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電子デバイスの開発と展望 - 昭和電線ホールディングス

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電子デバイスの開発と展望 - 昭和電線ホールディングス
電子デバイスの開発と展望
17
電子デバイスの開発と展望
Development and View of Electronic Devices
松 本 秀 樹*
Hideki MATSUMOTO
濱 康 雅*
Yasumasa HAMA
当社の電子デバイスの取り組みは,テレビ放送用遅延線を製品化したことに始まる。その後,コンピュータ
用電磁遅延線,テレビ・ VTR 用ガラス遅延線,超音波診断装置用電磁モジュールと次々に新たなマーケット
に向けて製品を開発してきた。現在の主力製品は,LSI テスターや光伝送装置に大量に使用される高速遅延線
である。そして次期主力製品に育てるべく SAW デバイスの検討も始めた。このように,当社の電子デバイス
の取り組みの歴史は,時代のニーズを製品に取り入れてきた歴史である。
本稿では当社における電子デバイス開発の歩みと,現在の開発業務内容の概要,そして今後の展望について
記述する。
Development of the electronic devices in our company starts to have developed the delay line for television broadcasting. Then, we have developed a product toward a new market one after another with the electromagnetic delay line for
computers, the glass delay line for television and VTR, and the delay module for diagnostic medical ultrasound systems.
The present main products are high-speed delay lines used for LSI tester or optical transport equipment in large quantities.
And, we also began development of the SAW devices, which will grow up into the main product of our company in the
future. Thus, the history of development of the electronic devises of our company is also a history in which have made a
product reflect the needs of a time.
This article describes the history of electronic devices development in our company, the outline of the present contents
of development, and a future view.
1.は じ め に
当社の電子デバイスの取り組みは,1962 年に通信研究課
が創設され,当初遅延線として利用されていた通信ケーブ
ルを小型化した遅延ケーブルを開発したことに始まる。
本稿では,現在の開発製品及び今後の展望について紹介
する。
2.製品開発の概要
近年,集積回路の進化により,ディジタル信号の遅延機
1969 年には,米国のアンダーソン社から電磁遅延線の技術
能はその中に取り込まれるようになり,コンピュータ用遅
を取得して製品の幅を大きく広げることとなった。この電
延線の活躍の場は極端に少なくなってきた。また,ガラス
磁遅延線は,初期のパーソナル・コンピュータやハードデ
遅延線においても,同等の機能を持つ集積回路が開発され
ィスク・ドライブに使用され 1980 年代に全盛期を迎えた。
たり,信号処理のディジタル化により,これもまたその利
一方,カラー放送の開始とともに,大きな遅延時間の遅延
用は減少してきている。
線が必要となり,ガラスを利用した電歪遅延線(ガラス遅
これらに替わって生産が伸びているのは,テスター及び
延線)を 1973 年頃製品化した。その後,このガラス遅延線
光伝送装置向け高速遅延線である。半導体検査装置および
は,カラーテレビ・ VTR ・ビデオカメラ用のデバイスとし
光伝送装置の高速・広帯域化とともに微小遅延時間の調整
て無くてはならないものとなり,96 年には月産 70 万個の
が必要になり,これに対応する遅延線が求められた。この
ガラス遅延線とそのモジュール製品を生産するに至った。
高速遅延線の特徴は,遅延時間が 50 ps から数 ns と微小で
1991 年には,再びアンダーソン社から SAW-VCO に関する
あること,高周波特性が良好なことである。今後,装置の
技術導入を行い,遅延線以外のデバイス,SAW デバイス
更なる高速化に伴い,より微小な遅延時間の遅延線が必要
の製造と開発を開始した。
になると思われる。
一方,近年の携帯電話を含めた携帯情報機器の急激な発
* エレクトロニクス・デバイス部
展により無線通信用デバイスの市場が急激に拡大してい
昭 和 電 線 レ ビ ュ ー
18
Vol. 51, No. 1 (2001)
