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ブランド価値の株価関連性と超過収益の獲得可能性

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ブランド価値の株価関連性と超過収益の獲得可能性
Kobe University Repository : Kernel
Title
ブランド価値の株価関連性と超過収益の獲得可能
性(The Stock Price Relevance of Brand Assets and the
Realizability of Excess Returns)
Author(s)
桜井, 久勝 / 石光, 裕
Citation
国民経済雑誌,189(5):17-32
Issue date
2004-05
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
DOI
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00055923
Create Date: 2017-03-31
ブ ラ ン ド価値 の株価 関連 性 と
超 過収益 の獲 得 可 能性
勝 裕
久
井 光
桜 石
知的 財産 に関 す る投資 者 向けデ ィス ク ロー ジャー制 度 を考 察 す る基礎 として,ブ
ラ ン ド価値 評価額 と株価形 成 の関係 を実証 的 に分析 した と ころ,次 の2つ の事 実が
確 認 され た。第1に,経
済 産 業省 のブ ラ ン ド価値 評価 研究会 が提 案 す るモデル か ら
導 出 され たプ ラ ン ド価値評 価額 は,純 資 産 と利 益 の情報 を所 与 と して もなお,企 業
間 での 株価 水準 の ば らつ きを追加的 に説 明す る能 力 を有 す る。第2に,純
資 産 と利
益 にブ ラン ド価値 を加 えた3変 数 か ら構 成 され る企 業評 価 モデル を基礎 と して割 安
株 と割 高株 を判定 す る投資 戦略 は,市 場 平均 を上 回 る超 過収益 率 を もた らす 。 これ
らの発見 事項 は,ブ ラ ン ド価値 評価額 が投 資者 向 けの財 務報 告制度 に何 らかの形 で
含 め るに足 るだ けの情 報価 値 を有 す るこ とを示 唆 して い る。
キー ワー ド
ブ ラ ン ド,知 的 財 産,株
1企
価形成
業評 価 と知 的 財 産
先 進 国 の 企 業 間競 争 に お い て,中 心 的 役 割 を担 うの は 知 的 財 産 で あ る との 認 識 が 産 業 界 に
広 ま りつ つ あ る。 土 地 や 生 産 設備 な どの 有 形 固 定 資 産 お よび 株 式 な ど の金 融 資 産 に代 わ って,
研 究 開 発 や 特 許,商 標 や プ ラ ン ド,情 報 ネ ッ トワー ク,従 業 員 の 能 力 な ど,物 理 的 な形 態 を
もた な い知 的 財 産 が,企 業 価 値 の推 進 力 と して 注 目 さ れ て い る。 したが っ て投 資 者 の 観 点 か
らの企 業 評 価 に際 して も,こ れ らの 知 的 財 産 の価 値 を適 切 に考 慮 す る こ とが不 可 欠 で あ る。
しか し知 的 財 産 の価 値 評 価 は,最 近 に その 方法 の 開 発 が 始 まっ た ば か りで あ り,個 々の 研
究 者 や 各 種 の機 関 な い しコ ンサ ル テ ィ ン グ会 社 な どが 提 案 す る多様 な 価 値 評 価 モ デ ル が 乱 立
して い るの が現 状 で あ る。 ま して企 業 か ら投 資 者 に向 け た財 務 報 告 の 世 界 で は,知 的 財 産 へ
の 配 慮 が 大 き く立 ち遅 れ て い る とい わ ざ る を え な い 。 投 資 者 向 け の 財 務 報 告 制 度 に お け る知
的 財 産 情 報 の取 扱 を考 察 す る に は,ま ず は じめ に証 券 投 資 の 意 思 決 定 にお け る そ の よ う な知
的 財 産 情 報 の 有 用 性 の有 無 や 程 度 に 関 す る科 学 的 な証 拠 の 蓄 積 が 前提 とな る。
そ こ で本 研 究 は,多 様 な 知 的 財 産 の う ちプ ラ ン ドに 焦 点 を 当 て て,次 の2つ の 問題 に関 し
第5号
第189巻
18
て 実 施 した 実証 分 析 の 概 要 と結 果 を報 告 す る。 第1の
問題 は,連 結 財 務 諸 表 を通 じて 公 表 さ
れ て い る純 資 産 と利 益 の 情 報 を所 与 と して も,プ ラ ン ド価 値 評価 額 が 株 価 形 成 を追 加 的 に説
明 す る変 数 とな る ほ どの 有 用 性 を 有 す る か否 か で あ る。 第2に,純
資 産 と利 益 の 情 報 だ け を
利 用 して売 買 の 株 式 銘 柄 を選 択 した 場 合 よ り も,こ れ に プ ラ ン ド価値 を追 加 した3情 報 に基
づ い て売 買 対 象 銘 柄 を選 別 す る方 が,よ
りい っ そ う高 い 投 資 収 益 率 を達 成 す る こ とが 現 実 に
可 能 か否 か を調 査 す る。
本 研 究 で 調 査 対 象 とす るプ ラ ン ド価 値 評 価 額 は,経 済 産 業 省 の プ ラ ン ド価 値 評 価 研 究会 が
提 案 す るモ デ ル に基 づ い て 算 定 され た 数値 で あ る。こ の モ デル は,証 券 取 引法 の デ ィス ク ロー
ジ ャ ー 制 度 に基 づ く公 表 財 務 情 報 だ け で,プ
ラ ン ド価 値 評 価 額 を算 定 で き る とい う特 徴 を有
す る。 した が っ て上 記 の 第2の 研 究課 題 につ い て,も
し超 過 収 益 率 の獲 得 が 可能 との 肯 定 的
結 果 が 得 られ る な らば,そ れ は公 表 会 計 情 報 の 中 に まだ まだ 株 価 に 完 全 に は織 り込 まれ て い
な い 部分 が 存 在 す る こ との 証 拠 に もな るで あ ろ う。
本 稿 は次 の よ う に構 成 さ れ て い る。 第2節
で米 英 の 先 行 研 究 を レ ビ ュ ー した の ち,第3節
で は,上 述 の2つ の 問 題 を調 査 す るた め の リサ ー チ ・デ ザ イ ン を議 論 して い る。 第1の
問題
た るプ ラ ン ド価 値 評 価 額 の株 価 関 連性 を め ぐ る実 証 結 果 は 第4節 で 提 示 す る。 ま た第2に,
プ ラ ン ド価 値 の 株 価 関 連 性 を利 用 した投 資 戦 略 の 有 効 性 に つ い て は,第5節
下 で 報 告 す る研 究 結 果 は,プ
で 報 告 す る。 以
ラ ン ド価 値 の 株 価 関 連 性 に つ い て も,ま た そ れ を利 用 した超 過
収 益 の 獲 得 可 能 性 につ い て も,肯 定 的 な証 拠 を提 示 して い る。 第6節
で は,本 研 究 の 発見 事
項 を要 約 す る と と もに残 され た課 題 を考 察 して本 稿 の 結 び とす る。
2先
行
研
究
知 的 財 産 の うち で もブ ラ ン ドは,販 売 活 動 の 成 果 へ の 影 響 を通 じて企 業 価 値 を 大 き く左 右
す る もの と して,多
くの 研 究 者 の 関心 を 集 め て きた 。 その よ うな研 究成 果 の うち,こ
こで は
プ ラ ン ド価 値 評 価 額 と株 価 形 成 との統 計 的 な 関連 性 の 有 無 につ い て英 米 で 行 わ れ た 実 証 研 究
を レ ビ ュー す る。
プ ラ ン ド価 値 の株 価 関 連 性 を世 界 で 最 初 に調 査 したの はBartheta1.[1998]で
あ る。.この
研 究 で は,イ ギ リス の プ ラ ン ド ・コ ンサ ル テ ィ ン グ会 社 の イ ンタ ー プ ラ ン ド社 の モ デ ル で算
定 され たブ ラ ン ド価 値 評 価 額 が経 済 雑 誌 のFinancialWorldに
掲 載 さ れ て い るア メ リカ の
上 場 会 社183社 が 調 査 対 象 と され て い る。こ れ らの 企 業 に つ い て1991年 か ら1996年 の 期 間 か ら
抽 出 され た延 ベ サ ンプ ル 数 は508企 業 年 で あ る。
プ ラ ン ド価 値 と株 価 形 成 の 実証 的 な 関 連 性 の有 無 は,次 式 で 示 され る ク ロ ス セ ク シ ョン回 帰
分 析 に よ っ て調 査 され た。
P,=ca+c、Xi+c2Yi+c3Zi(1)
19
プ ラ ン ド価 値の 株価 関連性 と超 過収 益 の獲 得 可能性
被 説 明 変 数 のPは
株 価 を表 し,説 明 変 数 のXは
計 算 書 の1株
当 た り当期 純 利 益,Zは1株
1)
とお りで あ っ た。
は表1の
貸 借 対 照表 の1株
損益
当 た りプ ラ ン ド価 値 評 価 額 を表 して い る。調 査 結 果
表1Barthetal.[1998]の
定数項
調査 結 果
純資産
決定 係数
0
0自
0.56
5 己0
り6 1
RJ
4U
9自 0
0﹂ 7
均 値)5.50
8
2
係 数(平 均 値)17.77
ρ0 7
9自 fO
O
年 度 別 サ ンプ ル(平 均2V=84.17)
5.23
12.78
ブ ラン ド
OJ 7
2 ︻﹂
'値
純利益
O
8
係数
4 4
ρ0 8
0
全 体 サ ンプ ル(2V=508)
t値(平
当 た り純 資 産 額,Yは
O.66
(出 所)Bartheta1.[1998],p.55,Table4.
