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第5章:障害の複数の原因

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第5章:障害の複数の原因
危険な道
発達・学習・ 行動障害の
複数 の原 因
In Harm's Way
Chapter 5 Multiple Causes ofDevelopmental, Learning and
Behavioral Disability
はじめに
することを示している。4 ,5 一部の人はこの
広汎な影響が発達や学習・行動障害に関係
する。これらの影響は一般に 2 つの幅広いグ
ループに分けられる。人間の染色体中に含ま
れている遺伝情報によって決定される遺伝的
要因と、遺伝以外の全影響を含む環境要因で
ある。環境影響はさらに幾つかのグループに
分けられる。この報告の焦点である化学的要
因は、個人が曝される合成及び天然に存在す
る物質と幅広く定義される。社会環境要因は
家族と文化・社会経済的変数を含むと定義さ
ことを、これらの特徴は遺伝的に決まってい
る証拠と受け取っている。ペンシルバニア州
立大学発達健康遺伝学センター所長ロバート
=プロミンによると、「遺伝の研究は.
..環
境の重要さについて最も良い証明である」。も
し遺伝が特徴の多様性の 50%を説明するのな
ら、残りの 50%の多様性は環境の影響による
に違いない。6,7 言いかえれば、遺伝と環境
の影響は、多くの神経認識特性を決定するの
にほぼ同じであると思われる。8
また、これらの研究からの推測は遺伝子と
れる。
様々な領域からの影響が非常に複雑な様式
で相互作用することが広く認識されているが、
一般に一時に一つの領域に焦点を当てる。
1,2,3
結果として、これらの影響の現実世界での相
互作用を調べるための本当に橋渡しをする枠
組みや方法論はまだ開発されていない。
環境は単純な相加的影響を持っているという
単純化した仮定に基づいていることを観察者
は指摘している。9,10 事実、現在の研究は、
遺伝・環境相互作用は極度に複雑であり得る
ことを示している。発達健康遺伝センターの
プロミンと彼の同僚ゲラルド=マッククリア
ンは、最近のレビュー論文で次のように要約
している。
「複雑な表現型に対する単純な方法
遺伝または環境:時代遅れの二分法
は、人を誤らせるあるいは誤った結論に導く
過去 20 年間、双子と養子の子供の研究は、
だろう。特に不適切なことは、どちらかとい
種々の認識や行動・個人の特性に対する重要
う言葉で表現された質問である:これこれし
な遺伝的関わりを解明してきた。しかし、こ
かじかの特徴は遺伝子または環境の結果だろ
れらの研究はこれらの特徴の多くに関して、
うか?」
。
遺伝が個人間に見られる違いの約 50% を説明
- 41 Greater Boston Physicians for Social Responsibility
訳 渡部和男
危険な道
発達・学習・ 行動障害の
複数 の原 因
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Chapter 5 Multiple Causes ofDevelopmental, Learning and
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表現型の可塑性
競争がない南面の開けた斜面で成長し、非常
に異なった様式で木が生長する。一般に、表
遺伝形質は個人の特
現型の可塑性は、多様な表現型を誘発する環
異な遺伝的性質を述
境の合図と遺伝型に主に基づく個人のこれら
べる用語で、一方表
の手がかりに反応する能力の両方の結果であ
現型は実際に現れる
る。
個人の特徴または性質をいう。多くの特徴に
ついて、表現型は遺伝形質のごく部分的な結
果である。胎児発達中または生後でさえ遭遇
する環境因子も表現型に影響を及ぼす。ある
遺伝形質内の、または遺伝的に類似した個人
の表現型の
多様さは表
現型の可塑
性と呼ばれ
る。
表現型の
可塑性の劇
言い換えると、表現型の可塑性は遺伝−環
的な例は異
なる環境中
境の相互作用の結果である。
の遺伝的に
表現型の可塑性には 2 つの種類がある。1
似た個人の
1つは様々であるが比較的安定な一連の環境
顕著な差で
での表現型のスペクトラムである。これを研
ある。たと
究するために、異なる環境にある遺伝的に似
えば、挿絵
た個体群で異なる特徴の現れを探すだろう。
の中で、高
他の可塑性の種類は単一環境中の変異に対し
く細い木は
て個々の生物の応答をいう。この場合、適応
実際に密な
する能力は、逆に特に発達中のわずかな環境
森林の中で
の変動による悪影響に対する脆弱性は、個体
生長する。
の可塑性を反映する。
そこで光の
競争に勝つ
ために急速
な垂直の成
長は必須で
この報告で、神経発達の特徴または障害の
変異の約 40-60% は遺伝子型によると述べる場
合、第二の種類の可塑性に大きな関心を持っ
ているが、残りは環境因子と遺伝子−環境相
互作用によって一層良く説明される。
ある。遺伝
的に似た、
短く枝の多
い木は光の
1 Via S. The evolution of phenotypic plasticity: what do
we really know? In: Ecological Genetics, Ed: Real L.
