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ニューズレター
- ニューズレター 20010316(財)中東経済研究所
― 中東・エネルギー情報 ―
ニューズレター
2001 年 3 月 16 日
Vol. 15, No. 22
目次
シャロン内閣発足で強まる対決色 .................................................................... 2
労働党との「大連立」............................................................................................................ 2
見通し立たない和平交渉再開 .............................................................................................. 2
強まる対決ムード ................................................................................................................... 3
<トピックス>
アラブ連盟:アラブ環境宣言 .................................................................................................. 5
イエメン:EU を中心とした観光開発計画 ............................................................................ 5
イスラエル:財務省が 2001 年の GDP 予測を再び下方修正 ............................................... 5
イラク:イラク政策をめぐり米政権内部に意見対立 .......................................................... 6
イラク:国連との協議継続で合意 .......................................................................................... 6
イラン:クウェートへの水輸出 .............................................................................................. 7
イラン:人権問題でもめたイギリス大臣の初訪問 .............................................................. 7
エジプト:2001 年の民営化目標 .............................................................................................. 8
カタル:18 カ月以内に直接選挙議会 ...................................................................................... 8
クウェート:解放 10 周年記念式典 ......................................................................................... 8
シリア:イスラエル・ボイコットの活性化を呼びかけ ...................................................... 9
シリア:為替制度改革 .............................................................................................................. 9
トルコ:2001 年 2 月のインフレ率は低い水準で推移 ........................................................ 10
パレスチナ:EU が自治政府の救済案を模索 ...................................................................... 10
レバノン:財政危機で国営テレビ局が閉鎖、民営化へ .................................................... 11
