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学生サービス - 早稲田大学

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学生サービス - 早稲田大学
学生サービスのとらえ方
今後を考える
Ⅰ.「学生サービス」のとらえ方
「課題を集約する」で取りまとめたキーワードをもとに、「学生サービス」を次の2図で
とらえる。
1.「学生サービス」をとりまく環境
当室は、本大学の「学生サービス」をとりまく環境を大きく次のようにとらえた。
「学生サービス」は、大きくは社会の動向という「外的環境条件」と「過密」すなわち
学生数規模と施設との関係で表される「内的環境条件」および「学生ニーズ」により決定
されるものである。
外的環境条件の変化は、「学生サービス」のあり方・方向性を左右し、「内的環境条件」
の変化をも促すものである。また、「学生ニーズ」も同じく「学生サービス」のあり方・
方向性を左右し、「内的環境条件」の変化をも促すものである。
外的環境条件=社会の動向
社会人志願者のニーズ
少子化
生涯学習への関心
受験生・父母のニーズ
内的環境条件(過密)
学生のニーズ
学生サービス
①過密状況下におかれた学生のニーズに
対応するサービスの展開
②受験生のニーズを踏まえた学生サービス
の展開
③社会動向を踏まえた学生サービスのあり
方・方向性の検討
51
産業界の動向
etc...
学生サービスのとらえ方
2.学生サービスを生み出す基本構造
当室は、前ページ図中の最内円「学生サービス」を、下図のとおりの構造で生み出され
るものととらえた。
社会の動向
受験生等
フィードバック
情報発信
在学生
情報発信
ニーズ収集
ニーズ収集
ニーズ収集・情報発信アンテナ
アンテナで集めた学生の声を実際の
学生サービスに結びつける仕組みを含む
満足度の高いサービスを生み出すための土台
サービス提供優先の組織構造
教育重視の教学・教員諸制度
サービス提供中心の仕事の構造
サービスマインド、スキルの
醸成に適した職員人事制度
学生サービスの理念
満足度の高いサービスを生み出すための基本構造
52
キーワードを軸に考える
Ⅱ.キーワードを軸に考える
1.外的環境条件
本大学も大学業界の一員であり、他私立大学と同じ環境下に置かれている。しかし、
その環境に対する認識度合いがまるで異なることが訪問調査で明らかになった。
ここでは、本大学の外的環境条件への意識を軸に考えていくこととする。
(1)危機意識から遠い存在
例えば、2001 年度入学志願者は、わずかではあるが前年度実績を上回って 10 万人台
を確保している。入学者に対して補習授業を実施する大学が増えてきているが、本大学
には今のところその動きはない。
このような恵まれた状況下にある本大学が、特に大学業界をとりまく構造的課題(18
歳人口の減少、学力低下等)に対して敏感に反応するのは難しい。
他方、本大学と慶應義塾大学の双方に合格した受験生の圧倒的多数が、慶應義塾大学
に入学している事実については問題意識はあるようだ。しかし、問題の分析や具体的対
策が講じられた様子はみえない。
また、学生生活調査実態報告書で、何年も前から学生のカリキュラム満足度、授業満
足度が低いことが報告されている。しかし、同報告書は全くといってよいほど活用され
ていない。同書の活用状況にみられるとおり、「学生の声」に対する関心は低いのであ
る。このように、本大学の「危機意識」は低水準であると言わざるを得ない。
(2)本大学は「私学の雄」?
