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資料1 竹中議員提出資料(PDF:221KB)

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資料1 竹中議員提出資料(PDF:221KB)
資料1
経済動向分析・検討チーム
結果とりまとめ
平成13年8月
内
閣
府
目
次
はじめに
・・・・・・・・・・・・・・・・1
開催スケジュール
・・・・・・・・・・・・・・・・3
委員名簿
・・・・・・・・・・・・・・・・4
テーマ1:海外経済の動向
・・・・・・・・・・・・・・・・8
テーマ2:日本の景気動向
・・・・・・・・・・・・・・・・10
テーマ3:金融市場の動向
・・・・・・・・・・・・・・・・15
テーマ4:労働市場の動向
・・・・・・・・・・・・・・・・21
テーマ5:住宅・土地市場の動向・・・・・・・・・・・・・・・・24
テーマ6:IT関連市場の動向
・・・・・・・・・・・・・・・・27
参考:各テーマ議事概要
・・・・・・・・・・・・・・・・32
はじめに
1.
景気が引き続き悪化するなかで、当面の景気動向を的確に把握し、時宜にかな
った適切な政策を立案、実施していくことが極めて重要となっている。そこで、
経済財政諮問会議の下に「経済動向分析・検討チーム」を編成することとなっ
た。本検討チームは、経済財政諮問会議の審議をサポートする体制の強化の一
環として設けられたものであり、広くマーケット関係者や民間エコノミストの
方々の協力を得て、景気の現状や先行き等について意見・情報を集約し、政府
としての景気動向の把握、今後の政策運営の参考とすることを目的としている。
2.
「経済動向分析・検討チーム」は、経済財政諮問会議の牛尾、本間両民間議員
が主宰し、下記の分析・検討テーマごとに5∼20名程度、総勢80名程度の
マーケット関係者、民間エコノミスト等で編成し、随時メンバーからのヒアリ
ングを中心に、意見・情報の集約を行うこととした。
<分析・検討テーマ>
(1) 海外経済の動向
(2) 日本の景気動向
(3) 金融市場の動向
(4) 労働市場の動向
(5) 住宅・土地市場の動向
(6) IT関連市場の動向
3.
委員は、若手のマーケット関係者や民間エコノミストを中心に選考し、学者や
官庁OBは対象外としている。また、外国人や外資系アナリストも可能な限り
メンバーに加えた。
4.
委員が非常に多数で一同に会することが困難であることから、まず、各テーマ
ごとに分科会を開催して議論をし、次に、各分科会の代表者(以下、
「モデレー
タ」という)、大臣、副大臣、大臣政務官、事務局から成る全体会合を開催し、
各モデレータが分科会の議論を大臣に間接的に報告する形式をとった。各分科
会において委員から出された意見については、各テーマごとに議事概要として
まとめられている。その際、出された意見についてはできるだけその趣旨を正
確かつ客観的に反映するように努めた。モデレータが各分科会での議論を全体
会合で大臣に報告した内容については、「結果とりまとめ」に要約されている。
「結果とりまとめ」は、分科会における議論の模様をできるだけに忠実に反映
1
するよう、モダレータの指示に従って事務局がとりまとめたものである。全体
会合において報告後に行われた質疑については、全体会合の議事概要としてま
とめられている。
「議事概要」については 33 頁以降に、
「結果とりまとめ」につ
いては8頁∼32 頁に掲載されている。
5.
このように、多数の民間の方から短期間で集中的に景気に関する意見を拝聴す
るのは初めての試みであったが、これまで政府が見落としがちであった観点や
独創性のある意見も大いに含まれており、政府として非常に有益な意見・情報
を集約することができたと考えている。今回伺った意見については、経済財政
諮問会議に報告されることとなるが、今後も必要に応じて本検討チームを開催
することにより、時宜を得た的確な景気判断や政策運営を行っていくことが有
効であると考えられる。
6.
なお、本報告は、参考資料として添付した議事概要を含め、その内容について
は政府としての見解を示すものではない。
2
開催スケジュール
○
8月6日(月) 14:00∼16:00
IT関連市場の動向
○
8月7日(火)
日本の景気動向
○
8月8日(水) 10:00∼12:00
金融市場の動向 第一回
○
8月8日(水) 18:30∼20:30
海外経済の動向
○
8月9日(木) 10:00∼12:00
労働市場の動向
○
8月 10 日(金) 14:00∼16:00 住宅・土地市場の動向
○
8月 20 日(月) 10:00∼12:00 金融市場の動向 第二回
○
8月 23 日(木) 16:00∼18:00 全体会合
9:00∼12:00
3
委員名簿(五十音順)
【テーマ1:海外経済の動向】(13名)
海老名誠
富士総合研究所理事
荻野和也
東京三菱銀行ニューヨーク支店チーフエコノミスト
木内登英
霧島和孝
野村総合研究所(アメリカ)チーフエコノミスト
住友生命総合研究所調査部上席主任研究員
浜
三菱総合研究所政策経済研究センター主席研究員
矩子
平田
潤
第一勧銀総合研究所国際調査部長
平松
拓
国際通貨研究所調査部主任研究員
ロバート・アラン・フェルドマン モルガン・スタンレー・ディーン・
ウィッター証券チーフ・エコノミス
ト、マネージング・ディレクター
向山英彦
武者陵司
日本総研調査部環太平洋研究センター上席主任研究員
ドイツ証券東京支店株式調査部長・チーフステラジスト
森川
三和銀行資金証券為替部
央
ロンドン駐在
森山昌俊
三和総合研究所投資調査部主任研究員
鷲尾友春
JETRO企画部主幹
【テーマ2:日本の景気動向】(17名)
菅野雅明
霧島和孝
河野龍太郎
J.P.モルガン証券会社調査部長
住友生命総合研究所調査部上席主任研究員
BNPパリバ証券会社経済調査部長チーフエコノミスト
佐治信行
みずほ証券エクイティ調査部チーフエコノミスト
鹿野達史
三和総合研究所投資調査部主任研究員
嶋中雄二
三和総合研究所投資調査部長
白川浩道
UBSウォーバーグ証券会社チーフエコノミスト
高橋
日本総合研究所調査部長
進
宅森昭吉
芳賀沼千里
さくら投信投資顧問チーフエコノミスト
野村證券金融研究所主任研究員
櫨
ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト
浩一
ポール・シェアード
リーマン・ブラザーズ証券マネージング
ディレクターチーフエコノミストアジア
真壁昭夫
第一勧銀総合研究所主席研究員
松岡幹裕
ドイツ証券東京支店株式調査部シニアエコノミスト
4
水野和夫
国際証券執行役員チーフエコノミスト
山川哲史
ゴールドマン・サックス証券会社経済調査部長
リチャード・クー
野村総合研究所主席研究員
【テーマ3:金融市場の動向】(25名)
一尾仁司
コメルツ証券東京支店ストラテジスト
イェスパー・コール
石山
仁
市川眞一
メリルリンチ証券チーフ・エコノミスト
住友海上アセットマネジメント・シニア・アナリスト
クレディ・スイス・ファースト・ボストン証券
株式調査部ストラテジスト
大崎貞和
野村総合研究所資本市場研究室長
翁
日本総合研究所主席研究員
百合
奥江勲二
ドレスナー・クラインオート・ワッサースタイン証券
シニア・エコノミスト
小原由紀子
クレディ・スイス・ファースト・ボストン証券東京支店
株式調査部ディレクター
川北英隆
日本生命保険取締役財務企画部長
川本裕子
マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク
シニアエキスパート
菊地正俊
メリルリンチ証券調査部シニア・ストラテジスト
北野
東京三菱証券エクィティ・リサーチ部長
一
木村 剛
櫻谷光司
KPMGフィナンシャル株式会社代表取締役社長
朝日ライフアセットマネジメント
執行役員・株式運用部長
佐野一彦
日興ソロモン・スミス・バーニー債券本部
チーフストラテジスト
田邊孝則
野村アセットマネジメント取締役兼専務執行役員
中野充弘
大和総研投資調査部長
平川昇二
国際証券エクイティ調査部投資戦略課長
淵田康之
チーフ・ストラテジスト
野村総合研究所資本市場研究部長
真壁昭夫
第一勧銀総合研究所・主席研究員
松沢
野村證券金融市場本部チーフストラテジスト
中
水野温氏
ドイツ証券チーフストラテジスト/チーフエコノミスト
三宅一弘
みずほ証券エクィティ調査部チーフストラテジスト
吉川
大和総研制度室長
満
5
ロバート・アラン・フェルドマン モルガン・スタンレー・ディーン・
ウィッター証券チーフ・エコノミス
ト、マネージング・ディレクター
【テーマ4:労働市場の動向】(5名)
飯塚尚己
富士総合研究所調査研究部主事研究員
千田章貴
前中正行
パソナ営業企画室担当部長
日本興業銀行調査部主任部員
村田弘美
リクルートワークス研究所主任研究員
山田
日本総合研究所調査部主任研究員
久
【テーマ5:住宅・土地市場の動向】(8名)
相川宗徳
三和総合研究所経済・社会政策部主任研究員
大槻啓子
モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券
川藤
エグゼクティブ・ディレクター
谷澤総合鑑定所東京事務所
等
篠原二三夫
ニッセイ基礎研究所社会研究部門主任研究員
新山
住友生命保険不動産部次長
保
前澤威夫
生駒データサービスシステム取締役主任研究員
他2名
【テーマ6:IT関連市場の動向】(14名)
荒野高志
グローバルクロッシングジャパン
サービスディベロップメントオペレーション部部長
石元
玲
日本アジア投資株式会社東京投資第三チーム
チームリーダー
板谷雅之
国際証券企業調査課チーフアナリスト
伊藤ナオコ
ゴールドマンサックス証券調査部
ヴァイスプレジデント
乾
牧夫
今中能夫
日興ソロモン・スミス・バーニー証券
株式調査部マネージングディレクター
コメルツ証券ファンダメンタル・リサーチ部
シニアアナリスト・次長
内田和成
ボストン・コンサルティング・グループ日本代表
小池
ネットイヤーグループ代表取締役CEO
聡
小原琢哉
日本IBM理事
6
ibm.Comセールスセンター事業部長
佐藤文昭
ドイツ証券株式調査部部長
白井
日立総合計画研究所主管研究員
均
田原幸朗
社団法人情報サービス産業協会調査企画部次長
浜屋
富士通総研経済研究所主任研究員
敏
米田謙次
富士ゼロックスニュービジネスセンター事業推進部
企画グループマネージャー
7
結果とりまとめ −海外経済の動向−
論点1:世界経済回復のシナリオについて
ベストシナリオでも世界経済の回復テンポはごく緩やかなものになるということで
一致した。理由としては、米国の回復がL字型ないしはU字型の緩やかなものに留まる
こと、IT関連分野の不況が今後他の分野にも波及することなどが挙げられた。
世界同時不況のリスクについては、回避できると断言できる確証もない、という点で
は一致した。不安要因としては、①IT分野での過大投資・過剰供給力、そしてその結
果生じた米国テレコム分野の不良債権の存在、②世界経済があまりにもITに依存しす
ぎており、IT不況が広く伝播していく可能性があること、③これまでITに吸収され
ていた資本の行き場がなく、世界の過剰貯蓄の受け皿が見当たらないこと、が挙げられ
た。
論点2:世界経済のダウンサイド・リスクについて
<アメリカ経済の回復の遅れ>
内需はかろうじてプラス成長だが、地方政府の投資によって増加している政府支出を
除いた民需はすでにマイナス成長との共通認識がみられ、先行きについても、回復はか
なり遅れるとの見方で一致した。民間設備投資はしばらく低調、逆資産効果で高所得者
階層の消費が落ち込む、地方税収の落ち込みから地方政府支出が抑制等々の見通しが示
された。減税の効果については、年末年初のセールス時期までは出てこないとの見方と、
7−9月期には出始めるという見方とで分かれた。
<IT不況とアジア経済>
IT不況は、ITバブルの影響で大きな過剰設備、負債を抱えたためで、容易には回
復しないとの見方で一致した。アジア経済については、通貨・金融危機後の高成長はI
Tバブルの中でIT関連機器の輸出を伸ばしたためであり、特に最終仕向地であるアメ
リカ経済に依存する構造との共通認識がみられた。政策にも手詰まり感があり、米日の
回復がアジア回復の鍵。中国経済は、内需を伸ばす余地があり好調だが、アジア全体を
引っ張る力はない。財政による下支えが息切れする懸念を指摘する向きもあった。総論
としては、第3∼第4四半期を底とした緩やかな回復が共通の見通しであった。
<ユーロ圏経済におけるインフレ懸念と低成長の並存>
低成長との見方で一致したが、インフレ懸念を指摘する声はなかった。ECBによる
8
景気重視の金融緩和に期待する意見と、物価安定への偏重、ユーロ圏内の意見調整の困
難などからECBは対応がとれないとの見方に分かれた。ユーロ圏全体で2%程度の低
成長では世界経済の牽引車になるとの期待感はみられなかった。
<OPECの減産が原油価格に与える影響>
原油の世界需要が減ってくるとの認識を背景に、価格上昇を懸念する声はなかった。
むしろ、98、99 年のように大幅下落する可能性があり、その場合には、世界の貿易・
物価・為替に大きく影響し、なかには、ユーロに有利に作用するとの意見があった。
<新興市場諸国における金融情勢混乱の波及>
各国固有の事情によるものであり、他の新興市場に感染(contagion)の可能性は低
いとの認識で一致した。理由は、アジア危機のときと異なり、固定相場の国はほとんど
ないことや、レバレッジの低い資金の流入が少ないことなどが挙げられた。アルゼンチ
ンの混乱がアメリカ経済に与える影響は少なく、むしろ、欧州、特にスペインに波及す
る懸念を指摘する向きがあった。ブラジルに波及した場合は要注意だが、その可能性は
低いとの意見があった。
<米国利下げの可能性、ドル高の継続もしくは下落の可能性>
8月のFOMC(連邦公開市場委員会)では利下げが行われるとの見方で一致したが
、その後については 10 月のFOMCで更なる利下げの可能性があるという見方と、
(注)
利下げの効果がこれ以上あまり期待できないとして Fed のスタンスが警戒的になるの
ではないかという見方とに分かれた。為替相場の先行きに関しては、当面は大きく変動
しない可能性が高いが、ドル安になる環境は揃ってきているとの見方でほぼ一致した。
(注)8 月 21 日に開催されたFOMCでは、0.25%の金利引下げが決定された。
論点3:政策対応について
日本の政策対応および国際協調については、①国債発行の上限を 30 兆円としている
が、
(以前、アメリカでも財政再建中に議論になったことであるが、)金融不安があると
きに金融システム維持のために行う国債発行を 30 兆円に含めるべきではない、②ヨー
ロッパではワークシェアリングの導入により雇用創出を行い、これが景気回復に貢献し
たとの事例がある、③金融に危機的な徴候があるときには、政策転換や国際協調などが
一時的にせよ有効であり、例えば日米の円安協調介入などできれば有効ではないか、と
いった意見が出された。
9
結果とりまとめ −日本の景気動向−
論点1:マクロの景気動向について
<景気認識、景気回復の見通しについて>
足下の景気については、厳しさを増しているという見方が支配的であったが、景気の
先行きについては、悲観的見方と楽観的見方に分かれた。
悲観的見方
○ 景気は加速度的に悪化しており、4四半期連続マイナス成長の可能性がある。年内
に底を打つか微妙であり、回復過程も脆弱になるのではないか。
○ IT部門の調整は世界経済と連動しており長期化する可能性がある。IT関連部門
の落ち込みは、一般機械の生産が落ち込むなどIT関連部門以外へ波及しており、
今後も波及が進むだろう。
○ 公共投資の落ち込み及び不良債権処理の影響により、年内は厳しい状況が続く。
○ 高い労働分配率が下がることは必須であり、所得の面から個人消費に悪影響を与え
る可能性がある。
○ 現在は、資産価格の下落に伴うバランスシート不況であり、企業はバランスシート
調整を進めてきているが、本格的な解消にはあと2、3年かかる。
○ 4年連続の名目GDPマイナス成長は異例の事態。バランスシート調整と賃金調整
の圧力がある。
○ 80 年代のバブルとITバブルという2つのバブルの処理に手間取っており、調整は
長くなる。バブル後遺症は、バブル関連業種、個人消費、中小零細企業に現れてい
る。半導体市況についても、最終需要での減速が始まった段階である。
○ ①世界同時不況、②原油価格高止まり、③資産価格の更なる下落懸念、などにより
過去の後退局面とは異なる可能性がある。
○ クレジットコストをカバーできない金融機関のマージンの低さといった金融シス
テムの問題や、公共投資の削減、製造業の空洞化を通じる地方経済の疲弊などが目
先の下振れリスクになる。
楽観的見方
○ 個人消費は意外としっかりしており、機械受注をみても設備投資が加速度的に悪く
なる状況ではないので、年内底入れが可能である。
○ IT部門の調整は、川上の素材業種も業績を下方修正するなど、現在IT部門以外
にも波及している。ただ一方的に悪くなっていくわけではない。また、非製造業は
相対的に底固いなど、深刻な調整が不要な業種もある。年内には景気は底を打つの
ではないか。
10
○ 米国経済の回復により年内には底をうち、来年には回復が始まる。ただし、その後
の回復パスは、脆弱な成長になるのではないか。
○ ITについては、インフラ投資などITユーザー投資が堅調。企業収益の悪化から
短期的には調整があるとみられるが、いずれ設備投資が出てくるものと考える。
○ 資金繰り判断の悪化が設備投資の縮小を招くという状況にはなく、また、経営者が
脇をしめて経営を行っていることから、企業部門は年末までは苦しいが、その後さ
らに悪くなるということはないだろう。売上が大企業では3%伸びているが人件費
はマイナスに抑えている。
米国経済について
○ 米国経済は、企業部門が変調を来しており、日本の例と同じくバランスシート不況
に近い状態であり、米国経済の回復に期待をかけるのは難しいのではないか。
○ BBレシオが足元上昇するなど半導体市況に回復がみられる。また、景況指数で見
ても一致DI、先行DIともに上昇してきており、秋口には回復に転じるのではな
いか。
○ 輸出依存度が長期的に高まっており、世界経済の減速の影響を受けやすくなってい
る。
<デフレについて>
デフレの原因については、需要の落ち込みによるとする需給ギャップ説と中国への生産
シフトが製造業中心の日本の物価を押し下げたとする供給要因説に分かれた。
○ 物価下落の要因は、中国・インド等の自由貿易体制への参画といった供給構造の変
化であり、(需要不足という意味合いの強い)デフレという表現自体に抵抗を感じ
る。
○ 中国等の要因は、先進国に共通の要因であり、日本だけがデフレである状況を説明
しきれない。需給ギャップが最大の要因である。
○ これまで工業製品の主な供給国であった日本から中国へと生産拠点が移ったこと
が要因であり、これは先進国共通というわけではない。
○ デフレの要因は、①バランスシート調整、②実体以上の円高、③中国等からの輸入、
④日銀の金融政策、と考える。
○ デフレには内外価格差縮小など「良いデフレ」という面もある。しかし、所得分配、
税収の面に与える影響に留意が必要である。
○ 中国からの輸入増は、日本の流通革命を促す一方で、物価下押し圧力として作用し
たが、この例が示すように日本の非効率部門の効率化が他の先進国にみられないデ
フレ現象を引き起こした一因である。
11
論点2:政策対応について
<需要創出策の是非、新規国債発行30兆円以下という財政規律について>
○ 公共事業は中長期的な生産性を低下させること、国債残高が拡大していることから、
これ以上の公共事業を中心とした需要創出策は必要ない。
○ 日本経済は、現在需要不足であること、金利も低水準であることから、公的需要で
総需要を下支えし、デフレギャップを解消すべきである。
○ 30 兆円については、この数字に硬直的に縛られる必要はないが、財政再建の象徴と
してのアナウンスメント効果がある。
○ 今後、経常黒字がさらに縮小していった場合、財政赤字にキャップを設けておかな
いと長期金利が上昇するリスクがある。
○ 30 兆円のような制約を設けずに柔軟に対応すべきである。
○ 30 兆円への抑制は、国だけで見ればなだらかな財政赤字の削減で理解できるが、地
方がどれだけ削減しているかという動きを注視する必要がある。
○ 日本経済の貯蓄投資バランスを考えると家計が貯蓄過剰であり、これを財政赤字が
吸収している。この状態で無理やり財政赤字を縮小しようとすると、家計の貯蓄率
が極端に落ちない限り、経済は失速するリスクを抱えることになる。
○ これまでの公共投資が非効率であり、これを効率化することは賛成であるが、財政
の量と質の問題は区別する必要がある。
○ 地方交付税の削減については、地方債の元利償還の保証をしておかないと、地方債
のデフォルトを引き起こしかねない。
<金融政策等について>
金融政策にアナウンスメント効果等も含めてその有効性を期待する立場と、金融政策の
有効性の限界に力点を置く立場に分かれた。
○ 実体経済に資金需要がない以上、金融政策が効果を持つ余地はない。
○ 政策のスタンスとしての金融緩和といった意味で、アナウンスメント効果を活用す
ることが重要である。日本銀行の金融緩和アナウンスにより外国人投資家を呼び込
み、株価を上げるルートが考えられる。
○ 当座預金等を増やして円安誘導すれば、金融緩和は実体経済に影響を与えうる。
○ 金融政策として、マネタリーなものだけではなく、日本銀行による不良債権の買取
りなど、リアル面でのプラスのショックを与える政策を進めるべきである。
○ デフレを解消するには相当程度の円安が必要であり、世界同時減速の中、選択肢と
はなりえない。
○ マーシャルのkが上がったのは、デフレ的状況で名目GDPが減少したからである
が、潜在的な名目GDPを用いて、本来あるはずの貨幣需要を計算すれば、マネー
12
は不足している。
○ 為替政策は手が尽きており、あるとすれば人民元が切り上がるくらいしかない。
<政策対応全般について>
○ 政府の役割として、今後の見通しの中で、ワーストシナリオについて危機管理策を
予め準備しておくことが重要である。この欠如が問題を拡大しているのではないか。
○ 不良債権の最終処理等、構 造改革の景気下押し効果に対し、雇用のセーフティネッ
トは必要不可欠である。
論点3:構造改革について
<不良債権問題について>
問題の深刻さについて認識の一致が見られた。
○ 不良債権処理については、遊休不動産の有効活用を促し、資源利用の効率性を高め
る観点から、最終処理などを迅速に進めることが重要である。
○ 不良債権問題は、不良債権処理コストが運用利鞘を上回る状況が続くと仮定すると、
容易に解決しない。銀行システムに対する信認が崩れると、最終的には個人資産の
海外逃避を招来しかねない。その前に、中小金融機関の整理統合を進める必要があ
る。
○ 90 年初頭のアメリカの例と比べて規模が相当大きい問題であることから、最終処理
を拙速には進めず、少しずつバランスシートから落としていくべきである。
○ 不良債権問題は、バブル崩壊・資産価格下落の影響を超え、最近は景気悪化による
新規発生が大きいなど新しい局面に入ってきている。
○ 不良債権問題が経済に与える影響については、短期的な景気回復を阻害するメカニ
ズムは必ずしも明らかではないものの、中長期的には、資源配分の非効率化、金融
機関のリスクテイク機能の低下等を通じ経済成長を押し下げている。また、株価押
し下げによる企業金融を弱める影響に留意する必要がある。
○ 不良債権問題が景気回復の制約条件になっているといった議論は、金利が低い水準
であり、資金が余っている現状をみると、正しくない。銀行の資金供給能力は 10
年前と比べれば落ちているが、資金需要はそれ以上に落ち込んでいる。97、98 年の
ような状況と混同すべきではない。
○ 不良債権問題の解決は経済成長の必要条件であるが、十分条件ではない。
○ 不良債権処理には、ある程度の景気下押し効果があり、特に地方、中小企業、雇用
問題への波及に留意する必要がある。
13
<構造改革一般について>
構造改革は必要との意見で一致し、その実行にポジティブな側面を強調する意見が強か
った。
○ 構造改革がなくとも景気回復はあるが、良質な景気回復を目指すためには構造改革
が必要である。
○ 構造改革は、ぎりぎりまで景気との両立が必要である。
○ 構造改革をすると、景気下押し効果が出てくるが、しないともっと大きな景気下押
し効果が生じる。
○ 不良債権問題という事後処理に焦点が当たりすぎているが、規制緩和や民活など将
来の成長を生む構造改革にも傾注すべきである。
○ 生産性を引き上げるような改革は、短期でも十分可能である。
○ 企業が資金を借り投資する機会を広げるような構造改革を実行すべきである。
○ 何のための構造改革なのか、どのように改革するのかというはっきりしたものが求
められる。猛暑に応じて夜間営業を増やす等、民間部門の自主的な取り組みも不可
欠である。
○ 中国が新たな供給基地になりつつあるが、高付加価値のものは日本で作るという選
択をする必要がある。
○ 構造改革の景気下押し効果は、地方経済で深刻となる。地方経済の実情を抜きにし
た雇用対策は考えられない。都市への投資も重要だが、地方への配慮も必要である。
<日本の地価動向について>
