した。
b. 試験結果
本検討は、大粒径重合パウダーによる「パウダー一貫高速製膜」へのスケールアップの可能性を探
索することを主目的としたが、併せてよりコスト的に有利と考えられる小粒径パウダーのテストも実
施した(注:小粒径パウダーであれば、既設 PP プラントに製膜ラインを設置した場合でも、他銘柄と
の切替トランジションの発生が抑制される、触媒切替トランジションが発生しない等のコストメリッ
トが得られる)。
今回のテストは、
コア層の樹脂を押出すメイン押出機でペレットとパウダーに製膜上の違いがある
かどうかを確認することが目的であり、多層フィルムを製膜する必要はないが、装置の制約上(**)2
種 3 層の多層フィルムとした。
なお本テストの評価対象外であるスキン層については、全ての水準でペレット(F122)を使用し、サ
テライト押出機の吐出量は、コア層の評価に影響を与えない様、必要最低量(20Kg/h 程度)とした。
(**)テスト用ダイスが多層用ダイスであり、スキン層無しの状態では製膜できなかったため。
⇒一般的に、多層ダイスはセレクターの切替で単層にも対応できる場合が多いが、使用したダイスには、
このセレクターが設置されていなかった。
製膜テストにより得られた BOPP フィルムは、フィッシュアイカウンターにより FE 数を、光学顕微
鏡を用いた FE 原因の目視観察により気泡数を、それぞれ分析・評価した。
フィッシュアイ(FE)数:FE カウンターにてカウント。フィルム測定幅 810mm
FE 観察:各フィルムサンプルより、任意に 20 個の FE を抽出し、光学顕微鏡にて観察。
単軸押出機による製膜
パウダー製膜の比較対象となるペレットによる製膜に関しては、単軸押出機及び二軸押出機の両方
で製膜テストを実施した。これは、一般的に原反製膜機として使用されている単軸押出機と、
(SPM で
開発している)二軸押出機とで、ペレットによる製膜状況には差がないことを確認するためである。
この単軸押出機によるテストは、図Ⅲ.2.1.1(2)④-1 に示した 55mm 二軸押出機に代え、90mm 単軸
押出機を接続して実施した。
吐出量は、120Kg/h、180Kg/h の 2 水準で行った。120Kg/h は、延伸倍率 7×7 倍、製膜速度 70m/min.
で 20μm の BOPP が製膜できるように設定したものであり、180Kg/h は、PP を使用した場合のこの単軸
89
押出機の最大吐出量である。
なおテスト日程の制約上、180Kg/h の際も延伸機側の設定変更は行わず、フィルム厚みは成り行き
とした(結果的に約 30μm となった)。
各水準の押出条件を表Ⅲ.2.1.1(2)④-1 に示した。
試験
No.
1
2
PP
ペレット
(F122)
表Ⅲ.2.1.1(2)④-1 単軸押出機の押出条件
吐出量
シリンダー
スクリュー
ギアポンプ
(kg/h)
温度(℃)
回転数(rpm)
温度(℃)
120
260
50
260
180
260
80
260
ギアポンプ
回転数(rpm)
65
97
得られたフィルムの評価結果を表Ⅲ.2.1.1(2)④-2 に示し、以下に纏めた。
・120Kg/h の場合、フィルム厚みは 20.14μm であり、想定の 20μm にほぼ一致している。
・180Kg/h の際のフィルム厚みは、約 30μm であった。
・両水準とも気泡の発生は皆無か極僅かであった。また FE 数も僅かである(*)。
(*)これまでに別途実施してきた東芝機械パイロット製膜ラインを使用したテストでの FE
数は(Total)数十であり、大差ない FE 数であった。
以上の結果より、ペレットの場合、単軸押出機でも気泡発生がないことが確認でき、また 120Kg/h
では、狙いとするフィルム厚み 20μm のフィルムが製膜できることが確認できた。
PP
試験
No.
ペレット
(F122)
1
2
表Ⅲ.2.1.1(2)④-2 単軸押出機による製膜の結果
フィルム 厚薄
FE 数(フィルム 1,000m 当たり)
厚み
精度
1.5∼
0.5∼
>2.0mm
Total
(%)
(μm)
2.0mm
1.5mm
20.1
3.2
0
3
22
25
30.1
5.6
6
2
22
29
FE 観察
(気泡数)
0
1
二軸押出機による製膜
次に二軸押出機では、図Ⅲ.2.1.1(2)④-1 に示した装置構成で、ペレット、大粒径パウダー及び小
粒径パウダーの製膜テストを行った。この時の吐出量は、単軸押出機でのテストに合わせ、120Kg/h、
180Kg/h の 2 水準とした(小粒径パウダーでは、さらにこの二軸押出機における最大吐出量 214Kg/h
の水準も追加した)
。
各水準の押出条件を表Ⅲ.2.1.1(2)④-3 に示した。
90
PP
ペレット
(F122)
小粒径
パウダーA
他社大粒径
パウダーA
試験
No.