アゼルバイジャン: EU のトロイカ高官が訪問 .................................................................. 11
カザフスタン:大統領がマレーシア、外相がインドをそれぞれ訪問 ............................ 12
1
-ニューズレター20010316-
シャロン内閣発足で強まる対決色
労働党との「大連立」
2月の首相選挙で当選したリクードのアリエル・シャロン党首は3月6日、クネセト (イ
スラエル国会)に連立閣僚の名簿を提出し、承認を求めた。動向が注目されていた労働党
は、ペレス元首相らの強い主張により、2 月 26 日に開いた党中央委員会で連立への参加
を決定した。労働党とリクードとのいわゆる「大連立」は、1990 年にシャミール内閣が
崩壊して以来、11 年ぶりである。ただ、今回は 2 大政党が連合しても国会の過半数には
遠く及ばず、宗教政党のシャスやロシア移民を支持基盤とするイスラエル・バ・アリ
ヤー、右派のイスラエル我が家=国民統一党連合など合計8政党を糾合して73議席とし、
7 日、72 対 21 で承認された (連立政党一覧と閣僚名簿は付属資料参照)。
ただ、必ずしも政権の安定が約束されているわけではない。各政党に大臣ポストを用
意した結果、
「史上最大の内閣」といわれるように大臣 26、副大臣 12 という水ぶくれ内
閣となった。さらに中東和平問題を別にしても、超正統派ユダヤ教徒に対する徴兵免除
をどうするかといったさまざまな対立を閣内に抱えており、政権基盤は極めて不安定だ。
2003年11月の任期満了を待たずにシャロン内閣が崩壊する可能性は十分にある。それと
関連し、クネセトは 7 日、次回選挙から首相公選制を廃止し、クネセト議員の中から首
相を選ぶ従来の制度に戻す法改正を行った。
見通し立たない和平交渉再開
シャロン首相はクネセトでの就任演説で、パレスチナやシリア、レバノンとの和平達
成に努力すると述べた。その一方で、イスラエル国民の安全確保とテロとの戦いを最優
先するとし、パレスチナ側がテロと暴力を中止しない限り、和平交渉を進めることはで
きないとの従来の立場を繰り返した。この立場は新政権の政策ガイドラインでも最も強
調されている点だ。加えて政策ガイドラインは、(1)もう一方の当事者がこれを遵守する
ことを条件に、過去クネセトが承認した和平合意を尊重、(2)妥協を伴う暫定合意による
パレスチナ人との和平促進、(3)入植地は民族的・社会的価値を有する基盤であり、その
質的向上に努力、などタカ的な色彩を鮮明にしている。
シャロン首相は 8 日、アラファト議長に書簡を送り、和平交渉の再開と暴力中止の道
を探るため会談したいとの意向を伝えた。アラファト議長も10日に開かれたパレスチナ
自治評議会の演説で、
「勇気ある平和」達成のためにイスラエル政府と交渉する用意があ
ると述べた。しかし、双方の立場は根本的な点でかけ離れている。アラファト議長は自
治評議会の演説でも、シャロン首相に対しバラク内閣が提示した妥協案を受け入れるよ
う呼びかけた。これに対し、シャロン政権では政策ガイドラインにもあるように、これ
までにクネセトが承認した和平合意のみを尊重するとしている上、暫定合意を目指すな
ど、交渉再開の前提条件は大きく食い違っている。加えて、シャロン首相は「テロと暴
力が中止されない限り会談しない」との立場をとっており、11 日付け Ha'aretz 紙は首相
府筋の話として、今のところ首脳会談の計画はないと伝えている。こうした中、外相と
なったペレス氏が和平推進に向けてどこまでイニシアチブを発揮できるかは疑問だ。
2
- ニューズレター 20010316強まる対決ムード
むしろ、状況はいっそう緊迫している。4日にもイスラエル中部の町ネタニヤで爆弾テ
ロがあり、ハマースが犯行声明を出した。イスラエル側はパレスチナ自治区に対する封
鎖措置を強化しており、特にヨルダン川西岸の町ラーマッラーは周囲にバリケードが築
かれるなど完全に閉鎖状態にある。12 日のイスラエル政府の声明は、ラーマッラーでの
措置は治安に関する特定の情報に対応したものであり、集団的な制裁ではないとしてい
るが、パレスチナ人側の反発は強く、イスラエル軍との衝突が続いている。
また、イスラエル政府はバラク政権時代からパレスチナに対する経済制裁として、イ
スラエルが代わって徴収した付加価値税や関税などのパレスチナ側への引き渡しを停止
している。その額は 12 月から 2 月中旬までで 5600 万ドルに上ると報じられており、パレ
スチナ自治政府の財政は深刻な窮乏状態にある。米国政府はパウエル国務長官が 2 月に
中東を歴訪した際、経済制裁は状況改善に役立たないと述べるなど、たびたび制裁を緩
和するようイスラエルに求めているが、イスラエル政府の政策に変化はない。シャロン