○ 製造業の中国などへの生産拠点の移転が、地価への押し下げ圧力になっている。
14
結果取りまとめ −金融市場の動向−
金融市場の動向に関する検討チームは、8月8日と 20 日の二回にわたって会合を行い、
第一回目は金融市場の動向を、第二回目は政策関連を中心に議論を行った。
論点1:金融市場の動向
下落基調で推移している株式市場の動向について
<総論>
○
株価下落の主な原因は、日本経済の先行き不透明感の増幅、および株式市場の短期の
株式需給によって説明できる。日本経済は、世界経済の急速な減速、情報・通信分野の
落ち込みから後退が鮮明化してきており、回復のシナリオが見えない。株式需給要因
では、持合い解消売りが出易い状況に加え、時価主義会計の導入による価格変動リス
クへの意識の高まりによる株式売却、ヘッジファンドの空売りなどがみられ、最近の
株安の原因と考えられる。
○
日経平均株価はバブル後最安値圏にあるが、TOPIXでみると、バブル5後最安値
時に 1000 ポイントを割った水準より高い。業種別に見ると、年初からの騰落率では 33
業態中、19 業態が上昇している。また、5月始めからの日経平均株価下落の 3000 円の
うち、寄与率が大きい(ハイテク含む)25 種で 70%の説明ができる(第一回目の議論)。
<ITバブルの崩壊、米国経済要因>
○
最近の株価低迷は、世界的なITバブルの崩壊によるもの。IT関連の在庫処理には
かなりの時間を要するが、米国経済は来年には 3.5%程度位の経済成長率に回復するの
ではないか。
○
米国のIT不況は過剰投資による循環論的な側面、および思い切った損切りによると
ころが強く、今年年内は苦しいが、来年中盤には回復する見込みではないか。一方、
日本の企業は米国に大きく差をつけられており、ジリ貧である。
○
ドル高を背景に、米国企業が高いROEを維持できるか、懸念がある。
○
IT関連企業のファンダメンタルズが完全に株価に反映されている訳ではなく、むし
ろ、投資家の将来に対する過大な期待成長率の修整が反映されているととらえるべき
である。したがって、依然としてITは高付加価値産業であると考えるが、在庫・設
備調整に時間を要するため、再ブームには2∼3年かかろう。
<構造改革要因>
○
株価は構造改革による痛みの後にある中長期的な日本経済の状態を反映すると考える。
そうした観点から、最近の株価下落は国民の改革に対する期待の低下を示すと考えら
れ、危険である。
15
○
株価は不良債権処理を含む構造改革を睨んで動く。株価は、小泉内閣の所信表明演説
時にピークを迎え、減損会計導入が依然として検討中であること等、改革へのコミッ
トが後退する兆しに反応し、下落して来ている。
○
改革の工程表を示したことは評価できる。最近の財政構造改革に向けた具体的な提案
に見られるように、構造改革は進んでいる。
<実体経済要因>
○
株価は企業の業績見通しを反映すべきものであり、企業側のファンダメンタルズが重
要である。近年の企業優遇政策により、競争力が低下してきており、非効率な企業を
切り捨てることが必要である。特に、市場は十年来懸念となっている特定銘柄の処理
がなされるかに注目している。
○
現在、いくつかの日本の製造業は世界一の競争力を持っているが、少子高齢化、中国
の急速な成長を背景に、競争力を維持できるか懸念がある(数年後に中国がキャッチ
アップする可能性も)。
マクロ金融政策
<デフレ・金融緩和政策>
○
デフレは高コスト構造、内外価格差の是正によるところが大きく、構造問題であり、
金融政策のみでは対応は難しいのではないか。円安誘導もオプションとして考えられ
るかもしれないが、実際にインフレ期待が高まり、長期金利が上昇した場合どうする
のか検討が必要である。
○
企業側の資金需要がなく、銀行から企業への融資活動も低下しているので、更なる金
融緩和による経済的な効果は限られているのではないか。これ以上の金融緩和に踏み
込むのであれば、事前に理由をよく精査するべきである。
○
インフレターゲットについては、金融緩和による物価上昇がどの分野に現れるかが不
明であること、インフレが一度始まった後、制御できるか不明であるため、望ましく
ない。金融政策に過大期待をし過ぎではないか。
○
日本銀行が一旦ゼロ金利を解除した後、ゼロ金利+時間効果ではなく、中途半端な量
的緩和に踏み切ったため、事態が混乱している。量的緩和を議論する際には、政府が
直接金融市場を育成していくのであれば、乗数がますます小さくなること等を念頭に
置くべきである。また、長期金利が実際に上昇した場合、設備投資の抑制要因となる
可能性もある。
○
日本銀行が不良債権を買い上げるべきという案があるが、買い上げによる損失やリス
クを誰が負担するのか、買い上げた後の処理はどうするのか議論を充分に行うべきで
ある。調整インフレを起こすのであれば、日本銀行ではなく、政府が調整インフレを
目標とする旨、宣言するべきである。また、国民の損失負担により不良債権を処理す
る前提であれば、むしろ、返済を前提とせずに公的資金を銀行やRCCに入れる、等
16
の方策がより現実的である。
<金融政策関連その他>
時間軸効果のため、債券市場は一方向の bet になっている。債券市場の取引高が減少
○
し、外部ショックに対するボラティリティーが高まる。また、債券の保有投資家が限
られており、分散が少ないことも相場の変動を大きくしている要因と考えられる。
論点2:政策関連
日本経済の危機は、逆に考えると、今までの日本経済のパラダイムを変える好機でもあ
り、しっかり将来あるべき姿を見据えた議論が必要である。同時に、日本は不良債権問題
を未解決のまま十年来引き摺っており、マーケットでの国際的な信頼は新興市場国並みに
落ちていることを念頭に置いて政策を打ち出す必要がある。
また、過去の政策の積み重ねによるクレディビリティーや政策を打ち出すタイミングも
政策の効果に影響を及ぼすことに留意すべきであり、現状の政策はその点の配慮が必ずし
もうまくなされていない。
不良債権処理処理策
<不良債権処理策一般>
○
不良債権処理は十年来の懸案事項であり、他の改革項目に優先する。不良債権処理に
関する日本の議論は、直接償却か間接償却の会計処理か、企業をつぶすかつぶさない
か、という本質から離れた議論にすりかえられているが、不良債権処理問題はどこの
国でも銀行の引当の問題であり、その処理は会計上の問題である。銀行は、すでに破
綻懸念先以下の債権引当をほぼ終了しており、要注意先債権に適切な引当を行うこと
が重要である。
○
時価評価基準導入を背景に、金融機関のバランスシートを透明化すれば、金融機関が
不良債権を積極的に処理するインセンティブが生ずる。担保となっている不動産を時
価で評価することにより、債権の担保による保全状況を明らかにし、その後、貸出債
権について時価会計とすべきである。その点で、減損会計導入が依然として検討中で
あることについて、マーケットから懸念が示されている。
○
金融監督当局、金融機関のディスクロージャーに対する不信感が基本的にある。要注
意先債権の動向、農林系金融および地銀の不良債権の正確な把握とディスクロージャ
ーが求められる。
○
政府は最終処理の影響を楽観視している。持合い解消等の様々な要素を検討し、例え
ば、どれだけの労働市場の safety net を用意する必要があるのかを示すべきである。
また、最終処理後の金融システムの具体像を示すべきである。
17
<デフレと不良債権の関係>
デフレのために不良債権が生じるのであり、逆の因果関係は少ないとの見解と、銀行・
企業の不良債権問題が日本経済の成長を妨げ、デフレを引き起こしているとの見解に分か
れた。
○
不良債権を新規に発生させないためにデフレ対策をしてから不良債権処理をするのか、
あるいは、不良債権処理後に発生するデフレ対策を行うのかの判断が必要である。他
国では、ほぼ後者の政策を採用しておりV字型に回復、日本では十年来前者の政策を
採っており、不良債権問題を引き摺っている。
○
積極的な不良債権処理にはある程度の株価回復が必要である。また、不動産の流動化
が進んでおらず、都心を除く地価の下落が止まっていないことも問題であり、土地基
本法の見直しも含めた抜本的な改革が必要である。
<金融機関の行動>
○
金融仲介機能を果たせない金融機関は淘汰すべきである。銀行は中小企業に対して積
極的な融資を展開しようとしておらず、現状のままで推移するならば、新貸し金業の
ようなものを別途作るのも一案である。
○
貸し渋り発生はBIS規制導入、早期是正措置導入等の制度変更による影響が強く、
銀行株価や自己資本との関係のみでは考慮できない。
○
銀行が収益を上げるインセンティブに乏しく、銀行がクレジット・リスクに見合ったス
プレッドを取るように努力すべきである。このためには、貸出債権の時価評価が必要
である。また、経営方針転換のためには、政府による議決権行使や株式持合解消を進
め、株主の意向を敏感に反映するようにする等のガバナンスの変更が考えられる。
<民間・政府の役割分担、不良債権の流動化について>
○
政策金融がどれだけ市場をゆがめたのか、評価・分析が必要である。また、民間企業
で採算が取れるものは民間に任せた方がよい。民間金融機関の収益率が上がれば、不
良債権処理にも資する。
○
公的資金の注入は、早期健全化措置上のものだけではなく、銀行の経営責任を明確化
する等の明確な基準を設けて不良債権処理にも使用できるようにすべきである。
○
銀行保有株式取得機構についても、最終コスト等につき具体的な議論が必要である。
○
不良債権を銀行から買い取り、証券化し、国民に販売するとともに、担保土地を売却
する市場を育成し、そのような土地の利用価値を高める政策を採り、まずは地価の下
落を止めることが必要である。
○
不良債権売却に対する潜在的な需要はあるが、売り手と買い手の間で取引が成立する
価格が設定されないため、流通市場が育たない。流通市場育成のためには、銀行が不
良債権に十分な引当を行い価格を下げること、および、適切なプライシング・メカニ
ズム(債権の時価評価)を導入することが必要である。
○
RCCの債権回収、企業再建能力は信用できるか。米国等の経験を輸入するのもよい。
18
○
RCCに信託方式を導入する場合においても、リスクの最終的な受け手、ゲインが出
た場合のプロフィットシェアリングを明確にするべきである。リスクを金融機関が負
担している場合は金融機関による不良債権の飛ばしになる。証券化には民間の知恵を
借りる必要があり、特に証券化のスキームに解消のインセンティブを埋め込むことが
必要である。
○
RCCが不良債権を市場価値より高値で買い取り、差額を国が負担する場合は、国が
絡んだ飛ばしになるので、適切なプライシングが必要である。
市場活性化策
<将来あるべき金融市場の姿>
○
市場活性化の議論は、株価低迷時に株価の押上げだけを狙って行うのではなく、通常
から資金の効率化、透明性の向上という観点から行われるべきである。その観点から
最近の税制の議論にはおかしなものもある。
○
銀行の株式保有は、自己資本の不安定化を促進し、経済を不安定化させる。したがっ
て、銀行の株式保有を制限すべきであり、個人投資家に株を保有してもらう必要があ
る。
○
今までは銀行が莫大なリスクを取ってきており、銀行が機能不全に陥った90年台後
半には、資金循環が止まってしまった。複数の資金循環のルートを用意するという観
点からも直接金融市場の育成が必要であり、政府は直接金融市場を重視し、育ててい
くという明確な目標を掲げるべきである。
<税制関連>
○
証券税制の改革は、効果が薄い可能性がある。現在の減税が将来の税収増に結びつく
ような減税はないか。税はトータルで議論するべきであり、一度中立な税制の姿を議
論した後、税率面や手続き面で株式市場に有利な税制にする必要があれば、行うべき
である。
○
株式投資を促進するような税制が必要である。例えば、贈与税を相続税以下にする、
政府がターゲットを絞った 20∼30 社に徹底した減税を行う、企業が保有株式を売却・
再評価して自己株式償却を行う場合に優遇措置を取る、等が考えられる。
○
金融所得の包括課税を推進するべきである。その際に、納税者番号制導入等により、
捕捉度を上げることも検討すべきである。
○
簡易な納税制度が望ましいとの観点から、投資信託については利子並の課税(20%の
源泉分離課税)となっているが、投資信託を買い換える場合、損益通算できるような
仕組みが望ましい。
○
配当利回りは約 0.8%と、預貯金の利回りを outperform しており、株式譲渡益課税よ
りも、配当課税の減税枠を拡大した方が効果がある。
19
<その他の活性策>
○
直接金融市場に資金が回らなかったのは、間接金融に有利なシステムになっていたか
らであり、住宅金融、郵便貯金等の公的金融機関のシェア縮小、預金保険の限度額の
縮小等のシステム変更のための措置が考えられる。
○
直接金融市場の育成には時間がかかり、また、個人にとって株式はなじみが薄い存在
であるため、個人投資家にとって身近なツールである確定拠出年金、投資信託を育て
るのがよい。また、インターネットでの株式取引はすでに相当普及してきているため、
インターネットを使用しやすい環境を整備することにより、株式取引の裾野が広がる
と予想される。
○
直接金融市場が活性化しないのは、企業に魅力がないためである。企業はROEを重
視した経営を徹底すべきである。企業の自己資本比率は増大してきたものの、調達資
本を有効に活用する経営がなされていない。時価会計の徹底により、これらの遊休資
本を活用し、ROEを高める経営を進めるべきである。
20
結果とりまとめ −労働市場の動向−
論点1:労働市場の動向及び先行きについて
<労働市場の動向について>
○ 基本的に楽観できない。マクロ的な需要不足があるので、財政・金融政策が必要である。
また、正社員などの常用雇用の伸び悩みや、失業期間の長期化等から、労働ストックの
質が劣化している。
○ 失業率高止まりの原因は、循環的なものでなく、構造的なものである。戦後の終身雇用
型の製造業モデルから、就業形態の多様化を要請するサービス業モデルへ、という変化
がうまくいっていない。これは入職率の低迷として現れている。最近の離職率の上昇は
歴史的にみれば高くない。雇用再生のためには構造改革を進めて産業転換を図り、新し
い雇用の受け皿を創出して、入職率を引き上げていく以外に途はない。
○ ミスマッチは大きな問題。求人倍率は、専門・技術職では高いが、必要な能力が明確で
ない企画・管理職では低い。専門・技術職では、実務経験や資格に対するニーズが高い
が、実際にそうしたものを有する者は少ない。転職する際、どのような実務経験や資格
が必要とされるかといった点を細かく把握し、政策に生かすべきである。
<労働市場、失業率の先行きについて>
○ 失業率は5%半ばくらいまで上昇し、その後高止まりするだろう。高止まりするのは、
今後景気が回復した場合、ディスカレッジドワーカーが職を探し始め、これが統計上失
業者となるため、失業率が低下しないからである。
○ 今後3年以内に失業率が7%に達する恐れもある。ただ、最近顕著な非労化の動きを勘
案すれば、現実にはそこまで上がらないであろう。また、構造改革により不良債権処理
が進めば、設備投資増額など企業活動が前向きになり雇用も増えて行くはず。さらに、
雇用の受け皿としての新しいサービス産業育成に向けた制度改革が軌道に乗れば、最終
的に失業率は再び低下するだろう。
<不良債権処理の雇用に与える影響について>
○ 内閣府の試算は優れているが、マクロへの波及効果を勘案すると、景気全体への影響は
必ずしも小さいものとは言い切れない。
○ いわゆる民間の試算は一般企業を対象に含め、内閣府の試算は倒産企業のみを対象とし
ている。前者は離職者数が過大な、後者は過少なおそれがある。また、不良債権処理の
影響だけでなく、財政再建の影響やグローバル化による製造業雇用急減の影響等も含め
て試算するべき。さらに重要なのは、失業者の中身で、ブルーカラーがより大きな影響
21
を受けるはずである。また、再就職した離職者は生涯所得が下がり、消費へも影響があ
りうる。そうした人達を前提に政策を考えるべきである。
○ 処理対象債権額を主要行の破綻懸念先以下債権とすれば、内閣府試算はある程度の妥当
性がある。しかし、リスク管理債権まで含めると、影響は大きく拡大する事態も想定で
きる。
<雇用の流動化、就業形態の多様化について>
○ 雇用の流動化は進めるべきである。今後、企業の雇用責任は、雇用の受け皿となること
より、個人のエンプロイヤビリティを伸ばすことの方になる。
○ 企業のパートなど非正社員に対する需要が高まる一方、労働者は正社員と非正社員との
待遇、地位等の差が大きいため、非正社員への抵抗が強い。こうした需給の意識のずれ
が、労働市場の円滑な作用を妨げており、雇用形態の多様化への対応を進めるべきであ
る。ただし、現在のように景気が悪化し、買い手市場にある中では副作用が大きいので
拙速は避けるべきである。
○ 99 年の労働者派遣法改正により、派遣労働、特に新たに派遣対象業務となった営業職に
対し、地方企業、中小企業を始めとした需給両面からの関心の高まりがみられる。また、
テンプツーパーム(紹介予定派遣)の利用は拡大している。派遣労働においては専門能
力やスキルが重視されており、派遣会社も派遣労働者の教育を重視、実践している。専
門能力の育成という点では適した労働形態である。
<その他、労働市場の動向について>
○ 非労化の問題がある。失業率はそんなに上がっていないが、ディスカレッジドワーカー
が増加している。また、自営業主・家族従業者の減少も大きい。アメリカでは自営業主・
家族従業者が一種のセーフティネットとなっており、こうしたことをどう考えるのかと
いうのも問題である。
論点2:骨太の方針その他の政策対応について
<政策対策について>
○ 職業能力開発対策や就業形態の多様化対策により新しい産業へ労働力移動を進める構
造調整が必要。しかし、そもそも需要不足がある中で行っていいのかという問題がある。
現在の失業者で最も困っているのは、ブルーカラーや非労化している人などのスキルの
低い労働者であり、そういう人たちをどう雇っていくかということにも留意する必要が
ある。
○ 総需要管理政策では雇用問題は解決しない。必要なのは構造改革であり、それには3つ
22
のポイントがある。1つ目はサービス業などの新産業を、競争原理を入れていくことで
伸ばすこと。2つ目は、サービス業は多様なニーズに対応するために就業形態の多様化
を要請するので、生活扶助システムなどの社会保障のしくみを見直すこと。3つ目は、
中高年やブルーカラーの失業に対する過渡的なセーフティネット対策。これら3つを包
括的に出さないと国民へ安心感は与えられない。
<政府の直接雇用について>
肯定的意見
○ 必要とされる公共サービスで短期的に行い、長期的には民間へ移譲すべきである。民間
活力だけで新産業が生まれるかは疑問であり、政府の直接雇用には意味がある。
否定的意見
○ 直接雇用については、懐疑的である。政府の行革に反するし、市場の自発的な成長力を
抑えることになる。行うとしても、PFI的に最終的には民間へ移譲することを前提と
すべきである。
<530 万人雇用創出計画について>
○ 努力目標。ただ、不可能ではないし、そういう方向しかない。
○ 規制緩和だけでなく、高齢者の消費を伸ばすなどの新たな政策もあわせて行わなければ
実現は難しい。
○ 雇用創出の内容をみると、大半がいわゆるチープレイバー。生産性の低い人の方が労働
移動の対象となりやすいことを勘案すると妥当ともいえるが、今後の日本の有り様とし
ていいのかという点では釈然としない面もある。
○ 数値化したことは評価するが、プロセスをよほど工夫しないと実現は難しい。また、過
去にも同様の雇用創出計画があったが、それらの結果の検証も必要である。
<その他の政策対応について>
○ 職業能力開発を目的とした企業大学やコミュニティ・カレッジの創設、「キャリア・ブ
レイク(教育のための休業)」制度の導入、企業による「能力証明書」の発行(日本版
スキルスタンダードの構築)等を提案する。また、無料のインターネットプロバイダー
を作って職探ししやすいようにするなどの政策も考えるべきである。
○ 現在、派遣スタッフは派遣業者の従業員とみなされ、派遣業者はその分の障害者雇用責
任、産業医設置責任等を負っている。これは派遣業の発展の上でひとつの障害となって
おり、特例等の措置の検討が望まれる。また、派遣に関する許認可手続きについても簡
略化が求められている。
23
結果とりまとめ −住宅・土地市場の動向−
論点1:住宅・土地市場の現状把握及び見通し
<住宅市場の動向について>
○ 住宅着工が今年に入って 110 万戸程度まで減少した背景は、住宅減税効果が昨年までに
出切ったことや地方を中心とする景気低迷等にあろう。特に、建て替え需要による注文
住宅の減少が大きい。少子化等の中長期的な展望からすると、これまでの着工水準が高
すぎたという見方もある。
○ 一方、分譲マンションや貸家建設は、各々都心回帰現象や更新時期の到来といった背景
から比較的好調。昨年は、首都圏で 9 万戸以上の分譲マンション供給があった。広い物
件が売れており、成約率も高い。
○ 都心居住のニーズは高く、従来からあり、それが地価下落等によって顕在化している。
ニーズはあるので、道路・公園等のインフラ整備や商業・医療施設の併設など、地域利
便性を高めることで今後もこの動きが拡大していく余地がある。
○ 公庫持家・貸家が減少して、民間資金住宅が増加している背景は、公庫貸出基準が厳し
くなったことと民間金利水準が低下しているためと考えられる。公庫持家の金利は
2.5%だが、11 年目以降は 4%である。通算すると安くはない。民間銀行の一部には 30
年貸し出す商品が出てきた。
<土地市場の動向について>
○ 都心の一部では大型オフィスの建設が続いており、賃料や地価が上昇している。ただ、
これが今後も続くかは分からない。広尾や青山などのように特定地区で良いところがあ
るが、需要は二極化している。
○ 地方のオフィス市場は厳しい。空室が多く賃料・地価は下落している。都内が3%台な
のに対し、地方の空室率は 20%弱である。この秋以降、銀行等による不良債権処理の過
程で多量の処分が続けば、利用価値の乏しい土地の価格はさらに弱含みとなろう。
○ 不動産業界に土地を新規購入して自ら開発するような体力はない。生保等の機関投資家
は収益不動産には投資しているが、開発投資は止めている。ディベロッパーは、新規開
発を共同もしくは不動産投資信託を通じ投資家の資金を導入する形で行っている。これ
は大きな変化である。
○ 外資系企業は、日本経済は規模や質等の観点からAクラスと見ており、現在は少し力が
ないだけと考えている。中長期的には、外資系企業による不動産投資意欲はまだまだ大
きい。
○ 公共投資の削減は、地方の地価に大きな影響を及ぼす。しかし、従来のバラマキを続け
24
るわけにはいかない。公共投資によって地価を上げるより、地域産業を育て、持続可能
な需要を形成してくような着実な努力が必要である。
論点2:政策「骨太の方針」などについて
<中古住宅市場の整備>
○ 我が国の中古住宅市場は、諸外国に比べて異質と言えるほど規模が小さい。住宅ストッ
クを活用していくために、中古住宅市場を整備し、流通を促進する必要がある。リフォ
ーム等の有無にかかわらず、建物の流通査定価格は新築から 15 年程度で残存価値だけ
となってしまう。リフォームによる価値の復元を評価するような新たな査定基準を導入
するとともに、成約価格など売買判断に資する情報が容易に入手できるような市場整備
が必要である。登記時に取引価格を明示するよう義務付けてはどうか。課税標準やレイ
ンズデータの開示を進めることも意義深い。
○ 昭和 50 年代以前に建築された住宅の配管・配電などの設備水準は低い。敷地面積も狭
く耐震基準も古いなどの問題がある。安全面からも、これらのリフォームや建て替え等
を促進させる施策が必要。同時に、住宅の物理的状況を検査する制度や保証制度等を普
及させる必要がある。
○ 信頼できる成約価格情報が得られ、建物の瑕疵等の問題が緩和され、適切なリフォーム
が建物の価値の維持に役立つことが分かれば、中古住宅の取引は促進される。リフォー
ム投資も拡大していくはずである。
<職住接近>
○ 地価下落により、都心回帰が進行しやすい状況にある。容積率や日影規制の緩和、道路
などのインフラ整備を進め、有効利用を促進しやすい環境を整備すべきである。ただ、
再び過剰な都心集中現象が生じることのないように、職場を拡散して居住に近づけると
か、在宅勤務の拡充といった視点に立った検討も必要である。
<担保不動産の証券化>
○ 投資家に売却可能あるいは有効活用の可能な良い物件が少なくなった。地方のリゾート
地のように、収益で地価を算出すると価値がマイナスになる物件も多い。有効利用促進
のために、資産価値がマイナスでも処分するような英断が、都市・地域再生のために必
要となる。
25
<土地の整形・集約化>
○ 従来のように、国が画一的に都市計画基準を決めるのではなく、地方に全権を委譲し、
地方が主体となって地域実情に合わせた個性的なまちづくりを促進できるようにすべ
きである。
○ 投資家から直接金融で資金を得る場合、収益確保まで時間がかかりすぎて話が進まない
ことが多い。こうした時間をどう減らすかが課題。再開発法に基づく市街地再開発事業
の施行には、地権者の 3 分の 2 以上の同意が要件だが、建築基準法の一団地認定のため
