...

日本病院会雑誌 病院学 2004年1月号

by user

on
Category: Documents
14

views

Report

Comments

Transcript

日本病院会雑誌 病院学 2004年1月号
日本病院会雑誌
目
病院学
2004年1月号
次
グラフ:富士宮市立病院と富士 …………………………………………………………………
巻頭言:2004年 年頭所感「新医師臨床研修必修化と診療報酬の矛盾」… 中山 耕作
7
11
<病院長・幹部職員セミナー>
特別講演「診療報酬制度と今後の動向」…………………………………… 西山
正徳
13
同
「現代の病院経営」 ………………………………………………… 滝上宗次郎
35
同
「今後の看護の質と安全を確保するために」………………… 浅川 明子
43
緊急報告「手術に用いられる保険適用外診療材料について」………… 石井
暎禧
55
<第53回日本病院学会・シンポジウム>
「機能分化と医療経営」 ………………………………………………………………………… 67
―病床区分選択へのファイナルカウントダウン―
武田俊彦・梅里良正・近森正幸・加藤由美/座長
関田康慶
<薬事管理研究会・講演>
「病院薬剤師と薬剤経済分析」……………………………………………… 白神
誠
119
「激動する医療提供体制を考える」………………………………………… 野添
満
139
「検疫所(Quarantine Office=40日の役所)の由来」……………… 海老沢 功
153
<寄
稿>
病院経営管理者養成課程通信教育「通教月報」巻頭言・優秀卒業論文 ……………… 157
<一番町だより>
平成15年度第7回定例常任理事会議事抄録(平成15年10月25日)…………………… 171
<掲示板>
電気手術器等に係る自主点検等について…………………………………………………… 179
(薬食審査発第1201003号,薬食安発第1201003号,平成15年12月1日)
医療機関における医療事故防止対策の強化について…………………………………… 180
(医政発第1127005号,薬食発第1127002号,平成15年11月27日)
「広告が可能な医師及び歯科医師の専門性に関する資格名等について」の
一部改正について(医政総発第1119001号の2,平成15年11月19日)……………… 182
巻 頭 言
2004年 年頭所感
新医師臨床研修必修化と診療報酬の矛盾
中
山
耕
作※
2004年,明けましておめでとうございます。
今年は医療界にとって,大きな変革の年を迎えました。それゆえ各病院にとっ
てその存在意義を問われる重要な時を迎えることになりました。
その最たるものが「新医師臨床研修制度」であります。今こそ会員病院の独
自性と特色を活かした研修体制を構築するチャンスだと考えます。
国民の医療に対する需要は年々多様化し高度化する一方,医療の質と効率を
求められています。さらに卒後臨床研修必修化が相まってますます柔軟性のあ
る組織体制への発展が求められています。今回の法改正は,そんな意味でも深
く考えさせられるものがあったと思います。
子供は,小さいときに覚えた癖や習慣は大人になってもなかなか失わないも
のです。家屋の建築も同様に丈夫な基礎の上にこそ立派な家が建つのだと思い
ます。医師の育成も同様に考えられます。医師としてスタートを切ったときか
ら,その教育の仕方によってどのような医師にでも育ち得るものだと考えられ
ます。医師としての土台をしっかり固定しさえすれば,あとは自身で如何様に
も加工出来るものでありましょう。
卒後臨床研修では,それぞれの病院が独自の研修カリキュラムやプログラム
を作成したことと思います。問題は,紙面上のプログラムではありません。研
修の中身が伴わなければなりません。今回の法改正で国民の医療需要に直接関
わってくるプライマリ・ケアの分野については,一層充実した研修が進められ
るよう重点課題として盛り込まれています。本来の目的はそこにあるのだと思
います。今まで,習熟した専門の医師を育てることに重きを置いていたものが,
プライマリ・ケアの上に専門技術があることがはじめて明文化されたことは大
変喜ばしいことであります。
今年から始まる「新医師臨床研修制度」の本当の意味での評価は,マッチン
グでもなく紙面上のプログラムでもなく,2年後の成果にあることだけは念頭
に置いていただきたいと思います。そのような意味でも2年後にどのような医
師に育ってゆくか非常に興味と期待が持てるところであります。
医師の卒後研修を振り返ってみると戦前まで卒後研修はなく,昭和21年(1946
年)よりインターン制度が開始され,昭和43年(1968年)にはインターン闘争
を経て制度廃止に至った次第です。
※なかやま
こうさく
(社)日本病院会会長
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
聖隷浜松病院総長
11(11
11)
ごく最近まで研修医は制度上存続していましたが,自由選択で義務化はされ
てはおりませんでした。その上労働条件については,いろいろと問題があがっ
てきました。それは生活の保障がなかったからであると考えられます。研修医
も生活の保障がなければ,本来持っているはずの意欲,集中力,行動力は減退
し,質の向上や患者へのサービス,医療・医学の学習・訓練に支障を来たしか
ねませんし,医療事故を招きかねません。我々は彼らの生活を保障させるよう
政府に働きかけています。そのためにはまず財源の確保です。まず一人あたり
年間200万円といわれる研修補助金をさらに増額要求せねばなりません。一般会
計からの支援が望まれるところです。ある病院の調査ですと,年間一人の研修
医に使うお金が約600万円だそうです。その差額はすべて病院の持ち出しとなる
のです。到底賄えるはずがありません。全額要求とまではいかなくとも,生活
保障と教育費用は継続して要求していきたいと考えます。
財源の確保という点でいうなれば,今年度の診療報酬引き下げが大きな問題
となります。2002年度に行われた診療報酬の引き下げでは,2.7%という厳しい
ものでした。財務省案ですと,それをはるかに上回る5%程度の引き下げを予
定しているとすれば病院にとっては死活問題となることは必至です。そのよう
な事態の中で臨床研修医の十分な教育は不可能・不十分となります。日本病院
会として今後も医療保険制度向上に働きかけを続ける必要があると思います。
われわれ会員病院は一丸となって国民のために矛盾を正し,国民と共に平和
で健全で豊かな日本を築くことに努力したいと思う次第です。
今年も会員病院のさらなるご理解とご協力をお願いし,新年の挨拶といたし
ます。
12
12(12)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
病院長・幹部職員セミナー・特別講演
診療報酬制度と今後の動向
厚生労働省保険局医療課課長
西
山
正
徳
平成15年8月・東京
ご紹介いただきました医療課長でございます。
きょうはこのような会に参加できてうれしく思っ
ています。時間も限られていますので,早速現在
ろも非常に大きな課題でございます。
医療費の動向
の私どもの作業なりをお聞きいただいて,今後の
これ(スライド1)は医療費の動向ですので,
参考にしていただければと。あとで説明申し上げ
釈迦に説法でありますが,日ごろ先生方あるいは
ますけれども,何といっても昨年9月以来2度ほ
看護師の方々もご案内のとおりでありますけれど
ど中医協で諮問答申をさせていただきまして,1
も,やはり政府として問題にせざるをえないのは,
つはこの4月から実施されていますいわゆる DPC
この老人の医療費の伸び率であります。
と呼ばれる制度でありますけれども,私どもかな
り精力的な作業をしまして,現在のところ大学病
一人当たり診療費(平成12年度)
院からは大きなクレームというのはきていないわ
この毎回出している資料(スライド2)であり
けでありますけれども,ただ,包括部分の問題で
ますけれども,1人当たりの診療費の平成12年度
すとか,あるいは医療材料の問題ですとか,いろ
を見ますと,老人と若人でこれだけ違うと。当然
いろと要望されているところであります。その制
でして,これは1人当たりに直しますので,患者
度をこれからどうしていくのかというようなとこ
さんが多ければそれだけ老人の方が入院も外来も
スライド1
医療費の動向
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
13(13)13
スライド2
スライド3
医療費が高くなるわけでありますけれども,入院
いうことで,実は財政中立の形でこの6月から再
は長期入院化している部分がここに入っています
改定をさせていただいた訳であります。
ので一概に若人と比較できませんけれども,とく
に外来に医療費は診療回数,要するに受診回数が
各保険者の状況(平成12年度)
影響しています。ですから,このへんのところで
現在私どもいろいろと作業をやっていますが,
例えば再診料の逓減制を14年改定で加えたわけで
この各保険者の状況を見ながら診療報酬改定も行
ありますけれども,データを見てみると,再診料
うわけですけれども,健保連もそうですし,それ
の逓減制を導入したのですが再診回数は減ってい
からきのうきょうと新聞に載っていましたけれど
ない。逆に微増していたというようなこともあり
も,政管健保も赤字体質から抜けられないという
まして,ちょっと制度設計をもう一回見直そうと
ようなところがあって,これを見ていただくとお
14
14(14)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
分かりのように,まずポイントは老人の加入割合
当たりの診療費も高い。しかも,法定で給付金の
であります。政管健保,組合健保,御覧いただき
50%は国庫負担するということでありますから,
ますように5.6%,2.8%と。あとで国保のデータ
現在の状況は健保組合が倒産等でなくなるケース
をお見せしますけれども,老人加入割合は政管健
が多いわけでありますけれども,そうしますと市
保,組合健保の方が低い状況にございます。
町村国保に移ってまいります。移ってくればくる
もう一つは,国庫負担のところを見ていただき
だけ国庫負担が増えると。3兆2,735億円になって
ますと,やはり政管健保,組合健保とも健康保険
いますけれども,これがどんどん増えていく傾向
組合ですから国庫負担は極めて少ないように抑え
にございます。1人当たりの診療費も16.4万円と
ております。政管健保は13%国庫補助しています
いうことで,老人加入割合が多いわけですから高
けれども,ドイツのように保険料はすべて組合で
くなってくると。
賄うというようなことになっていませんので,し
時間いっぱい話させていただきますけれども,
たがって2年に1度診療報酬改定をやるときに財
診療報酬の課題は何といってもこの保険者構成と
けんけんがくがく
務省と私どもが喧喧諤諤の議論をしていくと。こ
いうものが本当に国民皆保険が成り立つのかとい
の国庫をめぐっての議論であります。
それから,1人当たりの診療費でありますけれ
うことが一番の最大のテーマであります。年金の
ども,これは12万と10万2,000円と。
(スライド3)
割ぐらいしかいないと新聞報道されていましたけ
これ(スライド4)は市町村国保でありまして,
れども,国保などもやはり収納率でいえば9割を
方も収納率といっていまして,納める方の数が6
この図で一番お分かりいただきますように,老人
切るぐらいの勢いです。したがって,1割の方は
の加入割合が26.2%と,先ほどの数字と比べると
保険料を納めないと。それで非常に社会保険庁と
かなり大きい数字になっています。要するに市町
かいろいろ苦労していますけれども,少なくとも
村国保は老人を多く抱えていて,したがって1人
今の流れは非常に悪い方向に行っているのではな
スライド4
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
15(15)15
いかと。一番健全な保険組合というのはやはり健
保連だろうと。自分たちのお金で自分たちの会員
医療保険医療費(推計)・人口構成(推計)
の医療費を賄う,これが一番健全だと思いますけ
私ども医療保険の医療費の推計をしますと,こ
れども。そうはいっても高齢化社会を迎えるにあ
のように平成37年度でありますけれども,約65.6
たってそれを乗り切るためには税金の投入が必要
兆円を見込んでいます(スライド5)。この特徴は
だということで国保に対しては3兆いくら。これ
75歳以上の方の医療費に半分とられてしまうと。
に年金と介護保険を合わせてかなりの一般会計の
ですから,介護保険が増えます。介護の方が増え
なかの予算を食ってしまうというようなことで,
ても,これは医療費ですから,医療費の方34.3兆
社会保障制度はやはり政治を挙げての最大のこれ
円増えてしまうと。この推計については日本医師
からの問題であります。これはいわずもがなであ
会初めいろいろ疑義がございますけれども,単純
りますが。
に今の医療費の3年間の平均である3∼4%の率
で伸ばしていくとこうなるということでありま
スライド5
スライド6
16
16(16)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
す。ですから,これだけのお金を今が30兆円です
です。新しい高齢者医療制度の創設ということで,
から,約35∼36兆円これから増えていくとすれば,
おさらいでありますけれども,今の老人拠出金は
そのお金をだれが負担できるのかということが究
例えば健保組合であれば保険料収入の4割程度を
極の課題であります。
拠出金として老人医療費に回すわけであります。
昨年の健保法改正のときに,患者の自己負担の
したがって,自分のところの組合で使えるお金と
増,それから保険料率の総報酬制ということでの
いうのは法律で6割ぐらいしかないというような
増,こういうことがあって,だいぶ国会も自民党
ことになってしまいますので,非常に不満が高
内でも大もめにもめたわけでありますけれども,
まっております。したがって,新しい高齢者医療
一応決着がついて法案が通りました。
制度をどうするのだというようなことがこれから
医療保険制度改革に関する基本方針の策定等
の医療保険制度を乗り切るための一つのキーポイ
ントであります。これが2点目であります。
ちょっと細かな字なのでお手元の資料(スライ
3点目は診療報酬体系の見直しということで,
ド6)で見ていただきたいと思いますけれども,
これはのちほど述べますけれども,いろいろと体
そのときにいくつかの宿題が出されました。これ
系全体を見直したらどうかと。
は①,②,③とありますけれども,保険者の統合
以下,下に書いてございますけれども,健康保
再編を含む医療保険制度の体系のあり方。のちほ
険の保険者云々,いわゆる社会保険病院のあり方
ど申し上げますけれども,医療保険制度はやはり
の見直しということで,これは200億円ぐらいの政
どう考えても保険者と先生方のいわゆる医療提供
管健保の保険料が社会保険病院の建設費用等に
者側のマッチング,円滑に運営されなければいけ
回っているというようなことが事実明らかにされ
ないということになりますと,今医療機関の数と
まして,それのあり方を見直していこうじゃない
いうのは約20万程度ございます。もちろん病院・
かと。統廃合みたいな話になるかと思いますけれ
診療所を入れてでありますけれども,20万程度あ
ども,そういったことやら,以下見てお分かりの
る。保険者の数というのは5,000ぐらいあります。
とおりの項目についてそれぞれ年度を定めて,右
私は前職で支払基金におりましたけれども,その
側に書いてございますけれども,これはおおむね
20万の医療機関と5,000の保険者を結ぶ機能が支
何年にやる,3年を目指すとか5年をめどにとい
払基金であり国保連である。先生方の病院は都道
うことで書いてございます。ですから,支払基金
府県知事に届出をすれば,保険者と個々に直接的
および国保連による診療報酬の審査および支払に
に契約しなくても契約関係になると。こんなこと
関する事務処理体制の見直しと書いてあります。
で今現在運営しているわけです。
これも非常に大きな問題になります。それから,
米国のように保険者と医療機関と直接契約する
医療事故に迅速かつ適切に対応するための専門家
というようなことになりますと,非常に事務が煩
による苦情処理体制の整備。こういったことが健
雑になります。先生方の医療機関と5,000の保険
者,市町村全部です。地域によっては数は減るで
しょうけれども,そういう方たちと契約を一々交
わさなければいけないということになりますの
で,非常に事務が煩雑になります。そのために保
険者を統合再編しようということでありますか
ら,今市町村合併が今進められていますので,
3,000いくつある市町村をもっと少なくしていく
というようなことになれば,国保の患者などの契
約は非常にスムーズになるだろうと。こんなこと
が一つあります。
2点目でありますけれども,これは最大の課題
スライド7
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
17(17)17
康保険法の附則で書かれましたので,国会に毎年
毎年その成果を政府側としては報告して,それに
ついての承認を受ける,こんな手続きがございま
ただいたわけであります。
基本方針の考え方
基本方針の考え方,医療保険制度体系と診療報
す。
診療報酬の見直し体系については,ここに書い
酬体系にはこのようなこと(スライド7)で書い
てありますように平成14年度中に措置しなさいと
てございます。とくに診療報酬体系については医
いうようなことで,この3月に閣議決定をしてい
療技術の適正な評価をしていこうと。それから,
スライド8
スライド9
18
18(18)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
医療機関のコストや機能の適切反映をしていこう
と。3点目でありますけれども,患者の視点の重
視。
この3つの切り口で診療報酬体系を組み立てて
再構築していったらどうかというようなことで,
私どもの坂口厚生労働大臣ともさまざまな観点か
ら相談して,とりあえずこの3つの点で整理しよ
うと。
保険者の再編・統合の基本的考え方
上の方の医療保険制度体系もこの3つの視点か
ら体系的に整理していこうと。まず保険者の話を
先に簡単に申し上げますと,今ある市町村国保,
スライド10
政管健保,健保組合をやはり都道府県単位の運営
にもっていこうではないかというようなことで,
都道府県を単位とした地域型健保組合の設立です
保険者の規模
とか都道府県を単位とした財政運営の導入。それ
その理由としまして,ここ(スライド9)にあ
から,市町村国保も広域連合との活用により,都
りますように保険者の数,さっきいった5,244であ
道府県において安定した保険運営を目指す。だか
りますけれども,諸外国を見てみると,例えばド
ら,すべて都道府県単位で保険者機能なり保険者
イツ,フランス,アメリカなどではこの数であり
というものを運営していったらどうかと,こうい
ます。人口の比ももちろんございますけれども,
うことを提案しております。(スライド8)
わが国は極めて多い。この極めて多いのが市町村
スライド11
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
19(19)19
国保であります。市町村国保としかも組合健保も
多いのです。逆に政管健保一本で非常に大きく
なって,社会保険庁という庁をつくって,そこで
健保組合及び市町村国保における被保険者数の
分布
運営をしていると。保険者機能でありながら病院
スライド10は健保組合,市町村,国保の加入の
を経営していたり税の徴収もするという,非常に
人口別の数ですので,あとでお読みいただければ
多元的な業務を行っていますけれども,その全国
と思います。
一本の組織でいいのかというのがやはり問われて
いる段階になっています。戦後の医療保険制度を
都道府県別老人1人当たり診療費
考えると非常に大きな役割を果たしてきた政管健
それから,もう一つ,スライド11を御覧いただ
保でありますけれども,今後こういうことを踏ま
きたいのでありますけれども,医療費の都道府県
えて少し活力を与えるためにどういう手立てがあ
格差,老人1人当たりの診療費の都道府県別割合
るのかというような議論をこれからすると。
でありますけれども,これだけばらつきがござい
ます。いわずもがなでありますけれども,長野は
一番低い。それから,北海道,高知あたりが一番
高いというような数字でありますけれども,こう
なったときに当然高いところの県では保険料率が
高いのではないかと普通はそう考えますけれど
も,実は健保組合などは企業ごとに保険料率が違
いますし,政管健保も一本化されてきています。
保険者別の再編・統合の考え方
そういう意味では国保の保険料率が一番反映さ
れるのだろうけれども,それもこれとは別にまた
市町村ごとによって違いますので,このへんの保
険料率と1人当たりの診療費の関係をどう考えて
スライド12
いくのかと。
スライド13
20
20(20)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
いってみれば,都道府県がきっちりして,都道
もう一方,高齢者医療制度について現在基本方
府県単位で地域を見ていただければ,そのなかで
針で提案していますのは,後期高齢者と前期高齢
医療費の高いところはそれなりに努力していただ
者を分けること。75歳以上の後期高齢者と,今の
けるのではないかというふうなことが考え方とし
65歳老人保健法でやっている老人医療制度,そう
てはありうるわけです。医療機関の数ですとか
いうものについての新たな考え方を導入しよう
ベッドの数,そういうものが影響するのでしょう
と。(スライド13)
けれども,これだけの格差についてどう是正して
いくのかというようなことが一つの課題でありま
す。(スライド12)
高齢者医療制度の基本的考え方
高齢者医療制度についての提案等
スライド14はさまざまな団体がこれまでいって
きた案であります。日本医師会,日本経団連,健
保連。どちらかというと高齢者独自の体系をつく
スライド14
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
21(21)21
スライド15
ろうと。この3者の違いは,とくに公費の割合が
お世話になることはできないということになりま
例えば日本医師会,日本経団連は高いわけであり
すと,今の雇用の流動化からするとちょっといか
ます。75歳以上か65歳以上かという議論について
がなものかということですが,そういう議論はご
は介護保険との整合性をつけましょうということ
ざいます。
で,例えば日経連なり健保連は65歳以上としてお
ただ,こういうご提案のもとに現在の政府の決
ります。日本医師会の場合は高齢者の疾病の特性
めた案というのは,平成14年度制度改正に基づき
を見て75歳以上の独立型と,こんな提案をしてき
段階的に移行していくと,ここまで決まっていま
ました。もちろん日経連あたりは被用者保険から
す。平成15年10月までは75歳まで段階的に1年ず
の保険料をもってくることについては賛成しかね
つ高齢者医療制度を上げまして,公費の負担を現
るということでありますけれども,今のタイプで
在3割のものを5割にもっていく。この次の新た
いうと,この健保連の案が一番現在の案にも近い
な制度をどうするかという議論を,恐らく19年10
わけであります。いずれの案も高齢者から保険料
月で終わりますから,19年春の国会で承認を受け
をとるということであります。自己負担は1割程
て11月から新たな制度に移行しなければいけない
度と,こんな考えでおります。
ということですから,そんなには時間はないわけ
それから,もう一方は,連合を中心にこういう
であります。厚生労働省で議論して閣議で承認し
案を出していますけれども,いわゆる突き抜け型
ていただいたのは,この部分についてどうするの
というやつです。ある会社に入りましたら,その
かと。だから,どちらかというと,先ほどの健保
会社にずっといていただいて,死ぬまでその会社
連だとか日経連,日本医師会の案に近いわけであ
が面倒見ると。やめてしまった方は退職者健康保
りますけれども,高齢者の独立した保険制度をつ
険というのをつくって,そこで面倒見ると。全部
くりまして,そこに税金を重点的に投入すると,
国保に流れるようなことはしないという案であり
こういう案にしております。ところが,このボ
ますけれども,これも例えばある会社に20年以上
リュームがはるかに大きくなりますから,この公
勤めなければこの会社をやめてからもその会社に
費の部分も今よりもっと増えます。そういうこと
22
22(22)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
で,財政運営上耐えられるかどうか,またこの新
医療技術の適正な評価
たな制度という提案でいいのかどうか,これを審
(ドクターフィー的要素)
議会等で現在審議を開始したところであります。
医療技術については,出来高払いを基本とし,以下
のような評価を進める。
診療報酬体系の基本的考え方
○難易度,時間,技術力等
それから,本来の診療報酬体系の話になります
けれども,先ほどいった3つの点,医療技術の適
正な評価。ここ(スライド15)に難易度,時間,
技術力を重視と書いてありますけれども,これは
○栄養・生活指導,重症化予防等
○技術進歩や治療結果等を踏まえた医療技術の評
価,再評価
スライド16
一言でいえば,いろいろな先生方の技術について
も難易度があるだろうというようなことで,この
は,そういった施設基準をつくるのはいいと。た
難易度についてどう評価するのかというので,今,
だ,エビデンスがあるものについて施設基準をつ
中医協の下に診療報酬の調査専門組織というのを
くるべきだと。エビデンスとは何かというと,技
つくりまして,そこで全国の医療経済なり医療情
術が集積すればそれだけ手術の成功率が高いとい
報の専門家にお集まりいただきまして検討を開始
う,そういうエビデンスがあるのかどうか。一般
しております。
的に考えればこれはありそうだと思うんですけれ
医療技術の適正な評価(ドクターフィー的
要素)
ども,数字で出してみろと,例えばこんな意見が
ございまして,少しこれも見直しを視野に入れな
がらデータを集めていこうと。のちほどまたスラ
べースは外科系の学会の集まりであります外保
イドがありますけれども,いずれにしても医療技
連という団体が手術・処置・検査については難易
術の適正な評価というのはこういった軸を考えて
度を公表しております。それに基づいて少し相対
いこうじゃないかと。医療技術が非常に中心にな
的な係数を見ていったらどうかと。(スライド16)
りますのはこういった外来ですとか,あるいは入
それから,時間についてはまだ判断が分かれて
院でも包括払い以外の出来高の部分です。こう
いまして,1つは今時間のしばりのある点数がご
いったものについては技術というものをきっちり
ざいます。何とかを30分以上やらなければ算定で
評価していこうと。
きないとか,そういった時間の概念をもう一回レ
ビューしてみると。20分,30分,例えばリハビリ
45分とかありますけれども,そういったもので果
医療機関のコスト等の適切な反映(ホスピタル
フィー的要素)
もう一方は,この箱のところ(スライド17)で
たして妥当なのかどうか。
それから,もう一つ,これはできるかどうか分
ありますけれども,入院のいわゆるホスピタル・
かりませんけれども,例えば再診料の議論のとき
に,非常に時間がかかる初再診の患者もいれば,
時間の短い患者もいる。今,初診料・再診料とい
うのは一本でありますけれども,これを時間別に
30分以内とか45分以上とか分けたらどうかと,こ
んな意見もありまして,時間に関する調査をする
必要があるだろうと。
それから,技術力ですけれども,これは2つ意
味がございまして,1つは施設基準であります。
14年4月に導入しまして8月に変更いたしました
けれども,手術の施設基準というのは非常に多く
なったわけであります。現在いわれていますこと
スライド17
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
23(23)23
フィー的な部分。医療機関のコストや機能の適切
な反映をしていこうじゃないかということで,こ
の書き方はちょっと語が硬いのでありますけれど
も,急性期は基本的には出来高であります。今 DPC
という話を申し上げましたけれども,いきなりす
べての病院を DPC にしようというようなことでは
なくて,今,中医協で議論をしておりますけれど
も,まず特定機能病院82で始めたということでご
ざいますけれども,その考え方というのをもう一
回整理して評価をしていこうじゃないかと。疾病
の特性,重症度を反映した評価というようなもの
について後で申し上げますけれども,現在疾病の
特性,重症度を反映した評価で2,500分類できまし
た。これは ICD10という疾病分類に基づいて2,500
程度の分類ができた訳です。で,慢性期の包括は
スライド18
病態,ADL,看護の必要度等に応じた評価と書いて
ありますけれども,いわゆる疾病と DPC と異なっ
ますか老人入院医療管理料,いわゆる老人医療に
た1日定額を今導入していますけれども,それを
1日定額を入れました。初めてマルメを入れまし
もう少し病態とか ADL,看護の必要度等に応じた
た。これは先生方は覚えておられるでしょうけれ
評価をしていったらどうかと。看護の必要度につ
ども,喧喧諤諤の議論をして,入院に初めてマル
いてはまだ開発途中であります。コンプリートな
メが入った点数であります。そのときに物の見事
ものはできていませんので,これをどうするかと
に検査と薬剤が減ったわけでありますね。
いう議論がございますけれども,介護保険でいう
思い出していただきたいんですけれども,いわ
要介護度ではありませんので,少しリサーチが必
ゆる老人の薬づけ,検査づけとマスコミでさんざ
要かなと。問題は何を包括するかということが議
んたたかれた時代であります。そのときに老人診
論になる訳でありますけれども,やはり今回 DPC
療報酬に初めてマルメが導入された,入院医療に
をやりましたときに,医師の技術料については出
初めて導入されたと。そうしますと,検査とか薬
来高で,それ以外の薬剤とか検査というものにつ
が物の見事に下がったわけですね。では,粗診粗
いては1,000点以下の処置ですね,そういったもの
療にそれがなっているかというとこれは検討が必
については包括していくと。
要がなんですけれども,そう見ますと,やはり急
性期医療についても検査や医薬品については包括
入院医療の包括評価の主な経緯
したらどうかと。現在もその考え方に基づいて包
包括していく意味というのは実は2つあると
括しているわけです。のちほど述べますけれども,
思っています。1つはある患者さんにある診療行
この包括という概念というのは,やはりある意味
為を行う。そのときにいろいろデータを見ていま
ではその包括された範囲のなかでドクターなり
すと,お医者さんによっていわゆるお薬の投与量
ナースなりに検討していただいて一番最適化に向
が違ったり検査の回数が違う。これは当然であり
かうのだろうと。その最適化に向かうためのツー
ます。それがドクター側の要因なのか患者の病態
ルだろうというふうに考えていただきたいと思う
側の要因なのか,この2つによって判断が分かれ
んですね。何も在院期間を短くすればいいとか,
るわけであります。私どもこの包括に薬を入れる,
そういうことで DPC を導入しているわけではな
検査を入れるということにしたのは,ちょうど平
い。当然短縮化した方が収益が上がるということ
成2年のときに,これは(スライド18)老人診療
がございます。
報酬でありますけれども,老人入院基本料といい
24
24(24)
それから,もう一つは,スライド15の真ん中に
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
ある回復期リハ等となっていますけれども,実は
ん重点的に評価できないかと。もちろん財源意味
これは非常に私のところに声が大きく要望されて
合いのことはありますけれども,こういった新し
いますのは,亜急性期の医療であります。亜急性
い技術,そういったものを今学会にもお話しして
期といいますと定義がないのでありますが,大体
ほかにどんな技術があるのか提案をしていただき
1カ月ぐらいで通常の疾患であれば急性期は終
たいと。
わってしまうと。今,急性期の加算,例えば17日
それから,一番下のところが非常に私は大事だ
とかいっていますけれども,全体で在院期間をど
と思っています。技術進歩や治療結果等踏まえた
んどん短縮していくというのは限界があると思い
医療技術の評価,再評価(スライド16)。前回の中
ます。しかも,それがもっともっと短くなればな
医協が7月26日にありましたが,今各方面から要
るほど,医療機関は努力されますけれども,その
望のあるいろいろな技術について今後どうするの
次の医療機関に患者さんを渡さざるをえない。そ
かというようなことを一つの紙にして出させてい
うすると,その次の医療機関というのは実は看護
ただきました。その評価組織をつくりまして,そ
師の要員も介護職員の要員も3対1までないよう
こで評価をしていただくと。それをまた中医協に
なところで受けざるをえないと。そうすると,非
話をして,年度途中でもいいので新規技術として
常に労働力の強化になってしまうということで,
導入していったらどうかというような提案であり
平成12年だと思いますけれども,実はこれも疾病
ます。
特性に着目して回復期リハをつくりました。
疾病特性というのは何かというと,発症後3カ
一番直近の例は,生体肝移植であります。生体
肝移植で15歳以上の方の肝硬変,劇症肝炎には認
月以内の患者さんについて集中的に病棟でリハビ
められていないと。東大,京大,信州大学,九大,
リをするという考え方です。これは今一万何千床
北大,非常に熱心にやっておられまして,予後も
増えてきております。相当な数で増えてきていま
まあまあ6割7割いいと。ただ,医療課長通知で
すけれども,何かこれに回復期リハビリテーショ
これは15歳以上の肝硬変,劇症肝炎はだめだと書
ン以外の例えば糖尿病なりがんの末期の患者さ
いてあるんですね。そのエビデンスは何かという
ん,いろいろな方がおられますから,そういう方
と,エビデンスは実はなくて,逆に15歳以上でも
たちを医療保険の中である程度亜急性期的にケア
有効であるというエビデンスを今集めておりまし
できるような,そういったものが考えられないか
て,なるべく早い時期に15歳以上のそういった方
と。これがスライド15の真ん中にある回復期リハ
たちにも医療保険で生体肝移植が受けられるよう
の意味であります。したがって,急性期から慢性
にしたいというように考えているわけでありま
期,こういった形で入院医療の体系を変えていっ
す。
たらどうかという提案であります。そのキーワー
ほかにもたくさんそういった技術がありまし
ドというのは疾病の特性,いわゆるケースミック
て,その技術を今関係学会に提出していただいて
スをしていったらどうかという考え方でありま
います。8月いっぱいぐらいまでに提出していた
す。
だいて,9月の技術評価専門組織で評価をしてい
先ほど駆け足で話を進めましたが,医療技術の
ただくと。それをまた中医協で審議していただく
適正の評価というところで難易度・時間・技術と
ということになると思います。非常に多くのデー
いいましたけれども,もう一つ知恵を出して,医
タが出てくると思います。
療保険でも重症化予防技術というものをもっと評
今の技術はやはり先生方も実感されているで
価していったらどうかと思っております。先ほど
しょうけれども,早く導入しないといけないとい
お見せしましたように,老人の外来の患者さんが
うように思います。というのは,いろいろなデー
多い。老人は多くの病気を持っている。ですから,
タを見ても,患者にはメリットがあります。それ
やはり40過ぎの成人病の方たちに医療機関なりで
から,医療提供者側もメリットがあります。それ
栄養生活指導あるいは糖尿病の教育入院などもそ
から,実はそのことによって在院日数も短くなる,
うでありますけれども,そういったものをどんど
通院回数は減る。医療経済的にもプラスなんです
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
25(25)25
ね。ですから,2年に1度の診療報酬改定ですけ
れども,この医療技術についてはやはりその都度
エビデンスが出た段階で保険導入するべきだとい
うように思っております。
難易度の評価の例
スライド19は実は難易度の評価の例でありまし
て,現在臨床研修医制度が議論されていますけれ
ども,経験年数1年から2年の人は外科系では何
もやってはいけないと,外保連というところは
いっている訳ですね。これは研修していろと。12
年,13年以降になるとようやくこういったものが
スライド19
できるんだと。これは外科系の学会の先生方につ
くっていただいて,いわゆるこういったものです。
今申し上げたものが文書編にするとこんなこと
経験年数と対応する手術と。実はこのカテゴリー
になります。ですから,疾病特性等に応じた評価
をもうちょっと細分化していったら,現在の診療
ということでスライド17に書いてありますが,そ
報酬点数とほぼ重なると思うんですね。ですから,
の他のところでやはり救急医療だとか小児医療,
私が申し上げたのは,胃切除術が生体部分肝移植
精神医療,在宅医療,終末期医療,こういったも
よりも点数が高いというのはおかしいじゃないか
のについても議論をして適切な評価をしていく必
と,そういう意味での相対係数なんです。
要があるだろうと。
今手術でいうとKコードで955ぐらいあります
もう一つ,医療機関の機能でありますけれども,
から,それをもう一回全部分類していったらどう
今回 DPC で初めて医療機関別係数というのを導入
か,再分類していこうというようなことと,もう
した訳です。これは画期的というかこれからの運
一つは,先ほど技術評価がありましたけれども,
用次第でありますけれども,この医療機関別係数
今回の診療報酬改定で,整形外科の領域でありま
というのをどこまで掘り下げて係数化していく
すけれども介達牽引というのが消えました。私ど
か,ホスピタル・レートになりますけれども,こ
も告示というのを出しますが,そこに技術として
の今の漠とした議論では入院医療であれば臨床研
KコードとかJコードを振って名称をつけてい
修機能があるかないか,専門的医療をやっている
る。ところが,新しい技術がどんどん出てくると,
かいないか,地域医療支援機能があるかないか等
準用通知を出しまして,この技術は告示改正しな
ですね。今入院医療については看護師の数と入院
いと点数表に載せられませんから,この点数とほ
期間,これに着目しているわけです。ですからこ
ぼ同じ金額なので準用してくださいと,この準用
の入院期間も,のちほど述べますけれども全部十
通知を出します。これももう一回全部出していこ
把一からげに17日だとか20何日とかこういう形で
うじゃないかということと,介達牽引については
今回の診療報酬改定で告示から消えたんです。告
特定機能病院の機能を適切に評価し,その機能にふ
示から消えたということは算定できないというこ
さわしい良質で効率的な医療を提供する観点から
とでありますけれども,医療課長通知で介達牽引
・「診断群分類」を活用した包括評価を導入。
はこの点数だといっています。これはちょっと技
(医師技術料については出来高とし,包括範囲の
術的な問題もありますけれども,やはり告示にき
診療行為の適正化を図る)
ちんと介達牽引だとか直達牽引だとかそういう技
術の名前をきっちり出さなければいけないだろう
というようなことで今整理をしている段階であり
ます。
26
26(26)
・対前年度医療費に基づいた「医療機関別係数」を
導入。
スライド20
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
の評価よりも,DPC 別の評価。それをトータルし
かったと。ただ,データについてはきちんと出し
たらその病院の平均在院日数になりますから,少
てくださいということで,昨年7,8,9,10の
なくとも DPC 別のデータを集めて,適正な在院期
4ヵ月間のデータをいただきました。そのデータ
間,最適化をしていくというような方向というの
というのはレセプトデータとカルテ情報です。
は必要だろうと考えている訳であります。
これをバインディングするわけですから相当な
新たな作業が必要になってきますけれども,大学
包括評価の問題点と展望
病院の方々に感謝申し上げているのですけれど
ちょっと時間がなくなるので先に行きますが,
も,やはりさすがすごい膨大なきちんとしたデー
包括評価の議論でありますけれども,今申し上げ
タが集まりました。26.7万人のデータであります。
たような診断群分類を導入したということと,医
26.7万人のデータのレセプト情報とカルテ情報で
療機関別係数を導入したと(スライド20)。恐らく
すから,物すごい膨大な処理データになります。
日病の先生方のところでこの診断群分類をつくろ
スーパーコンピュータを使わなければできないよ
うと思ったらすぐつくれる医療機関というのは数
うな処理であります。ただ,そういっても,大学
多くあると思います。
病院によってはその4ヵ月間のうちの半分ぐらい
私が感心しましたのは,昨年9月から医療課長
しかデータをいただけなかったというようなとこ
をやらせていただいていますけれども,大学病院
ろもありますし,99%出していただいたところも
の方に昨年7月から10月までの退院患者のデータ
あります。この2つのツールを今回新しく導入し
をくださいと。もちろん大学病院側も最初 DPC に
たと。国立がんセンター,循環器病センターも同
ついては賛成はしていただけなかったですね。マ
じように努力していただいたわけであります。
(ス
ルメだということとそれから医療費を抑制される
ライド21)
のではないかということで,もちろん反対もあり
この包括評価の考え方は先ほどちょっと申し上
ましたし,賛成も十分な形でさせていただけな
げましたけれども,やはり診療報酬のなかで問題
になってまいりますのは,この入院直後の亡く
なってしまう方,それから治験のようにほかから
制度の概要
収入が入ってくる,メーカー負担でメーカーの特
・包括評価の対象病院
−大学病院の本院,国立がんセンター,国立循環
器病センター(82病院)
定療養費になっていますけれども,そういった患
者さん。それから,臓器移植患者さんで,ドナー
の費用が診療報酬に乗ってしまうというような患
・包括評価の対象患者
者さん。それから,高度先進医療。高度先進医療
−一般病棟の入院患者
−包括評価の対象となった「診断群分類」に該当
も自己負担が患者負担になってまいりますから,
した者
−ただし,以下の者を除く
‫܂‬入院後24時間以内に死亡した患者
‫܂‬治験の対象患者
‫܂‬臓器移植患者の一部
皮膚移植術,生体部分肝移植,同種腎移植術,
同種骨髄移植,同種末梢血幹細胞移植
‫܂‬高度先進医療の対象患者
‫܂‬回復期リハビリテーション病棟入院料等の急
性期以外の特定入院料の算定対象患者
‫܂‬その他厚生労働大臣が定める者(※)
※
スライド21
現時点では定められていない
スライド22
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
27(27)27
定額負担ではないので,これも省きました。急性
が出ております。(スライド23)
期の患者さんも外しているということですから,
ですから,こう考えますと,やはり今の診療報
大体大学病院でベッドでいえば95%ぐらいカバー
酬点数も物代と技術料が混在しているというよう
されるだろうというふうに思っております。こう
なところが結構見受けられます。ですから,それ
いった患者さん以外の方について診療報酬につい
を今後どうするのかというのが一つの検討材料で
ては包括評価部分と出来高部分を足し合わせる
あります。これも非常に複雑な形になりました。
と。包括評価部分については1日当たりの包括評
入院期間がこの2というのは平均在院日数で
価。出来高部分は先ほど来申し上げているような
す。ある診断区分の平均在院日数を2としまして,
医科点数表に基づいた評価であると。(スライド
この四角が包括部分の入院医療費であります。で
22)
すから,その方がまったく同じで,去年も今年も
出来高評価の方を先に見ていただきたいんです
同じような形で治療を受けて同じ期間入院すれ
けれども,ここにありますように,これは手術,
ば,まったくイーブンであります。AとBの階段
麻酔,1,000点以上の処置,心カテ,内視鏡検査。
を変えたのは,この面積は同じですから,お支払
ですから,検査といえばマルメだということでは
いするのは同じと。
なくて,やはり技術を伴うような検査については
DRG との違いは,DRG はこの箱を全部どの入院期
ドクター・フィー的な要素を入れています。その
間でもお支払いすると。例えば入院して,この入
次の診断穿刺,検体採取料,バイオプシー。こん
院で退院されてもこれだけの医療費がもらえる
なことで,今議論されていますのは,病理の判断
と。これが DRG/PPS ですね。それは後で申し上げ
といったものについては出来高にすべきではない
ますけれども,わが国は在院期間が大学病院です
かとか,あるいは高額な医薬品については出来高
にすべきではないかというようないろいろな議論
スライド25
スライド23
在院日数に応じた評価のイメージ
スライド24
28
28(28)
スライド26
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
ら2倍の違いがあるというようなデータで私ども
ては包括されている部分が薬だとか検査だとかそ
驚きました。それで,こういう形にして25パーセ
れぞればらばらです。したがって,この DPC デー
ンタイル。ですから今2,500ぐらいの分類をつくり
タとはマッチングしないんです。マッチングしな
ましたけれども,今回の大学病院のデータで適用
いということは,その差額分についてはプラス1
できるのは1,860分類です。1,860分類ごとにこの
日当たりの加算点数でつけないと大損してしまい
平均在院期間が違いますし,この25パーセンタイ
ます。そういう意味で救命救急入院料は7日以内
ルも違うと。特定入院期間というのは,我々が予
であればこの点数を加算すると。そんなことにし
測していないような何かの理由でやはり患者さん
てございます。(スライド26)
の入院期間が延びた場合にはこれは出来高に戻し
スライド27は病院間の比較の例でありますけれ
てあげると。こういう設計にしています。ですか
ども,約2倍の開きがあると。平成14年7月,8
ら,それに診断群分類の1日当たり点数×医療機
月の2カ月のデータです。何と一番長いのは京都
関別係数×在院日数であります。(スライド24)
大学なんですね。これには私どもびっくりしまし
医療機関別係数というのは機能評価係数と調整
た。数年前にやった調査では北大だったんです。
係数。調整係数というのは皆さん方誤解されてい
北からずっと長くなるんですね。短いのは順天堂
る向きもあるんですけれども,いわゆる対前年度
とか北里とか慶應とかそういう私学関係は短く
医療費の割戻です。例えば盲腸なら盲腸,ずっと
なっていますけれども,京都府立大学もこの辺で
各大学を見ますと,点数の差があります。非常に
す。
在院日数の短い順天堂とか慶應などは非常に1日
そういう意味で,これについてとやかくいうつ
当たりの点数が高いです。そのかわり在院期間は
もりはないんですけれども,例えば DRG/PPS をこ
短い。ところが,そうじゃないところは1日当た
こで入れたとすると,ここの医療費はバサッと切
りの点数はそれほど高くないけれども,在院期間
られます。この医療費はこの大学に入らないです。
が長い。そうしますと,1入院で比較すると大体
それで,この医療費が全部こっちに回るんです。
イコールになってしまう。大体ですけれども,そ
今と同じ医療をやってですよ。これは大混乱が起
の幅はやはり5%,10%のぶれがある訳ですね。
こるので,DRG/PPS というのはわが国のような医
そうしますと,全国平均一律で切ってしまいます
療機関の入院医療の実態があって,これだけ平均
と,例えば慶應義塾大学は平均値に14.52%掛けて
在院日数のばらつきがある医療機関だと無理なん
あげないと対前年度医療費と同じにならないんで
ですね。ところが,これが今また新しく7,8,
すね。下げないと対前年のようにならないと。恐
9,10とデータをいただいていまして,これがど
らく数年やっていくうちにこの係数はだんだん縮
のくらいまた平均化されるか,最適化されるかと。
まってくると思います。これは調整した係数です。
ですから,短縮化という言葉を使ったら間違いな
(スライド25)
んですね。最適化されるかということ,そこに着
もう一つは,先ほど申し上げたような医療機関
目しなければいけないです。短ければ短いほどい
の機能の評価をする。特定病院の機能を評価する。
いのは DRG/PPS でありますけれども,今回の点数
例えばここに書いていませんけれども,議論申し
の設計は,短くしたらその後患者さんを入れなけ
上げたのは,高度先進医療技術をやっている数が
ればいけないと。どんどん患者さんが入ってくる
何個以上であれば0.1ポイントつけるとか,そうい
と。こういう形であれば収入は増えます。ところ
うことを議論していました。ただ,DPC の場合,
が,今の状況を見ますと,ベッドは若干空き傾向
財政中立でこの15年4月改定はやらざるをえな
になってきているというようなところであります
かったと。ですから,何らかの加算点数をつける
から,そうは無理をしていない状況があると思う
と減算もつけなけばいけないということで,これ
のです。いずれにしても,最適化を図ると。
については見送ったと。こんな状況にございます。
スライド28は全体でありますけれども,一個一
それから,特定入院の取り扱いですけれども,
個見てくると,例えば急性心筋梗塞で初回の PTC
これはいわゆる ICU だとか救命救急入院料につい
をやったと。合併症はない患者さんです。こうい
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
29(29)29
病院間比較の例(1)
スライド27
病院間比較の例(2)
スライド28
30
30(30)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
う方を見ますと,順天堂大学は平均値が約10日間
はまる方についてはあるやり方,クリティカルパ
です。これは75パーセンタイル値に入る幅であり
スかもしれませんけれども,ある一定のやり方が
ます。ところが,久留米大学は30何日になってい
決まっていて,こういう幅になっていると。平均
ると。症例数がここには出ていませんけれども,
在院日数が短くても帝京大学や北里大学のように
いずれにしてもこれについては循環器の先生方に
非常にこれが長いですね。長いというのはやはり
は説明責任があるだろうと。私が見て最もプロト
この辺のデータが若干あるのだろうけれども,一
コールがしっかりしているのは順天堂大学だと思
定のプロセスというのは決められていないんじゃ
います。この幅が短いですね。このカテゴリーに
ないかと。そんなふうなデータであります。
スライド29
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
31(31)31
スライド29は子宮体部,頚部の悪性腫瘍であり
をしていて,それぞれの差というものをどういう
ますけれども,1入院単位で見ますと,大学病院
ところに原因があるのだろうかというような議論
ではこういうデータであります。明らかにリニア
を実はしております。これはお手元に資料があり
ですよね。アウトライヤーがいくつあると。リニ
ますね。ですから,これはちょっとスライドから
アということは,在院日数が長くなればなるほど
省きますけれども。
包括範囲点数が増えると。当たり前ですよね。当
たり前なんですけれども,若干これで診断群分類
混合診療問題について
を分けていくとどうなるかというようなところを
最後に,混合診療問題についてやはり先生方も
チェックしていかないといけないし,このアウト
いろいろな意見をお持ちだろうと。これはいわゆ
ライヤーの吟味もしなければいけないだろうとい
る特定療養費制度ということで昭和59年から始め
うようなところで,これはまだ私どもも一個一個
ていますけれども,ご存知のことだと思います。
できかねております。
(スライド31)
スライド30はさっきのやつを青を抜かすとこう
なると。子宮の悪性腫瘍ですね。化学療法,放射
保険診療と保険外診療との関係
線療法をやった場合。ですから,恐らくこの包括
今は保険と保険外診療との関係でありますけれ
範囲の点数だけでこれに出来高を加えるとまた
ども,医療技術,医薬品,材料,入院等(スライ
違ったディストリビューションになるんですけれ
ド32)。差額ベッドなどは古くから特定療養費制度
ども,いわゆる本当に在院期間ディペンダントの
ですね。高度先進医療,治験中の新薬材料。これ
診療報酬体系になっているというようなことなん
が特定療養費制度です。これは医療保険には入っ
ですよね。
ていませんけれども,患者加算からお金を取って
それで,これは図があるので,見ておいていた
いいと。私ども混合診療を廃止していますのは,
いわゆる患者負担の問題です。患者負担というも
だければと。
今私どもやっていることは,産婦人科なら産婦
のについては法定できっちり明確化しておく必要
人科,眼科なら眼科というところでの先生方と話
があるだろうというような健康保険の理念でもっ
スライド30
32
32(32)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
スライド31
て混合診療はだめだといっているわけです。です
ポリープを見つけました。大腸ファイバーをやっ
から,そのためにはある程度はっきり議論したう
たと。ところが,そのときにポリープが見つかっ
えで,必要なものについてはそれでもなおかつ患
て切除が必要だ,あるいは病理検査が必要だと。
者さんから必要なだけのお金は取れるようにする
がんじゃないかもしれない。そういったときに,
と。こういう形で考えていますのが特定療養費制
それを採取すると混合診療になってしまうと思っ
度であります。したがって,どんどんこういった
ていた方が結構おられまして,それはそんなこと
ものは未確立の技術であるけれども高度先進医療
ありませんよという通知を7月の終わりに出した
として入る,あるいは FDA の承認の薬であっても
わけであります。
治験中の薬に入ってくると。こういったことに
なっています。
総合規制改革会議の提案
この疾病や負傷に対する診療でないもの。健康
いずれにしても,こういった混合診療のなかで
保険法というのは疾病,負傷に対する診療であり
今私どもが総合規制改革会議の提案に対して反対
ますけれども,そうでないもの,健康診断,正常
しているのは,こういう言い方をしています(ス
分娩,美容整形などについてはこれとまったく一
ライド33)。その他医療機関においては診療行為を
線を引いていまして,これとこれの重なり合いと
限定せずに自由に患者負担を求めることができる
いうのは基本的にはありうるんですね。例えば正
ようにすると,患者負担がこれ以上増えるわけで
常分娩だと思ったら異常分娩だったと。こっち側
すね,それから,特別の負担を出さない患者につ
にすぐなる。あるいは,健康診断中に大腸ポリー
いてはアクセスを阻害すると。西山病院だったら
プが発見されたと。これについては保険で請求し
白内障の手術であと5万円とりますよ,うちは眼
なさい。この前事務連絡を出しましたけれども,
科医の腕がいいですからといって5万円金をとる
各都道府県でばらつきがあったわけですね。大腸
と。それをお金持ちから金をとって,お金持ちじゃ
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
33(33)33
スライド32
ない人からは金をとらないと。こんなことを禁じ
ているわけです。
総合規制改革会議の提案
・「質の高い医療機関」においては,「診療行為を限
とすると,西山先生の病院にはもう行かない,
定せずに」自由に患者負担を求めることができる
こっちの病院に行くというような,いわゆるフ
ようにする。
リーアクセスの障害が起こってしまうだろうとい
厚生労働省の意見
うことで反対していますのと,もう一つは,診療
行為の安全性・有効性の担保が必要であると。こ
れは診療行為を限定せずにということですから,
●診療行為の安全性・有効性の担保が必要
●これ以上の患者負担は求めるべきではない
●特別の負担を出せない患者が存在
新たな実験的な医療を始める可能性があると。こ
れは高度先進医療ということで現在特定療養費化
していますけれども,そこには今は専門家会議と
第三
者による審査
フリーアク
セスの阻害につながる
スライド33
いうのがあって,そこで第三者の目が入っている
では決してないだろうというようなことでありま
というようなところで安全性や有効性を担保して
す。
いる。これが私どもの主張です。なかなか平行線
以上,医療保険制度と診療報酬改定でお話し申
し上げましたけれども,16年改定が目の前であり
で相容れませんけれども。
スライドは終わりにしますけれども,いずれに
まして,これも非常に厳しいだろうというように
しても駆け足でお話し申し上げたわけで,非常に
考えております。まだ何も政治的にも動きがない
分かりづらかった点も多々あろうかと思います。
ですし,政府部内でもそのことについては議論し
やはり一番大事なのは,これも先生方と議論させ
ていませんけれども,もう半年の時間がないぐら
ていただきますけれども,私自身は医療の最適化
いのそういう時期に差しかかっていることでござ
だと思います。出来高制度のいい点と悪い点がも
います。今日の講義で先生方の医療の役に少しで
ちろんありますし,DPC の問題点ももちろんあり
も立てば望外の喜びだと考えております。
ます。そのなかで入院医療についてもそうですし
長くなりましたけれども,以上でお話を終わら
外来医療についてもそうですけれども,医療の最
せていただきます。ご静聴,どうもありがとうご
適化といいますか,ですから,平均在院日数が短
ざいました。
いところがよくて長いところはだめだという議論
34
34(34)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
病院長・幹部職員セミナー・特別講演
現代の病院経営
有料老人ホーム「グリーン東京」社長
滝
上
宗次郎
平成15年8月・東京
(キーワーズ:病院経営,中央社会保険医療協議
会,有料老人ホーム,介護保険,医療制度改革,
ストと食費は入っておりません。これはお客様か
ら実費でいただきます。
厚生労働省の方はどういう規制を私どもにかけ
電子カルテ,医療機器)
ているかといいますと,3対1規制です。3人の
ご紹介いただきました滝上でございます。池澤
要介護者に対して1人の介護職員を置くようにと
先生と私と因縁深く,今日ここに呼ばれて,自由
いうことですので,笑いがとまらないんです。皆
闊達にやってほしいということでございます。
さん訪問介護をご存知ですか。訪問介護でホーム
厚生労働省の西山課長がさき程,医療保険制度
ヘルパーさんが月にどのくらい稼ぎがあるかとい
についてお話しなされましたので,まず私,最初
うと,大体10万円ぐらいです。ということは何か
に介護保険制度のホットな話題について簡単にお
といいますと,ホームヘルパーさんが有料老人
話し申し上げまして,それから,門外漢ではあり
ホームで働けば,18万円もらえば御の字というこ
ますが,病院の経営がどう私に映っているのかを
とですね。要するに,要介護者1人に18万円もら
お話し申し上げたいと思います。
える訳ですから,それで1人の介護職員が十分に
まず初めに介護保険制度についてですが,有料
雇えると,こういうことです。ということは,3
老人ホームにおきまして大変大きな話題がござい
対1どころか1対1介護でさえ簡単にできるとい
ます。というのは,介護保険が始まってからこの
うことです。しかし,厚生労働省の指導は3対1
3年半,有料老人ホームは爆発的に増えている訳
でいいという訳ですから,介護報酬の半分以上は
です。大体3倍ぐらいになったと思います。東京
私ども有料老人ホームのもうけと,こういうこと
郊外の国立にある私の家の周りには,今5つ有料
であります。
老人ホームがあります。それから,渋谷から出る
それから,今申し上げたように,働く方も笑い
田園都市線,あれは駅ごとに2つか3つ有料老人
がとまりません。ホームヘルパーでグルグル家を
ホームがあるのではないか。大体どのくらいの規
回っていたら10万円超えるかどうかというとき
模かといいますと,1部屋が13平米ぐらいで,40
に,18万円ももらえば笑いがとまらない。今日の
部屋か50部屋ぐらいの小型のホームです。しっか
ような真夏に外を走り回っていたら汗だくです
りした統計がないのですが,足立区などは大体
ね。雨が降ったら大変です。明日の台風でも,冬
1,500か1,600ベッドぐらいの有料老人ホームが今
もまた雪の中で大変。しかし,ホームの中でその
ありまして,老人病院の受け皿となっています。
ような苦労せずに介護ができると,こういうこと
なぜこんなに増えたかといいますと,関係者全
です。
員にとって笑いがとまらないからです。まず経営
それから,家族にとりましても笑いがとまりま
者にとりましては,要介護5で26万円ですから,
せん。介護保険が始まりましても家族介護は別に
要介護者1人に対して大体平均18万円ぐらい介護
楽になりません。要するに,家族介護を楽にする
保険の報酬があます。もちろんこれにはホテルコ
ためには施設やホームに預けるという訳で,有料
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
35(35
35)
老人ホームに預ければ家族介護の負担はゼロにな
となりますと,皆様の病院は関係ないかと思い
ります。地獄の家族介護はなくなるということで
ますけれども,50床100床の病院がこの8月を期限
す。
にして療養型に行くのか一般に行くのかという議
それから,都道府県も笑いがとまりません。在
論がありますけれども,療養型に行けばそのうち
宅にいるお年寄りの場合,家族からものすごい不