3
4
5
5’
6
7
8
9
表Ⅲ.2.1.1(2)④-3 二軸押出機の押出条件
吐出量 シリンダー スクリュー ギアポンプ
(kg/h)
温度(℃)
温度(℃)
回転数(rpm)
120
260
240
260
180
260
300
260
120
260
240
260
120
260
240
260
180
260
304
260
214
260
327
260
120
260
216
260
180
260
285
260
ギアポンプ
回転数(rpm)
65
101
65
65
101
120
65
98
備考
*
**
*:試験 No.3∼6 を 2004/3/25 に、5’及び 7∼9 を 2004/3/26 に実施した。5’は前日との比較のため、再
実験水準として実施した。
**:試験 No.7 は、小粒径パウダーA を使用した際の、本二軸押出機の最大吐出量。
得られたフィルムの評価結果を表Ⅲ.2.1.1(2)④-4 に示し、以下に纏めた。
・大粒径パウダー、小粒径パウダーとも、気泡の発生はなく、ペレットとほぼ同等のフィルムが
製膜できた。
・試験 No.4,5 及び 6 以外は、FE 数も概ね水準 1(単軸押出機でのテスト)程度であった。
・試験 No.4,5 及び 6 では、FE 数が多かった。原因について詳細は解析できていないが、水準切替
に伴う前送樹脂の掻き出しが起きていた(であろう)ことも一因と考える。
⇒試験 No.4 及び 5 では、水準 3 から 4 へ吐出量を上げた時点から FE 数が多くなっているこ
と、試験 No.5’は 2 日目の最初の水準で昇温後最初のテスト水準であることから、掻き出
しが起きている可能性があると推定した。
⇒ブルックナーからの情報では、本テストの直前に、二軸押出機で他社のテストを実施し、
その際、他樹脂(ナイロンあるいは PET と推定するが、詳細は不明)の製膜を行ったとのこ
とであり、他樹脂掻き出しの可能性もあったと推定する。
・試験 No.3 及び 5 の厚薄精度は試験 No.1 と同程度であり、小粒径パウダー、ペレット共、単軸
押出機での製膜とほぼ同様に製膜できていた。
・吐出量を 180Kg/h とした試験 No.4,6 及び 214Kg/h とした試験 No.7 は、膜厚調整を行わなかっ
たため若干厚薄精度が悪化しているが、調整操作により制御可能な範囲と考える。
・大粒径パウダーで実施した試験 No.8 は、試験 No.3 及び 5 よりも厚薄精度が劣るが、これはペ
レット及び小粒径パウダーの MFR=2g/10min.に対し、大粒径パウダーが MFR=3 g/10min.である
にも関わらず、押出温度の最適化を行わなかった等の実験条件の設定に起因する問題であり、
条件の最適化により修正可能な範囲と考える。
91
表Ⅲ.2.1.1(2)④-4 二軸押出機による製膜の結果
FE 数(フィルム 1,000m 当たり)
厚薄
試験 フィルム
PP
精度
1.5∼
0.5∼
No.
厚み
Total
>2.0mm
(%)
2.0mm
1.5mm
ペレット
3
18.9
2.8
0
2
11
13
(F122)
4
27.7
8.7
69
46
77
192
5
19.6
2.6
10
35
187
232
小粒径
5’
19.6
7.2
0
6
32
38
パウダーA
6
30.2
5.2
10
36
96
142
7
36.4
8.2
3
9
54
65
他社大粒径
8
19.7
5.9
2
4
17
22
パウダーA
9
29.8
3.5
6
11
25
42
FE 観察
(気泡数)
0
0
0
0
0
0
1
0
以上の通り、二軸押出機で原反を製膜するテストにより、大粒径パウダー(及び小粒径パウダー)で、
ペレット同等の BOPP フィルムが製膜できることが確認できた。
今回のテストでは、
55mm二軸押出機で180Kg/hの吐出ができたが、
ブルックナー社の過去実績から、
実機へのスケールアップを見積もると 160mm 二軸押出機で 3.8ton/h に相当することになる。
これは想
定している実機スケール 4ton/h にほぼ一致することから、
パウダー高速一貫製膜へのスケールアップ
の可能性が確認できたと考える。
ブルックナー社の見解
製膜テストの結果を受け、ブルックナー社から以下の見解を得た。
「パウダーでもペレットと同様、実機高速製膜へスケールアップできると考える。
」
コメントの理由は次の通り。
・実機高速製膜へのスケールアップ実績のあるパイロットラインで、ペレット同様の製膜が可能だ
ったため。
・但し、材料供給系に関しては、別途検討が必要。
⇒今回のテストでは、押出機への材料供給は、手投入で行った。実生産時には、ホッパーロー
ダー等の空送ラインを使用することになると考えられるが、ペレット用の設備をパウダー用に
転用可能かどうか、確認のための検討が必要である。
