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兵庫県におけるニホンジカの生息密度指標と捕獲圧,農業被害の関連

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兵庫県におけるニホンジカの生息密度指標と捕獲圧,農業被害の関連
原著論文
坂
The
兵庫県におけるニホンジカの生息密度指標と
捕獲圧, 農業被害の関連
田
宏 志1 )* 濱 畸 伸一郎2), 岸 本 真 弓2), 三 橋 弘
三 橋 亜 紀3), 横 山 真 弓1), 三 谷 雅 純1)*
Relationships
between
Damage
Hiroshi Sakata
Aki
Sika
Deer
to Agriculture
1 Shin-ichro
Mitsuhashi
in Hyogo
Hamasaki2),
3\ Mayumi
Density,
Mayumi
Hunting
Pressure
and
Prefecture
Kishimoto2), Hiromune
Yokoyama1',
宗1),
Masazumi
Mitani
Mitsuhashi
1\
1 -1*
Abstract
Density of Sika deer has increased in Japan since the 1970s, and it has caused serious damage
to agriculture and forestry since the 1980s. We studied the relationships between
density, hunting pressure and damage
ascertain the relationship between
corresponding to 4km
(NS) X 5km
intense in the grids where
to agriculture in Hyogo
deer density and hunting
Sika deer
Prefecture in 1999-2000. To
pressure, we analyzed
data
(EW) grids.The hunting pressure on Sika deer tended to be
deer density was high. An
increase in deer density in a grid was
affected by hunting pressure on females in a wide range including neighboring grids,rather than
that on males and hunting pressure in the grid.The deer causing damage
to exist within 2.5 km
to agriculture seemed
from the border of farms. The higher the proportion of Japanese cedar or
Japanese cypress plantation in forest areas around farms was, the greater the damages
to farms
by deer. Based on these results,we discuss how we should apply them to wildlifemanagement
and what we should study to supplement the limitationsof existing research.
Key
words : wildlifemanagement,
population dynamics, human-sika deer interactions,landscape,
forestry
は
じ
め
林業 被害や 自然植生 への影響が 全国的 に顕在化して きた
に
(自然環境研 究センタ ー, 1999).
日本列 島ではニ ホンジカ の狩猟 資源として の活用 と個
兵庫県 にお いても, 特に中 山間地域で シカによ る農林
体数減 少にともな う禁猟措 置, 農業 被害軽 減のため の駆
業 被害が 深刻化し, 被害 額は1993 年に7 億円, 1999 年
除が繰り 返され てきた( 田口,2000).
近年で は戦後 に
には5 億 円にも上る と見積も られている. シカ によ る林
ニ ホンジカ の個体 数は減 少し てい ため, 1947 年から全 国
業 被害はやや 減少した が, 農業 被害は未 だ増加 傾向 にあ
でメス ジカ の狩 猟禁止措 置がとら れた. そし て, 1970 年
る. このよ うな状況 の中, 被 害防止のた めの防護 柵が積
代以降 にはニホ ンジカ の密度は 増加傾向 にあっ たと考え
極 的 に 設 置 さ れ, 1999
られる が, 1978 年 には狩 猟者1 人あ たり1 日1 頭とい う
2,300km に上っ てい る. 1993 年 に本州 部で メスジカ の
オスジカ の狩猟 制限が設け られ, 1980 年代 に入ると, 農
狩 猟が解禁さ れ,2000 年には 特定鳥獣 保護管理 計画が策
1)兵 庫県 立 人と 自 然 の 博物 館
Management,
Museum
自 然・環境 マ ネ ジ メン ト 研 究 部
2)野生 動 物 保護 管 理 事 務 所Wildlife Management Office; F
3)c/o 兵 庫県 立 人 と 自 然 の 博 物館
6, Sanda, Hyogo,
〒669-1546
of Nature and Human Activities, Hyogo;
年 の時点 で総 延長 は累 計で
兵庫 県 三 田 市弥 生 が 丘6 丁 目 Division of Ervironmental
Yayoigaoka 6,
Sanda, Hyogo,
669-1546 Japan
ujiwaradai-minami 4-1 0-2, Kita,Kobe, 651-1303 Japan
自 然 ・ 環境 マ ネ ジ メ ント 研 究 部 Museum of Nature and Human Activities, Hyogo; Yayoigaoka
669-1546 Japan
* 兼 任: 姫 路 工 業 大 学
自然・環境科学研 究所
Sciences, HIT; Yayoigaoka 6,
〒669-1546
Sanda, 669-1546 Japan
三 田 市 弥 生 が 丘6 丁 目 Institute
of Natural and Environmental
定されたが, 兵庫県 では一 貫し て個体数 を抑制する方 針
(北海道環境生活 部,2000).
がとられてき た( 兵庫県,2000).
り というニホ ンジカ推定個体 数も, 大き な誤差があ り得
兵庫県 内で 生息 する シカの個 体数 は1999 年 の時点 で
同様に, 兵庫県 の3 万頭余
ることは強く 認識し ておかな ければな らない.ましてや,
3 万頭余り と推定されてい るが( 兵庫県,2000),2000
大 型哺乳類 の個 体群動態 を予 測する有 効な手法は 未だ確
年には狩 猟や 有害駆除 によ り捕獲された シカの個体 数は
立さ れていな い.
約1 万頭 に上り, 全国 の都道府県 の中で2 番目 に多 い.
野生動物 を含 む生態系 のマネージ メント におい ては,
現在, シカは 農林業被 害を引き起こす 害獣として の見
このような現 状を前提に策 を練る必 要がある. たとえ正
方が強く, 資 源とし てはそ れほど重視さ れていない. し
確 な値を出す ことができなく ても, そ の時点で, できる
かし, シカ は古くか ら日本人にとっ て重要な 食糧であり,
限 り正確だ と考えられる推 定値を割り 出す努力 をし, そ
そ の皮革や角骨 は生活必 需品でもあった( 原田, 1993;
の時 点で最 善と思われる 計画を立て る必要がある. そし
田口,2000).
欧米 諸国をはじ め多 く の国々では, 今 日
て, そ の後 のモニ タリング 調査を怠 らず, 誤りが 明らか
でもシカの狩 猟資源として の価値が認 められ, そ の保護
にな れば, 率直に誤りを訂 正し, 計画を修正する アダプ
と管 理のため の努力が続け られている.