本大学は、「私学の雄」であると自他ともに認めてきた。「私学の雄」とは、私立大学
間競争のなかで圧倒的な優位に立つことに通じる。研究の先進性や新規の事業展開が重
要であることは言うまでもない。それらと同等に学生サービスも重要な要素のはずであ
る。「サービスも一流でなければ、一流大学とはいえない」という学生の記述も見受け
られた。
しかし、少なくとも学生サービスは、既に取り組んでいる他私立大学とは比較するま
でもなく、大きく立ち遅れていると言わざるを得ない。
「私学の雄」たる本大学とそれらの大学との「差」は、確実に縮まってきているので
ある。圧倒的な優位性は、既に揺らいでいると認識しなければならない。
(3)「危機意識」は生み出すしかない
「危機意識」は、「厳しい現実への対応策を後押しする原動力」である。しかし、本
大学の「危機意識」は低水準に止まっている。
本大学の「学生サービスの充実・向上」のためにも、後押しをする強い原動力が必要
なことは言うまでもない。
一方で、「危機意識」を喚起する材料はいくらでも転がっていると言ってよい。問題
はその材料をどのように「危機意識」に結びつけ、教職員が共有できるようにするかで
ある。
本大学においては、「危機意識」を生み出す工夫が必要である。仕組みづくり、雰囲
気づくりあるいはそれ以外の方法による「危機意識」の創生が急務である。
放っておけば、いずれそんな工夫の必要がなくなるだろう。但し、
「工夫の必要なく
危機意識を自覚する時」とは、本大学が没落した時を指すのだが...
53
キーワードを軸に考える
2.学生サービスの理念
(1)学生をどう位置付けるか...
「学生サービスの理念」の明確化が必要なことは言うまでもない。
理念そのものではないが、それをとりまく要素として「学生サービスの視点」と「学
生の位置付け」を明確にすることが重要である。
なぜならば、学生サービスの視点が、「(前に立って)学生をひっぱり上げる」か「(後
ろから)学生を押し上げる」かにより、教員および職員の目線の高さが随分違ってくる
からである。
また、「学生の位置付け」を明確にすることにより、教員個々人、職員個々人の学生
観のブレを解消できるはずだからである。
但し、教員と職員とでは、学生との関わり方が異なる。さらに、職員の間でも職種(事
務職、司書職、技術職、医療職)により異なる。したがって、資格や職種毎に学生の位
置付けを考える必要があるだろう。
(2)学生(受験生)ニーズにどう対応するか
本大学は、「学生を自立した大人とみなして、学生の自主性を重んじ“おせっかい”
はしない」としてきた。
しかし、「受験生の動向」で明らかにしたとおり、今時の受験生(学生)のニーズは
「面倒見の良さ」にある。本大学の学生サービスとは 180 度方向性を異にする。
しかも、受験生のうち自立層はごくわずかであり、大多数が非自立層であるという。
ここ数年この傾向に変化がないということは、本大学への入学者にも非自立層が増え
てきていると考えなくてはならない。
学生サービスへの満足度が低い要因として、「学生の自主性重視(=面倒見の悪さ)
」
が影響しているとはいえないか。
「5万人のジャングルのなかで擦れ合うことにより成長する」学生よりも「5万人
のジャングルのなかで呆然とする」学生が多くなってきていることを、学生サービスの
満足度が示しているようにもみえる。
予備校は、今後も自立層が減り非自立層は増えていくだろうと予想している。
この現状を踏まえて、本大学が非自立層の学生にどう対応していくのかは、
「学生サ
ービス」を展開させるうえでの根源的な課題である。
◎進学して伸びた大学ランキング
順位
1
2
3
4
5
6
7
大学名
京都大学
慶應義塾大学
東北大学
東京大学
筑波大学
大阪大学
点数
531
528
384
350
310
256
早稲田大学
231
◎進学して伸び悩んだ大学ランキング
順位
大学名
点数
1
早稲田大学
-418
2
3
4
5
6
7
日本大学
帝京大学
立命館大学
同志社大学
明治大学
慶應義塾大学
-154
-119
-112
-110
-97
-86
上表は、
「2000 年総合評価大学ランキング」
(朝日新聞社)からの抜粋である。
1998 年 10 月に全国の進学実績のある高校 879 校の進路指導部長宛アンケートを送付し、回答のあっ
た 312 校分を集計。質問に該当する大学を 9 位まであげてもらい、1位に 9 点(-9 点)
、2 位に 8
点(-8 点)...9 位に 1 点(-1 点)として、点数を合計。