介護保険に追いやられて,その後でドーンと10万
平・不満が行政に来る訳ですね。介護保険が始ま
円も報酬が下がると,そういう訳であります。そ
れば家族介護なんてなくなるといっていたけれど
んなふうに事は進んでいくのではないかというふ
もなくならないじゃないかとか,不平・不満が来
うに,介護保険の有料老人ホームの経営者という
る訳ですけれども,有料老人ホームに入ってしま
立場からは先が読めるのではないかなと思ってお
えば問題は解決します。しかも,在宅でありまし
ります。
たら要介護5で36万円の介護報酬を払わなければ
さて,私の経営しているグリーン東京について,
いけないのに,有料老人ホームの場合は,26万円
介護保険が始まってから3年半の経験を若干お話
で済むと,こういうことであります。
しします。まず,介護保険が始まってやはりびっ
それから,大蔵省,正しくは財務省というんで
くりしましたですね。私は元銀行員をやっていま
しょうけれども,大蔵省から見ても笑いがとまり
したし,要するに一般産業ではどんな苦労がある
ません。というのは,現在の不況といのは銀行の
かというと,商売の苦労,商いの苦労というのは
不況ですよね。金融機関が100兆円の不良債権を
3つあります。
持っていた訳でございまして,貸出先の大企業に
1つはお店を構えてお客様に来てもらう。来て
リストラを迫る訳ですけれども,どういうふうに
もらうのは本当に大変です。次に,お客様に物を
迫るかといいますと,人員を減らせとかいろいろ
買ってもらう。これもまた大変。けれども,一番
な独身寮を売れという訳ですね。要するに,バブ
大変なのは何かというと,売ったものの代金を回
ルのときにつくった独身寮を有料老人ホーム業者
収するということが一番大変なんですね。それが
が半値以下で買い取ってそこで始めると,こうい
どのくらい大変かといいますと,例えば今申し上
う訳でございますから,大蔵省にとりましても国
げました銀行の不良債権の100兆円というのは何
家経済の立て直しということで,大変有料老人
かというと,あれは貸したものが返ってこないと
ホームというものは国家国民のために役立ってい
いうことです。それから,大企業のいろいろな不
る訳でございます。
良債権というのも売ったものが回収できないんで
こうした有料老人ホームでは,医療面でもまっ
す。そういう観点から見ますと,介護保険に対し
たく困りません。というのは,病院に頼みますと
ては私びっくりしております。これだけの介護
喜んで往診してくれます。病院もたまらないんで
サービスをやりましたというふうにポーンとオン
すね。午前中だけで15人20人診られる。しかも,
ラインで送ると,1カ月後にはそのままその金額
特養じゃありませんから,15人20人診て全員から
がドーンと振り込まれてくる。まったく私もびっ
往診料が取れるということですね。私の知り合い
くりしましたね。回収の苦労がなくては甘い経営
の病院の経営者に聞きましたら,何と純利益率
になってしまうなと思いました。
50%だそうです。5,000万の往診料に対して2,500
それから,介護保険は3年ごとに介護報酬の価
格が変わる訳ですけれども,それに応じて3年ご
万しかかからないと。
こういうおいしい話なんですけれども,では,
とに経営方針を変えなければいけない。要するに,
こんなばかなことを続けていいのかということで
皆様の病院で2年ごとに診療報酬の改定に合わせ
すが,介護報酬が大幅に下がるかどうか疑問であ
て戦略を変えていく。今度リハが点数つくんだと
ります。というのは,介護保険の中で有料老人ホー
か,往診が点数つくんだとか,そういうようなこ
ムだけ月10万円下げたら,介護保険の3施設,療
とも私どもやらなければいけないと。そういうこ
養型,老健,特養,これも月に10万円下げなけれ
とではまったく経営の主体性がなくなります。例
ばいけなくなる。
えば,介護保険報酬が突然3割下がったら,有料
36
36(36)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
老人ホームというのはそのまま倒産してしまいま
から,売り出せば,後発であっても高いシェアが
す。
取れるということであります。
そういう訳で,売上高の25%の範囲内に介護保
さて,価格支配力というのはいろいろな多面的
険報酬は抑えるというのが経営戦略でありまし
なものがありまして,例えば,政治力があるかな
た。ですから,私の経営するグリーン東京では在
いかです。例えば公共工事。公共工事というのは
宅介護には打って出なかったと,こういうことで
民間の工事よりも大体3割から5割高い訳です。
あります。それから,25%の範囲内に介護保険報
公共工事をいかに取るかということが重要です。
酬を抑えていれば,たとえ3割下げられても売上
で,値崩れしないように談合がある訳ですが,そ
の減少は8%にとどまる。8%ならばやっていけ
の談合の調整役として何があるかというと,やは
ます。
り族議員がいる。族議員の政治支配力というもの,
さて,いよいよ病院経営のことについて門外漢
要するにゼネコンと政治家との密着性というもの
の私が失礼なことを申し上げる訳でございますけ
が価格支配力になっているということでありま
れども,まず一つ,経営とは何かというと,いく
す。
つもポイントはありますけれども,一つは価格支
それから,診療報酬もそうですね。これは勝手
配力を握るということであります。価格支配力を
に厚生労働省が決めるのだということではなく
握ったものが勝者となる。例えば花王とライオン
て,日本医師会の政治力というものがあるという
が25年前には同格だったんですけれども,いまや
ことです。ですから,従来ならば日本医師会が取っ
花王のひとり勝ち。というのも,ライオンは問屋
てきた診療報酬の引き上げ分を分捕り合戦する場
を通じて小売店に卸していた。花王は膨大な流通
が中医協であったということです。ですから,中
機構を整えて直接小売店に卸していた。というこ
医協が非常に重要でありまして,この日本病院会
とは,ライオンの商品というのは末端の小売店で
の発足は昭和26年でありますけれども,昭和26年
いくらで売れているかわからない,値崩ればかり。
に設立されて,その年にまず何をやったかという
花王は末端価格というものをきちんと押さえたと
と,当時の橋本厚生大臣に対して中医協に日本病
いうことですね。その結果,花王の勝利だという
院会からメンバーを送りたいという要請をしてき
ことです。パソコンを見てもそうですよね。今 IBM
た訳です。日本病院会の歴史をひもとけば,かな
の価格というのはかなり崩れていない。NEC とか
りそのままそれは中医協へメンバーをいかに出す
東芝とか富士通,ものすごいダンピングですね。
かと,そういった大きな問題がありました。
小売店に並んでいる商品は価格が崩れているかど
そこで池澤先生と私とのおつき合いが始まる訳
うかで,どの会社が勝っているかということがわ
でありますけれども,今から6,7年前,橋本内
かります。
閣のときに6大改革がありまして,私はそのうち
一番価格が崩れていないものが一般商品で何か
の医療と福祉を担当した訳であります。そのとき
といえば,自動販売機で売っているジュースです
に池澤先生から中医協のメンバー構成を変えるよ
ね。要するに,120円のものを100円で買おうとし
うにということを最大テーマにしてほしいという
ても反応しないということです。自動販売機の戦
依頼がありまして,私は引き受けました。中医協
略というのは何かというと,国じゅういかにたく
の支払側の方は労働組合ばかりですから,連合に
さん置くかということが勝負です。要するに,人
何度も挨拶に行って,そしてとうとう連合のオー
どおりの多いところに置いていく。非常に固定資
ケーを取りました。そして,私の委員会の重要メ
産のかかることをさんざんやったんですけれど
ンバーに連合の副会長で,自動車総連の会長でも
も,結論としてサントリーとコカコーラが圧倒的
ある得本さんに入ってもらったという訳でありま
なシェアを収めた。例えば,サントリーの缶コー
す。それでとうとう総理大臣に中医協のメンバー
ヒーで BOSS というのがありますね。サントリーが
構成を変えてほしいという建議ができたというこ
缶コーヒーも出すの?と不思議に思っていたんで
とであります。そうしたら,大変でありまして,
すけれども,自動販売機のシェアが圧倒的に高い
それ以来日医とは仲がいいと。ほんとかな。
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
37(37
37)
しかし,診療報酬がこの間のように下げられて
カーとおつき合いあると思うんですけれども,
どうなったかというと,日本医師会はそこでの政
ソーシャルワーカーというのは一言でいいますと
治力をかなり失った訳です。要するに,最大の強
ソーシャル性がまったくないからです。要するに,
みというのは,それがマイナスになるとまったく
ソーシャルワーカーの仕事というのはいろいろな
意味をなさないということですね。そういうもの
異なる意見をいう方々の権利の調整をやる訳で,
はいくらでもあります。例えば松下電器というの
最も社会性がなければいけないんだけれども,一
は本当に強かったですね。ソニーとかいろいろな
体ああいう社会福祉士を育てる大学というのはど
会社が新製品を出しても,松下電器は物まね電器
んな教育をしているのか私は不愉快なんですが,
といって,遅れて出しても,自分は全国に2万
まったくソーシャル性のない人たちを育ててくる
5,000店チェーン店を持っているからバッと販売
という訳で,仕方ないものですから,私の会社で
できる。しかし,秋葉原とかああいうところにヨ
はほかの一般産業で苦労した人間を雇っていると
ドバシカメラとかビックカメラとか安いものがで
いうことです。今日レジュメを見せていただきま
きてしまって,それが新宿などや他の地域にも展
したら,済生会病院の副院長の正木先生がやはり
開し始めると,今度は2万5,000の松下電器の店は
商学部をお出になって,住友金属に長い間いらし
逆に重荷になってしまった。一番の強みというの
て,それで済生会病院で事務長をされているとい
は弱みに転化したときは,地獄になるということ
うことを見まして,やはりそうなんだなというふ
であります。
うに思いました。
さて,私の会社の人事管理について申し上げま
それから,有料老人ホームは OT, PT の加算が取
す。私は病院も老人ホームも人事管理が経営の根
れますけれども,取っておりません。常勤で雇え
本だというふうに理解しています。なぜかといい
ば加算が取れるんですけれども,取っていないん
ますと,どちらもチームワークでさまざまな職種
ですね。理由は何かというと,とくに PT なんです
が働くということです。しかも,医療も福祉も別
けれども,はっきりいってあの人たちのやること
に工場で生産している訳ではなくて,職員が働く
は鬼軍曹であります。
「はい,歩けるようになりま
病院が,職員が働く老人ホームがそこにそのまま
しょう」とか「もう10本」とかこういうことです
お客様もいるということです。ということは,職
ね。冗談じゃないんですね。有料老人ホームとい
員教育というものがどれだけ営業面において重要
うのは生活の場なんです。生活の場に医療を持ち
かという訳であります。
込むというのは嫌なんです。ですから,うちでは
私のホームは従業員が約100人であります。株式
どうやっているかというと,リハをやっている病
会社で運営しておりますけれども,市民ボラン
院にうちから通わせて,そこでリハをやります。
ティアが10人ぐらいいらしてくれています。110
すると,お客様の方も病院に行くんだから痛い思
人に対して管理職は8人。8人のうち3人がパー
いをするのは仕方がないんだねということです。
トです。要するに,3人のパートが正社員を使っ
痛い思いをしたくない人は行きません。要するに,
ているということであります。次に男女比率で申
老人ホームというのは生活の場だから,昼間から
し上げますと,管理職8人のうち半々であります。
酒くらって引っくり返っているところです。そし
4人が女性であります。
て,病院に通院させるということは職員にとって
さて,うちはワーカーが3人おり,うち2人が
は大変です。そういうことをやって初めてうちの
社会福祉士です。社会福祉士は2人とも法学部を
100人の職員はグリーン東京というのは生活の場
出ています。法学部を出て普通の企業に入って,
だとはっきりわかる訳ですね。あと,石心会病院
そこで5年10年苦労して,それで考えがあって社
の方から今リハビリ室長の山口先生に来てもらっ
会福祉士の学校に行って資格を取って,それで医
て教育を受けたり,そんなことをやっております。
療機関と福祉会社に働いていたのを一本釣りでう
要するに,生活の場ということを職員がわかれば,
ちに採用したというのが経緯です。なぜこういう
主人公とは自分たち従業員ではなくて,お客様が
ことをやっているかといいますと,皆様もワー
主役だと自然に理解してくれる訳です。
38
38(38)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
さて,私のホームではサービス残業は一切あり
りまして,医者の副院長と看護婦の副院長が出席
ません。なぜこんなことを話すかというと,最近
されましたけれども,看護婦の副院長は何をやっ
サービス残業で物すごい新聞をにぎわしていると
ていたかというと,若造の医者一人ひとり回って
いうこと,それから介護保険が始まってから特養
お酌していました。肩書と権力が,肩書と序列が
が苦しくなってすごくサービス残業をやっており
一致しないような組織をつくったら,これはいつ
ますね。そういうことでちょっとお話しさせてい
か壊れると思います。もし副院長に医者の管理を
ただきます。
任せ,看護婦の副院長に看護部門の管理を任せる
なぜサービス残業をやらないのかといいます
のだったら,これは民間病院でいえば事業部制で
と,サービス残業というのは,私も10年間三菱銀
ありまして,そこにはお互いに干渉しない,チー
行でサラリーマンやって苦労しましたけれども,
ムワークがないということですから,これは病院
サービス残業というのは気の弱い人間が一番残業
ではおかしいと思います。
時間が長くなるということなんですね。要するに,
ただ,日本の問題は何かといいますと,看護婦
チームワークをぶち壊すのがサービス残業です。
に対して人事管理能力を高めるような教育システ
医療も福祉もチームワークで働くのに,ああいっ
ムが今,日本にないということです。ですから,
たものを導入したらおかしくなるということで
めいめいの病院で管理職教育をしているというこ
す。それから,サービス残業をやってみると分か
とですね。それから,看護婦を院長にしたら医者
るんですけれども,いい人材からやめていきます。
はやめていくんじゃないかということですね。実
それから,経営者にとっても困るんですね。サー
に日本の病院というのは組織の力の強さにおいて
ビス残業をやってもらうと,どの部分が残業が多
まだまだ幼稚ではないのかなと,私にはそんなふ
いのか,どこが生産性が悪いのかというのが分か
うに思われます。
らなくなってしまう。そういう意味でうちはサー
さて,僕の知り合いの民間病院の理事長は多い
んですけれども,彼らが最近始めたことは,とく
ビス残業は一切ありません。
さて,病院における組織なんですけれども,本
に去年の4月1日以降のことなんですけれども,
当に門外漢が余計なことをいうようで失礼なんで
やたら日本経済新聞を読むようになったんです
すが,私もいろいろ先生がたとおつき合いしてき
ね。私は,どの先生にも,
「日経新聞を読むのはい
ておかしいなというのが何点かありましたので,
いんだけれども,あそこに書いてある経済情報と
申し上げます。10年ぐらい前ある地方のある大き
か経済分析は決して読んでくださいますな」と,
な病院に講演を頼まれて行きました。そうしまし
申し上げています。この20年間,経済学者のいう
たら,そこの院長先生が「滝上さん,新しい副院
ことは一つも当たってこなかったんだから。バブ
長なんですよ」ということで紹介してくれました。
ルをつくって,バブルを壊して,不良債権つくっ
そこに女性がいたんですね。私の方は病院の中も
て,何もできていないですよ。日経新聞の読み方
ようやく男女平等になったかと思いました。女医
は何かといったら,あれは産業の動き,企業の動
さんを副院長にしたのかと思いましたら,名刺交
き,あれを見ていくんです。どこどこがこんな経
換してびっくりしました。女医さんではなかった
営をしている,どこどこが何々部門をアウトソー
ですね。副院長兼看護部長と書いてありました。
シングしたというふうな形でチラッと見出しを見
なんだ,肩書だけの副院長かと思いましたね。
「そ
ながら,いろいろな産業でどんな動きがあり,新
こまでやるんだったら女医さんを副院長にされた
しい経営方法を取っているのかというものを
らどうですか」と院長にいいました。
「そんなこと
ちょっと頭に入れておけばいいということです。
やったら,滝上さん,大変なことになるよ」と。
それから,マネジメントを勉強する理事長が多
おっしゃる通りですね。でも,私が思うに,はっ
くなって,質問が来て困るんですけれども,ビジ
きりいって女医さんをトップに持っていった方が
ネススクールに通いたいとおっしゃるんですが,
看護婦の士気は高まるのではないかと思います。
あれは絶対やめた方がいいです。むだ。なぜかと
確かに案の定その夜,院長主催の私の歓迎会があ
いうと,ビジネススクールで教えているのはだれ
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
39(39
39)
かといいますと,経営者ではないんです。ただの
300床に対して1,200人もの医師,看護師らの職
何の苦労もない大学教授です。大学というのは日
員の多さには圧倒された。株式会社の病院もあっ
本で一番競争のない社会です。そんな人から教え
た。1日10万円という宿泊代に驚き,私は病院の
を請うても何の役にも立たない。何を教えるかと
まずい食事を批判した。私への反論は,食事に不
いうと,日産のカルロス・ゴーンとか GE のジャッ
平が出るようになったら患者は回復したというこ
ク・ウェルチの経営哲学とか経営手法を教える訳
と,すぐ退院だ,というもの。何から何まで驚い
ですね。しかし,ビジネススクールの学生が1,000
た」。
人いて,その中の1人がカルロス・ゴーンになれ
さて,1988年に私はアメリカに行ってびっくり
るかというと,なれっこないですよ。だったら,
しましたね。僕は30年前に1回アメリカを半年間
自宅で徳川家康を読んでいた方がいいんですね。
ヒッチハイクで旅行しました。そのときはスラム
私にいわせれば,1,000人の大学院のビジネスス
街ばかりいたので分からなかったのですが,88年
クールの学生に教えてもらいたいのは,せいぜい
にアメリカの病院に行ったらびっくりしました。
課長か部長どまりなんだから,部長になったらど
広大な敷地,ゴルフ場が2コースぐらい入るよう
ういう仕事があるのか,そういうことを教えてほ
なところに全部芝が生えていて,すばらしい建物
しいんですね。しかしそれはビジネススクールで
がある。これが病院かという感じですね。超高級
は教えてくれません。なぜかといえば,大学教授
ホテルでした。非常にカラフルで豪華。何でこん
だから。大学教授だから組織というものを知らな
なにカラフルで豪華に見えるのかなと考えまし
い,経営というものを知らない。だから,中間管
た。日本の病院と違うなと思いました。よく見て
理職はどう動くのかまったく知らない。だから,
いたら分かりました。そうか,ここには外来患者
ジャック・ウェルチは挌好いいよ,カルロス・ゴー
がいないんだと分かりました。だって,日本の病
ンは格好いいよという講義内容になるんですね。
院は朝の7時半ぐらいから外来患者が50人100人
ですから,勉強しても決してむだはないとは思う
ダーッと待っているでしょう。病人だからすごく
んですけれども,積極的にお考えにならなくても
暗い顔して。あれで病院全体が暗くなってしまう
いいと私は思います。
んですよね。
それから,カルロス・ゴーンにしてもジャック・
病院の中を歩いていると,次にびっくりしたの
ウェルチにしても,日本語で彼らの人生というの
は何かというと,患者のほとんどが白人だったん
はもう本になって出ています。お読みになるとい
ですね。これは一体何なんだと思いました。向こ
いです。お読みになると何がわかるかというと,
うの病院の人に聞きましたら,理由は簡単ですと。
もう20歳で天才だったんですよ。25歳のときには
民間保険でも30ぐらいあるらしいんですけれど
はっきりいって群を抜いていてすごかった。だか
も,トップクラス,トップ中のトップ,ブルーク
ら,ビジネススクールの生徒の年齢というのは25
ロスとかいう最高級の民間保険に入っていないと
歳でしょう。全然スタートラインから違うんです
この病院には入れませんとはっきりおっしゃいま
ね。おやめになったらと思います。
した。
レジュメの8ページに「現代の病院経営」とい
驚いたのは,ロビーというか一番目につくとこ
うのでちょっと書いてみました。ちょっと読みま
ろに個人の名前がプレートであるんですね。
「あれ
す。
は何ですか」といったら,さすがアメリカ的でし
なぜホテルの経営を「病院革命」とまで称した
た。寄附してくれた人のお名前ですと。僕が感心
のかということですね。
「80年代の前半,アメリカ
したのは何かといいますと,どの人のどのプレー
では病院革命が進行している,と日本のマスコミ
トも同じ大きさ,それから寄附した金額が書いて
は報じていた。革命が本物ならば,この目で見た
いないんですね。あれはよかったです。
いものだ。私は88年春,新聞社やフリーの医療
この5月私は信州を旅行していたんです。ひな
ジャーナリストと一緒に,アメリカ駐日大使館の
びた神社がありまして,いいなと思って奥まで
通訳に同行してもらい,全米の病院を回った。
行ってみたら,やはり案の定寄附者の名前があり
40
40(40)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
ました。要するに,昭和30何年これが壊れたので
いですから,みんな地場産業。地域を押さえれば
直したということで,寄附者の名前がありました
勝てるということですね。
ね。最高はだれのだれで10万円,次は7万円,5
さて,明日の講演に医療材料というものがある
万円,3万円,1万円。その辺でやめておけばい
ので,ちょっとお話し申し上げますと,いかに物
いのものを,5,000円,2,000円,1,000円と来る訳
を安く買うかということなんですけれども,私の
ですね。結局1,000円しか払えなかったものは一生
ホームは福祉機器は大体半値で買っています。私
消えない名前がそこに記されるということです。
のホームは1ホームしかなくて定員が155人です
これが日本社会ですよね。村で生活するというの
から,特殊浴槽が1,000万円とか車いすが今20万ぐ
は大変つらいものがあって,私はやはり東京がは
らいするんですが,普通に買えば2割引ぐらいに
やるのかなと思いました。
しかならないんですよ。私のホームは全部どこか
さて,別にアメリカの話をしているのではなく
ら買うかといいますと,ある病院を通じてです。
て,現在皆様方の病院は外来分離というものが大
あそこは数千ベッド持っているんですよね。です
きな経営テーマになっていると思いますし,すで
から,うちはそこを通じて,それで3%のリベー
に外来分離している方もいらっしゃると思いま
トを払って買っている訳ですね。ですから,うち
す。要するに,診療報酬が変わったから,あっち
が直接買ったら2割引なんだけれども,そこを通
の方が点数が高いから外来分離しようというのは
じて入ってきますから半値。で,3%をキックバッ
あまり賢くないですね。主体性がないですよ。職
クしてやる。これだけですね。これが共同購入と
員だって嫌ですよね。2年ごとに,やることが違っ
いうことですよ。
てくるのかなと。外来分離しなきゃ損だからやる。
けれども,そこの事務総局長と話したんですけ
それは当たり前なんだけれども,そこにもう一つ
れども,悔しいことが一つあるといっていました。
付加価値をつけた方がいいですよ。もっともっと
それは何かというと,心臓関係のペースメーカー
違うものをね。
とかカテーテルは安く買えないんだということで
私は経営というのは何かというと,世の中変化
す。僕の勤務している女子医大でも調べたんです
するから経営も変化しなければいけない。その変
けれども,女子医大の心臓外科は大変多く手術を
化に対してシステム対応とニーズ対応の2つがあ
やっているのに,ここでも針金の曲がったように
ります。診療報酬が変わったから外来分離すれば
しか見えないカテーテルを大変高額で買っている
いい。これはシステム対応です。リハに点数がつ
という訳ですね。
くから訪問看護に点数がつくからというのはシス
経済審議会の座長になったときに,総理に建議
テム対応です。しかし,こういうのは長続きしな
するために日本の2倍,3倍高いアメリカ製品を
いですよ。根本が崩れたら一緒にやられてしまう。
テーマにしました。そうしたら,びっくりしまし
そうでなくて,重要なのがニーズ対応です。患者
たね。どこでどう話がつながったのか分からない
のニーズはどこにあるのか,お客様の欲している
んですけれども,翌日にはアメリカ大使館から電
ものは何なのかということですよ。ですから,民
話がかかってきました。誤解があると思うのでご
間病院で訪問看護をやっているところもそうです
説明に上がりたいという訳です。はっきりいえば
よね。今しっかり訪問看護で利益が出ているのは
おどしですよ。
何かといえば,訪問看護に点数がついていないと
それに比べれば日本の大使館というのは海外で
きから,地域のマーケットを自分のものにするた
何もやっていない。瀋陽の事件を見ても分かるけ
めには訪問看護に点数がつかなくてもやらなけれ
れども,日本の大使館というのはビザの発給ぐら
ばいけない,そういう病院ですよね。つけ焼き刃
いしかやっていないでしょう。だったら,JTB だ
では絶対生き残れないです。僕は病院の競争とい
とか旅行代理店にかわりにやらせればいいんです
うのは厳しいけれども楽な面もあると思うのは,
よ。もっともっとずっと観光客を日本に引っ張っ
地場産業だからです。がんの患者なんかを除けぼ,
てきて,外貨を稼いでくれると私は思います。
大体病人というのははっきりいって移動距離が短
もう一つの例は,4年前に会津に竹田総合病院
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
41(41
41)
という1,100ベッドの急性期の病院がありますね。
いうことはいろいろな理由があると思うけれど
あそこに講演で呼ばれたんですけれども,行って
も,私が自分の経験で思うには,コンピュータ化
びっくりしましたね。門前薬局が8軒だったかな。
することで,オンライン化することで,電子化す
私1軒ずつ全部回って,全部店員さんと話しまし
ることで個々の融資業務の判断の能力が底抜けに
たけれども,少なく見積もっても50人が働いてい
落ちたということです。
るんですね。いかに医療材料費というところにま
だまだ問題が多いかということであります。
電子カルテというのを私も見たことありますけ
れども,一番最初に始める病院というのは理念に
それから,次に電子カルテについて若干申し上
燃えているからいいですよ。しかし,二番手,三
げます。私は銀行員だったときに恐ろしい経験を
番手の病院というのは変なふうに使うんじゃない
しています。私が銀行に入ったときには第1次オ
ですか。診療なんて要らないよ,ちょこっと病名
ンラインが終わっていました。要するに,預金関
書けば診療がポーンと出てくるよ,薬はこれだよ
係のオンラインは終わっていた訳ですね。その後,
と。そんなケースを2,000ぐらいつくれば,ポンポ
私が貸付に回ったときに第2次オンライン,要す
ンできますよと。要するに,病院の経営者は大喜
るに貸付業務の判断をコンピュータがするという
びですよ。三流の医者でこれから診療ができると,
第2次オンライン化に移ってきました。それから
こういうふうに考える病院も出てくるかもしれな
数年で何が起こったかというと,この会社がいい
い。医療の荒廃を招かなければいいなというふう
か悪いかというのをコンピュータが判断してしま
に思います。
う。そのためにその数年で一つひとつのお店の貸
経営とは何かということでありますけれども,
付業務員の能力がどんどん落ちていったんです
17年間経営者やってきたので語れることはたくさ
ね。コンピュータはレギュラーなものは判断する
んあるんですけれども,今日は人材とは何か,そ
けれども,イレギュラーは判断できない。そのた
の1点に絞ってお話ししたかった訳です。
「人は石
めにバブルというイレギュラーに対して対処でき
垣,人は城」ということですね。ご静聴ありがと
なかった。現在100兆円の不良債権が銀行にあると
うございました。
42
42(42)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
病院長・幹部職員セミナー・特別講演
今後の看護の質と安全を確保するために
神奈川県看護協会会長
浅
川
明
子
平成15年8月・東京
大学病院に就職いたしました。ちょうどその年に,
(キーワード:看護の質と安全)
北海道大学では初めて低体温麻酔による心臓血管
はじめに
に部分的にメスを入れる手術を行うという場面
ご紹介いただきました浅川と申します。貴重な
に,私は新人で遭遇いたしました。確か低体温麻
皆さまの研修の機会にお招きいただきましてあり
酔のために午前2時に出勤し,当日は自分の宿舎
がとうございます。
に帰ることはなかったと思います。思い返します
今,ご案内がありましたように,私ども神奈川
県看護協会は横浜市大で起こりました一連の事件
に,ある意味では司法の判断に不服を申し立てて,
と,私のスタートラインでの看護業務もかなり厳
しい状況であったと感じております。
それから42年,看護の現場で仕事をしているの
1年以上におよぶさまざまな司法への働きかけを
ですが,少し経歴が変わっておりまして,42年間
してきました。高等裁判所の二審の判決では,あ
のなかで約15年は看護行政,いわゆる県庁で仕事
る意味で協会の主張が,また各界からいただきま
をしておりました。そこでは主に基準看護の承認
した意見を司法にお認めいただき,一審判決を棄
のためのご指導,ご相談,現地の調査などが,私
却させるという経験をしました。
の仕事のなかでもかなり印象深い仕事でした。
その高等裁判所二審での判決を受けましたとき
もちろん行政ですから,法律にかかわる仕事も
に,大変気持ちが重くなりました。その判決の内
させていただいたわけですが,そのあとは卒後継
容には,これからの医療のあり方,看護のあり方
続教育といいまして,臨床のエキスパートナース
を根底から示唆するさまざまな要素が含まれてい
の育成,看護教員,看護管理者の育成に携わり,
ました。本日はその部分をご説明させていただき
県庁は満期で無事卒業をしたという経歴です。そ
たいと思いますが,協会の現状,看護の現状を踏
の経歴の中で感じたことも多少踏まえながらお話
まえまして,その問題を皆さまに聞いていただき
させていただきたいと思います。
たいと思っております。よろしくお願いいたしま
す。
今,台風情報が出ましたけれども,8月という
看護をとり巻く状況
看護を取り巻く状況(資料1)につきましては,
のはある意味では忘れられない月でして,昨今の
今さらご説明させていただく必要もないかと思い
マスコミ等では,終戦,広島,長崎にまつわるさ
ますが,この7点は私たち看護界にとりましても,
まざまな行事が報道されています。私はちょうど
大変大きな重い状況です。とくに2番の医療提供
終戦の年に小学校に入りました。約半世紀以上の
内容が複雑で密度が濃いという問題,6番の在院
時間が今,経過しているわけです。
日数の短縮化という問題,7番の施設内医療から
私が看護職に就きましたのは,1961年です。北
在宅医療へとシフトしてきている,またシフトせ
海道で生まれまして,北海道大学付属の看護学校
ざるをえない体制の変化の問題は,とみに看護職
で資格を取るための勉強をしておりましたので,
員の働く環境に大きく影響しております。一言で
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
43(43)43
いうならば,確実に複雑化多様化していると感じ
これまで実施していたのだから別に変わっても
取り立てて問題はないのではないかという見方も
てなりません。
先ほど北大に初めて就職したときのことをお話
しましたが,ずっと看護の現場を実感したり,か
ありますが,実はやらないことを前提に基礎教育
は展開されています。
かわってくるなかで,ある意味では今,一番厳し
もちろんいろいろな制限はありますが,それを
い環境に置かれているのではないだろうかという
やってもよいことに基本的に変えるということ
実感を持っております。そういう意味で,
「看護職
は,基礎教育の段階で静脈注射を行う基礎的な知
は今,悲鳴を上げている」
(資料2)と一言でお話
識なり行為なり,技術なりというものを学ばなけ
しさせていただいても,いい過ぎではないように
ればならないというように,教育内容を大きく変
思います。
えざるをえないというのが実態です。
その背景にあります要因は,ここに5点ほど挙
さらにこういう問題も出ております。吸引行為
げさせていただいておりますが,いずれにせよこ
は診療補助行為ですから,もちろんこれまで医師,
の複雑化,多様化,増大,拡大,専門化するなか
歯科医師もしくはライセンスを持っている看護職
で,看護職は十分これに対応しきれないという感
が行う行為とされておりました。ところが「ALS
想を抱いている人も少なくないと思います。
患者さんの在宅療養支援のあり方」
(資料4)につ
とくに基礎教育を終了して,初めて病院に看護
いてということで,現状の看護提供体制ではとて
師として就職する新人ナースたちにとりまして
も在宅の ALS 患者さんの吸引という必須な処置に
は,サポートしてもしきれないさまざまな苦悩が
は対応しきれていないという指摘があり,看護師
ある,また苦悩がみえてきているというのが実感
が訪問看護等で対応できないのであるならば,
ですし,
「安全に医療を提供できない環境」という
ホームヘルパーさんにこの行為を解禁しろという
ことはいいすぎかもしれませんけれども,そうい
動きが続いておりました。
う意味で医療提供環境の変化と看護職の業務量と
それを受けて厚生労働省は検討会を開催し,そ
いうか対応量というか能力というか,そういう点
して本年7月に報告書を提出いたしました。報告
ではなかなか追いついていないというのが実感で
書の内容は,
「ヘルパーに3年間にある一定の吸引
はないだろうかと感じております。
行為を実施可能にする」というものです。いって
さらに,平成14年,平成15年は看護界にとって
大変センセーショナルな年であると思っていま
みればこれまで業務独占とされていた診療補助行
為に一つの風穴が開くことになります。
す。その一つとして,これまで,保健師助産師看
この報告書を受けまして,実は養護学校等にお
護師法第5条のなかで,診療の補助行為は我々看
きましても,経管栄養,自己導尿または吸引とい
護職の業務独占でとなっています。しかし,静脈
う行為をある一定の研修を受けた教師の手によっ
注射はこの「診療の補助行為を超えている行為」
て行ってもよいのではないか,または行えるので
(資料3)ということで,昭和26年に厚生省医務
はないかという取り組みです。文部科学省はモデ
局長通知が出されており,以来,約50年間にわた
ル事業を開始しようとしている状況です。
り,
「看護師は基本的には静脈注射はしない」とい
この問題にきちっと医療職が,または看護職が
うことであり,基礎教育においても,実施のため
対応できなければ,無資格者に診療補助行為の一
の教育はしておりませんでした。
部が解禁されるという状況を招かざるをえないと
ところが調査をいたしますと,訪問介護ステー
ションの90%,病院においても経験を持っている
いうことになります。で,看護の専門性の危機で
はないだろうかということが一点です。
人たちの割合は約80数%におよぶという実態調査
もう一点は,これで利用者さん,患者さんの安
結果が出ております。それらを受け,平成14年9
全な医療,または療養生活が守れるのであろうか
月30日,これまで業務の範囲外とされていた静脈
という安全な医療提供内容の危機というものを感
注射は,看護師の行う診療補助行為の範囲内とい
じています。
うことで,行政解釈が変更いたしました。
44
44(44)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
示しました。いずれにいたしましても,急激にと
看護職は悲鳴をあげている
いうわけではありませんが,医事関係の訴訟件数
これ(資料5)は看護職の離職または定着状況
を示したものです。2002年と1999年を比較したも
のですが,離職率につきましては,学校法人を別
にして,ほとんどの設置主体別にみた離職状況が
も確実に右肩上がりで進んでいるということがお
分かりいただけるかと思います。
安全な医療提供体制づくりは皆んなの願い
上がっています。総体では,1999年は全就業者数
安全な医療の提供は国民だけではなく,かかわ
の10.9%であった離職率が11.6%に上がっていま
る者すべての願いだと思います。国は現在の状況
す。
を,なんとか対策を講じることで改善に向かわせ
下は新規採用者在続率,つまり4月に就職した
るという「医療安全推進総合対策」
(資料8)を立
人が3月にも就職しているかどうかという数値を
ち上げていることは,皆さまご承知だと思います。
示したものです。全体では1999年では91.1%の新
国,医療機関,そして国民の医療への参加という
人さんが3月にも仕事を継続しているという数字
ことで,医療の安全確保,質の向上というものを
が出ているわけですけれども,2002年では84.1%
なんとか担保していこうという取り組みに転換し
と,ここでも大きな落ち込みをみております。
ているところです。
それぞれ設置主体別に掲げてありますけれど
私も協会長ですので,このような実態,または
も,学校法人においては全体の傾向と違うデータ
このよう課題を受けまして,いずれにしても協会
が出ております。それ以外の設置主体においては
は安全,質というものを看護界のなかで担保して
すべて,姿を消している新採用者が10数%におよ
いくというのが大きな設置の目的ですので,この
ぶということになっております。とくに医療法
ような問題にさまざまな対応をしているところで
人・個人においては,89.9%が78.7%と,他の設
す。(資料9)
置主体よりも大きく落ち込んでいるというデータ
1)新たな役割拡大に関する対応,2)在宅看
を,非常に心配な気持ちでみているところです。
護提供体制の強化,この在宅の問題は,一つは訪
さて安全の問題ですけれども,これ(資料6)
問看護ステーションを充実していく必要がありま
は平成15年度厚生労働省インシデント・レポー
す。大体,今の計画数の約半数しか整備されてい
ティング事業全体のコード化情報を示したもので
ないという状況があります。
す。圧倒的に看護師によるインシデント・レポー
神奈川県においても同様で,250を上下するとい
トの件数が多いということがおわかりいただける
うのが実際の訪問看護ステーションの数ですし,
と思います。
一つひとつの訪問看護ステーションの状況を伺い
この背景には,一つは看護師は正直に報告して
ますと,利用者さんの申し込みはあるけれども,
いるという見方もありますが,もう一点は,なん
訪問看護師の手が足りなくて,とてもこれ以上利
といいましても患者さんの一番身近なところで,
用者さんを引き受けるわけにはいかないという声
診療補助行為,観察行為,日常生活の支援をして
も聞いております。強化対策のためには,いずれ
いるという意味で,事故という問題を最も引き受
にしても訪問看護師を確保していくという絶対条
けやすい環境のなかにいるという業務の特性から
件が満たされなければならないと考えているとこ
くる状況とも受けとめられます。いずれにしても
ろです。
非常に群を抜いているということは,私ども看護
界にとっても大変憂慮している状況です。
もう一点,県の協会としては,在宅に標準的な
質をある程度担保するための,IT を活用した在宅
これ(資料7)は医療関係の訴訟件数を表した
支援を行おうということで,ようやく製品の開発
ものです。黄色のところが全体の件数ですが,平
を終了したところです。ただ今,少しずつ利用者
成5年と平成14年を比べますと,約600件伸びてい
さんを確保するためのモデル,デモンストレー
るというのが実際のところです。すでに結審して
ションを展開しているところです。
いるもの,または和解が成立しているものは赤で
3)医療・看護安全対策の推進,ということで
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
45(45)45
推進班を設置し,専任の職員を配置して研修・研
したところ,体重がそれぞれ大きく異なるため改
究・広報活動事業に着手したころです。
めて診察を行い,患者取り違えに気がついたとい
安全対策推進のキーワードは,一つは委員会を
うことです。
設置してここ(資料10)に書いてあるような内容
この問題につきまして,もちろん横浜市はさま
を展開することに加えて,とくに(2)に示させてい
ざまな服務規程による処分を行いました。約26人
ただきましたように,療養環境というものを,も
が横浜市の服務規程に基づく処分を受けましたけ
う一度安全という視点から検討していく必要があ
れども,さらに警察のさまざまな取り調べを受け,
ると考えますので,今年はこの分野の研究を重点
さらに検察側の求刑としては,すべてに1年から
的に展開していこうということで取り組んでいる
1年半の禁固刑が求刑されました。
それに対して横浜地方裁判所は,手術室で患者
ところです。
きょうは神奈川県からご参加の皆さまもいらっ
さんを受け取った看護師1人を禁固刑1年(執行
しゃると思いますが,神奈川県はこれに加えてこ
猶予3年)ということで,それ以外の医師,執刀
こ5年間ぐらい,リスクマネジメントの研修をし
した医師,介添えをした医師,麻酔をかけた医師,
ております。その研修は少し特徴がありまして,
患者さんを手術室まで導入した看護師について
1つの医療機関から,診療系,看護系,管理系と
は,ここに記載のような罰金もしくは無罪という
いう3人1組で研修にご参加いただきます。その
内容でした。(資料13)
3人がそれぞれ病院全体の医療安全対策を推進し
これは大変均衡を欠くものであると思いまし
ていくキーマンになるという展開を始めて今年で
た。私たちは,看護師1人の求刑が重すぎるとい
5年目を迎えました。そういうような他団体との
うことで,
「彼女の減刑をお願いする」という気持
協力事業も,この安全対策の推進の中で実施して
ちではなく,これを判例として残すことは,今後
います。
の医療界の一つの姿勢として望ましくないのでは
このような社会の変化,看護への期待というな
かで,私たちは大変ショッキングな経験をいたし
ました。ある意味では医療安全というものが社会
ないかと感じ,異議を申したてることをはじめた
のです。
さらに私どもだけではなく,さまざまな法学者,
的な問題,国家的な取り組みの起爆剤になったと
また医療に携わるさまざまな職種の方々から,こ
も考えられるこの問題(資料11)についてです。
れは不当な判決ではないか,不適切な判決ではな
横浜市大事例高裁判決からの示唆
なぜ看護協会がこのことに対して一つの運動を
展開したのかということについて,少しご説明を
いかというようなご意見も寄せられました。日本
看護協会はそれらの社会の意見を集約いたしまし
て,声明を発表するという段取りになりました。
(資料14)
させていただきます。ご承知のように,この事件
1つは,患者同一性の確認の義務はすべての医
では2人の看護師が刑事起訴されることになりま
療従事者にあるのではないかということ,2つ目
した。
としては,病院の管理体制について当時の状況を
事件の概要(資料12)ですが,病棟から手術室
いろいろとかいまみていくときに,そして調査の
交換ホールヘ,患者2人を1人の看護師が搬送し
さまざまな調書を見ていくなかにおいては,やは
てまいりました。交換ホールで1つのミスが起こ
り病院の管理体制に十分配慮すべき点があったの
るわけですが,肺手術予定の患者さん(84歳)は
ではないかという点です。もちろんこの事件が起
心臓を手術するお部屋に搬送されます。心臓手術
こりましてからあと,横浜市大病院は大きく安全
予定の患者さん(74歳男性)は肺の手術を受ける
管理体制の質を変えていることは,皆さまご承知
手術室に搬送されます。各手術室では,患者違い
のとおりだと思います。
のまま,それぞれ違った手術が行われました。
3番目は,看護師の業務に伴う責任と権限とい
この問題に気づきましたのは,手術が終了して
う問題です。看護師の場合,何を行うかというこ
ICU に入出する際,2人の患者さんの体重測定を
とは法律に規定されています。法のなかで,とく
46
46(46)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
に診療補助行為に関しては,
「医師または歯科医師
これまでも罰金刑ではありましたけれども,この
の指示を受けて」となっておりまして,まさに手
6名についてはすべて罰金刑ということになりま
術を行うという非常に積極的な診療行為に関する
した。(資料16)
責任は,やはり対等とか同等というものではない
ただ,罰金刑25万の麻酔医の方は,手術のプロ
のではないかという観点で,見解を発表させてい
セスで何度も執刀医に対して,または医師団に対
ただきました。
して,
「ここが違う,あそこが違う,このへんがお
あわせて,私たちは地方裁判所に対してさまざ
かしい」ということで疑義を申し立てているわけ
まな意見を申し上げさせていただくと同時に,関
ですけれども,それも申し立てる段階でとどまり,
係団体,もちろん横浜市,横浜市大,行政等とも
最終確認には至っておりませんでした。しかし,
意見交換をいたしました。そして全国に署名運動
申立てをしたということで半額になっています。
を行わせていただき,24万を超える署名が集まり
この種の事故としては最も重い罰金刑だと伺って
ました。手術を受ける患者さんの確認についてど
おります。
のように思うかということに関して,手術室の勤
この判決をいただきましたときに,一つは私た
務経験のある医療従事者に対して,患者確認に関
ちの主張が理解していただけたということと,こ
する責任のあり方についての意見書を求め,2,200
の司法の判決または内容については,これから安
通を超える意見が寄せられました。これらをもと
全医療をつくっていくうえでは大きな示唆になる
に,高等裁判所に対して趣意書というか,控訴趣
のではないかと感じたところです。
意書をもちろん作成するわけですけれども,この
判決のポイントは4点あります。
(資料17)個人
ような見解を持つということで,書面を提出させ
の過失と組織の過失は因果関係があるというこ
ていただきました。
と,2つ目は,患者・家族・社会に対する責任は
それ以外に,私たちは事故の死因の分析を時間
重大であるということ,第二審の量刑には配慮す
をかけていたしました。横浜地方裁判所から見せ
べき事情があるということ,患者同一性確認は手
ていただける資料の量は,ボリュウムにすると1
術にかかわるすべての医療従事者の責任であると
メートルを超えます。それらすべてを専門家を交
いうような内容でした。
え,また事件の当事者を交えて分析し,真因の分
析を時系列で探求して,すべて添えました。
手術室の医療に関する学会からもご意見をいた
1つ目については,もちろんここ(資料18)に
書いてありますように組織の安全管理未整備,個
人のヒューマンエラー,看護職員人員配置の問題,
だき,また大学等における研究,工学研究が主で
当時の医療界における安全の文化等が原因として
したが,工学的手法を使った場合にどのような見
説明されました。
解が出るかということが分析書として寄せられた
患者・家族・社会に対する責任は重大である(資
ことを踏まえて弁護士と何回も協議をし,高等裁
料19)という問題については,患者さんは本来受
判所に証拠品として提出させていただくという方
けるべき手術を早期に受けられなかった,このそ
法をとりました。公開セミナーも実施いたしまし
れぞれの手術に対しては患者さんおよび家族は同
た。
意をしていない,3番目は,異なる輸血が実施さ
報道機関へのアプローチとしては,我々の考え,
我々の活動,活動に対する反応,寄せられた意見
れた,4番目に,医療に対する社会の信頼を失墜
させたという内容でした。
等について,適宜,記者発表ということで発表さ
二審の量刑に配慮すべき事情(資料20)という
せていただき,我々もさまざまな社会的な意見を
のは,1つは組織の安全文化,教育体制が不備で
吸収しながら活動を展開したところです。(資料
あったという問題,2つ目には不起訴の者との関
15)
連です。よく事情内容をみていきますと,本来,
そのような活動が1年を超え,今年の春,東京
起訴されなければいけない人が起訴されていない
高等裁判所から判決をいただきました。まず第一
という問題,またはそれ以上の責任がある者が実
審判決をすべて棄却するという内容です。そして
際にはいるようにみえるが起訴されていないとい
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
47(47)47
うことで,不均衡を欠くということから,今回は
にくいではないかと感じているところです。
禁固刑ではなく罰金刑にせざるをえないという内
4番目は,再発防止を念頭に置いた社会システ
容です。本来ならばいずれの者についても禁固刑
ムというものも考えなければいけませんし,とく
が相当であるという厳しい内容でした。
に“チーム医療”とは一体なんだろうか,言葉だ
患者同一性確認(資料21)についてですが,確
けはあるけれども,チーム医療の現状をしっかり
認というものは各段階で行うべきである,患者誤
見直さなければいけないと感じているところで
認を防止する注意義務は,手術にかかわるすべて
す。
の医療従事者にあるという問題でした。いつ・だ
私たちがこれらの一連の活動,そして社会の現
れが・どのような方法で患者確認をしているか,
実的な状況を踏まえてつくづく思うこと(資料23)
きちっと把握して情報を共有したうえで,チーム
は,なんとか看護職員の人員配置を見直す必要が
医療というものが実施されるべきではないかとい
あるということです。今,一番高い比率は診療報
う内容でした。
酬算定上は2対1ですが,これでは今の多様化す
る濃密な医療提供体制のなかで安全を守っていく
今後への取り組み
こと,質を考えていくことはかなり難しい面があ
今後への取り組みです(資料22)。私たちは一連
の活動を通じて,
「単純な医療事故というのはあり
るのではないかと感じています。
2つ目は,当然ですが教育の整備です。ただ今,
えないのではないだろうか」と感じています。今
国家的な取り組みとして看護技術教育の見直しが
回,市大で起こりました事故も,
「単純なミス,医
進んでいるところです。3番目の,個人の能力の
療とはいいかねるようなもの」というマスコミの
開発,研修も充実していかなければいけない,医
とらえ方もありました。中身をみていきますと,
療安全対策というものも進めていく必要があると
実は起こるべくして起こった事故です。やはり環
いう意味では,対策の具体化はいまだ創成期にあ
境の問題,体制の問題,文化の問題を一つの事故
ると表現できるのではないかという感じが否めま
を契機に十分考えてみる必要があるという意味
せん。ヒューマンエラーを前提とした医療用具・
で,
「単純」というのは当てはまらないのではない
モノの開発も待たれるところです。
もう一つは,報道機関の医療事故情報内容とい
かという感覚を抱いたところです。
同一性確認における安全の配慮という点です
うものが,ともすると一番最初に,よくわからな
が,ともすると人間に,「しっかりとした確認を」
いなかで社会的制裁をしていくという今の状況
ということでいくわけです。けれども,安全に配
は,本当にこれでよいのだろうかということです。
慮する確認のあり方は,もう少し考える必要があ
このなかで資料はなくなり,当事者または当事者
るということを示唆されたように思います。
を含むその関係機関の精神的苦悩は計り知れない
3番目は,相談しあい,支援しあえる文化とい
ものがあると思います。
うものが,実のところ今十分ではないという問題
医療事故については,よく“4つの制裁”とい
があります。今回も,本当に私たちはこれを問題
うものがあると思います。免許職ですから行政処
として提起していくことができるのかどうかとい
分,民事的責任,刑事的責任,そして自分が所属
う点については,関係機関に対して大変配慮をい
する組織の服務処分と社会的制裁ということで,
たしました。しかし,ある意味では市大の大きな
ともすればその場で生活することさえかなわなく
懐のなかでというか,横浜市の大きな理解のなか
なるという制裁のあり方です。
で一連の検討が進められたと思います。
しかし,その後もいろいろな経験をしておりま
国によっては,医療事故は全く別のとらえ方を
しているということも,私たちは聞いております。
す。やはり介入してほしくない,考えてほしくな
そういう意味で,安全な医療に変革するために,
い,相談は躊躇する,ためらうという問題が続発
今の報道または責任の問い方も,もう少し考えて
していることも事実です。この状況では安全文化
いく必要があるのではないかという印象を得てい
は成熟しているとはいえないし,安全対策は進み
るところです。
48
48(48)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
チーム医療というものの問題(資料24)ですが,
きょう,ご参加の病院の責任ある立場の皆さまは,
んだろうか」ということを,考えなければいけな
いと思っています。
恐らくこの点は同じ悩み,課題を持っていらっ
患者同一性確認ルールの徹底ということです
しゃるのだろうと思いますが,すべての医療従事
が,今,お話いたしましたように,
「浅川さん,お
者が医療理念を確認し,共有することが,まず根
はようございます。浅川さん,よく眠れましたか」
底になければならないと考えます。
ということに対して「はい」と患者が答えること
実際には,医療従事者間に権威勾配がないとは
いえないと思います。この市大の事件のなかでも,
は患者確認ではないということを,判決の中で何
度も述べられました。
執刀医とほかの医師,麻酔医,看護師との関係の
もし聞くなら,
「あなたは浅川さんですね,浅川
なかには,それぞれに権威勾配が認められます。
明子さんですね」というようにし,あるいは「あ
そういう意味では,対等な関係性を構築していか
なたのお名前をいって下さい」と問うことが,患
なければ,真のチーム医療は成り立たないのでは
者確認の行為になる。看護師や医師の問いかけ方
ないかと思います。
により患者は全く違う反応をするはずであるとい
そして患者参加型医療の推進です。医療を提供
うことで,判例の中でも説明を受けました。
する側は一生懸命安全対策を考えていますが,こ
チーム医療というものは決して人間の塊ではな
こに患者参加ということを本当に実現しようとし
く,やはりそのなかには物もあれば機械も存在す
ているのかどうかという問題があります。
る,それらを全部含めて,社会環境,科学のすべ
実は昨日もアメリカと日本で癌の手術を受けた
てを含めてチーム医療は成り立つのではないかと
患者さんとの対話の機会がありましたが,子宮け
いうことで,5番には「医療産業界との協働」と
い癌の手術をアメリカで受けたときの入院期間は
書かせていただきました。ちょうど,私にいただ
5日間で,8時間経過する間もなく歩行が開始に
いた50分になりました。
なったということです。
彼女に施される薬品にはすべて名前が書いてあ
おわりに
り,「麻酔からまだ十分に覚めない自分に対して,
駆け足でお話をさせていただき申しわけありま
必ず自分で自分の名前をいいなさい,この薬品で
せん。一連の経験をとおして,課題が多い医療,
間違いがないかどうか,あなたは目で確認をしな
看護の安全性と質という問題ですが,いずれにい
さい」ということで,自分が確認しなれば,どの
たしましても,一歩も二歩も前進するために,ぜ
薬品も自分に施されることはないというお話を聞
ひ院長先生をはじめ各施設の管理者の皆さまに,
きました。私たちが考えている,感じている「実
看護への支援または看護への示唆をお願いして,
行しなければならない患者参加型医療とは一体な
私の講演を終わらせていただきたいと思います。
資料1
資料2
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
49(49)49
資料3
資料6
資料4
資料7
資料5
資料8
50
50(50)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
資料9
資料12
資料10
資料13
資料11
資料14
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
51(51)51
資料15
資料18
資料16
資料19
資料17
資料20
52
52(52)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
資料21
資料23
資料22
資料24
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
53(53)53
病院長・幹部職員セミナー・緊急報告
手術に用いられる保険適用外診療材料について
医療法人財団石心会理事長
石
井
暎
禧
平成15年8月・東京
座長(池澤常任理事)
そもそもこのテーマを
始めるきっかけになりましたのは,実は昨年の4
りますが,そういうものが請求不能とされている
のです。
月から100分の70という症例が閾値に達しない手
もう一つは,
「保険が通らないもの」と考えてい
術については手術点数が下がるということがあり
るのでしょうけれども,実は保険適用であるとい
ました。1年間はなんとかそれで過ごしましたが,
う項目がほかにもたくさんあると同時に,厚生労
どうも変だということで調べてみまして,膝の十
働省は外保連と内保連の資料によって決めている
字靱帯断裂の再建術について,手術室からデータ
ということを文書などでもたびたび公にしていま
を出させて仕入れを全部調べてデータを出してみ
すが,この外保連の資料(資料1)によりますと,
ました。
一番右にK−079−01と書いてあるような手術の,
資料1に黒枠で囲んでありますが,点数として
医療材料(ディスポ製品,特定保険医療材料を含
は表紙の次のページにK−079というのがござい
む薬剤を除く)と書いてある項目に載っているの
まして,19,100点とあります。191,000円の手術の
は全部,使い捨てではありません。
うち,私ども中野総合病院で保険の通らない手術
このデータはこういうことをご存じのない方が
材料がなんと51.4%ありました。これは100分の70
をつくったのではないだろうか,そういう不完全
の項目です。もし年間50例という症例に達してい
な資料で点数をやられたのでは困る,実際には
ないとすると,手術料の81.4%が収入外になると
50%ぐらいの保険適用外の材料を使っているのに
いうことです。
191,000円ということでは困るということで,一体
病院の技術料として残るのはわずか20%弱だと
全体,手術のなかでどのぐらい保険が通らない材
いうのは一体どういうことだろう,ディスポがこ
料を使っているのだろうかということについての
こまで広がっていったのかということで,医療経
調査を行い,約300病院のデータが集まりました。
済税制委員会にかけまして,きょうの講師の石井
そのデータの処理をしていくうえで,先ほど
先生も含めていろいろ検討いたしまして,皆様方
いったようないろいろ混乱した点があり,まだ完
にアンケートをお願いしたわけです。
全ではないものですから,きょうはその中間報告
その結果が7月末にやっとまとまりましたが,
残念ながら今の日本病院会の実力というか,病院
ということで,石井先生にお願いしたいと思いま
す。よろしくお願いします。
の実力を示しているのかと思いますけれども,果
たしてこれで良いのだろうかと思うようなものが
いくつかございました。例えば SB チューブは術後
石井
それでは医療経済税制委員会の調査につ
いてご報告したいと思います。
24時間つけていれば保険請求できますが,保険請
池澤先生がさわりのことをほとんど述べられま
求できないものとして計算しているものもござい
したが,もともと池澤先生からこの問題の調査の
ました。ご存じでしょうけれども,24時間入れて
提起があり試しに医療経済,税制委員の何人かの
おけば保険請求できるものはほかにもいくつかあ
病院で10ぐらいの手術を調べました。
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
55(55)55
資料1
手術項目分類と手術報酬
56
56(56)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
材料比率10%ぐらいのものが多かったのです
ケースの場合には適用例にあてはまらないので請
が,50%というものも出てきましたので,一体ど
求できないからこちらに入れた」と理由が別々で
ういうことだろうということで,本格的に調査を
した。
したわけです。ただし急にこういう調査をやりま
また非常に少ない材料費率のところにお聞きし
したので,データの点検をしています。医事課の
ますと,ガウンや手袋の金額も大きな手術ではば
方がやられた場合,資材課の方がやられた場合な
かにならないわけですが,
「こういったものは全部
ど病院によりいろいろです。
山積みになっていて,みんなが適当に使っている
間違いがないように,
「これはあくまでも手術技
術料に含まれて,別に請求できないもののみであ
のでカウントできない。だから載せてない」とい
うお答えが返ってきました。
る」と断ってありますが,PTCA の場合など手術に
きょうはむしろそういった実態を皆さんに理解
よっては請求はできるけれども3本までというこ
していただいて,材料費がいかに管理が行われて
とが決まっていて,それ以上使う場合,非常に高
いないか。数の管理は棚卸しなどでやられている