テ ィブ ・マ ネー ジメ ント の手 法を 取り 入 れる 必 要が あ
日本でも, 北 海道では, エゾ シカの保 護管理の取り 組
みを進め( 梶 ほか, 1998 ; 梶, 2001),
る.
増加し たシカ の
現在の兵庫県 にお けるシカ の個体 数調整の主な目 的は
駆除個体の有効利 用を図って いる(大泰司・本間, 1998).
農 林業 被害 の軽減であるが, これは 単にシカを捕 獲すれ
たとえば 足寄町で は, 1992 年 度から「エゾ シカ有効活 用
ば 実現する問題で はない. 場合によって は, 数を減 らし
検 討モデル事業」 とし て, 販売利益で被 害の補填や対 策
て も被害の軽減 につながらな いこと もある. 被害 の軽減
費に充足するた めに, 町が シカ 肉を平均1 頭3 万円程 度
のた めには, シカ の個体数 と農林業被 害量の関係を正 確
で 食肉とし て 販売し ている. この例から, 大まかに 計算
に把 握する必 要がある. 個体 数の動向や 生息地の状 態の
し て, 兵庫県 の3万頭以 上のニホン ジカ は9 億円以上 に相
把握 はもちろ ん, シカの生息 密度がど のように変化し た
当する共有財産であ ると考え られる. そし て, 適切な 狩
ら 農林業 被害 がどのよう に変化 するか, あるいは, 農耕
猟資源の保全を行 い適切 に流 通さ せたな らば, 毎年1 万
地か らどの程度 の距離に生息 するシカ が農業 被害 に関 与
頭( 約3億 円程 度) の生 産を持 続的 にあげ ること も可 能
して いるのかなど の知識なくし て, 適 切な 被害管理は不
な のである. 解体, 加工, 流 通販売まで考え ると, シカ
可能で ある. さ らに, 狩猟や 有害駆除 によ る捕獲圧が,
の有 効利用が中山 間地域 の経済に与える効果 は大きい と
シカ の個体数や 農業 被害にど のような効果 を及ぼし てい
思 われる.
る のか を検証する 必要がある. し かし, 現 在の兵庫県 に
当 然のことなが ら, 人間か ら見 たシカ の価 値は, 資源
として の価値だけで はない. 日本では数少な い大型 の野
は, これらの検 証に必要なデ ータが不足し ているし, 解
析に充 分な努力がなさ れてい るとは言えな い.
生草食動物である シカ が生態系 の中で果たす 役割は重 要
本 稿では, 現時点 で著者ら が入手可能なデ ータを用い
であろ うし, 文化的 にも精神的 にもシカが 生息 すること
て, 兵 庫県 におけ るニ ホンジカ の分布や生息 密度, 各地
に価 値を認める人は多 い. こ れら の価値は簡 単に貨幣 に
での 増減の傾向を推定し, 捕 獲圧や農業被 害との関連を
換算でき ないが, 経 済的な資源とし ての利用価 値に劣ら
解析す る. これによっ て現時点で 最も妥当だ と思われる
ず重 要で, 人類にとっ てかけがえ のないも ので ある.
(1)生息 密度と捕 獲圧 との関係,(2)生息密度 と捕獲圧がシ
現在, 兵庫県も含 め日本各地で 捕獲による個体 数の調
整が行 われている. し かし, 科学的 ・計画的な 保護管理
を適切 に行わなければ, 再び, 過去 の乱獲によ る個体数
カの 生息密 度の変化 率に及ぼし て いる影 響(3)生息 密度
や周辺 の環境と農業被 害の関係 を推定する.
これら の解析の過程 で, 現状 のモニタリング 法とデー
激減 の轍 を踏み, 貴重 な資源と財産 を減らす ことになる
タ解析 の問題点を明ら かにすると共 に, より効果 的なモ
だろう.
ニ タリング 体制確立 への指針や, 解析結果を保 護管 理へ
個体数 の激減や生息 状況の悪化を 防ぎ, 農林業 被害を
活用し ていく 方策を検討し たい.
軽減するた めには, より 正確な個体数変 動の把握 と将来
予測が必 要で ある. し かし, 大型哺 乳類の個体数 の推定
方
法
や変 動 の予測 は 現時 点 にお いて 非常 に 困難な 課 題で あ
る. 例えば, アダプ ティブ ・マネー ジメント の手 法を導
糞塊密度と 狩猟報告による 密度指標
入し 日本で もっ とも保 護管 理のため の調査に力 を入れて
兵庫県 のよう に地形 の起伏が激しく 密茂した森 林が多
いる 北海道 にお いて も, 当 初12 ±4.6万 頭と推 定さ れて
い 地域において, 直接シカ の個体数 を正確に数え ること
いた1994 年 のエゾ シカ の個体数が,2000 年には1994 年
は 困難である. 本稿では, 1999 年11 月と2000 年11 月の
の個体数は20 ±4 万頭であっ たと修 正された ほどであ る
糞塊密度調査 と猟期(11 月15 日から翌年2 月15 日) にお
ける狩 猟報告を 基にした 出猟人・ 日あたり のシカ目 撃数
生動物保 護管理 事務所2000) が,2000 年 には兵 庫県 の
( 努 力 量 あ た り 目 撃 数) を 基 に 密 度 指 標 を 計 算 し た. 密
事業として は40 ル ート の調査し か行 われなかっ たため,
度 指 標 は 該 当 地 域 の 森 林 にお け る 尾 根 上 にル ー ト を 設 定
著 者 らで 独自 に20 ルート の調 査を 同じ 時期 に 追加し て
し て, 1km
行った.これら のデ ータ を併せて 本研 究 の解 析に用い た.
あ た り の糞 塊 数を 単 位と し て表 す こ とと す
る.
