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舞踊作品創作過程における即興の果たす役割に関する考察

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舞踊作品創作過程における即興の果たす役割に関する考察
埼玉大学紀要
教育学部 ,5
6(
1
).
2
09-22
4(
2007)
舞踊作品創作過程 における即興の果たす役割 に関す る考察
- イスラエルの振付家の事例か ら-
As
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udya
bo
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phe
rf
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o
ml
s
r
a
e
l
一
相馬
秀 美 *・細 川江利子 **
キ ー ワ ー ド :即 興 、創 作 、 コ ンテ ンポ ラ リー ・ダ ンス
さ ・強 さの再確認の ための手段 と して、創
要旨
作過程 の要所要所 において用 い られた。即
興 を実践 してい く中で、上演者 は、失敗 を
本研 究では、イス ラエ ルの振付 家 イデ イツ ト
恐 れず、常識 に とらわれ ないポジテ ィブな
ヘ ルマ ン振付作 品 『ワ-ズ ・アパ ー ト』 におけ
姿勢 で一瞬一瞬 を大事 に し、独特 の個性や
る作 品創作過程 を事例 と して取 り上 げ、即興 の
果 たす役割 について検討 した。
発想 を活かす とい うこ とを学 んでいった。
i
l
l:即興 の果 たす役割 は、
「自分の思い を的確 に
その結果、以下の 3点が明 らか となった。
表現す る」、 「
他者 を受 け入 れ、その意図を
i :作 品 『ワ-ズ ・アパー ト』 は ことわ ざ (
言
汲み取 る」、 「
論理的 に考 える」 とい う作 品
葉) を舞台上 での絵画 と して表出 させ るこ
創作 において必要 な、 ひいては生 きてい く
とが意図 され、舞台上 に小 道具 (
物) と出
上で重要 な資質 を育 む ことである。それは、
演者の しぐさやポーズに よる静止画 を創 出
同時代 の舞踊 ・演劇 を含 む舞台作 品創作 に
す るとい う象徴 的手法が取 り入れ られてい
おいて重要 な概念 であ る 「あ りの ままの 自
た。 また、その舞台上 の静止画か ら生 身の
分 を認 め ること」 につ なが る表現手段 であ
身体が動 き出す際 には、舞踊 の動 きと、言
る。
葉 を語 る、声 を出す、歌 を歌 う等 の演劇 的
手法 を融合 した作 品構築方法が探 られてい
た。
序論
【
研 究 目的】
i
mp
r
o
vi
s
a
t
i
o
n) とは、個人の思 うまま
即興 (
l
l:作 品 『ワ-ズ ・アパー ト』創作過程 におけ
る即興 は、各 シー ンの創作 、上演者の表現
に作 り上 げてい く動 きを指 し、一般 に音楽、演
力 の向上、上演者 の人間存在 と しての豊か
劇、舞踊 の領域 にお いて用 い られ る語 である。
音楽 にお ける即興 の歴 史 は古 く、 中世 のオルガ
' お茶の水女子大学非常勤講師
‥ 埼玉大学教育学部保健体育講座
ン音楽 においては、楽譜 に書かれた メロデ ィラ
イ ンの周 りを上下 に行 き来 しなが ら自由な旋律
-2
09-
を歌 った。 また、即興 を用 いる音楽 としてよ く
【
研究方法】
知 られるブルースや ジャズにおいては、一定の
ルールを用いる演奏 とまった くの 自由即興 によ
本研究は文献研究 と参与観察の両面か ら行 う。
0
0
2
文献研 究 で は、即興 に関 して は羽 岡佳子2
る演奏 とが存在す る。演劇 においては、劇場、
『
現代の舞踊 における即興一 山田せつ子 (
1
95
0
映画、テ レビ番組 など様 々な媒体 を通 じ、演技
-)を通 して-』 (
埼玉大学修士論文)、白井麻
者がその場で物語 を構成 ・展 開 してい く 「
即興
999F中学生 を対象 と したダ ンスの即興指導
子1
芝居 」 を我 々は 巨
=こすることがで きる。加 えて、
に関す る一研究』 (
お茶の水女子大学修士論文)、
演劇教育 における指導法 としても用 い られてい
今井純2
0
0
6『自由になるのは大変 なのだ
る。
プロマニュアル』等 を主要引用文献 として用い
イン
筆者 らはこれ まで、舞踊 における即興の-形
る。 また、 イス ラエ ル にお け る コ ンテ ンポ ラ
式であるコンタク ト・インプロヴイゼ-ション
0
0
4『バ ッ
リー ・ダンスに関 しては、河田真理2
(
Col
l
t
aCt l
mpr
ov
is
at
i
on、以下C.I
. と略記)
トシェバ舞踊団作品研究一 『アナフェイズ (
細
の持つ、心 と身体の解放や仲 間との交流 をもた
お茶 の水女子大学
胞分身)Jにみ る祭儀性-』 (
らす運動 としての機能や効果に着 日し、教育現
卒業論文) を関連先行研究 として用 いる。
場 における授業実践か ら、その特性 をよ り明 ら
0
0
6
年 4月1
7日 (
月)か ら 5月
参与観察では2
かなものに し、教材 として どの ように用いるこ
11日 (
木) までの間、小劇場 「セ ッションハ ウ
とが可能であるか、研究 を行 って きた。その中
ス」 (
東京、神楽坂) において実施 された シア
.学習において、動 きの形式 を習得す
で、C.Ⅰ
ター ・ク リッパ に よる振付 リハ ーサ ル過程 の
ることか ら一歩先 に進み、学習者の よ り即興性
VTR記録 よ り、振付家 イデ イツ ト・ヘルマ ンに
の高い 自発的活動へ と展 開させ てい くためには、
よる言説 を抽 出 した。 同 リハーサ ルにおいて筆
今一度 「
即興」 とい う概念 について検証するこ
者 (
相馬) は舞踊手 として参加、 自身のパー ト
を創作 した。共同研究者 (
細川)とともに、VTR
とが必要であるとの考えに行 き着いた。
また、期 を同 じくして、筆者 (
相馬)は、近
か らの言説分析結果に もとづいた考察 よ り結論
年先鋭 的な作品創出により、舞踊界 において新
を導 き出す。
たな潮流 をもた らしてきているイスラエルの コ
【
論文構成】
ンテ ンポ ラ リー ・ダ ンス にお いて、異色 のパ
I 「
即興」に関 して、演劇 と舞踊について
フォーマ ンス集団 としてその存在 を確立 してい
概観す るC特 に、舞踊 においては、上
Thea
t
e
rCl
i
pa)
」と
る 「シア ター ・ク リッパ (
演芸術 としての舞踊 と、教育 としての
の共同創作 を行 う機会に恵 まれた。 シアター ・
舞踊 に分 け、即興の捉 え られ方 と指導
ク リッパ は、舞踊、演劇、マイム、 クラウン芸、
法 を文献 よ り導 き出す。
サーカス、映像、音楽等様 々な芸術領域 を融合
Ⅱ イスラエルにおける上演芸術 としての
させた手法 によ り独 自性の高い作品を創 出 して
舞踊 に関 して、文献 よ り文化的背景お
よび発展過程 を捉 える。
お り、彼 らの作品創作過程 において も即興は欠
くことので きない重要 な要素の 1つ となってい
る。
Ⅲ
イデ イツ ト・ヘルマ ン振付 『ワ-ズ ・
アパー ト』の作 品創作過程 における即
そこで、本研究では、 シア ター ・ク リッパの
興の用い られ方 と創作結果 としての作
主宰者 ・振付家 であ るイデ イ ツ ト・ヘ ルマ ン
品 との 関連性 を、vTR記録 を元 に韮
(
ュ
di
t He
rman)による作 品創作法 を事例 とし
て取 り上げ、舞踊作 品創作 における即興の果た
す役割 について考察す ることを巨
川勺とす る。
- 21
0-
埋 ・分析する。
分の思いを的確 に表現す る」
「
他者 を受け入
本論
れる」「ポジテ ィブに考 える」「
失敗 を恐れ
常識 に とらわれない」「
変化 を起 こ