Princeton University Press, Princeton NJ, 1994
- 42 Greater Boston Physicians for Social Responsibility
訳 渡部和男
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残念ながら、このタイプの思考は、多くの
アカデミー人にどちらかを選ばなければなら
ないと信じさせた自然対教育論争によって数
十年間促されていた。私たちはこの短い概観
が二者択一的思考の知的破産を明らかにする
ことを望んでいる。11 発達障害に対する私た
ちの方法は、多数の寄与因子を持つ別の複雑
フェニルケトン尿症(PKU)
な問題に向けるための医学モデルによって伝
硬化型の心臓疾患は、現代医学がすでに比較
過
的良く成功し、過去数十年に渡ってこの病気
の約 1% の症例の原因であった。17 子供が
の発生を顕著に減らしている多要因疾患の一
それぞれの親から PKU 遺伝子を渡された場
例である。12,13,14,15 発達障害のように、
合、子供は酵素フェニルアラニンヒドロキ
アテローム硬化型心臓疾患はその大部分が遺
シラーゼを作れない。その酵素はアミノ酸
伝と環境要素を持つ種々の要因から影響を受
フェニルアラニンを分解するために必要で
ける。
ある。18 このことは血中にフェニルアラニ
えられる。心臓発作の原因であるアテローム
去に、PKU は制度化された精神遅滞
ンの蓄積を導き、高レベルのフェニルアラ
アテローム硬化型心臓疾患にアプローチす
ニンは発達中の脳に有害なので重度の脳障
る医学モデルは、介入できる危険要因の全て
害が起こる。血中フェニルアラニンが高レ
を取り扱うことに必然的に向けられる:肥満
ベルである別の結果として、それにちなん
・喫煙・高血圧とコレステロール・糖尿病・
で名前が付けられた関連化合物フェニルケ
食事・座りがちの生活様式。心臓疾患のリス
トンが尿に現れる。単に食事中のフェニル
クに関する遺伝マーカー(アポリポ蛋白 E4
アラニンを減らすことで有毒な代謝物の蓄
のような)を突きとめることはまだ特別な治
積を防ぎ、神経発達は正常に進む。フェニ
療を生み出さないが、他の危険因子をさらに
ルアラニンは他のアミノ酸のようにタンパ
厳しくコントロールすることが必要であるこ
ク質の構成資材なので、全てのタンパク食
とを示す。毒物被ばくは容易に防止できるの
品に、特に魚や卵・肉・チーズ・ピーナツ
で毒物被ばくをなくすこと、そして危険にさ
のようんなタンパク質に富む食品に存在す
らされている子供の社会環境を改善するため
る。食事中のタンパク質量を下げることに
に、学習と発達障害を学ぶためのこのような
よって、この病気の誘因は取り除かれ、欠
モデルを採用することを主張できるだろう。
陥のある遺伝子は無害となる。
遺伝子自体は変えることができないが、一部
の遺伝疾患の環境中にある引き金は減らすか
なくすことができる。遺伝的リスク要因を解
明することも、毒物からより多くの防護を最
も必要とする子供及び社会要因を含む他の悪
い環境因子を突きとめることができるだろう。
強力な「 OGOD]遺伝子により左右され
る稀な疾患:PKU 原型
最初 1984 年に、発達障害に関連する遺伝子
が突きとめられ、人間の染色体内の場所を突
きとめられた:1 万人に 1 回発生する稀な病
気、フェニルケトン尿症(PKU)を起こす遺伝
子。PKU は原型の「単一遺伝子病」である。
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また、このような遺伝子は OGOD 遺伝子とも
終的に導くと信じられている。
呼ばれ、この用語は、
