Comments
Description
Transcript
第3 問題作成部会の見解
化学Ⅰ 第3 問題作成部会の見解 1 問題作成の方針 平成 26 年度大学入試センター試験(以下「センター試験」という。)は、高等学校の教育課程が 平成 15 年度から現行課程に移行して9回目の試験として実施された。「化学I」の本試験の受験者 数は 233, 632 人であり、理科の中で最多である。 平成 26 年度問題作成方針は従来の方針と比べて大きな変更点はない。センター試験の従来の問 題作成方針にのっとり、過去の試験の実施結果とそれらに対する高等学校教科担当教員、日本化学 会大学入試問題検討小委員会及び日本理化学協会大学入試問題検討委員会化学部会からの意見を参 考にして問題を作成した。また、各大学の最近の問題及び他の科目との重複を避ける配慮をした。 「化学I」の作題の基本方針を以下に記す。 ⑴ 現行の高等学校学習指導要領に準拠し、教科書に記載されている事項を基礎として、基本問 題・発展問題・応用問題ともに、その範囲を超えないように留意する。 ⑵ 高等学校学習指導要領の基本方針である科学的な思考力や応用力を問う問題をなるべく多く作 成する。 ⑶ 化学の基礎事項についての正確な知識が問えるように作題する。 ⑷ 化学の応用力が評価できるように作題する。 ⑸ 実験や観察に基づいて化学現象あるいは実験操作を把握するような問題を出題する。 ⑹ 高等学校の「化学I」で取り上げられる事項を、全般にわたって偏りなく作題する。その包含 する範囲については、高等学校学習指導要領から逸脱のないように配慮する。 ⑺ 教科書に記載してある事項を確認し、特定の教科書に偏らないように配慮する。また、科学技 術の現況を捉えつつ最新の結果を取り入れる。 ⑻ 平均点が 60 点程度で例年と大きな変動がないように難易度に留意して作題する。 ⑼ 設問の形式・方法・表現の明快さと配点の公平性に配慮する。 ⑽ 60 分の試験時間内に解答できる分量とし、設問の配列に配慮する。 ⑾ 詳細な評価が可能になるように、高得点者を識別できる問題、低得点者を識別できる問題、全 体として識別力のある問題を取り混ぜてバランス良く出題する。 ⑿ 複数の答えの組合せの中から正答を選択させる形式の問題を多用しないように配慮する。 これらの方針に基づき、物質の構成、物質の変化、無機物質、有機化合物の化学全般をカバーし ながら、基本的な知識を問う問題、思考力を問う発展問題、それらの応用問題と計算問題、グラフ から判断する問題、実験に関する問題という多角的な問題形式で作題した。出題に当たっては日常 生活に関連の深い化学のなかから、多くの教科書に記述がある内容を取り上げるよう配慮した。 2 各問題の出題意図と解答結果 問題は四つの大問からなり、全設問数を 25(小問数は 32)、全解答数を 33 とした。各解答に対す る配点は難易度により1~4点とし、合計 100 点とした。グラフから判断する問題を3問、実験に 関する問題を2問取り上げた。また、計算問題の出題数は8とほぼ例年どおりとし、正解を導くの ―385― に複雑な計算や操作を必要としないように数値を考慮した。問題の表現も工夫し、紛らわしい選択 肢を少なくして解答を導きやすくする一方で、化学的な思考力を問う問題の比率を少し高めた。 その結果、本試験における平均点は 69. 42 点で、標準偏差は 24. 06 であった。「平均点はなるべく 変動しないこと、そして標準偏差はなるべく大きいこと」が作題の基本方針である。平均点に関し ては、一昨年度が 65. 13 点、昨年度が 63. 67 点であり、今年度は昨年度より 5. 75 点増加した。一方、 識別力の判断材料となる標準偏差も昨年度より 2. 9 ポイント増加した。 第1問 問1a 様々な物質を題材として、物質量に対する基本的な理解を問う。 問1b 14C を題材として質量数と陽子・中性子数の関係から、原子の構造に対する基本的な 理解を問う。 問2 周期表に基づき、物質の化学結合に関する基本的な理解を問う。 問3 イオンとその化合物の性質に基づき、イオンに関する基本的な理解を問う。 問4 塩酸を題材として、質量パーセント濃度と物質量に関する基本的な理解を問う。 問5 気体物質の燃焼反応を題材として、化学反応式と物質量に関する基本的な理解を問う。 問6 身の回りの事柄に関する状態変化や分離等を題材として、化学用語に関する基本的な理 解を問う。 