首相は 3 月 20 日から首相就任後初めて訪米することになっており、封鎖や制裁措置も議
論される見込みだ。ただ、ブッシュ政権は今のところ中東和平交渉に積極的に関与する
姿勢を見せておらず、現地では当面、対決的な雰囲気が続きそうだ。
(立山 良司)
付属資料1
連立参加政党一覧
政党名
労働党
リクード
シャス
イスラエル我が家及び国民統一党連合
イスラエル・バ・アリヤー
一つの国民
新たな道
連立与党合計
3
議席数
23
19
17
7
4
2
1
73
-ニューズレター20010316-
付属資料2
閣僚名簿
氏名
首相
Ariel Sharon
外相
Shimon Peres
国防相
Binyamin Ben-Eliezer
財政相
Silvan Shalom
公共治安相
Uzi Landau
教育省
Limor Livnat
法相
Meir Shitreet
内相
Eli Yishai
通信相
Ruby Rivlin
運輸相
Ephriam Sneh
環境相
Tzahi Hanegbi
国家基盤相
Avigdor Lieberman
観光相
Rehavam Zeevi
産業貿易相
Dalia Yitzik
スポーツ文化相
Matan Vilnai
農相
Shalom Simchon
住宅建設相
Natan Sharansky
労相
Shlomo Binizri
社会問題調整相
Shmuel Avital
保健相
Nissim Dahan
宗教問題相
Asher Uhana
エルサレム問題相 Eli Suissa
地域協力相
Tzipi Livneh
無任所相
Salah Tarif
無任所相
Raanan Cohen
無任所相
Danny Naveh
4
出身政党
リクード
労働党
労働党
労働党
リクード
リクード
リクード
シャス
リクード
労働党
リクード
イスラエル我が家
国民統一党連合
労働党
労働党
労働党
イスラエル・バ・アリヤー
シャス
一つの国民
シャス
シャス
シャス
リクード
労働党
労働党
リクード
- ニューズレター 20010316<トピックス>
開発に、アラブ自身が関与することを保
証するための適切な対応をする。
アラブ連盟:アラブ環境宣言
アラブ世界でも、急激な経済成長が環境
を脅かしているとの認識が広まり、環境は
各国共通の問題意識となりつつある。(三井)
2月3日にアブダビで開催された「2001年
国際環境会議」に集まったアラブ19カ国の
環境担当大臣が、今後のアラブ世界の環境
プログラムを定めた「アブダビ宣言」に調
印した。同宣言は、貧困克服と環境問題の
調和を強調し、アラブ世界の発展は決して
環境の犠牲の上になされるべきではないと
の精神に基づき、多様な環境保全計画を定
めている。
同宣言は、継続的な発展のため、二つの
基本的な問題を解決する必要があるとして
いる。すなわち第一は、急速に進展してい
る人口の都市集中であり、第二は、域内天
然資源の有限性である。さらに、過去数十
年の加速的な発展と都市化が環境に否定的
な影響を与え続けてきたことを強調し、ほ
とんどのアラブ世界に都市インフラの悪
化、許容レベル以上の大気汚染、土壌の劣
化、一人当たり水資源の減少、海洋汚染と
漁業資源の悪化、動植物の絶滅等の問題が
あることを指摘している。
同宣言は、今後取るべき方策として以下
のことをあげている。
イエメン:EU を中心とした観光開発計画
EU は現在、
「アフリカの角」の沖合にあ
るイエメン領ソコトラ島の開発調査を行っ
ている。調査を担当したイギリスのコンサ
ルタント会社WS Arkins Internationalの報告
書"Master Plan for the Scotra Archipelago 2000
- 10" は、現在は 4 万の住民が主として農業
及び小規模漁業で生活している同島に関
し、今後10年間で様々な分野において70の
プロジェクトの可能性があるとしており、
そのうちの 8 プロジェクトが優先的に推進
されるべきだとしている。
報告書が述べている開発対象分野は、観
光、水資源開発、健康、環境、農業などで
あり、全てのプロジェクトが実行された場
合の経費 1 億 3500 万ユーロ (1 億 2600 万ド
ル)は EU、民間投資家等に拠出が期待され
ており、投資者は無税の優遇措置の対象と
なる。WS Arkins International 社によれば、
開発の第一フェーズについてはイエメン政
府と合意ができており、フラミンゴの生態
系を含む景観を保持したまま、開発が行わ
れる予定という。(三井)
(1) 環境悪化の原因を排除することなしに結
果だけを求めることは労力、時間、資源
の無駄であり、環境悪化の原因そのもの
にほかならない。
(2) 開発計画において環境への配慮を欠いた
投資は、長期的に見れば高コストとなる
