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地域包括ケアシステムの実現 ~現状の把握と課題より、システム構築を
地域包括ケアシステムの実現 ~現状の把握と課題より、システム構築を考える~ 社会福祉法人 敬友会 佐藤 裕子 株式会社 メッセージ 橋本 俊明 要旨 地域包括ケアの目的と考えられる、 「障害が発生しても、介護施設に行くことなく、自宅 で生活できること」を達成するために、何が障害となっているかを考える方法として、① 入居を高齢者自身が決めることが出来ないこと、②障害が重度になった場合に、ケアマネ ジャーの高齢者を支える能力が不足していること、③自宅での生活を支える在宅サービス が十分ではないこと、以上の 3 点を中心として、在宅のケアマネジャー6 名に、直近 1 年間 に、自宅から介護施設へ入居した高齢者 16 名について、詳細な聞き取りを行った。その結 果、①高齢者は、入居を自分で決めていないこと、②ケアマネジャーの能力不足があるこ と、③在宅サービスの不足があること、など、当初想定した「地域包括ケア=出来るだけ 長く自宅での生活を継続できること」の障害となっている事項が明らかとなった。「地域包 括ケア」を実現するためには、高齢者の自己決定を確立すること、ソーシャルワークを含 む、ケアマネジメントの能力をあげ、安易に介護施設への入居を促さないこと、24 時間切 れ目なしの訪問サービスを中心とする在宅サービス(フルサービス)への充実、転換が必 要となる。 1.はじめに 急激な高齢化に伴い、介護サービスの必要性が高まっている中、団塊の世代 600 万人が 全員 75 歳以上となる 2025 年問題の対策として、 「地域包括ケアシステム」の構築が必要と されている。「地域包括ケアシステム」の目的は、高齢者が尊厳・個別性の尊重を基本に、 出来る限り住み慣れた地域で在宅を基本とした生活の継続を支援することを目指すことと され、要介護高齢者数の増加を踏まえたサービス全体量の拡充や、介護・医療・保険・福 祉の連携が求められている。こういった「地域包括ケアシステム」の内容が、今後普及し ていくためには、現状の問題点を十分に把握する必要がある。 現在、高齢者の多くが、出来る限り住み慣れた地域で生活を継続しているとは言い難く、 比較的容易に施設入居が勧められている。その証拠に、特別養護老人ホームは毎年増加し、 いつも満床である。特定施設やサービス付き高齢者向け住宅も、すさまじい勢いで増加し ている。高齢者が施設へ入らなければならなかった理由は何であるのか、在宅での生活が 出来なくなった理由は何処にあるのかなど、出来るだけ住み慣れた場所で生活を継続する こと実現するためには、現状の課題を明らかにする必要がある。つまり、真の「地域包括 システム」の実現は、特養をはじめとする老人ホームへの入居をどの程度阻止するかにあ ると言っても良いし、地域包括システムの結果判定は、今迄に比べ、どの程度自宅から老 人ホームへの入居が減少したかを指標としても良いと考えられる。 本稿では、在宅生活の継続を阻害する要因から課題を明らかにし、真の地域包括ケアの 実現に向けての対策を考察したい。 2.在宅生活が継続されない理由 在宅生活が継続されない理由について、次のように考えた。 ① 施設入居の大半は家族が決めており、高齢者自身が自分で決めていないのではない か? ② ケアマネジメントが不十分なのではないか? つまり、介護量の増加(介護度が重 くなること)に対して、どの様にプランを作っていき、高齢者の生活を支えるのか について、ケアマネジャーの能力が不足しているのではないか? ③ 24 時間の支援が受けられるサービスが存在・普及していない事ではないか? デイ サービスなどのいわゆる、部分的サービス(レスパイト的サービス)のみが増加し、 本来主体となるべき、訪問サービスが十分提供できていないのではないか? 以上、3つの事柄が、在宅生活を阻害している主な理由と考えられる。従って、これら の項目を中心として、ケアマネジメントの実態を調査する必要があると判断した。 3.調査結果 当法人に所属する居宅介護支援事業所のケアマネジャー6 名に、直近1年間で施設入居し た要介護高齢者について聞き取りを行なった。その結果、16 名の要介護高齢者の状況につ いて、詳細な情報を得ることができた。 ① 対象者の内容; 対象者の「介護度」は、要介護1=1 名、要介護 2=1 名、要介護 3=5 名、要介護4 =7名、要介護 5=2 名であり、要介護 3 以上の高齢者は 16 人中 14 名だった. 「家族 構成」は独居 2 名、同居 14 名と、同居が多かった。 