額な材料が保険請求できないものもあります。こ
と思いますが,経営的な見地からははっきりと把
のようなケースは別個に報告していただくように
握できていないということの証左だろう思いま
お願いしましたが,そのへんがごっちゃになった
す。
この調査は短期間のわりに回答数例が300近く
ままの資料が出てきました。
一応,このように集計しましたが,あやしいと
あり,いつもは回答が少ない私的病院についても
ころが相当あるので,それぞれチェックするため
回答が多く,私的が半分,公的半分の回答数で,
の,いくつかの手術ごとに各委員の先生方にお願
院長,理事長さん方の関心が非常に高いというこ
いしました。ただ,きょうの報告のなかでは循環
とがはっきりしました。しかし出てきたデータに
器については間に合いませんでしたので,できて
ついては,非常にばらつきが多いということです。
おりません。なかには千何百%と出て,おかしい
御覧になってお分かりのように,最初のぺージ
ので調べますと,どうやら資材課でお書きになっ
は非常に小さな手術ですから,使うものは少なく,
たようで,1つの手術に対する材料ではなく,年
下のところにまとまって出て落ちはないです。と
間の材料が載っていたのではないかと思われま
ころが比較的大きな手術になってきますと,今,
す。
池澤先生がお話になった3番目の手術になります
集計表を見ますと,5%以下についてはどうも
と,非常に高いところにもう一つのピークがあり
実際上使っているものと全部あげられていない場
ます。これは一つひとつ吟味しないと,ここから
合が多い。それと200%以上というのはどうもあや
何か結論づけることは非常にまずいだろうと思わ
しいデータが相当ある,非常に不確実だというこ
れます。
とで,5%のものおよび200%以上のものは異常値
しかも,中間値でみても18%と結構高いです。
として切りまして,それ以外のところでどういう
20%前後というのは結構症例としてあり,人工骨
ふうにばらついているかを見ました。そういう意
頭の次の挿入術にしても20%ぐらいになっていま
味で,このグラフが現状の中間報告としては主な
す。資料2の悪性腫瘍の手術,腹腔鏡下の手術,
データです。
胆摘なども割合高いです。
池澤先生のお話につけ加えますと,例えば有名
ただし資料3の腹腔鏡下,胆嚢摘出手術につい
なしっかりとした病院で150%というものが結構
ては,手術番号がK−672−2と672−02という全
いろいろなところで出てきました。そこで病院に
然違った手術がごっちゃになってしまっているの
は問い合わせてみました。
で,データとしては割愛してください。この2つ
ある病院では,ある手術が特定材料を含んで書
は改めて分けてそのうちお示しする予定です。し
かれていて150%になっていましたが,その同じ病
たがってこれは山が完全に2つになってしまって
院で別の手術がやはり150%で,お聞きしたとこ
います。
ろ,「特定材料だから請求できるけれども,この
山が2つ,または非常にばらついているような
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
57(57)57
ものは,これ以外にも多くありますので,このへ
のではないか,と頭から疑ってかからないと危な
んはもう少し細かな解析をしないといけないだろ
いのです。
うと思っています。逆に,こういった解析をしな
材料として意識されていないとむだに使われて
いといけないものは,果たしてそこの病院で適正
いる可能性があるということですので,各先生方
な請求や適正な扱いがされているかどうか,疑わ
の病院についても,すでにこの回答を出されたと
しい症例でもあります。そういう意味で,このデー
ころはこれら伝票を1枚1枚見ていただきたいと
タのばらつき方について見ていただきたい。
思います。我々の知らない名前がたくさん出てき
実際にどれだけどういうものを使われているか
については,案外お医者さん方も知りません。平
て,これは何に使ったのだ,なぜこんなに高いの
だという疑問がいろいろ出てきます。
均すると,1つの手術について20項目ぐらいは出
もう一つ,手術にあたって“○○セット”とセッ
ています。5項目以下というのは何か落ちがある
トを組まれている病院がありますが,そのセット
資料2
各術式の保険に適用されない物品費割合
資料3
58
58(58)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
が全体のなかに占める割合が非常に大きい。そう
さんはこれについてはあまり危機感をもたれてい
いうセットを組まれている病院は,その手術にお
ないと思います。DRG/PPS になれば完全にこれも
ける材料費割合が非常に大きいという傾向があり
含まれますから,材料費問題はもっと深刻になる
ます。そのセットは果たして全部使われているの
と思います。
かどうか,5千円,1万円というセットが使われ
しかし実はそういうなかですでに特定材料とし
ています。そのへんも少しみておかなければいけ
て請求することができないディスポ製品が増えて
ないかと思います。
います。しかも診療の質,精度をあげるための材
思い返してみますと,材料費問題はこれまで比
料として不可欠のものとして使われています。
較的軽視されてまいりました。それは病院長がマ
ところがそういうものは非常に高く,それなし
クロでみても手術や診療科によって材料費を使う
には今のお医者さんは手術をしない。またやった
比率が非常に違いますから,実態が分かりません。
とすれば,あとの具合が悪いということで,そう
病院全体の材料費比率といっても,診療科によっ
いう材料がふえてきている実情を認識していただ
て全く違ってきます。
きたいと思っているわけです。
特定材料を入れますと,一番大きいのは,恐ら
中労委などにおける材料費問題の検討委員会の
く循環器科あたりで,入院費も全部含めた診療報
報告などをみますと,薬価については非常に差益
酬の60%が材料費です。そういう病院とそういう
が少なくなり,むしろ今はもう差益ということは
ものがない病院との材料費を比べてもほとんど意
考えないで病院経営をしなければいけないといわ
味がないので,全般的な材料費を他病院と比較す
れています。
ることには何の意味もありません。したがって,
材料についてみると,これまで特定材料が手術
材料費比率の比較は意味がないと思われてきまし
料の低さを差益で補ってきたということが明らか
た。
であり,これが相当縮まってきました。中医協の
これまで材料費が非常に高い20品目ぐらいでコ
資料によっても,内外価格差も日本における差益
ントロールしようとすると,非常に高い特定材料
も非常に縮まっているという報告が,7月に出さ
だけをコントロールすることになり,ABC 分析で
れています。
はそれ以下のところをまずみません。そのためこ
それが非常に縮まってきますと,実際の管理費,
ういった小さな材料費がチリも見積もれば案外大
いろいろなロス,そして今度は高い材料に限って
きくなっていることが見落とされています。
ばっさばっさと保険請求で切られるということを
おもに特定材料に焦点を当ててみていきます
考えると,特定材料についてもむしろ簡単に売上
と,これまではそういった特定材料は極めて差益
として考え,薬価差益の問題だと考える時代がそ
も大きく,実は材料といってもその分が別に請求
ろそろ終わりつつあるのではないか。コストとい
できるので,コストと考えるよりも売上として皆
う面について相当考えないと,特定材料について
さんみられていたと思います。材料費問題はむし
も危ないという時代に入ってきたということを実
ろ売上の問題であって,差益が入ってくるものと
感いたします。
してプラスの面でみられて,マイナス面としては
そういう点でこの材料費問題をもう一度おのお
みていなかったということです。ある意味では材
のの病院できちっと把握していただきたいとい
料がコストとして意識されないままにきたのだと
う,むしろ問題提起としてきょうはこれを出した
思います。
いと思います。
ところがこの間,数年前から一定額以下の材料
手術料についてこれまで外保連を通じて要求し
については,どんどんマルメに入ってきています。
てきました。外保連の資料をみますと,人件費等
今度の DCP は DRG/PPS とは少し違いまして,手術
については案分で試算され,材料費もディスポ製
関連についてはまだ出来高払いですので,まだ皆
品を含むとして書いてあります。外保連の要求項
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
59(59)59
資料4
手術項目分類と手術報酬
60
60(60)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
目をみると材料費の項目はありますが,実は材料
費はほとんど何も書いていないのです。
黒で四角に囲んであるところ(資料4,103番)
もあります。
その場合無駄があるのか,その科の先生に
チェックしていただきましたが,
「この場合にはた
が今度,材料費の調査をした手術料ですが,みて
ぶんこういうことでこれを使ったのだろう」とい
いただくと,ほとんど材料費は算定されてません。
われると,両方ともそれなりに合理性があるとみ
特定保険医療材料以外の材料費については,外保
られます。
連のなかには試算では算定されていないのではな
そうしますと,患者の状態や部位の多様性に基
いかと思われます。そうしますと,今後そういっ
づく要素があるということですから,これについ
たものを含めて我々は考えないと,現実にそくし
てはもう少し分析していって,これからの診療報
た要求になっていかない可能性があるということ
酬のなかでこれをどういうふうに組み込んでもら
です。
うか,考えなければいけないと思います。
そういった点については外保連にもご検討いた
次に腹腔鏡下の手術については若干割り増しに
だきますし,我々の調査がもう少し精密にできあ
なっていますが,材料は多く使っているので,果
がりましたら,直接,厚生労働省に申し入れをし
たして腹腔鏡下手術の技術料が手術の難度だけで
たいと思っております。また,保険局の西山さん
決まっているのか,それとも材料を多く使うこと
にもそういうお話をして,
「そういう資料は自分た
を前提としているのかということについても,よ
ちももっていないので出してほしい」といわれて
く聞いてみる必要があるのではないかと思いま
おりますので,そういった動きも強めたいと思っ
す。
補足としてあとのほうにおもな材料費につい
ております。
ただ,これをみていきますといくつか問題があ
て,各施設からの値段をそのまま載せてあります。
ります。まずこのグラフにあるように,1つは手
このなかにはおかしなデータももちろんあります
術料の全体に占める割合は非常に大きく,この内
けれども,まだ分析は出しませんので,皆さんよ
容分析が問題になりますが,まだ十分にできてお
く御覧になっていただいて,自分の施設ではいく
りません。
らで買っていて,どうなのか,比べていただきた
その理由は同じ手術でも病状,状態がいろいろ
い。
違います。その結果として,近ごろはディスポで
眼内レンズ,対極板,ガウン等々,自分の施設
高いものを使わざるをえない。簡単にいけば確か
は適正な価格で買っているのかどうかという参考
に5%ですが,同じ手術で50%ぐらいになる症例
になればと思って載せました。こうした価格のば
資料5
各術式の保険に適用されない物品費割合
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
61(61)61
資料6
62
62(62)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
資料7
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
63(63)63
資料8
らつきが,仕様の多様性もありますので,この2
のところでみますと,冒頭にある30,511というの
つをこれからどう分析していけばいいか,皆さん
は金額でしょうか。
方のご意見もお聞きしたいと思っています。
このようにみていきますと,特定材料以外の材
料費はネグリジブル・スモールだと我々は頭から
考えていましたが,そうはいっていられないので,
石井
そうです。
質問
8とか2というのは何を表しているので
しょうか。
石井
グラフの一番最初に書いてあるのは手術
これについての基本的な考え方を日本病院会とし
の点数です。2,050点=20,500円です。「最大値」
てかためていかなければいけないと思います。こ
と書いてあるのは,これに使っている材料で,報
れについてはぜひ会場からもご意見をいただきた
告のあるデータのなかで一番高く使っているのは
いと思います。
30,511円です。中間値が5,398円ということですの
ばらつきの多い手術については,おのおのの回
で,技術料の26%が実は材料費であるということ
答のデータの個別チェックをこれからやっていき
です。
「最頻値」はばらつきが多いために出てこな
たいと思いますので,最終報告には少し時間がか
いものもありますが,先ほどの平均値と中間値を
かると思いますが,いずれちゃんとしたものをま
みていけば大体の傾向が分かるということです。
とめたいと思っております。
それを視覚的にするために,右側に金額をヒスト
あまり内容はありませんが,一応中間報告とい
たします。あとはご質問なりご意見を伺いたいと
思います。よろしくお願いいたします。
グラムでお示ししてあります。
質問
分かりました。もう一つは資料6の例え
ばガウンですが,最小値が12,これは円ですね。
最大値が3,958円となっていますが,一言でガウン
座長
非常に不十分な報告ですが,我々の身近
といいますけれども,どういうふうなデータで出
なところに大きな落し穴があったというデータで
ているのか,そのへんがわからないと,見ようが
すので,ご質問なりご意見がありましたらお伺い
ないと思いますが。
石井
したいと思います。
質問
正直言って,これはおのおのの事情を聞
この表(資料5)の見方だけを教えてい
かなければ分かりません。今,ガウンについては
ただきたいのですが,例えばK−028の腱鞘切開術
ほとんど手術着はディスポになってきていると思
64
64(64)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
資料9
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
65(65)65
いますので,そういったものをあげていただくと
てみました。
いうことです。この12円というのは,まだ全部自
外保連であげている点数は黒枠でくくってある
分のところで洗濯をしていて,その洗剤のお値段
上の103番ですが,16,915円と出しています。それ
かもしれない。そういうふうに解釈されて書かれ
に対して実際の保険点数は20,500円です。つまり
た可能性はあります。このへんについては聞いて
外保連が出した数字よりも高く保険点数が出てい
みないと分かりません。非常に高いところと低い
ます。
ところがあり,正直いってこの数値はやや疑問が
座長
例えば痔核の手術が資料8にございますが,
5,360点=53,600円です。これも資料9に,50,745
あります。
手術着は「ガウン」として何枚使って仕
円と外保連が出した料金よりも高く設定していま
入れ値はいくらで合計いくら,という形で出して
す。これは明らかに厚生労働省が診療所での手術
いただいています。あくまでも仕入れ値というこ
が可能なものについては高く設定してもよいとい
とですが,ご自分のところで消毒されている形で
う意図が働いているのではないだろうかというこ
は値段がつけられないのかもしれません。
とが伺われます。
ただ,異常値は確かにございます。資料7の電
そのほかの手術では全部外保連が出した点数よ
気メスの対極板を見ていただきますと,21円から
りも低く出されております。これはこの調査のう
8千円の幅があります。この8千円というのは何
えでの副産物ですけれども,そういった点もだん
枚か入っている箱の値段ではないだろうかと思い
だんと明らかになってきました。
ますが,こういう形で回答されているというのが
質問
我々は公立病院ですけれども,医療材料
現実です。我々としてもそれを書かざるをえない
の仕入れ値のところで,公的病院と私的病院に努
ですが,これについては詳しく調査し直して出し
力の差があるのかどうかということはここから読
ていきたいと思っております。
みとれないのか,また平均値は出せるものかどう
ただ,大体において数値としては400∼500円台
のところまでがかなりあると思いますけれども,
かお伺いしたいのですが。
座長
これは公的・私的それぞれ出していけば
これについてもどのへんが一番妥当かというのは
平均値は出ると思います。ただ,公的病院の場合,
少し不明だという点がございます。
市立あるいは町立レベルの問題なのか,県立,都
石井
変な値ではないと思われる場合でも,そ
立病院というレベルの問題なのかで仕入れの仕方
のばらつきが割合に大きいのに,むしろ驚いたと
が違います。また地方によって問屋との関係もい
ころです。異常値があるのは,解釈の相違や間違
ろいろ複雑なのだろうと思いますので,あまり出
いで1箱の値段を書いたりはよくあることです
しても意味がない。ただ,「ここまで下げられる」
が,割合ちゃんと書いてあるのではないかと思わ
という値段としてご利用いただければよいと思い
れる場合も非常にばらつきがあります。
ます。
座長
少し補足して申し上げますと,非常に興
ほかにご質問はありませんか。特にないようで
味あることに気がつきました。実はこれを調べて
すので,それでは以上をもちましてこの報告は終
いくうちに,腱鞘切開術は,バネ指の手術のこと
わりたいと思います。どうもありがとうございま
ですから,診療所でもかなり行われているのでは
した。
ないかと思いまして,これを外保連の点数と比べ
66
66(66)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
第53回日本病院学会・シンポジウム
機能分化と医療経営
―病床区分選択へのファイナルカウントダウン―
武
梅
医療法人近森会理事長 近
医療法人宏人会社会福祉事業部主任 加
(座長)東北大学大学院経済学研究科教授 関
厚生労働省保険局医療企画調査室長
日本大学医学部社会医学講座医療管理学部門助教授
田
里
森
藤
田
俊
良
正
由
康
彦
正
幸
美
慶
平成15年6月・大阪市
座長
東北大学の関田です。日病では統計情報
委員会のワーキング委員長を務めております。
室長の武田先生です。
それから,研究者のお立場で,ミクロ,マクロ
今日のテーマは「機能分化と医療経営∼病床区
の視点から「機能分化と医療経営を考えてみる」
分選択のファイナルカウントダウン∼」です。特
というテーマでお話しいただく,日本大学医学部
に,8月末までに届出が求められている一般病床,
医療管理学教室助教授の梅里先生です。
療養病床の区分の在り方も含めて,機能分化の在
り方についての議論を深めたいと思います。
それでは,ただいまから,シンポジウム1を始
めます。このシンポジウムの趣旨の背景としては,
病院管理者のお立場から,医療法人近森会の「機
能分化と医療経営」というテーマでお話しいただ
く,近森会理事長の近森先生です。
コーディネーターのお立場から「紹介連携の現
医療機能の分化,統合に関心が集まっているわけ
状分析とコーディネーターの貢献」というテーマ
ですが,これは医療資源を効果的,効率的に活用
でお話しいただく,医療法人宏人会社会福祉事業
するという病院戦略として必要な環境でもありま
部主任の加藤先生です。
す。また,医療法における病床区分の届出など,
今日のシンポジウムの進め方について,ご説明
現実的な意思決定を迫られている問題もありま
いたします。まず,最初に,私のほうから基礎的
す。シンポジウムでは,この問題を行政,研究者,
な話をさせていただいて,その後で4人のシンポ
病院管理者,コーディネーターの立場から,根拠
ジストの先生方からお話を伺います。その後,5
に基づいて考え,議論をしていただこうと考えて
分間休憩の後,総合的な討論に移りたいと思いま
おります。
すので,よろしくお願いいたします。このような
Evidence Based Medicine という概念は,最近,
進め方は,通常,フォーラムの形式といえますが,
非常に使われておりますが,このシンポジウムで
シンポジウムということで,その中でフォーラム
は,Evidence Based Management プラス直感的な
的な進行をさせていただきたいと思います。
意見も踏まえて,また,言いにくいところは,個
人的な見解として,大いに発言していただきたい
と思います。
それでは,シンポジストの先生方をご紹介しま
す。まず,行政のお立場から「機能分化と病院の
それでは,私のほうから,この問題に関して,
基礎的な話をさせていただきます。
講演要旨
まず,私の話の趣旨ですが,はじめに,病院の
在り方,特に医療制度改革と診療報酬の改革」と
機能分化はなぜ必要であるのかという問題。次に,
いう視点から,厚生労働省老健局医療企画室調査
機能分化はどのような効果を発揮するか。そして
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
67(67
67)
分化の必要な理由として考えられるわけです,そ
れでは実態として,本当にそういうことが起こっ
ているかということを,2,3の例で考えてみた
いと思います。
スライド1
医療経営にとって,どのような機能分化が存在し
て,それをどう選択すればよいのか。また,機能
分化は医療経営にどのようなインパクトを与えて
いるか。次に,機能分化の成功の条件は何か。ま
た,病床区分をどのように決定していけばいいの
スライド2
か。最後に,連携コーディネーションはどうある
このスライド2は,フラクタル科学の視点から
べきか。このようなことを考えてみたいと思いま
みた機能分化の例です。フラクタル科学とは,複
す。
雑な構造のシステムが,実は単純なルールの繰り
返しによって作られているのではないかというこ
病院の機能分化はなぜ必要か
とを研究している分野です。たとえば,血管の分
まず,機能分化が必要な理由です。1つは,医
岐ですが,血管系は,木のようにこの分岐の繰り
学・医療技術の視点から,①医学・医療の専門分
返しによってできていると考えることができま
化が進んでおり,機能分化が不可欠であること。
す。フラクタルの中でよく使われるフラクタル次
②専門性の高い高額な医療機器設備の開発によ
元というのがありまして,そのフラクタル次元を,
り,これらを使っていく点で,どうしても機能分
血管の直径でシステムとして表すと,直径のデル
化の傾向となること。③医療機能集積による医
ター乗イコールその2つの分岐した血管のデル
学・医療上の効果があるという視点からも,機能
ター乗の合計であるといえます。このようにやっ
分化は必要です。次に,患者サービスの視点から
ていくと,デルターのフラクタル次元が分かると
みた場合に,機能分化は,患者の多様な医療サー
いうことが研究されておりまして,デルタが2.7
ビスニーズに対応できます。また,質の高い医療
という結果が出ています。
サービスを提供することもできます。それから,
心臓からの8分岐から32分岐までについては,
病院経営の視点からみた場合に,設備投資の合理
こういう関係式が導かれているらしくて,Dの2
的な選択をするということになると,やはり機能
乗が血管Dの直径とすると血管Dの血流量が血管
分化が求められます。また,機能分化によって医
D1,D2の血流よりも少ない。つまり,血管D1
療機能集積の経営的な効果,すなわち目玉の機能
とD2の合計血流量のほうが多い。ということは,
をつくることで優位性を維持することができま
D1,D2のスピードが遅くても,血液を運ぶこと
す。さらに,機能分化は人員や機器の稼働率を向
ができるわけです。これはどういう意味かと言う
上させることもできます。医療資源設備の有効活
と,大きい血管が分岐するときに,血流スピード
用の視点からみると,機能分化は地域医療資源の
が下がるということは,血管壁があまり厚くなく
効率的な活用を可能にしますし,それによって地
てもよいのです。もしもDとD 1 ,D 2 が同じス
域医療の質の向上も期待されます。以上が,機能
ピードであれば,巨大な心臓をつくらなければい
68
68(68)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
けないとか,血管壁が非常に厚くなるというよう
第に増大していることがわかります。つまり,診
なことが起こってしまうことになります。
療機能の分化が実際に起こってきたわけです。
これは,システムアナロジーとして病院にも同
じことが言えるわけで,機能が高く,高速でサー
機能分化はどのような効果を発揮するのか
ビスする病院の場合には,資源の投入量が非常に
大きくなります。特定機能病院を例に挙げると,
すべての病院を特定磯能病院にすることは不可能
です。機能のスピードを少し落とした病院もあれ
ば,もっと落とした病院もある。中速にして,基
幹病院であったり,療養型であったりというよう
に病院によって機能のスピードが異なります。こ
のようにして,医療サービスの流れをシステムと
してつくることができると考えられるわけです。
スライド4
これ(スライド4)は損益分岐点を経営的な視
点からみたモデルです。横軸に診療収益,縦軸に
費用をとっています。したがって真ん中の45度線
にあると,収支がバランスしているわけです。縦
軸に固定費用をとって,そこから右上がりのとこ
ろが変動費です。すなわち固定費用に変動費が
乗っかっている。たとえば,この固定費で,これ
だけの変動費があれば,損益分岐点の場所はここ
になるということです。
もし,すべての診療領域において,ある種の資
本投資をする,集積するとなると,当然のことな
スライド3
がら,何でもかんでもやると固定費が上がり,そ
この(スライド3)例は,実際に医師機能や診
れにつれて変動費も上がります。そうすると損益
療科を分化していったときに,いま述べたような
分岐点はここまで行ってしまって,相当,診療収
ことが本当に実態として起こっているかというこ
益を上げなければならない,ということが起こり
とを調べたものです。診療科目を過去1950年ぐら
ます。これだけ投資して,これだけ増やさなけれ
いから取りまして,標榜されている診療科目が全
ばいけないということは,この部分とこの部分を
体の病院の中でどのぐらいあるかを調べたもので
余計に固定費用,投資以上に稼がなければいけな
す。それが,このP1ですが,全国の病院の中で,
い,という経営上やっかいな問題が生じるわけで
その診療科目はどのぐらいあるかをエントロピー
す。
の指標で計測し,その分化の程度を調べたのがこ
このグラフ(スライド5)は,機能分化集積の
のグラフです。時間とともに,エントロピーは次
規模を経済性から見たものです。横軸が患者数,
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
69(69
69)
スライド7
ては,改定でよくなりますし,Bの病院にはマイ
ナスになるということが,どうしても起こってき
ます。もちろん,いろんな機能の病院に加算など
いろいろ調整はされますが,あまり数の多くない
診療報酬体系を適用した場合には,どうしてもこ
スライド5
のような事態が起こります。
縦軸が平均収入と平均費用です。固定費と変動費
下の表は,平成9年から14年までの各診療報酬
に患者数を掛けた合計が,コストです。もしも機
改定において,入院,外来別に1人1日点数が上
能分化を行わず,集積が起こらないとすると,赤
がったか,下がったかを調べたもので,メジアン
字になってしまいます。機能集積が規模の経済性
で示しています。
という観点からも意味があるということです。
この表から,その改定の年ごとに,いろんな改
これ(スライド6)は,診療報酬の視点から機
定が行われて,上がったり,下がったりしている
能分化をみたものです。診療報酬の体系の面から
のですが,結果的に調整が行われて動いているこ
みた場合,機能分化がしっかり行われていないと,
とが読みとれます。即ち,この体系の問題点を,
Aという機能の病院と,Bという機能の病院が
改定のたびに調整しているわけです。
あったときに,診療報酬のレベルをどこかに設定
地域医療の視点からみた場合に,機能分化はど
しなければいけません。そのときに,A病院にとっ
のような効果を発揮するか(スライド7)という
ことですが,もしもAとB2つの病院が,それぞ
れある機能の設備を持って,その診療をやってい
たとします。そうすると,AとBの診療圏は競合
しますので,広がらないわけです。診療圏の面積
に,ある種の確率で,患者が存在しているのです
が,必ずしも十分カバーすることができないとい
うことが起こります。なぜならば,診療圏が小さ
いために,患者を必ずしも確保できないからです。
もし,A,B2つの機能を1つの病院Cが機能
するという形にしますと,例えば診療圏を1.5に広
げるだけで面積が2倍以上になりますから,この
2つの機能を1つ,もくしは,ちょっと増やすだ
けで,100%稼働できるような病院が生まれます。
即ち,地域医療の視点からも,機能分化を進める
スライド6
70
70(70)
ことによって,その資源の有効活用が期待できる
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
というわけです。
医療経営にとって,どのような機能分化が存在
し,それをどうやって選択すればよいか
それでは,医療経営にとって,とのような機能
分化が存在して,それをどう選択していけばよい
のかという問題です。そこで1つの考え方を,こ
こで示したいと思います。すなわち,医療・経営
管理機能ユニットというものを,これからきちん
と作っていかなければならないのではないかとい
うことです。
スライド8
この医療・経営管理ユニットの定義ですが,医
療・経営管理機能ユニットとは,病院の医療機能,
今までの病院は,タコ足的というか,いろんな
経営管理機能を効果的,効率的に達成するための
医師がいて,出たり入ったりして,いろんな設備
機能単位。機能ユニットは,機能の目的,機能を
も出たり入ったりして,機能ユニット的なものが
達成するための運営規範,マニュアル等を整備し,
必ずしも充実していません。例えば,あるドクター
機能を遂行する人員,施設,機器等を備えること
が,ある機能整備を始めて,いろんな器械設備を
が必要である。また機能遂行の効果,効率などの
整備した。しかし,その方がいなくなってしまう
評価基準を設け,それらの基準に基づく評価を行
と,ほとんど使われなくなって,また別のドクター
い,評価結果を病院内外に公開するということが
が来ると,また,別の器械を買うというようなこ
求められる。以上が医療・経営管理機能ユニット
との繰り返しです。機能ユニットを設備し,その
の定義です。このような機能ユニットをきちっと
中にどんな人が入ってきても,その機能が維持で
整備し,体系化して統合していくということをや
きるというような管理をしていく必要があると考
らなければ,原価計算もできません。また,診療
えます。それをやらないと,機能分化とか,機能
報酬体系を組み立てる場合でも,こういうものが
集積というのは非常に難しいということです。
それでは,実際に機能ユニットとは,どのよう
ないと,大変難しいわけです。
それでは,機能ユニットの条件とは一体何かと
なものが考えられるか。機能ユニットを設計をす
いうことですが,1点目は,目的を達成すること
る場合には,いろんな基準があります。①緊急度
に強く関連づけられたユニットであるというこ
でユニットを構成する場合は,救急とか救命救急
と。2点目は,ユニットの自己完結度(独立性)
ということです。そのほかにも,②患者属性(性,
が高いこと。分離しづらいものは,ユニットにな
年齢),③疾患,④器官・臓器,⑤急性,慢性,⑥
りにくいわけです。3点目は,ユニット内のシス
感染度,⑦危険性,⑧場所(施設,在宅)
,⑨サー
テム要素間の関連が明確であること。これは,人
ビス時間帯,⑩検査,治療方法,⑪集積度,⑫要
の場合でも,施設の設備機器の場合でも,いろん
介護,⑬入院,外来,訪問診療,⑭専門性,⑮連
な組み合わせがあるわけですが,その中について
携,⑯保険適用,⑰福祉サービス,⑱経営管理,
の関連が明確に示されているということです。4
このようなユニットが考えられて,これを組み立
点目は,ユニット機能遂行の評価が行われること。
て,統合していくということです。SARS などの場
評価基準は,効果性,効率性,安全性,信頼性,
合には,緊急性があって,感染性が高くて,危険
患者・職員の満足度,倫理面性などです。これら
であって,治療方法は何をやなければならないの
の諸条件を充足する機能ユニットが必要だろうと
か,こういった複数の基準を組み合わせないと難
思います。
しいわけです。
この図(スライド8)は,機能ユニット化と従
来のシステムとの相違を示したものです。
実際の機能ユニットの例としては,①急性期,
慢性期機能ユニット,②CCU, ICU, NICU,③急性
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
71(71
71)
期リハ,回復期リハ機能ユニット,④救急機能ユ
自己主張,アサーティブと,インテグレーション
ニット,⑤短期滞在手術機能ユニット,⑥手術機
が,うまくバランスしているということです。人
能ユニット,⑦整形外科,脳外科機能ユニット,
間の成長過程でこのような機能が働くと,うまく
⑧情報機能ユニット(DB システム)⑨地域連携機
いくんですけれども,がんのような組織が増殖す
能ユニット,⑩物品管理機能ユニットなどが考え
ると,うまくいかないということです。
れます。病院の中で,こういうものをきちんと整
備していけば,保険適用がしやすいし,また EBM
(Evidence Based Management)が可能な形になる
機能分化は,病院機能にどのようなインパクト
を与えているか
さて,それでは機能分化が病院経営に実際どの
だろうと思われます。
ようなインパクトを与えているのかということに
ついて,考えてみたいと思います。このグラフ(ス
ライド10)は,急性期入院加算と,急性期特定入
院加算を算定している病院と,算定してない病院
において,H.14年の診療報酬改定で,1人1日
当たりの点数がどの程度変化したかを分布関数で
示したものです。分布関数というのは,この場合,
横軸の100の値が変化してないところで,100より
右に行くとプラス,左に行くとマイナスという見
方をします。例えば,98ということは,改定によっ
て,1人1日当たりの点数が2%ダウンしたとい
うことです。縦軸は相対累積度数であり,その確
率分布の関数を分布関数として表したものです。
スライド9
それでは,どのような形で機能ユニットを統合
していけばいいのか(スライド9)ということで
すが,並列的な統合,階層的な統合,ホロニック
統合など,いろいろなタイプがあると考えられて
おります。並列的統合というのは,機能ユニット
を並列的に利用しながら統合するという考え方で
す。例えば,救急のユニット,手術のユニット,
脳疾患のユニット,経営管理のユニット,こうい
うものを統合することによって,脳外科の病院を
ユニット統合でつくることができます。
スライド10
階層的統合では,例えば,循環器内科,消化器
内科,呼吸器内科などを統合することによって,
例えば横軸の100のところから垂直にひいた直
内科ユニットを形成することができるという考え
線と分布関数曲線が交差する点を,縦軸の値でみ
方です。
ると,それが100以下の病院の割合(マイナス改定
ホロニック統合というのは,ホロニックシステ
割合)を示しています。また,この右側の分布関
ムの考え方に基づいています。これは,システム
数は,算定している病院群ですが,これをみると,
の中の要素,すなわちサブシステムの独立性が非
ちょうど半分ぐらいがマイナス改定病院です。と
常に高い一方で,それを全体的にインテグレート
ころが,左側の分布関数,つまり算定していない
する機能も働いているという考え方の統合です。
病院群では,60%近くがマイナス改定になってい
72
72(72)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
ることがわかります。縦軸の50%のところのメジ
アン値をみても,やはり算定している病院群では
1人1日当点数が高くなっています。すなわち,
一種の急性期の機能分化,集積を始めているとこ
ろのほうが,当然のことながら1人1日当たりの
点数は高くなっているということです。
スライド12
医療型は混合型に比べて非常に差が大きい,バラ
ツキがあるということです。したがって,医療型
でも,うまくいっているところと,あまりよくな
いところ,これが二極化されつつあることがわか
ります。
スライド11
スライド11は,私的病院の療養型病床群への移
行に関する意識を示したものです。縦軸で,上の
3群が平均在院日数で分類された病院です。20日
未満と,20日から29日,29日以上の3群に分けて
います。療養型に移行するという意向を示した病
院の割合をみると,29日以上の病院については,
6割以上が既に療養型に移行しており,さらに2
割以上の病院が移行の予定と答えています。した
がって,平均在院日数をコントロールすることに
よって,どういう機能分化をするかという意思決
定を求められているわけでありますが,実際にこ
ういう病院の機能分化への意識がみられるという
ことがわかります。
スライド12は,療養型病床群に移行予定と答え
た病院を,移行予定のタイプで分類し,各タイプ
スライド13
群の入院1人1日当点数を分布関数で示したもの
スライド13は回復期リハ病棟の入院料算定につ
です。移行予定のタイプは,医療型,介護型,医
いてどう考えているかを示したものです。これを
療と介護の混合型の3種類です。介護型と答えた
みると,回復リハという機能ユニットを目指そう
病院は数が少ない。そこで,医療型と医療と介護
としている病院が比較的多いことがわかります。
の混合型を比較してみます。マイナス改定病院の
特に私的病院で,その傾向がみられます。
割合は,混合型のほうが医療型よりも多くみられ
スライド14は,デイサージェリーの機能ユニッ
ます。しかし医療型の場合は,分布関数の形が混
トについて,どのように考えているかを示したも
合型のそれよりも斜めに傾いています。つまり,
のです。これをみると,公的,私的を問わず,400
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
73(73
73)
スライド14
スライド16
スライド17
スライド15
床以上の病院では,このデイサージェリー機能ユ
スライド15は,救急医療の充実をどうするかと
ニットを考えている病院が比較的多いという傾向
いう意思決定を示したものです。救急医療は,紹
が出ています。規模が大きくなると,こういうこ
介率を上げる上で非常に大きな役割を果たしてい
とを選択するという結果が示されているわけで
ることもあり,その機能集積をある程度行う必要
す。
性があります。救急医療は,大体,規模の大きい
74
74(74)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
病院が担当するという傾向があり,公的でも私的
床区分を既に決めているというのが一番上の群で
でも,規模の大きいところが救急の機能を整備し
す。検討中というのは上から二番目の群です。検
ようと考えています。しかしこれをみると,200
討していないという群は,病院の数が少ないので,
床未満の場合でも,かなりの病院が,救急をある
既に決めている群と検討中の群,この2つで比較
程度やらなければいけないと考えており,やはり
したいと思います。その病院構成をみると,既に
紹介連携ということの意味が非常に大きいのかな
決めている群では,公的病院が約55%,私的病院
という気がします。
が約45%です。一方,検討中の群では,公的病院
スライド16は在宅医療の機能ユニットに関する
が60%強,私的病院が40%弱となっています。病
意思決定です。規模の小さい病院では,在宅医療
床規模でみますと,公的の200から399床の病院割
強化の意向が非常に強い。しかし,規模の大きい
合が,既に決めている群と検討中群で少し違う。
ところも,救急と同時に在宅もやらないと,在院
私的も同様です。私的では,200床未満もちょっと
期間の短縮が非常に難しくなるので,在宅医療の
違いますね。このように,病床規模によってそれ
機能ユニットの整備を始めています。
ぞれ傾向が異なります。
スライド17は,手術施設の要件をクリアしない
手術に関する意思決定を示したものです。他の医
療機関に紹介するとか,手術を減らすとか,いろ
いろな選択肢がありますが,この手術施設要件の
導入によって,小規模の病院がどう対応するかが
迫られているわけです。しかし,要件を充足しな
いからといって,だから手術をやめるということ
は,なかなか地域の中では難しいという事情も
あって,大部分は従来どおりやらざるを得ないと
答えています。また,他に紹介することもあると
答える病院もみられます。
スライド19
スライド19は,総収益合計対総費用合計の分布
関数を,病床区分の意思決定で分類してみたもの
です。ここで知りたいのは,病床区分を決めてい
る病院群と,検討中の病院群で,経営的な内容が
どう違うのかということです。横軸100のところ
が,収支がバランスしているところです。これよ
り左側は赤字の病院です。つまり,総収入が総費
用に達しない病院の割合です。病床区分を決めて
いる群に比べると,検討中の群や検討していない
群では赤字病院の割合がかなり多くみられます。
やはり,きちんと病床区分を決めている,つまり,
推測ではありますが,病床区分を決めている群と
スライド18
いうのは,たぶん情報収集ときちんとした議論が
スライド18は病床区分について,どう考えるか
行われていて,そういうような病院であるからこ
というデータです。昨年の診療報酬改定のときの
そ,経営のバランスもいいのではないかと思われ
ものです。今年はこれよりもっと詳しい調査を
ます。もう少し詳しく調べる必要があるかもしれ
やっているのですが,時間的に間に合わなかった
ませんが,そういう見方もできると思います。
ので,去年のデータに基づいてお話しします。病
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
75(75
75)
これは,機能ユニット集積化の1つの例です。
急性期入院加算・急性期特定入院加算をとってい
る病院における,収入に対する給与費の比率の分
布関数です(スライド20)。算定している病院群の
分布関数は,病院群の左側に位置しています。算
定してない分が横軸50のところは,給与費が収入
の50%を占めていることを意味します。その割合
をみると,メヂアン値(縦軸50%)では,算定し
ている病院群で50%,算定しない病院群で54%ぐ
らいです。すなわち,算定しているところが,算
定してない病院群よりも,収入における給与費の
スライド20
割合が低くなっているということです。これは,
急性期の機能ユニット集積化による効果といえる
機能分化の成功する条件は何か
のではないかと考えられます。
それでは,機能分化の成功する条件とは何で
しょうか。
病院区分はどのように決定すべきか
1点目は,機能ユニットとしての条件が充足さ
さて,今日の議論の焦点の1つ,一般病床,療
れていること。2点目は,受療患者と機能ユニッ
養病床をどういうふうに決定していけばいいかと
トの適合性がよいこと。3点目は,目玉となる機
いう問題です。
能ユニットがあること。4点目は,機能ユニット
スライド21は昨年の診療報酬改定の際に調査し
の統合性に優れていること。つまり,他の機能ユ
た結果です。730病院ぐらいの,日病の会員病院の
ニットとの統合効果が高いということです。5点
協力を得たデータです。このような,非常に役立
目は,機能ユニットの統合が容易であること。6
つデータとなりますので,今後とも調査には是非
点目は,経営面から優れた機能ユニットとして評
ご協力いただければ幸いです。左側スライドが入
価されること。7点目は,地域の医療機関,福祉
院で,右側が外来です。横軸が4月の点数で,縦
施設などとの連携性に優れていること。以上のよ
軸が4月の延べ入院患者数(延入院日数)です。
うなことが,機能分化の成功する条件であろうと
皆さん方の病院はこの中のどこかに入るわけで
考えられます。
す。各病院は,病床規模と公的,私的の6群に分
スライド21
76
76(76)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
類されています。規模の小さい病院ほど,原点に
ろいろ制限があるわけです。たとえば,その疾患
近い部分に位置しています。入院も外来も,角度
がどのぐらいあるかとか,基準病床がどうなって
の急な線上の群は,延入院日数における点数が低
いるかなどという制約がありますので,地域医療
いことから,慢性期の病院群です。角度のゆるや
計画の中において,また,地域医療の中で,どう
かな線上の群は,急性期の病院群です。つまり,
なのかということを考えなければいけない。さら
延入院日数における点数の角度が,慢性期と急性
には,介護保険の影響もありますので,介護病床
期ではっきりと異なって出ているのです。した
転換等も含めて,介護保険のほうにいくかどうか
がって,自分の病院の現状をプロッティングすれ
ということも含めて考えなければいけない。その
ば,今の自分の病院が急性期型なのか慢性期型な
上で,機能ユニットを統合して,一般病床,療養
のかということが,ある程度分かるわけです。た
病床を設計する。こういうことをある程度繰り返
だ,200床未満の中小病院は,扇の要の部分に集中
して,決定する必要があると思います。
しており,急性期・慢性期のどちらにいけばいい
かということがよく分からない。外来も入院と同
じような傾向を示しています。ここで言えること
は,もう既に,急性,慢性,一般病床,療養病床
的な点数配分に基づいて,病院がかなり対応して
いるということです。しかし,これは現状を表し
ているに過ぎず,これから自分の病院の病床をど
うやって決定するかということは,また,きちん
と議論しなければいけないわけです。
スライド22は,病床区分を決定するためのフ
ローチャートです。自分の病院の診療機能である
とか,どんな患者さんが来ているか,どういうス
スライド23
タッフがいて,どんな設備機器があって,何がで
スライド23は,急性期・慢性期患者の入院退院
きるかという,こういうチェックであります。そ
モデルです。一般的に,病院には急性と慢性の患
れをシミュレーションして機能ユニットを決め
者が来院して,サービスを受けて出ていくわけで
て,一般病床,療養病床の数を決めていく。ただ,
す。急性期の患者は,多く入り,多く出ていきま
この病院の病床数の決定というのは,自分の病院
す。一方,慢性の患者は,適切な対応がなされな
だけでできるわけではなくて,地域医療の中でい
ければ,入ったあと,出られなくなってどんどん
溜まっていってしまいます。つまり,急性期の患
者と慢性期の患者は,入ってくる割合と出ていく
割合が違うのです。では,どうやってこれを決め
ればいいか。そのことを,モデルを使って紹介し
ます。
スライド24は,慢性期の患者の病床占有率モデ
ルです。aは,慢性患者の病床占有率を定常の状
態で示しています。αは,ある単位期間当たりの
新入院患者に占める慢性患者の割合を表したもの
です。γが単位期間当たりの慢性患者の退院率と
急性患者の退院率の比,つまり,慢性患者がある
期間で退院率が何%,急性患者が何%,の比率で
す。それを入れることによって,このシェアが決
スライド22
定されます。仮に,入院患者の割合をコントロー
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
77(77
77)
スライド24
スライド26
ルする場合に,γやαをコントロールすることに
よって,aをコントロールすることができるので
す。
しかし,先ほど述べたように,自分の病院だけ
で病床を決定するわけではなくて,地域医療との
整合の中で,病床が決定されるわけです(スライ
ド26)。Bj とは,jという病院の病床数です。aij
とは,iという特性の患者がj病院に占める病床
占有率です。その地域における潜在的な患者数や
基準病床数といった制約の中で,病床を決定する
ということが必要になってきますが,そのときに,
このk i という指標を考えることにします。この
ki とは,2次医療圏域の中で,潜在患者がどのぐ
らいいるかということを表した指標です。優先指
数(S)が大きければ大きいほど,その機能ユニッ
トに対して,サービス参入の期待が大きいという
ことになります。si というのは,1からki を引
スライド25
いたものです。機能充足指数(k)が1を上回る
スライド25は,先に述べたγとαによって,a
場合,たとえば機能ユニットに対して,患者が非
がどう決定されるかを表にしたものです。例えば,
常に多い場合には,病床利用率がどんどん低下し
退院のスピードを0.4とします。退院のスピードを
てゆきます。つまり空床がたくさん出てくるとい
2倍に上げると,0.2になります。0.4の退院スピー
うことです。基準病床の制限などがある場合には,
ドで,最初の新患の慢性患者の割合を0.4にする
Kが0から1の間にあり,このKとかSとかの指
と,0.63,つまり63%の病床が慢性患者でシェア
標を見ながら,決めていくということが一番いい
されるわけです。退院スピードを倍にしますと
やり方でありますが,しかし,それぞれの病院の
87%のシェアになります。したがって,在院日数
病床占有率がどのぐらいかというのはよく分から
をどのぐらい短くするかを計算することによっ
ないので,そのへんはシミュレーションをやって,
て,療養病床の患者のキャパシティーが決まって
詰めていくということでもやらないと,なかなか
くるわけで,自分のところの急性期,一般病床と
難しい部分があります。
療養病床をどのぐらいの数にするかというのは,
この式を使うと,ある程度出てきます。また,パ
ラメータを変動させることによって,どういう医
療をするかということも検討できます。
78
78(78)
連携・コーディネーションはどうあるべきか
連携・コーディネーションはどうあるべきかと
いうことについて,少し考えてみたいと思います。
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
まず,連携やコーディネーションが必要である
と皆が言っていますが,それはどうしてなのかと
いうことを,少し考えてみたいと思います。機能
分化とか,ユニット機能化,機能集積化などには,
コーディネーション,連携機能の導入が必要とさ
れていますが,その理由は,それを行うことによっ
て,次のような効果が期待できるからです。1点
目は,医療の質のさらなる向上が期待されること。
2点目は,患者の多様な医療ニーズに対応可能で
あること。3点目は,医療の生産性を向上させ,
効率化を進めることができること。4点目は,病
床利用率の低下を防ぐことができて,経営面に貢
スライド28
献すること。5点目に,地域医療の資源の有効活
ケースがありますが,これらの機能ユニットが,
用が期待できることです。
それぞれ機能しながら併存しているモデルです。
それから,内部の連携・コーディネーションで,
機能ユニット間の連携・コーディネーションと,
クリティカルパスがあります。機能ユニット間の
連携というのは,先ほど述べたような効果が期待
できます。クリティカルパスも,このコーディネー
ションを行うことによって達成することができま
す。しかし,クリティカルパスの場合には,機能
ユニット化をある程度行ってないと,限度があり
ます。なぜ,限度があるかと言うと,サービス利
用率がどんどん高くなって,パスの数が増えてい
スライド27
くほど,資源の稼働率を上げなければならなくな
ここで連携・コーディネーションのモデルを考
るという問題が生じるからです。資源の稼働率を
えてみたいと思います。直列とか並列の連携・コー
上げるためには,ユニットとして機能しなければ
ディネーションのモデルです。まず,直列連携・
なりません。ばらばらな動きというのは,コント
コーディネーションのモデルを示します(スライ
ロールが難しくなりますので非常に難しいので
ド27)。例えば内科系の病院,つまり内科機能ユ
す。ですから,パスをつくっていく場合でも,機
ニットに患者が入院して,そこで脳外科の対応が
必要であるということになれば,脳外科系病院(脳
外科機能ユニット)に回ってきます。さらにはリ
ハの病院(リハ機能ユニット)に入院したり,あ
とは介護保険施設に入所したり,在宅に帰ってく
るけです。これは,直列的な連携・コーディネー
ションのタイプです。それぞれの独立した病院が
あったり,機能があったりして,直列につなぐと
いう連携が必要になってきます。
もう一つのモデルは,並列連携です(スライド
28)。例えば糖尿病の治療と眼科の治療,そして透
析を,ある種一体化してやらなければならない
スライド29
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
79(79
79)
能ユニット化した上でのコーディネーションが大
変重要になってきます。
地域の連携・コーディネーション(スライド29)
には,①直列連携・コーディネーション,②医療
機能ユニット間の連携・コーディネーション,③
地域のクリティカルパス,④医療・福祉・在宅の
連携・コーディネーションなどが考えられます。
単に医療機能のユニット,あるいは医療機関の連
携だけでなくて,医療,福祉とか在宅,そういっ
たものの連携・コーディネーションも,これから
非常に大きな役割を果たすだろうと思われます。
クリティカルパスについても,自分の病院の中で
スライド31
スピードアップしても,空床ができるだけですか
有料老人ホームがあります。クリニックや,デイ
ら,その空床を埋めるための,地域におけるクリ
サービスもあります。保育園もあります。調剤薬
ティカルパスをつくらなければいけないというこ
局とか,配食サービスセンター,NPO もあります。
とです。
こういったものが,ユニットとして組み込まれて
また,ホロニック連携・コーディネーション,
いて,それぞれが独立した経営を行っています。
ホロニックマネジメントという考え方がありま
複数の独立した経営体が,このビルの中で連携し
す。これは,非常に独立性の高い機能ユニットを
ているわけです。緩やかな連携ということを考え
システムの中に組み込んで,そこが自由に医療活
ると,病院は何も医療保険の範囲の中で活動する
動とか,経営活動を行います。病院が機能ユニッ
だけではなく,介護保険はもとより,もっともっ
トの統合によってできているとすれば,各ユニッ
と多様な選択肢があり,多様なネットワークをつ
トの独立性を高めることによって,経営の独立性
くるということが可能です。この住宅にしても,
も,ある程度分離することが可能なわけです。例
有料老人ホームにしても,入居希望者が非常に多
えば,病院の一般外来をサテライト化するのは一
かったようです。こういう設計を発表した途端に,
種の機能分化ですが,ホロニック的に自立性を高
問い合わせがたくさんあって,短期間に入ってし
めますと,ある程度独立して機能することが可能
まったそうです。
最後に,いまお話したことをもう少し発展させ
になってくるわけです。
これ(スライド30)はホロニックシステムの一
て,新しいコミュニティの考え方をお示ししたい
例で,仙台市にあるシステムです。ここには1つ
と思います(スライド31)。高齢社会の中で必要な
のビルの中に高齢者の住宅があります。それから
機能として,医療機能や健康管理機能だけでなく,
レジャー,仕事の支援など,生活全般に関わる様々
な機能があります。病院が,そういった機能を併
設したり,あるいはそのような機能と連携したり,
コーディネイトをするということによって,病院
本体の機能を高めるということも,当然考えられ
るわけです。このように,機能分化というのは,
機能ユニットをきちんと設計し,それをどういう
ふうに統合していくか。あるいはどういう連携・
コーディネーションをするかということが,これ
から大変重要になってまいります。そのへんの議
論を,これから4人のシンポジストの話を通じて
スライド30
80
80(80)
深めていき,最後に総合討論に移りたいと思いま
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
す。どうもありがとうございました。それでは武
まず,最初に医療提供体制の改革の歩み(スラ
イド3)と題して,スライドをつくってみました
田先生,よろしくお願いいたします。
が,医療法改正(スライド4),ご承知のとおり,
武田
今日はどうも大変貴重な機会をいただき
第1次の改正,第1次医療法改正から,第4次の
ましてありがとうございます。また関田先生,ご
医療法改正まで,主な改正が4回行われておりま
講演と座長と1人2役で大変だと思われますが,
す。第1次の改正では,ご存じのような病床規制
ぜひ,この後の司会のほうもよろしくしたいと思
います。
座長
先生,今日は,個人的な見解も踏まえて,
大胆なお話をしていただいても結構ですので,よ
ろしくお願いします。
(キーワーズ:機能分化,病床区分,医療制度改
革,医療の将来像,診療報酬体系)
武田
ありがとうございます。それではスライ
ドのほうをお願いいたします。私,抄録のほうに,
ちょっと紹介がありますけれども保険局の前に医
スライド2
政局のほうで,この医療制度改革の中の医療提供
体制のほうもやっておりましたので,当時の立場
と現在の立場とそれから私的意見と,ちょっと混
じっておりますけれども,よろしくお願いします。
医療提供体制の改革と機能分化
(1)
医療提供体制の改革の歩み
本日は,まず,医療提供体制の改革と機能分化,
病床選択のファイナルカウンドダウンというよう
なテーマでもありますので,そもそも機能分化,
それから病床選択に至る経過も少し踏まえて,お
話をさせていただきたいと思います。
スライド1
スライド3
スライド4
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
81(81
81)
というのが初めて入りまして,それぞれの地域ご
正になっておりまして,その後も医療提供体制を
とに,必要な病床を考えていこうという考え方が
見直していくべきだという議論が何度も起きてま
入りました。その次に来た第2次の医療法改正で
して,私がこの第4次改正をちょうど法律を国会
は病床というものをすべて同じ病院の病床と考え
で通していただくころに医政局にまいりました
るのではなくて,急性期から慢性期というふうに
が,法律が通った途端に,第5次の医療法改正と
分けて考えますと,急性期の一番高度医療をやる
は,どういうテーマかというようなセミナーが持
部分について,特定機能病院という制度が入り,
たれたりいたしましたけれども,なかなかこの医
それから,一番右の療養的なところは療養型病床
療提供体制の法律改正はそんなに頻繁に繰り返す
群という制度が入ったということで,医療法上の
のはなかなか難しい。むしろ,そういう大きな法
考え方,機能分化というような今日のテーマに関
律改正をやった後に,むしろ欠けているのは,そ
して申し上げますと,ここらからの話が始まって
の法律以外の政策ツールをある程度中長期的な視
きたということになるだろうと思います。
点で進めていく必要があるのではないかというよ
それが第3次の改正では,より地域の医療との
うなことで,その後は,医療提供体制の改革に関
接点ということで,診療所の療養型病床群ですと
してビジョン(スライド5)という形で示しなが
か,地域医療支援病院という制度ができてまいり
ら,様々な検討を同時並行で進めていこうという
ましたが,いずれもその病床規制の中で,それぞ
ような形で進めてきているわけであります。
れの病院の手挙げによる選択様式というようなこ
ここで,一番上にあります21世紀の医療提供の
姿というのを,約2年くらい前になりますが,試
とであったわけであります。
そこで,第4次の医療法改正の眼目は,こういっ
案として出しまして,その後,引き続き医療提供
た一般病床,療養病床の区別を必ずどこの病院で
体制の改革に関する検討チームのビジョン案とい
も選択をしていただくというような,手挙げで
うものが出されているというような状況になって
やってまいりましたけれども,そこを一歩進めて,
おります。
必ずどちらかに区分をしていくというような考え
方が取り入れられたわけでございます。この後,
この第4次改正と言いますのは,大変息の長い改
(2)
平成14年医療改革の全体像と「21世紀の医療
提供の姿」
正でございまして,その一般病床の看護配置を引
この21世紀医療提供の姿(スライド6)という
き上げる改正でございますとか,病床区分の届出
のが,こういう意味での将来像を示した最初のも
ですとか,それを踏まえて,さらに医療計画を変
のになりますが,一体,どういう中身が書かれて
えていく,それから臨床研修の必修化は医師が16
いたかということですけれども,平成9年の改革
年,歯科医師が18年ということで,改正から5年
では,診療報酬,薬価,医療提供体制,高齢者医
くらいは様々なテーマが同時進行で進んでいく改
療制度,こういう4本の柱で医療全体を改革を進
スライド5
スライド6
82
82(82)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
めていくということが決められたわけであります
けれども,平成12年度までに,この抜本改革を行
うということで,平成14年改革は改めて医療全体
についての改革をどういうふうに進めるかが問わ
れた改革でありました。(スライド7)
1つ飛ばしますが,その際に,保健医療システ
ムの改革,診療報酬体系の改革,医療保険制度の
改革,こういう柱で改革を考えていこう(スライ
ド9)。保健医療システムの改革の中身が,さらに
2つあって,予防面の問題,健康増進法の制定,
それから医療提供体制の改革,これは先ほど申し
上げましたように,医療法の改正ということでは
スライド9
なくて,一体,どういう医療にもっていくのか,
その中期的な考え方を踏まえて,現在,何をやら
批判もありましたけれども,むしろ,日本の医療
なければならないか。こういうスタイルの改革を
