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自然環境と再生可能エネルギー

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自然環境と再生可能エネルギー
自然環境と再生可能エネルギー
国土のグランドデザインと地熱開発
東京農業大学地域環境科学部 教授 熊谷洋一
わが国の「かたち」と自然環境
ついに本年、世界の人口は70億に達し、今世紀末に
は100億人を超える。急速に人口増加する国がある一
方、わが国は既に2008年から減少傾向に入り、2050年
には人口8千万人台に縮小するなど、地球上の人口地
図は大きく変化する。最近は、東日本大震災、タイ大
洪水のような自然災害の多発、中東・アラブ諸国の民
主化運動、ギリシャ・イタリア・EUでの経済危機と
国際社会はまさに激動期の様を呈している。
このようなタフな世界を生き抜いていくためには、
日本は将来を見据えたしっかりした国の「かたち」を
定めていくことが不可欠であろう。
わが国の「かたち」の基本を決めてきたのは、風土
すなわち自然環境であり、歴史・伝統そして人々の生
活生業である。一方で、科学技術は飛躍的に進歩し人
類も進化を続けていることを考えれば、望むべき将来
のわが国の「かたち」も、そのような科学技術や高齢
化に代表されるような新しい社会を見据えて構築して
いく必要がある。特に、地球規模での気候変動、自然
環境破壊、人口増加、食糧問題、エネルギー確保など
を視野に入れ、わが国の進むべき方向を明らかにする
ためには、日本の基本的「かたち」のベースとなって
いる自然環境の保全が極めて重要な課題である。これ
まで、その自然環境すなわちわが国の骨格を担ってき
た風景を預かり護ってきたのは、自然公園である。な
かでも傑出した風景地を指定してきた国立公園の役割
は大きい。現在、全国に29の国立公園があり国土面積
の5.5パーセントを占めている(写真1)。
くまがい よういち
1943年東京都生まれ、東京大
学大学院農学系研究科博士課
程単位取得退学。農学博士。
東京大学教授、同大学大学院
教授を経て現在、東京農業大
学地域環境科学部造園科学科
(ランドスケープデザイン研究
室)教授。東京大学名誉教授、
兵庫県立淡路景観園芸学校学
長、兵庫県立大学緑環境景観
マネージメント研究科顧問、
兵庫県夢舞台温室館長。元㈳
日本造園学会会長、
(一般財団法人)
自然公園財団理事長。
中央環境審議会自然環境・野生生物合同部会長として「生
物多様性国家戦略2010」策定の座長をつとめる。また、
2004年から毎年、東京ガーデンジュエリー実行委員長を
務めている。同ガーデンジュエリーは、東京の中心であ
る日比谷公園と丸の内仲通りの2会場においてガーデニ
ングショウを開催するイベントで、多くの参加者と高い
評価を受けている。
専門分野:造園学、自然環境学。
主な研究テーマ:自然環境評価、景観計画。
主な著書:自然環境の評価と育成(東京大学出版会)、
森林風景計画学(地球社)
、森林保護学(朝倉書店)、現
代幸福論(東京大学出版会)など多数。
再生可能エネルギーへの期待
政府は、2010年に気候変動枠組条約第15回締約国会
議でのコペンハーゲン合意に基づき、2020年の温室効
果ガスの25%削減(1990年比)を実現するための中長
期ロードマップを発表し、その中で、2020年のエネル
ギー供給分野、発電量で住宅以外の太陽光は約85倍、
風力発電は約10倍、地熱発電所は約3倍(いずれも
2005年比)という目標を示した。これらは、地球温暖
化対策として温室効果ガスを大量に放出する化石燃料
から炭酸ガス放出の少ない自然再生エネルギーへとエ
ネルギー供給転換を図る対策・施策の一環であった。
2011年3月11日、東日本は、マグニチュード9.0の
写真1 日本の傑出した風景の代表的要素である山岳・森林・
水の豊富な上高地(中部山岳国立公園)
巨大地震に襲われ、地震ならびに大津波はまさに未曾
有の被害をもたらした。その結果、約1万6千人の尊
い命が犠牲となり、約4000人の方々が行方不明となっ
ている。ほぼ、同時的に起きた東京電力福島原子力発
電所事故は、甚大な電力不足を生じさせ、広域かつ長
期間にわたる放射能被害を放出し続けている。この衝
撃的な災害事故が、わが国のエネルギー政策を見直す
新・実学ジャーナル 2011.12
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