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Flaveria 属植物の C4 型光合成における 光合成電子伝達反応による

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Flaveria 属植物の C4 型光合成における 光合成電子伝達反応による
学 籍 番 号 : 1181028
Flaveria 属 植 物 の C 4 型 光 合 成 に お け る
光合成電子伝達反応によるエネルギー生産調節機構の解明
中村
有哉
奈良先端科学技術大学院大学
バイオサイエンス研究科
(横 田
分化・形態形成学研究室
明穂
教授)
平 成 26 年 3 月 12 日 提 出
1
2
バイオサイエンス研究科
所属
(主指導教員)
氏名
題目
博士論文要旨
分化・形態形成学研究室
中村 有哉
提出
(横田
明穂
教授)
平成 25 年 12 月 17 日
Flaveria 属植物の C4 型光合成における
光合成電子伝達反応によるエネルギー生産調節機構の解明
要旨
C4 型光合成は Calvin-Benson 回路と CO2 濃縮機構である C4 回路が統合した光合成様式で
あり、その炭素同化代謝は葉肉細胞と維管束鞘細胞間で協調的に行われている。C4 回路の
駆動は、葉内 CO2 濃度が低下する環境での高い CO2 固定効率をもたらす。しかしながら、
C4 型光合成を行う C4 植物は、C4 回路を有さない C3 型光合成を行う C3 植物に比べて、C4
回路の駆動のために、光合成反応においてより多く ATP を生産することを求められる。炭
素同化代謝とそれに必要なエネルギー生産のバランスの不均衡は、光合成反応効率の低下
のみならず、植物に酸化ストレスなどの深刻な障害を引き起こす。従って、両者間のバラ
ンスの制御は非常に重要であるが、C4 植物が C4 回路の駆動による ATP 要求量の増加をどの
ように解決しているかは明らかになっていない。
光合成において、炭素同化代謝に必要な ATP と NADPH は直鎖型電子伝達系と光化学系
I 循環型電子伝達系によって生産される。C3 植物では、循環型電子伝達系はチラコイド膜内
外の⊿pH 形成を介して ATP 合成に寄与していることが示されており、chloroplast NADH
dehydrogenase-like (NDH) 複 合 体 が 関 わ る経 路 と PROTON GRADIANT REGULATION
(PGR)5/PGR5-Like (PGRL)1 複合体が関与する経路の 2 経路から成る。本研究で、私は光化
学系 I 循環型電子伝達系が C4 回路の駆動のために必要となった ATP の生産に関与している
のではないかと推察して、C4 型光合成における光化学系 I 循環型電子伝達系の生理機能を
解明することを目的とした。
Flaveria 属は、同属内に C3 種と C4 種に加えて C3 型光合成と C4 型光合成の中間の性質を
示す C3-C4 中間種や光合成様式が C4 植物に近い C4-like 種を持つ。初めに、私は Flaveria C3
種、C3-C4 中間種、C4-like 種そして C4 種からそれぞれ 2 つの種の計 8 種を使用して、C4 回
路の駆動による炭素同化代謝に必要なエネルギー要求量の変化に応答して、光化学系 I 循環
型電子伝達系の電子伝達活性が上昇しているのかを調査した。NDH 複合体のサブユニット
である NDH-H タンパク質発現量は、C3-C4 中間種から C4 種にかけて、C4 回路に関連する酵
素タンパク質の発現増加に起因する C4 回路の構築度合いに従って維管束鞘細胞で増加して
いた。一方で、PGR5 と PGRL1 タンパク質は、C4 回路が実際に光合成反応で機能している
C4-like F. palmeri と C4 種において葉肉細胞と維管束鞘細胞で発現増加していた。近赤外光照
射による光化学系 I 反応中心 P700 の酸化速度から循環型電子伝達活性を見積もったとこ
3
ろ、循環型電子伝達活性は C3 種と比較して C4 種で上昇していた。また、C3-C4 中間種と C4-like
種の循環型電子伝達活性は C3 種と比較して NDH-H、PGR5 そして PGRL1 タンパク質の発
現増加に伴って上昇していた。以上の結果から、循環型電子伝達系は C4 回路の駆動による
炭素同化代謝に必要なエネルギー要求量の変化に応答し、亢進していることが明らかにな
った。また、C4 型光合成進化において、
PGR5/PGRL1 依存経路は、C4 回路が完成された C4-like
F. palmeri と C4 種で C4 回路の駆動に必要な ATP 生産に関与している一方で、NDH 依存経路
はそれに加えて C3-C4 中間種で C4 回路関連代謝酵素の発現増加に伴った葉緑体内の酸化還
元バランスの調節にも関与していると考えられる。
次に、C4 型光合成における循環型電子伝達系の生理機能を解明しようと考えた。C3 植物
では、PGR5/PGRL1 依存経路が循環型電子伝達系の主経路であるとされている。そこで、
形質転換方法が確立されている Flaveria C4 種の F. bidentis へ PGR5/PGRL1 依存経路に関与
する PGR5 と PGRL1 遺伝子をそれぞれ標的とした RNA interference (RNAi)コンストラクト
を導入した。PGRL1-RNAi 株では、PGRL1 タンパク質と共に PGR5 タンパク質はウエスタ
ンブロットの検出限界以下まで減少していた。一方、PGR5-RNAi 株では、PGR5 タンパク
質はウエスタンブロットの検出限界以下まで減少しており、PGRL1 タンパク質量も野生型
の蓄積量の 5 %程度に減少していた。単離チラコイド膜を用いて循環型電子伝達活性を測定
したところ、PGRL1-RNAi 株と PGR5-RNAi 株の PGR5/PGRL1 依存経路の電子伝達活性は完
全に抑制されていた。光合成活性に対する PGR5/PGRL1 依存経路の抑制の影響を調査する
ため、CO2 濃度依存的な光合成活性測定を行った。その結果、WT と比較して PGRL1-RNAi
株では、高 CO2 濃度(400-1500 μL L-1)における光合成活性が 30 %低下しており、また
PGR5-RNAi 株においても光合成活性が 25 %低下していた。高 CO2 濃度における光合成活性
値は C4 回路の phosphoenolpyruvate の再生速度および Calvin-Benson 回路の ribulose-1,
5-bisphosphate の再生速度に依存することが知られている。そして、その代謝反応には ATP
が必要である。このことから、両 RNAi 株では ATP 量の不足により ATP を必要とする代謝
ステップが律速することで光合成活性が低下しており、PGR5/PGRL1 依存経路が炭素同化
代謝のための ATP 生産に関与することが示唆された。C3 植物では、PGR5/PGRL1 依存経路
の欠損は光化学系 I の光障害を引き起こし、結果として直鎖型電子伝達系による ATP と
NADPH の生産が抑制される。そのため、PGR5/PGRL1 依存経路が直接に炭素同化代謝へ影
響するのか、それとも副次的な要因が影響するのかはこれまで判然としていなかった。し
かしながら、今回、PGRL1-RNAi 株では、光化学系 I の光障害は見受けられなかった。従っ
て、PGR5/PGRL1 依存経路の抑制による ATP 生産量の低下が、PGRL1-RNAi 株で見られた
光合成活性の低下の直接の原因であると考えられる。
本研究によって、光化学系 I 循環型電子伝達系は C4 回路の駆動による炭素同化代謝に必
要なエネルギー要求量の増加に応答して活性上昇していること、PGR5/PGRL1 依存経路の
抑制は炭素同化代謝に直接に影響を及ぼすことが明らかになった。また、光化学系 I 循環型
電子伝達系のうち少なくとも PGR5/PGRL1 依存の循環型電子伝達系は C4 型光合成における
炭素同化代謝とエネルギー生産の調整に関わる重要なものであることが明らかになった。
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目次
第 1章
緒論
第 2章
Flaveria 属 植 物 を 用 い た C 4 型 光 合 成 進 化 に お け る C 4 回 路 の 構 築 に 伴 う
ATP 要 求 量 の 変 化 に 対 す る 光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 活 性 の 応 答
2-1. 序 論
2-2. 材 料 と 方 法
2-3. 結 果
2-4. 考 察
第 3章
F. bidentis PGRL1 お よ び PGR5 発 現 抑 制 株 を 用 い た C 4 型 光 合 成 に お け る
PGR5/PGRL1 依 存 的 光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 系 の 生 理 機 能 の 解 析
3-1. 序 論
3-2. 材 料 と 方 法
3-3. 結 果
3-4. 考 察
第 4章
総括
謝辞
参考文献
論文目録
図表
5
6
第1章
緒論
光合成は、光エネルギーを利用して有機化合物を合成することであり、
地球生態系において生物の生命活動に必要不可欠な物質を生産する極め
て 重 要 な 化 学 反 応 で あ る 。 そ の 過 程 は 、 光 エ ネ ル ギ ー か ら ATP や NADPH
と い っ た 化 学 エ ネ ル ギ ー を 合 成 す る 光 合 成 電 子 伝 達 反 応 と 、そ の 化 学 エ ネ
ル ギ ー を 利 用 し て CO 2 を 有 機 物 と し て 固 定 す る 炭 酸 固 定 経 路 の
Calvin-Benson 回 路 か ら 成 る (Eberhard et al., 2008)。 地 球 上 の 陸 地 で 光 合 成
を 行 う 陸 上 植 物 の 内 、 被 子 植 物 は 現 在 約 250,000 種 存 在 し て い る が 、 そ れ
ら は 光 合 成 反 応 の 様 式 に よ っ て 分 類 す る こ と が で き る 。 被 子 植 物 の 90 %
以 上 の 種 は C3 植 物 と 呼 ば れ て お り 、 主 要 な 作 物 と し て イ ネ や コ ム ギ が こ
れ に 含 ま れ る 。一 方 で 、C 4 植 物 と 呼 ば れ て い る グ ル ー プ に は 身 近 な 作 物 と
し て ト ウ モ ロ コ シ や サ ト ウ キ ビ な ど が 含 ま れ る が 、C 4 植 物 に 分 類 さ れ る 種
は 被 子 植 物 の 3 %に し か 満 た な い (Sage, 2004)。 し か し な が ら 、 C 4 植 物 は
C3 植 物 と 比 べ て 高 温 、 乾 燥 地 帯 で 高 い 光 合 成 速 度 と 生 産 能 力 を 有 し 、 C4
植物の光合成反応による有機物生産量は地球上で行われている光合成に
よ る 総 有 機 物 生 産 量 (生 態 学 分 野 で は 総 一 次 生 産 量 と 呼 ば れ る )の 実 に 23 %
を 占 め て い る (Llo yd and Farquhar, 1994; Brown, 1999; Sage, 2004)。 こ の 生
産 性 の 高 さ は 、C 4 植 物 が 、C 3 植 物 に お い て 光 合 成 能 力 を 制 限 し て い る 要 因
を 解 消 す る た め の C4 回 路 と 呼 ば れ る 炭 素 代 謝 経 路 を 有 し て い る こ と に 起
因する。
C 3 植 物 は 、炭 酸 固 定 経 路 に お い て CO 2 を 固 定 し て 3 炭 素 化 合 物 を 合 成 す
る C 3 型 光 合 成 を 行 っ て い る 。 C 3 型 光 合 成 で は 、 大 気 CO 2 は 、 葉 肉 細 胞 葉
緑 体 で 、 Calvin-Benson 回 路 の 初 発 反 応 を 担 う Ribu lose 1, 5-bisphosphate
(RuBP) carboxylase/oxygenase (RuBisCO)に よ っ て RuBP に 固 定 さ れ 、2 分 子
の 3-Phosphoglycerate (3-PGA)が 生 産 さ れ る (Fig. 1)。3-PGA は そ の 後 、 ATP
に よ る リ ン 酸 化 を 受 け た 後 、 NADPH に よ っ て 還 元 さ れ 、 光 合 成 初 期 産 物
糖 で あ る ト リ オ ー ス リ ン 酸 を 生 じ る 。そ の ト リ オ ー ス リ ン 酸 の 一 部 は ス ク
ロ ー ス や デ ン プ ン の 合 成 に 利 用 さ れ 、 残 り は RuBP の 再 生 反 応 に 利 用 さ れ
る 。C 3 型 光 合 成 に お い て 、そ の CO 2 固 定 効 率 を 制 限 し て い る 要 因 の 一 つ に
RuBisCO の 酵 素 的 性 質 が 挙 げ ら れ る (Farquhar et al., 1980; von Caemmerer,
2013)。RuBisCO は CO 2 を 固 定 す る カ ル ボ キ シ ラ ー ゼ 反 応 の 他 に 、O 2 を RuBP
に 固 定 す る オ キ シ ゲ ナ ー ゼ 反 応 も 触 媒 す る 。オ キ シ ゲ ナ ー ゼ 反 応 は 、反 応
7
産 物 と し て 3-PGA と 2-ホ ス ホ グ リ コ ー ル 酸 を 1 分 子 ず つ 生 産 す る 。2 分 子
の 2-ホ ス ホ グ リ コ ー ル 酸 は 光 呼 吸 経 路 に よ っ て 1 分 子 の 3-PGA と し て
Calvin-Benson 回 路 へ 供 給 さ れ る が 、そ の 過 程 で ミ ト コ ン ド リ ア に お い て 1
分 子 の CO 2 が 放 出 さ れ て し ま う 。そ の た め 、RuBisCO オ キ シ ゲ ナ ー ゼ 反 応
は 、光 合 成 の CO 2 固 定 効 率 を 低 下 さ せ る 原 因 と な る 。カ ル ボ キ シ ラ ー ゼ 反
応 と オ キ シ ゲ ナ ー ゼ 反 応 は RuBisCO の 同 一 の 触 媒 部 位 を 利 用 し て 行 わ れ
る た め 、 両 反 応 は 競 合 関 係 に あ る (Ogren, 2003)。 現 在 の 大 気 条 件 は CO 2 分
圧 (0.04 % CO 2 )よ り も O 2 分 圧 (20.9% O 2 )の 方 が 高 く 、 ま た 大 気 と 平 衡 状 態
に あ る 25 °C の 溶 液 中 の 溶 存 CO 2 濃 度 は 12 μM で あ る の に 対 し て 溶 存 O 2
濃 度 は 240 μM で あ る た め 、 カ ル ボ キ シ ラ ー ゼ 反 応 2 回 あ た り 1 回 の オ キ
シ ゲ ナ ー ゼ 反 応 が 起 こ る 。こ の 両 反 応 が 起 こ る 比 率 は 、植 物 の 環 境 に 大 き
く 左 右 さ れ る 。例 え ば 、乾 燥 環 境 で は 、植 物 は 水 分 の 蒸 散 を 防 ぐ た め に 気
孔 を 閉 鎖 し よ う と す る が 、こ れ は 同 時 に 葉 内 へ の CO 2 流 入 量 の 低 下 を 招 き 、
葉 内 の [CO 2 ]/ [O 2 ]率 は 低 下 す る 。ま た 、高 温 環 境 に お い て も 、CO 2 と O 2 の
水 に 対 す る 溶 解 度 の 温 度 依 存 性 の 違 い か ら 、 葉 内 の [CO 2 ]/ [O 2 ]率 は 低 下 す
る 。こ れ ら の 葉 内 CO 2 濃 度 が 低 下 す る 環 境 で は オ キ シ ゲ ナ ー ゼ 反 応 が 起 こ
り や す く な り 、C 3 植 物 は Calvin-Benso n 回 路 で 固 定 し た CO 2 量 の 約 40 %を
損 失 し て し ま う (Sage, 2004)。こ れ に 起 因 し て 、C 3 植 物 は 地 球 上 の 高 緯 度 地
帯 の 温 暖 湿 潤 な 環 境 に 広 く 分 布 し て い る 一 方 で 、高 温 、乾 燥 環 境 の 低 緯 度
地 帯 で は ほ と ん ど 見 ら れ な い (Edward et al., 2010)。そ の RuBisCO が 抱 え る
酵 素 的 性 質 の 問 題 を 打 破 し 、C 3 植 物 が 自 生 す る の に 難 し い 高 温 、乾 燥 環 境
地 帯 に 分 布 し て い る の が C4 植 物 で あ る 。
C 4 植 物 は 現 在 66系 統 に 約 7500種 存 在 す る が 、 そ れ ら は 約 3000万 年 か ら 500
万 年 前 の 間 に 複 数 の 祖 先 C 3 植 物 か ら 個 別 に 進 化 し た と さ れ て い る (Sage et al.,
2012)。 C 4 植 物 が 発 生 し た 当 時 の 地 球 環 境 は 、 温 暖 湿 潤 な 気 候 か ら 寒 冷 で や
や 乾 燥 し た 気 候 へ の 変 化 に 伴 い 、大 気 CO 2 濃 度 が 1000 μmo l CO 2 mol -1 か ら 200
μmol CO 2 mo l -1 へ 低 下 し て い た (Zachos et al., 2008)。 そ の 低 い 大 気 CO 2 濃 度 に
適 応 す る た め に C 4 植 物 は 、 RuBisCOに 高 濃 度 の CO 2 を 供 給 す る た め の CO 2 濃
縮 機 構 で あ る C 4 回 路 と 、そ れ を 駆 動 す る た め の 葉 緑 体 が 発 達 し た 維 管 束 鞘 細
胞 を 進 化 上 獲 得 し た と 考 え ら れ て い る (Tipple and Pagani, 2007)。 C 4 植 物 が 行
う C 4 型 光 合 成 で は 、 大 気 CO 2 は 葉 肉 細 胞 で 初 め に Phosphoeno lpyruvate (PEP)
carboxylase (PEPC)に よ っ て 固 定 さ れ 、4炭 素 化 合 物 で あ る オ キ サ ロ 酢 酸 が 合
成 さ れ る (Fig. 2)。 オ キ サ ロ 酢 酸 は 次 に 、 よ り 安 定 な C 4 酸 で あ る リ ン ゴ 酸 若
し く は ア ス パ ラ ギ ン 酸 へ 置 換 さ れ 、隣 接 す る 維 管 束 鞘 細 胞 へ 拡 散 す る 。こ こ
で 、C 4 酸 は C 4 植 物 の 種 類 に よ っ て 、NADP-malic enzyme (ME)、NAD-ME、PEP
carboxykinaseの 3種 類 の 脱 炭 酸 酵 素 の う ち の ど れ か 1つ に よ っ て 脱 炭 酸 さ れ 、
8
C 3 酸 の ピ ル ビ ン 酸 と CO 2 が 生 産 さ れ る 。 CO 2 は 維 管 束 鞘 細 胞 に 局 在 す る
RuBisCOに よ り 再 固 定 さ れ 、Calvin-Benson回 路 が 駆 動 さ れ る 。一 方 、ピ ル ビ
ン 酸 は 葉 肉 細 胞 へ 拡 散 し て 戻 り 、葉 緑 体 内 で Pyruvate orthophosphate dikinase
(PPDK)に よ り PEPに 再 生 さ れ る (Hatch, 1987; Sage, 1999)。 こ の C 4 回 路 は 、 葉
内 CO 2 濃 度 が 低 下 す る 乾 燥 、 高 温 環 境 に お い て RuBisCOが 局 在 す る 維 管 束 鞘
細 胞 内 の CO 2 濃 度 を 高 く 保 つ こ と が で き る た め 、 RuBisCOオ キ シ ゲ ナ ー ゼ 反
応 は 大 き く 抑 制 さ れ る 。 そ の た め 、 RuBisCOは 高 い CO 2 固 定 効 率 を 発 揮 す る
こ と が で き る 。ま た 、C 4 回 路 は 気 孔 を 閉 じ て 蒸 散 量 を 最 小 限 に し た 状 態 に お
い て も 光 合 成 を 行 う の に 十 分 な 量 の CO 2 を 光 合 成 組 織 に 供 給 で き る た め 、C 4
植 物 は C 3 植 物 に 比 べ て 水 分 利 用 効 率 が 高 い (Long, 1999)。 こ れ ら の C 4 回 路 に
よ る 効 果 が 、乾 燥 、高 温 環 境 に お け る C 4 植 物 の 高 い 光 合 成 活 性 を も た ら し て
い る 。し か し な が ら 、そ の C 4 回 路 の 駆 動 は ATPを 必 要 と す る 。C 3 型 光 合 成 で
は 、 Calvin-Benson回 路 で 1分 子 の CO 2 を 固 定 す る の に 3分 子 の ATP と 2分 子 の
NADPHを 消 費 す る の に 対 し て 、 C 4 型 光 合 成 で は Calvin-Benso n回 路 に 加 え て
C 4 回 路 で 1分 子 の CO 2 を 固 定 す る の に 2分 子 の ATPを 必 要 と す る の で 、全 体 で 5
分 子 の ATPと 2分 子 の NADPHを 消 費 す る (Kanai and Edward, 1999)。そ の た め 、
C 4 植 物 は C 4 回 路 を 有 さ な い C 3 植 物 に 比 べ て 、C 4 回 路 を 駆 動 す る た め に 、光 合
成 反 応 に お い て よ り 多 く ATPを 生 産 す る こ と を 求 め ら れ る 。
光 合 成 反 応 に お い て 、炭 酸 固 定 経 路 で 消 費 さ れ る ATP と NADPH は 光 合
成 電 子 伝 達 反 応 に よ っ て 生 産 さ れ る 。そ の 光 合 成 電 子 伝 達 反 応 に よ る ATP
と NADPH 合 成 の 大 部 分 を 担 っ て い る の が 、 直 鎖 型 電 子 伝 達 系 で あ る (Fig.