る。今や部品が入手できないがために製品が供給できない
線には,リードフレームや外装モールド材とその加工費の
というような事態まで発生している。その象徴的なデバイ
削減することができる,フレーム類に寄生する容量が無く
スが SAW フィルタである。当社では,光伝送装置向け
なり,高周波特性も向上させることが出きるという利点も
SAW-VCO を足がかりにこれらマーケットへの参入を検討
ある。
開発中のチップタイプ遅延線と従来の遅延線との形状比
している。
2.1
小型高速遅延線の開発
較を写真 1 に示す。チップタイプ遅延線は,5 × 4 mm と
高速信号のタイミング調整に使用される高速遅延線には,
SFT シリーズの 1/2 以下の形状である。
SIP(Singl-in-Line)形状の ET シリーズと SMD(Surface
mounted design)形状の SFT シリーズを製品化している。
主な仕様は表 1 に示すとおりであり,最小遅延時間分解能
が ET シリーズで 50 ps,SFT シリーズで 100 ps と短く,
微小時間の調整が可能なようにシリーズ化されている。遅
延時間の短いものは分布定数回路で,長いものは LC のラ
ダー回路で構成されている。
装置の高速化と小型化はすなわちデバイスの高速化と小
写真 1 小型高速遅延線の形状比較
(左から ET,SFT,チップタイプ遅延線)
型化でもある。これら高速遅延線においても,更に小型及
び低価格化の要求が大きく,現在チップ型の小型高速遅延
線の開発を行っている。
2.3
表 1 高速遅延線の仕様概要
SAW デバイスの開発
SAW デバイスは,水晶などの圧電基板上に形成したく
シリーズ名
ET シリーズ
SFT シリーズ
し型電極に高周波信号を加えることにより励振される弾性
遅延時間
50 ps ∼ 15 ns
100 ps ∼ 2 ns
表面波(SAW)を利用したデバイスである。電極の構造
インピーダンス
50 Ω
50 or 75 Ω
や圧電基板の材質によりフィルタや発振子を形成すること
周波数特性
@− 3 dB
1 GHz ∼ 100 MHz
1.2 GHz ∼ 600 MHz
ができる。近年,小型でかつフィルタ特性が良好であると
いう特性を生かし多くの無線通信機器,取り分け携帯電話
2.4
7.0
2.5
7.62
10.6
当社では,高特性,高信頼性発振器である SAW-VCO に
3.0
3.5
形 状
7.8
には無くてはならない存在となってきている。
5.4
12.0
特化し開発を進めてきた結果,光伝送装置のローカル発振
器に採用され,近年の WDM 伝送装置の台頭とともに確固
たる地位を築くにいたった。また,SAW フィルタの設計
技術習得に努め,CATV 用タイミング抽出用 SAW フィル
タの製品化を始めカスタム仕様の SAW フィルタの製品化
2.2
チップタイプ遅延線の開発
チップタイプ高速遅延線は,ストリップラインと言われ
を行っている。
2.3.1
SAW-VCO の開発
る分布定数回路を多層化して実現する。そのため基板材料
当社の SAW-VCO は 150 MHz ∼ 800 MHz を基本波にて
の選定が重要である。小型化には誘電率の高いものが優位
発信することができ,水晶振動子が逓倍回路にて所望周波
であり,高周波特性を改善するには誘電正接特性が良好で
数を得るのに比べ,ノイズの少ない安定した発振器を提供
なければならない。また,高信頼を優先すればセラミック
できる。そのため,SONET/SDH 伝送装置に続き,WDM
基板が優位であるが,多層化し小型化を目指すには他の材
伝送装置にも採用された。WDM 伝送装置では,装置内で
料が優位となる。当社では,これらの特性を総合的に判断
使われる SAW-VCO の数も多重する波数とともに急激に増
し,従来手法にとらわれることなく,最新最適な手法を利
加するため,小型化の要求が出てきた。当社では,形状を
用して製品化検討を行っている。
従来の 1/2 とした SAW-VCO を VS タイプとして製品化し,
ET や SFT シリーズでは,高誘電率タイプの 3 層基板を
使用して,外装面にマイクロストリップラインを作り分布
これに答えた。
SAW-VCO の仕様概要を表 2 に示す。この表にあるよう
定数型遅延線を構成している。チップタイプ遅延線では,
に,基本波発信の 800 MHz を超える発信周波数にも,逓倍
さらに小型化しチップタイプ遅延線とするため,基板の積
回路を付加することにより実現し,製品化している。今後
層数を増やすとともに,電磁放射の影響を無くすため内層
光伝送装置だけでなく無線システムの基地局においても
に信号線を形成しグランドパターンでサンドイッチするス
2.5 GHz などのより高い周波数の SAW-VCO が利用される
トリップライン構造としている。また,チップタイプ遅延
ことと期待されている。
電子デバイスの開発と展望
19
表 2 SAW-VCO の仕様概要
項 目
仕 様
タ イ プ
A(VS Series)
出力周波数(fo)
150 ∼ 800 MHz
周波数安定度
B(NS Series)
C(NS Series)
800 ∼ 1 500 MHz
1 500 ∼ 2 500 MHz
− 250 ∼ 150 ppm
出力パワー
+ 6 dBm ± 2 dB
スプリアス
− 100 dBc/Hz 以下
VCC =+ 5 V
− 95 dBc/Hz 以下
− 85 dBc/Hz 以下
周波数可変範囲
〈− 150 ppm at Vt = 0.5 V,〉
+ 250 ppm at Vt = 4.5 V
