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京都議定書発効をバネに地域分散型産業構造へ

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京都議定書発効をバネに地域分散型産業構造へ
研究レポート
No.137
July
2002
京都議定書発効をバネに地域分散型産業構造へ
主席研究員 田邉 敏憲
富士通総研(FRI)経済研究所
[
1.
要
旨
]
京都議定書合意が発効する流れにある。米国は不参加ながら、EU と日本は参加する。
産業界は対応コスト増による悪影響を懸念するが、再び日本が産業競争力を回復する
チャンスである。公害防止規制や石油ショックをバネに競争力を高めたわが国産業の
歴史に学びたい。
その際、日本は相対的に豊かな雨量や米国と並ぶリサイクル鉄(金)などの資源大
国であることを意識すべきだ。恵まれた降水量ゆえ、草木も育ち、エネルギー(火)
がとれ、土質もよい。すなわち中国の五行思想「木・火・土・金・水(もくかどごんす
い)」の説く、宇宙を構成する基本的な 5 元素全てに恵まれたポジションを活かす戦略
が重要となる。
京都議定書合意による具体的な CO2 削減量は、政府の地球温暖化対策(旧)大綱ベ
ースでは▲6,000 万炭素トン(▲17%)となる。本年 3 月に出された新大綱ベースでは
▲4,500 万炭素トンと幾分削減規模は緩和されている。ここでは、厳しい削減量となる
旧大綱ベースでも十分達成できる政策を示したい。
2.
CO2 削減目標達成のための5つの柱をあげる。
(1) 原子力発電の稼働率引上げ
定期検査期間の短縮<60 日→30 日>や燃料交換インターバルの長期化<13 ヶ月→18
ヶ月>のほか、熱出力一定とし、電力不要時には核熱水素製造等を行う。これら措置に
より、現在 80%強のわが国原子力稼働率を 10%引上げるのは十分可能だ。稼働率の 10%
引上げで、600 万トンの CO2 削減に寄与する(全体の約 10%)。
(2) 低燃費車の普及
水素燃焼の燃料電池車の開発にも注力する必要があるが、日本メーカーが優位に立ち、
既に実用化されつつあるハイブリッドカーや低燃費ディーゼル車の普及に注力すべき
である。環境税率等でインセンティブを付与すればよい。産業界に比べ、従来対応が遅
れていると非難される民生・運輸部門の排ガスも大きく削減できる。因に、最終消費エ
ネルギーの 2 割強を占める自動車部門の燃費が 1/3 になれば(1L=10Km 走行車から
30Km 走行車への全面普及)、4,000 万トン規模の CO2 削減となる(全体の 2/3)。
(3) バイオマス・エネルギーの活用
炭素入出がニュートラルな草木などバイオマス(生物資源量)・エネルギーを活用す
る。わが国 1 次エネルギーの少なくとも 1 割は採集できるとすれば、約1割の CO2 削減
に寄与する。巨額のエネルギー輸入額も大きく削減できる。
また、太陽光・風力発電など他の新エネルギーに比べても、雇用機会の創出効果が大
きく、必要な設備量が少なくて済む。発電に加え、熱供給、メタノール製造、高カロリ
ーガス燃料製造、森林整備による保水力向上、林業・水産業の活性化、肥料(灰)の供
給など、極めて多岐にわたる波及効果も期待できる。
問題は、日本では採集コストが高いことである。この改善には、例えば傾斜の厳しい
森林用のエアーシューター型チッパー開発など、入口での収集コスト低減のための物流
イノベーション、あるいは出口での高カロリーガス化等のイノベーションが不可欠とな
る。こうしたイノベーションを促進するよう電力買上げ価格等の設定が望まれる。その
ための保水税・環境税など目的税や補助金の活用は国民の支持を得られよう。
(4) エネルギー多消費産業の熱利用プロセス革新による産業競争力の強化策
豊富なリサイクル資源を活かして、鉄鋼、化学、セメントなどエネルギー多消費産業
も熱利用プロセス革新により、国際競争力を取り戻すことができる。
特に鉄鋼業が有望である。日本は米国に次ぐスクラップ鉄資源大国として、既に年間
のリサイクル鉄資源は 5,000 万トンに達している。さらに今後、国内向け粗鋼生産量に
相当する 6,000∼7,000 万トン規模に達するとの予測にある。わが国の冶金技術で可能
なスクラップ鉄から高級薄板を製造する、年産 50 万トン規模の次世代ミニミルを全国
に展開するのが日本に有利な戦略となる。収集コスト面で各県への分散設置が合理的立
地となる。サンク・コスト化した各地の休廃止高炉も蘇る。
高炉プロセスが不要で、加工プロセスが飛躍的に短くなるため、設備投資コストは大
幅に縮減する。必要エネルギー1/9、CO2 排出量1/5、製造コスト 1/2 といずれも大幅に
改善する。鋼材価格が現在の半分になると、鉄を産業の米とする他産業も復活する。
CO2 排出量が1/5 になると、鉄鋼業の最終エネルギー消費に占めるウエイト(11.5%)、
薄板比率 1/3 を前提にすると、全体の▲3%(1,000 万トン)の削減も可能だ。
(5) 民生電力を削減する白色発光ダイオードの普及
白色発光ダイオード(LED)は、民生電力の 20%を占める照明分野の消費エネルギー
を 1/10(蛍光灯の場合 1/2)に、かつ寿命は 10 倍化する。民生部門の最終エネルギー消
費に占めるウエイト(27%)を前提にすると、全体の CO2 排出量を▲3~5%(900 万∼
1,500 万トン)削減することになる。
3.