ことを政策決定者たちに認識させる方法
を開発する。
(3) 製造過程から有害な原材料を排除し、
製
造過程から環境問題に対応する。
(4) アラブ諸国の環境改善に資する最新技術
イスラエル:財務省が 2001 年の GDP 予測
を再び下方修正
2 月 25 日、イスラエル財務省は、2001 年
の GDP 成長率の予測を 4.5% から 2 - 3% に
5
-ニューズレター20010316下方修正する発表を行った。修正はこの 5 「スマート・サンクション」という言葉でイ
カ月間ですでに 3 回目だが、パレスチナと ラク制裁の事実上の緩和に言及していたパ
の衝突の激化やナスダック市場の低迷、米 ウエル国務長官は批判の矢面に立たされて
国や日本をはじめとする先進国の急速な景 いる。共和党内部には対イラク強硬論が根
気減速などの影響で、近く 4 回目の修正が 強いことから、緩和の方向でイラク制裁を
行われるとの観測もある。
見直す方針を明らかにしていたパウエルは
すでにイスラエルのベンチャー企業への 現在ではそうした姿勢を後退させ、対イラ
投資額は 25%も落ち込んでおり、ナスダッ ク強硬論に擦り寄る様子を見せている。
クの株価下落が今後も続くようなら、投資 下院国際関係委員会の証言でパウエルは
の一層の減少は避けられない。ベンチャー 3月7日、イラク監視飛行の作戦規則を変更
部門はイスラエル経済の 3.5% に過ぎない し、報復という形に限定されていたイラク
が、2000 年の GDP 成長率 6% のうち、この 攻撃の要件を緩和して、米軍の側で攻撃の
部門の寄与は 2% となっており、経済全体 時と場所を選べるようにする意向を明らか
への影響力を増している。ちなみに、ベン にした。またその際、攻撃の対象も兵器の
チャー部門を除いた 2001 年の GDP も前年 生産施設や軍の移動へと拡大されるという。
比 2.9% 増と、2000 年の 3.9% 増より減少が 3 月 8 日付 Chicago Tribune 紙の中で米国の
見込まれている。
安全保障問題専門家ジョン・パイクは、こ
一方、同じ 2 月 25 日、国際格付機関ムー うした変更の意味を査察に代えて空爆とい
ディーズは、イスラエル政府の国債の格付 う手段を採用することと語っている。(立花)
をA2に据え置くと発表した。同時に、2001
年のイスラエル経済の成長予測について
は、当初の数字から 1 - 2% 幅引き下げて 5 イラク:国連との協議継続で合意
- 6% に設定したと発表している。引き下げ
の理由として、ムーディーズは観光、建設、 2月26 - 27日、アナン国連事務総長とサッ
農業部門の不振を挙げているが、インティ ハーフ・イラク外相の協議が国連を舞台に
ファーダについては、経済の牽引役である 行われた。協議では査察の再開問題が焦点
ハイテク部門への影響が少ないとして、イ となった模様だが、具体的な進展は発表さ
スラエルの信用格付を下げる要因にはなら れていない。ただ国連とイラクは、
「数週間
ないとの見解を表明した。(上田)
以内に」再び協議を行うことでは合意して
おり、
その時期としてはアラブ首脳会議 (於
アンマン、3 月 27 日予定)後の 4 月初旬か、
イラク:イラク政策をめぐり米政権内部に さらに 1 カ月先の 5 月初旬が外交筋の間で
意見対立
は噂にのぼっている。
イラク側は査察を再び受け入れることは
イラク政策をめぐるブッシュ政権内部の ないとの立場を崩すことはなかったものの、
意見対立が表面化してきた。イラク反体制 イスラエルや他の国もが対象となるのであ
派への支援や制裁の強化を求めるチェイ れば、(大量破壊兵器に関する)監視を受け入
ニー副大統領やラムズフェルド国防長官、 れると述べた。(立花)
ウォルフォウィッツ国防副長官等に対し、
6
- ニューズレター 20010316イラン:クウェートへの水輸出
最も高位のイギリス高官として麻薬問題取
締担当国務大臣 (The Cabinet Office Minister)
イランからクウェートへ水を輸出する計 Mo Mowlam女史 (元北アイルランド相)が5
画が具体化してきた。計画では、イランの 日間の予定でイランを公式訪問した。イギ
Karkeh ダムから取水し、総延長 540km (イ リスとイランの経済面の関係強化は進んで
ラン国内陸上に 330km、ペルシャ湾海底に いるものの、政治的にはクック英外相のイ
210km)のパイプラインを建設することによ ラン訪問がユダヤ系イラン人スパイ事件の
り、クウェートに日量 2 億ガロンを供給す 裁判問題、イランでの人権侵害問題などに
る予定である。総事業費は 20 億ドル (一部 より2000年に3回延期されていることもあ
報道では 29 億ドル)で、2005 年の完成予定 り、ぎくしゃくした面が出てきている。