目標周波数変換利得
150 ± 75 ppm/V
電源電圧
2.3.2
規格内条件
2 dBm ± 2 dB
− 25 dBc less than
位相雑音
形状寸法
備 考
@1 kHz
Vt :コントロール電圧
5V
26
(l)
× 20
(w)
× 5.2
(t)
mm
38.5
(l)
× 26
(w)
× 5.2
(t)
mm
SAW フィルタの開発
近年,CATV 事業者では多チャンネル放送及びインター
ネットサービスの実施で加入者が急激に増加しており,ケ
ーブル網の拡大とリニューアル及び基地局の増設が行われ
ている。
CATV の伝送路網は,環境によりその損失が変動するた
め,線路上の中継増幅器は AGC 回路を内蔵し線路上の損
失レベルに応じて増幅度を制御する。この線路増幅器の増
幅度を決定するための基準信号がパイロット信号であり,
この信号を取り出すために利用されるのがパイロット信号
抽出用 SAW フィルタである。また,基地局では,ヘッド
エンド装置内において映像・音声信号抽出用の広帯域で位
写真 2 SAW-VCO の外観(左から VS タイプ,NS タイプ)
相特性の優れたフィルタが要求される。我々は,表 3 に示
すように CATV 機器に使用する全ての SAW フィルタをラ
インナップ化している。
表 3 CATV 用 SAW フイルタのラインナップ
規 格
項 目
中 心 周 波 数
相 対 レ ベ ル
映像信号抽出用フイルタ
音声信号抽出用フイルタ
パイロット信号抽出用フイルタ
58.75 MHz
54.25 MHz
451.25 MHz
52.75 MHz :− 35 dB 以下
54.25 MHz :− 30 dB 以下
55.17 MHz :± 1 dB 以内
58.75 MHz : 0 dB(基準値)
59.50 MHz :− 3 dB 以上
60.75 MHz :− 30 dB 以下
52.75 MHz :− 35 dB 以下
54.13 MHz :− 3 dB 以上
54.15 MHz :± 1 dB 以内
54.25 MHz : 0 dB(基準値)
54.35 MHz :± 1 dB 以内
54.37 MHz :± 1.5 dB 以内
55.75 MHz :− 35 dB 以下
f0 − 6 MHz 以下:− 40 dB 以下
f0 − 3 MHz 以下:− 25 dB 以下
f0 + 3 MHz 以上:− 25 dB 以下
f0 + 6 MHz 以下:− 40 dB 以下
帯 域 幅
55.17 ∼ 58.75 MHz
54.15 ∼ 54.35 MHz
f0 ± 0.05 MHz
帯域内リップル
基準値± 1 dB 以内
基準値± 1 dB 以内
基準値± 0.3 dB 以内
挿 入 損 失
− 30 dB 以下
− 18 dB 以下
− 9 dB 以下
群 遅 延 特 性
± 100 ns 以内
−
−
昭 和 電 線 レ ビ ュ ー
20
3.今後の技術開発
Vol. 51, No. 1 (2001)
参考文献
1)松浦宏司:昭和電線電纜レビュー,Vol.31,No.2,p.130-136(1981)
3.1
高速遅延線
高速遅延線には更なる高速化と小型化が求められてい
る。小型化には,基板の積層数の増加とパターンの精細化
検討,使用材料の吟味と製造プロセスの開発が必要となる。
具体的には,従来ストリップラインの形成をエッチング技
術を利用して行っていたが,今後薄膜技術を取り入れた微
細化検討が必要になるであろう。幸いにして,当社では
松本 秀樹(まつもと ひでき)
エレクトロニクス・デバイス部 技術課 課長
1982 年入社
電子デバイス,電子機器の開発および設計に
従事
SAW デバイスを手がけこの基本技術を有している。今後
は,薄膜技術の活用などにより,他社より一歩先んじた製
品開発を図っていくものである。
3.2
SAW-VCO
SAW-VCO は,最も特性の良い発振器であるが,高価で
あるため,民生用機器には利用されていない。民生用機器
においても信号処理の高速化から信頼性のある発振器のニ
ーズは高い。そのため,ローコスト化が実現できれば,
SAW-VCO の利用も急拡大すると予想されている。現在,
1000 円を下回る SAW-VCO を実現するため検討を進めてい
る。ギガビット・イーサネット機器やブローバンド・イン
ターネット接続用端末へ利用されることを目指している。
3.3
SAW フィルタ
SAW フィルタの利用は多岐に渡り,その要求仕様も多
様である。現在,これらの要望に答えるため,新しい設計
技術の習得を目指している。それは,小型・低損失 SAW
フィルタの設計技術とその製造プロセスの開発である。こ
の技術を早期に習得し,CATV 分野だけでなく,移動体通
信や無線通信分野向け SAW フィルタの製品化を検討して
いくものである。
4.まとめ
デバイス開発の成功の鍵は,お客様のニーズと世の中の
情報をキャッチするアンテナ感度と,それを確実に具現化
する,諦めない技術屋精神にある。残念ながら当社の製品
ラインナップは遅延線と SAW デバイスに限られ,情報が
豊富とは言えない。それをカバーするため,常にお客様の
近くにいられるための努力,お客様にとって当社が魅力の
ある技術を有していることが肝要となる。そのために,常
に技術革新を怠らず,お客様にとって魅力あるよう心がけ
るものである。
濱 康雅(はま やすまさ)
エレクトロニクス・デバイス部 技術課 主査
1987 年入社
電子デバイスの開発および設計に従事
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