表1の
結果 は,プ
ラ ン ド価 値 の 変 数 が 統 計 的 に有 意 な 説 明 力 を有 す る こ と を示 して い る。
した が っ て この 結 果 は,イ
ンタ ー ブ ラ ン ド社 に よ るブ ラ ン ド価値 評 価 情 報 が,財 務 諸 表 上 の
純 資 産 お よび 当期 純 利 益 の 情 報 を所 与 と して もな お,株 価 や 投 資 収 益 率 と追 加 的 な関 連 性 を
も っ て い る こ とを証 拠 づ け た もの と して 解 釈 す る こ とが で き る。
Bartheta1[1998]が
ア メ リカ企 業 の 自 己創 設 ブ ラ ン ドの 評価 額 を調 査 対 象 と した の に対
し,イ ギ リス企 業30社 の 数 年 の デ ー タ か ら成 る231個 の サ ンプ ル に基 づ い て 次 の(2)式
す る こ とに よ り,同 様 の 分 析 を行 った の は,KallapurandKwan[2000]で
を推 定
あ る。
MV,=Co→-CIX,十c2Y,十c3Zi(2)
この 研 究 の 特 徴 は,株 式 時 価 総 額MVの
純 利 益Yに
ば らつ きを 説 明 す る変 数 と して,純 資 産Xと
加 え て,財 務 諸 表 に資 産 計上 され て い るブ ラ ン ド価 値Zを
点 に あ る。 した が っ て純 資 産Xか
当期
調 査 対 象 に取 り上 げ た
らは,オ ンバ ラ ンス の ブ ラ ン ド価 値 評 価 額Zの
金額が減額
され て い る。 これ は次 の よ う な イ ギ リス の 会 計 実 務 を反 映 した もの で あ る。
この 研 究 が サ ンプ ル 抽 出 期 間 と した1985∼1997年
基 準 書 第22号(SSAP22)「
に イ ギ リス で 適 用 さ れ て い た の は,会 計
の れ ん の会 計 」 で あ っ た 。 こ の 会 計 基 準 の も とで は,合 併 等 の 企
表2KallapurandKwan[2000]の
定数 項
調査 結果
純 資産
O乙
5
-
ーム
り白
塗U
9
8
8
0
6
9
刀℃
4U
ρり
ζ﹂
4U
4U
4
∩
δ
8
係 数(平 均 値)
'値(平
2
7u
年 度 別 サ ンプ ル
均 値)
(出 所)KallapurandKwan[2000],p.24,table3.
99.91
0.83
0.86
0
2。89
2.39
0ヲ
9白
定
決 定係 数
︻U
Whitet検
ブ ラン ド
﹂望
0
140。63
係数
純 利益
-
全 体 サ ンプ ル(N=231)
11.39
20
第189巻
第5号
業 結 合 か ら生 じたの れ ん は準 備 金 と相 殺 処 理 され る か,ま
た は資 産 計 上 の う え減 価 償 却 す る
か の い ず れ か を選 択 で きた が,い ず れ の 方法 を採 用 して も企 業 の財 務 比 率 の 悪 化 は避 け られ
な か っ た。 そ こで 考 案 さ れ た の が,被 買 収 企 業 の プ ラ ン ドを価 値 評 価 しての れ ん か ら分 離 し,
非償 却 資 産 と して 資 産 計 上 す る実 務 で あ った 。KallapurandKwan[2000]は
産 計 上 額 の 株価 関 連 性 を調 査 して い る。 結 果 は表2に
こ の よ うな 資
示 す とお りで あ っ た。
この 研 究 の 結 果 も また,純 資 産 と純 利 益 の 情 報 を所 与 と して も,プ ラ ン ド価 値 評 価 額 が 株
価 形 成 を追 加 的 に説 明 す る能 力 を有 す る こ と を示 して い る。 こ の 研 究 の 意 義 は,資 産 計 上 さ
れ たブ ラ ン ド価 値 が 経 営 者 に よ っ て測 定 し開 示 され た もの で あ るた め,も
しか した ら主 観 的
に な っ て情 報価 値 を 失 って い る か も知 れ な い とい う懸 念 に対 し,市 場 参 加 者 は この 資 産 項 目
を企 業 評 価 に有 意 義 な もの と して株 価 形 成 に反 映 させ て い る こ と を証 拠 づ け た 点 に あ る。
イ ギ リス でM&Aに
関 連 して資 産計 上 され るプ ラ ン ド価 値 の 測 定 に際 して は,イ
ンタープ
ラ ン ド社 が コ ンサ ル テ ィ ン グ ・サ ー ビス を提 供 した こ とが広 く知 られ て い る。 同 社 の 成 功 に
刺 激 さ れ て,プ
ラ ン ドや 商 標 権 の 価 値 評 価 モ デ ル を 開 発 す る試 み が 活 発 に 行 わ れ る よ うに
な っ た 。その よ う な研 究 の1つ と してSeethamraju[2003]は,商
標 権 の価 値 につ い て独 自の
2)
評 価 モ デ ル を考 案 した う え で,そ の モ デ ル に よ る商標 権 価 値 評 価 額 の 株 価 関連 性 を,次 の(3)
式 で示 す ク ロ ス セ ク シ ョン 回帰 分 析 を通 じて 実証 的 に調 査 して い る。
穿 一・+嵯+弓(3)
(3)式 の 変 数 の 多 くは他 の研 究 と同 様 で あ り,MVは
純 資 産 額,Zは
株 式 の 時 価 総 額,Xは
商 標 権 の 評 価 額 で あ る。 な おYは,割
引利 子 率 を10%と
貸借対照表 の
して 算 定 さ れ た超 過
利 益 の 割 引 現 在 価 値 と さ れ て い る。 サ ンプ ル は 商 標 権 が 重 要 な役 割 を果 た して い る と考 え ら
れ る食 品 ・アパ レル ・電 気 機 器 な どの 業 界 か ら抽 出 さ れ た1997年 の デ ー タ で あ る。 この 調 査
の 結 果 は表3に
示 す と お りで あ った 。
表3Seethamraju[2003]の
調査 結 果
定 数項
1
4
7
只﹂
-
0
0
商標権
決定係 数
0.247
1.360。481
9自
£U
4
9
0﹂ 1
係数
'値
4.68
10.2
1
係数
云値
超 過利益 と商 標権 評価額 に よる回帰 の結果
超 過利益
1
超 過利益 だ け に よる回帰 の結果
8.8
(出 所)Seethamraju[2003],p,239,Table3,
商 標 権 の 回帰 係 数 が 統 計 的 に有 意 なプ ラス の 値 を示 す こ と,お よび この 説 明変 数 を含 まな
い 場 合 に 比 べ て 商 標 権 を含 め た モ デ ル が 格 段 に高 い決 定係 数 を示 す こ とか ら,Seethamraju
21
ブ ラ ン ド価 値の 株価 関連性 と超 過収益 の獲 得 可能性
[2003]が
開 発 した独 自の 商 標 権 価 値 評価 モデ ル が算 出 す る情 報 が,企 業 間 で の 株 価 の ば ら
つ き を追 加 的 に 説 明 す る能 力 を有 す る こ とが 明 らか で あ る。
3リ
サ ー チ ・デ ザ イ ン
知 的 財 産 の うち プ ラ ン ドの価 値 評 価 額 に 焦 点 を 当 て て,そ の 情 報 の株 価 関 連 性 を調 査 して
い る 先 行 研 究 の 概 要 は 以 上 の とお りで あ る。 これ ら3つ の研 究 す べ て に 共 通 した発 見 事 項 は,
それ ぞ れ の 評 価 モ デ ル で 導 出 され たプ ラ ン ド価 値 情 報 が 純 資 産 と当期 純 利 益 の 情 報 を所 与 と
して もな お,株 価 形 成 に対 して 追 加 的 な関 連 性 を有 す る こ とで あ る。 外 国 で の 先 行 研 究 の レ