「1 遺伝子・1 疾患 one
gene, one disorder」を表す。16 OGOD 遺伝子
多数の「取るに足らない」遺伝子に影響さ
により起こる病気の遺伝要素は、無数の遺伝
れる一般的な病気
子の小さな関与の総合により遺伝的に影響を
受ける一般的な発達障害とは異なり、1 つの
遺伝子のみにより調節される。単一の遺伝子
欠陥により生じた病気は、少なくとも理論的
に、単一の病因と関連しているので介入に従
順である。神経発達に影響する多くの稀な障
害は、特徴的な遺伝パターンによって OGOD
障害と突きとめられてきた。これらの稀な障
害は、PKU のように、他のアミノ酸と脂肪酸
を含む種々の栄養素の代謝ができないことに
よって起こる。PKU と同じように、これらの
障害の多くは、その発達影響と同じく、一生
の早期に食事中の問題の栄養素を減らし始め
れば防止できる。これらの多くの疾患の原因
となる特殊な遺伝子が突きとめられている。
PKU の強力な OGOD 遺伝子と対照的に、
一般的な学習と発達の障害に対する遺伝的影
響は、無数の遺伝子の累積的影響によって調
節されていると思われる。そのような遺伝子
は、
「確率的な様式で共に一般的な特徴に影響
し」
、「定量的特徴的遺伝子座 quantitative trait
loci」QTL と呼ばれる。この発見の意味は、
学習と発達に関連する特徴は単一遺伝子によ
って影響されないが、それぞれが特徴に非常
に小さな関連がある多くの遺伝子によって影
響を受けることである。著名な行動遺伝学者
の言葉によると、これらの遺伝子のそれぞれ
は、
「表現型にちっぽけな影響」を持っている
19
。表現型は、実際に発現したものとしての
特徴である。
しかし、これらの疾患を防止するための食事
介入は、欠陥のある遺伝子が突きとめられる
ずっと前に臨床研究に基づいて開発された。
遺伝子環境相互作用:複雑さの幅
事実、PKU に関する新生児スクリーニング計
神経発達における遺伝子・環境相互作用の
画は、PKU 遺伝子発見の 10 年以上前にマサ
複雑さはちょうど明らかにされ始めている。
チューセッツで行われた。現在、マサチュー
しかし、遺伝子と環境が相互作用する驚くほ
セッツ州は、発達障害と関連する 20 種の稀な
ど多様な様式があることがすでに明らかであ
代謝病を検査する新生児スクリーニング計画
る。PKU は一つの遺伝子と一つの環境要因が
を試験している。これらの障害に対する食事
係わる直線的な「単純な誘因」相互作用を説
介入もそれぞれの OGOD 遺伝子同定に先立っ
明している。次の 3 つの例はより複雑な相互
ている。
作用を説明する。
分子遺伝学は特定の遺伝子をつき止め、そ
の化学構造を理解できるようにしたが、まだ
神経発達障害の特定の治療を生み出していな
例1:複雑な遺伝子・環境相互作用は有機
リン農薬の一部の影響を媒介する
い。しかし、一度遺伝子が同定されると、分
有機リン農薬の影響を媒介する遺伝子・環
子遺伝学研究はなぜその遺伝子が病気を起こ
境相互作用は極度に複雑であり、まだ完全に
すか明らかにすることをはじめることができ
理解されていない。有機リン農薬の影響の一
る。このような研究から「quick fixes」はまだ
部は少なくとも5種類の異なる酵素によって
生まれていないが、遺伝子の同定は、環境と
媒介されており20 、その一部は固有の一組の
薬剤介入を含む特殊な防止と治療の発達を最
環境や遺伝要因によって影響を受けることが
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訳 渡部和男
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示されている。21