提供体制が民間中心であるということを考えれ
進めることにしたわけであります。当時は非常に
ば,一体,今後,どういうふうに進むのか,行政
法律に基づかないものというのは,あまり絵空事
も様々な検討を行うし,逆に民間を中心とした医
で,あまり意味がないのではないかというような
療提供体制の側からも,そういった方向性を踏ま
えて,医療のあるべき姿を考えていってほしいと
いうような形に多少なりとも切り替えてきたつも
りであります。
そのときに,議論いたしました,ここらへんか
ら本日のテーマに近づいてまいりますけれども,
わが国の医療提供体制の現状と課題(スライド
10),何度もご覧になっている方が多いと思います
けれども,効率化・重点化の不足,それから競争
が働きにくい医療提供体制,それから安心できる
医療の確保などなど書いてありますが,冒頭,座
長のほうから,エビデンスに基づいた議論という
スライド7
スライド8
ことで,今日は,何もそういう意味ではエビデン
スのようなものを持ってきておりませんが,当時,
スライド10
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
83(83
83)
いろいろなデータを見た中で,やはり病院に関し
ては,全国の9,200の病院を並べてみたときに,非
常に療養タイプに特化しているもの,高度医療に
特化しているものはありますが,その中間で,特
色が必ずしも明確でない病院群が非常に大きな数
に上るというようなことが数字の上で見てとれま
して,また,それと一方手術の件数を見ていった
ときに,非常に広く,薄くやられているという実
態がある。それが反映をしているのかいないのか
分かりませんが,医療従事者も広く,薄くという
形になっている。これをある程度集約化していく
べきではないか。それによって,医療の質を上げ
スライド11
ることができるのではないかというような考え方
で,今後の改革を考えていこうということになり
均在院日数ですとか,こういったことをなるべく
ました。
情報提供する方向で考えていったらどうか。そこ
そういう意味で言いますと,今後の医療を考え
で患者が選択をするようになれば,自ずと集約化
る視点のほうにありますが,1つは情報開示と患
が進むのではないか。それがひいては,急性期病
者の選択ということで,患者の立場の尊重という
床は平均在院日数が短縮されるとともに一定数に
のが一番大きな柱になるだろうし,それがさらに
収斂と書いてありますが,病床数の収斂にも近づ
医療提供体制の改革と表裏一体のものとなってい
いていくのではないか。これがすべて同時並行で
くのではないか。患者選択を通じて,効率化,重
動きますと,医療費をあまり押し上げることなく,
点化を図っていく必要があるんではないかという
質の向上,効率化が同時に図られていくのでない
ことであります。そういう意味で言いますと,ア
かという考え方であったわけであります。
プリオリに機能分化というよりは,当時のテーマ
機能分化と言ったときに,ここでは急性期病床
としては,いかに日本の医療の効率化と質の向上
ということにスポットを当てまして,さらに急性
を図っていくのか,いろんなデータを見てみます
期以外の病床はリハビリ病床とか,療養病床など
と,やはり重点化,集約化,特化というものが選
に分化するというようなことをこの中で書いたわ
択と集中というような形が要るのではないかとい
けです。したがって,こういったことを目指す上
うような議論からスタートをしているわけであり
で,行政としてやらなければいけないことは何な
ます。
のか。そういうことを割とはっきり年限を区切っ
そして,将来像ということで出したものがこれ
て書くことによって,中長期的な視野に立って,
(スライド11)ですけれども,一番上のところで,
病院経営というものを病院の側では考えてほし
患者の選択と情報提供ということが,今後の医療
い。こういうメッセージが含まれていたというこ
提供体制の改革のカギになるだろうということ。
とです。
そして,その真ん中のところですが,質の高い効
そのために,改革スケジュール(スライド12,
率的な医療体制の中では,ここで機能分化と集約
13)というのもお示しをしましたが,やはり,こ
化という言葉が出てくるわけですけれども,その
の中で非常に大切だと思っておりましたのが,先
患者選択,情報提供を通じて機能分化,集約化が
ほど患者の選択と情報提供がカギになるというこ
図られていくのではないかということでありまし
とで,患者の選択と情報提供を可能にするツール
た。
は,やはり IT 化によるものであったのではない
例えば,当時,いろいろな議論がありましたけ
か。IT 化を進めてデータを増やしてそれを患者国
れども,1つの例として,患者から見て分かりや
民が簡単に手に入るようにすると。そういうこと
すい目安ということで,手術の件数ですとか,平
が将来的に大きなインパクトを持っていけたとい
84
84(84)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
うようなことを考えまして,さらにそれを具体的
順次実施していくということで,非常に早いもの
年限を区切ってやっていこうということでありま
だなという気もいたしますし,社会の変化はもっ
す。当時は,平成13年9月でしたので,平成13年
と早いわけですから,考えてみますと,我々は思
度が一番左に来てますけれども,それから年が経
い切って,前倒しの目標を立てたつもりですけれ
ちまして,平成15年6月まで来ているわけですが
ども,物事はもっと早く進んでいく。一番下に,
一番上のところの一般病床,療養病床の移行の期
医療機能評価機構による病院機能評価の受診促進
限がまいっておりますし,臨床研修はいよいよ来
ということで,平成18年度末まで2,000病院という
年からスタート,それから EBM のデータベースに
ような目標を機構のほうに立ててもらいまして,
よる最新医学情報の提供というのも,来年度から
行政側もその目標実現を支援するということにし
スライド12
スライド13
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
85(85
85)
たわけですが,これも,そのペースを上回るよう
パーから引っ張ってますが(スライド16,17),療
な申請が続いているというような状況というふう
養型病床群にとどまらず,長期療養の患者さんが
に聞いているわけです。
いらっしゃるので,そこは,その患者に合わせた
ケアが提供できるように,はっきりしようじゃな
いかということで,当時,120∼130万,126万くら
い,120万,130万のベッドが一体何10万病床と何
スライド14
(3)
病床区分の届出状況
スライド15
そのほか,様々なテーマ立てをしておりますけ
れども,少し,先にまいりまして,現在の病床区
分の届出状況(スライド15)ですけれども,これ
は毎月,厚労省のほうから発表されておりますの
で,それをご覧になっていただければよろしいの
ですが,平成15年8月31日までということですが,
まだ届け出ていない病院が非常に数としては多
い。ただ,いずれにしてももう届け出る内容が決
まっているということであれば,特に問題はなか
ろうかと思うのですけれども,現在に至るまで,
どっちのほうがいいのかというようなご検討の病
院もあるのではないかと思います。そういうとこ
ろが非常に判断を急ぐ必要があろうかと思ってお
スライド16
ります。
ただ,最近はいったん,一般病床で届け出でた
後,療養に行けるのでしょうかとか,療養で行っ
た後,一般に行けるのでしょうかという問い合わ
せもありますけれども,ここは法律上は病床規制
は,一般療養の違いによってはかかりませんので,
いったん決めても引っ越しは可能なんですけれど
も,ただ,我々から見ると,一般病床でいくのか,
療養病床でいくのかというのは,そんな簡単に右
に行ったり,左に行ったりということなのかなと
若干違和感を感じるところであります。
この第4次医療法改正やったときの説明ペー
86
86(86)
スライド17
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
10万病床になるんでしょうかという話もありまし
たが,行政としては,特に目標数字も立てないし,
特段の誘導も行わない。あくまで病院の自主的な
判断に委ねるというようなことで,第4次医療法
改正が成立をしております。これはたまたま真ん
中に線を引っぱってますが,別に60万床と,60万
床になるということではないわけです。あくまで,
一般病床のほうが,療養病床より多くなるだろう
というような漠然とした認識ではありましたけれ
ども,現在の届出状況をグラフにしてみました。
(スライド18)
スライド19
床,療養病床,人口10万単位で見ますと,非常に
地域差が大きいということが分かると思います。
ただし,行政の目標ではありませんが,全国で急
性期病床が仮に将来,60万ベッドという試算があ
りますけれども,になるとすると,人口10万対500
でありますので,人口10万対500のラインと一般病
床としての届け出状況とは地域によっては大きな
開きがあるというような感じがいたしますし,大
体,平均在院日数25日未満のところで統計をとり
ますと,どの都道府県でも,大体人口10万対500
スライド18
のラインにきますので,そことの関係が,今後,
法施行途中ですので,届け出たものと,届け出
ていないものと,病床が混在しておりますので,
非常に8月末まで興味をもって見ているところで
あります。
既に療養病床として届け出た病院,それから療養
型病床群として許可を既に持っている病院,これ
の両方を足して,療養病床と考えた場合に,それ
が一番下の茶色の丸でつながっているグラフ,そ
れからそれ以外を一般病床と考えれば,上の×の
グラフになります。大体,100万ベッド対27万ベッ
ドぐらいからスタートしてます。恐らく届け出期
限までに,ある程度,一般病床の中でも,やはり
療養病床として,届け出る病院が増えてくるので
はないかというような予測はしておりましたけれ
ども,確かに若干,その傾向は出ておりまして,
100万対27万だったのが,療養病床30万を超えると
ころまでに,4∼5万ベッドが一般から療養に移
スライド20
行したというような形になっているようですけれ
療養病床と一般病床,現在の届出状況であって
ども,今後,これがどこまで行くのかということ
も,一定の傾向が出てまして(スライド20),療養
だと思います。
病床のほうがピンクのラインで,非常に全国平均
これを地域別に見ますと(スライド19),一般病
と比べますと2倍,3倍以上の水準の療養病床を
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
87(87
87)
持ってる都道府県もあるということであります
るイメージで書いてみた(スライド22)。それから
が,療養病床を切り離してしまいますと一般病床
左から右という流れももう1つ書いてみて,その
自体は,都道府県ごとに随分日本の病院は数のバ
病院,病床における機能分化だけを議論しても,
ラツキがあると言われてますが一般病床に分けて
本当に病院という狭い世界の中だけの議論になり
みると,こちらのほうはそれほど大きな地域差が
ますので患者ということを考えれば,やはり自宅
出てこない。こういうことを今後,どう考えてい
に復帰するということを考えていかざるを得ない
くのかということも,いろいろ議論になろうかと
そういう意味で左から右への矢印を1つ入れて,
思います。
急性期病床に求められる機能として,単に入院期
(4)
間を短くするということではなくて,円滑に地域
今後の医療提供体制のビジョン
に返す。または円滑に地域医療に返すということ
それで,それを超えて,今後の医療提供体制を
どう考えていくのか。厚労省が出したビジョンを
2つご紹介をしようと思いますが(スライド21),
で,紹介,退院計画,逆紹介といった言葉を入れ
てみた。
それから病床全体が日本は過剰病床ということ
どちらも機能分化というテーマでありまして,一
ですから,これは一定数に収斂していく過程にお
番最初は21世紀の医療提供の姿,それから去年の
いては,病院を閉じる,または病院の病床を削る
8月の中間まとめなんですけれども,急性期,回
というような決断を迫られるところも出てくるだ
復期リハ,長期療養というふうに分けて,これは
ろうということなんですがそういったときに,病
1つは病気のステージごとに求められる機能を考
院病床を削るということが,非常にマイナスイ
えてみたらどうかということで,上から下に流れ
メージが現場では強いということもありまして,
必ずしも病院病床を下げるということが,医療の
提供の縮小ではないんだと。むしろ患者ニーズに
沿うものではないかということを,右の下のとこ
ろで書いてみたわけです。それに加えて,全国で
そういう病院があるだろうということで,調査研
究もやってみようということでやりまして先般,
報告書がまとまりました,一部業界紙にも紹介さ
れていたので,見た方もいらっしゃるかもしれま
せんが,在宅医療介護分野を重視した中小病院経
営に関する研究ということで,むしろ中小病院の
強み,100ベッド前後の病床でいかに地域医療とい
スライド21
うものを積極的にやっていけるかというような事
例集をつくってみたころであります。
それから,一方,医療と介護の接点,これは議
論が続いてますので,なかなかこの時点で,また,
現時点でもきっちりとした方向性を行政として出
すことができない状況にはありますが,やはり介
護の療養病床が目標値よりかなり少ないというこ
ともありますので,下のほうのピンクの矢印は,
医療から介護へという流れがもう1つあるんでは
ないかということを書いているわけであります。
スライド23は今年の4月30日に出した中間まと
めではなくて,いわば本報告の形で出されたもの
スライド22
88
88(88)
ですけれども,大変,さっきの話はいろんな論点
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
スライド23
がごちゃごちゃ混じってます。こちらのほうは
すっきり,一般病床と療養病床の区分選択を念頭
に置きまして,若干,混乱がありまして一般病床
は急性期病床そのものなのか,それ以外も含まれ
るのかということについて,一般病床の中には急
性期医療,それから急性期以外の医療,例えばと
いうことで,糖尿病の治療,在宅医療の後方支援
などというようなものが書かれてますが,こうい
うことを,今回は明らかにした。
それから一般療養にまたがる機能というのもあ
るというのが,空中に浮き上がっているような□
のところ,ちょっと見にくいと思いますが,難病,
スライド24
緩和ケア,脳卒中のリハビリテーションなどとい
うことで,急性,慢性にまたがるものもあるだろ
りますが,診療報酬体系につきまして,これも去
うというような機能分化のイメージを示したとい
年の暮れに試案という形でまず出しまして,今年
う形になっております。これも今後の議論の素材
の3月に閣議決定をしたという経過でございます
ということで考えているわけです。
が,試案の段階で,このような課題を書いて公に
あとはいろいろスライド用意しましたが,特に
出したわけであります。1つは非常に複雑化して
機能分化に関係する部分といたしまして保険者の
分かりにくい。それから,どうも量的拡大のイン
再編,統合,それから高齢者医療制度の扱いにつ
センティブがあるなどなどの課題,診療報酬体系
いて,もし後で触れる機会があれば触れることと
固有の課題とともに,スライド26の,また,のと
いたしまして,診療報酬の改革について,現在,
ころですが,平均在院日数の長さ,医療機関の機
どういうことで進んでいるのかということについ
能分化の不十分さなどと言った医療提供体制の課
て,若干触れたいと思います。
題とも診療報酬体系というのは密接に関係をして
診療報酬体系の見直しについて
診療報酬体系の現状と課題(スライド25)であ
いる。したがって,医療提供体制の重点化・功率
化の観点からの見直しも必要だというようなこと
も,試案の段階ではありますけれども,提供させ
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
89(89
89)
スライド25
スライド27
スライド26
スライド28
ていただいているところであります。
その結果,診療報酬体系,どうやって見直して
いくのかということですが(スライド27,28),医
療技術の評価,これはドクターフィー的要素と言
われてますが,それからホスピタル・フィー的な
要素として,医療機関のコストの適切な反映とい
うようなことになっておりますけれどもこの中
で,医療機関のコストをどう考えていくのかとい
うことでありますけれども,1つは,実際にどう
いう患者を診ているのかという,患者特性でやっ
ていこう。それから,それに加えて,医療機関が
実際,どういう機能を担っているのか。その機能
スライド29
を評価するファクターを入れていこうということ
を図られると,こういうテーマに沿った形になっ
でありまして,こういうところに,今日,お話が
ていくのではないかということであります。
これからも出ると思いますけれども,どういう機
これ(スライド29)が全体像でありますけれど
能を担っていくのかというのを,なるべく,それ
も,この急性期,慢性期,それから真ん中に回復
ぞれの医療機関でご検討いただいて,そういうこ
期リハなどの病棟が入ってますけれども,基本的
とを通じて医療提供体制全体が質の向上と効率化
に包括払いを進めていく。包括払いを進めていく
90
90(90)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
ときに,病院ごとの担っている機能の違い,こう
新しい特定機能病院の DPC の実施後の評価という
いったものが包括払いで完全に評価できない可能
のは非常に重要になってくるだろうと思います。
性がありますので,その機能の評価というのを加
先日,6月6日に説明会をやりまして,7月か
えて評価をして,その上に出来高払い,手術のよ
らデータ収集が始まります。この結果は今年の暮
うなものは医師の技術として別途出来高払いをし
れにも出てくると思いますので,こういったとこ
ていくかというような形,こういう形に順次切り
ろを通じて,わが国における急性期の包括の在り
換えていきたいということに今回の診療報酬体系
の見直しはなっているわけであります。
ただ,特定機能病院のところは,今年の4月か
ら DPC という形で,包括評価がスタートいたしま
したが,それ以外の病院についてどのような形で,
この包括化を進めていくのかは,今後の議論,今
後の課題というふうになっているわけでありま
す。
それ以外のところは,これも適宜はしょってい
きたいと思いますが,現在の病院の,これ(スラ
イド30)は点数の構成割合でありまして,療養型
病床群のところは,入院基本料のところで,74%
スライド31
払われて,一般病院は5割で,特定機能病院はそ
ういう基本料の部分が5割を切っている形になっ
ていますが,特定機能病院は今回の DPC で,7割
以上が包括点数になるはずですので,そういうこ
とで,その病院の側から見ても,一定のコストに
見合ったものが,安定的に入ってくる形に一応な
るのではないか。それを踏まえた上で,その包括
の割合が高まれば,高まるほど,病院の側にも,
コスト管理のインセンティブが働くのではないか
ということが期待をされるわけです。いずれにし
ても,わが国にとって,大きな実験というと,怒
られますが,新たな試みでもありますので,この
スライド30
スライド32
スライド33
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
91(91
91)
方というのが議論になってくるんだろうというふ
療問題,今週から,来週にかけてが実は山場になっ
うに思います。
ておりまして,ちょっとどういうふうに決着する
か分かりませんが,私どもはやはり医療が例えば
今後の論点について(私見)
株式会社を入れれば,それで自動的に競争が促進
あとはいろいろ用意はしておりますが,時間の
されるというようなことは全然ないと思ってまし
関係で省略をいたしたいと思いますが,ちょっと
て,むしろ医療における特有の固有の市場におけ
今後の論点ということで,幾つか項目だけ書きま
る競争ときちんと働かせるという意味では,株式
した(スライド32)。今,行政的に非常に問題になっ
会社云々の問題ではなくて,きちんとデータに基
ている件は,一体どういうものなのということな
づく情報開示ということをやっていかなければな
んですが,1つは規制改革の問題,国民皆保険制
らない。混合診療につきましても,もうちょっと
度の維持と書きましたが,サステナビリティーが
冷静な議論が要るんじゃないかというふうな感じ
ないのではないかという問題,こういった外側か
がしております。
らの問題以外には,やはり医療そのものを考えた
なかなか,お金がなくて大変なんですという話
ときに,どうやって質の向上を図るのか,その患
を幾つか持ってきましたが,寂しいだけなので,
者中心の医療というのを,どうやって考えていく
省略をいたします。日本はもうとにかく負担が重
のかということが主な課題なのかなと。
過ぎて,このままいったら,国がなかなか大変だ
これ(スライド33)は個人的にちょっと考えて
というふうな言われ方を特に財界中心からされて
いるところでありますが,株式会社問題,混合診
ますけれども,今のまま,医療の年金が伸びていっ
スライド34
スライド36
スライド35
スライド37
92
92(92)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
たとしても,将来の国民の負担というものは,欧
係で言えば,やはり診療報酬が政策的誘導機能を
米諸国に比べて,アメリカは別格ですけれども,
持っていいのかどうかという議論があります。こ
決してそんな負担が過重というわけではないので
れはむしろたんたんと払えばいいので,政策的誘
ありまして,余りに財政至上主義,それから社会
導はあまり考えるなというご意見もございます。
保障制度をたたくという形が強すぎる,それが本
一方でここに書いているように,逆に政策誘導
当にこの国にとっていいのかどうかというのは,
じゃなくて,診療報酬によって,本来望ましい方
非常に問題意識として持っているということを付
向に進むべきなのに,それが阻害されているのも
け加えたいというふうに思っております(スライ
あるかもしれないので,やはり,そういう点も見
ド36,37)。
ていかなければいけないのかなという感じもいた
それから医療の質に関しては,つい最近出たア
します。
メリカの IOM のレポートがアメリカで話題になっ
ておりまして(スライド38,39),これは読んでも
あまり面白くないので,日本で広まってませんけ
れども,翻訳も出てまして,継続的な癒しの環境
を基本とする医療ケアとか,エビデンスに基づく
意思決定とか,非常に重要なテーマが入っている
ような気がいたしましたので,ちょっと深く立ち
入りませんが,ご紹介をさせていただきたい。
その中で私が今,担当している診療報酬との関
スライド40
あと,患者中心の医療(スライド40)も,今後
重要になってくると思いますが,機能分化,機能
連携というのもぜひ,患者中心の立場に立って,
議論を進めるような方向が出てくればありがたい
ことだというふうに思います。
ちょっと大変はしょりましたけれども,私の発
表はとりあえず以上にさせていただいてまた後
スライド38
で,何かありましたら,お話をさせていただきた
いと思います。どうもありがとうございました。
座長
武田先生,どうもありがとうございまし
た。厚生労働省としても,機能分化や連携の在り
方を,いろいろな形で提言をされていらっしゃい
ますが,どのような在り方があるのかということ
に対しては,病院サイドでの検討も必要であると
思います。それでは引き続いて,研究者の立場か
ら,日本大学医学部の梅里先生にお願いいたしま
す。機能分化と経営を,ミクロ,マクロの視点か
ら考えるということで,幾つかのデータ解析も含
スライド39
めて,お話いただけると思います。では,よろし
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
93(93
93)
今後の方針というものをお立てになると思いま
くお願いします。
す。そして,その方針を立てたときに,ここでは,
梅里
日本大学の梅里です。座長から,研究者
急性期病床,一般病床を選んだ場合を想定してお
の立場で,データ解析も含めて話せという指示を
りますけれども,そのような方向で,急性期医療
いただきました。定量的なデータを分析したもの
を担っていく条件を達成できるかということを,
をお見せしようと試みましたけれども,実際に,
まずお考えいただくことになります。そしてここ
当たってみると,この種の検討をするのに耐える
にフィードバックをかけて,十分にその地域で急
データがほとんどないということに気がつきまし
性期医療を提供していく,その必要性があり,な
て,非常にアナログ的,直感的な私見になるかも
おかつ自分の病院はそこで十分な機能を発揮する
しれませんけれども,限られた時間,この課題に
ことができるという判断に立ったときに,そのよ
ついて,お話をさせていただきたいと思います。
うな役割機能を設定していくという段階になるの
それでは,スライドをお願いいたします。
ではないかと思います。
これは言うまでもありませんけれども,地域の
それでは,これから地域で急性期医療というも
病床数の多いところは受療率が高いという現象で
のを提供していく場合の条件としてはどのような
すけれども,この受療率を,先ほど武田先生は25
ものが考えられるかということですけれども,と
日で切られましたけれどもここでは30日で切った
にかく自分では急性期医療をやっていくんだとい
カーブと,それから30日を超える受療率で比較を
うようなことを考えているだけというわけにはま
したものです。いわゆるセイの法則,サプライヤー
いりません。今後の情勢を考えますと,社会がそ
インディーストデマンドですね。供給が需要を喚
の病院を急性期医療の病院として認知する,認め
起していると考えた場合には喚起されている需要
るということが必要です。患者が信頼をもって,
は長期,さらに分析すれば高齢者の需要が喚起を
その病院にかかることができる。これは直接患者
されている。本当に必要な急性期の需要がどの程
数等にも影響いたしますので,絶対条件と考えら
度あるのかというところが,やはり問題の焦点に
れます。そして,なおかつ地域医療施設からの信
なって様々な政策が動き出していると考えること
頼も得られるというようなことが必要だろうと思
ができるのだろうと思います。
います。
これも,先ほど武田先生がお示しになりました
そのための要件としては,救急に応じ,対応で
現在の届出状況ということで,療養病床について
きる。質を確保する。安全性を確保する。急性期
ですけれども,よく見ますと,療養型として,既
病院としての効率性を確保する。医療における透
に,規定の病床を持っていたものが,療養病床に
明性並びに説明責任を明確に果たすことができ
すり代わって,両方とも足してみると,そんなに
る,というような条件が必要になってくるだろう
は変わってないということで,今,新たな決定を
と思われます。
して,届出をしているところは一般病床が多いの
そのポイントとして安全で質の高い医療を効率
かなという気もいたします。このへんのところが,
的にということになろうかと思いますけれども,
特にお悩みになっている病床ということになろう
このような医療を提供していくのに自院のストラ
かと思いますけれども,とりあえず,将来の方向
クチャーはどうだろうかと。医師数で,医療法標
がまだ明確に定まらないので,一般病床という選
準に満たない状況ということはもちろん論外であ
択は必ずしも適切かつ得な選択ではないのかもし
りますけれども,これからの在院日数の短縮化に
れないとも感じております。
向けて,医療法標準は恐らく,どちらかと言えば
個々の病院で,実際に病床の選択をしていく通
最低基準に近い状況であり,在院日数を短縮すれ
常のプロセスを考えてみますと,現在,病院が果
ばするほど,医師・看護師をはじめとする従事者
たしている役割,機能がどうであるか,そして,
のますますの充実が必須になってくると思われま
地域の医療ニーズ,あるいは地域の他施設の状況
すのでそのようなことも含めて,人的資源の体制
を分析をいたしまして,これに照らして,自院の
がとれるかどうかの確認が必要です。また施設,
94
94(94)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
設備等について,自院は急性期医療に対応できる
な伸びであるわけです。現時点では全国の9,200
かどうかというようなことを考える必要が出てく
余りの病院のうち,1,700,約18.7%が申請をして
ると思われます。
いるという状況にございまして,わが国の全体の
次にプロセスですけれども,安全管理も必須の
病床数160万床余りと考えれば,今年度末には35
問題でありますし,急性期医療を行っていくとき
万床から40万床程度が病院機能評価を受けた病床
に,十分な機能を達成するための診療ガイドライ
という状況にまでなってきております。
ンというようなものを自院で作成し,医療を提供
いま一つは,先ほどの症例ごとの管理というこ
していくという方向性が求められてくると思われ
とですけれども,急性期医療,特に特定機能病院
ます。
で,今年度から始まっております DPC の包括払い
それから,次にアウトカムの面ですけれども,
がございますけれども,この DPC ごとに包括評価,
先ほど,地域に認知,社会に認知されるというふ
定額支払いを行うということは,単に支払い制度
うにお話をしましたけれども,このためには,自
上の問題ではありませんで,私が最も重視してい
院の診療機能の実績をこれからは示していかざる
るのは,DPC というカテゴリーです。1,860のカテ
を得ないだろうと思います。このようなデータを
ゴリーというのは,病院における,表現が適切か
まとめるとともに,その実績で,地域の中で十分
どうか分かりませんけれども,ある種の商品リス
に競争していくというある種の覚悟と言いましょ
トのようなものを今回,国が提示をしたというふ
うか,そういうことが求められると思います。在
うに考えることができます。つまり DPC の1番,
院日数面でのもちろん実績も必要でありますけれ
脳腫瘍の疑いの検査入院という,そういう商品名
ども,特に診療上の実績というものを明確に示し
があるわけです。それに対して病院はどのような
ていく必要があるだろうと考えられます。それに
医療を提供していくのかということを,恐らくク
よって,患者満足度,職員満足度なども確保して
リニカルパス等をつくって標準化を進め,バリア
いくということになろうかと思います。このよう
ンスの分析等を行っていくわけです。医療提供プ
な条件を達成をしていくという明確な姿勢をもっ
ロセスを病院ごとに決めて,医療提供の効率化を
て急性期医療に臨んでいくことが必要になると
図っていくということが期待されるだろうと思い
思っております。
ます。同時に,その DPC のカテゴリーごとに,そ
具体的な方法論ですけれども,1つは先ほど,
の結果がどうだったのかというアウトカム,これ
話も出ましたけれども,病院機能評価の受審があ
は今すぐには求められておりませんけれども,早
ります。これは具体的な診療機能,診療の実績を
晩,この DPC ごとのアウトカムというものを提示
保障するものではありませんけれども,病院の枠
していくことが社会的にも求められるだろうと,
組みとして,一定程度のレベル,水準にあるとい
国民は一番そこを知りたがるだろうというような
うことを評価をするものでありますので,このよ
ことが言われておりまして,このアウトカムとい
うな評価を受けていくことが必須になってくるだ
うものを提示していく必要が出てくるのだろうと
ろうと思っております。
思います。そういたしますと,今の時点で,最も
今一つは,先ほど診療実績というお話をしまし
大きな影響というのは,DPC というカテゴリーを
たけれども,提供している個々の診療の内容につ
定めたことによりまして,そのカテゴリーごとの
いて自院のデータをきちんと把握をしており,そ
アウトカムを施設間で比較できるようになってく
の実績,管理ができているという状況です。病院
るということです。一般の急性期病院にまで,こ
機能評価を受けるとともに,院内で個々の症例の
の DPC を拡大するかどうかということはまだ検討
マネージメント,ディジーズ
マネージメント等
中であるという,先ほどのお話でございましたけ
を含む実績評価ができる体制というものを整えて
れども,急性期医療を提供していくという決断を
いく必要があるだろうと思っております。
したときにそのカテゴリーごとの在院日数,医療
まず,病院機能評価ですけれども,5月の時点
費は当然のこととして,その治療成績というよう
で,今年度,636の申込を受けておりまして,急速
なものを他施設と比較をして,そこで十分に伍し
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
95(95
95)
ていくというようなそれだけの決意をもっている
分としては技術的に磨いていきたいし,というよ
必要があるだろうという気がしております。経営
うな希望を持っておられる方もいらっしゃると思
的には,DPC ごとの原価管理というのが非常に重
います。施設自体が療養型を選択したということ
要な要素になってくるのは言うまでもありませ
によって,そこで自分の技術を伸ばすことができ
ん。
ないというようにお感じになるドクターもいるだ
だだ,かと言って,何かすごく難しいそうだと
ろうということです。そのような場合に,今度は
いうことで,では療養にしようかというわけにも
アメリカのような医師団が施設の外にいるという
行かないわけで,療養病床を選択したときに,医
形態ではありませんけれども,我が国でも医師に
師の定着の問題,あるいは療養環境整備の財源の
流動性を持たせるという考え方も1つの発想とし
問題等々,これもそれほど安易な道ではないとい
てあるのではないかと思います。例えば手術も施
うことになります。
設基準という形で,制度が打ち出されたわけです
機能分化というのは,医療サービスにおける一
けれども,施設ごとの手術の機能というような評
種の分業でありますけれども,通常の企業で分業
価ではなくて,外科の医師チームごとの評価とい
する場合には全体の結果と言いますか,全体のス
う考え方もできるのではないかと思います。そう
ループットに対するイメージをもっていて,そこ
すると,そのチームはどこの施設に行って,手術
を効率的にするために,部分的に分業していくと
をしても同等の評価を受けることができるとい
いうことですが,医療で現在行っている機能分化
う,ある種の技術はドクター,人間についている
は,患者側からの視点が非常に乏しいように感じ
という考え方もあるだろうというふうに思ってお
ております。患者自身に対するトータルとしての
りまして,このような場合には,地域内で週のう
スループットは,誰がみていくのかということで
ち何日かを,場合によっては療養型の施設,何日
す。それが最適化されなければ,機能分化は成功
かを急性期,あるいは何日かを自分の研鑽の機会,
したとは言えないと思われるわけです。
あるいは診療所で働くというように,そういう形
これは私見でありますけれども,その地域ごと
でドクターがローテーションをしていくような仕
のヘルスケアが本当にうまく行っているのか,最
組みを組み込んでいくということによって,両者
適化されたのか,機能分化によって一番望ましい
があるいは,整合する可能性があるのではないか
姿になったのかということを,どこかがモニター
と考えております。
をする必要がある。ここに地域ごとのヘルスケア
今一つ重要なのは,地域のスループットを最大
の適正化機構と勝手な名前をつけましたけれど
にするということでありますので,住民にも参加
も,こういうようなものを仮定したときに,その
協力をしてもらわねばなりません。そういった意
ファンクションとしては,地域のヘルスケアサー
味で,地域住民に対する広報,住民教育というよ
ビスがニーズに則して適切に配置されているかど
うな機能も果たしていく必要があるだろうと,そ
うか,そして,それがきちんと機能しているかと
ういうファンクションも必要になるだろうと感じ
いうものを評価をする。そして,その地域の医療
ています。
提供ユニットとなっている各施設のパフォーマン
ニーズに対応する分化の仕方ということですけ
スを評価する機能,並びに安全性を評価する機能,
れども,関田先生も話をされておりましたが,在
サービス,資源管理,こういったものの効率性を
宅,外来,短期の施設入所,長期というような軸
評価する機能。さらに人材の養成。機能分化をし
が1つと,それから医療度と言いましょうか,重
ていったときに,施設が機能分化されるというこ
症から軽症,あるいは介護,予防,健康増進,こ
とは,そこに働いている職員の方もその機能を提
ういう軸に様々な必要とされるサービス機能がこ
供する形に分化される,分化と言いますか,施設
こに位置づけられてくるわけです。これらの救急,
の色がつくということになります。そういたしま
急性期医療,中でもそれは診療の領域,循環器,
すと,例えば医師の中には,療養型を必ずしもま
消化器等の領域,あるいは救急で言えば,外傷と
だ,自分の本意としておらず,積極的な医療を自
か内因性,熱傷中毒のような軸,あるいは,小児,
96
96(96)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
高齢者等の軸です。これが3次元で構成をされて
成している一つひとつの施設のパフォーマンスの
いるようなファンクションですね。これが関田先
評価をしていくというようなことです。これは評
生が言われた,先ほどの機能ユニットに相当する
価をするということは,当然,それらの機能が改
のかもしれませんが,これらのうちのどこを自分
善され,向上することを目的とした評価です。そ
の施設が地域に求められて提供できるのかという
ういうものが必要になるだろうと考えておりま
ことです。その明確な位置づけをつくっておく必
す。
要があるだろうということになります。
それから,安全性についても,これは地域ごと
これも1つのモデルですけれども,地域ごとに
を核として,そして,それが日本全体の取りまと
中核とされるヘルスケア機能,これは集約をした
めとしてのデータベース化をされるということに
ほうが技術的にも高度なレベルに達することがで
なるんだろうと思いますけれども,安全について
きるだろうと考えられるような高次低頻度医療と
の様々な情報を集約し,予防のための情報を流し
いうふうに書きましたけれども,この種の中核と
ていくということが求められるだろうと思いま
して持つべき機能と,地域内でもサテライトとし
す。それから資源管理,これは地域全体のヘルス
て整備すべき機能というようなものをうまく連携
ケアサービスの効率面の評価をしていくもので
をさせるという考え方になります。1つの施設で
す。人材については,先ほど申し上げたとおりで
これを達成するということではありませんけれど
すが,特に人材の交流というようなことが,必要
も,幾つかの施設がキーになりまして,サテライ
になってくるのではないかと感じております。
トのほうでは,健康増進予防がかなり重視される。
地域における患者教育の問題もこれから取り組
あるいは介護の機能とか,治療のうちでも特に診
んでいかなければいけない課題です。米国の HMO
断,あるいはスクリーニングと言われるような機
の病院に行って,一番日本の病院と違うところは,
能が重点になるかもしれませんが,これらと中核
この患者教育です。向こうは会費でお金が集まっ
の施設が連携をしながら,地域で最適のヘルスケ
ておりますので,患者教育に力を入れることが,
アを目指していくという形態になろうかと思いま
全体の利益につながるということで,教育面の違
す。人口規模によっても違いますけれども,既存
いが随分と出てきているように感じています。
医療施設をこの中にどういうふうに組み込んでい
まとめですけれども,地域全体でのヘルスケア
くかという機能の配置計画を立てていく。個別の
を最適化すると言いましょうか,患者にとって望
施設で,他施設と連携をしながらということです
ましい医療を提供するというのが最終ターゲッ
が,自分の施設からの発想ではなくて,地域から
ト,目的であるというのは,これは議論の余地が
システムとして,どういうふうに対応するかとい
ないと思うのですが,今,機能分化というもの,
う考え方も,これから必要になってくるのではな
あるいは連携というものを考えている視点を見る
いかと感じております。
と,その一番大事なところが,若干欠落といいま
これは地域のヘルスケア施設のモデルですが,
しょうか,弱いように思えてならないのです。そ
通常の考え方です。それから運用面ではそのよう
ういった意味で,地域の全体のスループットを評
な考え方をいたしますと,地域全体の医療情報シ
価するような機能,ファンクションを考えていく
ステム,連携のシステム等々の整備というものが
ということ。これは1つの団体を意味する必要は
必要になってくるだろうと思います。あるいは,
ないのですけれども地域ごとに,こういうファン
その地域ごとにどのような機能を集約化させたほ
クションを持っていることが必要だろうと思って
うがよいかというようなことを検討していくとい
おります。
機能分化は一種の分業である。分業の利点は,
うことになろうと思います。
それから2番目のパフォーマンスの評価という
言うまでもなく,いろいろな技術が集約化されて,
要素ですけれども,まず,地域全体のこのような
高まっていく。効率化が図れるという効果がある
ヘルスケアサービスを,全体としてモニターをす
んですけれども,逆に分業の欠点もあるわけです。
る,評価をするという機能と,ネットワークを構
分担したファンクションのつなぎ目で起こるロス
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
97(97
97)
というものは必ず考えておかなければいけない問
識のない方,麻痺のある方,心肺機能の非常に悪
題でありますし,それから,分担をした場合には
い方が搬入されてまいります。そういう方は,ど
全体像が見えにくい。これは今,ここで全体像と
うしても障害が残りやすいですので,近森リハビ
いうのは,結局,その患者さんはどうなったかと
リテーション病院のほうで,できるだけリハビリ
いうことでございますか,そういったものについ
をして,自宅のほうへ帰っていただいております。
ての注意が必要であろうということになります。
近森リハビリテーション病院は180床の全館回復
そういった意味で,地域内の個別施設の役割とい
期のリハビリテーション病院でございます。障害
うものを検討する場がどうしても必要になってく
者が在宅へ帰りますと,どうしても,閉じこもり
ると思います。以上でございます。
症候群と言いますか,寝たきりになってしまいま
すので,こちらの在宅総合ケアセンター近森のほ
座長
梅里先生,ありがとうございました。機
能分化を行うに当たって,つなぎ目と言いますか,
うで,できるだけ障害があっても自宅で楽しく暮
らせるようにサポートをしております。
機能分化だけではなくて,地域の中でのヘルスケ
近森病院の第2分院は104床の精神科の専門病
アの総合的な視点から考えなければいけないのだ
院でございます。在院日数は100日程度で,精神科
ろうということですね。それについては,機能ユ
としては短いほうではないかなと思います。高知
ニットに参加する医師の機能を弾力的に考えた
の駅前に高知メンタルリハビリテーションセン
り,あるいは患者さんの満足度とか,参加形式,
ターがあり,精神障害者の在宅サポートの施設と
教育というようなお話でした。また後で,詳しく
して機能しております。
議論をさせていただきたいと思います。どうもあ
りがとうございました。それでは,病院管理者の
立場から,医療法人近森会理事長の近森先生に,
医療法人近森会の機能分化と医療経営について,
お話をいただきます。
機能分化と地域連携を行うことによって,病院
の発展を目指し,その目的を達成された近森会で
す。よろしくお願いします。
(医)近森会の機能分化と医療経営
近森
私は理事長になって18年ですが,その実
践を医療法人近森会の機能分化と医療経営という
ことで,お話ししたいと思います。
急性期医療からリハビリテーション・在宅医療
まで
医療法人近森会は,高知の駅前にございます医
療法人で,3つの病院と2つの在宅サポート施設
を持っております(スライド1)。近森病院の本院
は338床の急性期の病院で,平均在院日数が14日か
ら15日,1年間の救急車の搬入が5,000台から
6,000台という,非常に忙しい病院でございます。
高知県は,全国で2番目の高齢県でございます
し,患者さんが救急車で寝てまいりますので,意
98
98(98)
スライド1
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
なりました昭和59年当時の近森会はほとんどが寝
(医)近森会の特徴
たきりの患者さんばかりでございました。その上
今,お話ししましたように,近森会の特徴(ス
澄みで,本院では,救急医療,第2分院では精神
ライド2)は,急性期からリハビリテーション,
科をやっておりました。これではいけないという
在宅へ,身体障害者も,精神障害者も,できるだ
ことで,平成元年に近森リハビリテーション病院
け,お家で暮らしていただきたい。そういう思い
を開設いたしました。本院の寝たきり患者さんは,
を持っております。
周囲の病院にお願いして,転院していただき,本
2番目として,各医療施設の機能分化と有機的
院は全館,急性期の病院に変わっております。
な連携を保っております。3番目として地域医療
平成4年,新館ができた時に,分院,第2分院
連携を進め,地域完結型医療,地域のみんなで支
の寝たきり患者さんのベッドを移し,387床の急性
える医療を目指しております。そのために,近森
期の特2特3の病院になりました。このころから,
病院は開放型病院とともに,地域医療支援病院に
在院日数が短くなって,急性期病院もベッドが要
なっております。
らなくなるんじゃないかということで,リハ病院
や老健のほうにベッドを移していきました。平成
機能分化の推移
14年には301床まで急性期の病床を減らし本院に
このように,現在の近森会ははっきりと機能分
37床の整形外科対応の回復期リハビリテーション
化された医療法人でございますが,私が理事長に
病棟を併設しております。ただ,平成15年2月に
は地域医療支援病院の認可をいただき,パブリッ
クにかかりつけの先生方からご紹介を受けるとい
うことで,非常に紹介や救急が増えたものですか
ら,回復期リハ病棟をやめ,全館338床の急性期の
スライド2
スライド3
スライド4
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
99(99
99)
病院雑誌【9ポ22字43行段間20ポ】 ①校
のアウトカムは,その組織の維持発展と言われて
病院といたしました。
近森リハビリテーション病院は現在,180床の全
おります。近森会の18年間は機能分化の歴史であ
館回復期のリハビリテーション病棟でございま
りますし,機能分化をすることにより,医療経営
す。こちらの老健のほうは,在宅総合ケアセンター
を行ってきたと言えると思います。
近森という,身体障害者のサポートの施設の中で
活動しております。この近森病院第2分院も,現
在,増改築中でございまして,急性期と神経症の
近森病院の機能分化の推移
付添い看護から基準看護へ
精神科専門医療を行う予定になっております。高
近森病院の機能分化の推移(スライド6)を見
知メンタルリハビリテーションセンターは精神障
てみたいと思います。昭和62年6月に付き添い看
害者の在宅サポート施設となっております。この
護から基準看護へ転換いたしました。そのとき,
ように,近森会のこの18年間の歴史というのは,
非常に多く入院しておられた寝たきり患者さんの
まさに機能分化の歴史と言ってもいいと思いま
安定収入を犠牲にして,一般急性期病院へ脱皮で
す。常に機能分化をしながら,変わってきたとい
きたと思います。
うことが言えると思います。(スライド3)
これ(スライド7)が,収入の推移ですが,昭
職種別内訳
近森会の職種別内訳(スライド4)では,医師
や看護師,リハビリスタッフ,ソーシャルワーカー
といった患者さんを早く治して,早くお家に帰す,
そういう職種が非常に増えております。准看護師
や看護助手,助手は減っております。
(医)近森会18年間の推移
近森会18年間の推移(スライド5)を見てみま
すと,ベッド数では,高々16%の増加に過ぎませ
んが,入院患者数,退院患者数はそれぞれ2.8倍と
非常に増えております。それに伴い,総収入も2.8
倍と増えております。職員数は2.4倍に増えており
ますが,収入が増えておりますので,人件費率は
14%のアップで終っております。病院経営の最大
スライド6
スライド5
100
100(100)
スライド7
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
病院雑誌【9ポ22字43行段間20ポ】 ①校
和63年早々に寝たきり患者さんをどーっと出した
ものですから,稼働率が下がって,このままでは
近森もつぶれると言われたものでございます。た
だ平成元年3月から基準看護が取得でき,リハ病
院も開設して,何とか2年間,悪戦苦闘した上で,
少しずつ収入も上がってまいりました。
平均在院日数短縮
次に,平成8年8月に,急性期病院になるには
平均在院日数をもう少し下げないといけないとい
うことで,先生方にお願いして25日から20日へ在
スライド9
院日数を短縮いたしました。落ち着いた急性期の
入院患者さんに退院していただいて,より急性期
の病院へ変わったように思います。
平均在院日数短縮と診療収入の関係を平成8年
8月と,1年前の平成7年8月とで比べてみまし
た(スライド8)。平均在院日数も7日短縮してお
りますし,稼働率も90%から83%に低下しており
ます。当時は,平均在院日数を下げて,急性期に
特化しようという病院が周囲になかったものです
スライド10
から,ベッドが空きますと,患者さんの受け入れ
いう非常にいい結果が出ました。これでかなり経
がよくなって,患者数が増え,レセプト件数は
営的にも安定したように思います。
10.8%増えております。
入院単価も当時は1人1日当り3万円前後でし
一般外来縮小と逆紹介推進
たので,効率よく在院日数短縮の効果が出て,
平成11年10月,これからの急性期病院は,外来
18.7%のアップを認めております。このように稼
を手広くやるのではなく,入院医療に特化しない
働率は下がったものの8.7%の増収,44%の増益と
といけないということで一般外来を縮小して,逆
紹介をどんどん進めました。落ち着いたかかりつ
けの患者さんをできるだけ地域のかかりつけの先
生方にご紹介して,外来は救急・紹介・専門外来
へ特化してまいりました。
それまでは逆紹介が月に100例でしたが,どんど
ん逆紹介を始め月に400例から560例と,非常に多
くなってまいりました。(スライド9)
そうしますと,毎月400人から500人以上,外来
患者さんを出すものですから,3年で1万8,000
人の外来患者数は1万2,000人と,3分の2まで減
りました(スライド10)。最近は,内科の先生方が
熱心に逆紹介してくださるものですから,今年は
さらに減少すると思っております。これにより,
現在,急性期病院加算を取っておりますが,入外
比率も減少し急性期特定病院加算の認可も視野に
スライド8
入ってまいりました。
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
101(101
)
101
病院雑誌【9ポ22字43行段間20ポ】 ①校
それに伴い,月別の初診患者数も,毎年下がっ
これ(スライド13)は月別の救急搬入件数です。
ております(スライド11)。これは近森病院の方針
一般外来が暇になったものですから,このままで
が地域の皆さま方にご理解されてきた証拠じゃな
は,どうも近森心配だということで,先生方も,
いかなと思っております。
熱心に救急を取ってくださいまして,月に100台ぐ
これ(スライド12)は月別紹介患者数です。平
らい増えております。
成10年から11年にかけて近森病院は地域医療連携
これ(スライド14)は急性期病院と地域医療支
室をつくり,できるだけ医療連携をしようと先生
援病院の紹介率です。最近は,急性期病院の紹介
方にお願いしておりましたが,紹介患者数は全然
率が35から40%,地域医療支援病院の紹介率が70
増えませんでした。逆紹介を増やし,平成12年2
から80%キープするようになりました。
月には開放型病院にもなって,すーっとこのよう
に紹介患者さんが増えております。
これ(スライド15)は近森病院の入院外来の平
均単価です。外来の平均単価は,平成12年から13
年頃で9,500円,それが,単価の安いかかりつけの
患者さんが地域に出られて,紹介・救急の単価の
高い患者さんが多数こられるようになりましたの
で,最近は患者数は減少しましたが外来単価は1
万2,400円まで上がってまいりました。入院単価
も,いろいろ加算をとったり ICU を整備したこと
で4万5,000円が,平成14年7月には6万3,000円
スライド11
まで増えております。ただ,ここで,整形外科対
応の回復期リハ病棟をつくったものですから,単
価が伸び悩んでおります。
更なる平均在院日数短縮
平成14年4月,診療報酬の改定で,急性期病院
加算の病院は,平均在院日数が20日から17日にな
りました。そのため,平均在院日数を短縮せざる
を得なくなり,稼働率も低下してまいりました。
このときは周囲の国公立病院や日赤病院といった
非常に力のある病院もやはり平均在院日数を下
げ,急にベッドががらがらになり,患者獲得競争
スライド12
が激烈になって来ました。
平成14年4月から6月までの3カ月間の診療実
績をその前の3カ月間と比べてみました(スライ
ド16)。平均在院日数は18日から15日と3日減少し
ております。稼働率も97%から84%と下がってお
ります。前回の平成8年のときは患者さんが増え
てレセプト件数が増えましたが,このときは周囲
の病院との競争があったものですから,あまり患
者さんは増えておりません。当時は入院単価も5
万円台と高くなっておりましたので,在院日数を
短くしても,あまり効率がよくなく6.6%のアップ
におわってしまいました。そういうことで,入院
スライド13
102
102(102)
収入も7%のダウンですし,利益も124%ダウンと
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
病院雑誌【9ポ22字43行段間20ポ】 ①校
スライド14
スライド15
いうことで赤字になっております。このように機
で,空いてるベッドを使って,空いてる看護婦さ
能分化と言って同じように平均在院日数を短縮し
んで,しかも,リハ病棟ですので,ほとんど検査
ても,そのときの時代時代で,やはり結果の違い
が大きく出てくるということを,ご理解いただき
たいと思います。
本院整形外科回復期リハ病棟開設
このような経過でベッドががらがらに空いたも
のですから,本院のほうに,整形外科対応の回復
期リハビリテーション病棟を開設いたしました。
これ(スライド17)は近森病院の本院に,整形
外科回復期リハビリテーション病棟を開設した時
の変化です。平成14年4月から9月までの6カ月
間とリハ病棟をつくった平成14年10月から6カ月
間の変化です。急性期の病棟は,リハ病棟をつくっ
ても,あまり変化はありません。回復期の病棟は
2,600万の収入のアップになっています。これはリ
ハビリテーションのドクターを1名増員しただけ
スライド16
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
103(103
)
103
病院雑誌【9ポ22字43行段間20ポ】 ①校
地域医療支援病院認可
この2月に地域医療支援病院として認可してい
ただきましたが,このままでは救急,紹介をストッ
プせざるを得ないものですから,整形外科の回復
期リハの安定収入を犠牲にして,救急・紹介の受
け入れを増やして,地域医療支援病院として機能
するように頑張ってみました。このとき,内科の
病棟もかなり混んでおりましたので,病棟を再編
成して,内科の病棟も増やしております。
回復期リハ病棟を閉鎖しての変化をみてみます
と(スライド19),急性期の病棟は,回復期リハの
あったときと比べて,平均在院日数はほとんど変
わっておりませんが,入院患者数はちょっと増え
ておりますし,単価もちょっと上がって,収入は
かなり増えました。ただ回復期リハのほうは,全
スライド17
然収入がなくなったわけです。入院患者さんは,
も処方もないというような状態ですので,売上自
以前と比べて,かなり増えました。これは地域医
体がそのまま利益になっております。全体を見ま
療支援病院というパブリックに紹介や救急を受け
すと,稼働率も84.6%から91.9%と非常によく
入れるという病院になったお蔭だと思っておりま
なっておりますし,入院収入も利益も,極めて良
す。稼働率も上がって,単価も上がっております
好な結果になりました。この6カ月間というのは,
し入院収入も増えてまいりました。救急車の搬入
経営的にも楽でございました。
件数も,リハ病棟をつくったときは下がりました
ただ,ベッドが37床,回復期リハ病棟として固
が,以前と同様に回復しております。急性期病院
定されたものですから,救急のストップが,非常
の紹介率や地域医療支援病院の紹介率もよくなっ
に増えてきました。平成15年1月以降は月のうち
半分以上は,救急をストップせざるを得ない,し
かも問題は,紹介のストップが結構増えてきたと
いうことです。これは近森病院が地域医療支援病
院として認可された効果は非常に大きく,患者さ
んが増えたためではないかなと思うのですが,こ
のままでは地域医療支援病院としての機能が果た
せないという心配が出てまいりました。
(スライド
18)
スライド18
104
104(104)
スライド19
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
病院雑誌【9ポ22字43行段間20ポ】 ①校
高い患者さんを増やす方向にしないとやっていけ
ております。
ません。長期療養は,収入が一定ですので,コス
まとめ
トを下げる方向へ行くと思います。
もはや機能分化と医療連携なしでは,医療経営
自分たちの病院の医療レベル,地域の特異性,
は成り立たない時代になってまいりました。機能
これは人口もあります,患者数もあります,周囲
分化には,捨てるものと育てるものがあります。
の病院,診療所の実力もあると思います,それに
機能分化ですので,単に今ある患者さんを分ける
よって機能分化の医療経営に与える効果は様々で
だけでは機能分化にはならないと思います。やは
す。同じように平均在院日数を短縮しても,効果
り,分けて化けるという,選択と集中,どれを選
のあるときと,赤字になる場合があります。うち
んでどれを捨てていくか。そして,どこに集中し
の病院はこんな医療をしたい,こういう病院にな
ていくか。(スライド20)
りたい,そういう願望ではなしに,やはり地道に
よく機能分化,機能分化と言って,やっておら
自分の病院の弱点,ボトルネックを早く見つけて,
れる病院を見ても,入院されている患者さんを単
迅速な方向転換を地道にやっていくというのが大
に分類して,これは回復期リハ,これは特殊疾患,
事だと思います。ボトルネックを早く見つける
緩和ケアとか,これは医療保険の療養型とかに分
トップの感性と,決断する勇気,そして実行力で
けておられますが,選択と集中という考えは非常
はないでしょうか。
に大事だと思います。医療連携には紹介していた
そして時代,時代で,地域の医療ニーズが求め
だく前方連携とともに,後方連携,紹介するとい
ているものは全く違います。そのとき,そのとき
うことも必要です。というのは,自分たちの医療
の時代が要求する地域の医療ニーズに合わせて,
機能を分化していくと,どうしてもできない機能
機能分化することが必要ではないでしょうか。以
もあるわけですから,そういう足りない部分はほ
上でございます。どうもご静聴ありがとうござい
かの医療機関にお願いしないといけません。だか
ました。
ら,紹介を受けたいだけという病院をよくみかけ
ますが,やはり紹介していく,後方にも流してい
座長
近森先生,どうもありがとうございまし
た。機能分化をするということは,機能ユニット
くということが大事になって来ます。
方向性としては一般急性期はコストがかかりま
を選択することで,増やすことばかりではありま
すので単価を上げて患者数を増やす方向,単価の
せん。捨てるもの,それから再構成するもの,そ
れも地域医療の中でうまく連携しながら,その紹
介を受けるだけでなくて,逆紹介もしながら行う
ということの重要性を指摘され,病院の経営成績
を上げられてこられたというお話でした。どうも
ありがとうございました。それでは引き続いて,
コーディネーターの立場から,医療法人宏人会の
加藤先生に,紹介連携の現状分析とコーディネー
ターの貢献についてお話しいただきます。
加藤先生は,日病統計情報委員会のワーキング
委員を担当されておられまして,昨年度の診療報
酬改定の分析を担当されたお1人でいらっしゃい
ます。では,お願いします。
(キーワーズ:紹介連携,医療経営,コーディネー
ター,システムコーディネート機能)
スライド20
加藤
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
加藤でございます。よろしくお願いいた
105(105
)
105
病院雑誌【9ポ22字43行段間20ポ】 ①校
します。それでは,スライドお願いします。
私は紹介連携の現状分析とコーディネーターの
在宅復帰や転入院等の環境を調えることができ
て,はじめて可能となるのです。こうした一連の,
様々なレベルを含む包括的連携システムが非常に
貢献ということでお話しいたします。
医療経営における機能分化∼院内外をつなぐ包
括的連携システムの必要性
重要になってまいります。
この発表の枠組みですが,大きく4つの柱を設
けました。まず,病院における紹介連携の現況と
意思決定。次に医療経営における紹介連携がどの
