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課題テーマの部 優秀賞 森田朔帆さん 文学部日本文学科 1 年

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課題テーマの部 優秀賞 森田朔帆さん 文学部日本文学科 1 年
課題テーマの部
優秀賞
森田朔帆さん
文学部日本文学科 1 年
課題テーマ
: 『家族の多様化』
『母が重くてたまらない : 墓守娘の嘆き』
信田さよ子著 春秋社
「母と娘」という確実的事象
様々な家族の形がある。テレビで密着されるような十数人の大家族がいるかと思えば、
片親が家庭を支えるシングルマザー・シングルファザーの家族もいる。休日のたびにキャ
ンプや水族館に行くようなにぎやかな家族もいれば、DV(ドメスティック・ヴァイオレン
ス)や虐待が日々横行しているような家族もいる。
「家族」というのはひとつとして同じ形
がない。
「何世代で構成されているか」「親、子供の学歴はどのようなものか」
「月に何回外
出をするか」と、多方面からの分類をすればある程度のイメージを理解することは出来る。
けれど、いくら分類による細分化を重ねていったとして、最終的に同じグループに分類さ
れた家族たちが全く同じ形であることはない。ひとつとして同じ形がなく、その形態は常
に流動しながら変化し、一点に留まることがない。この点で、
「家族」というのは、反対に、
むしろ、そして、非常に抽象的な事物である。
けれど、この抽象の中で唯一形を持って揺るぎなく存在するのが「母と娘」である。二
人の女が、愛し愛され成長を共にする。常に流れ変わっていく家族の中で、この「母と娘」
だけは知覚することの出来る確実的事象を孕んでいる。どんな母と娘も、いつ爆発するか
分からない爆弾を抱え、不具合、バグを発生させている、という点において。この問題を、
母親に焦点を当てて書き出したのが本書である。全ての母と娘が不具合を抱えていること
を前提とし、母親たちに「独裁者」
「殉教者」「同志」「騎手」「嫉妬」
「スポンサー」という
キャラクターを与え、分析をする。今まで母親との関係性に疑問を持つことすらしなかっ
た無垢な娘は本書を手に取り、震撼する。自分の母親が、前述した六つのキャラクターの
いずれかに必ず当てはまるからである。これが、家族内にはびこる、唯一の、「知覚するこ
との出来る確実的事象」である。
本書は、ただ母と娘の不具合を列挙するだけではない。列挙したうえで、
「これから娘の
あなたはどうしていくべきなのか」という道標を示す。なぜなら、爆弾も、不具合も、バ
グも、すべて母と娘の愛情の基板上に発生しているものだからである。この愛情を当たり
前のように享受し盲信することが、そもそもの発端であることにも、気付いた上で。
―母と娘の間に、それほど深くはない川が流れている。いつか両岸から二人は交歓しあ
うだろう―、と、希望を匂わせて本書は締めくくられる。多様化していく家族の中で、「母
と娘」だけは良くも悪くも変わることが出来ない。それは異様な現象であり、苦しいもの
であるが、諦念で以て受け入れて進んでいく他ない。
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