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消費者委員会
成年年齢引下げ対応検討
ワーキング・グループ
第4回議事録
内閣府消費者委員会事務局
消費者委員会
成年年齢引下げ対応検討ワーキング・グループ(第4回)
議事次第
1.日時
平 成 28年 11 月 1 日 ( 火 ) 10 :00 ∼ 12 :30
2.場所
消費者委員会会議室
3.出席者
(委員)
樋口座長、池本座長代理、河上委員長、大森委員
(オブザーバー)
後藤専門委員
(説明者)
中央大学大学院法務研究科
宮下教授
京都産業大学大学院法務研究科
龍谷大学法科大学院
中田教授
(消費者庁)
河内消費者政策課長
(事務局)
黒木事務局長、丸山参事官
4.議事
(1)開会
(2)議事
○学識者からのヒアリング
(3)閉会
坂東教授
≪1.開会≫
○丸山参事官
それ では 、時間になりました ので 、会議を始めさせて いた だきます。
本日は、皆様、お 忙し いところをお集まり いた だき、ありがとうご ざい ます。
た だ い ま か ら 「 成 年 年齢 引 下 げ 対 応 検 討 ワ ー キン グ ・ グ ル ー プ 」 第 4 回会 合 を 開 催 い た し ま す。
本日は所用により まし て、増田委員が御欠 席と の御連絡をいただい てお ります。
議事に入ります前 に、 配付資料の確認をさ せて いただきます。
お配りしておりま す資 料につきましては、 議事 次第下部に配付資料 一覧 を記載しております 。
不足の資料があり まし たら、事務局までお申し つ けいただきますよう よろ しくお願いいたしま す。
それでは、以降の 議事 進行につきましては 、樋 口座長、よろしくお 願いします。
≪2.学識者からのヒアリング≫
(1)宮下中央大学大学院法務研究科教授
○樋口座長
それで は、早速本日の議題に入 らせ ていただきます。
本日は、若年者の知識 や 判断力の不足等につ け込 む事業者の行為に対 する 規制の在り方について
検討するため、参 考人と して、中央大学大 学院法 務研究科教授の宮下 修一 様、京都産業大学 大学院
法務研究科教授の坂 東俊 矢様、龍谷大学 法科大学 院教授の中田邦博様 、以 上の3名の方に御出 席い
ただいております。
宮下教授の御専門 分野 は民法、消費者法 で、契 約に関わる諸問題 、特に 契約成立段階におけ る情
報提供義務、説明 義務な どの理論的・実証 的研究 をされているほか 、金融 サービス取引や消費 者取
引における適合性原 則に 関する研究も行われ てお り、日本消費者法学会で は、適合性原則 に関する
発表もされておりま す。
本日は「若年 者の契約 締結における適合性 の配 慮について」と いうこと でお話しいただきた いと
思います。
それでは、どうぞ よろ しくお願いいたしま す。
○ 宮 下 中 央 大 学 大 学 院 法務 研 究 科 教 授
本 日 は お招 き を い た だ き ま し て 、あ り が と う ご ざ い ま す 。
中央大学法科大学院 の宮 下でございます。
今、大変過分な 御紹介 をいただきましたが 、そ う大層なものでもご ざい ませんので、どの ような
報告ができるか分かりま せんが、お聞きいた だけ ればと存じます。
それでは、私の提 出さ せていただきました 資料 に基づいてお話をさ せて いただきます。
1
資料1でございま す。レジュメは全部で10ペー ジございますが 、実質的 なレジュメは6ペー ジま
ででございまして 、7ペ ージ以降は条文と参考文 献でございます。適宜、御参照いただければ と存
じます。
ま ず 、 1 ペ ー ジ 、 既 にこ ち ら で も 議 論 に な っ てい る か と 思 い ま す が 、 契約 当 事 者 の う ち の 18歳 、
19歳と言われる若者 につ いては、消費生活相談の相 談件数が20歳以上に 比べ て非常に少なくなって
います。このことは、こ のワーキング・グループ でも既に報告があっ たか と思います。この 点につ
いては次の坂東先生 の御 報告で大変詳しく御 紹介 があると思いますの で、割 愛をさせていただきま
すが、仮に成年年 齢が20歳から18歳に引き下 げら れますと、18歳 、19歳の 層の被害が増える可 能性
があるということで ござ います。
それでは、この層が契 約 締結に必要で十分な 情報 収集力や判断力を備 えて いるのかということが
問題となります。例えば 、大学生協連で 、学年を 1年生に絞ったデー タと いうことではないの です
け れ ど も 、 大 学 生 に 対 する 意 識 調 査 と い う も の をし て お り ま し て 、 そ れ を拝 見 し て お り ま し た ら 、
大学生は、ここに は紹介されていないのです が、将来のことは考えて いる と言いながら、「商品を
購入する際には、『イン ターネットからの情 報を 参考』にしている」、恐 らくスマートフォン が中
心 で は な い か と 思 い ま すが 、 こ う い う 学 生 が 8 割で 、 し か も 、 「 欲 し い もの は 我 慢 し な い で 買 う 」
学生が5割、「 多少高額 なものであっても 、自分 の趣味のためであれ ば購 入」する学生が6 割おり
ま す 。 こ れ は 生 協 連 の ホー ム ペ ー ジ で 公 表 さ れ てお り ま す 。 な お 今 回 の ヒア リ ン グ に 当 た っ て は 、
私 か ら そ の 内 容 を 御 紹 介さ せ て い た だ く と い う こと で 、 生 協 連 か ら 御 了 解も い た だ い て お り ま す。
そうすると、これだけ を見て簡単に言える こと ではないのですけれ ども 、インターネッ ト上で表
面的な知識を得て 、それ で、実際の必要性 や支払 い能力は十分に考慮 しな いまま、自ら、余り自分
にとっては本来必要 でな いとか、本当は 使用する ことはふさわしくな いも のを購入したり 、あるい
はサービスの提供を 受け る人も18歳、19歳の学生 の 中には少なからず存 在す るのではないかという
ことが予測されるわ けで ございます。そう すると 、現在の未成年者 取消権 が18歳、19歳に適 用され
なくなると、そうい った ケースが増えるので はな いかという懸念がご ざい ます。
そこで、仮に若 年者が そういった被害に遭 わな いように、何かし ら、本 来は自分にふさわし くな
い契約、これを適 合しな い契約であるとか 、不適 合な契約と申します けれ ども、そういった 場合の
救済法理を考える必 要は ないだろうかという こと が私の問題意識でご ざい ます。
2ページ、そこで 、い わゆる適合性原則と いう ものについて着目を して みたいと思います。
適合性原則という もの は、これは既にい ろいろ なところで紹介をさ れて おりますが、取引 、特に
投資取引を勧誘する 際に 、知識・経験、投資目的、財産状況等に照らして 、当該取引をするために
ふさわしい能力を有していない者に対して不適当な勧誘をしてはならないというルールでありま
す。これは証券取 引の分 野で導入をされまし て、徐々に投資サービス 、そ して、金融サービ スの分
野全般をカバーする 法理 として現在、法律の 世界 では定着しつつある もの でございます。
これについては 、金融 審議会というところ で、今からもう15年以上 前に なりますけれども 、この
適合性原則というの はど ういうものかという こと で整理したことがご ざい まして、狭い意味の狭義
というのと、広い 意味で の広義というのと2 つに分けて説明されます 。狭 義のほうは「ある 特定の
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利用者に対してはど んな に説明を尽くしても 一定 の商品の販売・勧誘を行 ってはならない 」という
ルールである、いわば、取 引に適合しない者を 市場 から排除するルール であ るという位置づけでご
ざいます。それに 対して 、実際には利用者 が市場 の取引には参加する こと を前提にしつつ、「事業
が利用者の知識・経験、財産力、投資目的に適合 した形で勧誘(あるいは 販売)を行わなければい
けない」ルール が広義の 適合性原則であると 言わ れています。そ れぞれ立 法例がそこに書いてあり
ますので、後ろの条 文も 御参照いただければ と思 います。
そういう中で 、こういった二分論という考 え方 については、特 に民法の学界の中ではいろい ろな
議論もございますし 、ま た、適合性につい ては、その内容について 、その 人がその商品を購入 する
のに適しているのか とか 、あるいは取引 そのもの に適しているのかと か、あるいは取引数量と いう
面でこの人は適して いる のかとか、いろ いろな見 方があるのですが 、この あたりについては今 回捨
象させていただきま して、取引に実際に若年者 が適 合するかどうかとい う観 点からお話をさせてい
ただきたいと思いま す。
3ページ、こ の適合性 原則は、投資取 引あるい は金融取引の分野で 登場 してきて広がってき たル
ールでございますけ れど も、これは現在 消費者取 引にも守備範囲を拡 大し てきております 。消費者
基本法には、事 業者の責 務として、適合 性原則へ の配慮というものが 5条 1項3号で規定され てお
りますし、また 、特定商 取引法では、主務 大臣に よる指示の対象とな る行 為の一つとしてでは あり
ますけれども、適合性原 則違反の勧誘について、これを指示事項とす ると いうことで規定がな され
ております。その ほか、割賦販売法、貸金 業法、信託業法等にも適合 性に 即した業務を行うよ うに
義務づける規定が設 けら れております。
こういう中で 、適合性 原則はなぜ必要とさ れる のか、投資取引 や金融取 引のような大変リス クの
高い取引に限らず 、なぜ 消費者取引にまで広 がり を見せてきているの かと いうと、これは 私の考え
ということでござい ます が、そもそも適 合性原則 が適用される場面は 、当 事者間に情報力の格 差や
交渉力の格差がある 場面 ではないか、そしてそれ が 非常に大きな場面で こう いったものが出てくる
のではないかという こと でございます。そうする と、消費者基本 法でこの 適合性原則が取り込 まれ
たということを念頭 に置 くならば、この双方の格 差 が典型的にあらわれ る消 費者取引に適合性原則
を導入することは十 分可 能ではないか。これ は私 がそう感じていると ころ でございます。
もっとも、消 費者取引 に適合性原則を導入 する ことに対しては 、大変抵 抗感も大きくござい まし
て、これは事業者サ イド 、消費者サイドから示さ れているところです 。
一つは、消費者 契約法 専門調査会でも議論 にな ったところですが 、適合 性原則は、個別性 のある
勧誘ルールであって、消 費 者契約の一般法であ る消 費者契約法に導入す るこ とは不適切であるとい
う議論がございまし た。また、逆に消費者 サイド からは、こういっ た適合 性原則というものを 適用
するためには業者が 顧客 の状況を知らなけれ ばい けない、そうすると業者 に は顧客の調査確認義務
が課される、そ れについ て消費者取引一般に 導入 すると、悪質業 者に個人 情報を垂れ流すこと にな
るのではないかとい う懸 念があります。このよう に、両方のサイ ドから懸 念が示されていると ころ
でございます。
4ページ、ただ 、そう した抵抗感は、必 ずしも 適合性原則が適用さ れる 場面全てに該当する わけ
3
でもなかろうという こと でございます。例えば、先 ほどの事業者サイド から のお話でありまして も、
顧客の属性等を勘案 する ことを前提にすれば、道 は 開けるという意味合 いも 含まれているのではな
いか、そうする と、若年 者 あるいは高齢者とい う顧 客の属性に着目した 形で あればルール化は十分
可能ではないかと思 われ るわけです。
また、消費者サ イドか らの抵抗感について も、これは顧客の属性と いう ことに着目する、とりわ
け 若 年 者 や 高 齢 者 と い う属 性 に 着 目 す る 形 で あ れば 、 事 業 者 は 調 査 と い う大 仰 な も の で は な く て 、
年齢を確認すればい いだ けでありまして、資産状 況 などといったものに まで 着目するというところ
までいかないのかも しれ ないのではないか 。また 、若年者と高齢者 を比べ ると、高齢者の場 合はど
うしても資産を持っ てい るケースが多いもの です から、そこを確認するこ と もあると思いますけれ
ども、そうではな くて、若年者ということで あれ ば、資産を持って いない のが普通でありまし ょう
し、年齢を確認す るとい うことで十分ではな いか という面もございま す。そうすると、そう いった
抵抗感も和らぐので はな いかと思います。
そういう中で、若年者 の消費者取引につい て、例えば適合性に配慮 する ことになると、ど ういう
ことが考えられるで あろ うかということにな るわ けですが、ここで適合性 原 則違反の判断につい て、
これは金融取引や投 資取 引についての裁判例 の分 析を通してというこ とで すので、必ずしも全部に
当てはまるわけでは ない のかもしれませんが 、恐 らくその他の取引に も通 用する要素というと、次
のようなものではな いか と思います。
一つは、商品や 取引の 内容の理解力がある かな いかということです。こ れは知識や経験、法律の
条文にもそういった 言葉 が出てまいりますけ れど も、そういった ものに関 わる部分です。もう一つ
は、取引を行う必 要性が あるかないかという こと です。これは、法律の条 文でいえば、契約 目的で
あるとか財産状況と いう ことに関わる部分で す。あるいは、最近は 目的だ けではなくて、契 約をす
るつもりはあるかと いう 意向まで考慮すべき だと いう考え方も強いわ けで すが、そういったことに
つながっていくかと 思い ます。
この2つの要素の うち 、若年者の場合に は、知 識・経験には乏し いこと は定型的に言えるで あり
ま し ょ う し 、 ま た 、 十 分な 財 産 を 有 し て い な い こと も 普 通 で あ ろ う と 思 いま す の で 、 そ う す る と 、
取引については 、適合性 があるかないかを判 断す る際には、その 判断は比 較的容易ではないか とも
思われるわけです。
もっとも、若 年者に絞 ることになりますと 、成 年年齢という分かり やす い物差しがあればい いの
ですが、それが ないとい うことになると 、若年者 という範囲をどう限 定す るのかはなかなか難 しい
問題になってまいり ます 。
5ページ、仮に 全く規 定を設けずに、成 年年齢 だけを引き下げるこ とに なるとどうなるか 。そう
すると、これは民 法の一 般法理で対応するこ とに なるのですが、そ こに書 いてありますように 、一
般論としては、適合性原 則 違反は例えば不法行 為責 任を構成するという 最高 裁判決があるのですけ
れども、その後 の裁判例 の展開を見ていると 、必 ずしも適合性原則違 反は 容易に認められない 状況
にあります。そう いう中 で、ほかの民法法 理はど うかというと、そ れぞれ適用にあたってのハ ード
ルが高い状況にあり ます 。そうすると 、現状のル ールに任せてしまう こと になると、未成年 者取消
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権がカバーしてきた 範囲 をカバーすることは 難し いことになるわけで す。
そこで、ここ からは私 から具体的な提案を させ ていただきたいと思 いま す。この若年者 に配慮し
て、何かしら新しい ルー ルを設けることがで きな いであろうかという こと でございます。
4つ提案がござい ます 。
1つ目は、こ れは適合 性原則そのものでは あり ませんが、その 一つの表 れとも言えるかもし れな
いものでして、現 在、消 費者契約法専門調査 会で も議論しているとこ ろで ございますけれども 、つ
け込み型不当勧誘と いう ものと接続させる形 で、若 年者も念頭に置いて 年齢 等の当事者の属性に着
目して、その状況を利用 し て契約を締結させた 場合 に契約取消権の行使 を認 める規定を消費者契約
法に設けることはで きな いかということで 、そこ に立法提案を載せて ござ います。これは 、先日発
売されたばかりの『法律 時報』の11月号に も掲載 させていただいてお りま すので、御参照い ただけ
ればと思います。