に地権者全員の同意が必要となる。このような場合は適用除外にすべきである。土地区
画整理事業や市街地再開発事業のような認可事業の施行によって行う道路の新設や廃
止に際しての道路法上の手続き(地方自治体の議会手続き)も廃止すべきである。
○ 土地の細分化が都市再生を妨げている。今の地権者は、土地を細分化したほうが得だと
考えている。細分化を規制することは難しいので、広い土地の方が地権者にとって有利
となるようなインセンティブを考慮する必要がある。
<地方への対処>
○ 今後、都市再生事業が一層困難になると判断される地方の支援のためには、当該地方を
リードしていく人材の育成や派遣が重要である。まちづくりのプロを民間等から登用す
ることも考えていくべきである。失業対策、職業訓練、雇用促進、産業振興なども再生
事業の一環となる。
<税制>
○ 不動産流通の活性化を促すためには、より投資インセンティブが働く税制にすべきであ
る。投資家にとって初期負担が重く、投資阻害要因となる不動産取得税や登録免許税な
どの流通税は廃止し、投資収益に対し適切に課税するような仕組みに税制を転換してい
く必要がある。
26
結果とりまとめ −IT関連市場の動向−
論点Ⅰ.IT関連市場の現状把握及び見通し
ソフト面に比べて、ハード面は悲観的意見が多かった。
悲観的意見
<ハードについて>
○ すでに、最終需要財は将来の成長余力までも先取りしており、このままでは成長軌道に
乗せるのは難しい。携帯電話も緩やかな成長に移行する。最終財が伸びない以上、国内
を対象とした中間財は全体としてパイが伸びる可能性は少ない。したがって、カギは海
外市場でどれだけ競争力のある製品・メーカーが出てくるかにかかっている。
○ 既存製品の需要は一巡。技術革新により価格低下が続き海外製品の流入が続く。
○ ハードの性能が良くなっただけでは売れない。客が買い換えるだけの価値を見出せるか
が重要で、ソフト、サービス面での付加価値が必要である。
○ 需要が弱く、大幅な供給過剰。構造的問題であり時間を要する。
<ソフトについて>
○ ブロードバンドが普及するとコンテンツビジネスが急成長するという期待は間違い。最
終的には、コンテンツを利用する消費者がどれだけメリットを感じてお金を払うかにか
かっている。
○ システム構築投資は一段落し、代わって、インターネットソリューションへの投資が増
えているが、1 件当たりの投資額が小規模なため差し引きではマイナスの方が大きい。
○ 携帯向け情報サービス事業は今後とも成長を続けるが、1 件当たりの金額が数百円単位
と小規模なため市場規模は小さく、業界全体を底上げすることはできない。
○ ソフトウエア開発の生産性が上がっていない。新しいハードをタイムリーに供給するに
当たって、ソフト開発がネックになっている。
○ ITはサービスの比重が大きい。ハードの機能向上にソフトが追い付いていないのが現
状であり、サービス系のベンチャーが出てこないと厳しい。
<放送と通信の融合について>
○ 放送=コンテンツ、通信=伝達手段であり、両者が基本的に補完関係にあるため、放送
と通信の融合が必ずしも両サービスの収入の和(つまり市場規模)の拡大にはつながら
ない。むしろ、市場規模自体がシュリンクする可能性も十分に考えられる。
○ ブロードバンド時代には、インターネット等を通じた動画像や音楽などの配信がビジネ
スとして可能性があるが、マスを対象とした広告モデルによる配信には限界があり、ど
27
のようにユーザーから課金していくかがポイントになる。
<欧米市場について>
○ IT関連市場の冷え込みは、ITバブルの崩壊が要因であり、株価が戻らない限り回復
は困難である。また、日本のハードメーカーの業績が回復するためには、日本だけでな
く世界レベルで携帯電話やパソコンなどの市場が回復する必要があり、それには時間が
かかる。
○ 欧米では、そもそも文化的背景として、携帯電話を音声機能以外に使用するとは考えに
くい。次世代携帯の普及も厳しいのではないか。
<日本企業のあり方について>
○ 日本のITメーカーの競争力は年々低下している。そうした中で、世界的な価格競争に
巻き込まれ、日本メーカーは迅速な対応ができていない状況にある。
○ 日本企業の競争力は落ちており、その要因として経営のスピードの遅さが挙げられる。
日本は人が流動化していないので、成長力あるところに金だけでなく人も集まらない。
このままでは世界をリードする企業は現れない。
○ 最良のソリューションに合わせて企業を徹底的に作り変える米国に比して、日本は各社
独自の従来のやり方に固執し、IT化のメリットを享受できない場合が多く、一部勝ち
組企業が積極的に変革しているのみである。
楽観的意見
<ハードについて>
○ 年明け以降パソコンと携帯はかなり在庫調整が進んでいる。在庫循環論としては明るい
兆しがある。
○ 欧米では、次世代携帯電話サービスの利用形態が見えてこないが、日本では、すでにi
モードも普及しているので次世代サービスもある程度の普及が期待できるだろう。
○ IPv6の導入により、日本が強い自動車や家電、モバイルとネットワークを組み合わ
せてアプリケーションを考えるとかなり期待できる。
<ソフトについて>
○ 今後、大企業や既存企業のインターネットビジネスが本格化し、サーバーやネットワー
ク機器を中心としたハードウエア需要、企業向けインフラビジネス、システム構築のコ
ンサルティング、ウェブ作成・維持などの需要が本格化する。
○ 企業の業務プロセスの標準化が進み、情報システム化ニーズは当面続く。SCM等企業
間連携に係る情報システム化ニーズも簡単には衰えない。
○ 既存企業のeビジネス化は増加傾向であり、1 件当たりのビジネスボリュームも大きく
28
なっている。サービス面で考えればまだまだビジネスの芽はある。
○ ソフト、サービスは今後も需要は減退しない。ただし、ソフト中心のIT化はデジタル
デバイドの問題を生み、雇用への期待はあまり抱けない。
○ 日本のこれまでの工業経済(リアルな経済)とデジタル経済の調和が取れるまで、一時
的に需要の調整期間があったとしても、まだまだ情報化は進み、市場は拡大する。
○ システム開発の開始時期が欧米よりも4∼5年遅かったので、ソリューションビジネス
は今後3∼4年は伸び続けるのではないか。
○ 日本においては、ネットに対する取り組みが遅く、先食い的需要もなかったため、依然
として大きな潜在需要がある。ただし、この需要を喚起するためには「新しい事業、産
業を創造していく仕組み」が求められている。
論点Ⅱ.政策関連
○ 電子政府を実現してIT化のメリットを日本全体に知らしめることで、民間企業自らが
変わっていくトリガーとすべき。政府(省庁などの行政機関)でも若手がもっと活躍で
きるような環境が必要。また、電子政府の実施に当たっては利用者側にどうメリットを
与えられるかを徹底的に考慮すべきである。
○ ベンチャー振興策を考えるべき。建設業的下請け構造がソフト開発にも残っており、コ
アプログラムを上手く作った人に適正な報償が支払われていない。その結果、優秀な人
材が創業できない事態になっている。
○ ドミナント規制については、移動体通信には導入すべきではない。移動体通信市場はゼ
ロからの立ち上げで競争の結果現在のシェアがあり、NTT東西のようにアクセスチャ
ージを取っているわけでもない。
○ IT産業では、ダイバーシティ(多様性)が重要である。ベンチャー企業も含めていろ
いろな企業がいろいろな分野でイノベーションを目指すような環境を整えるべきであ
る。
○ 知的財産権制度を整備し、個人のアイデアを重視する政策をすべきである。
○ 「e-Japan 重点計画」には賛成だが、少しでも早く実施することが重要である。
○ 電子署名や個人情報保護といったe−ビジネスのルール作りが未だできていない。
○ 一部地域を経済特区化して世界中から情報産業のリーダー企業を呼び寄せるのも一つ
の方法である。また、IT関連企業への超優遇金利制度なども導入すべきである。
○ 預貯金の元本に“構造改革税”などの名称で 1.5%程度の税金をかけ、資本市場に資金
を流すとともに、「チャレンジャーを優遇する」という政府のメッセージを伝えるとの
提案がネット系ベンチャー界で議論されている。
○ 大学や大学院でのソフト開発面での教育や職業人教育をしっかりやってもらいたい。
29
○ 自治体主導の「IT講習」は一定の評価はできるので、継続的な講習を行うことが求め
られる。ただし、その内容を利用者のニーズに合ったものにする必要がある。
<中小企業のIT化推進策について>
○ 中小企業の戦略的情報化投資の実現には、経営とITが分かるコンサルタントの活用促
進に対する補助金の拡充が必要である。
○ 税制面での優遇措置が即効性のある対策である。
○ マーケットで一定以上のシェア上昇を達成した優良なアウトソーシングサービス業者
に一定期間補助金を支給して、アウトソーシング化を奨励する。
○ どのようなシステムが重要であるかは個々の企業の事情に依存するものであり、また、
パッケージソフトもASPも自由競争によりデファクトが進む性質のものであるので、
基本的には市場に委ねるべき問題である。
<周波数オークションについて>
○ ドコモはすでに多くの税金を支払っており、欧州的な発想で周波数オークションを導入
する必要性はない。ただし、香港で予定されているケースのように適切に設計されれば、
日本への参考となり得る。
○ 高値落札により新技術によるパラダイム変化に追随する活力をそがれるというリスク
を負うことになる。
○ 欧州の通信業界の問題はオークションであった。
○ 現在は地上波が多くの部分を占めており、データ通信の部分が少ないので、それを広げ
るという意味でオークションは一つの手かもしれない。
30
(参考資料)
IT関連市場(ハード)の回復時期についての各委員見通し
理
回復時期
由
今年末頃には、在庫調整も一段落して、最終需要のところまでデバイ
ス生産は上昇に転じよう。企業(ハイテク)の業績も 3Q が底になると
今年末(1名)
考える。ただし、最終需要の伸び悩みが予想される中、一時的な回復
に止まる可能性もある。需要を喚起する可能性がある WindowsXP、
GPRS 等の新製品に期待したい。
半導体、液晶などデバイスの在庫循環は最終局面に入りつつあるが、
来年初め(1名)
最終製品の需要は次世代携帯の本格的立ち止まりで大型需要が期待
できない。
牽引役となるパソコン、
携帯電話は一定の普及率に達しており、
当面、
買い替え需要も期待できない。
パソコン…性能よりも、通信速度に目が向いている。一方海外製品の
流入により低価格化が加速する。
携帯電話…買い替え需要あり。ドコモの FOMA に期待したい。端末
の価格とコンテンツ次第であろう。
(以下の回答は IT 市場全般に関するもの)
来年中頃(3名)
回復時期は、設備投資がいつ回復するかにかかっている。
その時期は、
来年はじめにソフトランディングすると大方の予想で言われている
米国の景気と密接に関連しており、日本も来年の半ばには、景気後退
から回復基調に乗り、
それに伴い、設備投資も回復するのではないか。
市場をウォッチしているわけではないので明確な根拠があるわけで
はないが、WindowsXP による P C 需要のある程度の回復、ブロード
バンドの普及による通信機器への需要、
次世代携帯電話のサービス開
始などの要因が考えられるのではないか。
日本市場が自主回復できる場合は来年中頃、米国の回復に頼る場合は
再来年以降になると考える。米調査会社 IDC によると、2001 年の米
国のコンシューマー向け P C 売上は 17.3%減少する見込。また、2002
年まで米国でのハード面での市場低迷は続くと見ている。輸出に頼る
再来年以降(1名)
日本企業は米国の景気減速に大きく影響を受けるのは必至。
しかしな
がら、CRM・ERP 等による需要の喚起、P C 普及率の低い地域への
輸出、新規産業・事業の創出による新しい需要の創出等により、日本
市場が自主回復する努力を今年度中に行えば、
来年中頃には市場回復
に向かうことも可能。
PC は企業向けは企業システム増強に伴って順調に伸びる。消費者向
けは来年には買い替え需要が期待できる。ただし、海外の不振が長引
時期明示できず(1名) く恐れがあるため、回復力は弱い。携帯電話は国内は FOMA が本格
スタートしてから。
これも海外の不況が長引けば国内生産の不振は続
く恐れがある。
31
参 考 資 料
議
事
概
要
○ 海外経済の動向
・・・・・・・・・・・・・・・33
○ 日本の景気動向
・・・・・・・・・・・・・・・39
○ 金融市場の動向
・・・・・・・・・・・・・・・52
○ 労働市場の動向
・・・・・・・・・・・・・・・67
○ 住宅・土地市場の動向・・・・・・・・・・・・・・・74
○ IT関連市場の動向 ・・・・・・・・・・・・・・・80
○ 全体会合
・・・・・・・・・・・・・・・84
32
経済動向分析・検討チーム(海外経済の動向)
議事概要
1.日時:平成 13 年 8 月 8 日(水)18:30∼20:45
2.場所:第4合同庁舎 545 会議室
3.出席者:経済動向分析・検討チーム委員;別紙参照
内閣府;岩田政策統括官、大村審議官、薦田審議官、佐久間参事官、他
4.議事概要:
冒頭、岩田政策統括官よりあいさつが行われ、次いで佐久間参事官から議事の説明、委
員紹介がなされ、モデレータを武者委員にお願いすることを決定した。
引き続き佐久間参事官より資料1に基づき海外経済情勢につき説明がなされた後、討議が
行われた。
論点1
世界経済回復のシナリオについて
○世界経済はL字型かチェックマーク型のごく緩やかな回復となる。深刻な同時不況は回
避できると考えるが、リスクは依然残っている。
考慮するべきは以下の三点。①世界的に貯蓄過剰となっており、資金の新たな投資
対象があればそこが牽引して回復するが、何もなければ同時不況の局面を迎える可能
性が高い。②米国は2段階の調整局面を迎えるだろう。現在はITが調整局面、家計
やオールドエコノミーは堅調という状況だが、年末には後者も調整局面入りする。③
IT不況は現在はコアの部分で限定的に起こっているが、これからは米国からアジア、
ハイテクからオールドエコノミーへと連鎖的に波及する可能性がある。グローバルな
回復は近い将来には困難であり、緩やかな回復というのがベストシナリオ。
○現在の需給ギャップの世界的拡がりは、これまでとは異なり、供給が多すぎることが原
因。政治的には困難かもしれないが、過剰生産の抑制が必要。
米国はU字型とL字型の中間だが、L字型に近い回復を想定。IT関連ではこれま
でハードが減っていたが、今後はソフトも減少する可能性がある。高い賃金上昇率が
問題。そもそもこれまで企業収益が悪いのに伸びていたのがおかしい。テレコムセク
ターの不良債権も心配。楽観的な見方もあるが、総額がわからず、信用不安が足を引
っ張る可能性がある。
欧州は、いくつかの国でIT不況の影響がある。ECBは物価重視で反応が悪く、財政
出動も考えにくい状況。
中国は好調でいい数字がでている。また、中国の内陸部は新しい国を発見したようなも
ので、中国の経済発展モデルは、初期のアメリカのような国内開発モデルに変わっている。
総論としてはあまりいいニュースはない状況。ただしIT革命はだめであったとは思わ
ない。コストダウンに寄与している。
33
論点2:世界経済のダウンサイド・リスクについて
(アメリカ経済の回復の遅れ)
○4−6月期は政府支出、特に地方政府支出によってかろうじてプラス成長となっており、
既に民需リセッション。地方の歳入は落ち込んでおり、7−9月期以降は地方政府支出が
減少に転じる可能性が高い。投資は受注統計をみると今後も2ケタ減が見込まれ、底をつ
けた後も底這う可能性が高い。90 年代の貯蓄率低下は株を保有する所得上位 20%の階層
によるということなので、株の逆資産効果が全体の消費を引き下げる可能性が高い。最近
の消費者景況感指数も、高所得階層で一層悪化している。減税はクリスマスと年初のバー
ゲン以外は期待できないので、2002 年春以降は危ないのではないか。
(岩田政策統括官)政府支出、特に州政府が伸びているのはなぜか。また減税の効果は定量的
にはどの程度とみるか。
○州政府の支出増は、公共工事が増えていることによるが、理由はよくわからない。しか
し足元で地方歳入が急速に落ちており、先行きは減少すると考える。減税については、注
目すべきは年初に遡って所得税率を 10%とした分の 380 億ドル。このうち半分から1/
3くらいが消費に出て、使うタイミングはクリスマス商戦のあたりと考えており、12 月
∼1月頃に年率換算 0.25%くらい引上げるとみる。
○これまで 2001 年は1%後半、2002 年は2%半ばの成長とみていたが、これは少し楽観
的すぎるかもしれない。減税の効果は7−9月期には出始めるのではないか。GDP押し
上げ効果は 0.2%程度とみている。地方財政については、税収の悪化で厳しくなるのは間
違いない。
○米エコノミストに聞くと年内回復という意見があるが、日欧のエコノミストの見方は悲
観的である。米エコノミストの見方は非常に楽観的であるという印象を受ける。90 年代
に米国がITの輸入を伸ばした結果、アジアは米国経済の影響を受けやすくなった。米国、
アジアの関係は 90 年代に構造変化があったと考える。
○日欧のエコノミストとは一致するが米国のエコノミストとはギャップを強く感じる。米
は楽観的、日欧は悲観的で両方ともバイアスがあるのではないか。
90 年代後半、米国は異常な状態にあった。米企業買収M&Aで、米国金融市場に異常
に資金が入ってきた。これがITバブルに影響している。
(IT不況とアジア経済)
○アジア経済の見通しは以前は4−6%成長であったが、最近は1−3%成長程度に落ち
ている。アジア危機後、アジアはまず対米で、その次に日本、最後に域内の順に輸出が急
拡大し、回復したが、現在はその順に輸出が不振に陥っている。金融面の政策対応はすで
に行っており、財政出動は困難。政策は手詰まり感がある。アジアの回復には、米日の回
34
復が鍵となっている。中国は好調だが、財政による内需の下支えは息切れしており、成長
率はやや落ちてきている。総論としては、第3∼第4四半期を底とした緩やかな回復を見
込む。
(佐久間参事官)IT過剰投資に関し、企業の財務、過剰負債をどうみているか。ITストッ
クの名目額は、価格低下のため実質でみた場合の過剰ストック程にはふくらんでいないの
ではないか。
○ドットコム関連でどんどん倒産している。企業の財務はだいぶ痛んでいるのではないか。
○過剰債務については、民間部門の負債は増えている。ドットコム、ネット企業はバブル
の破裂により、財務の裏づけのない新規参入企業が倒れている。IT投資の名目GDPに
占める割合については、米国のデフレータは質も考慮しているために実質値が大きくなっ
ている面があるのはその通り。
○アジアは対米依存が高く、米国への輸出が伸び悩んだとき回復のルートがない。かなり
深刻な状況であり、しかもそれが長引く懸念がある。ただし中国だけはまだ内需を伸ばす
余地があり、一人当たりGDPもまだ低く、高い成長が可能。
○アジアは今回のITバブルで高成長を果たし、その中で日米の委託生産が増加したが、
そのためかえって深刻な経済悪化につながる懸念がある。
○雁行形態的発展モデルは 97 年以降壁にぶつかっている。アジアは自立成長に移ったと考
えがちだが、むしろアジアはグローバル分業に依存して発展してきた。
○アジアの持続的発展には日米のアブソープション機能が重要な役割を果たすが、今回は
それがない状態で米の不況が直撃している。中国にはまだアジアを引っ張る力はない。
○日本は中国からの輸入が労働力の輸入であり、必要であるということを理解すべき。摩
擦になったときのコストは非常に高くつく。
(ユーロ圏経済におけるインフレ懸念と低成長の並存)
○ECBの目標は Fed と違い物価安定のみ。99 年以降の成長の要因としては、労働市場の
改革による雇用の拡大、米国を中心とした外需の寄与、減税政策といったものがあげられ
る。今後のマイナス要因としては、失業保険や雇用のミスマッチといった労働市場の問題、
少ないながらもITバブルがあること、対米など外需の落ち込みがある。
○インフレと低成長の並存懸念は今はなく、低成長は避けられないが、インフレは高まら
ない。ECBはもう一度金融緩和をやりたくともできない状況と考える。ユーロ圏は2%
成長と頑張っているが、世界経済全体を牽引できるかというと無理だろう。
○アジアにとって、現在は欧州が輸出先として唯一の頼み。
○世界同時不況につながる懸念の一つは、欧州経済に牽引力があまりないこと。ITバブ
ルで携帯電話にかなりの資金投入がなされたが、効果が出ていない。ECBは本来は金利
を下げなければならないができない状況。ドイツが減速しているが、これは他国に比べ輸
出依存度が高く、対アジア輸出が落ちているため。米国との比較で、世界経済に対する牽
35
引力はかなり落ちる。
○ユーロは米欧それぞれの経済状況を考えれば本来もっと強いはず。ユーロに対するネガ
ティブな期待が一巡すれば、ユーロがアンカーの役目を果たす状況になるのではないか。
○ユーロ圏は内部の意見調整に悩んでいる印象。ヨーロッパには南北アメリカにおける米
国のようなまとめ役が存在しない。投資家も今以上の政策対応は期待できないとみており、
そのため資本が米国に逃避している。
(OPECの減産が原油価格に与える影響)
○OPECは1バレル 26−28 ドルを目指しているが、世界需要が減ってくれば価格維持は
難しい。99 年のように大幅に下落する可能性がある。大幅に下落すれば当然貿易、物価、
為替などに影響が出てくるし、ユーロに有利に影響する可能性がある。
(新興市場諸国における金融情勢混乱の波及)
○アルゼンチンの混乱がアメリカへ波及する可能性は低い。むしろ欧州特にスペインの銀
行への波及を懸念。米財務省は救済しないことで方針を固めつつある。
○各国それぞれのリスクはあるが、伝染(Contagion)発生の可能性は低い。97 年以前との違
いは、固定相場の国はほとんどないこと、レバレッジの高い資金の流入は少なくなってい
ること。投資家はアジア危機から教訓を得た。
○米−アルゼンチン関係では、米銀はもともと警戒的であったため、影響は少なくて済む
だろう。米−ブラジル関係は増えており、万一ブラジルに飛び火すれば問題だが、その可
能性は低い。
○アルゼンチンは外貨準備が潤沢でない中でカレンシーボード制をとっているが、ブラジ
ルは変動相場制に移行しており、ブラジルへの波及可能性は低い。
(米国利下げの可能性、ドル高の継続もしくは下落の可能性)
(岩田政策統括官)Fed は 8 月におそらく利下げを行うだろうが、その後年内にさらに利下げ
する可能性をどのくらいとみるか。その場合、長期金利、ドルレートへの影響は。
○8 月のFOMCでは利下げが行われるだろうが、10 月のFOMCは5分5分。Fed のメ
インシナリオは年末にかけて緩やかな回復を見込むもの。一方リスクシナリオは年内は底
這い。それぞれの実現可能性は半々くらいとみているのだろう。
利下げの効果がでていないのは本来ドル安になるところがそうなっていないし、銀行の
融資基準が厳しくなって、貸し出しが減っているから。アルゼンチンの破綻、製造業の不
満、金融政策などドル安になる環境は揃ってきている。
経験的に、経常赤字幅が拡大を始めてから2年半後くらいにドルの実効レートが下落す
る。ちょうど2年半前が赤字幅が拡大し始めた時期にあたっている。
○金融政策はバブルの完全な破裂を回避するため、資産価格の下落防止をターゲットにし
36
てきた。これ以上金融緩和しても、長期金利が下がって資産価格を支える効果は期待でき
ない。利下げでドルが下がるとかえってマイナスになる恐れもある。Fed のスタンスは、
8月の後は、警戒的になるのではないか。
○Fed の以前の利下げは V 字型の回復がU字型にならないためのもので、金利や為替への
影響は限定的であった。今は U 字型がL字型にならないためのもので、当然金利と為替
に与える影響は違ってくる。
○ドルが持ちこたえているのは、今持ちこたえていればまた投資機会がくるという考えに
よる面がある。もし米国の回復が遅れるという見方が広まると、ドル高の維持は危なくな
る。
論点3:政策対応について
○国債を 30 兆円以上は発行しないとしているが、もし金融が不安になるときに必要となる
発行を 30 兆円の中に含めて考えるのか。昔米国でも議論となったが、金融システム維持
のための国債発行と、景気維持のための国債発行とを分けて考えるべき。
○ヨーロッパの景気回復に貢献したものとして、ワークシェアリングが大きい。フランス
の週 35 時間労働法は導入時に産業界の評判が悪かったが、補助を行うなどしてかなり普
及した。雇用創出の半分はこれによるといわれている。
○金融に危機的な徴候があるときには、政策転換や国際協調などが一時的にせよ危機を食
い止めるのに有効。危機的な要素が強まるときには、国際協調として例えば日米の円安協
調介入などできれば有効なのではないか。
(以上)
37
(別紙)
委員名簿(五十音順 計 13 名)
○海老名 誠
富士総合研究所理事
荻野和也
東京三菱銀行ニューヨーク支店チーフエコノミスト
木内登英
野村総合研究所(アメリカ)チーフエコノミスト
霧島和孝
住友生命総合研究所調査部上席研究員
浜
三菱総合研究所政策経済研究センター主席研究員
矩子
○平田 潤
第一勧銀総合研究所国際調査部長
○平松 拓
国際通貨研究所調査部主任研究員
○フェルドマン,R.A.