を目指している。
このため Mo Mowlam 国務大臣の今回の
計画を進めている英 G u l f U t i l i t i e s イラン訪問目的は、両国が共通して関心が
Company (GUC)率いるコンソーシアムは、 深い麻薬密売の取締りという非政治的な事
クウェートの電気・水省に対して30年間の 項に限定された。同大臣の来訪目的は、テ
料金を提示しており、現在クウェートで行 ヘランで開催される麻薬密売問題のセミ
われている海水の脱塩方法による水供給よ ナーに出席し、両国が麻薬取締りに協力す
りも、2 割程度安価になる見込みである。 る覚書に調印し、エスファハーンにあるリ
GUCはこの計画について、経済面だけでな ハビリ・センターを訪問し、さらに麻薬取
く環境保全の面からもクウェートに利益を 締りのための新たな資金援助 (今までイギ
もたらすとしている。GUC は、イラン民営 リスは国連の麻薬取締活動経費の半額、約
企業の Energy Investment Company とク 400万ドルを寄贈している)の公表などが予
ウェートのGulf Water Companyとコンソー 定されていた。
シアムを組んで計画を進めているが、GUC 同大臣は滞在中、ハタミ大統領と会談
のファイナンス面でのアドバイザーである し、ブレア首相からの親書を手渡し、ハ
Dresdner Kleinwort Wassersteinによれば、欧 シェミ行政担当副大統領と両国の麻薬取締
州、日本、中東の企業に対し、計画参加へ 協力覚書に調印した。その後も、会議など
の交渉を進めている。
の出席に加えハラジ外相、カッルービー国
こ の イ ラ ン か ら の 水 輸 出 計 画 は 、 ク 会議長、ムサヴィ・ラーリ内相と両国の麻
ウェートだけでなくサウジアラビアやオ 薬取締りにつき精力的に話し合った。
マーンなど近隣湾岸諸国への水供給スキー 同大臣は、イランが麻薬生産国のアフガ
ムの見本となる可能性がある。また、中東 ニスタンから金のある欧州・湾岸に流れる
湾岸地域の経済関係強化、イランの新たな 麻薬の取締りに尽力している (最近の国連
外貨獲得資源創出につながる可能性もあ レポートでは、世界で押収されるアヘンの
る。(徳原)
90%、モルヒネの 45% はイランが押収して
いる)ことを高く賞賛し、3 カ月以内の両国
の合同麻薬取締委員会の設置が合意され
イラン:人権問題でもめたイギリス大臣の た。
初訪問
ところが、同大臣はイラン政府の要人と
の 会 談 に 際 し 、人 権 問 題 ( 特 に 改 革 派
2 月 24 日、1979 年のイスラーム革命以後 ジャーナリストの収監問題と死刑執行問題)
7
-ニューズレター20010316についても触れた模様 (同大臣は外国通信
社とのインタビューで、イギリスとイラン
は麻薬問題で今後協力するが、イランでの
人権侵害問題を無視することはできないと
語っている)である。このため、同大臣帰国
後の 3 月 1 日の国営テレビは「イギリス大
臣の発言、イラン政府要人を怒らせる」と
の表題で、イラン外務省アセフィー報道官
が以下の 2 点を述べている場面を放送し
た。
すなわち、 (1)ハラジ外相が Mo Mowlam
国務大臣に対して、イランは内政干渉を受
けないと語ったこと。(2)同大臣のイラン来
訪は麻薬問題について話し合うことが目的
で、人権問題について話すことではなかっ
たこと。(野草)
営化は順調に進んでおり、ヘルワン・セメ
ントの民営化失敗で、民営化のペースが落
ちることはないと言明しているが、優良企
業は既に民営化されており、今後民営化が
予定されている国営企業は採算上の問題点
を抱えているところが多い。
今後とも民営化方針を推進するには、負
債削減、労働効率の向上などで思い切った
大鉈を振るった上でなければ、国内外の投
資家の関心を引くことは難しい。(三井)
カタル:18 カ月以内に直接選挙議会
カタルのハマド首長は 2 月 26 日、民主化
政策の一環で、18カ月以内に直接選挙議会
をつくると発表した。ドーハを訪れていた
ドイツのヨハネス・ラウ大統領の帰国後、
ドイツのラジオ局のインタビューに答えた
もので、首長自身への権力集中は望んでお
らず、分権が今後のカタル、次の世代に
とって良いと考えているということであ
る。ただし、予定通り準備ができると考え
てはいるが、カタルのような小国において
多少の遅れは時々あることで、それがノー
マルであるとも語った。なお、カタルは
1999 年 3 月、湾岸アラブ諸国で初めて女性
に選挙・被選挙権を与えた中央自治評議会
選挙を行った。そして、1999年なかばには、
直接選挙議会の設置を規定する恒久憲法の
草案作成委員会を作った。(高橋)
エジプト:2001 年の民営化目標
2 月 12 日、エジプトのハッターブ公共企