・今回のテストでは、フラフの投入は行わなかったが、このパイロットラインでも PET でフラフ添
加のテストを実施した経験がある。その際、3∼10wt%のフラフを添加しても、製膜の状態、フィ
ルムの品質とも特段の問題はなかった。
・実機スケールでフラフ添加の試験を行うには、韓国 A 社の実機を使用するしかない。
⇒実機スケールでパウダー製膜を実施しているのは、A 社だけである。但し、A 社にブルック
ナー社が製膜ラインを納入したときには、パウダー仕様にはなっておらず、納入後 A 社が独自
にパウダー用に転用しているらしく、現在の詳細仕様は不明とのこと。
c. 結論
SPM を事業として成立させるには、現状ペレットで生産されている BOPP フィルムと比較し、コスト
ダウンなどの経済的メリットが得られることが前提となる。
92
フィルム用途の SPM で目指している、PP 製造プラントとフィルム工場が隣接した「パウダー一貫生
産」
に加え、
「高速製膜による更なるコストダウン」
が可能であるかどうか、
その感度を確認するため、
高速製膜プロダクトラインの納入実績がある独ブルックナー社で製膜テストを実施し、以下の結果を
得た。
・実機高速製膜機へのスケールアップ実績があるパイロット装置で、パウダー製膜テストを実施し、
大粒径パウダー、小粒径パウダーとも、気泡の発生はなく、ペレットとほぼ同等のフィルムが製
膜できた。
・テスト後、ブルックナー社から、
「パウダーとペレットで大きな差は無く、パウダーで実機高速
製膜へスケールアップできる可能性が高い」との見解を得た。
但し本検討では、押出機への材料供給は手投入で行った。実生産時には、ホッパーローダー等の空
送ラインを使用することになるため、ペレット用の設備をパウダー用に転用できるかどうかは、別途
検討が必要である。
なお、本検討では、フラフの添加は行わなかったが、実生産ではフラフの添加は必須であり、上記
材料投入系の設計にはフラフ添加ラインの検討も必要である。
93
(3)触媒技術の開発のまとめ
(3)触媒技術の開発のまとめ
現行ペレットと同等に扱うことのできる形状と粒径を持つフィルム用重合パウダーを生成すること
ができる触媒及び重合技術について研究した。また、SPM プロセス内でのパウダー破砕による微粉の
発生を防止するため、パウダー強度に着目し、パウダー強度の高いパウダーを合成できる重合プロセ
スについて、シミュレーションによる解析で検討した。SPM プロジェクトで開発された二軸押出機を
使用した場合、BOPP フィルムの品質に与えるパウダー性状の影響についても検討した。更に、SPM 実
用化にはフィルム製膜コストの低減が不可欠であることが分かり、コスト低減に有効な高速製膜に対
応できる技術開発にも取り組んだ。その結果、
・触媒前駆体である担体の粒度を制御することにより、効率良く粒度分布(σg)を制御でき、目標
値を満足する触媒を開発した。
・パイロット重合では、設備上の制約からポリマー強度が高い重合パウダーが得られないことがわ
かった。シミュレーションによる解析により、その原因は撹拌による剪断応力が強いことにある
と判断した。また、実用化に際して採用を予定している重合プロセスでは剪断応力が低く、パウ
ダー強度低下の懸念がないと判断した。
・担体中のアルコール量を削減することで重合パウダーの圧縮弾性率が低下できること、即ち粒子
内空隙を制御できることを確認した。
・二軸押出機では、単軸押出機の場合と異なり、BOPP の気泡、フィッシュアイ発生に対する粒径や
粒度分布の影響は認められなかった。但し、微粉の存在は押出機への供給が不安定になるため好
ましくない。
・高速延伸時のネックイン量抑制のため、広分子量分布化触媒を開発した。広分子量分布化触媒で
合成した重合パウダーのネックイン量抑制効果についてシミュレーションにより確認した。
以上より、開発目標値を達成し、SPM 実用化に必要な触媒に関する基盤技術を確立した。競合他社
品(Valtec)に比較し、粒度分布がシャープで分子量分布が狭い。BOPP 高速製膜により適した重合パウ
ダーであると考える。開発した重合パウダーを Valtec と比較して表Ⅲ.2.1.1(3)-1 及び図
Ⅲ.2.1.1(3)-1 に示す。
目標
開発品
cf.Valtec
表Ⅲ.2.1.1(3)-1 開発品と Valtec の比較
触媒活性
嵩密度
平均粒径 粒度分布
(g-PP/g 固体触媒)
(mm)
σg (-)
(g/cm3)
≧20,000
2∼4
≦1.2
≧0.40
24,400
2.2
1.2
0.49
−
2.3
1.3
0.47
94
パウダー強度
(MPa, 2mmφ)
≧12
12
12
分子量分布
Μw/Μn (-)
6∼8
6.5
5.0
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