ように貢献しているかということを具体的にお示
ししまして,3番目は連携のシステムをコーディ
ネイトする機能と,そのコーディネイト機能を持
つコーディネーターの必要条件について,幾つか
提示します。最後に,以上3つを総括して,まと
めといたします。
病院における紹介連携の現況と意思決定
スライド1
医療経営における機能分化には,これまで前に
お話しいただいた先生方もおっしゃっております
とおり,院内外をつなぐ包括的な連携システムが
不可欠です。この包括的連携システムは,院内外
の多様なレベルの連携システムで複合的に構成さ
れています。例えば平均在院日数のコントロール
ということを例に挙げると,それを達成するため
には,安定的な入院患者の確保によって病床利用
率を維持すると同時に,院内ではクリティカルパ
スなどによって医療の質を確保しつつ,在院日数
の短縮化を図り,退院後に向けて,例えば在宅の
ケアが必要な場合ですとか,ほかの病院や施設な
どに転入院,転入所する場合の受け皿づくりなど,
スライド3
まず,病院における紹介連携の現況と意思決定
ですが,これは日本病院会の2つの調査データを
もとにお話します。一つは,昨年実施された「平
成14年診療報酬改定の影響度・経営実態調査」で,
全国の699病院から回答を得たものです。
もう一つは,去る5月に実施されたばかりの「平
成15年医療制度等改革の影響度調査」で,今回は
115病院分の中間データを用います。
スライド4は,病院を開設主体(公的,私的)
と病床規模(200床区分)別に6群に分類して,各
群の紹介連携の状況を見たものです。
向かって左側のグラフは,紹介連携について「充
実している」と答えた病院を「充実群」,「充実し
ていない」と答えた病院を「非充実群」とし,6
群における充実群と非充実群の割合を比較したも
のであり,いわば紹介連携の主観的評価の状況を
スライド2
106
106(106)
示したものといえます。
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
病院雑誌【9ポ22字43行段間20ポ】 ①校
スライド4
充実群の割合は400床以上の病院で高く,私的病
院で62%,公的病院で52%を占めています。
的,私的とも病床規模が大きい群ほど高くなる傾
向がみらます。
200∼399床の病院では,公私ともに39%,200
左右の図を比較すると,200床未満の公的・私的
床未満の病院では,私的病院が49%で400床以上の
病院では,患者紹介率の高い病院割合は少ない一
病院群に次いで高い割合を占め,公的病院では
方で,紹介連携の主観的評価の高い病院割合が比
33%となっています。
較的多くみられます。
右のグラフは,患者の紹介率という切り口で見
これは,紹介連携の充実とは,単に紹介率とい
た状況です。患者紹介率20%を基準とし,紹介率
う切り口のみでは評価できないことを示唆してい
20%以上群と,20%未満群に分けて,この2群の
ます。
割合を,開設主体・病床規模別6群で比較しまし
スライド5は,病院の紹介連携部門の有無と職
た。紹介率20%を基準とした根拠は,回答病院全
員の内訳について示したもので,今年行いました
体の5割強が20%未満,5割弱が20%以上だった
調査の中間データに基づいています。左の円グラ
ことによります。紹介率20%以上群の割合は,公
フでは,115病院のうち83病院,すなわち72%以上
が紹介連携部門ありと答えています。右の表は,
紹介連携部門のある病院で,この部門の職種と人
数を表したものです。職種としてはソーシャル
ワーカー,看護師,医師,事務職などが主な職種
ですが,メジアン(中央値)による平均的レベル
の病院を見ますと,ソーシャルワーカーの専任は
2名,看護師,医師,事務職の専任はそれぞれ1
名ずつになっています。兼任は,どの職種も大体
1名ぐらいが平均的レベルです。紹介連携部門の
全体の職員総数は大体4名ぐらいが平均的なレベ
ルといえます。
スライド5
スライド6は,紹介連携部門がどのような業務
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
107(107
)
107
病院雑誌【9ポ22字43行段間20ポ】 ①校
を行っているのかをお示ししたものです。一番多
かったのが転入院先の紹介で,8割近くの病院で
行われています。紹介連携部門では,診療予約,
体同じような傾向がみられました。
医療経営における紹介・連携の貢献
検査予約,退院援助,入院予約,そして連携先へ
の定期的な情報提供なども行われています。
スライド7は,紹介連携の強化に関する病院の
意思決定について示したものです。先ほどお話し
した,紹介連携が充実していると答えた充実群と,
充実していないと答えた非充実群の連携の強化状
況です。充実群では,3年以上前から強化を図っ
ている病院が65%みられました。非充実群におい
ても,前回の改定を期に強化していると答えた病
院が半数以上みられます。また,紹介連携の充足
状況にかかわらず,9割以上の病院が,紹介連携
の強化を図っていることが明らかになりました。
スライド8
このことは,充実群,非充実群の区切りだけでな
次に医療経営において,紹介連携がどのような
く,開設主体や病床規模などの属性でみても,大
貢献をするかということを,3つの視点に基づい
てご説明したいと思います。(スライド8)
まず1つは,病床利用率。2番目に平均在院日
数。3番目に平成14年の診療報酬改定の影響率,
以上3つの視点です。診療報酬改定の影響率の指
標には,入院1日当点数比を用いました。入院1
日当点数比は,平成14年の2月と3月の入院1日
当点数に対して,4月の入院1日当点数がどう
だったかをみたものです。100の値は,影響がな
かった,変化がなかったということです。値が100
より大きい場合は,改定によってプラスの影響を
受けた病院,マイナスの場合は,マイナスの影響
を受けた病院という考え方です。
スライド6
スライド9は,一般病床利用率を,分布関数を
用いて紹介連携の充実群と非充実群で表したもで
す。これを見てどのようなことが分かるかと言い
ますと,ご覧のとおり,全体的に充実群の分布関
数曲線のほうが,非充実群の曲線よりも右側に位
置しています。これは,紹介連携が充実している
という答えた病院は,非充実群に比べて,一般病
床の利用率が全体的に高めであるということを示
しています。
メジアン付近は,その群全体の中の平均的な病
院を表していますが,充実群のメジアン付近の一
般病床利用率は,大体89%です。一方,非充実群
スライド7
のメジアン付近では86.6%となっており,両群で
2.4ポイントほどの差がみられます。同じような傾
108
108(108)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
病院雑誌【9ポ22字43行段間20ポ】 ①校
スライド9
スライド10
向が,25%タイル付近でも,75%タイル付近でも
みられます。さらに,開設主体や病床規模別で充
実群,非充実群をみても,ほぼ同じような傾向が
みられました。
スライド10は,一般病床平均在院日数の分布関
数を,充実群,非充実群に分けて示したものです。
先に述べた病床利用率とは異なり,充実群の分布
関数曲線が,全体的に非充実群の曲線の左側に位
置しています。これは,充実群の平均在院日数が
非充実群に比べて短めであることを表していま
す。メジアン付近,25%タイル付近,75%タイル
スライド11
付近のいずれも,ほぼ同じような傾向で推移して
います。開設主体や病床規模で,さらに細かく分
400床以上の公的病院では,紹介連携が充実してい
類して充実群,非充実群でみても,程度の差は若
たほうが,充実していなかった病院に比べてマイ
干あるものの,大体同じような傾向がみられまし
ナスの影響が少し弱めで済んだといえます。
次に200床未満の私的病院についてみてみます
た。
スライド11は,入院1日当点数比指標を分布関
(スライド12)。先に述べた400床以上の公的病院
数で示したものです。ここでは,特に400床以上の
に比べると,明らかに分布関数の配置が異なりま
公的病院について,去年の診療報酬改定でどうい
す。充実群の分布関数曲線が,非充実群の曲線に
う影響を受けているか,それを充実群と非充実群
比べてずっと左側に位置しています。すなわち,
でみました。相対累積度数(y軸)15パーセント
200床未満の私的病院では,紹介連携が充実してい
より下の部分を除いて,充実群の分布関数曲線が,
ると答えた病院のほうが,改定によるマイナスの
非充実群の曲線よりも若干右側に位置していま
影響を強く受けている結果が出たけです。調査に
す。すなわち,充実群の病院は,非充実群の病院,
回答した200床未満の私的病院の属性をみますと,
に比べてマイナス影響の受け方がやや少なかった
3割近くが外科系の併科病院であることから,手
ことが分かります。マイナス影響を受けた病院の
術に関する何らかのマイナスの影響を受けている
割合は,横軸の100よりも左側に位置する病院で
ということも考えられますし,一考を要するデー
す。この改定でマイナスの影響を受けた病院割合
タであると思います。
をみると,充実群では84.3%だったのに対して,
非充実群は88%に上っています。このような点で,
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
109(109
)
109
病院雑誌【9ポ22字43行段間20ポ】 ①校
スライド14
用できること。もう一つは,サービス提供者が利
スライド12
用者ニーズに即した効果的かつ効率的なサービス
連携システムをコーディネ−トする機能イトと
コーディネーターの必要条件
を提供できることです。
このシステムコーディネート機能のモデルは,
続いて,連携システムをコーディネートする機
能,これをシステムコーディネート機能と呼んで
おりますが,この機能について,定義,機能のモ
デルや,機能はどういう効果があるのか,コーディ
ネーターにはどういう条件が必要なのかをお話し
します。
スライド13は,医療福祉の領域におけるシステ
ムコーディネート機能の定義です。医療福祉領域
のシステムコーディネート機能とは,医療福祉
サービスの利用者と提供者及び提供システム間の
関係調整を行って,サブシステム間の情報の授受
と共有化を支援する機能です。この機能は2つの
目的を持っています。
まず1つはサービス利用者,例えば患者など,
いわゆるサービス利用者がサービスを主体的に利
スライド14に示すように,9つの柱で構成されて
います。誰がコーディネートの機能を使うのか。
それはコーディネーターです。また,誰に対して
コーディネート機能を発揮するのか。これはコー
ディネート対象,例えばクライアントであったり,
院内のスタッフであったり,院外の地域のいろい
ろな機関であったりします。何のためにコーディ
ネートするのか。コーディネートでどのようなこ
とを行うのか。どういう手段を用いてコーディ
ネートするのか。コーディネートを行うタイミン
グはいつか。どれぐらいの時間をかけてコーディ
ネートするのか。コーディネートする領域は,コー
ディネーター個人レベルのコーディネートなの
か,部門レベルで,もう少し大きいコーディネー
トを行うのか,地域レベルで行っていくのか。コー
ディネートには,このようなレベルの違い,領域
という考え方があります。また,コーディネート
にかかるコストはどういうものなのか。例えば
コーディネーターの人件費,コーディネートの部
門にかかる運営維持費用,コーディネートにかけ
る時間などが,コーディネートのコストとして考
えられます。最後に,コーディネートをどのよう
な視点で,どのような方法を用いて評価するのか。
これも機能モデルの重要な1つの柱です。
ここで,コーディネートの評価について,2つ
の例を提示したいと思います。
スライド15は,効果性の視点に基づいてコー
スライド13
110
110(110)
ディネートを評価する際に,input-output 評価の
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
病院雑誌【9ポ22字43行段間20ポ】 ①校
ています。
もう一つ,評価の具体例をご紹介します。スラ
イド17は,連携をどのように評価するかを示した
ものです。コーディネーターがよりよいコーディ
ネートを行っていくためには,連携について,常
にモニタリングをし,評価をしていく必要があり
ます。これは私が勤務する病院で実施した,連携
に関する調査研究の一部です。介護サービスを利
用している患者にかかわる院内スタッフ,それら
スライド15
の患者が利用している介護サービス提供者や,担
当ケアマネジャー,これら院内外のコーディネー
ト関係者を対象として,院内外の連携のレベルは
どの程度か,また,あなたが考える理想の連携の
レベルはどの程度かを評価してもらい,その結果
を分布関数で表したのがこの図です。丸や三角の
印が塗りつぶしてある曲線が,院内スタッフの評
価,丸や三角の印が白抜きにしてある曲線が,院
外の関係者の評価です。左側の2本の分布関数曲
線(三角印)は,院内と院外それぞれの,現状の
スライド16
連携に対する評価を表しています。右側の2本の
手法を用いる場合の概念図です。すなわち,コー
曲線(丸印)は,理想の連携レベルを示していま
ディネートを行うことによって,患者さんの不安
す。この図から,コーディネーターが何を学べる
感が軽減される,その効果を測定する評価方法で
かと言いますと,まず第一に,現状と理想の間に
す。コーディネート前の患者さんの抱えている不
これだけのギャップがあり,さらなる連携,より
安感が,システムコーディネート機能を用いた
よい連携が求められているということが分かりま
コーディネートによって,ある程度軽減される。
す。第二に,院外(地域)の人々の現状に対する
その軽減された部分が,コーディネートの効果と
評価をみると,院内スタッフに比べて非常に低い
いえます。
評価の人から,100点に近い高い評価の人まで,非
具体例として,以前,全国レベルの調査研究を
常に幅が広くなっています。この幅の広さがどの
行ったときの結果の一部をスライド16に示しま
ような要因に由来しているのか,例えば,こうい
す。医療ソーシャルワーカーが,患者のニーズに
う低い評価をしているケースというのは,どうい
対応してコーディネートを行った100以上のケー
スについて,コーディネート前と,コーディネー
ト後の患者不安度を測定しました。不安度は,
「全
く不安でない」から「非常に不安」までの5段階
です。たとえば,コーディネート後には,
「非常に
不安」と答えた患者割合が18.2ポイント減少して
います。
「やや不安」と答えた患者割合も,7ポイ
ント減少しています。また,「あまり不安でない」
と答えた患者割合は,コーディネート後に11.7ポ
イント増加し,
「まったく不安でない」と答えた患
者割合も4.2ポイント増加しています。スライド16
の両方向矢印は,コーディネートの効果を表わし
スライド17
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
111(111
)
111
病院雑誌【9ポ22字43行段間20ポ】 ①校
ディネート対象と信頼関係を構築できることが不
可欠です。命令権のないコーディネーターが,さ
まざまなコーディネート対象を調整したり,そこ
から必要な情報収集したり,逆に提供したりとい
う一連の作業には,コーディネートする側とされ
る側の間に信頼関係がなければ不可能なことで
す。
5番目の条件として,コーディネーターはコー
ディネート対象間を調整する能力を有することが
挙げられます。当然のことながら,コーディネー
トというものは,コーディネートされる側,すな
スライド18
わち院内外のさまざまなサブシステムすべての納
う患者さんのケースなのか,それをさかのぼって
得と合意に基づいて行われるので,誰からも納得
検討していくことができます。また逆に,こういっ
が得られるような調整を行う能力が不可欠です。
たよい成績を上げている評価の高いケースはどう
こういう調整能力がなければ,利用者ニーズに即
いうケースなのか,いわゆる成功事例の要因を今
したサービスのパッケージ化というのは難しいと
後の連携に反映させて,よりよい連携のコーディ
思います。
ネートを行っていくということが可能となるので
す。
スライド18で,コーディネーターの必要条件を
まとめ
最後に,これまで述べてきたことをまとめます。
5つ挙げます。まず,システムコーディネート機
まとめの1番目として,病院における紹介連携の
能を発揮するための大前提として,コーディネー
現況と意思決定については,紹介連携の充実状況
トされる側(コーディネート対象)から,あなた
や病院属性には関係なく,大部分の病院が紹介連
はコーディネーターだと認知されていることが必
携の強化を図っています。また,7割以上の病院
要です。
には,紹介連携部門が設置されています。
2番目の条件として,コーディネーターは,コー
まとめの2番目として,医療経営における紹介
ディネートする各対象について,一定の知識や理
連携の貢献については,紹介連携を充実させるこ
解が求められます。そういった知識や理解が不十
とが,一般病床利用率や一般病床平均在院日数の
分ですと,コーディネーターは,そのコーディネー
コントロールに貢献することを,データに基づい
トに必要な情報を的確に収集したり,把握したり
て提示しました。
することができません。それは,コーディネート
入院1日当点数に関する平成14年の改定の影響
対象間の調整が困難になることにつながります。
度分析からは,2つことが言えます。lつは,病
3番目の条件として,コーディネーターはコー
床規模の大きい病院では,紹介連携の充実が確実
ディネート対象に対して命令権を持たないことが
に医療経営に貢献するということです。もう1つ,
挙げられます。これはどういうことかと言います
病床規模の小さい病院,例えば私的200床未満など
と,まず第1に,患者さん中心の医療という点か
の例を挙げましたが,そういったところでは,紹
ら,コーディネーターが命令権を持たないのは当
介連携の貢献効果が,大規模病院のようなクリア
然です。第2に,コーディネートされるサービス
な表れ方をしないことです。これは,中小病院独
というのは,異なる経営主体,異なるセクターに
自の紹介連携戦略の必要性を示唆していると考え
よるサービスの統合体であることが非常に多く,
ます。
コーディネーターは,各セクターに対しての命令
4番目の条件として,コーディネーターはコー
112
112(112)
まとめの3番目として,紹介連携システムを
コーディネートする機能の概要,およびコーディ
権を持たないというのが一般的です。
ネーターの必要条件については,機能の定義と機
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
病院雑誌【9ポ22字43行段間20ポ】 ①校
能モデルを提示し,患者不安感が軽減された例に
いと思います。そして,機能分化だけでは不十分
よる,コーディネート機能の効果と評価の方法に
であって,連携をどうすればいいのかという連携
ついて述べました。また,コーディネーターが連
のあるべき姿について議論する必要もあります。
携を評価するには,どういう視点で評価すればい
以上の論点について,先ほど来,シンポジストの
いのか,それを院内外の関係者による連携評価の
方々から,いろいろな角度から,もう既にお話しい
例を用いて示しました。コーディネーターの必要
ただいた部分も多いのですが,さらにもう少し深く
条件では,このような条件を充足できるコーディ
切り込んで,議論していきたいと思います。
ネーターの育成が,これから非常に重要になって
まず,機能分化の在り方について,様々な機能
くると考えます。以上で,私の発表を終わります。
分化の機能ユニットの話が出ましたが,梅里先生
ありがとうございました。
は,縦軸に急性期から慢性期までの形,横軸にと
いう2次元でもって,いろいろなお話をされまし
座長
加藤先生,どうもありがとうございまし
たし,地域医療の中での機能分化の在り方をお示
た。機能分化だけでは,病院の機能を十分達成す
しくださいました。今後の機能分化の在り方とし
ることはできない。空床ができるだけであるとい
て,どういう可能性が有効であるのか,あるいは,
うことです。それを踏まえて,連携,コーディネ
どういう分野が今後期待されるのか,その辺につ
イトの在り方の本質論にまで踏み込んだお話をい
いて,ご意見があればお話いただきたいと思いま
ただきました。どうもありがとうございました。
す。
それではシンポジストの先生方,どうぞ演壇のほ
梅里
うにお越しください。
急性期と,それから特殊疾患及び回復期
時間が限られておりますので,幾つか論点を定
リハ,それから療養という,あるいは難病とか,
めて,シンポジストにご議論いただきたいと思い
そういう明確なものはある程度はっきりしている
ます。第1点は,先ほど来,機能分化という概念
なというふうには感じているんですけれども,一
について,いろいろお話がありましたが,一体,
般病床の中が,いわゆる外科機能の他に,どのよ
今後どういう機能分化を考えていけばいいのか,
うな形で分かれるべきなのかが若干不明です。そ
また,どのような機能分化の形態があるのか,そ
のへんのところ,地域一般病床のような考え方も
ういう議論を少ししてみたいと思います。
ありますけれども,こういう形の医療を地域に提
2点目の論点として,この機能分化による貢献
供しているあるいは地域には,こういう医療が必
ということについて,様々な角度から,議論され
要だということを,データを出して,示していく
ました。いろいろな可能性があるわけで,最初に
必要があると感じております。それが機能分化の
先行的におやりになられたところはいいけれど
もう1つの類型として,生まれ得るのかどうかとい
も,あとはどうかとか,今,うまく行っていると
うようなところに,非常に関心を持っております。
ころ,行ってないところが,これから,どういう
座長
そうしますと,地域,病院のそれなりの
方向性をとっていけばいいのか,そのような議論
特性があって,自分の病院は,どのような機能が
もあると思います。
合っているか,というようなことを分析するとい
3点目の論点は,厚労省として,一般病床,療
うこと,あるいはその地域の中で,自分の病院が
養病床という,病床区分という機能分化を求めて
合った機能を持っているかどうかのチェックを行
いるわけですが,一体,今後,どうなっていくん
うこと,こういうことなんでしょうか。
梅里
だろうかということがあります。
そうですね。急性期の機能として,本当
4点目の論点として,機能分化を行う場合に,
にこういうことがあるんだということを示してい
必ずしもすべて経営的にうまくいくとは限らな
かないと,今の類型の中では,外科は必要でしょ
い,という見方もあります。それでは,どういう
うというようなことはいいとして,あと,先ほど
ような病院戦略をとって,機能分化をうまく成功
言ったようなものについて今の診療報酬でも,点
に導いていけばよいのか,ということを議論した
数化が進められているものについては,明確な機
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
113(113
)
113
病院雑誌【9ポ22字43行段間20ポ】 ①校
能分担としての位置づけがありますけれども,そ
に現場でも急性期以外は,もう一般病床で生き残
の他のものが十分な対応がとられないという形に
れないのかとか,そういう若干の議論を呼んでし
なる可能性があるのじゃないかということを,
まったということなんだろうと思います。
ちょっと危惧しているということでごさいます。
座長
そういうことで,法律上は療養病床をしっかり
それでは,武田先生,厚労省は一般病床
区分していこう,それから診療報酬をはじめとし
と療養病床の分化ということを,病院の基本的な
て,政策的には,急性期病床というものを,しっ
方向として打ち出されて,今後,その整備を地域
かり位置づけて,急性期病床の果たすべき役割機
医療計画の中で図ろうという方針でいらっしゃい
能をはっきりさせていこうということになってい
ます。しかし急性期といっても,つまり一般病床
るんですが,診療報酬の面でも,慢性期の診療報
といっても,いろいろな機能があるわけです。そ
酬の在り方,急性期の診療報酬の在り方は,方向
の中で,とりあえず一般病床,療養病床という形
性が出されつつあるわけですけれども,必ずしも
で,機能分化をするということですが,回復期リ
一般病床で急性期以外の病床は,一体,どういう
ハとか,特定の疾患に関して,機能ユニットのよ
機能になって,また,どういう支払い方式になっ
うなものを,今後,整備しようとされているのか,
ていくのかというのは,はっきりしたコンセンサ
今後の見通しについて,お話をいただけますで
スはまだないのだろうと思います。
1つの考え方は,ビジョンの中でも示しました
しょうか。
武田
今,問題になっております一般病床・療
回復期リハビリテーションという形をしっかり位
養病床,さらに急性期の病院の在り方ということ
置づけていく。やはり急性期の次に来るステージ
なんですが,私のスライドの中で,若干の歴史的
というのは,集中的にリハビリテーションをやっ
経緯も含めて,お示しをいたしましたが,当初,
て,自宅に復帰をするんだという流れを1つの柱
機能分化の中心的なテーマはやはりわが国にとっ
に立てたらどうかというような議論があるんだろ
て,老人病院をどう考えていくのかということで,
うと思いますが,いろいろその後の動きを見てみ
専ら,やはり療養病床の扱いをどうするかという
ますと,急性期がどんどん在院日数を短縮する一
ところが,最初は非常に大きなテーマだったと思
方で,回復期リハだけでは吸収しきれないニーズ
います。
があるということも言われ始めてますし,一方で
1990年代の10年間を通じて,やはり介護保険の
病院団体の間で,地域に根ざした地域医療を担う
導入を目指して,長期療養をどうするかというこ
コミュニティー・ホスピタルのような機能をしっ
とが,話題の中心であったために,一般病床と療
かり認めてほしいというような議論も出てきてま
養病床の選択というのも,第4次医療法改正をつ
す。一方で,中医協では,亜急性という言葉も出
くったときの中心的なテーマは,療養病床をきち
されています。亜急性という言葉はまた非常に難
んと独自のジャンルをつくろうということで,で
しいのですが,先日,中医協で説明された内容で
は,療養病床以外が一般病床で,一般病床の中身
は,慢性期から亜急性まで含めて,1つの診療報
についての突っ込んだ議論はなかったような気が
酬体系で研究をされた結果も発表されてますの
いたします。法が施行になっで,届出が今年の8
で,非常にそこらへんはまだ,まだ議論が十分に
月にきますが,それまでの間に,我々はむしろ,
整理をされてない部分ではないかというふうに思
その次のテーマとして,急性期にスポットを当て
います。やはり考えてみると,そこらへんの議論
て,わが国の医療の問題が,特に平均在院日数が
は,底が浅くて,これまで十分研究もデータもな
長いという問題であるならば,そこは急性期を,
かったところではないかというような気がいたし
本当に急性期らしい急性期病院を日本でもつくっ
ます。
ていくというようなことをスポットライトを当て
いろいろ厚生省も機能分化と言っている割に
てみたかった。したがって,一般・療養の2つの
は,急性期,それから回復期リハビリテーション
区分の問題と,急性期を急性期らしくというテー
独自のコスト調査をやろうと言ったのは,今年,
マと2つ同時に走ったものですから,そこは非常
今やってますが,医療経済実態調査,今年が初め
114
114(114)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
病院雑誌【9ポ22字43行段間20ポ】 ①校
てです。まだまだそういう意味でも,いろんな方
酬上,連携の効果があまり表れていないというよ
面から活発な議論が出てきたほうがいいのではな
うなお話があったと思うのですが,それについて,
いかというふうに思います。
もう少し詳しくお話をいただけますでしょうか。
座長
ありがとうございました。これからの議
加藤
200床未満の病院でも,一般病床の利用率
論というのは,おそらく,厚労省というよりも,
や平均在院日数の面では,大規模病院と同じよう
そういった事例とかデータがどういう結果をもた
な紹介連携を充実させた場合に,効果があること
らしているのかということも参考にされながら,
がわかりました。ところが,診療,報酬改定によっ
対応されると思います。したがって,そういった
て病院が入院でどういう影響を受けたかという,
機能ユニットや急性期の在り方ということを,病
入院1日当点数指標でみると,たとえば200床未満
院団体なり,病院の先生方が考えるということが
の私的病院では,紹介連携が充実している病院の
まず大事で,そういったデータを提供できるよう
ほうが,充実していない病院よりも,かえってマ
な体制づくりも必要と思われます。どうもありが
イナスの影響が非常に強かったのです。先ほども
とうございました。
少し申し上げましたが,属性群で追加分析します
それでは,機能分化について,近森先生のとこ
と,200床未満の私的病院群では,外科系の併科病
ろは非常にうまく機能分化を繰り返しながら,地
院が3割近くありまして,手術の件数なども,紹
域医療の中で病院としての成長を遂げてこられた
介連携充実群は,非充実群に比べてかなり多かっ
ということですが,その機能分化の「捨てる」と
たりしたものですから,手術の影響度なども(4
いうか,捨てながら新しいものをつくっていくと
月の時点で,どこまで表れているのかという問題
おっしゃいました。その「捨てる」という基準は
はありながら)あの結果の背景の1つと考えられ
どういう判断で行われたのか。先ほどみてますと,
なくもありません。あのデータからいえることは,
かなりいい成績のユニットでも捨てざるを得ない
ただ紹介連携を充実させればよいという単純な図
という,そういう厳しい判断もなされていたよう
式ではない,ということです。近森先生はじめ諸
に思うのですけれども,そのへんの議論,EBM だ
先生方もおっしゃるとおり,自分の病院の機能特
けでなくて,直感的なものがあるんだというふう
性や専門性,地域性,患者ニーズなどを細かく読
なお話もされていましたが,いかがでしょうか。
み取っていきながら,その上で,紹介連携をどう
近森
それが一番難しいと思います。私は素直
いう形で充実させていくのかが重要と思われま
に自分たちの病院のあるべき医療をしないといけ
す。ただ単に紹介率を上げるというような短絡的
ないということで,できるだけ急性期医療に特化
な問題ではないのです。特に中小の病院は,自分
してきました。自分たちの病院の実力と,周りの
たちの特色を十分に活かし,地域性や専門性を見
環境という相対的ないろいろの働きかけがありま
据えた独自の紹介連携システムを構築していくこ
す。そういうところを,一律的に決めてしまった
とが強く求められていると考えます。
ら,非常にミスが多くなります。だから,自分た
座長
ありがとうございました。先ほど近森先
ちの病院のボトルネックと言いましたけれども,
生が,機能分化するときに,どういう患者さんが
弱いところとか,患者さんの流れが狭くなってい
いるかだけで分化したってあまり意味がないのだ
るところ,そういうところを見つけて,個別に治
というようなことをおっしゃいましたね。200床未
していく。そういう対応が一番いいかなと感じて
満の病院などでは,その辺がかなり問題ではない
おります。時代,時代で求められる医療の姿も変
かと思います。特に,私のスライドの中にもあっ
わってきますし,病院の姿もどんどん変わってき
たのですが,病院全体としては慢性期の点数と急
てますので,そういう細かな自己変革を続けてい
性期の点数がはっきり分かれているのに,200床未
くというのが,やはり一番安全な方法ではないか
満の病院群では,あまりはっきり分かれていない
なという感じております。
のです。そのへんの機能集積なり,機能分化が,
座長
ありがとうございました。加藤先生の報
まだ,完全にうまくいってない可能性もあると思
告の中で,200床未満の病院のケースでは,診療報
われますが,その辺はいかがですか。近森先生。
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
115(115
)
115
病院雑誌【9ポ22字43行段間20ポ】 ①校
近森
これは非常に大事なことで,例えば,100
機能分化という言葉を言っていきますと,機能
床の病院が全館急性期で必死になって急性期やる
分化と機能連携はセットでなければいけない。機
のと,隣の100床の病院が,25床で急性期をやって,
能分化と機能連携ということを考えてみますと,
25床が医療保険の療養型,あと50床が介護保険の
ある程度地域でネットワークができることが必要
療養型をとった場合,これは明らかに急性期では,
じゃないかというふうに最近思ってまして,競争
もうその隣の病院に負けてしまうわけです。だか
一辺倒ではなくて,ある程度の地域ネットワーク
ら,郡部や田舎のほうで,その病院しかなければ
の中で,どういう機能を担っていくのかというこ
仕方ありませんが,まちの中で,競争の激しいと
とになるんじゃないかと思います。そのときに,
ころほど,機能を特化させていかないと,競争に
やはり自分が得意とするのは何なのかというこ
負けてしまう。そして,シェアを取られていく。
と,それからもう1つ忘れてはならないのは,患
そういうことがあると思います。だから,単に分
者ニーズあっての病院なんです。その地域で一体
けるだけの機能分化は,私は「衰弱していく機能
どういうニーズがあるのか,一般的に言えば国全
分化」だと思いますし,自分たちの機能を特化さ
体の方針としては,もうベッドは増やさない。そ
せて,新しい医療を提供していく,地域のニーズ
もそも過剰なので,これ以上ベッドは増やさない
に合った医療を提供していく,そういう機能分化
ということですから,患者として,もっと地域の
は「発展する機能分化」じゃないかなと思います。
患者が増えるはずなんです。在宅医療にどうやっ
座長
ありがとうございました。武田先生,200
て取り組むのかということが問われていて,恐ら
床未満の病院の連携の在り方について,先生の私
く,大きな病院はそこまで手が届かないだろうと
見でも厚労省の意見でも結構ですが,どのように
思っています。
考えていらっしゃるのかお聞かせ願えますか。病
それから,平均在院日数を短縮していく中で,
床規模の大きい病院では,急性期で機能分化する
早期に病院を出た患者さんが,どこへどういうふ
と,当然,連携をやらないとやっていけません。
うな療養生活を送るのか,これは決まったパター
それでは,200床未満の病院では,機能分化と連携
ンはないのかもしれませんが,そういうところに
の在り方はどうあるべきか。200床以上の病院も,
も,ぜひ中小病院に着目をして,ニーズを敏感に
必ずしも同じではないと思うのですが,いかがで
読み取ってやっていただきたいし,今の診療報酬
しょうか。
が必ずしも,中小病院のこういうパターンの特別
武田
なかなかその200床未満の病院が一番機
の入院基本料があるわけではありませんが,近森
能分化といったときに,特色を出しにくい病院だ
先生の発表でも,多分,それが反映されているん
ろうと思うのです。それで,私どもも,診療報酬
じゃないかと思うのです。今の診療報酬体系,今
上,200床以上と以下に区切って,200床以上は,
の現時点のものでも,機能をはっきりさせれば,
基本的にも,外来をしない入院機能に特化した病
それなりの評価がついてくるようなことにはなっ
院,199床以下の病院は診療所と同じように,外来
ているんだろうと思いますので,そういうことも
機能を持つというふうな仕分けになってますけれ
目指していただきたいなと思います。
ども,そういう単純な形ではないのだろうと思う
座長
ありがとうございました。やはり,機能
のです。それで,先ほどちょっと名前だけ紹介し
を明確にして,機能ユニットとして評価されるよ
ましたが,今回,厚労省のほうで委託調査でやっ
うな体制にならないと,診療報酬体系の適用も難
た研究では,やはりそこに基幹病院がある場合と
しいのではないかと思います。もともと原価なり
ない場合で違う。それから都会と郡部でも違うと
収益がデータとして上がってきませんので,やは
いうことで,6つくらいのパターンに分かれるん
りある種の単位を設定する必要があると思うので
じゃないかというような結果になってまして,そ
すが,これについて,梅里先生が機能ユニットを
ういう地域の特性を踏まえながら,独自の存在意
考える場合に,医師も固定的に張り付けるのでは
義というのを出していくということしかないのか
なくて,かなり機能分担をして,その機能ユニッ
なというふうに思います。
トを参加してもいいんじゃないかというようなお
116
116(116)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
病院雑誌【9ポ22字43行段間20ポ】 ①校
話をされていました。具体的に,何かそういった
加藤
先ほどの私の発表でお示ししたように,
考え方での事例を説明していただくのであれば,
院内外の連携の在り方などについても,定点観測
お願いしたいと思うのですが,いかがでしょうか。
的なモニタリングがとても重要であると思いま
梅里
都市部の場合,また別なんですけれども,
す。ただモニタリングをするだけではなくて,そ
特にへき地等で,ドクターの配置が難しい地域と
こで発見された検討課題なり何なりを,どのよう
いうのは,従来からあったわけですけれども,一
にしてフィードバックさせ,改善に向けていくか
部の地域では,やはりそこに固定的に張り付けて
ということが大切です。また,コーディネーター
しまうと,ドクターも来ないというようなところ
の教育,養成が急務だと考えます。
がございまして,その場合に,複数の医師がロー
どんなに立派な紹介連携システムがあっても,
テーションによって,例えば1日,2日をそうい
そのシステムをコーディネーターが十分に使いこ
うところで診療を行って,残りの日を大学に行く
なせなければ意味がないのです。紹介連携システ
なり,急性期の病院で積極的な医療をするなりと
ムを生かすも殺すも,コーディネーターに負う部
いうようなことで,医師の研修,満足感というよ
分がかなり大きいのではないかと思います。発表
うなものも充実させながら,地域に十分な医療を
で,コーディネーターの必要条件を5つ挙げまし
提供する。そういうような形態をうまく達成して
た。一見簡単なように見えますが,もし,皆さん
いるような事例もあるわけです。これをそのまま
がコーディネーターになったとお考えになって,
というわけではないのですがただ,先ほどのよう
あの条件をすべて充足できるかと言うと,そう簡
な機能分担というよう形になってきて,先ほど申
単にはいきません。あの条件を充足できるような
しましたけれども,施設機能にそのままドクター
コーディネーターを,一朝一夕に養成するのは困
が固定されてしまうというような状況の場合に,
難です。紹介連携部門に配属される人材は,誰で
なかなか医師そのものの能力のレベルアップとい
もいいというわけではなく,あのような必要条件
うようなものが果たしにくくなってくるような状
をきっちり充足するコーディネーターを置くこ
況も考えられますので,そのようなローテーショ
と,また,そういうコーディネーターの養成が,
ンというような組み込みをしていく。そうなりま
今後非常に重要になってきます。ひいてはそれが,
すと,日本の場合は,どこか施設に所属をしてい
よりよい連携に結びつくと思われます。
る必要があると思うのですけれども,所属しつつ,
数日をその他の医療の提供の場で活躍をするとい
座長
ありがとうございました。それでは,そ
うような柔軟な勤務体制というようなものが考慮
ろそろ時間が迫ってまいりましたので,私のほう
されてくると,両者の整合がとれるのではないか
から,まとめをさせていただきたいと思います。
今日のテーマは「機能分化と医療経営」という
というように感じております。
座長
ありがとうございました。医師機能のグ
ことで,機能分化が,病院経営にとって有利かと
ループ的な機能として,対応できるのではないか
いうことも含めて,どういう意味があるかという
ということで,在総診の考え方も,同じような考
論点がありました。シンポジストの先生からの報
え方だと思います。それから,さらに医療の機能
告によりますと,機能分化は必須であって,実際
分化において,連携をするときに,医療機関だけ
に病院でもほとんどそういう方向性の考え方をし
ではなく,介護施設であるとか,あるいは在宅に
ている。しかし,どのような機能分化をするかと
行く場合でも,様々な連携があるわけです。加藤
いうことについては,まだ十分検討されておらず,
先生,こういった連携を進めていく場合に,今後
一方では厚労省の第4次医療法に基づいて,一般
の在り方として,先ほどのスライドにもありまし
病床と療養病床に区分しなければいけないという
たが,理想としての連携と実態としての連携の
法律上の問題もある。しかし,一般病床すなわち
ギャップを埋めるためには,どういうことを考え
急性期の内容については,まだ十分詰められてい
ていけばよろしいのか,そのお考えをちょっとお
ない可能性があるということで,その辺は,病院
願いいたします。
のそれぞれのご努力で,どういう機能ユニットを
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
117(117
)
117
病院雑誌【9ポ22字43行段間20ポ】 ①校
急性期の中につくっていくかということも検討課
きであり,機能分化をしても,それのみでは空床
題ではないか,ということでした。
ができるだけです。病院内の医療サービスのス
それから,機能分化をしていくときに,私のス
ピードを上げても,やはり空床ができるわけです
ライドにもありましたけれども,やはり機能ユ
から,紹介連携,その後方の連携も含めて行って
ニットをきちんと位置づけて作っていかなければ
いかないと,経営的にもうまくいかないだろうと
ならない。つまり,目的を明確にし,どういう機
思われます。そして一番重要なことは,患者の視
能を持たせるか,どういう人や施設をつくってい
点に立った医療であって,患者中心の医療を考え
くのかということです。それについては,いろい
るとすれば,やはり病院の経営の健全化が必要で
ろな可能性があると思うのですが,そういった機
す。そのためには,質を高め,経営の効率化を図
能ユニットをきちんとつくって,その効果,効率,
り,その評価を行っていくことが不可欠です。モ
コストを明確にすることにより,初めて診療報酬
ニタリングの機能がマネジメントに必要であっ
の体系が導入しやすくなると思います。そういう
て,最初に私が言いましたように,EBM,Evidence
ご努力も大いに期待したいと思います。
Based Management の発想を,これから病院の中で
それから,一般病床,療養病床の区分について
徹底していく必要があるのではないかと思ってい
は,先ほど武田先生のお話にもありましたように,
ます。まだまだ議論は尽きませんが,あとは,シ
それなりの選択をするにしても,自分の病院だけ
ンポジストの先生方で,医療人の集いに出られる
で病床選択しても,隣の病院でも,同じく急性期
方もいらっしゃいますので,その席で,またご議
病床をたくさん選択しているのであれば,診療圏
論をいただきたいと思います。今日は長時間あり
の拡大というのは,やはり見込めないわけで,競
がとうございました。シンポジストの先生方,ど
合になってしまうわけです。したがって,もし急
うもお忙しいところ,ありがとうございました。
性期の機能整備をするにしても,何か目玉を持つ
拍手をお願いいたします。
なり,機能ユニットを明確にするというようなこ
これでシンポジウムを終了させていただきま
す。ありがとうございました。
とが必要ではないかと思います。
それから,機能分化と連携はセットで考えるべ
118
118(118)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
薬事管理研究会・講演
病院薬剤師と薬剤経済分析
日本大学薬学部教授
白
神
誠
平成15年7月・東京
1. 薬剤経済分析の必要性と病院薬剤師
のかかわり
常識ということで,お金のことに触れるのはタ
ブーみたいなところがありました。それが今でも
やはり先生方の中にあって,そういう費用対効果
ご紹介をいただきました,日本大学の白神と申
のお話をするとなかなかわかるけれどもという,
します。どうぞよろしくお願いいたします。きょ
ちょっと抵抗があるというような話をよく聞きま
うはお招きをいただきましてありがとうございま
す。
す。私はこういう機会があると喜んでうかがいま
実は私,厚生省におりましたときに薬価なども
して,といいますのは,1人でも多くの薬剤師さ
やりましたものですから,薬剤経済学に興味を持
んに薬剤経済,あるいは薬剤経済学というものを
ちましたのは,むしろそういう新薬の薬価を決め
ぜひご理解いただきたいという気持ちが強いから
るのに薬剤経済分析というものが使えないかとい
です。私は今,ご紹介いただきましたけれども,
うことからだったのですが,そのなかでいろいろ
3年前に薬学部にきましたけれども,本当はこの
本を読んでおりましたら,アメリカにバスキン先
薬剤経済というのは薬剤師さんにとって重要であ
生という方がおられて,その先生がお書きになっ
るはずなのに,薬学部の中で正規の講義としてこ
た本に出会ったわけですけれども,実はその方は
ういうものが講義されているというところが1つ
ファームDなんですね。そのお話を読むと,当然
もないわけであります。お恥ずかしい話ですけれ
のことのように薬剤師が薬剤経済学の知識を持っ
ども,私どもの大学でも正規な形としてはないわ
ていなければいけないとうスタンスでお書きに
けであります。実は,薬剤師の国家試験にも,薬
なっていて,すごくそれに感銘を受けて,そのあ
剤経済という言葉が分野としてあるのです。とこ
と縁があって大学に来たときに,これはぜひこの
ろが,そこの中身を見てみますと,医療費がどう
薬剤経済のほうを薬学部に取り込んでみたい,取
だとか,それから薬剤比率がどうだとか,そうい
り組んでみたいということで今,その研究を続け
うことに対して薬剤経済という言葉が使われてい
ているというところであります。
るものですから,なかなか正しくご理解いただけ
ということで,きょうは薬剤経済学をさらっと
お話をさせていただいて,それから,本当に実は
ないような感じがしておりました。
それからもう一つ,薬剤師の先生方に対して講
お話をしたかったのはレジュメのほうに書きまし
演などをさせていただくときによくご質問として
た4番めのところで,私自身厚生省の出身ですか
あるのは,いわば命をお金にかえるということに
ら,理論というよりも実践,しかも,臨床成績と
非常に抵抗があるという話を伺います。確かに,
いうのでしょうか,臨床評価,そういう文献をも
私ども大学で薬学とかかわった部分というのは,
とにした分析というよりは,各医療機関でのデー
この間もどこかの新聞の見出しで読みましたけれ
タをもとにした薬剤経済分析というのをぜひやり
ども,命は地球よりも重いとか,あるいは赤ひげ
たいと思っておりまして,そのためには病院の先
先生とか,そういうのが1つの医療に携わる者の
生方のご協力をいただかなければなりませんの
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
119(119
119)
で,もしご興味があるということであれば,ぜひ
ご連絡をいただきたいということできょう,喜ん
でうかがったという次第でございます。
ということでスライドを始めさせていただきた
いと思います。
1)薬学会モデル・コアカリキュラム
3年前ぐらいから,私はあちらこちらで薬剤経
済学が薬学,あるいは薬剤師に必要だということ
を話させていただいたり本に書かせていただいた
りしたのですが,そのせいかどうかわかりません
スライド2
けれども,昨年,日本薬学会がいわゆる薬学部の
6年制に向けてなのだろうと思いますけれども,
す。いわゆる医療費だとか,あるいは薬価の話,
薬学教育モデルコアカリキュラムというのを作成
診療報酬の話とかということですけれども,薬剤
し,発表いたしました。それを見たとき,私非常
経済学と呼ばれる部分が下に,5と6という形で
にうれしかったのは,その中にCの薬学専門教育
入ってきております。具体的には,薬物治療の経
と分類される中の18のところに,薬学と社会とい
済評価手法を概説できる。あるいは,代表的な症
う分野がありまして,その2番めに,この薬剤経
例をもとに薬物治療を経済的な観点から解析でき
済というものが取り上げられているんですね。先
る。知識・技能ということになりますので,自ら
ほど申し上げましたように,ほとんどの薬学部で
分析ができる,解析ができるということをコアカ
教えてもいない科目がコアカリキュラムとして,
リキュラムとして求めていこうということである
コアカリキュラムということは,つまりある意味
わけです。現在,日本薬学会のほうでは,こういっ
では必修ということですね。どこの薬学部でもや
たコアカリキュラム全体に対して教科書をつくる
るべきこととして取り上げられたということで,
とか,あるいは,とくにこういう薬剤経済のよう
非常にこの分野にかかわるものとしては感激した
になじみのない部分については,全国の薬科大学
次第であります。
の先生を集めて少し勉強会をしよう,どういうふ
うに今後教えていったらいいか勉強会をしような
どという形で,徐々に取り組みが進んでいるとこ
ろであります。
2)薬剤経済学が今後注目されるわけ
それで,なぜ薬剤経済が注目されるのか,ある
いはされなければいけないのかということは,お
そらく薬剤経済学の講義をやるとしても一番最初
に触れなければいけないことだと思います。ご承
知のことですけれども,現在は,わが国は世界に
類のない国民皆保険でありますけれども,その支
スライド1
払い制度というのは原則出来高払い制度です。患
中身としては,到達目標という書き方をされる
者さんはといえば30%という負担ですけれども,
のですが,6点挙げてありまして,実はさっき
そういう低い自己負担率と,それから,仮にその
ちょっと薬剤経済という言葉が混乱しているよと
額が,率ですからどんどん金額は多くなりますけ
いうふうに申し上げたのは,まさしくここに表れ
れども,ある一定金額を超えてしまうと高額医療
ているのですが,上の4つはそういう部分なので
費制度で打ち止めという制度下にあるわけです。
120
120(120)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
も,それが拡大し,それから,自己負担が増大す
る。それから,特定療養費という形ですけれども,
混合診療が拡大してくる。混合診療が拡大すると
いうことは,患者さんがポケットから出すお金が
増えるということになります。そして,これは非
常に画期的だと私は思っておりますけれども,保
険者が医療機関と個別契約をするということが今
後可能になるわけですね。しかも,話し合いによっ
ては,1点10点という世界を1点9円とか1点8
円とかにしてもかまわない。そういうふうなこと
スライド3
が可能になってきました。こうなってきますと,
保険者,これは健康保険組合などのことですけれ
薬というものだけを取り上げても,今までのよう
ども,そういった保険者も,もちろん中の審査と
によく効くもの,安全なものを選べば医療関係者
いうことを支払基金のほうに委託してやりますけ
として任務を果たしたという世界から,やはり価
れども,基本的には言われるままに医療費を支払
格というものを考えて選ばなければいけない。そ
う。そういう仕組みにあるわけです。
ういった時代に入りつつある。いや,もう入って
この3つの仕組みというのは,どう考えても医
きているということではないかと思います。それ
療費を節約しようというインセンティブが現場に
は,まさに薬剤経済学というもののニーズへつな
は働かない仕組みなんですね。保険者にしてみれ
がるというふうに考えるわけです。
ば,支払額を減らしたいという気持ちはあります
から,当然医療費を抑えたいというふうな気持ち
はあるはずなのですが,具体的にはそういった手
段を持たない。そういう状況にあります。
スライド5
具体的に例を挙げますと,これは先生方にはも
うご承知の話ですけれども,1つは国立病院を中
心に,いわゆる DRG に基づく定額払い方式の施行
スライド4
が続いております。当初は中医協などの議論をみ
ところが,医療費が増加する。あるいは,景気
ていますと,医師会もかなり抵抗していましたけ
が後退する。しかも少子高齢化ということで,保
れども,最近の議論をみていると,そろそろそう
険の原則である保険料を払う人がたくさんいて支
いったものが実際の診療,あるいは実際の支払い
払額が少ないという原則が崩れる,あるいは崩れ
の中に取り入れられるのかもしれないなというふ
つつある状況にあるわけです。そうなってきます
うな感想を持っております。それから,今年の4
と,やはり医療保険を預かる国としてもいろいろ
月から6月までの間でしょうか,3カ月の間に実
工夫をしなければいけないということで出てきて
施されたのが特定機能病院,これは全国で82あり
いるのが,1つは定額払い,薬剤費の包括化とい
ますけれども,その入院診療報酬の1日定額化と
ういい方のほうが正しいかもしれませんけれど
いうものがすでに入ってきているわけです。自己
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
121(121
121)
スライド7
はないかというふうに考えるわけです。さらにい
スライド6
えば,そういうふうに医療現場で薬剤師さんが薬
負担の増大はということでは,これは今年の健康
剤経済分析のデータというものを必要とする場面
保険法の改正で,今まで本人8割だったものが一
になってくれば,それをサポートする立場にある
律7割になるというような形で,自己負担の増大
薬剤師も,やはりその薬剤経済分析というものを
ということもみられているわけであります。
知識として知っていなければいけないのではない
3)薬剤師に薬剤経済学の知識が必要なわけ
かというふうに思うわけであります。
そういった背景の中で,次にどうして薬剤師に
薬剤経済学の知識が必要なのだろうかということ
をお話しなければいけないわけでありますけれど
も,薬剤経済学にとって重要なことというのは,
実は意思決定者という方の位置づけなんですね。
意思決定者,英語でいいますとデシジョンメー
カーといいますけれども,こういった意思決定者
に対して判断材料を提供するというのが,実は薬
剤経済分析のねらいであります。その意思決定者
というのは,いろいろな面でいろいろな方がなり
うるのですが,その意思決定者に対して判断材料
スライド8
となる薬剤経済分析を提供すべき立場に,実は多
とくに,きょうはこういうお話ですから,病院
くの薬剤師さんがいるのではないかというふうに
の薬剤師さんというものを考えて,どんな場合に
感じるからであります。
具体的に薬剤経済学の知識が必要になるだろうか
例えば,医療機関の責任者。これは病院長だっ
ということですけれども,これは,先ほど申し上
たり,あるいは経営者だったりしますけれども,
げたバスキン先生の書かれた本の中にも実例がい
その方が意思決定者だとすれば,その意思決定者
くつも挙がってくるのですが,まず第一に,現在
である医療機関の責任者に対して,勤務薬剤師と
でも病院の中の処方集,いくつも同じ薬効群,あ
して薬剤経済分析を提示すべき立場にあります。
るいは同じ薬理作用を持つ薬があるなかでどの薬
それから,患者さん。これも意思決定者になりう
を選ぶかということは,病院の薬剤師さんの重要
るわけですけれども,つまり,どの薬を選ぶかと
な仕事だと思います。今まではどちらかというと
いう意味ですけれども,その患者さんに対しても,
EBM というか,有効性と安全性だけを考えればよ
その患者さんと窓口で接する薬剤師さんというの
かったと思いますけれども,今後はそこに費用と
は,やはり判断材料を提供すべき立場にあるので
いうものも考えなければいけなくなってくるので
122
122(122)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
せんけれども,そういう観点からいわれています。
はないかということであります。
それから,こういう定額制が増えてきますと,
だから,かみ合うわけがないんですね。かみ合う
クリニカルパスというものが多く病院でつくられ
わけがないことを一生懸命理解していただこうと
つつあるようであります。クリニカルパスという
しても,それはできません。もし,もう少し早く
と,日本ではどうも EBM,いわゆる有効性と安全
こういう本当に例えば病棟業務なりをやることで
性から最適の治療を選ぶというようなイメージが
医療経営上どういうメリットがあるかということ
強いのですが,もともとは費用のことを考えて,
が出せていたら,もうちょっと違う議論ができた
費用のことを念頭に置いて考え出された考え方で
のではないかというふうにも思うわけです。そう
すよね。結局,院内での治療というものを最も効
いう意味で,こういった薬剤師さんの業務につい
率的にすべての医療関係者が実践するという意味
て費用対効果の面から評価をするということがで
でつくられたのがパスだと思いますけれども,そ
きれば,今申し上げたように既得権として今おや
のパスの作成にいわゆる費用対効果を考えるとい
りになっている業務を守ることにも使えるし,ま
うことは,少なくとも薬剤治療の部分については
た新たに業務を拡大する,こういうことは薬剤師
薬剤師に求められることになるのではないかとい
が関与したほうが医療経営上いいんだということ
うことであります。
も主張できるのではないかというふうに思いま
それから,3番めに,業務に薬剤師が関与する
す。
ということ,例えば今,病棟業務をおやりいただ
これは,さっき申し上げましたけれども,バス
いていると思いますけれども,これも今は出来高
キン先生の本の中にも例が挙がっているのです
払いだからあまり抵抗なく取り組んでおられると
が,実は今年の1月に別の業務でロンドンに行く
思いますけれども,もしこれが定額になったとき
用事がありまして,そこでロンドンの王立病院,
に,本当に薬剤師さんを1人雇って病棟業務を
ロンドンロイヤルホスピタルに行きまして,薬剤
やったほうが,病院長にとって得か損かというこ
師の責任者の方とお会いする機会があったのです
とが,おそらくこれから話題になってくると思い
が,話の流れのなかで出てきたことがまさにここ
ます。そのときに,結局それを判断するというの
にあるようなことでありました。1つには,ここ
は経営の問題ですから,お金の問題です。となれ
の病院では医者には処方権がないというんです
ば,病棟業務なら病棟業務をやるということが,
ね。医者は診断をして,コンピュータの画面の中
結果的に費用の節約とかあるいは効果を生み出す
でクリックする。そうすると次から次に出てきて,
ということがいえなければ,非常に苦しい立場に
最終的にある1つの処方にたどり着くと。その処
なるのではないかというふうな気もするわけです
方を決めているのは薬剤師だというんですね。医
ね。
師はいくら自分でもっとよいものがあると思って
これはちょっとはずれているかもしれません
も,勝手に変えることができないというようなこ
が,例えば病院薬剤師さんの員数規定がありまし
とをいっていました。まさにパスなわけですけれ
たね。医療法の改正で。そのときに,日本病院薬
ども,そのパスをつくるときの考え方として,や
剤師会は,病棟業務なり何なりをやることが非常
はり有効性と安全性と費用だといういい方をして
に重要である,こういうことがあることで,こう
おりました。
いういろいろな面があるということをいろいろた
新薬が出たときどういうことになるのかという
くさん例を挙げて主張されましたけれども,結局,
話も伺ったのですが,結局,病院側がそういう薬
おおかたの了解というか理解を得ることができな
剤経済分析をやっているということを製薬企業側
かったわけであります。それはどうしてかという
もわかりますので,必然的に新薬の価格が病院側
と,必要がないといっている側はあくまでも経営
で予測ができるし,日本と違いまして,製薬企業
の観点からものをいっているわけですね。それに
が自由に価格をつけることができるわけですけれ
対して病院薬剤師会側がいっていることは,ある
ども,その価格が予想できるし,製薬企業側もそ
意味では情緒的というとちょっと失礼かもしれま
れとはずれたような価格をつけてくることができ
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
123(123
123)
ないというようなことをいっていました。
患者さんの命を1年延ばすのにいくらお金を追加
そういったパスに関係した話以外に,そこの病
すればよいか。そういったことを費用対効果とい
院では薬剤師さんが病院の中にクリニックという
うふうにとりあえずは考えておいていただければ
のを持っているらしいんですね。そこは何かとい
というふうに思います。非常に短い定義ですけれ
うと,例えば TDM でも何でも,あるいはそういう
ども,見ていただいてもわかりますように,キー
処方上の問題に関して,医師が患者さんにそこへ
ワードになるものとしては,医薬品ということと
行けと,そこへ行って,薬剤師の指導を受けろと
費用と効果と,それから対照治療法ということに
いうふうにするのだそうです。そのクリニックの
なります。もちろん,今,薬剤経済といいました
費用は,向こうは包括ですから,病院にポンと渡
けれども,これより上の概念としては医療経済と
される費用の中から支払うんですね。だから,そ
いうものがあるわけですね。ですから,医療経済
ういうものをやらなければ費用としては浮くんで
ということであったとしても,実質的に定義とし
すけれども,病院側の判断として,そういう形で
ては変わらない。ただ,医薬品のというところが
薬剤師がかかわったほうが結果としては費用を節
変わっていくということで考えていただいてよろ
約できるという判断がされているというようなこ
しいと思います。
ともお聞きしました。そういった意味で,費用対
効果を念頭に置いた業務というものが病院に,あ
るいは病院の薬剤師さんにこれから必要になるの
ではないかというふうに考えている次第でありま
す。
2.
