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神戸医療産業都市地区 - 関西イノベーション国際戦略総合特区

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神戸医療産業都市地区 - 関西イノベーション国際戦略総合特区
神戸医療産業都市地区
関西イノベーション国際戦略総合特区
国内最高レベルの医療クラスターが起こす
橋渡し研究による医療産業イノベーション
神戸市では1998年から医療関連産業の集積を図る「神戸医療産業都市」
を推進し、
基礎研究を臨床応用につなげるための橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ)
を
核に取り組んできた。理化学研究所や先端医療センターをはじめとする各種研究機
関、270社を超える企業そして高度専門病院が集積する神戸医療産業都市地区で
は、
日本発の世界最先端研究の実用化が、
もう目前に迫っている。
事例① 独立行政法人理化学研究所
療法の開発に取り組んでいる。
事例概要
取 組み
加齢黄斑変性は、加齢などにより、眼の網膜機能が低下する
目の難病「加齢黄斑変性」の根本的治療法の確立を
目指し、世界初のiPS細胞を用いた臨床研究を実現
病気で、視界の中央部がゆがんで見えたり、視力が大きく低下す
る。日本における失明(ただし暗黒ではなく視力低下)の約1割
を占めているが、根治的治療法は今のところ存在しない。そこで
悪くなった網膜細胞をiPS細胞から作成した細胞シートと置き
換えることで機能回復を図る。
特区の支援
経済等への貢献
iPS細胞における安全対策
iPS細胞を用いた再生医
の特例等を国と協議、現行
療の実用化に向けて世界
植します。本人の細胞を使うので拒絶反応は起こらないと考え
法で対応可能と確認し、研
をリード
られます」と高橋さんは研究内容を語る。
究のスピードアップに貢献
「患者さんの皮膚からiPS細胞を作り、さらに網膜の色素上皮
細胞を作ります。これをシート状に培養して網膜の真ん中に移
今回の臨床研究の目的は、
iPS細胞を活用した再生医療の安全
性確認にある。対象となる患者は6名、50歳以上で矯正視力0.3
未満の人が選ばれる予定だ。さらに、実用化に向けた治験の計画
も進んでおり、企業による治験を経て国の承認が得られれば、
世界初、iPS細胞を使った臨床研究がスタート
2020年までに再生医療製品として市場に出る可能性もある。
「7年前にiPS細胞が開発されたとき、これを最初に実用化す
るのは私たちだと思いました。
『 一番だ!』というワクワクは、も
神戸医療産業都市地区では、世界最先端の再生医療研究が始
うそのときに感じていて、今は冷静
まっている。このビッグプロジェクトのリーダーを務めるのは、独
に『ようやく、ここまで来たな』と。
立行政法人理化学研究所
いよいよ本当の治療法を作る段階
(神戸市)の網膜再生医療
に向けた第一歩を踏み出せました」
研究開発プロジェクト プ
ロジェクトリーダーの高橋
政代 さん 。同 地 区 内の 先
端 医 療センターなどと共
同で、iPS細胞 ※1を使った
加齢黄斑変性の根治的治
理化学研究所
網膜再生医療研究開発プロジェクト
プロジェクトリーダー 高橋政代さん
と高橋さんは語る。
:神経や筋肉
※1 iPS細胞(人工多能性幹細胞)
などさまざまな細胞に成長できる万能細胞の
一つ。皮膚細胞等に特定の遺伝子を導入し
て作るため、同じく万能細胞で、受精卵から作
るES細胞(胚性幹細胞)
と比べて、生命倫理
の問題がなく、患者自身のiPS細胞からでき
た細胞は移植しても拒絶反応が起きにくい。
京都大学の山中伸弥教授が2006年にマウ
ス、2007年にヒトiPS細胞の作製成功を発
表し、2012年にノーベル生理学・医学賞を
受賞した。
加齢黄斑変性では、視野の真ん中
がゆがんで見えたり、ぼやけて見え
たり、暗く見えたりする。写真はゆ
がんで見える場合の例
■ iPS細胞を使った治療法
PMDAのスタッフが一緒になってアイデアを出し合うことが重
要だ。その意味でPMDA関西支部の設置は、iPS細胞にかける
網膜色素上皮(RPE)
細胞傷害
脈絡膜
角膜
国の意気込みを物語っている。
さらには特区の力を発揮して現場の声を国に届け、円滑な研
網膜
究体制を実現した例もある。