3)。 直 鎖 型 電 子 伝 達 系 で は 、 光 エ ネ ル ギ ー は 光 化 学 系 II と 光 化 学 系 I と い
う 2 つのタンパク質複合体に結合している集光クロロフィルによって吸収
さ れ る 。吸 収 さ れ た 光 エ ネ ル ギ ー に よ っ て 光 化 学 系 II で 水 の 酸 化 分 解 反 応
が 起 こ り 、電 子 が 引 き 抜 か れ る 。電 子 は そ の 後 光 化 学 系 II か ら プ ラ ス ト キ
ノ ン 、 シ ト ク ロ ム b6f 複 合 体 、 プ ラ ス ト シ ア ニ ン 、 光 化 学 系 I そ し て フ ェ
レ ド キ シ ン へ と 伝 達 さ れ 、 最 終 的 に 還 元 力 で あ る NADPH が 生 産 さ れ る 。
ま た 、 2 つ の 光 化 学 系 の 間 に あ る シ ト ク ロ ム b6f 複 合 体 で は Q サ イ ク ル も
機 能 し 、電 子 伝 達 が 行 わ れ る と 同 時 に ス ト ロ マ か ら チ ラ コ イ ド ル ー メ ン へ
の プ ロ ト ン の 輸 送 も 行 わ れ て い る 。光 化 学 系 II の 水 酸 化 分 解 反 応 と シ ト ク
ロ ム b6f 複 合 体 に お け る プ ラ ス ト キ ノ ー ル の 酸 化 に 伴 う プ ロ ト ン 輸 送 に よ
っ て 、 チ ラ コ イ ド 膜 内 外 の プ ロ ト ン 濃 度 勾 配 (⊿ pH)が 形 成 さ れ る 。 こ の ⊿
pH を 駆 動 力 に し て ATP 合 成 酵 素 が ATP を 合 成 す る 。直 鎖 型 電 子 伝 達 系 に
よ る 電 子 伝 達 反 応 で 生 産 さ れ る ATP 量 と NADPH 量 の 比 (ATP/NADPH 率 )
は 1.29 だ と さ れ て い る (Seelert et al., 2000; Allen, 2002; Allen, 2003)。 こ れ
に 対 し て 、 C 3 型 光 合 成 で は Calvin-Benson 回 路 で 1 分 子 の CO 2 を固定する
9
の に 必 要 な ATP と NADPH 量 を ATP/NADPH 率 で 表 す と 、 そ れ は 1.5 と な
り 、 ま た そ れ に 加 え て 光 呼 吸 経 路 が 働 い た 場 合 1.66 と な る 。 一 方 で 、 C 4
型 光 合 成 で は Calvin-Benson 回 路 と C 4 回 路 で 1 分 子 の CO 2 を 固 定 す る の に
必 要 な ATP/NADPH 率 は 2.5 と な る 。 従 っ て 、 ATP 消 費 量 が 高 く な っ て い
る C 4 型 光 合 成 の み な ら ず C 3 型 光 合 成 に お い て も 、 直 鎖 型 電 子 伝 達 系が 機
能 す る だ け で は 炭 酸 固 定 経 路 で 必 要 と な る ATP 量 を 生 産 で き な い 。光 合 成
電子伝達反応では、直鎖型電子伝達系の他に光化学系 I 循環型電子伝達系
と 呼 ば れ る 電 子 伝 達 経 路 が 機 能 し て い る (Fig. 4)。光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝
達系は、光化学系 I の電子受容体であるフェレドキシンからプラストキノ
ン に 電 子 を 戻 し て シ ト ク ロ ム b6f 複 合 体 を 再 び 通 過 さ せ る 電 子 伝 達 反 応
で 、⊿ pH 形 成 に 貢 献 し て い る と 考 え ら れ て い る (Bendall and Manasse, 1995)。
こ の 電 子 伝 達 は 、 光 化 学 系 I の 光 化 学 反 応 の み を 駆 動 力 と し 、 NADPH の
純 生 産 を 伴 わ ず に ⊿ pH を 形 成 さ せ 、ATP を 合 成 で き る 。ま た 、光 化 学 系 I
循環型電子伝達系には 2 つの独立した経路が存在することが明らかとなっ
て い る (Shikanai,
2007) 。 1
つ め の 経 路 は 、 chloroplast
NADH
dehydrogenase-like (NDH) 複 合 体 が フ ェ レ ド キ シ ン か ら プ ラ ス ト キ ノ ン へ
の 電 子 伝 達 を 仲 介 す る NDH 依 存 経 路 で あ る 。NDH 複 合 体 は 、 核 ゲ ノ ム と
葉 緑 体 ゲ ノ ム に そ れ ぞ れ コ ー ド さ れ た 28 の サ ブ ユ ニ ッ ト タ ン パ ク 質 で 構
成 さ れ て い る (Ifuku et al., 2011; Peng et al., 2011)。 も う 一 方 の 経 路 で は 、
PROTON GRAGIENT REGULATION (PGR)5 と PGR5-Like(PGRL)1 タ ン パ ク
質 か ら 成 る PGR5/PGRL1 複 合 体 が フ ェ レ ド キ シ ン か ら プ ラ ス ト キ ノ ン へ
の 電 子 伝 達 を 仲 介 し て お り 、 PGR5/PGRL1 依 存 経 路 と 呼 ば れ て い る
(Munekage et al., 2002; DalCorso et al., 2008)。C 3 植 物 で は 、直 鎖 型 電 子 伝 達
系 に 加 え て 、 こ の 光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 系 に よ る ⊿ pH 形 成 を 通 し た
ATP 生 産 が 起 こ る こ と で 、 炭 酸 固 定 経 路 の 駆 動 に 必 要 な ATP/NADPH 率 を
達 成 し て い る と 考 え ら え て お り 、 葉 緑 体 で 生 産 さ れ る 総 ATP 量 の 10-15 %
は 光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 系 に よ っ て 形 成 さ れ た ⊿ pH に よ っ て 生 産 さ
れ る こ と が 示 唆 さ れ て い る (Allen, 2002; Allen, 2003)。 興 味 深 い こ と に 、 こ
れ ま で に い く つ か の C4 植 物 で 光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 活 性 が C3 植 物 と
比 較 し て 上 昇 し て い る こ と が 報 告 さ れ て い る (Herbert et al., 1990; Asada et
al., 1993)。 こ の こ と か ら 、 C 4 植 物 で は 、 光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 系 が そ
の 電 子 伝 達 活 性 を 上 昇 さ せ る こ と で ATP 生 産 量 を 増 や し 、炭 酸 固 定 経 路 で
消 費 さ れ る ATP 量 と 光 合 成 電 子 伝 達 反 応 で 生 産 さ れ る ATP 量 の バ ラ ン ス
を調整している可能性が考えられた。
そ こ で 本 研 究 で は 、C 4 型 光 合 成 に お け る 光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 系 の
生 理 機 能 を 解 明 す る こ と を 目 的 と し て 、同 属 内 に C 3 種 と C 4 種 に 加 え て C 3
10
型 光 合 成 と C 4 型 光 合 成 の 中 間 の 性 質 を 示 す C 3 -C 4 中 間 種 や 光 合 成 様 式 が
C 4 植 物 に 近 い C 4 -like 種 を 含 む Flaveria 属 植 物 を 用 い て 解 析 を 行 っ た 。第 2
章 で は 、 Flaveria 属 の C 3 -C 4 中 間 種 、 C 4 -like 種 を 用 い て 、 C 4 回 路の構築 に
よ る 炭 酸 固 定 経 路 で 必 要 な ATP 要 求 量 の 変 化 に 応 答 し た 光 化 学 系 I 循 環 型
電 子 伝 達 系 の 亢 進 の 機 構 を 解 明 し 、第 3 章 で は 、Flaveria C 4 種 の F. bidentis
を 用 い て 、PGR5/PGRL1 依 存 の 循 環 型 電 子 伝 達 系 に 関 わ る PGR5 と PGRL1
遺伝子の発現抑制形質転換体をそれぞれ作成し、光化学系 I 循環型電子伝
達 系 に よ る ATP 生 産 と C 4 型 光 合 成 の CO 2 固 定 効 率 と の 関 連 に つ い て解析
し た 結 果 を 報 告 す る 。こ れ ら の 解 析 結 果 か ら 、C 4 型 光 合 成 の 炭 酸 固 定 経 路
で の ATP 消 費 と 光 合 成 電 子 伝 達 反 応 に よ る ATP 生 産 と の バ ラ ン ス 調 節 に
対して、光化学系 I 循環型電子伝達系が果たす役割とその重要性について
考察した。
11
第2章
Flaveria 属 植 物 を 用 い た C 4 型 光 合 成 進 化 に お け る
C 4 回 路 の 構 築 に 伴 う ATP 要 求 量 の 変 化 に 対 す る
光化学系 I 循環型電子伝達活性の応答
2-1. 序 論
C4 型 光 合 成 の 炭 酸 固 定 経 路 は 、 C3 型 光 合 成 の も の と 比 較 し て 、 C4 回 路
を 駆 動 す る た め に 、1 分 子 の CO 2 を 固 定 す る あ た り 2 分 子 の ATP を よ り 多
く 必 要 と す る (Kanai and Edwards, 1999)。 ま た 、 そ の ATP 要 求 量 は 葉 肉 細
胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 間 で 異 な っ て い る 。 C 4 回 路 の C4 酸 脱 炭 酸 酵 素 と し て
NADP-ME を 用 い る NADP-ME 型 C 4 植 物 で は 、葉 肉 細 胞 と 比 較 し て 維 管 束
鞘 細 胞 で ATP 要 求 量 が 高 く な っ て い る (Edwards and Voznesenskaya, 2011)。
一 方 で 、C 4 酸 脱 炭 酸 酵 素 と し て NAD-ME を 用 い る NAD-ME 型 C 4 植 物 で は 、
ATP 要 求 量 は 維 管 束 鞘 細 胞 に 比 べ 葉 肉 細 胞 で 高 く な っ て い る 。こ れ ま で に 、
C 4 植 物 の 葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 間 で NDH 複 合 体 タ ン パ ク 質 と PGR5 タ
ン パ ク 質 の 発 現 解 析 が 行 わ れ て い る (Kubicki et al., 1996; Takabayashi et al.,
2005)。NDH 複 合 体 の サ ブ ユ ニ ッ ト で あ る NDH-H タ ン パ ク 質 は 両 細 胞 間 で
ATP 要 求 量 の 高 い 細 胞 に 多 く 蓄 積 し て お り 、NADP-ME 型 C 4 植 物 で は 葉 肉
細 胞 と 比 較 し て 維 管 束 鞘 細 胞 で 、 NAD-ME 型 C 4 植 物 で は 維 管 束 鞘 細 胞 と
比 較 し て 葉 肉 細 胞 で NDH-H タ ン パ ク 質 発 現 量 は 高 く な っ て い る 。 こ れ に
対 し て 、 PGR5 タ ン パ ク 質 は 、 NADP-ME 型 と NAD-ME 型 C 4 植 物 で 共 に 、
ど ち ら の 細 胞 に も 同 等 の レ ベ ル で 発 現 し て い る 。そ の た め 、C 4 型 光 合 成 に
お い て 炭 酸 固 定 経 路 で 消 費 さ れ る ATP の 生 産 へ の NDH 依 存 経 路 の 関 与 が
示唆されている。
し か し な が ら 、 C3 植 物 か ら C4 植 物 へ の 進 化 の 過 程 で 、 循 環 型 電 子 伝 達
活 性 が ATP 要 求 量 に 応 答 し て ど の よ う に 活 性 を 上 昇 さ せ た の か 、ま た NDH
複 合 体 タ ン パ ク 質 や そ れ に 加 え て PGR5、 PGRL1 タ ン パ ク 質 の 発 現 増 加 が
起 こ っ て い る の か は 明 ら か で は な い 。 C4 植 物 を 含 む フ ァ ミ リ ー の 中 に は 、
こ れ を 調 査 す る こ と に 適 し た Flaveria 属 植 物 が 存 在 す る 。 Flaveria 属 植 物
は 、 C 4 植 物 を 含 む 最 も 若 い 系 統 の 1 つ で あ る と さ れ 、 約 500 万 年 前 に C 4
植 物 へ の 進 化 が 起 こ っ た と 考 え ら れ て い る (Sage et al., 2012)。 そ の た め 、
Flaveria 属 植 物 に は C 3 種 と NADP-ME 型 C 4 種 に 加 え て 、C 3 種 と C 4 種 の 間
の 進 化 的 な 中 間 の 種 で 、 C3 型 光 合 成 と C4 型 光 合 成 の 中 間 の 性 質 を 示 す
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C 3 -C 4 中 間 種 や 光 合 成 様 式 が C 4 植 物 に 近 い C 4 -like 種 が 多 く 含 ま れ て い る 。
そ の た め 、Flaveria 属 植 物 は C 4 型 光 合 成 の 進 化 過 程 を 解 明 す る 研 究 に 広 く
用 い ら れ て い る (Monson and Moore, 1989)。 Flaveria 属 の C 3 -C 4 中 間 種 と
C 4 -like 種 を 用 い た 解 析 か ら 、C 4 型 光 合 成 の 炭 酸 固 定 経 路 の 成 立 は 段 階 的 に
進 ん だ と さ れ て い る (Sage et al., 2004; Gowik and Westho ff, 2010; Sage et al.,
2012)。 そ の 過 程 は 以 下 の よ う に 要 約 さ れ る (Fig. 5)。 1) 維 管 束 鞘 細 胞 の サ
イ ズ が 拡 大 し 、 葉 緑 体 の 数 が 増 え る (Brown and Hattersley, 1989; Sage et al.,
2013)。 こ れ は 、 C 4 回 路 を 構 築 す る 前 に ま ず 維 管 束 鞘 細 胞 を 、 光 合 成 を 行
え る 状 態 に す る た め に 必 要 で あ っ た と 考 え ら れ て い る 。2) 光 呼 吸 経 路 の 代
謝 改 変 に よ り グ リ シ ン シ ャ ト ル と 呼 ば れ る CO 2 濃 縮 機 構 が 構 築 さ れ る
(Hylton et al., 1988; von Caemmerer and Hubick, 1989; Bauwe, 2011)。 グ リ シ
ン シ ャ ト ル は C 3 -C 4 中 間 種 で 見 ら れ る CO 2 濃 縮 機 構 で 、 葉 肉 細 胞 で
RuBisCO オ キ シ ゲ ナ ー ゼ 反 応 に よ り 引 き 起 こ さ れ る 光 呼 吸 の 中 間 代 謝 産
物 で あ る グ リ シ ン を 維 管 束 鞘 細 胞 へ 輸 送 し 、維 管 束 鞘 細 胞 の ミ ト コ ン ド リ
ア で CO 2 を 放 出 さ せ RuBisCO に 再 固 定 さ せ る こ と で 、 光 呼 吸 に よ る CO 2
固 定 効 率 の 低 下 を 抑 え て い る (Fig. 6)。 グ リ シ ン シ ャ ト ル が 機 能 し て い る
C 3 -C 4 中 間 種 で は 、 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 の 周 囲 に 多 く の ミ ト コ ン ド リ ア が
観 察 さ れ る (Brown and Hattersley, 1989)。 3) PEPC が 葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細
胞 の 両 方 で 非 細 胞 選 択 的 に 発 現 増 加 す る (Ku et al., 1983; Ku et al., 1991;
Engelmann et al., 2003)。た だ し 、NADP-ME や PPDK の 発 現 量 が 低 い た め 、
こ の 段 階 で は C 4 回 路 は 機 能 し な い 。 4)他 の C 4 回 路 に 関 わ る 酵 素 タ ン パ ク
質 が 葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 の 両 方 で 非 細 胞 選 択 的 に 発 現 増 加 す る (Ku et
al., 1983)。 こ れ に よ っ て 、 C 4 回 路 が 部 分 的 に 機 能 す る 。 5) PEPC が 葉 肉 細
胞 に 局 在 化 し 、C 4 回 路 が 構 築 さ れ 完 全 に 機 能 す る (Cheng et al., 1988; Moore
et al., 1989; Ku et al., 1991)。 た だ し 、 こ の 段 階 で は RuBisCO が 葉 肉 細 胞 に
も 存 在 す る た め 、 そ の 存 在 量 に 依 存 し て RuBisCO が 大 気 CO 2 の 一 部 を 直
接 固 定 し て い る 。 6) RuBisCO が 維 管 束 鞘 細 胞 に 局 在 化 し 、 C 4 型 光 合 成 の
炭 酸 固 定 経 路 が 成 立 す る (Peisker, 1986)。 ま た 、 Flaveria 属 の C 3 -C 4 中 間 種
と C 4 -like 種 の 光 合 成 電 子 伝 達 反 応 と 葉 緑 体 の 構 造 を 特 徴 づ け た 報 告 も い
く つ か あ る 。葉 緑 体 の チ ラ コ イ ド 膜 は 、グ ラ ナ と 呼 ば れ る チ ラ コ イ ド 膜 が
積み重なった領域とストロマラメラと呼ばれるチラコイド膜 1 層から成る
領 域 に 大 別 さ れ る 。直 鎖 型 電 子 伝 達 系 で 機 能 す る 光 化 学 系 II は グ ラ ナ の 領
域 に 局 在 す る の だ が 、Flaveria C 4 種 が 属 す る NADP-ME 型 C 4 植 物 の 維 管 束
鞘 細 胞 葉 緑 体 で は 、 グ ラ ナ が 減 少 し て お り 、 そ れ に 合 わ せ て 光 化 学 系 II
の 水 酸 化 分 解 反 応 の 活 性 が 低 下 し て い る (Laetsch and Price, 1971; Sheen et
al., 1987; Oswald et al., 1990; Hofer et al., 1992)。 こ れ は 、 光 化 学 系 II の 水
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酸 化 分 解 反 応 の 際 に 生 産 さ れ る O 2 を 減 少 さ せ る こ と で 、 RuBisCO の オ キ
シ ゲ ナ ー ゼ 反 応 を 抑 制 す る た め だ と 考 え ら れ て い る 。従 っ て 、グ ラ ナ の 減
少 を 伴 う 光 化 学 系 II 活 性 の 低 下 は 、 C 4 回 路 に よ る CO 2 濃 縮 の 効 果 を 大 き
く す る こ と に 貢 献 し て い る と い え る 。興 味 深 い こ と に 、C 4 回 路 が 構 築 さ れ
て い な い Flaveria C 3 -C 4 中 間 種 と 一 部 の C 4 -like 種 の 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 で
は 、 発 達 し た グ ラ ナ が 観 察 さ れ 、 光 化 学 系 II 活 性 の 低 下 も 起 き て い な い
(Holaday et al., 1984; Ketchner and Sayre. 1992)。こ の こ と は 、光 合 成 電 子 伝
達 反 応 の 様 式 も C4 型 光 合 成 の 進 化 過 程 で 、 C4 回 路 の 構 築 と 共 に 変 化 し た
ことを意味している。
本 章 で は 、 Flaveria C 3 種 、 C 3 -C 4 中 間 種 、 C 4 -like 種 そ し て NADP-ME
型 C 4 種 か ら そ れ ぞ れ 2 つ の 種 の 計 8 種 を 使 用 し て 、C 3 -C 4 中 間 種 、C 4 -like
種 に お け る 光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 系 の 機 能 性 を 調 査 し た 。そ し て 、本
研究で得られたデータと過去の炭酸固定経路に関する知見を照らし合わ
せ る こ と で 、 C 4 回 路 の 駆 動 に よ る 炭 酸 固 定 経 路 に 必 要 な ATP 要 求 量 の 上
昇に応答して、光化学系 I 循環型電子伝達系が亢進しているのかを解析し
た。
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2-2. 材 料 と 方 法
2-2-1. 植 物 材 料 と 栽 培 条 件
Flaveria 属 (Asteraceae 科 ) 植 物 の F. trinervia (C 4 ), F. bidentis (C 4 ), F.
palmeri (C 4 -like), F. brownii (C 4 -like), F. ramosissima (C 3 -C 4 ), F. anomala
(C 3 -C 4 ), F. pringlei (C 3 ) , F. robusta (C 3 ) を 土 (ス ー パ ー ミ ッ ク ス A (株 式 会 社
サ カ タ の タ ネ ): バ ー ミ キ ュ ラ イ ト (ニ ッ タ イ 株 式 会 社 )= 3: 1)に 播 種 し 、
人 工 気 象 器 環 境 条 件 下 (光 強 度:200~ 300 μmol photons m -2 s -1 、温 度 24 °C、
湿 度 50 %、 明 期 /暗 期 : 12/12 時 間 )で 生 育 さ せ た 。 潅 水 は 、 ポ ッ ト の 土 が
完 全 に 乾 燥 し た ら 行 い 、 そ の 際 に 1000 倍 希 釈 し た 液 体 肥 料 ハ イ ポ ネ ッ ク
ス ® ; N:P:K = 6:10:5 (株 式 会 社 ハ イ ポ ネ ッ ク ス ジ ャ パ ン )を 与 え た 。 実 験 に
は 播 種 後 6~ 8 週 間 目 の 完 全 展 開 し た 第 5 葉 若 し く は 第 6 葉 を 使 用 し た 。
2-2-2. 光 化 学 系 I 反 応 中 心 P700 酸 化 レ ベ ル の 測 定
酸 化 型 P700 は 810 nm の 波 長 の 光 を 吸 収 す る た め 、810 nm の 吸 光 度 変 化
を 測 定 す る こ と で P700 の 酸 化 レ ベ ル を 見 積 も る こ と が で き る 。 P700 酸 化
キ ネ テ ィ ク ス は 、 1.5~2 時 間 暗 順 化 さ せ た 植 物 の 葉 に 近 赤 外 光 (720 nm,
17.2 Wm -2 )を 照 射 し 、 810 nm の 吸 光 度 変 化 か ら P700 の 酸 化 レ ベ ル を ト レ
ー ス す る こ と で 計 測 し た 。 810 nm の 吸 光 度 変 化 は 、 PAM 101 fluorometer
(Heinz-Walz,
Effeltrich,
付
Germany)
属
の
emitter-detector
unit
ED700DW(Heinz-Walz)を 用 い て 測 定 し た 。P700 最 大 酸 化 レ ベ ル は 、近 赤 外
光 存 在 下 で 、xenon flash light (50 ms, 1500 Wm -2 )を 照 射 し て 測 定 し た 。電 子
伝
達
阻
害
剤
(3-(3,4-dichlorophenyl)-1,1-dimethylurea(DCMU),2,5-
Dibro mo-3-met hyl-6-isopropyl
-p-denzoquinone (DBMIB),
methyl vio logen(MV))処 理 で は 、1 時 間 暗 順 化 さ
せ た 植 物 体 の 葉 か ら 切 り 出 し た リ ー フ デ ィ ス ク を 、各 電 子 伝 達 阻 害 剤 を 添
加 し た 溶 液 中 に 沈 め 、20 分 間 ア ス ピ レ ー タ ー で 減 圧 処 理 す る こ と で 薬 剤 を
葉 内 へ 浸 透 さ せ た 。 P700 酸 化 キ ネ テ ィ ク ス の 測 定 法 は 前 述 と 同 じ で あ る 。
2-2-3. 葉 タ ン パ ク 質 の 可 溶 性 画 分 お よ び 膜 画 分 の 調 製
葉 サ ン プ ル は 液 体 N 2 で す り つ ぶ し 、 50 mL の 抽 出 buffer (50 mM
Tris-HCl(pH8.0), 50 mM β-mercaptoethano l, 1 錠 の Co mplete Protease Inhibitor
Cocktail Tablets (Roche Diagnost ics, Tokyo, Japan))に 溶 解 さ せ た 。 膜 画 分 と
可 溶 性 画 分 は 、 20,400 ×g, 4 °C, 15 min の 遠 心 で 分 離 し た (Munekage et al.,
2010)。
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2-2-4. グ ラ ナ チ ラ コ イ ド と ス ト ロ マ チ ラ コ イ ド の 分 離
葉 サ ン プ ル を Polytron homogenizer で 破 砕 し 、 そ の 後 単 離 チ ラ コ イ ド 膜
を 100 mM Tricine/NaOH buffer(pH7.8)(10 mM NaCl, 10 mM MgCl2 を 含 む )
に 溶 解 さ せ 、digitonin (Sigma-Aldrich, St. Luis, MO, USA)で イ ン キ ュ ベ ー ト
し た 。 グ ラ ナ チ ラ コ イ ド と ス ト ロ マ チ ラ コ イ ド は 、 10,000 ×g, 30 min, 4 °C
の 遠 心 で 分 離 し た 。 (Rumeau et al., 2005)
2-2-5. 葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 の 分 離
葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 の 分 離 は Ho fer et al. (1992)の 方 法 を 一 部 改 変 し
て 行 っ た 。 以 下 の 操 作 は 全 て 4 °C の 低 温 室 で 行 っ た 。 成 熟 葉 は 2-3 mm 2
の 大 き さ に 細 断 し 、50 mL の buffer (0.4 M sorbito l, 1 mM MnCl2 , 10 mM NaCl,
0.8 mM KH 2 PO 4 , 4 mM L-cysteine, 2 mM Na-ascorbate, 44 mM Mes-KOH(pH
6.1), 1 錠 の Complete Protease Inhibitor Cocktail Tablets (Roche Diagnost ics))
中 で 、Waring laboratory blender を 用 い て 8,400 rpm、10 s の 条 件 で 破 砕 し た 。
破 砕 液 は 、ナ イ ロ ン メ ッ シ ュ (mean pore size; 37 μM)で 濾 過 し 、 濾 液 を 葉 肉
細 胞 画 分 と し た 。 ナ イ ロ ン メ ッ シ ュ に 残 っ た 残 渣 は 、 Co mplete Protease
Inhibitor Cocktail Tablets を 抜 い た 上 記 の buffer に 移 し 、 Waring laboratory
blender を 用 い て 15,600 rpm、 3 min の 条 件 で 再 度 破 砕 し た 。 破 砕 液 を 再 び
ナ イ ロ ン メ ッ シ ュ で 濾 過 し 、ナ イ ロ ン メ ッ シ ュ に 残 っ た 残 渣 を buffer で 洗
浄して、維管束鞘細胞画分とした。
2-2-6. SDS-PAGE お よ び ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ ト
可 溶 性 タ ン パ ク 試 料 を 12.5 %ア ク リ ル ア ミ ド ゲ ル に 、膜 タ ン パ ク 試 料 を
15 %ア ク リ ル ア ミ ド ゲ ル に 、 そ れ ぞ れ ア プ ラ イ し 、 120 V の 定 電 圧 で 120
分 間 電 気 泳 動 し た 。 泳 動 後 の ゲ ル は Coomassie Brilliant Blue R-250 で 染 色
し た 。 SDS-PAGE で 展 開 し た 膜 タ ン パ ク 質 は ブ ロ ッ キ ン グ 装 置 を 用 い て 、
Poly Vinylidene DiFluoride membrane (Millipore, Billerica, MA, USA)に 転 写
し た 。 一 次 抗 体 処 理 は 、 抗 NDH-H 抗 体 (Horvath et al., 2000) を 3000 倍 、
抗 PGR5 抗 体 (Munekage et al., 2002)を 5000 倍 、抗 PGRL1 抗 体 を 70 倍 、抗
PsbO 抗 体 を 10000 倍 、抗 PsaC 抗 体 を 10000 倍 、抗 rbcL 抗 体 (Ogawa et al.,
2009)を 3000 倍 、抗 PEPC 抗 体 を 10000 倍 、抗 Rieske 抗 体 (Sanda et al., 2011)
を 50000 倍 、 抗 LHCb1 抗 体 と 抗 AtpE 抗 体 を 10000 倍 に 希 釈 し て 用 い た 。
二 次 抗 体 は Ant i-lgG(H+L), Rabbit, Goat-Poly, HRP(Funakoshi Co., Ltd. Tokyo,
Japan)を 50000 倍 希 釈 し て 用 い た 。そ の 後 、membrane を 発 色 液 (ECL-PLUS,
GE Healt hcare Japan, Tokyo, Japan) に よ り 反 応 後 、 LAS-4000UV min i
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Win(FUJIFILM, Tokyo, Japan)に よ っ て 検 出 し た 。 そ の 後 、 画 像 解 析 ソ フ ト
Mult i Gauge ver.3.2.(FUJIFILM)を 用 い て 、 タ ン パ ク 発 現 量 の 定 量 化 を 行 っ
た。
2-2-7. 免 疫 染 色
成 熟 葉 の サ ン プ ル は 、 固 定 buffer (4 % (w/v) Paraformaldehyde, 0.1 mM
CaCl 2 , 50 mM Pipes-NaOH (pH 7.2), 50 % (w/v) ethano l)を 用 い て 、 4 °C, 一
晩 で 固 定 し た 。固 定 し た サ ン プ ル は 、エ タ ノ ー ル シ リ ー ズ で 脱 水 し 、t-but yl
alcoho l で 透 徹 し 、最 後 に Paraplast X-TRA (Sigma-Aldrich)に 包 埋 し た 。包
埋 し た サ ン プ ル か ら 、 ロ ー タ リ ー ミ ク ロ ト ー ム HM325(Carl Zeiss Japan,
Tokyo, Japan)を 使 用 し て 10 μm の 切 片 を 作 製 し た 。組 織 染 色 は 1% ト ル イ
ジ ン ブ ル ー O 溶 液 で 行 い 、 組 織 形 態 の 観 察 は 実 体 顕 微 鏡 (Model Axiostar
plus; Carl Zeiss) で 行 っ た 。 免 疫 染 色 で は 、 切 片 を
Blocking
buffer( Tris-Buffered Saline (TBS), 0.1 % (w/v) Tween 20, 10 % (w/v) bovine
serum albumin)で イ ン キ ュ ベ ー ト し た 後 、一 次 抗 体 と し て 感 作 前 血 清 抗 体 、
抗 PEPC 抗 体 、抗 rbcL 抗 体 、抗 PGR5 抗 体 、抗 NDH-H 抗 体 で 抗 体 反 応 さ
せ た 。そ の 後 、二 次 抗 体 の ant i-rabbit-IgG-fluorescein isothiocyanate (FITC)
conjugate (Sigma-Aldrich)を 用 い て 発 色 し た 。 FITC 蛍 光 は 、 共 焦 点 レ ー ザ
ー 顕 微 鏡 (Model FV-1000; Olympus, Tokyo, Japan)で 観 察 し た 。
2-2-8. ク ロ ロ フ ィ ル 蛍 光 測 定
ク ロ ロ フ ィ ル 蛍 光 パ ラ メ ー タ は MINI-PAM portable chlorophyll fluorometer
(Heinz-Walz)を 用 い て 、1.5~2 時 間 暗 順 化 さ せ た 植 物 の 葉 で 測 定 し た 。測 定
光 (655 nm, 0.1 μmo l photons m -2 s -1 )を 照 射 す る こ と で 最 小 ク ロ ロ フ ィ ル 蛍
光 (Fo) を 測 定 し た 。 最 大 ク ロ ロ フ ィ ル 蛍 光 (Fm) は 、 飽 和 光 (800 ms, 3000
μmol photons m -2 s -1 )を 照 射 し て 測 定 し た 。 光 合 成 中 の 定 常 ク ロ ロ フ ィ ル 蛍
光 は 光 合 成 誘 導 光 (53 μmo l photons m -2 s -1 )照 射 下 で 測 定 し た 。 光 化 学 系 II
の 最 大 量 子 収 率 (Fv/Fm)は 、 (Fm-Fo)/Fm の 式 か ら 求 め た 。
2-2-9. 透 過 型 電 子 顕 微 鏡 を 用 い た チ ラ コ イ ド 膜 の 観 察
試 料 の 作 製 は 、バ イ オ サ イ エ ン ス 研 究 科 細 胞 間 情 報 学 講 座 の 岩 野 恵 助 教 、
永 井 里 奈 博 士 に 依 頼 し た 。植 物 葉 は 、固 定 液 (0.1 M PBS(pH7.2), 70 % (w/v)
グ ル タ ル ア ル デ ヒ ド 、 1 M CaCl 2 )で 2 時 間 固 定 し た 後 、 エ タ ノ ー ル シ リ ー
ズ で 脱 水 し 、プ ロ ピ レ ン オ キ サ イ ド に 置 換 し た 。そ し て 、spurr 樹 脂 に 浸 透
さ せ 、 包 埋 し た 。切 片 は 70 nm に 切 り 出 し た 。葉 緑 体 構 造 の 観 察 は 、透 過
型 電 子 顕 微 鏡 (H-7100, HITACHI, Tokyo, Japan)で 行 っ た 。チ ラ コ イ ド 膜 の 長
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さ は 、 Image analysis software (WinROOF; Mitani Co., Tokyo, Japan)を 用 い て
測定した。
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2-3. 結 果
2-3-1. Flaveria C 3 種 , C 3 -C 4 中 間 種 , C 4 -like 種 , C 4 種 の 光 化 学 系 I 循 環 型 電
子伝達活性
Flaveria C 3 種 か ら C 4 種 へ の 代 謝 転 換 に 伴 う 光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 系
の 電 子 伝 達 活 性 の 変 化 を 調 べ る た め 、各 Flaveria 属 植 物 の 成 熟 葉 に 光 化 学
系 I を 主 に 励 起 す る 近 赤 外 光 を 照 射 し 、光 化 学 系 I 反 応 中 心 P700 の 酸 化 速
度 を 測 定 し た (Fig. 7)。近 赤 外 光 照 射 下 の P700 酸 化 速 度 は 、光 化 学 系 I 循
環型電子伝達活性の上昇度合いに伴って、遅くなることが知られている
(Asada et al., 1993; Joliot and Joliot, 2006; Okegawa et al., 2007)。
Flaveria C 3 種 の F. pringlei と F. robusta に お い て 、 P700 は 近 赤 外 光 照 射
に よ っ て 急 速 に 酸 化 さ れ た (t = 2 s; t は 近 赤 外 光 照 射 に よ っ て 、P700 が 最 大
酸 化 レ ベ ル に 到 達 す る ま で の 時 間 )。一 方 で 、Flaveria C 4 種 の F. bidentis と
F. trinervia の P700 酸 化 速 度 は 、C 3 種 と 比 較 し て 著 し く 遅 く な っ て い た (t =
17-19 s)。 ま た 、 C 4 種 の P700 酸 化 曲 線 は 二 相 性 を 示 し 、 一 相 目 は C 3 種と
同 等 の 酸 化 速 度 で 、 二 相 目 は C3 種 と 比 較 し て 著 し く 遅 い 酸 化 速 度 で あ っ
た 。C 3 -C 4 中 間 種 と C 4 -like 種 の P700 は 、C 3 種 と C 4 種 の 値 の 範 囲 内 で 様 々
な 酸 化 速 度 を 示 し た 。 Flaveria C 3 -C 4 中 間 種 の F. anomala で は 、 P700 酸 化
曲 線 に 小 さ な 酸 化 速 度 の 遅 い 相 が 現 れ 、 こ れ に 起 因 し て P700 酸 化 速 度 は
C 3 種 と 比 較 し て わ ず か に 遅 か っ た (t = 6 s)。一 方 で 、F. anomala と 同 じ C 3 -C 4
中 間 種 に 分 類 さ れ る F. ramosissima で は 、P700 酸 化 曲 線 に 酸 化 速 度 の 遅 い
相 が F. anomala と 比 較 し て 大 き く 現 れ て 、P700 酸 化 速 度 は C 3 種 と C 4 種 の
値 の ほ ぼ 中 間 で あ っ た (t = 10 s)。Flaveria C 4 -like 種 の F. brownii で は 、P700
酸 化 速 度 は C 3 -C 4 中 間 種 の F. ramosissima と 同 等 で あ っ た (t = 10 s)。 一 方
で 、 C 4 -like 種 の F. palmeri で は 、 P700 の 酸 化 速 度 と 酸 化 曲 線 は C 4 種 と同
等 で あ っ た (t = 16 s)。
C 3 -C 4 中 間 種 、 C 4 -like 種 そ し て C 4 種 で 見 ら れ た P700 の 遅 い 酸 化 速 度 が
光化学系 I 循環型電子伝達活性に起因しているのかを調査するため、各
Flaveria 属 植 物 の 成 熟 葉 か ら 得 た リ ー フ デ ィ ス ク へ 光 化 学 系 I か ら フ ェ レ
ドキシンへの電子伝達を阻害することで循環型電子伝達活性を抑制する
Methyl viologen (MV)を 減 圧 浸 透 さ せ て 、 P700 酸 化 速 度 を 測 定 し た (Fig. 8
and 9)。 そ の 結 果 、 コ ン ト ロ ー ル と し て H 2 O を 減 圧 浸 透 さ せ た リ ー フ デ ィ
ス ク で は P700 酸 化 速 度 の 遅 い 相 が 見 ら れ た が 、MV 処 理 を 行 っ た C 3 -C 4 中
間 種 、 C 4 -like 種 、 C 4 種 の リ ー フ デ ィ ス ク で は そ の P700 酸 化 速 度 の 遅 い相
が 失 わ れ て い た 。従 っ て 、P700 酸 化 速 度 の 遅 い 二 相 目 が 循 環 型 電 子 伝 達 活
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性 を 反 映 し て い る と 判 断 し た 。 以 上 の 結 果 か ら 、 C 3 -C 4 中 間 種 の F.