ビ ュ ー をふ ま え て,本 研 究 で は 日本 企 業 と 日本 の証 券 市 場 を対 象 と して 同様 の 分 析 を 実施 す
る。
3.1企
業価値評価 モデル
プ ラ ン ド価 値 評 価 額 の 株 価 関 連 性 の 問題 に取 り組 む に は,ま ず は じめ に企 業価 値 な い し株
価 水 準 を説 明 す る た め の 理 論 モ デル が 必 要 で あ る。 そ の よ うな モ デ ル の 候 補 と して は,さ
ざ ま な もの が 考 え られ るが,近 年,こ
の種 の 実 証 研 究 で 広 く利 用 され て い るの は 「割 引 超 過
利 益 モ デル 」 で あ る。 この モ デ ル の 原 型 は,ニ ュー ヨ ー ク大 学 のJamesA.Ohlson教
案(Ohlson[1995〕)に
ま
授の考
よ る こ とか ら,オ ール ソ ン ・モ デ ル と呼 ば れ る こ と も あ る。 その 概 要
は次 の とお りで あ る。
こ の モ デル の 出 発 点 は,株 式 価 値 が将 来 配 当 の割 引 現 在 価 値 に よ っ て決 ま る とす る,(4)
式 の い わ ゆ る配 当割 引 モ デ ル で あ る。 次 に,ク リー ン・サ ー プ ラ ス関 係,つ
当期 利 益 一配 当=期 末 資 本 」 とい う関係 を前 提 と して,こ れ を 下 記 の(5)式
そ して(5)式
3)
され る。
を(4)式
に代 入 して整 理 す る と,(6)式
ま り 「期 首 資 本+
へ と変 型 す る。
で 示 した株 式 価 値 の理 論 モ デ ル が 導 出
株 式 価 値=Σ[将 来 配 当 ノ(1+割 引 利 子率)t](4)
配 当=期 首 資 本+当
期 利 益 一期 末 資 本(5)
株 式 価 値 =自 己資 本 簿 価+
=純 資 産+超
さ て,(6)式
また 第2項
当 期 利 益 一 自己
資本 子
簿率
価 ×割 引利 子 率
割 引利
過 利 益 現 在 価 値(6)
の 右 辺 第1項 の 自 己資 本簿 価 は,現 在 時 点 で の 貸 借対 照 表 の純 資産 額 を表 す 。
は,将 来 の 各 期 間 の 予 測 利 益 か ら,正 常利 益 を控 除 して 算 定 さ れ る超 過利 益 を利
子 率 で 割 り引 い て い る か ら,超 過 利 益 の 現 在 価 値 を意 味 す る。 こ の よ う に して 「
割 引超 過 利
益 モ デ ル 」 に よ る と,株 式 価値 は財 務 諸表 上 の 純 資 産 と利 益 の 情 報 に関 係 づ け る こ とが で き
る。
22
第189巻
第5号
こ れ を踏 まえ て提 起 さ れ て い る問題 は,純 資 産 と利 益 の情 報 を所 与 と して も,知 的 財 産 の
価 値 情 報 が 企 業 間 で の 株 価 水 準 の 差 異 を追 加 的 に説 明 す る能 力 を有 す るか否 か と い う点 で あ
る。 こ の 問 題 を 実 証 的 に検 討 す る ため,純
ブ ラ ン ド価 値 の 変 数 を追 加 した(7)式
株 式 価 値=a+b・
資 産 お よび 超 過 利 益 と と もに,第3の
要 因 と して
の モ デ ル を最 小 二 乗法 で 推 定 す る。
純 資 産+c・ 超 過 利 益 現 在 価 値+d・
プ ラ ン ド価 値(7)
こ の と き,純 資 産 が 大 き い ほ ど株価 が 高 く,ま た超 過利 益 が大 きい ほ ど株 価 が 高 い か ら,bと
cは 統 計 的 に有 意 なプ ラ ス の値 を とる は ず で あ る。
問題 は,プ ラ ン ド価 値 の係 数dも
また,統 計 的 に有 意 な プ ラ ス の値 を と る か否 か に あ る。
も しdが ゼ ロ と有 意 に相 違 しな け れ ば,ブ ラ ン ド価 値 の情 報 は企 業 評 価 に対 して 関連 性 を持
た な い とい わ ざ る を え な い 。 しか しdが 有 意 なプ ラス の 値 を示 す な らば,純 資 産 と超 過利 益
の情 報 を所 与 と して もな お,ブ
ラ ン ドの価 値 情 報 が 株 価 形 成 を追 加 的 に 説 明 す る 能 力 を持 つ
こ とに な る。
3.2ブ
ラ ン ド価 値 の 変 数
次 に,実 証 分 析 で用 い るプ ラ ン ド価 値 評 価 額 の デ ー タ を説 明 す る。 本 研 究 で は,経 済 産 業
省 に 設 置 さ れ た ブ ラ ン ド価 値 評 価 研 究 会 が2002年6月
に公 表 した報 告 書 の 中 で提 唱 して い る
4)
ブ ラ ン ド価 値 評 価 モ デル に従 って 算 出 さ れ る評 価 額 の情 報 を調 査 対 象 とす る。 こ の情 報 を と
りあ げ た理 由 は,ひ
とえ にデ ー タの 入 手 可 能 性 に か か って い る。 つ ま り,こ の評 価 モ デ ル の
構 造 は 透 明 性 が 高 く,ま た 公 表 財 務 デ ー タ を基 礎 と して 算 定 で き るの で,正
し く適 用 しさ え
す れ ば 誰 が 計 算 して も同 じ金額 に到 達 す る と い う優 れ た特 徴 を有 して い るの で あ る。
この モ デ ル の概 要 を簡 単 に説 明 して お こ う。 こ の モ デ ル で 考 慮 され て い る の は,ブ
が持 つ 次 の3つ
の 特 性,す
ラン ド
な わ ち価 格 優 位 性 ・安 定 的 顧 客 ・拡 張 力 とい う3つ の側 面 で あ り,
そ れ ぞ れ 次 の よ う に測 定 され る。
第1側 面 の 「価 格 優 位 性 」 は,確 立 され た ブ ラ ン ド製 品 で あ れ ば,値 引 販 売 な ど を しな く
て も,高 い価 格 で 販 売 す る こ とが で きる とい う側 面 を と ら え る もの で,ブ
超 過 利 益 に よっ て 測 定 され る。 あ る企 業 の超 過 利 益 を 算 定 す る に は,同
ラ ン ドが もた らす
じ業 界 の上 場 会 社 の
うち最 低 の 利 益 率 しか あ げ て い な い企 業 を見 つ け 出 して,利 益 率 の差 を算 定 す る。
しか し超 過 利 益 率 の 全 体 が,プ
ラ ン ドに よ っ て もた ら され て い るわ け で は な い 。 した が っ
て ブ ラ ン ド価 値 の 評 価 の た め に は,超 過 利 益 率 の 中 か らプ ラ ン ドに起 因 す る部 分 を抽 出 す る
必 要 が あ る。こ の抽 出 は,営 業 費用(す な わ ち売 上 原価 と販 売 費 お よび 一 般 管 理 費 の 合 計 額)
に 占 め るプ ラ ン ド管 理 費 用 の 割合 を,超 過 利 益 率 に掛 け 算 す る 方法 で 行 う。 モ デ ル で は,同
様 の計 算 を 当期 も含 め て過 去5年
間 につ い て 行 っ た う えで,そ
の平 均 値 を もっ て将 来 期 間 に
関 す るプ ラ ン ド起 因 超 過 利 益 率 の 予 測 値 とす る こ とに な っ て い る。 これ に直 近 年 度 の 売 上 原
23
ブ ラン ド価値 の株 価 関連 性 と超 過収 益 の獲得 可 能性
価 を 乗 じた 値 が,プ
ラ ン ドに よ っ て もた ら され る キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー に な る。
こ の よ う に して予 測 さ れ る毎期 一 定 の永 続 的 な キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー に,無