業相は、2001年は49社の国営企業を民営化
する目標であると述べた。同大臣によれば
1994 年の民営化政策開始以来、既に 176 社
の国営企業を総額 131 億ポンド (34 億ドル)
で売却し、従業員持株組合も 26 億 5000 万
ポンド (6 億 8800 万ドル)相当の株式を受け
とった。また、同大臣は 2001 年の民営化で
16 億ポンド (4 億 1600 万ドル)の収入を得
て、その中から 8 億ポンド (2 億 800 万ドル)
が他の公営企業合理化に充てられ、残りの
8 億ポンドは国家財政に繰り入れられる予
定であると述べた。
しかし、エジプト政府の予測はかなり楽
観的であると思われる。2000年にエジプト
政府はトーラ・ポートランド・セメント工
場、アミリア・セメント工場を外資に売却
したが、その後、株式の政府持分 47.9% が
売りに出されたヘルワン・セメント工場は
結局買い手がつかなかった。同大臣は、民
クウェート:解放 10 周年記念式典
イラク占領からのクウェート解放 10 周
年を祝う記念式典が 2 月 25、26 日の両日、
クウェートで開催された。1991年の湾岸戦
争時、多国籍軍を率いたブッシュ元米国大
統領やサッチャー元イギリス首相ら各国の
8
- ニューズレター 20010316指導者が招待され、解放を祝った。当時、米
国の統合参謀本部議長を務めた中東歴訪中
のパウエル米国務長官も式典に参加した。
また、日本からは海部元首相が招待され
た。
クウェート政府はこれまで、イラクに抑
留されているとされる 6 0 0 名以上のク
ウェート人捕虜の問題が解決していないこ
とを理由に記念式典の開催を自粛してきた
経緯があるが、独立40周年および解放10周
年という区切りの年を迎えたことで解放後
初めて式典を開催することとなった。
パウエル長官は 25 日、" クウェートに対
するイラクの脅威 " について「フセイン大
統領の言動は口先だけであり、クウェート
は自由である。あの悲劇が再び繰り返され
ることはない」と述べ、クウェートの安全
保障に協力するとともにイラク封じ込め政
策を継続する考えを示した。
しかし米国とは対照的に、周辺アラブ諸
国は式典に欠席あるいは駐在の外交官を出
席させるにとどめるなど、今回の解放10周
年にあたって消極的な対応をとっている。
これは、イラク封じ込め政策の継続に反対
する姿勢を示し始めた周辺アラブ諸国がイ
ラク側に配慮したたためと見られている。
(島末)
員会はアラブ連盟総会、アラブ首脳会議、
及び首脳会議フォローアップ会合の勧告に
従い、イスラエル・ボイコット活性化のた
めのワーキング・ペーパーを提示した。そ
の骨子は以下の通りである。
(1) アラブ連盟加盟各国のボイコット委員会
連絡事務所を再活性化する。
(2) 年2回の開催が定められているボイコッ
ト会議出席に各国がコミットする (シリ
アは2001年1月9日にボイコット会議を
開催する旨各国に呼びかけたが、各国は
呼び掛けに応じず、現在は4月22日に開
催するよう提唱している)。
(3) 架空企業名義によるイスラエルからの輸
出活動に対する監視を強化する。
(4) インターネットによる広報を強化する。
(5) ボイコットの目的を周知させるための情
報計画を策定する。
なお同ペーパーは、ボイコットがイスラ
エルに年間 30 億ドル以上の経済的損失を
与えているとしているが、その根拠につい
ては明らかにしていない。今更イスラエ
ル・ボイコットが全面的に活性化するとは
考えにくいが、イスラエルとの取引を行っ
た企業を見せしめ的にボイコット対象とす
る可能性は否定できない。(三井)
シリア:イスラエル・ボイコットの活性化
を呼びかけ
シリア:為替制度改革
イスラエルとパレスチナの交渉開始を受
けて、1990年代に入ってからアラブ諸国に
よるイスラエル・ボイコットは、シリアな
どを除き形骸化したといわれていたが、最
近の和平交渉の中断を受けてアサド政権
は、各国にその活性化を呼びかけている。2
月26日のシリア紙が伝えるところでは、ダ
マスカスにあるイスラエル・ボイコット委
1月20日にシリア政府が発表した限定的
な為替レート自由化方針は、全面自由化と
はならなかったことに対する失望も一部あ
るが、国内産業界からは従来の複雑な為替
レートを単純化する単一レート制への重要
な第一歩として概ね肯定的に評価されてい
る。従来、シリア政府は複数レート制度を
採用しており、
「隣国レート」の $1 = 46 シ
9
-ニューズレター20010316リアン・ポンド (SL)から$1 = SL11.20の「公
定レート」までの幾つかの公式レートに加
え、$1= SL52.50 の非公式なマーケット・
レートまでが存在していた。
今回の限定的自由化方針を受けて
Commercial Bank of Syria (CBS)は過去 40 年