ない」「
Ⅰ 演劇 、舞 踊 、舞 踊教 育 にお け る 「即興 」
す」「
独特の個性や発想 を活かす」「
論理的
の用 い られ方
に考 える」「
一瞬一瞬を大事 にす る」「
他者
の意 図を汲み取 る」「
仲 間 と楽 しむ」「自分
Ⅰ- 1 演劇における即興
を認める」 ---。現代社会で生 きてい く上
演劇の領域において、即興 は、「
俳優が劇の本
番や リハーサルで、瞬間的に新 しい事態に反応
で身につけてい くべ き要素がインプロには
す ること。 リハーサルでは、即興 は反応 を速め、
凝縮 されている。
0
0
6:1
8
)
(
今井2
鍛 え、試 し、俳優 の役作 りと 「自然 な」舞台上
の動作 を育ててい くもの」 (
ホジソン1
9
9
6:
2
5
9
)
とされる。 また教育 における演劇で も、ある状
今井は、 カナ ダのルース ・ムース ・シアター
況 にいることが どの ようなことか を しっか りつ
(
Lo
o
s
eMo
o
s
eThe
a
t
r
e
) において即興 を実践、
かむことか ら、社会的 ・個人的理解 を広めるこ
その主宰者 キース ・ジ ョンス トンに師事 し、即
とがで きるとともに、「
特 にロール・
プ レイ技術
興演劇理論 を学 んでいる。今井 による と、即興
と結びつ く際には、巧みな分析 と討論 をあ とで
演劇 は、(
む初期設定 :演技者の人数 と役、お よ
加 えることによって、思いや り、 巨
川勺意識、責
び状況設定、②物語の展 開 ・変化、③演技者同
任感、実際の状況 を把握す る能力 を高めること
士 の息 の合 った コ ミュニケー シ ョン、④ エ ン
がで きる」 (
ホジソン1
9
9
6:
2
6
0
)
。演劇及び教育
デ ィング :それまで即興で演 じて きた シー ンの
における即興の可能性 は高い とされてお り、演
過程か らヒン トを得て、その シー ンに 1番ふ さ
出家 ・
即 興 指 導 者 の キ ー ス ・ジ ョ ンス トン
わ しいエ ンデ ィング (
終わ り方)を見つけるこ
(
Ke
i
t
hJ
o
l
l
n
S
t
One
)の考案 したチーム対戦型の
と、以上(
∋∼④ によって構成 される。 この流れ
即興ス タイル 「シア ター ・スポーツ」や、アメ
の 中で、演技者 は、「
今、 どうす る ?」 とい う
リカのインプロ ・グループ 「イ ンプロ ・オ リン
キーワー ドを常 に意識 しなが ら、「あ りのままの
ピック」の考案 した観客 との対語 による即興 ス
自分」 として存在 しつづけようとす る。 また、
タイル 「
構成ハ ロル ド」等、様 々なス タイルが
共 に演 じてい る他 の演技者 との コ ミュニケー
生み出されている (
インプロ大 図鑑 ホームペー
シ ョンの取 り方においては、「身を任せ る」とい
ジ2
0
0
6
年 2月更新 よ り)
。 日本 において、「
東京
う姿勢が大切である。「身を任せ る」とはすなわ
コメディ ・ス トア j」のプロデューサ一姫演 出
ち相手 を信 じることであ り、信頼感、安心感の
家 として即興芝居 に取 り組 む今井は、その著書
中でこそ、 自由奔放で 自然発生的なことが起 こ
において即興 について以下の ように語 っている。
りうる。
しか しなが ら、あ りの ままの 自分で存在 し続
自由 とは、「
すべて」であ り、「あ りの ま
けるこ と、相手や状況 に身を任せ ることは、即
ま」であ り、「
無限」 とい うこと。「
好 き勝
興演劇の 目標 とも捉 えられるものであ り、多 く
手」や 「自分本位」 にす ることではない。
の演技者 はそこに到達で きず に退屈 なシー ン展
自分 を恥 じ、疑い、否定 し、飾 り、偽 り、
開、あ るいは、過剰 な演技等 に陥って しまう。
閉ざし、押 さえつけていれば、 自分の特性
ジ ョンス トンは、即興演劇 における物語展 開を
や能力 を発揮す ることはで きない。 自分の
壊 して しまう演技者の行動 を1
7のキーワー ドに
特性や能力 を発揮 で きなければ自分にとっ
よ り整理分析 している。今井はこれ らの用語 に
「自
てのベス トな現実 は実現 しない。(
中略)
ついて、解説 を加 えるとともに (
表 1参照)、指
- 211-
表 l:キース ・ジョンス トンによる
導 者 の 立 場 に立 つ 者 は これ らの 用 語 を理 解 し、
即興演劇における演技の注意点
指 導 の 際 に は単 に用 語 を使 用 す る の で は な く、
なぜ 演 技 者 が そ の よ う な行 動 (
演技 ) に出て し
①Bl
oc
ki
ng
今の自分が変わってしまうのが恐くて、可能性のある
ことや相手のアイデアを否定する
@Bei
n
gn
e
ga
t
i
ve
問題や悪いことがおきた時にショックを受けないよう
に、最初から消極的.
否定的でいる
③wi
mpi
ng
何でも唆味なまま、-ツキリ具体的な意見を表現しない
④cancel
i
ng
やり始めたこと、やろうと決めたことをすぐ撤回する
⑤J
oi
ni
ng
ひとり、違う立場になるのが怖くて、他の人の状況をま
ねして仲間に入る
⑥Agr
e
edAcL
j
vi
t
i
e
s
相手との衝突や葛藤を避けるため、相手と同じことを
次から次-と一緒にしっづける
⑦ Br
i
d
g
i
ng
目の前にある大事なものには目をくれず、はじめから
想定した目標にたどり着こうとする
⑧ Hedg
i
ng
何をどうしていいか分からず、何かが起きるのを待ち
ながら、同じ場所にずつととどまる
@Si
det
r
a
c
ki
ng
成功や幸せや大事なことに直面することが怖くて、自
分から遠回り遠回りしていく
⑲ Be
i
ngor
i
gi
na
E
他者とは違うふうになろうと、奇抜なアイデアや行動に
こだわる
⑪ cos
s
i
pi
ng
ただ考えたり話してばかりいるだけで、何も起こさない
し、何も行動しない
@Loopi
ng
頑張って進んでいるつもりだが、結局、同じような所に
巡り戻ってくる
⑬ Ga
ggi
ng
くだらないことでその場をごまかし、1番大事なことを
台梨
無しにする
⑭Co
mi
cExa
g
g
e
r
a
t
i
on
必要以上に物事を誇張しておかしくして、現実味から
外れる
@ CoT
l
f
l
i
c
t
他者や 自分に勝たなきや気がすまず、常に戦う態勢
になってしまう
@I
ns
t
antL
r
oubl
e
あせりや不安に心がとらわれているため、すぐに必要
のない問題をつくってしまう
@Lo
we
r
i
n
gt
heSt
a
k
es
物三
拝を小さく小さく考えて、なるべくリスクが大きくなら
(
作成 ・
今 井)
ま うの か を考 慮 し、 演 技 改 善 の ヒ ン トと な る指
導 ・助 言 を行 っ て い くこ とが 大 切 で あ る と して
い る。
Ⅰ- 2 舞 踊 作 品 創 作 に お け る即 興
で は、 舞 踊 に お い て 「即 興 」 は どの よ う に用
い られ て きた の で あ ろ うか 。 まず 、 上 演 芸 術 と
して の 舞 踊 か ら概 観 す る。 上 演 を念 頭 に お い た
舞 踊 作 品創 作 に お い て は概 して 、 形 ・空 間 ・動
きの 流 れ とい っ た舞 踊 にお け る様 々 な構 成 要 素
を、 あ らか じめ 決 定 して お くの で は な く、 そ の
場 ・そ の 時 の 状 況 に従 っ て 試 す こ と を指 し、 即
興 と称 され る。 創 作 過 程 に お け る振 付 の 手 段 と
して用 い られ る場 合 、 即 興 そ の もの を舞 台上 に
お い て上 演 す る場 合 とが あ り、 さ らに振 付 作 品
を踊 る場 合 の 各 舞 踊 手 の解 釈 の 中 に も"
即興性 "
は存 在 す る。
歴 史 的 に見 る と、 モ ダ ン ダ ンス に お い て は イ
サ ドラ ・ダ ン カ ン (
I
sador
aDuncan) が 「完 全
羽 岡2
0
02:
25
)を
に 自由 な 自然 発 生 的 な動 き」 (
志 向 し、 マ リー ・ヴ イ グマ ン (
MaryWi
gman)
も晩 年 「即 興 的 に作 品 を作 っ た 」 (
羽 岡2
002:
9
6
0-7
0年代 以 降 、即 興 は
2
7
) とあ る。 そ して 1
よ りク ロー ズ ア ップ さj
l、 作 品創 作 の 手 法 と し
て も明確 化 され て い くこ と とな る。
例 え ば 、1
9
6
0年 代 の ア メ リカ に お け る舞 踊 の
ポ ス トモ ダニ ズ ム と して 知 られ る ジ ヤ ドソ ン ・
ダ ン ス ・シ ア タ ー (
Juds
onDa
nceTheat
er、以
下JDTと略 記 )で は 、身 体 は 「感 情 を 表 現 す る
た め の 媒 体 で は な く、男 女 差 な ど な い 、単 に 動
作 をす る物体 」 (ノ ヴ ァ ック 2
00
0:
5
5)と捉 え ら
れ 、さ ま ざ ま な 実 験 的 試 み が 行 わ れ た 。J
DTに
お い て試 行 され た 即 興 の 例 と して は 、振 付 者 が
サ イ コ ロ、カー ドな どに よ りス コ ア (
作 品 を構
成 す る大 まか な ル ー ル)を 決 定 し、上 演 者 は そ
の よ う に して 「偶 然 に」決 定 され た動 き を実 行
す る と い う方 法 が あ る。ま た 、J
DTに お い て も
- 21
2-
活 動 を 行 っ て い た イ ボ ン ヌ ・レ イ ナ -
(
yv
o
n
n
eRa
i
n
e
r
)の作 品で は、ス コアを使用せ
興 によって、新 しい身体 の動 きの可能性 を観客
に提示す る試みが行 われた。
ず、上演者 に直接二
振付 をす る、 も しくは制 限 を
与 えることによ り、「
上演者 は与 え らj
lた振付等
Ⅰ- 3 舞踊教育 における即興
次 に、舞踊教育 におけ る即興 の用 い られ方 に
を自発的な思考 に よ り決定 し、組 み合 わせ構成
997:
63) とい う即興 法が取 り入れ
す る」 (
白井 1
関 して、特 に小学校 にお ける表現 リズ ム遊 び ・
られ、 よ り上演者 の多様性 や 自由 を尊重 しよう
表現運動、及び中学校 ・高等学校 における創作
との試みであった ことが伺 える。 これ らの試み
ダンス指導 につ いて概観す る。
にお いては、振付 者のみが作 品 を支配す るので
小学校 の 6年 間は、児童の発育 ・発 達が著 し
はな く、上演者の意思 をも反映 させ、予想不能
いため、発達 に応 じて児童 とダ ンスの関係が変
な作 品展 開に よ り観客の興味 を引 くことが 目指
化す る。「
低学年の子 どもは、何 にで も変身 して
されていた。偶然性 を利用す る とい う工夫 自体
虚構 の世界 に没入で き、 また、形 に とらわれず
が 当時の新 しい発想であったため、振付 の新 し
に 自由に踊れ る、律動 的 な活動 を好 む な どの特
い手法 として観客 に も受 け入れ られたが、反面、
性 に加 えて、 イメー ジ (
表現) とリズ ムが未分
偶然性 を利用す るが ゆえに、常 に質の高い上演
村 田2
000:
15
)
化 で両者が 自然 に融合 している」(
内容 になるとは限 らない とい う欠点 も持 ち合 わ
とい う特徴があ ることか ら、低学年 (1- 2年
せ ていた。
坐)の時期 に行 われ る表現 リズム遊 びの授業 は、
DTの 活 動 に参 加 して い た舞 踊 家 ス
また、J
テ ィーブ ・バ クス トン
(
St
e
vePa
xt
o
n
)によ り
1
972年 に創始 された コンタク ト ・イ ンプロヴイ
ゼ- シ ョンも即興 の-形式 として挙 げ られ よう。
「
毎時間 リズム遊 び と表現遊 びの両方 を組み合
村 田2
000:
1
6)
わせ て繰 り返す即興 中心の単元 」(
で構 成 さj
lるo また、 「中学年 で は 『
表現』 と
rT
)ズム ダンス』 を主 内容 に、 自由に即興 的に
バ クス トンは、身体 間の 「
接触 」 を唯一のルー
踊 る体 験 を大 切 に し、高 学 年 で は 『
表 現』 と
ル、あるいは、テーマ とし、線 や形ではな くエ
『フォー クダ ンス』 を主内容 に、 自由な表現 と
ネルギーの流れ を重視 した動 きの探求 を行 った。
共 にフ ォー クダ ンスの学習 を通 して地域や世界
そ して、即興 で次 々に動 きの流 れ をつ ないでい
0:
ll
)し
の文化 に触 れ る体験 を大切 に」(
片 岡200
くとい う新 たな動 きの可 能性 を模索す る中で、
た授業 内容 となっている。す なわち、低 ・中 ・
身体 の 内部感 覚 や皮 膚 感 覚、空 間感覚 な どの
高学年 に総 じて、表現 リズム遊 び ・表現運動 に
様 々な 「身体感覚」 に意識 を向 けることが重要
は即興性 が付 随 してお り、児童が 自由に楽 しん
であるとし、更 なる研 究 を重 ねていった。 その
で踊 る (
活動す る) こ とがで きるよう、指導者
結果、「
方向感覚 を失 うことを受 け入れ、身体 を
は
逆 さや横 向 きに された り、 日常 の動作 における
多様 な表現へ の挑戦が保障 され るような学習の
「
○○探検」 の ような大 きな題材 を取 り上げ、
身体 の中心軸 を基 本 と した普通 の動 きではな く、
プロセス及び内容 を工夫 してい くこ とが重要で
空 間をらせ んや カー ヴを描 いて動 く」(
ノヴ ァッ
ある とされてい る。
000二1
77) とい った、C
.Ⅰ.の特 長 と も捉
ク2
中学校 ・高等学校 での創作 ダンス授業 におい
え られるダイナ ミックな動 きが生み出 された。
て即興 は、「
即興表現」 と称 され る場合が多 く、
以上の ように、上演芸術 としての舞踊 におい
指導者が方法 として行 う場合 はあって も、指導
て即興 はモ ダ ンダ ンス期 よ り行 われていたが、
言語 には即興 とい う言葉が使 われ ることは少 な
1
96
0年代以降、据付者 と上演者 の関係性 を対等
999:
15)。創作 ダンスの指導法 はこれ
い (
白井 1
な ものに しようとの意識の高 ま りとともに、「
偶
までの数 々の授業実践研 究の蓄積 か ら 「1時 間
然性」や身体 間の 「
接触」等の条件 を用 いた即
完結 で毎時 間違 った課題 に取 り組 む学習 ス タイ
- 21
3-
ル」 (中村 19
9
1:2
0
0
)で、(
ヨダンスを踊ること、
る試みが行われた。
② ダンスを創 ること、(
参互 いに見せ合 うことを
i
v 二舞踊教育における即興 は、初心者や不得意
通 じたダンス鑑賞 というダンス学習において重
な児童 ・生徒 をも含めた表現 ・創作 ダ ンス
要な踊 る、創 る、観るとい う 3つの要素 を経験
の授業 において、児童 ・生徒 に様 々な動 き
で きるよう、工夫 されている。「しんぶん し、走
を体験 させ、身体活動の可能性 を広 げる上
る一止 まる、走 る-跳ぶ一転がる、スポーツい
で重要 な役割 を担 っている。
ろいろ、集 まる一離れる、野性の世界、見立て
て遊ぼ う」 (
宮本 1
9
9
7:5
9
3
)等、生徒 にとって
Ⅱ イ ス ラ エ ル にお け る上 演 芸 術 と しての
舞踊
身近な新 聞紙やスポーツ等 を即興の題材 として
用いることによ り、生徒 は動 きその ものの面 白
さを体験す ることができる。 この ように創作 ダ
本項では、本研究の 目的か ら、 イスラエルに
ンスの授業 においては、様 々な課題 を提示 しま
おける上演芸術 としての舞踊の、特 に同時代 の
ず生徒 の即興的な動 きを引 き出 し、次にイメー
ダンスすなわちコンテ ンポラリー ・ダンスにつ
ジに合 った動 きの創作へ とつ なげてい く指導法
いて、その文化的背景 と発展過程 を捉 えるとと
