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二極化が進む国債市場
みずほインサイト マーケット 2014 年 4 月 30 日 二極化が進む国債市場 市場調査部シニアエコノミスト デフレ脱却後を展望する国債管理政策と長期金利 03-3591-1249 野口 雄裕 [email protected] ○ 10年国債利回りが0.6%台前半の狭いレンジで推移し膠着感を強めている。一方、超長期ゾーンの 利回りは上昇し易い地合いが続いており、国債市場の二極化が見られる。 ○ 超長期ゾーン利回り上昇の要因としては、超長期ゾーンの投資家が、生命保険会社や年金基金等、 利回りを重視していることや、国債発行計画での超長期国債の発行増への懸念などが考えられる。 ○ 財務省は、デフレ脱却後を展望し国債管理政策で平均残存年限の長期化を進める方針を示している。 今後、債券市場の投資家層の変化とともに、イールドカーブの更なるスティープ化が見込まれよう。 1.狭いレンジで推移する 10 年国債利回り 10 年国債利回りは日銀の量的・質的金融緩和後に 0.9%台まで上昇したが、その後は日銀による大量 の国債買入れにより低下基調で推移し、足元では 0.6%台前半で概ね横ばい圏での推移となっている。 (図表 1)。年初以降は新興国不安や、寒波による米経済指標の下振れ、ウクライナ情勢の緊迫化などを 受け低下し、一時当面の下限と見られた 2013 年 11 月の水準 0.58%を下回った(3/3)。但し、0.5%台 に入ると利回りの低下は進みにくい状況だ。名目金利から消費者物価上昇率を差し引いた実質金利がマ イナス圏に低下し投資妙味にかける水準が続く中、米景気回復に伴う米金利や株価の上昇への警戒感が 強いためと考えられる。消費者物価が日銀の想定通りに上昇していることへの警戒感もあるだろう。 図表 1 10 年国債利回りと株価の推移 (円) 17,000 (%) 1.0 10年国債利回り (右目盛) 16,500 0.9 16,000 15,500 0.8 15,000 14,500 0.7 14,000 0.6 13,500 13,000 0.5 日経平均株価 (左目盛) 12,500 12,000 0.4 4 5 6 7 8 9 10 2013年 (資料)Bloombergよりみずほ総合研究所作成 1 11 12 1 2014年 2 3 4 (月) 消費者物価(除生鮮食品)の前年比上昇率は、3 月に+1.3%まで上昇した。黒田総裁は物価目標 2%達 成への強気の姿勢を示し続けており、日銀の追加緩和期待は足元やや後退している。一方、株価が上昇 しても利回りの上昇幅は限定的だ。利回りの上昇を抑制する最大の要因は毎月の国債発行額の約 7 割に 達する日銀の国債買入れであるが、加えて消費増税後の景気下振れ懸念やウクライナ、中国などの新興 国不安も債券市場では根強いものと考えられる。 2.二極化が進む国債市場 以上のように、10 年国債利回りは概ね横ばい圏での動きとなっているが、国債利回りを年限別に見る と、期間 20 年以上の超長期国債の利回りは上昇しやすい地合いとなっている。 国債のイールドカーブについて、日銀の追加緩和が行われる前の 2013 年 4 月 1 日と足元を比較すると (図表 2)、短期ゾーンと超長期ゾーンの利回りが上昇している。短期ゾーンが上昇しているのは、昨年 4 月の追加緩和前の時点で、現在 0.1%となっている日銀当座預金の超過準備に対する付利引き下げへの 期待が市場で高まっていたものの、見送られたことが要因だ。一方、超長期ゾーンの上昇は、①超長期 ゾーンの利回りが生命保険会社等の資産運用で求められる水準を下回っていること、②国債発行計画で の超長期国債増額への懸念、③金融政策でコントロールできる短期ゾーンの利回りと異なり超長期ゾー ンの利回りは先行きの政策変更への思惑や財政要因などで変動しやすいことなどが考えられる。 まず、①について、超長期国債の投資家別売買高の推移を見ると、生命保険会社や年金基金が買い越 しの主体となっている(図表 3)。生命保険会社の負債は支払いまでの期間が長期となる保険金に対応す る負債(責任準備金)が多くを占めており、負債デュレーションは長期である。