薬剤経済学とは
次に,それでは薬剤経済学とは何かということ
をちょっとご紹介しようと思います。定義を持っ
てくればいいのですが,一番世界で使われている
ガイドラインとして,カナダの半公的なガイドラ
スライド10
インがあります。そこの中の定義としては,医薬
その薬剤経済分析の目的ですけれども,先ほど
品の費用と効果を適切な対照治療法と比較する研
ちょっと触れましたが,基本的にはこういうこと
究だというふうにいっております。費用対効果と
です。つまり,まず意思決定者がいる。デシジョ
は何かというと,多少違うかもしれませんけれど
ンメーカーがいる。しかも,その人は迷っている。
も,非常にわかりやすい形でいえば,患者さん1
何に迷っているかというと,新しい薬を採用する
人治療するのにいくらかかるかとか,あるいは,
かしないか。簡単にいえばそれだけですね。そう
いうふうな迷っている意思決定者に対して,その
判断材料を提供するというのが薬剤経済分柝の目
的ということになります。迷っている中身として,
例えば新しい薬は確かに効果が高い。だけれども,
値段も高いと。果たしてそれを採用すべきなのだ
ろうか。例えばそういうことですね。薬剤経済分
析は,その判断材料の提供だということは,実は
結論を押し付けるのではないということでありま
す。例えば,いい方としては,ある前提で分析を
したらこうなりましたと。あと,判断はまさに意
思決定者がおやりくださいという,そういうスタ
スライド9
124
124(124)
ンスが大切だということです。残念ながら,薬剤
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
経済分析ばかりをやっている方はだんだん,自分
が一番みたいになるわけです。本当は判断材料の
提供のはずだったのに,こうなんだと。これ以外
のものはないんだというふうないい方をしがちで
すが,実はそうではないのだということをぜひ覚
えておいていただきたいと思います。
スライド12
ですね。治療だけではないし,薬だけでもないと
いうことになります。
それから,もうちょっと狭くなってくると,医
療保険担当者。こういうことになりますと,新し
い治療法を保険に採用することは,これは皆さん
からお金を集めた資金を配分するわけですから,
スライド11
それを効率的に使うとどうなるか。どのように使
うのがよいのかということを考える。それが迷っ
1)意思決定者
ている中身ということになります。もっと狭く
今,意思決定者といいましたけれども,実は意
なってきますと,1つの医療機関の責任者も意思
思決定者にはいろいろな方がいます。1つは天の
決定者でありまして,それは新しい治療法を採用
声というか,まさに神でしょうか。これは,非常
することは医療経営にとって得なのかどうか。そ
にある意味では,経済学の観点からいえばこれが
れが迷いということになります。
一番重要です。つまり,すべての人々に満足を与
それから,医療提供者。これは,お医者さんと
えるには,限りある資金を何にどう配分すればい
か薬剤師さんになりますけれども,限られた財源
いのかということになります。だから,この場合
のなかで,今目の前にいる患者さんに最もよい治
にはすべての人々ということですから,例えばあ
療を提供できるのはどれかというのが恐らく一番
る薬で治療するとしても,その人だけではないん
の関心事だと思いますし,そして最後ですけれど
ですね。世の中にいる人は。例えば,その家族の
も,患者さんも意思決定者でありまして,支払え
人,あるいは友達,あるいはライバルの人とか,
るお金で得られる最もよい治療法はどれか。支払
いろいろな人がいるわけです。そういう人たちの
えるお金ということがこの場合はポイントになり
満足というものを全部満たせる。そういったもの
ますけれども,そういったことを考える。こういっ
が一番いい方法,一番いい政策ということになる
たさまざまな意思決定者に対して,薬剤経済分析
のですが,それを見つけるにはどうすればいいか。
を判断材料として提供していこうということであ
それを考える天の声ということになります。これ
ります。
はちょっと遊びみたいになってしまうものですか
そのためには,重要なことですけれども,分析
ら,もう少し現実的な世界に戻ってくると,1つ
結果が意思決定者に受け入れられなければ意味が
は保健政策の責任者です。これは,保健の健の字
ないわけですね。判断材料ですから,使っていた
は健康のほうですね。ヘルスのほうです。そうす
だかなければいけません。使っていただくために
ると,これはある健康状態を達成するためには,
は受け入れられなければいけないわけですけれど
限りある資金をどういうふうに配分すればいい
も,つまり,納得していただかなければいけませ
か。だから,これは何も治療法だけではないわけ
ん。そのためには,まず重要なことは,意思決定
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
125(125
125)
いう気持ちが強くて,そういうこともあって,で
きれば現場の病院の薬剤師さんと協力,共同した
研究をやりたいなという気持ちがあるのですが,
どう違うかというと,理論を前提として進めてい
くものは一般化できるんですね。つまり,ある意
味ではどこでも通用する。例えば,実際の医療を
反映させますと,その病院での治療法,その病院
での費用ということを前提にしますから一般化で
きないのです。その病院にしか通用しない。そう
スライド13
いう意味でいうと,研究者としては一般化するこ
者の立場によって関心のある費用や効果が違うと
とが求められますので,多くの研究というのはこ
いうことを考えなければならないことがおわかり
の理論を重視した形の,理論というかきちっとし
いただけると思います。例えば,医療保険の担当
た臨床試験などのデータをもとにした分析という
者にしてみれば,医療保険から出るお金だけに関
のが論文としては出てくるわけです。でも,薬剤
心があるのであって,患者さんの払う費用という
経済分析が何のためにあるのかというところに
のは関係がないわけです。患者さんが払う交通費,
戻っていくと,それは意思決定者のための判断材
あるいは患者さんが介護に払う費用,そういった
料の提供だということになれば,今,一人ひとり
ことは,医療保険の担当者には関係がないわけで
の薬剤師さんが直接相手をしている意思決定者は
すね。だとすれば,医療保険の担当者に納得して
その病院の責任者であるはずですから,例えば病
いただける分析というのは,さっきキーワードと
院に対してやる場合ですね。その病院のデータを
して費用と効果といいましたけれども,その費用
使ったほうが,きっと納得していただける,受け
の中に介護に払う費用とか患者さんが払う交通費
入れていただけるものになるのではないかという
とか,そういうものを入れて分析したのだとする
ふうに私は考えているわけであります。
と納得していただけないということになります。
それが一点ですね。
それからもう一つ,特に強調したいのは,2つ
めの理論ではなくて実際の医療を反映した分析で
なければいけないということです。数値をいろい
ろいじくります。薬剤経済分析で,その数値で一
番信頼できるのは何かというと,厳密な臨床試験
なんですね。厳密な臨床試験は,ところがこれは
実際の医療ではないわけです。そうすると,いく
ら数値に信頼性があるからといって,そういった
臨床試験の成績をいろいろいじくって,EBM がそ
スライド14
2)モデル化の必要性
れに近いと思いますけれども,いじくって分析結
では,薬剤経済分析,どういうふうな手順で進
果を出してこうなりますよといっても,意思決定
めるかということになるのですが,最初にやるこ
者にとっては,ああ,そうなのということになっ
とはモデルをつくるということです。なぜモデル
てしまうということです。
をつくるかというと,これがさっきいいましたよ
ここのところが,実は薬剤経済への取り組みの
うに,薬剤経済分析のもとになるデータというの
結構大きな分かれ道でありまして,多くの方はこ
は非常に理想的な世界での数字です。でも,分析
の理論のほうを重視するわけですね。つまり,デー
というのは,実際の医療の中で分析をしなければ
タの信頼性ということを重視するわけです。私自
いけません。そうすると,そういった理想的な状
身としては,むしろ実際の医療を反映させたいと
態から現実の医療へシミュレートしなければいけ
126
126(126)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
ないわけです。その手法がモデルをつくるという
シジョン・ノードというふうに呼ばれます。ノー
ことであります。そのモデルをつくるということ
ドというのはこういう節のことですね。なぜデシ
は,基本的には実際の医療の流れに沿って,実際
ジョン・ノードというかというと,ここは選ぶ部
の治療の流れに沿って,どういうふうに患者さん
分ですね。だから,治療法Aをやるか治療法Bを
の状態が変わっていくかということを図にするこ
やるかを選ぶところですので,四角で書かれてい
とであります。短期的には,短期疾患に対しては
ます。それに対して枝分かれのところが丸のとこ
よく使われますのが判断樹といわれものです。デ
ろは,これはチャンス・ノードというふうに呼び
シジョンツリーと呼ばれるものです。それから,
ます。これは,上にいくか下にいくかを決めるこ
長期疾患になりますと,マルコフモデルというも
とができないんですね。つまり,治療法Aで治療
のがよく使われます。
した場合,治る人治らない人というのは,これは
こちらで自由に決めることはできませんね。です
から,そういう部分というのは丸で表すわけです。
したがって,上に完治する人がどれぐらいの割合,
それから,完治しない人がどれぐらいの割合とい
うのは,何らかのデータをもとにもってこなけれ
ばいけないということになります。ついでですか
ら,最後の三角の部分ですけれども,これはター
ミナル・ノードといいまして,これ以上先がない。
そういう意味であります。
こういった判断樹をつくりまして,それぞれ
チャンス・ノードのところについては確率を求め
スライド15
ます。先ほど申し上げましたように,いろいろな
データをもとに確率を求めます。場合によっては,
3)判断樹
それは臨床試験の成績を踏まえたり,あるいは疫
これが判断樹の例です。非常に単純化したもの
学調査の結果を踏まえたりするわけです。ただし,
ですけれども,絵としては左から右に見ていただ
それは仮に,くどいようですけれども,ダブルブ
くことになります。左,ある患者さん,ある患者
ラインド試験の結果をもってきたとしても,例え
群,ある疾患群と考えていただいていいのですが,
ばa%というのは実際の医療で正しいという保証
そこに治療法Aというものをやったときと治療法
はないわけですね。例えば,実際の医療になると
Bというものをやったときを比較してみようとい
患者さんのコンプライアンスの問題が出てくるか
う,例えばそういうモデルだと思ってください。
もしれませんね。ですから,そういうものも踏ま
そうしますと,治療法Aで治療すれば治る方もい
えると,このa%というのはあくまで仮定なので
るでしょうし,それから,治らなかったために治
す。ですから,その仮定に置いたa%ということ
療法を変えるということもあると思います。その
に意思決定者がどれくらい納得するかというのが
結果,やはり治療法を変えたことによって治る人
一番重要だということになります。これは確率で
もいるでしょうし,治療法を変えたことによって
すから,2つに分かれれば,足し算すると必ず1
もやはり効かなかった人も出てくると思います。
になるわけですね。ここだと100%になるようにな
治療法Bについても同じことになるわけです。
るわけです。治療法Cに変更したあとですけれど
こういったそれぞれの枝に対して,確率という
も,治療法Cに変更したあとのところも,ある確
ものを盛り込むということになるのですが,その
率で当然2つに分かれるだろうということです。
前にこの図を説明しておかなければいけませんけ
それぞれの枝の最後までいったときの費用とい
れども,枝分かれのところに四角とか丸が書かれ
うのを別途求めて,その費用に確率をかけていく
ています。下のところにありますように四角はデ
と,その枝の費用というのが出てくるわけですね。
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
127(127
127)
例えば,費用B円と書いてあるところがあります
例えば1年とか半年とか1カ月の間に,それぞれ
けれども,ここは,そこへたどる率というのは治
ある状態から次の状態にいくのにどれぐらいの確
療Aできた場合に,まず100−a%の人がこの下側
率で移るかということを臨床試験なりで調べてお
にきて,しかもそこから完治する人はb%だと
くんですね。例えば,軽度痴呆のところで矢印が
思っていただければ,その100−a%にb%をかけ
戻っているというのは,例えば一月なら一月の間
た人だけが費用B円のところの枝にいくというこ
を見たときに軽度痴呆のままでいる割合が61.4%
とになります。ですから,そうすれば確率にB円
だと,そのように見ていただければいいと思いま
をかけてやれば,いわゆる期待費用というものが
す。ですから,軽度から中等度痴呆へいくのが
出てきます。そういったものを枝の分だけ全部足
32.2%。逆向きがありますから,これは薬によっ
していって,治療法Aと分かれているところまで
て治るという人が4.3%。薬によってかどうかわか
足し算をすると,治療法Aでの1人の患者さんを
りませけれども,そういったふうに表されます。
治すのにかかる費用というのが出てくるわけです
痴呆の場合,軽度,中等度,高度と順番にたどっ
ね。
て亡くなられるというわけではなくて,場合に
よっては軽度痴呆の方がいきなり亡くなられるこ
とがあるので,そういった矢印も用意しておきま
す。そうしておいて,それぞれの状態にかかる費
用,例えば軽度痴呆に必要ないろいろな費用とい
うものをまた別途求めておけば,一月の間にかか
る費用というのは計算することができるわけです
ね。それを何回も何回も繰り返すというのがこの
マルコフモデルということになります。
スライド16 池田ら(医療と社会,10,27-37(2000)
)
4)マルコフモデル
もう1つはマルコフモデルというものでありま
して,これは慶応の池田先生の論文の中にあるも
のを拝借したのですが,これはアルツハイマーの
薬の分析です。日本でやられたものですけれども,
アリセプトをやったものです。マルコフモデルで
は,長期の疾患の場合には,先ほどのように左か
スライド17
ら右へというふうに単純にいくのではなくて,い
もう一度繰り返しておきますと,薬剤経済分析
ろいろな状態からいろいろな状態に変わっていき
モデルができますと,そのモデルの中で事象の起
ます。だから,それをデシジョンツリーで書こう
こる頻度というものを求めておきます。これは,
と思えば書けないことはないのですが,すごく枝
臨床試験成績を使うこともありますし,あるいは
分かれが多くなったり長くなったりして非常にわ
疫学調査の結果を利用するということもありま
かりにくいために,こういったものを工夫してい
す。あるいは,1つの病院の中での分析をやろう
ます。これは,例えば長期疾患の場合に,状態を
ということになれば,カルテをもとにレトロスペ
いくつか想定するわけですね。ここでは軽度痴呆
クティブに調査することも可能だと思います。今
の状態,それから中等度痴呆の状態,高度痴呆の
度は別途費用を求めます。費用についても実測値,
状態,それから死亡の状態という4つの状態に非
実際にレセプトで費用を出すということもできる
常に単純化して置いていますけれども,一定期間,
でしょうし,それから理論値,理論値というのは,
128
128(128)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
に皆さんいるとしますね。実際はそうではないか
もしれませんが,仮にそういうふうにします。そ
うすると,最初にサイクルにかかる費用は1万人
かける今,Aの状態は10万円ですから,掛け算を
すれば10億円というのが出てくるわけです。1サ
イクル回りますと,状態Aの人のうち10%はBに
いくわけです。だから,Bの人が1,000人になって
スライド18
いますね。それから,Aの人のうち5%がCにい
きますから,Cの人が500人になりますね。だから,
例えばこういう状態だとこういう治療が行われる
Aの状態にとどまる人は85%ですから8,500人と
はずだ。例えば,入院するのが平均何日だとか外
いうことです。それぞれ8,500人に10万円,1,000
来で診察を受けるのが何回だとか,そういったも
人の人は20万,500人の人が50万かかるということ
のを専門家の意見なり実際にあるものを踏まえて
で費用を計算すると,このサイクルに必要な費用
想定をして,別途費用を計算する。診療報酬点数
は13億円ということになります。今度は8,500人の
表とか何かで計算をすると。そういう形で費用を
うち,やはり10%が次のサイクルで状態Bに移り,
決めていく。そういうことが行われています。
8,500人のうちの5%がCに移り,ですけれども,
これは判断樹の場合ですけれども,先ほど申し
今度は逆にBからAに戻る人がBの人の1%戻り
上げましたように治療法Aの患者さん1人あたり
ますから,10人戻るわけですね。ところが,今度
の平均期待費用というのを出したいわけですか
Bの人もCにいく人が10%ですからということ
ら,それをやると,各枝になる確率にその枝に要
で,1回回すと次のサイクルにはこういう人数に
する費用というのをかけますと期待費用というの
変わっていく。それで費用はこうなっていく。こ
が出てきますので,これを全部足し合わせれば,
れを何回もやっていって,例えば最終的に全員状
その枝の費用になるということです。
態Cになるまでやるとか,あるいは何年間みると
それから,マルコフモデルの場合は,これは簡
かそういうことをやって,トータルの費用という
単に今,A,B,Cという状態があるとしておき
のを求めます。そういう形で費用の計算をすると
ましたけれども,AからBにいくのが10%,Bか
いう形がマルコフモデルのやり方です。
らCにいくのも10%,AからCにいくのが5%,
BからAに戻るのが1%。それから,Aの状態に
3.
薬剤経済分析の手法
要する費用が10万円,Bにかかる費用が20万円,
そういったモデルをつくったあと,どういうふ
Cにかかる費用が50万円と仮に置いたとします
うに薬剤経済分析の分析をするかということです
と,スタート1万人というのを例えば置いておく
が,これはおもに4つの方法が知られています。
わけです。その1万人の人が,最初は当然状態A
でも,要はどういうことかというと,一番下のと
ころに書きましたけれども,その効果ですね。あ
るいはアウトカムといいますけれども,それを何
で表すかで分析法の名前がついていると思ってい
ただいていいと思います。最初にキーワードで費
用と効果といいましたけれども,効果を一体何で
表すかということで分析法が分類されるというふ
うにみたほうがいいと思います。分析法が先にあ
るのではなくて,効果を何で表したかで決まって
くるとみていただいていいと思います。ただし,
このうち費用最小化分析,CMA というものは,実
スライド19
はこれは効果に差がないというときに使われるや
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
129(129
129)
スライド22
スライド20
とになっています。とくに,社会の立場,さっき
でいうと天の声というのに近いのですが,社会の
立場というもので分析をすると,プライマリエン
ドポイントでないとまずいわけですね。例えば,
普通臨床評価に使われるサロゲートエンドポイン
ト,血圧がある値に下がったとか,そういう有効
率という形を使ってしまいますと,その時点での
スライド21
分析はできるのですが,その患者さんはそのあと
り方です。ですから,効果を何で表すかというこ
また費用を生じるわけですね。だから,そのあと
とと全然関係ないのですが,費用のみを比較する
の予後というものを考えないと,社会全体の費用
という場合に行われます。例えば2つの薬があっ
対効果という意味では十分ではないわけです。で
て,Aという薬のほうが副作用を減らせた。その
すから,どうしても行き着いたところを問題にし
ようなときに,よくこういう分析法が使われます。
ないといけないということになります。
費用が節約できるというふうな意味にもなるかも
しれません。
ただ,これも先ほど申し上げましたように,意
思決定者の立場によって何を効果とするかという
今,繰り返しになりますけれども,効果を何で
のは変わってくるわけですね。例えば病院の場合,
表す,効果が違う場合として3つの場合があるの
病院の経営者にとってみれば,その病院から卒業
ですが,先に申し上げておきますと,効果をいわ
していただけるところを効果としてかまわないわ
ゆる臨床効果で表す。これが費用効果分析といわ
けですよね。ですから,そうなると,極端なこと
れるものです。効果を効用値というもので表す。
あとでご説明しますけれども,それは費用効用分
析,CUA というふうにいいます。それから,効果
を金額で表す。これは費用便益分析というふうに
いいます。
1)費用効果分析
まず,その費用効果分析ですけれども,そのア
ウトカム,効果を臨床効果で表すわけですけれど
も,臨床効果というのは一体何かということにな
ると,普通はプライマリエンドポイントで表すこ
130
130(130)
スライド23
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
をいえば,手術が成功して退院できたと。そのあ
これはちょっと難しいのですが,費用効用分析,
と交通事故で死のうが何しようが,病院の経営と
cost-utility analysis というのがあります。こ
してはあまり関係がないわけですね。ですから,
れは,結果を効用値として表すものですけれども,
そういう意味でいうと,病院としての治療目的,
効用値というのは何かというと,ユーティリティ
治療効果というものをこの場合のアウトカムとし
というふうに英語ではいいますけれども,患者さ
てもかまわないということになりますので,例え
んの QOL を測定します。QOL というのは患者さん
ば検査値の変化であるとか,あるいはサロゲート
のそのときの健康状態というふうに考えればいい
エンドポイント,そういうことでもかまわないと
と思いますから,それ自体は数値化されないわけ
いうことになります。あるいは,慢性疾患ですと,
ですよね。QOL を測定するときはいろいろなディ
がん
ある疾患に落ち着いている期間,癌でしたら発症
メンジョン,心理的なもの,肉体的なこととかい
しない期間というものを置いても,治療目的とし
ろいろなことが組み合わせとして出てきますか
てはそれでかまわないということになると思いま
ら,それ自体は数値化できないのですが,それを
す。
ただ,この費用効果分析は,効果自体は関心の
完全な健康状態を1,それから例えばですけれど
ある効果が1つでないと使えないというのはおわ
今の患者さんの健康状態が一体今,1と0の間の
かりいただけると思います。血圧が下がることと
どこにあたるかというのを別に決めておいて,そ
血糖値が下がること,同時には比較ができないと
の数字をもとに表したのが効用値ですね。
いうことになります。それから,対照治療法と効
も死亡を0として,そのなかのどこにあたるか。
ですから,測定の仕方としては,臨床試験で QOL
果が共通でないとはかれない。これもそうですね。
を測定して,その QOL を測定すると,一人ひとり
だから,例えば高脂血症薬と高血圧の薬を比べて,
の患者さんの健康状態というのが浮かび上がりま
それぞれの有効率を比較しても全然意味がないわ
すよね。それとは別に,その健康状態というのは
けですね。有効率を見て,Aのほうの有効率が高
1と0のどこにあたると思うかというのを,健康
くてBのほうが低いし,費用がどうだから云々と
な人を対象に調査をしておくんですね。多数の人
いっても,数字は出てきますけれども意味がない
で。それである健康状態は0.3だとかある健康状態
わけですね。だけど,それがもし最終的なプライ
は0.2だとかと決めておいて,その数値をもとに
マリエンドポイントということで,例えば死亡率
QOL を測定した臨床試験での患者さんの一人ひと
というところまでたどっていければ,高血圧で治
りの QOL の値をその数値に置きかえる,効用値に
療するということと高脂血症で治療するというこ
置きかえる。そういうやり方をします。その効用
とが1つの共通のアウトカムで表せるということ
値,今,健康な方に聞くといいましたけれども,
になりますから,分析が可能になるということに
まさに個人,あるいは社会の選好,英語でプレファ
なります。
ランスといいますけれども,そういったものに
2)費用効用分析
よって測定をするということになります。効用値
ということになりますと患者さんの状態ですか
ら,先ほどのように効果ですと,効果の中身が違
うともう比較ができないということになりますけ
れども,効用値ということになると患者さんの健
康状態を表すということになりますから,共通の
数値ということなので,どんなものでも比較がで
きるということになります。
ちょっと今,費用効果分析と費用効用分析とい
うものを2つ出しましたので,分析結果を表す2
つの方法があることを先にご紹介しておこうと思
スライド24
います。1つは単位効果あたりの費用で表すとい
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
131(131
131)
スライド25
スライド26
うやり方ですね。だから,例えば治癒というもの
を効果とする,臨床効果を効果とするのであれば,
ド・オフ法,TTO 法。それから,スタンダード・
1人治すのにいくらかかるか。そういう形で2つ
ギャンブル法。こういったもので効用値を決めま
の治療法を比較する,そういうやり方です。効用
す。
値でもいいのですが,効用値というのは0.いくつ
レイティング・スケール,VAS 法というのは非
とかと表しますから,その効用値で割ってやると
常に簡単ですね。いろいろな健康状態を,たくさ
効用値1に値する費用というのが出てきますの
んの健康な人に想定してもらうわけです。その健
で,効用値1を獲得するのにかかる費用はいくら
康状態を0と1の間のどこにあたると思うかとい
か。そういう形で表すことができます。それが1
うことを大勢の人に聞いていくわけです。それを
番ですね。
平均するなり何なりして,その健康状態の効用値
もう1つは,基本的に従来の治療法との比較と
というのを別に決めておくわけです。これがレイ
いうことになりますから,差で表すというやり方
ティング・スケール法という方法です。ですから,
があります。新しい治療法のほうがよく効いてな
この方法ですと比較的簡単ですから,QOL を測定
おかつ安ければ,誰も迷うことなくそちらを採用
するときに一緒にこれをとってしまうというやり
しますよね。ですから,そういうときは基本的に
方もできます。QOL を測定しておいて,患者さん
はあまり薬剤経済分析は必要ないんですね。普通
に,実際今は自分の健康状態,1から0までのど
は,新しい治療のほうがよく効くけど高い。そう
こにあるかというふうに聞けば,そのまま QOL の
いうことになりますから,この2番の考え方がで
値を効用値に置きかえることも可能ではあるとい
きるわけです。つまり,効果の差が出てきますね。
新しい治療のほうが高いわけですから,効果の差
を出してきて,それを分母にして,費用の差を分
子にもってきて割り算をやります。そうすると,
効果1あげるのにかかる余分な費用というのが出
てくるわけですね。ですから,それを使って表す。
おもにこの2つの方法がとられます。
3)効用値の測定法
ちょっと戻りますけれども,先ほど効用値,別
途測定すると言いましたけれども,おもにこうい
う3つの方法が使われています。1つはレイティ
ング・スケールとか,あるいはビジュアル・アナ
ログ・スケール,VAS とよく呼びますけれども,
VAS というような方法。それから,タイム・トレー
132
132(132)
スライド27
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
スライド28
スライド29
うことになります。
例えば非常に健康状態が悪いとき,もう死んだよ
2つめがタイム・トレード・オフ法ということ
うな状態だとすると,それで10年20年生きるぐら
で,トレード・オフというのは取引という意味で
いなら,1年でも完全な健康状態でいろいろなと
す。時間を取引するという意味ですね。これも健
ころを旅行したりとかしてみたいという人がいて
康な人に,一般の人に聞きます。まず,健康状態
もおかしくないですよね。ですから,非常に健康
Aというのを想定してもらうんですね。これはど
状態が悪いと,Xが短くても取引するということ
んな状態でもいいです。
になりますから,Y分のXが非常に小さな値にな
例えば寝たきりだとか,そういう状態を想像し
る。つまり,0に近づくわけです。一方,健康な
てもらうわけです。それで,その人にあと平均余
状態に近ければ,もうそのままでいっても別にあ
命,例えばY年ですね。Y年生きるとまず想像し
まり問題ない。完全な健康状態をくれるというな
てもらうわけですね。その状態で,あと残りをずっ
ら,それとほぼ同じぐらいの期間でないととても
と生きなければいけない。ところが,ここにもし
取引する気になれないねという話になるから,完
完全な健康状態を差し上げようといったら,何年
全な健康状態に近いとY分のXは1に近くなると
生きればそれと取りかえますかという,それがタ
いうことです。ですから,これは今100にしていま
イム・トレード・オフ法です。だから,この健康
すけれども,0から1の間の効用値というのを出
状態でずっと寿命を全うするぐらいなら,もっと
すことができる。これがタイム・トレード・オフ
完全な体でおもしろおかしく短い時間でいいから
ですね。
生きたいな,そういうふうに思うわけですね。例
もう一つのスタンダード・ギャンブル法。これ
えば,完全な健康状態で2年あと生きられるとし
はギャンブルですから,賭けです。これはもっと
たら,そっちを選びますかというふうに聞いてい
ダイナミックなのですが,やはり健康な人にある
くわけですね。いや,2年ぐらいだったら,やは
健康状態を想定していただくわけです。そこで,
り今の健康状態でもずっと生きたほうがいいよと
2つの選択肢のうちのどちらかを選んでもらいま
いうふうにいうとすると,では3年ではどうです
す。選択肢の2というのは,今の健康状態のまま
か,4年ではどうですかとどんどん聞き出してい
平均余命を生きる。そういうものです。さっきの
く。どこかで迷うところが出てきますね。そこを
タイム・トレード・オフと一緒です。もう1つの
X年として,そしてY分のXというのを出してや
選択肢は,ある画期的な治療法があって,その治
ると,これは1より小さい値になりますから効用
療法を選べば完全な健康状態になれる。ただし,
値ということにするわけです。
それがうまくいく確率はPなんですね。うまくい
これは,想像していただけるといいのですが,
かないとどうなるかというと,即座に死んでしま
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
133(133
133)
う。そういう場合に,選択肢1と選択肢2のどち
らを選びますかと聞くのがスタンダード・ギャン
ブル法です。このPをいろいろ変えていくわけで
すね。例えば,10%で完全な健康状態を得られる
としたら,この治療法に賭けてみますかという聞
き方をするわけですね。そうすると,さっきもい
いましたけれども,健康状態がもう死んだような
状態ということであれば,もしかしたら10%でも
賭けてみるというかもしれません。10%だったら
いやだよということになると,じゃあ20%どうで
すか,30%どうですかと聞いていきます。
スライド31
健康状態が,完全な健康状態に近ければこんな
ばかな賭けをやる人はいないですから,Pが1に
を QALY というものに換算をしてしまうというこ
近くないとやらないということになるし,死んだ
とです。例えばスライド31のようになるのですが,
も同然という状態だったら,わずかな確率でも賭
効用値をいちいち測定をしてこういうふうに下
けてみようかということになるからPは小さい値
がっていきますよね。ある薬で。そうしますと,
ということで,効用値は0に近くなるということ
この QALY はどうなるかというと,この面積になり
です。
ますね。年数と効用値をかければいいわけですか
ら,面積になるわけです。新しい薬だと,右側で
すけれども,途中から QOL の効用値の下がり方が
小さくなります。そうすると,最終的には亡くなっ
てしまうのですが,面積は増えることになります
ね。ですから,その差の部分がさっきいった増分
の効果ということになります。この場合は,増分
の QALY ということになります。この増分の QALY
で増分の費用を割ってやれば,1QALY を増やすた
めにいくらお金がいるかということが出てくると
いうことになります。
スライド30
ですから,こういうことをほかに求めておいて,
4.
費用便益分析
今,この健康状態Aといっているのは QOL で表さ
もう一つは,便益法。つまり,効果をお金に換
れる健康状態だと思えばいいわけですから,QOL
算するということです。これはどういうメリット
で表される健康状態のあらゆるものについて全部
があるかというと,費用のほうはもともとお金で
効用値をそうやって用意しておいて,それでこの
すよね。それに対して,効果のほうもお金に換算
効用値を使うということになります。
しますから,意思決定者にとっては非常にわかり
実際には効用分析,こういうやり方をします。
やすいわけです。例えば,100円かけて150円戻る
質調整生存年といういい方をします。つまり,こ
よ。あるいは,100円かけて110円戻るよ。そうい
れは完全な健康な状態で生きる1年を1QALY と
う形で表されるわけですから,それを取り入れよ
いうふうにするんですね。そうすると,例えば効
うか取り入れまいか,すごくわかりやすい。そう
用値0.3で半年生きるということは,0.3かける0.5
いうメリットがあります。ただ,問題なのは,そ
だから0.15QALY,つまり0.15年完全な健康状態で
の効果をお金に換算するところが問題なのです。
生きたのと同じことになるということになるわけ
具体的には2つぐらいの方法があって,1つは人
です。こういうふうにしておいて,その健康状態
的資源法という方法です。これはどういうのかと
134
134(134)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
いうと,例えばその人が健康である,あるいは健
康を損なうとすると働けなくなる。そういう働け
なくなった期間を賃金で置きかえるという形です
ね。それで効果というものをお金に換算しようと
いう方法ですね。もう1つは支払意思法あるいは
受取意思法と呼ばれるもので,WTP とか WTA とい
いますけれども,ある治療法がもたらす便益とい
うものを一般の人に示して,その便益を入手する
ために最大いくら払いますかという形で便益とい
うものをお金に換算するという方法です。
スライド33
分の病院のデータをもとに分析をするということ
が最も説得力があるのではないかというふうに考
えるわけです。その病院での成績ということにな
ると,病院での有効率とかそういったものを使う。
確かに文献的には20%効くといっているけれど
も,うちの病院の感覚ではそんなに効いていない
よね,というのはあると思います。
ですから,それをむしろそのデータを使ったほ
スライド32
うが,説得力という意味ではあるのではないかと
5. 病院内のデータを基にした費用効果
分析(共同研究の可能性)
いうふうに思うわけです。そうなると,やはり病
院の薬剤師さんが自分の病院のカルテでそういっ
た有効率などを出してくる。そういうレトロスペ
病院内のデータをもとにしてそういった費用効
クティブなデータ,あるいは費用をレセプトから
果分析をぜひやりたいというのが私の考えであり
持ってくる。そういったことをもとに判断樹をつ
まして,これはさっきから申し上げているところ
くるということがあってもいいのではないかとい
が伏線みたいになっているのですが,結局薬剤経
うふうに思っています。
済分析データというのは,今は製薬企業がつくる
ケースが多いわけですね。でも,そのデータとい
うのは,もしかすると自分の病院にはあてはまら
ないかもしれないというようなことがあります。
例えばどんな場合かというと,薬剤経済分析は何
かの治療法との比較になりますから,その比較を
しているものが自分の病院で使っていなければ,
自分の病院でやっている治療法と違うとすれば,
それを持ってきても病院の中での理解を得るとい
うのはなかなか難しいですね。そういう意味で,
つまり,治療法というものが日本の場合標準化さ
れていないですから,それぞれの病院に治療法と
いうのがあるとすれば,製薬企業がやってくる一
スライド34
1)実際の診療を踏まえた薬剤経済分析の手順
般的な治療法での分析というのは必ずしも使えな
これからが一番のメインのところなのですが,
いかもしれないということです。そうなると,自
では,具体的にどういうふうにやるのかという一
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
135(135
135)
思いますけれども,そこはまさに実際に判断です
から,どういう治療法を選ぶかというのはそのと
き選べることですので,さっきでいえばデシジョ
ン・ノード,四角で書かれた枝分かれですが,そ
れを書き,そして,そのあと一体どういう経過を
たどるかというのを判断樹という形でつくってい
くということになります。ですから,これは判断
樹は実際にものすごく複雑になるかもしれない
し,非常に単純になるかもしれません。そして,
それぞれの枝分かれが発生する確率を過去のデー
スライド35
タから求めることができますよね。例えば,1,000
つの案ですけれども,まず,もしこういうことに
人の患者さんを診たら,Aという治療法でやった
ご関心があればぜひご連絡をいただきたいと思う
ら副作用を発症するのが何%だったのか,そうい
のですが,まず,アウトカムが比較的はっきりし
うのは出せるわけですよね。ですから,そういっ
ている疾患を選ぶ必要があると思います。この場
たものを推測をします。
合のアウトカムというのはプライマリエンドポイ
ントということではなくて,病院での治療目標と
いうふうに考えていただいていいと思います。で
すから,例えば治癒,退院,症状の安定,あるい
は例えば ICU なら ICU から出るとか,そういう要
するにある治療の区切り,そういったもの,目標
としているものをまず選ぶ。そういった疾患を選
ぶということから始まります。そういった疾患に
ついて,長い期間をとってしまいますと費用とか
そういったものに変動がありますので,変動があ
るというのはお金の価値として変わってきてしま
スライド37
うので,ある一定期間をとって,その一定期間の
中にその疾患に対して具体的にどのような治療が
そして,今度はそれぞれの枝について費用を出
行われたかというのを,カルテを見て一つの記録
します。これは,レセプトから出すこともできる
をするわけですね。そういう表をつくることにな
わけですね。例えば,ある薬で治療したら副作用
ります。
が出たので,その薬を中止して別の薬にかえて,
それをもとに,判断樹をつくる。つまり,ある
そうしたら治った。そういった枝についてそれぞ
疾患を選んだ患者さんが入ってくる。それが,治
れ出したものを全部足していけば,その枝のAと
療法としてはAとかBとかCとかいろいろあると
いう治療法の費用というものが出てきますので,
それについて費用効果分析を実施する。これが病
院の中でやっていただきたい,やっていただけな
いものかということであります。
これは,さっきの話からいえば一般化できない
ですから,一般化するためには,むしろ文献調査
をもとにした費用効果分析をやることになるので
すが,それと得られた結果とを比較することで,
その病院としての特長とか,あるいは今後の判断
スライド36
136
136(136)
の材料というものが得られるのではないかという
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
際そういう例があって,その結果が費用が例えば
非常にかかって,それがあったために全体の費用
がかかるとすれば,それはドクターに対してちゃ
んと守ってくれということをいう立派な根拠にな
りますよね。そういう意味で,パスがある場合に
はそのパスにバリアンスを加えて判断樹を作成
し,そして,それぞれの場合の費用を求めて,そ
のパス全体の費用を推計してみたらどうかという
ふうに思っています。
スライド38
今,私どもがやっていますのは,実はパスといっ
ても日本中で同じ疾患でも,かなり病院ごとに違
ふうに思っているわけです。
いますよね。ですから,それぞれでもし同じ疾患
2)クリニカルパスと費用効果
に対するパスについてのそういった費用が出せる
もう一つの方法は,これも今,いくつかの病院
とすると,どういうパスがいいかのかというのは,
と少しずつ進めつつあるのですが,パスがかなり
もしかすると出せるかもしれないなというふうに
つくられていますね。パスがつくられてしまうと,
は思ったりしております。
実は先ほどのようなことはできないんですね。と
いうのは,治療法は1つに決まっていますから,
6.
おわりに
比較するということができません。ところで,例
ということで,お話をさせていただいたのです
えば医療薬学会とかああいうところで発表がある
が,結局私が申し上げたかったのは,薬剤経済分
のをお聞きしていますと,クリニカルパスをつ
析というのはいろいろあるのですが,本来ならば
くったら費用が節約できたとよく発表がありま
一般化されるということが重要なのですが,でき
す。例えば,入院期間が短くなったとか。でも,
たらやはりその趣旨というのは,意思決定者に対
それはよく見てみると,クリニカルパスのうまく
する分析結果,分析データの提示だと,判断材料
いった例なんですね。でも,今患者さんが先にい
の提示だということでありますので,各病院で病
て,その患者さんにクリニカルパスを使おうと
院の薬剤師さんが自分のところのデータを使って
思っても,結果的にはうまくいかない例がたくさ
分析をしていただけないだろうか,分析をぜひし
んあるわけですね。そういうものを全部あわせて
ていただきたい,取り組んでいただきたいという
費用対効果を出して初めて,そのクリニカルパス
趣旨であります。私の研究としては,そういった
が費用節約になったかどうかというのはわかるは
手法を開発をして,それができれば,あとはその
ずですね。ですから,それをやりたいというのが
手法に沿ってそれぞれの病院でのデータをそこに
これです。
入れていただければ,自動的に答えが出てくると
ですから,そのためにはクリニカルパスだけで
いうようなものを何とかできないだろうかという
はなくて,そのバリアンスというのを加えなけれ
ことで進めておりますので,もしご関心のある方
ばいけません。つまり,枝分かれですね。その中
があれば,ぜひご連絡をいただければというふう
には,もしかすると例えばパスで決まっている日
に思います。大体時間になりましたので,どうも
にちにドクターがやらなかったと,そういうよう
ありがとうございました。
なものがあるかもしれないですね。その結果,実
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
137(137
137)
薬事管理研究会・講演
激動する医療提供体制を考える
(株)クラヤ三星堂 CS センター
野
添
満
平成15年7月・東京
(キーワーズ:医療提供体制,医療法改正,診療
医療保険を一本化にすれば,事務の簡素化や人員
の削減が可能になり,分かりやすい医療保険制度
報酬体系)
の創設になる。そして国にとって一番大きなこと
はじめに
は財源に大きくかかわってくることでしょう。経
ただ今,ご紹介していただきましたクラヤ三星
済財政諮問会議や総合規制改革などの中身をみま
堂の野添でございます。現在は医業経営コンサル
すと,財政問題が第一となっています。国民皆保
タントの資格をとり10数年になります。今回,当
険や医療の質を落とさないためには,どうしても
社の MS より東京女子医大第二病院の薬剤部を訪
国としては財政を第一に考えていかなければなり
問するよう要請をうけ,後部でお座りになってい
ません。
る谷古宇先生の部屋を訪問いたしました。いろい
さて,皆さまのところに,分厚い資料が届いて
ろな話をしたことが,先生の気に入られたので
いると思います。これからの時間,前半は昭和23
しょうか。後日になってきょうの講演の依頼を受
年に医療法が制定されたときから,現在までを大
けましたが,そのときはまさかホスピタルショー
雑把に話し,後半に診療報酬体系と医療提供体制
の一環としてのセミナーとは理解しておりません
の話をしたいと思っています。
でした。
今回,このような大きなセミナーで講演をさせ
ていただく機会を与えてくださった谷古宇先生に
は感謝の気持ちで一杯です。
医療法の推移
昭和23年に医療法が制定され,当時はまだ戦後
の時代でありました。したがって医療法の中身は
司会者の先生がおっしゃいましたようにこれか
感染症などの急性期患者が中心であり,病床数や
らの医療提供体制は大きく変化をしていくのでは
施設基準等の整備を目的としたものでした。昭和
ないかと思っています。昨年,診療報酬改定があ
23年から昭和60年の第一次医療法までの37年間,
りましたが,医療保険制度,健康保険法などの改
何の改正もなく時が過ぎ去りましたが,昭和57,
革は以前から話題に上がり,そして消えていって
8年ごろにご存知のように,所沢のF病院の事件
います。現在は,今年の8月末に迫った病床区分
がありました。このころから医療資源の是非が問
が大きな話題となっていますが,来年4月の診療
われ始めてきました。と同時に病床数の整備が終
報酬改定の内容によって病院が今後どのような道
わり,病床数を適正化するために第二次医療圏を
を歩んでいくか大きな問題となってくるでしょ
中心に医療計画が作成され,実質的な病床規制の
う。
時代がやってきました。当時,
「駆け込み増床」と
しかし,国民全体を考えれば一番大きな問題は
いう言葉があらゆる場所でいわれ始め,多くの病
医療保険の一本化でしょう。その仕組みをどのよ
院が増床したり,今後の高齢化を見込んで新たな
うに変えていくのか。変えていった結果,国民に
病院の建設に走った時代でした。しかし,病院の
とってのメリットは何であろうか。厚生労働省は,
予想に反して患者が思うように集まらず,2,3
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
139(139139
)
年後には閉鎖したという話もよく聞いた時代でし
ており,国の財政を圧迫しているのが現状です。
た。
これら右肩上がりに推移する医療費をいかに抑
平成4年には第二次医療法改正が行われまし
え,国民所得に対する割合を低くしていくかが課
た。そして医療はサービスである,といわれ始め
題となっています。このような背景のもと,平成
た時期もこのころではないかと思います。当時,
13年9月には前に述べましたように「医療制度改
私たちの間では,
「医療のサービスとは患者の病気
革試案」
(以後,
「試案」
)が厚生労働省から提出さ
を治すこと」と認識をしていました。しかし,時
れました。基本的方向として急速に進行する少子
代とともに医療のサービスも変化をし,今では医
高齢化,経済状況,医療技術の進歩そして国民の
療の質の向上より保証といったほうが適切かもし
意識の変化をあげ,それを原因としてシステムの
れません。平成7年の厚生白書では,はじめて医
大きな転換が必要と説いています。しかし少子高
療はサービスであると記載されました。また,第
齢化にしても経済状況や医療技術の発達にしても
二次医療法改正では,医療法の中に「薬剤師,看
いまに始まったことではありません。平成9年に
護婦その他の医療の担い手」が記載され,同時に
提出された抜本改革もこれらのことを見越しての
居宅が治療の現場として登場いたしました。いわ
内容であったのですが…。
ゆる在宅医療のことでしょう。このように医療法
そして,いま議論されているこの改革を実現さ
の枠が広がってきた時代です。同時に第二次医療
せていかなければ,国民皆保険やフリーアクセス
法改正では機能分化として特定機能病院や療養型
の部分が崩れ去っていくのではないか。それにも
病床群が制度化されてきました。今年の8月末ま
増して国の財政の破綻が加速度的に進行するとい
でに全病院が一般病床と療養病床の選択が余儀な
う危惧があり,大きな転換をしていかなければな
くされていますが,これも大きな項目での機能分
らないとしています。次の3つがその柱になって
化でしょう。
います。それは,(1)保健医療システムの改革(2)
平成9年の第三次医療法改正では機能分化の明
診療報酬体系の改革(3)医療保険制度の改革であ
確化や連携の促進がいわれてきました。このころ
ります。保健医療システムでは,ご存知のように
になると,少子高齢化や経済の低成長などを背景
今後,国民の中で大きな比重を占めるであろう健
に抜本改革といわれた「厚生省案」や「与党三党
康増進法や医療提供体制のことであり,複雑化し
案」が公表され,モノと技術,急性期と慢性期,
た診療報酬体系の簡素化,医療保険の一本化を目
そして診療報酬の簡素化が抜本改革の柱として登
指し,少子高齢社会に対応する制度の実現を図っ
場した。先生方もご存知のように日本型参照価格
ていこうとしています。
制度もこのときに話題になった時代です。平成13
年9月に「医療制度改革試案」が厚生労働省から
医療提供体制の現状と課題
発表になったことは記憶に新しいことと思いま
「試案」が発表されてから,我々の間では,病
す。この「試案」の骨格になっているのがこれら
床数の行方を議論していました。この「試案」の
の抜本改革案です。また,この「与党三党案」を
中では医療法の一般病床という語句がなく,急性
ベースにして診療報酬作業委員会が平成9年に立
期病床=一般病床のイメージがありました。厚生
ち上げ,11年に報告書をまとめていますが,時間
労働省はこの「試案」の中で過剰な病床数を取り
があれば,後ほど,今の診療報酬に与えた影響や,
上げ,削減を示唆したのではないでしょうか。病
今後与えるであろう影響を私なりに分析して話を
床が削減すればそこに働く医療関係者が他の医療
してみたいと思っています。
機関に働きに行きます。そうなれば医療機関に働
く従事者の薄い人員配置が解消される。また,病
医療提供体制の背景
床数が少なくなれば病床の回転も良くなり,平均
医療費の動向をみてみると,2000年度は約30兆
在院日数の短縮化に貢献することになります。つ
円に達しており,そのうち30%強が老人医療費と
まり,病床の削減がもたらす効果が二重にも三重
なっています。数年来医療費は右肩上がりとなっ
にもなって表れてきます。
140
140(140)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
看護師を例にとると現状の2:1以上の看護体
制をとることができ,より厚い看護を実施できる
平成14年度診療報酬改定について
ようになるであろうし,医師も集まり患者に対し
平成12年度の診療報酬改定で急性期病院加算が
て適正な医療を提供できるようになるのではない
新規項目で登場しました。この施設基準をクリア
でしょうか。過剰な病床を削減することによって
すると,入院基本料に入院患者一人につき14日以
医療の質の向上が可能となってくることになりま
内に限り,155点を加算するという項目です。その
す。
施設基準は紹介率30%,平均在院日数20日以内が
第二に競争が働きにくい医療提供体制がいわれ
このときの施設基準でしたが,平成14年度には,
ております。情報提供の不足や,新規参入が困難
急性期病院加算から急性期入院加算と名称が変更
であったり,優れた医療技術が評価されていない
になり,施設基準が紹介率30%は据え置き,平均
といわれておりますが,広告の規制緩和,カルテ
在院日数は20日から17日へ変更になり,新たな条
開示および手術の施設基準等によって,患者が医
件として紹介患者加算(1∼4),医療安全管理体
療機関を選択することが以前より可能となってき
制,診療録管理体制,診療計画の作成および退院
ています。患者の選択が増えてくれば自然と医療
指導計画が追加となった。このように12年度と同
機関相互の競争が起こってきます。
じ点数でありながら,14年度の条件が厳しくなり,
第三に国民の安心できる医療の確保では,昨年
の診療報酬改定で医療安全管理体制の未整備減算
加算を返上しなければならなくなった病院もある
と聞いています。
が新規項目として表れ,安全に対しては今まで以
表1の「急性期病床への条件」は急性期入院加
上にその対策が問われています。医療法では施行
算以外の項目を列記し,その施設基準を載せてあ
規則で病院,有床診療所の管理者は安全管理のた
ります。とくに外来比率1:1.5の基準,つまり,
めの体制を確保しなければならない,とされてい
入院患者100人に対して外来患者1日150人までの
ます。また平成15年度の立入検査では第一番目に
条件がクリアできない医療施設が多く,外来患者
安全管理のための体制の確保が問われていること
を病院から診療所へ誘導するために,サテライト
をみてもその重要さが分かるでしょう。
診療所を立ち上げる病院もでてきたことはご存知
第四に医療提供に共通する情報基盤等の近代化
や効率化がいわれており,今後の医療機関の課題
となりましょう。
のとおりです。
急性期病床はより急性期へシフトすることにな
り,診療報酬上二極化が始まりつつあるのではな
表1
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
141(141141
)
いでしょうか。
第四次医療法改正のことはここで述べさせていた
もう一つ特記すべき項目は第三者評価による診
だきます。医療法改正の趣旨として,高齢化に伴
療報酬の設定でしょう。緩和ケア診療加算(250
う疾病構造の変化をあげ,良質な医療を効率的に
点/日),外来化学療法加算(300点/日)と緩和ケ
提供する体制の確立,入院医療を提供する体制の
ア病棟入院料が施設基準にとりいれられたことで
整備,情報提供や医療従事者の資質の向上がいわ
す。診療報酬上で取り上げられた第三者評価とは,
れ,これらを成就するために,①病床区分の見直
(財)日本医療機能評価機構と ISO9001のことで
し(一般病床,療養病床の創設)②医療計画の見
す。
直し③必置施設の規制緩和④適正な入院医療の確
○ (財)日本医療機能評価機構
保⑤広告規制の緩和⑥臨床研修の必修化があげら
病院の現状と問題点を明確にして,改善の成果
れます。旧医療法では,医療法上の病床は,精神
がみられる医療機関に認定証を発行する第三者評
病床,結核病床,感染症病床およびその他病床の
価事業者であり,1.病院組織の運営と地域にお
4つに分かれておりました。当時我々が一般病院
ける役割,2.患者の権利と安全の確保,3.療
とか療養型病床群と呼んでいたのは,医療法上で
養環境と患者サービス,4.診療の質の確保,5.
