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金融円滑化法終了に向けた金融機関の取組み(PDF 1.4MB)
特集:金融円滑化法出口戦略の概要と対応施策 ―診断士の立ち位置と求められるスキル 第2章 金融円滑化法終了に向けた 金融機関の取組み 大谷 金久 東京都中小企業診断士協会三多摩支部 本年 3 月末の中小企業金融円滑化法の最終 昨年 9 月末で343万件に達しています。金融 期限に向けて,想定できる金融機関の取組み 庁は,実際の利用企業を30~40万社と推計し, を考察したうえで,私たち中小企業診断士の うち 5 ~ 6 万社は自力再建が困難になるとし 役割について考えてみます。 ています。 そんな中で,金融機関が条件変更を謝絶し 1 .円滑化法終了に向けた 金融機関の対応 た件数は2.5%となっており,ほとんど条件 変更を承認している状況です。 中小企業金融円滑化法は 2 回の延長を経て 金融機関の対応を考えるうえで,監督官庁 いますが,平成23年12月27日の再延長時にも である金融庁などの方針などを押さえておく 金融担当大臣の談話として,これを最終延長 ことが大切です。この方針などを確認したう として,金融機関によるコンサルティング機 えで,金融機関の対応状況を考察します。 能の発揮を促すなどの措置を講じています。 具体的施策として注目したいのは,実現可 ⑴ 金融担当大臣の談話 能性の高い抜本的な経営再建計画の策定・進 昨年11月 1 日に金融担当大臣談話として, 捗状況の適切なフォローアップを求めるとと 「中小企業金融円滑化法の期限到来後の検 もに,対象企業の実態に応じた適切な債務者 査・監督の方針等について」が発表されまし 区分・引当ての実施を求めていることです。 た。これは,①金融機関の役割として,貸付 条件の変更等や円滑な資金供給に努めるとい うことは,期限到来後においても何ら変わる ものではないこと,②金融庁の検査・監督の 対応として,金融検査・監督の目線やスタン スは,期限到来後もこれまでと何ら変わるこ とはないこと,を談話として発表しています。 以上を踏まえて,今後の金融機関の取組み と金融検査等の状況を見極めていくこととな ります。 金融担当大臣談話 (平成23年12月27日)抜粋 中小企業金融円滑化法の期限の最終延長等 について 具体的な施策として Ⅰ.金融の円滑化にかかる取組み ・金融機関によるコンサルティング機能の 一層の発揮 など Ⅱ.金融規律の確保にかかる取組み ・実現可能性の高い抜本的な経営再建計画 の策定・進捗状況の適切なフォローアッ プ ⑵ これまでの金融機関の対応状況 金融機関が貸付条件を緩和した融資件数は, ・対象企業の実態に応じた適切な債務者区 企業診断ニュース 2013.3 7 特集 ⑴ 貸付金の条件変更等への取組み 分・引当ての実施 など Ⅲ.中小企業等に対する支援措置にかかる 取組み 条件変更への取組み状況は,金融円滑化法 によって謝絶は2.5%となっており,ほとん どに対応している状況です。貸付金の条件変 ここでは,条件変更等を行うだけでは,対 更等は,元金据置等の返済額の軽減,返済期 象企業の経営改善を図ることができないため, 限の延長などで行われますが,当初に約定し 経営改善計画の策定やそのフォローアップな た返済方法を変更することは異例で,金融機 どの支援を求めています。一方で,経営改善 関は貸し倒れなどのリスクを考慮して対応す が十分に図られずに条件変更をくり返すなど, ることが,本来の取組みとなります。 厳しい状況に陥っている中小企業に対しては, 現在は,金融機関が協調して条件変更等に 自己査定を適切に行い,実態に合った債務者 対応していますが,金融円滑化法の期限到来 区分にして,金融機関に将来の不良化に備え 後は,複数の金融機関と取引をしている場合 た貸倒引当金の積み増しを求めています。 には,協調体制が崩れることも懸念されます。 経営改善計画の策定やそのフォローアップ また,条件変更等により返済を猶予されて については,各金融機関によってその体制な いる期間に経営改善を図れればよいものの, どが違っていますが,条件変更を行った対象 経営改善計画と実績に大幅な乖離がある場合 企業に対して,もれなく経営改善計画の策定 や,特に赤字垂れ流しの状況から脱していな を支援するなど,積極的に取り組んでいる金 い場合は,期間を猶予することで赤字がかさ 融機関もある一方で,人的経営資源の制約な み,さらに厳しい状況に陥ってしまうため, どから,十分に支援できていない状況も散見 金融機関では経営改善計画の達成状況や再生 されます。 