ramosissima と C 4 -like 種 の F. bro wnii で は 、光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 活 性
が C 3 種 と 比 較 し て C 4 種 の 値 の 半 分 程 度 に 上 昇 し て お り 、 そ し て C 4 -like
種 の F. palmeri と C 4 種 で は 、光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 活 性 が 他 の 種 と 比
較して著しく上昇していることが明らかになった。
F. bidentis (C 4 )の リ ー フ デ ィ ス ク へ プ ラ ス ト キ ノ ン か ら シ ト ク ロ ム b 6 f 複
合 体 へ の 電 子 伝 達 を 阻 害 す る DBMIB を 減 圧 浸 透 さ せ た 時 、 MV 処 理 の 結
果 と 同 様 に P700 酸 化 速 度 の 遅 い 相 は 失 わ れ た (Fig. 8)。一 方 で 、光 化 学 系
II か ら プ ラ ス ト キ ノ ン へ の 電 子 伝 達 を 阻 害 す る DCMU を 減 圧 浸 透 さ せ た
時 、 P700 酸 化 速 度 の 遅 い 相 は 見 ら れ た が 、 コ ン ト ロ ー ル と 比 べ て P700 酸
化速度が速くなっていた。近赤外光は主に光化学系 I を励起するが、わず
か に 光 化 学 系 II も 励 起 す る 。こ の 結 果 か ら 、光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 活
性 は 光 化 学 系 II か ら の 電 子 供 与 に よ っ て 一 部 上 昇 し て い る と 考 え た 。
2-3-2. Flaveria C 3 種 , C 3 -C 4 中 間 種 , C 4 -like 種 , C 4 種 に お け る PGR5, PGRL1
お よ び NDH-H タ ン パ ク 質 の 相 対 的 発 現 量 の 変 化
Flaveria C 3 -C 4 中 間 種 、C 4 -like 種 そ し て C 4 種 に お い て 、NDH 複 合 体 の サ
ブ ユ ニ ッ ト の NDH-H そ し て PGR5 と PGRL1 タ ン パ ク 質 量 が C 3 種 と 比 較
し て 増 加 し て い る の か を 調 査 す る た め に 、各 Flaveria 属 植 物 か ら 全 膜 タ ン
パ ク 質 を 抽 出 し ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ ト 分 析 を 行 っ た (Fig. 10A)。そ し て 、画 像
解 析 装 置 (LAS-4000 EPUV)を 用 い て 、 各 タ ン パ ク 質 発 現 量 を ウ エ ス タ ン ブ
ロ ッ ト 分 析 に よ る バ ン ド 強 度 か ら 定 量 し た (Fig. 10B)。
シ ト ク ロ ム b 6 f 複 合 体 の サ ブ ユ ニ ッ ト で あ る Rieske タ ン パ ク 質 発 現 量 は 、
各 Flaveria 属 植 物 間 で 差 異 は 見 ら れ な か っ た (Fig. 10A)。 光 化 学 系 II の サ
ブ ユ ニ ッ ト で あ る PsbO タ ン パ ク 質 発 現 量 は 、 C 3 種 と 比 較 し て C 3 -C 4 中 間
種 、 C 4 -like 種 そ し て C 4 種 で わ ず か に 減 少 し て い た 。 一 方 で 、 光 化 学 系 I
の サ ブ ユ ニ ッ ト で あ る PsaC タ ン パ ク 質 発 現 量 は 、 C 4 -like 種 の F. palmeri
と C 4 種 の F. bidentis で 他 の 種 と 比 較 し て わ ず か に 増 加 し て い た 。
C 4 種 の F. bidnetis に お け る PGR5 タ ン パ ク 質 発 現 量 は 、C 3 種 と 比 較 し て
約 3 倍 増 加 し て い た (Fig. 10B)。 ま た 、 PGRL1 タ ン パ ク 質 発 現 量 も C 3 種 と
比 較 し て 約 3 倍 増 加 し て い た 。C 3 -C 4 中 間 種 と C 4 -like 種 の F. bro wnii で は 、
PGR5 と PGRL1 タ ン パ ク 質 量 は 共 に C 3 種 と 同 等 の レ ベ ル で あ っ た 。 こ れ
に 対 し て 、C 4 -like 種 の F. palmeri に お け る PGR5 と PGRL1 タ ン パ ク 質 の 発
現 量 は 、 C3 種 と 比 較 し て そ れ ぞ れ 4 倍 と 3 倍 増 加 し て お り 、 そ の 値 は C4
種 と 同 等 で あ っ た 。NDH-H タ ン パ ク 質 発 現 量 は 、C 3 種 と 比 較 し て C 4 種 の
F. bidentis で 10 倍 以 上 増 加 し て い た (Fig. 10B)。C 3 -C 4 中 間 種 と C 4 -like 種 に
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お け る NDH-H タ ン パ ク 質 量 の 増 加 レ ベ ル は 、 C 4 代 謝 酵 素 タ ン パ ク 質 の 発
現 増 加 レ ベ ル と よ く 一 致 し て い た (Fig. 11)。C 3 -C 4 中 間 種 の F. ramosissima、
C 4 -like 種 の F. brownii そ し て F. palmeri の NDH-H 発 現 量 は 、C 3 種 と 比 較 し
て そ れ ぞ れ 2 倍 、 7 倍 そ し て 10 倍 以 上 に 増 加 し て い た 。 NDH-H タ ン パ ク
質 量 と NDH 活 性 に 相 関 が あ る か を 調 べ る た め に 、 各 Flaveria 植 物 の 成 熟
葉を用いて光合成誘導光照射後のクロロフィル蛍光の一過的上昇から
NDH 活 性 を 見 積 も っ た (Fig. 12A and B)。 そ の 結 果 、 NDH-H タ ン パ ク 質 発
現 量 と 相 関 し て 、 NDH 活 性 は 、 C 3 種 と 比 較 し て C 3 -C 4 中 間 種 の F.
ramosissima か ら C 4 種 の F. bidentis に か け て 増 加 し て い た (Fig. 12C)。 こ の
こ と か ら 、NDH-H タ ン パ ク 質 量 は 、機 能 的 な NDH 複 合 体 の 量 を 反 映 し て
いると考えた。
2-3-3. Flaveria C 4 種 に お け る 葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 間 の PGR5, PGRL1
お よ び NDH-H タ ン パ ク 質 発 現 量 の 定 量 的 な 比 較 解 析
F. bidentis(C 4 ) の 葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 間 で 、 NDH-H、 PGR5 そ し て
PGRL1 タ ン パ ク 質 発 現 量 を 定 量 的 に 比 較 す る た め 、葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細
胞 を 分 画 し て 、 ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ ト 分 析 を 行 っ た (Fig. 13)。 C 4 植 物 で は 、
PEPC は 葉 肉 細 胞 に 、RuBisCO 大 サ ブ ユ ニ ッ ト で あ る RbcL は 維 管 束 鞘 細 胞
に そ れ ぞ れ 局 在 し て い る 。そ こ で 、両 細 胞 画 分 か ら 抽 出 し た 可 溶 性 タ ン パ
ク 質 を 用 い て PEPC と RbcL の ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ ト 分 析 を 行 い 、 両 細 胞 画
分 の 精 製 度 を 評 価 し た (Fig. 13A)。葉 肉 細 胞 画 分 へ の 維 管 束 鞘 細 胞 の 混 入 率
は 20 %以 下 で あ り 、一 方 で 維 管 束 鞘 細 胞 画 分 へ の 葉 肉 細 胞 の 混 入 率 は 2 %
以 下 で あ っ た 。次 に 、両 細 胞 画 分 か ら 抽 出 し た 膜 タ ン パ ク 質 を 用 い て PGR5、
PGRL1、 NDH-H そ し て Rieske タ ン パ ク 質 の ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ ト 分 析 を 行
っ た (Fig. 13B)。さ ら に 、上 記 の 両 画 分 の 混 入 率 を 考 慮 し て 、各 タ ン パ ク 質
発 現 量 の 葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 間 に お け る 相 対 量 を 算 出 し た 。そ の 結 果 、
Rieske タ ン パ ク 質 は 、葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 に 同 程 度 の 量 で 存 在 し て い
た (Fig. 13B)。 NDH-H タ ン パ ク 質 発 現 量 は 、 葉 肉 細 胞 と 比 較 し て 維 管 束 鞘
細 胞 で 約 3 倍 高 か っ た 。こ れ に 対 し て 、PGR5 と PGRL1 タ ン パ ク 質 発 現 量
は、葉肉細胞と維管束鞘細胞間で同程度のレベルであった。
2-3-4. Flaveria C 3 種 と C 4 種 に お け る PGR5 の 葉 緑 体 チ ラ コ イ ド 膜 上 で の
局在
PGR5タ ン パ ク 質 が 葉 緑 体 チ ラ コ イ ド 膜 上 に お い て グ ラ ナ と ス ト ロ マ ラ
メ ラ の ど ち ら の 領 域 に 局 在 し て い る の か を 明 ら か に す る た め に 、 F. pringlei
(C 3 )と F. bidentis (C 4 ) か ら 単 離 し た 葉 緑 体 チ ラ コ イ ド 膜 を グ ラ ナ と ス ト ロ マ
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ラ メ ラ に 分 画 し 、 ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ ト 分 析 を 行 っ た (Fig. 14)。 SDS-PAGEの
結 果 、 F. pringlei (C 3 )で は 、 こ れ ま で の 報 告 通 り (Eberhard et al., 2008)、 ATP
合 成 酵 素 α, βサ ブ ユ ニ ッ ト は 主 に ス ト ロ マ ラ メ ラ 画 分 に 、 光 化 学 系 IIの 集 光
タ ン パ ク 質 複 合 体 で あ る light harvest ing complex (LHC) IIは グ ラ ナ 画 分 に 多
く 存 在 し て い た (Fig. 14A)。 一 方 、 F. bidentis (C 4 )で 、 LHC IIは C 3 種 と 比 較 し
て ス ト ロ マ ラ メ ラ 画 分 に も 多 く 存 在 し て い た (Fig. 14A)。 ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ
ト 分 析 の 結 果 、ATP合 成 酵 素 εサ ブ ユ ニ ッ ト は Flaveria C 3 、C 4 種 と も に ス ト ロ
マ ラ メ ラ 画 分 で 主 に 検 出 さ れ て い た (Fig. 14B)。一 方 で 、LHCIIの サ ブ ユ ニ ッ
ト で あ る LHCb1は C 3 種 と C 4 種 の グ ラ ナ 画 分 で 最 も 強 く 検 出 さ れ た が 、C 4 種 の
ス ト ロ マ ラ メ ラ 画 分 に お い て も 検 出 さ れ た 。し か し な が ら 、グ ラ ナ と ス ト ロ
マ ラ メ ラ の 分 画 は で き て い る と 考 え ら れ る 。 PGR5は 、 Flaveria C 3 種 、 C 4 種
と も に ス ト ロ マ ラ メ ラ 画 分 で 主 に 検 出 さ れ た (Fig. 14B)。 こ れ ら の 結 果 か ら
Flaveria C 3 種 , C 4 種 に お い て 、PGR5は ス ト ロ マ ラ メ ラ に 局 在 す る こ と が 明 ら
かになった。
2-3-5. Flaveria C 4 -like 種 の 葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 間 で の PGR5 と NDH-H
タンパク質量の比較解析
Flaveria C 4 -like 種 に お い て 、PGR5 と NDH-H タ ン パ ク 質 が 葉 肉 細 胞 と 維
管 束 鞘 細 胞 の ど ち ら に 多 く 存 在 す る の か を 明 ら か に す る た め に 、F. bidentis
(C 4 )、 F. brownii(C 4 -like)そ し て F. palmeri(C 4 -like)を 用 い て PGR5 と NDH-H
タ ン パ ク 質 の In situ 免 疫 染 色 を 行 っ た (Fig. 15 and 16)。 葉 組 織 構 造 を 観 察
す る た め に 葉 横 断 切 片 を ト ル イ ジ ン ブ ル ー O で 染 色 し た と こ ろ 、全 て の 種
の 葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 で 多 く の 葉 緑 体 が 観 察 さ れ た (Fig. 15A, 16A and
C)。ま た 、ネ ガ テ ィ ブ コ ン ト ロ ー ル と し て 感 作 前 血 清 の 抗 体 を 用 い た 切 片
で は 、 シ グ ナ ル は ほ と ん ど 検 出 さ れ な か っ た (Fig. 15B, 16B and D)。
F. bidentis (C 4 ) で は 、PEPC と RbcL の シ グ ナ ル は 、そ れ ぞ れ 葉 肉 細 胞 の
細 胞 質 と 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 で 特 異 的 に 検 出 さ れ た (Fig. 15C to F) 。
NDH-H は 、葉 肉 細 胞 葉 緑 体 で 弱 い シ グ ナ ル が 確 認 さ れ た も の の 、維 管 束 鞘
細 胞 葉 緑 体 で 非 常 に 強 い シ グ ナ ル が 確 認 さ れ た (Fig. 15G and H)。こ れ に 対
し て 、 PGR5 の シ グ ナ ル は 、 葉 肉 細 胞 葉 緑 体 と 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 で 同 程
度 の 強 度 で 検 出 さ れ た (Fig. 15I and J)。 こ れ ら の 結 果 は 、 Figure 13 で 示 し
た葉肉細胞と維管束鞘細胞画分を用いたウエスタンブロット分析による
PGR5 と NDH-H タ ン パ ク 質 の 発 現 解 析 の 結 果 と 一 致 す る 。
F. palmeri (C 4 -like) で は 、 PEPC と RbcL の シ グ ナ ル は F. bidentis (C 4 ) と
同様に、それぞれ葉肉細胞の細胞質と維管束鞘細胞葉緑体で検出された
(Fig. 16E, F, I and J)。 NDH-H の シ グ ナ ル は 、 葉 肉 細 胞 葉 緑 体 と 比 較 し て 、
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維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 で 強 く 検 出 さ れ た (Fig. 16M and N)。 一 方 で 、 PGR5 の
シ グ ナ ル は 、葉 肉 細 胞 葉 緑 体 と 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 で 同 程 度 の 強 度 で 検 出
さ れ た (Fig. 16Q and R)。
F. brownii (C 4 -like)で は 、 PEPC の シ グ ナ ル は 葉 肉 細 胞 の 細 胞 質 で 特 異 的
に 検 出 さ れ た 一 方 で 、 RbcL に つ い て は 、 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 に お け る 強
い シ グ ナ ル に 加 え て 、葉 肉 細 胞 葉 緑 体 に お い て も 弱 い シ グ ナ ル が 確 認 さ れ
た (Fig. 16G, H, K and L)。 こ の 種 で は 、 RuBisCO の 維 管 束 鞘 細 胞 へ の 局 在
化 は 完 了 し て お ら ず 、RuBisCO が 葉 肉 細 胞 に も 存 在 す る こ と が 報 告 さ れ て
お り (Cheng et al., 1988)、 今 回 の 結 果 は そ れ と 一 致 す る 。 NDH-H は 、 F.
bidentis(C 4 )と F. palmeri(C 4 -like)と 同 様 に 、維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 で 強 い シ グ
ナ ル が 確 認 さ れ た (Fig. 16O and P)。一 方 で 、 PGR5 の シ グ ナ ル は 非 常 に 弱
く ほ と ん ど 検 出 で き な か っ た (Fig. 16S and T)。 こ の 原 因 は 、 F. brownii の
PGR タ ン パ ク 質 発 現 量 が F. bidentis(C 4 )と F. palmeri(C 4 -like)の も の と 比 べ
て 低 い た め で あ る と 考 え ら れ る (Fig. 10 A and B)。 実 際 に 、 F. pringlei(C 3 )
で は 、PGR5 と NDH-H の シ グ ナ ル は 、ほ と ん ど 検 出 で き な い 程 に 弱 か っ た
(data not shown)。
以 上 の 結 果 か ら 、 C 4 -like 種 の 2 種 に お い て NDH-H タ ン パ ク 質 は 、 葉 肉
細 胞 と 比 較 し て 維 管 束 鞘 細 胞 に 多 く 存 在 し 、PGR5 タ ン パ ク 質 は F. palmeri
の葉肉細胞と維管束鞘細胞に同 程度存在 していること が明らか になった。
2-3-6. Flaveria C 3 種 , C 3 -C 4 中 間 種 , C 4 -like 種 , C 4 種 の 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体
チラコイド膜構造の観察
NADP-ME 型 C 4 植 物 の 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 で 見 ら れ る グ ラ ナ の 減 少 が 、
C4 型 光 合 成 の 進 化 上 ど の 段 階 の 種 か ら 起 こ っ て い る の か を 調 べ る た め に 、
Flaveria C 3 -C 4 中 間 種 、 C 4 -like 種 そ し て C 4 種 の 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 に お け
る グ ラ ナ の 発 達 度 合 い を 調 査 し た 。そ の 方 法 と し て 、透 過 型 電 子 顕 微 鏡 を
用 い て 各 Flaveria 属 植 物 の 葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 の 葉 緑 体 チ ラ コ イ ド 膜
構 造 を 観 察 し た (Fig. 17)。 ま た 、 グ ラ ナ の 発 達 度 合 い を 定 量 的 に 評 価 す る
た め に 、葉 肉 細 胞 葉 緑 体 と 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 の グ ラ ナ チ ラ コ イ ド 膜 と ス
ト ロ マ チ ラ コ イ ド 膜 の 長 さ を そ れ ぞ れ 測 定 し て (Fig. 18)、 葉 肉 細 胞 葉 緑 体
と 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 の グ ラ ナ 指 数 (グ ラ ナ 指 数 (%) = グ ラ ナ チ ラ コ イ ド
膜 の 全 長 /全 チ ラ コ イ ド 膜 の 全 長 ×100)を 算 出 し た (Fig. 19A)。
葉 肉 細 胞 葉 緑 体 の グ ラ ナ 指 数 は 、 全 て の 種 で 同 等 で あ っ た (Fig. 19A)。
Flaveria C 3 種 の F. pringlei と F. robusta の 維 管 束 鞘 細 胞 に は 、細 胞 あ た り 2
ま た は 3 個 の 葉 緑 体 が 含 ま れ て い た が 、そ の 大 き さ は 他 の Flaveria 属 植 物
と 比 較 し て 非 常 に 小 さ か っ た (Fig. 17A and B)。 ま た 、 そ れ ら の 葉 緑 体 は 、
23
発 達 し た グ ラ ナ を 持 っ て い た 。 一 方 で 、 Flaveria C 4 種 の F. bidentis と F.
trinervia の 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 で は 、 グ ラ ナ が 大 き く 減 少 し て い た (Fig.
17G and H)。F. bidentis と F. trinervia の グ ラ ナ 指 数 は 、そ れ ぞ れ 15 %と 19 %
で あ っ た (Fig. 19A)。こ れ に 対 し て 、Flaveria C 3 -C 4 中 間 種 で あ る F. anomala
と F. ramosissima で は 、 グ ラ ナ が 発 達 し た 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 が 観 察 さ れ
た (Fig. 17C and D)。 ま た 、 こ れ ら の 種 で は 、 多 く の ミ ト コ ン ド リ ア が 維 管
束 鞘 細 胞 葉 緑 体 に 隣 接 し て い た 。 F. anomala と F. ramosissima の グ ラ ナ 指
数 は 、 そ れ ぞ れ 57 %と 63 %で あ っ た (Fig. 19A)。 Flaveria C 4 -like 種 の F.
brownii で は 、 C 3 -C 4 中 間 種 と 同 様 に 、 グ ラ ナ が 発 達 し た 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑
体 が 観 察 さ れ (Fig. 17E)、 そ の グ ラ ナ 指 数 は 50 %で あ っ た (Fig. 19A)。 こ れ
と は 対 照 的 に 、 C 4 -like 種 の F. palmeri で は 、 グ ラ ナ は 葉 緑 体 の 辺 縁 領 域 で
見 ら れ た も の の 、 中 心 部 分 で は 見 ら れ な か っ た (Fig. 17F)。 グ ラ ナ 指 数 は 、
C 4 種 の 値 と 同 等 の 16 %で あ っ た (Fig. 19A)。 た だ し 、 F. palmeri と C 4 種 で
は 、 グ ラ ナ あ た り の チ ラ コ イ ド 膜 の 層 数 が 、 C 4 種 と 比 較 し て F. palmeri で
多 か っ た (Fig. 19B)。 C 4 種 で は 、 グ ラ ナ の 65-75 %は チ ラ コ イ ド 膜 3-4 層 で
構 成 さ れ て お り 、10 層 以 上 の チ ラ コ イ ド 膜 で 構 成 さ れ て い る グ ラ ナ は 全 体
の 1 %未 満 で あ っ た 。一 方 で 、F. palmeri で は 、チ ラ コ イ ド 膜 3-4 層 で 構 成
さ れ る グ ラ ナ は 全 体 の 37 %で 、 10 層 以 上 の チ ラ コ イ ド 膜 で 構 成 さ れ て い
る グ ラ ナ は 全 体 の 15 %で あ っ た 。
24
2-4. 考 察
2-4-1. C 4 回 路 の 構 築 に 伴 う 光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 活 性 の 上 昇
Flaveria C 3 , C 3 -C 4 中 間 種 、 C 4 -like 種 、 そ し て C 4 種 に お け る 光 化 学 系 I
循 環 型 電 子 伝 達 系 の 機 能 性 の 比 較 解 析 の 結 果 、C 4 回 路 の 構 築 度 合 い と 相 関
して、光化学系 I 循環型電子伝達活性が上昇していることが明らかになっ
た 。 Figure 20 に 、 現 在 提 唱 さ れ て い る C 4 型 光 合 成 の 進 化 に お け る 炭 素 固
定経路の構築過程と、本研究で明らかにした光化学系 I 循環型電子伝達系
の 亢 進 過 程 を ま と め た 。 ま ず 、 本 研 究 で 用 い た 各 Flaveria C 3 -C 4 中 間 種 と
C 4 -like 種 の C 4 回 路 の 構 築 度 合 い に 対 す る 光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 活 性
の変化の相関性を解説する。
Flaveria C 3 -C 4 中 間 種 の F. anomala は 、 本 研 究 で 用 い た C 3 -C 4 中 間 種 と
C 4 -like 種 の 中 で 、最 も 光 合 成 様 式 が C 3 植 物 に 近 い 種 で あ る 。こ の 種 で は 、
PEPC タ ン パ ク 質 の 発 現 量 は C 3 種 と 比 較 し て わ ず か に 増 加 し て お り 、大 気
CO 2 の 一 部 を PEPC が 固 定 し て い る (Ku et al., 1983) 。 し か し な が ら 、
NADP-ME と PPDK の 発 現 量 が 低 い た め に 、 C 4 回 路 は 機 能 し て い な い
(Monson et al., 1986; von Caemmerer et al., 1989)。 一 方 で 、 F. anomala で は
グ リ シ ン シ ャ ト ル が 機 能 し て い る と 考 え ら れ て お り (von Caemmerer et al.,
1989)、こ れ は 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 の 周 囲 に 多 く の ミ ト コ ン ド リ ア が 確 認 さ
れ た こ と か ら も 支 持 さ れ る (Fig. 17C)。し か し な が ら 、C 4 回 路 と は 異 な り 、
そ の グ リ シ ン シ ャ ト ル が 駆 動 し て も ATP 要 求 量 は 上 昇 し な い こ と が 予 想
さ れ て い る (von Caemmerer, 2000)。 F. anomala で は 、 P700 酸 化 速 度 か ら 見
積 も ら れ た 循 環 型 電 子 伝 達 活 性 は 上 昇 し て い な か っ た (Fig. 7)。 従 っ て 、 F.
anomala で は 炭 酸 固 定 経 路 に 必 要 な ATP 要 求 量 の 上 昇 が 起 き て い な い た め 、
循環型電子伝達系は亢進されていないと考える。
Flaveria C 3 -C 4 中 間 種 に 分 類 さ れ る F. ramosissima で は 、 PEPC に 加 え て
NADP-ME タ ン パ ク 質 量 が C 3 種 と 比 較 し て 葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 の 両 方
で 増 加 し て お り 、大 気 CO 2 の 70 %近 く を C 4 酸 と し て 固 定 し て い る (Ku et al.,
1983; Rumpho et al., 1984; Monson et al., 1986)。 そ の た め 、 こ の 種 で は 機 能
的 な C 4 回 路 が 駆 動 し て い る (Moore et al., 1988)。 一 方 、 Flaveria C 4 -like 種
の F. bro wnii で は 、C 4 回 路 の 構 築 度 合 い と C 4 回 路 の CO 2 固 定 効 率 へ の 効 果
は F. ramosissima に 比 べ て 大 き い (Cheng et al., 1988; Ku et al., 1991)。 F.
brownii で は 、 PEPC と NADP-ME タ ン パ ク 質 の 発 現 量 は 、 F. ramosissima
に 比 べ て 増 加 し て お り 、そ れ ら 酵 素 タ ン パ ク 質 の 葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞
へ の 局 在 化 も 進 ん で い る 。 そ の た め 、 大 気 CO 2 の 80%が PEPC に よ っ て
25
C 4 酸 と し て 固 定 さ れ て い る (Cheng et al., 1988)。F. ramosissima と F. bro wnii
の P700 酸 化 速 度 か ら 見 積 も ら れ た 循 環 型 電 子 伝 達 活 性 は 、共 に C 3 種 と 比
較 し て 上 昇 し て い た (Fig. 7)。 両 種 の P700 が 最 大 酸 化 レ ベ ル に 達 す る 時 間
は 同 等 で あ っ た が 、 P700 酸 化 速 度 の 遅 い 相 は F. ramosissima に 比 べ て F.
brownii で 早 く 現 れ た (Fig. 7)。MV 処 理 後 の P700 酸 化 曲 線 で は P700 酸 化 速
度 の 遅 い 相 が 失 わ れ て い た た め (Fig. 9)、 P700 酸 化 速 度 の 遅 い 相 が 循 環 型
電子伝達系によるフェレドキシンからプラストキノンを介した光化学系 I
へ の 電 子 伝 達 を 反 映 し て い る と 考 え ら れ る 。 従 っ て 、 機 能 的 な C4 回 路 が
駆 動 し て い る F. ramosissima と F. brownii で は 、光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達
系 が 亢 進 さ れ て お り 、特 に P700 酸 化 速 度 の 遅 い 相 が 早 く 現 れ た F. brownii
の 循 環 型 電 子 伝 達 活 性 は 、 F. ramosissima よ り も 高 い こ と が 示 唆 さ れ る 。
Flaveria C 4 -like 種 の F. palmeri は 、本 研 究 で 用 い た C 3 -C 4 中 間 種 と C 4 -like
種 の 中 で 、 最 も 光 合 成 様 式 が C4 植 物 に 近 い 種 で あ る 。 こ の 種 で は 、 葉 肉
細 胞 に お い て RuBisCO の 活 性 が 、維 管 束 鞘 細 胞 に お け る 活 性 値 の 6 %程 残
っ て い る (Moore et al., 1989)。 こ の た め 、 大 気 CO 2 の 9 %が 葉 肉 細 胞 で C 3
酸 と し て 固 定 さ れ る が 、 大 気 CO 2 の 91 %は C 4 酸 と し て 固 定 さ れ て お り 、
完 全 な C 4 回 路 が 構 築 さ れ て い る (Moore et al., 1989)。 F. palmeri の P700 酸
化 速 度 か ら 見 積 も ら れ る 循 環 型 電 子 伝 達 活 性 は 、C 4 種 と 同 等 で あ り 、他 の
C 3 -C 4 中 間 種 や C 4 -like 種 と 比 較 し て 最 も 高 か っ た (Fig. 7)。 従 っ て 、 F.