により、初心者や不得意な生徒 にとって も取 り
もに、
参与観察の対象者であるシアター・クリッ
組みやすい ように工夫 されている。
パのイスラエル舞踊界 における位置付けを確認
す る。
Ⅰ一 4 まとめ
以上、上演芸術 としての演劇お よび舞踊、そ
Ⅲ- 1 文化的背景
イスラエルとい う国は、1
9
48年 に共和 国 とし
して舞踊教育における即興 について概観 して き
た結果 をまとめると、以下の ようになる。
て建 国された。北 は レバ ノン、北東 に大 国 シリ
i :即興 は、「あ りの ままの 自分」として存在す
ア、東は渓谷 を経 て ヨルダン、パ レスチナ 自治
る上演者が、共に存在す る他の上演者やそ
区、南 はエ ジプ ト、西は地中海に囲 まれた四国
の場の状況に 「身を任せ」 なが ら、その瞬
ほ どの大 きさの国である。古都エルサ レムはユ
間に起 きていることに反応することである。
ダヤ教、キ リス ト教の聖地であるとともに、 イ
してい く過程 で、「自分の思いを
スラム教のメ ッカで もある。「
古代か ら多様 な民
的確 に表現す る」、「
他者 を受け入れ、その
族 と文化がせめ ぎあって きたこの地は、現在 も
意図を汲み取 る」、「
論理的に考 える」 こと
パ レスチナ紛争 な ど厳 しい現実に直面 してお り、
が身について くると、「
失敗 を恐れず、常識
コンテ ンポラリー ・ダンスの表情 に もイスラエ
に とらわれないポジテ ィブな姿勢」で
ルな らではの刺激的で、切 れ味の鋭い独特の味
I
i:
即興 を実践
「
一
瞬一瞬 を大事 に」し、「
変化 を起 こす」、「
独
わいを生んでいる」 (
立木 2
0
0
0:4)
。 イスラエ
特の個性や発想 を活かす」 ことがで きるよ
ルにおいてコンテ ンポラ リー ・ダンスが盛 んで
うにな り、その結果 「
仲 間 と楽 しむ」 こと
ある背景お よびその特徴 として、以下の 6点が
や 「自分 を認める」 ことがで きるようにな
挙げ られる。(
在 日イスラエル大使館 ホームペー
ジ2
0
0
6
年新春改訂版 よ り)
る。
①
I
j
j:
上演芸術 としての舞踊では、振付者 と上演
帰還 したユ ダヤ人の持 ち帰 った様 々な異文
化 と中東の土着の風土や伝統が入 り混 じっ
者の関係性 を対等 なものに しようとの意識
て、独特 な味わいを醸 し出 している
の高 ま りとともに、「
偶然性」や 身体 間の
「
接触」等の条件 を用 いた即興 によって、
(
勤 クラツシック ・バ レエの伝統的な様式への
新 しい身体の動 きの可能性 を観客 に提示す
拘束や師弟関係が ないので、 自由で型破 り
-
2 14
-
③
なものが生れやすい。
スの舞 踊 団 に は、バ ッ トシェバ舞 踊 団 (
Ba
t
-
離散ユ ダヤ人が寄 り集 まって作 った国なの
で、他者同士が共有 しやすい文化要素が求
s
he
vaDanc
eCompa
l
l
y)、キブツ ・コ ンテ ンポ
ラ リー ・ダ ンス ・カ ンパ ニ ー (
TheKi
bbut
z
め られていた。
Co
nt
empo
r
a
r
yDa
nc
eCo
mpa
ny)の二大 カンパ
(
む ③の流れを汲 んで、学校教育 に徹底的にコ
ニーを筆頭 に、「
約6
0
以上 のダンスカンパニーが
ンテ ンポラリー ・ダンスが とりいれ られた
設立 され、それぞj
t独 自の方針 とス タイルをも
(
主力 カンパニーの学校へ の出前公演、授
とに発展 し、国内外で活発 な活動 を展 開 してい
業の一環 として生徒 を劇場 に向かわせ る、
る」 (
河 田2
005:
12) とい う。在 日イスラエル大
徴兵中の兵隊 を劇場 に招 く、成人 してか ら
使館 によ りプロモー トされているカンパニーや
も劇場の "
友の会"制度で年 間シー トを確
個人で活動す るダンサーには、上記の二大 カン
保する風習が定着)
パニーに加 え、 イ ンバ ル ・ピン ト・ダンスカン
6) ④ の流れ として結果、一般層 に自己表現手
I
nba
lPi
nt
oDa
nc
eCompa
ny)、シ ア
パニー (
段 としてのダ ンス-の関心が 自然 と高 ま り
ター ・ク リッパ (
Thea
t
e
rCl
i
pa)、エマニュエ
同時に観客 に大変厳 しい批判眼が培 われ る。
Ema
nue
lGa
t
)等、規模 の比較 的
ル ・ガ ッ ト (
(
参 上記すべての環境 の中で切瑳琢磨 され、生
小 さいカ ンパニーや個人 として活動す る舞踊家
き残れるダンスカンパニーは、高い美意識
らがい る。彼 らはイス ラエ ル国内は もとよ り、
や哲学 を保 ちなが ら、かつ一般大衆への強
日本 をは じめ世界各 匡Ⅰ
に訪 れ、公 演 や ワー ク
いアピールカ をもつ ものだけ となる。
ショップを行 っている。
特 に、(
釦 こ示 されるように、様 々な宗教、文
化、政治の混在す るイスラエルにおいて、誰 も
Ⅱ-2 シアター ・ク リッパの活動
が持つ 「
身体」を媒体 とす るコンテ ンポラリー ・
「シア ター・クリッパ」 は、活発 なイスラエル
ダンスは、人 と人 とが共存 しあ う上で必然的に
のコンテ ンポラリー ・ダンス界 にあって、劇場
盛 んになって きたことが伺 える。 また、④ に示
のみな らず野外で もスペ クタクル作 品を公 開す
される教育現場 における舞踊の普及 とは、具体
るなどスケールの大 きな活動 をす る異色の舞踊
的には、 イスラエル文部省 に よって作成 された
団 として知 られている。1995年 にイデ イツ ト・
一般の学校向けの ダンス教育 プログラムがあ り、
ヘ ルマ ン (
I
di
t He
r
ma
n)】とデ イ ミ トリイ ・
どの学校で もこのプログラムを取 り入れること
チュルパ ノフ (
Dml
t
r
y Tyul
pa
no
v)2によって、
がで きる制度が整 っている (
河 田2005:
15
)。 ま
テルア ビブで旗揚 げ された。 これ までにイスラ
た、全国規模 でほ とん どの町に民間あるいは市
エルは もとよ り、 ヨーロッパ各国をは じめ Ⅰ
]本、
営のプロ ・ダンサーを養成す るスタジオがあ る。
韓臥
加 えて、 ダンス科のある芸術系の高等学校 もあ
の数は1
5カ臥
カナダ、メキシコな どを含め公演 した国
海外 での公演数 も50回近 くに及
り、そこでは実技 だけではな く理論 も学ぶ こと
ぶ。表現方法は舞踊、演劇、マイム、 クラウン
がで きる (
河田2005:
17)。 さらにプロの ダンス
芸、サ ー カスの技 法 を融 合 した もので、音 楽
カンパニーが学校 に出向 き公演す る 「出前」公
(
チュルパ ノフ作/編 曲)や映像、舞台美術、オ
演や、逆 に生徒 を劇場へ向か わせ る等、学校 と
リジナルな衣装 など、全てを自らの手 によって
ダンスカンパニー、換言す る と、教育 と芸術 と
制作す る総合的な舞台作 りに大 きな特長がある。
の連携か ら一般層 に舞踊が浸透 し底辺の広 さと
1
997年 にはイス ラエ ル ・ダンス ・フェステ ィバ
層の厚みのある舞踊文化- と発展 して きた と捉
Ang 』が グランプ リを受賞す るな
ルで作 品 『
えられる。
ど、高い評価 を受 けている3。(シアター・クリッ
イスラエルにおけるコンテ ンポラリー ・ダン
e
l
パホームページよ り、翻訳筆者)
- 21
5-
表 2:シアター ・クリッパ来日公演
1 日時
場所
公演名
作品名
2 日時
場所
公演名
作品名
3
日時
場所
公演名
作品名
4 日時
場所
であ るイデ イ ツ ト ・ヘ ルマ ンで あ る。作 品創 作
006年 4月 1
7日 (日) か ら 5月11日
期 間 は、2
2
0
0
3年 8月 1
9
、2
0日
5日間、場所 は、東 京 ・神 楽坂 に
(
木) まで の 2
東京 :
神楽坂デイプラツツ
ダンスがみたい
あ るセ ッシ ョンハ ウス ′
1
の地 下 ス タ ジオ に お い
『Expl
ode
dVi
e
ws
(
分解 図)
』
出演:
シアター.