以上の各種政策や企業努力が展開されると、わが国は 2010 年度までに必要とされる
全体の CO2 削減量 6,000 万炭素トンを十分にクリアーできる。しかも発電などエネル
ギー関連プラントや自動車産業が競争力を維持するだけでなく、鉄鋼業の低コスト化
により、このところ競争力が低下気味の電機、機械などの産業も復活する可能性も出
てくる。
バイオマス・エネルギーにしろ、リサイクル資源活用の新産業モデルにしろ、ポイ
ントとなるのは、収集コスト低減のための物流イノベーションである。それを磨くこ
とにより、地域分散型産業構造への転換も進み、自立した地域経済が実現する。
さらには、富士通総研・福井俊彦理事長発案の「2030 年エネルギー自給率 50%イニ
シアチブ」(仮称)といった、エネルギー自給率引上げも実現可能となる。これは、わ
が国の 1 次エネルギー構成比を現在の自給率 20%から、30 年には輸入化石燃料 50%、
原子力 25%、バイオマスなど再生可能エネルギー25%に引き上げる戦略である。
以上のように日本には、CO2 削減、地域産業の立ち上げ、わが国産業競争力の回復、
エネルギー国産化率の引上げという 1 石4鳥的な政策が十分可能と考える。
目 次
1. 京都議定書批准を競争力回復のバネとする発想................................................................. 1
2. 日本は「木・火・土・金・水(もくかどごんすい)
」資源大国......................................... 2
(1) 日本の有利なポジションを踏まえた戦略を .............................................................. 2
(2) わが国エネルギー自給率引上げ戦略と一体化した政策展開を ................................. 2
3. 京都議定書合意は 5 大施策で超過達成可能........................................................................ 3
(1) COP7 で京都議定書に関する国際合意成立 .............................................................. 3
(2) 5 つの具体的な CO2 排出量削減政策 ......................................................................... 4
(I) 原子力発電の稼働率引上げ ................................................................................. 4
(II) 低燃費車・燃料電池車の普及 ............................................................................. 5
(III)バイオマス・エネルギーの活用
(2010 年までに 1 次エネルギーの 10%確保)................................................. 6
(IV)エネルギー多消費産業(鉄鋼、化学、セメント、紙パ)の熱利用プロセス革新
による産業競争力の強化策................................................................................. 7
(V) 民生電力を削減する白色発光ダイオードの普及................................................ 8
(3) 必要 CO2 削減量は超過達成可能................................................................................ 8
4. バイオマス・エネルギーの問題点は高い採集費用と低い発電効率................................... 10
(1) バイオマス・エネルギーの光 .................................................................................. 10
(2) 出口の電力等買上げ価格維持政策で物流イノベーションの促進を........................ 11
(3) 出口のイノベーションの可能性を秘める「高カロリーガス燃料」技術 ................ 16
(4) 高カロリーガス燃料からの水素供給チャネルの可能性 .......................................... 18
(5) 秩父のバイオマス発電モデル .................................................................................. 20
5. 新「鉄は国家なり」論....................................................................................................... 22
(1) スクラップ鉄資源と高度冶金技術の融合 ................................................................ 22
(2) 高濃度不純物の組織微細化がポイント.................................................................... 22
(3) 鋼材価格は 1/2 に!? ........................................................................................... 24
(4) 地域分散型立地が有利 ............................................................................................. 25
6. 地域分散型・高効率のわが国産業構造改革を.................................................................... 26
(1) 物流イノベーションを磨く政策を ........................................................................... 26
(2) エネルギー産業による地域経済自立を.................................................................... 26
7. 「2030 年エネルギー自給率 50%イニシアチブ」と一体での政策推進 .......................... 27
(1) わが国エネルギー自給率引上げ政策との相乗効果 ................................................. 27
(2) 『2030 年エネルギー自給率 50%イニシアチブ』のプログラム 3 本柱................. 28
(3) 米国のエネルギー・環境政策への正確な理解........................................................... 31
1.京都議定書批准を競争力回復のバネとする発想
2001 年 11 月の地球温暖化防止会議(COP7)において、京都会議(COP3)で署名し
た京都議定書の運用に関する国際合意が成立、いわゆる「京都議定書合意」が発効するこ
とになった。
米国は参加しないが、EU と日本は参加する。産業界では過度な負担が押し付けられる
のではないかとか、対応コスト増により国際競争力を喪失するのではないか等々、懸念す
る声が高まっている。
こうした声が上がるのも、わが国のエネルギーの流れと CO2 排出量の現状をみると十分
に理解できる。1 次エネルギーの 80%強が化石資源(石油が 5 割強)であり、CO2 排出量
全体の 40%が産業から、22%が運輸から、25%が民生から、それぞれ排出されているとい
う構造にある(図表 1)
。
(図表 1)わが国のエネルギーの流れ及び CO2 排出量
(出所)