問1、問2は化学の基本的知識あるいは基本的理解を問う問題、問3はイオンの性質に関 する基本的な理解を問う問題、問4は簡単な計算によりモル濃度に関する基本的な理解を問 う問題、問5は化学量論と気体分子の物質量と体積について基本的な理解を問う問題、問6 は、 「身近な化学」、「生活に密着した化学」を意図した問題である。いずれも基本的な問題 とみなしている。 第2問 問1 生成熱、燃焼熱とヘスの法則についての理解を問う。 問2 熱化学方程式の作成と、混合気体の燃焼熱についての理解を問う。 問3 弱酸と強塩基の滴定曲線と指示薬についての理解を問う。 問4 化学反応における酸化数の変化、酸化数の求め方の理解を問う。 問5 電解質水溶液の電気分解における、陽極、陰極での反応による気体生成量と、それに必 要な電気量に関する理解を問う。 問6 ダニエル電池の放電時における、Cu 極での反応と Cu 極の質量変化についての理解を問 う。 第2問の全問にわたって、基礎的な知識力、解析力と計算力、さらには思考力などを問う 基本的な設問とした。第2問の六つの設問のうち計算問題が2問であったが、形式的に計算 問題ながら思考力を問う問題を問1、5で出題した。問1でやや正答率が低かったものの、 理解力を識別する設問として適切であった。問2は混合気体の燃焼熱の理解を問う基本的な 問題であり、正答率も高かった。問3は弱酸と強塩基の滴定に関する極めて基礎的な問題、 問4は酸化数の変化を問う標準的な問題であり、正答率は高かった。問5は電気分解に関す る基本的な問題であり、正答率も適切であった。問6は、電池の両極における質量変化を問 う問題であるが、受験者にはなじみのある問題であり、7割近い正答率であった。第2問の ―386― 化学Ⅰ 全ての設問について、例年と比べて正答率は高くなったが、識別力のある問題と判断でき た。 第3問 問1 金属の基本的性質についての理解を問う。 問2 過マンガン酸カリウムと過酸化水素水の酸化還元反応についての理解を問う。 問3 窒素の単体及び化合物に関する基礎的理解を問う。 問4 アルミニウムと亜鉛の性質について理解を問う。 問5 濃硫酸の性質に関する理解を問う。 問6 結晶の水和水に関する理解を計算問題により問う。 問7 金属イオンの沈殿反応に関する理解を問う。 第3問は、標準的な問題に加えて正答率が低かった問題も含まれたことから「化学Ⅰ」全 体の平均点をやや下回ったものの、おおむね目標とする得点率に近い結果が得られた。各問 の正答率にはばらつきがあり、問3と問5が平均的で、問1、問2、問4は高く、問6が低 かった。問1、問2、問4の正答率が高かったのは、物質の性質としてよく問われる内容で あり、受験者にとっては見慣れた設問であったためと思われる。一方、問6の正答率が低 かったのは、硫酸銅といえば五水和物という知識のみで答えた受験者がいたためと思われ る。 第4問 問1 有機化合物中の官能基の構造と名称の理解を問う。 問2 構造異性体に関する理解を問う。 問3 有機化合物の混合物の中から、性質の違いを利用して化合物を特定する能力を問う。 問4 フェノール関連化合物、カルボン酸化合物等の基本的な反応に関する理解を問う。 問5 エタノールと濃硫酸の反応(脱水反応)に関する理解を問う。併せて、生成物のエチレ ン、ジエチルエーテルに関する性質及び構造に関する理解を問う。 問6 アセチル化反応に関する理解を問う。化学反応における当量関係の理解を問う。併せ て、当量関係から生成物収量の計算方法の理解を問う。 第4問全体の得点率は予想された範囲であった。正答率を小問ごとに見ると、問1の正答 率は高く、官能基の構造や名称に関する受験者の理解度が高いことがうかがわれる。一方、 有機化合物の性質の違いを利用して混合物の中から特定の化合物を選び出す問3や、様々な 実験操作の意義を問う問5の正答率は5割程度であり、深い理解を問う問題であったことが その原因の一つと考えられる。構造異性体に関する問いである問2や、反応の前後における 化合物の構造の比較から反応に用いた試薬を問う問4、アミド化に伴う脱水縮合反応の生成 物の量を計算で求める問6は、これまでの傾向を踏襲した問題であり、期待した6割程度の 正答率である。全体として、設問をできるだけ平易な表現とし、また選択肢の数も厳選した ことで、期待される得点率が得られたものと思われる。 3 出題に関する反響・意見についての見解 全体を通じて、これまでの高等学校教育現場の関係者や各種評価団体の意見・要望を踏まえた適 ―387― 切な出題となっており、その結果としての平均点(69. 42 点)も適正範囲であると評価された。