このため、生命保険会 社はバランスシート運営の観点から負債デュレーションの長さに見合った長期資産を保有する必要があ り、超長期国債の積み増しを進めてきた。かつて生保は株式投資を主要な長期運用手段としていたが、 1990 年代後半以降は株式の運用割合が大きく低下した。バブル崩壊以降、株式の収益率が大きく低下し 図表 2 イールドカーブの変化 図表 3 (%) (%) 0.20 2.0 主要投資家の超長期債投資動向 (兆円) 3.0 差(右軸) 1.8 2014年4月28日 1.6 生命保険会社 2.5 0.15 2013年4月1日 2.0 1.4 0.10 1.5 1.2 0.05 1.0 1.0 0.8 0.5 0.00 0.6 0.0 0.4 ▲ 0.05 0.2 ▲ 0.5 都市銀行 農林系金融 生損保 年金資金等(信託銀行経由) 0.0 ▲ 0.10 1 5 10 (資料)みずほ総合研究所作成 15 20 25 30 ▲ 1.0 地方銀行 第二地銀 外国人 信託銀行 信用金庫 ▲ 1.5 1 (年) 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2012年 (※)買付額-売付額、超長期債 (資料)日本証券業協会 2 2 2013年 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 2014年 3 たことに加え、会計基準の見直し1を受けて、株価変動リスクを削減しようとする傾向を強めたことが影 響している。生命保険会社の資産運用においては、保険契約で取り決めた予定利率2を確保する観点から 一定の利回り水準が要求される。新規保険契約における予定利率は 2013 年 4 月に 1.5%から 1.0%に引 き下げられているが、2012 年度の一般勘定の資産運用利回りは 2.36%、公社債の運用利回りは 2.0%と なっており、なお資産運用全体での予定利率は 2%を上回る状況にあると考えられる。最近の超長期国 債の売買動向を見ると生命保険会社の買い越し額がやや減少している。これは、超長期国債の利回りが 2%を下回り、生命保険会社の運用で求められる水準を下回っているためと考えられる。生命保険会社や 年金基金のような利回りを重視する投資家の割合が高いことが超長期ゾーンの利回り上昇の一因である。 また、②については、国債発行計画で超長期国債の発行が増額されていることが、需給が緩む要因と して意識されている。2014 年度国債発行計画では 30 年国債の発行が増額される予定で、市中国債発行 額に占める超長期国債の発行シェアは更に高まる見込みだ(図表 4)。 ③について、日銀の金融緩和政策は短期ゾーンの金利を引き下げる効果は大きいが、超長期ゾーンの 利回りまで完全にコントロールできないことも超長期ゾーンの利回り上昇の一因と考えられる。OIS カーブを昨年 4 月と比較すると、今後 5 年程度は政策金利が低位で推移することが織り込まれている点 は変化がない(図表 5)。一方、5 年以上については昨年 4 月よりも上昇している。市場では、量的・質 的金融緩和により当面の間政策金利は低位で推移するものの、その後については昨年 4 月時点よりも早 いペースで政策金利が引き上げられることが織り込まれていると考えられる。これは、量的・質的金融 緩和で物価目標 2%の達成時期が早まることを市場が意識していることを反映したものであろう。この ように、超長期ゾーンの利回りは先行きの政策変更への思惑などで変動しやすい。 超長期ゾーンの利回りが上昇傾向にあることは期間 30 年までの国債利回りの主成分分析からも見ら れる傾向だ。