適 用 して 現 在 価 値 を算 定 す る。 現 在 は超 低 金利 時 代 で あ る か ら,無
くな っ て い る。 こ の利 子 率 の 目安 と して合 理性 を もつ1つ
利 回 りで,2000年
以 降 は2%程
リス ク利 子 率 を
リス ク利 子 率 も非 常 に低
の尺 度 は,20年
物 の 超 長期 国債 の
度 で あ る。
プ ラ ン ド価 値 の 第2の 側 面 とな る 「安 定 的顧 客 」 の 尺 度 は,プ
ラ ン ド製 品 に は,反 復 的 に
購 入 して くれ る安 定 的顧 客 が 存 在 す る と い う強 み を測 定 して い る。 も し安 定 した顧 客 が つ い
て い れ ば,毎 期 の 販 売 数 量 は大 き くは 変 動 しな い で あ ろ うか ら,売 上 原 価 の 金額 を時 系 列 的
に観 察 した 場 合 も,相 当 の 安 定 性 が 見 出 さ れ るは ず で あ る。 そ こで モ デ ル は,過 去5年
上 原 価 の 平均 値 と標 準 偏 差 を反 映 した(8)式
の売
の尺 度 で,安 定 的 顧 客 の 側 面 を把握 す る。
安 定的顧客の尺度 = 売上 原価の平
一売 上 原 価 の 標 準 偏 差(8)
売均
上値
原価
の平均値
プ ラ ン ド価 値 の 第3の 側 面 は,確 立 した プ ラ ン ドが 持 つ 海 外 市場 や 異 業 種 へ の 「拡 張 力 」
で あ る。 こ れ を測 定 す るた め の 基 礎 デ ー タ と して は,連 結 財 務 諸表 に注 記 され て い る セ グ メ
ン ト情 報 が利 用 さ れ る。 まず 事 業 の種 類 別 セ グ メ ン ト情 報 か ら,最 大 セ グ メ ン ト以 外 の売 上
高 につ い て,過 去 の 平 均 成 長 率 を算 定 し,異 業 種 へ の 拡 張 力 の 尺 度 とす る。 同 様 に して,海
外 売 上 高 に つ い て算 定 した 過 去 の 平均 成 長 率 を も って,海 外 へ の拡 張 力 とす る。 こ れ ら2つ
の 平 均 値 が,プ
ラ ン ドの拡 張 力 の 尺 度 で あ る。
以 上 の3つ の 側 面 の評 価 結 果 は,相 互 に掛 け合 わ され てプ ラ ン ド価 値 の 評 価額 とな る。
3.3純
資 産 と超 過利 益 の 変 数
プ ラ ン ド価 値 の デ ー タ は前 述 の とお りで あ るが,あ わ せ て純 資産 と超 過利 益 の 現 在 価 値 に
つ い て も簡 単 に説 明 して お こ う。 純 資 産 の 情 報 は,期 末 の 貸 借 対 照表 か ら簡 単 に 入手 す るこ
とが で き る。 これ に対 し,超 過 利 益 の 現 在 価 値 に つ い て は,い
くつ か の 論 点 が あ る。
第1の 論 点 は,包 括 利 益 や 当期 純 利 益 な ど の うち,ど の 段 階 の利 益 で 考 え るか とい う点 で
あ る。 こ れ につ い て は,本 研 究 の 基 礎 と して い る割 引超 過 利 益 モ デ ル が,ク
リー ン ・サ ー プ
ラス 関 係 を 前 提 と して い る こ とに留 意 しな け れ ば な ら な い。 日本 の会 計 基 準 の も とで は,そ
の 他 有 価 証 券 の 時 価 評 価 差 額 や,在 外 子 会 社 の連 結 で 生 じる為 替 換 算 調 整 勘 定 な ど,い わ ゆ
る資 本 直 入項 目が 存 在 す る。 この た め 損 益 計 算 書 の 当 期 純 利 益 を用 い る と,前 述 の(6)式
表 さ れ るク リー ン ・サ ー プ ラ ス 関係 が 成 立 しな い。(5)式
で
を成 立 させ る の は,当 期 純 利 益 で
は な く包 括 利 益 で あ る。 したが っ て論 理 的 に は 包括 利 益 を用 い るべ き こ とに な る。
しか し包 括 利 益 と当期 純 利 益 を 比較 した場 合,株 価 水 準 や 株 価 変 動 との 関連 性 が よ りい っ
そ う強 い の は,包 括 利 益 で は な く,当 期 純 利 益 で あ る とい う実 証 結 果 が 日本 で も数 多 く報 告
24
第189巻
第5号
5)
され て い る。 した が っ て本 研 究 で は,利 益 変 数 と して は 包 括 利 益 で は な く,当 期純 利 益 を用 い
るこ と に した。
第2の 論 点 は,割 引超 過 利 益 モ デ ル で 必 要 と され る利 益 デ ー タ が,過 去 の 実績 利 益 で は な
く,将 来 の 予 測 利 益 で あ る点 で あ る。 そ こ で次 の2通
す る。 第1は,過
りの仮 定 をお い て,予 測 利 益 額 を特 定
去 の 直 前 年 度 の 当期 純 利 益 の 金額 が,将 来 も無 限 に同 額 で 継 続 す る とい う
仮 定 で あ る。 第2に,経
営 者 が決 算短 信 に お い て 実績 利 益 の報 告 と と もに公 表 す る次 期 の 予
測 利 益 を その ま ま採 用 し,こ の予 測値 が 毎 期 永 続 す る とい う仮 定 で あ る。 い ず れ の 予 測 利 益
を用 い て も,分 析 結果 に 実 質 的 な差 異 が 生 じな け れ ば,実 証 研 究 の 結 果 は よ りい っ そ う堅 固
な もの に な る で あ ろ う。
第3の
論 点 は,現 在 価 値 計 算 に 用 い る割 引利 子 率 の 選 択 で あ る。 こ れ に つ い て は ブ ラ ン ド
価 値 評 価 モ デ ル で,2%と
い う無 リス ク利 子 率 を用 いて い るこ と と整 合 させ る た め,こ
も無 リス ク利 子 率 と して2%を
こで
使 用 す る こ とに した 。
4株
価 関連性の実証結 果
本 節 で は まず,以 上 の リサ ー チ ・デ ザ イ ンの も とで 実 施 した 株 価 とプ ラ ン ド価 値 評 価 額 の
関 連 性 に 関 す る実 証 分 析 の 結 果 を提 示 す る。 モ デ ル の 推 定 は,発 行 済 株 式 の 時価 総 額 を説 明
す る形 の モ デ ル と,1株
毎 の 株 価 そ の もの を 説 明 す る形 の モ デ ル の 両 方 に つ いて 実 施 して い
る。 また,将 来 期 間 の 予 測 利 益 と して,直 前 年 度 の 実 績 利 益 が継 続 す る と仮 定 した場 合 と,
決 算 短 信 で 経 営 者 が 開 示 す る次 期 の 予 測 利 益 が継 続 す る と仮 定 した 場 合 の 両 方 で 回帰 分 析 を
行 い,実 証 結 果 を比 較 して い る。 さ ら にサ ンプ ル と して は,2001年3月
2002年3月
まで の1年
まで の1年
間 に決 算 期 を迎 え る全 上 場 会 社 を対 象 と し,2001年3月
月 期 は別 々 に分 析 さ れ て い る。 した が っ て全 体 で8通
間 お よび
期 と2002年3
りの ク ロ ス セ ク シ ョン回 帰 分 析 が 実 施
され るこ と に な る。
分 析 の た め の サ ンプ ル は,東 証 第1部 上 場 企 業 に 限 定 す る こ とな く,第2部
市場 は もとよ
り,ジ ャ ス ダ ッ ク,東 証 の マ ザ ー ズ,大 阪 の ヘ ラク レス 市 場 へ の上 場 企 業 も含 め た。 こ れ は
新 興 ベ ン チ ャー企 業 の 中 に,ブ ラ ン ドな どの 知 的財 産 が 重 要 な意 味 を持 つ企 業 が 少 な か らず