モルガン・スタンレー・ディン・ウィッター証券
チーフ・エコノミスト、マネージング・ディレクター
○向山英彦
日本総研調査部環太平洋研究センター上席主任研究
員
○武者陵司
ドイツ証券東京支店株式調査部長・チーフステラジス
ト
森川
央
三和銀行資金証券為替部 ロンドン駐在
○森山昌俊
三和総合研究所投資調査部主任研究員
○鷲尾友春
JETRO企画部主幹
氏名の左に○印を付した委員が今回ご出席の委員。
38
経済動向分析・検討チーム(日本の景気動向)議事概要
1.日時:平成 13 年8月7日(火)
9:00∼12:00
2.場所:第 4 合同庁舎 545 会議室
3.出席者:経済動向分析・検討チーム委員;別紙参照
内閣府;竹中経済財政政策担当大臣、渡辺政務官、岩田政策統括官、大村審
議官、荒井参事官、他
4.議事概要
事務局より本会合の趣旨説明の後、配布資料1によって3つのテーマを紹介(①マク
ロの景気動向、②政策対応、③構造改革)
。その後、討議が行われた。概要は以下のと
おり。
論点1 マクロの景気動向について
○事務局より、欠席者から事前に寄せられた意見(配布資料2)を紹介。
景気の現状認識については、「悪化している」とする政府の見方はおおむね妥当と
いう意見が多い。この景気の悪化が、① IT 部門に限定されたものであり、それほど悲
観しなくてよいのではとするものと、②他の部門にも波及しているのではないかとす
るものとで意見が分かれる。
いつまで悪化した状態が続くのかについても、①IT に限定されているので、IT が
下げ止まり在庫調整が終われば底を打つとみるか、②他部門に波及しており、年内回
復は難しいとみるかで相違がある。
本格的回復については期待薄との意見が多く、当面0∼1%の成長が続くとする竹
中大臣の見通しは妥当とする意見が多い。
デフレについては、需要側・供給側双方の要因を挙げる見方が大勢である。その影
響についても、内外価格差の是正に役立つものの、景気には良くないとする意見が多
い。また、今後もデフレが続くとの見方が多い。デフレについては、なぜ日本だけが
ここ2年物価下落を経験しているのか、という問題もある。」
○
今の経済状況は短期的な視点からではなく、何十年に一度のバランスシート不況と
とらえるべき。日本はこれまで企業部門の高投資と家計部門の高貯蓄のバランスで来
ていたところに大幅な資産価格の下落が生じた。本業はそれなりに頑張っているがバ
ランスシートが大きく痛んでいる。企業はバランスシートをきれいにしようと本業で
生み出されるキャッシュ・フローを借金返済に回し、新規投資への意欲を失っている。
これによる投資の落ち込みを輸出と財政で補ってきたというのが近年の日本の状況
であり、こうした状況はもう2∼3年は続く。ただし、
「失われた 10 年」とよく言わ
39
れるが、この 10 年は決して失われたわけではなく、企業のバランスシート健全化努
力により現実に借入依存度は低下してきている。現在直面している問題は根は深いが、
着実に治療は進んでいる。
米国についてみると、家計部門はそれなりに安定した行動を保っているのに対し、
企業の行動が変調を来たしており、バランスシート不況に近い状態にあるのではない
か。そうだとすれば、米国がすぐに回復し、日本もその恩恵で回復が始まる、という
のは難しいシナリオかもしれない。
デフレについては、表現に抵抗を感じる。デフレとは、需要の低迷が背後にある概
念だが、実際には消費はそんなに落ち込んでいない。低賃金・低コストの中国やイン
ドが自由貿易体制に参画してきたことが現在デフレと呼ばれる物価下落の要因だと
思う。
IT 以外の部門への景気悪化の波及は、これからだと思う。生産が一般機械でも予
○
測を下回るなど、徐々に波及してきている。労働分配率が過去の水準と比べて高すぎ
ることは、これまでのリストラ効果が不十分であることを表している。インフレ下で
は収益と賃金が比例的に伸びるが、デフレ下では反比例の関係になる。IT 部門につい
ては、IT 自身が世界経済と連動しており、調整が長期化するとも考えられる。こうし
た状況の中、日米間でリセッションの定義も変化してきているのではないか。米国は
最近まで4%を超える成長を経験しており、もはや1%前後の成長では雇用が伸びな
くなっている。これに対し日本は、かつては平均4%程度の成長が可能であったが、
現在は0∼1%の成長でも景気は上向きとみられるのではないか。
デフレについては、世界の工場が日本から中国に移ったことが、日本だけがデフレ
に直面している要因ではないかと思う。デフレの背後にはこうした財政・金融政策で
は抑止できない構造的な動きがあり、デフレは与件であるとみるべき。このような状
況下で、日本は貿易黒字ではなく、サービス収支や投資収益収支の黒字に頼る構造へ
と転換すべき。金融面では、マーシャルのkも他の先進国並みにまで上昇すると思わ
れる。
○
景気は足元加速度的に悪化しており、7∼9月期、10∼12 月期も続く。2000 年4
四半期すべてにおいてマイナス成長もあり得るのではないか。在庫調整については、
これから他部門に波及していくと考える。IT 危機が昨年の7∼9月、製造業の悪化が
今年の1∼3月、通信を除く第 3 次産業ではさらに後になる。こうしたことを考えれ
ば、年内に底を打つかどうかは微妙。これ以上加速度的に悪化していくことはないに
せよ、L 字型の回復過程を辿るのではないか。外需・政策等の外的プラス要因も期待
できず、回復過程は脆弱で、2002、3 年頃までは厳しい。
」
40
○
「景気は急速に悪化」という点には同意。しかし、この景気悪化を通常の在庫循環と
みるのは間違い。在庫調整は投資や消費などに波及していくとみている。
米国については、減税が効かない可能性もある。90 年代の発展自体がバブルであ
り、回復に時間がかかるのではないかと思われる。減税をテコに年内ボトムを打つと
いうのが標準的なシナリオだが、下振れリスクがかなりあり、期待できないと思う。
デフレについては、需給ギャップ拡大が主要因である。日本だけがデフレに直面し
ており、主要因は需給ギャップの拡大であると理解している。
○
景気やデフレの要因などの見方にはおおむね同意。問題はリスクシナリオの準備が
ないことと、デフレについて分配の問題を考えていないことだ。
景気後退については楽観的にみている。IT 以外の部門への波及はすでに起こってお
り、川上の素材業種も業績を下方修正しているが、一方的に悪くなっていくわけでは
ない。また、製造業・非製造業の動向に大きな格差があり、非製造業は相対的に底固
いといってよい。したがって、今回の景気の悪化は並みの景気後退であり、年内には
底を打つのではないかと考える。しかし、リスクシナリオの欠如が問題を大きくして
いる。政府の役割は景気の先行きを当てることではなく、最悪のシナリオに対する準
備を行うことである。
デフレについては、内外価格差の縮小など「良いデフレ」という部分が残っている。
問題はデフレで得をする人と損をする人の格差が大きいことだ。具体的には得をする
のは資金の貸し手であり、損をするのは資金の借り手である企業である。デフレによ
り企業の収益は収縮し、ひいては税収にも影響を及ぼす。
13、14 年度は低成長という見通しにはおおむね賛成。景気の動向について、7∼
○
9月で落ち込みは緩やかになり、うまくいけば 10∼12 月で底入れが可能。すべての
部門が悪化しているわけではなく、深刻な調整が不要な業種もある。
一方で、1∼3月期の GDP をはじめ、種々の指標が実勢よりも下振れしているの
ではないかという問題もある。GDP は確報値でプラスにも転じ得る。速報値が低く
出たことで、人々のマインドが悪化した可能性もある。統計に誤差はつきものであり、
ある程度の幅をもってみることは必要。
実態では消費は案外しっかりしており、この間に米国が立ち直れば底もみえてくる。
また、機械受注をみても、投資がどんどん悪くなるわけではない。このように考える
と、下げ止まりしやすい状況もある。
デフレについては、統計上はハンバーガーの安売りなど一部門の寄与で大きく変動
し得ることを指摘したい。
○
景気は、当面悪い状況が続く。景気の落ち込みは、世界経済の急減速や昨年末まで
41
の円高による輸出の減少によるところが大きく、99 年からの原油高に伴う交易条件
悪化のマイナス効果が顕在化していることも加わっている。足元をみると、猛暑効果
もあり、百貨店、新車、家電販売は拡大、消費は比較的底堅いが、企業の想定以上の
輸出の落ち込みから過剰在庫が積み上がっており、目先、在庫調整が続く可能性が高
い。輸送機械などで需要の下振れに歯止めがかかっており、在庫調整進展の兆しも出
ているほか、原油価格反落、円安のプラス効果、米経済回復への期待もあるが、一方
で公共投資の落ち込み及び不良債権処理のマイナス効果がこれらを相殺する公算も
大きく、年内は厳しい状況が続く。
一方、デフレの原因は、デフレギャップが大きいこと、縮 小に向かっていないこと
にあるとみている。デフレギャップはGDP比率で 10%程度と考えている。バラン
スシート調整が続く中でのデフレは、実質的な利払、債務負担感の増加を通じ経済に
マイナスに作用する懸念が大きい。
○
景気は第 4 四半期までは厳しい状況が続くものの、米国経済が回復に転じ、その効
果が波及する来年の第2四半期頃から回復する。ただし 0.5%程度の成長にとどまる
ものと見込む。IT 関連投資については、インフラ投資など IT−user 投資が案外堅調。
一方、個人消費については悲観的にみている。高い労働分配率は今後下がらざるをえ
ず、所得の悪化からコンフィデンスが悪化する可能性がある。年内には在庫調整は完
了するとみるが、とくに景気が相当悪いとみられる対ユーロ圏で円高に振れるリスク
がある。ユーロ圏の景気の悪化は、貿易統計で日本からの輸出が相当減少しているこ
とにも反映されている。
○
現状について、政府は「後退」という表現を使うべきだ。DI でみても既にピーク・
アウトしており、景気は昨年秋から後退していた。景気が後退したのは、①バランス
シート調整圧力の中で株安・土地安が生じ、消費が悪化していったという構造要因も
あるが、より短期的には、米国景気上昇による株高及び半導体・半導体製品の輸出増
に支えられ 99 年春から回復過程を辿ってきた日本経済が、米国の失速に対して大き
く反応したためである。米国をみると、BB レシオが5月、6月と上昇するなど半導
体市況の底入れが近い可能性がある。また、景気先行指数をみても遅行比率、先行
CI とも上昇してきており、秋口には米国経済が回復に転じるのではないかとみてい
る。また、昨年末には機械受注の達成率が底をっているため、機械受注の落ち込みも
年内に止まると考えられるので、その後は日本経済も回復に向かっていくのではない
かと考えられるが、鍵を握るのは輸出である。生産の5割は輸出に何らかの影響を受
けている。その他、消費は 4 ヶ月連続で乗用車が増加するなど底固い面もある。公共
投資が削減されているが、今年度補正が必要となろう。
デフレの要因は、①バランスシート調整、②実体以上の円高、③中国等からの輸入、
42
④日銀の金融政策である。金融政策については、マーシャルのkは上昇しているが、マ
ッカラム・ルールに照らせばマネーサプライあるいはマネタリーベースの伸びは一貫し
て不十分であり、一段の量的緩和が必要である。
○
リスクシナリオの欠如という話があったが、現在直面している「リスク」とは、
「過
去起きたことがないこと」が起きることであり、それが何を引き起こすかが問題であ
る。具体的には、4年連続の名目GDPマイナス成長、かつ実質の成長もマイナスと
いうことになれば、これは終戦の年や関東大震災の年のように経済が破壊された時に
しか経験していないことである。また、景気後退局面で貿易黒字が実質ベースで縮小
するのも初めてのことである。こうした事態が引き起こすのは、①バランスシート調
整と②賃金調整という2つの調整圧力である。バランスシート調整については、すで
に企業の借入れ依存度が大企業で過去最低の 23%、
中堅企業で 35%と 25 年前の水準、
中小企業で 40%とバブルのピーク前 1987 年の水準になるなど、かなり調整が進んで
いる。一方、労働分配率は過去最高水準となっているが、名目GDPがマイナス成長
する中でも昨年度の補正で法人税収が自然増となるなど、労働分配率の低下過程で生
じる現象がすでにみられる。こうした調整圧力の中で年末∼春に回復に転じるとみら
れるが、短期に終わる可能性がある。
米国については、輸出依存度が 12%と 1985 年の6%から倍になっており、米国自
身がこれまでよりも海外からの影響を受けやすくなっている。
日本経済は 80 年代のバブルと IT バブルという2つのバブルの処理に手間取って
○
おり、調整は相当長くなる。IT バブルについては、アメリカでは通信設備の過剰が深
刻であり、回復は先になるとみられる。半導体市況についても、最終需要での減速が
始まった段階である。
バブル後遺症はいわゆるバブル業種のほかでは、個人消費や中小・零細企業にあら
われている。90 年代後半の個人消費は相当程度厳しかった。99 年から 2000 年にか
けて設備投資がある程度出ていていたことから考えれば、やはり消費が出てこなかっ
たのが大きい。中小・零細企業については、名目 GDP がマイナス成長の中で、企業
収益も雇用者報酬もプラスだったことは、実は中小・零細企業での大きなマイナスを
示しているのではないかとみている。
循環的には昨年夏がピークであり、来年の夏には回復するのではないかと考えている。
しかし、在庫循環上の回復局面に過ぎず、成長率は1%に満たないとみている。
デフレについては、グローバル化の波の影響が大きい。このほか、流通業の効率化
や 98 年以降の未曾有の不況・需要減少も影響している。
○
現状認識は多数の意見と一致。先行きについては、過去30年の鉱工業生産のサイ
43
クルは、山から山が約2年、そのうち、山から谷が1年強であるから、去年の秋をピ
ークとすれば、年明け前後には回復に転じるとみることができる。ただし、『過去と
同じであれば』との留保が付く。過去と異なる点として、①世界同時不況であり、あ
る国の不況のコストを肩代わりする国が存在しないこと、②原油価格高止まりという
状況下で産油国がバッファたりえないこと、③資産価格、とくに地価が簿価ベースで
まだ下がらざるをえないこと、が指摘できる。これに対し、消費動向調査で4∼6月
は下げ止まっているなど、個人消費が割にしっかりしていることはプラスの要因とし
て挙げられる。IT については、企業収益が悪化しており、短期的にはまだ下がるとみ
られるが、技術革新の波から考えればいずれ設備投資が出てくるので、そう悲観的に
なる必要はないと考える。ほかに目先の下振れリスクとしては、クレジット・コスト
をカバーできない金融機関のマージンの低さといった金融システムの問題や国と地
方の関係、とくに公共投資の削減、空洞化に伴う地方経済の疲弊などが挙げられる。
デフレについては、需給ギャップは確かに存在するが日米間の物価上昇率格差はさ
ほど変化していないことに注意すべき。需給ギャップは消費者物価の上昇率との間で
相関があるわけではなく、要因は供給側にあると考えられる。だからといって「良い
デフレ」というわけではなく、マクロ的にはやはり悪影響がある。このように供給側
の要因でデフレが進行している中で、金融政策による需要サイドの刺激を行っても、
変化は生じない。現在直面しているデフレは与件であって、その中で構造改革をやる
しかない。
論点2 政策対応について、及び、論点3 構造改革について
○事務局より論点1についての補足と質問事項。
①「景気後退」という言葉の使用は、検討はしたが、その前提となる景気の山谷の確定が
まだだという問題があり、また、改善の逆ということで「悪化」で良いと結論付けた。
② 公共投資大幅減の可能性が高いが、GDP にどれくらいの影響を与えるのか。
③ マーシャルのkはいつまで上がりつづけるのか。日銀の量的緩和の効果についてどのよ
うに考えればいいのか。
④ 設備投資がどれくらい落ち込むのか。
⑤ 中小企業をはじめ、IT の活用がアメリカの程度まで達していないが、この IT 不況に対
して日本は政策対応をどこまで行なえばいいのか。
⑥ 為替政策については、どのように考えるか。
○
設備投資は、並みの後退かやや軽めの落ち込みと考えている。ポイントとして次の 3
点があげられる。①IT に関して、アメリカの投資が伸びたのは、価格下落の影響が大き
い。価格下落は投資にプラスに働く。② 92 年や 98 年の後退期に比べて、資金繰り判断の
44
悪化が今回はない。③経営者が脇をしめて経営を行なっている。業績悪化を早く認めて必
要な対応をしている。7−9月期、10−12月期までは苦しいが、それを超えて悪くな
ることはない。売上(全産業・大企業)が3%強伸びているなかで、人件費はマイナスに抑
えている。
為替に関しては、ドル高政策に各方面から疑問が出ている。証券市場が安定する中でド
ルが下落すれば、ドル高修正ソフトランディングとなり大きな悪影響は出ない。株式等証
券への投資、M&A がドル高ユーロ安の背景にあるとすると、今回のドル高修正が、そこ
を巻き込む形で株安とか債券市場の下落につながるとすると影響が大きい。政策のスタン
スとしての金融政策が重要であり、アナウンスメント効果というものを最大限活用するこ
とが大切。
○
マクロ政策と構造改革とが混同されている。不良債権処理と財政再建は、いわば敗戦
処理で構造改革でない。構造改革は、民営化、市場開放、規制緩和。日本株への投資家は、
これが混同されていることを気にしている。
マクロ政策が失敗して、本当の構造改革ができなくなることが心配。財政については、
30 兆円に抑制することは間違い。デフレギャップは埋める必要がある。アメリカは、以
前は日本の財政は無駄が多いといっていたが、事情が分かるにつれ、何もいわなくなった。
不良債権処理に関しても、戦後処理という位置付けで、構造改革とは分けて議論すべき
もの。不良債権が景気の制約条件ならば、つまり、信用力がある企業が資金を奪い合い、
一方、銀行はお金を貸せないのであれば、金利は上がるはず。ところが実際は資金が余っ
ている。個人はどんどん貯金をするが、企業は借りてくれない。銀行の資金供給力は10
年前に比べれば落ちているが、それ以上に企業の資金需要が落ち込んでいる。97 年、98
年と違い金融の問題で景気が悪くなっているわけではない。不良債権を処理しさえずれば
景気は回復するというような風潮は危険。
不良債権処理の方法について、RCC の活用、2−3年でオフバランス化というのは間
違い。同じ手法を使った89年のアメリカの場合とは事情が違う。当時のアメリカは、金
融機関の約5%がダメであとの 95%は健全で、この手法が有効であった。今の日本は、
資産価値が下がり、失われた富が GDP の2年半分といわれている状態で、いわばアメリ
カと逆に 95%が問題となっている。そのような時に同じ手法を使えばとんでもないこと
になる。アメリカでその5%の金融機関の処理をするにも 1,600 億ドルもの個人負担が生
じている。同じことを日本でやれば、負担は 10 倍か 20 倍になる。むしろ、82 年のアメ
リカが今の日本と近い状態。そのときは、銀行が借り手から逃げ出さないように、3,4
年かけて借り手と貸し手が健全な状態になってから、少しずつバランスシートから落とし
ていくという手法を使った。それで全体の安定を維持して、十数年かけてこの問題を解決
した。その結果、納税者の負担は0だった。今の日本は89年でなくて82年のアメリカ
の状態であることを認識する必要がある。
45
今の景気は、金融がそれほど悪くない状態で、並みの落ち込みだが、これを間違えると
並みの落ち込みでなく極めて大きな落ち込みになる。過去のバランスシート調整で、企業
の大半は借金恐怖症になっている。家計は貯蓄をしている一方で、企業が借金をしなけれ
ば、半永久的に財政赤字はなくならない。これは最悪のシナリオ。企業が資金を借り投資
する機会をどんどん広げるためにも構造改革は実行していただきたい。そのためにも、戦
後処理とそれ以外を分けて政策を行なう必要がある。
○
政策対応について、追加的需要政策は不要。金融も十分緩和されており、効果より弊
害の方が大きい。公共投資の削減にも関わらず、国債残高 GDP 比はなお拡大の一途だ。
不良債権問題については、地価は十分に下がっており、ここ1∼2年は新規発生が大き
くなっているなど、最近は新しい局面に入っている。
○
金融政策は無効とはいえないので、やるほうがよい。財政政策に関して、公共投資の
乗数効果はその期のみの効果しかなく、長期的にはむしろマイナスの影響が大きい。円安
は方向は正しいが、デフレの解決のためには、1ドル 200 円ぐらいが必要であり現実的
ではない。設備投資は、中規模くらいの落ち込みと考える。
○
日本経済は、貯投バランスからみれば、家計の貯蓄過剰が続いている。これを 80 年代
は投資拡大で、90 年代に入るとそれが続かなくなり財政赤字で吸収している状態。この
状態で無理やり財政赤字を縮小しようとすると、家計の貯蓄率が極端に落ちない限り、経
済はおかしくなる。設備投資拡大という方向ではなく、家計が消費拡大して貯蓄率を下げ
る方向にもっていくことが必要。
不良債権の問題は確かに大きいが、これが景気に悪影響を及ぼすメカニズムが定かでな
く、これさえ解決すればいいというものではない。マーケットはむしろこの問題は本質で
はない、ということを理解していない。
金融政策はあまり有効ではない。やるとすれば非常に極端な緩和策しかない。財政赤字
については、国債発行 30 兆円に抑制することは、国レベルで見ればなだらかな財政赤字
の削減で理解できるが、地方がどれだけ削減しているかを注視する必要がある。公共投資
は短期に効果があるのは理解するが、長期的にはこれに頼ることは望ましいことではない。
30 兆円の目標を達成できないと長期金利が上昇し、日銀が長期国債の買いオペで沈静を
試みるがこの日銀の努力をマーケットがどう評価するかは不明。
○
構造改革は、従来の財政・金融政策と違い、それを活用しようと各経済主体が思わな
ければ効果がないところが難しい。さらに言えば、民間がこういう経済活動がしたいから、
規制緩和などこうした改革をして欲しいと声をあげるのが望ましい姿だ。例えば今年の猛
暑は、過去最高で、それなりにGDPに影響を与えると思うが、昼間は暑くて人が来ない
46
ようなところを夜間営業を増やすとか、弾力的な対応をするかしないかでずいぶん差が出
る。また、東京に集中している本社を、地方の交通の便のいいところに移しやすくすると、
通勤時間が短くなり、平日の自由な時間が増え、消費増大に結びつく可能性があり、地方
の何も使われていないホールも有効に活用する機会が増える。
中国等が製造工場になりつつあるが、どこでも作れるようなものは安いコストで作り、
高付加価値のものは日本で作るというように資源の有効活用が必要である。
○
公共投資については、現状では補正予算、地方単独事業の減少などから、今年度 2∼3
兆円、来年度 3∼4 兆円減少する可能性が大きい。成長率与える影響は、今年度−0.5%、
来年度−0.7%程度が見込まれ、不良債権処理に伴う対象企業の雇用調整の影響と合わせ
ると、今年度−0.8%、来年度−1.1%程度となり、影響は小さいとはいえない。
金融政策については、マネタリーベースで拡大しているが、マッカラムルールに基づく
名目 3%成長に必要なマネタリーベースの量と比べると過小であり、一段の緩和の必要が
ある。また、国内金利に加え為替レートの影響も含め金融政策スタンスを考えるマネタリ
ー・コンディション・インデックス(MCI)の観点からは、99 年のゼロ金利実施後に比べ、
円高が進んだこともあり、相対的にはかなりの金融引き締めになっている。99 年のゼロ
金利実施後の水準まで MCI を戻すとすると、円レートは 1 ドル=135 円程度までの低下が必