2つ目の提案が 、消費 者取引に際して 、年齢等 の属性を踏まえた適 合性に配慮する必要性が ある
ことを、例えば消費者契 約 法の中で明記するこ とは できないであろうか とい う御提案がありますの
で、これは一つ 検討すべ き課題ではないかと 思い ます。これは後の4つ目 の提案にもつながっ てい
くところでございま す。
3つ目の提案が 、若年 者の取引をめぐるト ラブ ルは、これは第1 回のワ ーキング・グルー プでも
資料で示されたとこ ろで ございますけれども、特 定 商取引法の対象とな る取 引が非常に多いわけで
す。そうすると、現在は、適合性原則は指示事項 という形で、しかも、そ れは省令に委ねられ てい
るわけですが、これを法 令事項にして、法律を見 れば適合性に配慮し なけ ればいけないことが分か
るようにする。そ の上で 、もし可能であれ ば、さ らにこれが契約取消 権や ほかのいろいろな顧 客救
済につながるような もの について、解釈の中で考 慮 できるような形で規 定ぶ りを改めることはでき
ないであろうかとい うこ とを考えられないかとい うのが、もう一つの 提案 です。
最 後 に 、 6 ペ ー ジ 、 4つ 目 の 提 案 で 、 私 自 身 二分 論 に 必 ず し も 賛 成 す るわ け で は な い の で す が 、
一般に受け入れられ てい る二分論を前提にす ると 、現在までお話し してき たことは、狭義 、狭い意
味での適合性原則に 対応 するものでございま した けれども、そう ではなく て、広い意味で の適合性
原則に対応するもの も考 えられないだろうか、つ まり、市場に参加 する場 合に、それに対し て十分
なケアをするという意味での適合性原則の広がりに対応したルールが作れないかということでご
ざいます。
まず、立法提案 の1つ 目としては、年齢 等を理 由として、合理的 な判断 ができない状況にあ る消
費者について、取 消権の みならず、損害賠 償責任 を付与できないであ ろう か、これが最初の 提案で
ございます。
できればそれはし なけ ればいけないと個人 的に は思っておりますけ れど も、それがもし無理だと
しても、例えば、現行の 消費者契約法3条1 項の 事業者による情報提 供努 力義務の規定に、若年者
も念頭に置いて、年齢等 に 配慮した情報提供を 行う べき旨を明記するこ とは できないであろうかと
いうのが次の提案で す。
具体的には、6ページ の一番下のところに 示し てある条文、下 線部以外 は現行の条文ですけ れど
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も、その条文に下 線を引 いた部分を追加する 形で 対応するというもの です。これ自身、直ちに法的
に何か効果を持つわ けで はありませんが 、消費者 契約法の適用あるい はそ の他の場面で、例えば不
法行為責任などを追 及す る場面で、こうしたこと が 消費者契約法に規定 され ているということが何
らかの解釈指針とし て影 響する可能性も出て くる ということですので、こ れ は一つの方法として考
えられるものではな いか と思います。ただ 、努力 義務という形ですの で、最低限ここはやって おい
たほうがいいのでは ない かということではあ りま すけれども、できればそ れ 以外の方策が望ましい
とは考えております 。
以上、大変雑駁 な報告 でございますが、私から の報告は終わらせて いた だきます。どうも 御清聴
ありがとうございま した 。
○樋口座長
御説明 あり がとうございました 。
ただいまの御説明 を踏 まえまして、御質 問、御 意見等のある方は御 発言 をお願いいたします 。い
かがでしょうか。
池本座長代理、お 願い いたします。
○池本座長代理
池 本で ございます。
全体像を議論しや すく 整理いただいたこと に感 謝申し上げます。
現在、大きな流れとし て 若年者の社会参加を 促進 するために成年年齢 を引 き下げようという議論
と、ただし 、社会経験が 未 熟あるいはその判断 力が 未熟な若年者は保護 する 必要があるという価値
判断との、2つ の価値判 断の中で、従来の未成年 者取消しという画一 的な ものでは逆に社会参 加促
進と合致しないから 、そ れを見直して別のル ール を、ということ が恐らく 議論の出発点なのだ ろう
と思います。その 意味で 、先生から御提案 があり ました適合性原則の 考え 方は、社会参加は 認めた
上で、社会経験の 未熟あ るいは判断力が不十 分な 人を保護することで 、ま さに今、議論して いる問
題 意 識 の 中 で は 、 新 た な取 引 ル ー ル と し て 適 合 的な 提 案 で は な い か と 、 私も そ う 感 じ て お り ま す。
問題は、それ をどうい う要件のもとで作っ てい くのかということで 、昨 年の消費者契約法専 門調
査会の議論に対する 印象 を申し上げたうえで 、先 生の御意見を伺えれ ばと 思うのです。昨 年の議論
で、要件が不明確 である という批判を前面に 押し 出して、消極意見 になび き、本当の意味で 社会経
験不十分な人は保護 する 、社会参加は認 めるけれ どもきちんと保護す る、という根本の議論が どう
も薄かったのではな いか。そこの価値判断をも う少 し明確にしていくた めに 何が必要なのかについ
て、もしお考えがあ れば お伺いしたい点が1 点で す。
もう一点は、昨年は消 費 者契約法専門調査会 と特 定商取引法専門調査 会が 同時進行していたこと
が影響しているのか どう かは分からないので すが、本来民事ルールであ る消 費者契約法の要件立て
の中に、予見可能 性のこ とや、行政処分付 きの特 商法の要件とほとん ど変 わりのないような、非常
に細かく要件を客観 化し なければいけないと いう 議論がどうも強過ぎ たの ではないか、という印象
を持っています。これか ら議論していくもの も民 法に入れるのか、消費者 契約法に入れるのか 、ど
こに入れるのか。いずれ に せよ行政規制ではな くて 民事ルールとして入 れて いくということであれ
ば、そこは事後 的評価を 踏まえるとなれば 、ある程度価値規範が入っ てい てもよいのではない かと
考えるのです。その 2点 について、御意見が あれ ばお伺いしたいと思 いま す。
6
○宮下中央大学大学 院法 務研究科教授
どう も御 質問ありがとうござ いま した。
私自身も、要 件という 点については、専門調査 会の議論に参加して いた わけではありません けれ
ども、議事録は 全部拝見 させていただきまし て、議論の中ではそのあ たり に対するこだわりも 大変
強かったのではない かと いうイメージは持っ てお ります。
適 合 性 原 則 に つ い て 言う と 、 社 会 参 加 と い う 観点 か ら 、 確 か に 使 え る ルー ル だ と 思 う の で す が 、
ただ、2つの側面 があり まして、適合性が 全くな い場合に、例えば18歳、19歳の学生が商品先物 取
引であるとか危ない 投資 商品を買うなど、そうい っ た場合には市場にそ もそ も参加させてはいけな
いだろうということにな ります。ただ 、一般の消 費者取引であれば 、参加 してもいい場面は確 かに
あるだろうと思いま す。ただ、そのときに 私が留 意しておりますのは 、若 年者に対して、一 つはそ
ういった若年者とか 年齢 等で判断力が十分で はな い状況につけ込むと いう 主観的な部分と、もう一
つは、それによって非常 に 大きな利益を得ると いう部分の2つを考える 必要 があるということで す。
後者は本当はそうで はな い場合も規制対象に すべ きだと私は思うので すけ れども、そこら辺は実は
専門調査会の議論に 少し 配慮したところもあ りま して、客観的な要素も入 れ られないだろうかとい
うことで、この 2つの要 素から絞り込みをか ける ことはできないだろ うかと考えたわけです。それ
が取消しというとこ ろに つながっていかない かと いうのが一つの提案 でご ざいます。
もう一つのところ は、仮に市場参加した場 合で あっても、そう いった市 場参加させる以上は 年齢
等も踏まえて、きちんと した説明とか情報提 供を していかなければい けな いということです。その
上で、参加するという決 断 をきちんと自らでき る環 境にあるのであれば 参加 することは可能なのだ
ろうと思いますけれ ども 、ただ、それ が十分でな い場合には、事業 者とし て何らかの責任はと る必
要がある。これは 特に一 般の消費者というこ とで はなくて、若年者 という ことで、ある種 、定型化
は難しいにしても 、今ま で未成年者保護とい う意 味合いがあったのは 、18歳、19歳はある程 度自分
で判断ができたとし ても 、高校から出て すぐで社 会経験が少ない、だんだ ん年をとって20歳を 超え
ていけばいろいろなこと が分かるようになる とし ても、やはり18歳、19歳 で はなかなか難しいとい
うところだったので はな いかと思います 。そこの 部分をつかまえて、年齢 というものを踏まえ た適
合性判断をすること はで きないだろうか 。そうい ったことを考慮する のも 、年齢を見れば 比較的容
易にできるところが ある ものですから、年齢を要 件にするのであれば、事 業者にもさほど大き な負
担にはならないので はな いだろうかというこ とで す。そこのとこ ろを少し 念頭に置いたのが 、損害
賠償責任などの提案 でご ざいます。
もう一つの御質問 、要 件の客観化について は、私も少し行き過ぎで はな いかという危惧を持 って
おりまして、特 に消費者 契約法で量的な部分 での 過量取引が入ったの は、それ自体は私は非常 に高
く評価するところで はあ りますけれども、ただ、要件を客観化しよう とい う余りに、かなり分かり
にくくなってしまっ て、非 常に消費者にとって はぱ っと見て分かる要件 では ない部分も入ってきて
しまっているという問題 があると思います。
そういう中で、主観的 な ものももちろんその 要件の中に入ってきたか ら余 計に分かりにくい部分
も確かにあるのです けれ ども、いずれに しろ、も う 少し要件を幅広くカ バー できるような形にでき
ないだろうかという のは 、私自身も感じてい ると ころです。
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ただ、一方で 、要件が 余りにも広がりを持 ち過 ぎると、それはそ れで適 用が難しいのではな いか
という懸念も分かり ます ので、そういったところ で 年齢というものをも う少 し強調する形で念頭に
置くということで、 事実 上の客観化も図るこ とが できるのかなという とこ ろもございます。
そういった中で 、一つ は法的な効果が発生 する ところは、どう しても要 件をある程度かちっ と決
めていかなければい けな い部分もありますの で、できるだけそういう 議論 の内容に配慮して 、要件
の中に主観的なもの を取 り込みつつ、できるだけ 客 観化していこうとい うこ とが第一の提案であり
ます。
もう一つ、どう しても それが難しい場合に は、6ページの立法提案 2に ありますけれども 、例え
ば一般条項的なとこ ろで 年齢にきちんと配慮 する 。こういうこと であれば 、法的な効果に直ちに結
びつく部分でないと ころ もありますので 、若干ア バウトと言うと言い 方が 悪いのですけれども 、広
がりを持った要件であっても十分入れることができるのではないかとは考えているところでござ
います。
説明がうまく整理 できず、申し訳ござい ません 。お答えになった かどう か分かりませんが 、そう
いうことでございま す。
○樋口座長
よろし いで しょうか。
他の委員の方で、 いか がでしょうか。
河上委員長、お願 いい たします。
○河上委員長
今日 はど うもありがとうござ いま した。
具体的な提案も含 めて 、大変参考になる御 提案 だと思います。
3点ほど御意見を 伺わ せていただきたいの です が、まず第1点目、適合 、不適合を事業者が判断
する際に、顧客 の情報を 調査確認しないとい けな いコストということ がよ く言われます。その調査
確認されることにつ いて 、消費者側から も抵抗感 があるということな ので すが、仮に調査 確認とい
う要素を不要とする こと は可能かどうか。つまり 、通常の注意をもってす れば知り得た範囲で、相
手の年齢や経験に対 して 配慮すべきだという 形に してしまって、調査確認 義 務を切り離すことは考
えられますか。
第2点目、最初 のつけ 込み型勧誘に関する 宮下 先生の御提案の中に 、相 手の年齢とか、そ ういう
ものの属性につけ込 んだ ということプラス、不当 な 不利益あるいは当該 消費 者に不必要な契約を締
結して損害をこうむ った という、不当な 不利益や 損害という言葉が出 てま いりますけれども 、この
部分は暴利行為との アナ ロジーを考えておら れる のかなという感じも した のですが、実際の取引の
場面で、不当な不利益に な っているとか損害が 出て いるというところま で要 求する必要があるのか
どうかです。
具体的には、不要不急な契約をしてしまっ た場 合、クーリング オフなど はまさにそうですけ れど
も、そういうとき には、あえてその部分につ いて は問題にしないで 、要は 、相手の年齢の低 さある
いは経験の低さを利用したという事実だけでも取消権に結びつけてもいいのではないかという考
えもあろうかと思う ので す。この辺について のお 考えはどうかという こと であります。
第3点目、これ は18歳 、19歳が主として 念頭に 置かれていますけれ ども 、宮下先生のよう なお考
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えを前提にしていく と、逆に20歳、21歳 、22歳あ たりも、いわば問 題に対 する規制の対象とし て考
えてよいことになる のか どうか、そのあたり をお 聞かせいただければ と思 います。
○宮下中央大学大学 院法務研究科教授
どう も御 質問ありがとうござ いま した。順にお答えをした
いと思います。
最初のところ 、適合性 判断について、調査確認 義務は必ずしも必要 ない のではないかという お話
ですが、私自身も 実はそ う思っておりまして 、た だ、そういった考 え方も あるということでご ざい
ます。調査確認 という要 素を仮に入れたとし ても 、若年者であれ ば定型的 に判断できるであろ うと
いうことで、今 日お話を させていただいたの です が、決して調査 確認をし なければいけないと いう
ことではないわけで す。逆に、今、言った18歳、19歳、20歳ぐらいの 年齢を確認すれば、当然あ る
程度財産などを持っ てい ない、あるいは知 識・経 験も乏しいことは想 定で きますし、事業者がかけ
るコストは年齢を聞 くこ とだけでありますの で、そ れほどコストという 面で も問題なかろうと考え
ております。た だ、それ は 調査をすることが必 要で あるとしてもそのコ スト はほとんどかからない
という意味でありま すの で、調査確認を 必要とす るという趣旨ではあ りま せんし、今のよ うなこと
を敷衍すれば、河 上先生 の、今、おっ しゃったよ うな知り得た範囲と いう 形でもう少し客観化 とい
うか、事業者側 の要件だ けで済ませることも 十分 可能ではないかと思 いま す。若年者につ いては私
自身もそう考えてお りま す。
2つ目、つけ込 み型不 当勧誘について、不当な 不利益であるとか 、不必 要な損害であるとか 、こ
ういったものを要件 とし て入れる必要がない ので はないかというお話 でご ざいましたが、ある程度
段階がありまして 、そう いったようなものを 全く 必要としない場面も あり 得ると思います。実際に
そういった状況を使 って 、当事者にとって 全く想 定されていない、また、その人にとって適合 しな
いような契約を結ば せる こと自体、私は問題 だと いう意識は共有して いる つもりでございます 。
ただ、この提案 をさせ ていただいたのは 、いろ いろ要件の客観化と いう ような流れの中で 、これ
は、先ほど池本 先生から もお話があったよう に、行き過ぎではないか とい うことは私自身もそ う感
じていることでござ いま すが、ただ 、現行の制定 法 になりました量的な 部分 の過量取引という部分
との接合性を考えた とき に、こういう提案もあ り得 るのではないかとい うこ とでございます。ただ、
これは一つの提案で あっ て、決してこれ でなけれ ばだめだということ では なくて、むしろ 不当な不
利益や不必要な損害 など 、そういうもの が必要な い場面もたくさんあ ると 思いますので、そういっ