クリッパ、工藤文飾
2
0
0
4年 9月 2
3
、2
4日(
東京)
1
0月 1日(
福岡)
東京 :
セッションハウス
福岡:
福岡市早良市民センター
イデイツト&ディマのセパレイト.
デユエツ
ト.
イブニング
mr
on,
mos
s
』
(
チユルパノフソロ作品)
『
Thep
un
i
s
h
r
n
e
n
toft
us
t』
(
ヘルマンソロ作品)
2
0
0
4年 1
0月 7
、8日
神奈川 :
Ba
n
k
a
r
t
1
9
2
9
/
馬車道ホール
シアター一
クリッパ 日本公演
て行 われた。作 品 の基 本 とな るテ ーマ はヘ ルマ
ンに よ り案 出 され、「日本 や イス ラエ ル な どで昔
か ら言 い伝 え られ て きて い る "こ とわ ざ 'の 中
か らい くつか を選 び出 し、 それ を発 想 の基 と し
て ダ ンス作 品 を構 築 す る」 とい う もの で あ っ
た. この "こ とわ ざ 'とい うテ ーマ は、そ れぞ
れの土 地 で生 きて きた人 間の知 恵 袋 とも言 える
もの で あ り、 そ こか ら発想 され た作 品 は、 人 間
の生活 の さま ざ まな姿 が 浮 き彫 りに され る もの
とな る、 との考 えか ら生 み 出 され た。
『Exp
l
ode
dVi
e
ws
(
分解 図)
』
出演:
シアター.
クリッパ、工藤丈輝
2
0
0
6年 5月 1
2
1
4日(
東京)
5月 2
7
、2
8日(
福岡)
東京 :
セッションノ、ウス
福岡:
ぽんプラザホール
音 楽 の作 曲 ・編 曲は シア ター tク リ ッパ の も
う一 人 の主宰 者 で あ るデ イ ミ トリー ・チ ュルパ
ノフに よる。彼 は、常 に携 帯 で きるマ イ クロフ ォ
公演名
Th
e
a
t
e
rCH
pa&Ma
d
emoi
s
e
u
eCi
ne
ma
2
0
0
6
旅するダンス∼強制-の挑戦.
イスラエル編∼
作品名
『
オルフェクス』
(
シアター.
クリッパデュエット作品)
『ワ-ズ.
アパート
』
(
-ルマン振付、出演マドモアゼルシネマ)
『ディスタンス』
ンを持 ち歩 き、様 々な "
育 " を収 集 し、作 品 に
必要 とな るあ らゆ る "
普 " を 自ら作 ってい く。
さ らに、既 成 の楽器 で は な く、木材 や鉄 片 や 時
にはマ ネキ ンの足 を加工 して 自作 の楽 器 を も制
作 す る技術 を も持 ち合 わせ て い る。 それ らは、
舞台作 品 の中で の′
」
、
道具 と して も使 用 され る。
作 品 rワ- ズ ・アパ ー ト」 の出演者 は、 セ ッ
(
作成 :
相馬)
シ ョンハ ウス にお け る劇 場付 ダ ンス カ ンパ ニ ー
シア ター ・ク リ ッパ の表現 は 日本 の舞 踏 に近
であ る 「マ ドモ アゼ ル ・シネマ」 に所 属す る ダ
い ものが あ り、舞 踏 カ ンパ ニー 「
大路駄 艦 」 に
2
005
年
ンサ ー 7名 に加 え、本 公 演 の企 画立案 (
9
95
年か ら
所 属 す る舞 踏 ダ ンサ ー 若 林 淳 や 、1
1
0月) 以前 に、 シア ター ・ク リッパ の活動 や マ
1
99
8
年 の 4年 間に舞 踏 カ ンパ ニ ー 「山海塾 」に
ドモ アゼ ル ・シネマ の活 動 に関わ った こ との あ
99
7
年 よ りソ ロ活動 を開始 した工 藤丈
所 属 し、1
る ダ ンサ ー 5名 を加 えた計 1
2名で あ る。
本 作 品 を上 演 す る公 演 「
The
a
t
erCl
i
pa&
輝 等 との コラボ レー シ ョンを積 極 的 に行 ってい
る。 日本 にお け る公演 は、表 Zの とお りで あ る。
旅 す る ダ ンス∼ 強
Ma
demoi
s
e
u
eCi
nema 2
0
06
制へ の挑 戦 ・イス ラエ ル編 ∼」 の企 画 ・制作 は
m
イデ ィ ッ ト・ヘ ル マ ン振 付 『ワ ー ズ ・ア
セ ッシ ョンハ ウス の主催 者伊 藤孝 とマ ドモ アゼ
パ ー ト』 作 品 創 作 過 程
ル ・シネマ の主宰 者兼振付 家 の伊藤 直子 に よ り
実施 され た。文 化 庁 国際芸術 支援事 業 に採択 さ
れ助成 を得 た こ とに よって、 シア ター ・ク リッ
Ⅲ- 1 :作 品 『ワーズ ・アパ ー ト』概 要
本作 品 は前 出の表 2中、 4番 目の公演 にお い
パ の 1ケ月半 に渡 る長期 日本 滞在 と、東 京及 び
て上 演 され た 3つの作 品の内の 1つ で あ る。 振
福 岡 とい う 2都 市 で の 公 演 が 実 現 す る運 び と
付 担 当 は シア ター .ク リ ッパ の主 宰者 ・据 付 家
な った。
- 21
6-
m-2:『ワーズ ・アパ ー ト』 リハ ーサル におけ
加 えて、 この 1週 間で はヘ ルマ ン、チ ュルパ
ノフが交互 に主導者 とな り、(
∋物 を使 った即興、
る作品創作 過程
リハーサル過程 は以下 の ように進め られた。
②物 と人 を使 った即興、③手拍子足拍子 を使 っ
1週 目 (4月1
7日∼2
3日):
ヘ ルマ ン、チ ュルパ
た即興、④ 声 を使 った即興 1、6)
声 を使 った即
ノフによる即興エ クササ イズ、及 び作 品 に必要
興 2、(
む楽器 を用 いた即興等 の即興 のエ クササ
なこ とわざを探索 。 2週 目 (4月 24日∼3
0日):
イズが行 われた。 また、連 日の リハーサルに加
各 こ とわざを表す シー ンを出演者 それぞれが創
え、ヘ ルマ ンとチ ュルパ ノフの発案 に よ り、野
作 し、ヘルマ ンがそれ らを組み合 わせ てい く。
外 での即興 に も挑戦 した。2
00
6年 4月 3
0日(日)
】つ の シー ンに数個 の ことわ ざが 同時進行 で行
にはス タジオでの リハ ーサ ルで はな く、神奈川
われ る場合 と、 1つの ことわ ざだけの場合 とが
5
名 にて出かけ、
県藤野の 山奥 に出演関係者総勢 1
0日には野外 での特別即興 エ クササ
あ る。 4月3
1日をか けた即興 エ クササ イズ を行 った。野外
衣
イズが行 われた。 3週 目 (5月 1日∼ 7日):
での即興 においてはヘ ルマ ン、チ ュルパ ノフに
装 ・小道具の選定及 び シー ン展 開の確 定、 ダ ン
よる指示 はほ とん どな く、裸足 で土 の上 を歩 き、
ス ・マイム ・演技 の練習。 4週 目 (5月 8日∼
川の中に入 り、出演者 同士戯 れ る等、「あ りの ま
11日):照明、音 楽の確 定、通 し稽古。
ま」の 自分 を探求す る とい うことのみ に専念 し
『ワ-ズ ・
アパ ー ト」 とい う作 品 タイ トルにこ
た。大声 を出す、じっ と川の中に漬か る、
歌 う、
踊
め られたヘ ルマ ンの意 図には、 2つの要素があ
るな ど、 1人 1人が 自分 の思 いに任せ て行動 し
Wo
r
dsma
keapa
r
t
」す なわ ち、
り、 1つ は 「
た経験 に よ り、人間が本来持 っている生物 とし
1つの ことわざ (
wo
r
ds
)が 1つ の シー ン (
pa
r
t
)
ての強 さを再確認す る とともに、パ フ ォーマー
を作 る とい うことであ る とリハ ーサ ル初 日 (4
としての存在 の強 さを強化 され ることとなった。
月1
7E
日 にヘ ルマ ンは述べ てい る。「
概 して舞踊
ヘルマ ンらが作 品創作過程 において行 った即
作 品は抽象的な ものが多 く、観客 は作 品の意味
む) は どれ も、行 う
興エ クササ イズ (
表 3① ∼(
を理解す るので はな く、作 品 を感 じることで満
者 に考 える時 間を与 えず に行 われた。ヘ ルマ ン
足 を得 るけれ ど、今 回の作 品で は観客が理解す
Do
n'
tbea
f
r
a
l
d.