要介護1 1名 要介護2 1名 要介護3 5名 要介護4 7名 要介護5 2名 独居 2名 同居 14名 ② 入居のきっかけ; 施設入居のきっかけについては、以下のような回答を得た。 ※複数回答 病気・体調不良・骨折など 9名 施設の待機順番が来た。施設が新設された。 4名 同居家族の病気・怪我 2名 賃貸コーポの立ち退き 2名 認知症(BPSD の増加) 2名 家族の介護拒否 1名 入居のきっかけは、病気・体調不良などによる高齢者自身の生活能力低下が一番多か った。病気・体調不良の詳細は、悪性腫瘍1名、腎機能低下 1 名、脱水1名、低栄養 2 名、嚥下機能低下 2 名、骨折 2 名だった。この様な場合、多くは、自宅に帰ること なく、医療機関から直接介護施設に入居している場合が多い。次いで、施設の待機順 番が来た・新設施設が出来た為に、入居している事例が 16 名中4名いた。内容を確 認すると、 「近所に特養ができたので家族が入居を進めた事例」、「施設から待機順番 が来たという連絡があったため、要介護者を説得して入居させた事例」などである。 また、1 つの入居理由だけではなく、2 つの理由から入居に至っている事例が4件み られた。具体的には、「賃貸コーポの立ち退き要請と病気の出現や体調悪化が重なっ た事例」 、 「同居家族の病気が出現した際に近所に施設が出来た事例」 、また、 「元々不 仲だった妻が体調を崩したことにより施設入居を選択した事例」であった。入居理由 が2つの場合、もともとあった 1 つの理由では入居までには至らないが、加えてもう 1つの理由が出現した場合に、施設入居となっていた。 ③ 入居施設の紹介者; 「入居施設の紹介者」は、担当ケアマネジャーが 11 名と、一番多くを占めた。施設 を紹介する直接的な理由について調査すると、要介護者・家族の体調不良 5 名、次い で、家族が今後の介護に不安 4 名、ケアマネジャーとして今後の在宅不安予測 3 名、 だった。よって、施設紹介は、 「介護量の増加・介護力の低下した際」、 「特に今は困 らないが今後の安心のため」 、 「本人・家族の状況から在宅生活の継続が危ぶまれると ケアマネジャーが予測した際」 、という 3 つのパターンで分かれていた。また、施設 選択の際に、ケアマネジャーが関っていない事例もあった。その場合の施設紹介者は、 病院 MSW2名・老健ケアマネジャー1 名、特養併設ショートステイ担当者1名という 内訳であった。入院中や、老健施設の短期利用中・特養ショートステイ利用の際に、 今後の生活場所についての相談は、家族と病院 MSW・施設ケアマネジャー等とで、行 なわれていた。 ④ 入居決定者; (複数回答) 同居家族 14名 別居家族 4名 高齢者本人 3名 「入居の決定者」は1人で決めるのではなく、2人で決める場合も見られた。内訳は、 同居家族 14 名、別居家族 4 名、本人 3 名であり、圧倒的に家族が決定している事例 が多かった。また、2 人で決めたという5事例の構成内容は、親と子・兄弟・姉妹と いった近い親族だった。本人による入居の決定は 3 名だったが、うち 2 名は娘と相談 して入居を決めており、本人だけで入居を決めたのは、要介護 3 の 1 名のみだった。 ⑤ 入居を回避するためのサービス; 施設入居した事例について、ケアマネジャーの視点で「在宅生活を可能にしたと予想 される事柄」について確認をおこなった。 24 時間巡回サービスやショートステイを利用できること 5名 サービスの制限や支給限度額の問題が無いこと 4名 施設順番が来ないこと 3名 栄養確保・体調や病気の管理が出来ること 3名 家族が病気にならないこと 2名 地域に存在する夜間の援助を含めた 24 時間サービスは、ショートステイ・お泊りデ イサービスといった施設主体のサービスは、数多く存在しているが、自宅に居ながら 24 時間の支援をうけることが出来るサービスは、少ない。この様な在宅サービスを、 積極的に利用すれば継続できたと思われた事例は 5 名あり、そのうち、夜間の訪問サ ービスがあれば可能だったと思われる事例は 3 名だった。在宅サービスの限度額や、 制度の制限があることを、在宅継続困難の理由とした事例は、16 名中4名いた。内容 は、 「在宅でのサービス利用費が利用限度額を超過すると、超過金額が 10 割負担とな るために負担が大きくなっている事例」、 「家族と同居しているがゆえにヘルパーの生 活支援が受けられない、本人の年金収入が少ない事などで粗悪な環境におかれてしま う事例」などがあり、在宅生活を継続するよりも、自己負担が安価になる施設を選択 していた。施設の順番が来なければ在宅サービスを継続していた事例が 3 名あった。 この場合、高齢者・家族の都合ではなく、施設の都合とタイミングで施設入居となっ ており、本人・家族に急な施設入居を希望するような理由は無かった。