糞 の残存 率は 季節や 植 生によ って 異な る( 岩 本ほ か,
兵 庫 県 で は 全 県 を 緯 度 幅2 分30 秒 × 経 度 幅3 分45 秒
( お よ そ4kmX5km
2000 ; 池 田, 2001; 遠 藤, 2001)
ため, 糞塊密 度によ
程 度) の 方 形 区 に 区 切 り, そ の 区
る調査結果 は季節 によ ってば らつきが 生じ る. そ のため
画( 狩 猟 区 画) を 単 位 と し て 狩 猟 報 告 や 糞 塊 密 度 調 査 を
兵庫県 におけ る糞塊 密度調査は, 季節 をあわせて 全て11
行 っ て い る. 方 法 の 詳 細は 次 節 以 降 に 示 す が, 狩 猟 報 告
月に行っ た. また, で きるだけ多 様な 植生や環 境条件を
に よ る 努 力 量 あ た り 目 撃 数 は, 猟 法 や 狩 猟 者 の 技 量, 報
通過するよ うにル ート を設定し, 毎年 同じ ル ート を踏査
告 に 関 す る 理 解 度 な ど に左 右 さ れ る. 本 研 究 で は, 専 門
す ることで, 環境条 件による年 度ごと のデ ータ のば らつ
の調査員 が一定 の時期 に一定の方 法で行っ た糞塊密度 調
き を少なく する努力 をし た.11 月には 糞虫など による糞
査 の 結 果 を よ り 信 頼 性 が 高 い と 見 な す. し かし, 糞 塊 密
の分解は 少な くなる が, 落ち葉 によって 発見率が 低下す
度 調 査 の 実 施 し た 区 画 は 限 ら れ て い る た め, 糞 塊 密 度 調
る という課 題もある. ただし, この糞塊 密度調 査の結果
査が 実 施さ れて い な いが 狩 猟報 告 のあ る 区画 にお い て
は, 同じ時 期に同じ 区画で行 われた区 画法による 密度推
は, 両 方 の 数 値 がそ ろ っ て い る 区 画 のデ ー タ か ら 努 力 量
定 結果 とも比 較的高い 相関 を示し(1996 年 の調 査n=14
あ た り 目 撃 数 と 糞 塊 密 度 と の 関 数 を 回 帰 分 析 で 求 め, そ
でR2=0.655, p く0.001,1999 年 の調査n=7 でR2=0.827,
の 回 帰 式 よ り, 尾 根 上 の 踏 査1km
pく0.001),生息密度 の指標とし て有効で あると考 えら れ
あ たり の糞塊 数 に換
算し て 密 度 指 標 とし た.
る( 野生動物 保護管理 事務所,2000; ただしp 値は 生デ ー
こ の 密 度 指 標 は, 決 まっ た 方 法 で 糞 塊 を 数 え な が ら 歩
タ を基 に新 たに計算し た).
く こ と に よ り 比 較 的 容 易 に 確 認 す る こ と が で き る. 確 認
が困難な 個体数や 努力量あ たり目 撃数より も容易に 観測
狩 猟報告のデ ータと努力 量あた り目撃数 から糞塊 密度 へ
で き る 指 標 を, 予 測 値 や マ ネ ー ジ メ ント にあ た っ て の 目
の換算
標 数 値 とし た ほ う が, 解 析 結 果 の評 価 や 保 護 管 理 計 画 の
実 施 効 果 を 検 証 す る 上 で 好 まし い.
兵庫県では, 猟期 にお ける シカの狩 猟の際 に, 狩猟 に
入っ た年 月日, 場所を示 す区画 番号, 狩 猟者数, シカ の
目 撃頭数と 捕獲頭数 をそ れぞ れオス, メスに分けて 報告
糞塊密度 の測定法 と密度指 標として の有用性
糞 塊 密 度 測 定 の 方 法 は 以 下 の 通 り で あ る.1 つ の 狩 猟 区
画 の な か に, そ れぞ れ 約5km
の踏査ル ート を森 林 の尾
根 上 に 設 定 す る. 尾 根 は シ カ の 獣 道 が で き や す く, シカ
す るよう狩 猟者に依 頼し ている. そ の結果, 80% 以 上の
狩猟登録者 からの報告 を, 環境 政策課鳥 獣保護 係がとり
まとめている. のべ にし て1999 年 に21,717 件,2000 年
に23,492 件の出猟者 による報 告が集まっ ている.
が 生 息 し て い れ ば 糞 塊 が 落 ち や す い 所 で あ る. ま た,ル ー
努力量あ たり目撃数 から糞塊 密度を 単位とした 密度指
ト 内でな るべくそ の区画 に出現す る植生を 網羅して 踏査
標 への換算 については, 狩猟報 告と糞塊 密度調 査の両方
す る こ と が で き る よ う にル ート を 設 定 し た. 調 査 員 は,
のデ ータがあ る区画 のデ ータを 用いて, 回帰分析 により
ル ー ト を 歩 き な が ら ル ート の 両 側 各1m
ず つ の 範 囲 にあ
換 算式を導い た. こ の換算式 に基づいて, 糞塊密度 調査
る10 粒 以 上 の 糞 粒 の 認 め ら れ る 糞 塊 の 数 を 記 録し た. 複
は 行っていな いが, 狩 猟報告 のある区画 の糞塊密 度を推
数の糞塊 が重なっ ている ときや一つ の糞塊 が分散して い
定し 密度指 標とし た. 回 帰モデル は(1)式の通りで, a,b,
る と 思 わ れ る と き は, 糞 粒 の 大 き さ, 形 状 お よ び 新 鮮 さ
cを 最小 自乗法 によ る非 線形回 帰を 行っ て推 定し た. 最
の 違 い を 識 別 し て, 一 つ の 糞 塊 か 複 数 の 糞 塊 か を 判 断し
適化 には修正ガ ウス ーニ ュート ン法を用 いた.
て 糞 塊 数 を 記 録 し た.
約5km
の 踏 査 ル ー ト の う ち, 植 生 の 境 界 や 地 図 上 で わ
か り や す い 地 形 の 区 切 り ご と に, 各 ル ー ト に10 か ら20 程
目 撃 数b
密度指 標(糞塊数/km)=aX
・ ・
・(1)
出 猟 者C
度 の 小 区 分 を も う け て 小 区 分 ご と に 記 録 し た が, 本 稿で
は 各 区 画 の 森 林 内 で の 生 息 密 度 を 示 す 指 数 とし て, 踏 査
密度 指標と密 度指標の変 化率, 捕獲圧, 人 間の土 地利用
ル ー ト で の1km
との 関係の解 析
あ た り の 平 均 糞 塊 数 を 用 い た.