「 従来なら、iPS細胞を培養する場
硝子体
脳へ
瞳孔
合、取り違え防止などのために、一つの培養装置につき一人分の
視神経
新生血管抜去術
患者の皮膚からiPS細胞を作り、
移植用のシートを作製する
水晶体
細胞しか作ることができませんでし
た。これが管理を徹底することで複
数の患者さんの細胞を培養できるよ
うになり、今後、コストの飛 躍的な
黄斑
(中心窩)
低下が期待できます」
(高橋さん)
世界トップレベルの研究も、治療
iPS細胞由来RPEシート移植
iPS細胞
という形で患者を救 えて初めて本
当に意味のあるものとなる。そのた
めには治療コストが決 定 的に重 要
であり、コストは規制に大きく左右
される。安 全 性を確 保した上で、規
制 が 現 実に 即したものとなるよう
に、現場の声をしっかり届ける必要
日本が世界の再生医療をリードする
網膜色素上皮(RPE)細胞を作製
があるのだ。
※2 PMDA:独立行政法人医薬品医療機器総合
再生医療は2050年時点で世界市場が38兆円規模になると
機構。医薬品、医療機器の承認審査をはじめ、
予測される成長産業。
「市場をリードするには、日本のiPS細胞に
革新的な医薬品・医療機器・再生医療等の
早期創出に必要な薬事戦略相談や実地調査
関するスタンダードを国際基準とすることが必要です。安全面
等を行う。関西の先端的なシーズや研究成果
でも日本のレベルは非常に高いのです」と高橋さんは指摘する。
をいち早く実用化するため、関西特区として設
置を強く求め、2013年10月に関西支部が開
そうなれば、関西が再生医療の国際拠点として市場を牽引し、新
しい再生医療製品を次々と生み出していける可能性が高まる。
設された。
移植用RPEシート
そして再生医療をリードするには、iPS細胞の開発だけではな
く、その実用化が欠かせない。これまで日本の医療研究では、基
礎レベルでは優れた研究が数多くありながら、なかなか応用段
オールジャパン体制での研究推進
階に達しないことが課題とされてきた。iPS細胞はもちろん、日
本発の最先端技術。とはいえ、実用化に向けては、今まさに世界
中の研究者がしのぎを削っているところだ。
iPS細胞による再生医療の実用化には、国も全面的なバック
この実用化のカギを握るのが、神戸医療産業都市が得意とす
アップ体制を取っている。その象徴が、矢継ぎ早に行われた法
る、基礎研究を臨床応用につなげるための橋渡し研究だ。よく誤
整備である。2013年4月には再生医療推進法が成立し、11月の
解されるが、基礎研究が終わったからといって、直ちに臨床研究
臨時国会では改正薬事法と再生医療安全性確保法が成立した。
へと進めるわけではなく、実際には応用研究、実用化研究を経
「再生医療を推進するには法改正が重要なポイントと考えて
て、臨床研究へとステップを踏むことが求められる。その意味で
いました。iPS細胞ができた時点では、研究の足かせは法律だと
も今回、世界に先駆けて臨床研究がスタートしたことは、日本の
話していたのに、その法律の方が先に変わってしまった。これに
スタンダードを国際基 準とする上で限りなく大きなアドバン
は本当に驚きました」と高橋さんは国のスピード感を評価する。
テージとなる。
この一連のうねりを引き起こした力は、やはりiPS細胞にある
という。
「言うまでもなくiPS細胞を活用した臨床研究は、まだ世
界で誰もやっていません。実際に研究を進めてみて、初めて見え
特区制度の活用により実現できた研究体制
てくるハードルはいくつもあります。そうした問題には、規制緩
和などの特区のメリットを最大限に生かして、一つ一つ乗り越え
ていきたい。
『特区だからできる』という期待感を感じています」
「神戸医療産業都市には、現段階で最高水準の研究・臨床機
と語る高橋さんの頭には、既に次の構想が浮かんでいる。網膜
能がそろっています。しかも京都大学iPS細胞研究所(CiRA)に
に関する基礎研究から臨床応用、治療、そしてリハビリ(ロービ
も近い。PMDA※2 関西支部が設置されたことも、研究を大きく後
ジョンケア)までをトータルに対応する「(仮称)神戸アイセン
押ししてくれています」と、高橋さんは神戸の地の利を語る。
ター」の創設である。
例えば、山中伸弥教授率いる京都大学iPS細胞研究所と密に
「iPS細胞の臨床研究はもちろん、神戸アイセンターなど、私は