たところはまた別の ルー ルがあり得るだろう と思 っております。
3番目の御質問で すが 、18歳、19歳 ということ に限らず、もう少 し年齢 的な広がりを持つの では
ないかということだ った かと思います。今日お話 ししたのは、従 来は20歳 未満ということで定 型的
に保護されていたも のの 、その定型的な 保護の枠 組みを外したときに 、そ の代わりの提案とい うこ
となのですが、決 して私 自身も18歳、19歳 に限ら れる話ではなくて 、むし ろ20歳から急に被害 が多
くなるのは、そこ にまさ につけ込んでいるよ うな 形の悪質な商法も散 見さ れる、あるいは 、悪質と
までは言えなくても、本 人 にとって十分な理解 のな いままに必要のない もの が取引として行われて
いる部分もあります ので、こういった若年者保 護と いうことを考えて少 しル ールを広げたときに は、
当然今の大学生ぐら いは 対象として取り込ま れて いくことになるだろ うと は考えております。
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また雑駁な説明に なり ましたが、以上のと おり でございます。
○河上委員長
○樋口座長
あり がと うございます。
後藤専 門委 員、お願いいたしま す。
○後藤専門委員
成 年年 齢が引き下げられる と、18歳、19歳の人 たちの取消 権は奪われることに な
るのですけれども 、宮下 先生の御提案の中で 、取 消権という効果を付 与す るという提案と、そうで
ない提案とがありま すの で、そこについては取消 権 を付与するというと ころ を目指す必要があるの
かどうか。それ について まず伺って、そ の後もし お考えとの間で私の 問題 意識と共通する点があれ
ば、また御質問した いと 思うのですが。
○宮下中央大学大学 院法 務研究科教授
御質 問あ りがとうございまし た。
私自身は、でき れば取 消権があったほうが 望ま しいだろうと思いま す。例えば、市場参加 型の損
害賠償請求権という ルー ルがあっても、仮にそれ が 説明とか情報提供が 十分 ではないという形で損
害 賠 償 が 認 め ら れ た と きに は 、 よ く 民 法 の 世 界 では 原 状 回 復 的 損 害 賠 償 など と 言 い ま す け れ ど も 、
結局は若年者である 消費 者が投下した資本が、そ の まま損害賠償として 戻っ てくることになりま す。
これは、いわば取 消しと 同じ効果を持つ部分 もあ りますので、そう いう意 味では、必ずしも取消し
ということにこだわ るわ けではないのですけ れど も、できればこういった 相 手の状況につけ込んで
契約を結んだ場合に は、そ もそも契約解消とい うと ころまでいけるのだ とい う部分があってもいい
のではないかという 趣旨での御提案でござい ます 。ただ、そこにこだ わる わけではありません 。
○樋口座長
後藤専 門委 員、お願いします。
○後藤専門委員
ど うも ありがとうございま す。
御提案の中で取消 権を 認めるのは、具体的には こ の提案1のところに 書い てある立法提案とい う、
そこの考え方をとる とい うことですか。
○宮下中央大学大学 院法 務研究科教授
これ に限 定するわけではなく て、現 段階でとりあえずはこ
ういう方法もあり得 るの かなという御提案で ござ います。
○後藤専門委員
こ の立 法提案の、これは河上委 員 長が先ほどお話しし たこ とと問題意識は同じな
のですけれども 、特に損 害を生じさせること が必 要なのかどうかにつ いて は、私は疑問を 持ってい
まして、取消し を認めて 結果的に損害が回復 され ること、支払っ た代金を 全部返してもらうな どと
いうことは考えられ るわ けでして、そうすると、結 局回復されて損害が 生じ ていない場合にその制
度の適用があるのかどう かという問題が出て くる のではないかと思い ます。ですから 、損害を生じ
させたときはという のは 、取消しの効果 を認める ということであれば 、む しろ書かないほうが いい
のではないかと思い ます。
あと一つ、立法提案の と ころで合理的な判断 がで きない状況を利用す ると いうことなのですけれ
ども、これは今 度改正さ れた4条4項で 、考え方 としては合理的な判 断が できない事情を利用 する
ものの典型的なもの とし て、過量契約の取消しと い うことが規定されて いる わけでありますけれど
も、仮に消費者契 約法に 今、提案1の立法 提案の ような条文を入れる とす ると、4条4項と の関係
がどうなるのかとい うこ とが問題となってく る。特に4条4項の場合 には 、過量の契約を したとい
うことが判断要素に 入っ て、それで取消 しを認め ることにしているわ けで すから、宮下先 生の提案
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1の立法提案だと、そこ とのバランスがどう なの かという気がするの です 。根本的には合 理的な判
断ができない場合にプラスアルファとして考慮しなければならないのは何なのかという問題にな
ってくるのですけれ ども 、4条4項の場 合には過 量ということで要件 立て しているわけですが 、そ
の要件立ての是非も 含め て判断力低下を利用 するということだけでい いの か、それにプラスするも
のが考えられるのか につ いて、何か御意見が あれ ば教えていただきた いと 思います。
○宮下中央大学大学 院法 務研究科教授
あり がと うございます。
2点、御質問を いただ きました。まず、最初の 御質問でございます が、損害を生じさせるこ とは
不要ではないかとい うこ とかと思います。私自身 もそこにこだわるつ もり がないというのは 、実は
「 又 は 」 と い う こ と で つな い だ と こ ろ に 現 れ て おり ま す 。 損 害 を 生 じ さ せる 場 合 も あ る だ ろ う し 、
そうではなくて、事業者 側 の一方的な過大な利 益を 得るというところだ けが 問題となる場合もある
だろうし、逆に 、その場 合だけでも実はいい ので はないかと考えてお ります。つまり、不 当な利益
を得るという、前半だけ でもいいとは考えた ので すけれども、後 半の部分 も場合によっては必 要か
なということもあっ て、念のためという意味 合い でつけたところです 。そ れが「又は」と いう言葉
のところの趣旨なの です けれども、伝わりに くか ったのではないかと 反省 しているところます 。
もう一つは、合理的な 判断の状況を利用す ると いうことについて 、現在 の新しくできた4条 4項
の過量取消権という こと では、合理的な判断がで き ない状況を利用する こと に加えて過量というと
いう要素がある、そのプ ラ スアルファしている とこ ろとのバランスをど う考 えるのかということな
のですが、そこと のバラ ンスという意味で、事業 者側が不当なという 表現 にするか、同種の 契約を
締結した場合に 、通常生 ずべき利益を大きく 超え るというようにする か、そこのところは言葉 の問
題ではありますけれ ども 、そういったとこ ろで、少し過量的なものと いう か、もっとも過量的とい
っても過量取引の過 量で はなくて、一種のプラス ア ルファの要件を何か つけ られないだろうかとい
うことを考えたとこ ろでございます。今 、いろい ろ御意見もいただき まし たので、それが十 分な要
件として機能するのかどうかはまた別のところでまた考えてみなければいけないところではある
のですけれども 、取消し ということになると 、合 理的な判断の状況を 利用 しただけということ でも
難しい部分もあるだ ろう ということでこうい う提 案をさせていただき まし た。先ほど河上先生から
も御指摘をいただき まし たように、必ず しもそう いう場合だけではな いよ、ということは 私自身も
認識しているつもり でご ざいます。もう少し幅広 い 形でカバーできるも のは できないかということ
は、私自身も問 題意識は 共有しているつもり なの ですが、とりあ えずこう いうものもあり得る だろ
うという提案でござ いま す。
○後藤専門委員
ど うも ありがとうございま す。
○樋口座長
大森委 員、お願いします。
○大森委員
御説明 あり がとうございました 。
私自身は成年年齢 が18歳に下げられた場合 、18歳までが未成年者契 約の取消しで、30歳 ぐらいま
では世の中の契約に慣れ る移行期間として、適用 性 の原則等で守られる とい いなと思っていたの で、
先生の御提案もじっ くり 聞かせていただいた とこ ろなのです。
未成年者契約の取 消しは、無条件で年齢 で区切 られているので、非常に 効果が上がりやすい 、分
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かりやすい、個人 情報も 出す必要がないとい うと ころがあります。適合性 の原則を使って、緩やか
に何歳までと年齢で 決め た場合、それが いいのか どうかというところ が一 つありまして、年齢は非
常に分かりやすいし 、個 人情報も提供しなく てい いわけですけれども 、昨 今の消費者契約を見 ると
必ずしも年齢と経験 が一 致しなくて、例 えばイン ターネット関連だっ たら 、成人した人た ちよりも
未成年者のほうが結 構経 験があるという場合 もあ るわけです。未成年者契 約 の取消しで子供たちを
守ることも大事です けれ ども、実際に正しい消費 者 として育てていく期 間と いうものがあると思う
ので、ただ、無 条件に守 るのではなくて、自分た ちがやらないといけ ない ことなど、学習す る機会
にしていかないとい けな いと思うので、そ の辺が すごく悩ましくて 、どう したらいいのか、私もす
ごく心配していると ころ なのです。
私は法律の専門家 では ないのですけれども、高 校 を出た子供たちがす ぐ成 人になるわけではない
ので、その社会 に適合す る間を適合性原則で 守っ ていただけるとあり がた いのですが、一 方的に甘
やかすのではなくて、自 分 たちがやらなければ なら ないようなことを学 べる ようなシステムを作っ
ていただきたいとい うこ とと、実効性のあるもの に どれだけなっていく のか を注目しておりますの
で、よろしくお願い しま す。
○宮下中央大学大学 院法 務研究科教授
どう もあ りがとうございまし た。
今 、 年 齢 と 経 験 が 必 ずし も 一 致 し な い で は な いか と い う と こ ろ は 、 確 かに ご ざ い ま す 。 経 験 が 、
例えばインターネッ トに 詳しくなるというよ うな経験をしていたとし ても、まさにおっしゃってい
たように、それ が本当に 正しい使い方なのか とい う意味で経験なのかとい われれば、そう ではない
と思います。本来 はそこ まで見ていかなけれ ばい けない部分があると 思う のです。ですから 、私の
提案でも、年齢だ けでは なくて知識・経験 、そう いったものを総合的 に考 慮することを前提に した
上で御提案させてい ただ いておりますので、今の 御 意見については賛同 する ところが多いところで
ございます。
すいません。長く なり ました。ありがとう ござ いました。
○樋口座長
ほかに ござ いますか。
池本座長代理、お 願い します。
○池本座長代理
池 本で す。
もう一点だけ 、5ペー ジから6ページに4 種類 の提案があるという こと で、4番目は契 約の効力
論に結びつくものと 努力 義務という広いもの とい うことで、1 、2、3は そ れぞれの中の一つの分
野を取り出しておら れま すが、これは議 論の状況 として、何も提 案4にあ るような2段階を提 案す
ることを排除してい ずれ か一方だけというよ りは、いずれも否定してい ない ものではないかと私は
理解していたのです 。
判断力不足あるいは保護というときに、事業者の中の比較的健全にやろうとする自主規制で改
善 ・ 向 上 を 目 指 そ う と する 層 と 、 弱 み に つ け 込 んで 問 題 を 起 こ す 層 は ど うし て も 出 て く る わ け で 、
つけ込んで不当な行 為を しようという事業者には 、きちんとした民 事ルー ル、取消しなり 、損害賠
償なりが不可欠だと 思い ます。社会全体の 改善・向上という意味では 、も っと相対的な努力規 定も
必要だと思うので 、ほか の1、2、3 の意見も必 ずしもそれを排除す る議 論の文脈ではないと 私は
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理解したのです。そ のあ たりは、先生はどう 受け とめておられますか 。
○宮下中央大学大学 院法 務研究科教授
どう もあ りがとうございます 。
私の説明が十分で はあ りませんでしたので、今 、まさに池本先生に補 足し ていただいたと思いま
すが、私の提案は 全て併 存し得るかなと個人 的に は思っております 。最後 の提案4のところも 、両
方ともあったほうが 望ま しいのだけれども、仮に 法 的な効果を付すこと は難 しいという議論があっ
たときには、一 般的な部 分でカバーすること も十 分可能だという趣旨 のお 話でありまして 、それが
だめだったらこちら とい う話ではなくて 、できれ ば全部実現していた だき たいし、実現で きるので
ないかという、いわ ば併 存した提案でござい ます 。説明不足で申し訳あり ませんでした。
○樋口座長
後藤専 門委 員、お願いします。
○後藤専門委員
提 案1 の立法提案のところ で、少しこだわって申し 訳な いのですけれども 、判断
力不足と知識・経験がど ういう関係になるの か、先ほど御発言を伺っ てい て少し私は疑問に思 った
のですけれども 、適合性 原則の中で、判 断力不足 はどういう位置づけ にな ると考えていらっし ゃい
ますでしょうか。
○宮下中央大学大学 院法 務研究科教授
私の 理解 では、適合性原則は理解 力 と交渉力の格差がある
場面で登場してくる ルー ルですので、判 断力不足 というのは、今 の条文で は知識や経験という 言葉
になっておりますけ れど も、そういった 理解力、要 は十分な理解が伴わ ずに 契約に参加するという
ことを防ぐためのル ール としても機能し得る のか なと思います。そういっ た理解力に関連する 、い
わば知識・経験に関 連す るところの根底に、判断 力も入ってくるのか なと は考えております。
○後藤専門委員
9 ペー ジに条文を示してい ただ いているわけですが、特 定 商取引法施行規則の第
7条の2号と3号な ので すけれども、3号は適合性 原則を定めた規定だ と思 うのですが、2号が「判
断力の不足に乗じ 」とい うことで、規定と しては 別立てになっている ので す。宮下先生の先 ほどの
立法提案で、年齢とともに 、特に精神的な障害を挙げ ておりますので、私の見方 なのですけれども、
これはどちらかとい うと 判断力不足に重点を 置い た規定かという印象 を受 けて、その中で 知識・経
験など、適合性 原則で通 常判断要素として言 われ ているものは、この立法 提案の中には取り込 まれ
ているのかいないの か、 そこについてどうお 考え でしょうか。
○宮下中央大学大学 院法 務研究科教授
あり がと うございます。
もちろん、今、御指摘 がありましたように、例 えば7条2号、3号のと ころでは、いわゆるつけ
込み型のような判断 力不 足に乗じた場合と、適合 性 原則と言われる場面 とを 分けて規定しているわ
けでありまして、私自身 もその2つが同じだ とは 全く思っておりませ ん。ただ、一種のつけ 込み型
は、適合性原則 そのもの ではないのですけれ ども 、それの一つの 考え方が現れた場面でもあろ うと
思っておりまして 、そう いったところで、現行の 消費者契約法の議論 の中 で、適合性原則を 正面か
ら議論するのはどう も難 しいという状況を踏 まえ た上で、最低限 つけ込み 型というところで 、いわ
ば、その思想を 少しだけ でも実現できないで あろ うかという趣旨の提 案で あります。適合 性原則そ
のものを立法化する こと を否定するのではな くて、むしろそれは望まし いこ とだと思っているので
すけれども、現 行の議論 状況を考えた上で 、こち らのほうでとりあえ ずは 提案してみたという こと
で ご ざ い ま し て 、 先 生 の御 指 摘 の よ う に 、 私 自 身は 2 つ は 違 う も の だ と いう 認 識 が あ り ま す の で 、
