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フランス地盤沈下がもたらす欧州危機、独仏国債
リサーチ TODAY 2015 年 7 月 7 日 フランス地盤沈下がもたらす欧州危機、独仏国債スプレッド拡大も 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 フランス政府は、株式を2年以上保有する株主の議決権を2倍にすることも含めたフロランジュ法を2014 年に定めている。この背景には、①長期株主の増加、②財政赤字削減と政府の発言力維持の両立、③雇 用維持の3点がある。みずほ総合研究所は、フロランジュ法に関するリポートを発表している1。フロランジュ 法のような雇用維持に向けた対応が導入されたのは、フランスの厳しい雇用情勢があり、オランド政権は重 要課題として取り組まざるをえない点がある。今日のフランスが抱える問題は、同国の経済パフォーマンス がユーロ圏域内でも悪く、ユーロ成立を支えたフランスとドイツの関係においてフランスの立場が決定的に 劣後し、ユーロ圏の意思決定がドイツ単独になることである。これは同時にユーロのもつ矛盾を露呈し、ユ ーロの存立を揺るがすことにもなる。下記の図表にもあるように、オランド政権発足以降もフランスの失業率 は上昇を続け10%台後半の水準にある。なかでも若年層の失業率は20%台半ばに高止まりしたままで、雇 用状況は深刻な政治問題である。オランド大統領の支持率は20%程度まで低下し、2017年の大統領選の 再任が危ぶまれている。 ■図表:フランスの失業率推移 12.0 (%) オランド政権 (%) 27 26 11.5 25 11.0 24 23 10.5 22 10.0 21 20 9.5 失業率 9.0 若年失業率(右目盛) 19 18 8.5 2011 12 13 14 17 15 (年) (注) 若年は 25 歳未満。 (資料)Eurostat よりみずほ総合研究所作成 今日のギリシャは、統一通貨の使用により為替調整の機能が働かないというユーロ市場の持つ本源的な 問題のなか、ギリシャに極端な緊縮財政が求められ、無理やり経常収支を黒字化させ不況を加速させられ 1 リサーチTODAY 2015 年 7 月 7 日 ている状況にある。ギリシャの失業率は20%台後半にあり、GDPはピークの2000年代後半から30%近く低 下し、2000年頃のユーロ加盟前の水準に戻った状態だ。下記の図表は、欧州各国の経常収支推移である。 ギリシャを筆頭に南欧諸国の経常赤字が黒字に転じるドラスティックな転換が2013年に生じた。ここで注目 する必要があるのは、主要国のなかでフランスだけが経常赤字を続けていることだ。一方、市場での各国 国債の動向を見ると、ドイツと並んでフランスの金利が最も低く、その動きもドイツと連動が続いている。6月 末においてギリシャ発の不安から、ポルトガル、スペイン、イタリアのスプレッドに乖離が生じた状況とは対 照的である。 ■図表:欧州各国の経常収支推移 ユーロ圏 ドイツ フランス イタリア スペイン ギリシャ (名目GDP比、%) 10.0 5.0 0.0 -5.0 -10.0 -15.0 (年/月) -20.0 00/3 02/3 04/3 06/3 08/3 10/3 12/3 14/3 (注)後方4四半期移動平均 (資料)Eurostat より、みずほ総合研究所作成 ユーロは欧州の大陸の大国であるフランスとドイツの主導によって誕生した。それは第二次大戦の体験 を持つ、フランスのミッテラン大統領とドイツのコール首相のリーダーシップによって出来上がった政治同 盟・軍事同盟の性格をもつ。ミッテランにはドイツにマルクを捨てさせて、ドイツを欧州域内に封じ込めると の思惑もあったという。ただし、現実に統一通貨が使用されれば、競争力の面で強者と弱者を遠心分離器 にかけるような状況が生じる。政治・軍事的にはドイツとフランスの対等な関係で生じたものが、皮肉にも統 合以降15年が経過し、経済面では勝者のドイツとそれ以外の敗者に切り分けられ、フランスも経常収支で は敗者に分類される状況にある。今日、フランス国債はスプレッドも小さく、市場では一見勝者の部類に見 える。しかし、経常収支は上記の図表にあるように、フランスだけが未だ赤字にあることは、将来的にドイツ と国債市場でスプレッドが付く可能性をもつ。 今回、ギリシャへの支援議論のなかで、ドイツのメルケル首相の存在ばかりが目立ち、フランスのオランド 大統領は全く影が薄い。大国の合意でできたユーロが、今やドイツへ一極集中のなか軋みを抱え始めた。 しかもドイツ以外の国々では緊縮で不満が拡大している。ギリシャ問題は今回も一定の支援で先送りされる だろう。しかし、統一通貨に伴う格差是正への本質的な対応が欠如することが、欧州の根本の問題だ。また、 その問題がフランスの地盤沈下とともにユーロの矛盾が露呈しやすいだろう。 1 松本惇 「2 倍議決権を義務づけたフランス」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2015 年 6 月 17 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2