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スライド タイトルなし - 国立水俣病総合研究センター
平成28年7月1日 発行(第3版) 環境省 国立水俣病総合研究センター 臨床部 リハビリテーション室 (中村篤/臼杵扶佐子) 〒867-0008 熊本県水俣市浜4058-18 TEL:0966-63-3111 FAX:0966-61-1145 e-mail: [email protected] URL:http://www.nimd.go.jp/ 水俣病とリハビリテーション 水俣病では、脳や脊髄の神経細胞が損傷されることによって 運動機能が低下し、日常生活が送りにくくなってしまいます。 一旦、損傷された神経細胞の再生は困難です。 しかし、脳は、 残存する機能を使って障害を受けた機能を代償する力を持って います。 リハビリテーションは、この脳の代償機能を促進して、神経 回路の再構築をめざし、機能や能力の向上・維持をはかるのが 目的です(下図)。慢性期のリハビリテーションは効果をあげ るのが困難ですが、最新の脳科学、ニューロリハビリテーショ ンの発展により、振動刺激、電気刺激、促通反復訓練、ロボッ トスーツ等を取り入れることで、効果をあげることができるよ うになってきました。当センターでも、これらのツールを取り 入れています。 水俣病の主な症状には、筋緊張の異常、筋力低下、不随意運 動(筋肉が意思に反して勝手に動く)、感覚障害、視覚・聴覚障害 などがあります。当センターの外来リハビリテーションでは、 各々の症状と個々の能力に合わせてリハビリテーションのプロ グラムを組んでいます。 脳 神経回路の再構築 脊髄 筋肉 正常回路 異常回路 外来リハビリテーションの概要 胎児性・小児性を中心とした水俣病患者さんを対象に、 週2回、デイケアの形でリハビリテーションを実施して います。送迎もスタッフが行っています。 リハビリテーションの一環として、花見やクリスマス会 など、季節ごとのイベントも実施しています。 実施時間:月曜日 水曜日 9 : 30~14 : 00 9 : 30~13 : 00 リハビリテーションプログラムの紹介 物 理 療 法 :痛みや異常な筋緊張の緩和を目的に、振動刺激 治療や温熱治療、電気治療などを行います。 運 動 療 法:筋力低下、筋萎縮、関節の拘縮予防のために行 います。筋緊張の正常化、運動の協調性向上を 目的に、促通反復訓練(川平法)を取り入れて います。川平法は、肢位の工夫や皮膚筋反射、 神経筋促通パターン等を利用して、強化したい 神経路に効率よく興奮を伝えて、正常な運動を 誘発し、その運動を反復学習することで、正常 な運動に必要な神経路を形成・強化するという 理論に基づく手法です。 参考: http://kawahira.org/ さらに、神経回路の再構築のために、川平法に 加えて、ロボットスーツHAL(Hybrid Assistive Limbs)を用いた歩行訓練も取り入れて、運動 学習の効率化をめざしています。 ADL訓練:日常生活に必要な動作方法の指導や、自助具を 使った動作練習などを行います。 手 工 芸 :手指の運動機能の維持と脳機能の活性のために 行います。楽しみを持って取り組むことで、 精神機能の安定や、生活の充実、生活の質の 向上へとつながります。 物理療法・運動療法の紹介① 【振動刺激治療】 家庭用ハンディマッサージャー(Thrive MD-01) の lowの周波数が効果的な 90 Hzの強さになります。 足底にハンディマッサージャーをあてる ことで、下肢の筋緊張を抑えたり痛みを 和らげる効果があります。 筋肉の緊張が和らぐことで、関節運動が しやすくなり、次に行う促通反復訓練の 効果もあがります。 【促通反復訓練(川平法)】 肢位の工夫、神経筋促通パターン、 伸張反射、皮膚筋反射等を利用して 運動を誘発し、実際に患者さんに 運動を行ってもらいます。 使用した神経路のみ結合が強化され、 結合の強化は使用頻度に依存すると いう理論に基づきます。 正常な運動パターンを反復学習する ことで協調動作の向上を図ることが 可能となります。 物理療法・運動療法の紹介② 【ロボットスーツHALの仕組み】 「歩きたい」という意識は、信号 となって筋肉へ伝わります。 脳 筋肉 すると、筋肉では微弱な生体電位信号が 発生します。 HAL HALは、筋肉に装着した電極からこの生体電位信号を 検出し、装着者の動作を読み取ります。 そして、HALはそのパワーユニットコントロールの 機能によって、装着者の動作をアシストします。 アシスト制御量は装着者の状況に応じてコンピューター で最適なものに変更します。 