「エネルギー2001」資源エネルギー庁編、電力新報社、東京(2001)
しかし、
危機感をバネに日本が再び産業競争力を回復するチャンスと捉えるべきである。
公害防止規制や石油ショックをバネに競争力を高めたわが国産業の歴史に学ぶことが重要
である。
1
2.日本は「木・火・土・金・水(もくかどごんすい)
」資源大国
(1)日本の有利なポジションを踏まえた戦略を
その際、
「火<エネルギー>・水・木・土が稀少資源の時代」の 21 世紀において、
日本は相対的に豊かな降水量ゆえ稀少資源大国であること、
また米国と並ぶリサイク
ル鉄(金)
・アルミ・プラスチック資源などの資源大国であることを深く認識する必
要がある。すなわち中国の五行思想「木・火・土・金・水(もくかどごんすい)
」の
説く、宇宙を構成する基本的な 5 元素全てに日本は恵まれていることに着目すべき
である。
CO2 排出量削減戦略は、こうした日本の有利なポジションを踏まえ、それと一体化
させるべきである。またこうした資源は、地域経済資源でもある。従って、この資源
活用による産業競争力回復のポイントは、これら資源の収集コストを抑えることであ
り、地域分散型の産業立地が有利になることを意味する。
具体的な地域分散型の産業としては、バイオマス(草木などの生物資源量)からエ
ネルギーを採る事業、あるいはスクラップ鉄資源を高級鋼板へとリサイクルできる次
世代ミニミル事業などが有望である。また次世代の燃料自動車用の全国的な水素供給
に関しても、地域資源である太陽光・風力発電による水の電気分解のほか、バイオマ
スから取り出す高カロリーガス燃料の利用が有用と考えられる。
(2)わが国エネルギー自給率引上げ戦略と一体化した政策展開を
この地域産業を立ち上げ、かつ CO2 排出量を削減しようという戦略は、現在 20%
と低レベルのわが国エネルギー自給率引上げ戦略と一体になった政策展開とするこ
とで、政策の実効性・効率性が高まる。
2002 年 4 月の電気料金の完全自由化決定は、後世、日本の“2 次エネルギー革命”
と評されるほどのマグニチュードである。さらには上記のような発想で、
「2030 年エ
ネルギー国産化率 50%」といったエネルギー国家戦略(イニシアチブ)を策定する
ことにより、日本の“1 次エネルギー革命”も実現可能と考える。その時同時に、分
散化・高効率化という日本の“産業構造革命”も完成することになる。
2
3.京都議定書合意は 5 大施策で超過達成可能
(1)COP7 で京都議定書に関する国際合意成立
2001 年 11 月の地球温暖化防止会議(COP7)において、地球温暖化防止京都会議
(COP3)で署名した、いわゆる「京都議定書」の運用に関する国際合意が成立した。
京都議定書に定められた CO2 削減目標は、1990 年基準比で日本が▲6%、米国が
▲7%、EU が▲8%である。米国ブッシュ政権はこの合意に不参加のスタンスをとる
一方で、2002 年 2 月には企業に対し環境ビジネスへの参入を促すよう、インセンテ
ィブを供与する現実的な政策を公表している。
ところで、京都議定書合意を達成するため日本に必要な具体的な CO2 削減量に関
しては、前提の置き方に左右されること等の事情もあって明示されてはいない。政府
の地球温暖化対策推進(旧)大綱ベースの計算では、▲6,000 万炭素トン(以下同じ、
2010 年度予測値 3.47 億トン→目標値 2.87 億トン、▲17%)との数字になる。
2002 月 3 月に出された地球温暖化対策推進(新)大綱ベースでは、旧大綱策定後
▲4,500 万炭素トン
(2010 年度予測値 3.60 億トン、
の CO2 削減策が奏効したとして、
▲13%)と削減規模は幾分緩和された数字となっている。ただ、新大綱は対策メニュ
ーの一覧とそれぞれの効果の概算を示すにとどまっており、
全体の整合性に乏しく各
業界の目標を積み上げた印象を否めない(図表 2)
。
(図表 2)日本の具体的 CO2 削減量(炭素トンベース・百万トン)
90 年水準
目標値
2010 年度
予測値
削減量
(率)
287
287
347
▲60
(▲17%)
(360)
(▲45
〈▲13%〉)
331
▲73
(▲22%)
・
「旧大綱」
(
「新大綱ベース」
)
274
・米エネルギー省
258
従って以下ではまず、厳しい削減量となる旧大綱ベースで、どういう政策を採れば
CO2 削減、地域産業の立ち上げ、わが国産業競争力の回復、エネルギー国産化率の
引上げが可能となるのかという大枠を示したい。
3
(2)5 つの具体的な CO2 排出量削減政策
。
CO2 削減量目標を達成するには、次の 5 つの柱が考えられる(図表 3)
(図表 3)COP3 達成のための具体的な戦略
(1)原子力の稼働率引上げ
−定期検査期間の短縮
−熱料交換インターバルの長期化
−熱出力一定(核熱水素製造)等
(2)低燃料車の普及
−ハイブリッドカーや低燃費ディーゼル車の普及
−水素燃焼の燃料電池車の開発、水素供給インフラの構築
(3)バイオマス・エネルギーの活用
(2010 年までに 1 次エネルギーの 10%確保)
(4)エネルギー多消費産業(鉄鋼、化学、セメント)の熱利用
プロセス革新による産業競争力の強化策
(5)民生電力を削減する白色発光ダイオードの普及
(民生電力量の 20%を占める照明分野での消費エネルギーの
大幅削減)
(I) 原子力発電の稼働率引上げ
定期検査期間の短縮(50∼60 日→20∼30 日)や燃料交換インターバルの長
期化(13 ヶ月→18 ヶ月/24 ヶ月)のほか、熱出力一定とし、電力不要時には
核熱水素製造等を行う。熱出力ベース運転は、これまで原子力発電所は電気
出力で認可されていたのが、最近になり熱出力で認可される方向になり可能
となっている。例えば、冬場は海水温度が低下するためタービン効率が上が
り、同じ原子力炉熱出力でも電気出力は 12%も増大する。熱出力での認可で
発電能力が増大することになる。
これら措置により、80 年代で 70%、現在で 80%強のわが国原子力稼働率を
さらに 10%引上げるのは十分可能とみられる。米国でも 80 年代の 50∼60%
の稼働率から規制緩和により現在既に 87%に達し、原子力発電の採算も黒字
に転換している(最高プラントで 97%)
。
。
稼働率の 10%引上げで、600 万炭素トンの CO2 削減に寄与する(図表 4)
これは旧大綱ベースで必要な CO2 削減量全体の 10%に相当する。
4
(図表 4)原子力発電の稼働率向上による CO2 削減効果
(1)現在の 13 ヶ月/60 日を
18 ヶ月/40 日にすれば ⇒ 稼働率 8%向上
18 ヶ月/30 日にすれば ⇒ 稼働率 10%向上
(2)現在の原子力総発電量は 3,165 億 kWh
⇒ 稼働率向上はそのまま総発電量の増加。
10%向上すると約 310 億 kWh の増加。
(3)化石燃料による発電での CO2 排出は 60 億 kWh あたり平均で
120 万トン
(4)従って上記規制の緩和、事業者の努力により
310÷60×120=600 万トンの CO2 削減に寄与
⇒ CO2 目標達成に必要とされる削減量 6,000 万トンの約 10%に
相当。
(出所)新型炉技術開発主監 田下正宜氏
(II) 低燃費車・燃料電池車の普及
日本メーカーが優位に立ち、
既に実用化されつつあるハイブリッドカーや低
燃費ディーゼル車の普及に注力すべきである。環境税率等でインセンティブ
を付与すればよい。産業界に比べ、従来対応が遅れていると非難される民生・
運輸部門の排ガスも大きく削減できる(図表 5)
。
(図表 5)民生・運輸部門での CO2 排出量 −過去 20 年間で 60%以上増加
(出所)日経エコロジー 2002 年 2 月号
5
水素燃焼の燃料電池車の開発・普及も重要である。燃料電池車普及には全国
的な水素供給インフラの構築が不可欠となる。この場合、後述のように「核
熱水素」
「太陽光・風力発電による水の電気分解」
「“草木から水素をとる”
高カロリーガス燃料の活用」といった 3 つの大きな各地域での水素供給チャ
ネルが考えられる。従って、地域の水素供給産業の立ち上げという視点と相
俟った施策推進が求められる。
因に、最終消費エネルギーの 2 割強を占める自動車部門の燃費が 1/3 にな
れば(1L=10km 走行車から 30km 走行車への全面普及)
、4,000 万炭素トン
。
規模の CO2 削減となる(必要削減量全体の 2/3 相当)
また、原子力により製造した水素(核熱水素)燃焼の燃料電池車が 500 万
台まで普及すると、これだけで 1,600 万炭素トンの CO2 削減に寄与するとの
