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アンネは本当は…
アンネは本当は… 文:眞鍋 『アンネ、わたしたちは老人になるまで生き延びられた。 どるアンネ・フランクの思い出』テオ・コステル著 清流出版 2012 クラスメートたちがた 第2次世界大戦のとき、ユダヤ人だからというだけで大量に虐殺されたことを知っ ていますね?そしてドイツの警察に連れて行かれたら収容所送りになって労働させ られ、ろくな食事もトイレも与えられず、やがてガス室に送られて殺されたことも。 そうならないようにアンネの家族は隠れて暮らしていました。そのときの記録が世 界的なベストセラー『アンネの日記』。彼女は架空の友人キティに向けて書かれた その日記と彼女の写真だけが有名になった気がしますが、実際のところアンネって どんな子だった? ということを実際にユダヤ人中学校で日記にもでてくるモーリス(テオ)・コステ ルがあのころの仲間を集めて話を聞いています。 あまりパッとしない子と日記には書かれていたテオですが、彼も生き延びるため にいろいろな人の家を転々としました。 勝気で自信があって男子に性教育の知識を教えてあげようとして周りから笑いをとっ ているアンネ。発言の順番も待たずにしゃべってしまうアンネ。モノポリが好きだっ たアンネ。誕生パーティでリンチンチンの映画を上映したあと、積み上げられたプ レゼントの上に赤と白のチェックの表紙の、日記があったことを 何人かが覚えていました。 1945年3月、解放のほんの数週間前にアンネは15歳でなくなり ました。かわいかったアンネが骸骨のようだったと収容所でみか けたクラスメート。彼女たちも家族とはばらばらになって隠れて たいへんな思いをしながら約半数が戦争を生き残りました。『ア ンネとヨーピー』の著者ジャクリーヌも出てきます。 オランダといえば、フェルメール、ハウス・テンボスといろい ろ幸せな連想をしますが、アンネが隠れ家で日記を書いたのもま たオランダでした。 ユダヤ人が迫害されていたのは第2次世界大戦だけではありませんでした。 『古書の来歴』ジェラルディン・ブルックス著 武田ランダムハウスジャパン2010 ハガダーはユダヤ教の過ぎ越しの祭りで食事をするときによむテキスト。ふつう 文字だけの本なんですが、サラエボ・ハガダーには美しいさし絵が豊富についてい ます。博物館の学芸員(イスラム教徒!)が命がけで爆撃から守ったこの美しいハ ガダーを中心にこの物語は回ります。最初はこの人類の宝物のような本を修復する ためにオーストラリアから呼ばれた女性学者。どうして蝶の羽がこの本に挟まれて いるの?それは第二次世界大戦時のユダヤ人の迫害に立ち向かう少女パルチザンと 彼女を守った学芸員の話。 そして美しい銀の留め金がついていたはずなのにどうして博物館にもどされたと きにはなくなっていた?哀れな装丁職人とユダヤ人医師の話。それから染みの成分 がワインと血であることがわかる。ヴェネチアでのキリスト教司祭とユダヤ教のラ ビの友情と不運。そしてなぜか海水の塩の成分が検出された。どうしてこの本が海 水を吸うことになったのか。キリスト教徒と結婚したユダヤ人とその家族の不幸。 そして黄色い顔料が載っている猫の毛が残っている。不 幸なイスラムの少女絵師の話。 宗教を超えて助ける人の話もあれば、異教だからと虐 殺されている話もある。一つの美しい本をめぐって50 0年もの話が映画「メメント」のようにさかのぼって行 く。実在するサラエボ・ハガダーをめぐるフィクション ですが、宗教はなんと壮絶な状況を作り出すものだろう かと思わずにはいられません。いや、人間はというべき でしょうね。