palmeri で は 、 光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 系 が C 4 種 と 同 等 に 亢 進 さ れ て い
ることが示唆された。
以 上 の 結 果 か ら 、光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 系 が C 4 回 路 を 駆 動 す る た め
の ATP 生 産 に 関 与 す る こ と が 強 く 示 唆 さ れ た 。
2-4-2. Flaveria C 3 , C 3 -C 4 中 間 種 , C 4 -like 種 , C 4 種 の 解 析 結 果 か ら 考 え ら れ
る C 4 型 光 合 成 に お け る NDH 依 存 経 路 と PGR/PGRL1 依 存 経 路 の 機 能
NADP-ME 型 C 4 植 物 に お い て 、葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 間 の ATP 要 求 量
は 維 管 束 鞘 細 胞 で 高 く な っ て い る (Edwards and Voznesenskaya, 2011) 。
NADP-ME 型 C 4 植 物 に 分 類 さ れ る F. bidentis で は 、NDH-H タ ン パ ク 質 の 発
現 量 は 葉 肉 細 胞 と 比 較 し て 維 管 束 鞘 細 胞 で 約 3 倍 高 か っ た (Fig. 13B)。 こ
れ は 、 F. bidentis と 同 じ NADP-ME 型 C 4 植 物 で あ る Zea mays に お い て 、
NDH-H タ ン パ ク 質 が 葉 肉 細 胞 よ り も 維 管 束 鞘 細 胞 に 約 3 倍 多 く 蓄 積 し て
い る と い う 過 去 の 報 告 と 一 致 す る (Kubicki et al., 1996; Takabayashi et al.,
2005)。 よ っ て 、 F. bidentis の NDH-H タ ン パ ク 質 の 発 現 量 は 、 両 細 胞 間 の
ATP 要 求 量 の 違 い に 応 答 し て い る と い え る 。さ ら に 、 Flaveria C 3 種 と 比 較
し て Flaveria C 4 種 に お い て 、 NDH-H タ ン パ ク 質 発 現 量 は 、 10 倍 以 上 増 加
26
し て い た (Fig. 10B)。ま た 、ク ロ ロ フ ィ ル 蛍 光 測 定 か ら 見 積 も ら れ た NDH
活 性 は 、Flaveria C 3 種 と 比 較 し て C 4 種 で 上 昇 し て い た (Fig. 12C)。従 っ て 、
NDH 複 合 体 量 は 、 C 4 植 物 の 2 種 類 の 細 胞 間 の ATP 要 求 量 の 違 い の み なら
ず 、C 3 種 と C 4 種 間 の C 4 回 路 の 駆 動 に よ る ATP 要 求 量 の 上 昇 に 対 し て も 応
答 し て 増 加 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。以 上 の 結 果 か ら 、C 4 植 物 に お
い て NDH 複 合 体 は 炭 酸 固 定 経 路 の 駆 動 の た め に 必 要 な ATP 生 産 に 貢 献 し
ていることが強く示唆された。
ま た 、Flaveria C 3 -C 4 中 間 種 と C 4 -like 種 の 結 果 か ら 、NDH-H タ ン パ ク 質
発 現 量 は 、C 3 種 と 比 較 し て C 3 -C 4 中 間 種 の F. ramosissima で 約 2 倍 、C 4 -like
種 の F. brownii で 約 7 倍 増 加 し て い た (Fig. 10B)。こ れ ら の 2 種 で は C 4 回 路
が 機 能 し て お り 、そ の 構 築 度 合 い は F. ramosissima に 比 べ て F. bro wnii で 高
い (Ku et al., 1991)。従 っ て 、NDH-H タ ン パ ク 質 発 現 量 は 、C 4 回 路 が 構 築 さ
れ る に 従 っ て 、増 加 し て い る と い え る 。ま た 、F. ramosissima と F. bro wnii
で は PGR5 お よ び PGRL1 タ ン パ ク 質 の 発 現 増 加 は 見 ら れ な か っ た こ と か ら
(Fig. 10B)、 こ れ ら 2 種 に お け る 循 環 型 電 子 伝 達 活 性 の 上 昇 は NDH 複 合 体
量 の 増 加 に よ る も の で あ る こ と が 示 唆 さ れ る 。 F. ramosissima と F. brownii
に お け る NDH 依 存 経 路 の 機 能 は 2 つ 考 え ら れ る 。 1 つ 目 は 、 C 4 植 物 と 同
じ く 、炭 酸 固 定 経 路 の 駆 動 の た め の ATP 生 産 で あ る 。2 つ 目 は 、葉 緑 体 ス
ト ロ マ に お け る 酸 化 還 元 調 節 へ の 関 与 で あ る 。 F. ramosissima と F. brownii
で は 、C 4 代 謝 酵 素 の NADP-ME の 発 現 増 加 が 起 き て お り 、そ の タ ン パ ク 質
量 は 葉 肉 細 胞 と 比 較 し て 維 管 束 鞘 細 胞 で 高 い (Cheng et al., 1988; Moore et
al., 1988; Ku et al., 1991)。NADP-ME は 、葉 緑 体 内 で リ ン ゴ 酸 を 脱 炭 酸 し て
ピ ル ビ ン 酸 を 生 産 す る 際 に 、 CO 2 に 加 え て NADPH を 産 出 す る 。 ま た 、 F.
ramosissima と F. brownii の 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 で は 直 鎖 型 電 子 伝 達 系 の 電
子 伝 達 活 性 は 高 く 、 そ れ に よ っ て も NADPH が 生 産 さ れ る (Ketchner and
Sayre, 1992)。 NADP-ME と 直 鎖 型 電 子 伝 達 系 に よ る NADPH 生 産 が 同 時 に
起 こ る と ス ト ロ マ の 過 還 元 が 起 こ る こ と が 知 ら れ て お り 、C 3 植 物 の イ ネ の
葉 緑 体 で Z. mays 由 来 の NADP-ME を 過 剰 発 現 さ せ た 形 質 転 換 体 は 、 ス ト
ロ マ の NADPH レ ベ ル が 上 昇 し 光 障 害 を 引 き 起 こ す (Tsuchida et al., 2001)。
従 っ て 、 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 の 直 鎖 型 電 子 伝 達 活 性 が 低 下 し て い る C4 種
と は 異 な り 、 直 鎖 型 電 子 伝 達 活 性 が 高 い F. ramosissima と F. brownii で は 、
C 4 回 路 の 駆 動 は CO 2 濃 縮 と 同 時 に 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 内 の 過 還 元 を 引 き
起 こ し て い る か も し れ な い 。そ し て 、NDH 依 存 経 路 は そ の 過 剰 な 還 元 力 を
電 子 伝 達 鎖 に 戻 し て ⊿ pH を 形 成 さ せ 、 ATP 合 成 を 促 し 、 か つ 葉 緑 体 ス ト
ロ マ の 酸 化 還 元 状 態 を 適 正 に 保 っ て い る と 考 え ら れ る 。こ の 考 え は 、NDH
依 存 経 路 が C3 植 物 に お い て 、 ス ト レ ス 条 件 下 で ス ト ロ マ の 過 還 元 回 避 の
27
た め に 働 い て い る と い う 知 見 に 支 持 さ れ る (Endo et al., 1999; Joët et al.,
2002)。ま た 、F. brownii の In situ 免 疫 染 色 の 結 果 、NDH-H は NADP-ME が
多 く 存 在 す る 維 管 束 鞘 細 胞 に 細 胞 選 択 的 に 蓄 積 し て い た (Fig. 16O and P)。
PGR5 と PGRL1 タ ン パ ク 質 は 、 Flaveria C 4 種 で あ る F. bidentis の 葉 肉 細
胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 間 で 同 程 度 発 現 し て お り 、そ の 発 現 は 両 細 胞 間 の ATP 要
求 量 の 違 い に 応 答 し て い な か っ た (Fig. 13B)。 こ れ は 、 以 前 の Z. mays の 結
果 と 一 致 す る (Takabayashi et al., 2005)。 し か し な が ら 、 Flaveria C 3 種 と C 4
種 間 で タ ン パ ク 質 量 を 比 較 し た と こ ろ 、PGR5 と PGRL1 タ ン パ ク 質 発 現 量
は C 3 種 と 比 較 し て C 4 種 で 、共 に 3 倍 増 加 し て い た (Fig. 10B)。ま た 、Flaveria
C 3 -C 4 中 間 種 と Flaveria C 4 -like 種 の 中 で 、 C 4 回 路 が 完 成 さ れ て お り 光 合 成
特 性 が 最 も C 4 植 物 に 近 い F. palmeri に お い て 、PGR5 と PGRL1 タ ン パ ク 質
は 、 C 3 種 と 比 較 し て 、 そ れ ぞ れ 4 倍 と 3 倍 発 現 増 加 し て い た (Fig. 10B)。
従 っ て 、PGR5 と PGRL1 タ ン パ ク 質 の 発 現 量 は 、C 4 植 物 の 2 種 類 の 細 胞 間
の ATP 要 求 量 の 違 い に は 応 答 し な い も の の 、C 3 種 と C 4 種 間 の C 4 回 路 の 駆
動 に よ る ATP 要 求 量 の 上 昇 に 対 し て 応 答 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。
ま た 、P700 酸 化 速 度 か ら 見 積 も ら れ る 循 環 型 電 子 伝 達 活 性 は 、Flaveria C 4
種 と C 4 -like 種 の F. palmeri で 、他 の 種 と 比 較 し て 最 も 高 か っ た (Fig. 7)。以
上 の 結 果 か ら 、PGR5 と PGRL1 タ ン パ ク 質 の 発 現 増 加 は 循 環 型 電 子 伝 達 活
性 の 上 昇 に 必 要 で あ り 、PGR5/PGRL1 依 存 経 路 は 、C 4 植 物 に お い て 炭 酸 固
定 経 路 の 駆 動 の た め に 必 要 な ATP 生 産 に 貢 献 し て い る と 考 え ら れ る 。
本 研 究 の 結 果 は 、 NDH 依 存 経 路 に 加 え て 、 こ れ ま で C 4 型 光 合 成 に お い
て 炭 酸 固 定 経 路 を 駆 動 す る た め の ATP 生 産 へ の 関 与 が 不 明 で あ っ た
PGR5/PGRL1 依 存 経 路 も 、そ の ATP 生 産 に 貢 献 し て い る こ と を 示 唆 す る も
の で あ る 。 し か し な が ら 、 こ れ ら の 結 果 だ け で は 、 C4 型 光 合 成 に お い て
PGR5/PGRL1 依 存 経 路 が 炭 酸 固 定 経 路 に 必 要 な ATP 生 産 に 貢 献 し て い る か
ど う か は 結 論 付 け ら れ な い 。 こ れ を 明 ら か に す る た め に は 、 PGR5/PGRL1
の RNAi 発 現 抑 制 形 質 転 換 体 を 用 い て 、炭 酸 固 定 経 路 の CO 2 固 定 効 率 へ の
影 響 度 を 直 接 に 調 べ る 必 要 が あ る 。こ の PGR5/PGRL1 の RNAi 発 現 抑 制 形
質転換体を用いた解析結果については次章で報告する。
2-4-3. 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 の チ ラ コ イ ド 膜 構 造 の 変 化 は 、光 化 学 系 I 循 環
型電子伝達活性の上昇に関与するのか?
P700 酸 化 速 度 か ら 見 積 も ら れ る 循 環 型 電 子 伝 達 活 性 は 、Flaveria C 4 種 と
C 4 -like 種 の F. palmeri で 、 他 の 種 と 比 較 し て 最 も 高 か っ た (Fig. 7) 。 F.
bidentis(C 4 )、 F. trinervia (C 4 )そ し て F. palmeri (C 4 -like)で は 、 維 管 束 鞘 細 胞
葉 緑 体 の グ ラ ナ が 、 C 3 -C 4 中 間 種 や C 4 -like 種 の F. bro wnii と 比 較 し て 大き
28
く 減 少 し て い た (Fig. 17 and 19A)。 こ の グ ラ ナ の 減 少 は 、 光 化 学 系 II の 水
酸 化 分 解 反 応 の 活 性 低 下 と よ く 相 関 す る こ と が 報 告 さ れ て い る (Sheen et
al., 1987; Oswald et al., 1990)。 実 際 に 、 F. brownii の 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 の
光 化 学 系 II 活 性 は 葉 肉 細 胞 葉 緑 体 の も の と 比 較 し て 変 化 し て い な い の に
対 し て 、 F. palmeri、 F. bidentis そ し て F. trinervia の 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 の
光 化 学 系 II 活 性 は 、 葉 肉 細 胞 葉 緑 体 の 光 化 学 系 II 活 性 値 の 50 %程 度 に 減
少 し て い る (Hofer et al., 1992; Ketchner and Sayre, 1992)。 F. bidentis と F.
trinervia の 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 の チ ラ コ イ ド 膜 構 造 の 特 徴 と し て 、 グ ラ ナ
が減少することでグラナ間のストロマラメラの領域が著しく拡大してい
た (Fig. 17G, H)。ま た そ の 特 徴 は F. palmeri で よ り 顕 著 で 、グ ラ ナ あ た り の
チ ラ コ イ ド 膜 の 層 数 は C 4 種 と 比 較 し て 多 か っ た が (Fig. 19B)、 グ ラ ナ が 葉
緑体の辺縁領域に寄っておりストロマラメラのチラコイド膜の長さが大
き く な っ て い た (Fig. 17F)。 ス ト ロ マ ラ メ ラ に は PGR5 と NDH 複 合 体 が 局
在 し て お り (Fig. 14B; Rumeau et al., 2005)、ま た 光 化 学 系 I も 局 在 し て い る 。
そのため、光化学系 I 循環型電子伝達系はストロマラメラで機能している
と考えられる。直鎖型電子伝達系と光化学系 I 循環型電子伝達系はプラス
ト キ ノ ン か ら フ ェ レ ド キ シ ン ま で の 電 子 伝 達 鎖 を 共 有 し て い る た め 、直 鎖
型 電 子 伝 達 系 に よ る 光 化 学 系 II か ら プ ラ ス ト キ ノ ン へ 流 入 す る 電 子 と 循
環型電子伝達系によるフェレドキシンからプラストキノンへ流入する電
子 は 競 合 す る 。従 っ て 、グ ラ ナ の 減 少 と 光 化 学 系 II の 水 酸 化 分 解 反 応 の 低
下 が 起 こ り 、グ ラ ナ 間 の ス ト ロ マ ラ メ ラ の 領 域 が 拡 大 し て い る 葉 緑 体 チ ラ
コ イ ド 膜 構 造 は 、両 者 の 競 合 を 回 避 す る こ と で 循 環 型 電 子 伝 達 系 が 機 能 し
や す い 状 態 に あ る と 考 え る 。Flaveria C 4 種 と C 4 -like 種 の F. palmeri で 見 ら
れ た 循 環 型 電 子 伝 達 活 性 の 上 昇 は 、循 環 型 電 子 伝 達 系 関 連 タ ン パ ク 質 の 発
現 増 加 の み な ら ず 、そ の 葉 緑 体 チ ラ コ イ ド 膜 構 造 の 変 化 に よ っ て も 引 き 起
こされているのかもしれない。
29
第3章
F. bidentis PGRL1 お よ び PGR5 発 現 抑 制 株 を 用 い た C 4 型 光 合 成 に お け る
PGR5/PGRL1 依 存 的 光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 系 の 生 理 機 能 の 解 析
3-1. 序 論
C4 型 光 合 成 の 炭 酸 固 定 経 路 は 、 C3 型 光 合 成 の も の と 比 較 し て 、 C4 回 路
を 駆 動 す る た め に 、1 分 子 の CO 2 を 固 定 す る あ た り 2 分 子 の ATP を よ り 多
く 必 要 と す る (Kanai and Edwards, 1999)。そ の た め 、C 4 型 光 合 成 の 光 合 成 電
子 伝 達 反 応 は 、そ の 炭 酸 固 定 経 路 を 効 率 的 に 駆 動 さ せ る た め に 、C 3 型 光 合
成 の も の と 比 べ て 、よ り 多 く の ATP を 電 子 伝 達 反 応 で 生 産 し な け れ ば な ら
な い 。過 去 の 研 究 と 合 わ せ て 前 章 の Flaveira 属 植 物 を 用 い た 解 析 結 果 か ら 、
光 合 成 電 子 伝 達 反 応 に お い て ATP 生 産 に 関 わ っ て い る 光 化 学 系 I 循 環 型 電
子 伝 達 系 の 電 子 伝 達 活 性 が 、 C3 種 と 比 較 し て C4 種 で 上 昇 し て お り 、 そ の
上 昇 値 は C 3 -C 4 中 間 種 と C 4 -like 種 に お け る C 4 回 路 の 構 築 度 合 い と 一 致 す
る こ と が 見 い だ さ れ た 。従 っ て 、C 4 型 光 合 成 で は 、光 化 学 系 I 循 環 型 電 子
伝 達 系 が そ の 電 子 伝 達 活 性 を 上 昇 さ せ ATP 生 産 量 を 増 や す こ と で 、 C 4 回
路 の 駆 動 で 上 昇 し た 炭 酸 固 定 経 路 に 必 要 な ATP 要 求 量 を 賄 っ て い る こ と
が強く示唆された。
光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 系 は 、 今 か ら 50 年 以 上 前 に Arnon ら に よ っ
て 、酸 素 発 生 や 酸 化 剤 の 還 元 を 伴 わ ず に 光 照 射 に よ っ て ATP を 合 成 す る 電
子 伝 達 (cyclic phosphorylat ion)と し て 発 見 さ れ た (Arnon et al., 1954; Arnon,
1956; Arnon et al., 1958)。 後 に 、 cyclic phosphorylat io n は 、 電 子 供 与 体 と し
て フ ェ レ ド キ シ ン を 必 要 と し 、 ま た ant imycin A (AA)で 阻 害 さ れ る こ と が
分 か り 、AA-sensit ive Ferredoxin-plastoquinone reductase (FQR)経 路 と 呼 ば れ
る よ う に な っ た (Tagawa et al., 1963; Shikanai. 2007)。 近 年 、 C 3 植 物 で あ る
Arabidopsis thaliana を 用 い た 分 子 遺 伝 学 的 解 析 か ら 、FQR 経 路 に 関 与 す る
PGR5 と PGRL1 の 2 つ の 葉 緑 体 タ ン パ ク 質 が 同 定 さ れ た (Munekage et al.,
2002; DalCorso et al., 2008)。 PGRL1 タ ン パ ク 質 は 膜 貫 通 ド メ イ ン を 持 つ チ
ラ コ イ ド 膜 タ ン パ ク 質 で 、PGR5 は ス ト ロ マ 側 に 突 出 し た PGRL1 の N 末 領
域に結合することで複合体を形成していることが示唆されている
(DalCorso et al., 2008)。 そ れ 故 に 、 両 者 は 互 い の タ ン パ ク 質 の 安 定 性 に 寄
与 し て い る と 考 え ら れ て い る (DalCorso et al., 2008; Nishikawa et al., 2012)。
最 近 、PGR5/PGRL1 複 合 体 に よ る フ ェ レ ド キ シ ン か ら プ ラ ス ト キ ノ ン へ の
30
電 子 伝 達 機 構 が 解 明 さ れ た (Hert le et al., 2013)。 PGRL1 は 酸 化 還 元 活 性 を
持つシステイン残基のジスルフィド結合を利用してフェレドキシンから
プ ラ ス ト キ ノ ン へ 電 子 を 伝 達 し て お り 、 一 方 で 、 PGR5 は 還 元 型 フ ェ レ ド
キシンがジスルフィド結合を還元して切断するのに関与していることが
示 唆 さ れ て い る 。 ま た 、 AA は PGR5/PGRL1 複 合 体 に よ る フ ェ レ ド キ シ ン
からプラストキノンへの電子伝達を阻害することも明らかとなっている
(Hertle et al., 2013; Sugimoto et al., 2013)。 そ の た め 、 FQR 経 路 は PGR5 と
PGRL1 タ ン パ ク 質 を 構 成 因 子 の 一 部 と し て 成 り 立 っ て お り 、PGR5/PGRL1
複 合 体 が 、 Arnon ら が 提 唱 し た FQR の 分 子 実 態 で あ る と さ れ て い る 。
A. thaliana の pgr5, pgrl1 変 異 体 で は 、 温 室 栽 培 条 件 の 光 照 射 下 で 、 PSII
が過剰に吸収した光エネルギーを熱として放散する熱散逸の誘導能が低
下 し 、 ま た PSI が 光 障 害 を 起 こ す (Munekage et al., 2002; Munekage et al.,
2004; DalCorso et al., 2008; Munekage et al., 2008)。 こ れ は 、 PGR5/PGRL1
依 存 経 路 の 欠 損 に よ る ⊿ pH の 減 少 と 光 合 成 電 子 伝 達 反 応 で 生 産 さ れ る
ATP と NADPH 量 の ATP/NADPH 率 が 低 下 す る こ と に 起 因 す る と 考 え ら れ
て い る 。 一 方 で 、 光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 系 に は 、 AA に 感 受 性 を 示 さ
な い NDH 依 存 経 路 も 存 在 す る が 、 A. thaliana ndh 変 異 体 や Nicotiana
tabacum の NDH 欠 損 株 は 温 室 栽 培 条 件 の 光 照 射 下 で 表 現 型 を 示 さ な い 。
(Shikanai et al., 1998; Hashimoto et al., 2003; Munekage et al., 2008) 。 そ の た
め C 3 植 物 で は 、光 合 成 定 常 状 態 に お い て 、NDH 依 存 経 路 の ⊿ pH 形 成 へ の
貢 献 度 は ほ と ん ど な く 、 PGR5/PGRL1 依 存 経 路 が ⊿ pH 形 成 を 介 し た ATP
生 産 に よ る ATP/NADPH 率 の 調 整 に 貢 献 し て い る と さ れ る 。 A. thaliana の
pgr5 変 異 体 を 用 い た 解 析 か ら 、葉 緑 体 に お い て 生 産 さ れ る 全 ATP 量 の 13 %
程 度 が 、PGR5/PGRL1 依 存 経 路 に よ っ て 形 成 さ れ る ⊿ pH に よ っ て 生 産 さ れ
る と 見 積 も ら れ て い る (Avenson et al., 2005)。
一 方 で 、こ れ ま で C 4 植 物 で は 、PGR5 タ ン パ ク 質 は 葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘
細 胞 間 の ATP 要 求 量 の 違 い に 応 答 せ ず 同 等 の レ ベ ル で 発 現 し て い た こ と
か ら 、 PGR5/PGRL1 依 存 経 路 が C 4 型 光 合 成 の 炭 酸 固 定 経 路 に 必 要 な ATP
の生産に関与しているかは明らかでなかった。しかしながら、前章の
Flaveira 属 植 物 を 用 い た 解 析 結 果 か ら 、 PGR5 と PGRL1 タ ン パ ク 質 は 、
Flaveria C 4 種 の 葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 間 で 同 程 度 発 現 し て い た も の の 、
C 3 種 と 比 較 し て C 4 回 路 が 構 築 さ れ 機 能 し て い る C 4 種 と C 4 -like 種 の F.