栄養確保や体 調管理が出来れば在宅を継続できた、という事例は 3 名あり、在宅生活の継続のため には、体調悪化の危険性を考慮した医療との関わりや、一時的な能力低下・介護量の 増加に対応が必要だった。そのうち 1 名は脱水を繰り返しており、より細かな脱水予 防の対応や医療との連携が必要だった。在宅での介護の多くを担っているのは家族で あるため、 家族が病気にならなければ、在宅生活が継続できていた事例は 2 名あった。 ⑥ 入居施設の場所; 「在宅と入居先の位置関係」については、15 件は自宅と同じ中学校区、もしくは隣接 した中学校区~同一市町村内と、自宅に近い施設を選択していた。1名のみ、故郷に ある施設を選択していた。 4.想定と調査結果の比較 以上のような聞き取り結果より、想定された「在宅生活が継続できない理由」との比較 検討を行った。 ① 施設入居の大半は家族が決めており、高齢者自身が自分で決めていないのではない か?; 「高齢者本人の自己決定」について、本人が入居の決定を行ったのは、16 名中 3 名 と少なかった。やはり、多くは家族が入居を決定しており、仮説どおりの結果とな っていた。入居を決めるタイミングについては、本人・家族のタイミングではなく、 施設の都合で入居している場合もあった。 ② ケアマネジメントが不十分なのではないか? つまり、介護量の増加(介護度が重 くなること)に対して、どの様にプランを作っていき、高齢者の生活を支えるのか について、ケアマネジャーの能力が不足しているのではないか?; 低栄養・脱水・骨折などの、状態が改善する状況であるにも関らず、医療との連携・ 介護量の増加に対応する支援を行うことなく、施設入居が早急に勧められていた。 また、家族介護力の減少の際にも、サービス支援を補うことができていなかった。 このようなことより、介護量の増加に対するマネジメント能力が不足していると言 える。また、今回の事例は転倒経験が多く確認されていたが、転倒や骨折を予防す るリスクマネジメントが十分に行われていなかった。また、施設入居の相談を病院 や利用施設で行っている事例、金銭的な問題の事例が施設入居していた事より、ケ アマネジャーによるソーシャルワーク的支援についても不十分であった。 ③ 24 時間の支援が受けられるサービスが存在・普及していない事ではないか? デイサービスなどのいわゆる、部分的サービス(レスパイト的サービス)のみが増 加し、本来主体となるべき、訪問サービスが十分提供できていないのではないか?; 仮説通り不足している現状が見られた。現在、24 時間をカバーする在宅サービスは ショートステイ・お泊りデイサービスが主体であるが、施設に移動して支援をうけ ることとなる。こういったショートステイ等の施設で過ごすサービスを使用した場 合、利用期間や利用回数が増加する傾向が見られ、施設入居を近づけてしまう要因 となっていることもわかった。 5.課題と考察 地域包括ケアを遂行するにあたり、現状の課題を以下のように考えた。 ①高齢者本人の尊厳=自尊心を守ること; 調査より、施設入居が自己決定されてない現状が判明した。施設利用者が増加する理由 は、家族の説得によって、多くの高齢者が仕方なく施設へ入居している事だと考える。尊 厳=自尊心とは、自分で自分の事を決める「自由」を確保していることである。施設契約 すら、家族の代筆で契約される事が主体という傾向があり、施設入居の手順においては、 高齢者本人に尊厳のある対応がなされていないと言える。さらに、高齢者本人の都合では なく、施設の都合で入居になる事例も見られたことより、施設という供給が需要を作りだ しているとも言える。介護保険上ではケアマネジャーが本人の代弁者であるべきと、言わ れているが、多くの施設入居を家族が決めていることより、家族の意向がケアマネジャー を動かしている現状も見られる。このように、高齢者本人が自己決定を行えない、生活場 所の選択・契約ができないことは、高齢者の尊厳・個別性の尊重が保たれている状況とは 言えない。 高齢者本人の尊厳を守るためには、どうすればよいのか。まずは、居宅のケアマネジャ ーが高齢者本人の話しを十分に聞き、生活の支援を行うべきであろう。施設の相談員も同 様で、高齢者本人に、入居の意向の確認・契約を行うべきである。このように、高齢者本 人の意向を十分に聞く事を徹底し、自己決定を支援することが、尊厳を守り個別性の尊重 へと導く方法である。ゆえに、高齢者自身に、いかに自己決定の機会を支援するかが、重 要な課題であると考える。 ②ケアマネジメント力の向上 体調不良や病気の後、施設入居する事例が多かった、という結果より、医療を受けた後 の、介護量の増加した生活に対するマネジメントが不十分であると言える。さらに、転倒 を何度も繰り返すといった、能力や環境のマネジメントが必要な事例に対して、対策がで きていなかった。