可能性を見極めて,条件変更等の可否を判断 各金融機関では,不良債権の状況などを定 するものと見込まれます。 期的に開示していますが,その内容を確認す ると,すでに債務者区分のランクダウンなど ⑵ 自己査定の債務者区分 により,不良債権が増加して貸倒引当金の積 金融機関の行う自己査定の債務者区分は, み増しを図っている金融機関も散見され,金 正常先,要注意先(その他要注意先,要管理 融機関ごとにバラツキが見られます。 先) ,破綻懸念先,実質破綻先,破綻先と区 このように,金融円滑化法の最終期限前か 分されますが,これについては,先に説明し ら,貸付金の条件変更等に応じながら,一方 たようにすでに厳しい対応となっています。 で債務者区分やそれに対応する貸倒引当金に 経営改善計画(実抜計画など)によって債務 ついては,すでに厳しく対応している金融機 者区分を維持している先については,経営改 関も見られます。 善計画に対して売上・利益の実績が 8 割に達 2 .金融円滑化法終了後に予想される 対応 していない場合など,債務者区分をランクダ ウンさせて貸倒引当金を積み増す動きが出て おり,特にその他要注意先に区分されている 対象企業には,その実態に合わせた債務者区 昨年12月の金融担当大臣の談話により,金 分が決定され,債務者区分が要管理先以下に 融円滑化法の期限到来後も,これまでと何ら なると不良債権にカウントされてしまうため, 変わることはないことが示されているため, 今後の資金調達など円滑な融資取引に支障が その対応を見極めていくこととなりますが, 出ることも予想されます。 ここでは,貸付金の条件変更等の対応,自己 査定の債務者区分に分けて考察します。 8 企業診断ニュース 2013.3 第 2 章 金融円滑化法終了に向けた金融機関の取組み 3 .金融機関に求められる コンサルティング機能の発揮 ⑵ 外部専門家,外部機関との連携 さらに,金融機関がこのようなソリューシ ョンを行う場合には,診断士,税理士などの 金融機関によるコンサルティング機能は, 専門家や,他の金融機関や信用保証協会,地 債務者の経営課題を把握・分析したうえで, 方公共団体,商工会議所との連携を例示。事 適切な助言などによって債務者自身の課題認 業再生や業種転換が必要な債務者に対しては, 識を深めつつ,主体的な取組みを促し,同時 企業再生支援機構,中小企業再生支援協議会 に最適なソリューション(経営課題を解決す などとの連携や,企業再生ファンドの組成・ るための方策)を提案・実行するという形で 活用を例示。また,事業の持続可能性が見込 発揮されることが期待され,具体的には以下 まれない債務者に対しては,慎重かつ十分な の事業の持続可能性等に応じて提案するソリ 検討と債務者の納得性を高めるための十分な ューション(例)が示されています。 説明を行ったうえで,税理士,弁護士,サー ビサーなどとの連携を例示しています。 ⑴ 事業の持続可能性等の類型とソリューション 金融庁は,対象企業の事業の持続可能性等 にしたがって解決策を提案するなど,より踏 4 .金融機関による経営改善支援の 取組み み込んだ取組みを求めています。具体的には, 経営改善が必要な債務者に対しては,ビジネ 融資などを通じて,債務者の財務情報や各 スマッチングや技術開発支援によって新たな 種の定性情報を蓄積している金融機関は,立 販路の獲得などを支援するほか,貸付条件変 場上,当該債務者の経営課題を適切に把握・ 更等を行います。 分析することに優位性を有しており,かつ, 一方,事業再生や業種転換が必要な債務者 その機能を発揮することが期待されています。 に対しては,貸付条件変更等を行うほか,金 これは,経営課題の把握・分析など,最適 融機関の取引地位や取引状況に応じ,DES・ DDS や DIP ファイナンスの活用,債権放棄 なソリューションの提案,実行および進捗状 も検討します。また,事業の持続可能性が見 込まれない債務者に対しては,事業継続に向 けた経営者の意欲,経営者の生活再建,当該 債務者の取引先などへの影響,金融機関の取 引地位や取引状況,財務の健全性確保の観点 などを総合的に勘案し,慎重かつ十分な検討 を行い,債務整理などを前提とした債務者の 況の管理という流れで進めていきます。 <コンサルティング機能発揮の流れ> 経営課題の把握・分析など 最適なソリューションの提案 ソリューションの実行・進捗管理 再起に向けた適切な助言や,債務者が自主廃 業を選択する場合の協力を例示します。 <事業の持続可能性等の類型> 1 .経営改善が必要な債務者 2 .事業再生や業種転換が必要な債務者 3 .事業の持続可能性が見込まれない債務者 金融庁の監督指針より作成 ⑴ 経営課題の把握・分析 ソリューションの提案・実行の前に,債務 者企業の経営課題の把握・分析と事業の持続 可能性の見極めをしっかり行うことです。 具体的には,取り巻く経済環境や債務者企 業の経営資源をもとに,本質的な経営課題を 把握・分析し,事業の持続可能性等を適切か つ慎重に見極めることが大切です。 企業診断ニュース 2013.3 9 特集 すでに経営改善計画を策定している企業で するなど,その進捗管理を行うこと,月次・ も,そもそも実態把握が不十分な状況で経営 四半期などでの定期的なモニタリングにより, 改善計画を策定している場合も多く,実態と 経営改善計画の実施状況を把握することが大 合わない経営改善計画とならないために,こ 切です。 の経営課題の把握・分析は大変重要です。 さらに金融機関は,把握した債務者の本質 5 .診断士の果たすべき役割 的な経営課題を,債務者自身が正確かつ十分 に認識できるよう適切に助言し,債務者がそ 私たち診断士は,金融機関と連携して経営 の解決に向けて主体的に取り組んでいくよう 改善を支援します。場合によっては,税理士 促すことが大切です。金融機関の支援によっ などの士業や支援機関との連携により,支援 て経営改善計画を策定している場合は,主体 していきます。 的に取り組むべき中小企業経営者が,残念な 特に「経営改善が必要な債務者」について がら経営改善計画の内容を把握していなかっ は,経営改善計画の策定やその実行支援に取 たり,その内容に納得していなかったりとい り組むこととなりますが,すでに金融機関の ったことも起きており,当然,経営改善計画 支援によって経営改善計画が策定されている の実行もかなわなくなってしまいます。 中小企業でも,実態把握・分析が不十分なこ とで,実態と合わない経営改善計画となって ⑵ 最適なソリューション提案 いるケースや,債務者自身の課題認識が不十 経営改善支援としての最適なソリューショ 分なために,経営改善計画を実行できないケ ン提案については,先に説明しました。経営 ースが散見されます。金融機関でも,体制面 改善計画等は,債務者が本質的な経営課題を や時間的制約などにより,これらを有効に行 認識して主体的に取り組んでいくために,債 えないという実態もあるようです。 務者が自力で策定することが望ましいですが, 診断士としては,取り巻く経済環境の把握 適切なタイミングで金融機関が支援していく や財務分析はもちろん,定性も含めた経営資 ことが大切です。その場合,必要に応じて他 源の状況を把握・分析し,経営者にこれらの の金融機関,外部専門家,支援機関などと連 課題認識を促し,経営改善計画の策定を支援 携し,支援していくことが有効となります。 するなどの役割が期待されます。 さらに経営改善計画の実行に際しても,ハ ⑶ ソリューションの実行・進捗管理 ンズオンでの支援を行うことで,着実な実行 金融機関は,債務者や連携先とともに,ソ を支援していく,さらに経営改善計画の進捗 リューションの合理性や実行可能性を検証・ 管理に際しても,計画に対する実績を,定量 確認したうえで,必要に応じて専門家や支援 はもちろん,定性についても把握・分析し, 機関等と連携し,ソリューションの実行を支 たとえば体制面の課題解決を支援するなど, 援します。 適切な支援が期待されています。 残念ながら,経営改善計画の策定にとどま ってしまい,実行がおろそかになっているケ ースが散見されます。経営改善計画の着実な 実行のためには,経営者のリーダーシップと 全社的・組織的な体制整備が必要で,これら を含めた実行計画(アクションプラン)を策 定することが大切となります。 さらに,実行状況を継続的にモニタリング 10 大谷 金久 (おおたに かねひさ) 東京都中小企業診断士協会。金融円滑化 法出口戦略対応 PT。平成 9 年 4 月中小 企業診断士登録。地域金融機関在職時, 執行役員として経営改善・企業再生部門 を統括,独立後は数多くの中小企業の経 営改善・企業再生支援に取り組んでいる。 また,上記にかかる地域金融機関職員向けの研修も行う。 企業診断ニュース 2013.3