す なわち、1出題範囲はおおむね高等学校学習指導要領で指定された内容を踏まえて教科書の幅広い 範囲から出題されており適切である、2問題の分量としては、設問数が2減少したものの解答数 33 は昨年度と同じであり、また、選択肢の数も1問当たりの平均が 5. 4 であり適切である、3出題 分野は、物質の構成・物質の変化・無機物質・有機化合物の各分野からバランス良く出題されてお り、また難易度も、学習の到達度を確認できるものとなっている、などの評価を得た。以上の観点 は、今後の作題においても十分留意していきたい。 出題の仕方や問いかけ方については、「誤りを含むもの」や「適当でないもの」を選ばせる設問 をできるだけ少なくするよう工夫してほしいとの意見があった。この点に関しては、誤りを含む選 択肢をたくさん作ることが作問上難しいことや、正しい記述の方を多くしたいとの思いから、どう してもある程度の数の問題がこの設問形式にならざるを得ないが、上記の意見は引き続き今後の努 力課題としたい。一つ誤れば全問が不正解になる「複数正誤組合せ問題」の出題が無かった点は評 価された。第2問の問5や第4問の問1のような「複数解答組合せ問題」については、配点を小さ くしてそれぞれ別々に得点できる形式にしたため、受験者の知識量を細かく採点できるとして評価 された。第3問の問4のように、「どちらか一方のみに当てはまる記述」を選択させる出題形式は 受験者にとって分かりにくいのみならず、その記述の内容を誤って判断しても正解になることがあ るため受験者の能力を正しく判定することができないとの指摘を受けた。これは今後の留意事項と したい。「実験・観察」や「図表・グラフ」に関する出題が昨年度と比べると減少した点が指摘さ れ、実験の重要性を教育現場で意識させる観点からもこの手の出題を続けてほしいとの要望があっ た。今後は、他方で指摘のあった適切な実験装置と現実的な実験条件を提示することに留意しつ つ、できるだけこの手の問題の作成に努力していきたい。計算問題については、問題数や内容は妥 当との評価を得たが、科学的な内容の理解度の評価に重点を置き、計算そのものは暗算でも正解に 到達できる程度にとどめる配慮も求められた。今後の作問に当たり留意したい。 その他、日常生活の現象と化学を結び付ける出題は、化学に対する興味・関心を高める上でも重 要な意味を持つので今後も続けていただきたいとの要望があった。この方向性は堅持したい。 高等学校教科担当教員、日本化学会及び日本理化学協会の意見・評価に集約されている批判や意 見のうち、個々の設問については以下に本部会の見解を述べる。 第1問 問1a 「異なる物質における同一質量中の分子数の大小を問う標準的問題。分子量の小さい 物質ほど分子数が多くなることが理解できていれば、分子数の計算をしなくても正解を導く ことができ、受験者が最初に解く問題としては適切である」と評価された。 問1b 「同位体の陽子数と中性子数の関係を問う基本的問題。「放射性同位体」という言葉に 多少戸惑った受験者がいたものと考えられるが、同位体の定義を正確に理解できていれば容 易に解答でき、適切である」と評価された。 問2 「周期表に示された元素から構成される物質の化学式を問う問題。単に、原子価やイオ ンの価数を問うのではなく、考えさせる要素を含む工夫が感じられる問題である」と評価さ れた。一方、「元素記号を伏せ、他のアルファベットが表記されていたことに戸惑った受験 者がいたものと考えられるので、工夫が必要である」との意見があるが、元素記号自体がア ―388― 化学Ⅰ ルファベットであることについては、今後の検討課題である。 問3 「イオンに関する標準的問題。選択肢はいずれも基本事項ではあるものの、イオン結晶 の性質、水溶液中でのイオンの電離、イオン化エネルギーの定義など、イオンに関する幅広 い知識が要求されており、これらの理解度を判定する上で、適切である」と評価された。 問4 「塩酸の濃度単位の換算に関する標準的な計算問題。試薬の調製は化学の基本であるが、 苦手な受験者は多いため、出題の意義は大きいと考える。質量パーセント濃度の数値を塩酸 の分子量にそろえるなど、計算を簡略化する配慮が見られ、適切である」と評価された。 問5 「化学反応の量的関係に関する発展的な計算問題。混合気体を扱っている上に、酸素の 体積ではなく、空気の体積を問うているため、難度が高い。思考力を判定する良問であり、 適切である」と評価された。 問6 身の回りの物質と現象に関する標準問題で、適切であると評価された。一方、 1 の「煮 出した鰹節」という表現は「煮出した後の鰹節」という方が適切ではないかとの意見は留意 したい。