22
23
24
25
26
この相互
修飾する。人口の約 4% は、機能の悪いアセ
作用の複雑さを説明するために、今日最も広
チルコリンエステラーゼを作り出す遺伝子を
範に研究されている 2 種類の酵素、パラオク
持っている28,29,30,31。機能する酵素の貯蔵
ソナーゼとアセチルコリンエステラーゼに焦
減少はさらに容易に有機リンによって圧倒さ
点を当てる。1930 年代の開発以来、有機リン
れるので、これは有機リンによるコリンエス
化学物質は、適切な神経系機能のために決定
テラーゼ阻害に対する個人の脆弱性を増加さ
的な酵素アセチルコリンエステラーゼの機能
せる。また、コリンエステラーゼレベルは、
に干渉することが知られている。アセチルコ
年齢や体重・身長・性・妊娠・肝臓病などの
リンエステラーゼは一般に神経系と身体全体
他の種々の因子によって影響を受ける32 。こ
に見られ27 、神経伝達物質アセチルコリンの
のように、環境と遺伝の前駆因子を持った人
分解の役割を果たす。しかし、有機リン(OP )
は、相互作用しアセチルコリンエステラーゼ
はこの酵素を阻害し、この重要な機能を遂行
レベルを決定する。それは、順に、有機リン
することを妨げる。結果として、アセチルコ
の場合、環境毒物に対する胎児脳の脆弱さを
リンは神経細胞の間の接合点で蓄積し、先ず
決定する役割 を果たす。
過剰刺激を起こし、次いで関連する神経経路
の完全な機能不全を起こす。高度の被ばくで、
このことは有機リン中毒の特徴的な症状を引
き起こし、それは有機リン化学兵器剤によっ
て起こるものと同じである。
多量の有機リン被ばくは、神経ガス症候群
を起こすものとして長く認識されてきたが、
より最近の動物研究は、少量被ばくが発達中
の胎児に知らない間に進む障害を生じさせ、
母親では臨床症状が生じない被ばくレベルで
そのようになることを示している。
胎児毒性に関する懸念は、アセチルコリン
エステラーゼ機能のごくわずかな変化が、発
達中の脳のアセチルコリンレベルを変えると
いう事実から起こった。脳細胞の増加と分化
は局所の神経伝達物質によって導かれ、有機
リン被ばくによるアセチルコリン濃度の小さ
な変化が、被ばくした発達中の脳の構造を変
え、後の生活で種々の行動を障害するからで
ある(有機リンは、個々で考察しているアセ
チルコリンエステラーゼ機構から独立した、
他の胎児神経毒性も起こす。詳細は 6 章を見
よ)。
急性大量有機リン中毒、大きなコリンエ
ステラーゼ阻害の現れ
ア
アセチルコリンエステラーゼ阻害は
農薬に大量に被ばくした後の急性農薬中毒
で長い間知られてきた。この症状は神経伝
達物質アセチルコリンを使う神経系のかな
りの部分の過剰活動と機能不全からなる。
この過剰活動・機能不全の結果は、そこか
ら一部の現代農薬が派生した化学物質であ
る化学兵器のために設計された「神経ガス」
剤の臨床的影響に匹敵する。急性有機リン
中毒のいやな事態には過剰分泌(流涎・流
涙・気管分泌)
、
呼吸低下・喘鳴と呼吸困難、
不安定な脈と血圧、筋肉の引きつけがあり、
衰弱または麻痺・おう吐・下痢・尿と大便
の失禁、眠気、錯乱、そして最終的に昏睡
遺伝的要因はアセチルコリンエステラーゼ
と死亡がある。65
が媒介するこれらの有機リンの影響を大きく
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毒物被ばくに対する個人の感
受性に広い変異がある。この
ことは、幅広い被ばくのある
大規模集団内で、その量が平
均では受け入れられる場合で
さえ、多くの人がそれでも傷
つけられることを意味する。
このような傷害を防ぐために、
重大な安全余裕が必要である。