試算もある。
(III) バイオマス・エネルギーの活用(2010 年までに 1 次エネルギーの 10%確保)
炭素入出がニュートラルなバイオマス・エネルギーを活用する政策である。
日本は相対的に恵まれた降水量ゆえに、草木も育ち、エネルギー(火)が取
れ、土質もよくなる。
長崎総合科学大学・坂井正康教授によると、休耕田 400 万 ha 等も活用して
積極的にバイオマス・プランテーション(スィートソルガムなど高収量バイ
オマスをエネルギー採取用に栽培)を行えば、わが国 1 次エネルギーの少な
くとも 1 割は採集できるとの見方である(図表 6)
。
(図表 6)バイオマス潜在量(年間利用可能な、超概算値)
森林・木材由来
4,000 万トン
農業・畜産、
産業・一般生活廃棄物
2,000
バイオプランテーション
(休耕田 400 万 ha 活用)
20,000
2 億 6,000 万トン
(出所)長崎総合科学大学・坂井正康教授
6
・ メタノール換算
1.3 億トン
・ 原油換算
7,800 万 kl
(6,500 万トン)
その場合、わが国全体の CO2 排出量の約 1 割、3,000 万炭素トンの削減に
。年間 9 兆円もの巨額のエネルギー
寄与する(必要 CO2 削減量の 1/2 相当)
輸入額も大きく削減できることになる。
(IV) エネルギー多消費産業(鉄鋼、化学、セメント、紙パ)の熱利用プロセス革
新による産業競争力の強化策
また豊富なリサイクル資源を活かして、鉄鋼、化学、セメントなどエネルギ
ー多消費産業も熱利用プロセス革新により、国際競争力を取り戻すことがで
きる(図表 7)
。
(図表 7)エネルギー多消費産業の熱利用プロセス革新による競争力強化
−リサイクル資源の活用−
既に廃棄物処理業に転換した感のあるわが国セメント業の年間生産量は、
ピ
ーク時の 1 億トンから 7,000 万トンを切るレベルまで減少しているが、有料
で産業廃棄物・副産物を引き取り(年間 2,700 万トン規模)
、活用することで
収益を確保している。
また、日本は米国に次ぐスクラップ鉄資源大国として、既に年間のリサイク
ル鉄資源は 5,000 万トンに達している。さらに、20 年後には現在の国内向け
粗鋼生産量に相当する 6,000∼7,000 万トン規模になると予測されている。後
述のように、このスクラップ資源を活用して、年産 50 万トン規模の次世代ミ
ニミルを全国に展開するのが日本に有利な戦略となる。
収集コスト面で各県に分散設置が合理的立地であり、
高炉プロセスが不要の
ため飛躍的に加工プロセスが短くなる。消費エネルギー1/9、CO2 排出量
1/5、製造コスト 1/2 といずれも大幅に改善する。
7
鉄鋼業の最終エネルギー消費に占めるウエイト(11.5%)を前提に、次世代
ミニミルプロセスによる薄板製造比率を全鉄鋼生産量の 1/3 と仮定すれば、
わが国全体のCO2 排出量の3%削減も可能となる。
CO2 排出量が1/5 により、
これは 1,000 万炭素トンで、必要 CO2 削減量の 1/6 に相当する。
(V) 民生電力を削減する白色発光ダイオードの普及
白色発光ダイオード(LED)は、中村修二教授の青色発光ダイオードの発
明によって可能となった。紫外線に加え、蛍光体により得られる光の三原則
を利用して白色光を実現した。白色 LED は民生電力の 20%を占める照明分野
の消費エネルギーを 1/10(蛍光灯の場合 1/2)に、かつ寿命は 10 倍化する。
民生部門の最終エネルギー消費に占めるウエイト(27%)を前提にすると、わ
が国全体の CO2 排出量を 3~5%(900 万∼1,500 万炭素トン)削減できること
。
になる(必要 CO2 削減量の 1/6∼1/4)
この技術は既に懐中電灯などで実用化されて、
カーショップなどで買える段
階にある。ドイツ企業が中国で製造した懐中電灯が日本に輸入されている。
(3)必要 CO2 削減量は超過達成可能
以上の各種政策や企業努力が展開されると、わが国は 2010 年度までに必要とされ
る厳しい CO2 削減目標(6,000 万炭素トン)を十分にクリアーできることになる(図
表 8)
。
しかも発電などエネルギー関連プラントや自動車産業が競争力を維持するだけで
なく、鉄鋼業の低コスト化により、このところ競争力が低下気味の電機、機械などの
産業も復活する可能性さえ出てくる。地域産業の立ち上げにもつながる。わが国エネ
ルギー自給率も引上げ得る。まさに 1 石 4 鳥の政策となる。
8
(図表 8)各種政策による CO2 削減効果
−全体の削減量 6,000 万炭素トン(
「旧大綱ベース」
)
(1) 原子力稼働率の引上げ:▲600 万トン(全体の 10%)
(2) 低燃費車の普及(民生・運輸)
① ハイブリッドカー、低燃費ディーゼル車の全面普及
:▲4,000 万トン(全体の 2/3)
(燃費の 1/3 化)
② 水素利用による燃料電池車 500 万台の普及:
▲1,600 万トン(全体の 26%)
(3) バイオマス・エネルギーの 2010 年 10%化:
▲3,000 万トン(全体の 1/2)
(4) 鉄鋼業の次世代ミニミル化:現在の高炉プロセスの 1/5
⇒ 鉄鋼業の最終エネルギー消費に占めるウェイト(11.5%)を
前提に、次世代ミニミルによる薄板製造比率を全鉄鋼の 1/3 と
仮定すれば、▲1,000 万トン(全体の 1/6)
(5) 白色発光ダイオードの普及:現在の照明用消費エネルギーの 1/10
(蛍光灯は 1/2)
⇒ 民生部門の最終エネルギー消費に占めるウェイト(27%)
、
民生電力に照明分野が占めるウェイト(20%)を前提に、
▲900∼1,500 万トン(全体の 1/6∼1/4)
9
4.バイオマス・エネルギーの問題点は高い採集費用と低い発電効率
(1)バイオマス・エネルギーの光
バイオマス・エネルギーの光・メリットは、他のクリーンエネルギーに比べても投
資コストが相対的に小さい一方、波及効果が極めて大きいことである。
まず新エネルギーの経済性について、1 次エネルギーの 10%に必要な設備量のコ
ストを試算してみる(図表 9)
。バイオマス発電が 9 兆円に対して、原子力発電 10.5
兆円、風力発電 32.5 兆円、太陽光発電 150 兆円というオーダーである。またわが国
の資源量も、太陽光・風力に比してバイオマスは原子力と並び豊富である。
(図表 9)新エネルギーの経済性試算例(1 次エネルギーの 10%*4 相当)
設備費用
(kW 当たり設備コスト)
発電効率
利用率
(稼働率)
発電コスト
(円/kWh)
1 次エネルギーの 10%
に必要な設備量(原油
換算 6,000 万 kl)
同上の設備コスト
太陽光
風力
バイオマス
発電*3
原子力
60 万円*2
25 万円*1
20 万円
30 万円
10%
25%
20%
35%
12%
20%
50%
80%
66 円*2
17 円*1
20∼25 円
5.9 円
(∼10 円)
2 億 5,000 万 kW
1 億 3,000 万 kW
4,500 万 kW
3,500 万 kW
資源量 △
△
◎
◎
150 兆円
32.5 兆円
9 兆円
10.5 兆円
*1:総合エネルギー調査会新エネルギー部会資料 2000 年 1 月
*2:総合資源エネルギー調査会「今後のエネルギー政策について」報告書(平成 13 年 7 月)
、及び同「新エネ
ルギー部会報告書」等から。なお、火力発電単価 7.3 円/kWh、燃料費相当 4.0 円/kWh。
*3:バイオマス発電は、設備は廃棄物発電に近い。発電コストは燃料費、即ち、バイオマスの収集運搬費用に
大きく依存する。
(木材の 2 万円/トン程度は、㎥当たり 7 千円に相当する。間伐材はさらに安く、収集費用は㎥当たり 3
千円程度とすると、
バイオマス1トン1万円、
発電のコストに及ぼす、
燃料コスト分は、
最低熱量2000kcal/kg、
発電効率 20%の設備として 21.6 円/kWh である<コスト的にはギリギリ>。
① 発電効率=30%にあげれば、あるいは
② 平均的な木材のカロリーを 3000kcal/kg とすれば、14.5 円/kWh となる。これに、設備の減価償却、
運用費用などを考慮すれば、併せて、20 円∼25 円/kWh のレベルとなる。
)
*4:実際には、資源の賦存量や利用可能性から、物理的限界量、及び実際的潜在量があって、新エネルギー全
体で、実際的潜在量は 1 次エネルギーの 6∼10%、物理的潜在量はその 2∼3 倍と推計されている。
(日本エネルギー経済研究所計量分析部「エネルギー経済データの読み方入門」省エネセンター2001 年
2 月)
10