本大学は、「進学して伸びた大学」で7位だが、「進学して伸び悩んだ大学」でダントツ
の1位である。
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キーワードを軸に考える
この種の調査は、必ずしも実態を正確に表わすものではないし、
「伸び悩み」を測る客
観的な基準があるわけではない。
しかし、データの行間に「5万人のジャングルのなかで呆然とする学生」の姿が垣間み
えるのではないだろうか。
3.大学運営の枠組み
教授の質、授業の内容を早急に改善し、学生中心の大学にしてもらいたい。
事務の効率より学生の利益を優先していただきたい。
最も不満なのは、学校が学部毎のタテ割行政化していること。
これらは、学生向アンケート調査の記述である。
いずれも、組織レベルでの対応を要するものばかりである。学生の満足度を高めるた
めには、大学の「枠組み」のあり方を避けて通ることはできない。
(1)学生の満足度を高める四つの土台
今回の調査結果から、「学生サービス」を考えるうえでの「大学運営の枠組み」とし
て、以下の四つの土台が不可欠であることがわかる。
これらの整備なくして、「学生サービスの充実・向上」の展開は考えられない。
①教育重視の教学・教員諸制度…魅力的な授業づくりのための取り組み(学生による
授業評価制度、FD等)や教育実績の褒賞制度、授
業力を考慮した教員人事制度等、教育の質向上のた
めの制度の確立
②学生サービス優先の組織構造…☆①学生のニーズ収集→②学生ニーズの検討→③
学生へのフィードバック→③学生サービス施策
の実施→(①学生のニーズ収集)というサイクル
を可能にする組織構造(=情報受発信アンテナを
中心にした組織構造)
☆直接的な学生サービス業務により多くのエネル
ギーを投入可能な組織構造
③学生サービス中心の仕事構造…☆管理業務の極小化および効率化
☆「学生の利便向上のために何をすべきか」が出発
点となる仕事の構造
④サービスマインド、スキル醸成に適した職員人事制度
…学生サービスを展開するために必要な研修制度、学
生サービス実績を評価する仕組み・給与制度等の確
立
55
キーワードを軸に考える
4.性能のよい「情報受発信アンテナ」
要望をどこへ向ければよいのか明確にし、その要望が反映されていることを学生に
わかりやすく提示してほしい。
「情報受発信アンテナ」の構築を望む学生の記述である。
学内の状況、他私立大学の状況の双方から、「学生サービスの充実・向上」のためには
「情報受発信アンテナ」が必要不可欠なものであることは明らかとなった。
本大学においても、図書館では学生を始めとする利用者の意見・要望を e-mail で収集
し、FAQ集として、あるいは個別に利用者に対してフィードバックしている。また、
エクステンションセンターでは全受講生に対して授業評価アンケートを実施し、結果を
翌年度以降の講座に反映させている。アジア太平洋研究科でも、学生に対して授業評価ア
ンケートを実施し教員の授業改善の資料としている。これらの箇所は、「情報受発信のア
ンテナ」を立てて、学生サービスの充実に生かしていると言っていいだろう。
ポイントは、「情報受発信アンテナ」の性能である。せっかく「アンテナ」を立てても
性能が悪くては立てる意味がない。高感度かつ高出力の「アンテナ」とするためには、少
なくとも以下に示す項目を意識したうえでの検討が必要であろう。
情報の収集力・発信力は、「学生サービスの充実・向上」を左右する重大な課題である。
・学生にとって全体の仕組みがわかりやすいこと
・学生が意見・要望等を言い出しやすい環境をつくること
・収集した学生の声を分析・検討する機能を持つこと
・収集した意見・要望等の分析・検討の結果は、すべて学生にフィードバックすること
・学生がフィードバックの内容を確認しやすいこと
・フィードバックの時期やサービス施策の実行時期等、時期を明確にすること
・大学が自ら学生ニーズを収集する機能を持つこと
・受験生等学外ニーズを収集する機能を持つこと
・学内外へ主体的に情報発信する機能をもつこと
(1)キーはIT機器の活用
本大学は、学生全員にIDを配布しており、IT機器を活用しやすい環境にある。
今後は、学生のPCまたは携帯電話を始めとする移動通信体へどのように情報発信し
ていくのか、また、学生からの意見・要望の「受信アンテナ」としてどのように活用し
ていくのかがポイントとなる。
「個別の学生に対するその学生だけが必要な情報のタイムリーな発信」は、今回のア
ンケート調査で多くの学生が要望しており、早期の実現が望まれる。