palmeri で 発 現 量 が 増 加 し て い る こ と が 見 い だ さ れ た 。 ま た 、 そ れ ら の 種
に お け る 循 環 型 電 子 伝 達 活 性 は 、C 3 種 と 比 較 し て 著 し く 上 昇 し て い た 。こ
の こ と か ら 、PGR5/PGRL1 依 存 経 路 が C 4 型 光 合 成 の 炭 酸 固 定 経 路 に 必 要 な
ATP の 生 産 に 関 与 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。し か し な が ら 、こ れ ら の
31
状 況 証 拠 だ け で は 、 C 4 型 光 合 成 の 光 合 成 電 子 伝 達 反 応 に よ る ATP 生 産 へ
の 、 PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 貢 献 度 を 判 断 す る こ と は で き な い 。ま た 、 C 4
植 物 に お い て PGR5/PGRL1 依 存 経 路 が 、C 3 植 物 と 同 様 に 、ATP 合 成 を 介 し
た ATP/NADPH 率 の 調 整 だ け で な く 強 光 下 で の PSI の 保 護 に 関 与 し て い る
のかは明らかとなっていない。
こ れ ら の 事 に 対 す る 明 確 な 答 え を 得 る た め に は 、 C 4 植 物 で PGR5 と
PGRL1 遺 伝 子 の 発 現 抑 制 形 質 転 換 体 を 作 成 し 、そ の 表 現 型 を 詳 細 に 解 析 す
る 必 要 が あ る 。本 研 究 で 用 い て い る Flaveria C 4 種 の F. bidentis で は 形 質 転
換 方 法 が 確 立 さ れ て い る 。こ れ ま で に 、 そ の F. bidentis を 用 い て 、C 4 代 謝
酵 素 の carbonic anhydrase (Cousins et al., 2006)、NADP-malate dehydrogenase
(Trevanio n et al., 1997)、NADP-ME (Pengelly et al., 2012)、PPDK(Furbank et al.,
1997)、Calvin-Benson 回 路 の RuBisCO (Furbank et al., 1996; vo n Caemmerer et
al., 1997; Siebke et al., 1997)、PEPC の 活 性 を 制 御 す る PEPC kinase (Furumoto
et al., 2007) そ し て RuBisCO の 活 性 化 に 必 要 な RuBisCO act ivase (von
Caemmerer et al., 2005)の 発 現 抑 制 形 質 転 換 体 が そ れ ぞ れ 作 成 さ れ て い る 。
そ れ ら を 用 い た 解 析 か ら 、 C 4 回 路 と Calvin-Benson 回 路 の 各 代 謝 反 応 速 度
が 律 速 し た 場 合 に 光 合 成 活 性 が 低 下 す る 葉 内 CO 2 濃 度 お よ び 光 強 度 条 件
が 明 ら か と な っ て い る 。本 章 で は 、PGR5 と PGRL1 遺 伝 子 を そ れ ぞ れ 標 的
と す る RNA int erference (RNAi)コ ン ス ト ラ ク ト を 導 入 し た F. bidentis PGR5
発 現 抑 制 体 お よ び PGRL1 発 現 抑 制 体 を 用 い て 、 葉 内 CO 2 濃 度 依 存 的 ま た
光 強 度 依 存 的 な 光 合 成 活 性 を 測 定 し た 。そ し て 、そ の 結 果 と 過 去 の 炭 素 同
化 代 謝 酵 素 の 発 現 抑 制 体 の 知 見 と を 照 ら し 合 わ せ る こ と で 、炭 酸 固 定 経 路
を 駆 動 す る た め の ATP 生 産 へ の PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 関 与 と そ の 貢 献
度を考察した。
32
3-2. 材 料 と 方 法
3-2-1. 植 物 材 料 と 栽 培 条 件
F. pringlei (C 3 ) と F. bidentis (C 4 ) の wild t ype の 種 子 は 、 MSO 培 地 (培 地
組 成 は Table I に 記 す )の プ レ ー ト に 無 菌 播 種 し た 。 一 方 で 、 PGRL1-RNAi
形 質 転 換 株 # 22 と # 4、 PGR5-RNAi 形 質 転 換 株 # 6 と # 7 は 、 T1 世 代 を 用
い た た め 、カ ナ マ イ シ ン (終 濃 度 200 μg/ml)を 添 加 し た MSO 培 地 の プ レ ー
ト に 無 菌 播 種 し た 。そ れ ら は 、4 °C で 2 日 間 春 化 処 理 を 行 っ た 後 、Growth
chamber (光 強 度 : 30-60 μmo l photons m -2 s -1 、温 度 24°C、明 期 /暗 期:16/8 時
間 )内 で 、本 葉 が 展 開 す る ま で 生 育 し た 。そ の 後 、F. pringlei (C 3 ) 、F. bidentis
(C 4 ) の wild t ype、 そ し て kanamycin 耐 性 を 示 し た 形 質 転 換 株 を 土 (ス ー パ
ー ミ ッ ク ス A (株 式 会 社 サ カ タ の タ ネ ):バ ー ミ キ ュ ラ イ ト (ニ ッ タ イ 株 式 会
社 )= 3: 1)に 移 し 、 人 工 気 象 器 環 境 条 件 下 (光 強 度 : 200~ 300 μmo l photons
m -2 s -1 、 温 度 24 °C、 湿 度 50 %、 明 期 /暗 期 : 12/12 時 間 )で 生 育 さ せ た 。 潅
水 は 、 ポ ッ ト の 土 が 完 全 に 乾 燥 し た ら 行 い 、 そ の 際 に 1000 倍 希 釈 し た 液
体 肥 料 ハ イ ポ ネ ッ ク ス ® ; N:P:K = 6:10:5 (株 式 会 社 ハ イ ポ ネ ッ ク ス ジ ャ パ
ン )を 与 え た 。 実 験 に は 播 種 後 10~ 12 週 間 目 の 完 全 展 開 し た 第 7 葉 若 し く
は第 8 葉を使用した。
3-2-2. Flaveria 形 質 転 換 用 PGRL1-RNAi, PGR5-RNAi コ ン ス ト ラ ク ト
の作成
PGRL1 の coding region は F. bidentis の cDNA を 鋳 型 に 、PGR5A/B の coding
region は 宗 景 ゆ り 博 士 が 作 成 し た 全 長 の PGR5A/BCDS 配 列 が 挿 入 さ れ た
pDONR221 ベ ク タ ー を 鋳 型 に KOD plus (TOKOBO, Osaka, Japan)を 用 い た
PCR 法 に よ り 増 幅 し た 。セ ン ス 鎖 を 増 幅 す る た め に 使 用 し た プ ラ イ マ ー に
は 、 サ ブ ク ロ ー ニ ン グ の 際 に 方 向 性 を 持 た せ る た め に 5’末 端 側 に XhoI 認
識 配 列 を 、3’末 端 側 に PGRL1 で は KpnI 認 識 配 列 、 PGR5A/B で は EcoRI 認
識 配 列 を 付 加 し た 。一 方 で 、ア ン チ セ ン ス 鎖 を 増 幅 す る た め に 使 用 し た プ
ラ イ マ ー に は 、 5’末 端 側 に XbaI 認 識 配 列 を 、 3’末 端 側 に BamHI 認 識 配 列
を付加した。以下に使用したプライマー配列を示す。
FbPGRL1_sense, 5’-CCGctcgagTGTGGGAAGGAAGCAGTCTT-3’/5’-GGgg
taccGCAATGTCATCAAGCGAGTG-3’ (ctcgag: XhoI 認 識 配 列 , ggtacc: KpnI
認識配列)
FbPGRL1_antisense, 5’-GCtctaga TGTGGGAAGGAAGCAGTCTT-3’/5’-CGg
gatcc GCAATGTCATCAAGCGAGTG-3’(tctaga: XbaI 認 識 配 列 , ggatcc:
33
BamHI 認 識 配 列 )
FbPGR5A/B_sense, 5’-CCGctcgagGTTGGGAGACTTCCATTGCTG-3’/5’-CCG
gaattcAGCTAGGAACCCAAGTCTTTC-3’ (ctcgag: XhoI 認 識 配 列 , gaattc:
EcoRI 認 識 配 列 )
FbPGR5A/B_antisense, 5’-GCtctagaGTTGGGAGACTTCCATTGCTG-3’/5’CGggatccAGCTAGGAACCCAAGTCTTTC-3’ (tctaga: XbaI 認 識 配 列 , ggatcc:
BamHI 認 識 配 列 )
PCR 産 物 は ア ガ ロ ー ス ゲ ル 電 子 泳 動 に よ り 分 離 し 、予 測 さ れ る サ イ ズ の
位 置 で 検 出 さ れ た 単 一 バ ン ド を 切 り 出 し た 。 ゲ ル か ら の DNA 断 片 の 抽 出
お よ び 精 製 は MinE lut e Gel Ext ract ion Kit (QIAGEN K.K.-Japan, Tokyo,
Japan)を 用 い て 、 付 属 の プ ロ ト コ ル に 従 っ て 行 っ た 。 形 質 転 換 用 プ ラ ス ミ
ド に は 古 本 強 博 士 (龍 谷 大 学 )か ら 供 与 し て 頂 い た pART7/pART27 プ ラ ス ミ
ド 系 (Gleave, 1992)を 用 い た 。こ れ ら の プ ラ ス ミ ド 系 に は 、特 筆 す べ き 特 徴
と し て 、 マ ル チ ク ロ ー ニ ン グ サ イ ト に F. trinervia PPDK 遺 伝 子 の 第 一 イ ン
ト ロ ン を 含 み 、そ の イ ン ト ロ ン を 挟 ん で セ ン ス 方 向・ア ン チ セ ン ス 方 向 に
目的遺伝子を挿入することで簡単にフライパン構造を持つ遺伝子発現系
を 構 築 で き 、 RNAi を 利 用 し た 遺 伝 子 発 現 抑 制 系 プ ラ ス ミ ド が 簡 便 に 用 意
で き る 点 が あ る 。プ ラ ス ミ ド 作 製 の 概 略 と し て 、ま ず コ ン ス ト ラ ク ト 作 成
用 の プ ラ ス ミ ド pART7 中 に 各 標 的 遺 伝 子 の セ ン ス 鎖 と ア ン チ セ ン ス 鎖 を
Ligat ion High (TOYOBO)を 用 い て ラ イ ゲ ー シ ョ ン 反 応 で 組 み 込 み 、 次 に こ
れ を 形 質 転 換 用 プ ラ ス ミ ド pART27 に 組 み 込 ん だ 。 以 下 に そ れ ぞ れ の 行 程
の詳細を述べる。
PGR L 1 ( PGR 5A /B ) セ ン ス 鎖 の DNA 断 片 は 、 X hoI / KpnI (X hoI/ E coR I )
(TAKARA BIO, Shiga, JAPAN)で 消 化 し 、同 じ く XhoI/KpnI (XhoI/EcoRI)で 消
化 し た pART7 の カ リ フ ラ ワ ー モ ザ イ ク ウ イ ル ス 35S(CaMV35S)プ ロ モ ー タ
と PPDK 第 一 イ ン ト ロ ン 間 の マ ル チ ク ロ ー ニ ン グ サ イ ト の XhoI (XhoI)と
KpnI (EcoRI)部 位 に 挿 入 し た 。 次 に 、 PGRL1 (PGR5A/B)ア ン チ セ ン ス 鎖 の
DNA 断 片 は 、 X baI/B amHI (X baI /BamHI )で 消 化 し 、 同 じ く X baI /B amHI
(XbaI/BamHI)で 消 化 し た PPDK 第 一 イ ン ト ロ ン と オ ク ト ピ ン 合 成 酵 素 の タ
ー ミ ネ ー タ 配 列 (o csT ) 間 の マ ル チ ク ロ ー ニ ン グ サ イ ト の X baI (X baI) と
BamHI (BamHI)部 位 に 挿 入 し た 。 こ れ ら 各 標 的 遺 伝 子 の セ ン ス 鎖 と ア ン チ
セ ン ス 鎖 を 組 み 込 ん だ プ ラ ス ミ ド DNA を 大 腸 菌 (DH5α )に ヒ ー ト シ ョ ッ
ク 法 で 導 入 し て 形 質 転 換 体 を 得 た 。コ ロ ニ ー PCR お よ び 大 腸 菌 か ら 抽 出 し
た プ ラ ス ミ ド を 鋳 型 に し た PCR 分 析 に よ っ て 各 標 的 遺 伝 子 の coding region
を 含 む pART7 を 選 抜 し 、 ABI Bigdye ver. 3.1(applied bio systems
34
TM
, Osaka,
Japan)を 用 い た シ ー ク エ ン シ ン グ に よ っ て 標 的 遺 伝 子 の coding region が 正
しい方向でプラスミドに挿入されていることを確認した。
次 い で 、塩 基 配 列 の 確 認 を 行 っ た プ ラ ス ミ ド を NotI で 切 り 出 し 、同 じ く
NotI で 消 化 し た カ ナ マ イ シ ン 耐 性 遺 伝 子 を 持 つ 形 質 転 換 用 プ ラ ス ミ ド で
あ る pART27 に ラ イ ゲ ー シ ョ ン し た 。 そ の pART27 プ ラ ス ミ ド を 大 腸 菌
(DH5α )に ヒ ー ト シ ョ ッ ク 法 で 導 入 し て 形 質 転 換 体 を 得 た 。 コ ロ ニ ー PCR
お よ び 大 腸 菌 か ら 抽 出 し た プ ラ ス ミ ド を 鋳 型 に し た PCR 分 析 に よ っ て 各
標 的 遺 伝 子 の coding regio n を 含 む pART27 を 選 抜 し 、ABI Bigdye ver.3.1 (a
pp lie d bio s yst e ms
TM
)を 用 い た シ ー ク エ ン シ ン グ に よ っ て 標 的 遺 伝 子 の
coding regio n が 正 し い 方 向 で プ ラ ス ミ ド に 挿 入 さ れ て い る こ と を 確 認 し た 。
3-2-3. ア グ ロ バ ク テ リ ウ ム へ の 形 質 転 換 用 プ ラ ス ミ ド の 導 入
Agrobacterium tumefaciens の 系 統 と し て AGL1(Lazo et al., 1991)を 使 用 し
た 。ま た 、ベ ク タ ー サ イ ズ が 大 き い こ と と プ ラ ス ミ ド 導 入 効 率 が 良 く な い
ことから、エレクトロポレーション法によりアグロバクテリウムへ
pART27 プ ラ ス ミ ド を 導 入 し 、28 °C で 培 養 し た 。選 抜 に は カ ナ マ イ シ ン (終
濃 度 50 μg/ml)を 用 い た 。
3-2-4. Flaveria bidentis へ の 形 質 転 換
ア グ ロ バ ク テ リ ウ ム 法 に よ る F. bidentis の 形 質 転 換 は Chitt y ら の 方 法 を
参 考 に 一 部 改 変 し て 行 っ た (Chitt y et al., 1994)。
籾 を 取 り 除 い た 種 子 を 1.5 ml エ ッ ペ ン チ ュ ー ブ に 入 れ 、 種 子 を 30 秒 間
70 %エ タ ノ ー ル に 浸 し た 。次 に 種 子 を 滅 菌 液 (3 %(v/w)次 亜 塩 素 酸 ナ ト リ ウ
ム 、0.05 %Tween 20)で 5 分 間 処 理 し 、そ の 後 滅 菌 水 で 数 回 洗 浄 し た 。洗 浄
し た 種 子 を MSO 培 地 上 に 播 種 し 、 4 °C で 2 日 間 春 化 処 理 を 行 っ た 後 、
Growth chamber (光 強 度 : 30-60 μmo l photons m -2 s -1 、温 度 24 °C、明 期 /暗 期 :
16/8 時 間 )内 で 発 芽 さ せ 、 1 週 間 生 育 さ せ た 。
3-2-3 で 得 ら れ た 形 質 転 換 ア グ ロ バ ク テ リ ウ ム を 、 カ ナ マ イ シ ン (終 濃 度
50 μg/ml)を 添 加 し た LB 液 体 培 地 で 、28 °C で 前 培 養 し た 。次 に 、ア グ ロ バ
ク テ リ ウ ム 培 養 液 を OD 6 0 0 =0.2 に な る よ う に LBMG 液 体 培 地 で 調 整 し 、
28 °C で OD 6 0 0 =0.5 に な る ま で 数 時 間 本 培 養 し た 。そ の 後 、本 培 養 し た ア グ
ロ バ ク テ リ ウ ム 培 養 液 を 終 濃 度 が OD 6 0 0 =0.2 に な る よ う に 再 調 整 し 、20 °C、
3,300 ×g、10 min の 条 件 で 遠 心 す る こ と で ア グ ロ バ ク テ リ ウ ム を 集 菌 し た 。
集 菌 し た ア グ ロ バ ク テ リ ウ ム を 、 ア セ ト シ リ ン ゴ ン (終 濃 度 20 μg/ml)を 添
加 し た CRM 液 体 培 地 (培 地 組 成 は Table I に 記 す )で 懸 濁 し 、 感 染 用 の ア グ
ロバクテリウム溶液とした。
35
感 染 用 の ア グ ロ バ ク テ リ ウ ム 溶 液 を 50 mL フ ァ ル コ ン チ ュ ー ブ に 移 し 、
そ の 中 に 植 物 体 か ら 切 り 出 し た 胚 軸 を 入 れ 20 分 間 振 盪 さ せ る こ と で 、 胚
軸 に ア グ ロ バ ク テ リ ウ ム を 感 染 さ せ た 。そ の 胚 軸 を 、ア セ ト シ リ ン ゴ ン (終
濃 度 20 μg/ml)を 添 加 し た CRM 培 地 上 に 置 き 、3 日 間 暗 所 、24°C で 共 存 培
養 し た 。そ の 後 、胚 軸 を 深 型 シ ャ ー レ に 移 し て 滅 菌 水 で よ く 洗 浄 し 、濾 紙
上 で 余 分 な 水 分 を 取 り 除 い た 後 、 カ ナ マ イ シ ン ( 終 濃 度 100 μg/ml) と
TIMENTIN (終 濃 度 200 μg/ml)を 添 加 し た CRM 培 地 に 移 し 、そ れ を Growth
chamber (光 強 度 : 30-60 μmo l photons m -2 s -1 、温 度 24 °C、明 期 /暗 期:16/8 時
間 )内 に 静 置 し 、カ ル ス 化 を 誘 導 す る と 共 に カ ナ マ イ シ ン 耐 性 を 示 す シ ュ ー
トの再生を促した。
感 染 後 2-3 週 間 ほ ど で 、実 体 顕 微 鏡 下 で 再 生 芽 を 確 認 で き る よ う に な る 。
観 察 さ れ た 再 生 芽 を カ ル ス か ら 取 り 、 カ ナ マ イ シ ン (終 濃 度 100 μg/ml) と
TIMENTIN (終 濃 度 200 μg/ml)を 添 加 し た SPM1 培 地 (培 地 組 成 は Table I に
記 す )に 移 し た 。 再 生 芽 を 肉 眼 で 観 察 で き る 大 き さ に な る ま で 約 1 週 間
Growth chamber 内 で 成 長 さ せ 、 こ れ を カ ナ マ イ シ ン (終 濃 度 50 μg/ml) と
TIMENTIN (終 濃 度 200 μg/ml)を 添 加 し た SPM2 培 地 (培 地 組 成 は Table I に
記 す )に 移 し 生 育 さ せ る こ と で 、カ ナ マ イ シ ン 耐 性 を 示 す シ ュ ー ト を 選 抜 し
た。さらに約 2 週間、選抜したシュートが成長するのを待ち、その後
SPM3(培 地 組 成 は Table I に 記 す )に 移 し て 発 根 を 促 し 、 植 物 体 を 再 生 さ せ
た 。 再 生 し た 形 質 転 換 株 は 、 土 (ス ー パ ー ミ ッ ク ス A (株 式 会 社 サ カ タ の タ
ネ ): バ ー ミ キ ュ ラ イ ト (ニ ッ タ イ 株 式 会 社 )= 3: 1)に 鉢 上 げ し 、 人 工 気 象
器 環 境 条 件 下 (光 強 度:200~ 300 μmo l pho tons m -2 s -1 、温 度 24 °C、湿 度 50 %、
明 期 /暗 期 : 12/12 時 間 )で 生 育 さ せ た 。
3-2-5. 導 入 遺 伝 子 の 確 認
カ ナ マ イ シ ン 耐 性 を 示 し た 形 質 転 換 株 に RNAi コ ン ス ト ラ ク ト が 導 入 さ
れ て い る か を 確 認 す る た め 、 SPM3 培 地 で 生 育 し て い る 段 階 の 形 質 転 換 株
の 生 葉 を 直 接 用 い て 、 KOD FX NEO (TOYOBO)の 付 属 の プ ロ ト コ ル に 従 っ
て PCR 分 析 を 行 っ た 。 以 下 に 、 PGRL1-RNAi お よ び PGR5-RNAi 形 質 転 換
株にそれぞれ用いたプライマー配列を示す。
FbPGRL1_cheak, 5’- CAAAGCGCAAGATCTATC-3’/5’-GGGTACAATCAGT
AAATTGAACGGA-3’
FbPGR5_cheak, 5’- GTTGGGAGACTTCCATTGCTG-3’/5’- AGCTAGGAAC
CCAAGTCTTTC-3’.
3-2-6. Total RNA の 抽 出
36
Total RNA は 、 RNA す い す い -P(リ ー ゾ 株 式 会 社 、 茨 城 )を 用 い て 、 付 属
の プ ロ ト コ ル に 従 っ て 抽 出 し た 。 続 い て Total RNA を DNase I (FPLC pure,
Amersham) で 37 °C, 30 min 処 理 し 、 NucleoSpin® RNA Clean-up kit
(MACHEREY-NAGEL, Duren, Germany)を 用 い て 精 製 し た 。 Total RNA の 濃
度 測 定 は 、NANODROP 2000C (Thermo scient ific, MA, USA)を 使 用 し て 行 っ
た。
3-2-7. Real-time PCR 分 析
Total RNA 0.5 μg を 鋳 型 に ReverTraAce (TOYOBO)を 用 い て 、 10 μl の 反
応 系 で 逆 転 写 反 応 を 行 い 、 cDNA を 合 成 し た 。 逆 転 写 反 応 液 は H 2 O で 50
倍 希 釈 し た 。 合 成 し た cDNA 5 μl を 鋳 型 に 、 SYBR® PreMix ExTaq T M II (Tli
RNaseH Plus) (TAKARA BIO)を 用 い て 20 μl の 反 応 系 で Real-t ime PCR 分 析
を 行 っ た 。 Real-t ime PCR 分 析 で は 、 Light Cycler® 96 (Roche Diagnost ics)
を使用した。以下が使用したプライマー配列になる。
FsPGRL1, 5’-GCTATACCATTCATATTATGGTTATC-3’/5’-CAAAGAATGAA
GTATTCTCTGTTCC-3’
FsPGR5A, 5’-TGCATCATCACTACCTGCAAC-3’/5’-TTCCCGACTCGAACCC
GGGC-3’.
FsPGR5B, 5’-TTTTGATGGCAATATCATCAGTTA-3’/5’-TTCTCGACTCGAGC
CACGTT-3’.
FsPGR5C, 5’-GGCATCTTTGCTCCATTAGTC-3’/5’-CCCTATGGATTTACAAA
ACTCGT-3’.
FsActin7, 5’-CCGTATGAGCAAAGAAATCACCG-3’/5’- GTGCTGAGAGATG
CAAGGATTG-3’.
3-2-8. 葉 タ ン パ ク 質 の 可 溶 性 画 分 お よ び 膜 画 分 の 調 製
第 2 章 の 2-2-3 の 方 法 に 従 っ て 、 行 っ た 。
3-2-9. 葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 の 分 離
第 2 章 の 2-2-5 の 方 法 に 従 っ て 、 行 っ た 。
3-2-10. SDS-PAGE お よ び ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ ト
第 2 章 の 2-2-6 の 方 法 に 従 っ て 、 行 っ た 。
3-2-11. チ ラ コ イ ド 膜 の 単 離
以 下 の 作 業 は 全 て 、氷 上 も し く は 4 °C で 行 っ た 。各 植 物 の 成 熟 葉 を 50 ml
37
の buffer I (0.33 M sorbitol, 20 mM Tricine/NaOH (pH 7.5), 5 mM EGTA, 5 mM
EDTA, 10 mM NaHCO3, 0.1 % (w/v) BSA, 330 mg/L ascorbate Na)中 で 破 砕 し 、
ミ ラ ク ロ ス で 濾 過 後 、 5 min, 3000×g で 遠 心 し た 。 次 に 、 ペ レ ッ ト を 3 ml
の buffer II (0.33 M sorbitol, 20 mM Hepes/NaOH (pH 7.6), 5 mM MgCl 2 , 2.5
mM EDTA)に 懸 濁 し 、5 min, 3000×g で 遠 心 し た 。最 後 に 、ペ レ ッ ト を 200
μl の buffer II に 再 懸 濁 し 、 サ ン プ ル と し た 。
3-2-12. in vitro Fd-dependent PQ reduction 測 定
3-2-11 の 方 法 で 単 離 し た 単 離 チ ラ コ イ ド 膜 (10 μg chlorophyll/mL)を 測 定
用 低 張 液 (50 mM HEPES/NaOH (pH 7.6), 7 mM MgCl 2 , 1 mM MnCl 2 , 2 mM
EDTA, 30 mM KCl, 0.25 mM KH 2 PO 4 )に 入 れ 、 電 子 供 与 体 と し て 0.25 mM
NADPH を 加 え て 、 続 け て 0.05 mM フ ェ レ ド キ シ ン (spinach 由 来 , sigma
aldrich)を 加 え た 。プ ラ ス ト キ ノ ン の 還 元 に 伴 う ク ロ ロ フ ィ ル 蛍 光 の 上 昇 は 、
MINI-PAM portable chlorophyll fluorometer (Heinz-Walz)を 用 い て 、 測 定 光
(0.5 μmol photons m -2 s -1 )照 射 下 で 測 定 し た 。NADPH と フ ェ レ ド キ シ ン 添 加
後 の ク ロ ロ フ ィ ル 蛍 光 の 上 昇 値 は 、測 定 光 照 射 に よ る 最 小 ク ロ ロ フ ィ ル 蛍
光 値 と 飽 和 光 (800 ms, 3000 μmol photons m -2 s -1 )照 射 に よ る 最 大 ク ロ ロ フ ィ
ル蛍光値で補正した。
3-2-13. ク ロ ロ フ ィ ル 蛍 光 測 定
第 2 章 の 2-2-8 の 方 法 に 従 っ て 行 っ た 。
3-2-14. 光 合 成 活 性 、 電 子 伝 達 速 度 (electron transport rate, ETR)、 非 光 化
学 的 消 光 (non-photochemical quenching, NPQ)の 同 時 測 定
光 合 成 活 性 測 定 ( ガ ス 交 換 測 定 ) は 、 LI-6400 (Li-Cor Inc., Linco ln, NE,
USA)を 使 用 し て 、 各 植 物 体 の 生 葉 を 用 い て 行 っ た 。 ETR と NPQ は 、 光 合
成 活 性 測 定 と 同 時 に LI-6400-40(LiCor Inc.,)を 用 い て 、ク ロ ロ フ ィ ル 蛍 光 測
定 を 行 い 、そ の パ ラ メ ー タ か ら 算 出 し た 。植 物 を 光 合 成 活 性 測 定 の 直 前 に
5 分 間 暗 所 に 置 い た 後 、 飽 和 光 (800 ms, 3000 μmol photons m -2 s -1 )を 照 射 す
る こ と で 最 大 ク ロ ロ フ ィ ル 蛍 光 (Fm)を 測 定 し た 。光 合 成 反 応 中 の 最 大 ク ロ
ロ フ ィ ル 蛍 光 (Fm’)は 、 光 合 成 誘 導 光 (50-1000 μmol photons m -2 s -1 )の 存 在 下
で 、植 物 に 飽 和 光 を 照 射 し て 測 定 し た 。光 合 成 定 常 状 態 中 の ク ロ ロ フ ィ ル
蛍 光 (Fs)は 、 光 合 成 誘 導 光 の 照 射 下 で 測 定 し た 。 こ れ ら の ク ロ ロ フ ィ ル 蛍
光 パ ラ メ ー タ か ら 、ETR と NPQ は 以 下 の 式 で 算 出 し た 。ETR = light intensit y
×(Fm’-Fs)/Fm’. NPQ = (Fm-Fm’)/Fm’. 測 定 条 件 は 、 21 % O 2 , 温 度 25 °C,
湿 度 50 %に 設 定 し た 。
38
3-2-15. 光 化 学 系 I 反 応 中 心 P700 酸 化 レ ベ ル の 測 定
酸 化 型 P700 は 810 nm の 波 長 の 光 を 吸 収 す る 。P700 の 酸 化 レ ベ ル は 、810
nm の 吸 光 度 変 化 を 、 PAM 101 fluorometer (Heinz-Walz) 付 属 の
emitter-detector unit ED700DW(Heinz-Walz)を 用 い て 測 定 し た 。 P700 最 大 酸
化 レ ベ ル (Δ Amax)は 近 赤 外 光 (720 nm, 17.2 Wm -2 )の 照 射 下 で 、 xenon flash
light (50 ms, 1500 Wm -2 )を 照 射 し て 測 定 し た 。 光 合 成 定 常 状 態 中 の P700 酸
化 レ ベ ル (Δ A)は 光 合 成 誘 導 光 (200-1500 μmol photons m -2 s -1 )の 照 射 下 で 測
定した。
39
3-3. 結 果
3-3-1. F. bidentis PGRL1-RNAi お よ び PGR5-RNAi 形 質 転 換 株 に お け る
PGRL1, PGR5A, B,C 遺 伝 子 の mRNA 蓄 積 量
次 世 代 シ ー ケ ン サ ー に よ る 、 F. robusta (C 3 )と F. bidentis (C 4 )の 全 ゲ ノ ム
解 析 の 結 果 、Flaveria 属 植 物 で は 、PGR5 タ ン パ ク 質 は PGR5A, B そ し て C
の 3 つ の 遺 伝 子 に よ っ て コ ー ド さ れ て お り 、PGRL1 タ ン パ ク 質 は 単 一 の 遺
伝 子 に よ っ て コ ー ド さ れ て い る こ と が 明 ら か に な っ た (Munekage et al.,
unpublished data)。 Flaveria C 3 種 と C 4 種 の PGR5A, B, C タ ン パ ク 質 の 内 、
A. thaliana PGR5 タ ン パ ク 質 と の 相 同 性 が 最 も 高 い の は C 3 種 と C 4 種 で 共 に
PGR5A で 、 C 3 種 の PGR5A は 79 %の 、 C 4 種 の PGR5A は 76 %の 相 同 性 を
示 し た (Fig. 21)。 一 方 で 、 Flaveria C 3 種 と C 4 種 の PGRL1 タ ン パ ク 質 は 、
A. thaliana PGRL1A, B タ ン パ ク 質 に 対 し て 、 そ れ ぞ れ 67 %と 70 %の 相 同
性 を 示 し た (Fig. 22)。 ま た 、 Flaveria C 3 種 と C 4 種 の PGRL1 タ ン パ ク 質 は
A. thaliana PGRL1A, B タ ン パ ク 質 と 同 じ く 2 つ の 膜 貫 通 ド メ イ ン を 有 し て
おり、フェレドキシンからプラストキノンへ電子伝達を行うのに必要な 6
つ の シ ス テ イ ン 残 基 (Hert le et al., 2013)が 保 存 さ れ て い た 。
Flaveria C 4 種 で あ る F. bidentis の 形 質 転 換 は 、F. bidentis の 胚 軸 に PGRL1
遺 伝 子 、 PGR5A/B 遺 伝 子 を そ れ ぞ れ 標 的 と し た RNA interference (RNAi)ベ
ク タ ー (Fig. 23A)を 持 つ Agrobacterium tumefaciens AGL1 菌 株 を 感 染 さ せ る
こ と で 行 い 、PGRL1-RNAi は 22 系 統 、PGR5-RNAi は 15 系 統 の 形 質 転 換 体
を 得 た 。形 質 転 換 株 の 解 析 で は 、T0 世 代 の PGRL1-RNAi の 系 統 # 4 と # 22、
PGR5-RNAi の # 6 と # 7 の 次 世 代 の 種 子 を カ ナ マ イ シ ン 添 加 培 地 に 播 種 し 、
カ ナ マ イ シ ン 耐 性 を 示 し た T1 世 代 の PGRL1-RNAi (PGRL1i) # 4 お よ び # 22
の 形 質 転 換 株 そ し て PGR5-RNAi (PGR5i) # 6 お よ び # 7 の 形 質 転 換 株 を 用 い
た 。PGRL1i 形 質 転 換 株 と PGR5i 形 質 転 換 株 に お い て 標 的 遺 伝 子 の mRNA
蓄 積 量 が RNAi に よ っ て 減 少 し て い る の か を 確 認 す る た め 、 各 遺 伝 子 を 特
異 的 に 認 識 す る プ ラ イ マ ー を 作 成 し 、 Real-t ime PCR 分 析 を 行 っ た (Fig.