さらに雇用創出力や波及効果という点でも、バイオマス・エネルギーは他に比して
圧倒的に優れている(図表 10)
。まずバイオマス・エネルギーは、
「入口」のバイオ
マス採集や物流、設備のオペレーションなどでの雇用創出効果が大きい。
「出口」で
も、発電に加え、熱供給、水素・メタノール製造、高カロリーガス燃料製造、肥料(灰)
の供給など様々なビジネスモデルを可能とする。また森林整備による保水力向上、林
業・水産業の活性化など、実に多岐にわたる波及効果が期待できる。
(図表 10)新エネルギーのコストとメリット(1 次エネルギーの 10%相当)
① 1 次エネルギーの
10%に必要な設置
コスト
② 雇用機会の創出
太陽光
風力
バイオマス発電
原子力
150 兆円
32.5 兆円
9 兆円
10.5 兆円
−
−
◎ ・バイオマス採集、物流
−
△
△
・熱供給、水素・メタノール製造
◎ ・森林整備による保水力向上
・林業・水産業の活性化
・肥料(灰)供給
③ 波及効果
・水素製造 ・水素製造
④ 炭素排出入
⑤ エネルギー密度
−
−
低い
低い
・設備のオペレーション
−
(カーボンニュートラルとの構成)
低い
○
・熱供給
・水素製造
−
高い
(2)出口の電力等買上げ価格維持政策で物流イノベーションの促進を
波及効果や雇用創出力が大きいというバイオマス・エネルギーの問題点は 2 点あ
る。
日本では採集コストが高いことと原子力や火力発電と比べた場合の発電効率の低
さである。現状、バイオマス 1 トン当りの採集コストは大体 1 万円である。日当 2
万円の間伐材伐採作業者が 1 日 2 トン処理するとの前提である。雇用機会を提供で
きることとの裏腹の関係でもあるが、これは米国の 7~10 倍程度の水準である(図表
11)
。
11
(図表 11)バイオマス原料の影
• 日本の丸太値段は米国の 7 倍強
• 廃材は 8,500∼1 万 3,500 円/トンの処理料が収入
• デンマークでは「わら」をパワーステーションに持ち込むと 5,600
∼8,760 円/トンで購入
バイオマス
日本
米国
丸太
7,800 円/トン
1,080 円/トン*1)
間伐材
15,000 円/トン
−
−
−
5,600*2)
∼8,760*3)円/トン
建築廃材*4)
△8,500
∼1 万円/トン
−
−
伐採木
△1 万 3,500 円/トン
−
−
*1)
9$/トン
(@120 円/$)
*2)
400DDK@14 円
/DDK(デンマーククローネ)
*3)
73$/トン@120 円/$
わら
廃材
備考
*4)
管理型処理
必要
ρ=0.5 で換算
デンマーク
従って、バイオマス・エネルギー事業を地域産業の柱とするには、出口での電力買
上げ価格を、家庭用電気料金並みの kWh 当り 22 円程度に設定することが重要とな
る(図表 12)
。その際、買上げ価格の補填財源としては、炭素税・保水税などの目的
税、あるいは CO2 排出権取引等を活用する方向での制度設計が必要である。各国の
バイオマス・エネルギー税制などをみても、何らかのインセンティブが付与されてい
る(図表 13)
。特にバイオマス・エネルギーが 1 次エネルギーの 20%を占める森林
国家・スウェーデンの徹底した税制支援策が目立つ(図表 14)
。
12
(図表 12)バイオマス発電事業の採算に関する考え方
−バイオマス 1 トン当たりの売電価格と採取コストと採算
出
口
1kWh/22 円での買入れ;
↓
1 万円の電力売上げ
入
口
採 算
A1 人(日当 2 万円)当りのバイオマス採取量 2 トン/日
↓
バイオマス 1 トン当り 1 万円のコスト
(a) 半額分の補助金、目的税活用
(保水税、環境税)
(b) 半額分の補助金、目的税活用なし
5,000 円の利益
利益なし
B1 人当りのバイオマス採取量の技術革新※
による引上げ 4 トン/日 ※エアーシューター、チッパーなど
↓
バイオマス 1 トン当り 5 千円のコスト
(a) 半額分の補助金、目的税活用
(保水税、環境税)
(b) 半額分の補助金、目的税活用なし
1kWh/11 円での買入れ;
↓
5 千円の電力売上げ
A(a)
5,000 円の利益
利益なし
5,000 円の赤字
(b)
B(a)
2,500 円の利益
利益なし
(b)
参考
7,500 円の利益
経済産業省主導
農水省主導
13
(図表 13)バイオマス・エネルギー税制の各国比較
バイオマス発電インセンティブ
政策/法令の有無
インセンティブ
検討開始
日本
(無)
(無)
PURPA 法(1978)
電力会社に avoid cost で
買電義務付け
エネルギー政策法
(1992)
発電インセンティブ
(1.5¢/kWh)及び税金
(1.5¢/kWh)控除
バイオマス発電コスト増
を補償、電力会社に買電
義務付け
米国
有
英国
NEF01(1990)
有 NEF02(1991)
NEF03(1994)
ドイツ版 PURPA 法
(1991/1995)
ドイツ
有
オランダ
電力法(1998)
有 環境法(1988)
スウェーデン
有
エネルギー政策法
(1991)
バイオ燃料使用
促進法(1990)
①燃料油/暖房油の税金は
安く、消費者保護
②現在、バイオマス発電は
一般の(化石燃料使用)
分散電源の買電と同列
①バイオマス発電に対す 出力で買取りが変動
る購入義務と価格補償 500kW 以下・・・80%
②補助金の交付
500∼5,000kW・・・65%
③設備費用の助成
①再生可能エネルギーは
avoid cost で買電義務
付け
②炭素税
①バイオマス発電に国庫
補助
②バイオ燃料促進に 6.25
億クローナ
(75 億円@12 円/クローナ)
(出所)NEDO
14
(図表 14)スウェーデンでの電力コスト内訳
(出所)日経サイエンス 2001 年 4 月号 バイオマスで挑む地球温暖化防止
今後、電気料金の完全自由化が進めば進むほど、出口でのこうしたインセンティブ
を付与することが重要となる。発想としては、入口でのバイオマス採集の人件費補助
等を極力恒常化しない制度設計である。
この点、2002 年 3 月の地球温暖化対策推進新大綱で森林吸収源対策 3.9%確保が
大きな柱となり、今後 10 年間で 380 万 ha、年平均 30 万 ha 強の間伐対策が不可欠
となったが、その間伐材の処理に関しては全く具体策がないのが現状である。この間
伐量は、99 年からの 5 ヵ年計画の緊急間伐対策(計 150 万 ha、5 ヵ年計の対策予算
5,000 億円、小規模林家への直接所得補填 1,000 億円<10 年間計>)並みの事業を
毎年継続していく必要があるということである。問題は、この間伐材を放置したまま
では、CO2 となってしまうことである。この大量の間伐材処理の具体策として、バ
イオマス・エネルギー事業を位置付け、しかも出口にインセンティブを付ける方向が
適切と考える。
出口の買上げ価格でインセンティブを付けることで、
傾斜の厳しい森林用のエアー
シューター型チッパーやなだらかな山林用のキャタピラー型チッパーの開発など、
収
集コスト低減のための物流イノベーションを促すことが可能となる(図表 15)
。
15
(図表 15)バイオマス集収・活用面のイノベーション
因に、太陽光発電に関しては、
「社団法人太陽光発電普及推進協会」が期間は 3 ヶ
年限定ながらも 25 円/kWh で買い取る制度がある。
(3)出口のイノベーションの可能性を秘める「高カロリーガス燃料」技術
長崎総合科学大学・坂井正康教授のグループが開発した「バイオマス・高カロリー
ガス化」技術は、バイオマス発電の低い発電効率という問題点を克服できる可能性が
ある。この技術はガスの水素含有量を 45%程度まで引上げることが可能であり、い
わば“草木から水素をとる“技術ともいえる(図表 16)
。
16
(図表 16)高カロリーガス化の基本プロセス
(出所)地球環境産業技術研究機構
水蒸気発電用には大規模のバイオマスでなければ効率が落ちるのに比べ、
小規模の
散在バイオマスにも対応できる。建築廃材も使える。またこれまでのガス化で難点だ
ったすす・タールやダイオキシンなども出ない。従って、全国どこの地域のどんなバ
イオマスでも利用可能となる(図表 17)
。
(図表 17)ガス化発電と従来型発電の効率比較
(出所)地球環境産業技術研究機構
17
LPG 燃料との代替も可能である。しかも、バイオマス 1 トン当りの水蒸気発電で
は、精々1 万円の収入なのに対して、直接ガス燃料として利用すると、現在の都市ガ
スや LPG 価格を前提にすれば 6∼7 万円相当のガスに代替することになる。無条件
に高採算が見込める(図表 18)