兵 庫 県 で は 鳥 獣 保 護 事 業 の 一 環 とし て, シ カ の 糞 塊 密
1999 年と2000 年 のシカ の密度指 標から1 年間 の変 化
度 調 査 を 行 っ て い る. し かし, 調 査 地 点 数 や 継 続 性 か ら
率 を計算し, 変 化率と 密度指標, 捕獲圧と の関係を 区画
見 て 未 だ 充 分 な 調 査 で あ る と は 言 い 難 い. 1999 年 に は 兵
単位 のデ ータ を基 に解 析し た. まず, Mallows のCp 値
庫 県 の 鳥 獣 保 護 事 業 と し て119 ル ー ト が 調 査 さ れ た( 野
(Mallows, 1973 ; 丹後,2000
の解説を 参照) によ る
表1
解析に用いた変数のリ スト
説明変数 の選択手法によっ て重回帰モデ ルにおけ る密度
係 数 がO よ り 大 き く な らな い よ う にし た.
指 標の変化率 に対する 説明変 数を選 んだ. 用意し た説明
変 数は, 1999 年 の区画 のシ カ密度指標, 隣接区画 のシカ
農 業 被 害 と 個 体 数 指 標, 人 間 の 土 地 利 用 の 関 係
密度指標, 隣 接区画のシカ 個体数指標( 密度指標 に, 隣
著 者 ら が 入 手 す る こ と ので き た 農 業 被 害 に 関 す る デ ー
接 する8 区画 の森林面積 をかけた指標),該当区画 のメス
タ は, 兵 庫 県 が と り ま と め た シ カ によ る 被 害 面 積 と 被 害
に対 する捕獲圧, 該当区画 のオスに対す る捕獲圧, 隣接
金 額 を 市 町 別 に 集 計 し た デ ー タ で あ る. こ の た め 農 業 被
区画 も含めた広 域のメス に対 する捕獲圧, 隣接区画 も含
害 に 関 す る 解 析 は 市 町 を 単 位 と し て 行 っ た.
めた広 域 のオス に対する 捕獲圧 の7 変数で ある( 表1).
農 業 被 害 の面 積 と 金 額 に対 し て, 説 明 変 数 をMallows
変 数を 選んだあ と, 捕 獲圧には 猟期 に入る1999 年11 月
のCp 値 を 用 い た 説 明 変 数 の 選 択 手 法 に よ っ て 用 意 し た
15 日 から2000 年11 月15 囗の 猟期 前 まで の狩 猟 と有 害
次 の変 数 の 中か ら 選 ん だ( 表1). 用 意 し た 説 明 変 数 は, 農
駆 除 を含 めた 森林 面 積あ たり の年 間 捕獲 個体 数 を用 い
耕 地 の 周 囲2.5km お よ び5km
た. 有害 駆除 に関し て は1999 年 に2012 件,2000 年 に
カ 個 体 数 指 標, 農 耕 地 の 割 合, 森 林 にお け る 植 林 面 積 率,
1918 件の情報が 得られている.
住 宅 地 や 工 場 人工 建 造 物 が 占 め る 面 積 の 割 合, そ し て,
さ らに, 説明変 数選択 の後, 説明変数同 士の相関も 解
の範 囲の森 林 におけ る シ
農 耕 地 が 森 林 に 接 す る 長 さ で あ る. こ れ ら は 環 境 庁 の 自
析す るために共 分散構造分 析を行って各変 数の関係を示
然 環 境 情 報( 環 境 庁, 1999)
す パス図を作成し た. 共分 散構 造分析は, 得られた多変
告 のデ ー タ か ら, 地 理 情 報 シ ス テ ム(GIS) を 用 い て 計 算し
量デ ータの変数 間の直接・間 接の因果関係 を定量的に推
た. 個 体 数 指 標 に は, 該 当 す る 森 林 面 積 と 密 度 指 標 の 積
定す る解析手 法である( 豊田1998 の解 説を参照). こ の
解析 にあたっては, 捕獲圧が 密度指標の変化 率にプラス
に働く ことはない と言う事 前の制約をもうけ, そ の因果
(正 確 に は100m
と, 上 の 密 度 指 標, 狩 猟 報
四方 のグリッド を単 位とした 該当森 林
内 の 各 グ リ ッ ド の 密 度 指 標 の 合 計) を 用 い た.
表2
狩 猟 報告 に よ るデ ータ か ら 糞 塊 密度 指 標 を 計算 す る 換 算式 の 推 定 結果
目撃 数ろ
モデル 式 糞塊 密 度= αX ー
の 各 係 数 、 指 数 の 推 定 値 を 示 す 。 実 際 の 糞 塊 密 度 と 推 定 値 の 相 関 係 数 は0.61 で あ っ た 。
出 猟 者C
結
果
密度 指標と変化 率, 捕 獲圧の関 係の解析
密度指標と変 化率
シカ の密度 指標と変化 率, 捕 獲圧 の関 係を解析し た結
回帰 によ って推定し た, 糞塊密度 と狩猟報 告による 目
果, 各区画 にお ける密度 指標 の変化 率 に影 響する変 数と
撃個体数 と出猟者 数の換算式 は(2)式 の通りで あった. 推
して, (1)区画のシ カの密 度指標(2)
定 誤差等は 表2 に示 す.
個体 数指標, (3)隣接区画 を含め た広 域 のメスに対す る捕
獲圧,(4) 隣接 区画を含 めた広 域のオス に対 する捕 獲圧,
目撃数0.73
密度指 標(糞塊数/km)=2.89 ×
出猟者0.47
隣接 区画のシカ の
゜゜(2)
(2)式よ り推 定し た糞塊 密度 をベー スにし た1999 年 の
の4 つ の変数 が選ば れ, 図3 のよ うなパ ス図を得た. 共
分散 構造分 析にお いては, 広域 のオスに対 する捕獲圧 は
密度指 標の変化 率に対して 有意で はない(t-test p=0.42)
ニ ホンジカ の密度 指標と1999 年 から2000 年の 密度指標
小さな 正の因果 係数(十〇.05)
を示し たが, プ ラスの影 響を
の変化 率を 図1,2 に示 す. 大 まかな 傾向 とし て, 1999 年
持たな い という 事前 の制約 に違反し た ので 因果 係数は0
に 密度指標 の高かった 生息地 の中心では 密度指 標は横這
に固定し た. 以下 に個別 の関係 につ いて述 べる.