連携することで、論文発表される前段階の最新データなどをい
本当に新しいものをどんどん進めていきたいんです」と高橋さん
ち早く活用できる。また、過去に例のないiPS細胞に関するルー
は笑顔を見せ、
「だから特区制度を活用しながらどこまでできる
ル作りにおいて、実情に合った規制を行うためには、研究現場と
のかチャレンジしたいですね」
と今後の意気込みを語った。
事例② 株式会社カン研究所
■ 研究開発中の新規医薬品のコンセプト
事例概要
取 組み
フラクタルカインの働き
創薬につながる細胞生物学研究
免疫細胞
フラクタルカイン
受容体
接
接着
フラクタルカイン
特区の支援
経済等への貢献
新研究施設の開設に対す
革新的な医薬品創出によ
る税制支援
る国際競争拠点の形成
血管内皮細胞
細胞を出発点とした医薬品の研究開発
過剰な免疫細胞の浸潤による炎症
フラクタルカイン阻害剤の作用
阻害剤
生命の最小単位である「細胞」を出発点として、疾患の原因と
なる細胞の特異性等に注目することで疾患メカニズムを探索
し、疾患の予防や創薬につながる研究を行う、株式会社カン研
究所(神戸市)。1997年にエーザイ株式会社の100%出資で設
立され、2006年に神戸医療産業都市に研究拠点を移転した。
「当社は、エーザイでの従来の創薬とは異なる新たなコンセプ
トを自分たち自身で発見することを目指し、挑戦的なテーマに
取り組むことのできる少数精鋭の研究集団として設立されまし
炎症を抑制
細胞遊走因子ケモカインの一つであるフラクタルカインは、活性化した血管内皮細胞
や上皮細胞で誘導される細胞膜結合型ケモカインで、炎症性腸疾患、関節リウマチな
ど慢性炎症性疾患に関与する。カン研究所では、フラクタルカインに対する阻害剤を
発見し、
炎症性疾患の動物モデルにおいて顕著な改善効果を示した。
た。また、エーザイグループの一員であるからこそ、研究成果が患
者さまに届くまでの距離が短くなるといった強みもあります」
と、同社代表取締役社長兼研究所長の今井俊夫さんは説明す
る。同社が医 薬品の 候 補となりうる新 規物質を開発すれば、
iPS細胞を用いた再生医療で
画期的な技術開発に成功
エーザイがさらなる研究開発を進めて製品化につなげることが
できる。
同社では、細胞生物学研究の一環として、iPS細胞を用いた再
同社では、神経変性疾患、がんの再発・転移、難治性炎症・免
生医療の研究にも注力している。その取組みの一つが、京都大学
疫疾患の3つを重点研究領域として、これまでにない独創的な
などとの共同研究で行っているパーキンソン病の再生医療だ。
医薬品を生み出すことを目的に研究開発を行っている。
パーキンソン病は脳内の神経伝達物質・ドパミンが減ること
例えば、特区事業として進める「中枢神経系制御薬の開発」で
で、手足の震えなどの症状が出る進行性の神経変性疾患であ
は、アルツハイマー型認知症を対象に、画期的な医薬品の開発
る。治療法としては、ドパミンを分泌する神経細胞(ドパミン産
に向けた取組みを推進。エーザイが開発した認知症治療薬とは
生神経細胞)の移植が有効と考えられている。
異なる新たなアプローチによる医薬品開発を目指している。
そのような中、同社では細胞移植のために安全なドパミン産
また難治性炎症・免疫疾患を対象に、細胞遊走因子ケモカイ
生神経細胞を純化する技術を開発した。
「iPS細胞を分化して得
ン※3の一つであるフラクタルカ
られる細胞群に含まれる未分化細胞などには、腫瘍化するなど
インをターゲットとした創薬研
の懸念があります。当社では、Corinという物質に着目すること
究も進めており、革新的な医薬
で、細胞を高精度に純化す
品の創出が期待されている。
ることを可能としました」と
今 井 さん は 成 果 を 振り返
る。この技術は、パーキンソ
ン病の再生医療の進捗に大
きく貢 献 するだけでなく、
ほかの疾患に対するiPS細
カン研究所
代表取締役社長兼研究所長
今井俊夫さん
※3 細胞遊走因子ケモカイン:主に血管を構成する細胞の表面に存在し、免疫細胞の組
織への浸潤を促す。組織内に過度に集積・活性化した免疫細胞が局所的に組織の
細胞を破壊することで、
さまざまな免疫・炎症疾患が生じる。免疫細胞の組織への侵
入を防ぐことで、難治性炎症・免疫疾患の治療が期待されている。
胞を用いた細胞移植治療に
も将来的には応用が可能だ
という。
生体内を模倣した環境で細胞の動きを