23B)。
PGRL1i 株 # 22 お よ び # 4 に お い て 、 PGRL1 遺 伝 子 の mRNA 蓄 積 量 は 、
wild t ype(WT)に お け る 蓄 積 量 の 、そ れ ぞ れ 10 %と 4 %に 減 少 し て い た 。一
方 で 、 PGR5A, B, C 遺 伝 子 の mRNA 蓄 積 量 は 、 個 体 間 で や や ば ら つ き は あ
る も の の 、 WT と PGRL1i 形 質 転 換 株 間 で 顕 著 な 差 は 見 ら れ な か っ た 。
PGR5i 株 # 6 お よ び # 7 に お け る PGR5A 遺 伝 子 の mRNA 蓄 積 量 は 、共 に
WT の 蓄 積 量 の 5 %に 、PGR5B 遺 伝 子 の mRNA 量 は 15 %に 減 少 し て い た 。
40
ま た 、今 回 作 成 し た PGR5-RNAi コ ン ス ト ラ ク ト は PGR5A と B 遺 伝 子 で 保
存 さ れ て い る 配 列 を 用 い て 作 製 し て い る が 、 PGR5C 遺 伝 子 の mRNA 蓄 積
量 に つ い て も 、 WT の 蓄 積 量 の 3 %に 減 少 し て い た 。 ま た 、 PGRL1 遺 伝 子
の mRNA 蓄 積 量 は 、個 体 間 で ば ら つ き は あ る も の の 、WT と PGR5i 形 質 転
換 株 間 で 顕 著 な 差 は 見 ら れ な か っ た 。こ れ ら の こ と か ら 、PGRL1i と PGR5i
形 質 転 換 株 で は 、そ れ ぞ れ 標 的 と し た PGRL1 ま た は PGR5A, B, C mRNA に
対 し て RNAi が 起 こ っ て い る こ と が 確 認 さ れ た 。
3-3-2. PGRL1i お よ び PGR5i 形 質 転 換 株 に お け る PGRL1 と PGR5 タ ン パ
ク質の蓄積量
PGRL1i と PGR5i 形 質 転 換 株 に お い て PGRL1 と PGR5 タ ン パ ク 質 が 減 少
し て い る か ど う か を 調 べ る た め に 、 WT と 各 形 質 転 換 株 の 成 熟 葉 か ら 全 膜
タ ン パ ク 質 を 抽 出 し 、 ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ ト 分 析 を 行 っ た (Fig. 24)。 各 サ ン
プル間で膜タンパク質量が揃っていることを評価するためにシトクロム
b 6 f 複 合 体 サ ブ ユ ニ ッ ト の Rieske タ ン パ ク 質 の ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ ト 分 析 を
行 っ た と こ ろ 、 Rieske タ ン パ ク 質 量 は 、 WT と 各 形 質 転 換 株 間 で 差 異 が 見
ら れ な か っ た 。PGRL1i 株 # 22 お よ び # 4 で は 、PGRL1 タ ン パ ク 質 の バ ン ド
は 検 出 さ れ な か っ た 。ま た 、PGRL1i 形 質 転 換 株 で は 、PGRL1 と 同 様 に PGR5
タ ン パ ク 質 の バ ン ド も 検 出 さ れ な か っ た 。 一 方 で 、 PGR5i 株 # 6 お よ び # 7
で は 、 PGR5 タ ン パ ク 質 の バ ン ド は 検 出 さ れ な か っ た 。 ま た 、 PGR5i 形 質
転 換 株 で は PGRL1 タ ン パ ク 質 量 が 、 WT に お け る タ ン パ ク 質 量 の 1/16 以
下 に 減 少 し て い た 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 PGRL1i お よ び PGR5i 形 質 転 換 株
で は 、PGR5 と PGRL1 タ ン パ ク 質 が 共 に 著 し く 減 少 し て い る こ と が 明 ら か
になった。
3-3-3. PGRL1i お よ び PGR5i 形 質 転 換 株 に お け る PGR5/PGRL1 依 存 の 循 環
型電子伝達活性の測定
PGRL1i と PGR5i 形 質 転 換 株 に お い て PGR5/PGRL1 依 存 の 循 環 型 電 子 伝
達 活 性 が 抑 制 さ れ て い る か ど う か を 調 べ る た め に 、単 離 チ ラ コ イ ド 膜 を 用
い た Fd-dependent PQ reduction 測 定 に よ り 、 光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 活
性 を 評 価 し た 。Figure 25 に Fd-dependent PQ reduct ion 測 定 の 原 理 を 示 し た 。
この系では、低張液に懸濁した単離チラコイド膜に、電子供与体として
NADPH と フ ェ レ ド キ シ ン を 加 え 、 暗 条 件 下 で プ ラ ス ト キ ノ ン の 還 元 を 調
べ て い る 。NADPH は FNR に よ り フ ェ レ ド キ シ ン に 還 元 力 を 与 え る 。循 環
型電子伝達系によってフェレドキシンからプラストキノンへ電子が伝達
さ れ る と プ ラ ス ト キ ノ ン が 還 元 さ れ 、ク ロ ロ フ ィ ル 蛍 光 レ ベ ル が 上 昇 す る 。
41
こ れ を 弱 い 測 定 光 (0.5 μmo l photons m -2 s -1 )照 射 下 で 測 定 し た (Mills et al.,
1979)。 こ れ ま で に 、 A. thaliana の pgr5 変 異 体 で は そ の ク ロ ロ フ ィ ル 蛍 光
レ ベ ル が 減 少 す る こ と が 報 告 さ れ て い る (Munekage et al., 2002; Munekage
et al., 2004)。
WT, PGRL1i そ し て PGR5i 形 質 転 換 株 の 成 熟 葉 か ら 、 そ れ ぞ れ チ ラ コ イ
ド 膜 を 単 離 し 、 Fd-dependent PQ reductio n 測 定 を 行 っ た (Fig. 26 and 27)。
WT で は 、 単 離 チ ラ コ イ ド 膜 に NADPH を 添 加 し た 時 の ク ロ ロ フ ィ ル 蛍 光
レ ベ ル の 上 昇 は ほ と ん ど 見 ら れ な か っ た 。 し か し な が ら 、 NADPH に 続 い
てフェレドキシンを単離チラコイド膜に添加するとクロロフィル蛍光レ
ベ ル は 急 激 に 上 昇 し た 。こ れ は 、循 環 型 電 子 伝 達 系 の PGR5/PGRL1 複 合 体
と NDH 複 合 体 の 電 子 供 与 体 が NADPH で な く フ ェ レ ド キ シ ン で あ る こ と
に 起 因 す る と 考 え ら れ て い る (Munekage et al., 2004; Yamamoto et al., 2011;
Hertle et al., 2013)。 一 方 で 、 PGRL1i 株 # 22 と PGR5i 株 # 7 で は 、 NADPH
とそれに続くフェレドキシン添加後のクロロフィル蛍光レベルの上昇速
度 は WT よ り も 遅 く 、ま た ク ロ ロ フ ィ ル 蛍 光 の 最 大 レ ベ ル も WT と 比 較 し
て 低 か っ た (Fig. 26)。 こ の こ と か ら 、 こ れ ら の 形 質 転 換 株 で は 循 環 型 電 子
伝達活性が低下していると判断した。
次 に 、PGRL1i 株 # 22 と PGR5i 株 # 7 で 見 ら れ た 循 環 型 電 子 伝 達 活 性 の 低
下 が PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 抑 制 に よ る も の で あ る か ど う か を 調 べ る た
め に 、 PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 循 環 型 電 子 伝 達 活 性 を 特 異 的 に 阻 害 す る
ant imycin A を 単 離 チ ラ コ イ ド 膜 に 添 加 し て 、 Fd-dependent PQ reduction 測
定 を 行 っ た (Fig. 26)。 WT で は ant imycin A 存 在 下 で 、 フ ェ レ ド キ シ ン 添 加
後 の ク ロ ロ フ ィ ル 蛍 光 の 上 昇 速 度 が 遅 く な り 、ま た 最 大 ク ロ ロ フ ィ ル 蛍 光
レ ベ ル も 低 下 し た 。そ の ク ロ ロ フ ィ ル 蛍 光 の 上 昇 パ タ ー ン は 、形 質 転 換 株
の パ タ ー ン と 酷 似 し て い た 。こ れ に 対 し て 、 PGRL1i 株 # 22 と PGR5i 株 # 7
で は 、ant imycin A 存 在 下 の ク ロ ロ フ ィ ル 蛍 光 の 上 昇 速 度 お よ び 最 大 ク ロ ロ
フ ィ ル 蛍 光 レ ベ ル は 、ant imycin A 非 存 在 下 と 比 較 し て ほ と ん ど 変 化 し て い
な か っ た 。 PGRL1i 株 # 22 と PGR5i 株 # 7 で 見 ら れ た 結 果 は 、 PGRL1i 株 # 4
と PGR5i 株 # 6 に お い て も 見 ら れ た (Fig. 27)。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 PGRL1i
お よ び PGR5i 形 質 転 換 株 で は 、PGR5/PGRL1 依 存 の 電 子 伝 達 活 性 が 完 全 に
抑制されていることが明らかとなった。
3-3-4. PGRL1i お よ び PGR5i 形 質 転 換 株 に お け る NDH 複 合 体 量 と NDH 活
性
光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 系 で は 、PGR5/PGRL1 依 存 経 路 に 加 え て 、NDH
依 存 経 路 が 機 能 し て い る 。そ こ で 、PGRL1i と PGR5i 形 質 転 換 株 に お い て 、
42
そ の NDH 依 存 経 路 が 影 響 を 受 け て い る か ど う か に つ い て 解 析 し た 。ま ず 、
WT と PGRL1i 株 # 22 の 成 熟 葉 か ら 抽 出 し た 全 膜 タ ン パ ク 質 を 用 い て 、
NDH-H の ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ ト 分 析 を 行 っ た (Fig. 28)。 そ の 結 果 、 NDH-H
タ ン パ ク 質 の 蓄 積 量 は WT と PGRL1i 株 # 22 間 で 変 化 し て い な か っ た 。 次
に 、 WT と PGRL1i 株 # 22 の 成 熟 葉 を 用 い て 光 合 成 誘 導 光 照 射 後 の ク ロ ロ
フ ィ ル 蛍 光 の 一 過 的 上 昇 を 指 標 に 、NDH 活 性 を 測 定 し た (Fig. 29)。NDH-H
タ ン パ ク 質 量 の 結 果 と 同 様 に 、 NDH 活 性 に つ い て も WT と PGRL1i 株 # 22
間 で 変 化 し て い な か っ た 。 こ の こ と か ら 、 PGRL1i お よ び PGR5i 形 質 転 換
株 に お い て 、NDH 依 存 経 路 の 電 子 伝 達 活 性 は 影 響 を 受 け て い な い と 考 え ら
れた。
3-3-5. PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 抑 制 が 光 合 成 活 性 に 与 え る 影 響
PGRL1i と PGR5i 形 質 転 換 株 に お い て 、 PGR5/PGRL1 依 存 の 循 環 型 電 子
伝 達 活 性 の 抑 制 が C 4 型 光 合 成 の CO 2 固 定 効 率 に 影 響 を 与 え る の か に つ い
て 調 査 す る た め に 、 光 強 度 依 存 的 (Fig. 30)ま た 葉 内 CO 2 依 存 的 (Fig. 32 and
33)な 光 合 成 活 性 測 定 を 行 っ た 。
初 め に 、WT と PGRL1i 株 # 22 を 用 い て 、大 気 条 件 下 (400 μL L -1 CO 2 、21 %
O 2 )で 光 強 度 依 存 的 な 光 合 成 活 性 を 測 定 し た (Fig. 30)。WT の 光 合 成 活 性 と 、
光 化 学 系 II に お け る 電 子 伝 達 速 度 を 表 す relat ive ETR は 光 強 度 に 依 存 し て
上 昇 し 、 1000 μmo l photons m -2 s -1 の 光 強 度 条 件 に お い て も 飽 和 し な か っ た
(Fig. 30A and B)。 ま た 、 光 強 度 が 1000 μmol photons m -2 s -1 の 時 、 光 合 成 活
性 値 は 23 μmo l CO 2 m -2 s -1 で あ っ た 。こ れ に 対 し て 、PGRL1i 株 # 22 の 光 合
成 活 性 と relat ive ETR は 500 μmol photons m -2 s -1 の 光 強 度 条 件 で 飽 和 し 、そ
れ 以 上 光 強 度 を 大 き く し て も 光 合 成 活 性 と relat ive ETR は 上 昇 し な か っ た 。
光 強 度 が 1000 μmo l photons m -2 s -1 の 時 、 PGRL1i 株 # 22 の 光 合 成 活 性 値 は
14 μmol CO 2 m -2 s -1 で 、 WT と 比 較 し て 37 %低 下 し て い た 。 ⊿ pH 形 成 に よ
っ て 誘 導 さ れ る 熱 散 逸 の レ ベ ル を 表 す NPQ の 測 定 は 、 F. bidentis (C 4 )の
WT と PGRL1i 株 # 22 に 加 え て 、Flaveria C 3 種 の F. pringlei に つ い て も 行 っ
た 。 F. pringlei (C 3 )に お い て 、 NPQ は 光 強 度 に 依 存 し て ほ ぼ 直 線 的 に 上 昇
し た (Fig. 30C)。 一 方 で 、 F. bidentis (C 4 )の WT に お い て 、 NPQ は 光 強 度 が
100 μmol photons m -2 s -1 の 弱 光 下 で 一 度 強 く 誘 導 さ れ 、 500 μmol photons
m -2 s -1 以 上 の 光 強 度 で 光 強 度 に 依 存 し て 値 が 上 昇 す る と い う 2 相 性 を 示 し
た 。こ れ に 対 し て 、PGRL1i 株 # 22 に お け る NPQ は 、光 強 度 が 50 か ら 400
μmol photons m -2 s -1 ま で は WT と 比 較 し て 差 異 は 見 ら れ な か っ た が 、 500
μmol photons m -2 s -1 以 上 の 光 強 度 で 、WT と 比 較 し て 低 下 し て い た 。こ れ ら
の 結 果 か ら 、 PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 電 子 伝 達 活 性 の 抑 制 は 、 500 μmo l
43
photons m -2 s -1 以 上 の 光 強 度 条 件 に お い て 、光 合 成 活 性 に 影 響 を 及 ぼ す こ と
が 明 ら か と な っ た 。ま た 、光 合 成 測 定 の 前 後 で 、光 化 学 系 II の 最 大 活 性 の
指 標 と な る 最 大 量 子 収 率 を 表 す Fv/Fm の 値 は WT と PGRL1i 株 # 22 間 で 差
異 は な か っ た こ と か ら (Fig. 30D)、 1000 μmol photons m -2 s -1 の 強 光 を 照 射 し
て も 光 化 学 系 II は 光 障 害 を 起 こ し て い な い と 判 断 し た 。
光 強 度 依 存 的 な 光 合 成 活 性 測 定 の 結 果 か ら 、 WT と 形 質 転 換 体 間 の 光 合
成 活 性 の 差 異 は 1000 μmo l photons m -2 s -1 の 光 強 度 で 最 も 大 き く 、 ま た 光 化
学 系 II の 光 障 害 も 引 き 起 こ さ れ て い な い こ と が 分 か っ た の で 、そ の 光 強 度
条 件 に お け る WT と 各 形 質 転 換 株 を 用 い た 葉 内 CO 2 濃 度 依 存 的 な 光 合 成 活
性 測 定 を 21 % O 2 濃 度 で 行 っ た (Fig. 32 and 33)。 CO 2 固 定 効 率 に 対 す る C 4
回 路 の 効 果 は 、CO 2 濃 度 依 存 的 な 光 合 成 活 性 に 大 き く 反 映 さ れ る 。Figure 31
に は 、Flaveria C 4 種 の F. bidentis と C 3 種 の F. pringlei に お け る CO 2 濃 度 依
存 的 な 光 合 成 活 性 の 典 型 的 な パ タ ー ン を 示 し た 。 C3 植 物 の 光 合 成 活 性 は 、
葉 内 CO 2 濃 度 が 50 μL L -1 の 低 CO 2 濃 度 条 件 で は 、 光 合 成 に よ る CO 2 固 定
速 度 よ り も 光 呼 吸 に よ る CO 2 排 出 速 度 の 方 が 速 い た め に マ イ ナ ス の 値 を
示 す 。 ま た 、 光 合 成 活 性 は 葉 内 CO 2 濃 度 が 1000 μL L -1 の 高 CO 2 濃 度 条 件
下 で 最 大 値 を 示 し 飽 和 す る 。 一 方 で 、 C 4 植 物 で は C4 回 路 が 機 能 す る こ と
に よ り 光 合 成 活 性 は 、 葉 内 CO 2 濃 度 が 50 μL L -1 の 低 CO 2 濃 度 条 件 で す で
に 5 μmol CO 2 m -2 s -1 あ り 、葉 内 CO 2 濃 度 が 350 μL L -1 の 時 に は 最 大 光 合 成
活性を示し飽和する。
F. bidentis (C 4 ) の WT と 各 形 質 転 換 株 の 葉 内 CO 2 濃 度 依 存 的 な 光 合 成 活
性 を 比 較 し た 時 、 両 者 の 光 合 成 活 性 の 差 異 は 葉 内 CO 2 濃 度 が 350 μL L -1 以
上 に お け る 最 大 光 合 成 活 性 値 に 現 れ た (Fig. 32A and 33A)。 低 葉 内 CO 2 濃
度 (Ci < 100 μL L -1 )下 に お い て PGRL1i 株 と WT 間 で 光 合 成 活 性 値 に 大 き な
差 異 は 見 ら れ な か っ た が 、 葉 内 CO 2 濃 度 が 350 μL L -1 の 時 、 WT の 光 合 成
活 性 値 が 23 μmo l CO 2 m -2 s -1 で あ っ た の に 対 し て 、PGRL1i 株 # 4 お よ び # 22
の 光 合 成 活 性 値 は そ れ ぞ れ 17 μmol CO 2 m -2 s -1 と 14 μmol CO 2 m -2 s -1 で あ っ
た (Fig. 32A)。こ の WT と PGRL1i 株 間 の 光 合 成 活 性 値 の 差 は 葉 内 CO 2 濃 度
の 上 昇 に 伴 っ て 大 き く な り 、高 葉 内 CO 2 濃 度 (Ci, 800-1300 μL L -1 )に お い て
PGRL1i 株 # 4 と # 22 の 光 合 成 活 性 値 は WT と 比 較 し て 、 そ れ ぞ れ 30 %と
40 %低 下 し て い た 。 PGRL1i 株 の relat ive ETR は 、 WT と PGRL1i 株 で 光 合
成 活 性 の 差 異 が 見 ら れ な か っ た 低 葉 内 CO 2 濃 度 (Ci < 100 μL L -1 )を 含 め た
全 て の 葉 内 CO 2 濃 度 条 件 で WT と 比 較 し て 低 下 し て い た (Fig. 32B)。WT の
NPQ は 、葉 内 CO 2 濃 度 が 100 μL L -1 以 下 の 条 件 で 大 き く 誘 導 さ れ 、そ の 値
は 1.6 で あ っ た (Fig. 32C)。こ れ に 対 し て 、PGRL1i 株 の NPQ 値 は 、葉 内 CO 2
濃 度 が 100 μL L -1 以 下 に お い て 0.75 で 、 WT の 50 %に 低 下 し て い た 。
44
PGRL1i 株 と 同 様 に 、低 葉 内 CO 2 濃 度 (Ci < 100 μL L -1 )下 で は 、WT と PGR5i
株 間 で 光 合 成 活 性 値 の 差 異 は 見 ら れ な か っ た が 、葉 内 CO 2 濃 度 が 350 μL L -1
の 時 、WT の 光 合 成 活 性 値 が 22 μmol CO 2 m -2 s -1 で あ っ た の に 対 し て 、PGR5i
株 # 6 と # 7 の 光 合 成 活 性 値 は そ れ ぞ れ 17 μmol CO 2 m -2 s -1 と 16 μmol CO 2
m -2 s -1 で あ っ た (Fig. 33A)。こ の WT と PGR5i 株 間 の 光 合 成 活 性 値 の 差 は 葉
内 CO 2 濃 度 の 上 昇 に 伴 っ て 大 き く な り 、 高 葉 内 CO 2 濃 度 (Ci, 800-1300 μL
L -1 )に お い て PGR5i 株 # 6 と # 7 の 光 合 成 活 性 値 は WT と 比 較 し て 、 そ れ ぞ
れ 24 %と 26 %低 下 し て い た 。relat ive ETR は 、WT と 比 較 し て PGR5i 株 に
お い て 、全 て の 葉 内 CO 2 濃 度 条 件 下 で 低 下 し て い た (Fig. 33B)。ま た 、葉 内
CO 2 濃 度 が 100 μL L -1 以 下 に お け る WT の NPQ 値 は 0.61 で あったの に対
し て 、PGR5i 株 の NPQ 値 は 0.4 で 、WT と 比 較 し て 25 %低 下 し て い た (Fig.
33C)。 以 上 の 結 果 か ら 、 PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 電 子 伝 達 活 性 の 抑 制 は 、
350 μL L -1 以 上 の 高 CO 2 濃 度 条 件 下 に お い て 、 最 大 光 合 成 活 性 に 影 響 を 及
ぼ す こ と が 明 ら か に な っ た 。 全 て の 形 質 転 換 株 で 光 合 成 測 定 前 後 の Fv/Fm
の 値 は WT と 比 較 し て 差 異 は な か っ た こ と か ら (Fig. 32D and 33D)、光 合 成
活 性 測 定 中 に 光 化 学 系 II の 光 障 害 は 起 き て い な い と 判 断 し た 。 ま た 、 WT
と PGRL1i 株 # 22 か ら 抽 出 し た 全 可 溶 性 タ ン パ ク 質 を 用 い て SDS-PAGE を
行 っ た と こ ろ 、WT と PGRL1i 株 # 22 間 で PEPC、PPDK、NADP-ME、RuBisCO
と い っ た 主 要 な 代 謝 酵 素 タ ン パ ク 質 量 に 変 化 は な か っ た (Fig. 34)。 こ の こ
と か ら 、各 形 質 転 換 株 で 見 ら れ た 光 合 成 活 性 の 低 下 は 、少 な く と も そ れ ら
代謝酵素タンパク質量が減少し たことに 由来するもの ではない と言える。
3-3-6. PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 抑 制 が 強 光 下 で の 光 化 学 系 I の 光 保 護 に 与
える影響
PGRL1i と PGR5i 形 質 転 換 株 に お い て 、 PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 電 子 伝
達活性の抑制が強光下で光化学系 I の光障害を引き起こすかどうかを調査
す る た め 、 光 強 度 依 存 的 な 光 化 学 系 I 反 応 中 心 P700 の 酸 化 レ ベ ル の 測 定
(Fig. 35)と 光 化 学 系 I の 強 光 に 対 す る 感 受 性 の 試 験 (Fig. 36)を 行 っ た 。
まず、植物の生葉に、白色光を照射して光強度依存的な光化学系 I 反応
中 心 P700 の 酸 化 レ ベ ル (Δ A/Δ Amax)を 測 定 し た 。 P700 の 酸 化 レ ベ ル は 、
光強度依存的に上昇する。これは、光強度が強くなると光化学系 I の光化
学 反 応 が 上 昇 し 、 よ り 多 く の 電 子 が P700 か ら 光 化 学 系 I の 下 流 の 光 合 成
電 子 伝 達 鎖 へ 流 れ る た め で あ る 。F. bidentis の WT に お い て 、P700 は 光 強
度 依 存 的 に 酸 化 レ ベ ル が 上 昇 し た (Fig. 35A)。こ れ に 対 し て 、PGRL1i 株 # 22
の P700 酸 化 レ ベ ル は 、光 強 度 が 250 μmol photons m -2 s -1 以 下 で は WT と 比
較 し て 差 異 は 見 ら れ な か っ た が 、 500 と 1000 μmol photons m -2 s -1 の 光 強 度
45
下 で は WT と 比 較 し て 低 下 し て い た (Fig. 35A)。 た だ し 、 PGRL1i 株 # 22 の
P700 は WT に 比 べ て 酸 化 レ ベ ル は 低 い も の の 、光 強 度 依 存 的 に 酸 化 レ ベ ル
が 上 昇 し て い た 。 PGRL1i 株 # 22 と 同 様 に 、 PGR5i 株 # 6 お よ び # 7 の P700
酸 化 レ ベ ル は 、 500 と 1000 μmol photons m -2 s -1 の 光 強 度 下 で WT と 比 較 し
て 低 下 し て い た が 、 P700 酸 化 レ ベ ル は 光 強 度 依 存 的 に 上 昇 し て い た (Fig.
35B)。
次 に 、 形 質 転 換 株 で 見 ら れ た 1000 μmo l photons m -2 s -1 の 光 強 度 下 で の
P700 酸 化 レ ベ ル の 低 下 が 、強 光 に よ る 光 化 学 系 I の 損 傷 (光 化 学 系 I の 光 障
害 )に 起 因 し て い る の か ど う か を 調 べ る た め 、 WT、 PGR5i 株 # 6 お よ び # 7
の 植 物 体 に 1000 μmo l photons m -2 s -1 の 光 強 度 の 白 色 光 を 30 分 間 照 射 し 、
照 射 前 後 の P700 最 大 酸 化 レ ベ ル (Δ Amax)の 差 か ら 光 化 学 系 I が 光 障 害 を
受 け た 度 合 い を 評 価 し た (Fig. 36)。F. bidentis の WT に お い て 、光 障 害 を 受
け た 光 化 学 系 I は 全 体 の 6 %程 度 で あ っ た (Fig. 36)。 一 方 で 、 PGR5i 株 # 6
お よ び # 7 に お い て 、光 障 害 を 受 け た 光 化 学 系 I は WT と 比 較 し て 増 加 し て
い た が 、 そ れ は 全 体 の 15 %未 満 だ っ た 。 以 上 の 結 果 か ら 、 PGRL1i お よ び
PGR5i 株 に お い て 、 PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 電 子 伝 達 活 性 が 抑 制 さ れ て も
大部分の光化学系 I は光障害から回避されていることが明らかとなった。
46
3-4. 考 察
3-4-1. PGR5/PGRL1 依 存 の 循 環 型 電 子 伝 達 経 路 の 抑 制 は C 4 型 光 合 成 の
CO 2 固 定 効 率 に 影 響 す る
本 研 究 の 結 果 か ら 、 PGR5/PGRL1 依 存 の 光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 活 性
の 抑 制 は 最 大 光 合 成 活 性 の 低 下 を 引 き 起 こ す こ と が 明 ら か と な っ た 。低 葉
内 CO 2 濃 度 (Ci < 100 μL L -1 )下 で の 光 合 成 活 性 値 を 決 定 し て い る の は PEPC
の カ ル ボ キ シ ラ ー ゼ 活 性 で あ る (von Caemmerer. 1997; von Caemmerer.
2000; von Caemmerer. 2013)。 そ の 葉 内 CO 2 濃 度 下 に お い て 、 PGRL1i お よ
び PGR5i 株 の 光 合 成 活 性 値 は 共 に WT と 比 較 し て 差 異 は 見 ら れ な か っ た
(Fig. 32A and 33A)。 従 っ て 、 PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 抑 制 は PEPC 活 性 に
は 影 響 せ ず 、 ま た ATP 量 が 光 合 成 活 性 を 律 速 す る 葉 内 CO 2 濃 度 条 件 で は
な い た め 、光 合 成 活 性 の 低 下 は 起 き な い と 考 え ら れ る 。一 方 で 、光 合 成 活
性 が 飽 和 す る 350 μL L -1 以 上 の 特 に 高 葉 内 CO 2 濃 度 (Ci, 800-1300 μL L -1 )下
で 光 合 成 活 性 値 を 決 定 し て い る 要 因 は 、 PEPC の 基 質 で あ る PEP の 再 生 速
度 と RuBisCO の 基 質 で あ る RuBP の 再 生 速 度 だ と 考 え ら れ て い る (Berr y
and Farquhar, 1978; von Cammerer and Furbank, 1999; von Caemmerer. 2013)。
PEP の 再 生 は 、葉 肉 細 胞 葉 緑 体 内 で PPDK に よ っ て 触 媒 さ れ る ピ ル ビ ン 酸
の リ ン 酸 化 反 応 に よ っ て 行 わ れ る が 、そ の 反 応 に は 補 因 子 と し て ATP が 必
要 で あ る 。 ま た 、 維 管 束 鞘 細 胞 葉 緑 体 内 で RuBP の 再 生 を 行 う
phosphoribulo kinase の 触 媒 反 応 に も ATP が 必 要 で あ る 。そ の た め 、高 葉 内
CO 2 濃 度 下 で は 光 合 成 電 子 伝 達 反 応 に よ る ATP 生 産 量 が 光 合 成 活 性 値 を 決
定 し て い る 。 PGRL1i お よ び PGR5i 株 に お け る 光 合 成 活 性 値 の 低 下 は 、 光
合 成 活 性 が 飽 和 す る 350 μL L -1 以 降 の 葉 内 CO 2 濃 度 下 で 見 ら れ 、高 葉 内 CO 2
濃 度 (Ci, 800-1300 μL L -1 )に お い て PGRL1i と PGR5i 株 の 光 合 成 活 性 値 は
WT と 比 較 し て 、 そ れ ぞ れ 30 %と 25 %低 下 し て い た (Fig. 32A and 33A)。
従 っ て 、 PGRL1i お よ び PGR5i 株 で 見 ら れ た 高 葉 内 CO 2 濃 度 下 に お け る光
合 成 活 性 値 の 低 下 は 、PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 抑 制 に よ る ATP 生 産 量 の 減
少 が 、 PEPC の 基 質 で あ る PEP の 再 生 速 度 と RuBisCO の 基 質 で あ る RuBP
の 再 生 速 度 の 低 下 を 引 き 起 こ し た こ と が 原 因 で あ る と 考 え ら れ る 。こ の 考
え は 、光 強 度 依 存 的 な 光 合 成 活 性 測 定 の 結 果 か ら も 導 き だ さ れ る 。500 μmol
photons m -2 s -1 以 上 の 光 強 度 下 で 光 合 成 活 性 値 を 決 定 し て い る 要 因 は 、PEPC
の カ ル ボ キ シ ラ ー ゼ 活 性 と PEP の 再 生 速 度 に 依 存 し た RuBisCO へ の CO 2
の 供 給 効 率 で あ る こ と が 示 さ れ て い る (von Caemmerer, 2000)。 PGRL1i 株 #
22 で は 、 光 合 成 活 性 は WT と 比 較 し て 弱 い 光 強 度 (500 μmol photons m -2 s -1 )
47
で 飽 和 し 、 1000 μmo l photons m -2 s -1 の 光 強 度 下 で 光 合 成 活 性 値 が WT と 比
較 し て 37 %低 下 し て い た (Fig. 30A)。 従 っ て 、 光 強 度 依 存 的 な 光 合 成 活 性
の 場 合 、 PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 抑 制 に よ る ATP 生 産 量 の 減 少 が PEP の
再 生 速 度 を 低 下 さ せ 、副 次 的 に 基 質 と し て PEP を 必 要 と す る PEPC の カ ル
ボ キ シ ラ ー ゼ 活 性 が 低 下 す る こ と で 、RuBisCO へ の CO 2 供 給 量 が 律 速 す る
た め に 光 合 成 活 性 が 低 下 し た と 考 え ら れ る 。以 上 の 光 強 度 依 存 的 そ し て 葉
内 CO 2 濃 度 依 存 的 な 光 合 成 活 性 測 定 の 結 果 か ら 、 C 4 型 光 合 成 に お い て
PGR5/PGRL1 依 存 の 光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 系 は 、 PEPC の 基 質 で あ る
PEP や RuBisCO の 基 質 で あ る RuBP の 再 生 速 度 が 光 合 成 活 性 を 律 速 す る よ
う な 炭 酸 固 定 経 路 の 代 謝 速 度 が 増 し 代 謝 反 応 に 必 要 な ATP/NADPH 率 が 上
昇 す る 条 件 で 、高 い 光 合 成 活 性 を 維 持 す る の に 貢 献 し て い る こ と が 強 く 示
唆された。
一 方 で 、300 μmo l photons m -2 s -1 以 下 の 弱 い 光 強 度 下 で は 、WT と PGRL1i
株 # 22 間 で 光 合 成 活 性 値 の 差 異 は 見 ら れ な か っ た (Fig. 30A)。弱 い 光 強 度 下
での光合成活性値を決定している要因は炭酸固定経路の代謝速度ではな
く 光 合 成 電 子 伝 達 速 度 で あ る た め 、 炭 素 代 謝 の 駆 動 に 必 要 な ATP/NADPH
率 は 比 較 的 低 く な っ て い る 。 従 っ て 、 弱 い 光 強 度 下 で PGRL1i 株 # 22 の 光
合 成 活 性 が 低 下 し て い な か っ た の は 、 直 鎖 型 電 子 伝 達 系 に よ る NADPH と
ATP 生 産 に 加 え て 、PGRL1i 株 # 22 で は NDH 活 性 は 正 常 で あ っ た こ と か ら
(Fig. 29)、NDH 依 存 経 路 に よ る ATP 生 産 に よ っ て 、炭 酸 固 定 経 路 の 駆 動 で
必 要 な ATP/NADPH 率 を 賄 え て い る こ と が 要 因 だ と 考 え ら れ る 。 300 μmol
photons m -2 s -1 以 下 の 弱 い 光 強 度 下 で は relat ive ETR の 値 は WT と PGRL1i
株 # 22 間 で 差 異 が な か っ た こ と も (Fig. 30B) 、 炭 酸 固 定 経 路 に 必 要 な
ATP/NADPH 率 が 保 た れ て い る こ と を 示 唆 し て い る 。
こ れ ま で に A. thaliana の pgr5 変 異 体 を 用 い た 解 析 か ら 、 C 3 型 光 合 成に
お い て PGR5/PGRL1 依 存 の 光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 経 路 の 欠 損 は 、RuBP
の 再 生 速 度 が 光 合 成 活 性 を 律 速 す る 高 い 光 強 度 条 件 で 光 合 成 活 性 を 15 %
程 度 低 下 さ せ る こ と が 報 告 さ れ て い る (Munekage et al., 2008)。 し か し な が
ら 、pgr5 変 異 体 で は 強 光 に 曝 さ れ る と 60 %以 上 の 光 化 学 系 I が 光 障 害 を 起
こ す こ と も 報 告 さ れ て い る (Munekage et al., 2002; Munekage et al., 2008)。
光化学系 I は直鎖型電子伝達鎖で機能しているため、光化学系 I の光障害
は 直 鎖 型 電 子 伝 達 系 の 電 子 伝 達 活 性 を 抑 制 し ATP と NADPH 生 産 量 の 低 下
を 引 き 起 こ す 。 そ の た め 、 pgr5 変 異 体 で 見 ら れ た 光 合 成 活 性 の 低 下 は 、
PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 欠 損 に よ る ATP 生 産 量 の 低 下 と 光 化 学 系 I の 光 障
害 の 双 方 に 起 因 す る と 考 え ら れ る (Munekage et al., 2008)。 こ れ に 対 し て 、
PGRL1i お よ び PGR5i 株 で は 、1000 μmol photons m -2 s -1 の 光 強 度 下 で 光 合 成
48
活 性 が 37 %低 下 し て い た が (Fig. 30A)、 光 化 学 系 I の 光 障 害 は ほ と ん ど
(15 %未 満 )起 き て い な か っ た (Fig. 36)。 加 え て 、 光 化 学 系 II に つ い て も 光
合 成 活 性 測 定 の 前 後 で 光 障 害 は 起 き て い な か っ た (Fig. 30D, 32D, 33D)。 従
っ て 、 光 合 成 活 性 測 定 で PGRL1i と PGR5i 株 に 見 ら れ た ETR の 低 下 (Fig.