いかや や減少で, 密度指 標の低 かった 周辺部で 増加する
傾向 にあった.
図1
推定 さ れ たニ ホン ジ カ の 生 息 密度 。尾 根1km
の密 度 に換 算 し て 表 す。
あ たり の 糞 塊
図2 推定さ れたニ ホンジカ の生息 密度 増加率。図1 の糞塊密度
をベースに増加率を自然対数で表す。
坂田
図3
宏志 ・ 濱崎 伸 一 郎・ 岸 本
真弓 ・三 橋
弘 宗 ・三 橋
亜紀 ・ 横 山
真 弓 ・三 谷
雅純
ニ ホ ン ジ カ の 生息 密 度 と 増加 率 、 狩 猟圧 の 関 係。 右 側の 変 数 のう ち 、 ニ ホ ン ジカ の 生 息 密度 の増 加 率 に 関す る 説 明 変 数と し て 選ば
れ た 変 数 につ い て パ ス解 析 を 行っ た。 矢 印 の 太さ は は 始点 の変 数 が 終 点 の変 数 に 及ぼ す影 響 の 大 きさ を示 し 、 赤 い矢 印 は 正 の、 青 い 矢印
は 負 の作 用 をあ らわ す。 数字 は 標 準化 さ れ た因 果 係 数 と標 準 誤 差。 両 端 の矢 印 は 外 生変 数 間 の相 関 を示 す 。e は 誤 差変 動 を 示 す。
密度指標, 周辺の個 体数と密度指 標の変化率の 関係
る密度効果 は捕獲圧 の効果を介さ ない直接的な 効果とし
シカ の密度指標 の変 化率は区 画内の密度指 標に影響さ
て-0.33,密度指標が 高いところで 捕獲圧が 高く なるとい
れ, 密度 指標の 高い ところでは 増加傾向は弱く, 密度指
う捕 獲圧の密度 依存的な 効果を 介し た間 接効果とし て,-
標の低い ところでは 増加傾向にある と推定さ れた.また,
O。20
×0.29で-0.058, 総 合的な密度 効果として は合わせ
隣 接区 画の シカ 個体 数 指標 が 密度指 標 の変 化 率に 影響
て-0.39とな る。
し, 個体 数の多 い区画 から個体数 の少ない区画 へのシ力
の移動が あることが わかる( 図3).
狩猟の影 響
各区画で のシカ の密度指標 の変化 率に対する狩 猟の効
果について は, そ の区 画内だけ の捕 獲圧でなく, むし ろ
隣接区画 も含 めた広 域の捕獲圧と の相関が高い ことがわ
かった. オスジカに対 する捕獲圧が 密度指標 の変化 率に
及ぼ す影 響は弱く, メ スジカに対す る捕獲圧が 密度指標
の変化率 に及ぼ す影響は 有意であっ た. ただし, 標準化
された 因果係 数は-0.2程度でそ の効果 には 区画によ るば
らつきがあ る( 図3, 4).
密度指標と捕 獲圧, 密度 指標の変化率 の関係
捕獲圧は 密度依存的で, シカ密度指 標や 周辺 の個 体数
の多 い区画で 強い傾向 があっ た. 密度効 果に注目して パ
ス図を単純化 すると, 区画内の密度指 標と広域 の捕獲圧
と変化率 の相 関関係は図4 のようになる. 変化率 に関す
図4
簡 略化 し たニ ホン ジ カ の生 息 密 度と 増 加 率、 狩猟 圧 の 関 係。
図3 を 特 に注 目 す べき 増 加 率 とメ ッ シ ュ の密 度 、メ ス に対 す る 狩 猟
圧 の3 変 数 に絞 り、間 接効 果 も 含 めた 因 果 係 数を 計 算し て 示 す。 見
方 は 図3 と同 じ。
このよ うな総合 的な密度 効果の影 響は, 現 在のところ 高
周囲5km よ りは2.5km 程 度 の農 耕地 の近 く にい るシ カ
密度 の区画で 増加がない か,や や減少気 味という 程度で,
が農業被害 に関与して いると考 えられる( 図6).
中 には 高 密度 も 関 わら ず 増加し た 場 所 も みら れた( 図
このよう に周囲2.5km のシカ生息 数と農業 被害 には, 比
5).
較的強い 相関がある ものの, 同じ シカ の個体数指 標でも
被 害が多い 市町と, 少な い市町 があるこ とがわかる( 図
農業被 害を左右 する要因 の解析
7).
農業被 害面積と 被害額 ともにそ の変 動を 説明する変 数と
そ の要因とし て, ラ ンド スケ ープ の観点 から, 農 耕地の
し て, (1)農 耕地の2.5km の範 囲に存在する シカの個 体数
周囲2,5km の範囲にある 森林の 植林率 の高いところ では
指標と, (2)農耕地 の周囲2.5km の範囲にあ る森林 の植林
被害が大きく なる 傾向 がある ことがわ かっ た. また, 農
率, (3)農耕地が森 林に接す る境界 の長さ, の3 変 数がCp
耕地が森 林に接する 境界が長い 市町 ほど農業被 害は多 く
値 による 変数 選択 法によ り 選ば れ た. 周囲5km
なっ ていた( 図6).
の 範囲
のシカ 密度指 標は選ば れなかっ たことか ら, 少なく とも
図5
ニ ホ ン ジカ の糞 塊 密 度 と増 加 率 の 関 係。
図 ア ニ ホンジカ の生息 個体数と 被害面 積の関 係 生息個体数の
指標については図6 と同じ。
図6
ニ ホ ン ジカ によ る 農 業 被 害面 積 、 被 害 額と シ カ の 生息 数 、 ラン ド ス ケ ープ 構 造 の 関 係O
見 方 は 図3 と 同 じ。 ただ し、 生 の作 用 は 実
線 で、 負 の 作 用 は点 線 で 示 す。 シカ の 個 体 数 指 標は 推 定し た 糞 塊 密 度 に対 象 と な る 面積 を 掛 け たも の と す る。
考
察
る方 が効果的な 場合もある. そ の点て, 兵庫県 域 とい う
広 いス ケールで の調査 を行う ためには,1 人日で5km の
生息密度の推 定とモニタ リング調査 につ いて
踏 査が可 能な糞 塊密度 調査は, 1km 四 方を約5 人 日(10
兵庫県 のニ ホンジカ のよ うな起伏 の大きく密茂した 森
人で 半日)かかる 区画法や, 狭い 範囲に労 力を集中させ る
林に生息し, 人間に対して 警戒の強い 大型動物の 生息 密
糞粒 法と比 べて 現実的で効果 も高いと考え られる.今後,
度を正確に推定 することは 非常に困難であ る. しかし,
糞塊 密度調査と 狩猟者の協力 による努力 量あ たり目撃数
生息密度を反映 すると考え られる区画法 によ る推定値,
や 捕獲数は兵庫県 にお けるシカ 生息密度推 定の重要な柱
糞塊密度, 努力 量あたり目 撃数は, そ れぞ れ相互に 高い
にな るであろう.
