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自然地理学・人文地理学における米国偵察衛星写真の応用
Nara Women's University Digital Information Repository Title 自然地理学・人文地理学における米国偵察衛星写真の応用 Author(s) 小方, 登; 高田, 将志; 相馬, 秀廣 Citation 高解像度の衛星画像・衛星写真を用いた環境変化の解析, pp.143-144 Issue Date 2002-03 Description URL http://hdl.handle.net/10935/963 Textversion publisher This document is downloaded at: 2017-03-31T09:40:00Z http://nwudir.lib.nara-w.ac.jp/dspace 地理要旨集53(1998) P624 自然地理学・人文地理学における 米国債察衛星写真の応用 Application of Declassified Intelligence Satellite Photographs to Physical and Human Geography 小方 登・高田将志*・相馬三二 (奈良女子大学・文学部) Noboru O GATA, Masashi TAKADA“ and Hidehiro SOHMA (Nara Women’s University) キーワード:米国偵察衛星写真,アメリカ地質調査所,衛星写真判読,自然地理学,人文地理学 Key words:Declassified Inte皿igence Satellite Photographs, USGS, Satellite photOgraphic interpretation, Physical geography, Human geography 1.はじめに 1995年2月,1960∼70年代に撮影された米国偵 の写真の有効性について検討した結果を報告する, 察衛星写真の機密扱いが解かれ,アメリカ地質調査 III.米国偵察衛星写真の基本仕様・基本特性 所(USGS)を通して広く一般に公開・販売される 今までに公開された偵察デV・一一・タには,撮影当時の ようになった.この衛星写真の仕様は後に示すとお りであるが,従来の衛星画像に比べ以下のような利 プロジェクト名でCORONA, ARGON, LANYARD と呼ばれるものが含まれている,ARGONは地図作 点を有するので,地形学・第四紀学をはじめとする 成目的、残りの2つが情報収集目的のプロジェクト 自然地理学分野,都市地理学・歴史地理学をはじめ である,これらの中でもCORONAプロジェクトは, とする人文地理学分野,その他学際的分野の調査研 121にのぼるミッション数(うち成功は95)や提供 究に少なからぬ貢献を果たすものと期待される, する情報の詳細さで主要なものと位置づけられる. 1)大縮尺地形図や空中写真の得にくい旧共産圏, CORONA衛星にはKH・1, KH・2, KH・3, KH・4, 紛争地域を中心に撮影されている. KH・4A,:KH・4Bの6種の仕様があるが,提供されて 2)LANDSAT, COSMOS, SPOT, JERS・1など いる写真の数と質においてK:H・4Aが代表的なもの の既存衛星画像と比べ解像度が良い.また後三者同 とみられるので,その仕様・特性をMcDonald (1997)所載のデータに依拠しつつ以下に概観する, 様,実体視用写真の入手も可能である, .3)既存衛星画像と比べ安価である.とくに実体視 K:H・4A衛星シリーズは,その平均高度およそ100 用ペア写真も極めて安価に入手可能である, 海里(185km)である.ステレオ視を可能とするた 4)インターネット上で検索・購入が可能なので, めに,前方視,後方視のカメラを搭載する.カメラ 入手の手続きが簡便である. は,焦点距離24インチ(610mm),焦点面の大き 5)撮影時期が1960∼70年代と従来からの衛:星画 さは2,18×29.8インチ(55×757mm)のスリット 像よりも古いので,既存の衛星画像との比較を通し カメラである,これにより,1枚の写真の地上包括 て,これまでに無いより長い時代にわたる地表面状 範囲は10.6×144海里(19.6×266.7km),焦点 態の変化を抽出しうる, 面での縮尺はおよそ30万5千分の1となる.焦点 本発表では,以上のような背景をふまえ,米国偵 面での解像度は公称1mmあたり120線とされ,地 上での解像度は9∼25フィート(およそ3∼8m) 察衛星写真を用いたいくつかの判読例を通して,こ 一 143 一 とされる.これは,民生用衛星画像としては今日最 1!16,000の国土地理院白黒密着空中写真を用いた 高水準の解像度を持つ地球観測衛星SPOTのそれ 地形判読などと比べ,遜色ない作業が可能であると にまさっており,非常な高解像度であるといえよう. 思われる. フィルムはほとんどが白黒であり,スペクトル的感 3 光特性についての仕様は明らかにされていないが, 溢血代に火焔山地北麓に建設された交河故城の遺 おそらくはパンクロマチックかそれに近い感光特 跡は,周囲を河川に囲まれたヤルホトの細長い河岸 性のものであろう. 段丘面上に位置する.この河岸段丘面を挟む河川は 玉 ル ン のzEs’口古 ’の、t’ 堵 下流側で合流し,衝立(ついたて)のようにそびえ 皿.写真判読例 1シ1に}}ヘニ“ る火焔山地前面の,別の丘陵を先行谷をなして流下 してゆく.偵察衛星写真の判読では,この段丘面に Aの’ 写真1は,前3世紀,セレウコス朝によって建設 関して,現河床との比高など地形に関する基本的な されたシリア,オロンテス河畔のアパメアの遺跡で 情報が得られたと共に,故城の外郭部・内城やさら ある.ストラボンはアパメアの立地について,「そ には仏塔と推定される建造物の識別までが可能で の大部分が要害堅固の場所にある.盆地状の平原の なかに丘があってみごとな城壁を築き,しかもオロ あった.そして従来のLandsat衛星画像やJERS・ 1衛星画像などに比べ,地表面状況のより細部にお ンテス川と大きな湖のために半島状になってい よぶ判読に極めて有効であることが確かめられた. る.」と述べているが,写真からは,この遺跡が, なお当日は,上記3例以外に,ブ…一・Lタンヒマラヤ 西側を富鉱ンテス河谷の谷中平野,東側および南側 の氷河地域や高昌故城の立地環境などの事例も展 を谷中平野に注ぐ小谷にはさまれ,北側から半島状 示予定である. に延びた台地の先端を占めていることが理解でき る.半島の付け根に当たる北側には,人工的な囲郭 (堀あるいは城壁)と思われる線形フィーチャPtを 認めることができる.また,市内には格子状の街路 プランが施されていることがわかる.これは「ヒッ ポダモス式」と呼ばれ,ギリシア/マケドニア人に よる植民都市に典型的にみられる. ブータン中部Wangdiphodrang付近の河岸段丘 を例に写真判読を行った.偵察衛星写真は,実体視 可能な2枚の原版ポジフィルム(KH:・4A)を35m スライドサイズにカットして,これをダイレクトプ リントで六切サイズに焼いたものを用いた. 現地で行った簡易測量の結果,当該地域の河岸段 丘は現河床からの比高が4∼110mで;10段程度に 区分できることがわかっている(高田,1992).こ 行った結果,比高数m程度の段丘面間の識別も容易 写真1:アパメアのCORO:NA衛星写真(DS1046・ 2104DAO47, DS 1046・2104DAO48:1968年3月 に行えることがわかった.さらには,地すべり地塊 21日撮影)から判読できる線形フィーチャーと都市 内部の小ブロックの構造などまで判読可能であっ 囲郭(Data available from U,S, Geological Survey, た.感覚的な表現で言えば,国内における縮尺約 EROS Data Center, Sioux Falls, SD.) れらの河岸段丘を対象に実体視による写真判読を 一 144 一