運動学習 HALによるアシストで運動する ことで脳は動きを学習します。 脳 その効果は、HALなしでの動作の 改善につながります。 この患者さんは、HALによる平行棒内歩行訓練を行った結果、 HALなしでの立ち上がり動作が改善しました。 リハビリテーションの組み合わせによる効果 ①振動刺激治療 ②促通反復訓練 (川平法) ③HAL装着歩行訓練 この患者さんは、足底の強い痛みのために立位や移動など 日常生活動作に支障があり、療法士が足をさわれず、訓練 が困難な状況でした。 当センターでの振動刺激治療(写真左)の実施により、足 底の痛みは緩和され、さらに下肢の筋緊張も緩和して、促 通反復訓練(川平法)(写真中央)を実施することが可能 となりました。 継続的な治療の結果、下肢の筋緊張が緩和するとともに足 関節を動かせる範囲が大きくなり、足関節の自動運動が改 善しました。このことにより、立位動作やベッド-車椅子 間の移乗動作が安定し、転倒がほとんどなくなり、介助量 が少なくなるなど、日常生活動作の改善が得られました。 さらに、治療に対する意欲の向上もみられ、現在、最新の ロボットスーツHAL(写真右)を使った歩行訓練にも取り 組んでいます。 日常生活活動(ADL)訓練の実際 日常生活活動(ADL)の改善のために、ベッドや車椅子への 移乗動作、ベッド上での起居動作の訓練などを行います。 また、昼食を一緒にとりながら、食事動作の指導、嚥下指導 を行っています。 自分の手に合わせて柄を変形 させたスプーンを利用。 嚥下訓練マニュアル タチアップ 福祉用具タチアップを利用することで、残存機能を生かした 立位や移乗が可能となり、介助が軽減されました。 手工芸を用いた訓練の紹介 手工芸を用いた作業訓練は、脳機能(判断力、構成力)の賦活、 身体的機能(巧緻動作、粗大動作、協調動作)の維持と向上、 精神的機能(自己効力感、満足感、達成感) の維持と向上などを 目的に行います。 スキルスクリーン プラスティックの玉を図案の色の順に糸に通します。目と手の 協調性、手指の細かい動作を改善するための訓練になります。 集中力と根気のいる作業種目です。作業をされる方の能力に 応じて方法を工夫します。 右手が上手く使用できない方ですが、 裁縫道具を使って針を台に固定する ことで、左手で、一日に 30~40個 の8mm玉を通す作業をすることが できました。 上のような作業を続けた結果、巧緻 動作・協調動作が改善し、4mm玉 を親指と人差し指でつまめるように なり、さらに食事でのスプーン操作 が向上しました。 完成作品 ウールアート 毛糸に結び玉を同じ間隔で作り、それをカットして下絵に貼り 付けていきます。指の細かい動作の改善につながります。 織り物 足と手の協調訓練を目的に、織り機 (SAORI)に張ってある縦糸 に、足と手の動作で横糸を編みこんでいきます。下は、視覚障害、 感覚障害のある方が織ったもので、一日に織れる長さは数 cm ですが、5年間では15 mの布地になり(右下図)、ベストや マット等の作品が完成しました。 SAORI 革細工 木槌で刻印をすることによって肩や肘などの大きい関節の動き の改善、筋力の強化の訓練になります。 上の患者さんは、革細工が好きで、作品を完成させると、友人 へプレゼントしています。目的を持つことで、活動量が増え、 機能や能力の維持・改善に役立ちます。 『マッカーシーEPA長官に作品をプレゼント』 EPA(アメリカ合衆国環境保護庁)の マッカーシー長官(環境大臣)が水俣を訪 問された折、望月所長から水俣病患者さん が外来リハビリテーションで作成した作品 (スキルスクリーン「九頭の馬」と赤い皮 の花のコサージュ)をプレゼントとして渡 していただきました。 マッカーシー長官はプレゼントを大変 喜ばれ、帰国後、作品は長官室に飾られ、 「作品をみて水俣や水俣病に思いを馳せて います」とのお手紙をいただきました。 (H.28. 5) リハビリテーション・介助方法に関する相談を 受け付けています。 先ずは、国立水俣病総合研究センター(中村 篤) 0966-63-3111まで お電話ください! ベッドから起きるのが辛くなった・・・ 歩くのが辛くなった・・・ 物を飲み込みにくくなった・・・ しゃべり辛くなった・・・ どんな車椅子を選んだら良いの? ベッドはどんなのが良いの? 手すりの位置はどこが良いの? 健康を保つにはどんな運動が良いの? 家でもできる訓練法はないの? 楽な介助方法はないの? などなど・・・ 健康・生活・福祉に関するご相談にお応えします。 家庭でもできるリハビリテーションの指導も行います。 お気軽にお越しください。