相関があり, 糞塊密度も 密度指標として利 用できると 考
え られた. 詳 細に定量的な 値を求めたり, 非線形 の反 応
個体数 の変動と捕 獲圧 の調整 について
曲線を推定したり するため には, 精度は充 分とはいえな
シカ のみならず 動物の個体群 動態や環 境収容力を考え
い が, 他の変数 との相関関 係や 全体的な 傾向 を把握する
るとき, 密度依 存的な 効果の 働き 方を検討 することが重
目的 であれば, 大きな問題はない と思わ れる.
要であ る. 特に 本稿のように 野外の開放系 の個体群にお
努力量あたり目 撃数について は, 単純に目 撃数を のべ
いて 密度の影響を扱う 場合はレ 直接的な干渉や 資源をめ
出 猟者数で割るよ りも, 目撃数 の0.73乗を のべ出猟者数
ぐる種 内競争よる 繁殖率の低下, 死亡率 の増加, 移出入
の0.47乗で割った ものほう が糞塊密度調査 の結果とより
に及ぼ す影響まで考 慮し なくては ならない. さ らに, 密
当て はまりがよい ことがわかった. 特に集団 による巻き
度の高い ところでは人 間による 捕獲圧が高 まって変 化率
狩り が主 に行わ れて いる兵庫県 の狩猟では出 猟者数の 増
を下げる 効果など, 間接的な相 互作用も含めた 様々な夕
加がそ のまま目撃 数の増加に 結び つかないた め, このよ
イプ の密度効果を検討 する必要があ る.
うな 換算式が妥当であ ると考えら れる. こ の換算式は,
個体数 の安 定性や変 動の大きさは, 密度と 密度の変化
狩 猟 の形態 や 猟場 の状 況, 狩 猟 報告 のと り まと め方 に
率の関数や, 密度効果や 狩猟の効果 が働くタイ ムラグの
よって変 わっ てくる であ ろうから, 今後も, 時 と場合に
幅など多く の要因によっ て決まる. 自然の繁殖 率や 死亡
よって 回帰式を検討し 直す必要があ る.
率に対する 密度効果は 人間が簡単 に操作できる ものでは
現時点で は, 生息 密度の指標として, 猟の状況 など狩
な いが, 少なく とも人 間の行為であ る狩猟について は,
猟者 の事 情に左右さ れる 任意の狩猟 報告から のデ ータよ
狩猟者の行 動特性を見 極め, 狩猟 の効果に関するで きる
りも, 専 門の調査員 が目 的に沿っで 一定の方法で 行う糞
限りの知 見を集めて, 適切に捕獲圧 を調節すべきで あろ
塊密度調査 が, より正確 だと考えら れる. し かし, 兵庫
う.
県 は 糞塊 調査 を1999 年 には119 地 点で 行っ た も のの,
ただし, 生態 系への施策 にお いては, 試行錯誤なし に
2000 年 には40 地点 でし か行っ ていな い. 結局, 糞塊 密
適切な方法 にたどり着く ことは困難であ る. シカ の捕獲
度 の変 化 率を 計算 する 際に は40 地点 のデ ー タし か使 え
圧 の調整は生態 系における 実験と見なして, 継続的な モ
ず 言1999年 のデ ータが十 分に活かせない. 継続的 に調査
ニタリ ングを行 い, 結果 に応じ て施策 を修正し ていく こ
を 行わなけ れば, それ まで の努力や費用 が無駄になる.
と が必要不可欠 である
モニ タリング 調査は, 周到な 計画のもと に十分なサンプ
ル 数で継続的 に行うことが重 要である.
1999 年か ら2000 年 の時点 では, 兵庫県 にお けるシカ
の密度 は,密度の低い所で 増加し,高い所で 横這いとなっ
こ れまで予 算の制約などか らシカ密度が 低いと思 われ
ている が, そ の密度依存的な効 果は総合的 に考えても個
る地 域での調 査は余り行わ れてい ない. こ のよ うな地域
体群 全体を減少さ せるほど の効果 ではない. 深刻な農業
は出 猟者も少なく, 狩猟者か らのデ ータは集 まりにくい
被害が 起こってい る地域でも, 密度依存的な 効果による
た め, 調査の必 要性が高い地域であ る. 現 在のよ うなシ
生息数 の大きな減 少は起こって いない. ただし, 近い将
カ の分布が周辺 部に拡散し ている 状況の中では, これ ま
来, シカ 個体群が このままの水 準で緩やかな変 化を見せ
で密度 の低かった 区画や生息してい なかった 区画での 調
るのか, 突 然急激 に減少するか を予 測できる 材料は乏し
査が重 要になるだろう.
い. 適切な 狩猟調整や 個体数管理 を行うには, より詳細
また, 短期間 のモニ タリングでは 環境変動や推 定誤差
など の影 響を受ける 可能性が高い. 適切な保護管 理のた
なモニタリ ングと 分析を長期的 に継続し, 個体 数変動 の
傾向を検出 する必要があ る.
めには多く の地点で長 期的モニタリ ングの体 制を 整える
密度の変化 にタイム ラグ なく対応し, 密度 に応じ て適
ことが必 要不可欠である. そのため には, データ の精度
切に捕獲圧 を調整するこ とができ れば, シカ の個 体数変
をあげ る と共 に調査 の費用対効果をよく 検討する ことが
動の幅を抑え ることはある 程度可能で あろう. 個 体数変
求 められる.1 地点( 時点) のデ ータ の精 度を増すこ とよ
動 と対策実 施のタイムラグ を極力少なく するた めに, 迅
りも, 同じ精 度でもサンプル 数を増やし 統計的に処 理す
速 にデ ータ を収集・解析し, 情報を提 供するシス テムを
構 築 す る と 共 に, 狩 猟 管 理 の 体 制 を 整 え る べ き で あ る.