観察できる顕微鏡システム
特区のメリットを生かして
新研究施設の開設へ
同社では特区の税制支援を受け、研究技能の強化および研究
規模の拡大のため、神戸医療産業都市地区内で新研究施設の
建 設・移 転を行った。新施 設は延べ床 面 積で従 来の約5 倍の
12,000㎡、研究員も40名から100名に拡大する予定で、2014
無菌的な細胞培養操作
年5月には、本格稼働を開始した。
新研究施設では、これまで同社が培ってきた細胞生物学に基
づく研究を強化、
「 体の中でどのように遺伝子や細胞、タンパク
質などの分子が動いているのかを見ることができる技術などの
研究能力の一層の向上」
( 今井さん)を図り、一日も早い創薬の
新規創薬ターゲット探索
のための免疫組織染色
実現を目指す。
特区制度を活用し、これまでと同じ神戸医療産業都市地区内
での拡大移転が実現したことで、既に構築した研究者とのネッ
神戸医療産業都市が実現する
オープンイノベーションを活用
トワークを維持、活用することができるといったメリットがあ
る。今井さんは、特区の成果として「PMDA関西支部ができたこ
とにより、意見交換を行いながら研究開発を進めることができ
同社ではこうしたiPS細胞を用いた再生医療の共同研究以
るので、非常に意味がある」とする一方、今後、特区に期待する
外にも、外部の研究機関との連携に積極的に取り組んでいる。
こととして、
「治験や臨床研究に関する規制緩和を早期に実現す
「科学と医療の両面からの研究なくしては、真に患者さまが必
要とされる薬は創れない」
( 今井さん)との思いがあるためで、
ることが、国際的な競争力を強化するためにはぜひとも必要」と
語ってくれた。
理化学 研究所との連携や、神戸大学医学部連携大学院として
の同大学との産学連携など、研究機関やアカデミアとの交流
を図っている。
「創薬には、外部との交流によって、異なるバックグラウンドと
考え方を持つ研究者が集ってスクラムを組む『オープンイノベー
ション』を育む場が必要です。その意味で、日ごろからほかの研
究者と情報交換ができる神戸医療産業都市は環境が整ってい
ます。患者さまの視点、臨床医師の視点をもとに、医療現場で役
2014年5月に
稼働を開始した
新研究施設
に立つ医薬品を世界に先駆けて開発していきたい」と、今井さ
んは力強く語った。
神戸医療産業都市地区
神戸医療産業都市の区域
神戸医療産業都市地区では、医薬品や再生医療などの実用化に向け、ライフ分野を中心に、多く
兵庫県神戸市 中央区・灘区・兵庫区・西区 の一部
神戸医療産業都市
(神戸市中央区)
のプロジェクトが展開されている。
PMDA関西支部の薬事戦略相談連携センターが同地区内に設置されたほか、京都大学発のベ
アルツハイマー病の根本治療薬の開発に取り組んでいる。同じく高齢化により患者の増加が予想
される緑内障については、千寿製薬株式会社が新しい治療薬の開発に注力している。さらに大日
ポートライナー
ンチャー・TAOヘルスライフファーマ株式会社は、急速に進む高齢化への課題を解決するために、
神戸市立
医療センター
中央市民病院
本住友製薬株式会社は、iPS細胞を用いた網膜再生などの治療薬研究に取り組み、2014年には
本特区の税制支援を受けて、新たな研究施設を開設した。
医療センター駅
理化学研究所
カン研究所
また、同地区では、高度専門医療分野に特化した医療機関の集積による国際医療交流拠点の形
成を目指しており、内視鏡治療などの高度医療の提供に加え、外国人医師への医療機器・技術ト
レーニングを行う神戸国際フロンティアメディカルセンター病院、神戸低侵襲がん医療センター、
先端医療センター
西記念ポートアイランドリハビリテーション病院の3病院が、税制・金融支援を受けて、各病院施
神戸空港
設を建設。また、公益財団法人先端医療振興財団が中心となり、医療機器の開発・実用化を加速さ
理化学研究所
スーパー
コンピュータ
「京」
*青色部分が対象区域
せる取組みである「医療機器等事業化促進プラットフォーム」を財政支援を受けて開設した。
関西国際戦略総合特別区域地域協議会事務局
〒530-0005
大阪市北区中之島5丁目3番51号 大阪国際会議場(グランキューブ大阪)11階
http://kansai-tokku.jp/
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