。
(図表 18)経済性試算(年間バイオマス使用量 1,000 トン)
(出所)地球環境産業技術研究機構
(4)高カロリーガス燃料からの水素供給チャネルの可能性
ところで、水素燃焼の燃料電池車を開発・普及させるには、地域経済資源の活用に
よる全国的な水素供給インフラの整備が極めて重要になる。
燃料電池車の普及は世界的な潮流となり、しかもこれまでの、車に積んだガソリン
やメタノールより水素を取り出す「改質法」から、車に直接水素を積み込む「直接水
素方式」という方式が主流になりつつある。こうした流れを踏まえると、いかに水素
の全国的な安定的供給インフラを構築できるかが燃料電池車普及の鍵を握ることに
なってくる。
さらに水素をどこから採るかという場合、3 つのルートが考えられる。①原子力発
電所の熱利用で採る「核熱水素」
、②地域分散型エネルギーの太陽光・風力発電で水
の電気分解で採る方法、③草木などバイオマスから水素を取り出す「高カロリーガス
燃料」を活用する方法である。
この 3 方法で作った水素を車に搭載するには、350 気圧の圧縮ボンベを使う「圧縮
ボンベ型」および水素キャリアであるシクロへキサン・デカリンを利用した「常温・
常圧・液体型」いずれかの方法を採る必要がある。後者の場合、現在のガソリン型と
ほぼ同じ水素供給形態となり、
ガソリンスタンドなど現行の物流チャネルがそのまま
使えることになる(図表 19)
。
18
そうであれば、
水素を簡単に取り出せる
「高カロリーガス燃料」
への需要は高まり、
地域経済資源であるバイオマス・エネルギー活用の地平線は限りなく拡がることにな
る。
(図表 19−1)各種の水素貯蔵・供給媒体の能力・性能比較と目標性能値
(図表 19−2)水素 5 ㎏搭載各種の燃料電池車(FCV)比較
(反応系システム重量は未計算)
19
(図表 19−3)有機ハイドライトの水素及び脱水素反応
(出所)
「OHM 2002 年 3 月号」北海道大学・市川勝教授(図表 19−1,2,3,すべて)
(5)秩父のバイオマス発電モデル
以上のようなバイオマス・エネルギー活用の事業モデルを、首都圏で最も森林間伐
材資源に恵まれ、その活用方法を模索していた秩父地域からの要請を受けて、現在プ
ログラム化しつつある。
秩父地域の特徴は、バイオマス資源の潜在量の大きなことである。民有林を含め約
2.1 万 ha(里山を除く)
、1ha 当り 3,000 本の立木、1 本当り 0.1 ㎥、15∼20 年間で
2/3 を間伐するとして、年間 7∼9 万トンの間伐材(バイオマス)が採取できること
になる。
年間 8 万トンの間伐材資源を活用すれば、最低限でも 1 日当り 10 万 2,000kWh
の発電が可能となる。家庭用電気の売価 25 円/ kWh で買上げられると、250 万円/
日で、年間 9 億円の売上げとなる。
日当 2 万円の森林作業者が 1 日 2 トン採集するとすれば、150 名強の雇用が生ま
れると同時に、発電コストに及ぼす燃料コスト分は 20 円程度と、コスト的にはぎり
ぎりとなる。
従って、
採集コストを傾斜の厳しい森林用のエアーシューター型チッパーの開発で
引下げるといった物流イノベーションが必要となる。また、「高カロリーガス化」によ
り熱電効率を水蒸気発電(20%)に比して 2 倍に引上げるといったイノベーション
も高効率化・ビジネス化に大きく寄与する。
こうしたイノベーションを進めながら、まず秩父のバイオマス・エネルギーのビジ
ネスモデルを確立する。その場合、モノジェネ、コージェネ、コープロ(秩父はセメ
ント業あり)
と各プロジェクトを実施する。
さらには、
そのコピーを各地に広めれば、
バイオマス・エネルギー事業が全国的に展開していけることになる(図表 20)
。
20
(図表 20)秩父バイオマス発電のプログラム
スケジュール
プロジェクト
2002
総合計画
計画
モノジェネ・ 設計
プラント
コージェネ・
プラント
コープロ ・
プラント
2003
2004
2005
建設
運転
設計
建設
運転
各地域にコピープラントを作る
運転 運転
各地域にコピープラントを作る
建設 運転 運転
各地域にコピープラントを作る
設計
2006
2007
2008
2009
2010
2011
① モノジェネ:発電のみで、燃焼−発電プラントは、すでにあるものを組み合わせ
る。7,500kW クラスの発電設備に 7.5 億円、間伐材収集(年間 8 万
トン<220 トン/日>程度)と破砕、および灰の後処理等、前後部の
設備に 5 億円、設備投資計 12.5 億円のプロジェクトで、半額を公的
資金でまかなう。設計計画に 1 年、建設に 1 年かけ、3 年目の運転
から人件費がかかる。運転、収集運搬等に伴う人件費は 150 名分に
とどめれば、7.5 億円/年程度のコスト。生み出す電力が 22 円/kWh
で、約 9 億円程度であれば採算確保が可能。
② コージェネ:発電と熱利用。徹底した熱利用を考え、地域暖冷房およびダム、養
殖等に利用し、全体効率 80%を目指す。プロジェクトは熱利用シス
テムに重点を置く。この段階までは技術開発の側面は高くなく、既
存技術の組合せ。
③ コープロ :発電、熱のほか新燃料(メタノールや水素)を生産する。高温熱源
により、セメント等の生産にも利用。中核にガス化炉が必要となる
が、世界的にも開発中であり、また、国内の技術も石炭ガス化炉、
ごみ処理ガス化炉の実績など相当高いものがあり、最高基準のもの
をめざすことが可能。
21
5.新「鉄は国家なり」論
(1)スクラップ鉄資源と高度冶金技術の融合
日本は米国に次ぐスクラップ鉄資源大国である。既に年間のリサイクル鉄資源は
5,000 万トンに達している。さらに 20 年後には現在の国内向け粗鋼生産量に相当す
る 6,000∼7,000 万トン規模になると予測されている(図表 21)
。一方、巨額な投資
を要する高炉産業大国の韓国・中国は、スクラップ資源に関しては、戦後半世紀間続
いた高成長過程で蓄積が進んだ日本に比べて低水準にとどまっている。
(図表 21)スクラップ鉄量の増大
(出所)日本鉄鋼協会(1996)
また日本の高炉メーカーではコークス炉の 70%が 2010 年頃には寿命到来という
段階にあるが、韓国・中国の高炉メーカーは重い負担の設備償却がまだ済んでいない
段階にある。
加えて日本の高炉メーカーおよび関連業界は、一定期間さえあればスクラップ鉄か
ら高級薄板製造が可能な高い技術開発力を保持している。
この日本がもつ有利な資源と日本がもつ高度の冶金技術を融合させた産業再生戦
略が、
“新「鉄は国家なり」論”である。
(2)高濃度不純物の組織微細化がポイント
スクラップ鉄から高強度薄鋼板製造が可能となったのは、
スクラップ鉄中に含まれ
る高濃度不純物を、
それまでの除去するという発想から組織微細化により無害化する
という発想に転換したことが大きい。すなわち、近年開発された鉄源の製造法では、
天然ガス利用の還元鉄ペレットを用いるため、天然ガス産出国のベネズエラ等では成
22
り立っていた。しかし、鉄源としてスクラップ鉄を利用するプロセスについては、日
本の製鉄プラント技術により、不純物を除去するのではなく微細化することが可能と
なった。
まず、5.0 ミリ以下の薄板製造用のストリップ連鋳による「急冷凝固」と大クロス
圧延による「せん断歪付与」という圧延プロセスのイノベーションが、組織微細化に
よる不純物の無害化を実現することが期待される。
そうすると、銑鉄を造る高炉プロセス(全消費エネルギーの 3/4 利用)が不要と
なり、また圧延設備の数も減少するため、製鉄プラントの省プロセス・省エネが劇的
に進み、低コスト化が期待できることになる(図表 22)
。
(図表 22)プラントレイアウト比較
(出所)林 明夫:
「21 世紀の日本鉄鋼業」ふぇらむ。Vol.2(1997)より
しかも組織微細化により薄板が高強度化するというメリットも出てくる。これが、
いわば現代版“たたら型製鉄所”とでも呼べる、年産 50 万トン規模の次世代ミニミ
ルである。
実はこのプラント開発力は日本のみが保持しており、4∼5 年で実用圧延機械の開
発が可能とされる。ただ、ステンレス鋼製造用のストリップ連鋳機は世界初の実機が
既に日本の製鉄所で稼動中である。従って、スクラップ鉄用のプラント開発資金は
500∼700 億円のオーダーで済むとの見方である。日本の場合、高炉に不可欠なコー
クス炉の多くが 2010 年頃に寿命が来るというタイミングや、後述するようなわが国
産業界全体への好影響を考えると、
日本の重点的な技術開発分野と位置付けた政策が
求められる。
23
(3)鋼材価格は 1/2 に!?