J
u
s
tdoi
t
.(
恐 れ ない
に よる 「
ることので きる個 々の シー ンか ら構成 してい き
で。や ってみて。
)
」(
ヘ ルマ ン、2
0
06.4.1
7
たい。そのため にことわ ざをテーマ としてい る。
リハーサ ル)等 の言葉がけか ら、瞬時の判 断能
また、 ことわ ざを舞台上 において どの ように 目
力、想像 力、演技力 を高めることが意 図 されて
に見 える形 に してい くか、 とい うことにつ いて
いた こ とが伺 わj
lる。 出演者の多 くに とって不
は、今 回は演劇 的な手法 を試み として用 い よ う
慣 れであった "
演技 "へ の抵抗感 を減少 させ、
」 とヘ ルマ ンは述べ、出演者各
と考 えている 5。
舞台 における表現の可 能性 を広 げることによっ
自にまず、"
舞台上 に 目に見 える形 に し得 る◆こ
て、ヘ ルマ ンの 鋸 旨す表現へ と導 くために、即
とわ ざを探 して くるとい う課題 を与 えた。ヘ ル
興の手法が用 い られた もの と捉 え られ る。加 え
マ ンは来 日以前 にあ らか じめ、(
∋出演者各 自 3
て、ヘ ルマ ンは第 3回 目の リハ ーサ ルにおいて、
つ の ことわざを探 して くる、② その こ とわ ざを
作 品 『ワ-ズ ・アパー ト』 における作 品創作 の
選 んだ理 由、の 2点 を電子 メールにて伝 えるよ
手法 と して 、「1つ 1つ の言葉 が 1つ 1つ の世
うに指示 を出 していた. しか し、最初 に選 ばれ
界作 り出す」 ために 「とて も演劇 的 な手法、す
た ことわ ざの多 くは、舞台上 での具現化が困難
こ しコ ミカルでサー カステ ィツクな手法」(
ヘル
であったため、 リハーサル初期 の 1週 間はこ と
006.4.1
9. リハーサ ル)を用 いたい と
マ ン、2
わざ探 しと、 シー ンのアイデ ィア作 りが主 な作
の意 向 を示 した。 この演劇 的な手法 に関 して、
業 となった。
私達 は象徴 的 な手
第 5回 日の リハーサ ルでは、「
- 21
7-
表 3 :リハーサル過程 で行 われた即興
o
bi
e
c
t
s
)
による即興
①物 (
o
b
j
e
c
tは、何らかの使用 目的の元 に作られた既 に出来上が
った"
物 "を意味する。これ らの現実 世界 における意味を取
り除き、見る者 に「
何か事件 が起こる予感 」や 「
事件が起こっ
た後」を想像させるような"
物"の配置の仕方を学ぶ。
例:
竹 之下がちりとりと灰皿 を床 に寝かせた状態で並べて
置いた。
これ に対 し、-ルマンは、「
これ は面 白くなる可能性 があ
るわね。怪 獣がお互いに見合 っているように見えない ?こ
れ に動きを加えていける可能性があると思うわ。」と言い、デ
モンストレーションをした。
②物と人 による即興
①の物だけで即興的に"
絵"を作るエクササイズからの発展として、人を
加 えていく。まずは、人 は動かず 、写長 のような静止画を作ってみる。
如 台上にいる人は、日常の 自分ではなく静止 画の考案者 の意図を汲
み取り、そこに存在しなけれ ばならないoこのエクササイズでは、静止画
の考案者 にとっては、その場 で 「
何か事件 が起こる予感」や 「
事件が起
こった後」を想像 し、それを的確 に他者 に伝えるという、想像 力と言語 に
よるコミュニケーションの訓練となる。
③手拍 子、足拍子による即興
まず は手拍子足拍子から。全員で輪 になりまず は基本のリズム「
右足踏み ・
両手拍子 ・
左
足踏み ・
両手相子」を一定のリズム (1、2、3、4)のリズムで繰り返し、慣れる。みんながで
きるようになってきたら、全員での基本のリズムに一人づつオリジナルのリズムを加 えてい
く。オリジナルのリズムは基本のリズムを崩 したり倍速 にしたり、手足だけではなく身体の
様 々な部分を叩いてみること等も良い。オリジナルのリズムは音楽の主旋律となり、基本
のリズムは伴奏となるDオリジナ/
レのリズム(
主旋律)
を叩く人は輪の中心に入る。1人が終
えると次の人が輪のq
=
'
心に入り、オリジナルのリズム(
主旋律)を担 当するoこのルールで
しばらくリズムを叩くことを続ける。
④ 声による即興 1・
主旋律と伴葵
手、足を叩くのではなく、声のみ により音楽を作る。伴奏はあっ、ぐっ、はっ、え、お 、んなど音は何でも良く各 自に任せ ら
れるが、一定のリズム(
1、2、3、4)をキープしてみんなで揃 って、リズムをつくる。主旋律は声であればなんでもよい."
あ
ーいやいやお-"、"
たりらりら-"、奇声を発する、等リズムの時と同様 に各 自の 自由に任せ られるo
エコー
(
9声 による即興 2.
やまびこ)
を作り出す。
円に並び 、1人の人が声を出すのをきっかけに、時計回りに次々に同じ声を出し、エコー(
リズムを保 つように気をつけて。
H:
T:
大きな声から始めてO本物のエコーは大きな音から小さな音になっていくでしょう?
H・
1つのエコーが始まり、自分の番が終わったら、すぐに次の声を出すことで、エコーの重なりを仕掛けてQ
T・
もっと速く反応するようにして。
日工れはすごく難 しいエクササイズだけれど、挑戦よo
T.
短 い声だけではなく、長い声例えば、「
オー-イ」
とかも入れてみよう。
T:
次は声だけではなく、身体を叩くなどの動きも一緒にしながら、声と動きをエコーさせて(
送って)
いくよ。
H Lつのエコーは一周するまで続 けてD次のエコーが始まっても途中で止めないでCそうすることで、エコーの重なりができ
てくる。(
注 目=-ルマン、T=チュルパノフの言葉がけ)
(
包炎解を用いた即興
衣装を着て、各 自持ち寄った楽器を持つ。指揮 はチュルパノフが行った。最
初は半円で止まったままで演奏C次に時計回りに歩きながら演奏。
ジャンベ 2人 、カスタネット)
oドラムセクション 3人 (
○管楽器 4人 (
--モニカ、縦笛 2人、フルート)
oその他 4人 (
バイオリン、ピアニカ、鈴 、鉄琴)
H.