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できればもし両方規定できるのであれば若年者保護にも十分つながっていく部分が多いのではな
いかとは考えており ます 。ありがとうござい ます 。
○樋口座長
ありが とう ございます。
河上委員長、お願 いい たします。
○河上委員長
先ほ どの 客観化の問題をもう ちょ っと突っ込んでお伺いし たいのですが、消費者契
約法の中にルールが 入っ た場合に、例えば 適格消 費者団体であるとか 、特 定適格消費者団体が 、差
止め訴訟であったり、場 合 によっては取消権を 行使 できるような無効状 態の 確認をする第1段階の
訴訟をやることにな りま す。そのときに 、個々の 消 費者に対する関係で つけ 込んだことを立証する
ことはほぼ不可能で あっ て、何らかの形で定型的 な 判断ができるような 要件 立てにしておくことが
望ましいのではない かと いうことが考えられ ます 。その点につい て、どう お 考えなのかということ
であります。
もう一つ、状況 を利用 するという言葉の意 味な のですが、状況を 利用す るといったときは 、利用
するという言葉自身 が、恐 らく相手方の状況を 自分 の利益のために用い ると いうことになるのだろ
うと思うのです。ですか ら、その意味では 、状況 を利用するというこ との 中に、もう既に一 定の違
法な要素が含まれて いる という理解が可能か どう かというあたりです。個 人 的にはできるだけ要件
を客観的にしてしま って、定型的に判断できる よう なルール化が望まし いの ではないかという気持
ちがあったものです から 、その辺についての お考 えをお聞かせくださ い。
○宮下中央大学大学 院法 務研究科教授
どう もあ りがとうございます 。
今の2点は、大変 重要 な御指摘ではないか と受 けとめております。
まず、差止請 求権とい うところまで考える と、もう少し要件は客観 的で なければいけないの では
ないかという点です。確 かに不実告知など 、ああ いうものについては 、例 えば業者のいろいろ な文
書など、そうい ったもの で基礎づけられる部 分も 多いでしょうし 、ほかの ところでも断定的判 断な
どは、そういうと ころも あるのだとは思うの です 。ただ、例えば、断定的 判断の提供であって も文
書 等 で は 基 礎 づ け ら れ ない 場 合 と か 、 つ け 込 み 型、 つ ま り 、 今 、 私 の 提 案し て い る よ う な も の も 、
確かに個々の一つ一 つを 立証するのは難しく ても 、同じような事 例が発生 しているのであれば 、そ
れをつかまえること は決 して不可能でもない のか なとは思っているの です。どういうところまで定
型化していくのかは、確 かに問題になるとこ ろで す。次の御質問に あった点で、状況を利用 すると
いうのも自分の利益 のた めに利用するという こと なのですが、状 況を利用 するというところを 、い
わば自分の利益のためにというところでできるだけ客観的に捉えられないだろうかということで
要件を考えてみまし た。ただ、通常得られ る利益 に比べて過大な、と言う と、ちょっとぐら いはも
うけることは普通にある ので、著しく過大な利益 を 得ているという形で 提案 させていただきまし た。
それが、不当な 、という 言葉の趣旨です。つまり 、不当なという言 葉を客 観化するつもりで代 替案
ということにしたわ けで す。何とか、そうした不 当 な等位部分を客観的 に捉 えて差止めにまでつな
げられないかという 思い はあるのですけれど も、な かなかそこのところ がう まく言葉にできなかっ
た部分はございます 。そ の点の問題意識は共 有し ておりまして、そこのと ころを何とかしよう とし
たのがこの取消権の 提案 なのですが、それでは不 十 分ではないかという こと はおっしゃるとおりで
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ございます。ただ 、実は ここはいろいろ言葉を考 えてみたのですけれ ども 、なかなかうまく つなが
らなかったものです から 、できるだけ客 観化でき るように、代替 案という ことで括弧に入って いる
ところを提案させて いた だいたということで ござ います。
○樋口座長
ありが とう ございました。よろ しい でしょうか。
それでは、宮 下教授へ のヒアリングはこの あた りにさせていただき たい と思います。あ りがとう
ございました。
○宮下中央大学大学 院法 務研究科教授
あり がと うございました。
(2)坂東京都産業大学大学院法務研究科教授
○樋口座長
次に、京都 産 業大学大学院法務研 究科 の坂東教授に御説明 をお 願いしたいと思いま す。
坂東教授は、消費者の 視点から見た契約法 、21世紀型消費者政策の在り 方を研究テーマに挙 げて
おられ、消費者が 正当に 権利を行使できるた めの 、法的・制度的環境整備 について、民事法 を基盤
に整理する観点から 研究 をされておられます 。
本日は、「 未成年者取 消権が果たしてきた 役割 と若年消費者保護の 課題 」についてお話し いただ
きます。
それでは、どうぞ よろ しくお願いいたしま す。
○坂東京都産業大学 大学 院法務研究科教授
御紹 介をいただきました 、坂 東と申します。
久々の面接試験を 受け るような気持ちでこ こに 座っています。困ったな と思っていますが 、限ら
れた時間ですので、 早速 お話をさせていただ きた いと思います。
今日、私がお話を した いと思っているのは 、主 に3つです。
1つ目は、もう 既にこ のワーキング・グ ループ の1回目でも御議論 されていましたが、若 者の契
約被害の現状と未成 年者 取消権がそこに果た して きた役割をまず確認 した いと思います。
2つ目に、そ の未成年者取消権が民法に規 定さ れていながら、いわゆる 消費者被害の救済に 実際
には活用されるに至 った 、その過程の中で 、どう いうことが未成年者 取消 権の中で問われ、変化し
てきたのかを確認し たい と思います。
その上で、そ れらを前 提に成年年齢の引下 げに 対する私の考え方と 、そ の前提となる法的条 件に
ついて、宮下先生の 御報 告につなげる形でま とめ をしたいと思っています 。
お手元に資料があ るか と思いますが、それ に従 って御報告をします 。
まず、若者の契約被害の 現状と未成年者取消 権の 意義ですが、1ページ目の 真ん中あたりの(2)
消費者法理としての 未成 年者取消権の意義と いう ところに簡潔にまと めてあります。
もう既に先生方は 全て 御存じのとおり、未成年 者 に関わる消費生活セ ンタ ーに寄せられる相談件
数は3%程度、件 数も非 常に低いものになっ てい ます。なぜそうか という 点を考えれば、恐 らく未
成年者取消権という 権利 があることが、そ の被害 を事前に抑止し、また、救済法理としても機 能し
てきていると考える こと ができるのではない かと 思います。
逆に言うと、そ のこと は裏返しがありまし て、3ページに簡潔にま とめ ておきましたが、国民生
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活センターのホーム ペー ジの記載によると、いわ ゆ る20歳代あるいは20歳以 上として主に比較的若
い成年層がターゲッ トに なっている問題商法 とし て、マルチ商法やサイド ビ ジネス商法が挙げられ
て い ま す 。 そ の 下 に は 、国 民 生 活 セ ン タ ー の 投 資用 DVDの マ ル チ 商 法 に 関 する 記 載 を ま と め て お き
ま し た が 、 例 え ば 相 談 のあ っ た 815人 の 契 約 当 事 者の う ち 、 20歳 か ら 21歳 のも の が 85.3% を 占 め て
いるということです。こ れらの取引において は、20歳になった途端に自 立した大人として自分で 判
断しなさいという勧 誘文 句で、まさしく知識や経 験 の不足に乗じて契約 を直 ちに締結させるという
被害が、ここから は見て とれるわけです。このこ とは、逆に言えば 未成年 者取消権があること がい
かに消費者被害の予防や救済にとって大きな意味を持っているのかを示唆している話ではないか
と思います。
一方で現在の相談 の実 態を見ると、1ページ、先 ほどの約2万件強の 未成 年者からの相談のう ち、
実はその1万5,000件 ぐら いが、デジタルコンテ ンツ に関する相談です。端 的に 言うと、いわゆるオ
ンラインゲームを含 めた デジタルコンテンツ に関 していけば、ひ ょっとす ると、未成年者 取消権の
行使でもって救済を図ることが十分にはできていないのかもしれないということをここからは見
てとることができま す。
それらのことを前 提に 、次に、未成年者取消権 が どのような意味を実 際の ところ持っているのか
について確認をした いと 思います。これも 周知の ことではありますが 、未 成年者取消権は、我が国
に民法が制定された1896年以来ずっと規定を され て、その内容に 大きな変 化はありません 。民法が
制定された当時に 、消費 者問題という概念は その 当時の社会にはなか った わけでありますから 、未
成年者取消権が当初から消費者被害の救済のために使われる規定として想定されて立法化された
ことでないことは明 らか です。ただ、市民法とし て制定されている民 法に は、いずれの国に おいて
も未成年者を保護す る規 定が共通に設けられ てお ります。川角先生 の論文 の記載を借りれば 、「市
民 法 に と っ て そ の 担 い 手を 絶 え ず 生 み 出 し て い くた め に 、 市 民 一 人 ひ と りが そ の 身 体 に 刻 み 込 み 、
尊重すべきところの第1 次的な法的価値基準 」が 未成年者保護である と指 摘をされていて 、この指
摘は正当ではないか と思 っています。未 成年者取 消権をどのように規 定し 、その年齢を幾 つにする
の か と い う の は 、 な る ほど 、 政 策 的 な 問 題 で あ ろう と 思 い ま す 。 し か し 、そ れ を 下 げ る 場 合 に は 、
そのための覚悟をど のよ うに私たちが、社会とし て、していくの かを認識 する必要があるのだ と思
います。
次に、2ページ 、(3 )に未成年者取消権 の実 際と書きました。実 は、未成年者取消権が消 費者
保護のために大きな 意義 を有しているにして も、その未成年者という のは 、実は年齢的に は非常に
幅 が 広 い の で す 。 つ ま り、 意 思 無 能 力 の と こ ろ は話 が や や こ し く な る の で、 今 日 は 置 い て お い て 、
出生から20歳までと 、未 成年者の年齢は幅が 広い です。
また、個々の 未成年者 の状態も恐らくそれ ぞれ 異なっています 。未成年 者取消権が大きな意 義を
持つのは、それ が画一的 な要件でもって適用 され 、その効果が取 消しとい う非常に強い効果を 持っ
ている。しかも 、返還義 務 の範囲が現存利益に 限定 されているといった 性格 があるからこそ使いや
すいということが現 実と してあるわけです。一方 で、未成年者の年 齢も幅 広く、それぞれの 状態が
違うということは 、それ を取り込んだ適用が でき るような、いわば変化に 対応できる物差しを 、規
16
範を、民法の中にも 用意 していく必要がある とい う意味なのだと思い ます 。
その役割を果たし てい るのが、民法5条3項の 法 定代理人が事前に処 分を 許した財産ということ
の解釈なのだろうと 思い ます。法定代理人が事 前に 処分を許した財産と いう ものは、よく講義では、
例として小遣いが挙 げら れます。小遣い あるいは 仕送りでも結構です が、恐らく未成年者の年 齢に
よって、その額も その使 用目的も異なってい ます 。つまり、未 成年者取消 権という画一的な条 項の
中に、実は伸び縮 みする 規範が準備されてい ると いうことなのだろう と思 います。先ほど 、だんだ
ん未成年者が大人に なっ ていくのだ、蓄 積してい くのだという話があ りま したが、実はま さしくそ
こがもう民法の枠の 中に 準備されているのだ と私 は思います。
そうなのですが 、一方 でその準備されてい る柔 軟な規範を利用して、取 引の現場で契約の締 結を
迫る実態が実はある のです。典型的に言うと、そ の ことが茨木簡易裁判 所の 昭和60年判決で問われ
ています。これは 、18歳 の仕事を持っている 女性 が、いわゆるキャ ッチセ ールスによって16万 円余
りのエステと化粧品 の契 約を締結してしまっ た事 案です。一つの ポイント は、クレジット 契約によ
って、1カ月あ たりの支 払い金額が1万5,000円に なっていた。そ の1万5,000円という金額と16万
円余りという全体の 金額 が、この仕事を すること を許可されている女 性に とって、事前に 処分を許
さ れ た 財 産 に 入 る の か が問 題 に な っ た わ け で す 。結 果 的 に 裁 判 所 は 、 ク レジ ッ ト 契 約 の 場 合 に は 、
1回でも支払いが遅 れた ら期限の利益を喪失 する のだから、従っ て、代金 額 全額で判断すべきであ
るとして、結論的 には、16万円という金額は8 万円 程度の手取りの女性 にと って、事前に処分 を許
された財産とするに は高 額に過ぎるとして、 端的 に言えば取消権を認 めた わけです。
ここでは、もちろん金 額 的にそれが事前に処 分を 許された財産に該当 する のかどうかが争われて
いますが、理論的 に言う と、働くことにつ いての 同意を得た未成年者 が、その働いたことによ って
得た賃金をどういう 形で 使ってもいいのかと いう ところも実は問題に なっ ています。
2 ペ ー ジ の 一 番 上 に 挙げ て い ま す が 、 こ の 判 決を 評 論 さ れ て い る 加 賀 山先 生 は 、 「 少 額 の た め 、
通常では裁判になら ない ような、しかも 市民の日 常生活において煩雑 に起 こりうる事例が 、裁判事
例となり、正当 な判断が 下されたのは、この事件 が消費者問題の典型 例と しての側面を持って いた
からであろう」と 評価さ れています。言わ んとす る趣旨は、本件は 金額の 判断だけで高額に過 ぎる
といって取消権を認 めま したが、一方で 、これが 若 い女性に対するエス テと 化粧品の16万円もする
契約をキャッチセー ルス によって締結させた 事案 であるということが、実 は 影響を与えていたので
はないかという指摘 だろ うと思います。
先ほど、ネット 取引に おいて、未成年者 取消権 が、私の表現で言 えば、揺らいでいる状況が ある
とも御説明を申し上 げま した。ネット取引に関 して 最も大きな問題は、そ のネ ット取引をする際に、
年齢確認の画面が提 供さ れていて、そこに20以 上の 数字を未成年者が入 力し たならば、そのことは、
現行民法の21条の詐 術に 該当するのかどうか が争 われているわけです。21条 の規定は様々な解釈が
あって、だまされ なけれ ばいけない、だま された ことに事業者側に過 失が あってはならないと、も
ちろん考えておられ るわ けですから、過 失の評価 の中の枠組みとして 、そ こに様々な要素が入 って
くるだろうというこ とは 、そのとおりです。
現実に、どう いった点 が詐術の認定、これも未 成年者取消権の成否 を決 定づける判断であり ます
17
が、問題になっているの かをまとめたものと して 、2ページの(3)の② に、経済産業省が平成28
年6月に出した準則 の該 当部分を記載してお きま した。「詐術 を用いたも のに当たるかは、未成年
者の年齢、商品・役務が 未 成年者が取引に入る こと が想定される性質の もの か否か及びこれらの事
情に対応して事業者が設定する未成年者か否かの確認のための画面上の表示が未成年者に対する
警告の意味を認識さ せる に足りる内容の表示 であ るか、未成年者が取引に 入 る可能性の程度等に応
じて不実の入力によ り取 引を困難にする年齢 確認 の仕組みとなってい るか 等、個別具体的な事情を
総合考慮した上で 、実質 的な視点から判断さ れる 」と書いています 。この 準則はこれまで基本 にな
ってきた考え方をま とめ たものとして評価す るこ とができます。そしてこ こでも、取引の 仕組みや
それに未成年者が誘 引さ れる状況への配慮が 問題 とされています。
以上、簡潔に申 し上げ てきましたが、民 法の条 文だけでいえば、未成年 者のする契約が有効 にな
るためには、法定 代理人 の同意が必要なはず です 。法定代理人の同 意がな い契約は、取消し の対象