はその他病床であります。今回の医療法ではこの
看護の適切な提供,6.病院運営管理の合理性,
「その他」を「一般」と「療養」に区分し,人員
7.固有項目,8.機能評価モジュールの8つの
配置基準や構造設備基準を見直すことにありま
領域からなっています。平成15年4月にバージョ
す。
ンアップして新たな項目となっています。とくに
人員配置基準では,4:1から3:1に手厚い
2.3.の評価項目が充実されています。最近では臨
看護体制へ,構造設備基準では療養環境の整備を
床研修機能を追加して9つの領域を検討していま
目的にしたものでした。
す。また,新評価項目に付加機能審査(救急医療,
新医療法では,構造設備基準に関しては,施行
リハビリテーション,緩和ケア)を追加し,禁煙・
後2年6カ月後の平成15年8月末までに一般病床
分煙を実施していない病院には認定証を発行しな
か,療養病床の届出を提出するよう義務づけまし
い,としています。
た。つまり,9月1日以降には,
「その他病床」が
○ ISO9001
なくなることになります。忘れたらどうなるのか,
国際標準化機構で定められた国際規格であり,
という問に対して厚生労働省では開設許可の取り
製品やサービスの品質維持に関する要求事項を規
消しという手段をとるといっています。しかし,
定した規格を ISO9001と呼んでいます。PDCA サイ
新医療法の設備基準をもって届出は医療機関とし
クルといわれ,P(Plan)
:計画,D(Do)
:実行,
ても無理です。厚生労働省は経過措置を設けて,
C(Check):点検,A(Action):見直しであり,
すべての病院を「一般病床」と「療養病床」への
これが一つのサークルとなり,継続して品質ある
転換を図ろうとしています。
いはサービスの向上を追求していく第三者評価で
す。
当時は,とりあえず一般医療をしているから,
一般病床へ届出をして,9月以降に療養病床へ転
現在では,第三者評価事業として診療報酬に係
換すればいいという考え方が通用しなかった。つ
わっている事業はこの2つですが,今後新規参入
まり,9月1日以降の届出になれば,新医療法上
が認められるのであろうか。いずれにしても,日
の施設基準をクリアすることであるという意見が
本医療機能評価機構に追加された項目を見ると次
流れていました。もしそうであれば単純に一般病
期診療報酬改定には何らかのアクションがあるの
床に届け出ればいいやというわけにはいきませ
ではないかと思われます。
ん。私が訪問した病院でも迷いに迷っていました。
あまりにも届出率が悪い状況をみて,厚生労働省
医療法改正について
は通知を出し,人員配置基準や構造設備基準を満
平成13年3月1日から第四次医療法が施行され
たしていない場合であっても,届出を受理し,ま
ました。先ほど,医療法の推移をお話しましたが,
た,届出を行った後でも都道府県知事の認可を受
142
142(142)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
けた場合,病床区分の変更を行うことが可能とし
後,5年となっています。平成18年2月28日まで
ました。
に一般病床の200床未満の看護基準4:1を3:1
これでとりあえず届出を提出することが可能と
なりましたが,あまり安心もできません。医療機
にしていかなければなりません。まだ先の話しで
すが十分注意してください。(表2,3を参照)
関は,早急に病院の方向を決定し,病床区分を確
総合してみますと次のようにまとめられます。
定する必要があります。今後,医療計画の見直し
一般病床および療養病床において看護職員の増
が行われ,第二次医療圏で過剰病床地域となった
員が余儀なくされると同時に,平成14年10月に実
とき,容易に病床の変更はできなくなります。ま
施された医療安全管理体制や褥瘡対策などのシス
た,経過措置の期間が決定されていないことも不
テムの強化があげられ,医療機関にとっては厳し
気味ではありませんか。
い状況となっています。それ以上に影響がでてく
次に人員配置基準ですが,こちらは医療法施行
るのが昨年10月に実施されました老人の定率負担
表2
表3
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
143(143143
)
や薬剤の長期投薬による受診抑制,そして今年4
4.
政府はおおむね5年を目途に,政府が管掌す
月の保険給付の見直しによる受診抑制などが医療
る健康保険事業及び当該事業の民営化を含む組
機関に与える影響が大きいとみています。
織形態のあり方の見直しについて検討を行い,
その結果に基づいて所要の措置を講ずるものと
健康保険法等の一部を改正する法律案要綱 附則
平成14年2月26日に自民党医療基本問題調査会
すること。
5.
政府は,次に掲げる事項について検討を行い,
および厚生労働部会合同会議に健康保険法の一部
その結果に基づいて所要の措置を講ずるものと
改定の案が提出され,10月には老人の定率負担や
すること。
我々の2割負担から3割負担が決まっていきまし
(1)
医療に係る事故に迅速かつ適切に対応す
るための専門家による苦情の処理体制の
た。そのなかの最後のページに別紙があります。
整備
この別紙の内容によって今の厚生行政が動いてい
(2)
るといっても過言ではありません。ちょっと長い
医療及び医療に要する費用に関する情報
の収集,分析,評価及び提供に係る体制の
ですが重要な項目ですので聞いてください。
整備
1.
医療保険各法に規定する被保険者及び被扶養
6.
政府は第2項から前項までに規定する事項の
検討に早急に着手し結論を得,逐次実施するも
わたり100分の70を維持するものとすること。
のとすること。
2.
者の医療に係る給付の割合については,将来に
政府は,将来にわたって医療保険制度の安定
的運営を図るため,平成14年度中に,次に掲げ
これら6項目を遂行するために,厚生労働省で
る事項について検討を行い,基本方針を策定す
は医療制度改革推進本部を創設し,医療保険制度
るものとすること。
の体系の見直し検討チーム,診療報酬体系の見直
(1)
保険者の統合及び再編を含む医療保険制
し検討チーム,医療提供体制の改革に関する検討
チーム,医療保険制度の運営効率化に関する検討
新しい高齢者医療制度の創設
チームの4つを立ち上げました。そして,平成14
(3)
診療報酬の体系の見直し
年度末中に基本方針を策定することになりまし
3.
度の体系のあり方
(2)
政府は,おおむね3年を目途に,前項第2号
た。
及び第3号に掲げる事項並びに次に掲げる事項
昨年の8月には医療提供体制の「たたき台」が
について,具体的内容,手順及び年次計画を明
我々の目の前に表れましたし,年末には医療保険
らかにできるよう検討を行い,その結果に基づ
制度と診療報酬体系の「たたき台」が厚生労働省
いて所要の措置を講ずるものとすること。
から提出されました。そして,3月末には医療保
(1)
(2)
医療保険各法及び老人保健法の規定によ
険制度,高齢者医療制度および診療報酬体系が「基
る保険給付の内容及び範囲の見直し
本方針」として閣議決定され,約1カ月遅れて「医
医療保険各法,老人保健法及び介護保険法
療提供体制の改革のビジョン案」が提出されまし
の規定による給付に伴う負担の家計にお
た。
ける合計額が著しく高額になる場合の当
(3)
(4)
(5)
「基本方針」を構成しているのは,第1.はじめ
該負担の軽減を図る仕組みの創設
に,第2.医療保険制度体系,第3.診療報酬体
社会保険診療報酬支払基金及び国民健康
系,第4.改革の手順・時期となっていますが,
保険団体連合会による診療報酬の審査及
医療保険制度体系は,今回は割愛させていただき
び支払に関する事務処理の見直し
ますが,国民全体を考えてみると非常に重要な題
政府が保険者である社会保険及び労働保
目であります。機会があればお読みになってくだ
険に係る徴収事務の一元化
さい。医療提供体制の今後のことを話す前に,病
健康保険の保険者である政府が設計する
院の経営にとってどうしても欠かせない項目が,
病院のあり方の見直し
第3にある診療報酬体系ではないでしょうか。
144
144(144)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
図1
良いのかの議論が必要としています。また,診療
診療報酬体系
報酬体系の組立て方によっては,今後の医療提供
現在の診療報酬体系が表れたのが昭和33年で,
新医療費体系として構築されました。それ以前は
体制の課題も解決されるとしています。
図1を見てください。すでにご存知でしょうが,
モノと技術の区分が分かれておらず,新体系に
診療報酬体系の基本的な考え方として厚生労働省
なって基本的な項目がでてきました。点数表を見
が描いた図です。最初に登場したのは,昨年末の
ますと,基本診療料と特掲診療料に分かれ,基本
「たたき台」でした。そのときの図を手直しして
診療料は一連の診療についてのサービスを評価し
再び登場です。
ており,特掲診療料では基本診療料に含まれない
項目を個別に評価したものとなっています。しか
(1)
〈ドクターフィー的要素〉
し,昭和33年以来,何度かの改定を繰り返してき
た結果,点数の項目が大幅に増加し,入院と外来
(2)
医療機関のコストや機能の適切な反映
〈ホスピタルフィー的要素〉
の区別ができず,国民にとっては非常に分かりに
くいものとなってきています。厚生労働省はこの
医療技術の適正な評価(難易度,時間,技
術力を重視)
(3)
患者の視点の重視
ように現状を分析しております。そして課題とし
・情報提供の推進
て次のようにいっています。
・患者による選択の自由
①出来高払いは患者に対して細かい診療に対
応できる反面,不必要な検査や投薬等が行
(4)
かかりつけ医・歯科医・薬剤師の機能,プ
ライマリケア機能等を重視
の4つがあります。先ほど申しましたように診
われる可能性がある。
②医療技術の評価や医療機関の運営コストな
療報酬点数(5000∼6000くらいあるそうです)を
この基本的考え方にどのように収めていくので
どが十分に反映されていない。
③医療の質や効率性の向上についての評価が
しょうか。
◎医療技術の適正な評価(難易度,時間,技術力
十分ではない。
出来高の是非はだいぶ前からの課題であり,包
を重視)
括払い制度ができたきっかけでもあります。厚生
前にも述べましたように医療技術については,
労働省は基本的には,急性期医療は出来高を主体
出来高を基本として第一に難易度,時間,技術力
とし,高齢者医療や慢性疾患などは出来高方式で
等を踏まえた評価を進め,必要な調査・分析を進
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
145(145145
)
めることとしています。第二に生活習慣病の重症
各科の時間の評価や平均値など,と問題が多くあ
化の予防等の評価を進め,第三に医療技術の進歩
ります。今後,この専門組織で調査をして検討を
をいっています。中医協では診療報酬調査専門組
していくのでしょうが,困難な作業になるのでは
織に医療技術評価分科会を作り,
ないかと思います。
①難易度の評価は,外保連の調査結果などを
参考に,手術,検査,処置などに関する調
診療報酬体系の話に入るときに,厚生労働省は
課題として,医療技術の評価や医療機関の運営コ
査
②時間の評価については,初診・再診料を診
ストなどが十分に反映されていない,といってい
ました。大項目で2番目に取り上げ調査を進めて
療科別・疾病別などで調査
③技術力の評価は,施設基準の調査
そのほかには,重症化予防技術(薬物療法,栄
養運動療法など)の調査・評価を行うこととして
います。とくに時間の評価と技術の範囲について
は今後,重要な問題となってくるのではないで
しょうか。ドクターフィー的要素といわれている
箇所ですが,まだ調査が始まっているわけではあ
りませんが,単純な疑問が生じてきます。診療科
目ごとに難易度を決め,各科ごとの評価の整合性
をどのように決めるのか,技術力の評価基準は?
146
146(146)
◎医療機関のコストや機能の適切な反映
いくことになっています。いわゆるホスピタル
フィーといわれる部分ですが,医療機関コスト調
査分科会を作り,
①入院外来別,科目別,病棟別など部門に関
する検討
②患者に直接かかる費用と間接的にかかる費
用の調査
③給与費の算定基準となる部門別原価計算の
基準
④IT 化コストの検討
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
などを検討することになっています。そして,
診療報酬改定があり,その2年後の18年に改定が
疾病の特性に関しては,
「試案」では急性期入院医
行われます。つまり,平成18年度は診療報酬,介
療,慢性期入院医療,その他の3つの区分に分け
護報酬が同時に行われることになります。
ていましたが,この診療報酬体系では3つの区分
介護報酬では今年の改定で介護保険適用の療養
に亜急性期入院医療を加えて4つの区分としてい
病床に重度管理加算が導入されました。介護度4
ます。
と5の医療的処置の高い利用者に1日120単位の
急性期入院医療では,今年の4月より実施され
加算ですが,そろそろ介護保険適用の療養病床と
ている特定機能病院の包括評価の影響を検証する
医療保険適用の療養病床の整合性を考えていかな
ための項目や実施体制を検討することになってい
ければならない時期にきているのではないでしょ
ます。そのために DPC の影響評価に関する分科会
うか。中医協では,慢性期入院医療包括評価分科
で,昨年同様7月から10月に行われる調査のデー
会で患者の特性,医療提供,ケアの時間等を調査
タを昨年と比較して,導入された前後の影響を調
することになっています。
査するとともに,平均在院日数や再入院率,診療
亜急性期入院医療については,議論がまさに始
内容の変化などを調査することになっています。
まろうとしている段階です。急性期入院医療との
慢性期入院医療では,病態,ADL,看護の必要度
区分けをどうするのかなど今後の中医協の議論を
などに応じた包括評価を進めていき,介護保険と
注目してください。
の役割分担の明確化を図ることとしています。介
その他では,回復期リハビリテーション,救急
護報酬改定は3年ごと,介護保険制度は5年で見
医療,小児医療,精神医療,在宅医療,終末期医
直しと介護保険制度ができたときにいわれており
療などの適切な評価を進めることになっています
ます。ご存知のように今年4月に介護報酬が見直
が,診療報酬体系の基本的考え方の先ほどの図を
されました。介護保険制度は平成17年度になりま
見ていただきたい。図の真ん中に「機能の評価」
すね。そしてその翌年,平成18年に介護報酬改定
とあります。また,日本医療機能評価機構のとき
があります。では,診療報酬といいますと,来年
に話しましたように付加機能審査がありました。
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
147(147147
)
これらが,点数上どのように影響してくるか私は
◎患者の視点の重視
医療提供体制のなかでも最も関心の高い項目で
興味をもっています。
もう一つ機能の評価では気になることがありま
す。診療報酬上での点数設定はというと急性期病
す。それは,地域との連携の部分です。これも立
床への条件でお話しましたなかに,診療計画や退
派な機能ではないでしょうか。過去2回の診療報
院指導がありますが,たくさんの項目はないよう
酬改定は急性期入院に対する点数設定が強化さ
です。
れ,入院患者が地域の施設への道を余儀なくされ
また,診療報酬での届出として施設基準をイン
ます。大病院から地域の病院,そして診療所への
ターネット上に載せることを開示していく方法も
ルートが確立されているか,患者が何の心配もな
あります。患者が病院を選択するときの情報,つ
く,もちろん医療も含めてですが安心して移動で
まり医療機関の情報などは,自院をホームページ
きるか,これらの機能も視野に入れて改定にのぞ
で広告したり,民間の雑誌などあらゆる情報が出
んでもらいたいものです。
てきはじめました。厚生労働省は患者が自らの治
『外来基本料』
療を受けるときの情報,治療の情報などを診療報
外来診療料は「再診料にルーチン化している簡
酬上でどのように後押しをすることができるかと
単な検査や処置,指導管理料などを総合的に評価
いうことも検討課題に入れています。
する,主に診療所を対象とした包括点数」という
◎その他
ことになっています。先生方は病院に勤務してい
診療報酬体系では,最後になりました。歯科診
ますから「診療所は関係ない」といわれますでしょ
療報酬,調剤報酬そして薬価・材料の問題ですね。
う。確かにいわれるとおりですが,診療報酬上で
このなかで先生方に関係がある項目は調剤報酬と
は大きな課題です。知識を増やすということでお
薬価ですね。調剤報酬では,情報提供や患者の服
聞きください。
薬指導等の適正な評価をあげ,かかりつけ薬局の
簡単にいってしまえば,再診料の包括化です。
機能や評価,保険薬局の機能の評価,医薬分業の
先ほど,厚生労働省の基本的考え方に,急性期医
薬剤給付の合理性について議論を進めて,調剤報
療は出来高を主体とし,高齢者医療や慢性疾患な
酬上の評価をするとしています。薬剤については,
どは出来高方式で良いのかの議論が必要,とあり
とくに後発品の使用促進させるためにはどうした
ました。診療報酬体系をもっと簡素化にしたいと
らよいか。価格設定を卸,メーカーの状況や市場
いう発想からでしょうが,患者にとって本当に良
実勢価格との整合性を見つつ適正な評価をしてい
い方法でしょうか。私も加齢とともに生活習慣病
くとしています。
を持ち,医者に通っていますが,いつも「どうで
前にいいましたように複雑化した診療報酬を
すか?」
「変わりありません」との会話で診療は終
もっと簡素化するためには,評価に係る基準や尺
わりです。患者としてこの外来診療料をみると,
度を明らかにし,国民に分かりやすい体系をつく
検査や処置および指導料など包括された点数より
りあげることが今後の目標となってきます。見直
も,確実に診療し,実施した適正な点数をとられ
しについては,医療技術の適正な評価,医療機関
ることの方が納得できます。
のコストや機能など,そして患者の視点に立ち,
診療側にしても包括することによって点数設定
再編成については,出来高と包括,技術とモノを
が不明確になり,将来的には点数の低下が行われ
視野に入れつつ,今まで改定ごとに複雑化して
るのではないか,それよりも医療の質が確保でき
いった分かりにくい体系を是正し,国民にとって
るであろうか,という疑問があるようです。これ
分かりやすい体系とすることでしょう。先ほども
にドクターフィー的要素にある難易度,時間,技
申しましたように平成18年は介護報酬と診療報酬
術力が外来診療にどのようにかかわってくるので
の改定が重なります。その前に診療報酬改定があ
しょうか。今後の課題として,包括する項目の選
りますが,診療報酬調査専門組織で年末までに調
定を十分に議論し,診療現場での検証が必要と
査・検討が行われ,中医協でどのような議論をす
なってくるとみています。
るのか注目すべきでしょう。
148
148(148)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
そして,健康保険法等の一部を改正する法律案
で非常に多い項目が広告できるようになりまし
の別紙の第6には,
「政府は第2項から前項までに
た。これらを医療機関側が自院の特徴なりを国民
規定する事項の検討に早急に着手し結論を得,逐
に訴え,選択される病院になるように情報提供す
次実施するものとすること」とあります。つまり,
ることが必要でしょう。
診療報酬体系もこれら検討がなされ,中医協で論
次に診療情報の提供の促進がいわれており,イ
議して,可能な項目より逐次実施していくことが
ンフォームド・コンセントの重要性があげられて
いわれております。
います。そして,ヒヤリ・ハット報告の中で数多
医療提供体制の改革のビジョン案
くあげられている服薬指導や医薬品の安全情報の
提供が必要としています。そして,患者に対して
次に医療提供体制の話に入っていきたいと思い
は患者も自覚と責任を持って医療に参加する,と
ます。ビジョン案の基本に「患者と医療人との信
しています。患者のおまかせ医療からの脱皮が必
頼関係の下に,患者が健康に対する自覚を高め,
要であり,医療従事者とコミュニケーションをと
医療への参加意識をもつとともに」とあるように,
り,最善な治療方法をお互いに模索し対峙してい
医療提供体制では患者の視点が最重要として取り
く姿勢が今後の患者には要求されるのではないで
上げています。診療報酬上では第3に患者の視点
しょうか。
の重視がでてまいりましたが,医療提供といいま
もう一つ患者の視点で重要な項目に安全があり
すとやはり患者本位の医療の確立が最初にうたわ
ます。急増している医療事故を鑑みると今後十分
れることになります。
に注意し,力をいれなければならないでしょう。
①患者の選択のための情報提供の推進
患者が良い医者を選ぶということは,医療の質の
②質の高い医療を効率的に提供するための医
保証にあります。リスクマネジメントのプロセス
療機関の機能分化・連携の推進と地域医療
で,一般企業と違うところはプロセスのなかに「医
の確保
療の質の保証」があるところです。患者が病院を
③医療をになう人材の確保と資質の向上
選択する必須条件としてこの安全が欠かせないも
④生命の世紀の医療を支える基盤の整備
のとなっています。
これらの項目を基本とし,国民全体で合意でき
(2)
質が高く効率的な医療の提供
る医療提供体制の将来像の形成を目指して今後も
病床の機能分化のイメージ(図2)を見ていた
見直しを図っていくとしています。ビジョン案の
だきたい。先ほど医療法改正のところで8月末ま
骨子は3つに分かれ,(1)患者の視点の尊重,(2)
でに,
「その他病床」を「一般病床」と「療養病床」
質が高く効率的な医療の提供,(3)医療の基盤整備
へ届出を義務づけられました。現状での届出は
となっています。今回は患者の視点の尊重と質が
遅々として進んでいない状況ですが,ビジョン案
高く効率的な医療の提供の2つに絞って話を進め
ではこのように将来の方向性を示しています。一
たいと思います。
般病床の中に急性期医療が入り,急性期医療はこ
(1)
患者の視点の尊重
の図にあるとおりのイメージでしょう。
「試案」の
最初に医療機関の情報提供のことが載っていま
す。診療報酬体系でも話しましたように,患者が
中でもいっておりましたので先生方はすでに知っ
ていると思います。
病院を選択するときの情報が問われています。客
「試案」が提出されたとき,一般病床の役割が
観的,検証可能な情報は公的機関から,また,特
あまり良くみえてこなかった。四病協では,この
色ある多様な情報は医療機関自らと民間からの情
試案に対抗して「地域一般病床」を使いました。
報に国民がアクセスできる体制が必要としていま
そのイメージがこの図に生きているのでしょう
す。
か。図の一般病床の例をみていただくと分かるよ
診療報酬上の施設基準の届出の開示などもあっ
うに,急性期医療を担う病院以外の病院は急性期
て良いのではないかと思っています。広告規制緩
医療を受け持つ病院との連携を視野に入れるとと
和ではポジティブリストながら第四次医療法改正
もに,糖尿病の治療や在宅医療の後方支援等の役
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
149(149149
)
図2
スを考え,とくに競争の激しい地区では単に一般
割がいわれています。
もう少し詳しく述べますと,急性期入院医療は,
急性期病院の条件で述べましたように患者は退院
と療養に分けるだけではなく,地域の特性を踏ま
え,独自の存在意義をだすことでしょう。
が余儀なくされ,平均在院日数が短縮化される。
時間も少なくなってまいりました。最後にリス
余分な病床は削減され,必要な数に集約化されて
クマネジメント研修として,私は医療安全管理体
くるでしょう。一般病床は地域のニーズと医療機
制未整備減算の施設基準のなかに医療従事者の年
関の選択によって,特定の機能を担うことになる,
2回の研修がありますが,その講義資料を作成し
としています。特定機能病院の包括評価や入院基
ているなかで,第5回医療安全対策ネットワーク
本料の急性期入院加算によって早期退院を余儀な
整備事業でまとめたヒヤリ・ハット報告のなかか
くされた患者に対して,病病連携や地域医療でど
ら薬剤に関する報告を抜粋してみました。全事例
のように対処するか重要なポイントとなってくる
約15,500件のうち,処方・与薬に関するヒヤリ・
でしょう。
ハット報告が5,000件です。実に3分の1に相当し
もう一つ気になることがあります。病床区分が
ます。しかも5,000件の3分の1が無投薬となって
8月末で届出が終わりますが,第四次医療法改正
いるそうです。ビジョン案では,
「患者と薬剤師の
では医療計画にもふれていることです。8月に医
信頼関係のもと,薬局・病院等において医薬品に
療計画に対する検討会が行われ,算定方法の変更
関する適切な情報提供や服薬指導等が行われる」
が行われます。もちろん病床数の削減なども議論
とあります。この文面はこれらの結果から出てき
の俎上にあがるであろうし,一般病床,療養病床
た言葉ではないかと思います。チーム医療に参加
それぞれの基準病床数が問われることになりま
している薬剤師として患者がきちんと薬を服用し
す。今は,基準病床数があって,そのなかに一般
ているかなど,服薬指導の薬剤指導業務は先生方
病床数と療養病床数という考え方でしたが,病床
の仕事でしょう。また,リスクマネジメントでは
区分定着後の考え方は一般病床+療養病床=基準
部門間のマニュアルが重要となっています。看護
病床数というものです。8月から始まる検討会も
師部門との連携を図り,エラーを少なくするよう
今後の医療提供体制に大きな影響を与えることは
指導をすることが望まれます。
私は先生方に一番望むこと,部外者の私がこん
確実です。
これらのことを踏まえて今後の病院の進むべき
なことをいいますと叱られそうですが,服薬指導
方向はといいますと,地域の一般と療養のバラン
の徹底と部門間の連携をとり,ヒヤリ・ハットを
150
150(150)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
少なくしてほしいと思っています。また,安全な
者の視点の尊重」があり,そのなかで,患者も自
薬剤の供給を実現するためには,薬剤管理,薬剤
覚と責任をもって医療に参加するという言葉があ
の安全性,そしてたえず確認を怠らず行動をする
ります。患者自身の病を治すために医師をはじめ,
ことであります。そして,適正使用による量の適
大勢の人たちがかかわってきます。医療チームが
正化や在庫管理,新規薬剤の検討など,病院の運
作られ,患者もそのなかの一員として責任をとる
営に係わることも大切な事柄でしょう。
ことをいっているのでしょう。つまり医師も,看
多少,余談となりますが最近よく耳にする言葉
護職員も,その他の医療従事者もそして患者も同
に患者主体とか,患者の目線にたってということ
じ土俵に立ち,コミュニケーションを十分に行い
を聞きます。いろいろな本や雑誌,セミナーなど
治療計画や,どのように病に対処するかを話し合
で頻繁に使われています。とくに医療完全管理に
う必要があると思います。「医療を『施す』から,
関することでは医療従事者の存在よりも大きな比
患者とともに成長する『共育』の医療へ」とある
重を占めています。確かに間違いではないし病を
セミナーで聞きました。
持つ患者に対する接し方は十分注意を払わなけれ
これからの医療環境は大きく変わっていくこと
ばなりません。数年前「患者様」という言葉がは
が予想されます。今後の厚生行政の動向をより一
やりましたが,医療機関内での流行語であり,本
層関心をもち,自院の置かれている立場を理解す
当に患者にその真意が伝わったかというと私には
る必要があるのではないでしょうか。
疑問が残りました。
以上で私の講演を終わらせていただきます。私
私はもともと医療人も患者も人間的立場は同等
と考えています。そんなときに,医療提供体制の
の拙い話に最後までお付き合いくださいまして本
当にありがとうございました。
改革のビジョン案が発表になりました。最初に「患
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
151(151151
)
<寄
稿>
検疫所(Quarantine Office=40日の役所)の由来
海老沢医院院長
海老沢
功
海外旅行の帰国者が空港などで,必ず通らねばならない場所が検疫所であり,日本
語の意味は分かるが,英語ではこれを Quarantine Office,40日の役所という。何故
40日の役所が検疫所なのであろうか。その由来を述べるのが本稿の目的である。
A)検疫制度のはじまり
地中海に面したイタリア北部の港町ヴェニスは(図1と2),上水設備は完備してい
るが,下水設備は今でも不完全で,町の中を網の目のように流れている運河の海水は
決してきれいなものではない。観光の目玉,運河を巡る船(海上バス)に乗っている
と,民家の下水がそのまま運河に流れ込む所をしばしば目にする。中世紀にはヴェニ
スはコレラとペストの流行に度々見舞われた。後者は900∼1500年の間に63回もこの町
を襲った1)。ペストの流行時には人口の20∼40%が死亡することはヨーロッパ各地で
経験されている2)。
ヴェニスの当局者はこれらの伝染性疾患が外国から,特に地中海東方の国から来る
船によってもたらされることに気付いた。そこでこれらの地域から来る船舶を,沖合
の小島に一定期間停泊させて患者発生の有無を連日調査,患者発生のないことを確認
してから,ヴェニスの本島に上陸させた。問題はコレラもペストも未だ病原体が発見
されず,原因不明の疾患であったので,隔離の期間を何日にすべきかは未定であった。
図1
海上から眺めたヴェニス
高く聳える鐘楼とドウカーレ(Ducale)宮殿(右端)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
153(153
153)
図2
ドウカーレ(Ducale)宮殿
ヴェニスは共和制による政治を行っており,その統領を Ducale と呼んで
いた。その常駐場所がドウカーレ宮殿 Palazzo Ducale である。
その期間を40日と定めたのはヴェニスの当局者で1403年のことである1)。問題は何の
根拠があって隔離の期間を40日と定めたのかである。
B)40日の由来
40という数字は日本語では40歳すなわち厄年で,縁起のよくない,敬遠されている
数字である。しかしユダヤ教,キリスト教の文化,思想が基底にあるヨーロッパ諸国
では物事の区切りをつける際しばしば引用される数字である。ではこの40という数字
は何処からでたのであろうか。その源は聖書3)に何カ所もある。
聖書に現われる40の数字が入った文章,語句
洗礼者ヨハネから洗礼を受けたイエスキリストが,自ら宣教活動を始める前の行動
に関して,次のような記事が反復して記されている。
1)マタイによる福音書:4−1,2(4章1,2節,以下これに準ずる)に次の記
載がある。さて,イエスは悪魔から誘惑を受けるため,霊に導かれて荒れ野に行かれ
た。そして40日間,昼も夜も断食した後,空腹を覚えられた。
2)マルコによる福音書:1−12,13:それから霊はイエスを荒れ野に送り出した。
イエスは40日40夜そこにとどまり,サタンから誘惑を受けられた。その間野獣と一緒
におられたが,天使たちが仕えていた。
3)ルカによる福音書:4−1,2:さてイエスは聖霊に満ちて,ヨルダン川からお
帰りになった。そして,荒れ野の中を霊によって引回され,40日間悪魔から誘惑を受
けられた。その間,何も食べず,その期間が終わると空腹を覚えられた。
さらに旧約聖書にも40日に関する記載がある。
4)出エジプト記:34−28,モーセは主と共に40日,40夜,そこにとどまった。彼は
パンも食べず,水も飲まなかった。そして十の戒めからなる契約の言葉を板に書き記
した。
5)申命記:9−9,すなはち主があなたたちと結ばれた契約の板を受け取るために
154
154(154)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
山に登ったとき,わたしは(モーゼのこと)40日,40夜,山にとどまり,…
同上記:9−11,40日40夜が過ぎて,主はわたしにその二枚の石の板,契約の板を
授けられた
6)列王記上:19−8,エリアは起きて食べ,飲んだ。その食べ物に力づけられた彼
は,40日40夜歩き続け,ついに神の山ホレブに着いた。
7)ヨナ書:3−4,ヨナは先ず都に入り,一日分の距離を歩きながら叫び,そして
言った。「あと40日すれば,ニネベの都は滅びる。」
以上7カ所から40日の記載を拾いだしたが,イタリア語では40日,40夜は quaranta
giorni e quaranta notti,フランス語では quarante jours et quarante nuits であ
る。これから英語の形容詞語尾,日-ine をつけて quarantine となったことが容易に
理解される。
なお贖罪,汚れたものなどに関する規律を詳しく述べたレビ記1)には40日の記載は
ない。
C)40年の記載
なお主題から離れるが40年間の記載も重要な数字である。これはエジプトで重い労
働の使役に苦しんでいたイスラエル人がモーゼに率いられて,エジプトから集団で脱
出し,シナイ半島の荒野を40年間彷浪して目的地カナンに着いた記事である。
1)申命記:8−2,あなたの神,主が導かれたこの40年の荒れ野の旅を思い起こし
なさい(イタリア語で quaranto ani,フランス語で quarante annees)
。出エジプトの苦
難に満ちた年数が40年であったことである。ただし出エジプト記には年数の記載はない。
2)歴代誌上:29−26,彼(ダビデ)がイスラエルの王であった期間は40年に及んだ。
ヘブロンで7年,エルサレムで33年間王位にあった。
3)ネヘミア記:9−21,40年間,あなた(神)が支えられたので,彼らは荒れ野に
あっても不足することなく……
4)使徒言行録:7−30,40年たったとき,シナイ山に近い荒れ野において,柴の燃
える炎の中で,天使がモーゼの前に現われました。
同上書:7−36,この人が(モーゼのこと)エジプトの地でも,紅海でも,また40
年の間,荒れ野でも,不思議な業としるしを行って人々を導き出しました。
D)結び
コレラやペストが地中海東方の国から来る船舶とともに持込まれることを知ったイ
タリア・ヴェニスで15世紀の初頭,流行地から来る船を本島から離れた小島に停泊,
隔離する検疫制度を実施,その隔離期間を40日と定めた。この数字の由来はイエスキ
リストが荒れ野で悪魔の試練に耐えながら40日を過ごし,それから世に戻って宣教を
始められた。それにあやかって病魔を持込んだお前達も40日間の禊を行えと港湾監督
者は指示を出したのであろう。その40日,イタリア語の quaranta giorni の隔離を求
める役所が英語で記載すると quarantine 0ffice となったのである。
文
献
1)星和夫:続
楽しい医学用語のものがたり,医歯薬出版株式会社,1993,P.28−29
2)滝上正:ペスト残影,神奈川新聞社,2002
3)新共同訳:聖書,日本聖書協会,1995
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
155(155
155)
病院経営管理者養成課程通信教育「通教月報」より
主治医とは何か,チーム医療の哲学
神奈川県病院協会参与
「卒論指導」担当講師
益
田
啓
作
「医療の質的充実で欠かせないのが円滑なチー
ちがうのは職務・仕事のちがいだけだと喝破した
ムワークである。すなわちチーム医療と医療連携
のである。そして新約聖書のコリントの信徒への
の推進は21世紀に向けたもっとも重要な医療戦略
手紙一の12章12∼26節を引用する。「体は一つで
と考えられるが,一般には掛け声ばかりで遅々と
も,多くの部分から成り,体のすべての部分の数
して進んでいない」とある病院管理学の教授はい
は多くても体は一つである……もし体全体が目
う。また社会学的立場からチーム医療のあり方を
だったら,どこで聞きますか。もし全体が耳だっ
追求している学者は「本当のチーム医療」と「本
たら,どこでにおいをかぎますか。……目が手に
当でないチーム医療」との差は,医師と他の職種
向って「お前は要らない」とはいえず,また,頭
の間に対等性があるかないかにかかっている。」と
が足に向って「お前は要らない」ともいえません。
いう。
それどころか,体のなかでほかよりも弱く見える
ギリシャの哲学者プラトンはチームワークの3
1.
2.
共通の目標を認識していること。
差はないといわれるかもしれない。しかし医師
(病院の理念・基本方針がこれにあたる)
法・薬剤師法・保助看法等は身分法と呼ばれてい
誰がどんな仕事をしているか人々がよく
る。ある医療社会学者は医師と他の職種との位置関
係を「制度化された専門技能の階層制(hierarchy
知っていること。
(大病院になるとそんな職種がうちの病院
にあったのかという声を聞く)
3.
部分が,かえって必要なのです。」と。
今は現代であって中世ではない。そんな身分の
つの要素をあげて次のようにいう。
その多くの職種の仕事が有機的に関連する
of institutionalized expertise)といっている。
医師と他の職種(comedicals)とのちがいは後
者が医師の指示の下に業務を行うという点にあ
る。このことが日本の病院の場合には,病院の形
ものでなくてはならない。
1520年,宗教改革者マルチン・ルターは,
「ドイ
成の歴史とあいまって,身分のちがいともいうべ
ツ国民たるキリスト者貴族に与えてキリスト教界
き錯覚をおこしているのかもしれない。医師と他
の改善を論ず。」のなかで次のようにいう。「平信
の職種とのちがいは身分(Stand)のちがいではな
徒と司祭・司教は,彼等がいう世俗人と教会人と
く,身分は対等であって,職務(Amt,Werk)のち
は,職務ないし仕事以外には何らの差別もなく,
がいなのである。
「医師の指示の下」に業務を行う
両者の間には身分上の差別は存しない。」と,平信
といっても医師の指示に盲目的に従うというので
徒とは王侯・貴族・手工業者・農民であり,世俗
はない。薬剤師法第24条には「薬剤師は,処方せ
人“Weltliche”である。ローマ教皇,司教・司祭・
ん中に疑わしい点があるときは,その処方せんを
修道士は教会人“Geistliche”であって身分がち
交付した医師,歯科医師または獣医師に問い合わ
がう。世俗の権力は教会人・聖職者には及ばない
せて,その疑わしい点を確かめたあとでなければ,
という歴然とした差別の社会通念で中世ヨーロッ
これによって調剤してはならない。」となってい
パ社会は構成されていた。そこヘルターがやって
る。また下剤や催眠薬の処方の指示が,24時間患
きて身分のちがいはない,司祭も農民も対等だ,
者観察の看護師の助言によって変更されることも
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
157(157
157)
欠である。施設療養,在宅療養を視野に入れるな
あるだろう。
チーム医療を推進するためには,互いに身分は
らば,患者の病状や環境に応じて,その現場にふ
対等である認識の下に,その業務のちがい,専門
さわしいチームリーダーを創り出すべきで,医師
性を認めあうことがキーポイントである。身体に
は自分自身のチームにおける役割を冷静に認識し
たと
譬えれば,医師は頭(Haupt)である。医師の指示
てチームが最大の効果を生み出す立場に徹するべ
によって医療は始まるのである。病院長は医師で
きであるとの指摘もある。
なければならない。しかし同時に人間は頭では歩
クリティカルパス,リハビリテーションにおけ
けない。足が必要である。医師が頭であるという
る医師のリーダーシップはいかにあるべきか,主
ことは,それだけ医師に責任があり,リーダーシッ
治医とは何か,その診療責任はどうか,チーム医
プが求められているということである。
主治医・担当医が明確になっており,診療責任
療を推進してゆくためにあらためて問われるべき
が確立していること,また医師の指示が確実に伝
本当のチーム医療と本当でないチーム医療のち
達され実施されることが病院医療に求められてい
がいは医師と他の職種の間に対等性があるかない
る。これは昔も今も変らないが,近年医学の進歩
かできまるというのは舌足らずである。身分は対
と医療技術の高度化,高齢患者の増加によって,
等だが業務のちがいはある。医師の指示によって
医療現場の様相は変貌した。医師が診断・治療・
医療が始まるのが医療業務の秩序である。互いの
リハビリテーションなどの診療機能を発揮するた
業務のちがい,その専門性が他から信頼に値する
めには,看護師をはじめ comedicals の協力が不可
ようお互いに絶えず研鑽しなければならない。
158
158(158)
課題ではあるまいか。
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
病院経営管理者養成課程通信教育・優秀卒業論文
当院における医薬品の購買管理に関する報告
−薬剤師の管理から事務部門への業務移管について−
(財)筑波メディカルセンター
事務局本部経理課長
文
藏
克
己
英 文 名 : The report about management of the
しかし,長年続いた薬剤師による医薬品の購買
medicine tried in the Tsukuba medical center
管理も,平成11年5月に開設した病床数150床の地
hospital.
域がんセンターの開設準備段階において大きな転
The feature is operating change of jurisdiction
換期を迎えた。
into the office section from a pharmacist.
最終的に当院は,医薬品の購買管理の所管を薬
剤科から事務部門に移管し,現在もその業務を事
要旨:当院では約4年前,それまで薬剤師によっ
務部門が担っている。
て行われていた医薬品に関する①購入管理業務,
そこで今回,なぜ当院が医薬品の購買管理を薬
②在庫管理業務,③払出管理業務,④使用管理業
剤科から事務部門に移管したのかを,その理由,
務などの購買管理業務を事務部門に移管した。
目標,プロセス,成果,運用面での事例などを,
その理由は大きく分けると2点あり,①薬剤師
が本来の業務に専念できる環境を整備すること,
②事務部門による購買管理体制を確立すること,
でありそれぞれに目標を設定して着手した。
紆余曲折あったが結果的には円滑に業務の移管
が行われ,その成果も期待以上のものが得られた
に説明し,医薬品購買管理の効果的管理手法の一
例として報告する。
【当時の医薬品を取り巻く当院の事情】
本論に入る前に当時の医薬品を取り巻く当院の
事情を説明しておく必要がある。
ことから当初の目標は達成できたものと考える。
まず,体制的な視点で当時を振り返ると,冒頭
そこで今回,これら一連の経過と成果を報告し
申し上げたとおり医薬品の購買管理は薬剤師に
卒業論文として提出する。
よって行われていた。
キーワーズ:業務の移管,既成概念の払拭,コス
は開設から13年の間にいくつもの病院機能の拡充
ト削減,コミュニケーションの充実,チームワー
が図られ,その効果として医業収入が年々増え続
ク
けていた。(資料1)
次に,計数的な視点で当時を振り返ると,当院
当然,その医業収入の増加に伴い,主要な材料
【はじめに】
費のひとつである医薬品費も増加の傾向が見られ
多くの病院において医薬品に関する①購入管理
た。
業務,②在庫管理業務,③払出管理業務,④使用
さらに,ひとつの経営指標でもある医薬品費の
管理業務(以下,この4つの購買に関する管理業
対医業収入比率(医業収入に占める医薬品の割合)
務を購買管理とする)は,薬剤師が担当している
も平成8年度以降は安定した推移を見せていた。
ここで資料1について若干補足を加えるが,平
と思われる。
当院においても,昭和60年の病院開設時から平
成7年度に医業収入と医薬品費が一時減少してい
成10年9月までの約13年間は薬剤科の所管として
るが,これは当院が平成7年度にすべての外来処
薬剤師によって行われてきた。
方を院外処方に切り替えた影響である。
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
159(159
159)
資料1
医業収入・医薬品費・対医業収入比率の推移
いずれにしても,業務移管以前の当院の医薬品
収入比率の減少と安定の結果を評価するのであれ
を取り巻く事情とは,①右肩上がりの増収が続き,
ば問題はないが,そうでなければただの偶然の結
また②院外処方に切り替えたことによる医薬品費
果をみての誤った判断となる可能性があるから
の減少があり,そしてこれらに伴う③医薬品費の
だ。
対医業収入比率の減少と安定などがみられ,比較
残念だが,当時の薬剤師による医薬品の購買管
的良い計数がはじかれる環境であったのである。
理の精度はこのあたりの検証が十分にできるもの
しかし,実はこのような計数だけを捉えた判断
は極めて危険な一面を含んでいる場合もあること
ではなかった。
なお,このことが今回の業務移管の決断を決定
づけさせた大きな要因の一つであったことを申し
を申し添える。
例えば,前述した平成8年から平成10年度にか
けての対医業収入比率(資料1)をみると平均13%
添えておく。
以上が,本題に入る前に述べておくべく業務移
管前の医薬品を取り巻く当院の事情である。
で推移している。
しかし,このことをそれ以前と比較して「①比
率が下がり,②安定しているから良しとする」と
【業務移管の理由】
楽観視することは危険な判断であり,次のような
平成10年度期首,当院の2次計画でもあった地
検証なり裏付けがなされていなければならないも
域がんセンターとしての150床の増床計画に伴う
のと考える。
薬剤師の増員要望書をみて,我々は当院における
①当院の理想的な比率は何%か?
院はどうか?
同規模の他
のを見直す必要性に迫られた。
一般的にはどうか?
②購入した医薬品は適正に使われているのか?
破棄や破損額と発生プロセスはどうか?
③請求漏れはどの程度あるのか?
その発生プ
なぜならば当時,218床体制の当院には既に12
名の薬剤師がいたが,150床の増床に合わせて新た
に5名の薬剤師の人員増加要望書が提出されたか
らである。
ロセスはどうか?
この5名増員分の人件費はざっと見積もっても
④在庫量は適正か?
など,これらを検証し確認できたうえで対医業
160
160(160)
これまでの薬剤師による医薬品の購買管理そのも
3千万円弱になる。
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
3千万円との金額も気になるところではあった
が,上述したとおり当時当院では既に100%院外処
職員が4名で対応しており十分な成果をあげてい
た。
方に切り替えており増床したとしても果たして5
比較の結果,管理レベルの違いは歴然であった。
名もの薬剤師の増員が本当に必要なのであろうか
その比較結果の一つとして医薬品の在庫日数を
みてみると,診療材料の約2倍の3週間超もあり,
との素朴な疑問をもった。
そこで,増員要望書の内容を検証してみると,
しかも日曜・祭日などが重なる連休前の買いこみ
増床にともなう医薬品の①種類が増えること,②
量が極めて多く,月によっては月初めに買いこん
物量が増えること,③搬送部署が増えることを危
だ薬品でさえ,当月末までに消費されていないも
惧した薬剤科が,いわゆる医薬品の購買管理業務
のも多く発生していることがわかった。
が増加する分の要員としてのみ提出した要望書で
このことは,医薬品の購入はジャストインタイ
ムではなく,常に相当数の在庫をかかえ,デット
あることがわかった。
このことは,今回の増員では当院にとって人件
費の上昇だけをもたらすだけであり,薬剤科のレ
ベルアップや経済的な効果をもたらすものではな
ストックとなり,その後処分されたものも多く
あったものと推測された。
しかも,それらに関するカウント作業や結果報
告などは一切なかった。
いことを示した。
おりしもこの時期,新病棟の建設で多額の費用
また,当時は棚卸を年に2回行っていたが,そ
が発生していた経営サイドとしてはコスト増に直
の棚卸前日に大量な在庫を業者に返品して在庫額
結するだけの案件でもあり,この増員要望書は極
を調整していた事実などが判明した。
さらに,医薬品の購買管理を行う上で管理上必
めて気になる存在となった。
そこで,そもそも12名の薬剤師が適正に機能し
要であると思われる統計データの不足や不備が目
ているのであろうか,または,他の施設では何名
立ち,診療材料の管理と比較して極めて未整備な
の薬剤師が同様の業務を行っているのであろう
状態であることがわかった。
そこで,これらの比較結果を薬剤科に投げかけ
か,などさまざまな意見がだされた。
そして,最終的には現状の薬剤師だけによる購
買管理そのものがこれまでどおりでよいものかの
たところ,非常に多くの異論や反論が寄せられた。
今回はその内容に関しては割愛するが,薬剤科
サイドでの薬品管理に関する考え方は集約すると
議論に発展したのである。
しかし,これはよくある話と思われるが,何か
を他の施設と比較し判断材料にしようにも,施設
次のとおりであった。
1.
薬品の購買管理業務は伝統的に薬剤師の仕
事であるとの認識をもっていた。
ごとの事情が微妙に異なり,なかなか適正な判断
ができないでいるのが他の施設との比較を行う場
2.
薬品の購買管理業務は大切な業務であると
の認識はあるが,薬剤師の本来業務の合間で
合での問題点であることは周知の事実であろう。
行える範囲でよいとの認識でいた。
当然,我々も本件に関して適当な比較対象施設
が見つからず,客観的な判断がしにくい状況で
3.
薬品の購買管理業務はその時々の担当者が
経験と勘によって行っていた。
あった。
そこで,我々は毎月の購入額が医薬品とほぼ同
これらのことは,薬剤師は薬品の購買管理業務
額であった当院の診療材料の購買管理と医薬品の
を薬剤師の仕事として認識をもって行っていた
購買管理とを比較して,医薬品の購買管理のレベ
が,どうしても調剤や服薬指導の合間に行う片手
ルを計りその是非を判断することとした。
間的な業務となっていたことを意味する。
なお,参考までに記すが,当時の医薬品費と診
また,上記した1.に関しては,薬剤師法・第
療材料費の購入額はそれぞれ年間約7億円あり,
1章・総則・第1条(薬剤師任務)の条文に影響
アイテム数は医薬品が約1,300件,診療材料が約
があるように思われた。
参考までに薬剤師法を引用するが,第1条(薬
4,000件であった。
ちなみに,診療材料の管理は購買管理課の臨時
剤師任務)とは「薬剤師は,調剤,医薬品の供給
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
161(161
161)
以上が,薬剤師から事務部門に業務が移管した
その他薬事衛生をつかさどることによって,公衆
衛生の向上及び増進に寄与し,もって国民の健康
な生活を確保するものとする」となっている。
思うに,これらの条文が薬剤師に大きな影響を
理由である。
【業務移管の目標】
当時の業務移管に関する具体的な目標を整理す
与えていたようだ。
このことを薬剤師に確認をすると,
「あまり意識
はしていなかったが恐らく影響があったことは間
ると次のとおりであった。
1.
薬剤師が薬剤師としての専門業務(*)に専
念できる環境を整えること。
違いないであろう」との回答を得た。
以上が当時の薬剤科の薬品管理業務に対する認
このことは,薬剤師は服薬指導件数の増加努
識をまとめたものだが,我々はある程度は予測を
力を行うことや,ドラックインフォメーション
していたがこれらの実態を知り,ある意味驚愕を
の充実などに専念することを指す。
(*)当院の認識としての薬剤師の専門業務
隠せなかったのは事実である。
なぜならば,年間7億円もの買い物を経験と勘
とは,調剤と服薬指導であり,薬品の購買
だけで行っていたとは全くの予想外であったから
管理は一部(麻薬・血液など)を除いて専
門業務ではないと認識している。
だ。
しかし,このことはそれまでの当院のスタンス
2.
増床に伴う薬剤師増員要望を抑制すること。
このことは5名の増員要望を必要最低限の増
にも起因するところがあるため,薬剤師だけの認
員に留めることを指す。
識不足で済ませようとは思わなかった。
それよりも,現状を真摯に受け止め打開策の検
3.
