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役割欠如による心理的 well-being への負の影響に対するボランティア
日心第70回大会(2006) 役割欠如による心理的 well-being への負の影響に対するボランティア活動のバッファー効果 -高齢者を対象とした横断的検討- ○中原 純・藤田綾子 (大阪大学大学院人間科学研究科) Key words: 役割欠如,ボランティア活動,バッファー効果 【目 的】 高齢者において,配偶者役割,職業役割,両親役割の欠如 は心理的 well-being の低下に影響し(e.g., Moen et al., 1992; Rushing et al., 1992) ,ネガティブな心理的変数とも関連する (e.g., Kim & Moen, 2002; Marks et al., 2004)。一方で,ボラン ティア活動は自分自身の中で自分の役割を感じることのでき る活動であるといわれ(岡本,2005) ,広義の心理的 well-being との関係を示す研究は多い(中原,2005) 。以上の先行研究を 背景にして Greenfield & Marks(2004)は,ボランティア活動 が役割アイデンティティ欠如の補填を行うことができるかど うかについて検討した結果,ボランティア活動が一定の効果 を示すことが示唆されている。 そこで,本研究では,役割の欠如による心理的 well-being への負の影響に対する,ボランティア活動のバッファー効果 を検討することを目的とする。なお,本研究では,Greenfield & Marks(2004)が心理的 well-being として positive affect と negative affect の両者を検討しているため,positive affect とし て主観的幸福感,negative affect として抑うつ・不安を取り上 げ分析する。 【方 法】 調査対象者 大阪府 S 市在住の 50~74 歳の男女で,住民基 本台帳より無作為に抽出された 4,004 名に対して,郵送法に よる質問紙調査を行った。その結果,1,646 名から返信され, 質問項目への回答に不備があったものを除いた,1,472 名(男 性 638 名,女性 789 名,平均年齢 62.07±6.78 歳)を分析対象 とした。 質問紙 (1)役割に関する項目:配偶者役割(配偶者がい ない場合を役割欠如) ,職業役割(フルタイムの労働を行って いない場合を役割欠如) ,両親役割(子どもと同居していない 場合を役割欠如)をそれぞれ 1 項目で測定。本研究では,役 割を持っている群を役割維持群,役割が欠如している群を役 割欠如群とする。 (2)ボランティア活動参加経験の有無に関 する 1 項目(1.参加したことがない,2.何度か参加したこ とがある,3.定期的に参加している。もしくは,何度も参加 している)。本研究では,1 を非参加群,2 を参加頻度低群,3 を参加頻度高群とする。 (3)主観的幸福感:日本版主観的幸 福感尺度(島井他,2004) 。 (4)抑うつ・不安:心理的ストレ ス反応尺度(鈴木他,1997)の「抑うつ・不安」の因子に属 する 6 項目。 【結 果】 主観的幸福感に関する分析結果 配偶者役割とボランティ ア活動参加経験,職業役割とボランティア活動参加経験,両 親役割とボランティア活動参加経験をそれぞれ要因とし,主 観的幸福感を従属変数とする 2×3 の 2 要因分散分析を行った 結果,全ての分析において,ボランティア活動参加経験の主 効 果 の み 有 意 で あ っ た ( 順 に F(2,1324)=14.93, p<.01: F(2,1324)=18.65, p<.01: F(2,1324)=23.27, p<.01)。Bonferroni 法 による多重比較を行った結果,全ての分析において,ボラン ティア活動非参加群よりも,参加頻度低群や参加頻度高群の 方が主観的幸福感は高いことが示された。しかし,いずれの 分析においても交互作用は有意とならなかった(順に F(2,1324)=.83: F(2,1324)=.45: F(2,1324)=.17)。 抑うつ・不安に関する分析結果 配偶者役割とボランティア 活動参加経験を要因とし,抑うつ・不安を従属変数とする 2 ×3 の 2 要因分散分析を行った結果,交互作用が有意であっ た(F(2,1300)=3.05, p<.05) (Figure 1)。Bonferroni 法による多 重比較を行った結果,役割維持群において,ボランティア活 動非参加群よりも参加頻度高群の方が抑うつ・不安は低いこ とが示された(p<.01)。また,役割欠如群において,ボラン ティア活動非参加群よりも参加頻度低群や参加頻度高群の方 が抑うつ・不安は低いことが示された(共に p<.05) 。さらに, ボランティア活動非参加群において,役割維持群よりも役割 欠如群の方が抑うつ・不安は低いことが示された(p<.01)。 一方,職業役割とボランティア活動参加経験,両親役割とボ ランティア活動参加経験をそれぞれ要因とし,抑うつ・不安 を従属変数とする 2×3 の 2 要因分散分析を行った結果, どち らの分析においても,ボランティア活動参加経験の主効果の み有意であった(順に F(2,1300)=6.11, p<.01: F(2,1300)=8.35, p<.01) 。Bonferroni 法による多重比較を行った結果,どちらの 分析においても,ボランティア活動非参加群よりも,参加頻 度高群の方が抑うつ・不安は低いことが示された。しかし, いずれの分析においても交互作用は有意とならなかった(順 に F(2,1300)=1.59: F(2,1300)=1.12) 。 【考 察】 ボランティア活動参加の主効果が全ての分析において有意 であったことから,ボランティア活動参加が主観的幸福感を 高め,抑うつ・不安を軽減することが,追試されたといえる。 さらに,配偶者役割の欠如とボランティア活動参加の交互作 用が示されたことから,配偶者役割の欠如が及ぼす抑うつ・ 不安への負の影響に対して,ボランティア活動参加のバッフ ァー効果が検証されたと考えられる。しかし,本研究におい ては,先行研究と異なり,役割欠如が必ずしも主観的幸福感 や抑うつ・不安に対して影響しているわけではなかったため, それに伴うボランティア活動参加のバッファー効果も,配偶 者役割と抑うつ・不安を扱った分析以外ではみられなかった。 今後,役割の欠如が心理的 well-being に及ぼす負の影響その ものに関しても,再検討が必要であると考えられる。 ( 点) 5 4 非参 加群 参加 頻度低 群 参加 頻度高 群 3 2 1 0 役割 維持群 役割 欠如群 Figure 1. 配偶 者役割 とボラ ンティ ア活動 参加経 験によ る群別 の抑う つ・不 安得点 (NAKAHARA Jun, FUJITA Ayako)