に な り ま す 。 も っ と も 、こ れ は な か な か よ く で きた 仕 組 み で し て 、 取 消 権の 意 思 表 示 が な け れ ば 、
未成年者がした契約 の効 力は維持されるわけ です から、現実に法定代理人 の 同意がない未成年者契
約のかなりの部分が 、ひ ょっとすると大部分 が、取消権の行使をされ るこ となく、いわば契 約とし
て完結しているであ ろう ことも事実だろうと 思い ます。
その未成年者取消 権の 行使の可否の判断に は、親 権者の先ほど言った 事前 に処分を許された財産
の解釈の場面におい ても 、あるいは詐術に 関する 解釈の場面において も、未成年者の年齢、これは
18歳、19歳であるか、もっ と若い、小学校、中学校で あるかといったこと も含 めたもの、それから、
その取引の対応 、金額あ るいは勧誘の対応な どが 、総合的に考慮 されてい ることを御理解いた だけ
るのではないかと思 いま す。言わんとす るところ は、いわば未成 年者取消 権の実際の行使の成 否の
場面で、取引内容 あるい は未成年者の年齢 、それ から、勧誘行為の 対応と いった消費者法理で 問題
とされるような要素 が、未 成年者取消権の行使 その ものの中に判断が組 み込 まれているということ
を、実は御説明した かっ た次第です。
4ページです。以上 のこ とを前提とすると、ま ず成 年になる年齢が引き 下げ られるということは、
未成年者取消権がで きな くなるだけではなく て、そ こで評価されていた 取引 内容あるいは未成年者
自身の属性などに関 する 消費者法的考慮も失 うこ とになります。したがっ て、その点をい かに維持
するのかは、と ても重要 な課題であると思い ます 。マルチやサイ ドビジネ ス商法などによる被 害が
大きな問題になって いる 現実を踏まえると 、まず 一つの視点は、特商法な どによってこうした 取引
に限定した若年層を 対象 とする取消権の付与 もも ちろん考えられると 思い ます。しかし 、それより
は、既に消費者 委員会で も議論がされている よう に、より幅広く 消費者契 約に関する法理を考 慮す
ることが、私は 妥当では ないかと思います 。消費 者契約法に新たな規 定を 整備することが最も 適切
な考え方ではないか と、 私は考えております 。
主な方法は、2つの 考え 方があると思います。既に 宮下先生からも御報 告の あったとおりですが、
従来、金融取引 に関して 立法されて議論され てい る適合性の原則の範 囲を 広げて、消費者 契約に関
する基本原則とする とと もに、それに関する民事 上 の法的効果を明確に する ということが一つの方
法だと思います。
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既に申し上げたと おり 、未成年者取消権 の行使 の可否で、実質的 に判断 されている内容は 、法定
代理人の同意を前提 とし つつも、当該取引 の金額 であるとか内容、勧誘に 際しての事情などが 、当
該 未 成 年 者 に と っ て 適 切な も の で あ っ た の か ど うか の 評 価 が で き る の か にあ る わ け で す 。 つ ま り 、
そ う い っ た 考 え 方 の 中 に広 い 意 味 で の 適 合 性 の 評価 は 既 に 組 み 込 ま れ て いる と も 言 え る わ け で す。
あるいは、合 理的判断 ができない状況を利 用し た、いわゆるつ け込み型 勧誘について取消権 を付
与するといった方法 もあ るかと思います 。これに ついては、もう 既に随分 詳しい議論がなされ てい
たと思いますが、今回の 消費者契約法改正に よっ て、消費者契約一 般に、過量等を理由とする 条項
の新設がなされたわ けで す。なるほど 、あの条項 の新設についての議 論は 、高齢者への次々 販売な
どを念頭に置いて規 定さ れたものですが 、こうし たつけ込み型勧誘を 具体 化して、それを 高齢者等
に限定することなく 広く 適用することは可能 だし、現行の条文も決して 高齢 者に限った形で規定さ
れているわけではあ りま せん。したがって 、4条 4項を広げることに よっ て、いわば、つ け込み型
勧誘の規制を若年層にも及ぼすことができるという考え方をとることはできないであろうかとい
うことが、2つ目の 方法 だと思います。
最後に、私の考え 方を まとめたいと思いま す。
まず、第1点と して、未成年者に係る民法 の規 定が果たしている役 割を 考えれば、成年年 齢の見
直しという議論は 、まず は基本的には慎重に 対応 されるべきだと思い ます 。慎重に対応さ れること
を前提に成年年齢を 引き 下げるためには、幾 つか の法律的議論の整理 が必 要です。
1つ目は、民 法の未成 年者取消権に、従来果た してきた消費者法と して の役割を組み込むこ とが
できないかどうかと いう ことの検討です。現在は 法 定代理人の同意が有 効の ための要件となってい
ますが、本当にそれ だけ で足りるのだろうか とい うことです。
2つ目は、消費者契約 法に、既に述べたように 、年齢や金額、取引の性 質、勧誘の実際などを考
慮して、合理的 な契約を 締結することができ る法 的な基盤、ある いは消費 者の状況につけ込ん で締
結させた契約の効力 など を問題とすることが でき る規定を整備するこ とだ と思います。
これによって 、未成年者取消権で実現をし てい る価値を、その 後の年齢 の消費者契約につな げる
ことができます 。その観 点を大切にすること が、結果的にはそうした 条項 を有効に機能させる ため
の前提になるのでは ない かと私は考えており ます 。
少し時間をオーバ ーし たかもしれません 。以上 で私のお話を終わり にし たいと思います 。ありが
とうございました。
○樋口座長
どうも あり がとうございました 。
ただいまの御説明 を踏 まえまして、御質問、御 意 見のある方は御発言 をお 願いしたいと思いま す。
池本座長代理、お 願い します。
○池本座長代理
貴 重な 御報告ありがとうご ざい ました。決して 面接試験 でなくて、ゼミ で教授の
貴重な御意見をお伺 いし たことにも感謝申し 上げ ます。
冒頭に強調されま したように、未成年者取消権 の 取引社会の中での意 味を きちんと押さえた上で
議論をしていかなけ れば いけないということ は全 くそのとおりだと思 いま す。実は 、内閣府が実施
している成年年齢引 下げに関するアンケート 調査 でも、平成20年 の調査と 平成25年の調査で 、成年
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年齢引下げについて むし ろ反対する意見は 、減る どころか若干増えて いる ぐらいの流れで 、その意
味では、社会的に未熟な者 をきちんと社会の中 で保 護していくという基 本の 社会の中での価値判断
は変わっていないと 思い ます。それが事 業者の中 の一部で、まさ にそうい う弱い者をつけ狙う とい
う風潮と、もう一つ先生 か ら御指摘のあったネ ット 取引の特徴のために 揺ら いでいるという問題の
2つの側面があるの では ないかと思います 。その 意味で、まず弱 い者を狙 うという悪質商法型 の流
れに対しては、き ちんと 弱者につけ込むよう な取 引について、取消 権を付 与する。その要件 立ては
先ほども議論があり まし たが、そういった未成年 者 取消権にかわる実質 的な 救済法理が必要なのだ
と思います。
こういう考え方を先生の御意見の延長線で位置づけてよいのかどうかということで質問をさせ
ていただきたいので すが、ネット取引の場合に、対面 していないから相手 の素 性が分からないので、
形 式 的 に 年 齢 を 入 力 す る、 あ る い は 、 「 親 権 者 の同 意 は あ り ま す 」 に 「 はい 」 と ク リ ッ ク す れ ば 、
それでもう確認が終 わっ たかのように言われ てい るのに対して、先ほど御 紹 介がありました経産省
の準則の根本の考え 方は まさにそのとおりだ と思 うのです。そこ で、以前 に インターネットの取引
で、非常に分かりにくい 画面構成のために誤 認し て契約することを防 ぐた めに、確認訂正 画面を設
定することとし、それが ない場合には、錯 誤無効 の主張に対してただ し書 を適用しない、と いう電
子消費者契約特例法 3条 の規定が設けられた いき さつがあります 。そうだ とすると、例え ば未成年
者の利用を想定する よう な情報サービスの取 引の 場合には、それに 見合う 画面設定、年齢も 、ただ
形式的なものでなく て、先ほどの準則にある よう な考え方を、特 定商取引 法になるのかもしれ ませ
んが、画面設定の 中で確 認するに足るものを 要求 し、そうでない場 合は救 済の法理、先ほど の適合
性なり、そちら につなげ ることが制度的に可 能な のかどうか、そ のあたり について御意見をお 伺い
できれば幸いです。
○坂東京都産業大学 大学 院法務研究科教授
あり がとうございます。
恐らく未成年者取 消権 を、成年年齢を 下げるこ とによって議論をす る場 合には、ネット 取引に対
す る 対 応 を ど う し て お くか に つ い て の 一 定 の 準 備を し て お か な け れ ば い けな い と い う こ と は 、 今 、
池本先生御指摘のと おり だと思います。そ この視 点は、恐らく画面 上で数 字を入力させたり 、親権
者の同意があるかと いう ことのイエス、ノーを記 載させるだけでは 、先ほ どの準則からしても全く
不十分です。結局 のとこ ろ、キーワードに なるのは、なぜそこで相 当大き な額の決済ができる のか
というと、親の クレジッ トカードの番号を入 力し て、親のカード によって の決済をかませるこ とに
よって子供たちは相 当な 金額の取引ができて しま うわけです。と いうこと は、その年齢記 載の場面
もそうですし、親のクレ ジットカードを使っ てい る場面でもそうです が、基本的には本人確認 の仕
組 み が ど の 段 階 で も き ちん と 機 能 し て い な い 。 それ を ど う い う 形 で 機 能 させ る よ う に 整 備 す る か 、
法的に作っていくの かと いうことの議論をき ちん としておかなければ、そ こ はエアポケットのよう
に未成年者の保護が 十分 に図れていないとこ ろな のだと思います。
一方で、ネッ ト取引は 先ほど大森委員から のお 話もあったように 、実は 大人よりも子供たち のほ
うが慣れていて 、法律的 な意味はともかく 、どう いうことをすれば物 が買 えるのかは分かって いる
と い う 現 実 が あ る わ け です 。 そ こ に 対 す る 物 事 の対 処 は 、 今 、 池 本 先 生 がお っ し ゃ っ た と お り で 、
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特商法で議論をする のか、それとも一方で議論 され ている割賦販売も含 めた 本人確認の議論をどう
やってかませていく のか ということも総合的 に考 えながら、対応 せざるを 得ない、そうい う領域か
と思います。
○樋口座長
よろし いで しょうか。
河上委員長、お願 いし ます。
○河上委員長
未成 年者 取消権に関する民法 の考 え方にさかのぼって、非 常 に説得的な御議論を伺
うことができたので すが 、現行法の問題 として考 えていただいて 、お教え いただければと思う ので
す 。 例 え ば 、 ネ ッ ト 取 引の よ う な 非 対 面 取 引 の 場合 に 、 年 齢 の 要 素 は ど の程 度 問 題 に で き る の か 。
今後の立法的手当てをす ればどうなるかとい うよ りも、現行法で考えてい っ たときにどの程度問題
になり得るのか。特に未 成年者による年齢詐 称の 問題を今日も扱って いた だきましたけれども 、そ
もそもアクセスが許 容さ れている状態で 、未成年 者が何らかの取引活 動を した場合に、現 行法で考
えたときに、なお、 取消 権は行使できると一 般的 に言ってもよいのか どう か。
もう一点、親 の同意権 の話が出てまいりま した けれども、よく 大学に行 く子に対してカード を渡
して、子供に月々 の生活 や学習に関する必要 は、このカードから使え とい うことで、カード 利用を
認めているというと きに 、親の一般的同 意という ものが考えられるの かど うか。特に営業 許可など
は現行法でも認めて いる わけですが、そういうカ ー ド利用に関しての親 の同 意を現行法で考えたと
きに、坂東先生 自身はど う評価されているの かと いうあたりから 、今日の お話の意味を考えた いの
ですが、いかがでし ょう か。
○坂東京都産業大学 大学 院法務研究科教授
あり がとうございます。
恐らく、今、先生から 御質問をいただいた 2つ のことは、共通の部分が ある。つまり、アクセス
の許可をしている親 の同 意があるわけですね 。そ れを前提としたら 、ネッ トアクセスをしてい ると
ころから派生してく るよ うな取引についても、ま し てやその段階で未成 年者 が年齢詐称をしている
場合には、親の同 意とい った影響が、その 他の個 別契約にも及ぶので はな いか。あるいは先 ほどの
クレジットカードを 大学 生になった途端に生 活費 として渡す場面から いけ ば、クレジットカードを
持たせるということ の同 意の中に、少なくともそ の 利用限度額の範囲内 では 未成年者が自由に取引
していいという意思 が中 に組み込まれている ので はないかという、ともに 問 題状況としては同じよ
うな問題が生ずる議 論か と思います。
た だ 、 既 に 河 上 先 生 にヒ ン ト を い た だ い て 恐 縮で す が 、 民 法 の 規 定 に もそ の 性 質 に 違 い が あ る 。
営業の許可に関する 現行 民法の条文は、明らかに 行為能力を創設する 効果 を持った条文です 。それ
以外の5条の規定は 、あ くまで法定代理人の 同意 を前提として、その同意 の範囲内で権限を行 使す
る こ と が で き る こ と を 例外 的 に 認 め て い る に す ぎま せ ん 。 そ う 考 え る と 、先 ほ ど の お 話 で 言 え ば 、
大学生にカードを渡 した ということで、親 が同意 している内容は、恐らく 生活費や、そうい ったも
のの枠組みの範囲としてそのカードの利用限度額までを利用しなさいという趣旨だろうと思いま
す。突然それを使って、変 な言い方ですが、毛皮のコ ートを買うことは親 は想 定していないだろう 。
つまり、何が言い たいの かというと、結局 のとこ ろ、その後の個別 契約の 評価についても、それぞ
れに親の同意の枠の 範囲 内にあると考えられ るの かどうか。端的 に言えば 、同意を擬制することが
21
できるのかどうかと いう 観点で評価せざるを 得な いのだと思います。
結局のところ 、同意を 擬制できるのかどう かと いう評価の観点の枠 の中 で、金額的な問 題や年齢
的な問題や取引の対 応の 問題といったような 、先 ほど言った一種の適 切さ の評価。適合性 とまでは
あえて言いませんが 、適 切さの評価がその中 に組 み込まれて、した がって、理屈的に言うと 、前提
となる同意によって行為 能力が創設されてい ない 以上、後の契約について も 基本的には個別の同意
が 必 要 。 で も 、 一 方 で クレ ジ ッ ト カ ー ド を 渡 し てい る わ け で す か ら 、 そ の同 意 の 範 囲 内 で あ れ ば 、
契約は自由に締結し ても いいということが 、きっ と帰結なのだと思い ます 。ただ、理屈 はそう言え
ても、現実のとこ ろは評 価が難しいですねと 言わ れたら、全くその とおり です。ただ、未 成年者取
消権に関わる部分は、親 の 同意の確認も含めて 実は 評価が難しい要素が たく さん組み込まれていま
す。さらにもっ と言うと 、親の同意がなくても 取消 権を行使しないで契約が そのまま有効に流れて
いっているものも大 部分 あるような、そう いう前 提の中での今の議論 です 。ですから、取消しが問
題となるような事案 の場 合は、その契約 の中身を 評価した上で、親権者の 同意を推定できるの かど
うかが、結局のとこ ろ争 点になるのではない かと 私は思っています。
○河上委員長
そう だと すると、法定代理人の同 意 というかなりファジ ーな 調整弁にかわるものと
して、枠組みで 、例えば で結構ですけれども 、何 か坂東先生のアイデ アが あったら教えていた だけ