害防除 を行う必 要がある. 例えば, 個 体数指 標が低い の
本 稿 で は238 地 点 のデ ー タ を 基 に 解 析 し, 同 時 点 で の
にも関 わらず被 害の大きい 地域では, 個体数 調整で被害
地 域 的 な 傾 向 を 把 握 す る こ と は 可 能 で あ る が, 時 間 軸 に
を軽減し ようと することは 適切ではな く, 他 の要因の改
お い て は1999 年 と2000 年 の2 時 点 の デ ー タ し か な く,
彷を 図るほうが 合理的であろ う. 少な くとも, 農業被害
時 間 軸 に 沿っ て の 密 度 効 果 や 捕 獲 圧 の 動 向 を 議 論 す る こ
を防除 する上では, 近隣 の森林の 生息 状況を十 分に把握
と は で き な い.地 域 的 な 密 度 の差 異 に 基 づ く 議 論 す れば,
し, 農業 被害 の起こる仕 組みを理解し た上で, 対応を検
シカの密度 依存的な 効果は直 接効果 と狩猟を通じ た間接
討する べきであ る.
効 果 を 含 めて-0.39 で, 密 度 と メ ス の 捕 獲 圧 の 因果 係 数 は
0.29 で あ っ た( 図4).
仮 に, 密 度 に あ わ せ て 狩 猟 を 調
本研 究の結果で 示し た とお り, 農耕地と森 林の境 界の
長さや 近隣の森 林の植林 率など, ランド スケ ープ の構 造
整 し て 密 度 と 捕 獲 圧 の 因 果 係 数 を1 に で き れ ば, 総 合
もシカ の個体数指 標と被 害の関係 に重大な影 響をもた ら
的 な 密 度 依 存 効 果 を-0.33 十(-0.20 ×0.29)=-0 。39か ら
し てい る. 特 にスギ やヒ ノキの成 林からなる 植林地は シ
-0.33十(-0.20×1)=-0.53 まで 強 め る こ と が で き, 地 域 的
カ の餌 となる下 層植生が 極端に少な いため, 同じ 個体 数
な 密 度 の差 異 を 平 準 化 す る こ と が で き る. 時 系 列 的 な 個
のシカ が生息して いても 近隣の農耕 地に餌 を求めるシカ
体 群 動 態 の安 定 化 は, 時 系 列 的 な デ ー タ を 基 に 同じ よ う
は多く なるも のと思われ る. こ の点 を十分 に考慮し, 森
な 解 析 を 行 い, 効 果 を モ ニ タ リ ン グ し な が ら 捕 獲 圧 を 調
林 の涵養や森づく りを行っ ていく ことが重 要である.
整 す る こ と で 可 能 と な る. 今 後 は, 時 間 軸 に 沿っ た デ ー
有 害駆除数 と被害量の 間には正 の相関が見 られた. こ
タ を 継 続 的 に 収 集 し, 密 度 効 果 や 捕 獲 圧 の 時 系 列 的 な 動
れは, 被害が 大き いところ で駆除 がなされて いるという
向 も 解 析 す る こ と が 必 要 で あ る.
ことで, 有害駆 除をする と被害が 大きくな るとは解釈し
にく い. 現在, 著者らは 有害駆除 の効果を定 量化して 評
メ ス ジ カ と オ ス ジ カ の 狩 猟 の 調 整 につ い て
価す るだけ のデ ータを持 ち合わせて いない ため, 今 回は
今 回 の 解 析 で は オ ス ジ カ に 対 す る 狩 猟 の 効 果 は な く,
兵 庫 県 に お い て も, Matsuda et a1. (1999)
の示 し た,
有害 駆除の効果 について 詳し い解 析を行 わな かった. 今
後, 農林業被 害の起こっ た地点や 日時, 規 模など の必 要
個 体 数 の抑 制 が 必 要 な と き は メ ス を 捕 獲 し, 個 体 数 の 増
なデ ータを体 系的に集積 すれば, 有害駆除 と被害量 との
殖が必要な ときは 狩猟活動 と狩猟技術 や狩 猟者を維持し
関連 を解析が 可能になる であろう. その中で, 効果 的で
て おくた めにオス を捕獲す るという 個体数管 理の手法 が
適 切な有害駆 除のあり方 も見えてく るはずで ある.
適 応 で き そ う で あ る. た だ し, 注 意 が 必 要 な の は, こ れ
い ずれにして も, 兵庫県内 には農耕地 から2.5 km 以 上
は シ カ の 密 度 が 高く, オ ス ジ カ も 多 い 状 況 の 中 で の 現 象
離 れている森 林はほと んどない(図8).
で あ る. シ カ の個 体 数 が 減 っ た と き に 同 じ よ う に, オ ス
理マニ ュ アル にあるよう な空間的 にゾ ーン 分けし, 特定
環境庁の保 護管
ジ カ に 対 す る 狩 猟 が 個 体 群 に 影 響 を 及ぼ さ な い と 考 え る
の保護地域 を設ける ことでシカ の個体群 を保全しよ うと
の は 危 険で あ る. Matsuda et a1. (1999) の示 し た 管 理 プ
す る施策は, 保護地域 に指定さ れる農林業 者のこ とを考
ロ グ ラ ム に も 考 慮さ れ て い る と お り, あ く ま で も 現 場 で
え ると,兵庫県では 実行困難 である. このような 施策は,
の 生 息 密 度 や 捕 獲 圧 の 影 響 を 確 認 す る モ ニ タ リ ン グ をし
シカ との共 存を特定 の地 域(つまりは 現時点で の生息地)
な が ら, 状 況 に 応 じ た 適 応 的 な 狩 猟管 理 を 行 う こ と が 必
に押し つけ ることにな るだけで なく, 本来 のシカ の生息
要 で あ る.
範囲を現時点 の分布で 規定し, 地域的な 個体群 の交 流や
農業被害 について
シカ の個体数 の変動は 隣接する 区画か らの影響を受 け
る な ど, 比 較 的 広 域 に 渡 る 現 象 で あ る の に対 し て, 農 業
被 害 は, 農 耕 地 の 周 辺2.5km 程 度 の 範 囲 にい る シ カ の 個
体 数 に影 響 さ れ る こ と が わ か っ た( 図6).