存在 す
6}
る で あ ろ う こ とに 配 慮 した か らで あ る。
この 結 果,本 研 究 の サ ンプ ル 企 業 数 は3000社 近 い大 き な もの に な るの で あ るが,そ
の反 面,
巨大 企 業 か ら新 興 企 業 ま で 広 い範 囲 の企 業 が サ ンプ ル に 含 ま れ るた め,分 析 デ ー タ に い わ ゆ
る 「外 れ 値 」 が 生 じや す くな る。 こ の 点 を考 慮 して,最 終 的 な分 析 対 象 サ ンプル か ら,次 の
7)
2種 類 の 企 業 が 除 去 さ れ て い る。第1は,旧 の 額 面5万 円株 の 発 行 企 業 で あ る。周 知 の 通 り現
在 で は株 式 の 額 面 制 度 が 廃 止 され て い るが,一 般 に 旧5万 円 株 の 時価 は ケ タ 違 い に大 きな値
を と り,1株
当 た りデ ー タ で の 回 帰 の外 れ 値 とな る た め,本 研 究 の サ ンプ ル か ら除 か れ る。
ブ ラ ン ド価値 の株 価 関連性 と超 過収益 の獲 得 可能性
第2に,デ
ー タ値 が 当 初 の 全 体 サ ンプ ル の 平 均 値 か ら上 下3標 準 偏差 以 上 乖 離 して い る変 数
を 有 す る 企 業 も 除 か れ る。 こ れ ら2種
は,2.5∼5.0%程
類 の 基 準 で 除 去 さ れ る サ ンプ ル 企 業 の 割 合
度 で あ る。
こ の よ うに して 抽 出 した サ ンプ ル を基 礎 と して 実 施 した8通
定 結 果 は表4の
が,多
25
りの企 業 価 値 評 価 モ デ ル の 推
と お りで あ った 。 こ の 図表 に は独 立 変 数 間 の 相 関 係 数 も併 せ て示 され て い る
重 共 線1生を懸 念 す べ きほ ど深 刻 な状 況 に は な い と考 え て よ い で あ ろ う。
表4株
V:時
価 総 額,P:株
価 関連性 に関 す る実 証結果
価,X:純
資 産,Y:超
過 利 益 現 在 価 値,Z:プ
数
係
関
相
◎ 実績 利益
■ 時 価 総 額 と合 計 金 額 に よ る回 帰
〇.140Y十
〇.170Z
R2=0.564
〇.215Z
R2=0.786
96
﹄
0
〇.036}1十
*
n:=29841=)=-165。5十1.134X十
80
あ
0
(9.1)
67
ユ
0
期(-17.5)(90.6)
Z
R2=0.747
〇.034Y
y
(26.0)(8.7)
(-4.9)(35.3)
P=-327.3十1.452X十
下
99
左γ 3
0
(25.7)
年
R2=0.552
ト0.140Y
期(-5.2)(39.4)
n=2918P=-144.0十1.189X十
3月
R2=0.938
に よ る 回 帰
1⊃=-156.4十1.280X一
2002年
〇.443Z
(13.3)(54.7)
01
数 20 X *
係 上
関 右
相
X
3月
金 額
Z
〇.020Y十
(-12.4)(123.0)
と1株
R2=0.875
(16.1)
n=2975V=-11011十1.381X十
*
(20.6)(34.0)
〇.033Y
期(-13.0)(138.4)
2001年
R2=0.917
γ
(-8.3)(83.9)
08
ユ
℃
V=-16361十1.752X十
46
乃
o
2002年
十 〇.733ZF
96
5
0
〇.118}「
88
3
刃
(14.1)
レ'=-19509十1.741X十
■ 株 価
R2=0.885
*
期(-7.5)(104.7)
n=2926
3月
決 定 係 数
〇.094Y
下
左 F
,
年
01
20 X
上
右
2001年V・=-20658十2.133X十
3月
ラ ン ド価 値
z
O,609
0.321
*
z
O.336
0.140
*
(10.5)(23.5)
(-8.9)(56.7)
◎ 予 測利益
■ 時 価 総 額 と合 計 金 額 に よ る 回 帰
2001年V=-10057十1.280X十
3月
期(-9.5)(88.8)
R2==0.894
期(-10.1)(133.3)
2001年
3月
と1株
一9039十1
金 額
.198X十
R2=0.925
Yo,492*
0.417
〇.104Y十
〇.231Z
R2=0,932
*
ZO.5050.529
(45.6)(17.5)
〇,845X十
相 関係 数
〇.211=y
R2=0.542
右 上2001年,左
(31.8)
期(-3.8)(28.3)
〇.814X十
〇.206}ノ
xY
十 〇.098Z
R2=0,547
X*0,208
下2002年
z
O.240
(31,0)(6.0)
(-3,8)(27.0)
3月
O.457
に よ る 回 帰
P=-93.3十
n==29141)=-94.6十
2002年
X*0.649
(53.5)
(-11.5)(126.3)
■ 株 価
z
1∼2=0.911
(39.2)(23.7)
レア=-8286十1.253X-1-0.119}「
n=2975V=
下2002年
xY
〇.363Z
(-11.6)(87.0)
3月
右 上2001年,左
(40.4)
n=2904V=-11268十1.193X-1-0.196Y十
2002年
相 関係 数
決 定 係 数
〇.217}1
P=-97.5十1.003X十
〇.062Y
R2=0.521
Yo,476*
0.247
(21.5)
期(-5.0)(47.1)
nニ2979P=-104.6十
〇.964X十
(-5.5)(44.9)
〇.057Y十
〇,149Z
(19.4)(9.3)
R2ニ0.534
ZO.2530.224
*
26
第5号
第189巻
表4の 分 析 結 果 に基 づ い て,主 要 な 発 見 事 項 を指 摘 しよ う。 第1の 発 見 事 項 は,す べ ての
ケ ー ス に関 して,純 資 産 を表 す 変 数X,お
よび超 過 利 益 の割 引現 在 価 値 を表 す 変 数Yの
係数
が,統 計 的 に有 意 な プ ラ ス の値 を示 して い るだ け で な く,ブ ラ ン ド価 値 を表 す 変 数Zの
係数
も また,統 計 的 に有 意 な プ ラ ス の値 を示 して い る こ とで あ る。 これ は各 推 定 式 の 係 数 の 下 に
カ ッ コで 示 したt値 が,2,0を
第2に,す
大 き く上 回 っ て い る こ とか ら明 らか で あ る。
べ て の ケ ー ス に 関 して,株 価 や 時価 総額 を純 資 産 と超 過 利 益 の2変 数 だ け で 説
明 す る場 合 よ り も,プ ラ ン ド価 値 を追 加 して3変 数 で 説 明 した 場 合 の 方 が,自
由度 調 整 済 の
決 定係 数 が 高 くな っ て い る こ とが わ か る。
しか もこれ らの2点
は,被 説 明 変 数 を株 式 時 価 総 額 と1株 当 た りの株 価 の い ず れ とす るか,
お よび 超 過 利 益 計 算 の 前 提 と して 前 期 実 績 利 益 と経 営 者 に よ る次 期 予 測 利 益 の い ず れ を基礎
とす るか に よっ て,結 論 に影 響 が 生 じ る こ と は な い。 また2001年3月
期 と2002年3月
期 の結
果 も合 致 して い る。
以上 の 結 果 を総 合 す る と,次 の よ うに 結 論 づ け て差 し支 えな い で あ ろ う。 つ ま り,本 研 究
で使 用 した ブ ラ ン ド価 値 評 価 額 の 情 報 は,貸 借 対 照 表 の純 資 産 額 の情 報,お
よび損 益 計 算 書
の 当期 純 利 益 額 か ら推 定 さ れ る超 過 利 益 の 現 在 価 値 情 報 を所 与 と して も,株 価 水 準 や 時 価 総