「情報受発信のアンテナ」は、IT機器だけではないが、その活用次第でアンテナの
機能が飛躍的に高まるはずである。
他方、学生が「窓口にこなくて済む」方向で考えるサービスに、IT機器は欠かせな
い。学生の「長蛇の列」解消にも大きく貢献する。
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キーワードを軸に考える
5.過密...もはや聖域にあらず
人が多い!定員を削ってください。早稲田の未来のためにも。また、サービス
の質も向上するし。
これも、学生向アンケート調査にみられた記述である。
学生サービス充実・向上の阻害要因が、サービスを受けるべき学生(の数の多さ)にあ
るという皮肉な状況を端的に表している。
カリキュラムに対する学生の不満の多くは「とりたい科目がとれない」である。それは、
抽選により科目登録者を決定していることに対する不満であり、抽選制を採用せざるをえ
ない理由のほとんどは「教室不足」に起因している。
箇所長アンケート調査でも、学生サービス充実向上の阻害要因として「教室不足」を挙
げている箇所長が非常に多い。
一方、学生向アンケート調査に学生が「大学の過密事情をよく承知している」記述がい
くつも見受けられた。学生が、「過密を諦めてしまっている」という側面も否定できない。
本大学は、「過密に寛容なものわかりの良い」学生に助けられていると言っても言い過
ぎではないだろう。
また、「過密」は、「教室不足」に起因する課題だけでなく、「図書館や端末室の座席数
不足」、「インターネットサービスのアクセスへの影響」、「専任職員の管理業務増大に伴
う学生サービス業務への影響」ほか多方面に関わりをもつ課題である。
「学生のための大学つくり」のための「学生サービスの充実・向上」であるならば、聖
域視されてきた「過密」すなわち「学生数の多さ」について言及しないわけにはいかない。
現在の本大学は、いわば「Sサイズの服に、無理やりLサイズ(あるいはそれ以上)の
体をねじこんでいる」と言った状況である。
学生に満足度の高いサービスを提供するためには、「体のサイズと服のサイズをあわせ
る」ことを中心に考えなければならない。
「過密」は、「学生サービス」を考えるうえでは「本大学の宿命」
「所与の環境」ととら
えてはならない。「学生サービス」に直結する本大学最大の課題ととらえなければならな
いのである。
6.まとめ
ここまで、「学生サービス充実・向上」を展開するための「装置」を中心に考えてきた。
それは、外的環境条件への感性(=危機意識)を原動力として、「学生サービスの理念」
のもと、学生サービスが展開しやすい「枠組み」と感度のよい「送受信アンテナ」を備え
る「学生サービス生産装置」である。また、これまで聖域視されてきた「過密(=学生数)
」
をも、解決すべき基本課題と位置付けた。
これらにもう一つ「信頼関係」をキーワードとして加えたい。
「授業への不満」で触れたとおり、学生の不満は教員不信へ結びついており、箇所長も
「学生の勉学への姿勢」に疑問を持つなど相互不信の状況もみえる。
学生−職員間でも、見下した態度の職員への不信、ルールを守らない学生への不信があ
る。学生の記述にも以下のようなものがある。
大学当局は学生の敵というイメージが学生の間ではあ
相互が不信感を抱いていては、学生サービスは円滑に展開できない。また、この不信感
は、大学側からしか払拭できないものである。大学が変らなければ学生の気持ちを変える
ことはできない。「信頼関係」をいかにつくっていくかは、学生サービス展開上大きなポ
イントの一つである。
57
まず取り組むべき「学生サービス」
Ⅲ.まず取り組むべき「学生サービス」
1.とにかく「授業内容の充実」
何を置いてもまずは、学生に対してより良い授業を提供するにはどうしたらいいか、と
いう視点で『学生サービス』を充実させてほしいと思う。
先生に授業への熱意がないのは問題だ。こういう授業がいくつかあるのだが、せっかく
やる気をもってのぞんでいたのに今では、授業に出席するのが苦痛になってしまった。
もっと生き生きとした楽しい授業を受けたい。
教えている本人が面白いのではなく、授業を受ける側がどう感じるかを考えた授業をし
てほしい。
本当に教授側の講義内容の向上努力を促さないと、ますます学生が大学から離れていく
と思います。
授業は、教員各人の考え方のみで運営しているように感じられ、プログラム全体の整合
性がとれていない。これでは、卒業生の品質管理はできないのではないか?