要になる。
○
金融政策については、日銀が国債を買えば円安になるという意見もあるが、効果は不
明。一つには日銀が国債を買える額に上限がある。また、日銀が国債を買えば銀行に資金
が余るが、これがどういう効果をもたらすか。おそらく日銀が10兆円買い増しても銀行
のバランスシートに大きく影響はない。
日銀ができることはかなり限られる。思い切った方策としては日銀が不良債権を買うの
はどうか。これは、マーケットに資金が入り若干円高気味になる可能性があるが、直接的
に影響を与える方法と考えられる。マネーと国債という流動性の一番高いものと二番目に
高いものを交換していてもあまり効果はない。流動性の高いものと最も低い不良債権とを
交換するとある程度効果も期待できる。
設備投資については、山があまり高くなければ谷も深くない。
○
構造改革なくても景気回復はあるので、良質な景気回復を目指すために改革が必要と
理解したい。しかし、従来型公共事業を全て否定することはおかしい。中には必要なもの
もある。10%減という総量規制は疑問がある。雇用のセーフティーネットも必要。景気の
面からは追加策が必要と考える。構造改革と矛盾しないような追加策は行なってもいいの
では。国債 30 兆円に抑制するというのも硬直的で初めに数字ありきで疑問。努力目標は
分かるが、来年度以降の話でもあり、弾力的に考える必要がある。
47
都市再生に関しては、来年度からということであるが、インフラ整備になるようなもの
は今からでも行なっていいのでは。
マーシャルのkが上がったのは、デフレ的状況で名目 GDP が減少したためだ。本来的
に金融政策を考える際には、現実の名目 GDP というよりは潜在的な名目GDP で考える。
CPI が1%程度、潜在成長率が 2%程度で、名目潜在 GDP が3%程度となる。それに対
して現実のマネーは不足していると考えられる。日銀は名目 GDP に注目し、名目 GDP
を潜在成長経路にどう近づけていくか、そのための金融政策を考えるべき。日銀は金融機
関の貸出しを増やすことが目的だと思っているが、ポートフォリオリバランス経路を念頭
におくべき。不良債権処理でいたんでいる金融機関の貸し出しは増えようがなく、株式市
場等を利用した資産効果を活用することが有効。現実には、日本人投資家は資金が余って
いると感じており、それよりはアナウンスメント効果が効きやすい海外投資家には有効と
考える。日銀の金融緩和アナウンスにより外国人投資家を呼び込み、株価を上げるルート
は考えられる。
○
金融政策については、当座預金等を増やして円安誘導すれば、日本経済にはプラスと
考える。アナウンスメント効果に関しては、それを試みない結果の方のリスクが高い。為
替レートが輸出に与える影響は、80 年代までは、円が 10%変動すると、ドル建て輸出価
格は 30%影響を受けることで一定していた。90 年代前半になると、円高になると 10%弱
しかドル建て輸出価格に転嫁できていない。さらに 90 年代後半になると、1%しか反映
されていない。一方円安になると 40%程度。これは、日本の製造コストと中国の製造コ
ストが余りに違いすぎるため、円安の場合は価格に転嫁しないととても太刀打ちできない。
財政政策は、キャップを設定しておかないと、積みあがっていく一方で経常収支の黒字
が縮小していった際、今の長期金利が安定するかという問題が出てくる。
不良債権は結果。昨年度決算で新生銀行がどういう決算をしたかというと、不良債権額
は減っているが、貸出金は減少している。不良債権を処理すれば、それ以上に貸し出しは
減ることになる。
今は税収中立な税制改革しか方法はない。国内の経済界に、供給者と需要者を作り出す
ことが必要。今は、日本全体に作る人しかいない。中国のような国がこれからも出てくる
ともたない。使う人が増えれば作る人も増える。税制改革をして使う人を増やすことが必
要。
○
為替に関しては十分円安であり、世界同時不況の中これ以上の円安はありえない。
設備投資の落ち込みは深刻で、山低くても谷は深い。その理由として次の4点があげら
れる。まず IT 部門が予想以上に悪化すること。IT 業界はメーカー、子会社含めいわゆる
「3つの過剰」があり、調整が長引くおそれがある。二つ目に、キャッシュフローの伸び
悩みだ。2001 年度利益は法人企業ベースで2割程度減少する可能性がある。その中で設
48
備投資が増加することはありえない。第三に、建設投資が急速に減少している。この傾向
はしばらく続く。第四に中小零細企業の倒産が増えている中で投資が出てくるとは考えら
れない。
不良債権に関しては、これが景気回復の本質的な足かせではない。ただ、株式市場通じ
た影響は懸念される。中長期的には処理していくことは必要だが、その過程で銀行と企業
が改善できるかが重要。証券化の手法やリストラが求められる。
構造改革のデフレ効果については、地方経済が相当深刻。地方経済の実状を抜きにした
雇用対策は考えられない。東京への人口流入が進んでいるが、都市と地方の格差が広がる。
地方経済への打撃が大きく出てくる。都市への投資も必要だが、地方も配慮が必要。
構造改革の方向としては、ぎりぎりまで景気との両立が必要。公共事業から社会保障へ
の充実をもっと前面に出しても良い。社会保障の安心を得られることを明言する必要があ
る。
○
確かに構造改革は資源の効率配分に資する。これまでの公共投資が非効率でこれを効
率化する必要がある。しかし 30 兆円に抑制するのは論理の飛躍。欧米で有効であったの
は、民間に資金需要があったから政府が手を引くことで長期金利が下がって民間が活性化
されたから。今の日本は民間に資金需要なく、政府が抑制し長期金利が若干下がっても民
間の資金需要が出てくるとはいえない。家計に加え企業の財務リストラが進んでいて貯蓄
があるうちは、資金面から見れば政府が財政赤字を減らすことは危険。補正がなければ、
1−3月かなり厳しい状況になるのではないか。
マネーサプライの大半は国債を買うことで生み出されている。政府支出を減らすことに
より国債購入を減らすと、1−3月ぐらいにマネーサプライが減少する、このアナウンス
メント効果が人々の印象を悪くするのではないか。財政の質と量の問題は区別して考える
べき。
地方交付税のカットについては、地方債の元利償還の保証をしておかないと、地方債の
デフォルトを引き起こすことになり、債権市場に混乱が起きる危険がある。
一方、構造改革をすれば、デフレ効果はでてくるが、改革をしないともっと大きなデフ
レ効果が生じる。
公共工事は、これまで、資源配分以上に社会保障としての側面があったが、はっきり区別
をして、都市再生のための公共事業を充実させる必要がある。
不良債権処理は、景気回復の必要条件であるが十分条件ではない。今の日本は、90 年
当初のフィンランド型。不良債権処理というよりも、金融自体の改革をする必要がある。
不良債権の最終処理を遅らせることは、担保不動産の有効利用を妨げることとなり、経
済の潜在成長率の低下につながる。また、銀行システムへの信認が失われると、預貯金も
海外に出て行く可能性があり安全とはいえない。為替管理もできないとなると大変な問題
になる。
49
日銀は、デフレスパイラルを回避することに専念すべき。政府支出が減ると、今後マネ
ーサプライの伸び率が下がる可能性があり、危険。金融政策だけでは限界があり、日銀は
金融庁とともに金融システム改革をする必要がある。為替政策も手を尽くしきっており、
あえて言えば、人民元が切り上がるぐらいしかない。
以
50
上
(参考)
経済動向分析・検討チーム(日本の景気動向)出席委員名簿
○菅野雅明
J.P.モルガン証券会社調査部長
○霧島和孝
住友生命総合研究所調査部上席主任研究員
河野龍太郎
BNPパリバ証券会社経済調査部長チーフエコノミスト
○佐治信行
みずほ証券エクイティ調査部チーフエコノミスト
○鹿野達史
三和総合研究所投資調査部主任研究員
○嶋中雄二
三和総合研究所投資調査部長
○白川浩道
UBSウォーバーグ証券会社チーフエコノミスト
高橋進
日本総合研究所調査部長
○宅森昭吉
さくら投信投資顧問チーフエコノミスト
○芳賀沼千里
野村證券金融研究所主任研究員
○櫨浩一
ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト
ポール・シェアード
リーマン・ブラザーズ証券マネージングディレクター
チーフエコノミストアジア
真壁昭夫
第一勧銀総合研究所主席研究員
○松岡幹裕
ドイツ証券会社東京支店株式調査部シニアエコノミスト
○水野和夫
国際証券執行役員チーフエコノミスト
山川哲史
○リチャード・クー
ゴールドマン・サックス証券会社経済調査部長
野村総合研究所主席研究員
氏名の左に丸印を付した委員が今回ご出席の委員。
51
経済動向分析・検討チーム(第一回
金融市場の動向)
議事概要
1.日時:平成 13 年 8 月 10 日(金)10:00∼12:00
2.場所:第4合同庁舎 545 会議室
3.出席者:経済動向分析・検討チーム委員;別紙参照
内閣府;竹中経済財政担当大臣、渡辺大臣政務官、岩田政策統括官、
大村審議官、岡本審議官、薦田審議官、荒井参事官、他
4.議事概要:
冒頭、竹中大臣、渡辺政務官より挨拶が行われ、次いで大村審議官から議事の説明、委員
紹介がなされ、モデレータを川北委員にお願いすることを決定した後、討議が行われた。
論点1
最近の金融市場の動向について
(株式市場の動向について)
○
最近の株安はITバブルの崩壊と不良債権問題の2つが主因。TOPIXで 1200 ポイ
ント、1100 ポイントが危険ラインであり、1200 ポイントを割ると危機感が高くなる。
98 年秋のように 1100 ポイントを割ってくると、資産デフレの逆スパイラルが一気に
進む。
小泉内閣が改革を進める上で、
3つのものが重要である。すなわち、
国民の支持、
外圧という形での米国の支持、株価に現れるような中長期的な日本経済の改善期待
が短期の痛みを和らげる効果である。現在は、日本国民及び米国からの支持を得て
いるので、株安の危機こそが命取りになる可能性がある。
○
不良債権処理を進めていただきたい。ITが景気の悪さの主因であるが、それだけで
はない。6月以降の株の下げをみていると、上がった業種は2業種だけでほぼ全業種
にわたり下げている。これは不良債権処理に対するスタンスが後退したことへのメッ
セージであると受け取っている。試算では、不良債権処理に伴うデフレはそんなに大
きくなく、処理を進めていけば、成長期待は高まると思っている。
○
株価が下がった理由の一つは、株価の上昇期待で上がった分の剥落がある。司法制度
改革の遅れや減損会計導入が依然として検討中であることも改革期待を後退させた。
小泉内閣が指導力を発揮するということが大切。レーガンやサッチャーの時もそうで
あったが、改革は本気だと示すことが株価を支えることになる。不良債権処理の進展
をアピールしていくことも重要である。
○
不良債権処理についての方針がこれまでとスピードが変わらず、抜本的な改革とはい
えない。地価が下がりつづけているなかで、処理にもかかわらず不良債権処理がスパ
イラル的に増加していく、ということを懸念している。金融機関が不良債権処理の原
資捻出のために売っており、その辺の需給悪化も株価下落の一因となっている。
52
○
株安の大きな原因は、IT産業の業績悪化であり、日本だけではどうすることもでき
ない。強いて言えば、日本独自の対策は、証券税制の改革であり、株売却損の繰越な
どの踏み込んだ改革を早めに行うべき。
○
年初来の業種別株価をみると、33 業種のうち 19 業種では上昇している。下落した残り
の 14 業種のなかに電機・通信が入っており、その影響が大きい。株の益利回りは長期
金利に比べて圧倒的に高く、非常な株安の水準にある。一方で、米国の株価について
は慎重にみている。米国は、90 年代を通じて、経常収支赤字を資本収支黒字でファイ
ナンスしてきた。資本収支入超は 96 年頃までは債券を通じてであったが、それ以降は
株式を通じて入ってきている。これは、米国のROEの高さを前提としているが、米
国のROEはすでに 20%代に上がっており、今後、それを維持できるとは思えない。
○
テーマとしては、構造と循環である。循環面は、下方修正の可能性が高く、内需は弱
いため、日本経済を押し上げるのは外需のみである。予測では米国は来年 3.5%成長す
る見通しで、日本の輸出ドライブは来年もプラスとなろう。日本の景気の谷は、今年
10-12 月か来年 1-3 月で、その後は好循環に入るだろう。構造改革の面は、透明性とス
ピードがある政策がでてくると思う。購買力を上げるため、ガス・電力・水・通信等
の公的部門の値下げを政府主導でやってもらいたい。
○
外国の機関投資家と日本の機関投資家では小泉改革に対する反応が違う。海外は足元
マイナス成長でも早く構造改革をやるべきであると思っており、不良債権や特殊法人
改革に対する注目度が高い。国内は、デフレに対する懸念が非常に強く、中小企業に
対する優遇措置が出てきているのもその表れである。日本の政府が経済成長率を0∼
1%の範囲内に収めようとすれば、構造改革も景気回復も中途半端になるであろう。
○
金融機関が持ち合いを解消しようという動きは当然だが、株価に与える影響は一時的
なものに過ぎないと考える。この 10 年間日本の株価が低迷しているのは、企業収益が
回復しなかったということであり、あくまで企業収益を高めるような政策をとること
が重要である。中小企業に対する融資の信用スプレッドも縮小してきており、資金が
ジャブジャブだから貸さなければいけないというおかしなバイアスがかかってきてい
る。
○
減税が財政構造改革に逆行するという発想ではなく、減税の結果、税収が増える方法
もあると考える。税制については、贈与税を相続税より下げることにより世代間の資
金移転を促進する税制、累進性を持たせた投資促進税等の転廃業を促進するような税
制などのアイデアがあるが、いずれにせよ、個別の分野毎で考えるのではなく、政府
がトータルな方向性を持たせて、断固たる決意で税制の変更を実行することが重要で
ある。
○
政府は預貯金に源泉分離 20%という優遇税制を設けて銀行に金を集め国の産業政策に
基づいて資本を配分してきた。従来、預貯金優遇税制を採ってきたように、企業が自
己株式の買入れ償却等を行いやすいような税制を整えるべき段階に入っていると考え
53
る。お金の流れを変えるというのが最も大きな構造改革であり、そうした仕組み作り
が今のところ遅れてきている。資本効率をいかに高めていくかというところに政策の
重点を置くべきである。
○
5月7日から7月末までで 3000 円程度下がっているが、寄与度でみると、上位 25 銘
柄で 70%以上を説明できる。その銘柄はハイテク銘柄のウェートが圧倒的に高く、ア
メリカのハイテク企業後退の余波がきているということであり、小泉政権の改革云々
という次元ではない。TOPIXはバブル後最安値圏に比して高い水準であるが、90
年以降のボックス圏はどんどんずり下がってきており、徐々にデフレの影響を織り込
んで来ていると考えることができる。政権の構造改革がなければ、このボックス圏を
抜けて日経平均が 20000 円、25000 円になるということは考えられない。
○
株価は、5 月以来、千円刻みで段階的に下落してきているが、その原因は、不良債権処
理の遅れへの懸念である。2 月の G7以来、日本の不良債権処理は大きなトピックとな
っており、2∼3月で 6 社の大型倒産があったのに対し、今年度に入っては 1 件も大型
倒産が発生しておらず、市場は本当に不良債権処理が進展しているか、不安に感じて
いる。
不良債権処理のキーの一つは土地の流動化であるが、土地基本法の縛りがある限
り効果的な不動産流動化策というものは生まれてこないのではないか。こうした部
分の見直しも視野に入れて議論すべき。
(金融政策について)
○
現在の日銀の金融政策が債券市場に与えている影響としては、金利の低位安定とハイ
ボラティリティという二面性がある。時間軸効果が効いている中では、債券市場には
一方向へのベクトルが働き、反対売買がでてこない。ファンダメンタルズの変化が無
いなかで金利が動くのはこのようなことが原因。例えば、CPI でインフレターゲッテ
ィングを行ったとすりと、更に時間軸が強く働き、市場を一方向へ誘引することとな
り、その反動も大きいと考えられる。
○
現状、金融政策に対しては政治経済的に分析することが大事なのではないか。政府、
日銀がそれぞれ行うことを明確化し、信頼関係、協力体制を構築することが肝要であ
り、市場からも評価される。いくら量的緩和するかなどよりも、いくらの不良債権処
理額を引き出せるかのほうが重要である。
○
日銀当座預金を1兆円増やす程度の方策ならば、失敗したときに元に戻すことも可能
である。更に危機的状況となったときには、国債の直接引き受けが考えられる。マネ
ーサプライを直接増やすような即効性のある政策は無いかもしれないが、場合によっ
ては、通貨に直接働きかけても良いと考える。
○
外国の機関投資家は9月に入ると更なる量的緩和をするのではないかという期待があ
る。遅れると、外国機関投資家から厳しい反応が出てくる可能性がある。
54
論点2
政策関連について
(不良債権処理策について)
○
株価のメッセージが、不良債権処理を促すきっかけとなろう。まず、本当に危ない企
業は 30 社程度のはずで、まずはそれらを切って捨ててしまう覚悟が必要である。これ
によりデフレ要因が取り除かれトータルの企業利益総額は上向くはず。向上した企業
利益を受けて株価の方向性が見えてくれば、諸施策が期待収益率の向上につながる。
○
90 年代の米国の例を見ても分かるとおり、不良債権処理にはセカンダリーマーケット
の整備が重要な問題である。今回の RCC 案は、サプライヤー(銀行)の立場からは評
価できるものの、買い手の立場から見れば RCC に企業再建の能力が求められるもので
あり、むしろ信託受益券購入者が直接企業再建を行えるようなスキームが良いのでは
ないか。
○
不良債権の実態把握が不足しており、金融庁もその努力が不足している。金融機関の
再構築の明確なデザインなしに、場当たり的な不良債権処理策を出してもマーケット
は信用しない。最終処理の影響を楽観的に考えすぎているので、もっと現実味のある
前提に立って政策を立案する必要がある。
○
不良債権問題の根底に潜むのは、不安感と不透明感である。1 年後にまだモラルハザー
ドを起こしているような大型の不良案件が残って、その処理を論じているような状況
になれば、市場は更に厳しい評価をしよう。銀行株式取得機構についての議論を例に
出せば、その検討にあたっての前提状況が非常に楽観的なものであり、政府の認識の
甘さに、投資家は非常に不安を抱いている。政府は、本当の状況、見通し、将来像、
最悪のシミュレーションなど分析し提示する必要があるのではないか。
○
不良債権の処理については、可能なものはできるだけ早期に実施すべき。「企業の甘や
かし」にも決着をつけるべきであり、銀行についても同様に、公的資本注入の基準作
りの中で、切り捨てるべき銀行は切り捨てられるべきである。現状では金融仲介機能
を果たせない銀行も生き残っている。上記の観点から貸出債権の時価評価は早期に必
要である。
○
不良債権処理に一定の期限を設けたことは評価できるものの、対象の不良債権は、既
にある程度問題が解決したものであり、対象となっていない地域銀行なども考慮する
必要がある。RCC に関して成功の鍵は、専門性をいかに高めるかという点にあり、プ
ライシング等詳細部分について早期に詰める必要がある。また不良債権処理の問題の
本質は銀行の収益力の問題であり、銀行の収益を圧迫している公的金融の整理や中小
企業融資枠の撤廃など考慮すべき。また、政府には不良債権問題にかかる多面・科学
的な分析を期待したい。
○
不良債権問題とはすなわち、銀行のクレジットコストが業務純益を上回っているとい
うことであろう。クレジットコストには循環的な側面があるが、金融システム不安(シ
55
ステミッククライシス)にさらされてはいない現状では、個別行の経営努力のみならず、
業務純益を以下に拡大させるかについて検討する必要がある。公的金融は民間銀行の
収益を圧迫していると考えられ、小泉政権が打ち出した、住宅金融公庫の自由化など
は評価に値し、試算では、銀行業務純益の 15%増に寄与するとの結果が出ている。
○
バブル崩壊後、補正予算、公的資金注入、税制改正など諸施策が自立的な経済回復に
結びついてこないのは、土地デフレによる逆資産効果が働いているためであると考え
られる。土地が適正価格に近づく3~4年をデフレのまま過ごすのか、思い切って下げ
てしまうのか考える必要があるのではないか。RCC を強化して、銀行から資産を引き
取りマーケットに流していく仕組み作りが必要である。
○
不良債権額について、政府、金融機関の自己査定の数字を信じている投資家はいない。
また米国の S&L のケースと照らし合わせると、現在の日本には実際に不動産を処理
(売却)するノウハウがないので、米国等からノウハウを吸収すればよい。
○
不良債権問題解決のためには RCC の活用が有効だが、信託方式で銀行が最終的リスク
を保有しつづける場合は”飛ばし”の懸念があり、政府が買い切りをしてリスクを負う必
要がある。適用範囲も要管理・要注意も含めてよく、銀行再編を絡ませていくべきだ。
土地の流動化については、米国で用いられた”Credit enhancement”というようなダウ
ンサイドリスクを限定するような手法を用いればよい。
(市場活性化策について)
○
市場の活性化は税制がポイントであるが、現在、議論は瑣末なものに終始しており、
総合課税制度の改革を含め全体として議論していくもの。少なくとも金融資産に関す
る総合課税の検討は推進すべきであろう。また、自社株買入れに関しては、税制優遇
などインセンティブを与える必要がある。時価会計制度の推進の中で、事業会社も株
式保有が難しくなるため、その影響を小さくしておく必要がある。
○
市場活性化については、総合課税の実現を図り、税の中立性を図った上で、金融資産
に関するバイアスをかける方法を考えたら良い。例えば長期保有にインセンティブを
賭けるなどすれば、短期売買に偏重している本邦株式市場の歪みを強制する効果が見
込まれる。
○
市場の活性化に関して、証券税制改正、金融政策、構造改革関連政策など、個々の政
策については限界があるので、シリーズとして打ち止め感が出ないように、出してい
く必要がある。また、国家として、直接金融市場を育成する、本当の資本主義である、
とのメッセージを国内外に向けて出す必要がある。
○
株式市場と企業の活性化について、個人資金を株式市場に取り組むため、税制面で証
券投資に預貯金以上の優遇を行う必要がある。配当利回りが金利を上回る現況下では、
配当利回りに関する税制改正が効果があると考えられ、長期保有が増すという副次効
果も期待できる。過去、日本企業の自己資本は厚みを増してきたものの、無駄に投資
56
されてきたために、資本効率は極端に低下している。ROE を高めていく企業努力が必
要で、企業間の株式持合の制限、時価会計の徹底等により、経営にも緊張感が生まれ
てくるだろう。
時価会計の徹底に絡み、資産再評価益による自社株消去を優遇するようなスキーム
を造れば、自社株消去が進むのではないか。
57
(別紙)
委員リスト(出席者は氏名冒頭に○)
¡ 一尾仁司
コメルツ証券東京支店ストラテジスト
¡ イェスパー・コール
メリルリンチ証券チーフ・エコノミスト
¡ 石山
住友海上アセットマネジメント・シニア・アナリスト
仁
¡ 市川眞一
クレディ・スイス・ファースト・ボストン証券
株式調査部ストラテジスト
大崎貞和
野村総合研究所資本市場研究室長
翁
日本総合研究所主席研究員
百合
¡ 奥江勲二
ドレスナー・クラインオート・ワッサースタイン証券
シニア・エコノミスト