額 の企 業 間 差 異 を追 加 的 に 説 明 す る 能 力 を有 して い る と判 断 され る。
5超
5.1攻
過収益率 の獲 得可能性の実証結 果
撃 的投資戦略 への役立 ち
本 節 で は 第2の 研 究 課 題,す
な わ ち ブ ラ ン ド価 値 と株 価 の 関 連 性 を利 用 した 投 資 戦 略 に よ
り,超 過 的 な投 資 収 益 率 の獲 得 が 可 能 か を調 査 した 結 果 を報 告 す る。
証 券 投 資 戦 略 は,防 衛 的投 資 戦 略 と攻 撃 的 戦 略 に大 別 され る。 防 衛 的 投 資戦 略 は,パ
ブ戦 略 と も よば れ,自
ッシ
己 が 負 担 す る リス ク水 準 に見 合 った 正 常 な投 資 収 益 率 の獲 得 を も って
満 足 す る よ うな 投 資 の 方 針 をい う。 この 戦 略 の基 礎 に は,効 率 的 市 場仮 説 が 妥 当す る世 界 で
は公 表 会 計 情 報 は 証 券 価 格 に既 に適 切 に織 り込 み済 み で あ り,そ の よ う な情 報 を い く ら分 析
して も割 安 株 や 割 高 株 は見 つ か らな い と い う信 念 が存 す る。 した が っ てハ イ リス ク ・ハ イ リ
タ ー ンの 原 則 が 支 配 す る 効 率 的 市 場 で は,い
か な る投 資 者 も各 自が 負 担 す る リス ク水 準 に見
合 った 投 資 収 益 率 を超 え る よ う な超 過利 益 の 獲 得 は で きな い こ とに な る。 こ の と き財 務 報 告
の 役 割 は,投 資 者 が 自 己 の 負 担 で き る リス ク水 準 に見 合 う銘 柄 を 選 択 す る た め に役 立 つ よ う
な情 報 を提 供 す る こ と に求 め られ る 。
これ に対 し攻 撃 的 投 資 戦 略 は ア ク テ ィブ 戦 略 と も よば れ,会 計 情 報 等 を基 礎 と して投 資銘
柄 の 選 択 を行 う こ と に よ り,リ ス ク 負 担 に見 合 う平均 的 な投 資 利 益 を大 き く上 回 る よ う な,
超 過 収 益 率 の獲 得 をめ ざ す戦 略 で あ る。 この 戦 略 の推 進 に際 して 財 務 報 告 が役 立 つ た め に は,
27
ブ ラ ン ド価 値 の株価 関連性 と超 過 収益 の獲 得可能 性
提 供 され た情 報 を基 礎 と して 各 証 券 の 理 論 価 値 を算 定 し,理 論 価 値 に比 して割 安 な銘 柄 を購
入 し,割 高 な銘 柄 を売 却 した 場 合 に,そ の 後 の 期 間 にお い て統 計 的 に有 意 なプ ラ ス の 投 資 収
益 率 が発 生 して い な け れ ば な ら な い。
こ れ ら2通
りの 投 資 戦 略 に お け る会 計 情 報 の 役 立 ち の う ち,本 研 究 が 分 析 の 対 象 と して い
るの は攻 撃 的 投 資 戦 略 へ の 実践 的 な適 用 可 能性 で あ る。 この 調 査 に 際 して は,証 券 の 理 論 価
値 を説 明 す る モ デ ル の 選 択 が重 要 な 論 点 とな る。 本 研 究 で は特 に,純 資産 と 当期 純 利 益 の 情
報 を所 与 と した場 合 の,プ
ラ ン ド価 値 評 価 情 報 の 追 加 的 な有 用 性 を調 査 す る もの で あ るか ら,
財 務 数 値 に よ っ て企 業 価 値 を表 現 した モ デ ル を採 用 す る こ とが 望 ま しい。 そ の よ うな モ デル
と して 本 研 究 で 利 用 す るの は,前 掲 の(7)式
5.2具
で 示 され る モ デ ル で あ る。
体 的 な投 資戦 略
超 過 収益 率 の獲 得 可 能性 に関 す る実証 研 究 の サ ンプ ル と して は,2001年3月
間 に決 算 日を迎 え た 日本 の 上 場 企 業2918社 を用 い た 。 こ れ は表4で
末 まで の1年
示 した分 析 と同 じサ ンプ
ル で あ る。2002年 の サ ンプ ル も調 査 対 象 に な り う るが,投 資 戦 略 の 展 開 後 の十 分 に 長 い期 間
の 株 価 動 向 を追 跡 で き る よ う にす る た め,こ
こ で は2001年 の サ ンプ ル だ け を調 査 対 象 と して
い る。
全 体 で2918社 の サ ンプ ル は,ま ず は じめ に,(7)式
の 係 数 を推 定 す る た め に利 用 す る1000
社 と,推 定 結 果 を 当 て は め て 理 論 株 価 を推 定 した う え で 実 際 に売 買 の対 象 と され る残 りの
1918社 へ と ラ ンダ ム に分 類 され た 。1000社 の デ ー タ か ら推 定 した係 数 を用 い て(7)式
しな お した の が 次 の(9)式
現 在 価 値,Zは1株
で あ る。Pは 株 価,Xは1株
純 資 産,yは1株
を表 現
当 た りの 超 過利 益 の
当 た りの プ ラ ン ド価 値 を表 して い る。
1)=-44.021十1.112X十
〇.094}ノF一
ト0.111Z(9)
(-0.9)(19.3)(10.7)(4.3)決
この 結 果 は,ブ
定 係 数:0.439
ラ ン ド価 値 を合 め て3つ の 説 明 変 数 の係 数 が す べ て統 計 的 に有 意 な プ ラス
の値 を とっ て い て,こ れ らの情 報 の 株 価 関連 性 が ラ ンダ ム サ ンプ ル に つ い て も成 立 す る こ と
を証 拠 づ け て お り,前 節 の 結 論 を よ りい っ そ う頑 強 にす る もの で あ る。 また モ デ ル の決 定係
数 も,若 干 は低 下 した もの の 依 然 と して 高 い値 を示 して い る。
これ ら3変 数 を利 用 した 攻 撃 的投 資 戦 略 の有 効 性 は,残
りの1918社 を割 安 株 と割 高 株 に分
類 し,各 グル ー プ の 投 資収 益 率 の動 向 を追 跡 す る こ とに よっ て確 かめ られ る。 この た め に ま
ず,1918社
の そ れ ぞ れ につ い て,各 社 の2001年3月
の 決 算 月)の 財 務 デ ー タ を(9)式
期(3月
決 算 で な い企 業 は,こ
れ よ り前
に 代 入 す る こ とに よ り,理 論 株 価 が 算 定 され る。 こ れ を決
算 日か ら3か 月 後 の 実 際 の 株 価 と比 較 した と き,理 論 株 価 が 実 際 株 価 よ り高 い銘 柄 は割 安 株
と定 義 され,こ
れ を購 入 して お け ば 市 場 平 均 を上 回 るプ ラ ス の超 過 収 益 率 が得 られ る と期 待
第5号
第189巻
28
さ れ る。逆 に,理 論 株 価 が 実 際 株 価 を 下 回 る銘 柄 は割 安 株 で あ り,こ れ を保 有 す れ ば 市 場 平
均 を下 回 る投 資 収 益 率 しか得 られ な い と予 想 さ れ る。 理 論 株 価 との 比較 対 象 と して3か 月 後
の 株 価 を採 用 したの は,プ
ラ ン ド価 値 評 価 額 の 算 定 に必 要 な財 務 デ ー タ が 含 まれ る有 価 証 券
報 告 書 の提 出期 限が 決 算 日の3か
5.3投
月後 で あ る こ と を考 慮 した た め で あ る。
資収益 率の集計結果
割 安 株 と割 高 株 の2グ ル ー プ が もた らす 平 均 的 な投 資 収 益 率 は,決 算 日後4か
決 算 企 業 の 場 合 は2001年7月)か
月 目(3月