第一に授業内容を充実させることを優先させるべきで、現在の授業では学費を捨ててい
るのと同じだと思う。よくない教員は淘汰されるようなシステムを一日も早くつくって
ほしい。
これらは、学生向アンケート調査の記述の一部である。「授業」への不満、要望の記述
は多数に昇り、特定箇所に偏ることなくすべての学部、研究科でみうけられた。
また、学生が、真っ先に着手してほしい「学生サービス」は「授業内容の充実」が圧倒
的多数を占めた。(下表参照)
あなたは、今後本大学が「学生サービス」の充実を図る際、まず何に着手すべ
きだと思いますか?真っ先に着手すべきだと思うもの一つをお選びください。
900
800
792
700
600
500
400
300
195
200
107
136
117
63
100
56
50
その他
IT環境の 整備
授業教室等 施設の充 実
課外活動支 援の充実
58
図書館の充 実
就職支援の 充実
奨学金の拡 充
窓口サービ スの充実
授業内容の 充実
0
65
まず取り組むべき「学生サービス」
学生の授業に対する不満の記述は、「抽選科目」や「時間割編成」に関するものも見受
けられたが、「授業の質」に関するものが圧倒的多数であった。
「学生のための大学つくり」を標榜する本大学が、真っ先に「授業内容の充実」とりわ
け「授業の質」向上に取り組まずして何に取り組むことがあるだろう。
2.まずは、「学生による授業評価」導入
授業内容の向上及び教員のプロ意識向上のため、全学生に対して『授業満足度アンケート』
なるものをやってもらいたい。
この意見を代表例として、多くの学生が「学生による授業評価」導入を要望している。
何が足りていないのか、学生は何を求めているのか等を直接学生から聞くことは、
「授
業の質」を高めるための課題抽出には、最も合理的であり的確な方法である。
学外調査で訪問した4大学では、すでに全学部で全科目において「学生による授業評価」
を導入していることにみられるとおり、「授業改善」の手段としての有効性は極めて高い
と考えてよい。
箇所長向アンケート調査でも「学生による授業評価」には関心が高かった。
「21 世紀の教育研究グランドデザイン答申書」においても、
「『学生による授業評価』
は早急に導入されなければならない」としている。
これらにみられるとおり、本大学においても「学生による授業評価」導入の機運はすで
にある。
「学生サービスの充実・向上」は、特定の箇所、特定の学生を対象とするものではない。
「学生サービス」は、すべての学生に対してできるだけ均質に行き渡るものでなければな
らないものであるはずである。とすれば、本大学においても他私立大学同様「学生による
授業評価制度」を全学で導入することを急務としてとらえる必要がある。
全学での「学生による授業評価」導入は、「授業内容の充実」のための第一歩である。
3.「学生による授業評価」だけでは不十分
既に「学生による授業評価」を導入している大学でも、「評価結果」は教員本人と箇所
役職者に知らされるに止まっている。授業改善の取り組みは、教員本人に任されているの
である。そのためか、何年たっても学生の評価結果が改善されない例もあるという。
このとおり、必ずしも「学生による授業評価制度」だけで「授業内容の充実」が実現で
きるわけではない。
「学生による授業評価制度」をファカルティ・デベロップメントへ結びつけること考え
始めた大学もある。
本大学は、まずは全学での「学生による授業評価」導入が急務だが、それ以外の「授業
内容の充実」に資する取り組みも視野に入れたうえで、検討していくことが必要である。
4.授業をとりまく「環境」の整備
科目登録をする際に、実際に講義を体験してから科目登録できるようにするべきだ。「百
聞は一見にしかず」講義を体験してから科目登録できるようになれば、学生の失望感も軽
減するはずである。
この意見のとおり、「授業内容の充実」は授業そのものだけでなく、「授業のお試し制
度」あるいは「登録科目の取消制度・変更制度」の導入も必須である。
「一度登録したら変更はさせない」というのは、大学側の都合以外のなにものでもない。
社会一般では、普通に行なわれているサービスである。
59
Ⅳ.戦略的学生サービスの展開
1.「勝ち抜く」ことが大事