別の遺伝的に決定されている酵素は、個人
差は科学者によって広く認識されているが、
の有機リン毒性に対する感受性をさらに修飾
規制当局によって非常に過小評価されている
する。血中に見られるこの酵素パラオクソナ
だろう。化学物質規制で、例えば、EPA は大
ーゼは、幾つかの有機リン農薬の解毒で重要
人と子供との差を含む化学物質に対する感受
な役割を果たす。34、35 例えば、人間には、
性で、人間の既知と未知の多様性に関して計
持っているこの酵素の遺伝子により、農薬パ
上する標準的な 10 倍の不確実係数を用いてい
ラチオンの活性をなくす能力に 11 倍の変化が
る。しかし、先に考察したようにパラオクソ
ある。マウスの研究は、低レベルのパラオク
ナーゼ活性だけで 11 倍まで変化する。多様性
ソナーゼは、米国住民が幅広く被ばくしてい
がまだはっきりしていない有機リン毒性を媒
る農薬、クロルピリホス(ダーズバン)に対
介する 4 種類の別の酵素があるので、有機リ
する感受性を増加させることを示している。
ンに対する個人差は、規制当局が現在認識し
35,36
ている 10 倍の変化より数桁の大きさであろ
このように、高いパラオクソナーゼ活
性は、有機リン影響に対する第一防御線とし
う。
て働く。しかし、人口の 30-38%と推定される
パラオクソナーゼの相対的に不活性な種類を
持つ人は、これらの有機リンを分解するのが
遅く、結果としてアセチルコリンエステラー
ゼ阻害に対して一層脆弱であろう。加えて、
遺伝あるいは環境要因により、個人のアセチ
ルコリンエステラーゼが低レベルであれば、
特定の化学物質に関する特定の研究が脆弱
性の大きな差を実証するために行われた後に
のみ、規制当局は標準的な習慣よりもより防
護的である政策実施を考慮するだろう。残念
ながら「事実の後」の規制は、脆弱性を作り
出す複雑な相互作用を解明するために必要な
時間、世代を傷つけるのを認めてしまう。
この人は有機リン農薬によるアセチルコリン
エステラーゼ阻害にさらに感受性を増すだろ
う。
例2:溶連菌感染症に伴う小児自己免疫性
神経精神障害「 PANDAS」における遺伝子
このように、動物研究で証明されたように
・環境相互作用
一部の人が良く耐える有機リン被ばくレベル
は、遺伝や年齢・環境要因の複雑な混じり合
いによりさらに脆弱な人で脳発達と行動に永
続的な変化を起こすであろう。脆弱性の個人
遺伝子・環境相互作用の別の重要な領域は、
感染に対する抗体反応を含む。この相互作用
の一例は、幾つかの神経精神障害を持つ患者
のサブセットで最近認識されている。A 群連
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鎖球菌(連鎖球菌性咽頭炎の原因)感染後に
顕著に 症状が悪 化したこ れらの 患者は、
PANDAS であると考えられる。連鎖球菌感染
後の悪化は、常同情動行動が目立った特徴で
ある幾つかの障害で起こることが知られてい
る。
また、PANDAS 構成概念に対する限られた
神経画像の支持がある。OCD の連鎖球菌感染
後の悪化と一致する脳(基底核)の特定の領
域で急性拡大を明らかにした一連の磁気共鳴
映像(MRI)の報告によって、これは提供され
ている45 。最後にこの構成概念は、免疫反応
を減らす治療(血漿交換と静脈内免疫グロブ
リン)は連鎖球菌感染後 OCD とトーレット
症候群・チック障害の子供で症状の重さを減
らすのに有効であることを示した、最近の国
立衛生研究所の研究によって支持されている4
6
。自己免疫機構は、遺伝的に脆弱な子供で重
要な脳構造(基底核)と交差反応する連鎖球
菌の抗体により PANDAS が起こることを示す
ことが提案されている。47,48,49,50,51 この