た だ し, こ こ
で 言 う 「2.5km 」 と は 単 に 「5km 」 と 比 べて よ く 被 害 量
を 説 明 で き る と い う こ とで あ る か ら, 大 ま か な 目 安 と と
ら え る べ き で あ る.
被害 の大きさは 単にシカ の個体 数指標だけ では決 まら
な い. 市 町 に よ っ て は 個 体 数 指 標 が 低 い に も 関 わ らず 甚
大 な 被 害 が 出 て い る 場 所 も あ れ ば, 個 体 数 指 標 ほ ど の 被
害 は 出 て い な い と こ ろ も あ っ た( 図7).
このような 現象
が 起 こ る メ カ ニ ズ ム と 社 会 的 な 要 因 を 把 握 し, 適 切 な 被
図8
兵庫県 における農耕地と農耕地 から2.5km の範囲
文
多 様性を 制限 するも のと 思われる. 兵 庫県 においては,
献
シカはどこ にでも生息する ものであり, シカとの共 存す
る以上, 全て の地域で適 切な マネージメ ント と被害 防除
遠藤
晃(2001)
西 南 日 本 にお け る 植 生相 関 によ る ニ ホ ン ジ カ の
糞 の 湃 失お よ び 加入 パ タ ー ン の 違 い に つ い て. 哺乳 類 科 学,
が必要である ことを認識す べきである.
41, 1 3-22.
原 田 信男(1993)
シカ の価値と マネ ージメント のための努力
北 海 道 環 境 生 活 部(2000)
冒頭で述べた とお り, ニ ホンジカは兵庫県 民にとって
兵 庫県(2000)
用価 値など,多 面的な価 値を持つ貴重な 共有財産で ある.
池 田 浩 一(2001)
常田 邦 彦・土 肥昭 夫(2000)
て, 科 学的なデータ を基に, 人 間と野生動物 の共存を目
指し関 係調整に取り 組むことが必 要である. 本稿が今後
のマネ ージメント を 議論する検討 材料の一つ にな れば 幸
糞 粒 法 によ る シカ 密 度 推定 式 の 改
良. 哺 乳 類科 学, 40, 1-17.
梶
光 一(2001)
エゾ シカ と 特定 鳥 獣 の 科 学的・計画 的管 理 に つ い
て. 生 物 科学, 52, 150-158.
できる 工夫 が必要であ ろう. そ のためのマネ ージメント
業者, 狩猟者, 自 然愛 好者, 行 政や 研究者が一 体となっ
福 岡県 にお け るニ ホン ジカ の 生 息 お よ び 被 害 状
岩 本 俊孝 ・ 坂田 拓 司 ・中 園 敏之 ・ 歌 岡宏 信 ・池 田 浩一 ・ 西下 勇 樹 ・
今後, シカ の生息 地において は被害対策 と保全対策 に
手法は, 地域で実現し なければな らない. 生息 地の農林
シカ 保 護管 理 計 画 書. 19p.
況 につ い て. 福 岡県 森 林 林 業技 術 セ ン タ ー研 究 報告, 3, 1-83.
ス の影 響もマイ ナスの影響も 与える.
加えて, 地域住民 がシカのもた らす恩恵を 持続的に享受
エ ゾ シ カ 保 護 管 理 計 画 書 参 考 資 料.
17p.
生態系の中で果 たす機能, 文化 的な価値, 資源として利
そ の財産はマネ ージメント の仕方ひとつで, 人間にプ ラ
歴 史 のな か の 米 と肉. 平凡 社, 317p.
梶
光 一 ・ 松 田 裕 之 ・ 宇 野 裕 之 ・平 川 浩 文 ・玉 田 克 巳 ・ 斎 藤
(1998)
エ ゾ シ カ 個 体 群 の管 理 方 法 とそ の 課 題. 哺 乳 類 科 学.
38, 301-313.
環 境庁(1999 編) 自 然環 境 情 報GIS 第2 版28 兵 庫県(CD-ROM).
Mallows, C. L. (1973) Some
remarks
of Cp. Technometrics,
15, 661-675.
Matsuda, H., Kaji, K., Uno, H., Hirakawa,
いである.
A
言
射
i!
淬
隆
management
H., Saitoh, T. (1999)
policy for sika deer
specific hunting. Researches
based
on Population
on sexEcology,
41, 139-149.
大 泰 司 紀之, 本 間 浩 昭(1998
兵庫県 環境政策課鳥 獣保護係 の北村 富士雄 前係長, 大
石房夫係長, 中谷康彦氏, 大道 武氏 には, 兵庫県 によ
編著) エゾ シ カ を 食 卓 へ. 丸 善プ ラ
ネ ット, 東 京, 215 D.
自 然環 境 研 究 セ ン タ ー(1999 編).ニ ホン ジカ 保 護 管 理 の現 状 と 課
る調査デ ータ をとりまと めて提供してい ただき, 県 の鳥
題
獣保護行政 上の課題や問 題点 について 議論し ていただ い
(財) 自然 環 境研 究 セ ン タ ー, 東 京, 9
たことを感 謝し たい. また, 本論文 の基幹となった 糞塊
一 ニ ホ ン ジ カ 保 護 管 理 ワ ー ク シ ョ ッ プ1998
の 記 録-.
lp.
田口 洋 美(2000)
列 島 開 拓 と狩 猟 の 歩 み. 東 北学, 3, 67-102.
丹 後 俊 郎(2000)
統 計 モデ ル 入 門, 朝 倉 書 店, 東 京, 246p.
密度調査や狩 猟報告, 農 林業 被害のデ ータ は, 多く の調
豊 田 秀 樹(1998)
共 分 散 構造 分 析[ 入 門編], 朝倉 書 店, 東 京,3 1 9p.
査員, 狩猟者, 行政担当者, そ の他の協 力者の地道な 努
野 生 動 物 保 護 管 理 事務 所(2000)
力 のたまも のであ り, そ の努 力に心から の敬意を表し た
平 成11 年 度 兵 庫県 野 生鹿 生 息 動
態 調 査業 務 報告 書. 川 崎,88p.
い
(2001 年7 月20 日受 付)
(2001年11 月1 日受 理)
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