30B, 32B, 33B)は 、光 化 学 系 II や 光 化 学 系 I の 光 障 害 に よ る も の で は な く 、
PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 電 子 伝 達 活 性 が 抑 制 さ れ た こ と で NADPH/ATP 率
が 上 昇 し 、直 鎖 型 電 子 伝 達 系 の 最 終 電 子 受 容 体 で あ る NADP + が 欠 乏 す る こ
と で 、直 鎖 型 電 子 伝 達 系 の 電 子 伝 達 速 度 が 低 下 し た こ と に 起 因 す る と 考 え
ら え る 。 こ れ ら の こ と か ら 、 PGRL1i お よ び PGR5i 株 で 見 ら れ た 光 合 成 活
性 の 低 下 は 、PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 電 子 伝 達 活 性 の 抑 制 に よ る ATP 生 産
量 の 減 少 に よ っ て 引 き 起 こ さ れ て お り 、PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 炭 素 同 化
経 路 に 必 要 な ATP 生 産 へ の 貢 献 度 は C 3 植 物 と 比 較 し て C 4 植 物 で 高 く な っ
ていることが明らかになった。
3-4-2. PGR5/PGRL1 依 存 の 循 環 型 電 子 伝 達 経 路 が 抑 制 さ れ て も 光 化 学 系 I
は光障害を受けない
こ れ ま で に 、A. thaliana の pgr5, pgrl1 変 異 体 や O. sativa の PGR5 発 現 抑
制 体 の 解 析 か ら 、C 3 植 物 で は PGR5/PGRL1 依 存 経 路 が 欠 損 す る と 強 光 下 で
光 化 学 系 I が 光 障 害 を 起 こ す こ と が 明 ら か に な っ て い る (Munekage et al.,
2002; DalCorso et al., 2008; Munekage et al., 2008; Nishikawa et al., 2012)。 こ
の 原 因 は 、 PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 欠 損 に よ り 、 ス ト ロ マ の ATP/NADPH
率 が 低 下 し NADPH の 量 が 増 え る こ と で NADP + が 欠 乏 す る た め 、電 子 伝 達
鎖 の 中 で 行 き 場 を 失 っ た 電 子 が P700 へ 逆 流 す る charge reco mbinat ion と 呼
ば れ る 現 象 が 起 き る た め だ と 考 え ら れ て い る (Munekage et al., 2002;
Shikanai. 2007; DalCorso et al., 2008)。 こ の charge reco mbinat io n が 起 こ り
P700 に 過 剰 な 電 子 が 蓄 積 し た 状 態 で 、 さ ら に 光 化 学 系 II か ら 光 化 学 系 I
へ電子が伝達され、かつ光化学系 I に光が照射され続けると光障害が起こ
る 。 今 回 、 C 4 植 物 で あ る F. bidentis の PGRL1i お よ び PGR5i 株 で は 、
PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 電 子 伝 達 活 性 が 抑 制 さ れ て い た に も 関 わ ら ず 、強
光 下 で 光 化 学 系 I は ほ と ん ど 光 障 害 を 受 け て い な か っ た (Fig. 35 and 36)。
ま た 、 光 化 学 系 I の P700 酸 化 レ ベ ル の 測 定 に 使 用 し た 810 nm の 波 長 の 光
は 集 光 ク ロ ロ フ ィ ル に よ っ て 吸 収 さ れ な い た め (Klughammer and Schreiber,
1994)、向 軸 側 か ら 背 軸 側 ま で の 全 て の 細 胞 の 吸 光 度 変 化 を 捉 え る こ と が で
き る 。 従 っ て 、 P700 最 大 酸 化 レ ベ ル (Δ Amax)は 葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞
両 方 の P700 の 状 態 を 反 映 し て い る と 言 え る た め 、 光 化 学 系 I の 光 障 害 は
葉肉細胞と維管束鞘細胞両方で起きていないと考えられる。光化学系 I の
49
光障害が起きていない要因は 2 つ考えられる。1 つ目は、維管束鞘細胞に
お け る NDH 依 存 経 路 の 寄 与 で あ る 。 Flaveria C 4 種 で は 、 NDH 複 合 体 量 は
Flaveria C 3 種 と 比 較 し て C 4 種 で 10 倍 以 上 増 加 し て お り (Fig.10B)、 ま た 維
管 束 鞘 細 胞 に 多 く 存 在 し て い た (Fig. 13)。 こ の こ と か ら 、 C 3 植 物 と 比 較 し
て C 4 植 物 で は 、NDH 依 存 経 路 の ⊿ pH 形 成 へ の 貢 献 度 は 高 く な っ て い る と
考 え ら れ る 。ま た 、PGRL1i お よ び PGR5i 株 で は NDH 活 性 が WT と 比 較 し
て 変 化 し て お ら ず NDH 依 存 経 路 は 正 常 に 機 能 し て い た (Fig. 29)。そ の た め 、
PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 電 子 伝 達 活 性 の 抑 制 に よ っ て ⊿ pH の 低 下 が 起 き
て も NDH 依 存 経 路 が 機 能 す る こ と で あ る 程 度 ⊿ pH を 形 成 さ せ
ATP/NADPH 率 を 整 え る こ と で P700 へ の 電 子 の 逆 流 を 防 い で い る と 考 え
ら れ る 。2 つ 目 は 、葉 肉 細 胞 に お け る C 4 型 光 合 成 の 炭 素 代 謝 経 路 の 特 殊 性
が 挙 げ ら れ る 。C 4 植 物 の 葉 肉 細 胞 で は 、RuBisCO の オ キ シ ゲ ナ ー ゼ 反 応 を
初 発 反 応 と す る 光 呼 吸 経 路 が 駆 動 し な い た め 、 ATP/NADPH 率 は 常 に 1.5
に 保 た れ て お り 、 比 較 的 ATP を 必 要 と し な い 状 態 に あ る と 考 え ら れ る 。
ATP 要 求 量 が 低 い 状 態 で は NADPH/ATP 率 が 高 く な り ATP 合 成 の 駆 動 力
と な る チ ラ コ イ ド 膜 内 外 の ⊿ pH は 高 く な る 。 そ の た め 、 C 4 植 物 の 葉 肉 細
胞 葉 緑 体 で は 常 に ⊿ pH が 高 く 保 た れ て い る と 考 え ら れ る 。 実 際 に 、 主 に
葉肉細胞からのシグナルを捉えているとされるクロロフィル蛍光測定に
お い て 、C 4 植 物 で あ る F. bidentis の WT と PGRL1i #22 で は 、⊿ pH 形 成 に
よ る ル ー メ ン の 酸 性 化 で 誘 導 さ れ る NPQ が 100 μmol photons m -2 s -1 の 弱 い
光 強 度 で 上 昇 し て お り 、 そ れ は C 3 植 物 の F. pringlei で は 見 ら れ な か っ た
(Fig. 30C)。 ま た 、 ル ー メ ン の 酸 性 化 は シ ト ク ロ ム b 6 f 複 合 体 に お け る プ ラ
ス ト キ ノ ー ル の 再 酸 化 率 を 低 下 さ せ 、光 化 学 系 II か ら 光 化 学 系 I へ の 電 子
伝 達 を 抑 制 す る こ と が 報 告 さ れ て い る (Rott et al., 2011)。従 っ て 、葉 肉 細 胞
葉 緑 体 で は 常 に ⊿ pH と ル ー メ ン の 酸 性 化 に よ る NPQ の 誘 導 や シ ト ク ロ ム
b6f 複 合 体 に お け る 電 子 伝 達 の 抑 制 が 起 こ り や す い 状 態 に あ り 、
PGR5/PGRL1 依 存 経 路 が 抑 制 さ れ て も 光 化 学 系 II か ら 光 化 学 系 I へ の 電 子
伝達を抑制することで光化学系 I を保護していると予想される。
50
第4章
総括
本 研 究 で は 、 炭 酸 固 定 経 路 で 消 費 さ れ る ATP 量 が 上 昇 し て い る C 4 型 光
合 成 に お い て 、光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 系 が そ の ATP 生 産 に 関 与 し て い
る の か に つ い て 調 査 し た 。 Flaveria 属 植 物 を 用 い て 、 C 3 植 物 か ら C 4 植 物
への進化の過程における光化学系 I 循環型電子伝達活性の挙動を調べたと
こ ろ 、 循 環 型 電 子 伝 達 活 性 は Flaveria C 3 種 と 比 較 し て C 4 種 で 著 し く上 昇
し て お り 、 そ の 上 昇 値 は C 3 -C 4 中 間 種 と C 4 -like 種 に お け る C 4 回 路 の 構 築
度合いと一致することが見いだされた。この結果は、光化学系 I 循環型電
子 伝 達 系 が C 4 回 路 を 駆 動 す る た め の ATP 生 産 に 関 与 す る こ と を 強 く 示 唆
している。
ま た 、 NDH 依 存 経 路 に 関 与 す る NDH 複 合 体 量 は 、 C 3 -C 4 中 間 種 か ら C 4
種 に か け て C4 回 路 の 構 築 度 合 い に 従 っ て 維 管 束 鞘 細 胞 で 増 加 し て お り 、
NDH 複 合 体 は 葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 間 お よ び C 3 種 と C 4 種 間 の ATP 要
求 量 の 変 化 に 対 し て 発 現 量 が 応 答 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。こ れ に
対 し て 、PGR5/PGRL1 依 存 経 路 に 関 わ る PGR5 と PGRL1 タ ン パ ク 質 の 発 現
量 は 葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 間 の 細 胞 選 択 性 は な い も の の C4 回 路 が 完 成
し て い る C 4 -like F. palmeri と C 4 種 に お い て 増 加 し て お り 、PGR5 と PGRL1
タ ン パ ク 質 は C 3 種 と C 4 種 間 の ATP 要 求 量 の 変 化 に 対 し て 発 現 量 が 応 答 し
て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。こ の こ と か ら 、NDH 依 存 経 路 に 加 え て 、こ
れ ま で C 4 型 光 合 成 に お い て 炭 酸 固 定 経 路 を 駆 動 す る た め の ATP 生 産 へ の
関 与 が 明 ら か で な か っ た PGR5/PGRL1 依 存 経 路 も 、 そ の ATP 生 産 に 関 与
し て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。 そ こ で 、 Flaveria C 4 種 で あ る F. bidentis の
PGRL1-RNAi お よ び PGR5-RNAi 形 質 転 換 体 を 用 い て 光 合 成 活 性 測 定 を 行
い 、 炭 酸 固 定 経 路 を 駆 動 す る た め の ATP 生 産 へ の PGR5/PGRL1 依 存 経 路
の 関 与 と そ の 貢 献 度 を 調 査 し た 。そ の 結 果 、PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 抑 制
は 、光 合 成 電 子 伝 達 反 応 に よ る ATP 生 産 量 が 光 合 成 活 性 を 律 速 す る 条 件 で 、
光 合 成 活 性 の 低 下 を 引 き 起 こ し た 。従 っ て 、PGR5/PGRL1 依 存 の 光 化 学 系
I 循環型電子伝達系は、炭酸固定経路の代謝速度が増し代謝反応に必要な
ATP/NADPH 率 が 上 昇 す る 条 件 で 、 高 い 光 合 成 活 性 を 維 持 す る の に 貢 献 し
て い る こ と が 強 く 示 唆 さ れ た 。 C 3 植 物 の A. thaliana の pgr5 変 異 体 で は、
PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 欠 損 と 光 化 学 系 I の 光 障 害 の 2 つ の 要 因 に よ っ て
最 大 光 合 成 活 性 が 15 %低 下 す る こ と が 報 告 さ れ て い る 。 こ れ に 対 し て F.
51
bidentis の PGRL1-RNAi お よ び PGR5-RNAi 形 質 転 換 体 で は 、光 化 学 系 I の
光 障 害 は 見 受 け ら れ ず 、PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 抑 制 の み に よ っ て 最 大 光
合 成 活 性 が 37 %低 下 し て い た 。 こ の こ と か ら 、 C 3 植 物 と 比 較 し て C 4 植 物
で は 、PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の 炭 酸 固 定 経 路 を 駆 動 す る た め の ATP 生 産 へ
の貢献度は高くなっていることが明らかになった。
そ の 一 方 で 、 PGRL1-RNAi お よ び PGR5-RNAi 形 質 転 換 体 で は 、
PGR5/PGRL1 依 存 経 路 は 葉 肉 細 胞 と 維 管 束 鞘 細 胞 の 両 方 で 抑 制 さ れ て い る
た め 、 両 細 胞 間 に お け る PGR5/PGRL1 依 存 経 路 の ATP 生 産 へ の 貢 献 度 を
評 価 す る こ と は 難 し い 。 ま た 、 C 4 植 物 に お け る NDH 依 存 経 路 の 生 理 機 能
も 未 だ 明 ら か と な っ て い な い 。こ れ ら に つ い て は 、維 管 束 鞘 細 胞 で 特 異 的
に 発 現 す る GLDPA プ ロ モ ー タ (Engelmann et al., 2008; Wiludda et al., 2012;
Schulze et al., 2013)の 支 配 下 に 置 い た RNAi コ ン ス ト ラ ク ト を 導 入 し た 形
質 転 換 体 や NDH-RNAi 形 質 転 換 体 を 用 い て 、今 後 解 析 し て ゆ く 必 要 が あ る 。
本 研 究 に よ っ て 、 C 4 型 光 合 成 で は 、 NDH 複 合 体 お よ び PGR5/PGRL1 複
合体の発現増加に伴って光化学系 I 循環型電子伝達系がその電子伝達活性
を 上 昇 さ せ ATP 生 産 量 を 増 や す こ と で 、 C 4 回 路 の 駆 動 で 上 昇 し た 炭 酸 固
定 経 路 に 必 要 な ATP 要 求 量 を 賄 っ て い る こ と が 強 く 示 唆 さ れ た 。 そ し て 、
光 化 学 系 I 循 環 型 電 子 伝 達 系 の う ち 少 な く と も PGR5/PGRL1 依 存 の 循 環 型
電 子 伝 達 系 は 、炭 酸 固 定 経 路 で の ATP 消 費 量 と 光 合 成 電 子 伝 達 反 応 に よ る
ATP 生 産 量 の バ ラ ン ス を 調 整 し 、C 4 型 光 合 成 の 高 い CO 2 固 定 効 率 を 発 揮 す
るための重要な機構であることが明らかになった。
52
謝辞
私 は 、こ れ ま で 、ほ ん と う に 多 く の 方 々 に 助 け て い た だ き 、そ し て 支 え
られながら本研究に取り組んできました。
私 が 光 合 成 研 究 の 世 界 に 足 を 踏 み 入 れ る 機 会 を 与 え て く だ さ り 、研 究 の
厳しさとそれ以上の楽しさを教えてくださった横田明穂教授に深く感謝
を 申 し 上 げ ま す 。横 田 研 で 研 究 す る た め に 、奈 良 先 端 大 に 入 学 し て 本 当 に
よかったです。そして、私の至らない部分をカバーし、5 年間根気よく指
導 し て く だ さ っ た 宗 景 ゆ り 助 教 に 厚 く 御 礼 申 し 上 げ ま す 。宗 景 先 生 の 下 に
就 け た か ら 私 は 博 士 後 期 課 程 に 進 学 し て 、研 究 を 今 日 ま で 続 け る こ と が で
き ま し た 。現 在 神 戸 大 学 、な ら び に 鳥 取 大 学 で ご 活 躍 な さ っ て い る 蘆 田 弘
樹 准 教 授 と 明 石 欣 也 准 教 授 に は 多 く の 有 益 な 御 助 言 を い た だ き ま し た 。心
より感謝いたします。
PEPC 抗 体 を 古 本 強 教 授 (龍 谷 大 学 )に 、 PGRL1 抗 体 を 久 堀 徹 教 授 (東 京 工
業 大 学 )に 、 PsbO 抗 体 を 故 渡 辺 昭 氏 に 、 そ し て NDH-H 抗 体 を Do minique
Rumeau 博 士 (Université de la Méditerranée, France)よ り 、 ご 親 切 に 分 与 し て
頂 き ま し た 。奈 良 先 端 科 学 技 術 大 学 院 大 学 、バ イ オ サ イ エ ン ス 研 究 科 、細
胞間情報学講座の岩野恵助教には透過型電子顕微鏡の試料作製を行って
頂 き ま し た 。Peter Westhoff 博 士 と Udo Gowik 博 士 (Heinrich Heine Universit y,
Germany)に は 、 F. bidentis と F. robusta の ゲ ノ ム 解 析 を 行 っ て 頂 き ま し た 。
以上の方々に心より感謝いたします。
分 化 ・ 形 態 形 成 学 講 座 に 在 籍 し て い た 多 く の 先 輩 、同 輩 、後 輩 の 皆 様 に
本 当 に お 世 話 に な り ま し た 。特 に 、同 輩 の 河 野 卓 成 さ ん と は 研 究 分 野 が 少
し 離 れ て は い ま し た が 、そ れ で も 5 年 間 同 じ 研 究 室 に 同 期 が い た こ と は 本
当に心強かったです。ありがと う。また 、小川太郎博 士は大先 輩ですが、
時 に は 兄 の よ う に 、ま た 時 に は 友 の よ う に 接 し て 頂 き ま し た 。磯 の 上 で 釣
り 糸 を 垂 ら し な が ら 行 う 研 究 の デ ィ ス カ ッ シ ョ ン は 最 高 で し た 。本 当 に あ
り が と う ご ざ い ま し た 。研 究 員 の 方 々 、技 術 補 佐 の 方 々 、そ し て 秘 書 の 原
田 麻 記 さ ん に も 大 変 お 世 話 に な り ま し た 。横 田 研 最 後 の 年 は 、学 生 の 数 が
少 な い こ と も あ り 、皆 さ ん の 負 担 は 大 き か っ た か と 思 い ま す 。で す が 、学
生 は 皆 様 の お か げ で 毎 日 心 地 よ く 研 究 生 活 を 送 る こ と が で き ま し た 。心 よ
り感謝いたします。
最 後 に 、こ の 5 年 間 自 分 の 好 き な こ と し て 親 不 孝 な こ と も し て き た 私 を
温かく見守ってくれた家族と、私たちの研究にその身を捧げてくれた
Flaveria 属 植 物 た ち に 、 心 の 底 か ら 感 謝 し ま す 。
53
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co mplex
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in
C4
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An
intricate
interplay
posttranscript ional processes. Plant Cell 24, 137-151.
64
of
transcript io nal
and
Yamamoto, H., Peng, L., Fukao, Y., and Shikanai, T. (2011). An Src ho mo logy 3
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論文目録
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66
図表
67
Table I. F. bidentis の 形 質 転 換 で 用 い た 各 培 地 の 組 成 表
Compone nt
MSO
CRM
SPM1
SPM2
SPM3
Salts
MS* 1
MS* 1
MS* 1
MS* 1
MS* 1
B5 Vitamin (1000×) (ml/L)
1
1
1
1
1
Myo-inositol (mg/L)
100
100
100
100
100
Sucrose (g/L)
30
30
30
30
30
MES buffer (mg/L)
-
500
-
-
-
Kinetin (mg/L)
-
4.2
0.5
0.2
-
Adenine (mg/L)
-
20
5
-
-
IAA (mg/L)
-
1
0.05
0.05
-
GA3 (mg/L)
-
-
0.05
0.05
-
PP333 (mg/L)
-
-
0.5
0.2
-
pH
5.8
5.8
6.0
6.0
6.0
Gelling age nt (g/L)
8
8
2.8
2.8
2.8
*1 Murashige and Skoog (MS)培 地 用 混 合 塩 類 (和 光 純 薬 、 大 阪 )を 使 用 し た
*2 B5 vitamin (1000×) は 次 の 組 成 で 作 成 し た 。 1 g/L Nicotinic Acid, 1 g/L
Pyridoxine HCL, 10 g/L Thiamine HCL
68
Mitochondrion
Chloroplast
2-PG
Ru5P
ADP
CO2 RuBP O2
Calvin-Benson回路
TP
RuBisCO
光呼吸経路
CO2
NADP+
Sucrose
3-PGA
ADP
Peroxisome
Figure 1. C3型光合成の炭酸固定経路の模式図
Calvin-Benson回路は、葉緑体ストロマで行われている。一方で、光呼吸経路は、葉緑
体、ペルオキシソーム、ミトコンドリアの3つのオルガネラに渡っており、ミトコン
ドリアにおいてCO2が放出される。Calvin-Benson回路の代謝の流れは黒色の矢印で、
光呼吸経路の代謝の流れは灰色の矢印で示した。枠線の緑は葉緑体、黄はペルオキシ
ソーム、茶はミトコンドリアを示す。
Ru5P, ribulose 5-phosphate; RuBP, ribulose 1, 5-bisphosphate; 2-PG, 2-phosphoglycolate; 3PGA, 3-phosphoglycerate; TP, triose phosphate
69
Bundle sheath cell
Mesophyll cell
Pyr
Pyr
PEP
ADP
PEPC
Calvin-Benson
回路
RuBisCO
OAA
Cytosol
Mal
NADP-ME
NADP+
NADP-MDH
OAA
CO2
NADPH
Chloroplast
PEP
NADP+
Chloroplast
AMP
CA
HCO3-
PPDK
CO2
Sugars
ADP
NADP+
Mal
Cytosol
NADP-ME型C4植物
Figure 2. C4型光合成のC4回路の模式図
C4 植物は、C4 酸の脱炭酸酵素の種類によって、NADP-ME型、NAD-ME型、そして
PEPCK型の3つのサブタイプに分類される 。本研究で用いているFlaveria C4 種は
NADP-ME型C4植物に分類されているため、今回はNADP-ME型C4植物のC4回路の代謝
経路のみを示す。代謝酵素は水色の文字で、代謝産物は黒色の文字で示した。
CA, carbonic anhydrase; NADP-MDH, NADP-malate dehydrogenase; NADP-ME, NADPmalic enzyme; PEPC, phosphoenolpyruvate carboxylase; PPDK, pyruvate orthophosphate
dikinase; RuBisCO, ribulose 1, 5-bisphosphate carboxylase/oxygenase.
Mal, malate; OAA, oxaloacetate; PEP, phosphoenolpyruvate; Pyr, pyruvate.
70
H+
Cyt.
PSII
b6f
PQ
PSI
complex
PC
H 2O
O2H+ H +
H+
Stroma
Fd
H+
ATP
synthase
H+
H+ H+
H+
Thylakoid
membrane
Lumen
Figure 3. 直鎖型電子伝達系の模式図
電子の流れは黒色の矢印で、プロトンの流れは橙色の矢印で示した。
Cyt. b6f complex, cytochrome b6f complex; Fd, ferredoxin; PC, plastocyanine; PSI,
photosystem I; PSII, photosystem II; PQ, plastoquinone
71
H+
Fd
NDH
complex
PGRL1
PSI
Cyt.
PQ
PSI
b6f
complex
PC
H+
H+
H+
Stroma
Fd
PGR5
ATP
synthase
H+
H+
H+
H+
Thylakoid
membrane
Lumen
H+
Figure 4. 光化学系I循環型電子伝達系の模式図
電子の流れは黒色の矢印で、プロトンの流れは橙色の矢印で示した。
Cyt. b6f complex, cytochrome b6f complex; Fd, ferredoxin; NDH complex, chloroplast NADH
dehydrogenase-like complex; PC, plastocyanine; PGR5, PROTON GRAGIENT
REGULATION 5; PGRL1, PGR5-Like 1; PSI, photosystem I; PQ, plastoquinone
72
Photosynthetic types
C3 plant
Flaveria species
F. pringlei
F. robusta
C3-C4 intermediate plant
F. anomala
C4-like plant
F. ramosissima
F. brownii
F. palmeri
C4 plant
F. trinervia
F. bidentis
1) Increase in number of chloroplasts and expansion of cell size in BS cells
2) Establishment of glycine shuttle pathway
3) Increase in expression level of PEPC
4) Increase in expression levels of C4 metabolic enzymes
5) Localization of PEPC to M cells
6) Localization of RuBisCO to BS cells
Figure 5. C4型光合成進化における炭酸固定経路の構築過程のモデル
本論文で示したモデルは、Sage (2004, 2012)とGowik and Westhoff (2010) を参考にして
作成した。
BS cells, bundle sheath cells; M cells, mesophyll cells
73
Bundle sheath cell
Mesophyll cell
O2
CO2
O2
Chloroplast
Calvin-Benson
回路
RuBisCO
2-PG
CO2
Serine
GDC
Glycine
GDC
Glycine
CO2
Chloroplast
RuBisCO
Mitochondrion
Mitochondrion
GDC Glycine
Serine
Serine
GLA
Peroxisome
CO2
Serine
GLA
Peroxisome
Serine
GDC
Glycine
CO2
Glycine
Cytosol
Cytosol
Figure 6. グリシンシャトル経路の模式図
代謝酵素は水色の文字で、代謝産物は黒色の文字で示した。
GDC, glycine decarboxylase; GLA, glyceric acid; 2-PG, 2-phosphoglycolate
74
P700+ levels
1.0
0.8
0.6
F. pringlei (C3)
F. trinervia (C4)
F. anomala (C3-C4)
F. ramosissima (C3-C4)
0.4
0.2
0
1.0
P700+ levels
0.8
0.6
F. robusta (C3)
F. bidentis (C4)
F. brownii (C4-like)
F. palmeri (C4-like)
0.4
0.2
0
0
5
10
15
time, s
20
25
30
Figure 7. Flaveria C3, C3-C4, C4-like, C4 種を用いた光化学系I循環型電子伝達
活性の In vivo 測定
各Flaveria属植物の生葉へ近赤外光(720 nm, 17.2 Wm-2)を照射した時の光化学系I反応中心
P700の酸化速度を測定した。P700の酸化率は、近赤外光存在下でxenon flash飽和光(50 ms,
1500 Wm-2)を照射した時のP700最大酸化レベルで補正した。データは3個体の平均値を示す。
75
(A)
PGR5/PGRL1 and NDH pathway
DCMU
Fd
FNR
QB
QA
PSII
PQ
Cyt.
b6f
PSI
(P700)
PC
DBMIB
O2 -
MV
H2O2
(B)
1.0
P700+ levels
0.8
0.6
F. bidentis (C4)
dH2O
MV
DCMU
DBMIB
0.4
0.2
0
0
5
10
15
time, s
20
25
30
Figure 8. 光合成電子伝達阻害剤が与えるF. bidentis (C4)のP700酸化速度への影響
(A)各光合成電子伝達阻害剤の作用点。methyl viologen(MV)は、P700からO2-へ電子を伝達
するため、P700からフェレドキシンへの電子伝達を阻害する。dichlorophenyl dimethylurea
(DCMU) は 、 光 化 学 系 II 内 で キ ノ ン 化 合 物 の QA か ら QB へ の 電 子 伝 達 を 阻 害 す る 。
dibromomethylisopropyl benzoquinone (DBMIB)は、プラストキノンからシトクロムb6f 複合体
への電子伝達を阻害する。(B)各光合成電子伝達阻害剤をF. bidentis (C4)のリーフディスクへ
減圧浸透させた時の、P700酸化速度。dH2O(コントロール), 50 μmol MV, 50 μmol DCMU,
100 μmol DBMIBは、近赤外光照射前にF. bidentis (C4)のリーフディスクへ減圧浸透させた。
データは、3回の平均値を示す。
Cyt. b6f, cytochrome b6f complex; Fd, ferredoxin; FNR, ferredoxin-NADP+ reductase; PC,
plastocyanine; PSI, photosystem I; PSII, photosystem II; PQ, plastoquinone.