過去 15 年の期間 30 年までのスポットレートの動きを、主成分分析により金利水準要因、 スティープニング要因、イールドカーブの曲率3要因に分解すると、2013 年以降、金利水準が低下する 図表 4 年限別国債発行シェアの推移 図表 5 (%) 45 40 (年) 9 計画 平均償還年限(右軸) 10年国債 35 OISカーブの変化 (%) 1.6 8.5 1.4 8 1.2 2014/4/30 2013/4/1 7.5 30 1 7 25 6.5 短中期債 20 6 15 0.8 0.6 5.5 10 超長期債 5 流動性供給入札 0.4 4.5 0.2 4 2014 2012 2008 2006 2004 2002 2000 1998 1996 1994 (※)超長期債:20~40年 短中期債:2~6年 (資料)財務省よりみずほ総合研究所作成 2010 物価連動債 0 5 0 6カ月 11カ月 5年 10年 15年 20年 (資料)Bloombergよりみずほ総合研究所作成 (年度) 3 25年 30年 中でスティープニングと曲率の低下が進んでいることがわかる(図表 6)。金利水準の低下は日銀の量 的・質的金融緩和による影響と考えられる。スティープニングと曲率の低下は 2000 年代半ばにも見られ たが、この時期は景気回復により金利水準の上昇が見られた。金利水準が低下する中でのスティープニ ングと曲率の低下は、超長期ゾーンの利回りが他のゾーンと比較し相対的に上昇していることを示して いる。今後金利水準が上昇すれば、スティープニングと曲率の低下が更に進む可能性も考えられよう。 3.デフレ脱却後を展望する国債管理政策 財務省が昨年 12 月に発表した 2014 年度国債発行計画では、デフレ脱却後の国債市場を展望した施策 が盛り込まれた。具体的には①平均償還年限の長期化、②国債市場の流動性向上、③物価連動国債市場 の育成の 3 点である。 ①平均償還年限の長期化については、30 年国債が増額される一方、2 年国債や 1 年割引短期国債が減 額され、平均償還年限は 8 年 5 カ月と前年度から 6.6 カ月長期化することとなった。財務省の狙いは超 長期国債の発行を増額することで国債の償還時期を分散させ政府の資金繰りに余裕を持たせることに加 え、金利が上昇する前に低利で長期の資金調達を行う点にある。IMF(Fiscal Monitor October 2013) によると、対GDP比での要調達資金総額(満期到来債務+財政赤字)の 2014 年見通しにおいて、日本 は 58.1%と主要先進国でトップの水準である。2 位のイタリア(28.1%)、3 位の米国(24.3%)との差 は大きい状況だ。 ②国債市場の流動性向上については、流動性供給入札4の規模が増額されると共に、リオープン方式5が 拡充されることとなった。いずれの措置も、流動性の低下した銘柄の発行規模を拡大することで、市場 の流動性低下を抑制する施策である。昨年 4 月に日銀が量的・質的金融緩和を導入して以降、国債売買 高は日銀の国債買入れを除き低位で推移し流動性が低下している。流動性の低下は金利上昇時のボラテ ィリティ上昇リスクを高めることから、デフレ脱却後の金利急上昇を回避する施策として流動性向上策 の重要性は高まっている状況だ。 図表 6 主成分分析 第1主成分(水準:右軸) 4 5 第3主成分(曲率:左軸) 3 2 ス 金 テ 曲 利 率 上 低 昇 プ 下 化 ィー 10 5 曲率低下 0 1 ▲5 0 スティープ化 ▲1 金利 低下 ▲2 第2主成分(傾き:左軸) 05 06 07 08 09 10 11 (資料)Bloombergよりみずほ総合研究所作成 4 12 13 ▲ 15 (暦年) 金 フ 曲 利 ラ 率 低 上 下 ト 昇 化 ッ ▲3 ▲ 10 ③については、2013 年度に 5 年ぶりに発行が再開された物価連動国債の発行増加が盛り込まれた。日 銀の量的・質的金融緩和が成功すれば、物価と長期金利の上昇が進む可能性が高い。物価連動国債は、 物価の上下動に応じて元本価格が変動する債券であり、投資家のインフレ対応のための品揃え拡充につ ながるものだ。 4.超長期ゾーンの利回りは上昇しやすい地合いが続く見込み 国債発行における平均償還年限の長期化は、債券市場の投資家層の変化を促進するだろう。また、超 長期国債の発行が増加することで、イールドカーブは緩やかにスティープニングしていくと考えられる。 我が国の国債の保有者は、バブル崩壊以降預金取扱金融機関が中心となってきた。企業の借り入れが 減少する中、預金取扱金融機関の預貸ギャップが拡大し余剰資金が国債市場に流れ込んだ。