間で初めて一定限度のマーケット・レート
で為替取引を行ったが、1 月 20 日のレート
は$1 = SL50.15/50.256 (selling/buying)であっ
た。当面、CBS がマーケット・レートで外
貨を販売するのは巡礼者と外国で治療を受
ける者に限定され、貿易決済には適用され
ないが、今後レートが安定的に推移すれば
この制限も緩和されるものと思われる。
シリア政府は現在、民間銀行、外国資本
と民間資本の合弁銀行、民間資本とシリア
政府との合弁銀行などの設立も認める新銀
行案を準備中と言われ、シリアの銀行制度
は大きく変化しようとしている。(三井)
となる見通しだ。2001年末のインフレ率が
45 - 50%に達すると予測する専門家もいる。
(上田)
パレスチナ:EU が自治政府の救済案を模
索
2 月 26 日付 The Financial Times 紙によれ
ば、財政難から崩壊寸前の状態に陥ってい
るパレスチナ自治政府を救うため、EU で
は現在一連の経済援助策を検討している。
但し、6000万ユーロ (5460万ドル)に上る援
助の実施に当たっては、国際社会から広く
援助を募るほか、自治政府が緊縮予算を受
け入れ、イスラエルが西岸とガザの封鎖を
解除するなど、いくつかの条件を整える必
要があるという。また、EU 内には、自治政
府の汚職や援助資金の使途が不透明なこと
を問題にする声も根強い。
現在、自治政府の収入は毎月44% も不足
トルコ:2001年2月のインフレ率は低い水 し、予算の60% 以上を占める公務員給料の
準で推移
支払いが滞る事態となっている。世界銀行
の発表によれば、100 万人のパレスチナ住
3月5日付Turkish Daily News紙によれば、 民が 1 日当たり 2.10 ドルという貧困ライン
2001 年 2 月の卸売物価指数 (WPI)は前月比 以下の生活を余儀なくされ、失業者は25万
で 2.6%、消費者物価指数 (CPI)は同じく 人以上、平均年収は衝突発生前の 2,000 ド
1.8%の上昇にとどまった。前年同月比で見 ルから 1,700 ドルに落ち込んだ。
ても卸売物価が26.5%、消費者物価が33.4% 自治政府が住民の支持を失って、無政府
の上昇率であり、2000 年 2 月の上昇率が前 状態に陥ることを懸念する EU では、パッ
年同月比で卸売物価 67.5%、消費者物価 テン対外問題担当委員が「もはや EU だけ
69.7% であったのと比べると、極めて低い で自治政府を支えて行くことは不可能」と
水準である。
して、IMF やアラブ諸国による援助を求め
だが、2001 年 2 月に起きた金融危機に るとともに、3 月にも国際援助国会議を開
よって、トルコ・ リラの対ドル相場は約 催することを提唱した。
25% も下落した。石油、ガス、電気、電話 一方、2 月 23 日には、国連パレスチナ難
料金あるいは砂糖などの価格が急騰してい 民救済事業機関 (UNRWA)のペーター・ハ
るため、インフレ率も今後急上昇すると予 ンセン事務局長も、西岸とガザの住民の経
想され、3 月単独で前月比 10% 以上の上昇 済・生活状況が急速に悪化していると訴え
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- ニューズレター 20010316て、各国の援助を要請した。緊急の人道援
助や雇用創出、食糧援助のために今後 3 カ
月で 3720 万ドルの資金が必要になるとい
う。(上田)
相、ソラナ外交・安全保障上級代表及び
パッテン欧州委員会委員の 3 人の高官と会
談し、「アゼルバイジャンの戦略的目標は
EU への加盟である」と表明した。
また、アリエフ大統領は、欧州諸国がア
ゼルバイジャンの地政学的重要性及び天然
レバノン:財政危機で国営テレビ局が閉 資源を考慮して、同国に関心を示している
鎖、民営化へ
点を指摘するとともに、「地域紛争の速や
かな解決が一連の事業の履行を後押しす
41年の歴史を持つ国営レバノン・テレビ る」と述べ、EU がナゴルノ・カラバフ紛争
(Tele-Liban)は、523 人の従業員全員を解雇 の解決を支援するよう求めた。これを受け
し、今後 3 カ月間閉鎖のうえ、リストラと て、リンド議長は、「" 最近欧州の一部に
民営化を進める。2 月末、レバノンとして なった南コーカサス地域"の平和と安定が、
は異例の速さで閉鎖の閣議決定が下され、 E U にとってもプライオリティである。
人々に衝撃を与えた。
我々は 、南コーカサス地域の 3 か国 (アゼ
レバノンでは、公的債務がGDPの150%、 ルバイジャン、
アルメニア及びグルジア)全
240 億ドルに達し、利払い分が政府支出の てとの関係強化を意図している」と表明す