適正な薬品管理体制を構築すること。
このことは薬品の購買管理はもちろんのこ
討を急いだ。
その背景には,150床増床後の医薬品の購入額は
と,購買管理のレベルとしては薬品より進んで
当時の予測で40%増の年間約10億円と見込んでお
いた診療材料の購買管理レベルとの整合性を持
り,これまでのような薬剤師だけによる責任が曖
たせ,当時合わせて14億円,増床後は合わせて
昧な環境で薬品管理が行われることに強い危機感
20億円になると見込まれていた医業費用として
をもったからである。
の材料費の事務部門によるトータル管理が目標
そこで,①これまでどおり薬剤科の管理のもと,
であった。
もちろん,そのなかには請求漏れや破棄破損
要望どおりの人員増を認めたうえで薬品管理業務
の精度を上げるよう指導した方がよいものか,②
情報の把握・対策なども含まれていた。
あるいは薬剤師の業務を見直し業務移管などを
以上を業務移管の目標としたが,我々はこれら
行ったうえで適正人員数を配置し,人件費と医薬
の目標を達成するために次の2点について細心の
品をセーブする策をとった方がよいものかの検討
注意を払った。
それは①薬剤師への配慮,と,②薬剤師が持っ
を行った。
当然,前者を選択するほうが薬剤師の反対もな
く当面は問題が表面化しなかったかもしれない
が,増員後,薬剤師が経営サイドの要求どおりの
ている既成概念の払拭,である。
①については,今回の業務移管の検討に薬剤師
を積極的に参画させることであった。
管理体制を構築してくれる保証は何もなかった。
前述した,業務移管の目標の第一項目に「薬剤
そこで,ある程度は後者の選択を視野に入れた
師が専門業務に専念できる環境を整えること」と
うえで薬剤師が行っているすべての業務について
位置付けたのもそのためであり,このことは薬剤
調査を行い薬剤師の業務内容の見直しを試みた。
科サイドに「経営サイドが自分たちのために業務
もちろん,その改善効果としては,適正な人員
の見直しを検討してくれている」との印象を与え,
配置による経済的な効果(人件費削減効果)と,
快く協力してもらうために使った方策の一つであ
適正な管理下での医薬品費の圧縮(在庫を含むコ
る。
スト削減効果)を狙っての試みであった。
162
162(162)
このことはかなり情緒的な判断・配慮ではあっ
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
④請求漏れ,破棄破損まで踏みこんだ購入後の
たと振り返るが,長年自分たちの業務として行っ
使用管理の徹底。
てきた薬品管理業務をある時期をもって他部署に
⑤計画的な購入計画の策定と結果の報告義務の
移管することになる薬剤科の心中を察すれば当時
確立。
とった判断は適切であったと思われる。
などさまざまな経済的メリットを説明して納得
②については,彼らが持っている“既成概念の
払拭”の可否が成否のかぎを握るであろうと考え
してもらった経験があった。
このように,円滑な業務移管のためのキーワー
ていた。
なぜならば,我々は過去に診療材料の購買管理
ドとしての①薬剤師への配慮と,②薬剤師が持っ
の業務移管を行い既に成果をあげていたが,その
ている既成概念の払拭のための努力は惜しまな
業務移管の協議の際に今回と同じような場面を経
かった。
思うに,それまで慣習的に行っていた業務の移
験していたからである。
具体的には,診療材料の中央管理がそれである
管を納得してもらうためには経済的メリットだけ
が,これは旧体制下では既成概念として存在して
では不十分であり,専門業務に専念していただき
いた各部署ごとの個別発注という慣習を打ち破
たいとの説明が最も効果があることを経験してい
り,医薬品以外のすべての物品に関する発注と管
たのである。
従って,今回も当時の薬剤科に既成概念を払拭
理を事務部の購買管理課(当時は施設管理課用度
してもらうために「薬品を当院に搬入するディー
係)に移管をしたという過去の経験である。
このときも,慣習的に発注業務を行っていた各
所属長とは大いに議論を交わした記憶がある。
参考までに当時を振り返ると,次のような意見
が発注権を握っていた各所属長から出された。
①なぜこれまでのように現場で発注することが
ぶのは薬剤師でなくてはならないのでしょうか」,
「輸液はとても重いため搬送(払出・補充)は疲
れるでしょう,我々が替わりましょう」などの矛
盾や大変そうにみえるところを指摘し,さらに,
「その時間と手間は事務部門で吸収するので空い
悪いのか?
②事務部は何を考えているのか?
ラーは薬剤師ではないのに,なぜ院内で薬品を運
自分たちを
た時間で薬剤師でなくてはできない仕事をやって
ください」などと既成概念の払拭を促すような会
疑ってはいないか?
③事務部に任せて欠品を起こした場合だれが責
話を敢えて行ったものである。
以上が,業務移管の3つの目標と,その目標達
任をとるのか?
④品質管理が不十分で材料を無駄にしたらだれ
成のために当院が取り入れた2つの方策であっ
た。
が責任をとるのか?
⑤誤って購入し,誤って診療に使用し,医療事
故を引き起こしたらどうする?
⑥現場に事務部の人間が入ると邪魔だ!
【業務改善のプロセス】
当時の病院長を中心に薬剤科長と購買管理課長
迷惑
で下記項目を順次協議し,確認し,決定をしていっ
だ!
等々,さまざまな意見があった。
た。
しかし,我々は,使用部署と購入部署を切り離
1.
薬品の購買管理は,薬剤師の専門業務ではな
いこと確認した。
すスタイルで事務部門がイニシアチブをとり,院
内で使用されるすべての物品を一括して管理する
2.
薬品の購買管理は,一部(麻薬・血液など)
を除いて薬剤師以外でも管理が可能であること
ことによるメリットを説明した。
を確認した。
具体的には,
①渉外窓口の一本化による内外に向けた公平性
の確立と責任の明確さ。
3.
薬剤師全員を対象に,薬品管理に費やす作業
時間を1週間調査することが決定した。結果,
②一括購入による安価な購入。
薬剤師12名中,約2.5名が常時薬品の購買管理に
③在庫管理の徹底。
従事していることが確認された。
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
163(163
163)
費用面でみると,この薬剤師2.5名の人件費
れていないものや,当院では採用もされていな
は,当院規定の臨時職員7名分の人件費に相当
い薬品,採用はされているが規格が違うもの,
することが確認できた。
さらには単価が間違って登録されているものな
4.
5.
費用対効果の見地により,購買管理課所属の
臨時職員3名で薬品の購買管理を行うことが決
ど人為的齟齬が見られた。
これらは,医事システムと薬剤管理システム
がリンクし,さらにマスター登録の権利が1カ
定された。
薬剤師は,購買管理課の臨時職員が薬品の購
所で行われるような環境が整っていなければ大
買管理を行ううえで覚えなければならない薬品
なり小なり必ず発生するものであり,定期的な
の種類や保管についての教育を行い,彼らがそ
メンテナンスとして照合作業は必須であると考
れらを習得するまでの間は業務をサポートする
える。
ことが決定された。
②定数管理の導入ができた。
6.
7.
薬品の品質管理については,従来どおり薬剤
使用実態に合わせた定期的な定数の見直しがで
師の業務として確認された。
8.
薬剤師は,専門業務専念の成果として服薬指
導件数の増加を目指すこととなった。
9.
元倉庫と払出部署の定数管理を行い,さらに
移管後においても薬剤科と購買管理課は連絡
きるようになった。
③払出回数の見直しができた。
各部署,日に2回の在庫確認と払出が可能と
を密にし,購買管理課で把握する薬品の購買管
なり,欠品や無駄が出にくい供給体制ができた。
理に関するすべてのデータを毎月薬剤科に提供
④棚卸回数の見直しができた。
これまで年2回の棚卸を毎月末に実施し,
することが確認された。
上記プロセスを経て,平成10年10月から当院の
薬品に関する購買管理業務は薬剤科から事務部門
1.
下げることができた。
果】
明確な金額は避けるが数千万円の在庫が削減
薬品の購買管理に携わっていた薬剤師2.5名
薬剤師は服薬指導件数を前年度比で1.7倍に
150床の増床時の薬剤師増員数を当初要望の
5名から2名に抑制することができ,年間約1
千8百万円の人件費を抑制することができた。
4.
1回の発注量などを過去の実績や平均値など
を用いて行えるようになり,過剰在庫や欠品な
増やすことができた。
3.
できた。
⑥計画的購入が行える体制ができた。
分の業務が削減できた。
2.
⑤在庫日数を減らすことができた。
20日以上あった在庫日数を10日前後まで引き
の購買管理課に移管された。
【結
デットストックを減少させた。
さらに,削減できた人件費の1/2以下の費用で
薬品の購買管理要員である臨時職員3名の雇用
どを防ぐことができた。
⑦特定品目の重点管理を行うことができた。
造影剤や抗がん剤などの高額薬品の請求漏れ
チェックができる体制が整った。
⑧破棄・破損・期限切れ薬剤の調査体制ができ
た。
ができた。
事務部門が管理することによりこれまで管理
また,その調査結果を現場にフィードバック
が行き届かなかった部分まで踏みこんで管理で
させ,その発生プロセスなどを協議し改善を促
きるようになり,次のような業務体制を構築す
すことができた。
ることができた。
⑨上層部が求める購買管理に関する情報を簡便
5.
①医事マスターと薬品管理マスターとの定期的
このことは請求漏れや過剰過小の誤った請求
を防止する意味で極めて重要な作業である。
実際に照合作業を行ってみると,既に購入さ
164
164(164)
に提供できる体制ができた。
資料を簡便に抽出し物流を経済的な視点でコ
照合ができた。
ントロールすることができた。
また,この中には診療材料の購買管理と同じ
レベルで捉えた資料もあり,当院の材料費の実
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
に97%を占める医薬品費と診療材料費を同じ
テーブルで協議しその動向から医業収入への影
響などを科別に検討できる資料など,経営分析
上欠かせない資料も提供可能となった。
⑩がんセンター開設時の混乱を避けることがで
きた。
開設直後から欠品や定数などに関して,現場
からのクレームはなかった。
資料2
資料3
廃棄薬剤集計表
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
165(165
165)
以上の結果から,薬品の購買管理業務の事務部
門への移管の成果は十分に確認できたものと考え
データ(7月分)である。
名付けて,「薬品 SPD 通信」と呼んでいる。
る。
SPD 通信の送信先は資料2の「宛先」欄にもあ
【運用面での事例報告】
るが,これは当財団のセンター長・病院長・事務
最後になるが運用面での事例をいくつか報告し
部長・診療技術部長・薬剤科長あてであり,送信
後は本資料に関する質問や指示などが寄せられ,
たいと考える。
これ(資料2)は現在,購買管理課が毎月10日
前後に先月分の医薬品の購買管理データとして,
資料4
院内のイントラネットにて送信し報告をしている
イントラネット上で活発な意見交換や協議などが
なされている。
期限切れ廃棄薬品明細表
166
166(166)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
なお,イントラネットの送信画面には毎月ト
資料5
混注廃棄薬明細表
ピックスとして添付資料の概略を購買管理課長の
コメントとして記している。
(資料2-No.25のトッ
ピクス参照)
また,画面(資料2)の左側の Excel ファイル
をクリックすると廃棄薬剤集計表(資料3)があ
らわれ,上から順に薬品・血液・麻薬の購入額と,
それぞれが廃棄された理由を①期限切れで廃棄,
②混注後の処方変更による廃棄,③破棄破損によ
る廃棄の3パターンで廃棄内訳を表示しそれぞれ
の廃棄率と全体での廃棄率を閲覧できるようにし
てある。
さらに,それらの詳細を見たい場合はそのファ
イルのページをクリックすると期限切れ廃棄薬品
明細票(資料4)があらわれ,何がどこで期限切
れとなって廃棄されたかがわかる。
また,病棟別に混注後廃棄になった薬品の明細
(資料5)も見ることができる。
これらの情報を押さえることは地味な作業では
あるが,購入した貴重な院内資源としての薬品や
血液が,①いつ,②どこで,③何が,④いくつ,
⑤いくら,⑥何の理由で,廃棄されたかを現場に
フィードバックできるため,再発防止を呼びかけ
るための資料としては極めて価値のある資料とな
る。
資料6
麻薬調査(金額は税抜購入価ベース)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
167(167
167)
さらに,購入したものを漏れなく請求している
このことは,コスト面での影響を危倶してのア
かの請求漏れ調査にも大いに活用できる大切な資
クションだけではなく,麻薬などが院内に必要以
料にもなる。
上に多くあることによって起きる可能性がある事
参考までに,当院の医薬品に関する請求漏れを
簡単に報告するが,業務移管前の請求漏れは医薬
品購入額の5%前後はあったと推測されるが,移
故や事件を未然に防ぐためのアドバイスとして
行っている。
同じように,血液に関しても購買管理の視点で
いえば今後検討が必要となることが予想される案
管後は1%前後で推移している。
このことは増床の前後で医薬品購入額が1.4倍
も違うため単純には比較できないが,年間で約4
千万円以上の請求漏れを業務移管によって回避で
件である。
なぜならば,血液の廃棄率(資料3)が月平均
6.5%と高い点が問題であるからだ。
聞くところによると血液の廃棄率が1%台の施
きたことになる。
これらをみる限り,薬品の管理はかなりのレベ
設もあるとのこと。
当院としてもこのあたりを精査する必要があり
ルに達しているものと自負する。
これらのデータは,我々が直接管理しているが
そうだ。
故に,正確・簡便に抽出することが可能であり,
いずれにしても,このように業務移管後も薬剤
しかも安価な人件費で作成できるものであって,
科と購買管理課は薬品の購買管理に関するすべて
薬剤師が本来業務の合間で行うことは不可能であ
の情報を共有し,お互いの領域にも目を配り業務
る。
を行っているのである。
仮に薬剤師に対して,時間とお金と人をかけて
管理の手法や,資料の作成方法を伝授すれば間違
いなく同レベルでの管理は可能であろうと考え
【考
察】
事務部門が管理を行う新体制での薬品管理も丸
4年目が過ぎようとしている。
る。
しかし,人件費面でのコストパフォーマンスや
この間,多くのシーンでかなり踏み込んだ議論
薬剤師の本来業務がもたらす生産性などを考えれ
などが発生したが,薬剤師が本来業務に専念でき
ば,薬剤師による管理の継続を一新し,事務部門
る環境が整い,さらに事務部門により年間約10億
への業務移管を選択した当院の判断は適切であっ
円もの薬品がスムーズに現場に供給され,しかも
たと考えるのである。
安価なコスト負担で済み,多額な材料費である医
最後に,業務移管後の問題点として一つの事例
薬品費と診療材料費が事務部の購買管理課によっ
て科学的にコントロールされている現状をみる
を報告する。
資料のトピックス欄に麻薬に関する話題を重点
と,その時々の苦労が報われるような思いがする。
的に取り上げているが,これは冒頭述べたように
これらのことから,当院の伝統として開院後13
麻薬は薬剤師が管理するものであるため,薬剤師
年間,薬剤師が継続して行ってきた業務を,ある
によって購買管理が行われている領域での話であ
一定の検討期間を経て,所管を変え,内容を変え,
る。
しかも経済的効果を引き出そうとした試みは,当
これは現状あまり好ましくない管理の結果(資
料6)について,購買管理課が薬剤科に対して“警
初の目標を上回った成果をもたらしたものと考え
る。
そこで,敢えて今回の業務移管を振り返ると“既
鐘”を鳴らしている場面である。
ある程度は見込み済みだが,現場の意識として
はどうしても欠品を嫌うあまりに在庫を過剰に抱
成概念の見直し”とは,驚くほどの効果を生むも
のだと驚かされることである。
える傾向が今でも時折見受けられることがある。
とかく,病院の組織上の一つの特徴としてよく
そのようなとき,いくら業務をセパレートした
使われる言葉に“部署ごとに閉鎖的な考えが根強
後といえ事務部門では薬剤師に対して注意を喚起
することがある。
168
168(168)
くある”という言葉がある。
確かに,普段そのように感じる場面もあること
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
はあるが,それが故に,そのような閉鎖的な考え
を払拭し,何らかの改善を行った場合の経済的な
効果は計りしれないものがあるものと考える。
そこで我々は今回の業務移管の経験から,日々,
うかと考えるのである。
なお,最後になるが,今後,間違いなく進むで
あろう経営面での医療環境の悪化などを視野に入
れた場合,部署間の問題点をいち早く察知し,積
何気なく行っている自分たちの業務を,発想や視
極的に建設的な議論の場を提供して行くことも,
点を変えて見つめ直す必要があるものと考える。
我々事務部門に課せられた重要な業務の一つとな
そして,有効なテーマを発見するなり,そのテー
るのではなかろうかと考える。
マに向かって検討する場面などで最も役に立つこ
とは,普段からの部署間の“コミュニケーション
の充実”ではなかろうかと考えるのである。
担当講師:益田啓作先生
(神奈川県病院協会参与)
なぜならば,今回の業務移管の過程においても,
薬剤科との共通認識の確立の場面などで,普段か
評:薬剤の管理は薬剤師がするものとの既成概念
らのコミュニケーションが大いに生かされた場面
を打破して薬剤の管理を事務部門に移管し,薬剤
が多々あったからである。
師の本来業務に専念できる環境をつくり薬剤管理
思うに,医療活動を中心に多種多様な職種で構
の適正化によって人件費・薬剤費の圧縮の成果を
成されている病院という組織は,
“チーム医療”と
あげた実績報告である。また最前線のチーム医療
いう言葉で強く結ばれてはいるが,最前線での
だけでなく医療活動の水面下におけるチームワー
チーム医療だけではなく,その医療活動の水面下
クを強調している,病院管理上他の病院の模範と
においても,十分なコミュニケーションのうえに
なる論文であって日本病院会誌への投稿をすすめ
成り立った“チームワーク”が不可欠ではなかろ
たい。
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
169(169
169)
■一番町だより
平成15年度
日
時
第7回定例常任理事会
議事抄録
〔承認事項〕
1.
平成15年10月25日(土)
会員の入退会について
午後3時∼5時
場
所
A.正会員の入会2件
日本病院会会議室
1.
医療法人
谷田病院
出席者
会
(99床:一般39,療養60)
長
副 会 長
中山耕作
会員名
大道
〒861-4601
學,奈良昌治,武田隆男,
谷田理一郎(理事長)
熊本県上益城郡甲佐町岩下
123
山本修三
常任理事
西村昭男,林
℡096-234-1248
雅人,真田勝弘,
紹介者
川城丈夫,近藤達也,齊藤寿一,
秋山
洋,池澤康郎,天川孝則,
福田浩三,中後
監
会員名
〒359-0002
和夫
福庭勲(院長)
埼玉県所沢市中富字北新田
1865-1
加藤正弘
℡042-942-0323
赤沼克也
B.正会員の退会1件
顧
問
依田忠雄
参
与
高久史麿,鴨下重彦,行天良雄,
牧野永城,岡崎
埼玉西協同病院
(50床:一般50)
星
代議員会議長
委 員 長
その他法人
勝,川合弘毅,
元原利武,角田幸信,瀬戸山元一
事
同副議長
2.
高野正博熊本県支部長
1.
学校法人
慶應義塾大学伊勢慶應病院
(289床)
通,内田卿子,
三宅浩之
会員名
米川甫(院長)
里村洋一,大井利夫
三重県伊勢市常磐2-7-28
(9.30付で閉院のため)
常任理事会の開会前,午後1時から,学習院大
C.賛助会員の入会7件
B会員
JA 東京健康管理センター(医療)
と市場原理」と題した特別講演が1時間,質疑応
代表者
伊藤均(院長)
答が40分ほど行われた。引き続きインターネット
〒190-0023
学経済学部・遠藤久夫教授による「医療制度改革
1.
東京都立川市柴崎町3-6-10
℡042-528-1380
委員会による動画配信(ストリーミング配信)の
B会員
セントラルパーククリニック
録画が流され,大井委員長は今後学会を中心に日
代表者
岡伊津穂(院長)
病のライブラリとして積み重ねて行きたいと説明
〒760-0017
デモンストレーションとして,第46回の福井にお
2.
(医療)
ける日本病院学会開会式の学会長及び会長挨拶の
高松市番町1-10-16
℡087-863-4560
した。
B会員
天神クリニック(医療)
長から会議定足数について定数24名に対し出席20
代表者
朝長正道(理事長)
名,委任状3通,計23名の出席で本会議が成立し
〒810-0001
少憩の後午後3時から本会議を開会し,中山会
3.
任理事を選出し,奈良副会長の司会により議事に
福岡市中央区天神2-12-1
℡092-721-3571
ている旨を報告,議事録書名人に近藤,川合両常
4.
B会員
鹿児島県厚生連健康管理センター
(医療)
入った。
代表者
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
川井田幸一(代表理事会長)
171(171
171)
■一番町だより
〒890-0062
5.
会員会費が予算比98.9%の収納で昨年より16ポイ
℡099-256-1133
ントほど高く,その他の収入は昨年と同程度であ
B会員
深谷市総合健診センター(医療)
る。支出の部は,委員会以下会議までは昨年とほ
代表者
清水巌(管理者)
ぼ同程度の支出で,事務所管理費の事務所賃貸料
埼玉県深谷市常盤町62-2
として5階会議室の敷金を支出した。公租公課で
℡048-572-2411
は,14年度の法人事業税等を顧問税理士の指導を
(株)イー・ヴィジョン
受けて修正申告した。以上,当期支出合計は1億
〒366-0034
6.
鹿児島市与次郎1-13-1
A会員
(病院情報案内システム事業)
代表者
福島昭人(代表取締役)
〒162-0067
パルセ富久1101
A会員
なった。
次に,事業特別会計の収入の部で,当期収入合
東京都新宿区富久町16-12
計は8,829万円で収納率は76.8%と昨年とほぼ同
程度であり,引き続き診療情報管理通信教育の受
℡03-5919-3077
7.
1769万円で,当期収支差額がマイナス8,496万円と
講生が増加している。支出の部は,研究研修会が
(株)理舎
(院内テレビレンタル,造園・緑化事業)
3回,セミナー4回の経費を支出し,通信教育で
代表者
は事務室の整備,移動に伴う備品等の費用を計上
岡田誠(代表取締役)
〒730-0842
広島市中区舟入中町2-14
した。その他の支出項目は昨年に比較して若干少
℡082-295-3083
なめになっている。以上,当期支出合計は7,893
万円で,当期収支差額は936万円となった。
以上の入退会について奈良副会長から,正会員
基本財産,退職手当積立金,IHF 国際交流基金
の入会が2件と退会1件,賛助会員の入会7件に
の3つの特別会計については,収入は3特別会計
ついて諮られ承認された。計,正会員数は2,742
とも銀行預金の利息分であり,支出は退職手当積
病院(公的967,私的1,775,総病床数72万700床),
立金で1人分の退職金を支出し,IHF 国際交流基
賛助会員数は526会員となった。
金では秋山国際委員長以下4名の,マレーシアに
2.
厚生労働省及び各団体からの依頼について
(1)
おける AHF 理事会及び国際ヘルスケアショウに参
加した費用を支出した。
以上の説明の後,星監事から監査報告がなされ,
がん疼痛緩和と医療用麻薬の適正使用推進
のための講習会の後援(依頼元:麻薬・覚せい
第2四半期の一般及び特別会計の収支報告は承認
剤乱用防止センター,日本薬剤師研修センター)
された。
(2)
MEDIS-DC 講演会の後援(医療情報システム
開発センター)
(3)
国際アルツハイマー病協会第20回国際会
4.
その他
(1)
大道副会長から事務局職員の給与規程改定
議・京都・2004開催の後援(呆け老人をかかえ
(案)について,国家公務員準拠となっている給
る家族の会,同会議組織委員長・国際会議議長)
与規程は人事院勧告が国会を通過したので改定実
奈良副会長から,以上の3件の後援依頼につい
施したい。俸給月額が平均マイナス1.1%,扶養手
当は配偶者の月額を500円引下げ,期末勤勉手当は
て諮られ承認された。
3.
第2四半期一般会計及び特別会計の収支・監
査報告について
年間4.65月から4.4月に引下げるなどの内容であ
ると説明され,承認された。
また,山口事務局長から事務局職員1名の増員
大道副会長から説明され,7/1から9/30までの第
として,10/1付で高橋裕子を採用し学術部に配置
2四半期の一般会計について,収入の部で,当期
した旨が紹介され,了承された。
収入合計は3,272万円で収納率は83.4%となり,正
(2)
172
172(172)
山本副会長から,外保連に日病として加入す
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
■一番町だより
ることが決まったが,4つの委員会の派遣委員に
来年,横浜での第54回日本病院学会における
ついては,手術委員会に池澤常任理事(中野総合
AHF 関係のイベントとして,土屋学会長に了解を
病院),処置委員会に村上理事(旭中央病院),検
得たが AHF 各国の会長さん方によるシンポジウム
査委員会に宮崎理事(前橋赤十字病院),実務委員
を企画したい。同時通訳もつけ,各国で直面して
会に梶原監事(板倉病院)がそれぞれ選任され,
いる課題などを演題に考えている。AHF 理事会も
昨日の医療制度・社会保険老人保健合同委員会で
開催したい。AHF 会長が香港のライ氏からマレー
承認いただいた旨が説明され,了承された。
シアのベーカー氏に替わった。
11月の大韓病院協会総会には私が会長代理で出
〔報告事項〕
1.
席し,同協会からの病院税制調査団来日には池澤
各委員会,研究研修会の開催報告について
(1)
通信教育委員会・病院経営管理者養成小委員
医療経済・税制委員長へ対応を依頼した。星先生
がコーディネーターで企画している11/19∼29「医
学のルーツ,イタリアの旅」は21名の参加で実施
会(9/27)
することとなった。
「医療管理」講師の伊賀先生の後任者選出につい
(4)
日本病院会人間ドック実施病院実査小委員
て検討した。シラバス及び教科書の作成を進め,
会(奈良副会長,10/1)
平成17年度からの使用を目指すこととした。
人間ドック機能評価の立ち上げについて,ドク
(2)
通信教育委員会・診療情報管理課程小委員会
ターだけでなく事務に明るい人も実査に入っても
(山本副会長,10/10)
らおうということで10名ほどを選抜して委員会を
夏期試験の合否判定の結果,進級試験が90%,
開き,担当理事の小山先生と評価基準作成に携
卒業試験77%の合格率であった。また,専門課程
わった福田先生から評価基準等について説明を受
編入試験の合格率は76%,認定大学試験の合格率
け,一緒に勉強した。実査は1日かけて行うとし
は82%であり,通信教育認定と大学認定を合わせ
て,2名以上の複数で行くようにしたい。評価料
た今回の認定者は830名で,累計7,603名となる。
については皆さんの意見を集めて決めたい。
専門課程の教科書Ⅲの第2版修正を進めてお
8/30京都での人間ドック認定指定医研修会には
り,シラバスの一部変更も行うこととした。また,
485名が参加し,10/10∼11浜松での機能評価研修
診療録管理士のままで診療情報管理士に移行して
会には今までの実査委員の先生方と理事,評議員
いない人たちがかなりいるが,現在学会では生涯
に案内を出して92名が参加した。来年2月,もう
教育その他で診療情報管理士のレベルを上げると
1回研修会を開いて,サーベイヤーとして活躍し
いうことを始めたので,当委員会として診療録管
てもらうことになる。来月早々に岩崎,福田,小
理士の方を診療情報管理士へ移行するための試験
山先生が都内の病院をモデルに,この機能評価が
を改めてまた来年2・3月に実施することとした。
実際に機能するかどうか実験してみようと勉強に
先生方の病院でそのような管理士がいれば,ぜひ
行く予定であり,皆さんもご支持いただきたい。
この試験を受けていただきたい。
評価料については,医療機能評価機構が500床の病
(3)
院で約250万円であるけれどもそんなに高くはと
国際委員会(秋山常任理事,10/6)
8月サンフランシスコで IHF 理事会と総会が行
れないから,人間ドックの実査の費用が大体10万
われ,2,200名の参加があった。AHF 関係では韓国
円前後なのでその間をとって30万円前後でいいの
から35名,台湾33名,その他アジアから相当の参
ではないかという話が出ているが,ぜひ皆さんか
加があり,例年日本からは少なく数名であった。
らもご意見をいただきたい。
日本も今後 IHF 総会の開催時にはツアーを企画
(5)
感染症対策委員会(四病協合同感染症対策委
し,参加者を募ることとしたい。IHF 会長が香港
員会)(武田副会長,9/30)
のヨウ氏からイギリスのモルガン氏に替わった。
厚労省の院内感染対策有識者会議の報告書につ
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
173(173
173)
■一番町だより
いて説明した。その中で,感染管理の専門家の養
なのかということで,1479ページのエンドトロー
成・資質の向上の項で昨年日病が行った感染制御
ル気管内チューブというのをうちで使った。これ
スタッフの教育養成について,今年度は11月から
で見ると10本単位で出ており1本が3,730円。これ
四病協で行うということが盛り込まれている。
が術後24時間入れていれば保険から1,720円償還
SARS については,今度第1類に分類され,拡散
される。つまり2,000円損するようになっている。
の問題は多少大丈夫だと思うが,各都道府県の基
うちは2,700円で入れているから1,000円得してい
幹病院については風評被害もあり,あまり公表は
たと用度では思っていたが,医事課の計算では実
控えているようだ。SARS の今冬の流行予想がメ
際は1,000円損しているということになる。こうい
ディアから出て,インフルエンザと一緒になった
うことでメーカーに電話し,また厚労省に電話し
らどうするんだということも出ているが,そう心
たらそういう事実は知らないという返事だった。
配することはないという話もある。インフルエン
これは交渉したが,交渉次第でも何ともならな
ザワクチンは今年度はかなり需要が見込まれ,厚
い,ちょっと難しいかなと思うのは,1486ページ
労省も増産させるようにしており,若年者,高齢
のダイナミックステントという,これは何と1本
者及び病院職員のワクチン接種も勧めてほしいと
22万5,000円する。保険が通るが5万9,000円しか
いっている。それらの情報提供は国立感染症研究
戻ってこない。こういう商売がまかり通っている
所の感染症情報センターのホームページにあるの
のはおかしいし,そういうものがほかにもたくさ
で参照いただきたい。
ん出てくる。我々は手術をするたびに,保険が通
次回から,各専門分野の先生を招いて委員の勉
るといっているものでも損をしていることがこれ
強会を開くこととし,10月は SARS について岡部先
でわかるわけである。22万5,000円を5万9,000円
生,11月はエイズで岡先生,1月は結核で永井先
に下げろという交渉はちょっとしんどいと思う。
生を予定する。ICT,
インフェクション・コントロー
この問題について,厚労省にどう交渉していっ
ル・チームについて,中小病院はチームを作れな
たらいいか考えていきたいが,先生方のところで
いところがかなりあるので,大病院や ICT を作れ
もぜひ調べていただいて,その逆ざやのところを
る病院の ICT を借りる,そういうネットワークを
調べてほしい。そういうものをなくすことが医療
作ればいいと思うが,その点は厚労省も考えてい
のムダをなくすことにもなるし,厚労省も賛成す
るようで,委員会としても研究を進めていきたい。
ると思うが,そういう方向で検討していきたい。
(6)
(7)
医療経済・税制委員会(池澤常任理事,
10/17)
ホスピタルショウ委員会
(里村委員長,10/17)
委員会が調査した保険適用されない医療材料の
問題でスリーエムヘルスケア社の担当者を招き,
今年のホスピタルショウの開催結果について,
意見をきいた。その話は主に,診療材料を特定診
アンケートなどをもとに報告があった。来年の計
療材料として保険適用するにはどういう手続きを
画について詳細はこれから詰めていくが,テーマ
とればいいかという話であり,当方の目的は診療
をどうするかということを主題に議論した。この
材料がどういう値段になっているのかということ
2年ほど同じテーマでやっているが,あまり大き
であったが,あまり触れられなかった。
な変更は加えないでいこうということでメイン
お手元に,
『medie(メディエ)』という医療材料
テーマは同じ「21世紀の健康・医療・福祉」,サブ
大事典の資料があるが,上下2巻に分かれていて
タイトルのところを「安心と信頼を求めて」から,
2000ページを超える。製品名と製造会社,卸元,
「安心できる医療,信頼される病院」と少し変え
それに材料価格として償還価格が書いてあり,保
た。
険適用で償還される価格である。そして希望小売
これから内容を詰めて,1/20には開催説明会と
価格が書いてある。この中で問題にしたのは,例
新春講演会を開き PR していきたい。また,従来は
えば,保険が通る,通るというけれども一体どう
ホスピタルショウ単独で行ってきたが,経営協会
174
174(174)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
■一番町だより
側の都合もあり5月に実施している自治体総合
の実態が,要するに昭和36年から国民皆保険に
フェアと,新しく病院・福祉施設住環境フェアと
なってどれだけ国民が潤っていったかというよう
いうのを同時開催のかたちで立ち上げることとし
な,健康面で非常に改善されたというような問題
た。自治体関係は「駅前のまちづくり」というテー
の情勢分析がないと思う。もちろん医療費そのも
マで行い,新規のものは病院建築を対象とした
のは伸びてきたが,本来これは GDP との対比にお
フェアでホスピタルショウでも多少取り上げてき
いて国民医療費は捻出されるべきであり,そうい
たが,来年からは独立したフェアでもう少し充実
う意味では日本はまだまだ世界的な平均より低
したかたちで行うということになる。
い。そういうなかで,どういう部分を我々が皆保
(8)
険の内容として保持していくかという議論を抜き
医療制度・社会保険老人保健合同委員会
(西村常任理事,10/24)
前回の常任理事会で,
「保険診療と保険外診療の
にして,法律論議だけでやるのはあまり賛成でき
ない,という旨の異論であった。
併用(いわゆる混合診療)について」の報告書を
西村常任理事からは,批判は率直に受け止める
委員会として答申し,大筋で了承を得たものと認
が,これはこれで終わったわけでなく問題提起し
識しているが,その内容を一般に理解しやすくま
ているわけで,法的な根拠というものをふまえて
とめた概要も別途作成するようにという中山会長
原点から考え直すという姿勢である。日本病院会
の指示を受け,8項目を骨子とする「概要」をま
のスタンスとしてキチッとしたものだと確信して
とめた。これについて意見交換したが,わが国の
いるので,概要は外に出したい。また,本文につ
実定法制では混合診療に関する明文の規定がな
いては前回,内部的には公表するということをお
く,医療契約法を整備して国民の真の医療ニーズ
認めいただいたが,概要は外に出すけれども本文
に合った医療保険制度をつくる必要性を病院団体
は出さないというのもいかがなものかと思うの
として主張すべきである,などという意見があり,
で,そのへんの判断をお願いしたいと述べた。
協議の結果,報告書・概要(案)は重要な基本問
以上のようなやりとりの後,中山会長からこの
題の一つであり,いわゆる混合診療について検討
取扱いは暫時保留とする旨が述べられ,この項を
する際の材料として世に問うのにふさわしいもの
終えた。
であると合意され,常任理事会に上程することと
(9)
学術委員会(星監事,10/24)
日病雑誌11月号を本日配布した。今号は「第53
した。
次に,中山会長から数項目にわたる検討課題と
回日本病院学会特集号」で,巻頭言に近藤先生の
して示されていたメモのなかで,病院と診療所の
文章をいただき,病院学会はグラフと記念講演,
診療報酬を分けるべきか,ホスピタルフィーとド
特別講演などが掲載されている。特にノーベル賞
クターフィーを分けるべきか,保険外診療と特定
の小柴先生の大変ユニークな講演があり,
「素粒子
療養費の拡大を認めるべきか,などという課題に
と宇宙」という話で内容はやさしく,いい話だっ
ついて今後も継続検討することとした。特定療養
た。そのほか,行天先生の「あなたのあすを誰が
費の関連で,内保連が再度要望しようというセカ
看る」という現実的な話や,
「適塾と大阪」という,
ンドオピニオンのあり方について議論し,未収金
医学史をやっている者としては大変勉強になった
問題についても討議した。
読物もある。実は,ちょうど華岡青洲が亡くなっ
以上の報告の後,奈良副会長が混合診療に関す
る報告書の概要について意見を求めたところ,池
て200年になるので,来年は国内の医学史の旅を大
阪と和歌山にしようと思っている。
澤常任理事から,書いてある概要について内容そ
その他,12月号,1月号について予告が出てい
のものは反対でないけれども,視点がちょっと狭
るのでご覧いただきたい。なお,一般演題の前回
いのではないかと思うという意見が出た。続けて,
のプログラムが大変長いものが載ったが,今後は
これはやはり法律論議であって,現実の国民医療
縮小して掲載することとしたい。
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
175(175
175)
■一番町だより
(10)
の適正化対策について,昨年度から自主点検,説
研究会・セミナー報告
①病院経営管理研究会(10/9∼10,東京,63名。
明指導,改善指導を行ったが,改善報告書未提出
経済財政諮問会議−社会保障の在り方,DPC と病
の場合,取組み姿勢が不明確の場合に限って是正
院経営管理他)
勧告等を予定している旨の説明を受け,当方側か
②医事研究会(10/23∼24,浜松,176名。DPC
実例報告,医事業務における IT 化他)
らは医師,看護師等の勤務実態や救急輪番制の問
題について説明し,意見交換した。
入院時食事療養費について,外部委託費との差
③救急医療防災セミナー(10/23∼24,神戸,470
名。災害と精神障害,被災地・防災関連施設視察,
をもとに財務省が減額検討しようとしている問題
救急医療の現状と問題点他)
を取り上げた。四病協として一度,入院時食事療
④栄養調理研究会(10/23∼24,京都,89名。術
後病院食の国際比較,病院食の新しい試み他)
2.
ト問題などあらゆる面から検討して,減額反対の
意見書を取りまとめることとした。医療廃棄物処
四病協諸会議の開催報告について
(1)
養費の趣旨や食事提供の実態,設備投資等のコス
理の実態調査については,各団体200病院を無作為
抽出して実施し,11/5までの短期間で回収して結
医療保険・診療報酬委員会
(西村常任理事,10/3)
厚労省保険局医療課の武田室長から,
「医療機関
の部門別収支に関する研究の概要」について説明
果を取りまとめ,診療報酬改定の検討事項に反映
させるよう取り組むこととした。
(3)
医療制度委員会(奈良副会長,10/14)
を受けた。医療経済研究機構が委託を受ける「医
厚労省の医療分野の規制改革検討会及び医療計
療機関の部門別収支に関する分析研究班」に四病
画の見直し検討会の状況について報告した。今後
協から委員を派遣することになり,日病からは川
四病協代表の各委員と適宜調整を図りながら検討
合常任理事を推薦することとした。中医協の診療
会にのぞみたい。医療制度や医療保険制度,社会
報酬調査専門組織の「医療機関のコスト調査分科
保険診療報酬について委員から多くの提案があ
会」について,10/30開催予定の会に部門別原価計
り,医療提供体制のあり方についての検討課題を
算に係る資料提出の依頼があり,これは時間がな
3∼5項目に絞って提出してもらうこととした。
いので四病協関係の既存資料の4項目を提出する
こととした。
3.
自民党・平成16年度予算・税制に関する協議
会(10/9)の出席報告
その資料は日病関連では,病院部門別原価計算
調査報告とカルテ等の診療情報提供のための支援
池澤常任理事が出席し,予算要望として診療報
事業報告であり,他団体からは医療機関の IT 関連
酬関連の届出事項の迅速な公開,臨床研修医手当
メンテナンス費用調査と医療安全コスト調査とい
の公費負担,小児医療の充実確保,医療廃棄物処
う4項目である。また,四病協の診療報酬改定要
理費用の予算化という4項目を挙げた。税制につ
望書を9/18に厚労省辻保険局長,9/25日医青柳副
いては消費税の非課税見直し,ゼロ税率適用を求
会長にそれぞれ手渡した旨の報告と,診療報酬の
めた旨の報告。
不合理点・矛盾点の疑義解釈については,5項目
に大きく分けて質問を整理し提出することとし
た。
(2)
4.
厚労省・医業経営の非営利性等に関する検討
会(10/17)の出席報告
大道副会長が出席し,従来の医療法人制度に加
総合部会(中山会長,10/22)
厚労省保険局医療課の風間課長補佐から,保険
えて新しい類型として「出資額限度法人」を創設
医療行政に係る申請・届出等手続きの電子化が
しようという検討会であり,その第1回を開催し
10/27から可能となる旨の説明があり,労働基準局
た。最近よく言われる株式会社論に対抗して,厚
監督課の引地監察官からは医療機関の宿日直勤務
労省自ら医療法人制度の非営利性と公益性を更に
176
176(176)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
■一番町だより
明確にした新しい医療法人制度をつくろうという
もあるが,日病のスタンスとしては四病協で要望
のがホンネだという話もある。
した線にしたがって主張していくつもりである。
現在,医療法人には持分のある社団法人と特別
委員の中には,かつての大蔵のキャリアのある方
医療法人,特定医療法人などがあり,持分のある
とかいろいろいて,税金に関しては我々も弱いと
社団法人が97%を占めていて,非営利,配当禁止
ころもあるので,医療法人協会の豊田会長などと
によって現実には内部留保された利益などは分配
知恵を出し合っていこうとしている。ただ,同族
していないけれど,退社時とか相続時の払い戻し
規制については,公益性を高める限りにおいては
で,かたちは違うが分配するようになっている。
同族規制をしなければいけないだろうと,私個人
また,営利法人による経営支配というかたちもか
では2分の1の規制をしたらどうかと考えてい
なり入り込んできており,経営の安定化,継続性
る。そして,出資した額しか辞めるときには返っ
に非常に問題があるのが現実である。
てこない,解散するときは国のものまたは同種の
例えば,最近の八王子裁判というのはご存知だ
と思うが,ある医療法人が退社とか死亡の場合に
医療法人に移るという,非常に公共性の高いもの
と考えている。
いわゆる簿価で返すという定款をつくっていた。
これを法制化すると,財務,税務,会計などい
それで,亡くなられて相続した一族に医療法人が
ろいろな面で変えていかなくてはならないが,私
1,000万円出したけれど,時価に換算すると37億円
自身,非常に革命的な制度だけれども,実現する
になる。それで裁判にかけられたが,これは出資
のではなかろうかと思っており,日病としても大
額限度という定款がなければ,法律で返さなけれ
いに公益性,公共性が高く,しかも医療法人が継
ばならないわけである。医療法人が定款によって
続できるようなものとして,四病協の要望どおり
1,000万円返した。ただ,ここで問題になるのは,
のものを実現したいと思っている。以上の旨の報
遺族に1,000万円返しても37億円の時価であれば,
告がなされた。
ここの相続税が発生する。原告が病院のほうで返
しなさいと言ったら相続税がかかり,その法人が
5.
近代医学のルーツを探る長崎の旅(10/11∼
13)の実施報告
37億の相続税が出ていって継続できるかどうかと
いう問題がある。制度疲労というか,昭和25年に
星監事から,一昨年は京都の旅として実施して
できた法律であり,そのような問題がいっぱいい
武田先生にお世話になり,昨年は江戸の旅と続け
ま出ているわけである。
て大変好評で,今年は長崎の旅を企画した。15名
この検討会では,永続性の高い医療法人をつく
の方に参加いただき,シーボルトとポンペを中心
ろうということだが,先ほど述べた特別医療法人
に医跡を回ってきた。福井先生には大変お世話に
は29で,特定医療法人は356しかない。これは私有
なった。来年は大阪でやれという要望があり,継
権を放棄して,解散等の場合の残余財産は国や地
続していきたい旨の報告。
方自治体に帰属し,同族の支配権がなくて役員が
3分の1以下と制限されている。持分のある社団
6.
その他
の取り放題ということと,非営利とはいいながら
(1)
医療分野における規制改革に関する検討会
分配しているという現実,これと,非常に公益性
(10/20)へ奈良副会長が出席,年度内にあと3回
の高い特定医療法人と特別医療法人,この中間の
開催予定という旨の報告。
ものをつくろうというのが検討会の目的である。
(2)
元原常任理事から,先週,第2回の医療安全
この出資額限度法人制度は,医療法人協会が平
管理者養成講習会の第2クールが終わったが,講
成3年から提案して,ようやく日の目を見たとい
師の東北大学の関田先生から「リスクマネジメン
うことで,四病協でも昨年の5月と今年7月に要
トシステムに関する調査」についての企画書が提
望書を出した。まだ足並みが揃っていないところ
示された。本日の理事会で承認されれば四病協で
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
177(177
177)
■一番町だより
以上で議事を終了し,奈良副会長から閉会の挨
調査したいと説明し了承。
(3)
日本病院会参与の交替として,村井勝参与
拶が行われて常任理事会を終えた。
(慶応義塾大学病院前院長)が退任し,後任に相
川直樹氏(同院院長)が就任する旨の報告。
178
178(178)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
(日本病院会事務局広報部)
掲 示 板
薬食審査発第1201003号
薬 食 安 発第1201003号
平 成 15年 12月 1 日
日本病院会会長
殿
厚生労働省医薬食品局審査管理課長
厚生労働省医薬食品局安全対策課長
電気手術器等に係る自主点検等について
標記について,別添のとおり都道府県衛生主管部(局)長あてに通知したので,貴会傘下の会員に
御周知方,当該製品の取扱いについてご協力願いたい。
薬食審査発第1201001号
1.
肝実質細胞に対し焼灼療法等により肝実質細
薬 食 安 発第1201001号
胞を壊死等させることを意図する電気手術器等
平成15年12月1日
の医療用具の製造業者,輸入販売業者,外国製
造承認取得者又は国内管理人においては,自社
各都道府県衛生主管部(局)長
が製造又は輸入している当該製品の添付文書に
殿
ついて自主点検を行い,以下の事項について追
厚生労働省医薬食品局審査管理課長
記等の改訂を速やかに行い,併せて当該治療を
厚生労働省医薬食品局安全対策課長
実施しうる医療機関に対し注意喚起を行うこ
と。
電気手術器等に係る自主点検等について
1)原則禁忌(次の患者には適用しないことを原
則とするが,特に必要とする場合には適用する
こと)の項に「胆管に関連した手術既往歴があ
先般より,早期肝臓がんに対して,マイクロ波
る患者。」を記載すること。
による凝固療法又はラジオ波による焼灼療法が行
われているところであるが,これらの治療法を施
2)上記1)の設定理由として,[肝実質細胞の
行する際に,患者の過去の手術既往歴として膵頭
焼灼等による肝臓壊死部において,腸内細菌の
十二指腸切除術などに伴う胆道再建術が施行され
逆行による菌の繁殖に伴う肝膿瘍,敗血症など
ていた場合には,十二指腸乳頭部の括約筋の機能
の重篤な合併症を起こす恐れがあるため。]と
記載すること。
の低下又は欠損等による胆管内への腸内細菌の逆
行を伴う焼灼等後の壊死部への感染により,肝膿
2.
同様の目的に使用しうる電気手術器等を承認
瘍,敗血症等の重篤な合併症を引き起こす可能性
申請中の者においても,添付文書(案)につい
があることを示唆する報告がなされたことから,
て自主点検を行い,必要な改訂を行う旨,国立
貴管下関係業者に対し,下記の通り自主点検等を
医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査セン
行い,適切な措置を速やかに講ずるよう御指導方
ター又は医療機器センターに申し出ること。
3.
お願いする。
記
同様の目的により電気手術器等を治験中の者
においても,必要に応じ治験実施医療機関に対
し情報提供を速やかに行い,注意喚起すること。
日本病院会雑誌 2004年1月
日本病院会雑誌
2004年1月
179(179)
179
掲 示 板
医政発第1127005号
薬食発第1127002号
平成15年11月27日
日本病院会会長
殿
厚生労働省医政局長
厚生労働省医薬食品局長
医療機関における医療事故防止対策の強化について
標記については,以前より医療機関に対して,医療事故防止の取組強化が図られるよう周知徹底方
お願いしたところですが,依然として医療事故報道が後を絶たず,最近の特定機能病院や大学医学部
附属病院等における医薬品の過量投与や誤投与のように,従来から危険性の指摘されている医薬品に
よる患者死亡事故が依然として発生しています。
今般,医療機関に対して医療事故防止の取組強化が図られるよう,改めて別添のとおり各都道府県
知事,各政令市市長及び各特別区区長あて通知いたしましたので,貴会におかれましても御了知の上,
会員への周知方御協力願います。
しかし,依然として医療事故報道が後を絶たず,
医政発第1127004号
薬食発第1127001号
最近の特定機能病院や大学医学部附属病院等にお
平成15年11月27日
ける医薬品の過量投与や誤投与のように,従来か
ら危険性の指摘されている医薬品による患者死亡
各都道府県知事
事故が依然として発生していることから,貴管下
各政令市市長
医療機関における医療事故防止の取組強化が図ら
殿
れるよう,改めて周知徹底方お願いする。
各特別区区長
あわせて,貴管下医療機関において下記事項に
厚生労働省医政局長
ついて確認及び検討を行うよう,御指導方お願い
厚生労働省医薬食品局長
したい。
また,下記事項の趣旨を踏まえて,薬局におい
医療機関における医療事故防止対策の強化につい
ても,事故防止対策について確認及び検討を行う
て
よう,御指導方お願いしたい。
記
標記については,平成12年9月29日付け健政発
第1129号・医薬発第989号厚生省健康政策局長・医
薬安全局長通知「医療施設における医療事故防止
1.
対策の強化について」により貴管下医療機関にお
・各医療機関において別添「処方点検や調剤時,
ける医療事故防止の取組強化が図られるよう周知
病棟への供給時に注意を要する医薬品」(日本
徹底方お願いしたところである。
病院薬剤師会)等を用いて,間違いやすい医薬
180(180)
180
間違いやすい医薬品の採用状況の確認
日本病院会雑誌 2004年1月
日本病院会雑誌
2004年1月
抗がん剤の使用に際しては,これまでも過量
品の採用状況を把握すること。
・間違いやすい医薬品の組合せの双方が採用され
投与に伴う重大な事故が発生していることに鑑
ている場合には,双方を採用することの必要性
みて,各医療機関において抗がん剤を処方する
を再検討すること。
場合の条件を明確にするなど処方ミスを防ぐた
間違い予防のために講じている方策の確認
めの方策を講じることや,薬剤部において抗が
間違いやすいことが指摘されている医薬品を
ん剤の種類,投与量等の二重確認を可能な限り
採用している場合,間違いを予防するために講
行うことなど,抗がん剤を安全に使用するため
じている方策を再確認するとともに,それが有
の体制を確立するとともに,それが有効に機能
効に機能しているかどうかを確認すること。
しているかどうか確認すること。
2.
3.
抗がん剤の使用体制の確立
(別
添)
処方点検や調剤時,病棟への供給時に注意を要する医薬品
1
誤処方による事故,ヒヤリハット報告があった医薬品名の組み合わせ
・アマリール,アルマール
・サクシン,サクシゾン
・タキソール,タキソテール
・ノルバスク,ノルバデックス
・オーダリングシステム等を採用している医療機関において先頭3文字が同一の医薬品
2
各称類似によると思われる調剤エラーや誤投与のヒヤリハット報告が複数あったもの
・アロテック,アレロック
・ウテメリン,メテナリン
・テオドール,テグレトール
・プレドニン,プルゼニド
3
投与量のチェックを厳しく行うべきもの
・タキソール
・タキソテール
・インスリン製剤
・小児におけるアミノフィリン
4
投与方法についての注意喚起(他の医薬品との供給方法の差別化)を行うべきもの
・カリウム製剤
・リドカイン製剤(特にキシロカイン10%)
(日本病院薬剤師会)
日本病院会雑誌 2004年1月
日本病院会雑誌
2004年1月
181(181)
181
掲 示 板
医政総発第1119001号の2
平成15年11月19日
社団法人
日本病院会会長
殿
厚生労働省医政局総務課長
「広告が可能な医師及び歯科医師の専門性に関する資格名等について」
の一部改正について
標記につきまして,別添のとおり各都道府県知事あてに通知しましたので送付させていただきます。
その趣旨を御了知いただき,傘下会員に対する周知,協力方よろしくお願い申し上げます。
医政総発第1119001号
る資格名等に関しては,先に「広告が可能な医師
平成15年11月19日
及び歯科医師の専門性に関する資格名等につい
て」(平成14年7月17日医政総発第0717001号医政
各都道府県医政主管部(局)長
局総務課長通知。以下「平成14年通知」という。)
殿
をもって通知したところであるが,今般,下記の
とおり平成14年通知の一部を改正し,広告するこ
厚生労働省医政局総務課長
とができる資格名を追加することとしたので通知
「広告が可能な医師及び歯科医師の専門性に関す
する。
る資格名等について」の一部改正について
記
「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療
所に関して広告することができる事項」(平成14
平成14年通知の表について,(社)日本小児科学
年厚生労働省告示第158号)第26号に基づき広告す
会の項の次に次のように加える。
ることができる医師及び歯科医師の専門性に関す
(社)日本口腔外科学会
口腔外科専門医
平成15年11月19日
(03)5791-1791
(社)日本内分泌学会
内分泌代謝科専門医
平成15年11月19日
(075)752-2955
有限責任中間法人日本消化器外科学会
消化器外科専門医
平成15年11月19日
(03)3221-5690
182(182)
182
日本病院会雑誌 2004年1月
日本病院会雑誌
2004年1月
改正後全文
広告が可能な医師及び歯科医師の専門性に関する
資格名等について
医政総発第0717001号
「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療
平成14年7月17日
所に関して広告できる事項」(平成14年厚生労働
各都道府県衛生主管部(局)長
省告示第158号)第26号に基づき広告することがで
殿
きる医師及び歯科医師の専門性に関する資格名等
は別紙のとおりであり,それぞれの届出受理年月
厚生労働省医政局総務課長
日欄に記載の日以降広告することが可能になった
ので通知する。
(別紙)
届出受理年月日
連絡先
(社)日本整形外科学会
団体名
整形外科専門医
資格名
平成14年7月17日
(03)3816-3671
(社)日本皮膚科学会
皮膚科専門医
平成14年7月17日
(03)3811-5099
(社)日本麻酔科学会
麻酔科専門医
平成14年7月17日
(03)3815-0590
(社)日本医学放射線学会
放射線科専門医
平成14年10月1日
(03)3814-3077
(財)日本眼科学会
眼科専門医
平成14年10月1日
(03)3295-2360
(社)日本産科婦人科学会
産婦人科専門医
平成14年10月1日
(03)3260-2296
(社)日本耳鼻咽喉科学会
耳鼻咽喉科専門医
平成14年12月16日
(03)3443-3085
(社)日本泌尿器科学会
泌尿器科専門医
平成14年12月16日
(03)3814-7921
(社)日本形成外科学会
形成外科専門医
平成15年2月24日
(03)5814-5817
(社)日本病理学会
病理専門医
平成15年2月24日
(03)5684-6886
(社)日本内科学会
内科専門医
平成15年2月24日
(03)3813-5991
(社)日本外科学会
外科専門医
平成15年4月25日
(03)3812-4251
(社)日本糖尿病学会
糖尿病専門医
平成15年4月25日
(03)3815-4364
(社)日本肝臓学会
肝臓専門医
平成15年4月25日
(03)3812-1567
(社)日本感染症学会
感染症専門医
平成15年4月25日
(03)3473-5095
有限責任中間法人
救急科専門医
平成15年6月25日
(03)5840-9870
日本救急医学会
(社)日本血液学会
血液専門医
平成15年6月25日
(075)752-2844
(社)日本循環器学会
循環器専門医
平成15年6月25日
(075)751-8643
(社)日本呼吸器学会
呼吸器専門医
平成15年8月25日
(03)3254-3103
(財)日本消化器病学会
消化器病専門医
平成15年8月25日
(03)3573-4297
(社)日本腎臓学会
腎臓専門医
平成15年8月25日
(03)5159-1051
(社)日本小児科学会
小児科専門医
平成15年8月25日
(03)3818-0091
(社)日本口腔外科学会
口腔外科専門医
平成15年11月19日
(03)5791-1791
(社)日本内分泌学会
内分泌代謝科専門医
平成15年11月19日
(075)752-2955
平成15年11月19日
(03)3221-5690
有限責任中間法人
日本消化器外科学会 消化器外科専門医
日本病院会雑誌 2004年1月
日本病院会雑誌
2004年1月
183(183)
183
本年もよろしくお願い致します。
2004年1月1日
学術委員
(長)星
和夫
岡崎
通
佐野忠弘
波多野
誠
松峯敬夫
村岡
亮
研究会編集委員
上原みどり
倉辻明男
外池美和子
古瀬敬子
榎本眞理
松元和敏
谷古宇
秀
(事務局
184
184(184)
日本病院会雑誌2004年1月
2004年1月
日本病院会雑誌
渡辺元三
浜田一美)
Fly UP