高齢者本人が希望する自宅においての生活を支援するためには、介護量 が増加しても援助を組み入れて在宅での生活を支援する事、危険に対するリスクマネジメ ント、医療と連携した体調のマネジメントが必要となってくる。地域包括ケアを遂行する ためのマネジメントには、高齢者本人のことだけではなく、介護を担う家族・地域のイン フォーマルな部分についてのマネジメントも重要となる。 現在のケアマネジャーの仕事では、ソーシャルワークの意味合いは薄く、サービスを繋 げる支援と、給付管理に重きを置かれている傾向が強い。これでは、介護などの公的サー ビスだけで支援できない高齢者は、施設へ送られてしまうことになるだろう。また、介護 度別の限度額管理だけではなく、インフォーマルサービスも含めて金銭的なマネジメン ト・調整を行うことも必要となってくる。 こういった内容を網羅したマネジメントの実行は、一体誰が主体となって行うのであろ うか。ケアマネジャー全ての人材が、包括支援的マネジメントを即座に実行できるとは考 えにくく、今後は、教育が必要になり、ある一定レベルのケアマネジメントに達するため には時間も必要になるであろう。同時に、サービス提供する事業所でも、ケアマネジメン ト力を持つ必要が高くなるのではないだろうか。高齢者の状況を把握し、ケアマネジャー から依頼された援助内容を細微に決定し、実行する能力が不可欠となるだろう。質の高い マネジメントとケアが、地域包括ケアシステムには必要であると考える。 ③自宅に居ながら 24 時間支援を受けられるサービス体制整備 現状の在宅サービスには、夜間の訪問形態のサービス援助が不足していることがわかっ たが、どのようなサービスの体制整備が必要なのであろうか。H18 に「夜間対応型訪問介護」 が設立されたが、24 時間をカバーしたサービス提携ではなかったので、利用者の増加には 至らなかった。H24 に新設された「定期巡回随時対応型訪問介護看護」は、現在利用してい る訪問介護や訪問看護との併用利用ができない、という他の利用サービスの調整が必要で あるという条件がついている。民間の深夜ヘルパーや家政婦の利用も可能ではあるが、莫 大なコストがかかるため、一般的に使用されているケースは少ないだろう。 現在普及しているショートステイやお泊りデイサービスの利用は、高齢者と家族に対し て、施設に慣れと親しみを起こさせ、施設入所を促す要素が強いという傾向がある。高齢 者にとっては、慣れた自由な環境で過ごせない上に、施設入所に近づいてしまうというデ メリット的な要素が強いだろう。従って、自宅にいながら 24 時間、ケアを受けることが出 来る「フルサービス」の体制を作ることが重要となる。 「フルサービス」とは、24 時間の生 活の計画的な援助に加えて、相談業務や緊急対応を含めた支援を行うことである。これを 行うことにより、在宅を施設のような安心感のある場所にすることが可能となる。具体的 には、現状の介護保険サービスに存在する「訪問介護、定期巡回・随時対応、夜間対応」 を全て整備することで、 要介護者の状況に応じた 24 時間の援助が支援可能となるのである。 6.おわりに 高齢者がいつまでも、自由な選択や自己決定を行い、在宅での生活を継続していくため には、 「高齢者の尊厳=自由を保つ」 、 「ケアマネジメントの質の向上」、 「フルサービスの体 制構築」が必要である。つまりは、地域包括ケアシステムの「高齢者が尊厳・個別性の尊 重を基本に、出来る限り住み慣れた地域で在宅を基本とした生活の継続を支援することを 目指す」 、という理念を具体的行動に移す事が鍵になってくるであろう。そして、高齢者が 自宅に居ながら 24 時間を支援するフルサービスの体制作りが、必要不可欠となるだろう。 高齢者を支援しサポートする適切なケアマネジメントは、今後、ソーシャルワーク的支 援を盛り込みつつ、精度を増す必要性があるといえる。この、体制を作るには、ケアマネ ジメントに対する教育のシステムが重要になってくるであろう。地域包括ケアシステムの 構築を目指し、理念・体制・教育の構築が必要不可欠である。 参考文献; 〔1〕 大多賀政昭 地域包括ケアシステムにおける24時間定期巡回・随時対応型訪問 サービスの位置付けと課題 2012.4; 〔2〕 平成24 年度 厚生労働省老人保健事業推進費等補助金事業 「持続可能な介 護保険制度及び 地域包括ケアシステムのあり方に関する調査研究事業 報告書 <地域包括ケア研究会> 地域包括ケアシステムの構築における今後の検討の ための論点」平成25年3月 〔3〕 厚生労働省老健局振興課 地域包括ケアシステム構築に向けた取組について 第 6期介護保険事業(支援)計画の策定準備等に係る担当者会議 平成25年7月29 日