49% に及ぶなど、深刻な経済危機に陥って るとともに、地域協力の進展が紛争解決を
いる。2 月 26 - 27 日にフランスを訪問した 加速するための一手段である旨指摘した。
ハリーリー首相は、シラク大統領、ウォル また、パッテン欧州委員会委員は、EUが過
フェンソン世界銀行総裁、EU 欧州委員会 去数年間、アゼルバイジャンでの様々なリ
のプロディ委員長らと、4 億ユーロに上る ハビリ・プログラムに約 3 億ユーロを投じ
援助パッケージ問題について話し合った。 たことを表明するとともに、ナゴルノ・カ
70%の長期低利融資と30%の無償援助から ラバフ和平が達成された後には、EU が積
なるこの資金によって、レバノン政府は民 極的に新たな資金を投じる意向である点に
営化と財政健全化を推進する計画だ。
特に言及した。同委員によると、EU は、地
高コストの Middle East Airlines (MEA)を 域のパイプライン・システムに投資する用
はじめ、電力、電気通信、水道事業など民 意ができているという。
営化の対象となる国営企業の数は多い。国 この後、アリエフ大統領とEUの3人の高
営レバノン・テレビ自体のコストは年3300 官は、
TRACECA (Transport Corridor Europe万ドルに過ぎないが、政府の断固たる改革 Asia-Caucasus)プログラムのバクー事務所開
の意志を伝える意味は大きい 。(上田)
設式典に出席した。同プログラムは、EUが
支援するもので、旧シルク・ロードに沿っ
た欧州と極東地域間の輸送手段の発展を目
アゼルバイジャン: EU のトロイカ高官が 的としている。アリエフ大統領は、式典で
訪問
演説し、
「利益が投資の三倍になる」と述べ
て、EU が同プログラムに積極投資するよ
アゼルバイジャンのアリエフ大統領は 2 う求めた。
月 21 日、同国を訪問した EU のトロイカと 今回、EU の 3 人の高官は、アゼルバイ
呼ばれる議長国スウェーデンのリンド外 ジャン訪問を前に、アルメニアとグルジア
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-ニューズレター20010316を訪問しており、南コーカサス地域との包
括的な協力関係の強化を図ろうとする EU
の外交政策をうかがわせている。(岩木)
した。
一方、カザフスタンのイドリソフ外相は
2 月 22 日、訪問先のインドでバジパイ首相
と会談し、2001年に予定されているナザル
バエフ大統領のインド訪問の準備及びバジ
カザフスタン:大統領がマレーシア、外相 パイ首相のカザフ訪問の準備について協議
がインドをそれぞれ訪問
した。また、カザフ外務省の情報・分析部
門が23日に発表したプレス・リリースによ
カザフスタンのナザルバエフ大統領は 2 ると、両者は、カザフスタンが南北輸送回
月 2 0 日、訪問先のマレーシアで、マハ 廊の創設に関する3カ国協定 (インド、イラ
ティール首相と会談し、一連の国際問題な ン及びロシア)に参加する可能性など、
両国
どについて意見を交換するとともに、両国 の協力関係の拡大について協議したとされ
の協力関係を一層発展させる見通しを協議 る。これに関連して、イドリソフ外相は、
した。マハティール首相は特に、(1) マレー 「カザフスタンは、南北輸送回廊の中継地
シアが 1997 年と 1998 年に発生した経済危 点となるべきカスピ海のアクタウ港 (カザ
機を克服した経験、(2) マレーシア政府の外 フ西部に所在)の潜在能力を拡大するため
交政策、(3) マレーシアの社会・経済発展の に、インド企業を積極的に誘致するつもり
見通し --- に関する詳細な情報をナザルバエ だ。また、インド国営 ONGC 社がカザフで
フ大統領に提供した。これを受けて、ナザ の石油とガスの生産作業に参加することに
ルバエフ大統領は、マハティール首相に対 関心がある」と表明した。
して、カザフスタン国内での改革及びアジ これらカザフスタンの大統領、外相によ
ア地域の安全保障強化に向けた同国の政策 るアジア諸国訪問は、同国がアジア地域に
について表明した。また、同大統領は、マ おける信頼醸成措置の構築に向けて、中心
ハティール首相に対して、2001 年 9 月にカ 的な役割を果たそうとする姿勢をうかがわ
ザフスタンのアルマトイで開催が予定され すものであり、カザフスタンは 2001 年 9 月
ている「アジア地域における協力と信頼醸 にアルマトイで実施される上記のサミット
成措置に関する会議 (アジア安保協力機構)」 に向けて、引き続き積極的な対アジア外交
のサミットへの出席を要請し、同首相は感 を展開していくことになろう。(岩木)
謝の意と共に招待を受け入れる意向を表明
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