¡ 小原由紀子
クレディ・スイス・ファースト・ボストン証券東京支店
株式調査部ディレクター
¡ 川北英隆
日本生命保険相互会社財務企画部長
¡ 川本裕子
マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク
ニアエキスパート
¡ 菊地正俊
北野
一
メリルリンチ証券調査部シニア・ストラテジスト
東京三菱証券エクィティ・リサーチ部長
木村剛
KPMGフィナンシャル株式会社代表取締役社長
櫻谷光司
朝日ライフアセットマネジメント
執行役員・株式運用部長
佐野一彦
日興ソロモン・スミス・バーニー債券本部
チーフストラテジスト
¡ 田邊孝則
野村アセットマネジメント取締役兼専務執行役員
¡ 中野充弘
大和総研投資調査部長
¡ 平川昇二
国際証券エクイティ調査部投資戦略課長チーフ・ストラテジスト
淵田康之
野村総合研究所資本市場研究部長
真壁昭夫
第一勧銀総合研究所・主席研究員
¡ 松沢
中
水野温氏
¡ 三宅一弘
¡
野村證券金融市場本部チーフストラテジスト
ドイツ証券チーフストラテジスト/チーフエコノミスト
みずほ証券エクィティ調査部チーフストラテジスト
ロバート・アラン・フェルドマン
モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券
チーフ・エコノミスト、マネージング・ディレクター
58
経済動向分析・検討チーム(第二回
金融市場の動向)
議事概要
1.日時:平成 13 年 8 月 20 日(月)10:00∼12:00
2.場所:第4合同庁舎 743 会議室
3.出席者:経済動向分析・検討チーム委員;別紙参照
内閣府;渡辺大臣政務官、岩田政策統括官、大村審議官、梅村審議官、
薦田審議官、他
4.議事概要:
冒頭、渡辺政務官より挨拶が行われ、次いで大村審議官から議事の説明、委員紹介がなさ
れた。まず、第一回目に欠席した委員から意見の発表があった後、討議が行われた。
○
日本の証券・金融市場の体質そのものが問われている状況にある。日本において
は株の3分の1程が持合いであり、銀行が株式を保有するという体制は今後はあっ
てはならないことである。したがって、銀行が現在保有している分は年金や個人株
式が受け皿とならざるを得ず、特に個人投資家を育成するための措置をとっていか
なければならない。その際、一番重要なのは税制、特にキャピタルゲイン課税がそ
の中心になると考える。手続きなども含めて、銀行預金に対する税金に対して不利
でない、少なくともイコールでなければならない。
銀行株式取得機構は必要であり、基本的に銀行から株式を全部買い取るが、悪い
銘柄については買い取らないというスキームを提案したい。悪い銘柄は他の人も買
わないので、そうすることで不良債権処理も同時に進めることができる。
時価会計の導入により議論がかなり進展したように、減損会計も早期に導入すべ
き。不動産の減損会計を導入して、その後、貸付の減損会計を順調にやっていくこ
とが重要。誰の目にもわかるようになって、ようやく本人も自覚するので、金融関
連の時価会計を浸透させて、株の問題を解決して、その後に減損会計を行っていく
ということが大切である。
○
まず、特に法人税関連の税制改正、規制撤廃により小さな政府を実現することが重
要。マーケットは、構造改革と不良債権処理と景気回復のバランスがうまくとれるかに
注目している。財政構造改革は単なる単年度財政再建でなく、5 年・10 年というターム
で考えるべき。
デフレの原因は、中国等の生産性上昇による輸入増加などの要素もあり、日銀の
みで対応できるものではない。それでも日銀の金融緩和策云々という議論をやって
いると、長期債を誰も買わなくなる。
○
パラダイムを変える時期としては非常に好機であるが、全体のフレームワークが
示されていないことが問題。
59
不良債権はデフレの結果だと考えている。不良債権が資源の最適配分を阻んでいる
という点はあるかもしれないが、不良債権は景気が悪くなると増加する。したがって、
不良債権を処理するのであれば、不良債権の増加を止めるということのほうが優先順
位は高い。
金融政策については、今のデフレというのは、高コスト構造の是正であるから、金
融政策のみによってそれを押し留めようとするのは、理論的にも実践的にも無理であ
る。日本経済では、特に日本の企業の全般的な競争力低下を心配している。現在日本
の製造業の競争力はまだ世界最強といってもよく、貿易収支は毎年黒字で、これほど
の貿易黒字を稼いでいる国は日本を除いてない。但し、少子高齢化、中国産業の競争
力上昇を背景に、日本企業の競争力を維持できるか懸念がある。
直接金融と間接金融の比率については、特定少数の金融機関がこれまでは莫大な
リスクを抱えていたが、今後は不特定多数の人がリスクを分け持つというシステム
が必要である。こうしたなかで問題となるのは、公的金融機関、特にリスクが低く
利回りが高い郵貯であり、リスクマネーをつくるためには、これらの点を早急に考
える必要がある。
○
証券市場の活性化策が、多くの場合、株価低迷時に株価釣り上げという政策目標
のために議論される状況は極めておかしい。証券市場の活性化とは、基本的に市場
の効率性・公正性を高めることに尽きる。金融庁が出した案には、基本的に賛成で
あり、こうしたことは粛々とマーケットの上げ下げにかかわらず行うべきである。
間接金融から直接金融へのシフトは必要であり、直接金融のほうに資金が回らな
いのは、間接金融のほうが調達・運用側双方に有利な仕組みになっているからであ
る。逆説的ではあるが、間接金融を強くし、銀行が収益を上げられる状態にするこ
とが、直接金融を増やすことにつながると考えている。銀行がリスクをとって貸出
を行い、リスク・リターンの関係を適正化するということで、それとの比較におい
て証券市場にくるべきお金がくるという仕組みにすることが大切である。本質的な
問題は間接金融にあって、そこが変わらなければ直接金融も変われない。そういう
意味では、今議論されている証券税制の改革というのはおかしなものも多い。いく
ら税金を下げても株式分割をしても日本の投資家が明日から急に株を買うようにな
るとは思えない。むしろ、長い時間をかけて株式に慣れさせていくことが重要。そ
の意味では、401KやESOP、自社株ストックオプション(企業がプットオプ
ションをだす)等が有効であろう。
○
デフレ期待払拭という観点から、インフレ・ターゲットについての議論が出てきてい
る。3月 19 日の金融政策は単にゼロ金利に戻すべきであったところ、日銀当座預金を
ターゲットにしたため、量的緩和に踏み込むような枠組みを作ってしまった。このため、
マーケットは混乱している。インフレ・ターゲットにより、恐らく名目の金利は上がる
だろうが、実質金利は上がらないというように、議論を明確にしていかないと、政策と
60
しての効果は出てこない。また、インフレ・ターゲットは量的緩和と表裏一体の関係に
あり、量的緩和をしたことによってどの程度の効果があるのかきちんと議論し、マーケ
ットにメッセージとして明らかにしていくことが大事。
○ (マスコミ等で株価下落への政策対応を求められた場合、証券市場で求められる
政策は何かとの質問に対して)貸出の時価会計の問題は重要である。銀行はコング
ロマリット化しており、貸出が簿価会計であれば他部門の問題を隠せる。そういう
議論がされているなかで、日本ではスワップ会計が先延ばしされようとしており、
2ステップ後退だといわざるを得ない。貸出の時価会計化は、技術的に困難な面も
あるが、考えても良いと考える。
○
実質ベースでいくら変わっても、名目で変化がなければ株式市場は変動しない。
足元のデフレ状況、及び将来の需要拡大期待を持てないことが投資家を株式市場か
ら遠ざけている基本的な要因である。
構造改革の基本方針が小さな政府を目指す以上、デフレ的な政策になる。需要サイ
ドの7つの改革プランのなかでは、都市再生プランが一番わかりやすく、需要拡大の
期待を持てる。需要さえ見えてくれば株式市場は持ち直す可能性が十分ある。設備投
資に対する減税や、ベンチャー企業に対する法人税率を軽減するなどの措置をとるこ
とが必要である。
証券市場の構造改革プログラムについては、情報開示から投資教育まで含めて早く
やってもらいたい。税制のところはおかしなところもあるが、とりあえずやるという
姿勢が重要である。贈与税だけでなく、相続税についても、株式で相続すれば税率は
2分の1にする等の施策により、個人金融資産の偏在、世代間格差を正すべき。
○
不良債権問題のために、我々はもう先進国として扱ってもらえないという現実を
直視すべき。
不良債権処理については重要な点は3つある。1点目は間接償却よりも直接償却の
ほうが望ましいというのは議論のすり替えで、全世界で3分の2の国は不良債権を処
理してきたが、直接償却か間接償却かをこれほど延々と議論してきた国はない。また、
つぶすかつぶさないかという企業側の話で不良債権処理を先延ばしにしてきたが、不
良債権処理は銀行の引当の問題であり、会計上の問題である。2点目は、不良債権が
あるからデフレになって、デフレだから不良債権が増えるというのは間違いであるこ
と。デフレだから不良債権が増加していることは認めるが、不良債権は10年前から
の話であり、デフレは後から付け加えられた要因の1つである。6月28日の日経新
聞によれば、倒産企業の1年前の銀行による査定の 71%が正常先及び要注意先である
事実をみても、自己査定が正しいとはいえない。不良債権をなくすアプローチは、景
気回復後に不良債権をなくしていく方法、会計上で不良債権処理をした後に景気回復
を検討するといった方法の2種類がある。日本を除く他の国は後者を選択した一方、
日本は前者を選択し、その結果 10 年間不良債権処理を引き摺ってきている。3点目は、
61
不良債権売却前後の問題である。未処理の不良債権が増えているにもかかわらず、マ
ーケットにでている不良債権は非常に少ない。特にRCCに関する議論は、マーケッ
トでは高値で売れるものをRCCが安く買い叩こうとしている、という展開になって
きている。これはRCCの買値を引き上げようとする試みであり、一つ間違えば、国
がからんだ飛ばしだということになる。
対策としては、まず1点目はきっちり引き当て処理を行うこと、2点目は、引き当
てした後の過小資本の問題であり、(公的資金注入が)国債発行限度 30 兆円の枠組み
という制約上難しい場合は、公的管理をしてファイナンスを持つという形で粛々と処
理するべきである。3点目は、金融機関の貸し出しが減るなか、セーフティーネット
をどうつくるか、ということである。効率的に資金が流れないのであれば、貸金業法
を改正して不特定多数からの調達を大幅に緩和してセーフティーネットをつくるとい
った方法が有効ではないか。
○
構造改革と景気対策は、官・民の役割を分担して行うべきである。景気浮揚は、
企業の生産性を上げて日本の潜在成長力を引き上げる方向で、民間主導により行い、
政府は財政再建と不良債権処理という後ろ向きの改革に取り組むべきである。9月
になれば景気対策に対する期待も強まってくると思うが、容易に財政発動に踏み入
るべきではない。財政支出に踏み込んだ場合、金利が急騰して債券相場がもたない
リスクのほうが、景気対策をしないことによるリスクよりも大きいと思う。
貸し渋りは90年代に、2回、BISの最終基準導入年及び早期是正措置導入年
に発生しており、単に景気が悪い、株が安いから貸し渋りが生ずるということだけ
ではなく、制度変更に伴う影響も考慮するべき。
○
直接金融のシェアを増やすということを重要な政策課題の1つとしていくべき。
それは、リスクキャピタルの供給という面もあるが、大きなマクロ的なショックが
あったような場合にいくつかのルートを用意しておいた方が良い。そのためには、
公的金融機関のシェアを縮小すべきであり、住宅金融などは欧米諸国でも金融機関
に大きな収益をもたらしている部門を大きく構造改革していくべきである。郵便貯
金についても、改革していく必要がある。また、預金の全額保護などの手厚いセー
フティーネットは小さくする一方、個人の情報収集コストには限界があるので、確
定拠出型年金などのルートを意識して整備していくべきと考える。
不良債権については、要注意債権についても展望を示すといったことが重要であ
る。銀行サイドからは、会計上の処理を即時に行うことが重要であるが、要注意債
権のリストラクチャリングも重要となってくる。流動化・証券化については、証券
化のスキームのなかに回収のインセンティブを組み込むことが重要であり、民間の
知恵を用いて初めて不良債権の流動化というのは成功するものだと考える。同様に
プライシングについても民間の知恵を集めてスキームを考えていくことが重要。不
良債権の流動化における官民の役割分担をもう一度整理しなおすことが大切。公的
62
資金投入については、運用基準を早めに明確化する必要がある。早期健全化法のや
り方ではなく、不良債権処理にも使えるようなロスキャピタルとなるような投入の
やり方が必要である。その意味でも、経営者の責任の明確化や既存株主の減資など
の運用基準を今の時点で明確化しておく必要がある。
○
不良債権問題の処理が長引いてしまったのは、早期健全化法導入時に、つぶれな
い銀行であるから国が支えるという奇妙な論理を駆使しために、本当に自己資本が
必要な銀行に資本注入が行われなかったところにあると思う。銀行経営者のスタン
スにも問題があり、証券業界に比べると、銀行の利益追求、リストラ策等は甘いの
ではないか。
証券市場の活性化については、株価が下がったから証券市場活性化というのはお
かしいと思うが、みんなが証券市場活性化をすべきといっている千載一遇のチャン
スを逃すべきではないと思う。金融庁から出された構造改革は評価するし、金融庁
が証券市場活性化をしないといけないといったこと自体が非常に画期的なことだ
と思う。税制の議論については、総合課税の呪縛に囚われずに、金融所得と他の所
得を別に位置付ける二元的所得税の考え方に移行したうえで、申告のいらない簡易
な納税ということで、できるだけ証券投資の裾野が広がっていくような税制をいれ
ていただきたい。投資信託で損を抱えた方は乗換えをすると、その分丸損になって
しまうので、簡易な納税の方式のままで損益通算できるようにしてほしい。また、
行政の専門性を高めること、インターネット取引がしやすい環境をどんどん作って
いくことが大事である。
以下、デフレ問題、不良債権処理について重点をおいて議論が行われた。
○
今回のデフレ局面は、景気循環的なものではなく、内外価格差など構造的要因に
拠る部分が大きく、金融政策による克服は困難。例えば強烈な円安を使うという手
段もあるが、金利上昇リスク、ドル下落リスク、インフレにオーバーシュートした
時の対応を考えると現実的ではない。
経済、市場の活性化の鍵は、個人資産の活用である。個人は金利、税制への感応
度を高めており、そうした観点から、配当優遇税制や、郵貯見直しを勧めるべき。
企業の活性化の鍵は、持合いの解消と時価会計の徹底により企業経営に緊張感を持
たせることであろう。また、経営者の流動化も考えてよい。
○
銀行にとっての問題は適正な貸出スプレッドを確保することであり、貸出に適正
な信用スプレッドが反映されてくれば、ジャンク債市場も広がりを見せるだろう。
金融政策について、政府がインフレ・ターゲットを設定するという手段もある。デ
フレの源泉は不良債権と企業の問題であり、そこを何とかしなければ、デフレ状況は
63
変わらない。最終責任は政府が負うべきであり、不良債権処理を第一にして、追加的
なアンチデフレ政策を行うべきである。
○
不良債権問題について、時価会計の徹底を図るべきである。まずは担保不動産評
価に絡み、不動産の減損会計等を導入し、時価会計へのステップとする。不良債権
の実態が良く分からないのは、会計制度が不備なためである。減損会計でないこと
自体が国際的な信用力を失う原因となっている。
○
銀行が適正な信用スプレッドを確保できないこと、及び適正価格で不良債権をマーケ
ットで処理できないことは銀行経営者の問題であり、公的資金注入行については、政府
がガバナンスを効かせてでも、銀行に経営努力を強いるべきである。
○
コーポレートガバナンスの面では、安定株主比率の低下は避けられない流れとなっ
ており、自社株消去に係る税優遇や株式取得機構に関する議論を詰めて、将来ビジ
ョンとして、西洋型マーケットの早期構築に資する政策ツールを整備する必要があ
る。
○
政府がインフレターゲッティングを行うと宣言すると、補正予算出動の連想から、
実質金利が上昇する懸念があり、その有効性を保てなくなる可能性があり、手段と
してのインフレターゲッティングであるということを明確にしないと、副作用が発
生する可能性がある。デフレを阻止できない理由として、供給サイドの調整が進む
中で、銀行の体力が落ち、間接金融の優位性が失われる中で、需要サイドをアナウ
ンスメント効果だけで刺激することが難しくなっていることが考えられる。日銀に
よるリスク・アセット買い上げ、円安誘導による景気浮揚効果については懐疑的で
ある。
○
過去 1 年の銀行のアセットを見れば、外貨建資産が 50%伸びており、収益に対しての
プレッシャーを感じる。これは過去 20 年間でも非常に珍しい事象であり、銀行の円投
による外貨資産投資を行うことは通貨市場に大きな影響を与えると考えられる。
○
不良債権問題は、引当不足と損切りにつきる。日銀による買い上げや RCC の活用は一
つの手段ではあるが、最終的に誰が損を引き受けるかを明確にする必要がある。但し RCC
を活用するのであれば、民間の活力、ノウハウを使うのが重要であろう。要引当額に関
しては、そもそも、不良債権の金額について”推定ゲーム”でしか議論がなされない現
状がおかしいことを強調したい。政策の議論において、一つの用語をとっても多義的で
コミュニケーションギャップのようなものが存在しており、収束のためにも数字を使っ
たより厳密な議論が必要。
デフレに関しては、ほんとに不況なのかという印象を海外の投資家は感じている。
ただし効率性については、先進国並の扱いは受けていない。
○
ジャンクボンドについて需要は旺盛であるが、妥当なプライシングがなされていない
ために市場に厚みがでてこない。その背後には銀行の引当・損切りの不足があり、会計
制度の不備がある。政府、金融庁の公表している数字には信用度が無い。要引当額につ
64
いては、マーケット関係者の間では 10 兆∼数十兆と言われている。
金融政策については、日銀に調整インフレがコントロールできると考えるのは、
期待しすぎではないか。また、個人的にはデフレは、経済の調整メカニズムの現れ
であり、否定すべきものでないと考える。
○
現在のデフレは、中国効果及び日本社会の非効率性が温存されてきた結果と考え
ており、それを金融政策で何とかしようということは、問題の先送りではないだろ
うか。
不良債権処理を日銀に負担させるのは中央銀行の機能から逸脱しており、そうした
部分は政府が責任を持って行うべき。不良債権問題の背景に、新規貸出のスプレッド
低下が認められる。これは貸出がバブル的のものとなっていることの裏返しであり、
そこを処理して時価会計を適用しないと、景気回復局面や、金利上昇局面で新たな不
良債権が発生してくる懸念がある。このため貸付に関する時価会計の早期導入は行う
べきと考える。
○
公的資金注入行について、普通株式への転換に伴い、政府は議決権を行使すべき
で、これをきっかけに大きな改革を行うことができるのではないか。
市場では不良債権処理の進展を注視しているが、政府部内でもコンセンサスが取れ
ていないように写っており、結局何もできないだろうというあきらめ感もある。9 月末
までに具体策を打ち出す必要がある。
株式市場育成の観点から、年金資金運用基金の廃止にはあまり賛成できない。
○
マーケットはある程度実質的な結果を期待している。経営状態のよくない企業への
大型追加融資は、日本の銀行業全体について、引当不足からくる不良債権問題の先送り
を想起させる。また、地価評価については税金の問題や評価基準の問題から適正なもの
といえず、土地基本法の改正も絡め、きちんと議論すべきもの。
日銀の金融政策について、金融緩和の発動のタイミングが悪く、このため政策に
対する信頼感が失われている。
○
不良債権問題対応の具体策としては、会計制度の整備や適正なクレジットスプレ
ッドの適用が重要と考えるが、そうした状況になるには、もっと銀行経営者を追い
込まなければならず、そのきっかけとなるのは持合い株の解消であろう。ただし、
金融セクターに比し、事業会社サイドは傷みも少なく、事業会社側に自社株消去の
インセンティブが十分に働くような、税制面での準備は必要であろう。
65
(別紙)
委員リスト(出席者は氏名冒頭に○)
¡ 一尾仁司
コメルツ証券東京支店ストラテジスト
¡ イェスパー・コール
メリルリンチ証券チーフ・エコノミスト
石山
仁
¡ 市川眞一
住友海上アセットマネジメント・シニア・アナリスト
クレディ・スイス・ファースト・ボストン証券
株式調査部ストラテジスト
¡ 大崎貞和
野村総合研究所資本市場研究室長
¡ 翁
日本総合研究所主席研究員
百合
奥江勲二
ドレスナー・クラインオート・ワッサースタイン証券
シニア・エコノミスト
小原由紀子
クレディ・スイス・ファースト・ボストン証券東京支店
株式調査部ディレクター
¡ 川北英隆
日本生命保険相互会社取締役財務企画部長
¡ 川本裕子
マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク
シニアエキスパート
¡ 菊地正俊
メリルリンチ証券調査部シニア・ストラテジスト
¡ 北野
東京三菱証券エクィティ・リサーチ部長
一
¡ 木村剛
KPMGフィナンシャル株式会社代表取締役社長
¡ 櫻谷光司
朝日ライフアセットマネジメント
執行役員・株式運用部長
¡ 佐野一彦
日興ソロモン・スミス・バーニー債券本部
チーフストラテジスト
¡ 田邊孝則
野村アセットマネジメント取締役兼専務執行役員
¡ 中野充弘
大和総研投資調査部長
平川昇二
国際証券エクイティ調査部投資戦略課長チーフ・ストラテジスト
¡ 淵田康之
野村総合研究所資本市場研究部長
¡ 真壁昭夫
第一勧銀総合研究所・主席研究員
¡ 松沢
野村證券金融市場本部チーフストラテジスト
中
¡ 水野温氏
ドイツ証券チーフストラテジスト/チーフエコノミスト
¡ 三宅一弘
みずほ証券エクィティ調査部チーフストラテジスト
¡ 吉川
大和総研制度室長
満
ロバート・アラン・フェルドマン
モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券
チーフ・エコノミスト、マネージング・ディレクター
66
経済動向分析・検討チーム(労働市場の動向)議事概要
1.日時:平成 13 年8月9日(木)10:00∼12:00
2.場所:第4合同庁舎643号室
3.出席者:経済動向分析・検討チーム委員;別紙参照
内閣府;渡辺政務官、岩田政策統括官、大村官房審議官、薦田官房審議官、梅
村官房審議官、磯部官房審議官、荒井参事官、他
4.議事概要:
冒頭、岩田政策統括官より挨拶が行われ、次いで大村審議官から議事の説明、委員紹
介がなされ、モデレータを前中委員にお願いすることを決定した。
引き続き、岡本参事官補佐から資料1に基づき労働情勢につき説明がなされた後、討
議が行われた。
また、会議の途中で、渡辺政務官が到着され、ご挨拶いただいた。
論点1
労働市場の動向及び先行きについて
(労働市場の動向について)
○雇用情勢は、基本的には楽観できない。その理由は、以下の2つである。一つ目は、需
要不足により、GDPギャップが大きいこと。そのため、雇用と賃金をかけた雇用者報
酬が伸びず、さらに、労働分配率も高いので、雇用が増えたとしても、低賃金の所に集
まってしまう。解決には、財政・金融政策で、トータルのGDPを増やすことが必要で