また「鰹節からだし汁をとることは家庭では行われなくなっており、身近な事柄と は言えない」との意見もあったが、ぜひ知ってほしい事柄であり、出題した。 第2問 問1 正答率は6割強である。正答率が平均よりも低かった理由は、記号で出題したためであ ろうと思われるが、第2問の中では適当な難易度と思われる。 問2 第1問の問5は内容的には異なるものであるが、表面上類似しており、今後の検討とし たい。 問3 中和滴定に関する問題は、典型的で受験者にとっても易しく、もう少し工夫可能な問題 であったと思われる。 問4 基礎的な問題であり、正答率も高く適切であると評価された。 問5 出題形式は、受験者にとって慣れないものであったかもしれないが、第2問平均の正答 率は7割で、適切であると評価された。 問6 表現上の問題は指摘のとおりで、留意が必要である。正答率は平均点に相当するもので あり、難易度としては適切であった。 例年の出題と比較して、グラフを利用する問題が少なかったことは、今後の問題作成に当たり配 慮したい。 第3問 問1 身の回りの金属に関する問題であり、全て教科書に記載があり、適切であるという意見 の一方、単体の金属の中で銀が最も高い伝導性を示すことや、青銅の原料が何であるかが さまつ 瑣末な知識であるという評価があった。問題作成部会としては、銀が金属の中で最も高い伝 導性を示すことは重要な知識であり、瑣末であるとは考えない。また、青銅のような身近な 金属を出題することによって、高校教育の現場で身近な材料を化学の観点から扱ってほしい というメッセージを込めた。 問2 酸化還元反応に関する標準的問題であるが、過酸化水素の酸化数の理解があれば容易に 解けるため、化学反応式に関係した工夫が必要だという評価を受けた。次年度以降の問題作 成の参考としたい。 ―389― 問3 窒素に関する標準問題であるが、選択肢の中に芳香族アゾ化合物に関する設問に違和感 があるという評価がある一方、分野を横断した出題であり、広い視野を持って学習する必要 性を意識させられる良問であるという評価があった。無機化学、有機化学といったセクショ ナリズムにとらわれることなく、化学は相互に関連し合っているという教育的なメッセージ を伝えたく、問題作成を行った。なお、分野横断的な出題を行うことについては問題作成部 会で十分に議論を行っており、問題がないと判断した。用語についての意見(窒素-窒素二 重結合が一般的でない)については、教科書等を精査し、配慮していきたい。 問4 両性金属の単体に関する標準問題であるが、「どちらか一方のみに当てはまる」形式に ついて、難度を上げている、理解が間違っていても正答にたどり着けるので適切ではない、 という評価を受けた。次年度以降の出題では、形式を吟味したい。 問5 濃硫酸の性質に関する基本的問題であり、実験観察の結果と性質を結び付けるという点 で適切であるという評価を受けた。その一方で組合せ問題であることに対して、改善してほ しいという意見があった。実験Ⅰ、Ⅱの両方を正解することができなければ正解にはならな いが、両性質ともに濃硫酸の重要な性質であるため、片方のみ正解で部分点を与えることは しなかった。 問6 硫酸銅の水和物に関する計算問題である。硫酸銅一水和物を集めてこのような実験がで きるのかどうか疑問である、また理解の進んだ受験者が不安に感じるだろうという意見が あった。硫酸銅五水和物を 150℃付近で加熱することによって、一水和物を得ることは容易 であり、実際に実験を行うことは可能である(無水物等を用意するのは難しい)。単に硫酸 銅といえば五水和物という知識で解くのではなく、思考力を問いたいと考えて問題作成し、 実際に識別力の非常に高い問題であった。また、問題文については改善に関する指摘があっ たので、次年度以降の参考としたい。 問7 金属イオンの分離に関する問題であり、高等学校学習指導要領で「金属イオンの系統的 分離は扱わないため配慮が必要」との指摘があった。この点について問題作成部会にて議論 を尽くしており、高等学校学習指導要領解説に「金属イオンの分離は、2、3種類のイオン の組合せにとどめ」とあるため範囲内だと考えている。また、複数回答組合せ形式に対する 意見もあったが、マーク数が増えること、部分点を与えると自己採点が難しくなることか ら、適切であると考えている。出題内容について、教科書にあるように沈殿剤と沈殿の生成 の有無を問う方が良いという意見があった。本問はイオンの沈殿の有無を問うという単純な 問題ではなく、思考力を問いたいと考えて、このような形式とした。 