「学生サービスの充実・向上」は、学生のため学生の満足度を高めるために行なうこと
は当然である。
しかし、大学業界が置かれた厳しい現実(少子化に伴う受験生の減少等)のなかでは、
「学生サービス」の善し悪しが「勝ち負け」に直結することも事実である。
学生の満足度を高めることが第一義であることは言うまでもないが、それだけを目的と
するのではなく、「勝ち抜く」ことを意識して「学生サービス」を展開させることが重要
である。
2.「売り」をつくれ
学生サービスは、『従来より改善する』という概念ではなく、『他大学より優れている』
という考えで取り組んでほしいと思います。
学生向アンケート調査にみられたの記述である。
「差別化」は、「勝ち抜く」ためのキーワードのひとつである。
あらゆる分野で一挙に学生の満足度を高めることが理想であるが、現実的には難しい。
現実的対応として、「学生サービスの充実・向上」に優先順位をつけて取り組むとする
ならば、「学生のニーズ」だけでなく「差別化」をも念頭にいれた順位付けが必要となる
だろう。
他大学と「差別化」した「学生サービス」は、学生の満足度を高めるだけでなく、本大
学の「売り」にもなるはずである。
戦略的学生サービスとは、「学生のための学生サービス」であると同時に、大学が学生
を獲得し、社会的評価を獲得するための「大学のための学生サービス」でもある。
60
レーダーサイト④
帰属意識
私大連が編んだ「学生生活白書」。98年10月に全国の私大生を対象に行った学生生
活実態調査の結果をまとめたものである。この中で「学生は教員と親しくつきあう機会が
ない」
「学生は『教員と親しくつきあうこと』を学生生活に充実感を持つための重要な要
素であると考えている」という実態が明らかにされている。そして、こう解説する。「教
師と学生の間に醸成される親密な共同体意識は、やがて学生が卒業した後に母校に対する
帰属心と協同意識を維持することを可能にする重要な要素である。とりわけ私学にあって
は、そうした共同体意識が大学の存立基盤を支えることを思えば、大学において教師と学
生とのかかわりがいまひとつ希薄な現状は、もっと顧みられるべきであろう。
」
さて、2000年2月に本大学で実施した学生生活実態調査。その中にも「教員との対
話」という項目がある。詳しいことは省くとして「教員との対話の機会がほしいが、実際
にはそれがほとんどない」という結果が出ている。
今回、関西地区の大学を取材した折、ある就職支援サービス担当職員から聞いた話。
「私
たちの仕事は『ひとりひとりへのていねいなケア』がコンセプトのひとつである。出口(=
就職)できちんとしたケアをすると、学生の大学に対する帰属意識が非常に高まる。
」
大学を運営する側に立ってこれらをみるならば「授業中・授業外に教員と親しくつきあ
う機会を創出し、きめ細かい学生支援サービスを提供する」ことが、学生の大学に対する
帰属意識を高めるための重要な要件のひとつであるといえそうである。
そういえば「われわれの仕事」と「学生の大学に対する帰属意識・信頼感」との関係に
ついて示唆するものとして、専任職員向アンケートの自由記述欄に次のような意見があっ
た。
「学生が卒業するときに『あの人に世話になった』
『あの人のおかげで・・』と思い出
してもらえるスタッフをたくさん育成することが必要だろうと思う。そういう思い出があ
れば、卒業後、寄附もいただきやすいのではないか」
今、本大学の校友、とりわけ
若年層に大学への帰属意識が低い傾向が見られる。校友を対象として学外で募金要請活動
をしている教職員が「在学中、大学には何の世話にもなっていないから」という校友のキ
マリ文句に日々苦労している現実を前にして、こうした意見は、その重みをなおいっそう
増す。
さらにもうひとつ印象に残ったもの。やはり私大連が編んだ「大学の教育・授業を考え
る」というシリーズものの中で、ある私大の教員がこういっている。
「われわれ教員は、
自分の専門分野を媒介とした人のつながりがある。でも、所属する大学に対する共同体意
識や愛着心を媒介とした人のつながりは、かなり薄らいでいると思う。
」
「学生サービスの充実化」とは、学生の大学に対する帰属意識を創出する仕事でもあ
る。
61
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