ら18か 月 間 に わ た り集 計 され た 。 ただ しこ の投 資 戦 略 の有
効 性 は,市 場 に存 す る全 銘 柄 を無 差 別 に購 入 した 場 合 の平 均 値 な投 資 収 益 率 との 対 比 に よ っ
て判 定 す る必 要 が あ る こ とか ら,各 月 の 投 資 収 益 率 は 市場 ポ ー トフ ォ リオ の 投 資 収 益 率 を控
除 した 後 の 残 差 収 益 率 を集 計 した 。 その 結 果 は表5の1列
また 割 安 株 と割 高 株 の 投 資 収 益 率 の 動 向 は,図1で
目 と2列 目 に示 す とお りで あ る。
グ ラフ表 示 され て い る。3変
数割安 株お
よび3変 数 割 高 株 と して示 さ れ た 部 分 が そ れ で あ る。
表5ポ
t3変
ー トフ ォ リオ の 累 積 平 均 残 差
数 実証 モデル2変
1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 6 7 8
1 1 1 1 1 1 1 1 1
割 安株
割 高株
0.0182
一〇
0.0244
-0
0,0335
-0
0.0239
-0
0.0296
-0
0.0431
-0
0.0414
-0
0.0405
-0
0.0297
-0
0.0215
-0
0.0158
-0
数理 論 モデル2変
割安 株
割 高株
.0258
0.0059
一〇
.0345
0.0014
-0
.0474
0,0013
-・O
.0338
0.0029
-0
.0419
0.0114
-0
.0610
0,0246
-0
.0586
0,0208
-0
,0573
0.0202
-0
.0421
0.0142
-0
,0304
0.0120
-0
.0224
0.0032
-0
0.0267
-0 .0378
0.0058
-0
0.0368
-0
.0521
0.0069
-0
0.0421
-0
.0596
0.0088
-0
0.0482
-0
.0681
0.0084
-0
0.0643
-0
.0909
0.0158
-0
0.0650
-0
.0920
0,0256
-O
0.0757
-0
.1070
0.0320
-0
数 実証 モデル
割 安株
.0105
0.0172
.0025
0.0229
.0023
0.0299
,0052
0。0203
.0204
0.0257
.0438
0.0383
,0371
0.0365
,0360
0.0362
.0253
0.0265
.0214
0.0181
.0056
0.0120
.0103
0.0222
.0123
0.0322
.0157
0.0389
.0149
0.0461
.0282
0.0614
.0456
0.0627
、0571
0.0732
割 高株
一〇
.0250
-0
-0
-0
-0
-0
-0
-0
-0
-0
-0
-0
-0
-0
-0
-0
-0
-0
.0333
.0435
.0296
.0374
.0557
,0531
.0526
.0386
.0263
.0174
.0324
.0469
.0566
.0671
.0893
.0912
,1065
図1に 示 され た株 価 動 向 は,期 待 され た結 果 と合 致 して い る。 す な わ ち割 安 株 と判 定 され
た グ ル ー プ は,そ の 後 の期 間 に市 場 平 均 を上 回 る投 資 収 益 率 を生 じる形 で 価 格 上 昇 し,逆 に,
割 高 株 と判 定 され た グル ー プ は マ イ ナ ス の 投 資 収 益 率 を生 じて い るか ら,市 場 の 平 均 的 な動
29
ブ ラ ン ド価 値 の株価 関連性 と超 過 収益 の獲 得可 能性
図1攻
撃的投 資戦略 の成果
0.1
0,08
0.06
0,04
0.02
饗o
鰯
一〇.02
-0 .04
-0
.06
-0
.08
-0
-0
.1
.12
月 次(t)
3変 数割安株
3変 数割高株
2変 数 割 安 株 … … …-2変
数割高株
向 と比 べ て 株 価 は低 下 して い る の で あ る。 した が っ て こ の結 果 は,決 算 日の3か
月後 に利 用
可 能 とな る連 結 財 務 諸表 の 情 報 を用 いて 前 述 の投 資 戦 略 を展 開 す れ ば,そ の 後 の1年
半 の期
間 に市 場 平 均 を上 回 る リタ ー ン が獲 得 で き る こ と を示 して い る。
しか し この超 過 収 益 率 の 全 部 が プ ラ ン ド価 値 情 報 の 利 用 に起 因 す る もの で は な い こ とは い
う ま で もな い 。 実 際 株 価 との 比 較 に 用 い る理 論 株価 の 算 定 に は,プ
ラ ン ド価 値 以 外 に も純 資
産 と 当期 純 利 益 の 情 報 が利 用 さ れ て い るか らで あ る。 した が って プ ラ ン ド価値 情 報 を追 加 的
に利 用 した こ と に よっ て増 加 した投 資 収 益 率 の有 無 を明 らか にす る に は,純 資 産 と純 利 益 情
報 だ け を利 用 して 理 論 株 価 を算 定 した 場 合 の 結 果 と対 比 す る こ とが 不 可欠 で あ る。
純 資 産 と純 利 益 の 情 報 だ け を利 用 した 理 論 株 価 モ デ ル と して,本 研 究 で は 次 の2つ
て み た 。第1は,次
式 で表 され るOhlson[1995]の
る 。 以 下 で は こ れ を2変
8)
数 理 論 モ デ ル と よぷ。
を試 し
理 論 モ デル を その ま ま利 用 す る方 法 で あ
P=x十Y
第2は,前
述 の1000個
の サ ン プ ル に つ い て,株 価Pを
純 資 産Xと
超 過 利 益 の 現 在 価 値yに
して 回 帰 す る こ と に よ っ て 得 ら れ た 次 式 を 用 い る 方 法 で あ る 。 以 下 で は こ れ を2変
デ ル と よぷ 。
P=-44.0十1.161X十
(-0.9)(20.4)(26.0)
〇.096Y決
定 係 数:0.430
対
数実証 モ
30
第5号
第189巻
前 者 の2変 数 理 論 モ デ ル で算 定 され た理 論 株 価 と対 比 して 形 成 され た ポー トフ ォ リオ の 累
積 平 均 算 差 は表5の3列
目 と4列 目で 示 さ れ て お り,後 者 の2変 数 実証 モ デ ル で 算 定 され た
理論 株 価 と対 比 して 形 成 され た ポ ー トフ ォ リオ の 累 積 平 均 残 差 は表5の5列
され て い る。 累 積 平 均 算 差 の大 き さ を比 較 す れ ば,前
目 と6列 目で 示
者 の2変 数 理 論 モ デ ル を用 い た 場 合 よ
り も,後 者 の2変 数 実 証 モ デ ル を利 用 した場 合 の 方 が,よ
りい っ そ う良 好 な投 資 成 績 を示 し
て い る。
した が っ て本 研 究 で は,ブ
ラ ン ド価 値 情 報 を含 ま な い2変 数 実証 モ デ ル を用 い た 場 合 と,
ブ ラ ン ド価 値 情 報 を含 め た3変 数 実 証 モ デ ル を用 い た 場 合 を比 較 す る こ と に よ っ て,プ
ラン
ド価 値 情 報 の 追 加 的 な利 用 が もた らす 投 資 成 果 を把 握 す る こ とに した 。2変 数 実証 モ デ ル を
用 い た場 合 の累 積 平 均 残 差 の 動 向 も,図1に
併 せ て グ ラ フ表 示 され て い る。2変
数割安株 お
よび2変 数 割 高 株 と して 示 され た部 分 が そ れ で あ る。
図1か
ら明 らか な よ う に,2変