みんなはプロの音楽家ではないので、舞台でシーンとして使うためには、
本気で音楽家になったみたいに窮剣 に演奏しないといけないo
T:
演奏を始める、終えるのタイミングを計って。演奏するスピードも。
ト
=:
ても良かった.とてもおかしくて、素晴らしい演奏だったわO
(
作成 相馬)
-
218 -
表 4 :作品 『
ワーズ ・アパー トJにおいて使用されたことわざとシ-ン展開
ことわざ(
英語 .日本語)
2
3
1
4
5
考秦者
光陰矢のごとし
Tol
e
a
nonac
ur
t
ai
n
暖簾に腕押し
Ca
t
ch
i
n
gn
ei
L
he
rabe
el
1
0rah
or
s
en
y
虻蜂捕 らず
T
m
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l
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r
o
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Ui
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ey
o
ur
l
l
転ばぬ先の杖
Pu
s
h-upso
.
Fa
ni
ne
xpe
r
i
enc
edmonk
慣れぬ坊主の腕立て
博すタ
∴▲
l
相原 、窪 田、相馬
野和 田
相原、窪 田、相馬
窪田
伊達、
窪 田 野和 田、箕島
○4 つ のこ
進行
○舞 台上
装を着替
た大 島と
と二
∠ユ
にて箕
ン-ン
と
え、
もに舞
わざカ
隠島
2
れて
ミ
三
台
が
へ
同F
衣
亘
上
し
噂
伝
ヽ
に残
り、、
箕島
箕島、大 島
換
シーン 2
一
′
W■ー
c
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T
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ts
ougl
yt
ha
tac
overR
ori
t 相馬
割れ鍋 に綴 じ蓋
7
Si
l
e
nc
ei
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言わぬが花
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口は災いのもと
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作品中のシーン展一
関
1
こ
乱罵
6
8
出演者
染川
竹之
野和 田
野和
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J
,
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、
璽
- 219-
田、
ノ
l、
竹田
之 、窪
下 、 シーン
○4 つ 37
の -ユエツ卜によ
相
原染、河
原
伊達、松 田、宮崎
る群 舞
、伊 達、松 田
シーン 4
一
問差
○2つ のこと
で出現
わざが時
9
ことわざ(
英語 .
日本語)
考秦者
Ha
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annot 相原
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相原
1
0
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折り
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紙つき
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大島 、相馬
大島
隔靴掻痔
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盆に返ら
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PI
I
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er 相原
出演着
作品 中のシーン展開
シ′
-ン′
5
○3つのことわざが時 間差
で出現
○暗転
相原
1
仁
一
監
護
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二 し
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一
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三ふ
-
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箕島
シーン6
、8
相原 、松 田
○断片的に 2回出現
○暗転
シ-ン'
7
伊達
宮崎
○照明と
○暗転 衣装の色の変化
シーン′
8
染川
河原 田、染川
野和 田
窪 田、野和 田
Pr
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楽屋で声を枯 らす
1
3 Then
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松田
1
2
隣の芝生は青い
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1
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恋は思案
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の他
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1
6
-そで茶を沸かす
悪銭身につかず
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三
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二度
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○4
○暗転
で出現
つ のことわざが時間差
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シーン 9
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二兎を追う
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もの一兎も得ず
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河原 田
河原 田
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河原 田
相原、大島、河原田、窪田、 とこと_
哩
相馬
染川、
田、松田、
竹之下、
箕島、宮崎
伊達、野和
相馬
1
7
1
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花より
団子
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や
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○河
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いる中に女性たちが入
原る田が 1人裸で踊って
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○2
で出現
つ のことわざが時 間差
堪忍袋の緒が切れた
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.
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」
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メ
、
il
(
作成 ・
相馬)
法で作品を作 っていこうとしてい ます。 ことわ
で きる余地 を残 してい くことが意図 されていた
ざを文字通 りに動 きに翻訳 して、舞台に乗せ る
と捉 え られる。
Fワ-ズ・
アパー ト』 という作 品 タイ トルをつ
とい う手法が、今回の作品でや ろ うとしている
、「
Wo
r
dsma
ke
su
s
006.4.21. リハー
や り方です」 (
ヘルマ ン、2
け た も う 1つ の 意 図 は
サル) と述べ、それゆえ、小道具や衣装 となる
a
pa
l
t
」、す なわち、我 々を隔てている ものは言
●
物'にこだわ り、物 と人が舞台 に存在する ●
絵'
葉だけである、 とい う考 えに由来す る という。
を作 ることが今回の作品において重要であると
ヘルマ ンは 「
振付作業 中、言葉の壁や文化、習
述べた.すなわち、作 品 rワ-ズ ・アパー ト』
慣の違いなどでこち らの要求が うまく伝わ らな
における 「
演劇的」 な手法 とは 「
象徴的」 と置
かった り、彼 らがひっかかっている問題の理由
き換 えられ、絵 を見てその意味 を判雄(
=
す るよう
がわか らなかった りとい うことも多 々あったが、
解で きるよう
に、舞台の各 シー ンを絵 として理
それ らを超 えてお互いが理解 し合 えてい く瞬間
なシー ン作 りが 目指 されてい く。
とい うの が、 もっ とも うれ しい体験 だ った」
表 4参照)「
光陰
例 えば、作品中の シー ン 1 (
(
JOU2006:89) と述べてお り、そこに本交流
子 ども
矢のごとし」では、舞台上 に 8足の靴 (
公演事業の意義 を見出 していたことが伺 える。
靴、青年女性の靴、老年女性の靴) を斜線上 に
置 き出演者 (
伊達)が一足一足靴の上でその靴
結論
ける即興の果 たす役割
に合 ったポーズ を しなが ら進 んでい くこ とに
以上、本論 Ⅰ、 Ⅱ、Ⅲか ら、以下の点が明 ら
よって時間の経過 を 「
象徴的」 に表 している。
その際の靴の置 き方、出演者 (
伊達)の動 きの
作 品 Fワーズ ・アパー ト』創作過程 にお
か となった。
選定は、即興エ クササ イズ(
む「
物 と人による即
i:作 品 rワ-ズ ・アパー ト1 はことわざ (
育
荏
興」 (
表 3参照) に習 い、 シー ンの考案者 (
葉) を舞台上での絵画 として表出させ るこ
m)、出演者 (
伊達)、そ してヘ ルマ ンとの共同
とが意図 され、舞台上 に′
ト道具 (
物) と出
創作 によって決定す るとい う創作方法であった。
演者の しぐさやポーズによる静止画 を創出
参「物
また同様 に、表 3中の即興エ クササ イズ(
す るとい う象徴的手法が取 り入れ られてい
と人による即興」 に習い、写真 の ような静止画
た。 また、その舞台上の静止画か ら生身の
を作 り出す ような しぐさ、ポーズが選定 された
身体が動 き糾す際には、舞踊の動 きと、言
シー ン (
表 4、 シー ン 5、 シー ン 7)や、即興
葉 を語 る、声 を出す、歌 を歌 う等の演 劇的
エクササイズ④ 「
声 による即興 1 :主旋律 と伴
手法 を融合 した作 品構築方法が採 られてい
奏」 に習い、笑い声、あ くびの音、話 し声 を融
た ことが明 らか となった。
合 させたシー ン (
表 4、 シー ン 8) も創 出され
i
i:
作晶
た。
『ワ-ズ ・アパー ト』創作過程におけ
る即興 は、各 シー ンの創作、上演者の表現
このように、象徴す ることわ ざに合わせて、
力の向上、上演者の人間存在 としての豊か
演劇のように会話 をす る、言葉 を発す る、声 を
さ ・強 さの再確認のための手段 として、創
∼
uす という行為 を用いる場合 と、過剰 な演技や
作過程の要所要所 において用い られた。即
表情 を排除 し、可能な限 り単純化 した静止画的
興 を実践 してい く中で、上演者 は、失敗 を
な しぐさ、ポーズを用いる場合 とがあった。 同
恐 れず、常識 に とらわれないポ ジテ ィブな
時に、舞踊的な動 きにおいて も、その単純化 と
姿勢で一瞬一瞬 を大事 に し、独特の個性や
形式化 を徹底 していった。 これ らの作業 には、
発想 を活かす とい うことを学んでいった。
見る側 (
観客) に、各 シー ンの意味 を説明 し押
i
i
i:即興の果たす役割 は、「自分の思いを的確 に
し付けるのではな く、見 る側がその意味 を想像
表現す る」、「
他者 を受け入れ、その意図を
- 221-
汲み取 る」、「
論理的に考 える」 とい う作 品