提案されたメカニズムは、PANDAS 症候群の
臨床的重要性と同様に、感染・免疫学的・神
これには、神経精神症候群である強迫障害
(ODC )と 2 種類の不随運動障害であるチック
とトーレット症候群が含まれる。39,40 連鎖球
経精神的出来事と結果を追跡する大規模なの、
より包括的で前向き研究によってさらに解明
する必要があるだろう。
菌感染後の悪化は自閉症の子供では証明され
ていないが、限られた免疫学的データは、多
くの自閉症の子供は連鎖球菌感染後の免疫反
例3:鉛代謝に影響する遺伝・環境相互作
用
応に同じ遺伝的脆弱性を持つことを示してい
る41。PANDAS の臨床的意味はまだ明らかで
また、遺伝・環境相互作用は、体が鉛を処
はない。しかし、幾つかの系統の証拠は、
理する様式に影響することが突きとめられて
PANDAS は妥当な診断構成概念であり4 2 、
いる。これらの相互作用には、鉛代謝と骨貯
PANDAS は独特の遺伝子・環境相互作用の結
蔵・血液鉛レベルに影響することが知られて
果生じるというできつつある合意を支持して
いる、デルタ ALA 酵素(デルタアミノレブ
いる。ある系統の証拠には一連の免疫学的研
リン酸脱水素酵素)をコードしている遺伝子
究がある。これらの研究で、PANDAS の患者
が関与する。体が鉛を処理する様式にどのよ
は血中に免疫マーカー(D8/17 抗原を持つ B
うに遺伝子が影響するかを理解し始めている
リンパ球)を持っていることが示されており、
が、鉛の神経毒性に関する遺伝子の影響はま
連鎖球菌感染に続くことがある深刻な炎症疾
だ解明されていない。52,53,54,55,56,57,58,
59,60
患であるリウマチ熱に対する感受性のマーカ
ーとして、そのマーカーは以前突きとめられ
ていた。リウマチ熱で OCD と不随運動障害
社会環境の役割
の高い発生率は、連鎖球菌感染と神経精神疾
毒物と遺伝は、過去 20 年から 30 年に渡っ
患とのつながりを支持する第二の臨床的証拠
て学習と発達で重要な影響として現れてきた。
系統である
。
43,44
- 47 Greater Boston Physicians for Social Responsibility
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しかし、人間の発達で社会環境の重要な役割
て、強調されている。
は、20 世紀のほとんどの間認識されてきてい
大部分の学習と発達障害のある子供を取り
る。61 大量の研究が、社会環境要因と発達の
扱う、心理学者と教育者は社会環境に焦点を
結果との間の関連を証明している。 例えば、
当てた行動流儀で一般に訓練を受けている。
良い親の精神衛生と社会的支援・教育・相互
反対に、毒物学と遺伝学は、鉛や PKU・甲状
関係によって特徴づけられる親としての接し
腺機能低下と遺伝子欠陥により起こる様々な
方は、改善された発達結果と全て関連してい
稀な代謝病を検査する医学スクリーニング計
る。大規模な介入研究も、社会的支援と親と
画の重要な例外があるが、臨床的領域にまだ
して接する技術訓練・質の高い食の小児教育
日常的に説明されていない。そのため、私た
がリスクの高い子供で発達閣下を改善するこ
ちは学習と発達障害で原因要因と治療様式の
とを示している。
両方としての重大さを認めることを除いて、
62
63,64
実際上のこととして、社会環境の重要性は、
発達障害の評価と治療介入の両方が社会環境
この報告でさらに社会環境を考察しないだろ
う。
の分野で主に起こっているという事実によっ
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