ある。二つ目は、失業率は5%直前で高止まっており、大きくは悪化していないが、労
働ストックの質が劣化していること。失業については、1年以上失業を続けている人が
多くなっており、人的資源の有効活用の観点から労働ストックの質は劣化している。雇
用についても、正社員などの常用雇用が伸びず、雇用の安定性も賃金も下がっており、
質は劣化している。労働力調査特別調査によると、非正社員の雇用に占める割合は、バ
ブルの絶頂であった 91 年2月には 18.4%であったが、足元では 25.4%となっている。
同じく、長期失業者は、24 万人が足元 83 万人、ディスカレッジドワーカー、つまり非
労働力人口の中で、就職希望を持っているが、今の景気の状況では仕事が見つからない
であろうという人は、同じく3万人から足元 52 万人となっている。雇用政策にあたって
は、質的な劣化を意識すべきである。失業率を5%から3∼4%に下げるとか、100 万人
雇用創出とかいう目標を立てたとしても、目標はなかなか達成できないだろう。という
のは、労働市場が改善してくれば、ディスカレッジドワーカーも再参入してくるからで
ある。
○今の雇用の問題は、循環的なものではなく、構造的なものである。日本型雇用システム
67
のいわゆる3種の神器とは、大企業の一部の話で、失業率が低かったのは、周辺中小グ
ループ企業の雇用の吸収力や、ディスカレッジドワーカー、特に女性の非労働力化等に
よるものであった。だが、このシステムも 80 年代以降始まっていたIT革命、グローバ
ル化、少子高齢化などの構造変化には対応しきれなかった。このことは、90 年代前半は
バブルにより隠されていたが、90 年代後半に一挙に顕在化した。より単純化すると、シ
ステムは、戦後の終身雇用型の製造業モデルから、就業形態の多様化を要請するサービ
ス業モデルへ変化しており、この大きな流れを前提に考えていく必要がある。高止まり
している失業率の原因の底流には、こうした構造変化とシステムの不適合性がある。離
職と入職についてみると、90 年代以降の雇用情勢悪化の主因は入職率の低迷にある。こ
のところ離職率の上昇(月間離職率で 1.9%程度)がみられるが、高度成長期にはもっと
高く(同 2.5%程度)、歴史的にみれば決して高くはない。「不良債権処理等構造改革で
失業が発生する」といわれているが、この表現は正確ではない。90 年代後半期の総需要
管理政策は離職率を低く抑えたが、結局は問題を先送りして潜在的な離職圧力を生んで
しまったわけで、あくまで過去に発生原因がある潜在的離職圧力が構造改革の過程で顕
在化してくるととらえるべき。雇用再生のためには構造改革を進めて産業転換を図り、
新しい雇用の受け皿を創出し、入職率を引き上げていく以外に途はない。当面は失業率
の高まりが予想され、現在のトレンドで離職率が上昇する一方入職率が低迷するとして
機械的に試算すると、今後3年以内に失業率が7%に達する恐れもある。このところ顕
著にみられる非労働力化の動きを勘案すれば、現実に失業率はそこまで上がらないであ
ろうが、そもそもディスカレッジド・ワーカーを含まない失業率という指標のみで議論
するのは限界があるのも事実。ただ、今後数年間は失業率の高まりが予想されるものの、
構造改革により不良債権処理が進み財政健全の道筋が見えてくれば、設備投資増額など
企業活動が前向きになり雇用も増えて行くはず。さらに、雇用の受け皿としての新しい
サービス産業育成に向けた制度改革が軌道に乗ってくれば、最終的に失業率は再び低下
に向かうであろう。
○足下の雇用情勢及び高水準の失業率の原因としては、労働市場の構造変化も大きいが、
需給ギャップの拡大という面も大きい。近年日本では需給ギャップの拡大に対する失業
者の増加幅が拡大してきており、失業者が増加しやすくなっている。背景のひとつには、
企業が賃金面でフレキシブルに対応するようになり、賃金の下方硬直性が薄まってきて
いる一方、労働者側は賃金変化になかなか反応しないということがある。また企業側の
パートをはじめとした非正社員に対する需要は高まっている一方、供給側である労働者
は正社員と非正社員との待遇、地位の差が大きいため、非正社員への抵抗が強い。こう
した需給の意識のずれが労働市場の円滑な作用を妨げている。
○雇用のミスマッチには、ミスマッチには、量的ミスマッチと質的ミスマッチの両面があ
る。量的な面では、求人倍率は職種毎に大きなばらつきがあり、高度な専門能力を持つ
専門職への求人倍率が高い一方、企画、管理職等必要な能力が明確でないホワイトカラ
68
ー系職種では求人倍率は低い。質的な面では、実務経験に対するニーズが高い一方、実
際に実務経験を有する者の比率は低い。また資格については、求人の際必ずしもこだわ
らないという傾向があるものの、高度な専門職、技術職等ではニーズが高く、一方求人
側が求める資格を保有している人材は少ない。実際に失業した人が、転職する際どのよ
うな資格が必要かといった点を細かく把握し、政策に生かすべきである。
(労働市場の先行きについて)
○右肩上がりに上昇するとは考えておらず、5%半ば位に上昇し、その後高止まりとなる
と考える。右肩上がりの上昇が起きない背景には、今後景気が悪化し雇用環境が悪化し
た場合、非労化が進むものの、ある程度労働条件を下げても働かざるを得ないといった
状況が出てくることがある。高止まりの背景には、今後景気が回復した場合、ディスカ
レッジドワーカーが職を探し始め、失業者として統計上出現し、失業率は低下しないと
いうことが考えられる。
○ディスカレッジドワーカーを含まない現在の日本の失業率の定義にはある程度限界があ
る。アメリカでは、6通りの失業率が存在し、ディスカレッジドワーカーを考慮したも
のもある。失業率が大きく採り上げられるが、本来は就業率等の数値を見たほうがいい。
現在の定義の失業率については、今後徐々に上昇し、景気全般の動向を考えると今年中
には 5%を超えるものと考える。背景として、労働者の労働条件の悪化への抵抗が大きく、
流動化がなかなか進まないこと、デフレの進行により実質ベースでの賃金調整が行いに
くいことがある。
(不良債権処理の雇用に与える影響について)
○内閣府の試算は優れたものだが、現実的には、例えば離職者の再就職先の職業は現在の
職業に比べ、不安定な職場となろうし、そうすると所得が変わらなかったとしても、消
費には悪影響があるだろう。そういうマクロへの影響も考えると、景気全体への影響は
小さいと言い切るのは慎重であるべきである。
○いわゆる民間の試算は一般企業を対象に含めており、離職者の過大評価リスクがある。
内閣府の試算は倒産企業のみを対象としており、過小評価リスクがある。どちらにせよ、
幅を持ってみる必要がある。また、不良債権処理の影響だけでなく、財政再建の影響や
グローバル化による製造業の雇用急減の影響等も含めて試算するべきで、我々の試算で
は5年間で 150 万人の離職者がでるとの結果になった。ただ、もっと重要なのは誰が失
業者となるかであり、実はブルーカラーの方が、問題が大きい。こうした中身もイメー
ジして試算を行うべきである。また、失業者でみたインパクトはこの程度かもしれない
が、離職者でのインパクトをみると賃金水準が下がり、生涯所得は相当程度影響を受け
る。この人達を前提にして政策を考えるべきである。
○処理対象債権額を骨太の方針に沿って 12.7 兆円と考えれば、内閣府試算はある程度の妥
69
当性があり、新たに発生する失業者数は 20 万人程度と考える。しかし、処理対象債権を
リスク管理債権まで含めると、影響は拡大し、失業者 100 万人以上という事態も考えら
れる。
(雇用の流動化、就業形態の多様化について)
○これまでの製造業モデルでは組織内で技能を蓄積する必要があったが、今後はサービス
業モデルであり、個人の素質、アイデアが大事になってくる。また、雇用形態が多様で
なければ、いろんな対応のサービスもできない。よって雇用の流動化は進めるべきであ
る。今後、企業の雇用責任は、雇用の受け皿となることより、個人のエンプロイヤビリ
ティを伸ばすことの方になっていくだろう。
○企業側のパートをはじめとした非正社員に対する需要は高まっている一方、供給側であ
る労働者は正社員と非正社員との待遇、地位の差が大きいため、非正社員への抵抗が強
い。こうした需給の意識のずれが労働市場の円滑な作用を妨げており、雇用形態の多様
化への対応を進める必要がある。ただし現在のように景気が悪化し、買い手市場にある
環境の中での実行は副作用が大きいので避けるべきである。しかし、流動化を進めるこ
とで一定限度の需要を創出する必要はある。
○就業形態の多様化に関し、派遣労働の内情をみると、一般事務職、特に 20 代∼30 代の女
性が多い。ただ、99 年の労働者派遣法改正により、労働者の派遣に対する関心の高まり、
地方企業、中小企業の派遣への関心の高まり、新たに派遣対象業務となった営業職への
需給両面からのニーズの高まり等の影響がみられる。営業職は男性、特に 25∼40 代前半
が中心であるが、そうした人々は、派遣という形態を前の職場から次の職場へのつなぎ
的形態として利用する場合が多く、そうしたことからテンプツーパーム(紹介予定派遣)
の利用は拡大している。派遣では専門能力が育たないといわれることもあるが、派遣労
働においては専門能力やスキルは重視されている。派遣会社は派遣労働者の教育を重視、
実践しており、専門能力の育成という点では適した労働形態と考える。そういった意味
で、ここ1∼2年の間に、働く側・採用する側双方にとって選択肢が増えているのでは
ないか。
(その他、労働市場の動向について)
○その他に、非労化の問題がある。失業率はそんなに上がっていないが、ディスカレッジ
ドワーカーは非常に多くなっている。そういった意味で失業率よりも就業率をみた方が
いいという議論もある。属性をみると、男性の 55 歳以上が多い。これにはこうした層は
貯蓄が豊かだという面もあるが、そうでない人で救われない人もいることには留意すべ
き。また、自営業主・家族従業者の減少も大きくなっている。アメリカでは自営業主・
家族従業者が一種のセーフティネットとなっていることもあり、こうしたことをどう考
えるのかというのも問題である。
70
論点2
骨太の方針その他の政策対応について
(政策対策について)
○現在の労働市場の問題は2つあり、それは、需要不足によるマクロの需給ギャップの問
題と、新しい産業、企業へ労働力を移動しなくてはならないという問題である。後者の
労働移動の問題については、職業能力開発対策や就業形態の多様化対策がまさに必要で
あるが、そもそも需要不足があるなかで、それを放置して、こういう構造調整を行って
いいのかという問題がある。現在の失業者で最も困っているのは、ブルーカラーや非労
化している人などのスキルの低い労働者であり、そういう人たちをどう雇っていくかと
いうことにも留意する必要がある。
○総需要管理政策では雇用問題は解決しない。必要なのは構造改革であり、新しい産業を
どう起こすかである。構造改革には3つのポイントがあり、一つ目は産業をどう起こす
かということである。これはサービス業ということになると思うが、アメリカでは公共
サービスとビジネスサービスの2つが伸びた。これらは市場化が進んでいない産業であ
り、社会的な側面も考慮しつつ、競争原理を入れていくことが大事である。二つ目は、
サービス業は就業形態の多様化を要請するということである。そのため生活扶助システ
ムを見直すなど、社会保障のしくみの組替えが必要である。三つ目は過渡期に起こる問
題だが、中高年やブルーカラーの失業に対する一時的なセーフティネット対策である。
これら3つを包括的に出さないと国民へ安心感は与えられない。
(政府の直接雇用について)
(肯定的意見)
○今年6月の週刊東洋経済に政府の直接雇用についての論文が掲載され、日経連からも同
様の提案があったが、これには賛同する。個別の内容をみてもこういう公共サービスが
あればいいなというものになっている。時限的であるかもしれないが、公共事業で埋め
ていくよりも、必要とされる公共サービスで、労働力を使うのは良いことである。こう
した需給ギャップを埋めていく政策をイの一番で行っていくべきである。ただ、短期的
なものとし、長期的には民間へ移譲すべきだと思う。民間活力だけで新産業が生まれる
かというと疑問であり、政府の直接雇用には意味がある。
(否定的意見)
○直接雇用については、懐疑的である。まず、政府の行革に反するし、市場の自発的な成
長力を抑えることになる。やるとしても、PFI的に最終的には民間へ移譲する前提で
あるべきである。過去に失業対策事業の失敗という経験があり、この経験を生かすべき
である。
71
(530 万人雇用創出計画について)
○努力目標だろう。ただ、不可能ではないし、そういう方向しかないと思う。
○努力目標を立てたことは評価する。
○努力目標だと思われる。ただ、規制を取り外せばこうなるという前提で作られているが、
それだけでは達成できない。高齢者の消費を伸ばすなどの新たな政策もあわせて行わな
ければ実現は難しい。
○逆に雇用喪失はどの程度なのかという疑問がある。また、内容をみると、リーガルや医
療を除くと、ほとんどがいわゆるチープレイバーであり、これが今後の日本の有り様と
していいのか。釈然としない。ただ、アメリカもチープレイバーが増えており、日本も
そうなると思うし、仕方ないかとも思う。また、アメリカではシリコンバレーのように
高所得者も増えたが、日本ではどうか。会社が人を切る場合、生産性の低い人から切る
と思うが、そういう劣位の人が行く場所としては、そうしたチープレイバーでもしょう
がないかとも思う。
○数値化したことは評価するが、プロセスをよほど工夫しないと実現は難しい。また、過
去にも同様の雇用創出計画があったが、それらの結果の検証も必要。
(その他の政策対応について)
○具体的には、職業能力開発を目的とした企業大学やコミュニティ・カレッジの創設、キ
ャリア形成支援のための税制優遇措置、「キャリア・ブレイク(教育のための休業)」制
度の導入、雇用と開業の中間的なワークスタイル(個人開業、小規模法人)の支援と促
進、様々な試用制度を活用した人的資本のミスマッチ解消、エージェント型職業紹介サ
ービスの実現、「知恵の取引市場」の構築、労働市場の需給調整機能に関する官と民の役
割の再考、求人における年齢制限と定年退職制度の撤廃、労働契約基本法制定と就業規
則の見直しによるキャリア権の確立、企業による「能力証明書」の発行(日本版スキル
スタンダードの構築)等を提案する。また、イギリスでは携帯電話を失業者に渡し、職
探ししやすいようにということを行っているが、日本でも無料のインターネットプロバ
イダーを作って職探ししやすいようにするなどのことも考えるべき。
○派遣スタッフは派遣業者の従業員とみなされ、派遣業者はその分の障害者雇用責任、産
業医設置責任等を負っている。これは派遣業を発展させていく足かせとなっている。こ
れには特例の検討が必要ではないか。また、派遣に関する許認可手続きについても簡略
化が必要である。
72
(別紙)
委員名簿(五十音順
○飯塚尚己
千田章貴
計5名)
富士総合研究所調査研究部主事研究員
パソナ営業企画室担当部長
○前中正行
日本興業銀行調査部主任部員
○村田弘美
リクルートワークス研究所主任研究員
○山田
日本総合研究所調査部主任研究員
久
氏名の左に○印を付した委員が今回ご出席の委員。
(千田委員は欠席され、代わりにパソナ広報企画部広報担当マネージャー近江淳氏が出
席。)
73
経済動向分析・検討チーム(住宅・土地の動向)
1.日時:平成 13 年 8 月 10 日(金)
議事概要
13:30∼15:40
2.場所:第4合同庁舎 643 会議室
3.出席者:経済動向分析・検討チーム委員;別紙参照
内閣府;渡辺内閣府政務官、岩田政策統括官、大村審議官、他
4.議事概要
冒頭、渡辺政務官、岩田政策統括官よりあいさつが行われ、次いで荒井参事官から議事
の説明、委員紹介がなされ、モデレータを篠原委員にお願いすることを決定した。
引き続き岡本参事官補佐より資料につき説明がなされた後、討議が行われた。
論点1
住宅市場の動向について
○ 分譲・賃貸についてみると、契約率などからしてもおしなべて好調である。良質
な住宅が増えているが、暫くは続かないとストック化したとは言えない。
○ 今年に入って住宅着工が落ちてきているのは、住宅減税の効果が昨年までで出切
ったからではないか。地価も下落している。受注動向を見ると、建替え需要の注
文住宅が減少していることから着工数も減少しているのではないかと考えられ
る。減税効果の剥落や地方の不景気がその理由として考えられる。
戸建て注文住宅の価格がこのところ横ばいであることに加え、近年の不景気で
持家の着工が下落していると理解しているが、背景としては、時限立法で減税が
またロールオーバーされるのでは、との期待感や、地方の賃金の下落が考えられ
る。
貸家については、大都市郊外の老朽化したアパートに人は入らなくなってきて
いる。このため、古い建物を放置したまま新しい建物を大家が建てている動きが
見られる。着工は、1棟8戸程度のものが中心で、床面積も上昇している。建主
としては土地を持っている近郊の農家が多い。
都心居住のニーズは昔からあり、それが地価の下落等により実現可能な状況に
なった。したがって、潜在的なニーズはあるので、ニーズにあった物件を供給す
れば、需要はまだまだ伸びるのではないか。
公庫の持家、貸家が減少して、民間資金住宅が増加傾向にあるのは、①公庫の
貸出基準が厳しくなったこと②民間の金利が下落してきたことが考えられる。例
えば、公庫持家の金利は2.5%であるが、11 年目以降は4%となり、通算する
と決して安くはない。民間銀行の一部には 30 年貸し出す商品が出てきたことも
背景にある(一戸建ての民間シフトの傾向は顕著である。貸家はそもそも民間と
ずっと付き合いのある人が建てている場合が多い)。ただし、民間の場合は、定
74
年でひっかかるため、実際には 30 年でローンをくむことは困難である。最近は、
低金利ということもあり、変動金利ローンでくむ人も見られる。
○
着工戸数が 120 万戸程度の水準から 110 万戸程度にまで下落してきた理由について
は、よくわからないことが多い。部門別に見ると、分譲については、首都圏ではこ
れまで年間6∼8万戸供給されれば高水準と言われているが、昨年は9万戸以上供
給があり、しかも成約率も高い。物件も広いものから売れており、例えば5億円の
物件なども、あっという間に売れる。好調と言える(但し、二極化しているが)。購
入者は、「余力のある人」。社宅を出て、あるいは子供が独り立ちをして購入するケ
ースが多い。ただ、持家の減少理由についてはよく分からない。住団連は来年の着
工は 100 万戸を切るのではないかと懸念している。
中長期的住宅事情(世帯数等)を勘案すると、年 120 万戸というのはそもそも高
すぎるのではないか。税制の効果で需要の喚起をしてきたが、本来あるべき水準に
戻ってきたのではないか。
今後は、高齢者層の都心回帰現象が加速することが考えられるため、都心部にお
いて高齢者の利便性に重点を置いた集合住宅等の供給が必要になると考えられる。
都心居住者としては、シングル層、ダブルインカム層、高齢者層が考えられ、いず
れの層も居住地区近隣の利便性が非常に重要となる。したがって、商業施設とのコ
ンプレックスや高齢者層を考慮するとクリニックモール併設の集合住宅等が有望と
思われる。特に東京では中央区等の活性化にはこのような住宅と居住者層向け利便
施設の融合した開発による活性化が有効のように思われる。これによって人口の集
積が進み、商業集積も進むことによって(日本橋地区の商業活性化等も進む可能性
あり)、業務系の開発やそこへのテナント誘致を行いやすい環境が整備される可能性
が高い。また、ライフスタイルの変化により、賃貸住宅への需要層や考え方も変わ
ってきているため、分譲マンションの賃貸への用途変換が進めやすい環境を整備す
ることによって、よりよい賃貸住宅環境の整備が促進されると考えられるとともに、
分譲マンション居住者の 2 次取得層への転換も促進されるものと考えられる。
論点2
「骨太の方針」について
1、市場情報の提供体制の整備
○
中古市場についてみると、このところ流通量は増加しているが、諸外国と比べ、市
場規模は小さい(アメリカの場合、中古住宅市場の取引規模は約 500 万戸。一方、
新規着工は日本と同程度。イギリスも中古市場の方が大きい)。不動産価格の妥当性
についても疑問がある。例えば、新築マンションを見ると、書類にはんこをついた
時点で価格が2割下落するのはおかしい。透明性に欠けるため、価格については業
者を信頼するしかないのが現状である。何らかの手段で価格の透明性を確保する必
75
要がある。戸建てについても、土地には価値があるが、上ものについてはほとんど
価値がないと判断されることが多かった。リフォームをすれば評価を上げるなど、
査定方法を見直す必要があるのではないか。価格評価システムの見直しも必要。中
古住宅の評価はこれまであまりない。建物の価値や性能を買う側が評価してきた。
一般の顧客にどれだけ情報提供出来るかが課題となろう。不動産登記のデータベー
ス位はできるのではないか。登記時に価格情報はあったほうがよい。円滑な取引は
情報開示によって達成される。
建物の物理的状況を検査するシステムを構築する必要がある。日本では、中古物
件を買う人のほとんどが既存の建物を壊している。これは良い物件が少ないことを
意味しており、中古がうけない理由ではないか。しかし、今供給されているマンシ
ョンについては、質がいいので、今後流通していくのではないか。
2、職住接近
○
地価が下落していることから、都心回帰は進みやすい状況となっている。民間ディ
ベロッパーの努力によって職住接近は進み始めた。容積率や日影規制の緩和など、
環境整備することが必要。道路などのインフラ整備を進め、土地を有効利用する方
法を考える必要がある。大阪環状線の中は、10 年ぶりに人口が増加したが、地価は
上昇しなかった。ただ、住が職場に一方的に接近すると、都心一極集中が加速しな
いか(逆ドーナツ化現象)。例えば埼玉では、都心回帰の影響で、地価が下落してい
る。東京から1時間半程度の物件は含み損を抱えている状態。職の拡散といった視
点に立った検討も必要。
論点3
○
土地市場の動向
都心の貸ビルについては、まとまった物件がでており、価格も反転しつつある。昨
年から入札方式による売却では高値が続いている(ミニバブル)が、続くかどうか
は不明。ただ、同じ道路に面している土地で、30 坪のものと 300 坪のものの坪単価
が同じなのはおかしいと思う。
○
地価の今後の動向については、正直分からない。昭和 36 年頃(第一次産業から第二
次産業への転換期)、昭和 50 年頃(列島改造)
、バブル期と、戦後3回地価の上昇期
があったが、産業構造の発展による需要増加による。都心の人気のあるビルは価格
が上昇しているが、地方については工場が海外に移転した影響で、打撃を受けた。
二極化している。全国的には弱気である。
○
地方のオフィスビルは厳しい。空室が多く、賃料も下落していることから、地価も
下落している。空室率は、都内が3%台なのに対し、地方では 20%弱となっている。
76
地方の優良物件は機関投資家が持っていることが多いが、これらのテナントは第三
セクターが多い。これから行われるであろう構造改革で第三セクターの整理は必至
で、地方に与える影響は大きい。地方の空室率は底なし沼のように上昇する危険性
がある。
○
東京も、広尾や青山のようにピンポイントでよいところはあるが、残りの大多数
(99%程度)は全然ダメ。民事再生法の適用までに2∼3年かかるが、その際に必
要な不動産と不必要な不動産を選別する。秋以降、不良債権処理の過程で、バルク
セールがはじまり、不必要な不動産は処分されるので地価はまた下がる。銀行によ
る「叩き売り」が始まるのではないか。「下げ止まり」ではなく、「どんどん下げる」