さて次世代ミニミルの驚異的なインパクトは、製鉄プラントの省プロセス・省エネ
効果から由来する。
まず設備投資コストが大幅に縮減する。例えば、粗鋼年産 300 万トン高炉の投資
額は 30 億ドルとされる。一方、粗鋼年産 50 万トンミニミルの投資額は 2 億ドルと
されるので、年産 300 万トンのため 6 基建設しても 12 億ドルで済むことになる。
また 2001 年の東南アジア鉄鋼協会(SEAISI)学会での資料によると、従来プロ
セスに比べ次世代ミニミルの場合、消費エネルギーで 1/9、排出 CO2 で 1/5 へと
大幅に改善すると報告されている(図表 23)
。
(図表 23)消費エネルギー、環境負荷比較
消費エネルギー(GJ/t)
排出 CO2(㎏/t)
従来プロセス
1.8
200
次世代ミニミルプロセス
0.2
40
(出所)SEAISI Conference(2001)より
コストについて筆者が試算してみると、高級薄板 1 トン当り価格は高炉一貫の場
合 350 ドルであるが、
次世代ミニミルでは 180∼190 ドルと半減する可能性がある。
すなわち、
① コークス・鉄鉱石等原材料コスト:100 ドル→スクラップ鉄:80 ドル、
② 設備コスト(金利+償却費)
:100 ドル→30 ドル、
③ 人件費:100 ドル→50 ドル、
④ 利益:50 ドル→20∼30 ドル、
という具合に省プロセス化により特に設備コストと人件費が大きく改善する。
まず薄板に関してこのイノベーションが進み、
次いで厚板にも拡がるという展開が
予想される。このようにして“産業の米”である鉄鋼の価格が 1/2 になると、日本
製造業の競争力は大幅に引上げられることになる。
わが国の伝統的な輸出御三家とし
24
て鳴らした自動車、電機、機械のうち現在も何とかもちこたえているのは自動車ぐら
いとなったが、電機メーカーや機械メーカーの競争力も蘇ることになる。
一方、巨額の投資により高炉産業大国となった韓国・中国では、スクラップ資源の
蓄積は未だ低水準である。しかも韓国・中国メーカーは高炉ゆえの重い設備償却負担
が続くため、
次世代ミニミルを展開する日本メーカーに追随するのが困難になる可能
性もある。まさに、日本に新「鉄は国家なり」論が成り立つことになる。
(4)地域分散型立地が有利
また次世代ミニミルは、
スクラップ鉄の収集コスト面で各県に分散設置が合理的立
地となる。リサイクル物流コストを勘案しながら、さながら現代版“たたら型製鉄所”
が全国に展開されることになるわけである。わが国に望まれる分散化・高効率化され
た産業構造を形成する上で大きな核となり得る。
高炉に不可欠なコークス炉の多くが 2010 年頃には寿命が到来するとすれば、コー
クス炉の更新投資に代えて、次世代ミニミルを展開することは、高炉メーカー自身に
とっても望ましい経営戦略になるものと考える。
わが国全体の産業競争力復活にも資することを勘案すると、開発・投資減税なども
含め、次世代ミニミル技術の早期開発促進政策がきわめて重要になる。
25
6.地域分散型・高効率のわが国産業構造改革を
(1)物流イノベーションを磨く政策を
バイオマス・エネルギーにしろ、リサイクル資源活用の新産業モデルにしろ、ポイ
ントとなるのは、収集コスト低減のための物流イノベーションである。それを磨くた
めにも、まず各地域の特性に沿った「バイオマス・エネルギー活用プラント」の全国
展開が重要となる。
そのためには、出口のバイオマス・エネルギー発電買上げの高価格設定、例えば
1kWh 当り 22 円程度の価格設定が望ましい。この際、電気料金自由化の流れとの平
仄は、補助金のほか炭素税・保水税等の活用によってとるという政策が必要となる。
こうしたインセンティブ付与により、物流イノベーション等を促し、入口のバイオマ
ス採集コストの引下げに向けたダイナミズムが生まれることが期待される。
(2)エネルギー産業による地域経済自立を
こうしてバイオマス・エネルギー事業が各地域でスタートアップ過程を乗り切るこ
とで、発電やガス燃料の形でバイオマス・エネルギー利用のビジネスが定着する。発
電に伴って発生する熱、
あるいは高カロリーガス燃料の有効利用などのビジネスモデ
ル(水素供給システム等)の拡がりが期待される。
加えて、コープロ(発電+製造)モデル、あるいは次世代ミニミル、ごみ利用セメ
ント工場などのリサイクル型産業が生まれ、地域分散型産業構造への転換も進む。ど
の地域にも確実にニーズがあるエネルギーの自給を起点とした産業構造改革によっ
て、地域経済は自立できることになる。その延長線上に、自立した地域経済に支えら
れた日本経済再生の姿もみえてくる。
26
7.「2030 年エネルギー自給率 50%イニシアチブ」と一体での政策推進
(1)わが国エネルギー自給率引上げ政策との相乗効果
以上のような地域分散型のエネルギー産業政策は、富士通総研・福井俊彦理事長発
案の『2030 年エネルギー自給率 50%イニシアチブ』
(仮称)といった長期的な国家
エネルギー戦略と一体で推進する必要がある。本イニシアチブは、わが国の 1 次エ
ネルギー構成比を現在の自給率約 20%(化石燃料<輸入>82%、原子力 13%、再生
可能エネルギー5%)から、2030 年には 50%(化石燃料 50%、原子力 25%、再生
可能エネルギー25%)に引上げようという国家エネルギー戦略である(図表 24)
。
(図表 24)
『2030 年エネルギー自給率 50%イニシアチブ』
(仮称)
以上述べてきた CO2 排出量削減のための、いわば具体的な各種プログラムを推進
すれば、化石燃料依存の絶対量が低下し、原子力と再生可能エネルギーのウエイト引
上げがみえてくる。2030 年のエネルギー自給率 50%目標は、決して実現不可能なこ
とではない。
重要なことは、CO2 排出量削減と産業競争力強化とエネルギー自給率引上げは矛
盾しないだけでなく、
長期的なわが国のエネルギー自給率引上げという明確な国家戦
略の策定自体が、わが国の産業競争力の強化に繋がることである。こうした認識を国
民全体で共有することが大事になる。
政府はまず、CO2 排出量削減・産業競争力強化・エネルギー自給率引上げが三位
一体となった形での国家としてのベクトルを示すことが重要である。そうすれば、事
業会社および金融機関がこれら事業・プロジェクトのリスク・リターンに関する認識
が一致することになり、大きな民間のダイナミズムを生む。日本経済再生の方向観を
国民全体が共有でき、再び自信を取り戻せることになる。
27
(2)『2030 年エネルギー自給率 50%イニシアチブ』のプログラム 3 本柱
本イニシアチブを推進するプログラムの柱は 3 つある。
第 1 は、
「高効率利用や代替による化石燃料総量の縮減」である。具体的には、超
低燃費車の普及、クリーンな新燃料の普及、ハイブリッド技術の普及など京都議定書
合意達成のための CO2 排出量削減策そのものとなる。また、メタンハイドレード開
発の長期戦略確立も重要である(図表 25)
。
(図表 25)化石燃料の高効率利用や代替による、総量の縮減
(1) 超低燃費車の普及
• ハイブリッド車 30∼55km/l の普及
• 燃料電池車やクリーン・ディーゼル車の普及