76
P700+ levels
1.0
(A)
(B)
0.8
0.6
0.4
P700+ levels
0.2
F. pringlei (C3)
0
1.0 (C)
0.8
(D)
0.6
0.4
0.2
0
1.0
P700+ levels
F. robusta (C3)
F. ramosissima (C3-C4)
F. anomala (C3-C4)
(E)
(F)
0.8
0.6
0.4
0.2
(f)
F. palmeri (C4-like)
F. brownii (C4-like)
0
0
5
10 15 20
time, s
25 30
0
5
10 15 20 25
time, s
30
Figure 9. MVが与えるFlaveria C3, C3-C4, C4-like種のP700酸化速度への影響
dH2O (コントロール), 50 μmol MVは、近赤外光照射前に(A) C3 F. pringlei, (B) C3 F.
robusta, (C) C3-C4 F. anomala, (D) C3-C4 F. ramosissima, (E) C4-like F. brownii, (F) C4-like
F. palmeri のリーフディスクへ減圧浸透させた。データは、3回の平均値を示す。
77
(A)
1 1
1
1 1
Relative contents
(B)
1 1 1/2 1/4 1/8
PGR5
PGRL1
NDH-H
PsaC
Relative contents
Rieske
1/8 1/4 1/2 1 1 1 1
1
1
1.8
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
1.4
1.2
PGR5
PGRL1
NDH-H
NdhH
Rieske
PsaC
1
0.8
0.6
0.4
0.2
1
0
PsbO
Figure 10. Flaveria C3, C3-C4, C4-like, C4種におけるPGR5, PGRL1, NDH-H, PsaC,
Rieske, PsbOタンパク質の相対的発現量
(A)各Flaveria属植物から抽出した全膜タンパク質を用いたウエスタンブロット分析。
PGR5, NDH-HそしてRieskeは20 μg、PsaCは10 μg、PGRL1とPsbOは5 μgのタンパク質を
泳動し、それらのタンパク質量を1としてF. bidentis (C4)では1/8量までの希釈系列を作成
した。
(B) Flaveria C3, C3-C4, C4-like, C4種におけるPGR5, PGRL1, NDH-H, PsaC, Rieskeタンパク
質の相対的発現量。イメージング解析ソフト(LAS-4000) を用いて、ウエスタンブロット
解析で検出されたバンド強度からタンパク質発現量を定量した。データは3回の平均値
とその標準偏差を示し、F. bidentis (C4)の値を1とした時の各種の相対値を示す。
78
(kDa)
116
88
PEPC
PPDK
62
NADP-ME
47
RbcL
(RuBisCO large subunit)
35
28
Figure 11. Flaveria C3, C3-C4, C4-like, C4種の可溶性タンパク質を用いた
SDS-PAGE
各Flaveria属植物から抽出した全可溶性タンパク質(20 μg)は、12.5 %アクリルアミド
ゲルを用いて電気泳動し、Coomassie brilliant blue R-250で染色した。
79
Chlorophyll fluorescence
(A)
SP
A
B
1 min
4 min
AL
OFF
ML AL
ON ON
(B)
1 min 30 s
AL OFF
30 s
FR ON ML OFF
FR ML
ON OFF
(C)
F. bidentis (C4)
F. brownii (C4-like)
F. anomala (C3-C4)
NDH activity (a. u.)
Chlorophyll fluorescence
0.12
F. palmeri (C4-like)
F. ramosissima (C3-C4)
0.1
0.08
0.06
0.04
0.02
0
F. pringlei (C3)
F. robusta (C3)
time
Figure 12. Flaveria C3, C3-C4, C4-like, C4種のNDH活性
(A)光合成誘導光照射下でのF. bidentis (C4)のクロロフィル蛍光曲線(左図)。植物を2 時
間暗所に置き、その後、生葉に光合成誘導光(AL; 53 μmol photons m-2 s-1)を4分間照射
した。MLはmeasuring light(測定光)を、SPはsaturating pulse light(飽和光)を、FRはfarred light(近赤外光)を意味する。AL消光後のクロロフィル蛍光の一過的上昇は、NDH
活性に由来する。右の図は、左の図のクロロフィル蛍光の一過的上昇の部分を拡大し
たものになる。右の図のAの矢印はクロロフィル蛍光の一過的上昇の最大値を、Bの
矢印は最小値を示している。
(B)各Flaveria属植物のAL消光後のクロロフィル蛍光の一過的上昇の拡大図。クロロ
フィル蛍光のレベルは、飽和光を照射した時の最大クロロフィル蛍光値で補正した。
(C)AL消光後のクロロフィル蛍光の一過的上昇の振り幅から算出したNDH活性値。
NDH活性値は次の式から算出した。 NDH 活性 = (A-B)/最大クロロフィル蛍光値.
データは3個体の平均値とその標準偏差を示している。
80
(A)
BSC-S
MC-S
TS TS
1/16 1/8 1/4 1/2 1 1 1/2 1/4 1/8 1/16 1
1
PEPC
RbcL
(B)
BSC-M
MC-M
TM TM
1 1/2 1/4 1/8 1
1/8 1/4 1/2 1
1
NDH-H
PGR5
PGRL1
Rieske
Figure 13. F. bidentis (C4)の葉肉細胞と維管束鞘細胞間での、PGR5, PGRL1,
NDH-Hタンパク質発現の細胞選択性
(A) F. bidnetis (C4) の葉肉細胞と維管束鞘細胞画分から抽出した可溶性タンパク質を用
いた、PEPC, RbcLのウエスタンブロット分析。PEPCとRbcLは、それぞれ葉肉細胞と
維管束鞘細胞のマーカーとして使用した。葉肉細胞画分から抽出した可溶性タンパク
質(MC-S)、維管束鞘細胞画分から抽出した可溶性タンパク質(BSC-S)そして全葉から
抽出した全可溶性タンパク質(TS)は、5 μg泳動した。5 μgのタンパク質量を1として、
1/16量までの希釈系列を作成した。
(B) F. bidnetis (C4) の葉肉細胞と維管束鞘細胞画分から抽出した膜タンパク質を用いた、
PGR5, PGRL1, NDH-H, Rieskeのウエスタンブロット分析。葉肉細胞画分から抽出した
膜タンパク質(MC-M)、維管束鞘細胞画分から抽出した膜タンパク質(BSC-M)そして全
葉から抽出した全膜タンパク質(TM)を使用した。PGR5、NDH-HそしてRieskeは20 μg、
PGRL1は5 μgのタンパク質を泳動した。それらのタンパク質量を1として、1/8量まで
の希釈系列を作成した。
81
(A)
F. pringlei (C3)
S
G
T
(kDa)
120-
90-
64-
48-
36-
F. bidentis (C4)
T
G
S
=α, β subunits
- LHCⅡ
28-
20-
9-
(B)
F. pringlei (C3)
T
G
S
F. bidentis (C4)
T
G
S
PGR5
LHCb1
AtpE
Figure 14. F. bidentis (C4)とF. pringlei (C3)の葉緑体チラコイド膜上における
PGR5タンパク質の分布
(A)全チラコイド膜画分(T)、グラナチラコイド画分(G)、ストロマチラコイド画分(S)
からそれぞれ抽出した膜タンパク質を用いたSDS-PAGE。各画分から抽出した膜タン
パク質の10 μgを泳動した。
(B)PGR5, LHCb1, AtpEのウエスタンブロット分析。PGR5は20 μg、LHCb1とAtpEは5
μgのタンパク質を泳動した。
82
F. bidentis (C4)
(A)
(B)
(C)
(D)
(E)
(F)
(G)
(H)
(I)
(J)
PEPC
RbcL
NDH-H
PGR5
Figure 15. F. bidentis (C4)におけるPEPC, RbcL( RuBisCO large subunit),
PGR5, NDH-HのIn situ 免疫染色
葉横断切片は、組織形態観察のためにトルイジンブルーO (A)で染色し、また、
各タンパク質の細胞局在性を確認するために感作前血清抗体(B)、抗PEPC抗体
(C and D)、抗RbcL抗体(E and F)、抗NDH-H抗体(G and H)、抗PGR5抗体(I and
J)でそれぞれ抗体反応を行った。
(C, E, G, I)の写真はFITCシグナルのみを示し、(D, F, H, J)の写真はFITCシグナ
ルと明視野像を統合したものである。 Barは 50 μmを示す。
83
F. brownii (C4-like)
F. palmeri (C4-like)
(A)
(B)
(C)
(D)
(E)
(F)
(G)
(H)
(I)
(J)
(K)
(L)
(M)
(N)
(O)
(P)
(Q)
(R)
(S)
(T)
PEPC
RbcL
NDH-H
PGR5
Figure 16. F. palmeri (C4-like)とF. brownii (C4-like)におけるPEPC, RbcL,
PGR5, NDH-HのIn situ 免疫染色
葉横断切片は、組織形態観察のためにトルイジンブルーO (A and C)で染色し、また、
各タンパク質の細胞局在性を確認するために感作前血清抗体(B and D)、抗PEPC抗
体(E to H)、抗RbcL抗体(I to L)、抗NDH-H抗体(M to P)、抗PGR5抗体(Q to T)でそれ
ぞれ抗体反応を行った。
(E, G, I, K, M, O, Q, S)の写真はFITCシグナルのみを示し、(F, H, J, L, N, P, R, T)の写
真はFITCシグナルと明視野像を統合したものである。Barsは50 μmを示す。
84
(A)
(B)
(C)
(D)
(E)
(F)
(G)
(H)
Figure 17. Flaveria C3, C3-C4, C4-like, C4種の維管束鞘細胞葉緑体の
チラコイド膜構造
チラコイド膜構造の観察は透過型電子顕微鏡を用いて行った。(A) C3 F.
pringlei, (B) C3 F. robusta, (C) C3-C4 F. anomala, (D) C3-C4 F. ramosissima, (E) C4like F. brownii, (F) C4-like F. palmeri, (G) C4 F. bidentis, (H) C4 F. trinervia. Barは
2.5 μmを示す。
85
Bundle sheath chloroplasts
Mesophyll chloroplasts
(A)
(B)
(C)
(D)
(E)
(F)
Figure 18. 維管束鞘細胞葉緑体と葉肉細胞葉緑体におけるチラコイド膜長の測定
維管束鞘細胞葉緑体(A, C, E)と葉肉細胞葉緑体(B, D, F)の透過型電子顕微鏡写真を用いて、
チラコイド膜の長さを測定した。測定には、画像解析ソフト(WinROOF)を用いた。(C)と
(D)のピンクの線はグラナチラコイドを、(E)と(F)のピンクの線はストロマチラコイドをな
ぞって、その長さを測定したものである。
86
(A)
Grana index (%)
100
M chloroplast
BS chloroplast
80
60
40
20
0
Relative distribution of thylakoid
membrane per granum in a
chloroplast of bundle sheath cells (%)
(B)
100
80
F. trinervia (C4)
F. bidentis (C4)
F. palmeri (C4-like)
60
40
20
0
≧10
7-9
5-6
3-4
The number of thylakoid membrane per granum
Figure 19. Flaveria C3, C3-C4, C4-like, C4種の葉肉細胞と維管束鞘細胞における
葉緑体グラナの発達度合い
(A) 各Flaveria属植物の葉肉細胞葉緑体(M chloroplast; gray bar)と維管束鞘細胞葉緑体(BS
chloroplast; white bar)におけるグラナ指数。グラナ指数(%)は、次の式から求めた。グラ
ナ指数(%) = グラナチラコイド膜の全長/全チラコイド膜の全長×100。データは15個の
葉緑体から求めた値の平均値とその標準偏差を示す。
(B) F. bidentis (C4), F. trinervia (C4), F. palmeri (C4-like) の維管束鞘細胞葉緑体におけるグラ
ナあたりのチラコイド膜層数。データは5個の葉緑体から求めた値の平均値とその標準
偏差を示す。
87
Photosynthetic types
C3 plant
Flaveria species
F. pringlei
F. robusta
C3-C4 intermediate plant
F. anomala
C4-like plant
F. ramosissima
F. brownii
F. palmeri
C4 plant
F. trinervia
F. bidentis
1) Increase in number of chloroplasts and expansion of cell size in BS cells
2) Establishment of glycine shuttle pathway
3) Increase in expression level of PEPC
4) Increase in expression levels of C4 metabolic enzymes
5) Localization of PEPC to M cells
6) Localization of RuBisCO to BS cells
Increase in expression level of NDH complex
Increase in expression levels of PGR5 and PGRL1
Decrease in grana stacks in BS chloroplasts
Increase in PSI cyclic electron transport activity
Figure 20. C4型光合成進化における炭酸固定経路の構築過程と光化学系I
循環型電子伝達系の亢進過程の比較
炭酸固定経路の構築過程のモデルは、Sage (2004, 2012)とGowik and Westhoff (2010) を
参考にして作成した。
BS cells, bundle sheath cells; BS chloroplasts, bundle sheath chloroplasts; M cells, mesophyll
cells
88
Figure 21. Flaveria C3種、C4種およびA. thalianaのPGR5タンパク質のアミノ酸
アライメント
Arabidopsis thaliana (AT), Flaveria C4種のF. bidentis (Fb), C3種のF. robusta (Fro)由来の各
PGR5のアミノ酸配列をGENETIXを用いて解析した。Flaveria属では、PGR5タンパク質
は3つの遺伝子(PGR5A, B, C)によってコードされている。相同配列を黒色、類似配列を
灰色で示した。TargetPおよびChloroPソフトにより予測される葉緑体ターゲット配列は
緑色のボックスで囲んだ。
89
Figure 22. Flaveria C3種、C4種およびA. thalianaのPGRL1タンパク質のアミノ酸
アライメント
Arabidopsis thaliana (AT), Flaveria C4種のF. bidentis (Fb), C3種のF. robusta (Fro)由来の各
PGRL1のアミノ酸配列をGENETIXを用いて解析した。Flaveria属では、PGRL1タンパク
質は単一の遺伝子によってコードされている。相同配列を黒色、類似配列を灰色で示し
た。 TargetPおよびChloroPソフトにより予測される葉緑体ターゲット配列は緑色のボッ
クスで囲んだ。Transmembrane domain (TM)は黒色のバーで、フェレドキシンからプラス
トキノンへの電子伝達に関わるシステイン残基はアスタリスクで、それぞれ示した。
90
PGRL1i
PGR5i
P35S
(FbPGR5A/B )
CaMV
(FbPGR5A/B )
FbPGRL1
FbPGRL1
(A)
PPDK 1st intron
ocsT
(B)
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
PGRL1
Relative expression level
Relative expression level
1.4
0
2
1.8
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
PGR5A
PGR5B
PGR5C
Figure 23. F. bidentis PGRL1-RNAi (PGRL1i)とPGR5-RNAi (PGR5i)形質転換株に
おけるPGRL1, PGR5A, B, C mRNA蓄積量
(A) F. bidentis PGRL1遺伝子とPGR5A/B遺伝子をそれぞれ標的としたRNA interference
(RNAi) ベクターコンストラクト。標的遺伝子のセンス配列とアンチセンス配列は、PPDK
1st intron配列を間に挟んでつないだ。プロモータとターミネータは、cauliflower mosaic
virus (CaMV) 35S promoter と octopine synthease (ocs) terminatorをそれぞれ使用した。
(B)PGRL1, PGR5A, B, C遺伝子のmRNA蓄積量。wild type(WT)と各形質転換株の第7葉もし
くは第8葉からtotal RNAを抽出し、各遺伝子の特異的プライマーを使用してreal-time PCR
分析を行った。PGRL1, PGR5A, B, C遺伝子の発現量は、ACTIN7遺伝子の発現量で補正し
た。データは、WTの発現量を1とした時の相対値を示している。また、WTでは3個体、
PGRL1 # 4, PGR5i # 6, # 7では4個体、PGRL1i # 22では7個体の平均値とその標準偏差を示
す。
91
WT
PGRL1
1 1 1 1 1 1 1
1/16 1/8 1/4 1/2 1
1
PGR5
Rieske
PGRL1i # 22
WT
1/16 1/8 1/4 1/2 1 1 1
1 1
PGRL1
PGR5
Rieske
PGRL1i # 4
WT
1/16 1/8 1/4 1/2 1
1 1 1 1 1
1
1
1
PGRL1
PGR5
Rieske
PGR5i # 6 and # 7
Figure 24. F. bidentis PGRL1iとPGR5i 形質転換株におけるPGRL1とPGR5タ
ンパク質の蓄積量
wild type(WT)と各形質転換株の第7葉もしくは第8葉から全膜タンパク質を抽出し、
ウエスタンブロット分析を行った。PGRL1とRieskeは10 μg、PGR5は20 μgのタンパ
ク質を泳動した。それらのタンパク質量を1として、WTで1/16量までの希釈系列を
作成した。
92
Fd
NADPH
AA
Chlorophyll fluorescence
FNR
PSII
PQ
PGRL1
PGR5
Cyt. b6f
PSI
PC
Figure 25. Fd-dependent PQ reduction測定におけるPGR5/PGRL1複合体を
介したフェレドキシンからプラストキノンへの電子伝達の模式図
AA, antimycin A; Cyt. b6f, cytochrome b6f complex; Fd, ferredoxin; FNR, ferredoxinNADP+ reductase; PC, plastocianine; PQ, plastoquinone; PSI, photosystem I; PSII,
photosystem II
93
Chlorophyll fluorescence
WT
WT+AA
PGRL1i # 22 +AA
PGRL1i # 22
1 min
Fd
NADPH
PGRL1i #22
Chlorophyll fluorescence
WT
PGR5i # 7 +AA
PGR5i # 7
WT+AA
1 min
NADPH
Fd
PGR5i # 7
Figure 26. F. bidentis PGRL1iとPGR5i 形質転換株を用いたFd-dependent PQ
reduction測定
Wild type (WT)と各形質転換株から単離したチラコイド膜 (10 μg Chlorophyll/ml)に、
測定光(0.5 μmol photons m-2s-1)照射下で、NADPH (0.25 mM)とFd (0.05 mM)を添加し、
クロロフィル蛍光の上昇を測定した。+AAはantimycin A (AA)の添加を示しており、
AA (3 μM)は測定前に添加した。
94
Chlorophyll fluorescence
WT
PGRL1i # 4 +AA
PGRL1i # 4
WT+AA
1 min
NADPH
Fd
PGRL1i #4
Chlorophyll fluorescence
WT
WT+AA
PGR5i # 6 +AA
PGR5i # 6
1 min
NADPH
Fd
PGR5i # 6
Figure 27. F. bidentis PGRL1iとPGR5i 形質転換株を用いたFd-dependent PQ
reduction測定
実験条件については、Figure 26を参照。
95
WT
1/16 1/8 1/4 1/2 1 1
1 1 1
1
1
1
1
NDH-H
Rieske
Figure 28. F. bidentis PGRL1i # 22におけるNDH-Hタンパク質蓄積量
wild type(WT)とPGRL1i #22の第7葉もしくは第8葉から抽出した全膜タンパク質を用
いて、ウエスタンブロット分析を行った。Rieskeは10 μg、NDH-Hは20 μgのタンパ
ク質を泳動した。それらのタンパク質量を1として、WTで1/16量までの希釈系列を
作成した。
96
(A)
Chlorophyll fluorescence
WT
AL OFF
AL OFF
AL ON
Chlorophyll fluorescence
PGRL1i #22
AL OFF
AL OFF
AL ON
NDH activity (a. u.)
(B)
Figure 29. F. bidentis PGRL1i #22におけるNDH活性
(A) Actinic light (AL)消光後のクロロフィル蛍光の一過的上昇。各植物の生葉に
AL(53 μmol photons m-2 s-1)を4分間照射し、AL消光後のクロロフィル蛍光の一過的上
昇を測定した。クロロフィル蛍光曲線はWTとPGRL1i #22の代表的な結果を示して
いる。右の図はクロロフィル蛍光の一過的上昇の部分を拡大したものになる。
(B) NDH活性。 クロロフィル蛍光の一過的上昇値からNDH活性値を算出した。算出
方法はFigure 12を参照。データは、WTでは3個体、PGRL1i #22では5個体の平均値
とその標準偏差を示している。
97
(B)
25
1
15
0.8
10
5
wild type
PGRL1i # 22
0
0
0.6
0.4
PGRL1i # 22
0
200 400 600 800 1000 1200
0
Irradiance (μmol photons m-2s-1)
(C)
wild type
0.2
-5
200 400 600 800 1000 1200
Irradiance (μmol photons m-2s-1)
(D)
0.8
0.7
Fv/Fm
0.6
NPQ
1.2
20
Relative ETR
Net CO2 assimilation rate
A (μmol CO2 m-2 s-1)
(A)
0.5
0.4
0.3
wild type
0.2
PGRL1i # 22
F. pringlei (C3)
0.1
0
0
200 400 600 800 1000 1200
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
before
wild type
after
PGRL1i #22
Irradiance (μmol photons m-2s-1)
Figure 30. F. bidentis PGRL1i # 22 における光合成活性(A)、Relative electron
transport rate (Relative ETR)、non photochemical quenching (NPQ)の光強度依存
性
(A) 光合成活性 (A, Net CO2 assimilation rate), (B)相対的電子伝達速度(Relative ETR,
relative electron transport rate); WTの最大ETR値(光強度が1000 μmol photons m-2 s-1の時の
値)を1とした時の、各光強度における各種の相対値 , (C)非化学的消光(NPQ, nonphotochemical quenching). (D) 光合成活性測定前(before)と測定後(after)の光化学系IIの最
大量子収率(Fv/Fm). F. bidnetisのWT (closed circle)とPGRL1i # 22 (open circle)を用いて測
定した。尚、NPQのグラフ(C)では、Flaveria C3種であるF. pringlei (closed triangle) の1個
体のデータも示している。測定は、CO2 濃度を400 μL L-1, O2濃度を21 %, 温度を25 °C,
湿度を50 %の条件で行った。各データは、WTでは3個体、PGRL1i # 22では7個体の平
均値とその標準偏差を示している。
98
30
Net CO2 assimilation rate
A (μmol CO2 m-2 s-1)
25
20
15
10
F. bidentis (C4)
F. pringlei (C3)
5
0
-5
0
200 400 600 800 1000 1200 1400
Intercellular CO2
Ci (μL L-1)
Figure 31. C4植物とC3植物における光合成活性の葉内CO2濃度依存性の違い
C4植物のF. bidenetis (closed circle)とC3植物のF. pringlei (closed diamond)を用いて測定し
た。測定は、O2濃度を21 %, 光強度を1000 μmol photons m-2 s-1, 温度を25 °C, 湿度を
50 %の条件で行った。 F. bidnetisのデータは3個体の平均値とその標準偏差を示してお
り、 F. pringlei のデータは1個体の結果を示している。
99
(B)
(A)
1
20
0.8
15
10
wild type
0
PGRL1i # 22
PGRL1i # 4
Fv/Fm
1
0.5
0
0
200 400 600 800 100012001400
Intercellular CO2
Ci (μL L-1)
PGRL1i # 22
PGRL1i # 4
0
wild type
1.5
wild type
0
(D)
2
0.4
200 400 600 800 100012001400
Intercellular CO2
Ci (μL L-1)
(C)
2.5
0.6
0.2
PGRL1i # 22
PGRL1i # 4
5
0
NPQ
1.2
25
Relative ETR
Net CO2 assimilation rate
A (μmol CO2 m-2 s-1)
30
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
200 400 600 800 100012001400
Intercellular CO2
Ci (μL L-1)
before
after
wild type
PGRL1i # 22
PGRL1i # 4
Figure 32. F. bidentis PGRL1i 形質転換株 における光合成活性(A)、Relative
electron transport rate (Relative ETR)、non photochemical quenching (NPQ)の葉内
CO2濃度依存性
(A) 光合成活性 (A, net CO2 assimilation rate), (B)相対的電子伝達速度(Relative ETR,
relative electron transport rate); WTの最大ETR値(葉内CO2濃度が1200 μL L-1の時の値)を1
とした時の、各光強度における各種の相対値, (C)非化学的消光(NPQ, non-photochemical
quenching). (D) 光合成活性測定前(before)と測定後(after)の光化学系IIの最大量子収率
(Fv/Fm). F. bidnetisのWT (closed circle), PGRL1i # 4 (open triangle), # 22 (open circle) を用い
て測定した。 測定は、O2濃度を21 %, 光強度を1000 μmol photons m-2 s-1, 温度を25 °C,
湿度を50 %の条件で行った。各データは、WTでは6個体、PGRL1i # 4では4個体、# 22
では7個体の平均値とその標準偏差を示している。
100
(A)
(B)
1.2
1
20
Relative ETR
Net CO2 assimilation rate
A (μmol CO2 m-2 s-1)
25
15
10
wild type
PGR5i # 6
PGR5i # 7
5
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
0
(C)
0.8
200 400 600 800 1000 1200 1400
Intercellular CO2
Ci (μL L-1)
(D)
Fv/Fm
0.6
NPQ
wild type
PGR5i # 6
PGR5i # 7
0.4
wild type
PGR5i # 6
PGR5i # 7
0.2
0
0
200 400 600 800 100012001400
Intercellular CO2
Ci (μL L-1)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
200 400 600 800 100012001400
Intercellular CO2
Ci (μL L-1)
before
wild type
after
PGR5i # 6
PGR5i # 7
Figure 33. F. bidentis PGR5i 形質転換株における光合成活性(A)、Relative
electron transport rate (Relative ETR)、non photochemical quenching (NPQ)の葉内
CO2濃度依存性
(A) 光合成活性 (A, net CO2 assimilation rate), (B)相対的電子伝達速度(Relative ETR,
relative electron transport rate); WTの最大ETR値(葉内CO2濃度が1200 μL L-1の時の値)を1
とした時の、各光強度における各種の相対値, (C)非化学的消光(NPQ, non-photochemical
quenching). (D) 光合成活性測定前(before)と測定後(after)の光化学系IIの最大量子収率
(Fv/Fm). F. bidnetisのWT (closed circle), PGR5i # 6 (open square), # 7 (open diamond) を用い
て測定した。 測定は、O2濃度を21 %, 光強度を1000 μmol photons m-2 s-1, 温度を25 °C,
湿度を50 %の条件で行った。各データは、WT, PGR5i # 6, # 7でそれぞれ4個体の平均値
とその標準偏差を示している。
101
(kDa)
239
125
90
69
54
42
WT
1/16 1/8 1/4 1/2 1 1
1 1 1
1
1 1 1
PEPC
PPDK
NADP-ME
RbcL
(RuBisCO large subunit)
33
29
16
RbcS
(RuBisCO small subunit)
Figure 34. F. bidentis PGRL1i # 22におけるC4代謝酵素タンパク質と
RuBisCO蓄積量
wild type(WT)とPGRL1i #22の第7葉もしくは第8葉から抽出した全可溶性タンパ
ク質(10 μg)は、12.5 %アクリルアミドゲルを用いて電気泳動し、Coomassie
brilliant blue R-250で染色した。
102
(A)
0.6
ΔA / ΔAmax
0.5
0.4
0.3
0.2
wild type
0.1
PGRL1i # 22
0
0
250
500
750 1000
Irradiance (μmol photons m-2s-1)
ΔA / ΔAmax
(B)
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
wild type
PGR5i # 6
PGR5i # 7
0
250
500
750 1000
Irradiance (μmol photons m-2s-1)
Figure 35. F. bidentis PGRL1i とPGR5i 形質転換株における光強度依存的な
P700酸化レベルの測定
wild type, PGRL1i (A), PGR5i (B)形質転換株における光化学系I反応中心P700酸化レベル
(ΔA/ΔAmax)の光強度依存性。10 分間暗所に置いた植物の生葉に、 光化学系Iの光化学反
応を誘導する近赤外光照射下で飽和光を照射し最大P700酸化レベル(ΔAmax)を測定した。
次に、白色光を光強度50, 250, 500, 1000 μmol photons m-2 s-1の順に連続して5 分間ずつ照
射し、各光強度下におけるP700酸化レベル(ΔA)を測定した。そして、それぞれのΔAの
値 を ΔAmax の 値 で 割 る こ と で 、 各 白 色 光 照 射 下 で の P700 酸 化 レ ベ ル (ΔA) の 割 合
(ΔA/ΔAmax)を算出した。データは、3個体の平均値とその標準偏差を示している。
103
ΔAmax (%)
120%
110%
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
Figure 36. F. bidentis PGR5i 形質転換株における光化学系Iの強光に対する
感受性
wild typeとPGR5i # 6, # 7の植物体を1 時間、暗所に置き、その後光強度1000 μmol
photons m-2 s-1の白色光を30 分間、照射した。白色光照射前の光化学系I反応中心
P700の最大酸化レベル(ΔAmax)に対する、白色光照射後のΔAmaxの値を百分率で
示した。データは3個体の平均とその標準偏差を示す。
104
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