のではないか。
○
既に仕入れた土地は開発するが、新たな土地を自前で購入して開発するような状況
に業界はない。新たに開発する場合には、共同で行ったり、ファンドをくんだりし
ている。
○
都心ではそれなりにテナントは入る。しかし、地方では新しいビルが建つと、テナ
ントがそこに流れ、他のビルの空室が増え、結果として賃料が下がる。
○
外資系企業の需要サイドとしては、日本の経済は、大きさ、品質共にAクラスと見
ており、現在は少し力がないだけ、と考えている。中長期的には投資意欲は大きい。
不動産グローバル投信では下がる中でよい物件を買っていきたい、と考えていると
思われる。
○
今回の不良債権処理で不良債権がなくなるのか疑問。公共投資の削減は、地方の地
価に決定的な影響を及ぼすと思う。バブル崩壊後の経済対策によって地価が下支え
された側面があるので、バラマキをやめれば、地方のインデックスとしての地価は
下がる。地銀はインデックスで担保不動産の価値を決めているので、インデックス
が下がれば担保価値が下がってしまう。しかし、だからといって、公共投資のバラ
マキを続けることは駄目なので、公共投資によって地価を上げるより、別の産業の
力で経済全体を引き上げるほうが良い。その地域が努力をすれば地価が上がるよう
な方法が必要。
論点4
骨太の方針について
1.担保不動産の証券化
○
良い物件が少なくなった。地方の造成中のリゾート地のように、収益で地価を算出
するとマイナスになるようなものが多く残されている中で、まとめて証券化して、
キャッシュが生まれるのか。
77
2.土地の整形・集約化
○
今の地権者は、土地を細分化したほうが得だと考えている。細分化を規制すること
は難しいので、土地を分けないほうが有利となるようなインセンティブを与える必
要がある。広い土地のほうが利用価値が高くなるような制度を作るべき。地方の複
合施設に対し、容積率を緩和することなど、インセンティブを与える方策を検討し
ても良いのではないか。
○
都市計画は、地方の実情にあわせて、例えば建築制限、用途指定について弾力的に
対応するべき。国が画一的に基準を決めるのではなく、地方が主体となって街づく
りができるような制度が望まれる。そのための人材育成も必要。場合によってはま
ちづくりのプロを民間等から登用することも考えるべき。また、都市計画には計画
立案にかかりすぎている時間をどう減らすかも課題。再開発法を含めて大規模開発
を短期間で行える仕組みを整備する必要がある。現状では、投資家を通じ直接金融
で資金調達する際に、収益が見込まれるまで時間がかかりすぎて話が進まないこと
が多い。例えば、都市再開発法に基づく市街地再開発事業の施行には、地権者の2
/3以上の同意が要件であるが、建築基準法の一団地認定のために地権者全員の同
意が必要となっていることから、市街地再開発事業の場合は適用除外にするべきで
は。また、土地区画整理事業や市街地再開発事業のような認可事業の施行によって
行う道路の新設や廃止に際しての道路法上の手続き(地方自治体の議会手続き)は
廃止するべき。
その他
○
住宅金融公庫については、補給金など、あいまいな部分が多く残されている。国民
の負担が明確でなくドンブリ勘定を続けているのは問題。国民の負担を明確にする
べき。
○
もっとインセンティブの働く投資促進的な税制にすべき。例えば流通税(不動産取
得税、登録免許税)を止め、投資させてその収益から取るような税制に転換してい
く必要がある。
(以上)
78
(別紙)
委員名簿(五十音順 計8名)
○相川宗徳
三和総合研究所経済・社会政策部主任研究員
○大槻啓子
モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券
エグゼクティブ・ディレクター
○川藤 等
(株)谷澤総合鑑定所東京事務所
○篠原二三夫
(株)ニッセイ基礎研究所社会研究部門主任研究員
○新山 保
住友生命保険(相)不動産部次長
前澤威夫
(株)生駒データサービスシステム取締役主任研究員
他2名(うち、1名ご出席)
氏名の左に○印を付した委員が今回ご出席の委員。
79
経済動向分析・検討チーム(IT関連市場の動向)
議事概要
1.日時:平成 13 年 8 月 6 日(月)14:00∼16:00
2.場所:第4合同庁舎 545 会議室
3.出席者:経済動向分析・検討チーム委員;別紙参照
内閣府;岩田政策統括官、大村審議官、西崎参事官
他
4.議事概要:
冒頭、大村審議官よりあいさつが行われ、次いで西崎参事官から議事の説明、委員紹
介がなされ、モデレータを浜屋委員にお願いすることを決定した。
引き続き西崎参事官より資料に基づき IT 関連市場動向につき説明がなされた後、討議が
行われた。
論点1:IT関連市場についての現状把握
悲観的意見
○ ハードの性能が良くなっただけでは売れない。客が買い換えるだけの価値を見出せるか
が重要で、ソフト、サービス面での付加価値が必要。
○ ソフトウェア開発の生産性が上がっていない。新しいハードをタイムリーに供給するに
当たって、ソフト開発がネックになっている。
<欧米市場について>
○ IT関連市場の冷え込みはITバブルの崩壊が要因。株価が戻らない限り回復は困難。
また日本のハードメーカーの業績が回復するためには、日本だけでなく世界レベルで携
帯電話やパソコンなどの市場が回復する必要があり、それには時間がかかる。
○ 欧米ではそもそも文化的背景として携帯電話を音声機能以外に使用するとは考えにく
い。次世代携帯の普及も厳しいのではないか。
楽観的意見
○ 既存企業のeビジネス化は増加傾向であり、1 件当たりのビジネスボリュームも大きく
なっている。サービス面で考えればまだまだビジネスの芽はある。
○ ソフト、サービスは今後も需要は減退しない。ただし、ソフト中心のIT化はデジタル
デバイドの問題を生み、雇用への期待はあまり抱けない。
○ 日本のこれまでの工業経済(リアルな経済)とデジタル経済の調和が取れるまで、一時
的に需要の調整期間があったとしても、まだまだ情報化は進み、市場は拡大する。
○ システム開発の開始時期が欧米よりも4∼5年遅かったので、ソリューションビジネス
は今後3∼4年は伸び続けるのではないか。
80
論点2:IT関連市場の見通し、展望
悲観的意見
○ 日本の情報系メーカーの競争力は年々低下している。そうした中で世界的な価格競争に
巻き込まれ、日本メーカーは迅速な対応ができていない状況。
○ ITはサービスの比重が大きい。ハードの機能向上にソフトが追い付いていないのが現
状であり、サービス系のベンチャーが出てこないと厳しい。
○ 日本企業の競争力は落ちており、その要因として経営のスピードの遅さが挙げられる。
日本は人が流動化していないので、成長力あるところに金と人が集まらない。このまま
では世界をリードする企業は現れない。
○ 最良のソリューションに合わせて企業を徹底的に作り変える米国に比して、日本は各社
独自の従来のやり方に固執し、IT化のメリットを享受できない場合が多く、一部勝ち
組企業が積極的に変革しているのみである。
楽観的意見
○ 年明け以降パソコンと携帯はかなり在庫調整が進んでいる。在庫循環論としては明るい
兆しがある。
○ IPv6の導入により、日本が強い自動車や家電、モバイルとネットワークを組み合わ
せてアプリケーションを考えるとかなり期待できる。
○ 欧米では次世代携帯電話サービスの利用形態が見えてこないが、日本ではすでにiモー
ドも普及しているので次世代サービスもある程度の普及が期待できるだろう。
論点3:政策
○ 電子政府を実現してIT化のメリットを日本全体に知らしめることで、民間企業自らが
変わっていくトリガーとすべき。政府(省庁などの行政機関)でも若手がもっと活躍で
きるような環境が必要。また、電子政府の実施に当たっては利用者側にどうメリットを
与えられるかを徹底的に考慮すべきである。
○ ベンチャー振興策を考えるべき。建設業的下請け構造がソフト開発にも残っており、コ
アプログラムを上手く作った人に適正な報償が支払われていない。その結果、優秀な人
材が創業できない事態になっている。
○ ドミナント規制については、移動体通信には導入すべきでない。移動体通信市場はゼロ
からの立ち上げで競争の結果現在のシェアがあり、NTT東西のようにアクセスチャー
ジを取っているわけでもない。
○ IT産業ではディバーシティ(多様性)が重要。ベンチャー企業も含めていろいろな企
81
業がいろいろな分野でイノベーションを目指すような環境を整えるべき。
○ 知的財産権制度を整備し、個人のアイデアを重視する政策をすべき。
○ 「e-Japan重点計画」には賛成だが、少しでも早く実施することが重要。
○ 電子署名や個人情報保護といったe−ビジネスのルール作りが未だ出来ていない。
○ ドコモは既に多くの税金を支払っており、欧州的な発想で周波数オークションを導入す
る必要性はない。ただし、香港で予定されているケースのように適切に設計されれば、
日本への参考となり得る。
○ 大学や大学院でのソフト開発面での教育や職業人教育をしっかりやってもらいたい。
○ 自治体主導の「IT講習」は一定の評価はできるが、どこまで利用者のニーズに合った
ものか疑問もある。また、継続的な講習も必要。
82
(別紙)
委員名簿
○荒野
高志
(五十音順 計14名)
グローバルクロッシングジャパン
サービスディベロップメントオペレーション部部長
○石元
玲
日本アジア投資株式会社
東京投資第三チーム
○板谷
雅之
国際証券株式会社
企業調査課
伊藤ナオコ
牧夫
ヴァイスプレジデント
日興ソロモン・スミス・バーニー証券会社
株式調査部
○今中
能夫
チーフアナリスト
ゴールドマンサックス証券
調査部
○乾
チームリーダー
マネージングディレクター
コメルツ証券会社
ファンダメンタル・リサーチ部
シニアアナリスト・次長
内田
和成
ボストン・コンサルティング・グループ
小池
聡
ネットイヤーグループ株式会社
琢哉
日本IBM株式会社
○小原
ibm.Com
佐藤
代表取締役 CEO
理事
セールスセンター事業部長
文昭
ドイツ証券
○白井
均
株式会社日立総合計画研究所
○田原
幸朗
(社)情報サービス産業協会(JISA)
○浜屋
敏
株式会社富士通総研
○米田
謙次
富士ゼロックス株式会社
企画グループ
日本代表
株式調査部部長
主管研究員
経済研究所
次長
主任研究員
ニュービジネスセンター事業推進部
マネージャー
氏名の左に○印を付した委員が今回ご出席の委員。
83
調査企画部
経済動向分析・検討チーム(全体会合)議事概要
1.日時:平成 13 年8月 23 日(木)
16:00∼18:15
2.場所:第4合同庁舎 545 号室
3.出席者:経済動向分析・検討チーム委員;別紙参照
内閣府;竹中経済財政政策担当大臣、松下副大臣、渡辺大臣政務官、
河出内閣府審議官、小林統括官、岩田統括官、薦田審議官、大村審議官、
荒井参事官、佐久間参事官、西崎参事官
他
4.議事概要
冒頭、竹中大臣よりあいさつが行われ、次いで大村審議官から議事の説明、委員紹介
が行われた。その後、各検討チームにおける議論の概要について、各モデレーターから
報告がなされ(「経済動向分析・検討チーム結果とりまとめ」参照)、それに基づき質疑
が行われた。質疑の概要は以下の通り。
(1) 海外経済の動向
(事務局)アメリカ経済が減速しているなかで、賃金が高止まりしている理由としてはどの
ようなものが考えられるか。
○景気後退がまだオールド・エコノミーに波及していないからであると考えられる。失業
率も 4%台をキープしており、家計の消費も、好調とはいえないまでも、堅調である。例
えば、自動車の販売や住宅の新規着工は、まだピークの水準から一割も落ちていない。過
去の平均値をかなり上回った経済活動が、オールド・エコノミー、特に消費において続い
ており、それにより経済の急速な後退を回避している。しかし、それにはプラスとマイナ
スの両面があり、マイナス面としては賃金が高止まりし、それが企業収益、株式に悪影響
を及ぼすということであると考えられる。
(2) 日本経済の動向
(竹中大臣)デフレという表現自体に抵抗を感じるとの意見があるが、どのような表現であ
れば良いか。
○デフレという場合には、1930 年代の世界恐慌時のように、物価が下がると同時に大幅な
景気後退が伴っているとの意味合いがあるため、「物価下落」など価値観を含まないもの
がよい。もう少し歴史を長くとってみると、19 世紀の後半には、緩やかに物価が下落す
るなかで、成長率や賃金が上昇したということもあるので、今実際何が起こっているかを
84
よく分析する必要がある。
(3) 金融市場の動向
(松下副大臣)最近の株価下落は国民の改革に対する期待の低下を示すとの指摘がなされて
いるが、政府が改革工程表をだして構造改革に取り組もうとするメッセージを出している
のにもかかわらず、金融市場は辛抱強く待つことはできないのか。誰が株を買って、誰が
株を売っていると考えるか。
○政府が工程表を出したことに対して評価すべきという声もある一方で、不良債権処理に
ついては後退しているようにみえるとの意見もある。株式市場は、今の現象を見るだけで
はなく、政策が将来に向けてどのような方向に向いているのか、1 年後、2 年後の企業収
益の姿、日本経済全体の姿がどのようになっているかに注目している。それらについての
異なる見解がせめぎ合いながら株式市場の方向性を決めていくといえる。また、誰が株を
買って、誰が売っているかについては、現在買い手がいないのが実情。そのようななか、
多少でも株式持ち合い解消のための売りがでると相場を押し下げる方向に働くというの
が現状である。
(竹中大臣)株価下落の要因として、改革に対する評価が急激にしぼんだからというのは必
ずしもそうではないと考える。しかし、司法改革の最終的な姿がでるのに 17 年かかると
いうことにみられるように、改革をやろうという動きの一方で、今までのペースで作業を
やっているものもあり、それがマーケットの期待を低下させるという側面もあると考えら
れる。
○改革に対する期待の低下ということもあるのかもしれないが、IT を初めとする足元の企
業業績で減益ないし赤字決算が続いているので、そちらの影響がはるかに大きいと考えら
れる。
○構造改革に対する期待がしぼんだという側面もあるが、構造改革に関する玉を次々に打
ち続け、新たなポジティブ・サプライズを与え続けないと株価を上昇させることはでき
ない。また、現在、外人投資家が買わないと株価を維持することはできない。そのよう
ななか、アルゼンチンやアメリカの動き等を受けて、外国人投資家のリスク回避度が徐々
に高まってきており、それも株価の下落の要因となっていると考えられる。
(事務局)全国銀行協会が会計審議会に対し、デリバティブの時価会計について、先送りし
て欲しいとの申し入れをしたとの報道がなされているが、それは本当か。また、そうだと
すれば、外国人投資家に対し、日本の企業財務の透明度は低いとの印象を与え、それが株
価の押し下げ要因となるのではないか。
○3月から導入されるスワップに関する時価評価を延長して欲しいと申し入れているとの
85
話は聞いたことがある。それが株式市場に影響を与えているかについては分からないが、
銀行がスワップを使ってかなり金利を取る形でポジションを組んでいるので、1 ヶ月ほど
前に債券市場に対して影響を与えたことは確かである。
(4) 労働市場の動向
(竹中大臣)中高年やブルーカラーの人たちへの過渡的なセーフティー・ネット対策の必要
性が指摘されているが、具体的な例としてはどのようなものがあるか。
○非常勤の先生などが挙げられていた。ただし、私見では、あくまで期限の限られた
ものなので、本当に国民に対して安心を与えられるのであろうかという意味では懐疑的
である。
(竹中大臣)ワークシェアリングについてはどのような議論があったか。
○オランダの例が議論された。しかし結局は、賃金を減らす替わりに雇用を守ろうと
いうものであり、日本においてそれがうまく機能するかについては確証はない。
(竹中大臣)ヨーロッパにおいて一番実質賃金が下がったのがオランダである。結果的には
実質賃金を下げるひとつの手段になっている。
(松下副大臣)530 万人雇用創出計画について努力目標といった指摘がなされているが、具体
的にこれを達成するためにはどうするべきと考えるか。
○日米を比較すると、アメリカにおいてはこの 10 年間でいわゆるチープ・レイバーが増加
した。賃金は低いが雇用は維持され、結果としてそれがアメリカの景気拡大につながった。
その一方で、アメリカでは富裕層も増加した。日本でそのようなことを行う余地があるか
どうかであると考えられる。
(渡辺政務官)政府の直接雇用について、肯定的意見と否定的意見の両方が出されているが、
否定的意見においても、PFI 的に最終的に民間に委譲するのなら行ってもよいということ
なので、相対的には政府の直接雇用に対し是とするという意見とみてよいか。
○緊急措置としては是認しうるが、それが永続するのはおかしく、あくまで期限付き
とすべきということである。
(5) 住宅・土地市場の動向
(竹中大臣)「職住接近」のところで、インフラの整備が必要とされているが、具体的には何
か。
○ 道路が重要。容積率を高めるためにも道路整備は重要であるが、住民との調整に時間が
86
かかるのが難点。狭くなるとか、日当たりが悪くなることを我慢する等、コンセンサスを
いかに得やすくするかが課題。
(渡辺政務官)アメリカの中古住宅市場はどうして活発なのか。
○アメリカの場合、建物自体が分かりやすい造りでしっかりしており、余計なものも
ついていないことから、誰にでも共有できるということがある。その地域の個々の住宅
取引価格も、インターネット等を利用すると、誰にでも分かるようになっている。また、
アメリカの場合、修理改築状況も含め、物件に関する詳細な情報が入手しやすい上、住
宅検査制度も確立しており、安心が得られる。このことから、不便な場所に新築するよ
りも、既にコミュニティーがあり生活に都合のいい場所にある安い中古住宅を購入する
方が得である。また、リフォームすることでキャピタルゲインが期待できる場合もある。
(6) IT 関連市場の動向
(竹中大臣)ベンチャー振興策としては具体的にどういったものが考えられるか。
○資本市場の整備といった問題もあるが、やはり一番の問題は人材確保だと思われる。ま
た、経営者層の人材の流通をどう高めるかも同様に重要である。
(竹中大臣)政府ができることとなると難しい問題だが、IT 特区という考え方についても、都
市とか街とかのレベルではなくて、空港とか駅とかの施設においてe−プロジェクトと
いう形でできるものがないか議論していくことも重要であると考える。
○この業界の人達は、IT 投資に関してはどんどんやってほしいという考えである。
(竹中大臣)国民の情報リテラシー、IT リテラシーが高まる中で、ソフトにおいても日本的に
新しい工夫が出てきて起爆剤になってくれないかという期待があるが。
○ソフト・サービスに関しては、これからも日本独自のものが出てくる期待はある。ただ、
それが国際的に競争に耐えうるか、ハードウエアとしての IT 産業にいい影響をもたらす
か、というとなかなか難しい。
(竹中大臣)競争政策に関する議論が意外と少ないと感じたが。
○ 通信の問題で言えば、意外なことであったが、NTT ドコモにもっと何でもやらせれば
いいじゃないか、その方が日本の通信の環境にとっていいのではないか、という意見も
あった。
(7) その他
87
(竹中大臣)9月7日に GDP 速報が公表されるが、民間シンクタンクでは非常に厳しい数字
になるとの予想がなされている。3ヶ月前にこのような状態を予想していたか。予想以
上に厳しいものであるならば、その要因は何であると考えるか。
○家計調査ベースでみて、消費の落ち込みが非常に大きいことと、年末から来年にかけて
アメリカ経済の回復に伴って日本経済も回復に向かうという見込みがずれていることが
影響していると考えられる。以前より厳しく見ていたため、想定の範囲内である。ただ、
日本の場合、GDP の数字と景気というのは、別もので分けて考えた方がいいと思ってい
る。
(竹中大臣)輸出が落ち込み、生産が減少し、消費の低迷に影響しているということか。
○マインド面はまだそんなに悪くなっていないが、所得面が悪化しつつある。家計調査ベ
ースでも悪い数字が出ており、大企業はいいが中小企業で特に悪くなっている可能性が
ある。雇用面も明らかに悪くなっている。
○厳しめにみていたことは確かだが、実際はそれよりも厳しい状態である。年末から来年
にかけて底を打つと予想していたが、アメリカの回復が思わしくなく、予想がずれ込む
可能性がある。ただ、個人的には、コンマ何パーセントの範囲でのプラス・マイナスの
問題は、誤差の範囲であって、騒ぎすぎとの印象を持っている。それよりも、これまで
日本を引っ張ってきた IT 等の基幹産業が、アメリカの影響を受けて悪くなっていること
が一番の問題で、企業業績のマインドの悪化が、さらに波及して、下方にバイアスを持
たせていることに注意するべきである。それが4−6月期の数字にどう出てくるかにつ
いては注目するべきである。
○鉱工業生産の予測指数の下方への修正率が徐々に縮小していたのが、7月以降また拡大
し始めていることに注目している。また、輸出数量もかなり減少してることから、2段
階の在庫調整が避けられないと思っている。ハイテクを中心とした落ち込みが、他の分
野に波及していくと考えられ、マーケットに対しネガティブ・サプライズを与えること
となった。
○アメリカ経済の低迷による輸出の減少の影響が大きい。投資については、IT を作る側の
製造業だけでなく、IT を使う側であるサービス業の設備投資にも陰りが見え始めている
ことを懸念している。
(松下副大臣)日本がセーフガードを暫定的に発動して、いろいろ批判を受けている。日本の
農家も合理化努力を行ってコストを3割カットしたが、日本に比べ中国の人件費が 10 分
の 1 程度のため、限界がある。中国との関係で今後どのような対策が必要とお考えか。
○中国との関係は、農業だけでなく製造業に関しても、同じ問題が生じうると思う。人件
費を初めとしたコスト格差を考えると、結局は元と円の関係で、元を切り上げてもらう
しかないのではないか。
88
○日本の製造業では、中小企業の廃業が進んでおり、従業員数も減っている。中国では生
産のモメンタム、集積のメリットが確立しており、完全な水平分業はもはや不可能で、
垂直分業を導入していくしかないと考える。
○1970 年ごろの日米の関係がちょうど逆になったような関係だと考えられる。賃金が 20
分の1だといって為替を 20 分の 1 にすればいいということではないので、元の切り上げ
だけでは十分対応できない。中国が WTO に加盟し、市場を開放すれば元も切り上がる方
向で調整されると考えられるが、第一に構造調整をして、サービス産業に移行していく
ことが大切と考える。また、日本は日本人ばかりで生産をしているが、移民なり安い労
働力を活かすことも考えるべき。社会的には問題もあろうかと思うが、経済的には一つ
の案として有効ではないかと考える。
(竹中大臣) 改革工程表の中で、各省からいろいろ政策を出して頂いているが、皆さんから
是非コメントを頂きたいと考えているので、引き続きよろしくお願いします。
(以
89
上)
(別紙)
全体会合委員名簿(五十音順
計6名)
○川北英隆
日本生命保険相互会社取締役財務企画部長
○菅野雅明
J.P.モルガン証券会社調査部長
○篠原二三夫
○浜屋
敏
(株)ニッセイ基礎研究所社会研究部門主任研究員
株式会社富士通総研経済研究所主任研究員
○前中正行
日本興業銀行調査部主任部員
○武者陵司
ドイツ証券東京支店株式調査部長・チーフストラテジスト
氏名の左に○印を付した委員が今回ご出席の委員。
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