ればと思います。
○坂東京都産業大学 大学 院法務研究科教授
私は 今、河上先生に乗せられ て いるのだなと認識しな
がらお話をしますが 、今 度また『消費者法 研究』にも書かせていただ いた ところですが、法 定代理
人の同意は、今で も大切 だと思います。例 えば3 ページのところに変 な図 を描きましたが、未成年
者が年齢に応じて契 約が 恐らく単独でもでき るだ ろうというのは 、小学校 に入った途端、中学校に
入った途端、能力 がちょ っとまた上がってい って、こういうことで 、現実 問題で言えば20歳に なっ
ても実は行為能力で 我々 が想定しているよう な能 力はないのです 。ところ が、そこは擬制 的に上げ
る、そういう価値 判断を 私たちはしているの だと 思うのですが、そ れ以外 の大部分は、法定 代理人
が同意をするか 、または 代理して契約するし かな いわけですから 、法定代 理人の同意というこ との
持っている意味は大 切だ と私は思います。
ただ、消費者 問題が生 ずる場合には、親ですら ちゃんとした判断が でき ない様々な取引が出 てき
ているのも事実です から 、そこのところ のポイン トとしては、未 成年者が 制限行為能力者の1 類型
として評価され続け てき ていることを思い起 こす べきだと思います 。簡単 に言ったら、日 常生活に
係る契約については 、表 現はよくないかもし れま せんが、成年被 後見人で すら単独でできると して
いるわけですから 、未成 年者についても、先ほど のだんだん練習をし てい くことを考えると 、恐ら
く6歳の小学生の未 成年 者が日常生活に必要 とす る契約と、18歳の大学生 が それに必要とする契約
は相当違うだろうと 。そ ういう中から、いろいろ な大人になっていく ため の契約レッスンをし てい
くのだと考えると 、成年 被後見人に関する議 論を したとき、自己 決定を促 しながら保護を図っ てい
く仕組みを考えたわ けで すが、本当は未成 年者の 場面でも考えるべきでは ないか。そして、成年被
後見人の議論をした 際の様々な成果がひょっ とす ると使えるのではな いか ということが、私の思い
です。これはもちろ ん立 法論です。
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○樋口座長
後藤専 門委 員、お願いします。
○後藤専門委員
大 変勉 強になりました。ど うも ありがとうございま した 。
消費者取引に関す る問 題が、従来、高齢者に着 目されがちだったと 思う のですけれども、坂東先
生 は 、 長 い 間 、 む し ろ 未成 年 者 に も 着 目 し て こ うい う 問 題 を 考 え て い ら っし ゃ っ た と い う こ と で 、
そういう観点から 、今日 のお話も非常に興味 深か ったのです。こ の未成年 者に対する今回の成 年年
齢引下げの機会を契 機と した保護、そうい うこと を考える場合に、議論の 流れとしては、宮 下先生
の御報告は、どち らかと いうと年齢というこ とに 着目して、高齢者 と未成 年者を特に、大ざ っぱな
言い方で、そう 言うこと ができるかどうか分 から ないのですけれども 、余 り分けずに両者とも 判断
力か乏しいという形 でく くるということだっ たの ではないかと思いま す。
一方、今日の 坂東先生 のお話は割と未成年 者に 特化した話として伺 いま して、今の河上 委員長と
のやりとりを伺って いて も、未成年者としての保 護 を考えるという方向 があ ったのではないかと思
います。そうだと すると 、例えば4条4項 のとこ ろに年齢的なものを 入れ て、高齢者と未成 年者を
考慮するような立法 より も、むしろ未成 年に特化 した立法を、消 費者契約 法なりで考えるとい う方
向もあり得るのだろ うと今日感じたわけであ りま す。そうだとして 、御自 身のお考え、ある いは外
国で特に制限行為能 力者 だという側面からの 保護 ということにプラス して、未成年者だからこうい
う保護があるという こと が行われているとい うこ とであれば、そういうこ と も御紹介していただけ
ればありがたいと思 いま す。外国の状況と、立法 の 方向として未成年者 に特 化したほうがいいの か、
あるいは高齢者と同 じ方 向の議論でいいのか 、こ の2点についてお願 いい たします。
○坂東京都産業大学 大学 院法務研究科教授
あり がとうございます。
断言をすることは でき ませんが、宮下 先生が御 提案なさったような もの が、私はまず土 台になる
だろうと思います 。です から、決して未 成年者に 特化した形での条項 がな ければいけないと主 張す
る気はありません 。ただ 、一方で適合性の 原則で あるとか、今、私は未成 年者取消権の中身で 適切
さの評価がなされて いる という言い方をして、い わ ば適合性で議論する よう なことが実は組み込ま
れているのだ、消費者保 護としての記載が 、未成 年者取消権の中に組 み込 まれているのだと申 し上
げたつもりです。一方で 、少し考えなけれ ばいけ ないのは、適合性 の原則 であるとか、ある いはつ
け込み型勧誘は、私は一 般条項的に記載する しか ないだろうと思って いま す。とすると、未成年者
がそれで問題になっ たと きに、その条項 を使って 議論をすることがで きる のかというと、未成年者
の 議 論 は 、 従 来 も 要 件 が画 一 的 で 非 常 に 主 張 し やす か っ た か ら こ そ 大 き な意 味 を 持 っ て い ま し た 。
そうだとすると 、一般的 な土台を置いておく だけ では、恐らく未 成年者保 護の規定としては十 分で
はなかろう。簡単 に言っ たら、ネット取引 のとこ ろで揺らいでいると いう 現実があるとすれば 、そ
こに関する手当ては して おかなければ、結局のと ころ成年年齢は下げ る、未成年者取消権は新 しい
取引領域では使いに くく なるのでは、結 局のとこ ろ踏んだり蹴ったり だと いう気がします 。ですか
ら、未成年者取消権 の行 使に関わる部分につ いて の充実も図る必要が ある のではないか。
イギリスが未成年 者の 年齢を21歳から18歳 に下 げる提案をする前の 政府 提案で、実は16歳に下げ
るという話が最初に あっ たのです。16歳 に下げる 提案の中身をして 、パブ コメのようなことを やっ
たのですが、16歳 に下げ るときに、一つの 条件と して、ただし、16歳以下 の未成年者がした契 約に
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ついては、ボイダ ブルと 言いますが、要す るに、無効主張がいつでも でき るのだという発想で あり
ます。片面的効力のような 話でありまして、その際に は、年齢詐称したとしても無効主張ができる。
一言で言えば、16歳以下 の者に年齢詐称され たら 、それは事業者は もって 瞑すべしだと。年 齢詐称
に関する規定も取消 権を 排除しないという提 案を 実はされたことがあ りま す。つまり 、徹底的に16
歳以下は保護するか わり に、16歳以上になると イギ リスでは就職できる もの ですから、したがって、
その就職をするとの 関係 で行為能力を付与す ると いう提案をされたこ とが あります。ただ、最終的
にはそれは採用され ませ んでした。採用 されませ んでしたが、例 えばそう いう議論をしたとい う経
緯があるわけであり まし て、現に問題と なってい るところにどういう 対処 をするのかの評価は 、い
ずれにしてもやらな けれ ばいけないのだと思 いま す。
○樋口座長
ありが とう ございます。
大森委員、お願い しま す。
○大森委員
お話を 伺っ て、いろいろな ことが分 かりまして、未 成年者取 消権の範囲の中でも いろ
いろな問題があるこ と、成年年齢を引き下げ ると いろいろな規定の見 直し とか、準備が要 ることが
よく分かったのです けれ ども、なかなか法的な準 備 の規定だけでは効力 があ るのかなということが
とても心配です。今、イ ギリスのお話を聞い てす ごく共感したといい ます か、だから、基 本的には
お互いが内容を十分 理解 した上でしか契約は 結べ ない、本人同士の関係だ と いうところをもっと周
知徹底して、業 界の自主 規制などをもうちょ っと 頑張ってもらって 、そう いう詐称できるよう な画
面を作ったのは業界 側の ミスであるから 、自分た ちは責任を一切負わ ない といけないとか 、そうい
う方向に持っていけ たら いいなと、感想にな るの ですけれども、思い まし た。
○坂東京都産業大学 大学 院法務研究科教授
あり がとうございます。
例えば法律によら ず、業 界の自主規制などで ネッ ト取引に関しての年 齢確 認に関するルールを設
けるということも 、なる ほど一つの考え方か なと 思います。ネット 取引の 場合は、余り法規 制にな
じまないということ も確 かに分かります。ただ、どうもそういうネッ トに関わる業者は、様 々な事
業者がいるようであ りま して、業界というくくり で 物事をつかまえるこ とが 本当に可能かという と、
必ずしもそうではな いよ うな気がします。そうす ると、ある程度法 律的な ルールを定めた上で 、明
確にした上で、そ の中で 、事業者の方々に様々な 御努力をいただく 。例え ば、今回の消費者 契約法
に入る4条4項です ね。あれなども、私 は一番最 初にそのボールが投 げら れているのは事業者 だと
思っています。普通の事 業者が過量な契約に なっ たときに、その 取引を買 いたい人には売るで はな
い ル ー ル と し て 対 処 す るた め に 、 ど う ビ ジ ネ ス モデ ル を 作 っ て い く の か が問 わ れ て い る わ け で す 。
あの条文は使い勝手 がい いのかどうかなどと いう 議論はともかくとし て、少 なくとも事業者として
はそれについてビジ ネス モデルを考えるきっ かけ になるのは事実です から、そういう投げ方をして
いかないと、物 事は前に 進んでいかないので はな いかと思います 。お答え になっていないと思 いま
すが。
○樋口座長
いかが でし ょうか。
それでは、坂 東教授へ のヒアリングはこの あた りにさせていただき ます 。ありがとうご ざいまし
た。
24
○坂東京都産業大学 大学 院法務研究科教授
あり がとうございました 。
(3)中田龍谷大学法科大学院教授
○樋口座長
次に、 龍谷 大学法科大学院の中 田教 授に御説明をお願い した いと思います。
中田教授は、民 法、消 費者法、EU法など を御専 門とされていますが 、特 にヨーロッパにおけ る消
費者法、消費者契 約法の 展開と日本法との対 比の 中で、ヨーロッパ や日本 の抱える消費者法 、消費
者契約法、広告規制 法に 関する具体的な問題 点を 分析・研究されてお られ ます。
本日は、ドイツ法にも触 れながら、「不公正取引方 法指令における『攻撃的取 引方法(aggressive
commercial practices) 』の意義について」 のお 話をいただけるもの と伺 っております。
それでは、早速で ござ いますが、どうぞよ ろし くお願いいたします 。
○ 中 田 龍 谷 大 学 法 科 大 学院 教 授
た だ い ま 御 紹 介を い た だ き ま し た 、 龍 谷大 学 の 中 田 と 申 し ま す。
本日はこのような 場で 御報告する機会を与 えら れて、大変光栄に思 って おります。
今日の報告の内容 は、EU公正取引方法指令に おけ る攻撃的取引方法と、そ れに関係するドイツ 法
の内容です。
ヨーロッパの状況につ いては、未成年者 という 区切りはおおむね18歳で す。この間、スペインか
ら女性の研究者をこ ちら に招聘したときに今、日 本 では成年年齢の引下 げを やっているのだとお話
ししたところ、何 歳にな るのかと聞かれて 、20歳 から18歳にと説明す ると 、18歳はもう大人 だと言
われてしまいました 。日 本はそうではなくて 、受 験勉強に集中する結 果、全く社会的な経験が ない
大学生がたくさんい るの だという話をいたし まし た。
ただ、ヨーロ ッパでの 規制は18歳を成年年 齢と して、それ以下 のところ もあるかもしれませ んけ
れども、そうい う中で、今 日も先ほどお話があ った ような消費者個人を どう 保護していくのかとい
う問題とかかわって 、未 成年者の保護も問題が存 在していると考えて いま す。また、消 費者の保護
が そ う し た 年 齢 に お い ても 十 全 に 図 れ る 体 制 が とれ る の で あ れ ば そ れ で 足り る こ と に も な り ま す 。
また、年齢や社 会経験を 考慮して消費者を保 護で きる可能性があれば、そ ういう意味で成年年 齢18
歳に引き下げても大 丈夫 だということになる かも しれないとも考えて おり ます。それにつ いて、ヨ
ーロッパの法規制が御参 考になれば幸いです。
さて、今日のレジュ メの参考文献のところを御覧 ください。幾つか挙げ させ ていただいています。
マトリックスの8ペ ージ のところも参考文献 を挙 げております。鹿野先生 の論文「EUにお ける広告
規制と消費者の保護 」は 、鹿野先生と私が 編集し た『ヨーロッパ消 費者法・広告規制法の動向と日
本法』に所収されていま す。また、この本の中に は関係の論文が収められ ています。とくに、今日
お話しするドイツや ヨー ロッパの不正競争防 止法 については、原田昌和先 生 の手による翻訳です が、
『消費者法の現代化 と集 団的権利保護』という書物 の中に収録されてい るア ンスガー・オーリー「ヨ
ーロッパ不正競争防 止法 」という論文も参考 にし てもらえればと思い ます 。
なお、今日出席されて い る先生方は恐らく消 費者 法学会でドイツ不正 競争 防止法についての私の
話をお聞きになって いることもありますので 、そ れについては簡単に させ ていただきます 。それで
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は、レジュメの1ペ ージ を御参照ください。
ま ず 、 不 公 正 取 引 方 法指 令 の 内 容 に つ い て 説 明い た し ま す 。 こ れ は 2005年 に 制 定 さ れ た も の で 、
事業者の消費者に対 する 不公正な取引方法に つい て規律したものであ りま す。この指令は 、不公正
な取引方法を一般的 かつ 包括的に禁止するこ とを 目的にしております 。そ の構造は、ヨー ロッパ的
な文脈において理解 され るところの「不公 正」と いう観念を使って 、その 後に、誤認惹起的 取引方
法と攻撃的取引方法 とい う下位概念を作って、こ れ によって不公正な取 引方 法を包括的に禁止する
ものです。
この指令は、域内市場 の基本ルールとして の内 容を持つ指令であり まし て、EU法ではか なり多く
の指令が出ています が、そのなかでも重要な もの の一つになっていま す。
そして、目的の ところ に戻りますが、こ うなっ ています。消費者 の経済 的な利益を侵害する 不公
正な取引方法に関す る加 盟各国の法律、規則及び 行 政規定を平準化させ るこ とを目的としておりま
す。
これは域内市場の機能 を適正に発揮させる とと もに、高水準の消費者保 護 を実現することを目的
としているわけです 。こ のように、目的規 定の説 明を読めば分かるよ うに 、この指令の重要 かつ主
要な目的は、EUの 目的と も関係しますが、域内市 場の機能を適正に発 揮さ せることにあります。こ
のような目的の意味は、旧態依然とした各国 の取 引規制を自由化する こと にあるわけです 。いわゆ
る規制緩和です 。確かに 一見すると、消 費者保護 に手厚い規定が置か れて いると思われるかも しれ
ませんが、全体を 見ると、本指令は、域内市場で の市場ルールを統一 する ことによって事業者 の古
い取引慣行や自主規 制を 撤廃する効力を持っ てい ることが分かります 。
昔、ドイツ法では、顧 客に非常に親切にし て、店で買い物しないと ばつ が悪い状況を作り出 すこ
とは、不正な競争 行為で ある、あるいは 、割引セ ールの期間を決めて、そ れ以外に割引をする と不
正な競争であるとい うよ うなことをルールと して 有していたのですが 、こ こで、この指令 が前提と
しているような、情報を 提供された自立した 消費 者という消費者像に はそ ぐわないことになり 、そ
うした消費者が影響 を受 けない場合には、不要な 古びた規制を撤廃し てい くことで、市場 を活性化