(2) クリーンな新燃料の普及
• 水素供給インフラの整備
(水素キャリアのシクロヘキサン・デカリンの活用)
• バイオマス・高カロリーガス燃料の普及
• 石油随伴ガス、炭層メタン、地下ガスを GTL、DME、
メタノールに転換
(3) ハイブリッド技術の普及
• 鉄鋼−セメント複合利用(産業エネルギー消費の№2,№3)
• コープロダクション・プラント(化学工業)
• エネルギーコンビナート(エクセルギ)
(4) メタンハイドレード開発の長期戦略の確立
第 2 は、
「再生可能エネルギー利用の拡大」である。具体的には、バイオマス・エ
ネルギーに一翼を担わせる。2010 年までに 1 次エネルギーの 10%は確保したい。そ
のために、
『2010 年バイオマス・エネルギー10%イニシアチブ』
(仮称)といった政
策策定が望まれる。また自然エネルギー(太陽光、風力、地熱、水力)も活用する
(図表 26)
。
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(図表 26)再生可能エネルギー利用の拡大
1. 『2010 年バイオマス・エネルギー10%イニシアチブ』
(仮称)の策定
(1) 資源の潜在力は 1 次エネルギーの 10%は存在
• 生ごみ、し尿・畜産廃棄物、下水汚泥、黒液
• 森林系木質バイオマス、休耕田・里山の草木バイオマス、
間伐材・廃材
(2) 分散エネルギーとして配置
• モノジェネ(発電)→ コージェネ(熱電併給)
→ コープロ(熱電供給+化学製品製造)
• 高カロリーガス燃料の普及
• 収集・破砕・運搬のインフラ整備
2. 自然エネルギー(太陽光、風力、地熱、水力)
(1) 効率を上げ、コストを下げて普及を図る
(2) クリーンエネルギー・ビジョン
(公明党、2025 年に再生可能エネルギーで 20%を)
第 3 には、
「原子力エネルギー利用の拡大」である。具体的には、原子力の発電か
ら多目的熱利用への拡大である(図表 27)
。特に、前述のように原子力発電の稼働率
引上げは即効政策となる。
(図表 27)原子力エネルギー利用の拡大
1. 発電
(1) 原子力発電の稼動率引上げ
• 10%引上げで 5∼6 基増設に相当する効果
(2) 発電炉の更新と増強
① 第 3 世代炉(ABWR、APWR)の普及
② 第 4 世代炉の開発主導
(3) 再処理と高速炉の事業化加速(純国産エネルギー)
2. 多目的熱利用
(1) 高温ガス炉による水素製造/高温熱利用
• 米国は 2006 年の商用化計画
(2) ハイブリッド利用形態(火力/原子力の複合化による)
① リパワーリング
② 炭酸ガスと核熱水素によるメタノール製造
ところで現在、わが国総発電量の長期的見通しとしては、経済産業省総合資源エネ
ルギー調査会報告の 2010 年と 2020 年の試算基準ケースが示されている
(図表 28)
。
このうち原子力発電に関しては、現在 51 基稼動の原子力発電プラントを 2010 年ま
でに 10 基追設する前提となっている。ただ最近の原発追設反対の動きや電気料金完
全自由化スケジュール決定を受けた電力会社の巨額な投資抑制の動きなどを前提に
すると、2030 年に 1 次エネルギーの 25%を原子力に依存できるかどうかは不確実と
いえる。
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(図表 28)総発電量構成比(事業者ベース)
しかし CO2 排出量削減策の柱として掲げた原子力の 10%稼働率引上げによって、
上記の経済産業省総合資源エネルギー調査会報告の 2020 年全発電量約 4,950 億
kWh は約 500 億 kWh 増加することになる。その際の原子力発電能力 5,450 億 kWh
は 2030 年の 1 次エネルギーの 25%に相当する(図表 29)
。原子力の稼働率 10%引
上げにより、
『2030 年エネルギー自給率 50%イニシアチブ』の実現も十分に可能と
なる。
(図表 29)原子力発電の能力引上げ案
年
基 数
出 力
(万 Kwe)
全基数
1999
2010
追設
10
1,263
全出力
全発電量
(万 Kwe) (億kWh)
51
4,492
3,165
61
5,755
約 4,200
約 4,950
2020
• COP3 対策としての稼働率引上げ(82%→92%)
2020 年 4,950 億 kWh×10% ⇒ 約 500 億 kWh 増加!
• 2020 年原子力発電能力 5,450 億 kWh
⇒ 2030 年 1 次エネルギーの 25%に相当!
(出所)METI 総合資源エネルギー調査会報告より
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(3)米国のエネルギー・環境政策への正確な理解
なお、
COP3 の京都議定書合意に不参加の米国のエネルギー・環境政策に関しても、
正確に理解しておく必要がある。
すなわち、就任早々の 2001 年 5 月 17 日に「国家エネルギー政策」を示したブッ
シュ大統領は、2002 年 2 月 14 日には「Clear Skies & Global Climate Change
Initiatives」を公表した。これは、米国版の「新温室効果ガス削減策」である。わが
国での報道等は「GDP 当りの排出量を 10 年間で 18%削減」という数字に着目して、
「実効性乏しい案」と総じて低い評価である。
しかし、
わが国のエネルギー専門家は、
本案はできることをキチンやる政策であり、
しかも企業に対し環境ビジネスのチャンスとして参入し競争するよう、
インセンティ
ブを供与する現実的なものとして高い評価を与える。具体的にも CO2 削減に寄与す
る技術の研究開発費が潤沢に用意され、この分野に限ると、世界の研究開発費の大部
分が米国に集中することになり、
その成果メリットを米国企業と国民は享受できると
アピールしている。
京都議定書合意には参加しないものの、CO2 排出量削減というグローバルな要請
を契機に米国企業のイノベーションを図り、
米国産業の競争力を強化しようという米
国の発想は、以上述べてきた、まさにわが国にも不可欠な戦略そのものである。
米国の京都議定書合意に不参加という方針にのみ目を奪われ、
その戦略の本質に気
づかず、わが国のとるべき政策が漂流することがないよう、官民あげての戦略構築が
求められる。
また原子力エネルギーに関しても、ブッシュ政権になり、矢継ぎ早に新たな政策が
打ち出されている。2002 年 2 月 15 日に、2010 年までに原子力発電プラント数基を
新設するという「the Nuclear Power 2010 initiative」を打ち出した。3 月 4 日には
「原子力発電プラント新設に関する認可手続き迅速化」措置も示し、クリントン政権
時代の原子力政策を 180 度転換している。
こうした米国等のエネルギー・環境戦略の展開には十分注視した上での、遺漏のな
いわが国のエネルギー・環境政策が求められることになる。
以 上
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