数 を利 用 した場 合 に 比 べ て,3変
数 を利 用 した投 資 戦 略 か
ら生 じる累 積 平 均 残 差 の絶 対 値 は,割 安 株 と割 高 株 の 両 方 に つ い て,よ りい っ そ う大 き くな っ
9)
て い る こ とが わ か る。した が って 純 資 産 と当 期 純 利 益 の 情 報 に 加 えて,プ ラ ン ド価 値 情 報 を追
加 的 に利 用 す る こ とに よ り,上 述 の攻 撃 的 投 資 戦 略 は よ りい っ そ う大 きな投 資収 益 率 を生 み
出 す と い え る。
6結
論
本 研 究 は,企 業 価 値 評 価 に際 して知 的 財 産 に関 す る情 報 の考 慮 が 不 可 欠 に な って い る現 状
に鑑 み,あ
るべ きデ ィス ク ロー ジ ャ ー 制 度 を考 察 す る場 合 の基 礎 事 実 を確 認 す るた め に,ブ
10)
ラ ン ド価 値 評 価 額 と株 価 形 成 の 関 係 を 実証 的 に分 析 した。 調 査 対 象 と した の は経 済 産 業 省 の
ブ ラ ン ド価 値 評 価 研 究 会 が 提 唱 す る モ デ ル か ら導 出 され る評 価 額 で あ る。 本 研 究 の 実 証 分 析
が 示 す 主 要 な 結 果 は次 の2点 で あ る。
第1に,経
済 産業 省 モ デル か ら導 出 され た プ ラ ン ド価 値 評 価 額 は,純 資 産 と利 益 の 情 報 を所
与 と して もな お,企 業 間 で の 株 価 水 準 の ば らつ き を追 加 的 に 説 明 す る能 力 を有 す る点 で,株
価 形 成 に対 して 統 計 的 に有 意 な関 連 性 を有 して い る。
第2に,純
資 産 と利 益 にブ ラ ン ド価 値 を加 え た3変 数 か ら構 成 され る企 業 評価 モ デ ル を基
礎 と して割 安 株 と割 高 株 を判 定 す る投 資戦 略 は,市 場 平 均 を上 回 る超 過 収 益 率 を もた らす。
ブ ラ ン ド価 値 の 追 加 も超 過収 益 率 の増 大 に 貢 献 して い るが,増
大 部 分 は統 計 的 に は 有 意 で な
か った 。
これ らの 発 見 事 項 は,本 研 究 で 調 査 対 象 と した プ ラ ン ド価 値 評 価 額 が,投
資 者 向 けの 財 務
報 告 制 度 に何 らか の 形 で含 め る に足 るだ け の 情 報 価 値 を有 す る こ と を示 唆 して い る。 しか し
知 的 財 産 の デ ィス ク ロ ー ジ ャー を一 般 的 に論 じる に は,ま
だ 次 の よ う な点 で分 析 を深 め る必
31
ブ ラ ン ド価値 の株 価関連 性 と超過 収益 の獲 得可能性
要 が あ ろ う。
第1に,本
研 究 のサ ンプ ル は2001年 と2002年 か らの み 抽 出 され て い る た め,前 述 の 発 見 事
項 が 他 の時 期 につ い て も妥 当す るか 追 加 調 査 を要 す る。 第2に,本
ル か ら導 出 され るブ ラ ン ド価値 評 価 額 を調 査 対 象 と した が,ブ
研 究 で は経 済 産 業 省 モ デ
ラ ン ドに限 定 して も他 に い く
つ か の 競 合 的 な 評 価 モ デル が 並 存 す るか ら,株 価 関連 性 や 超 過 収 益 の獲 得 能 力 の観 点 か ら,
競 合 モ デル 聞 で 優 劣 を比 較 す る こ と も興 味 深 い。 第3に,プ
売 関連 の 知 的財 産 の 代 表 で あ るが,他
ラ ン ドは 商標 権 を 中心 とす る販
方 に は特 許 権 に代 表 され る よ うな生 産 関 連 の 知 的財 産
の 価 値 も,企 業 評 価 に不 可 欠 な 要 素 と して存 在 す る。 知 的 財 産 の 財 務 報 告 を科 学 的 に論 じ る
に は,少
な く と も特 許権 に つ い て 本 研 究 と同 様 の 証 拠 が蓄 積 され な け れ ば な ら な い。
注
本 稿 は 文 部 科 学 省 の 科 学 研 究 費(基 盤C2,no。15530302)の
1)株
補 助 を受 け た研 究 成 果 の 一 部 で あ る。
価 変 化 率 を被 説 明 変 数 とす る分 析 も行 わ れ た が,株 価 水 準 を被 説 明 変 数 と した 場 合 と結 果 は
同様 であ った。
2)商
標 権 の 評 価 モ デ ル は,売
上 高 を 商 標 権 登 録 数 と広 告 宣 伝 費 額 に 対 して 回 帰 す る こ とに よ り導
出 され て い る 。
3)(4)式
と(5)式
か ら(6)式
を導 くた め の 仮 定 と導 出 プ ロ セ ス が 桜 井[2003,248頁
∼]で 詳 述 さ
れ て い る。
4)具
体 的 な算 定 方法 が 桜 井[2002b]で
5)た
と え ば 勝 尾[1998]や
6)経
済 産 業 省 の ブ ラ ン ド価 値 評 価 モ デ ル の 中 心 概 念 は 価 格 優 位 性 に あ る た め,こ
若 林[2002]が
例 示 さ れ て い る。
そ の 証 拠 を提 示 して い る。
の概 念 にな じま
な い 電 力 ・ガ ス な どの 料 金 規 制 業 種 と,銀 行 ・保 険 な ど金 融 業 に 属 す る企 業 は サ ン プ ル か ら 除去
さ れ て い る。
7)本
研 究 の サ ンプ ル の 一 部 だ け を利 用 してパ イ ロ ッ ト ・テ ス トの 結 果 を報 告 した 桜 井[2002a]
で は,2001年
に 関 して ブ ラ ン ド価 値 変 数 の 係 数 が マ イ ナ ス有 意 で あ る との 結 果 が 示 され て い る が,
こ れ は 外 れ 値 サ ンプ ル の 影 響 に よ る もの と考 え られ る 。
8)ニ
ュ ー ヨ ー ク 市 場 で の2変
[1998]に
数 理 論 モ デ ル を利 用 した 投 資 戦 略 の 有 効 性 はFrankelandLee
よ り確 認 され て い る。 東 京 市 場 に 関 して 同様 の 分 析 を 行 っ た 奥 村 ・吉 田[2000]は
の モ デ ル の 有 効 性 を確 認 で き な か っ た が,Ota[2002]で
は,FrankelandLee[1998]と
こ
同様 の
結 果 が 得 られ て い る 。
9)本
研 究 が デ ィス ク ロー ジ ャ ー 制 度 の あ り方 に関 して有 す る含 意 が,桜
井[2004]で
議 論 され て
い る。
10)こ
の 差 の 有 意 性 を判 定 す る た め,平
Wilcoxon符
均 値 の 差 に 関 す るt検 定(パ
ラ メ ト リ ッ ク検 定)お
よび
号 化 順 位 検 定(ノ ンパ ラ メ ト リ ック 検 定)を 実 施 した が,い ず れ の 検 定 で も差 異 は統
計 的 には有 意 でなか った。
32
第189巻
第5号
引
用
文
献
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57—:/ J x at, 158* 3 '4- (noolf. 9 ), 46-60X.
-kat, 1544 6 '4- (1998 11A ), 123'132A.
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2002V-6 A
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15-25A.
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