することを意図した のです。後で少し出て きますが、不公正取引方 法指令 は、EU法の中で市 場の法
を統一していく、最大限 の平準化というアプ ロー チをとったわけです が、いわば、EUという 外圧に
よって、各国の閉鎖的な 取 引規制あるいは慣行 を廃 止するといったこと が主 たる目的となっていた
と い う 見 方 も で き る か もし れ ま せ ん 。 た だ 、 あ えて こ う 申 し 上 げ た の は 、不 公 正 取 引 方 法 指 令 は 、
消 費 者 保 護 の た め に だ け採 択 さ れ た 指 令 で は な いと い う こ と を こ こ で 強 調し て お き た い か ら で す。
さらに進めて、不 公正 な取引方法の禁止の 内容に入っていきます。
不公正な取引方法 の禁 止は、指令5条に ありま す。これは一般規 定です が、この中身は 、少し条
文を引用しながら説 明し ますが、「職業上 の注意」に反し、かつ 、ある製 品の提供を受ける「 平均
的な消費者」、または、取引方法が特定の消 費者 集団に向けられてい る場 合においては、当 該集団
の平均的な構成員を して 、その製品に対 する経済 的行動を実質的にゆ がめ させ、もしくは 相当程度
ゆがめさせるおそれ があ る場合ということに なっ ています。これ は、事業 者 が誠実な取引をすべき
であるというルールを表 現したものだと理解 して いいと思います。
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そして、ここで使われて いる「平均的消費者」とい う概念には少し注意 が必 要になると思います 。
一般的に指令で採用 され ている平均的消費者 の基 準は、いわゆる 情報提供 を受けた消費者 、ちゃん
と判断ができる「賢い消 費者像」を前提としてい ます。つまり、情報がち ゃんと与えられたら、き
ちんと判断できると いう 、ある意味では 、強い消 費者像を前提として おり ます。これは欧州 司法裁
判所の判決を踏襲し てい るものです。た だ、指令 は 取引方法がある特定 の消 費者グループに向けら
れ て い る 場 合 に は 、 そ のグ ル ー プ の 平 均 的 構 成 員の 目 線 を 基 準 に い た し ます 。 そ う い う 意 味 で は 、
ある特定のグループ や弱 い傾向のあるグルー プに 向けられた広告ある いは 取引行為であれば、年齢
が未成年となれば、そう いった人たちに向け られ て、その人たちの 弱さを 利用する場合には 、これ
らの消費者をとくに保護 するということを考 えた わけであります 。そのこ とによって、い わゆる一
般的な集団における 平均 的な消費者と区別し て、身体的・精神的障害、あ るいは年齢、軽率さ、経
験の欠如といった理由によって特にその保護が必要となる消費者グループを適切に保護すること
ができることになる わけ です。
そ の 条 文 と な る の が 、指 令 5 条 の 3 項 で す 。 年齢 そ の 他 の 理 由 か ら 、 特に 保 護 を 要 す る 消 費 者 、
vulnerableヴ ァ ー ル ナ ブ ル と い う ち ょ っ と 難 し い 発 音 の 英 語 で す 。 ま た ド イ ツ 語 訳 は 明 確 な 訳 で
Schutzebedrueftigと され ていて、保護を必要と する という意味で訳され ています。日本では脆弱な
消費者、私はこのような 訳があまり好きでは ない ので、自分では社 会的に 弱い消費者とか、そうい
う言葉を使ったり 、ある いは特に保護を要す る消 費者という形で訳し てお ります。EU法では 、この
ような消費者像の存 在が垣間見えるというわ けで す。つまり 、消費者の中 に も段階的な層があるの
だということで 、段階的 消費者概念という言 葉で 表現しておきますが 、そ ういう発想がここで 見て
とれるわけです。そ の要 件については、レジ ュメ で少し書いておりま すの で、御覧ください。
まず、指令5条 3項は 、「取引方法が 、明確に 特定された消費者集 団の 経済的行動を実質的 に歪
めるおそれがあるも ので あり、かつ、事業者にお いて、この消費者集団を 、その精神的・身体的障
害、年齢、軽 率さを理由 に、当該の取引方 法また は取引方法の対象と なる 製品に対して特に保 護す
る必要性があること(particularly vulnerable)を 予見することが合理 的に 期待できる場合には 、
当該取引方法は、この集 団の平均的構成員を 基準 として評価される 」とい うものです。原文 の英語
は読みにくい構造で 書か れているので、ここでは日本語的な形で意訳 して おりますが、少 し分かり
にくいかもしれませ ん。この規定のただし書 の趣 旨は、同条は 、全くあり 得ないということを主張
したり、バナナをた たき 売るようなことの広 告に ついては適用されま せんということです。
では、次に攻 撃的取引方 法です。レジュ メのIII、3ページの2に入り ます。指令8条の内容は、
「取引方法は、当 該事実 状況の下、当該す べての 特徴及び事情を考慮 して 、困惑行為、有 形力の行
使を含む強制又は不 当な 影響により、平均的消費 者 の当該製品に関する 選択 又は行動の自由を著し
く歪め又はそのおそ れが あり、それによ って平均 的消費者に、そ れがなけ ればしなかったであ ろう
取引上の決定をさせ 、ま たはそれをさせるお それ がある場合には、攻撃的 とみなされる」と いうも
のです。事業者がこうい っ た行為を通じて消費 者の自己決定を侵害する よう なことをやった場合に
は、「攻撃的」取引 方法 となるのです。
これに関係して 、指令 9条の内容は、攻 撃的取 引方法の定義規定で あり 、それによると 、困惑行
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為、強制行為、不当な影 響の行使ということにな り、で、その考 慮される べき事情が書かれてあり
ます。
さらにそれを具体 化する形で不公正な取引 方法 のブラックリストがあり ます。こうしたスタイル
は、「完全平準 化」とま でいうのは言い過ぎかも しれませんので、最大限 の平準化のアプロー チと
いうことになります。た だ、実際には、ほぼ完全 平準化に近いもので あり まして、このリス トは全
て文言そのままに各 国法 において転換しなけ れば ならないということ にな っております。
資料の中にヨーロ ッパ 各加盟国の法状況に つい てのマトリックスをつけ ておりますので、少し御
覧ください。攻 撃的取引 方法の規制状況につ いて丸がついてあるかと 思い ます。資料の7 ページで
す。広告規制法 、攻撃的 取引方法の禁止とい う表 題の真ん中のあたり にあ ると思います。こ れらの
領域についてはEU指 令に よって国内法が平準化さ れていくことになっ てい るわけです。どこの国で
もそういった規制が ある ことを確認できます 。な かなか厳しい内容の 、こ のようなリストに各 加盟
国全てが同意できた のか と私もちょっと疑問 に思 って文献を見てみる と、こ れは当然のことであっ
てほとんど異論はな かっ たと書いてありまし た。当時はそうだったの かも しれません。今となって
は、このような リストが 出てきてみんなびっ くり したのかもしれませ んが 、当時はそう言 われてい
たのです。ヨーロ ッパで は、こうした規制 は「当 然のことである」と理解 されていたというわ けで
す。
また、4ペー ジの指令 付表の28.は 、「 子供に 対する広告」が 取り上げ られています。ただ、子
供に対する広告は 、特別 法で規律されていま すの で、この条文自 体が使わ れることは余りない と理
解 を し て い た の で す が 、先 日 の 消 費 者 法 学 会 で 岩本 諭 先 生 が 御 報 告 に な った と こ ろ に よ り ま す と 、
近時、「Rule of Magic事 件」に関するドイツ 最高 裁の判決で、インタ ーネ ットゲームのサイト内
で、子供向けの 呼びかけ 表現によってゲーム 内で 使用する強い武器の 購入 の働きかけを、ドイツ不
正競争防止法で禁止 され ているものとしまし た。後で御紹介しますが 、こ れはEUのこのリスト をそ
のままドイツ不正競 争防 止法に持ち込んだ規 定な のですが、それで禁止さ れ ている子供に対する直
接の購入の働きかけ に該 当し、違法、つまり 、不 公正であると判断し た事 例がございます。
以上が、EU法の説 明と いうことになります 。
さて、このEU法 は、ド イツというEU加盟国 にお いて国内法化される こと になります。実は 、この
ドイツという国は 、ヨー ロッパの中で非常に 先進 を行く法律を作って いこ うという意識の高い 、ま
た、比較法的な研究の 盛ん な国です。2004年に、こ の ドイツ不正競争防止 法も できてからもう100年
近いということで、ヨー ロ ッパを牽引するよう な法 律にしようではない かと先取り的な改正があり
ました。ヨーロッ パに対 して、できるだけ早い段 階でモデル法を示し て、そして、それをヨ ーロッ
パの国で広めていこ うと いう発想に立ってい たと 聞いておりますが、それ に 基づいてドイツ不正競
争防止法が改正されまし た。
その改正では、先ほど 少 し説明をしたEU法の 理念 を組み込んでいく形 をと れるような受け皿を作
り上げていきました 。ド イツの不正競争防止 法は 、日本のとは全 然違うと 言うとしかられるか もし
れませんが、ドイ ツのそ れは、競業事業者 だけで はなくて、消費者 その他 市場参加者を不公正 な取
引行為から保護する、ま た、公益の利益も 保護す るということを目的 とし たものです。ここ に消費
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者という概念が入っ てき ている点で、日本 の不正 競争防止法とは違い があります。私は 、大分昔に
なるのですが、ドイツ留 学から帰ってきた90年頃 に、日本の不正 競争防止 法が改正されるとい う話
を聞いて、ドイ ツぼけが 入っていた当時です が、これは消費者のため に改 正されるのかと思っ てい
ました。もちろん、営業 秘密の保護のための 改正だったという話なの ですが、当時において もその
ように大きな違いが ある というわけです。
同法は、事業者 の競業 行為、それにおけ る不正 を正すという意味を 持っ ています。それは 市場の
ルールということに 関係 しますが、市場 の秩序維 持の担い手として、そこ に消費者団体が入っ て大
きな変化を遂げたと いう ことになります。
取引行為の概念に つい ては、重要ですが、省略 させていただきます 。
この規定が置かれ てい るというのが、4条の1 項のところです 。これも 見ていただければと 思い
ます。つまり 、ここで確 認できるのは、EU法の中 身が明確な形で国内 法に反映されなければい けな
いとされることによ って、そういう要請を満た した形で国内法化が行わ れて いるということであり
ます。実際に、昨年、ド イツでは、EU法に適合的 な形で条文を作って いな いということで、新たに
補完的な改正がなさ れたのです。そういう意味で のEUの法律を遵守して いく という姿勢がここでも
貫徹されたと評価で きま す。
レジュメの5ペー ジを 見てください。先ほどか らのEU法での議論に 関係 するものが、4a条の2項
の2文というところ です 。ここでは「 上記3によ って考慮されるべき 事情 となるのは、消費 者にお
ける精神的または身 体的 障害、年齢、取 引上の経 験の欠如、軽率さ 、不安 感または強制状態を 利用
すること」と、明確に条 文の中にこれのよう な事 情が入っています。もし 、そういったもの を利用
し た こ と に よ っ て 自 己 決定 に 影 響 を 与 え る よ う な取 引 行 為 が な さ れ て い ると 見 ら れ る の で あ れ ば 、
消費者団体による「差止 め」の対象になりま す。
さて、最後に 、先ほど マトリックスを御覧にな っていただいたよう に、EU法の影響についてで す
が、攻撃的取引 方法の禁 止は、ヨーロッ パでのス タンダードになって いる ことが確認できるの では
ないかと思います 。先ほ ど申しましたように 、こ ういった形でのリス トの 作成には異論は余り なか
ったと聞いておりま す。ドイツ法はこういっ たも のを受けて、それ をより 明確化し、こうい ったル
ールを遵守していく こと になっています。
以上、先ほど のお二人 の報告とは全く違う 角度 からとなりましたが 、私 に課せられたタスク とい
うことで、このよう な形 で御報告させていた だきました。御静聴、あ りが とうございました。
○樋口座長
御説明 あり がとうございました 。
ただいまの御説明 を踏 まえまして、御質問、御 意 見のある方は御発言 をお 願いしたいと思いま す。
いかがでしょうか。
池本座長代理、お 願い します。
○池本座長代理
池 本で ございます。
非常に貴重な情報 を提 供していただいてあ りが とうございます。御紹介 い ただいたEUの指令もで
すし、ドイツ法も ですが 、紹介いただいた 条文を 見ると、非常に分 かりや すい言葉で規定をさ れて
いる。先ほどの ヒアリン グの中でも感想を申 し上 げたのですが、我が国で 消費者法を議論する とき
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は、非常に要件を 細かく 切り刻んで分かりに くく、厳密だと言えば そうな のかもしれませんが 、む
しろルールとしてあ る程 度評価を込めた言葉 で規 定し、解釈運用で固めて い くということでもよさ
そうなところまでど んど ん細かくしていく傾 向が どうもある、という感想 を私は持っていたので す。
このドイツ法あるい はEU法のこういう条項に つい て、その概念の厳密さな り 不明確さということで
何か議論、異論が出 たり ということがあるの かが 1点です。
もう一つは、これは非 常にすばらしい包括 的な 形で網をかけている とこ ろですけれども 、これの
法の実現、行政的 な面と 民事的な面で、その実現 の実情というところ を、もしお分かりでした ら教
えていただけるとあ りが たいと思います。
○中田龍谷大学法科 大学 院教授
御質問あり がと うございます。
最初の質問ですけ れど も、翻訳は分かりやすい ということでうれし いの ですが、実際に EU法の原
文を読みますと、構造が 複雑なところもあり 、理 解が難しいところも あり ました。ただ、EU法の中
で、一般条項的な 規定と 具体的な個別規定の 組み 合わせという、こ の段階 的な構造は、この種の法
律についてはとられ てい ると思います。これはEU法 においても明確に規 定し ていくことの必要性は
非常に強調されてい るの ですが、この分 野につい ては新しい問題が出 てく る、新しい取引 形態が出
てくるということで 、カ バーし切れない部分があ ることに共通の理解 があ ります。したがっ て、こ
のような受皿規定と して、一般条項を置くことは当 然の前提とされてい たの ではないかと思ってい
ます。とりわけ 、こうい った立法をリードし てい るドイツ法において は、先ほどドイツの不正 競争
防止法と日本の不正 競争 防止法の違いという こと を申し上げましたが、ド イ ツの発展の基礎にあっ
たのは、一般条項 だった のです。つまり 、不公正 な競争というような 概念 、不正な競争とい う概念
があり、それに依 拠しな がら、判例法が具 体的な ケースを適切に処理 し、非常に展開してきた とい
う 歴 史 的 な 経 緯 が あ り ます 。 そ う い っ た も の が ない と 、 お そ ら く ド イ ツ でも UWGの 消 費 者 保 護 的 な
発展がなかったので はな いかと考えておりま す。ですから、そういう意味では 、一般条項の存在は、
当 然 の こ と と 考 え ら れ てい る の で は な い か 、 と いう こ と で す 。 つ ま り 、 受け 皿 と し て 新 し い 紛 争 、
類型が出てくる分野 であ るということは意識 され 、また、それに裁判所が 反 応していくことが前提
になっておりますの で、そういった枠組みに よる 法構造は、こう いった立 法に不可欠な要素で はな
いかと思います。
法概念については 、ヨ ーロッパには、様 々な法 体系がありますので 、一 定の概念をどのよう に理
解すればよいのかと いう ことがあります。例えば 、この指令の中で もアン デュー・インフル エンス