しかしなが ら、今後は平均償還年限の長期化(図表 7)により、国債市場での預金取扱金融機関のシェアが低下し、 超長期国債中心に投資する生命保険会社や年金基金のウェイトが高まると予想される。こうした動きは、 長期金利が急上昇した場合の預金取扱金融機関の国債の含み損リスクが軽減されるという観点では好ま しい動きと言えよう。預金取扱金融機関が大量の国債を抱えた状態で金利が急上昇すると、金融システ ムへの影響が懸念される。一方、生命保険会社は持ち切り運用を前提とした責任準備金対応債券につい ては原則として時価評価を行なっていない。生命保険会社の負債のデュレーションは約 15 年であり、資 産と負債のデュレーションギャップの縮小を進める中、当面、超長期国債の需要が見込まれよう。 超長期国債の発行残高が増加することで、需給の緩みが意識され、イールドカーブはスティープニン グしやすい地合いが続くと考えられる。また、既述の通り、超長期国債の利回りは政策変更への思惑な どによる変動が大きい。アベノミクスが成功し、消費者物価上昇率が日銀の目標である 2%に近づけば、 出口戦略が近づくとの見方から超長期ゾーンの金利が大幅に上昇する可能性がある。逆にアベノミクス が成功せず、国債発行残高の増加が続く場合も、財政悪化懸念の高まりから超長期ゾーンの金利が大き く上昇するであろう。 図表 7 国債平均償還年限と主要投資家のデュレーション推移 (年) 生命保険会社の負債デュレーション:約15年 15 13 11 生命保険会社 9 国債平均償還年限 7 年金 5 銀行 3 05 06 07 08 09 10 11 (※)デュレーションは平均 (資料)財務省、QSS月次調査(最新調査:2014年3月3日)よりみずほ総合研究所作成 5 12 13 (年度) 金利上昇局面では生命保険会社による購入も期待できるだろう。但し、中長期的に考えると、生命保 険会社への依存を高めることはリスクを伴うものだ。今後、金利上昇局面で金融商品の利回りが上昇す ると、生命保険会社の契約者が保険契約を解約して他の金融商品に乗り換える可能性がある。こうした 動きは負債デュレーションの短期化につながる。また、今後の我が国の人口動態の変化も負債デュレー ションを緩やかに短期化させる可能性がある。高齢化に伴い老齢世代のウェイトが高まれば、加入者全 体の平均余命が短期化し、負債デュレーションの短期化につながる。生命保険会社は資産のデュレーシ ョンを短期化し、金利リスクの抑制を行うだろう。生命保険会社の超長期国債に対する需要は鈍化する 可能性がある。 国債管理政策における平均償還年限の長期化は、当面の歳入・歳出バランスの改善には効果があるだ ろう。但し、平均償還年限を長期化しても、償還が分散されるだけで償還金額の合計が変わるわけでは ない。国債管理政策において国債の安定消化に向けた取り組みを進めると同時に、財政再建を早急に進 めていくことが求められよう。 【参考文献】 金融機構局 菅和聖、倉知善行、福田善之、西岡慎一(2012) 「わが国生命保険会社のバランスシート構 造と国債投資」(日銀レビュー) 1 2 3 4 5 2000 年に時価会計が導入されたほか、2012 年 3 月期決算からソルベンシーマージン比率が見直され、国内株式の価格変動等リ スク係数が 10%から 20%に引き上げられた。ソルベンシーマージン比率は保険金等の支払能力の充実度を示す指標 生命保険の契約者に対し約束する運用利回り イールドカーブの曲がり具合。曲率の低下はイールドカーブで相対的に超長期ゾーンが上昇していることを示す 構造的に流動性が不足している銘柄や、需要の高まり等により一時的に流動性が不足している銘柄を追加発行することで、国 債市場の流動性を維持・向上させることを目的として、2006 年 4 月に開始された制度 新たに発行する国債の元利払日と表面利率が既に発行した国債と同一である場合、原則として当該既発債と同一銘柄の国債と して追加発行(リオープン)し、既発債と同一銘柄として取り扱う方式 ●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに 基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 6