第4問 問1 有機化合物の官能基及び結合の名称を選ぶ基本的問題であるが、ビタミンCなど教科書 に記載のないものを取り上げるのは文系の受験者に抵抗感を与えたのではないかとの意見が あった。しかし他方では、習得した知識を未知の物質に適用して解答を導き出すという意味 で大変意義深い問題であると評価された。 問2 有機化合物の構造異性体に関する標準的問題であるが、「(エステルの一種)」が不要で ある、あるいは挿入位置を変えた方がより良い文になると指摘された。特に誤解を招くとは 考えていないが、今後の問題作成において留意していきたい。 ―390― 化学Ⅰ 問3 有機化合物の性質の違いを問う問題であるが、ステアリン酸の溶解度に関する記述が教 科書に詳しく載っていないので、選択肢として不適切であるとの指摘があった。しかし他方 では、有機化合物の水溶性の違い、酸の強さによる反応性の違い、二重結合の検出法など、 複数の知識を関連させる思考力を問う内容であり、また物質名に示性式を付記してその物質 の性質に関するヒントを与えるといった配慮もなされていることから、良問であると評価さ れた。出題の狙いは、断片的な基礎知識を問うのではなく、その統合による応用力を問うた 点にある。リード文が分かりにくいとの指摘は、今後の問題作成に生かしていきたい。 問4 フェノールからサリチル酸メチルを合成する反応経路に関する標準的問題であり、適切 な問題であると評価された。 問5 エタノールと濃硫酸の反応(脱水反応)に関する理解を問う問題であり、実験の重要性 を意識させる良問である、と評価された。一方で、多くの受験者にとって教科書と異なる実 験方法が提示されており混乱を招いた、とも指摘された。実験手順自体は適切であると考え ているが、今後の問題作成では留意したい。また、有機化合物の学習内容からすれば瑣末な 内容であると指摘されたが、全ての教科書に記載されていることから、この反応を題材とす ることは適切であったと考えている。 問6 化学反応における当量関係の理解を問う問題である。分子量を記載すべきとの指摘が あったが、正答率(約6割)や識別力の結果から判断しても、適切な問題であると考えられ る。また、解熱鎮痛薬として現在日本では使用されていないとの指摘があった。問題の解答 には影響しないものの、この点については今後の問題作成に生かしていきたい。 4 今後の作題の留意点 本試験の「化学Ⅰ」の平均点は 69. 42 であり、「物理Ⅰ」の 61. 64、「生物Ⅰ」の 53. 25、「地学Ⅰ」 の 50. 22 よりも高く、昨年度より 5. 75 点増加した。一方、「化学Ⅰ」の標準偏差は 24. 06 であり、 「物理Ⅰ」の 24. 10、「生物Ⅰ」20. 74、「地学Ⅰ」17. 88 より大きく、相対的に識別力の高い問題で あった。センター試験の目標である「高等学校における学習の到達度を見るための試験」であるこ とを踏まえ、今後も問題の質を損なうことなく、理科系全科目が目標平均点になるよう努力する所 存である。 「化学Ⅰ」の問題作成は、センター試験の報告書に記載の方針“今後の作題の留意点”に基づき、 高等学校教科担当教員、日本化学会及び日本理化学協会からの意見を尊重しながら行われている。 今後も「高等学校学習指導要領に準拠しつつ、基本的な知識や思考力を確かめる」という方針のも と、これまでに要望の多かった「実験に関する問題やグラフ読み取り問題」及び「科学的なものの 考え方や身の回りの化学的現象に対する理解力を問う問題」についても、積極的に取り上げていき たい。また「理科科目間の平均点の差が最小限になるように」出題者間で配慮し、良問の作成に一 層の努力を続けて高等学校の化学教育と理科教育全体の発展に寄与したい。 なお、来年度は旧教育課程及び新教育課程を対象とした試験が混在することになることから、上 記の団体からいろいろな希望や要望が寄せられている。それらの意見も踏まえつつ、今後の問題作 成に当たっては、従来の基本方針に加え、特に以下の点について留意したい。 ⑴ 科目間の得点差だけでなく、旧教育課程の「化学I」と新教育課程の「化学」の間での得点差 ―391― が大きくならないよう十分に配慮する。 ⑵ 新教育課程の「化学」では、「化学I」に比べ学習内容が大きく増えているので、瑣末な知識 を問う問題、煩雑な計算問題及び複雑な問題設定を極力排し、化学の本質を問いかける設問とな るよう今まで以上に努力する。 ⑶ 新教育課程の「化学基礎」及び「化学」については、教科書間で記載事項にバラツキがあるこ とから、出題内容が特定の教科書に偏らないよう十分配慮する。 ―392―