の フェステ ィバ ルに出演。 その傍 ら自分独 自の
創作 において必要 な、 ひいては生 きてい く
99
4年、 イデ イツ トと共 同創作 を
活動 を開始 。1
上で重要 な資質 を育 む ことである。 それは、
995年 に 「シア ター ・ク リッパ」 を結成。
始め、1
同時代 の舞踊
・演劇 を含 む舞台作 品創作 に
同舞踊団では演者 と してだけでな く舞台美術 、
お いて重要 な概念であ る 「あ りの ままの 自
音楽製作 な どを一手 に引 き受けている。
分 を認めること」につ なが る表現手段であ
3
る。
シア ター ・ク リッパ の受賞歴
1
996年 :ス ター ンフィール ドアワー ド (
演劇 部
門) 受賞 (
作品
「
Cl
i
pa
」
)
1
997年 :イ ス ラエ ル ダ ンス フ ェ ス テ ィバ ル
【
今後の課題】
改めて感 じた。本研究か ら得 られた即興 の特性
"
Gv
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o
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"最 優 秀 賞 受 賞 (
作 品
「
An
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l
」
)
を基礎 的資料 と捉 え、今後 は、研究方法の向上
1
999年 :イス ラエ ル演劇 アカデ ミーアワー ド受
と、更 なる実践 ・指導経験 を積 み、 よ り充実 し
賞 (
作品
本研 究か ら、即興や舞踊作 品創作 の奥深 さを
た研究 を行 っていけるよう、取 り組 んで きたい。
【
謝辞】
本研 究 に取 り組 むにあた り、VTR資料等 を提
供 して くだ さったセ ッションハ ウスの伊藤孝、
「
Wa
nt
e
d
」
)
1
999年 :Ac
r
eフェステ ィバ ル ・ベ ス トデザ イ ン
La
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y
r
i
n
t
h
」
)
賞受賞 (
作品 「
2001
年 :イスラエ ル批評家選 ・最優秀 演劇作 品
(
作品 「
De
u
se
xma
c
hi
ne
」
)
直子両氏 にこの場 をお借 りして深 く感謝 申 し上
2002年 :ハ ンナ&ゴ ッ トリーブ ・ローゼ ンブ レ
げ ます。
ム ・アワー ド ・フォー ・パ フォー ミング ・アー
ツ受賞
【
注】
リ デ イツ ト・ヘルマ ン
2
003年 :イス ラエ ル ・カルチ ュラル ・エ クセ レ
(
I
d
i
tI
I
e
r
r
na
n):
1
971
年生 まれ。学校でバ レエ とモ ダ ンダ ンスを学 び,
16才で イス ラエル ・バ レエ ・カ ンパニーに入団。
CEエ クセ レンス賞受賞
ンス財団I
4
セ ッシ ョンハ ウス :コ ンテ ンポ ラ リー ・ダ ン
スの若手 ダンサ ーや振付家 に広 く門戸 を開放 し、
1
989年か ら1
991
年 までバ ッ トシェバ舞踊 団の メ
その発掘や育成 に貢献 しているダンスス タジオ。
ンバー として活躍。その後 ヨー ロ ッパ各地で活
所 在 地 は東 京 神 楽 坂。近 年 で は国 内外 の ダ ン
動 中、 アムステルダムでデ イミ トリイ ・チ ュル
サーや振付家の民 間 レベ ルでの交流の拠点の ひ
995年、
パ ノフと出会 い共同創作作業 を開始 。1
JOU2006:89)
とつ となってい る。 (
2人は シア ター ・ク リッパ を結成。 日本 との関
5本項 にお けるヘ ルマ ンの言説 は全 て、 リハ ー
係 では2004年 に東京 と福 岡でデ ュエ ッ ト公演 を
翻
サ ル記録 VTRよ り取 り上 げた ものであ る。 (
行 ったほか、数回にわた り舞踏 ダ ンサー工藤丈
訳筆者)
輝 との創作活動 に も取 り組 んでいる。
2デ イ ミ トリ イ ・
チ ュ ルパ ノ フ (
Dm
it
r
y
Ty
u
l
p
a
l
l
O
V
):
1
96
6年、旧 ソ連の レニ ングラー ド
生 まれ。工芸学校 で彫刻 を学ぶ一方、 レニ ング
ラー ド大学で演劇 と音楽の レッス ンを受講。卒
業後、 トランペ ッ ト奏者 として ロシア陸軍軍楽
988年、 ロ ック ・グループに参加。
隊 に入隊 。1
【
引用 ・参考文献 】
羽岡佳子 (
2
0
0
2
)現代の舞踊における即興一山日
‡
ト
せ
つ子 (
1
9
5
0-)を通 して-.埼玉大学修士論文
埼玉
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1
9
9
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即興●の<三発
現城>∼演舞時即興をめ ぐって.第42回舞踊学
ア ン トン ・アダシンスキ イの演劇 グループ 「デ
レポ」の一員 として 1
995年 まで ヨーロ ッパ各地
- 222-
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99
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ションの構造 と実際.お茶の水女子大学修士論
ける即興の役割.お茶の水女子大学卒業論文.
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東京
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OU (
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006)東京 コンテ ンポラリー ダンス界に種 を
蒔 き続 けるセ ッシ ョンハ ウスに咲 いた 3年越
白井麻子 (
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指導 に関す る一研究.お茶の水女子大学修士論
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000)新時代の 「
表現遊動 ・ダンス」の
授業 とは.体育科教育第4
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0号.大修餓書
しての身体.大イ
朗 宮古店.東京
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東京
片岡康子 (
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だを獲得す る- .女子体育.第45
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ホームペー ジか らの引用】
イスラエ ル大使館 (
文化、舞踊のペー ジ :
20
06
年新
河 田真理 (
2
00
4)バ ッ トシェバ舞踊 団作 品研 究『アナフェイズ (
細胞分身)
』 にみる祭儀性-
春改訂)
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p:
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okyo.
mf
a.
gov.
i
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m/web/mai
n/document
お茶の水女子大学卒業論文.東京
.
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DocumenL
I
D-24255&Mi
s
s
i
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D-43
ノヴァック、 シンシア ・J・/立木煙子 十菊池淳子
インプロ大図鑑 (
2
006
年 2月更新)
訳 (
200
0) コンタク ト・イ ンプロヴイゼ- ショ
1
1
比pノ/zukal
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O
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.
c
om/?
ci
d-1
5309
ン 交感す る身体. フイルムアー ト社.東京
シアター ・ク リッパ (
更新 日記載 な し)
ht
t
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cl
l
Pa
一
山e
at
er
.
c
om/
(
2
006
年 9月2
9日提 出)
(
2
006年 1
0月 1
3日受理)
- 223-
A study about the role of improvisation during the working
process as to make a contemporary dance piece
-From the case of a choreographer from Israel-
Keywords: improvisation,
creation,
contemporary dance
Hidemi SOMA and Eriko HOSOKA WA
The theme of this study was to consider what kinds of roles using improvisation during the
working process of choreography perform.
choreographed by Idit Herman,
As a result,
We picked up a piece named [Words Apart] which
one of the leaders of Theater Clipa in Israel.
the three points below were observed.
i : [Words Apart] was choreographed in the way of fusing together between contemporary dance
and theatrical style,
which is characterized as highly concrete expressions/representations.
ii : The characteristics of improvisation used during the working process of [Word Apart] were
the means of choreography of each scene, letting dancers get higher expressing/representing
skills and recognition of dancers'
metal and physical strength.
observed at key points of the creation.
The improvisations were
To experience improvisation exercises,
dancers
became to learn not to be afraid of making mistakes, not to be a slave of common knowledge,
to cherish each moment in positive attitudes,
III :
to make much of each one' s own personality
and ideas.
the role of improvisation is to foster the abilities of [expressing one' s own ideas clearly],
[accepting others and his/her intentions], [thinking in a logical way], which are important
qualities requisite for a creator,
moreover,
of a human being.
Improvisation is a way of
expression/representation leading performing artists to become and recognize one's'
true
colors, which is the concept necessarily used in creating contemporary performing arts works
including dance and theater.
-224-
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