という英文を「不 当な影 響」と訳しており ますけ れども、英米法で いうア ンデュー・インフルエン
スという言葉を使い ますと、一つの説明で すが、不当威圧という用語があ ります。それと同 じだと
い う と 、 イ ギ リ ス 法 の 不当 威 圧 の 法 理 が 全 部 そ こに 乗 っ か っ て く る と い うこ と に な り か ね ま せ ん 。
それは、このEU法 が前提 としているものでは ない ということになりま す。つまり、EUの域内 市場の
中で、この概念の 内実が形成されていくこと が予 定されていまして 、そう いう意味では、概 念の争
いはないかと聞かれ ると 、あるということ になり ます。しかし、EUのマー ケットの中で、ど のよう
な形でその概念を用 いた らよいのかというこ とを 今から、EU裁判 所もあり ますし、検討し ていくと
いうことになろうか と思 います。したがっ て、共 通の理解が必要とさ れて おり、各国法の勝 手な理
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解は許さないという こと がEUでの前提となり ます 。
エンフォースメン トに つきましては、実 は、EU指令のところでも書 いて ありますが、それ は共通
のものとされていな くて、実現方法は法 体系によ って違うということにな っています。例 えばドイ
ツ法では、これは 民事的 救済、つまり裁判 所で、かつ消費者団体が主 要な 役割を果たして、民事裁
判の中で追及をして いく、不正な行為を摘発し てい くというそういった 要素 があるということであ
ります。刑事的な規定は ありますが、ほと んど使 われていないと聞い てお りますし、また 、その部
分を強化すると警察 ある いは行政が膨らんで いくことになりますから、ド イ ツ法の発想にはなじま
ないと考えられてい るよ うです。むしろ 非常に汎 用性の高い裁判所の シス テムがあって、それがエ
ンフォースメントに助力 していく、あるいは消費 者 団体がそういったも のを実現ないしは支援して
いくという枠組みが とら れているように思い ます 。ただ、他の 国も全くそ れと同じかというと 、そ
うではなくて、イギリス あるいはフランスな どは 、刑事制裁を中 心に動い ているように聞いて おり
ます。
○樋口座長
大森委 員、 お願いいたします。
○大森委員
子供を ター ゲットとする広告規 制に ついてお聞きしたい ので すけれども、EUではどの
あたりまでがスタン ダー ドになっているのか と、日本の現状と、それを踏 まえてどういうこと が求
められるか、先生の御意 見をお聞かせくださ い。
○中田龍谷大学法科 大学 院教授
非常に難し い問 題で、私自身は そこの専 門家ではないので 、余り
ちゃんと答えられな いの ですけれども、例えばテ レビでアニメをやっ てい る。名前を出す のは余り
適切ではないのかも しれ ないのですけれども 、キ ャラクターの商品が、そ のテレビのヒーロー が身
につけているようなベル トや装置が、その放映の 間 にテレビのコマーシ ャル として流れる形は恐ら
く許されないという こと になるのではないか と思 います。つまり 、子供は 十 分な判断能力がないの
に、それに直接 働きかけ るような形は許され ない ことになろうかと思 いま す。直接間接的 に働きか
ける場合は別です 。もち ろん子供がこれを欲 しい と言っても、ち ゃんとし た親だったらそのよ うな
ものは買わない、ゲーム 機は買わないという よう なことはもちろんあ るわ けです。ただ 、そういう
機会に、子供に直接強く働 きかけるような広告 は適 切ではないというこ とが 言われていると思いま
す。
また、青少年 について のたばこの広告の規 制で あったり、ビー ルを飲む ような広告も夜の何 時か
らとか、日本で も導入さ れていると思いますが、そういったものはか なり きちんと決められて いる
と思います。私自身はま だ 詳細について調べており ませんが参考文献に 挙げ た岩本先生が論文を書
かれておりまして 、37ペ ージの脚注というと ころ で「子どもに対す る広告 規制の理念と展開 」、ま
た「脆弱な消費者−子ど もと法的視座」と いう論 文を書かれておられ ます ので、参照してい ただけ
ればと思います。
○樋口座長
ほかに いか がでしょうか。
河上委員長、お願 いい たします。
○河上委員長
どう もあ りがとうございまし た。
ヨーロッパはものすご い勢いでこういうル ール 化が進んでいるとい うの で、うらやましい限りだ
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と思うのですけれど も、日本でこうした民事 ルー ルを考えようとする と、どうしても立法事実 はあ
るのですかというこ とが しきりに言われるわ けで す。立法事実が あるので あれば、それを 解決する
ために現行ルールで はだ めか。そして 、現行ルー ルでだめだとした後 も、丁寧な議論をという よう
にして、次から 次へとハードルが上がってく るこ とが多いのですが 、ヨー ロッパでこうした民 事ル
ー ル の 立 法 化 が な さ れ てい く 際 に 、 い わ ゆ る 立 法事 実 が そ れ な り に あ っ たの か ど う か が 1 点 で す。
もう一点、聞く だに、競争法的な発想が非 常に 強い感じがいたしま して 、今日はどちらか という
と消費者契約法の中 に何 かしらという議論が 比較 的行われていたので すけ れども、不正競争防止法
という法律が、どちらかと いうとこれは競業事 業者 を保護するためのも のと して、今、ありますが、
これが消費者保護的 な役 割を演ずる可能性と いう ようなことについて、中 田 先生はどういうお考え
をお持ちなのかとい うあ たりも聞かせていた だけ ればと思いますが、 いか がでしょうか。
○中田龍谷大学法科大学院教授
いろいろな側面で立法事実を捉えることはできると思うのです
が、ともかくEUの指令に ついて限って言いま すと 、これは域内市 場を活性 化していくという目 的が
ありますので、様々な、先 ほど申し上げたよう な市 場規制的なルールを 撤廃 していくために統一ル
ールが必要とさたと いう ことが重要となりま す。EUでは、そうい うことが立 法事実の一つとして あ
ったのではないかと 思い ます。
他方で、そうい った自 由化に伴って、こ れもド イツの判例法で形成 され てきたような、様 々な不
当な取引類型があり まし て、それが参考にされてEU法としてこの中に取 り込まれた側面があったの
ではないかと思いま す。つまり、判例が 十分にそ ういった問題を一般 条項 の中で取り上げて展 開し
てきたことが、まさにこ のような形での一般条 項の 必要性を基礎づけるとこ ろの立法事実になるの
ではないか、つま り、立 法事実となるのは 、将来 の紛争の適正な処理であ り、それに対応す るため
の規定が必要であるとい うことです。これはドイ ツ 不正競争防止法の展 開か らみても明らかではな
いでしょうか。
とにかく日本の判 例法 は一般条項との関係 で、日本の民法学もそう ですが、一般条項を 使うこと
については非常に警 戒し ているところがあり ます 。他方で、実 務を見ると 、裁判官が契約に即して
具体的な評価をし 、判断 をしていくという側 面が 弱いとは言いませんが、まだ十分でないと思 われ
ます。私もドイツ でそう いったことについて裁判 官に聞いてみました 。ド イツでは、様々な 形で約
款や条項について不 当性 を判断していくとい うよ うな膨大な判例があ りま す。日独で裁判官の数も
違いますが、個 別の契約 について裁判官とし て評 価をするのは難しい ので はないか、と申 し上げた
ところ、ドイツの裁判官 は そういったことを判 断す るためにトレーニン グさ れているのだと聞かさ
れて、驚いたことがあり ます。また、裁 判所でも 、そういった形の 議論が 出てくることを歓迎 して
いるところがありま す。裁判所での判断が分 かれ ていても、まさ にそうい った条項をどう今後 評価
していくのかという 素材 を与えてくれるものと聞 かされまして、文化が違 うこともあるかもしれな
いのですが、少し驚 いた ことがあります。
ただ、日本でも 、そう いった方向性をとる ことが、契約条項など の評価 にとっては非常に大 事だ
と考えています 。裁判官 がきちんと関与し 、その 価値判断を消費者と共有 していくことを可能 にす
る消費者契約法が必 要な のではないかと考え てい ます。先ほどから出てい る ような一般条項の在り
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方は今後もきちんと 議論 される必要があるは ずで す。この議論は 、消費者 契 約法の在り方をどうす
るかという問題につ ながるものです。
不正競争防止法の理念 においては、消 費者保護 のためという部分ととも に、マーケット の健全性
が前提となります 。そこ には消費者利益がき ちん と組み込まれていな ければいけないのです。先ほ
ど脆弱な消費者とい う概 念については、今日は説 明をする余裕はなか ったのですが、そこ で一番問
題になるのは、貧困ある い は十分なスキルを持 たな い人たちがどうマー ケッ トにアクセスするのか
ということです。インタ ーネットの話でも 、イン ターネットを使う道 具が なければインターネ ット
にアクセスできないので す。実は、イ ンターネッ トの中には、今は 消費者 問題という形で出て きて
いますが、重要 な情報に 我々がアクセスし 、より 安いものを購入する とい うようなアクセスの 可能
性マーケットにとっ ても 大事ですし、マーケット の 外にいる人たちにと って も生活を行うという面
でとても大切なこと とな ります。そうだ とすると 、そういったインター ネッ トにアクセスすること
を開放しないと、人々の 生活を支えるという 意味 での「市場」が機能しな いことになるのでは ない
か。つまり、逆 にそうい ったツールのない人 、お 金のない人たちをそ こか ら締め出すと、さ らによ
り劣位に置かれてし まう 。EU法の考える「市場」の中で、そういっ た人た ちの扱いが重要な問 題だ
と言われているのに は、 こうした発想がその 基礎 にあると思います。
最後の質問に対す るお 答えですが、私 は、日本 で も不正競争防止法をうま く利用したらよいので
はと考えています 。不正 競争防止法の中で利 用す るか、あるいは 例えば不 正競争防止法がドイ ツで
担っているような部 分を 消費者契約法の中に 取り 込んでいくことも可 能で はないか、と考えていま
す。つまり、消 費者契約 法は非常に重要な部 分と して、市場のルー ルを形 成しているのです 。事業
者と消費者との関係 で、ま さにそういった市場 ルー ルを作り出していく のが 消費者契約法の役割だ
と理解できるのであ れば 、不正競争防止 法が本来 担っている部分 、あるい は日本の不正競争防 止法
が担えていない部分 を消 費者契約法の中に取 り込 んで展開することも 可能 だという考え方です。例
えば、消費者契約法 での 差止請求の実現は、 そう した方向のよい例の 一つ です。
差止めという議論の 中で 不当な勧誘行為の概 念を さらに広げることが あり えます。例えば広告も
含めてその規制の対 象に し、差止請求権を 消費者 団体に与えることが 考え られます。ただ 、そうい
った重要な機能を消 費者 契約法に与えるとき に、今 のままのような形で 消費 者団体を運営するだけ
では、多分そう いった機 能を果たすことを期 待で きないのではないか と思 います。消費者 団体の機
能の強化をどういう 形で やるのかについては 議論 がありますが、そういう も のをセットにして消費
者契約法を展開して いく ということが一つあ るの ではないかと考えて いま す。
○樋口座長
後藤専 門委 員、お願いします。
○後藤専門委員
未 成年 の問題とはちょっと 離れ るのですけれども、本日 は 攻撃的取引方法という
ことで御報告いただ いて 、非常に参考になり まし た。どうもありがと うご ざいました。
攻撃的取引方法を、日 本 の消費者法でどのよ うに 参考にしていくのか とい うことなのですけれど
も、不招請勧誘と か、消 費者契約法でいうと 困惑 の問題に関連してく ると 思いますが、こう いう方
向の検討が、私 の見方で すけれども、誤 認の問題 に比べたら従来日本 では 欠けていたと思うわ けで
す。困惑の拡張あ るいは 不招請勧誘とか、今、非 常に問題となって考 えな ければいけない問題 につ
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いて、攻撃的取引 方法と いうEUの考え方は非 常に 参考になると思いま す。この辺について、中田先
生、何か御意見やお 考え があれば教えていた だけ たらありがたいです 。
○中田龍谷大学法科 大学 院教授
先生と同じ ように、日本の困惑類型の規 定 ぶりは非常に狭いので
はないかと私自身は 思っ ています。例え ば意思表 示が、つまり消 費者が出 ていけと言わなけれ ば取
消権がないというよ う規 定ぶりなのですが、この 点 について私は少しヨ ーロ ッパの方と議論をした
ことがあります。たとえば 、事業者が1時間居座った らどう、2時間はどうなり ますかと聞いたら、
それほど長時間居座 れば それだけでアウトで しょ うということでした。つ まり、そういっ た取引形
態 は 公 序 良 俗 に 反 す る もの と し て 許 さ れ な い と いう 感 覚 で す 。 そ う し た 感覚 が 大 事 か と 思 い ま す 。
我々もそういった感 覚を 持っているはずです し、そ ういったものが判断 にき ちんと出てくるような
形の条文化が必要で はな いかと思います。
また、電話勧誘 につい ても、その規制がまだ非 常に弱いのではない かと 思います。自宅と いうプ
ライベートの空間に 電話 をかけることが、営業行 為としていかにして正当 化されるのか、私には理
解ができません。販売目 的の電話がプライベー トな住居を営業場所にし てし まうことがなぜできる
のか、その説明 はできな いのではないかとい う思 いを持っております 。も ちろん消費者が自分 から
電話をかけてくださ いと いう場面は別です。
また、問題と なってい る不招請勧誘につい ても 、これを防御す る手段が 消費者に余りにもな さ過
ぎるのではないかと 思っ ています。不招請勧誘禁 止を正面から明確に規 定す る法律が作られている
国は少ないと思いま すが 、それ以外の個 別の規定で、先ほどのよ うな電話 勧誘とかの問題ある いは
公序良俗あるいは意 思表 示の瑕疵の問題とか 、そ ういうようなところ で、事業者がそうした取 引を
しても割が合わない 形にきちんとすることが 必要 ではないかと思って いま す。
○樋口座長
ありが とう ございました。
大分予定の時間を 過ぎ てしまいましたので 、こ のあたりで、もし ほかに 御意見、御質問が なけれ
ば本日のヒアリング を終 了したいと思います 。中 田先生、ありがとう ござ いました。
宮 下 教 授 、 坂 東 教 授 、中 田 教 授 に お か れ ま し ては 、 本 日 は 御 多 忙 の 中 、御 出 席 い た だ き ま し て 、
また、長時間にわ たりま して、大変具体的な示唆 に富むお話をいただ きま して、誠にありが とうご
ざいました。当ワーキ ング としても、先生方のい ろい ろな御提言あるいは アド バイスを参考にして、
また議論を進めてい きた いと思います。本当 にあ りがとうございまし た。
本日の議事は以上 でご ざいます。最後に事 務局 から事務連絡をお願 いい たします。
≪3.閉会≫
○丸山参事官
本日 も御 熱心な御議論をどう もあ りがとうございまし た。
次回は来週11月8 日火 曜日、16時から の開催を 予定しておりますの で、よろしくお願いいた しま
す。
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○樋口座長
それで は、 本日はこれにて閉会 とさ せていただきたいと 思い ます。
お忙しいところお 集ま りいただきまして、あり がとうございました 。
以
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上
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